説明

インデンの保管方法

【課題】インデンの重合化および空気酸化に起因する経時着色を簡便な手段で防止するインデンの保管方法を提供する。
【解決手段】インデンに重合防止剤を添加し、不活性ガス雰囲気で保管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インデンが時間の経過とともに着色する(以下、経時着色という)のを防止する保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インデンは、接着用樹脂,光学樹脂,医薬,農薬,その他の化学物質の原料として種々の用途に使用される有機化合物である。インデンはコールタールに含まれており、その沸点は182.6℃である。各種の石油系原料の精製過程で、コールタールを含む石油(すなわちコールタールを抽出する前の石油)あるいはコールタールを、182.6℃未満の温度で蒸留して他の有効成分を分離抽出すれば、インデンは蒸発せず、蒸留残分中に残留する。次いで、この蒸留残分を182.6℃以上の温度で蒸留することによってインデンを分離抽出し、さらに純度90〜95質量%まで精製して工業的に使用する。
【0003】
このようにして得られる蒸留直後のインデンは無色透明であるが、1週間程度保管すると着色(すなわちAPHA色相で100以上)する。この経時着色は、インデンの重合化および空気酸化が原因となって生じる現象である。したがって経時着色したインデンを原料として化学物質を製造すると、その化学物質の品質低下を招く。
そこでインデンの経時着色を防止する技術が種々検討されている。
【0004】
たとえば、蒸留直後のインデンを酸性水溶液およびアルカリ性水溶液で洗浄することによって酸,アルカリと着色原因物質とを重合反応させて固定化した後、水洗浄を行なって残存する酸およびアルカリを除去し、さらに蒸留して重合反応によって生じた生成物を除去する技術が知られている。この技術は、蒸留して得たインデンから重合反応生成物を除去するまでの工程が複雑になるばかりでなく、酸性廃液およびアルカリ性廃液が多量に発生するので廃液処理に多大な費用が必要となる。
【0005】
また特許文献1には、インデンに重合防止剤を添加することによって経時着色を防止する技術が開示されている。この技術は、インデンの空気酸化に起因する経時着色を防止することはできない。
【特許文献1】特開平5-85951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インデンの重合化および空気酸化に起因する経時着色を簡便な手段で防止するインデンの保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インデンに重合防止剤を添加し、不活性ガス雰囲気で保管するインデンの保管方法である。
本発明のインデンの保管方法においては、重合防止剤が、t−ブチルカテコール,2−t−ブチルヒドロキノン,ヒドロキノンモノメチルエーテル,メタキノンおよびフェノール系重合防止剤のうちの1種または2種以上であることが好ましく、その含有量は、重合防止剤とインデンとの混合物の質量に対して10〜200質量ppmの範囲内であることが好ましい。また、不活性ガス雰囲気を維持するために用いる不活性ガスが、窒素ガス,ヘリウムガスおよびアルゴンガスのうちの1種または2種以上の混合ガスであることが好ましく、その雰囲気温度は、5〜25℃の範囲内であることが好ましい。また、遮光状態で保管することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インデンを保管する際に、インデンの重合化および空気酸化に起因する経時着色を簡便な手段で防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、インデンを保管する間に重合化が進行するのを防止するために、重合防止剤を添加する。
重合防止剤は、t−ブチルカテコール,2−t−ブチルヒドロキノン,ヒドロキノンモノメチルエーテル,メタキノン,フェノール系重合防止剤を使用することが好ましい。これらの重合防止剤は、各々単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
【0010】
重合防止剤とインデンとの混合物中の重合防止剤の含有量が10質量ppm未満では、インデンの重合化に起因する経時着色を十分に防止できない。一方、200質量ppmを超えても、重合防止効果は変わらない。したがって、重合防止剤の含有量は10〜200質量ppmの範囲内が好ましい。
また本発明では、インデンを保管する間に空気酸化が進行するのを防止するために、不活性ガス雰囲気で保管する。
【0011】
不活性ガス雰囲気を維持するための不活性ガスは、窒素ガス,ヘリウムガス,アルゴンガスを用いることが好ましい。これらの不活性ガスは、各々単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
不活性ガス雰囲気の温度が0℃未満では、インデンが凝固してしまう。一方、25℃を超えると、着色が促進される。したがって、不活性ガス雰囲気の温度は0〜25℃の範囲内が好ましい。
【0012】
以上に説明した通り本発明を適用してインデンを保管すれば、インデンの重合化および空気酸化を防止でき、経時着色を防止できる。特に純度90質量%以上に精製したインデンを保管する際にも、本発明を適用することによって、経時着色を防止できる。しかも酸やアルカリを使用しないので、廃液処理の負荷が軽減され、簡便な手段でインデンの経時着色を防止できる。
【実施例】
【0013】
蒸留塔を用いてコールタールを蒸留し、タール酸留分とナフタレン留分を抜き出した。これらの留分はサイドカット油と呼ばれるものであり、沸点はいずれも170〜210℃である。
次に、ナフタレン留分をタール酸抽出槽に貯留して苛性ソーダを添加し、ナフタレン留分に含まれるタール酸を分離抽出した。残油をインデン低沸塔に供給して真空蒸留を行なってインデンより沸点の低い成分(たとえばインダン等)を除去し、さらにインデン高沸塔に供給して真空蒸留を行なってインデンより沸点の高い成分(たとえばナフタレン,クレゾール等)を除去して、純度90質量%のインデンを製造した。
【0014】
この純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、重合防止剤としてt−ブチルカテコールを添加した。重合防止剤を添加するにあたって、重合防止剤とインデンとの混合物中の重合防止剤の含有量が100質量ppmとなるように調整した。さらにインデンを収容した容器を、窒素ガスにて不活性ガス雰囲気に維持した保管庫に遮光状態で保管した。保管庫内の温度は5℃とした。これを発明例とする。
【0015】
一方、比較例1として、純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、保管庫に遮光状態で保管した。保管庫内の温度は5℃とした。つまり、重合防止剤を添加せず、かつ不活性ガス雰囲気下に保管しない例である。
比較例2として、純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、重合防止剤としてt−ブチルカテコールを添加した。重合防止剤を添加するにあたって、重合防止剤とインデンとの混合物中の重合防止剤の含有量が100質量ppmとなるように調整した。そのインデンを収容した容器を保管庫に遮光状態で保管した。保管庫内の温度は5℃とした。つまり、不活性ガス雰囲気下に保管しない例である。
【0016】
比較例3として、90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、窒素ガスにて不活性ガス雰囲気に維持した保管庫に遮光状態で保管した。保管庫内の温度は5℃とした。つまり、重合防止剤を添加しない例である。
比較例4として、純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、遮光状態で屋外に放置した。つまり、比較例1の5℃に温度調整した保管庫を使用しない例である。
【0017】
比較例5として、純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、重合防止剤としてt−ブチルカテコールを添加した。重合防止剤を添加するにあたって、重合防止剤とインデンとの混合物中の重合防止剤の含有量が100質量ppmとなるように調整した。そのインデンを収容した容器を遮光状態で屋外に放置した。つまり、比較例2の5℃に温度調整した保管庫を使用しない例である。
【0018】
比較例6として、90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、窒素ガスにて不活性ガス雰囲気に維持して遮光状態で屋外に放置した。つまり、比較例3の5℃に温度調整した保管庫を使用しない例である。
比較例7として、純度90質量%のインデンを1リットル採取して容器に収容し、重合防止剤としてt−ブチルカテコールを添加した。重合防止剤を添加するにあたって、重合防止剤とインデンとの混合物中の重合防止剤の含有量が100質量ppmとなるように調整した。さらにインデンを収容した容器を、窒素ガスにて不活性ガス雰囲気に維持して遮光状態で屋外に放置した。つまり、発明例の5℃に温度調整した保管庫を使用しない例である。
【0019】
これらの発明例と比較例1〜7におけるインデンの経時着色の進行を調査するために、それぞれAPHAおよび濁度を測定した。APHAは、石油製品色試験機(日本電色工業株式会社製OME-2000)を用いて測定し、濁度は日立分光光度計(日立計測器サービス株式会社製U-3010)を用いて測定した。APHAおよび濁度の測定は、いずれも調査開始時,1週間後,2週間後,4週間後,8週間後,12週間後で行ない、測定値が100を超えた時点で継続調査を中止した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から明らかなように、発明例のAPHAと濁度の測定値は12週間後でも100未満であったのに対して、比較例では12週間後に100を超えた。
したがって、本発明を適用することによって経時着色を防止しながらインデンを保管できることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インデンに重合防止剤を添加し、不活性ガス雰囲気で保管することを特徴とするインデンの保管方法。
【請求項2】
前記重合防止剤が、t−ブチルカテコール、2−t−ブチルヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、メタキノンおよびフェノール系重合防止剤のうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のインデンの保管方法。
【請求項3】
前記重合防止剤と前記インデンとの混合物中の前記重合防止剤の含有量が、10〜200質量ppmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のインデンの保管方法。
【請求項4】
前記不活性ガス雰囲気を維持するために用いる不活性ガスが、窒素ガス、ヘリウムガスおよびアルゴンガスのうちの1種または2種以上の混合ガスであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のインデンの保管方法。
【請求項5】
前記不活性ガス雰囲気の温度が、5〜25℃の範囲内であることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のインデンの保管方法。
【請求項6】
前記インデンを遮光状態で保管することを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載のインデンの保管方法。