説明

インバータ駆動回転電機の試験方法

【課題】インバータ駆動回転電機に適した絶縁試験方法を提供するとともに、回転電機の製造および絶縁劣化の診断指針を提供する。
【解決手段】回転電機の電機子巻線に試験電圧を印加して、電機子巻線の絶縁性能を試験する回転電機の試験方法において、回転電機の電機子巻線の定格電圧がEであり、この定格の正弦波電圧駆動回転電機の電機子巻線の絶縁試験電圧がE/√3あるいはEである場合において、正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みがtsin、インバータ駆動される回転電機の絶縁厚みをtinvとすると、インバータ駆動される回転電機の電機子巻線に印加する試験電圧電圧vtestを、それぞれvtest=αE/√3、あるいはvtest=αE(但しα=tinv/tsin)に設定して、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れかを試験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ駆動回転電機の試験技術にかかり、特にインバータ駆動回転電機の絶縁試験技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の観点からインバータを用いた回転電機の可変速運転が盛んに行われている。しかし、インバータで回転電機を駆動した場合、回転電機の絶縁に関して様々な問題が発生することが報告されている(非特許文献1参照)。例えば、インバータ内部のスイッチング素子がON/OFFすることにより発生する急峻電圧(インバータサージ電圧)がケーブルを伝播し回転電機端に到達すると、ケーブルと回転電機のサージインピーダンスの不整合に起因して、回転電機端でインバータサージ電圧が跳ね上がり、従来の商用周波正弦波駆動時よりも高い電圧が回転電機に加わり、絶縁が劣化することが報告されている。
【0003】
また、急峻なインバータサージ電圧が回転電機内部に侵入すると、回転電機巻線の口出し側コイルのターン間に高い電圧が発生し、絶縁劣化することが報告されている。また、スロットコロナ防止層や電界緩和層を対地絶縁の表面に設けている場合には、これらの層が発熱、劣化する場合があることが報告されている。
【0004】
さらに、インバータのスイッチング周波数は数100Hz〜10kHzであるため、従来の商用周波正弦波駆動時に比べてこれらの現象は高い頻度で繰り返される可能性がある。 以上のことから、インバータ駆動用回転電機ではインバータサージ電圧に耐えられるようにこれらの絶縁部を設計するとともに、製作した回転電機ではこれらの絶縁部が所定のインバータサージ電圧に耐えられるか試験し確認する必要がある。また、出荷後にもインバータ運転電圧によって異常な絶縁劣化が生じていないか試験し、絶縁劣化診断する必要がある。
【0005】
従来、商用周波正弦波駆動回転電機では、巻線の対地絶縁に関して、例えば交流電流試験、誘電正接(tanδ)試験、部分放電試験などの絶縁試験が行われてきた(非特許文献2〜4参照)。具体的には、回転電機の定格電圧をEとした場合、回転電機巻線の対地間(対コア間)にはE/√3の電圧が加わることから、これらの試験ではE/√3の電圧を試験電圧として対地絶縁に印加して交流電流、tanδ、部分放電が測定されてきた。なお、特に規格などで規定がある場合には、別途、定格電圧Eの大きさの正弦波電圧を試験電圧として対地絶縁に印加して交流電流、tanδ、部分放電が測定されてきた。これらの試験の測定値は、従来の商用周波正弦波駆動回転電機の絶縁試験で築いてきた合否判定基準値に照らして絶縁状態の合否を判定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気学会技術報告第1218号,p.60−69
【非特許文献2】家田正之:「現代 高電圧工学」、オーム社、p.186 −192
【非特許文献3】(社)電気共同研究会編:「電気共同研究」第51巻、2 号、p.59−60(平7)
【非特許文献4】(社)電気学会編:「同機器試験法要綱」電気学会技術報 告(II)第18号、p.38−49(昭47)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、インバータ駆動回転電機システムでは、前述のように回転電機に商用周波駆動時よりも高い電圧(過電圧)が加わる。
【0008】
図27は、インバータ駆動時の電圧波形141とE/√3の試験電圧波形272を比較して示す図である。インバータ駆動時には、回転電機にスパイク状の急峻電圧が重畳したパルス電圧が印加されており、そのピーク電圧はE/√3の試験電圧波形272よりも高くなる。
【0009】
また、印加される電圧の大きさは、同じ定格電圧Eのシステムであってもインバータ、ケーブル、回転電機の組み合わせによって大きく変化する。このため、従来の定格電圧Eを基準にした試験電圧(E/√3あるいはE)を用いて一律に回転電機の対地絶縁の交流電流試験、誘電正接(tanδ)試験、部分放電試験などの絶縁試験をすることが必ずしも妥当ではない場合がある。
【0010】
さらに、インバータ駆動回転電機では過電圧に伴う絶縁劣化、過電圧印加の繰り返しに伴う加速絶縁劣化を考慮して、商用周波正弦波駆動回転電機よりも絶縁厚みを厚くした設計が一般に施されてきた。このように絶縁厚みを厚く設計したインバータ駆動回転機に対し従来の定格電圧Eを基準にした試験電圧(E/√3あるいはE)で絶縁試験すると、過去に商用周波駆動回転機で定格電圧Eを基準にして測定して築き上げてきた交流電流試験、誘電正接(tanδ)試験、部分放電試験などの絶縁試験の合否判定基準を使用することは合理的でない。
【0011】
また、前述のようにインバータサージ電圧が加わった際には、ターン間絶縁やスロットコロナ防止層、電界緩和層で絶縁劣化が発生する可能性があるが、従来のE/√3あるいはEの大きさの正弦波電圧を試験電圧とした絶縁試験ではこれらの絶縁部を検査することはできない。
【0012】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、インバータ駆動回転電機に適した絶縁試験方法を提供するとともに、回転電機の製造および絶縁劣化の診断指針を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0014】
回転電機の電機子巻線に試験電圧を印加して、電機子巻線の絶縁性能を試験する回転電機の試験方法において、 回転電機の電機子巻線の定格電圧がEであり、この定格の正弦波電圧駆動回転電機の電機子巻線の絶縁試験電圧がE/√3あるいはEである場合において、正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みがtsin、インバータ駆動される回転電機の絶縁厚みをtinvとすると、インバータ駆動される回転電機の電機子巻線に印加する試験電圧電圧vtestを、それぞれvtest=αE/√3、あるいはvtest=αE(但しα=tinv/tsin)に設定して、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れかを試験する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上の構成を備えるため、インバータ駆動回転電機に適した絶縁試験方法を提供するとともに、回転電機の製造および絶縁劣化の診断指針を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1にかかる絶縁試験装置とインバータ回転電機の構成を示す図である。
【図2】回転電機の固定子の一部を軸方向から見た図である。
【図3】固定子巻線41を構成するコイル(ダイヤモンドコイル)の外観図である。
【図4】コイルのA−A’断面図である。
【図5】回転電機をインバータ駆動した際における部分放電を示す図である。
【図6】回転電機をインバータ駆動した際における部分放電を示す図である。
【図7】対地絶縁試験回路を示す図である。
【図8】対地絶縁試験時に絶縁物に加わる電界の例を示す図である。
【図9】交流電流−電圧特性の例を示す図である。
【図10】誘電正接(tanδ)−電圧特性の例を示す図である。
【図11】最大部分放電電荷量―電圧特性の例を示す図である。
【図12】インバータ駆動回転電機のコロナ防止層、電界緩和層、ターン間絶縁を試験する試験回路を示す図である。
【図13】インバータ駆動回転電機のスロットコロナ防止層と電界緩和層の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す図である。
【図14】試験電圧−部分放電電荷量特性を示す図である。
【図15】インバータ駆動回転電機のターン間絶縁の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す図である。
【図16】インバータ駆動回転電機のターン間絶縁の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す図である。
【図17】インバータ駆動回転電機のターン間絶縁の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す図である。
【図18】試験電圧−部分放電電荷量特性を説明する図である。
【図19】試験電圧を印加したときの部分放電電荷量の相関関係を示す図である。
【図20】試験電圧を印加したときの部分放電電荷量の相関関係を示す図である。
【図21】部分放電の判別方法を説明する図である。
【図22】回転電機の製造〜絶縁更新までの工程を示す図である。
【図23】回転電機の製造〜絶縁更新までの工程を示す図である。
【図24】回転電機端で回転電機に加わる電圧を測定する回路を説明する図である。
【図25】測定した電圧波形と試験電圧Vtestの関係を示す図である。
【図26】インバータ駆動回転電機システムの回転電機端対地電圧波形シミュレーションモデルの例を示す図である。
【図27】インバータ駆動時の電圧波形141とE/√3の試験電圧波形272を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0018】
[実施形態1]
図1は、実施形態1にかかる絶縁試験装置とインバータ回転電機の構成を示す図である。回転電機1は固定子8および回転子9を備える。固定子8には固定子巻線(電機子巻線)4が挿入されており、この巻線により回転磁界を形成する。回転子9は、形成された回転磁界に応じて回転する。回転子9にはシャフト5が貫通して、軸受2とハウジング7によって支持されている。また、回転子の6には誘導電動機の場合には二次巻線が、同期電動機の場合には界磁巻線あるいは永久磁石が設けられている。
【0019】
一方、絶縁試験装置は、正弦波電源10とインパルス電源11が直列接続されて構成されており、正弦波電圧、正弦波とインパルスとの重畳電圧、インパルス電圧の3種類の電圧を出力できる。
【0020】
直列接続された電源の出力端には交流電流計測器、tanδ計測器、部分放電計測器の少なくとも1つが組み込まれた絶縁特性計測器12が接続され、該計測器12により、回転電機への試験電圧の印加と試験電圧を印加した際に得られる交流電流特性、tanδ特性、部分放電特性などの絶縁特性値を測定する。
【0021】
なお、配線切り替え機構13は、回転電機のU,V,W相あるいは発電機のR,S,T相などの三相配線のうちの選択された1相(試験相)に試験装置の出力配線を切り替えて接続し、選択された試験相に試験電圧を印加する。
【0022】
図2は、回転電機の固定子の一部を軸方向から見た図である。固定子8のスロット40には固定子巻線41が挿入されている。スロットから軸方向に伸びたコイルエンド部のコイルの対地絶縁の表面にはスロットコロナ防止層42と、スロットコロナ防止層の端部の電界集中を緩和するための電界緩和層43が設けられている。
【0023】
図3は、図2に示す固定子巻線41を構成するコイル(ダイヤモンドコイル)の外観図である。固定子コイルにはコイル導体とコア間を絶縁する対地絶縁50が施されている。スロットに納められるコイルの直線部の対地絶縁表面にはスロットコロナ防止層42が施されている。また、スロットコロナ防止層の端部には電界集中を緩和する電界緩和層43が施されている。なお、ここではダイヤモンドコイルを示したが、固定子軸方向端部でダイヤモンドコイルを分割したハーフコイルを2つ製作してこれらを接続してコイルを構成することもできる。
【0024】
図4は、図3に示す固定子コイルのA−A’断面図である。固定子コイルでは、回転磁界を作る電流を通電するターン導体61の表面にターン導体間を絶縁するターン間絶縁が施されている。このターン間絶縁が施された絶縁被覆導体をターン数分だけ集合させた後、外周を対地絶縁63で覆い、導体と固定子コア間を絶縁している。対地絶縁の表面にはスロットコロナ防止層42が施されている。
【0025】
図5は 回転電機をインバータ駆動した際における対地絶縁およびターン間絶縁における部分放電の発生例を示す図である。インバータ駆動時には高電圧のインバータサージ電圧によって対地絶縁のボイドには部分放電71が発生することがある。また、急峻なインバータサージ電圧が回転電機コイルに印加されると、ターン導体間で部分放電72が発生する。これらの部分放電によって絶縁層は劣化する。このため、これらの絶縁部の部分放電特性を正しく測定し評価する必要がある。
【0026】
図6は、回転電機をインバータ駆動した際におけるスロットコロナ防止層と電界緩和層における部分放電を示す図である。急峻なインバータサージ電圧が回転電機巻線に加わると、スロットコロナ防止層42あるいは電界緩和層43は十分機能せず、その表面でそれぞれ部分放電81、82が発生することがある。また、高周波変位電流によってこれらの絶縁部が発熱、焼損し、部分放電81、82がさらに多く発生する場合がある。これらの部分放電によって絶縁層が劣化しさらに部分放電が発生するという循環に至る可能性もある。このため、これらの絶縁部の部分放電特性を正しく測定し評価する必要がある。
【0027】
図7は、インバータ駆動回転電機を試験対象とする対地絶縁試験回路を示す図である。対地絶縁の試験では、試験電源には正弦波電源10を使用する。この電圧を回転電機のU,V,W相の三相巻線一括−コア(アース間)に印加した状態で、絶縁試験装置12を用いて対地絶縁の交流電流特性、tanδ特性、部分放電特性を測定する。
【0028】
本実施形態におけるインバータ駆動回転電機では、機器の定格電圧をEとし、同じ定格電圧で正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みtsinとインバータ駆動される回転電機の絶縁厚みtinvの比率をα(=tinv/tsin)をとした場合に、従来の試験電圧E/√3の替わりに
test=α・E/√3 ・・・(1)
以上の正弦波実効値電圧を使用する。また、試験電圧に定格電圧Eを用いてきた試験では
test’=α・E ・・・(2)
以上の正弦波実効値電圧をする。
【0029】
このように試験電圧を設定することで、従来の商用周波正弦波駆動回転機の対地絶縁試験の際に対地絶縁に加わっていた電界と同じ電界を絶縁層に加えることになる。このため従来の商用周波正弦波駆動回転電機を試験対象として築いてきた合否判定基準値をそのまま用いてインバータ駆動回転電機の対地絶縁の試験を行うことができる。
【0030】
以下、本発明の原理を説明する。インバータ駆動回転電機では高電圧のインバータサージ電圧が印加される。また、出力電圧波形のレベル数が少ないインバータでは、正弦波波形と大きく異なる高周波の繰り返しパルス電圧波形が回転電機に印加されることになるため、インバータサージ電圧の繰り返しに伴う周波数加速絶縁劣化が顕著となる。これらの理由から、一般にインバータ駆動回転電機では、従来と同じ寿命を得るために商用周波駆動回転電機よりも絶縁厚みを厚く設計している。
【0031】
このため、同じ定格電圧の従来の商用周波正弦波駆動回転機よりも絶縁厚みが厚く設計される回転電機においては、上記の電圧(α倍の電圧)を試験電圧に使用することで従来の商用周波正弦波駆動回転電機で築いてきた合否判定基準値を用いてインバータ駆動回転電機の対地絶縁の試験を行うことができる。
【0032】
図8は、図7に示す対地絶縁試験時に絶縁物に加わる電界の例を示す図である。図8において、91は従来の商用周波正弦波駆動回転電機の対地絶縁試験の際に絶縁層に加わる電界econventiopnalを示す。92はインバータ駆動回転機の対地絶縁試験で本実施形態における試験電圧を印加した際に対地絶縁に加わる正弦波電界etestを示す。上式(式1,式2)の関係を満足する試験電圧Vtestの電圧を印加した場合には、従来の商用周波正弦波駆動回転電機の対地絶縁試験の際に対地絶縁層に加わる電界econventiopnalと同じ大きさの電界etestがインバータ駆動回転機の対地絶縁層に加わる。
【0033】
このため、インバータ駆動回転電機であっても、図5の71に示すような対地絶縁内部の欠陥(例えば剥離、ボイド、クラック)とそこで発生する部分放電を正確に測定することができる。また、従来の商用周波正弦波駆動回転電機の対地絶縁試験の合否判定基準を用いた試験が可能となる。
【0034】
以上の実施例1の効果を、図9〜11を使って説明する。
【0035】
図9は、交流電流−電圧特性の例を示す図である。横軸には印加電圧の実効値を、縦軸には測定電流を示す。Pi1は第1電流急増点、Pi2は第2電流急増点である。図9において、Pi2がE/√3およびEよりも高いため、非特許文献3の合否判定基準に従うとこの電機子コイルは合格する。また、対地絶縁にE/√3やE以上の試験電圧を印加しないため、Pi2は測定されない。
【0036】
しかし、これらの試験電圧レベルは実際にインバータ駆動時に回転電機の対地絶縁層に加わる電圧よりも低い。また、回転電機の絶縁厚みがインバータ駆動を考慮して厚めに設計されている場合には、対地絶縁層に加わる電界は従来の商用周波駆動回転機の絶縁試験の際に対地絶縁層に加わる電界よりも低くなる。この結果、従来の試験方法では回転電機巻線の絶縁特性は見かけ上合格と判定されるが、実際には正しく評価されていないことになる。
【0037】
これに対し、インバータ駆動回転電機の絶縁厚みと従来の商用周波正弦波駆動転電機の絶縁厚みの比率を考慮して決定した本実施形態における試験電圧VtestおよびV test’を印加して試験した場合には、図9の電機子コイルの第2電流急増点Pi2が測定される。第2電流急増点Pi2は、従来の商用周波正弦波駆動時の試験電圧E/√3に相当するVtest(αE/√3)より高いものの、Eに相当するV test’(αE)よりも低いことになる。
【0038】
従来の商用周波正弦波駆動回転機で築いてきた非特許文献3の合否判定基準を鑑みると、Pi2が従来の商用周波正弦波駆動回転電機の定格電圧Eに相当するV test’(αE/√3)よりも低いことから、この電機子コイルは不合格となる。
【0039】
すなわち、このようなコイルを使用したインバータ駆動回転電機は、従来の商用周波正弦波駆動回転電機と同等の信頼性を維持することができないことを示す。
【0040】
本実施形態では、以上のようにインバータ駆動回転電機に適した試験電圧Vtest(αE/√3)あるいはV test’(αE)を用いているので、このような絶縁不良のあるコイルを除去して、インバータ駆動に適した回転電機を提供することができる。
【0041】
図10は、誘電正接(tanδ)−電圧特性の例を示す。定格電圧Eに基づく試験電圧はE/√3あるいはEとなり、これらの試験電圧におけるtanδの増加分はΔtanδ(@ E/√3)、Δtanδ(@ E)となる。図10ではこれらの値が2.5%未満であることから、非特許文献3の合否判定基準に従うとこの電機子コイルは合格する。
【0042】
しかし、これらの試験電圧レベルは実際にインバータ駆動時に回転電機の対地絶縁層に加わる電圧よりも低い。また、回転電機の絶縁厚みがインバータ駆動を考慮して厚めに設計されている場合には、対地絶縁層に加わる電界は従来の商用周波駆動回転機の絶縁試験の際に対地絶縁層に加わる電界よりも低くなる。この結果、従来の試験方法では回転電機巻線の絶縁特性は見かけ上合格と判定されるが、実際には正しく評価されていないことになる。
【0043】
これに対し、インバータ駆動回転電機の絶縁厚みと従来の商用周波正弦波駆動転電機の絶縁厚みの比率を考慮して決定した本発明の試験電圧Vtest(αE/√3)あるいはV test’(αE)を印加して試験した場合には、tanδの増加分はΔtanδ(@Vtest)、Δtanδ(@V test’)となり、定格電圧Eを基準にした際のΔtanδ(@ E/√3)、Δtanδ(@ E)よりも大きくなる。さらに、図10では従来の商用周波正弦波駆動時の試験電圧Eに相当するV test’におけるΔtanδ(@V test’)は2.5%以上であり、従来の商用周波正弦波駆動回転機で築いてきた非特許文献3の合否判定基準を超えている。このことは、従来の実績を鑑みると、このようなコイルを使用したインバータ駆動回転電機では、従来の商用周波正弦波駆動回転電機と同等の信頼性を維持することができないことを示す。
【0044】
本実施形態では、以上のようにインバータ駆動回転電機に適した試験電圧VtestやV test’を用いているので、このような絶縁不良のあるコイルを除去し、インバータ駆動に適した回転電機を提供することができる。
【0045】
なお、非特許文献3の従来の商用周波正弦波回転電機のtanδ試験では、定格電圧EにおけるΔtanδを合否判定基準にしているが、E/√3におけるΔtanδを合否判定基準にする場合には、従来の商用周波正弦波駆動時の試験電圧E/√3に相当するV testにおけるΔtanδ(@V test)をその合否判定と比較すればよい。
【0046】
図11は、最大部分放電電荷量―電圧特性の例を示す図である。定格電圧Eに基づく試験電圧はE/√3となり、この試験電圧における最大放電電荷量はQmax(@ E/√3)である。図11では、最大放電電荷量が10,000pC未満であることから、非特許文献3の合否判定基準に従うとこの電機子コイルは合格する。しかし、これらの試験電圧レベルは実際にインバータ駆動時に回転電機の対地絶縁層に加わる電圧よりも低い。また、回転電機の絶縁厚みがインバータ駆動を考慮して厚めに設計されている場合には、対地絶縁層に加わる電界は従来の商用周波駆動回転機の絶縁試験の際に対地絶縁層に加わる電界よりも低い。この結果、従来の試験方法では回転電機巻線の絶縁特性は見かけ上合格と判定されるが、実際には正しく評価されていないことになる。
【0047】
これに対し、インバータ駆動回転電機の絶縁厚みと従来の商用周波正弦波駆動転電機の絶縁厚みの比率を考慮して決定した本発明の試験電圧Vtest( E/√3)を印加して試験した場合には、最大放電電荷量はQmax(@Vtest)となる。図11ではこの値が10,000pCを超えており、従来の商用周波正弦波駆動回転機で築いてきた非特許文献3の合否判定基準を超えている。このことは、従来の実績を鑑みると、このようなコイルを使用したインバータ駆動回転電機では、従来の商用周波正弦波駆動回転電機と同等の信頼性を維持することができないことを示す。
【0048】
本実施形態によれば、インバータ駆動回転電機に適した試験電圧VtestあるいはV test’を用いているので、このような絶縁不良のあるコイルを除去し、インバータ駆動に適した回転電機を提供することができる。
【0049】
図12は、インバータ駆動回転電機のコロナ防止層、電界緩和層、ターン間絶縁を試験する試験回路を示す図である。ここでは、試験電源には正弦波電源10とインパルス電源11を使用する。この電圧を被試験相‐コア間(図ではU相‐コア間)に印加する。一方、V,W相は直接あるいは抵抗33を介して接地する。
【0050】
図13は、インバータ駆動回転電機のスロットコロナ防止層と電界緩和層の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す図である。141はインバータ駆動回転電機に加わる対地電圧波形である。152はインバータ駆動回転電機のスロットコロナ防止層と電界緩和層の絶縁試験に使用する試験電圧波形である。
【0051】
前述の図8で示す試験電圧および図9〜11に示す試験では、正弦波電圧のみを試験電圧として使用している。このため、インバータ駆動時に問題となるスロットコロナ防止層、あるいは電界緩和層にインバータ駆動時と同等の電圧を印加して部分放電を計測することができない。
【0052】
これに対し、本実施形態では、図13に示すように、インバータ波形141を急峻な電圧成分ΔVと、急峻な電圧成分ΔVを持ち上げているベースの低周波電圧成分に分離し、これらを重畳した電圧波形152を試験電圧に使用している。このため、インバータ駆動時においてスロットコロナ防止層および電界緩和層に印加される電圧分布を模擬することができる。この結果、図13に示す試験電圧を印加することにより、インバータ駆動時に問題となるスロットコロナ防止層と電界緩和層における部分放電を正確に計測することが可能となる。
【0053】
図14は、図13に示す試験電圧を印加した場合にえられる、試験電圧−部分放電電荷量特性を示す図である。
【0054】
なお、試験対象機のスロットコロナ防止層あるいは電界緩和層で部分放電が発生しないかあるいは発生しにくい場合には、スロットコロナ防止層や電界緩和層よりも対地絶縁層で先に部分放電が発生する可能性がある。また、図13に示す試験電圧の急峻電圧ΔVは後述する、図15,図16,図17に示す試験電圧162、172、182のΔVと同じ大きさであるため、試験対象機のスロットコロナ防止層および電界緩和層で部分放電が発生しないかあるいは発生しにくい場合には、ターン間絶縁で先に部分放電が発生する可能性がある。
【0055】
したがって、図13の波形(あるいは実際のインバータ電圧波形)で部分放電計測した場合には、計測した部分放電がスロットコロナ防止層あるいは電界緩和層の部分放電なのかそれともその他の対地絶縁あるいはターン間絶縁の部分放電なのかを適切に判別しなければならない問題が発生する。この判別方法については後述する。
【0056】
図15〜17は、インバータ駆動回転電機のターン間絶縁の絶縁試験に使用する試験電圧波形を示す。図において141はインバータ駆動回転電機に加わる対地電圧波形である。162は矩形波パルス電圧であり、172は矩形波パルス電圧162の頂上部の電圧が時間とともにゆるやかに低下する場合の電圧であり、182はさらに頂上部の電圧が0Vまで低下する場合の電圧波形である(なお、LC共振振動が大きい場合には0V以下まで緩やかに低下することもある)。
【0057】
前述の図8の試験電圧および図9〜11の試験では低周波の正弦波電圧を試験電圧に使用しているため、インバータ駆動時に問題となるターン間絶縁にインバータ駆動時と同等の電圧を印加して部分放電計測することができない。これに対し、本発明ではインバータ波形141の正極性と負極性の急峻電圧変化ΔVを模擬した試験電圧波形162、172、182を使用しているため、急峻電圧変化ΔVによってターン間絶縁に発生する電圧分布を模擬することができる。この結果、本実施形態における試験電圧によってインバータ駆動時に問題となるターン間絶縁の部分放電を正確に計測することが可能となる。以上の結果、図18に示す試験電圧−部分放電電荷量特性の図が得られる。
【0058】
なお、図15〜17に示した本発明の試験電圧波形162、172、182の大きさはいずれも図13に示す試験電圧の大きさやインバータ駆動時の対地電圧141よりも小さい。このため、対地絶縁やコロナ防止層および電界緩和層に加わる試験電圧を小さくし、ターン間絶縁のみの部分放電を計測することができる。
【0059】
次に、図13に示す試験電圧波形(あるいは実際のインバータ電圧波形)を回転電機巻線に印加したときに計測される部分放電の判別方法を述べる。
【0060】
図19は、正弦波電圧を印加したときの部分放電電荷量Qmaxと、図13に示す正弦波とインパルスとの重畳電圧を印加したときの部分放電電荷量Qmax’の相関関係を示す図である。
【0061】
横軸に正弦波電圧を0Vから増加させていった場合に計測される電荷量を、縦軸にはその正弦波電圧と同じピーク電圧の図13に示す電圧波形を印加したときの部分放電電荷量の測定結果を対応させてプロットしている。
【0062】
種々の検討を行った結果、人工ボイドを有する絶縁物に正弦波電圧と、これと同じピーク電圧の図13に示す電圧波形を印加した場合には、それぞれの電圧で測定した部分放電電荷量(あるいは電荷量換算しない場合には電圧あるいは電流強度)が傾きKの比例関係で増加するという知見を得た(Kは絶縁システムに依存)。
【0063】
ところが、実際に回転機巻線を対象にした場合には、ある部分放電電荷量Qmax(1)およびこれに対応するQmax’(1)を超えると、図13に示す電圧波形を印加したときの部分放電電荷量が急激に増加することがある。また、このような現象はQmax(2)およびこれに対応するQmax’(2)を超えると再び発生する場合がある。これらのことは、対地絶縁層の中の部分放電とは別の部分放電が図13に示す電圧波形によって生じることを示している。
【0064】
背景技術の項で述べたように、インバータの急峻なパルス電圧が回転機巻線に加わると、対地絶縁だけでなくターン間絶縁、コロナ防止層あるいは電界緩和層にも大きな電圧が加わる。この結果、図13に示す電圧波形を印加したときには、前記現象に伴う部分放電が発生して、例えば傾きKの比例関係で増加するというような結果になったと考えることができる。
【0065】
以上の検討の結果、規定の試験電圧を印加した場合に、図19に示すカーブのどの位置に部分放電電荷量の測定結果があるのかを見ることで、図13に示す電圧波形(あるいは実際のインバータ電圧波形)が印加したときに発生した部分放電が、対地絶縁の部分放電(傾きKの直線上)であるか、それ以外の部分放電(傾きKの直線から外れた位置)であうかを判別することができるという知見が得られた。しかし、この方法でも、ターン間絶縁と、コロナ防止層および電界緩和層のいずれの部分放電であるかを区別することができない。
【0066】
図20は、図13に示す正弦波とインパルスの重畳電圧を印加したときの部分放電電荷量Qmax’と、図15〜17のいずれかに示すインパルス電圧(ターン間絶縁試験電圧)を印加したときの部分放電電荷量Qmax’’の相関関係を示す図である。横軸には図13に示す電圧波形を相似波形で0Vから増加させていった場合に計測される電荷量を、縦軸には横軸の部分放電電荷量を測定する際に印加した電圧波形に占めるインパルス電圧ΔVと同じ大きさの図15〜17のいずれかに示すインパルス電圧ΔVを印加したときの部分放電電荷量の測定結果を対応させてプロットしている。
【0067】
なお、図20に示す特性は、図19に示す部分放電電荷量Qmax(1)およびこれに対応するQmax'(1)を超える部分放電電荷量の領域を図示したものである。図20の例では、始めに図13の電圧波形を印加したときの部分放電電荷量Qmax’と図15〜17のいずれかのインパルス電圧を印加したときの部分放電電荷量Qmax’’は、ほぼ傾き1の比例関係で増加する。ところが、ある電荷量Qmax’(A)およびこれに対応するQmax’’(A)を超えると、図15〜17のいずれかのインパルス電圧を印加したときの部分放電電荷量Qmax’’は図13の電圧波形を印加したときの部分放電電荷量Qmax’に対し傾き1の比例関係で増加しなくなる。
【0068】
前述のようにターン間絶縁には正弦波電圧はほとんど加わらずインパルス電圧のみが加わる。これに対し、コロナ防止層および電界緩和層にはインパルス電圧と正弦波電圧の両者が加わり過酷な電圧分布にさらされることから、ある値からはコロナ防止層および電界緩和層から大きな部分放電が発生し傾き1の比例関係ではなくなると考えることができる。 以上の検討の結果、規定の試験電圧を印加した際に、図20のカーブのどの位置に部分放電電荷量の測定結果があるのかを見ることで、図13の電圧波形あるいは実際のインバータ電圧波形が印加されたときの部分放電が、ターン間絶縁の部分放電(傾き1の直線部分)なのか、コロナ防止層および電界緩和層の部分放電(傾き1の直線から外れた)部分放電なのかを判別することができるという知見を得た。
【0069】
以上の部分放電の判別方法をまとめて図21にフローチャートにして示す。図21の手順で正弦波電圧、正弦波にインパルスが重畳した電圧、インパルス電圧の3つの電圧で部分放電試験を行い、測定結果を判別することで、インバータ駆動時に対地絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層、ターン間絶縁のどの部分が問題になるのかを判断することができる。
【0070】
以上の絶縁試験を用いたインバータ駆動回転電機の製造方法および絶縁診断方法を図22,23に示す。
【0071】
図22はワニスを全含浸する回転電機の製造〜絶縁更新までの工程を示す図であり、図23はワニスを単独注入あるいはレジンリッチ(プリプレグ)加圧成型してコイル絶縁を成型する回転電機の製造〜絶縁更新までの工程を示す図である。ワニスを全含浸する回転電機では、ワニスを回転電機の固定子巻線に全含浸させた後と出荷後の絶縁試験に本発明の試験方法を用いることができる。これにより、対地絶縁、ターン間絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層の絶縁信頼性を確保し、インバータ駆動に適した回転電機を提供することができる。
【0072】
一方、ワニスを単独注入あるいはレジンリッチ(プリプレグ)加圧成型してコイル絶縁を成型する回転電機では、ワニス単独注入あるいは成型した後、コイルをスロットに挿入した後、コイル同士を組線して固定子巻線を作成した後、出荷後の絶縁試験に本発明の方法を用いることができる。これにより、対地絶縁、ターン間絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層の絶縁信頼性を確保し、インバータ駆動に適した回転電機を提供することができる。
【0073】
[実施形態2]
実施形態2では、実施形態1と同じく図1に示す絶縁試験装置とインバータ回転電機の構成で回転電機を試験する。ただし、実施形態2ではインバータ駆動回転電機システムを敷設した後に、回転電機端で発生する対地間のインバータ電圧波形のピーク値vpを測定し、これを用いて従来の試験電圧E/√3の替わりに試験電圧に
test=vp/√2 を用いる。
【0074】
この電圧(正弦波実効値電圧)を印加してAC交流電圧−電流特性、AC tanδ特性、AC部分放電特性を測定する。また、従来、試験電圧に定格電圧Eを用いてきた試験では試験電圧に
test’=vp・√3/√2を用いる。
【0075】
この電圧(正弦波実効値電圧)を印加して交流電圧−電流特性、tanδ特性、部分放電特性の少なくとも1つを測定する。
【0076】
図24にインバータ駆動時に回転電機に加わる対地電圧測定回路を示す。インバータ130で回転電機132を駆動する際には、インバータ130から発せられた図示しないサージ電圧がケーブル131を伝播し回転電機端に到達すると、ケーブルと回転電機のインピーダンス不整合が原因となりサージ電圧の立ち上がり部分でオーバーシュートが発生し過電圧が回転電機に加わることがある。このため、図24では回転電機端で回転電機に加わる電圧を測定している。また、一般にインバータ駆動回転電機ではコモンモード電圧の影響を除去するため相間電圧が測定されることが多いが、ここでは実際に対地絶縁に加わる対地電圧を測定している。測定には高電圧プローブあるいは分圧器133を使用している。高電圧プローブあるいは分圧器133にはインバータのサージ電圧の立ち上がり時間をtrとした場合に、
BW(MHz)≧0.35/tr(μs)
の帯域を有しており、かつ、一般的な回転電機の対地間のインピーダンスよりも高い、入力インピーダンス10MΩ以上、静電容量100pF以下のものを使用することが望ましい。この高電圧プローブあるいは分圧器133で測定した電圧は、オシロスコープなどの波形観測装置134にて測定される。波形観測装置134の周波数帯域も上記のBWと同じかそれ以上であることが望ましい。また、A/D変換する場合には、サンプリング速度が上記のBWの2倍以上、望ましくは
SS(MS/s)≧10/tr(μs)
であり、量子化ビット数が少なくとも8ビット以上のA/D変換器を備えた波形観測装置134を使用することが望ましい。
【0077】
図25に、測定した電圧波形と、実施形態2の試験電圧Vtestの関係を示す。実施形態1では同じ定格電圧で正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みtsinとインバータ駆動される回転電機の絶縁厚みtinvの比率をα(=tinv/tsin)を基に対地絶縁の試験電圧を決定した。しかしながら、この比率やこの比率に基づく試験電圧が回転電機の保守マニュアルなどに書かれていない場合がある。このような場合には、その替わりとして、実際に回転電機に加わっているインバータ電圧vpを基準にして試験電圧を決定する。
【0078】
一般に、エポキシマイカ絶縁を対地絶縁に使用した回転電機では、インバータ電圧波形のピーク電圧が大きく寿命に影響することを知見として得ている。このことから、繰り返しサージ電圧の影響が小さい場合には、ピーク電圧が高くなった分だけ対地絶縁の絶縁厚みを正弦波駆動時に比べて厚く設計する場合がある。このような場合には、結果的に実施形態1と同じく、試験電圧印加時の対地絶縁層の内部電界分布は図8に示すように同一となる。しかし、繰り返しサージ電圧の影響を考慮して絶縁厚みをさらに厚くしている場合には、図8に示す試験電界よりも実施形態2の試験電界は低下する。この場合には、実施形態2の試験電圧を印加した際の対地絶縁の電界を試験の後で計算し、同じ電界における従来の商用周波駆動回転電機の絶縁試験データと比較して絶縁診断・合否判定するとよい。
【0079】
一般に回転電機コイルの対地絶縁劣化への影響は、熱>機械>電気の順に大きい。インバータ駆動時のサージ電圧によって電気劣化の影響が幾分大きくなるが、この順序は大きくは変わらない。したがって、回転電機コイルの絶縁診断では、熱劣化や機械劣化を適切に測定することが重要となる。実施形態1ではこの観点で対地絶縁層の熱劣化や機械劣化に伴う絶縁欠陥の存在を従来の絶縁合否判定基準を基に判定するため、同じ電界となる試験電圧で試験をした。しかしながら、熱劣化や機械劣化が進行すると、対地絶縁層に加える試験電圧の電界が従来の試験電界レベルより低くても、熱劣化や機械劣化を判定することができるようになる。このような場合には、実施形態2の方法でも十分に回転電機の対地絶縁の絶縁診断をすることができる。なお、その他のターン間絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層の診断は、実施形態2でも実施形態1と同じ方法で行う。
【0080】
[実施形態3]
実施形態2ではインバータ駆動回転電機システムを敷設した後に、回転電機端で発生する対地間のインバータ電圧波形のピーク値vpを測定して、これを用いて対地絶縁の試験電圧を決定した。これに対し、実施形態3ではシミュレーションによってインバータ駆動回転電機システムを敷設前に、回転電機端で発生する対地間のインバータ電圧波形のピーク値vpを予測し、これを用いて対地絶縁の試験電圧を決定する。
【0081】
図26は、インバータ駆動回転電機システムの回転電機端対地電圧波形シミュレーションモデルの例を示す。ここでは、インバータ281、ケーブル282、回転電機283を抵抗、インダクタンス、コンデンサなどの等価回路モデルで模擬し、このモデルに所定の電圧立ち上がり時間の電圧を入力することで回転電機端284の電圧波形を計算する。計算はEMTPやSpiceなどの回路シミュレーションソフトで行う。なお、対象とするインバータ、ケーブル、回転電機によってモデル大きく変わるため、対象機の詳細寸法、材料物性値などの仕様を予め把握しておく必要がある。
【0082】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、回転電機の電機子巻線の定格電圧をE、正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みtsinとインバータ駆動される回転電機の絶縁厚みtinvとの比率をα(=tinv/tsin)をとした場合に、電機子巻線に試験電圧Vtestとして、Vtest=α・E/√3あるいはVtest=α・E以上の正弦波実効値電圧を印加してAC交流電圧−電流特性、AC tanδ特性、AC部分放電特性を測定する。また、回転電機端に発生するインバータ電圧のピークをvpを測定できる場合には、これを基にvp/√2あるいはvp√3/√2の正弦波実効値電圧を試験電圧Vtest=として印加して交流電圧−電流特性、tanδ特性、部分放電特性測定する。このように試験電圧を設定することで、従来の商用周波正弦波駆動回転機の対地絶縁試験の際に対地絶縁に加わっていた電界と同じ電界を絶縁層に加えることになる。このため従来の商用周波正弦波駆動回転電機を試験対象として築いてきた合否判定基準値をそのまま用いてインバータ駆動回転電機の対地絶縁の試験を行うことができる。
【0083】
また、ターン間絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層に関して、正弦波電圧、正弦波にインパルスが重畳した電圧、インパルス電圧の3つのうち、少なくとも2つを印加したときの部分放電電荷量の相間関係を元に、インバータ駆動時に対地絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層、ターン間絶縁のどの部分が問題になるのかを判断することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 回転電機
2 軸受
4 固定子巻線
5 シャフト
6 2次巻線
7 ハウジング
8 固定子
9 回転子
10 正弦波電源
11 インパルス電源
12 絶縁特性計測器
13 配線切り替え機構
40 スロット
41 固定子巻線
42 スロットコロナ防止層
43 電界緩和層
61 導体
62 ターン間絶縁
63 対地絶縁
130 インバータ
131 ケーブル
132 回転電機
133 分圧器
134 波形観測器
281 インバータ
282 ケーブル
283 回転電機
284 回転電機端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の電機子巻線に試験電圧を印加して、電機子巻線の絶縁性能を試験する回転電機の試験方法において、
回転電機の電機子巻線の定格電圧がEであり、この定格の正弦波電圧駆動回転電機の電機子巻線の絶縁試験電圧がE/√3あるいはEである場合において、
正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みがtsin、インバータ駆動される回転電機の絶縁厚みをtinvとすると、インバータ駆動される回転電機の電機子巻線に印加する試験電圧vtestを、それぞれvtest=αE/√3、あるいはvtest=αE(但しα=tinv/tsin)に設定して、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れかを試験することを特徴とする回転電機の試験方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機の試験方法において、
インバータ駆動される回転電機の入力端に発生する電圧のピーク値vpを測定により取得し、取得したピーク電圧をもとに、同一ピーク値を有する正弦波電圧(vp/√2)を試験電圧vtestに設定して、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れかを試験することを特徴とする回転電機の試験方法。
【請求項3】
回転電機の電機子巻線に試験電圧を印加して、電機子巻線の絶縁性能を試験する回転電機の試験方法において、
試験電圧として、正弦波電圧、正弦波電圧とインパルス電圧との重畳電圧を印加したときの印加電圧対部分放電電荷量をそれぞれ測定し、部分放電電荷量の相間を表す直線の傾きの変化をもとに、対地絶縁部分における部分放電と、ターン間絶縁、スロットコロナ防止層および電界緩和層における部分放電とを判別することを特徴とする回転電機の試験方法。
【請求項4】
請求項3記載の回転電機の試験方法において、
試験電圧として、正弦波電圧とインパルス電圧との重畳電圧、インパルス電圧を印加したときの印加電圧対部分放電電荷量をそれぞれ測定し、部分放電電荷量の相間を表す直線の傾きの変化をもとに、ターン間絶縁部分における部分放電と、スロットコロナ防止層および電界緩和層における部分放電とを判別することを特徴とする回転電機の試験方法。
【請求項5】
請求項2記載の回転電機の試験方法において、
インバータ駆動される回転電機の入力端に発生する電圧のピーク値vpをシミュレーションにより予測することを特徴とする回転電機の試験方法。
【請求項6】
電機子巻線の定格電圧がEで正弦波電圧駆動回転電機の電機子巻線の絶縁試験電圧がE/√3あるいはEである回転電機において、正弦波駆動される回転電機の絶縁厚みがtsin、インバータ駆動される回転電機の絶縁厚みをtinvであるとき、インバータ駆動される回転電機の電機子巻線に試験電圧vtest=αE/√3(但しα=tinv/tsin)を印加したとき、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れもが、前記正弦波駆動回転電機の特性として定められた値よりも良好な特性を示すことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項6記載の回転電機において、
インバータ駆動される回転電機の入力端に発生する電圧のピーク値vpと同一ピーク値を有する正弦波電圧(vp/√2)を印加したとき、交流電圧−電流特性、tanδ特性,AC部分放電特性の何れもが、前記正弦波駆動回転電機の特性として定められた値よりも良好な特性を示すことを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項1記載の回転電機の試験方法において、
絶縁試験はワニスを固定子巻線に含浸させた後と出荷後に行うことを特徴とする回転電機の試験方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2013−88251(P2013−88251A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228037(P2011−228037)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】