説明

インパクト工具

【課題】トルクセンサエラーの検知機構を有するインパクト工具を提供する。
【解決手段】インパクト工具2は、モータ4、オイルパルスユニット(OPU)6、回転センサ3、トルクセンサ9、及び、コントローラ20を備える。OPU6は、入力軸5に入力される連続トルクのエネルギを間欠的な打撃トルクに変換して出力軸7から出力する。モータ4は、OPU6の入力軸5に連続トルクを与える。回転センサ3は、OPU6の入力軸5の回転数を計測する。トルクセンサ9は、OPU6の出力軸7に生じる打撃トルクを検知する。コントローラ20は、入力軸5の回転数の時間変化が既定の変化閾値を超えるタイミングを特定するとともに、そのタイミングを含む既定時間幅のインパクト発生期間を特定し、時間軸で隣接するインパクト発生期間の間で既定のトルク閾値以上のトルクセンサ出力を検知した場合にインパクト工具2の異常を示す信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバ、インパクトレンチ等のインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
所望のトルクでネジやボルトを締め付ける工具が知られている。そのような工具の中には、ドライバビットやレンチビットなどの先端ツール(以下、ビットと称する)に間欠的にパルス状の打撃トルクを加えるタイプの工具がある。本明細書では、そのようなツールをインパクト工具と称する。
【0003】
間欠的な打撃トルクを発生させる機構には、オイルパルスユニットと呼ばれる機構がよく知られている。オイルパルスユニットを備えたインパクト工具の一例は特許文献1や引用文献2に開示されている。また、オイルパルスユニットのほか、ハンマとアンビルを用いて打撃トルクを発生させる機構が特許文献3に開示されている。それらの機構は、モータ等を駆動源とし、駆動源の連続トルクのエネルギを間欠的な打撃トルクに変換して出力軸から出力する。そのような機構の一般名称は存在しないので、本明細書ではそのような機構を打撃トルク発生ユニットと称する。
【0004】
他方、インパクト工具の多くは、予めセットしたトルク以上のトルクを発生させないトルクコントロール機能を有する。従来はメカニカルな機構でトルクコントロールを実現していたが、近年では、歪みセンサなどのトルクセンサを備え、ソフトウエアにてトルクコントロールを実現するインパクト工具も開発されている。
【0005】
ところで、センサを用いる装置一般にいえることであるが、信頼性の高い装置を実現しようとする場合、センサが正常に機能しているか否かをチェックする工夫が必要とされる。トルクセンサも同様であり、例えば、特許文献4や特許文献5には、トルクセンサの異常を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−31369号公報
【特許文献2】特開平8−187673号公報
【特許文献3】特開2011−31315号公報
【特許文献4】特開2003−65876号公報
【特許文献5】実公平6−20121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では大規模な工場でもIT化が進み、インパクト工具によるトルクコントロールを個々の作業者に任せるのではなく、インパクト工具のセンサデータを生産ライン管理用のコンピュータへ送信し、そのコンピュータで各インパクト工具のトルクをモニタして製品品質向上を目指す試みがある。従来は、作業者がその責任において直接にインパクト工具を管理していたのでその使用感から異常を判別することができたが、コンピュータがセンサデータに基づいてインパクト工具による締め具合を管理することを想定すると、インパクト工具のトルクセンサにも信頼性が要求される。即ち、コンピュータがトルクセンサの異常を検知する機能が必要とされる。特許文献3や4に開示されたトルクセンサの異常検出技術を、特許文献1乃至3に開示されたインパクト工具に適用することはできる。しかし、特許文献3や4に開示された技術は、インパクト工具に特化したものではない。本明細書は、インパクト工具であるがゆえに生じやすいトルクセンサエラーを、インパクト工具に特有のメカニズムを巧みに利用して検知する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
インパクト工具であるがゆえに生じやすいトルクセンサのエラーの一つに、打撃トルクが実際には出力されていないのにもかかわらずトルクセンサがトルク信号を出力してしまうことがある。具体的には以下の通りである。打撃トルク発生ユニットは、間欠的な(パルス状の)トルクを発生するため、トルクセンサの信号もパルス状となる。他方、打撃トルク発生ユニットが発生するパルス状の打撃トルクは工具全体にも振動を生じさせる。長期に亘りパルス状の振動を受け続ける装置では、信号線の接触不良を生じる虞が他の装置よりも高く、さらに、接触不良の状態においてパルス状の衝撃が加わるのでパルス状の誤信号を生じやすい。即ち、インパクト工具では、打撃トルクが実際には出力されていないのにもかかわらずトルクセンサがパルス状のトルクを示す信号を出力してしまう虞がある。しかも、打撃トルク発生ユニットが実際に出力するトルクもパルス状であるので、トルクセンサの出力だけでは、それが本物の打撃トルクを表す信号であるのか、接触不良に起因するエラーの信号であるのか判別が付かない。本明細書が開示する技術は、そのようなエラー信号を検知する仕組みを備えたインパクト工具を提供する。
【0009】
ソフトウエアでトルクコントロールを行うインパクト工具ではもともと、ビットに加わる打撃トルクの大きさを検知するためのトルクセンサと、打撃トルク発生ユニットの入力軸(あるいはアクチュエータの回転軸)の回転数を計測する回転センサを備える。本明細書が開示する技術は、この回転センサをトルクセンサの異常検知に利用する。
【0010】
打撃トルク発生ユニットが定期的に出力するパルス状の打撃トルクは、打撃トルク発生ユニットの入力軸に影響を与える。即ち、打撃トルクの発生と同期して入力軸の回転数が(他の期間と比較して相対的に)大きく変化する。この事実に着目し、本明細書が開示するインパクト工具は、入力軸の回転数が変化するタイミングと同期していないタイミングで出力されたトルクセンサ信号をエラー信号と判定する。
【0011】
本明細書が開示するインパクト工具の一態様は、打撃トルク発生ユニット、アクチュエータ、回転センサ、トルクセンサ、及び、コントローラを備える。打撃トルク発生ユニットは、入力軸と出力軸を備えており、入力軸に入力される連続トルクのエネルギを間欠的な打撃トルクに変換して出力軸から出力する。ここで、「入力軸に入力される連続トルク」とは、別言すれば、持続的に加えられるトルクであり、さらに別言すれば、モータに代表される回転軸が連続的に回転するアクチュエータによって入力されるトルクを意味する。また、「間欠的な打撃トルク」とは、別言すれば、「パルス状のトルク」である。アクチュエータは、打撃トルク発生ユニットの入力軸に連続トルクを与える。別言すれば、アクチュエータは、入力軸を回転させる持続的なトルクを与える。打撃トルク発生ユニットの出力軸には、ビットなどを装着するためのツールチャックが連結されている。回転センサは、打撃トルク発生ユニットの入力軸の回転数を計測する。なお、入力軸とアクチュエータの回転軸との間に減速機が介在している場合において、アクチュエータの回転軸あるいは減速機の内部の軸の回転数を計測するセンサも、「入力軸の回転数を計測する回転センサ」と等価である。アクチュエータの回転軸あるいは減速機の内部の軸の回転数は、入力軸の回転数と一意に対応しているからである。トルクセンサは、打撃トルク発生ユニットの出力軸に生じる打撃トルクを検知する。ツールチャックにトルクセンサが備えられている場合も、「出力軸に生じる打撃トルクを検知するトルクセンサ」と等価である。
【0012】
コントローラは、入力軸の回転数の時間変化が既定の変化閾値を超えるインパクトタイミングを特定するとともに、インパクトタイミングを含む既定時間幅のインパクト発生期間を特定し、時間軸で隣接する2つのインパクト発生期間の間で既定のトルク閾値以上のトルクセンサ出力を検知した場合に工具の異常を示す信号を出力する。ここで、「入力軸の回転数の時間変化が既定の変化閾値を超える」とは、変化閾値を上回る場合と下回る場合のいずれであってもよい。打撃トルクが入力軸の回転数に与える影響は、インパクト工具の機械特性に依存するのであり、打撃トルクによって入力軸の回転数が不連続的に増加する場合もあれば、不連続的に減少する場合もある。いずれにしても、コントローラは、回転センサが検知する回転数の変化を既定の変化閾値と比較し、インパクトタイミングを特定する。なお、理論的には、打撃トルクが出力されるタイミングがインパクトタイミングに一致するはずであるが、センサ処理やコントローラの計算による遅れを補償するためにインパクト発生期間という幅を有する時間期間を導入する。従って、インパクト発生期間の幅は、0.1秒のオーダである。既定の変化閾値、及び、既定のトルク閾値は、インパクト工具の特性に応じて予め定められる。
【0013】
なお、インパクト発生期間は、「インパクトタイミングを含む既定時間幅」の代わりに、「インパクトタイミングに対応する入力軸の角度を含む既定の回転角度幅」として定義してもよい。入力軸は所定の回転数で回転しているので、入力軸の回転角度は時間とともに変化する。即ち、入力軸の回転角度は、経過時間と一意に対応するからである。さらに、入力軸とアクチュエータの間に減速機が介在している場合は、「入力軸の回転角度」は、減速機内部の途中の軸の回転角度で代替してもよい。いずれの軸の回転角度も、入力軸の回転角度と一意に対応するからである。インパクト発生期間を入力軸の回転角度で定義する場合であっても、「時間軸で隣接するインパクト発生期間」との表現は、そのまま技術的意味をなす。インパクト発生期間を回転角度幅で定義した場合であっても、インパクト発生期間は時間の経過とともに離散的に発生するからである。
【0014】
上記のインパクト工具では、時間軸で隣接するインパクト発生期間の間、即ち、インパクト発生期間以外においてトルクセンサからのトルク信号を検知した場合に、工具の異常(トルクセンサ系の異常)と判定する。前述したように、そのような場合、トルクセンサを含む回路系に接続不良が生じている可能性が高いからである。
【0015】
本明細書が開示するインパクト工具の他の態様では、コントローラは、工具の異常を示す信号を出力するとともに、アクチュエータへの電力供給を遮断することが好ましい。トルクセンサ系に異常が発生している場合、もはや所望のトルクでネジ締め(あるいはボルト/ナット締めやドリリング)を行うことが保証されないからである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】インパクトツールの構造を模式的に示す図である。
【図2】回転数信号とトルクセンサ信号との関係を示すグラフである。図2(A)が回転数信号を示し、図2(B)がトルクセンサ信号を示す。
【図3】コントローラが実行する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、実施例のインパクト工具2の構造を示す模式図である。インパクト工具2は、ハンディタイプの工具であり、その先端に、ドライバ、レンチ、ドリルなどのビット90を適宜に選択して取り付けることで、インパクトドライバ、インパクトレンチ、あるいは、ドリルとして多目的に使うことができる。
【0018】
インパクト工具2は、その本体内に、モータ4、オイルパルスユニット6、ツールチャック8を内蔵している。モータ4は、例えばDCブラシレスタイプのモータである。モータ4の回転軸は、オイルパルスユニット6の入力軸5に直結している。モータ4は、連続的なトルクを入力軸5に加える。ここで、連続的なトルクとは、時間的に滑らかに継続するトルク、あるいは、経時的に持続するトルク、と換言することができる。さらに別言すれば、モータ4はオイルパルスユニット6の入力軸5を回転させる。
【0019】
モータ4の後端には、回転軸(入力軸5)の回転数を計測するエンコーダ3が取り付けられている。エンコーダ3は、回転軸が所定角度(例えば2度)回転するごとにパルスを出力する。パルスの数をカウントすれば回転角が計測でき、パルス出力の時間ピッチを計測すれば回転軸の回転数(角速度)が計測できる。ここでは、エンコーダ3は、入力軸5の回転数を計測するものとして説明を続ける。
【0020】
オイルパルスユニット6は、その出力軸7に大きな負荷が加わると出力軸の回転が止まるが、入力軸5とこれに連結したライナのみは回転を続け、ライナの回転に伴って内部に充填された作動オイルの圧力が変動し、ライナが1回転する毎に出力軸7にパルス状の衝撃トルクを発生させる。即ち、オイルパルスユニット6は、入力軸5に入力される連続トルクのエネルギを間欠的なパルス状の打撃トルクに変換して出力軸7から出力するデバイスである。なお、オイルパルスユニット6の構造は良く知られているのでここでは詳しい説明は割愛する。
【0021】
オイルパルスユニット6の出力軸7には、ツールチャック8が連結されている。ツールチャック8は、その先端に様々なタイプのビット90を取り付けることができる。出力軸7にはトルクセンサ9が取り付けられている。トルクセンサ9は、歪みゲージを利用したセンサである。トルクセンサもよく知られているので詳しい説明は省略する。
【0022】
エンコーダ3とトルクセンサ9のセンサデータはコントローラ20に送られる。コントローラ20は、それらセンサのデータに基づいてモータ4を制御する。コントローラ20は、トルクセンサ9によって検知される打撃トルクが予め与えられた目標トルクに達するまでモータ4を駆動する。
【0023】
コントローラ20はまた、トルクセンサ9のセンサデータをモニタしており、センサデータが異常であると判断すると、ケーブル22を介して管理コンピュータ(不図示)にアラーム信号を送信するとともに、モータ4への電力供給を遮断する。ケーブル22は、外部からインパクト工具2へ電力を供給するパワーケーブルも兼ねている。
【0024】
図2と図3を参照して、コントローラ20が実行する、トルクセンサデータのモニタ処理を説明する。図2は、オイルパルスユニット6の入力軸5の回転数(角速度)と出力軸7で観測されるパルス状の打撃トルクの関係を示すグラフである。図2(A)が回転数を示しており、図2(B)が打撃トルクを示している。なお、図2のグラフは、回転数変化と打撃トルクのグラフ形状を模式的に示しているのであり、実際のグラフの形状を精密に表したものでないことに留意されたい。図3は、コントローラ20が実行するトルクセンサデータモニタ処理のフローチャートである。
【0025】
前述したように、オイルパルスユニット6は、間欠的なパルス状の打撃トルクを出力するが、その影響は入力軸5にも及び、そのため、入力軸5の回転数Agは打撃トルクに同期して脈動する。図2(B)のパルスB1、B2、及び、B3は、打撃トルクを示している。図2では、周期Prの間隔で、時刻T1、T2、及び、T3にて打撃トルクが発生している。なお、打撃トルクの発生周期Prは入力軸5の回転数Agに依存する。図2(A)に示すように、打撃トルクの発生に同期して回転数Agが大きく変化する。コントローラ20はそのような現象に基づき、回転数Agの変化から打撃トルクが発生したと推定されるタイミングを特定し、そのタイミングと異なるタイミングでトルクセンサ出力を検知した場合に、エラー発生と判定する。以下、図2と図3を参照しつつ、コントローラ20の処理を詳細に説明する。
【0026】
コントローラ20は、制御周期毎に図3の処理を実行する。まずコントローラ20は、エンコーダ3とトルクセンサ9のセンサデータを取得し、記憶する(ステップS2)。次いでコントローラ20は、今回のサンプリングタイム(i)における回転数Ag(i)と前回のサンプリングタイム(i−1)との差分dAg=Ag(i)−Ag(i−1)を計算し、この差分dAgが既定の変化閾値下回っているか否か(閾値を超えているか否か)を判定する(ステップS3)。ステップS3の判定結果がNOの場合、この処理は終了し、次のサンプリング周期で再びステップS2から開始される。こうして、ステップS3の判定結果がYESとなるまでは、各サンプリングタイムにおける回転数データとトルクセンサデータが蓄積される。
【0027】
コントローラ20は、差分dAgが変化閾値を下回ったタイミングをインパクトタイミングとして特定する(ステップS3:YES、S4)。例えば、変化閾値が図2(A)のdAtの大きさであるとすると、コントローラ20は、時刻T1を超えた時点で、時刻T1をインパクトタイミングとして特定できる。同様に、実際の時間が時刻T2、T3を夫々超えた時点でそれらの時刻がインパクトタイミングとして特定される。
【0028】
前述したように、このインパクトタイミングが、打撃トルクの発生タイミングを回転数から推定したものであるが、コントローラの計算時間や、差分dAg=Ag(i)−Ag(i−1)の計算による論理的なディレイに起因して、特定されたインパクトタイミングと実際に打撃トルクが発生したタイミングがわずかにずれることが予想される。そこで、コントローラ20は、特定したインパクトタイミングに対して、このタイミングを含む一定時間幅のインパクト発生期間を設定する。具体的には、特定されたインパクトタイミングを中心として時間幅Waの期間をインパクト発生期間として設定(特定)する(ステップ5)。具体的には、図2に示すように、コントローラ20は、特定されたインパクトタイミングT1に対して、その直前の時間幅Wa/2と、その直後の時間幅Wa/2で既定されるインパクト発生期間Waを設定する。インパクトタイミングT2、T3に対しても同様にインパクト発生期間Waが設定される。時間幅Waは、例えば0.2秒程度である。
【0029】
次にコントローラ20は、前回のインパクト発生期間と今回のインパクト発生期間の間(符号Wbが示す期間)で既定のトルク閾値以上のトルク出力があったか否かをチェックする(ステップS6)。既定のトルク閾値は、ノイズを排除するものであり、小さい値に設定される。ノイズが限りなく小さいと仮定できる場合は、トルク閾値はゼロであってもよい。
【0030】
図2の例では、インパクトタイミングT1に対応して、現実に発生した打撃トルクによるパルスB1(トルクセンサの出力信号)が検知される。パルスB1は、当然、ほぼインパクトタイミングT1と同期しており、時刻T1を中心とするインパクト発生期間Wa内で検知される。同様に、インパクトタイミングT2に対応して、現実に発生した打撃トルクによるパルスB2が検知される。パルスB2も当然にほぼインパクトタイミングT2と同期しており、時刻T2を中心とするインパクト発生期間Wa内で検知される。インパクトタイミングT3と打撃トルクのパルスB3についても同様である。これらのトルクパルスB1、B2、及び、B3は、ステップS6の条件に合致しないので、これらのパルスに対しては、エラー処理(ステップS7、S8)は実行されない(ステップS6:NO)。
【0031】
他方、例えば、図2(B)のパルスBxが検知された場合、このパルスBxは、インパクトタイミングT2を中心とするインパクト発生期間と、インパクトタイミングT3を中心とするインパクト発生期間との間(期間Wb)で検知されている。期間Wbは、オイルパルスユニット6が打撃トルクを出力する期間ではないので、この期間に検知されたトルクパルスBxは、なんらかの異常で検知されたものである。具体的に想定し得るエラーの原因は、センサ回路系の接触不良であり、直前の打撃トルク(パルスB2の打撃トルク)の振動により、接触不良箇所が接触と断絶を繰り返すいわゆるチャタリングを起こすことである。
【0032】
時間軸で隣接する2つのインパクト予定時間の間でトルクパルスが検知された場合、そのトルクパルスは何らかの異常により検知された可能性が高いので、そのような場合コントローラ20は、アラーム信号を上位のコンピュータに送信するとともに、モータ4への電力供給を遮断する(ステップS6、S7)。ステップS7が実行された後は、コントローラ20は機能を停止する。エラー処理が実行されない場合(ステップS3:NO、あるいは、ステップS6:NO)、コントローラ20は、図3の処理を制御周期毎に繰り返す。
【0033】
上記説明したとおり、インパクト工具2は、オイルパルスユニット6(打撃トルク発生ユニット)の入力軸の回転数変化から打撃トルク発生タイミングを推定し、そのタイミングと異なるタイミングのトルクセンサ出力を検知した場合に異常と判断する。このエラー検知のメカニズムは、インパクト工具2ではパルス状に発生する打撃トルクと入力軸回転数の顕著な変化が同期するという現象を利用したものである。すなわち、本明細書が開示する技術は、インパクト工具に固有の事情を巧みに利用している。さらにはインパクト工具には回転数センサとトルクセンサが備えられているものが多く、本明細書が開示する技術はそれら既存のデバイスを利用するので、低コストで実現できるという利点も有する。
【0034】
実施例のインパクト工具2についての留意点を述べる。エンコーダ3が、回転センサの一実施形態に相当する。モータ4が、アクチュエータの一実施形態に相当する。アクチュエータとしては、連続トルクを供給できるものであればモータに限られず、空気式やオイル式のものであってもよい。オイルパルスユニット6が打撃トルク発生ユニットの一実施形態に相当する。打撃トルク発生ユニットはオイルパルスユニットに限定されず、例えば、特開2011−31315号公報に開示されたハンマとアンビルを用いた構造のものであってもよい。
【0035】
変化閾値、既定時間幅、及び、トルク閾値は、打撃トルク発生ユニットを含むインパクト工具の特性に応じて定めればよい。既定時間幅は、回転数差が変化するタイミングと実際の打撃トルクの計測値(パルス状のトルクセンサ出力)との間に、機構やソフトウエア処理に起因して生じ得るわずかなずれを許容するために導入したものであり、トルク閾値は、ノイズ除去の目的で導入したものである。従って、本願発明の技術的思想は、それら実装上の工夫を除くと、以下のように表現してよい。すなわち、コントローラは、打撃トルク発生ユニットの入力軸の回転数の時間変化が既定の変化閾値を超えるインパクトタイミングを特定するとともに、インパクトタイミングと異なるタイミングでトルクセンサ出力を検知した場合に工具の異常を示す信号を出力する。
【0036】
また、本来の打撃トルクの大きさも予め解っていることから、コントローラは、インパクト発生期間内にトルクセンサが既定のトルク閾値を超えるトルクを検知した場合にも工具の異常を示す信号を出力することも好適である。ここで、トルク閾値は、例えば、本来予定されている打撃トルクの大きさにマージンを加えた大きさに設定される。
【0037】
上記実施例では、インパクトタイミングを含む所定の時間幅の期間をインパクト発生期間として定義した。インパクト発生期間は、時間幅でなく、入力軸の回転角度幅で定義してもよい。入力軸の回転角度は時間とともに変化しているから、経過時間と回転角度は一意に対応しているからである。さらに、前述したように、インパクトタイミングは、打撃トルクの発生タイミングを回転数から推定した。インパクトタイミングを、時間軸上で特定するのではなく、入力軸の回転角度で特定することも好適である。エンコーダ3のセンサデータからインパクトタイミングをダイレクトに特定できるからである。なお、インパクト発生期間を、時間幅でなく入力軸の回転角度幅で定義する場合、図2の横軸を入力軸の回転角度で定義し、「時間幅Wa」を、角度を単位とした範囲(角度幅)で定義すれば、上記の説明はそのまま成立することに留意されたい。角度幅は、経時的に隣接するインパクト発生期間が重複しない値に定められる。例えば、角度幅は、プラスマイナス10[deg]に定められる。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
2:インパクト工具
3:エンコーダ(回転センサ)
4:モータ
5:入力軸
6:オイルパルスユニット(打撃トルク発生ユニット)
7:出力軸
8:ツールチャック
9:トルクセンサ
20:コントローラ
22:ケーブル
90:ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と出力軸を備えており、入力軸に入力される連続トルクのエネルギを間欠的な打撃トルクに変換して出力軸から出力する打撃トルク発生ユニットと、
打撃トルク発生ユニットの入力軸に連続トルクを与えるアクチュエータと、
打撃トルク発生ユニットの入力軸の回転数を計測する回転センサと、
打撃トルク発生ユニットの出力軸に生じる打撃トルクを検知するトルクセンサと、
コントローラと、
を備えており、コントローラは、
入力軸の回転数の時間変化が既定の変化閾値を超えるインパクトタイミングを特定するとともに、インパクトタイミングを含む既定時間幅又は入力軸の既定回転角度幅のインパクト発生期間を特定し、
時間軸で隣接するインパクト発生期間の間で既定のトルク閾値以上のトルクセンサ出力を検知した場合に工具の異常を示す信号を出力する、
ことを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
コントローラは、工具の異常を示す信号を出力するとともに、アクチュエータへの電力供給を遮断することを特徴とする請求項1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
コントローラはさらに、インパクト発生期間内にトルクセンサが既定のトルク閾値を超えるトルクを検知した場合に工具の異常を示す信号を出力する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−206181(P2012−206181A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71465(P2011−71465)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】