説明

インビトロ免疫法

【課題】IgG含量の高い抗原特異的抗体を高効率で産生できるインビトロ免疫法を提供する。
【解決手段】免疫細胞に対して、インビトロで標的となる抗原を感作する抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液で抗体産生細胞を培養する培養工程を設ける第1免疫工程を施した後、得られた標的抗原特異的抗体産生細胞に対して、インビトロでの同一抗原による抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液中での培養工程を設ける第2免疫工程を施すことを特徴とする、2段階インビトロ免疫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgGの割合が高い抗原特異的抗体を高効率で産生するインビトロ免疫法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体(免疫グロブリン)は、脊椎動物の感染防御機構において重要な役割を担うものであり、免疫細胞(リンパ球)のうちでB細胞により産生される。ヒト等哺乳動物の体内では、それぞれ異なる抗体を作る能力を備えたB細胞が、それぞれの細胞表面に数千万種以上とも数億種以上ともいわれる抗体を提示して抗原を待ち受け、あらゆる抗原に対応する体制を整えている。抗原刺激により抗体産生機能が活性化された特定のB細胞に対して、体内では、速やかに抗体産生活性化を促進する機構にスイッチが入り、ヘルパーT細胞などの働きで、抗原特異的抗体産生細胞が増殖するため、実験動物を十分な抗原量で免疫すれば、抗原特異的抗体産生細胞が取得できる場合が多いが、免疫原性の低い、すなわち免疫系の活性化能の低い場合は、特異性が高い抗体が取得することは難しい。そのため抗原を免疫活性化能を持つアジュバントとともに動物に投与する必要があるが、一般的に使われるFCA(Freund’s complete adjuvant)のようなアジュバントは、免疫動物に関節炎等の副作用を惹起する事が多い。また十分な免疫応答を引き起こすためには、一回の投与量を多くし、多数回にわたって投与する必要があり、動物に対する苦痛が大きい処置を必要としており、動物保護の観点からも問題がある。したがって、インビボ免疫法において、抗原特異的の高い抗体を高効率で産生できる技術の開発が望まれていた。
【0003】
また、ヒト治療用抗体としては、ヒトに対する抗原性の少ないヒト抗体が望まれるが、ヒトに対して直接抗原感作はできない。マウス抗体などからキメラ抗体、ヒト化抗体(CDR抗体)を作製するのは煩雑かつ高度な技術が要求され、トランスジェニックマウスからのヒト型抗体も全ての抗原に対応できる技術にまでは至っていない。また、これらの技術はいずれも実験動物とはいえマウス生体を用いる以上、抗原の毒性があまりに高いものであると、動物保護の観点からも十分な免疫ができない。
一方、インビトロ免疫法は、免疫細胞(リンパ球)を体外で抗原に感作させて抗原特異的抗体を分泌するB細胞を誘導した後、細胞融合によりハイブリドーマを作製し、抗原特異的モノクローナル抗体を産生する手法であり、インビボ免疫法に比べ必要な抗原量が少なく、免疫刺激期間が短いという利点と共に、個体にとって有害な抗原でも抗体作製が可能であるという大きな利点がある。そのため、ヒトリンパ球に適用すればキメラ抗体、ヒト化抗体などの煩雑な工程を経ることなくヒト抗体を得ることができる。ヒト末梢血リンパ球に対しても、抗原感作をL−ロイシル−L−ロイシンメチルエステル(LLME)の存在下で行うことで抗原特異的な抗体誘導が可能である(非特許文献1)。また、ムラミルジペプチド(MDP)、インターロイキン2又はインターロイキン4存在下で誘導効率を高める手法(非特許文献2)も開発され、特にヒトモノクローナル抗体産生については大きな期待が寄せられている。
【0004】
しかしながら、インビトロ免疫の場合は、体内のような抗体産生細胞の活性化を促進する機構が働かないため、どうしても、抗原特異性の高い抗体産生細胞を十分な量で取得することはできず、難易度の高い技術であることに加え、クラススイッチがうまく働かず、産生される抗体のクラスの大半が扱いにくいIgMである点が大きなネックとなっている。そのため、その大きな有用性に注目されながらも未だに広く利用されていない。
したがって、インビトロ免疫法において、確実にIgG含量の高い抗原特異的抗体を高効率で産生できる技術の開発が強く望まれていた。
【特許文献1】特開平4−281799号公報
【特許文献2】特開2004−121237号公報
【非特許文献1】E. Lindner-Olsson et al. Animal Cell technology: From Target to Market Kluwer Academic Publisher, 2001, p.171-174
【非特許文献2】Cytotechnology 31, 131-139, 1999
【非特許文献3】Feltkamp et al. 1993, Kast et al. 1991
【非特許文献4】Mizumachi et al. Biosci.Biotechnol.Biochem.,67(4) 712-719 2003
【非特許文献5】Takatsu et al. International Immunopharmacology 3 783-800 2003
【非特許文献6】Krieg et al. Nature 374 546-549 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、確実にIgG含量の高い抗原特異的抗体を高効率で産生できるインビトロ免疫法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、従来のインビトロ免疫法を検討したところ、クローン数が少なく、産生される抗体のクラスがIgMであるという欠点のいずれもが免疫担当細胞の活性化不足に起因するのではないか、という推論をたて、免疫系の有効な活性化法について鋭意研究を重ねた結果、従来のインビトロ免疫法を飛躍的に改善する基本プロトコールを開発するに至った。
すなわち、本発明は、細胞の調整、培養方法および最適な免疫系刺激因子に関する基本プロトコールに係るものであり、具体的には、体外に取り出した免疫細胞を抗原感作してサイトカイン存在下で培養後、得られた抗原特異的抗体産生細胞を取得し、再度同一抗原による感作工程、及びサイトカイン存在下での培養工程を繰り返すことで、目的抗原を認識するB細胞がさらに特異的に活性化されるばかりか、特にIgGクラスの抗原特異的抗体の産生が強く誘導されることを見出した。当該抗原特異的抗体産生細胞を片親としたハイブリドーマからIgGクラスの抗原特異的モノクローナル抗体をインビトロで効率的に生産させる方法に関する本発明を完成させた。
また、免疫系の有効な活性化法について、さらに鋭意研究を重ねた結果、T細胞エピトープペプチドに着目した。
T細胞エピトープとして、従来から特定の抗原に対する特異的エピトープは、該抗原に対するT細胞の応答を誘起及び/又は増強するためには用いられていた。例えば、腫瘍に対するCTLエピトープについての報告がある(非特許文献3)が、いずれも特定抗原特異的なT細胞エピトープペプチドを当該抗原に対し、生体内で当該特異的ヘルパーT細胞及び/又はCTLが誘起されるものである。
しかし、T細胞エピトープペプチドに対して、抗体産生細胞を活性化能が期待されているとしても、それはあくまで抗原上のT細胞エピトープを認識するヘルパーT細胞を介しての活性化であって、抗原とは無縁なT細胞エピトープを添加することによる抗体産生細胞活性化ではない。すなわち、T細胞エピトープペプチドについては、それぞれが由来する抗原に基づき、本来の抗原に対して特異的な抗体産生細胞の活性化能が知られていたにとどまる。
【0007】
本発明者等は、このような従来の技術常識に反し、あえて公知のT細胞エピトープのインビトロ免疫における抗体活性化能を試したところ、驚くべきことに、標的抗原とは無縁なT細胞エピトープのインビトロでの添加にもかかわらず標的抗原特異的な抗体産生細胞に対する高い活性化能を有することを見出した。次いで、通常のインビボ免疫においても同様の、標的抗原とは無縁なT細胞エピトープによる抗体産生活性化能を確認することができた。
本発明者らは、このような知見に基づき、各種T細胞エピトープが三次元的に形成する共通の立体構造そのものが、抗体産生細胞に対する活性化を引き起こしていることに思い至り、各種T細胞エピトープを認識するMHC−IIの側のエピトープ認識部位の立体構造を元に抗体産生細胞活性化ペプチドをデザインしようと着想した。すなわち、X線結晶構造が知られているMHC−IIのポケットを構成する各アミノ酸と、ポケット内に収まるT細胞エピトープ様ペプチドを構成する各アミノ酸同士の結合エネルギーを計算し、最適なエピトープ様ペプチドの設計を進めたところ、これらのペプチド類が公知T細胞エピトープペプチドと同等もしくはそれ以上に、抗体産生細胞に対する活性化能を有していることを確認した。すなわち、これら、新規なアミノ酸配列からなるT細胞エピトープ様ペプチドも含めたT細胞エピトープペプチド又はそれをコードするDNAを標的抗原特異的な抗体産生細胞活性化剤として用いる、当該標的抗原特異的抗体産生細胞の活性化方法、及び当該抗体産生細胞に由来する標的抗原特異的モノクローナル抗体(IgG)の製造方法に係る発明も完成させるに至り、本発明と同日付で別出願した。また、新規なアミノ酸配列からなるT細胞エピトープ様ペプチドについて、さらに同日付で別出願をしている。
そして、本発明者らは、本発明のインビトロ免疫方法において、サイトカインを含む培養液中に、本発明者らが同時に開発した前記T細胞エピトープペプチド類を添加することで、さらに抗原特異的IgG抗体の誘導が活性化されることも見出し、当該ペプチド類を併用することについての本発明も完成させた。
【0008】
すなわち、本発明はインビトロ免疫刺激の最適プロトコールに係るものであり、以下の発明を含むものである。
〔1〕 免疫細胞に対して、インビトロで標的となる抗原を感作する抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液で抗体産生細胞を培養する培養工程を設ける第1免疫工程を施した後、得られた標的抗原特異的抗体産生細胞に対して、インビトロでの同一抗原による抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液中での培養工程を設ける第2免疫工程を施すことを特徴とする、2段階インビトロ免疫方法。
〔2〕 前記免疫細胞は、第1免疫工程に先立ち、あらかじめT細胞除去工程が設けられたものである、前記〔1〕に記載の2段階インビトロ免疫法。
〔3〕 前記T細胞除去工程がCD8特異的抗体及びCD49特異的抗体を用いるものである、前記〔2〕に記載の2段階インビトロ免疫法。
〔4〕 前記第1免疫工程又は第2免疫工程のいずれかの工程における抗原感作工程もしくは培養工程の少なくとも1つの工程において、用いる培養液中にT細胞エピトープペプチドがさらに含まれることを特徴とする、前記〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の2段階インビトロ免疫法。
〔5〕 前記T細胞エピトープペプチドが、下記式(I)〜(VII)のいずれかで表されるペプチドである前記〔4〕に記載の2段階インビトロ免疫法;
式(I):
QYIKANSKFIGITEL
式(II):
VTYDNESLLSAHKVE
式(III):
RGIFFX123456KEI(式中、X1はY又はQ,X2はV又はT、X3はF,H又はK、X4はA又はG、X5はA又はG、X6はY又はHである。)。
式(IV):
FQDAYNAX7891011AVF
(式中、X7はA又はV,X8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(V):
RGIYNAVX891011AVF
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(VI):
RGIYNAVX891011AEI
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(VII):
NNYX1213VX14AAX1516NN
(式中、X12がN又はGであり,X13がN又はGであり、X14がN又はGであり、X15がN又はGであり、X16がA又はKである。)。
〔6〕 前記T細胞エピトープペプチドが、
前記式(I)において、N末側の「QYI」及びC末側の「TEL」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(II)において、N末側の「V」及びC末側の「AHKVE」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(III)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(IV)において、N末側の「FQDA」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(V)において、N末側の「RGI」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(VI)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(VII)において、N末側の「NN」及びC末側の「NN」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
のいずれかである、前記〔5〕に記載のインビトロ免疫法。
〔7〕 前記〔1〕ないし〔6〕のいずれかに記載の2段階インビトロ免疫法で得られた抗原特異的抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合する工程を含む、抗原特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの製造方法。
〔8〕 前記〔7〕に記載のハイブリドーマを用いることを特徴とする、標的となる抗原特異的なモノクローナル抗体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインビトロ免疫法により、従来困難であった抗原特異的IgG産生細胞の誘導が可能となった。本発明により得られるハイブリドーマを用いることで、抗原特異的なIgGモノクローナル抗体を効率よく生産でき、極めて広い範囲の用途に適用可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、免疫細胞に対して、インビトロでの抗原感作工程及び培養工程を設けた第1免疫工程に加え、再度同一抗原による感作工程、及び培養工程を設けた第2免疫工程を、必要に応じさらに第3免疫工程を繰り返すことを特徴とするものである。
この第2免疫工程以降の免疫工程で用いられる感作工程及び培養工程での具体的な手順、培地条件、培養条件などは、第1免疫工程の際に用いられた抗原感作工程及び培養工程において用いることのできる手順、条件が全て適用できる。全ての免疫工程での手順や条件は全て同一であっても、別異のものであってもよい。また、高濃度で抗原特異的抗体を産生している抗体産生細胞コロニーを検出するためには、培養上清を利用して、抗原特異性抗体を検出すればよい。
次いで、得られた抗原特異的抗体産生細胞を、常法により、ミエローマ細胞などと細胞融合させることで、抗原特異的IgGモノクローナル抗体を高産生するハイブリドーマを取得することができる。
【0011】
以下に本発明で用いた用語の説明及び各工程の具体的な実施の態様について述べるが、本発明はそれのみに限定されるものではない。
本発明において「免疫細胞」とは、リンパ球を指し、抗体産生細胞となりB細胞を含むものであれば、どの組織由来のものであってもよく、例えば末梢血、手術の際に得られるリンパ節もしくは脾臓から得られるものを用いることができる。由来の生物種はどの哺乳動物由来であってもよいが、治療用に用いる抗原特異的モノクローナル抗体を得るためには、同じ生物種由来、例えばヒト用であればヒト由来リンパ球が好ましい。
本発明において、インビトロでの抗原感作に先立ち、あらかじめT細胞除去工程を設けることが好ましいが、設けることなく抗原感作工程に付してもよい。
本発明におけるT細胞除去工程において、好ましくはCD8陽性T細胞(ヘルパーT細胞)及び/又はNK細胞を除去するが、その際には、CD8特異的抗体、例えばCD8aやCD49特異的抗体、例えばCD49bを用いて除去する。ヒト末梢血に対してL−ロイシルロイシンメチルエステル(LLME)存在下で免疫感作する場合には、LLME作用を抑制するCD11c陽性細胞を、抗CD11c抗体を用いて除いておくことが好ましい。CD8特異的抗体、CD49特異的抗体等を用いたT細胞除去方法としては、沈降法、セルソーティング法を用いてもよいが、CD8特異的抗体、CD49特異的抗体等のそれぞれを付着させた磁気ビーズを用いてLDカラムにより磁気分離することが好ましい。(CD8a(Ly−2)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離、CD49b(DX5)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離−ミルテニーバイオテク株式会社)
【0012】
本発明におけるインビトロでの抗原感作は、第1免疫工程及び第2免疫工程の2回もしくは必要に応じてさらに複数回行われる。
その際の感作方法としては、まずT細胞を除去した(又は除去していない)免疫細胞を培養液中に懸濁し、マルチウェルプレートに分注し、標的となる抗原と共に免疫刺激物質を加えてインキュベートする。活性化された抗原特異的抗体を培養上清に産生しているウェルを選択して、IL−2,IL−4等のサイトカイン類またはさらにムラミルジペプチド等を存在させた培養液中での培養工程において抗原特異的免疫細胞を増殖させる。第2免疫工程においても、同様に、抗原感作工程と培養工程とを分ける方が好ましいが、複数回の免疫工程のうち、いずれかの免疫工程中では、通常の感作手法である、IL−2,IL−4等のサイトカインやムラミルジペプチド存在下で抗原感作すると同時に増殖させる手法(特許文献1,2など)を適用してもよい。
本発明で用いられる、インビトロでの感作可能な抗原としては、任意のものが標的の対象となるが、例えば、自己抗原、酵素、難溶性抗原、細胞、毒素、細菌、ウイルスなどがあげられる。ヒト用抗体作製の際はもちろんであるが、マウスなど実験動物に対しても毒性の高い毒素等に適用する場合が、よりインビトロ免疫としての効果を発揮できる。なお、低分子化学物質など分子量の小さいハプテンの場合は、適宜キャリアータンパク質と結合して用いる。
抗原と同時に添加する免疫刺激物質としては、周知のものが適宜用いられ、例えばCpGモチーフを含むDNA(ODN)とムラミルジペプチド(MDP)等アジュバントを用いることができる。典型的には市販のODN1826(Invivogen社)、MDP(Sigma社)、又は組み合わせて用いる。
本発明において免疫細胞を培養する際の培地としては、通常の細胞培養用培地、例えばRPMI培地、DMEM培地、ハム−F12培地、RDF培地、ERDF培地、又はこれらの混合培地を用いることができる。RPMI培地が特に好ましい。35〜38℃好ましくは37℃の温度条件下で培養するが、その際に1%〜10%、好ましくは約5%のCO環境下でインキュベートすることが好ましい。培地中の免疫細胞の細胞密度は、3×106〜5×106 cells/ml範囲内に、好ましくは5×106 cells/mlで用いる。当該培地は、免疫細胞を採取後懸濁液とする際の懸濁液としても、また当該懸濁液から遠心分離により免疫細胞を濃縮分離する際の洗浄液としても用いることができ、抗原特異的細胞の培養液としても用いることができる。
本発明では、抗原特異的抗体産生細胞を培養する工程で、培地にサイトカインを添加するが、その際のサイトカインとしては、リンパ系細胞の増殖活性が周知のIL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−21等のサイトカインが適宜用いられるが、特にIL−2、IL−4、IL−21などのインターロイキン類が好ましく用いられる。具体的な配合割合としては、例えば、IL−2:1〜20ng/ml、IL−4:1〜20ng/ml、好ましくは、IL−2:5〜15ng/ml、IL−4:2〜5ng/ml、IL−10:5〜15ng/mlを用いることができる。最適な数値としては、例えばIL−2:10ng/ml、IL−4:2.5ng/ml、IL−10:10ng/mlがあげられる。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明において「T細胞エピトープペプチド」というときは、標的となる抗原とは異なるタンパク質由来のT細胞エピトープペプチド又はMHC−IIの側のエピトープ認識部位の立体構造を元にデザインしたT細胞エピトープ様ペプチドである(両者をあわせて単に、「T細胞エピトープ」ともいう。)。典型的には、従来から公知の各種タンパク質に特異的なT細胞エピトープ、例えば前記タンパク質に対するCTLエピトープ又は前記タンパク質に対するT−ヘルパー細胞エピトープを含む12〜16残基、好ましくは14〜15残基のアミノ酸からなるペプチドであり、標的とする抗原とは無縁なT細胞エピトープ、すなわち「標的抗原に含まれるT細胞エピトープ以外のT細胞エピトープペプチド」又は「標的抗原に由来しないT細胞エピトープペプチド」である。
【0014】
本発明において用いるT細胞エピトープペプチドは、標的抗原由来のT細胞エピトープ以外のどのようなT細胞エピトープペプチドであってもよいが、特に以下の式(I)〜(VII)で表されるアミノ酸配列からなるT細胞エピトープペプチドが好ましい。
式(I):
QYIKANSKFIGITEL
式(II):
VTYDNESLLSAHKVE
式(III):
RGIFFX123456KEI
(なお、式中、X1,X2、X3,X4、X5及びX6は、同一もしくは異なる任意のアミノ酸残基であってもよいが、X1がY又はQであり,X2がV又はT、X3がF,H又はKであり、X4がA又はGであり、X5がA又はGであり、X6がY又はHである場合が特に好ましい。)
式(IV):
FQDAYNAX7891011AVF
(なお、式中、X7,X8、X9,X10及びX11は、同一もしくは異なる任意のアミノ酸残基であってもよいが、X7はA又はV,X8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである場合が特に好ましい。)。
式(V):
RGIYNAVX891011AVF
(なお、式中、X8、X9,X10及びX11は、同一もしくは異なる任意のアミノ酸残基であってもよいが、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである場合が特に好ましい。)。
式(VI):
RGIYNAVX891011AEI
(なお、式中、X8、X9,X10及びX11は、同一もしくは異なる任意のアミノ酸残基であってもよいが、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである場合が特に好ましい。)。
式(VII):
NNYX1213VX14AAX1516NN
(なお、式中、X12、X13、X14、X15及びX16は、同一もしくは異なる任意のアミノ酸残基であってもよいが、X12がN又はGであり,X13がN又はGであり、X14がN又はGであり、X15がN又はGであり、X16がA又はKである場合が特に好ましい。)。
【0015】
ここで、本発明で用いるT細胞エピトープペプチドとしては、公知のT細胞エピトープペプチドである実際の抗原の1部配列として含まれている配列のみならず、分子動力学解析ソフトウェア Cerius 2(Accelrys社)を用いた計算に基づき設計されたアミノ酸配列からなる、例えば式(III)〜式(VII)などの新規なT細胞エピトープ様ペプチドが包含される。
このようなT細胞エピトープ様ペプチドは、具体的には、以下の方法(1)〜(3)により設計される。
【0016】
(1)MHCIIの結晶構造を元に、分子動力学解析ソフトウェア Cerius 2(Accelrys社)を用いて、MHCIIと公知の結晶構造が知られているT細胞エピトープの14残基のペプチドとの結合エネルギーを計算し、高い結合能が予測されるペプチド配列を推定する。
(2)当該配列及び他の公知の実験的に抗体産生能を誘導する能力にある配列情報からの補正を加えて、さらに配列を絞り込み、より高い結合能が推定されたペプチドを合成し、その抗体産生誘導能を測定する。実際に、オリジナルのT細胞エピトープペプチドよりも抗体産生細胞活性化能が優れている場合が多い。
(3)高い結合能が推定されるペプチドのアミノ酸配列において、N末端側のRGI及びC末端側のEIは、T細胞エピトープとしてMHC-IIが認識する位置のアミノ酸ではないことから、これら各アミノ酸残基のうち、1つ以上すべてのアミノ酸残基、好ましくは1又は2個の範囲で他の任意のアミノ酸残基と置換されても、その抗体産生細胞活性化機能は保持されている。
【0017】
具体的な実施態様を以下に示すが、この手法は汎用性があるので、MHC-IIとT細胞エピトープの組み合わせは、これに限られるものではない。
T細胞エピトープの提示を行なうMHC-IIとして、抗体作製が効率的に行なわれるBalb/cマウスのMHC-IIであるI-Adを用い、また公知T細胞エピトープのうちで、このI-Adとの複合体の結晶構造がすでにX線解析されている、Ovalbuminの「ペプチド323-339」を選択した。結合状態のMHC-IIとT細胞エピトープとの複合体を単離精製し、結晶化後X線解析を行い、結合エネルギーを計算し、以下の工程に従って、高い結合能が推定されるアミノ酸配列を設計すればよい。
以下、上記(1)の計算方法について、具体的に説明する。
(a) MHC-IIと、T細胞エピトープとの複合体を単離精製し、結晶化して結晶構造をX線解析し、結合エネルギーを計算する。ここでは、すでに複合体の結晶構造が解析されている、マウスのMHC-IIのI-Adと、Ovalbumin由来「ペプチド323-339」の数値を利用し(PDB,1IAO、MHC classII+ OVApeptideの立体構造(1IAO) C. A. Scott et al Immunity, Vol. 8, 319-329, 1998)、当該数値を用いた場合を典型例として説明する。
【0018】
(b) Accelrys社の解析ソフトウェアCerius 2上の自動計算が可能なAutoLudiを使用して、膨大な数の候補に対してドッキング・シミュレーションを実施した。AutoLudiにおいては、結合の評価はLudiスコアで行った。Ludiスコアは、リガンド−受容体複合体における解離定数Kiと相関するスコアを提供するものである。
解離定数KiとLudiスコアの相関式は、Ludiスコア = 100logKiとなっており、Ludiスコアが結合の強さを表している。結合の自由エネルギーを計算することにより、Ludiスコアが求められる。結合の自由エネルギー:ΔGは次式で表される。Ludiスコアが大きくなるアミノ酸残基を探索していくことにより、結合性の高いアミノ酸配列を求めていく。

【0019】
(c) T細胞エピトープのペプチド(Ovalbumin由来「ペプチド323-339」)の14アミノ酸すべてをグリシンと交換した場合の結合エネルギーを基準値として、1番目の残基から14番目の残基までの各位置においてそれぞれ別のアミノ酸に置き換えた時のMHC-II(I-Ad)との相互作用エネルギーを計算する。その際、回転角が異なるコンフォーマーも計算するので、各位置について94個の成分に置き換えた相互作用エネルギーを計算することになる。T細胞エピトープペプチドの1〜14位の各位置を94個の成分に置き換えて、すべての残基についての相互作用エネルギーを計算し、グリシンの場合より高いアミノ酸残基を第1候補として、まず選択し、作表する。(表1)

【表1】

【0020】
(d) 次いで、候補残基のMHC-II(I-Ad)との相互作用の状況(水素結合、空間充填性、アロマティック相互作用等)を検討し、オリジナル残基からの相互作用の変化を確認しながら、有望なものを選択して、各アミノ酸残基の候補を絞り込む。
【0021】
(e) オリジナルのT細胞エピトープペプチドのアミノ酸残基に、(d)でヒットしたアミノ酸残基を組み合わせた、全てのアミノ酸配列のペプチドを、リンクライブラリーを用いて作製し、結合エネルギーを計算し、スコアリングを行い、そのうちで結合エネルギーの高い順に選抜する。(表2)
【表2】

表2に示される各ペプチドは、下記式(III)で表すことができる。
式(III):
RGIFFX123456KEI
(式中、X1がY又はQであり,X2がV又はT、X3がF,H又はKであり、X4がA又はGであり、X5がA又はGであり、X6がY又はHである。)
【0022】
(f) 本発明でT細胞エピトープ様ペプチドを作製するために用いた手法に汎用性があることを示すために、同様の手法を結核菌タンパク質由来の公知T細胞エピトープペプチドに適用した。
すなわち、式(III)作製と同様の手順で、結核菌タンパク質中の配列由来の公知T細胞エピトープペプチド「FQDAYNAAGGHNAVF」をもとに、式(IV)のペプチドを作製した。
下記式(IV)で示されるペプチド、又は式(IV)において、N末側の「FQDA」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチドであって、かつ抗体産生細胞活性化能を有するペプチド;
式(IV):
FQDAYNAX7891011AVF
(式中、X7はA又はV,X8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
【0023】
(g) 式(III)において、N末端側のRGI(表3のR1〜R3)及びC末端側のEI(表3のR13〜R14)は、T細胞エピトープとしてMHC-IIが認識する位置のアミノ酸ではないことから、これら各アミノ酸残基のうち、1つ以上すべてのアミノ酸残基、好ましくはN末側及びC末側のいずれかもしくは両方で1個のアミノ酸残基が他の任意のアミノ酸残基と置換されても、その抗体産生細胞活性化機能を保持している。すなわち、本発明のペプチドとしては、式(III)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチドであって、かつ抗体産生細胞活性化能を有するペプチドも包含される。
表2のR12が正電荷を持った「K」である点は、きわめて特徴的である。一方、R4、R5及びR8は「F」である点は、単にアミノ酸の大きさによる空間充填効果が反映された事も考えられるため、この部分には、小さいアミノ酸の方が抗体活性化能が高い場合傾向にあるという従来の実験的知見より、R4にはYを、R5にはN又はGを、R8にはA,N,G又はHを当てはめる事が考えられる。またR6、R11およびR12にも同様な理由で、R6にAを、R11にN又はHを、R12にAを当てはめる事が考えられる。
【0024】
(h) 以上の考察を踏まえ、下記式(V)及び(VI)のペプチドを作成した。なお、式(VI)は、式(V)のC末側の「VF」を「EI」に変更した配列である。
下記式(V)で示されるペプチド、又は式(V)において、N末側の「RGI」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチドであって、かつ抗体産生細胞活性化能を有するペプチド;
式(V):
RGIYNAVX891011AVF
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
下記式(VI)で示されるペプチド、又は式(VI)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチドであって、かつ抗体産生細胞活性化能を有するペプチド;
式(VI):
RGIYNAVX891011AEI
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
【0025】
(i) ペプチドの溶解性をあげるために疎水性のアミノ酸を排除し、より多くのT細胞を刺激できるように小さなアミノ酸が効果的であるという考察のもと、下記式(VII)を作成した。
下記式(VII)で示されるペプチド、又は式(VII)において、N末側の「NN」及びC末側の「NN」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチドであって、かつ抗体産生細胞活性化能を有するペプチド;
式(VII):
NNYX1213VX14AAX1516NN
(式中、X12がN又はGであり,X13がN又はGであり、X14がN又はGであり、X15がN又はGであり、X16がA又はKである。)。
【0026】
また、上記式(I)〜(VII)で表されるアミノ酸配列からなるT細胞エピトープペプチドのうち連続する9個のアミノ酸はT細胞エピトープとして必須の配列であるが、両端の2〜4アミノ酸は任意のアミノ酸に置換可能である。すなわち、以下のアミノ酸配列からなる置換ペプチドも、本発明のT細胞エピトープペプチドとして用いることができる。
前記式(I)において、N末側の「QYI」及びC末側の「TEL」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(II)において、N末側の「V」及びC末側の「AHKVE」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(III)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(IV)において、N末側の「FQDA」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(V)において、N末側の「RGI」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(VI)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列、
前記式(VII)において、N末側の「NN」及びC末側の「NN」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列。
本発明において、標的抗原特異的抗体産生細胞の活性化のためにT細胞エピトープペプチドを用いる場合は、1種類のペプチドでもよいが2種以上のペプチドを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明において、標的抗原特異的抗体産生細胞の活性化のためにT細胞エピトープペプチドを用いる際に、ペプチド自体を添加する代わりに、これらT細胞エピトープペプチドをコードするDNAを含む組換えDNAを有効成分として用いることもできる。
本発明において、上記T細胞エピトープペプチドを、前記第1免疫工程又は第2免疫工程のいずれかの工程における抗原感作工程もしくは培養工程の少なくとも1つの工程において、培養液中にさらに含ませることで、抗原特異的抗体産生細胞がさらに特異的に活性化され増殖する。通常は、第1免疫工程又は第2免疫工程中の抗原感作工程語の培養工程において、サイトカインと共に培養液中に添加する。T細胞エピトープペプチドの添加量としては、1〜10μg/ml、好ましくは2〜3μg/ml添加する。その際に、T細胞エピトープペプチドをコードするDNAを含む組換えDNAを用いて免疫細胞に、当該DNAを導入してもよい。
本発明において、活性化された抗体産生細胞は、ウェル中の培養上清に抗原特異性抗体が存在するものを検出すればよい。
【0028】
次いで、得られた抗原特異的抗体産生細胞を、ミエローマ細胞、または他の癌細胞などとポリエチレングリコールなど細胞融合剤を加えて細胞融合させる。
常法により、抗原特異的IgGモノクローナル抗体を高産生するハイブリドーマを取得することができるが、本発明の実施態様では、以下の方法を用いた。
すなわち、HAT培地でハイブリドーマを選別し、さらに限界希釈法により得たハイブリドーマの各クローンの培養上澄みを、上記抗原を使用した酵素免疫測定法(ELISA)により測定し、KLH特異的IgG抗体の産生を測定して、高い値を示したウェル中のハイブリドーマクローンを得た。さらに得られたクローンについて、KLHに特異的に陽性反応を示すハイブリドーマクローンを得、抗体産生能力及び増殖性が良好なクローンをさらにスクリーニングし、抗KLHモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得た。
上記ハイブリドーマから得られた本発明のモノクローナル抗体は、IgGクラスであり、かつKLHを特異的に認識することができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1) 免疫細胞の調製
(1−1) 脾臓細胞の調製
BALB/cマウス(♀)から脾臓を摘出し、脾臓細胞をリン酸緩衝液(PBS)中に分散させ、セルストレーナー(BD社)を通して、夾雑物を取り除き、RPMI液体培地(Sigma社)を用いて洗浄した。
【0030】
(1−2) 不要細胞の除去
前記(1−1)で調製した脾臓細胞を、CD8特異的抗体であるCD8a及びCD49特異的抗体であるCD49bをそれぞれコートした磁気ビーズ(CD8a(Ly−2)マイクロビーズ及びCD49b(DX5)マイクロビーズ、Miltenyi社)と混合し、CD8陽性T細胞とNK細胞を磁気ビーズで標識した。次いで、磁気分離を行い、ネガティブフラクションを回収した。(CD8a(Ly−2)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離、CD49b(DX5)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離−ミルテニーバイオテク株式会社)
【0031】
(実施例2) 一次免疫刺激
実施例1で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地(Sigma社)に懸濁し、24ウェルプレートに1mlずつ分注した。各ウェル中には、それぞれさらに抗原としてKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)を1μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.25μM及びMDP(Sigma社)を10μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートの後、活性化された免疫細胞の存在が確認できたウェル内の免疫細胞を遠心操作により回収した。
次いで、回収した免疫細胞をRPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートし、免疫細胞を増殖させた。
【0032】
(実施例3) ELISAによる抗原特異的IgM抗体の産生測定
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。前記実施例2で得られた細胞培養液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加して反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgM抗体の産生を検出した。結果を図2に示す。この時、抗原特異的IgGは、産生されていなかった。
【0033】
(実施例4) 二次免疫刺激
実施例2で得られた免疫細胞を遠心操作により回収後、RPMI培地に懸濁し、24ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で1mlずつ分注し、各ウェル中にはさらに抗原KLHを0.3μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.08μMおよびMDP(Sigma社)を3.3μg/mlを加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で1晩インキュべートの後、活性化された免疫細胞を遠心操作により回収した。回収後、RPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター内で2〜4日インキュべートし、細胞を増殖させた。この期間中に、毎日40〜60%の培地を交換した。
【0034】
(実施例5) ELISAによる抗原特異的IgG抗体の産生測定
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。前記実施例3で得られた細胞培養液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加して反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgG抗体産生を検出した。結果を図3に示す。
【0035】
(実施例6) ハイブリドーマ作製及び陽性クローンの定量
実施例1で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5mlずつ分注した。各ウェルにはそれぞれ更に抗原としてKLHを5μg、免疫刺激物質ODN1826を1.25μM,MDPを50μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で2日間培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた細胞を遠心操作による回収後、RPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で5mlずつ分注した。各ウェルには抗原としてKLHを1.67μg、免疫刺激物質ODN1826を0.42μM,MDPを16.67μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で一晩培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた活性化免疫B細胞と等量の8-アザグアニン耐性マウスミエローマ細胞であるP3UI(P3-X63-Ag8-U1)とを混合し、遠心操作後の沈査に50%ポリエチレングリコール(ロシュ社)を添加し、37℃で2分間穏やかに反応させ、細胞融合を行った。得られたハイブリドーマ含有液を96ウェルマイクロカルチャープレートに分注し、HAT培地を用いて1週間培養を行った。ウェルの培養上清を採取して酵素免疫測定法(ELISA)によりスクリーニングを行い、細胞がコロニーを形成したウェルの数(細胞生育ウェル数)と抗原として用いたKLHに特異的に反応するIgGが含まれているウェルの数(抗原特異的ウェル数)を測定した。結果を(表3)に示す。コントロールとして、抗原を加えず免疫をした場合を同時に示す。
【表3】

【0036】
(参考例1)インビボ免疫におけるT細胞エピトープの抗体価上昇効果
公知のT細胞エピトープペプチドであるQYIKANSKFIGITEL(pTT、破傷風毒素の830−844番目)やVTYDNESLLSAHKVE(Ovm100S、ニワトリオボムコイドの100番目から114番目)を抗原(KLH、Keyhole Limpet Hemocyanin)と混合し、マウス(Balb/c、♀)の皮下に投与し、免疫した。その後、20日後に同様の追加免疫を行った。免疫後、一定期間の後に10マイクロリットルの血液を採血し、1000倍にPBSで希釈後、血清中の抗原特異的IgGをELISA法により測定した(図4、5)。
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。血清希釈液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加し反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgG抗体の産生を検出した。
ペプチドを添加しないときには、抗体価の上昇は見られないが、ペプチドの同時添加により、抗体価の顕著な上昇が見られた。ネガティブコントロールとして、KLHのみ、KLHと非T細胞エピトープペプチドOvm52S:TNISKEHDGESKETV(ニワトリオボムコイドの52番目から66番目)を加えた場合の実験を行った。T細胞エピトープペプチドを添加しないときや非T細胞エピトープペプチドを添加したときには、抗体価の上昇は見られないが、T細胞エピトープペプチドの添加により、抗体価の顕著な上昇が見られた。
【0037】
(実施例7) インビトロ免疫における免疫細胞の調製
インビトロ免疫に於いてT細胞エピトープペプチドを添加(3μg/ml)した。その後の抗原特異的IgGの生産を測定した。
(7−1) 脾臓細胞の調製
BALB/cマウス(♀)から脾臓を摘出し、脾臓細胞をリン酸緩衝液(PBS)中に分散させ、セルストレーナー(BD社)を通して、夾雑物を取り除き、RPMI液体培地(Sigma社)を用いて洗浄した。
【0038】
(7−2) 不要細胞の除去
前記(7−1)で調製した脾臓細胞を、CD8特異的抗体であるCD8a及びCD49特異的抗体であるCD49bをそれぞれコートした磁気ビーズ(CD8a(Ly−2)マイクロビーズ及びCD49b(DX5)マイクロビーズ、Miltenyi社)と混合し、CD8陽性T細胞とNK細胞を磁気ビーズで標識する。次いで、LDカラム(Miltenyi社)を用いて、磁気分離を行い、ネガティブフラクションを回収した。(CD8a(Ly-2)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離、CD49b(DX5)マイクロビーズ(マウス)による細胞分離−ミルテニーバイオテク株式会社)
【0039】
(実施例8) インビトロ免疫における一次免疫刺激
実施例7で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地(Sigma社)に懸濁し、24ウェルプレートに1mlずつ分注した。各ウェル中には、それぞれさらに抗原としてKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)を1μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.25μM及びMDP(Sigma社)を10μg、およびT細胞エピトープペプチドであるpTT(QYIKANSKFIGITEL:破傷風毒素の830−844番目)と共に、結核菌タンパク質中の配列由来の公知T細胞エピトープペプチドp25(FQDAYNAAGGHNAVF),式(IV)に対応する典型的な新規ペプチドAPL(FQDAYNAVGGHNAVF)及びCH3(FQDAYNAVGAANAVF)を加えた(3μg/ml)。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートの後、活性化された免疫細胞の存在が確認できたウェル内の免疫細胞を遠心操作により回収した。
次いで、回収した免疫細胞をRPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートし、免疫細胞を増殖させた。
【0040】
(実施例9) インビトロ免疫における二次免疫刺激
実施例7で得られた免疫細胞を遠心操作により回収後、RPMI培地に懸濁し、24ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で1mlずつ分注し、各ウェル中にはさらに抗原KLHを0.3μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.08μMおよびMDP(Sigma社)を3.3μg/mlを加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で1晩インキュべートの後、活性化された免疫細胞を遠心操作により回収した。回収後、RPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター内で2〜4日インキュべートし、細胞を増殖させた。この期間中に、毎日40〜60%の培地を交換した。
【0041】
(実施例10) インビトロ免疫における抗原特異的IgG抗体の産生測定(ELISA)
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。前記実施例9で得られた細胞培養液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加し反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgG抗体を産生を検出した。結果を図6に示す。T細胞エピトープを加えた場合の方が、KLH特異的IgG抗体の産生が多いことがわかる。
【0042】
(実施例11) ハイブリドーマ作製及び陽性クローンの定量
実施例9で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5mlずつ分注した。各ウェルにはそれぞれ更に抗原としてKLHを5μg、免疫刺激物質ODN1826を1.25μM,MDPを50μg加えた。同時にT細胞エピトープペプチド:pTT(QYIKANSKFIGITEL)およびCH3(FQDAYNAVGAANAVF)を3μg加えたものを用意した。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で2日間培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた細胞を遠心操作による回収後、RPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で5mlずつ分注した。各ウェルには抗原としてKLHを1.67μg、免疫刺激物質ODN1826を0.42μM,MDPを16.67μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で一晩培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた活性化免疫B細胞と等量の8-アザグアニン耐性マウスミエローマ細胞であるP3UI(P3-X63-Ag8-U1)とを混合し、遠心操作後の沈査に50%ポリエチレングリコール(ロシュ社)を添加し、37℃で2分間穏やかに反応させ、細胞融合を行った。得られたハイブリドーマ含有液を96ウェルマイクロカルチャープレートに分注し、HAT培地を用いて1週間培養を行った。ウェルの培養上清を採取して酵素免疫測定法(ELISA)によりスクリーニングを行い、細胞がコロニーを形成したウェルの数(細胞生育ウェル数)と抗原として用いたKLHに特異的に反応するIgGが含まれているウェルの数(抗原特異的ウェル数)を測定した。結果を表4に示す。コントロールとして、抗原を加えず免疫をした場合を同時に示す。
このように、T細胞エピトープを添加することで、活性化免疫B細胞が増大し、得られる全グロブリン中に占めるIgGの割合も増加した。
【0043】
【表4】

【0044】
(参考例2)
免疫系活性化のための最適なT細胞エピトープ様ペプチドをin silico計算により探索した。MHC-IIに対する高い結合能を持つペプチドのスクリーニングをMHC-IIのX線結晶構造を用いた計算により行なった。T細胞エピトープの提示を行なうMHC-IIには、抗体作製が効率的に行なわれるBalb/cマウスのMHC-IIであるI-Adを用いた。このI-AdとOvalbuminのペプチド323-339との複合体の結晶構造(PDB,1IAO、MHC classII+ OVApeptideの立体構造(1IAO) C. A. Scott et al Immunity, Vol. 8, 319-329, 1998)をもとに、I-Adに対する最適なエピトープの設計を進めた。
Accelrys社の解析ソフトウェアCerius 2上の自動計算が可能なAutoLudiを使用して、膨大な数の候補に対してドッキング・シミュレーションを実施した。AutoLudiにおいては、結合の評価はLudiスコアで行った。Ludiスコアは、リガンド−受容体複合体における解離定数Kiと相関するスコアを提供するものである。解離定数KiとLudiスコアの相関式は、Ludiスコア = 100logKiとなっている。結合の自由エネルギー:ΔGは次式で表される。

結合の自由エネルギーを計算することにより、Ludiスコアが求められる。Ludiスコアと結合の強さを表している。
【0045】
Ovalbuminのペプチド323-339のアミノ酸すべてをグリシンと交換し、1番目の残基から14番目の残基までの各位置をそれぞれ別のアミノ酸に置き換えた時のI-Adとの相互作用エネルギーを計算した。回転角が異なるコンフォーマーも用意したため、各位置について94個の成分に置き換えて相互作用エネルギーを計算した。T細胞エピトープの1〜14の各位置を94個の成分に置き換えて得られた相互作用エネルギーが、グリシンより高いものをリストアップした。すべての残基について、同様の計算を行い、結合エネルギーの上昇の見られたアミノ酸についてまとめたものは前記表1に示される。
前記表1に示された候補のすべての組み合わせは、5x6x9x5x4x4x3x8x1x1x8x2x5x2 =82944000通りあるので、これのすべてのエネルギーを計算するのは不可能である。そこで、スコアの高いものを自動的に選抜するのではなく、候補残基のI-Adとの相互作用の状況(水素結合、空間充填性、アロマティック相互作用等)を検討し、オリジナル残基からの相互作用の変化を確認しながら、有望なものを選択した。またAutoLudiのプログラムにおいては、Scafoldにおいて同時に設定できるLink Siteは5残基までであり、今の場合、組み合わせ候補は9残基ある(残基4〜残基12)。そのため、14merペプチド構築作業は別プログラム作成する必要があり、ペプチド構築にPerlスクリプトを作成(それぞれの残基候補を組み合わせて網羅的に14merペプチドを構築するスクリプト)した。その後、スコアリングはAutoLudiで一括計算した。候補の絞り込みを行い、以下のような候補を得た。ここでOrigは、計算の出発点であるOvalbumin由来「ペプチド323-339」のオリジナルなアミノ酸を表している。またHitは、上記計算でLudiスコアが高かったアミノ酸を表している。

1番目アミノ酸 1通り Orig(Arg)
2番目アミノ酸 1通り Orig(Gly)
3番目アミノ酸 1通り Orig(Ile)
4番目アミノ酸 4通り Orig(Ser) + Hit(Phe-1, Leu-2, Ile-3) 1
5番目アミノ酸 3通り Orig(Gln) + Hit(Phe-1, Lys-2)
6番目アミノ酸 3通り Orig(Ala) + Hit(Tyr-2, Gln-3)
7番目アミノ酸 2通り Orig(Val) + Hit(Thr-1)
8番目アミノ酸 3通り Orig(His) + Hit(Phe-4, Lys-8)
9番目アミノ酸 2通り Orig(Ala) + Gly
10番目アミノ酸 2通り Orig(Ala) + Gly
11番目アミノ酸 2通り Orig(His) + Hit(Tyr-2)
12番目アミノ酸 2通り Orig(Ala) + Hit(Lys-1)
13番目アミノ酸 1通り Orig(Gln)
14番目アミノ酸 1通り Orig(Leu)

これら候補をすべて組合わせると、1x1x1x4x3x3x2x3x2x2x2x2x1x1=3456通りとなる。3456個あまりのペプチドをリンクライブラリーを用いて作製し、結合エネルギーを計算し、スコアリングを行った。以上の操作により、本来の計算量9614を候補の絞込みを行うことにより、3456に減らすことができた。その計算結果のうちLudiスコアが高かったアミノ酸配列は前記表2に示されるとおりである。

結晶構造作製に使われたオリジナルのペプチド(Ovalbuminのペプチド323-339)のLudiスコアの値は968で、3363番目の結合エネルギーを持っていた。MHCIIに結合すると思われる12番目の残基に正電荷を持ったリジンを持つペプチドが高いスコアを出したのが、特徴的であった。また他のMHCII結合部位のアミノ酸は、従来の実験からの知見とよくあっていた。
【0046】
(実施例12)インビボ免疫におけるT細胞エピトープ様ペプチドの抗体価上昇効果
抗原(KLH)10μgと上記参考例2で得られたペプチドをFreund’s imcomplete adjuvantと混合し、マウス(Balb/c、♀)の皮下に投与し、免疫した。ペプチドは、計算の出発点であるOvalbuminのペプチド323-339(RGISQAVHAAHAEI)と一番結合エネルギーが大きいと計算されたペプチド(表2中のNo.1 RGIFFYVFAAYKEI)をそれぞれ10μg用いた。免疫後、20日後に10マイクロリットルの血液を採血し、1000倍にPBSで希釈後、血清中の抗原特異的IgGをELISA法により測定した(図7)。
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。血清希釈液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加し反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgG抗体の産生を検出した。
ペプチドを添加しないとき(peptide-)及び抗原を加えないとき(NC:Negative Control)には、抗体価の上昇は見られないが、ペプチドの同時添加により、抗体価の顕著な上昇が見られた。その上昇の度合いは、計算の出発点であるOvalbuminのペプチド323-339(RGISQAVHAAHAEI)よりも一番結合エネルギーが大きいと計算されたペプチド(表2中のNo.1 RGIFFYVFAAYKEI)の方が大きかった。
【0047】
(実施例13) インビトロ免疫における本発明ペプチドの抗原特異的抗体産生細胞活性化効果
(13−1) インビトロ免疫における一次免疫刺激
実施例1で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地(Sigma社)に懸濁し、24ウェルプレートに1mlずつ分注した。各ウェル中には、それぞれさらに抗原としてKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)を1μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.25μM及びMDP(Sigma社)を10μgと共に、本発明ペプチドであるT細胞エピトープ様ペプチドのうち、式(V)の典型的な、APL2(RGIYNAVAAANAVF)APL3(RGIYNAVGAAHAVF)、APL4(RGIYNAVAAAHAVF)APL5(RGIYNAVHAANAVF)、及び式(VII)の典型的な、P1(NNYNNVNAANANN)、P2(NNYNNVGAAGANN)、P6(NNYNNVNAANKNN)、P7(NNYNNVGAAGKNN)の、それぞれを3μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートの後、活性化された免疫細胞の存在が確認できたウェル内の免疫細胞を遠心操作により回収した。
次いで、回収した免疫細胞をRPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で2日間インキュべートし、免疫細胞を増殖させた。
【0048】
(13−2) インビトロ免疫における二次免疫刺激
前記(13−1)で得られた免疫細胞を遠心操作により回収後、RPMI培地に懸濁し、24ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で1mlずつ分注し、各ウェル中にはさらに抗原KLHを0.3μg、免疫刺激物質ODN1826(Invivogen社)を0.08μMおよびMDP(Sigma社)を3.3μg/mlを加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)内で1晩インキュべートの後、活性化された免疫細胞を遠心操作により回収した。回収後、RPMI培地に懸濁し、サイトカインのmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)を添加して、37℃のCOインキュベーター内で2〜4日インキュべートし、細胞を増殖させた。この期間中に、毎日40〜60%の培地を交換した。
【0049】
(13−3) インビトロ免疫における抗原特異的IgG抗体の産生測定(ELISA)
抗原KLHを、炭酸バッファー(pH 9.6)を用いて96ウェルマイクロプレートに固定し、0.05%Tween−PBS溶液で洗浄後、ブロッキング溶液(ロシュ社)を用いてブロッキングを施した。前記実施例3で得られた細胞培養液を各ウェル中に100μlずつ加え、反応の後、培養液を廃棄し、洗浄した。さらにアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体を添加し反応させ、次いでp-ニトロフェニルリン酸を基質とした発色系でKLH特異的IgG抗体を産生を検出した。結果を図8に示す。T細胞エピトープ様ペプチドを加えた場合の方が、KLH特異的IgG抗体の産生が多いことがわかる。
【0050】
(実施例14) ハイブリドーマ作製及び陽性クローンの定量
実施例13(13−2)で得られた免疫細胞を5.0×106個/mlの濃度でRPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5mlずつ分注した。各ウェルにはそれぞれ更に抗原としてKLHを5μg、免疫刺激物質ODN1826を1.25μM,MDPを50μg加えた。同時にT細胞エピトープ様ペプチド:式(V)の典型的なAPL5(RGIYNAVHAANAVF)及び式(VII)の典型的なP7(NNYNNVGAAGKNN)を3μg加えたものを用意した。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で2日間培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた細胞を遠心操作による回収後、RPMI培地に懸濁し、6ウェルプレートに5.0×106個/mlの濃度で5mlずつ分注した。各ウェルには抗原としてKLHを1.67μg、免疫刺激物質ODN1826を0.42μM,MDPを16.67μg加えた。37℃のCOインキュベーター(5%CO)で一晩培養後、活性化された免疫細胞を遠心操作により、回収した。この細胞をサイトカインmrIL−2(10ng/ml)、mrIL−4(2.5ng/ml)及びmrIL−21(10ng/ml)の存在下で、2日間培養した。得られた活性化免疫B細胞と等量の8-アザグアニン耐性マウスミエローマ細胞であるP3UI(P3-X63-Ag8-U1)とを混合し、遠心操作後の沈査に50%ポリエチレングリコール(ロシュ社)を添加し、37℃で2分間穏やかに反応させ、細胞融合を行った。得られたハイブリドーマ含有液を96ウェルマイクロカルチャープレートに分注し、HAT培地を用いて1週間培養を行った。ウェルの培養上清を採取して酵素免疫測定法(ELISA)によりスクリーニングを行い、細胞がコロニーを形成したウェルの数(細胞生育ウェル数)と抗原として用いたKLHに特異的に反応するIgGが含まれているウェルの数(抗原特異的ウェル数)を測定した。結果を表4に示す。コントロールとして、抗原を加えず免疫をした場合を同時に示す。
このように、上記T細胞エピトープ様ペプチドを添加することで、活性化免疫B細胞が増大し、得られる全グロブリン中に占めるIgGの割合も増加した。
【0051】
【表5】

【0052】
なお、以下、参考として本発明で用いられた配列番号1〜21と由来とを対照させて示す。

配列番号1 QYIKANSKFIGITEL 式(I)破傷風毒素pTT(830-844)
配列番号2 VTYDNESLLSAHKVE 式(II)
配列番号3 RGIFFX1X2X3X4X5X6KEI 式(III) X1=YorQ,X2=VorT,X3=F,HorK,X4=AorG,X5=AorG,X6=YorH
配列番号4 FQDAYNAX7X8X9X10X11AVF 式(IV) X7=AorV,X8=G,AorH,X9=GorA,X10=HorA,X11=NorH
配列番号5 RGIYNAVX8X9X10X11AVF 式(V) X8=G,AorH,X9=GorA,X10=HorA,X11=NorH
配列番号6 RGIYNAVX8X9X10X11AEI 式(VI) X8=G,AorH,X9=GorA,X10=HorA,X11=NorH
配列番号7 NNYX12X13VX14AAX15X16NN 式(VII)X12=NorG,X13=NorG,X14=NorG,X15=NorG,X16=AorK
配列番号8 TNISKEHDGESKETV Ovm52S(52-66)
配列番号9 FQDAYNAAGGHNAVF 式(IV)original結核菌由来/p25
配列番号10 FQDAYNAVGAANAVF 式(IV) CH3
配列番号11 RGISQAVHAAHAEI Ovalbmin(323-339)
配列番号12 RGIFFYVFAAYKEI 式(III)-(1)
配列番号13 RGIYNAVAAANAVF 式(V) APL2
配列番号14 RGIYNAVGAAHAVF 式(V) APL3
配列番号15 RGIYNAVAAAHAVF 式(V) APL4
配列番号16 RGIYNAVHAANAVF 式(V) APL5
配列番号17 NNYNNVNAANANN 式(VII)、P1
配列番号18 NNYNNVGAAGANN 式(VII)、P2
配列番号19 NNYNNVNAANKNN 式(VII)、P6
配列番号20 NNYNNVGAAGKNN 式(VII)、P7
配列番号21 FQDAYNAVGGHNAVF 式(IV) APL
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の典型的なプロトコールを示すフローチャート。
【図2】本発明の一次刺激後の抗原特異的IgM産生細胞の誘導をELISA法により、試験した結果である。図中、KLH+は抗原KLHを添加した場合であり、ODN+は免疫刺激物質ODNを添加した場合であり、MDP+は免疫刺激物質MDPを添加した場合であり、ODNc+は免疫系を刺激しない物質ODNcを添加した場合である。また、−は、当該物質を添加しなかった場合を示す。OD405の増加は、抗原特異的IgMが産生されていることを示す。
【図3】本発明の抗原特異的IgG産生細胞の誘導をELISA法により、試験した結果である。
【図4】マウスに抗原(KLH)とともにペプチドを投与した時の抗体産生能の活性化を抗原投与からの時間変化として、測定した結果である。図中、pTTは破傷風毒素由来T細胞エピトープを添加した場合である。Ovm100Sはニワトリオボムコイド由来のT細胞エピトープを添加した場合であり、Ovm52Sは同非T細胞エピトープを添加した場合である。また、KLHは、コントロールとして抗原のみの場合を示す。OD405の増加は、抗原特異的IgGが産生されていることを示す。
【図5】マウスに抗原(KLH)とともにペプチドを投与した時の抗体産生能の活性化をELISA法により、試験した結果である。図中、pTT, Ovm100S、Ovm52S、KLHの用語の意味は図4と同様。
【図6】インビトロ免疫法において、4種類のT細胞エピトープペプチド(pTT、p25、APL及びCH3)による抗体産生能の活性化をELISA法により、試験した結果を示す。
【図7】マウスに抗原(KLH)とともにペプチドを投与した時の抗体産生能の活性化をELISA法により、試験した結果である。図中、Originalは計算の出発点であるOvalbuminのペプチド323-339(RGISQAVHAAHAEI)、No.1は一番結合エネルギーが大きいと計算されたペプチド(表2中のNo.1 RGIFFYVFAAYKEI)を示す。は同非T細胞エピトープを添加した場合である。また、KLHは抗原のみ投与した場合、NCはネガティブコントロールとしてペプチド及び抗原を投与しなかった場合を示す。OD405の増加は、抗原特異的IgGが産生されていることを示す。
【図8】インビトロ免疫法において、T細胞エピトープペプチド(APL2:RGIYNAVAAANAVF、APL3:RGIYNAVGAAHAVF、APL4:RGIYNAVAAAHAVF、APL5:RGIYNAVHAANAVF、P1:NNYNNVNAANANN、P2:NNYNNVGAAGANN、P6:NNYNNVNAANKNN、P7:NNYNNVGAAGKNN)による抗KLH抗体産生能の活性化をELISA法により、試験した結果を示す。また、KLHは抗原のみ投与した場合、NCはネガティブコントロールとしてペプチド及び抗原KLHを投与しなかった場合を示す。OD405の増加は、抗原特異的IgGが産生されていることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫細胞に対して、インビトロで標的となる抗原を感作する抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液で抗体産生細胞を培養する培養工程を設ける第1免疫工程を施した後、得られた標的抗原特異的抗体産生細胞に対して、インビトロでの同一抗原による抗原感作工程、及びサイトカインを含む培養液中での培養工程を設ける第2免疫工程を施すことを特徴とする、2段階インビトロ免疫方法。
【請求項2】
前記免疫細胞は、第1免疫工程に先立ち、あらかじめT細胞除去工程が設けられたものである、請求項1に記載の2段階インビトロ免疫法。
【請求項3】
前記T細胞除去工程がCD8特異的抗体及びCD49特異的抗体を用いるものである、請求項2に記載の2段階インビトロ免疫法。
【請求項4】
前記第1免疫工程又は第2免疫工程のいずれかの工程における抗原感作工程もしくは培養工程の少なくとも1つの工程において、用いる培養液中にT細胞エピトープペプチドがさらに含まれることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の2段階インビトロ免疫法。
【請求項5】
前記T細胞エピトープペプチドが、下記式(I)〜(VII)のいずれかで表されるペプチドである請求項4に記載の2段階インビトロ免疫法;
式(I):
QYIKANSKFIGITEL
式(II):
VTYDNESLLSAHKVE
式(III):
RGIFFX123456KEI(式中、X1はY又はQ,X2はV又はT、X3はF,H又はK、X4はA又はG、X5はA又はG、X6はY又はHである。)。
式(IV):
FQDAYNAX7891011AVF
(式中、X7はA又はV,X8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(V):
RGIYNAVX891011AVF
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(VI):
RGIYNAVX891011AEI
(式中、X8からX11は式(IV)と同じ,すなわちX8はG,A又はH、X9はG又はA,X10はH又はA、X11はN又はHである。)。
式(VII):
NNYX1213VX14AAX1516NN
(式中、X12がN又はGであり,X13がN又はGであり、X14がN又はGであり、X15がN又はGであり、X16がA又はKである。)。
【請求項6】
前記T細胞エピトープペプチドが、
前記式(I)において、N末側の「QYI」及びC末側の「TEL」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(II)において、N末側の「V」及びC末側の「AHKVE」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(III)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(IV)において、N末側の「FQDA」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(V)において、N末側の「RGI」及びC末側の「VF」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(VI)において、N末側の「RGI」及びC末側の「EI」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
前記式(VII)において、N末側の「NN」及びC末側の「NN」からなるアミノ酸のうち、1つ以上のアミノ酸が任意の他のアミノ酸に置換したペプチド、
のいずれかである、請求項5に記載のインビトロ免疫法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の2段階インビトロ免疫法で得られた抗原特異的抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合する工程を含む、抗原特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のハイブリドーマを用いることを特徴とする、標的となる抗原特異的なモノクローナル抗体の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−75166(P2010−75166A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250572(P2008−250572)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】