説明

インビボにおいて選択された器官または組織に帰巣する分子および同分子を同定する方法

【課題】1つ以上の選択される器官または組織に帰巣し得る分子を提供すること。
【解決手段】選択された器官または組織に選択的に帰巣する複数のペプチドまたはペプチド模倣物を含む富化されたライブラリー画分であって、該富化されたライブラリー画分が、以下の工程を包含するインビボパンニングによって回収される、富化されたライブラリー画分:a.非ヒト被験体に、該ペプチドまたはペプチド模倣物のライブラリーを投与する工程であって、ここで該ペプチドまたはペプチド模倣物の各々は、該ペプチドまたはペプチド模倣物の回収を容易にするタグに結合されている、工程;b.該選択された器官または組織のサンプルを採集する工程;およびc.該選択された器官または組織に帰巣する該富化されたライブラリー画分を回収する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所より授与されたCA42507、CA62042、およびCancer Center Support Grant CA30199の下で政府援助をともなってなされた。政府は本発明に所定の権利を有する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般に分子医薬および薬物送達の分野に関し、そしてより詳細には、特定の器官に帰巣する(home)分子を同定するためのインビボパンニングの方法、ならびに正常な器官および腫瘍を包含する、特定の器官に帰巣する分子に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景の情報)
特定の病理の影響は、しばしば罹患者の体全体に示されるが、一般的には、基本的な病理は単一の器官または組織のみに影響し得る。多くの場合、薬物は、特定の疾患を患う患者のために選択される処置法である。しかし、薬物が疾患になった器官または組織のみを標的化することは希である。さらに一般的には、薬物処置は、例えば、患者の体全体に広がった有毒な影響のために、望ましくない副作用を生じる。化学療法薬を用いたガン患者の治療の結果として生じる悪心、抜け毛、血球数の減少は、薬物処置のために生じ得る望ましくない副作用の例である。
【0004】
薬物が疾患を治療するのに用いられた場合に生じ得る望ましくない副作用は、最も頻繁には疾患になった器官または組織に薬物が特異的に標的化し得ないことに起因する。例えば、急速に増殖する細胞を標的化するガン化学療法剤は、急速に分裂するガン細胞を死滅させるのに有用である。しかし、このような薬物はまた、正常に増殖する造血細胞および上皮細胞を死滅させる。従って、患者に投与され得るこのような薬物の用量は、その正常な細胞への有毒な影響のために制限される。
【0005】
種々の薬物の標的特異性を増加させるための努力がなされた。いくつかの場合では、疾患になった組織または器官に存在する特定の細胞型は、独特の細胞表面マーカーを発現し得る。このような場合では、抗体は独特の細胞表面マーカーに対して惹起され得、そして薬物は抗体に結合され得る。患者への薬物/抗体複合体の投与において、細胞表面マーカーへの抗体の結合は、疾患になった組織または器官への比較的高濃度の薬物の送達を生じる。疾患になった器官中の特定の細胞型が独特の細胞表面レセプターまたは特定のレセプターに対するリガンドを発現する場合、類似した方法が用いられ得る。これらの場合、薬物はそれぞれ特異的なリガンドまたはレセプターに結合され得、従って疾患になった器官に比較的高濃度の薬物を送達する手段を提供する。
【0006】
疾患になった器官または組織に存在する特定の細胞型に帰巣する分子への薬物の結合は、その薬物単独の使用を越えて処置に顕著な利点を提供するが、この方法の使用は厳格に制限されている。詳細には、細胞型特異的抗体はほとんど記載されておらず、そして病理を患う特定の患者の器官を標的化する抗体を得ようと試みることは、困難であり、そして手間を要し得る。さらに、細胞型特異的表面マーカーはほとんど記載されていない。このようなマーカーが記載されている場合であっても、マーカーを発現する細胞は種々の組織または器官に分布され得、それによって、標的としてのそれらの有用性が限定される。従って、ただ1つまたは2、3の組織または器官で発現される特異的な標的細胞マーカーを同定すること、およびそのようなマーカーと特異的に相互作用する分子を同定することが重要である。
【0007】
種々の細胞型は独特のマーカーを発現し得、それ故、器官帰巣分子(organ homing molecule)に対する潜在的な標的を提供し得る。内皮細胞(例えば血管の内部表面を区画する)は、異なる細胞において異なる形態学および生化学的マーカーを有し得る。例えば、リンパ系の血管は、リンパ球の帰巣を誘導するように働く種々の接着性タンパク質を発現する。さらに、リンパ節に存在する内皮細胞は、L−セレクチンに対するリガンドである細胞表面マーカーを発現し、そしてパイアー斑細静脈中の内皮細胞は、αβインテグリンに対するリガンドを発現する。これらのリガンドは、それぞれのリンパ系器官に帰巣する特異的なリンパ球に関与する。従って、L−セレクチンまたはαβインテグリンに薬物を結合させることは、これらの分子が非常に多数の他の器官に存在する類似したリガンドに結合しないのであれば、疾患になったリンパ節またはパイアー斑のそれぞれに薬物を標的させる手段を提供し得る。
【0008】
非リンパ系組織の血管に存在する帰巣分子は、明確に規定されていないが、リンパ球のそれらが最初に刺激された器官に回帰する能力は、器官特異的な内皮のマーカーが存在することを示す。同様に、特定の器官への特定の型の腫瘍細胞の帰巣または転移は、器官特異的マーカーが存在することの更なる証拠を提供する。しかし、他の器官特異的細胞マーカーおよびそれらに結合する分子を同定する必要性が残されている。
【0009】
目的の分子を同定するために、大集団の分子を生産する方法、および分子のライブラリーをスクリーニングする方法が現在利用可能である。例えば、ファージペプチドディスプレイライブラリーは、標的分子または細胞を特異的に結合するペプチドを同定するために、特定の標的分子または目的の細胞を用いてインビトロでスクリーニングされ得る多数のペプチドを発現するのに用いられ得る。このようなファージディスプレイライブラリーのスクリーニングは、例えば、種々の抗体および細胞表面レセプターを特異的に結合するリガンドを同定するのに用いられている。
【0010】
ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングは、一般的に、精製された標的分子を用いるライブラリーのインビトロパンニングを包含する。標的分子を結合するファージが回収され得、個々のファージがクローン化され得、そしてクローン化されたファージによって発現されるペプチドが決定され得る。このようなペプチドは、標的分子を発現する細胞へのペプチドに結合された薬物の送達に有用であり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】

不運なことに、ただ1つまたは2、3の細胞型によって発現される標的分子はほとんど同定されていない。さらに、そのような標的分子が知られていても、標的分子を特異的に結合するペプチドが、インビトロでのパンニング法を用いて決定されたように、インビボで標的分子に結合するかは不明である。結果として、インビトロでのパンニング法を用いるファージディスプレイライブラリーからのペプチドの同定は、本質的に同定されるペプチドがインビボでの手順に有用であり得るかを決定するための出発点のみを示す。従って、1つ以上の選択される器官または組織に帰巣し得る分子を同定するために、ペプチドのような多数の分子をスクリーニングするためのインビボでの方法を開発する必要がある。本発明では、この必要性を満たし、そしてさらに関連した利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】

本発明は、潜在的な器官帰巣分子のライブラリーをスクリーニングするインビボパンニングを用いることによって、1または2、3の選択された器官または組織に特異的に帰巣する分子を同定する方法を提供する。インビボパンニング法は、多種多様な分子の集団からなるライブラリーを被験体に投与すること、およびその被験体の選択された1つ以上の器官または組織に帰巣する分子を同定することを包含する。本発明は、ファージペプチドディスプレイライブラリーの被験体への投与、およびその被験体の脳、腎臓、または腫瘍(例えば、乳ガンまたは黒色腫)に帰巣するファージによって発現されるペプチドの同定により例示される。インビボパンニングは、所望の選択性を有して選択された器官または組織に帰巣する分子が回収されるまで、1回以上繰り返され得る。
【0013】
本発明はまた、選択された器官または組織に選択的に帰巣するペプチドを提供する。例えば、本発明は、ペプチドCLSSRLDAC(配列番号3)のようなSRL(セリン−アルギニン−リジン)モチーフまたはペプチドWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)のようなモチーフVLRを有する脳帰巣ペプチドを提供する。さらに本発明は、ペプチドCLPVASC(配列番号21)のような腎臓帰巣ペプチドを提供する。さらに本発明は、ペプチドCGRECPRLCQSSC(配列番号48)(乳房の腫瘍に帰巣する)、ならびにペプチドWGTGLC(配列番号52)およびCLSGSLSC(配列番号55)(黒色腫に帰巣する)のような腫瘍帰巣ペプチドを提供する。このような器官または組織帰巣分子は、本明細書中において便宜上「器官帰巣」分子として記載される。「腫瘍帰巣分子」は、器官帰巣分子の一例である。本発明の器官帰巣分子は、例えば、薬物のような成分を選択された器官または組織に標的させるのに有用であるか、またはサンプル中の標的分子の存在を同定するのに有用である。
【0014】
本発明はさらに、標的分子の器官帰巣分子への選択的結合を検出することによって標的分子を同定する方法を提供する。例えば、選択された器官または組織に選択的に帰巣するペプチドは、アフィニティークロマトグラフィーに使用するための固体マトリックスに付着され得る。選択された器官または組織のサンプルが得られ、そして標的分子の特異的結合を可能にする条件下でアフィニティーマトリックスを通過させ得る。次いで標的分子は、周知の生化学的方法を用いて回収および同定され得る。標的分子は、例えば、標的分子に特異的な抗体を惹起するのに有用であり得る。
【0015】
1つの局面では、本発明は、選択された器官または組織に帰巣する分子を得るための方法であって、以下の工程を包含する、方法を提供する:
a.被験体に多様な分子のライブラリーを投与する工程;
b.上記選択された器官または組織のサンプルを採集する工程;および
c.上記選択された器官または組織に帰巣する分子を同定する工程。
【0016】
1つの実施形態においては、上記多様な分子のそれぞれがタグに結合されている。
【0017】
1つの実施形態では、上記タグが支持体である。
【0018】
1つの実施形態では、上記ライブラリーがファージディスプレイライブラリーである。
【0019】
1つの実施形態では、上記分子がペプチドである。
【0020】
1つの実施形態では、上記ライブラリーが、核酸ライブラリーおよび化学的ライブラリーからなる群より選択される。
【0021】
1つの実施形態では、上記選択された器官または組織が、脳および腎臓からなる群より選択される。
【0022】
1つの実施形態では、上記選択された器官または組織が腫瘍である。
【0023】
1つの局面では、本発明は、脳に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドが以下のアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する:
SRLX(配列番号45)、
ここでXおよびXはそれぞれ約1個から約10個の独立に選択されたアミノ酸である。
【0024】
1つの実施形態では、上記ペプチドがアミノ酸配列CLSSRLDAC(配列番号3)を有する。
【0025】
1つの実施形態では、上記ペプチドが、CNSRLHLRC(配列番号1)および CNSRLQLRC(配列番号5)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する。
【0026】
1つの局面では、本発明は、脳に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドが以下のアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する:
VLRX(配列番号46)、
ここでXは、存在しないかまたは約1から10個の独立に選択されたアミノ酸であり、そしてXは、約1個から約20個の独立に選択されたアミノ酸である。
【0027】
1つの実施形態では、上記ペプチドが、CVLRGGRC(配列番号4)およびWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する。
【0028】
1つの局面では、本発明は、脳に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCENWWGDVC(配列番号2)およびCGVRLGC(配列番号6)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0029】
1つの局面では、本発明は、脳に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCKDWGRIC(配列番号7);CLDWGRIC(配列番号8);およびCTRITESC(配列番号9)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0030】
1つの局面では、本発明は、腎臓に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCLPVASC(配列番号21);CGAREMC(配列番号22);およびCKGRSSAC(配列番号23)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0031】
1つの局面では、本発明は、腎臓に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCWARAQGC(配列番号24);CLGRSSVC(配列番号25);およびCTSPGGSC(配列番号26)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0032】
1つの局面では、本発明は、乳ガンに選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCGRECPRLCQSSC(配列番号48)、CGEACGGQCALPC(配列番号49)、およびCNGRCVSGCAGRC(配列番号50)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0033】
1つの局面では、本発明は、黒色腫に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがWGTGLC(配列番号52) およびCLSGSLSC(配列番号55)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0034】
1つの局面では、本発明は、黒色腫に選択的に帰巣するペプチドであって、上記ペプチドがCSVANSC(配列番号53)、CSSTMRC(配列番号54)、およびCIEGVLGGC(配列番号56)からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する、ペプチドを提供する。
【0035】
本発明は、選択された器官または組織に帰巣する分子であって、上記分子が以下の工程を包含するインビボパンニングによって同定される、分子を提供する:
a.被験体に多様な分子のライブラリーを投与する工程;
b.上記選択された器官または組織のサンプルを採集する工程;および
c.上記選択された器官または組織に帰巣する分子を同定する工程。
【0036】
1つの実施形態では、上記選択された器官または組織が、脳、腎臓、腫瘍、および脈管形成の血管系からなる群より選択される。
【0037】
1つの実施形態では、上記腫瘍が、乳ガンおよび黒色腫からなる群から選択される。
【0038】
1つの局面では、本発明は、部分を選択された器官または組織に指向させる方法であって、以下の工程を包含する、方法を提供する:
a.上記部分を本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子に結合させて、上記部分および上記分子を含む複合体を形成させる工程;および
b.上記複合体と上記選択された器官または組織とを接触させる工程であって、ここで本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子が上記選択された器官または組織に選択的に結合し、これにより上記部分を上記選択された器官または組織に指向させる、工程。
【0039】
1つの実施形態では、上記接触工程がインビトロで行われる。
【0040】
1つの実施形態では、上記接触工程がインビボで行われる。
【0041】
1つの実施形態では、上記部分が検出可能な標識を含む。
【0042】
1つの実施形態では、上記部分が細胞毒性因子を含む。
【0043】
1つの実施形態では、上記部分が室のあるマイクロデバイスを含む。
【0044】
1つの局面では、本発明は、標的分子の存在を同定する方法であって、上記標的分子は選択された器官または組織に選択的に帰巣する分子に特異的に結合し、上記方法は以下の工程を包含する、方法を提供する:
a.上記標的分子を発現すると疑いのある器官または組織のサンプルを得る工程;
b.上記サンプルと本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子とを、本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子と上記標的分子との特異的結合を可能にする条件下で接触させる工程;および
c.本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子の特異的結合を検出する工程であって、上記特異的結合が上記サンプル中の上記標的分子の存在を同定する、工程。
【0045】
1つの局面では、本発明は、標的分子を実質的に単離する方法であって、上記標的分子は選択された器官または組織に選択的に帰巣する分子に特異的に結合し、上記方法は以下の工程を包含する、方法を提供する:
a.上記選択された器官または組織のサンプルを得る工程であって、上記器官または組織が上記標的分子を発現している、工程;
b.上記サンプルと本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子とを、本発明の選択された器官または組織に帰巣する分子と上記標的分子との特異的結合を可能にする条件下で接触させ、複合体を形成させる工程;および
c.上記複合体から上記標的分子を実質的に単離する工程。
【0046】
1つの局面では、本発明は、上記の方法により得られる、実質的に単離された標的分子を提供する。
【0047】
1つの局面では、本発明は、脈管形成血管系を含有する器官または組織をインビボで標的化する方法であって、上記器官または組織とα含有インテグリンに特異的に結合する分子とを接触させる工程を包含する、方法を提供する。
【0048】
1つの実施形態では、上記器官または組織が腫瘍である。
【0049】
1つの実施形態では、上記分子が、RGD含有ペプチド、およびα含有インテグリンに特異的に結合する抗体からなる群より選択される。
【0050】
1つの実施形態では、上記α含有インテグリンがαβインテグリンである。
【0051】
1つの実施形態では、上記分子がCDCRGDCFC(配列番号57)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明はインビボパンニング(PasqualiniおよびRuoslahti、Nature 380:364−366 (1996)を参考のこと、これは本明細書中で参考として援用される)を用いてライブラリーをスクリーニングすることによって、1または2、3の選択される器官または組織(黒色腫または乳ガンのような腫瘍を含む)に特異的に帰巣する分子を同定する方法を提供する。同定された器官帰巣分子は、例えば、薬物、毒素、または検出可能なタグ(tag)(これらはその分子に結合され得る)のような所望の成分を選択された器官または組織に標的させるのに有用である。インビボパンニングは、選択された器官または組織に選択的に帰巣する分子を同定するための直接的方法を提供し、そしてそれ故、従来の方法(インビトロでのスクリーニング法を用いて同定された分子は、その後にインビボでその特異性を維持しているかを決定するために調査される必要がある)を越える顕著な利点を提供する。
【0053】
本明細書中で用いられる用語「ライブラリー」は、分子の収集物を意味する。ライブラリーは、2、3または約10分子から数10億以上の分子まで変化する多数の異なる分子を含有し得る。所望であれば、分子はタグに結合され得る。このタグは、分子の回収または同定を促進し得る共有タグ(shared tag)または特異的タグ(specific tag)であり得る。
【0054】
本明細書で用いられる用語「分子」は、薬物のような有機化合物;ペプチド(ペプチド模倣物(peptidomimetic)またはペプトイド(peptoid)のような変異体ペプチドまたは改変ペプチドあるいはペプチド様分子を含む);あるいは抗体または成長因子レセプターのようなタンパク質もしくは結合ドメインを含有するそれらのフラグメント(例えば、抗体のFv、Fd、またはFabフラグメント)を意味するように広範に用いられ得る。便宜上、用語「ペプチド」は、ペプチド、タンパク質、タンパク質のフラグメントなどを意味するように本明細書中で広範に用いられる。分子は、天然に存在せずインビトロ法の結果として産生される非天然存在分子であり得るか、またはcDNAライブラリーから発現されるタンパク質またはそのフラグメントのような天然に存在する分子であり得る。
【0055】
ペプチド、ペプトイド、およびペプチド模倣物のような種々の型の分子の多種多様な集団を含有するライブラリーを調製する方法は、当該分野において周知であり、そして商業的に利用可能である(例えば、EckerおよびCrooke、Biotechnology 13:351−360 (1995)およびBlondelleら、Trends Anal.Chem. 14:83−92
(1995)、ならびにそれらで引用されている参考文献(それぞれ本明細書中で参考として援用される)を参照のこと;GoodmanおよびRo、Peptidomimetics for Drug Design、”Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery” 第1巻(M.E.Wolff編;John Wiley & Sons 1995)、803〜861頁、およびGordonら、J.Med.Chem.37:1385−1401 (1994)(それぞれ本明細書中で参考として援用される)をさらに参照のこと)。分子がペプチド、タンパク質、またはそのフラグメントである場合、その分子はインビトロで直接生産され得るか、または核酸から発現され得、これはインビトロで産生される。合成ペプチドおよび核酸化学の方法は、当該分野において周知である。
【0056】
分子のライブラリーはまた、例えば、目的の細胞、組織、器官、または生物から回収されたmRNAからcDNA発現のライブラリーを構築することによって産生され得る。このようなライブラリーを産生する方法は、当該分野において周知である(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)(これは、本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。好ましくは、cDNAによってコードされるペプチドは、cDNAを含有する細胞またはウイルスの表面上で発現される。例えば、cDNAは、fuse5(例Iを参照のこと)のようなファージベクター中にクローン化され得、ここでは、発現において、コードされるペプチドはファージの表面上に融合タンパク質として発現される。
【0057】
さらに、分子のライブラリーは、核酸分子のライブラリーを包含し得る。例えば、細胞表面レセプターに結合する核酸分子は、当該分野において公知である(O’Connellら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 93:5883−5887 (1996);TuerkおよびGold、Science 249:505−510 (1990);Goldら、Ann.Rev.Biochem. 64:763−797 (1995)(それぞれ本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。従って、核酸分子のライブラリーは、腫瘍を有する被験体に投与され得、そして腫瘍帰巣分子は、本明細書に記載されているインビボパンニングによって同定され得る。所望であれば、核酸分子は、例えば、ヌクレアーゼによる攻撃に影響されにくい核酸アナログであり得る(例えば、Jelinekら、Biochemistry 34:11363−11372 (1995);Lathamら、Nucl.Acids Res.
22:2817−2822 (1994);Tamら、Nucl.Acids
Res 22:977−986 (1994);Reedら、Cancer Res. 59:6565−6570 (1990)(それぞれ本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0058】
明細書中に開示されるインビボパンニングは、被験体にライブラリーを投与すること、選択された器官または組織を採集すること、および器官帰巣分子を同定することを包含する。器官帰巣分子は、当該分野で周知の種々の方法を用いて同定され得る。一般的に、選択された器官または組織中の器官帰巣分子の存在は、ライブラリーに存在する分子に共通する1つ以上の特徴に基づいて同定され、次いで、特定の器官帰巣分子の構造が同定される。例えば、単独またはガスクロマトグラフィーのような方法と組み合わせるかのいずれかで高感度検出法(例えば、質量分析法)が用いられ、選択された器官または組織中の器官帰巣分子が同定され得る。従って、ライブラリーが、一般的に有機分子の構造に基づいて多種多様な分子を含む場合、薬物のような器官帰巣分子の存在は、特定の分子に関する親ピーク(parent peak)の存在を検出することによって同定され得る。
【0059】
所望であれば、選択された器官または組織は採集され、次いでHPLCのような方法で処理され得る。HPLCは、規定された範囲の分子量あるいは極性または非極性などの特徴を有する分子が富化された画分を提供し得る。HPLCの条件は、特定の分子の化学特性に依存し、そして該当分野に周知である。同様に、潜在的に干渉する細胞性物質(例えば、DNA、RNA、タンパク質、脂質、または炭水化物)の大部分を除去する方法は、例えば、選択的抽出法を用いる有機分子を含有する画分を富化する方法として当該分野で周知である。例えば、ライブラリーが各々に特異的なオリゴヌクレオチドタグに結合した多種多様な有機化学分子の集団を含有する場合、特定の分子がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてオリゴヌクレオチド配列分析することによって同定されるように、ゲノムDNAはバックグラウンドPCR反応に関する潜在性を減少させるために回収された器官のサンプルから除去され得る。さらに、ライブラリーは、各々共通の共有タグと結合した有機化学分子のような多種多様な分子の集団を有し得る。共有タグの存在および特徴に基づき、器官または組織に選択的に帰巣するライブラリーの分子は、器官または組織のサンプルから実質的に単離され得る。これらおよび他の方法は、採集された器官のサンプルを特定の器官帰巣分子について富化し、それによって採集された器官サンプルから潜在的に混入している物質を除去し、そして分子を検出する感度を増加させるのに有用であり得る。
【0060】
本明細書中に提供される証拠は、器官帰巣分子が容易に同定され得るような十分な数の器官帰巣分子が、インビボパンニング中に選択される器官または組織に選択的に帰巣することを示す。例えば、同一のペプチドを発現する種々の独立ファージを、脳(表1)、腎臓(表2)、および移植された乳ガン細胞から形成された腫瘍(表3)または移植された黒色腫細胞から形成された腫瘍(表4)において同定した。特に、配列決定した腎臓帰巣ペプチドのほとんど半分は、アミノ酸配列CLPVASC(配列番号21)を有していた;脳に帰巣した2つのペプチドは、配列決定された脳帰巣ペプチドの約40%を構成していた;乳房に帰巣した1つのペプチドは、配列決定した乳房腫瘍帰巣ペプチドの約43%を構成していた;そして黒色腫に帰巣した2つのペプチドは、配列決定した黒色腫帰巣ペプチドの75%より多くを構成していた(実施例IIおよびIIIを参照のこと)。
【0061】
同定された器官帰巣分子の実質的な画分は同一の構造を有するが、ごく少数の単離したファージのペプチド挿入物を決定した。しかし、器官帰巣分子に関する種々のインビボパンニングの後、幾十万から百万の、器官帰巣ペプチドを発現するファージを回収したことを理解されたい。これらの結果は、特定の器官帰巣分子が、インビボ帰巣の後、器官に十分量存在し、それによって、分子が同定され得る容易さを増大することを示す。
【0062】
器官帰巣分子(特に非タグ化分子(untagged molecule))の同定の容易さは、潜在的に混入しているバックグラウンド細胞性物質の存在を含む種々の因子に依存する。従って、器官帰巣分子が非タグ化ペプチドである場合、細胞性タンパク質のバックグランドに対して特異的なペプチドを同定するためにより多数の分子が帰巣しなければならない。対照的に、はるかにより少数の非タグ化有機化学帰巣分子が同定可能である。なぜなら、このような分子は、通常身体に存在しないか、またはごく少数しか存在しないためである。このような場合、質量分析のような高い感度の方法が、器官帰巣分子を同定するのに用いられ得る。分子を同定する方法が、部分的に、特定の分子の化学的特性に依存することを当業者は理解する。
【0063】
器官帰巣分子が核酸であるか、または核酸分子でタグ化(tagged)されている場合、PCRのようなアッセイが、分子の存在を同定するのに特に有用であり得る。なぜなら、原則として、PCRは1本鎖核酸分子の存在を検出し得るからである(例えば、Erlich、PCR Technology:Principles and Applications for DNA Amplification (Stockton Press 1989)(これは本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。予備実験は、約6,000塩基対プラスミドの10ngをマウスに静脈注射し、そして2分間の循環の後に、そのプラスミドを肺のサンプル中にPCRによって検出し得たことを示した。これらの結果は、核酸が循環に投与された場合、インビボパンニングが選択された器官に選択的に帰巣する核酸分子を同定し得るほどその核酸が十分に安定であることを示している。
【0064】
ライブラリーの分子はタグ化され得、これは分子の回収または同定を容易にし得る。本明細書中で用いられる用語「タグ」は、それぞれライブラリーの分子に結合されたプラスチックマイクロビーズ、オリゴヌクレオチド、またはバクテリオファージのような物理学的、化学的、または生物学的な部分を意味する。分子をタグ化する方法は当業者に周知である(Hermanson、Bioconjugate Techniques (Academic Press 1996)、これは本明細書中で参考として援用される。
【0065】
タグ(共有タグまたは特異的タグであり得る)は、ライブラリーの分子の存在または構造を同定するのに有用であり得る。本明細書中で用いられる用語「共有タグ」は、ライブラリー中の各分子に共通する物理学的、化学的、または生物学的な部分を意味する。例えば、ビオチンは、ライブラリー中の各々の分子に結合される共有タグであり得る。共有タグは、サンプル中のライブラリーの分子の存在を同定するのに有用であり得、そしてさらにサンプルから分子を実質的に単離するのに有用であり得る。例えば、共有タグがビオチンである場合、ライブラリー中のビオチンタグ化分子は、ストレプトアビジンへの結合によって実質的に単離され得るか、またはそれらの存在は、標識されたストレプトアビジンとの結合によって同定され得る。ライブラリーがファージディスプレイライブラリーである場合、ペプチドを発現するファージは共有タグのその他の例である。なぜなら、ライブラリーの各ペプチドがファージに結合されるからである。さらに、ヘマグルチニン抗原のようなペプチドは、ライブラリー中の各分子に結合される共有タグであり得、それによって選択される器官または組織のサンプルからライブラリーの分子を実質的に単離するためのヘマグルチニン抗原に対して特異的な抗体の使用を可能にする。
【0066】
共有タグはまた、サンプル中のライブラリーの分子の存在を同定するためか、またはサンプルからライブラリーの分子を実質的に単離するために有用であり得る核酸配列であり得る。例えば、ライブラリーの各分子は、同一の選択されたヌクレオチド配列に結合され得、これは共有タグを構成する。次いで、共有タグに相補的なヌクレオチド配列を含有するアフィニティーカラムは、共有タグを有するライブラリーの分子をハイブリダイズさせるのに有用であり得、そのようにして器官または組織サンプルから分子を実質的に単離する。共有ヌクレオチド配列タグの一部に相補的なヌクレオチド配列はまた、共有タグを含有する分子の存在がPCRによってサンプル中で同定され得るように、PCRプライマーとして用いられ得る。
【0067】
タグはまた、特異的タグであり得る。本明細書中で用いられる用語「特異的タグ」は、ライブラリー中で特定の分子に結合され、そしてその特定の分子に独特である物理学的、化学的、または生物学的タグを意味する。特異的タグは、それが容易に同定し得る場合に特に有用である。ライブラリーの特定の分子に独特なヌクレオチド配列は、特異的タグの一例である。例えば、独特なヌクレオチド配列でタグ化したペプチドを合成する方法は、ヌクレオチド配列を同定することにおいて、そのペプチドの同一性が知られているような、各々特異的タグを含有する分子のライブラリーを提供する(BrennerおよびLerner、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 89:5381−5383 (1992)を参照のこと、これは本明細書中で参考として援用される)。ペプチドまたはその他の型の分子のための特異的タグとしてのヌクレオチド配列の使用は、サンプル中の分子の存在を同定する簡便な手段を供給する。なぜなら、PCRのような極めて感度の高い方法は、特異的タグのヌクレオチド配列を決定するのに用いられ得、それによってそこに結合した分子の配列を同定し得るからである。同様に、ファージ上で発現されるペプチドをコードする核酸配列は、特異的タグの他の例である。なぜなら、特異的タグの配列決定は、発現されるペプチドのアミノ酸配列を同定するからである。
【0068】
共有タグまたは特異的タグの存在は、インビボパンニングの後、本発明の器官帰巣分子を同定または回収する手段を提供し得る。さらに、共有タグおよび特異的タグの組み合わせは、器官帰巣分子を同定するのに特に有用であり得る。例えば、ペプチドのライブラリーは、各々が特異的ヌクレオチド配列タグに結合するように調製され得(例えば、BrennerおよびLerner、前出、1992を参照のこと)、ここで、各々の特異的ヌクレオチド配列タグはビオチンのような共有タグ中に取り込まれている。器官への帰巣において、特定の器官に帰巣するペプチドは、共有タグに基づいて器官のサンプルから実質的に単離され得、そして特異的ペプチドは、例えば、特異的タグのPCR(Erlich、前出、1989を参照のこと)によって同定され得る。
【0069】
タグはまた、支持体として働き得る。本明細書に用いられる用語「支持体」は、分子が付着され得る規定された表面を有するタグを意味する。一般的に、支持体として有用なタグは共有タグである。例えば、支持体は、生物学的タグ(例えば、ウイルスまたはバクテリイオファージのようなウイルス様粒子「ファージ」;E.coliのような細菌;あるいは酵母細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞のような真核細胞)であり得るか;または、リポソームまたはマイクロビーズのような物理的タグであり得、これは、プラスチック、アガロース、ゼラチン、またはその他の物質から構成され得る。所望であれば、支持体として有用な共有タグは、それ自身に特異的タグを結合し得る。従って、例示した方法において用いられるファージディスプレイライブラリーは、ファージからなると考えられ得、これは支持体でもある共有タグであり、そして核酸配列は発現されるペプチドをコードし、この核酸配列は特異的タグである。
【0070】
一般に、支持体が被験体中に存在するキャピラリーベッド(capillary bed)を比較的妨害されずに通過し得、そして循環を閉鎖しないように、支持体はその最も短い寸法(dimension)において約10μm〜約50μmよりも短い直径を有するべきである。さらに、支持体は、それが細胞表面分子の正常な発現または被験体の正常な生理機能を混乱しないように非毒性であり得、特に、インビボパンニングに用いられる被験体が選択された器官または組織を採集するために屠殺されない場合には、生分解性であり得る。
【0071】
分子が支持体に結合される場合、被験体の細胞中の標的と相互作用し得ると思われる分子の一部が相互作用に関与するように位置されるように、タグ化された分子は、支持体の表面に付着した分子を含む。例えば、分子がβアドレナリン作用性アゴニストであると思われる場合、支持体に付着した分子の結合部分は、それが選択された器官または組織中の細胞上のβアドレナリン作用性レセプターと相互作用し得るように位置される。同様に、分子が成長因子レセプターに対するリガンドであると思われる場合、分子は、それがレセプターを結合し得るように支持体上に位置される。所望であれば、適切なスペーサー分子が、潜在的な器官帰巣分子の標的分子と相互作用する能力を妨げないように分子と支持体との間に位置され得る。スペーサー分子はまた、反応基を含有し得、これは支持体に分子を結合させる簡便で有効な手段を提供し、そして所望であればタグを含有し得、これは分子の回収または同定を促進し得る(Hermanson、前出、1996を参照のこと)。
【0072】
本明細書中で例示されるように、脳のような選択された器官または組織に帰巣し得ると思われるペプチドを、融合タンパク質のN末端として発現させた。ここでC末端はファージコートタンパク質からなる。融合タンパク質の発現において、C末端コートタンパク質を、N末端ペプチドが器官中の標的分子と相互作用する位置にあるように、ファージの表面に融合タンパク質を結合させた。従って、共有タグを有する分子を、ペプチドのファージへの結合によって形成させた。ここで、ファージは生物学的支持体を提供し、ペプチド分子は融合タンパク質として結合されており、融合タンパク質のファージをコードする部分は、スペーサー分子として作用し、そしてペプチドをコードする核酸は、器官帰巣ペプチドの同定を可能にする特異的タグを提供した。
【0073】
本明細書中で用いられる用語「インビボパンニング」は、被験体にライブラリーを投与すること、および選択的に1つまたは2、3の選択された器官または組織を同定することによってライブラリーをスクリーニングする方法を意味する。用語「被験体に投与すること」は、分子のライブラリーまたはその一部に言及するときに用いられる場合、ライブラリーの分子が選択された器官または組織に接触するように、ライブラリーが選択された器官または組織(所望であれば腫瘍を含む)に送達されることを示す最も広範な意味で用いられる。
【0074】
ライブラリーは、例えば、分子が選択された器官または組織を通過し得るように、被験体の循環系へライブラリーを注入することにより被験体に投与され得る。適切な期間後、循環は被験体を屠殺する、または器官のサンプルを取り出すことにより、終了される(実施例Iを参照のこと)。あるいは、カニューレを被験体の血管に挿入し得ることにより、適切な期間の灌流によりこのライブラリーが投与され、その後カニューレを介して循環系からライブラリーが取り出され得るか、あるいは被験体が屠殺され得るか、または器官がサンプリングされ得て循環が終了される。同様に、ライブラリーは、被験体における適切な血管のカニュレ挿入によって、1つまたは数個の器官を介して短絡され得る。ライブラリーはまた、単離され、灌流された器官に投与され得るということが認識されている。単離され、灌流された器官におけるこのようなパンニングは、器官に結合する分子を同定するために有用であり得、そして所望であれば、ライブラリーの最初のスクリーニングとしても使用され得る。例えば、腎臓帰巣分子が所望であれば、ライブラリーは単離された腎臓を介して灌流され得、次いで灌流された腎臓に結合した分子は腎臓帰巣分子を同定するためにインビボパンニングによりスクリーニングされ得る。
【0075】
インビボパンニング法は、マウスのファージペプチドディスプレイライブラリーをスクリーニングすることにより、および、脳、腎臓、または腫瘍に選択的に帰巣する特定のペプチドを同定することにより本明細書中で例示される(実施例IIおよびIIIを参照のこと)。しかし、タンパク質レセプター分子(例えば、抗体、あるいはFv、Fd、またはFabフラグメントのような抗体の抗原結合フラグメント;増殖因子レセプターのようなホルモンレセプター;あるいはインテグリンまたはセレクチンのような細胞接着レセプターを含む)を呈示するファージライブラリーはまた本発明の実施のために使用され得る。このような分子の改変体は、ランダム変異誘発、部位特異的変異誘発、コドンに基づく変異誘発のような周知の方法を使用して構築され得る(Huse,米国特許第5,264,563号、1993年11月23日発行、本明細書中に参考として援用される)。従って、種々のタイプのファージディスプレイライブラリーが開示のインビボパンニング法を利用してスクリーニングされ得る。
【0076】
ファージディスプレイ技術は、異なる集団の無作為なまたは選択的に無作為化したペプチドを発現するための手段を提供する。種々のファージディスプレイ方法および異なるペプチドの集団を作製するための方法は、当該分野で周知である。例えば、Ladnerら(米国特許第5,223,409号、1993年6月29日発行、本明細書に参考として援用される)は、ファージ表面上での異なる結合ドメインの集団を調製するための方法を記載する。特に、Ladnerらは、ファージディスプレイライブラリーを作製するために有用なファージベクター、ならびに潜在的な結合ドメインを選択し、および変異された結合ドメインを無作為にまたは選択的に生成する方法を記載する。
【0077】
同様に、SmithおよびScott(Meth.Enzymol.217:228−257(1993);また、ScottおよびSmith、Science 249:386−390(1990)を参照のこと)、これら各々は本明細書中に参考として援用される)は、ファージペプチドディスプレイライブラリーを作製する方法を記載し、この方法は、ベクターおよび発現されるペプチドの集団を多様化させる方法を包含する(Huse、WO/91/07141およびWO/91/07149をまた参照のこと、これらの各々は本明細書中に参考として援用される、実施例Iもまた参照のこと)。ファージディスプレイ技術は、例えば、ランダムペプチドまたは無作為にまたは望ましく偏したペプチドを生成するために使用され得るコドンに基づく変異誘発法とともに使用される場合、特に効果的であり得る(Huse、米国特許第5,264,563号、前出、1993)。これらまたは他の周知の方法は、ファージディスプレイライブラリーを作製するために使用され得、これは、1つまたは数個の選択された器官または組織に帰巣するペプチドを同定するために本発明のインビボパンニング法に供され得る。
【0078】
さらに、ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングするために、インビボパンニングは、種々の他のタイプのライブラリー(例えば、RNAまたはcDNAライブラリーあるいは化学的ライブラリーを包含する)をスクリーニングするために使用され得る。所望であれば、器官に帰巣する分子がタグ化され得、選択された器官または組織からの分子の回収、あるいは器官または組織における分子の同定を容易にし得る。例えば、有機分子(それぞれ、共有タグを含む)のライブラリーをスクリーニングする場合タグはビオチンのような部分であり得、これは、分子に直接連結され得るか、または分子を含む支持体に連結され得る。ビオチンは、(アビジンまたはストレプトアビジン親和性基質を使用して)、選択された器官または組織から分子を回収するために、有用な共有タグを提供する。さらに、分子または分子を含む支持体は、ハプテン(4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−2−オキサゾリン−5−オン(phOx)、これはタグ化された分子を回収する手段として、磁気ビーズに結合される抗phOx抗体により結合され得る)のような共有タグに連結され得る。ビオチンまたはphOxでタグ化された分子を精製するための方法は、当該分野で公知であり、そして、これらの手順を行うための材料は商業的に利用可能である(例えば、Invitrogen;La Jolla CA;およびPromega Corp.;Madison WI)。ファージライブラリーがスクリーニングされる場合、ファージは実施例Iに開示するような方法を用いて回収され得る。
【0079】
インビボパンニングは、1つまたは数個の選択された器官または組織に帰巣し得る分子を直接同定するための方法を提供する。本明細書中で用いられる用語「帰巣する」または「選択的に帰巣する」は、特定の分子が、被験体への投与後に1つまたは数個の選択された器官または組織に存在する標的分子に比較的特異的に結合することを意味する。一般に、選択的な帰巣は、部分的には、コントロールの器官または組織に比べて、選択された器官または組織への分子の少なくとも2倍(2×)以上の特異的な結合を検出することにより特徴づけられる。
【0080】
いくつかの場合において、分子が器官または組織に非特異的に局在し得ることが認識されるべきである。例えば、ファージディスプレイライブラリーのインビボパンニングの結果、多数のファージが網内細胞系(RES)の構成要素を含む器官(例えば、肝臓、肺、および脾臓)に局在した。このような組織における選択的な帰巣は、例えば、異なる個々のファージが選択された器官または組織(RES構成要素を含む器官を含む)に帰巣する能力における差異を検出することにより、非特異的な結合とは区別され得る。例えば、選択的な帰巣は、推定の器官帰巣分子(例えばファージ上で発現されるペプチド)と大過剰の非感染ファージまたは非選択的なペプチドを発現する約5倍量過剰のファージとを組み合わせる工程、この混合物を被験体に注入する工程、および選択された器官または組織のサンプルを回収する工程により同定され得る。後者の場合、例えば、器官帰巣ペプチドを発現する注入されたファージの数が、標的分子については非飽和状態であるように十分少ないならば、選択された器官または組織において、20%を超えるファージが推定の器官帰巣分子を発現するという決定は、ファージにより発現するペプチドは特定の器官帰巣分子であるということの決定的な証明である。さらに、非特異的局在は、実施例II.DおよびIVに記載されるような競合実験を行うことによって、選択的帰巣とは区別され得る。
【0081】
種々の方法がRESの構成要素を含む器官への分子の非特異的な結合を妨げるために有用であり得る。例えば、選択的にこのような器官に帰巣する分子は、ポリスチレンラテックス粒子またはデキストランサルフェートのような材料を用いてRESをまずブロックする工程(Kalinら、Nucl.Med.Biol.20:171−174(1993);Illumら、J.Pharm.Sci.75:16−22(1986);Takeyaら、J.Gen.Microbiol.100:373−379(1977)を参照のこと;これら各々は本明細書中に参考として援用される)、次いで被験体にライブラリーを投与する工程により得られ得る。従って、Illumらは、デキストランサルフェート500またはポリスチレンマイクロスフェアを、試験物質の投与の前に、肝臓のRES構成要素であるKupffer細胞による試験物質の非特異的な取り込みをブロックするために投与した(Illumら、前出、1986)。さらに、Takeyaらは、肝臓中のRESは、炭素粒子、デキストランサルフェート500(DS−500)、または二酸化珪素を用いてブロックされ得ることを報告した(Takeyaら、前出、1977)。また、Kalinらは、RESのブロックはゼラチンコロイドを用いて達成され得ることを報告した(Kalinら、前出、1993)。RESによる非特異的取り込みをブロックするために有用な、これらのおよび種々の他の因子は、既知であり、日常的に使用されている。
【0082】
RESへのまたは他の部位への、ファージの望ましくない結合はまた、特定のファージディスプレイライブラリーを複製欠損された同じファージとともにマウスに同時注入することにより妨げられ得る(Smithら、前出、1990、1993を参照のこと)。さらに、RES構成要素を含む器官に帰巣するペプチドは、このような器官に低いバックグラウンド結合を示すファージを用いてファージディスプレイライブラリーを調製することにより同定され得る。例えば、Merrillら(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 93:3188−3192(1996)、これは本明細書中に参考として援用される)は、RESにより取り込まれず、その結果として、長期間、循環系に残存するλ型ファージを選択した。繊維状ファージ改変体は同様の方法を用いて選択され得る。
【0083】
本明細書中に開示されているように、肝臓におけるRESによるペプチド呈示ファージの取り込みは、例えば、増殖可能でない非感染ファージの同時投与によりブロックされた。CXライブラリーを発現するファージは、単独または過剰な非感染ファージとともにのいずれかで、マウスに注入された(実施例II.E.を参照のこと)。非感染ファージとライブラリーファージとの同時投与は、実質的に肝臓において回収されたファージの量を減少しそしてより小さな範囲の脾臓に減少した。一方、脳、腎臓、または肺から回収されたファージ数において、ほとんどまたは全く差異は観察されなかった。これらの結果は、肝臓および脾臓のような器官(少なくとも一部分は、これらの器官のRES構成要素により非特異的であり得る)によるファージの取り込みが、非感染ファージとペプチドディスプレイングファージライブラリーとの同時投与によってブロックされ得るということを示唆する。
【0084】
さらなる実験が、非感染ファージとの同時投与の際に肝臓に存在するファージが選択的に肝臓に帰巣したかどうかを決定するために行われた。ファージライブラリーが、非感染ファージと同時投与され、次いで第1回のインビボパンニングが後に肝臓から回収されたファージがインビトロで増幅され、そして第2回のインビボパンニングのために使用される(実施例II.E.を参照のこと)。ファージは、肝臓および脳(コントロール器官)から回収され、そして各回のインビボパンニングの後に定量された。肝臓に帰巣したファージは、第2回のインビボパンニング後に脳に比べてより多く回収され、第1回のインビボパンニング後に肝臓から回収されたファージの集団は、肝臓に選択的に帰巣するファージとともに富化された。これらの結果は、肝臓のような器官のRES成分がブロックされ得ることを実証し、従ってインビボパンニング法の使用により、選択的にこのような器官に帰巣する分子を同定することが可能である。
【0085】
肝臓で観察されたように、高量のファージ局在が肺においてまた観察された。しかし、肺によるファージの取り込みは、非特異的なものではなく、例えば、肺においてRES成分を構成する肺胞の食細胞による取り込みに起因する。特に、ファージの回収は、ファージライブラリーが単独で注入されたかまたは非感染ファージと同時投与されたかどうかにかかわらず、本質的に同じであった(実施例II.E.を参照のこと)。従って、肺において観察されたファージの高取り込み(PasqualiniおよびRuoslahti、前出、1996)は、肺における大量の脈管形成に起因するようである。
【0086】
選択的な帰巣は、コントロールの器官または組織に比べて、選択された器官または組織に対する器官帰巣分子の特異性を決定することにより実証され得る。例えば、最大9:1の脳:腎臓帰巣の比率が、脳帰巣ペプチドについて観察された(すなわち、選択された器官にコントロール器官に比べて9倍を超えて結合する;実施例II.A.を参照のこと)。
【0087】
選択的帰巣はまた、選択された器官に帰巣する分子が、1回のインビボパンニングにより同定されたように、続く回のインビボパンニングにおいて器官帰巣分子について富化されることを示すことにより実証され得る。例えば、選択的に脳に帰巣するペプチドを発現するファージは、インビボパンニングにより単離され、次いでさらなる回のインビボパンニングに供された。実施例II.A.に実証されるように、第1回のスクリーニング後の脳から回収されたファージは、第2回のスクリーニング後には、腎臓に比べて脳への帰巣において8倍の富化を示し、第3回のインビボパンニング後では13倍の富化を示した。選択的に脳に帰巣するペプチドが部分(すなわち、赤血球細胞(RBC))に連結された場合、ペプチド/RBC複合体は、選択的に脳に帰巣した(実施例II.D.)。
【0088】
細胞レセプターおよび特定のレセプターを結合するリガンドの保存された性質により、当業者は、例えば、マウスにおけるインビボパンニングを用いて同定された器官帰巣分子はまた、ヒトまたは他の種の選択された器官または組織において対応する標的分子に結合することを認識する。例えば、ヒト被験体における細胞により発現されるインテグリンに特異的に結合し得るRGO含有ペプチドはまた、種々の種において発現されているインテグリンを結合し得る。インテグリンは、哺乳動物の細胞(例えば、マウスおよびウシ細胞)において、ならびにより進化的に離れた種(例えば、ドロソフィア)の細胞において発現されるインテグリンを含む。マウスのような実験動物において、インビボパンニングを使用して同定された器官帰巣分子の能力は、例えば、その分子はまたヒト被験体から得られた選択された器官または組織のサンプルに、インビトロで特異的に結合し得ることを実証することにより、ヒト被験体において対応する器官または組織に結合する能力について容易に試験され得る。従って、日常的な方法は、実験動物においてインビボパンニングを用いて同定された器官帰巣分子がまた、ヒト被験体において器官特異的な標的分子を結合し得ることを確認するために用いられ得る。さらに、選択された器官または組織を含む疑いのあるサンプルと器官帰巣分子とのこのようなインビトロでの接触は、サンプルにおける選択された器官または組織の存在を同定し得る。
【0089】
さらに、腫瘍帰巣分子に関して、当業者は、例えば、黒色腫のような規定された組織学的型のマウス腫瘍を有するマウスにおいてインビボパンニングを用いて同定された腫瘍帰巣分子はまた、ヒトまたは他の哺乳動物種における黒色腫における対応する標的分子に結合し得ることを認識する。さらに、マウスにおいて増殖された腫瘍中の脈管形成に存在する標的分子を結合する腫瘍帰巣分子はまた、ヒトまたは他の哺乳動物被験体における腫瘍の脈管形成における対応する標的分子に結合し得る。実験動物においてインビボパンニングを使用して同定された腫瘍帰巣分子は、例えば、その分子はまた、インビトロで患者から得られた腫瘍のサンプルに特異的に結合し得ることを実証することにより、ヒト患者の対応する腫瘍に結合する能力について容易に試験され得る。従って、日常的方法は、実験動物において、インビボパンニングを用いて同定された腫瘍帰巣分子がまた、ヒト腫瘍の標的分子を結合し得ることを確認するために使用され得る。
【0090】
被験体にライブラリーを投与する工程、選択された器官または組織を採集する工程、そして選択された器官または組織に帰巣する分子を同定する工程は、単回のインビボパンニングを包含する。必要ではないが、1またはそれ以上のさらなる回数のインビボパンニングを一般に行う。さらなる回数のインビボパンニングを行う場合、以前の回において選択された器官または組織から回収された分子は、被験体に投与される。被験体は以前の回において使用された同じ被験体であり得、ここでは選択された器官または組織の一部のみを採集した。
【0091】
第2回のインビボパンニングを行うことによって、最初の回から回収した分子の相対的な結合選択性が、同定した分子を被験体に投与する工程、選択された器官または組織を採集する工程、そして最初の回のパンニングに比べて器官または組織からより多くのファージが回収されるかどうかを決定する工程により決定され得る。さらに、所望であれば、コントロールの器官または組織が採集され得、選択された器官から回収された分子とコントロールの器官から回収された分子とを比較するための基準として用いられ得る。さらなる回のインビボパンニングはまた、最初に選択された器官または組織から同定された分子はまた、さらなる器官または組織に帰巣し得るかどうかを示し得、従って選択された器官または組織のファミリーを規定する。さらなる回のパンニングは、所望されるように行われ得る。
【0092】
理想的には、分子は、第2回の、またはその後の回のインビボパンニング後にコントロール器官または組織からは回収されない。しかし、一般的には、ある割合の分子はまた、コントロールの器官または組織に存在する。この場合、コントロール器官に比べて選択された器官における分子の比率(選択された器官:コントロール器官)が、決定され得る。上記のように、例えば、第1回のインビボパンニング後に脳に帰巣するファージは、さらなる2回のパンニング後に、コントロール器官である腎臓に比べて選択された器官への帰巣においては13倍富化されたことを実証した(実施例II)。
【0093】
さらなる回のインビボパンニングは、特定の分子が選択された器官または組織にのみに帰巣するかどうか、または特定の分子が1つまたはそれ以上の他の器官または組織においてまた発現する選択された器官上に標的を認識し得るかどうか、または特定の分子が元来選択された器官または組織における標的に十分に類似するかどうかを決定するために使用され得る。分子が元来選択された器官以外の器官または組織への帰巣を指向することが見出される場合、この器官または組織は、選択された器官または組織のファミリーを構成すると考えられる。インビボパンニング法を用いることにより、単一の選択された器官または組織にのみ帰巣する分子および選択された器官または組織のファミリーに帰巣する分子が決定され得る。このような同定は、続く回のインビボパンニングの間、種々の器官または組織を採集することにより促進される。
【0094】
本明細書中で用いられる用語「選択された器官または組織」は、最も広い意味において、分子が選択的に帰巣する器官または組織を意味するために使用される。さらに、用語「器官または組織」は、器官、組織、または細胞型を意味するために広く使用され、選択された器官または組織が一次腫瘍または転移病巣のような腫瘍であり得る場合において、ガン細胞を包含する。一般に、選択された器官または組織は、器官帰巣分子が結合し得る細胞表面レセプターのような特定の標的分子を発現する細胞を含む。少なくとも2回のインビボパンニングを行うことにより、選択された器官または組織への分子の帰巣の選択性が決定され得る(実施例IIを参照のこと)。しかし、上記で考案したように、いくつかの場合では器官帰巣分子が1つより多くの器官または組織に選択的に帰巣し得る。このような場合、分子は選択された器官または組織のファミリーに選択的に帰巣し得ると考えられる。
【0095】
用語「コントロールの器官または組織」は、選択された器官以外の器官または組織を意味する。コントロールの器官または組織は、コントロールの器官または組織に帰巣する器官帰巣分子の無能力(inability)により特徴付けられる。コントロールの器官または組織は、分子の非特異的結合を同定するために有用である。コントロールの器官または組織を採集して、例えば、分子の非特異的結合を同定し得るが、または分子の帰巣選択性を決定し得る(実施例IおよびIIを参照のこと)。さらに、非特異的な結合は、例えば、ある器官または組織に帰巣しないことが知られているが、潜在的な器官帰巣分子に化学的に類似するコントロール分子を投与することによって同定され得る。あるいは、投与される分子が支持体に連結される場合、支持体単独での投与が、非特異的結合を同定するために用いられ得る。例えば、遺伝子IIIタンパク質を単独で発現するが、ペプチド融合タンパク質を含まないファージは、ファージ支持体の非特異的結合のレベルを決定するために、インビボパンニングによってスクリーニングされ得る。
【0096】
いくつかの場合、コントロールの器官または組織を同定するために、数回のインビボパンニングを行い得る。なぜなら元来の選択された器官に選択的に帰巣する分子はまた、さらなる器官または組織に選択的に帰巣する能力を有し得るからである。従って、選択された器官または組織のファミリーを決定する。選択された器官または組織の1つまたはファミリーに帰巣する分子の能力は、器官帰巣分子のパネルの調製を可能にし、個々の分子は1つの選択された器官または組織、または任意の選択された器官または組織のファミリーに変化しやすい選択性で様々に帰巣する。
【0097】
さらに、特定の型の腫瘍に選択的に帰巣する分子がまた、腫瘍が由来する正常な組織に選択的に帰巣する分子かどうかを決定することは有用であり得る。例えば、乳腫瘍に帰巣する分子がまた、正常な乳組織にも帰巣するかどうかを決定することは望ましくあり得る。従って、腫瘍帰巣分子を同定するためにインビボパンニングを使用する場合は、腫瘍に対応する正常組織サンプルは、分子の帰巣が、腫瘍細胞または腫瘍に存在する血管組織によってのみ発現される標的分子に対して選択的であるかどうか、または腫瘍が由来する器官または組織において正常に発現される標的分子に対して選択的であるかどうかを決定するために試験され得る。
【0098】
一般に、分子のライブラリー(無作為のまたは選択的に無作為化された目的の分子の異なる集団を含む)が調製され、次いで被験体に投与される。投与後の選択された時間に、被験体を屠殺し、そして選択された器官または組織あるいはその器官または組織の一部が採集されて、選択された器官または組織に存在する分子が同定され得る。例えば、マウスをファージペプチドディスプレイライブラリーで注入し、次いで約1〜4分後、マウスを麻酔し、ファージの循環を終結させるために液体窒素中で凍結し、選択された器官(脳または腎臓;実施例IおよびIIを参照のこと)または組織(乳腫瘍または黒色腫;実施例IIIを参照のこと)を採集し、選択された器官に存在するファージを回収し、そして選択された器官または組織に選択的に帰巣したペプチドを同定した。
【0099】
提供する実施例において、動物は、選択された器官または組織を採集するために屠殺された。しかし、その器官に帰巣する分子を回収するために、選択された器官の一部のみが採集されるのに必要であることが認識されるべきである。例えば、選択された器官または組織の一部は、バイオプシーによって採集され得、ファージにより発現されたペプチドのような分子は、所望のように、同じ被験体に2回またはそれ以上投与され得る。同じ被験体に2回投与される分子が、例えば、支持体またはタグに連結される場合、この支持体またはタグは、その後の回のスクリーニングを妨害しないように、非毒性でなくてはならず、または生分解性であるべきである。
【0100】
インビトロのファージライブラリースクリーニングは以前に、抗体または細胞表面レセプターに結合するペプチドを同定するために使用されている(SmithおよびScott、前出、1993)。例えば、ファージペプチドディスプレイライブラリーのインビトロのスクリーニングは、インテグリン接着レセプター(Koivunenら、J.Cell Biol. 124:373−380(1994a)、これは本明細書中に参照として援用される)およびヒトウロキナーゼレセプター(Goodsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 91:7129−7133(1994))に特異的に結合する新規のペプチドを同定するために使用されている。しかし、このようなインビトロの研究は、インビトロで選択されたレセプターに特異的に結合し得るペプチドはまた、インビボでレセプターに結合するかどうか、または結合ペプチドまたはレセプターが身体の特定の器官に独特であるかどうかということについては何の洞察も提供しない。さらに、インビトロ法は、人工系において決定され、十分に特徴づけられた標的分子を用いて行われる。例えば、Goodsonらは組換えウロキナーゼレセプターを発現する細胞を利用した。従って、インビトロ法は、標的分子の先の知識を必要とし、そしてインビボの有用性に関する情報はたとえあったにせよほとんど生じない。対照的に、本明細書に開示したインビボパンニング法は先の知識または標的分子の利用性を必要とせず、そして、それゆえ、インビボで選択的に帰巣する分子および器官または組織内に存在する標的分子を同定することにより、以前の方法よりも有意な利点を提供する。
【0101】
インビボパンニングの開示された方法が作用されるメカニズムは完全に決定されていないが、一つの可能性は、ファージ上で発現するペプチドのような分子は、選択された器官における血管に並ぶ内皮細胞上に存在する標的分子を認識して結合することである。この証拠は、例えば、種々の器官における管組織はお互い異なっており、そしてこのような差異は体内を通行する細胞の調節することに関与し得ることを示す。例えば、リンパ球はリンパ節または他のリンパ組織に帰巣し、一部分は、これらの組織における内皮細胞による特異的「アドレス」分子の発現に起因する(Salmiら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 89:11436−11440(1992))。同様に、種々の白血球は、炎症の部位を認識し得、一部分は、炎症シグナルにより誘導される内皮細胞マーカーの発現に起因する(ButcherおよびPicker、Science
272:60−66(1996);Springer,Cell 76:301−314(1994)を参照のこと)。さらに、腎臓糸球体に存在する内皮細胞は、心房のナトリウム尿排泄増加性ペプチドの結合タンパク質(LewickiおよびProtter、「高血圧、病態生理学、診断、および処置」第2版(Raven Press 1995),第61章を参照のこと)を含む。従って、内皮細胞マーカーは、例えば、被験体における特定器官に薬物を指向させるために、潜在的な標的を提供する。
【0102】
いくつかの場合において、特定の器官に対するガン細胞の転移はまた、器官特異的マーカー(器官特異的内皮細胞マーカーを含む)の腫瘍細胞による認識に起因し得る(FidlerおよびHart,Science 217:998−1003(1982))。多くのガンの転移パターンは、循環する腫瘍細胞が遭遇する第1の脈管床において優先的にトラップされることを仮定することによって説明され得る。従って、肺および肝臓は、ガン転移の最も頻繁な部位である。しかし、いくつかのガンは、循環経路により説明されない転移パターンを示す。このようなガンの転移は、ガンが転移する器官において発現される内皮細胞表面分子のような選択的に発現されるアドレス分子の存在に代わりに起因し得る(Goetzら、Intl.J.Canc. 65:192−199(1996);Zhuら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 88:9568−9572(1991);Pauliら、Canc.Metast.Rev. 9:175−189(1990);Nicolson、Biochim.Biophys.Acta 948:175−224(1988)を参照のこと)。このような器官特異的内皮細胞マーカーに結合する分子の同定は、腫瘍細胞が特定の器官に転移することを妨げる手段を提供し得る。
【0103】
脳、腎臓、および二つの異なった実験的腫瘍は、これらの選択された器官または組織に選択的に帰巣するペプチドを発現するファージを同定するための標的器官または組織として選択された。なぜならこれらの器官内における血管が独特の特徴を有するからである。例えば、脳内の血管は「血液脳関門」を形成し、そして少なくとも一つの特異的な抗原を発現する(SchlosshauerおよびHerzog、J.Cell Biol. 110:1261−1274(1990))。さらに、腫瘍内の脈管形成は一般に活性な血管形成をうけ、増殖する腫瘍を支持するために新しい血管の連続的形成が生じる。このような血管系の血管は、その血管系の脈管形成が、内皮細胞表面マーカー(αβインテグリン(Brooks,Cell 79:1157−1164(1994)を含む)、および血管系の増殖因子のレセプター(MustonenおよびAlitalo、J.Cell Biol. 129:895−898(1995);Lappi,Semin.Canc.Biol.6:279−288(1995))が単独で発現することにおいて、成熟脈管形成と区別できる。さらに、腫瘍脈管形成は、一般に腫瘍の脈管形成は有窓であるという点で組織学的に血管と区別できる(Folkman、Nat.Med. 1:27−31(1995);Rakら、Anticancer Drugs 6:3−18(1995))。従って腫瘍脈管形成の独特の特徴は、腫瘍脈管形成を腫瘍に特異的に帰巣する分子がインビボパンニングによって同定され得るかどうかを決定することに対して特に魅力のある標的にする。このような腫瘍帰巣分子は、腫瘍に対する化学療法薬のような因子を指向するが、一方この因子は正常で健康な器官または組織に対して毒性の影響を有する見込みを減少させるために有用であり得る。さらに、腫瘍脈管形成に選択的に帰巣する分子はまた、炎症性組織、再生または創傷組織に存在するような他の型の新生血管系を標的化することにおいてまた用いられ得る。
【0104】
インビボパンニングを用いて、脳に、腎臓に、乳腫瘍に、または黒色腫に選択的に帰巣する種々のペプチドを発現するファージが同定された(表1〜4を参照のこと)。大きなサイズのファージ(300nm)および短時間でのファージの循環に起因して、実質的に多くのファージが循環系、特に脳および腎臓において存在しなかったようである。従って、同定された器官帰巣分子は、器官特異的な様式で発現されている内皮細胞表面マーカー(例えば、Springer、Cell 76:301−314(1994)を参照のこと)に帰巣し、そしてこれを主に結合した。これらの結果は、インビボパンニングは内皮細胞特異性を同定し、分析するために使用され得ることを示す。
【0105】
脳帰巣ペプチドCLSSRLDAC(配列番号3)を示すファージの投与後の脳の免疫組織化学的染色で、脳の毛細血管内での染色が示された。脳の任意の特定の領域へのファージの帰巣についての明白な優先は観察されなかった(PasqualiniおよびRuoslahti、前出、1995)。同様に、腎臓帰巣ペプチドCLPVASC(配列番号21)を発現するファージは、腎臓毛細血管、特に糸球体と細管との間に局在した。このような分析は、培養中の内皮細胞を用いては可能ではない。なぜなら、培養細胞はこれらの組織特異的な差異を失う傾向があるからである(PauliおよびLee、Lab.Invest. 58:379−387(1988))。
【0106】
インビボパンニングが行われた条件で、一般に内皮細胞マーカーに結合する器官帰巣ペプチドを同定するが、腫瘍帰巣ペプチドを発現するファージの特異的な結合もまた、腫瘍実質において観察された。このことは、器官または組織内の特異的な細胞上で発現される標的分子がまた同定され得ることを示す(実施例IIIを参照のこと)。これらの結果は、ペプチドを発現しているファージは、腫瘍内の血管を通過し得るか、または血管から漏出し得ることを示し、これはおそらく血管の有窓性質に起因する。肝臓のような、種々の正常な器官はまた、例えば、ある実質細胞にペプチドを発現しているファージが特定の柔組織細胞に接触することを可能にする脈管形成を含む。従って、インビボパンニングは、器官内の特定の細胞または特定の組織型に、ならびに内皮細胞に帰巣する分子を同定するために有用であり得る。
【0107】
ファージペプチドディスプレイライブラリーは、本質的にSmithおよびScott(前出、1993;Koivunenら、Biotechnology
13:265−270(1995)も参照のこと。これは、本明細書中に参考として援用される)に記載されているように構築された。実質的にランダムなアミノ酸配列を有するペプチドをコードするオリゴヌクレオチドは、「NNK」コドンに基づいて合成された。ここで、「N」は、A、T、CまたはGであり、そして「K」は、GまたはTである。「NNK」は、20個のアミノ酸およびアンバー停止コドンをコードする32個のトリプレットをコードする(ScottおよびSmith、前出、1990)。システインをコードする少なくとも一つのコドンはまた、環状ペプチドがジスルフィド結合によって形成され得るように、各オリゴヌクレオチドに含まれた(実施例Iを参照のこと)。オリゴヌクレオチドは、ペプチド−gIII融合タンパク質が発現され得るように、ベクターfuse 5内に遺伝子IIIタンパク質(gIII)をコードする配列とともにインフレームで挿入された。発現に続いて、融合タンパク質は、ベクターを含むファージの表面上で発現される(SmithおよびScott、前出、1993;Koivunenら、Meth.Enzymol. 245:346−369(1994b)、これは、本明細書中に参考として援用される)。
【0108】
注目すべきことに、インビボパンニング後、脳、腎臓、または腫瘍に選択的に帰巣したファージは、ほんの少しの異なるペプチド配列を呈示した(表1〜4ならびに実施例IIおよびIIIを参照のこと)。いくつかの場合において、同じアミノ酸配列を有するペプチドは、このペプチドをコードする異なるオリゴヌクレオチド配列を有するファージによってコードされた。さらに、脳帰巣ペプチドのファミリーが同定された。ここで、このファミリーにおけるそれぞれのペプチドは、共通のアミノ酸モチーフであるSRL(セリン−アルギニン−ロイシン)を含んでいたが、異なるフランキングアミノ酸配列を含んでいた(表1;配列番号1、3、および5を参照のこと)。さらに二つの異なるペプチドが、モチーフVLR(バリン−ロイシン−アルギニン;表1、配列番号4および16を参照のこと)を示した。これらの結果は、選択された器官または組織への帰巣を指向するのは、ファージの何らかの偶発的な変異体特性よりもむしろ、ファージによって呈示されるペプチドであることを実証する。
【0109】
脳、腎臓、または腫瘍に帰巣するモチーフの配列は、内皮細胞レセプターの公知のリガンドに対していかなる有意な類似性も示さないだけではなく、種々のデータバンクに列記されるどの配列とも似ていない。しかし、脳帰巣モチーフのいくつかは、インテグリン結合配列と類似性を共有する。例えば、一つの脳帰巣ペプチドは、RLD配列を含有し、RLD配列は、特定のインテグリンによって認識され(Altieriら,J.Biol.Chem.265:12119−12122(1990);Koivunenら,前出,1994a)、そして別のペプチドにおけるDXXR(配列番号44)モチーフは、特定のインテグリンと結合する、RGD、DGR、およびNGRモチーフと似ている(Ruoslahti,J.Clin.Invest. 87:1−5(1991);Koivunenら、前出,1994a)。
【0110】
インビボパンニングはまた、腫瘍に選択的に帰巣する分子を同定するために使われた。乳腫瘍を有するマウスはファージライブラリーを注射され、そして乳腫瘍に帰巣したファージは回収され、14個のファージのペプチドが決定された(実施例III.Aを参照のこと)。14個のファージは、14個のファージのうち6個で発現されたペプチドCGRECPRLCQSSC(配列番号48)を含む4つの異なるペプチドを発現した。
【0111】
腫瘍に帰巣する分子を同定するためのインビボパンニング法の一般的な適用は、同系黒色腫を有するマウスに様々なペプチド集団を発現するファージを注射することにより調べられた(実施例III.B.を参照のこと)。B16マウス黒色腫モデルは、これらの研究のために選択された。なぜなら形成する腫瘍は、高度に血管化されるためであり、そしてこの腫瘍系統の生物学は、完全に特徴づけられていたからである(Minerら,Cancer Res. 42:4631−4638(1982)を参照のこと)。さらに、B16黒色腫細胞はマウス起源であるため、宿主と腫瘍細胞ドナーとの間での種の相異は影響しない(例えば、正常な器官と比較して腫瘍へのファージの分布)。
【0112】
脳(コントロール器官)と比較して腫瘍に帰巣する約3倍富化されたファージが得られた。特に、二つのペプチド、WGTGLC(配列番号52)およびCLSGSLSC(配列番号55)は、腫瘍から回収されたファージで発現され、そして配列決定されたペプチドの75%より多くを表した(実施例III.B.を参照のこと)。抗ファージ抗体を使用する、腫瘍および他の器官の免疫組織化学的染色は、CLSGSLSC(配列番号50)を発現するファージは、黒色腫において強い染色を生じたが、しかし皮膚または腎臓(コントロール器官)において本質的に染色を生じないことを実証した。染色パターンは、一般的に黒色腫内の血管に沿っていたが、しかし、厳密に血管に限定されたわけではなかった。これらの結果は、腫瘍帰巣分子は、インビボパンニングによって同定され得、そしておそらく循環系からのファージの容易な退出を可能にする血管の有窓性のため、このような分子は、腫瘍ならびに腫瘍実質における脈管組織に帰巣し得ることを示す。
【0113】
「RE」および「NGR」のような潜在的なインテグリン結合モチーフを含有する脳帰巣ペプチドおよび乳腫瘍帰巣ペプチドの同定は、インビボパンニングが、インテグリン結合ペプチドを同定するために有用であり得ることを示す(Koivunenら、前出、1995を参照のこと)。例えば、αβインテグリンは、脈管形成を受ける血管において発現されるが、静止期の内皮細胞においては発現されない。αβインテグリンに対するペプチドまたは抗体アンタゴニストの結合は、おそらく細胞外マトリックスに対するαβインテグリンの結合の結果として、増殖内皮細胞に伝達されるシグナルを中断することにより、脈管形成管のアポトーシスを誘導する(Brooksら、前出、1994)。
【0114】
αβインテグリンは、脈管形成血管系における内皮細胞によって発現されるので、実験は、脈管形成を受ける腫瘍の血管系が、本明細書中で開示されるような方法を使用してインビボで標的化され得るかどうか決定するために行われた。αβインテグリンと結合することが知られているペプチド、CDCRGDCFC(配列番号57;「RGDファージ」;Koivunenら、前出、1995を参照のこと)を発現するファージは、ヒト乳ガン細胞、ヒト黒色腫細胞、またはマウス黒色腫細胞から形成された腫瘍を有するマウスに注射された(実施例IVを参照のこと)。RGDファージは、それぞれの腫瘍に選択的に帰巣するが、一方このような帰巣は、コントロールファージでは起こらなかった。例えば、ヒト乳ガン細胞の移植によって形成された腫瘍を有するマウスにおいて、選択されないコントロールファージと比較して、20〜80倍多い数のRGDファージが腫瘍内に蓄積した。
【0115】
ファージについての組織染色は、腫瘍内の血管におけるRGDファージの蓄積を示したが、一方脳または腎臓(コントロール器官)において、染色は観察されなかった。RGDファージの腫瘍帰巣の特異性は、競合実験によって実証された。競合実験において、RGD含有ペプチドの同時注入は、RGDファージの腫瘍帰巣を著しく低下させたが、一方非RGD含有コントロールペプチドの同時注入は、RGDファージの帰巣には効果がなかった(実施例IVを参照のこと)。これらの結果は、αβ標的分子は、腫瘍における内皮細胞の管腔表面上で発現され、そしてα含有インテグリンと結合するペプチドは、このインテグリンと選択的に結合し得、従って脈管形成を受ける血管系と選択的に結合し得るということを実証する。これらの結果を考慮して、当業者は、RGDペプチドまたはαインテグリンと結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体LM609、これは、αβインテグリンと結合する(Brooksら、前出、1994を参照のこと))は、脈管形成血管系を含有する腫瘍を包含する、脈管形成血管系を含有する器官または組織を標的化するために使用され得ることを認識する。
【0116】
特定の腫瘍に帰巣する分子の同じまたは類似の組織学的タイプの別の腫瘍に選択的に帰巣する能力は、例えば、これらの実験のためにヌードマウスで増殖させたヒト腫瘍または同系マウスで増殖させたマウス腫瘍を使用して決定され得る。例えば、MDA−MB−435乳ガン(Priceら、Cancer Res.
50:717−721(1990))、SKBR−1−IIおよびSKBR−3(Foghら、J.Natl.Cancer Inst. 59:221−226(1975))を包含する種々のヒト乳ガン細胞株、ならびにEMT6(Rosenら、Intl.J.Cancer 57:706−714(1994)およびC3−L5(LalaおよびParhar,Intl.J.Cancer
54:677−684(1993))を包含するマウス乳ガン株は容易に入手でき、そしてヒト乳ガンのためのモデルとして一般に使用される。このような乳腫瘍モデルを使用して、例えば、様々な乳腫瘍について同定された乳腫瘍帰巣分子の特異性に関する情報が得られ得、そして広い範囲の様々な乳腫瘍に帰巣するか、または最も有利な特異性プロフィールを提供する分子が同定され得る。さらに、このような分析は、新しい情報を、例えば、腫瘍支質について、得られ得る。なぜなら、内皮細胞の遺伝子発現のような支質細胞の遺伝子発現は、インビトロで再現され得ない方法で腫瘍によって改変され得るからである。
【0117】
選択された器官または組織に対する分子(例えば、ペプチドまたはタンパク質)の選択的帰巣は、特定の細胞標的分子(例えば、器官または組織において細胞上に存在する細胞表面レセプター)のペプチドによる特異的認識に起因し得る。帰巣の選択性は、分子が一つのみまたは少しの器官または組織に帰巣するように、一つのみまたは少しの異なる細胞型で発現される特定の標的分子に依存する。上記で議論したように、同定された脳、腎臓、および少なくとも一部は腫瘍に帰巣するペプチドは、これらの器官または組織に存在する血管における内皮細胞表面マーカーを認識するようである。しかし、ほとんどの異なる細胞型、特に器官または組織に独特である細胞型は、独特の標的分子を発現し得る。従って、血液が器官に特異的な細胞によって形成された洞様毛細血管を通って循環する、肝臓、脾臓またはリンパ節のような器官において、インビボパンニングは、特定の器官に帰巣する分子を同定するために有用であり得る。
【0118】
器官帰巣分子(例えば、表1〜4に例示されるペプチド)は、部分(moiety)を分子に結合させることにより、選択された器官または組織に対して部分を指向させるために使用され得る。本明細書中において用いられる用語「部分(moiety)」は、器官帰巣分子に結合される、物理的、化学的、または生物学的な物質を意味するように広く使われる。例えば、部分は、薬物のような因子であり得、または因子を含有し得る室のあるマイクロデバイス(chambered microdevice)であり得る。さらに、部分は、タンパク質または核酸のような分子であり得、器官帰巣分子は、タンパク質または核酸を選択された器官または組織に指向させる目的のために部分と合体される。例えば、ペプチドの器官帰巣分子は、ペプチドがタンパク質を選択された器官に指向させるような所望のタンパク質を有する融合タンパク質として発現され得る。
【0119】
部分は、放射性標識のような検出可能な標識であり得、あるいは毒素(例えば、リシン)または薬物(例えば、化学療法剤)を含む細胞傷害性因子であり得、あるいは物理的、化学的、または生物学的な物質(例えば、リポソーム、マイクロカプセル、マイクロポンプ、または他の室のあるマイクロデバイス、これらは、例えば、薬物送達系として使用され得る)であり得る。一般的に、このようなマイクロデバイスは、非毒性で、そして所望であれば生分解性であるべきである。因子を含有し得る種々の部分(マイクロカプセルを包含する)、および部分または室のあるマイクロデバイスを本発明の分子と結合させるための方法は、当該分野で周知であり、そして商業的に利用可能である(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」第18版、(Mack Publishing Co. 1990)、第89〜91章;HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press 1988)を参照のこと、これらのそれぞれは本明細書中に参考として援用される;Hermanson、前出、1996もまた参照のこと)。
【0120】
選択された器官または組織に部分の帰巣を指向させる目的のために、器官帰巣分子への部分の結合は、RBCへの脳帰巣ペプチドの結合によって例示される。ここで、このペプチドは、脳へのRBCの帰巣を指向した(実施例II.D.を参照のこと)。これらの結果は、本発明の器官帰巣分子は、他の細胞型あるいは物理的、化学的、または生物学的な送達系(例えば、選択された器官または組織にその細胞型または送達系を指向させるために、薬物のような因子を含有し得るリポソームまたは他のカプセル化デバイス)と結合され得ることを示す。例えば、インビボパンニングによって同定される腫瘍帰巣分子は、白血球(WBC)(例えば、細胞傷害性T細胞またはキラー細胞)と結合され得、ここで、腫瘍帰巣分子/WBC複合体の投与に際し、この分子は、WBCの腫瘍への帰巣を指向し、そこでWBCは、そのエフェクター機能を働かせ得る。同様に、器官帰巣分子は、リポソームあるいは、例えば、透過性または半透過性の膜を含有するマイクロカプセルと結合され得る。ここで、選択された器官または組織に送達されるべき因子(例えば、薬物)は、リポソームまたはマイクロカプセル内に含有される。
【0121】
一つの実施態様において、器官帰巣分子は、インビボ診断画像化研究を行うために、被験体の外部で検出され得る部分と結合される。例えば、検出可能に標識された脳帰巣ペプチドを使用するインビボ画像化は、循環が閉塞される脳内の領域を同定し得る。このような研究のために、γ線放出放射性核種(例えば、インジウム−111またはテクネチウム−99)が脳帰巣分子と結合され得、そして被験体への投与の後、固体シンチレーション検出器を使用して検出され得る。あるいは、陽電子放出放射性核種(例えば、炭素−11)または常磁性スピン標識(例えば、炭素−13)は、この分子と結合され得、そして被験体への投与後に、部分/分子の局在が、それぞれ陽電子放射断層撮影法または核磁気共鳴画像法を使用して検出され得る。
【0122】
このようなインビボ画像法はまた、腫瘍細胞によって、または腫瘍内の脈管形成により形成される血管によって発現される独特の標的を認識し得る腫瘍帰巣分子に適切な部分を結合させることによって、被験体内のガンの存在を同定するために使用され得る。このような方法は、他の方法を使用して検出されないかもしれない初期性腫瘍ならびに転移性病巣を同定し得る。このようなガンの存在が同定されれば、本発明の別の実施態様において、腫瘍帰巣分子は、腫瘍に対して部分を指向させるために細胞傷害性因子(例えば、リシンまたはガン化学療法剤)と結合され得るか、または例えば、化学療法薬または他の細胞傷害性因子を含有し得る室のあるマイクロデバイスと結合され得る。このような方法は、腫瘍の選択的殺傷を可能にするが、一方実質的に正常な組織は助命する。
【0123】
被験体に投与される場合、分子/部分複合体は、例えば、複合体および薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物として投与される。薬学的に受容可能なキャリアは、当該分野で周知であり、そして例えば、水溶液(例えば、水または生理学的緩衝化食塩水)あるいは他の溶媒またはビヒクル(例えば、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような油または注入可能な有機エステル)を包含する。
【0124】
薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、複合体の吸収を安定化または増加させるように作用する生理学的に受容可能な化合物を含有し得る。このような生理学的に受容可能な化合物は、例えば、グルコース、スクロースまたはデキストランのような炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンのような抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、あるいは他の安定剤または賦形剤を包含する。当業者は、生理学的に受容可能な化合物を含む薬学的に受容可能なキャリアの選択が、例えば、その組成物の投与経路に依存することを知っている。薬学的組成物はまた、ガン治療剤のような因子を含有し得る。
【0125】
当業者は、器官帰巣分子を含有する薬学的組成物は、例えば、経口または非経口(例えば、静脈内)を包含する種々の経路によって、被験体に投与され得ることを知っている。この組成物は、注射または挿管によって投与され得る。薬学的組成物はまた、例えば化学療法剤のような薬物をそれらの中に取り込み得る、リポソームまたは他のポリマーマトリックスに結合された器官帰巣分子であり得る(Gregoriadis,Liposome Technology,第1巻(CRC Press,Boca Raton,FL 1984)、これは、本明細書中に参考として援用される)。例えば、リン脂質または他の脂質からなるリポソームは、非毒性で、生理学的に受容可能で、かつ代謝可能なキャリアであり、作製および投与が比較的簡略である。
【0126】
本明細書において開示された診断方法または治療方法のために、分子/部分複合体の有効量が被験体に投与されなければならない。本明細書中で用いられる用語「有効量」は、所望の効果を生じる複合体の量を意味する。有効量は、しばしば器官帰巣分子と結合される部分に依存する。従って、治療目的のために投与される薬物/分子複合体の量と比較して、より少ない量の放射性標識分子が、画像化に必要とされ得る。特定の目的のための特定の分子/部分の有効量は、当業者に周知の方法を使用して決定され得る。
【0127】
器官帰巣分子の投与経路は、部分的に、分子の化学構造に依存する。例えばペプチドは、経口投与される場合、それらが消化管内で分解され得るために、特に有用というわけではない。しかし、内在性プロテアーゼによる分解を受けにくくするか、または消化管を通してより吸収され易くするために、ペプチドを化学的に修飾するための方法は、周知である(例えば、Blondelleら、前出、1995;EckerおよびCrooke、前出、1995;GoodmanおよびRo、前出、1995を参照のこと)。このような方法は、インビボパンニングによって同定されるペプチドについて実施され得る。さらに、ペプチドアナログ(例えば、D−アミノ酸を含有するペプチド;ペプチドの構造を模倣する有機分子からなるペプチド模倣物;またはビニル性(vinylogous)ペプトイドのようなペプトイド)のライブラリーを調製するための方法は、当該分野で公知であり、そして選択された器官または組織に帰巣し、かつ経口投与に安定な分子を同定するために使用され得る。
【0128】
本明細書中で開示される方法を使用して得られる器官帰巣分子はまた、器官帰巣分子によって認識される標的分子(例えば、細胞表面レセプターまたはレセプターに対するリガンド)の存在を同定するために、または標的分子を実質的に単離するために有用であり得る。例えば、器官帰巣ペプチドは、固体支持体(例えば、クロマトグラフィーマトリックス)に結合され得る。次いで、結合されたペプチドは、特定の標的分子を結合するために、選択された器官または組織の適切に処理されたサンプルをカラムに通過させることによるアフィニティークロマトグラフィーに使用され得る。次いで、器官帰巣分子と複合体を形成する標的分子が、カラムから溶出され得、そして実質的に単離された形態で採集され得る。実質的に単離された標的分子は、周知の方法を使用して特徴づけられ得る。器官帰巣分子はまた、検出可能な部分(例えば、放射性核種、蛍光分子、酵素、またはビオチン)に結合され得、そして例えば、標的分子の存在を検出するためにサンプルをスクリーニングするために、または種々の単離工程の間に標的分子を追跡するために使用され得る。
【0129】
本発明の方法は、選択された器官または組織へ選択的に帰巣するペプチドを同定するために使用された。従って、本発明はまた、脳帰巣ペプチド(例えば、CNSRLHLRC(配列番号1)、CENWWGDVC(配列番号2)、WRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)、および表1に示されるような他のペプチド);腎臓帰巣ペプチド(例えば、CLPVASC(配列番号21)、CGAREMC(配列番号22)、および表2に示されるような他のペプチド);腫瘍帰巣ペプチド(例えば、乳腫瘍帰巣ペプチドCGRECPRLCQSSC(配列番号48)および表3に示されるような他のペプチド);ならびに黒色腫帰巣ペプチド(WGTGLC(配列番号52)、CLSGSLSC(配列番号55)および表4に示されるような他のペプチド)を包含する、器官帰巣ペプチドを提供する。
【0130】
システイン残基が、ペプチドの環状化がもたらされ得るようにペプチド内に含有されたことは認識されるべきである。実際に、少なくとも2つのシステイン残基を含有するペプチドは、自発的に環状化する。しかし、このような環状ペプチドはまた、線状形態で存在する場合、活性であり得る(例えば、Koivunenら、J.Biol.Chem. 268:20205−20210(1993)を参照のこと)。従って、いくつかの場合において、ペプチド内の1つまたは両方のシステイン残基は、本発明のペプチドの器官帰巣活性に著しく影響することなく、欠失され得る。例えば、配列LSSRLDA(配列番号19;配列番号3と比較のこと)を有するペプチドはまた、脳帰巣ペプチドであり得る。同様に、WRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)のようなペプチドにおける、最初および最後のシステイン残基に対するそれぞれN末端およびC末端のアミノ酸残基は、実質的にこのペプチドの脳帰巣活性を変えることなく分配され得る。従って、配列VLREGPAGG(配列番号20)を有するペプチドはまた、脳帰巣ペプチドとして有用であり得る。本発明のペプチドの器官帰巣活性について、システイン残基またはシステイン残基に対してN末端およびC末端のアミノ酸残基の必要性を決定する方法は、日常的であり、そして当該分野で周知である。
【0131】
器官帰巣ペプチドは、例えば、上記で議論したように所望の部分を選択された器官または組織に対して標的化するために有用である。さらに、器官帰巣ペプチドは、サンプルにおける標的分子の存在を同定するために使用され得る。本明細書内で用いられる用語「サンプル」は、身体から単離される細胞、組織、器官またはそれらの一部を意味するその最も広い意味で使用される。例えば、サンプルは、生検によって得られる組織切片または標本あるいは組織培養に置かれるか、または適応させられた細胞であり得る。所望であれば、サンプルは、例えばホモジナイゼーションによって処理され得、それは器官帰巣分子が結合する標的分子を単離するための最初の工程であり得る。
【0132】
器官帰巣ペプチド(例えば、脳帰巣ペプチド)は、脳において発現される標的分子を同定するために使用され得る。例えば、脳帰巣ペプチドは、ペプチドアフィニティーマトリックスを生成するために、マトリックス(例えば、クロマトグラフィーマトリックス)に付着され得る。ホモジナイズされた脳のサンプルは、脳帰巣ペプチドの標的分子に対する特異的な結合を可能にする条件下で、ペプチド−アフィニティーマトリックスにアプライされ得る(例えば、Deutshcer,Meth.Enzymol.,Guide to Protein Purification(Academic Press,Inc.,M.P.Deutscher編,1990),第182巻を参照のこと;これは、本明細書中に参考として援用される;例えば、357〜379頁を参照のこと)。結合しない物質および非特異的に結合した物質は取り除かれ得、そして特異的に結合した脳由来標的分子が、実質的に精製得された形態で単離され得る。
【0133】
開示されたインビボパンニング法は、腫瘍における異なる4種類の標的分子を検出するために使用され得る。最初に、腫瘍血管系は活発な脈管形成を受けるので、一般的には脈管形成血管系または特に脈管形成腫瘍血管系に特徴的である標的分子が同定され得る。2番目に、腫瘍起源の組織に特徴的である脈管標的分子が同定され得る。3番目に、特定のタイプの腫瘍の血管系において発現される標的分子が同定され得る。4番目に、腫瘍支質または腫瘍細胞標的分子は、腫瘍血管系の有窓性によって同定され得る。これは、潜在的な器官帰巣分子を循環から離れさせ、そして腫瘍実質を接触させることを可能にする。
【0134】
器官または組織サンプルを使用する代わりのものとして、培養された内皮細胞の抽出物は、サンプル内のレセプター濃度を増加させるために出発物質として使用され得る。例えば、BEND細胞のような脳由来内皮細胞株(Montesanoら、Cell 62:435−445(1990)、これは、本明細書中に参考として援用される)は、脳帰巣ペプチドの特定のレセプターの発現について調べられ得る(1995年10月9日に提出されたPCT/FR95/01313も参照のこと、これは、本明細書中に参考として援用される)。レセプターの存在は、ファージ結合および細胞接着アッセイ(例えば、Barryら、Nat.Med. 2:299−305(1996)を参照のこと、これは、本明細書中に参考として援用される)を使用することにより確立され得る。
【0135】
特定のレセプターを発現する細胞株が同定され得、そしてこの細胞の表面のヨウ素化は、レセプターを標識するために使用され得る。次いで、細胞はオクチルグルコシドで抽出され得、そして抽出物はマトリックス(例えば、SepharoseTM)に結合された脳帰巣ペプチド(表1を参照のこと)を使用してアフィニティークロマトグラフィーによって分画され得る。HUVEC細胞(ヒト臍静脈内皮細胞)から調製される抽出物は、脳由来内皮細胞のコントロールとして使用され得る。精製されたレセプターは微小配列決定され得、そして抗体が調製され得る。所望であれば、オリゴヌクレオチドプローブが調製され得、そしてレセプターをコードするcDNAクローンを単離するために使用され得る。あるいは、抗レセプター抗体は、発現ライブラリーからcDNAクローンを単離するために使用し得る(Argravesら、J.Cell Biol. 105:1183−1190(1987)を参照のこと、これは、本明細書中に参考として援用される)。
【0136】
レセプターを単離する代わりのものとして、レセプターをコードする核酸は、哺乳動物細胞発現クローニング系(例えば、COS細胞系)を使用して単離され得る。適切なライブラリーは、例えば、初代脳内皮細胞由来のmRNAを使用して調製され得る(Latheyら、Virology 176:266−273(1990)、これは、本明細書中に参考として援用される)。核酸は、例えば、pcDNAIベクター(Invitrogen)内にクローン化され得る。レセプターのcDNAを発現する細胞は、脳帰巣ペプチドに結合することによって選択され得る。精製されたファージは、ペプチドのキャリアとして使用され得、そして例えば抗M13抗体(Pharmacia)でコートされた磁気ビーズに付着され得る。ペプチドコーティングに結合する細胞は、磁石を使用して回収され得、そしてプラスミドが単離され得る。次いで、回収されたプラスミド調製物は、プールに分けられ得、そしてCOS細胞トランスフェクションにおいて調べられ得る。この手順は、脳帰巣ペプチドに結合する能力をCOS細胞に与え得る単一のプラスミドが得られるまで繰返され得る。
【0137】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図するが、本発明を制限しない。
【実施例】
【0138】
(実施例I:インビボパンニング)
本実施例は、ファージライブラリーを調製する方法、およびインビボパンニングを使用してライブラリーをスクリーニングすることにより選択された器官または組織に帰巣するペプチドを発現するファージを同定する方法を示す。
【0139】
(A.ファージライブラリーの調製)
ファージディスプレーライブラリーを、Koivunenら(前出、1995;Koivunenら、前出、1994bもまた参照のこと)によって記載されたようにfuse5ベクターを使用して構築した。CXC(配列番号36)、CXC(配列番号37)、CXC(配列番号38)、CX(配列番号39)、XCX14CX(配列番号40)およびXCX18(配列番号41)と称するペプチドをコードする6つのライブラリーを調製した。ここで、「C」はシステインを示し、そして「X」は、独立して選択されたアミノ酸の所定の数を示す。これらのライブラリーは、少なくとも2つのシステイン残基がペプチド内に存在する場合、環状ペプチドを呈示し得る。
【0140】
オリゴヌクレオチドを、「C」がコドンTGTによってコードされ、そして「X」がNNKによってコードされるように構築した。ここで、「N」はA、C、G、およびTの等モル混合物であり、そしてここで、「K」はGおよびTの等モル混合物である。従って、CXC(配列番号36)によって示されるペプチドは、配列TGT(NNK)TGT(配列番号42)を有するオリゴヌクレオチドによって表され得る。オリゴヌクレオチドを3サイクルのPCR増幅によって二本鎖にし、精製し、そしてfuse5ベクター内の遺伝子IIIタンパク質をコードする核酸と連結し、発現の際に、ペプチドが遺伝子IIIタンパク質のN末端に融合タンパク質として存在するようにした。
【0141】
ベクターをエレクトロポレーションによってMC1061細胞内にトランスフェクトした。細菌を20μg/mlテトラサイクリンの存在下で24時間培養し、次いで、ファージをポリエチレングリコールを使用して2回の沈降によって上清から採集した。各ライブラリーは、約5×10〜5×1014形質導入単位を含んだ(TU;個々の組換えファージ)。
【0142】
(B.ファージのインビボパンニング)
1×1014TUを含むファージライブラリーの混合物を200μl DMEM中に希釈し、そして麻酔をかけたBALB¥cマウス(2ヶ月齢メス;Jackson Laboratories;Bar Harbor ME)の尾静脈に注入した;AvertinTM(0.015ml/g)を麻酔薬として使用した(PasqualiniおよびRuoslahti、前出、1996を参照のこと)。1〜4分後、マウスを液体窒素中で急速凍結した。ファージを回収するために、室温にて1時間、死体を部分的に解凍し、器官を採集し、そして計量し、次いで1ml DMEM−PI(プロテアーゼインヒビター(PI);フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF;1mM)、アプロチニン(20μg/ml)、ロイペプチン(1μg/ml)を含有するDMEM)内ですりつぶした。
【0143】
器官サンプルを、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する氷冷DMEM−PIで3回洗浄し、次いで、1ml K91−kan細菌と1時間、直接インキュベートした。0.2μg/mlテトラサイクリンを含有する10ml NZY培地(NZY/tet)を細菌培養物に加え、その混合物を37℃のシェーカー中で1時間インキュベートし、次いで、200μlのアリコートを40μg/mlテトラサイクリンを含有する寒天プレート(tet/agar)中にプレートした。
【0144】
脳または腎臓から回収したファージを含む個々のコロニーを、5ml NZY/tetにおいて16時間増殖させた。個々のコロニーから得られた細菌培養物をプールし、そしてファージを精製し、そして2回目のインビボパンニングのために上記のようにマウスに再度注入した。3回目のインビボパンニングもまた行った。ファージDNAを2回目および3回目のインビボパンニングから得られた個々の細菌コロニーから精製し、そして選択されたファージによって発現されたペプチドをコードするDNA配列を決定した(Koivunenら、前出、1994bを参照のこと)。
【0145】
(実施例II:選択された器官に帰巣するペプチドの特徴付け)
本実施例は、本発明の器官帰巣ペプチドが、選択された器官へ選択的に帰巣すること、およびインビボパンニングにより同定された器官帰巣ペプチドが、部分を選択された器官に指向させるために用いられ得ることを実証する。
【0146】
(A.脳は、選択された器官である)
3回のインビボパンニングを、マウスで行った。腎臓をコントロール器官として使用した。マウスには、異なる2つのファージライブラリー混合物を注入した。第一の混合物は、CX(配列番号39)、CXC(配列番号36)、CXC(配列番号37)、およびCXC(配列番号38)ペプチドをコードするライブラリーを含む(CX5−7/CX混合物;配列番号36−39)。第2の混合物は、XCX14CX(配列番号40)およびXCX18(配列番号41)ペプチドをコードするライブラリーを含む(XCX18/XCX14CX混合物;配列番号40および41)。
【0147】
ファージライブラリー混合物を、マウスに尾静脈注射により投与した。ファージ投入は、CX5−7/CX(配列番号36−39)混合物1×1016TU、またはXCX18/XCX14CX(配列番号40および41)混合物1×1014TUであった。ファージを、注入されたマウスの脳から回収し、この回収されたファージを、インビトロで増幅させ、次いで2回目および3回目のインビボパンニングを行った。2回目および3回目のパンニングでは、ファージを脳および腎臓から回収し、次いでそれぞれの器官からのTUの数を比較した。この比較により、CX5−7/CX(配列番号36−39)混合物のファージは、2回目のパンニングでは、腎臓よりも脳に6倍多くのファージが結合すること、そしてCX5−7/CX(配列番号36−39)のファージは、3回目のパンニングにおいては、腎臓よりも脳に13倍多くのファージが結合することが、明らかとなった。XCX18/XCX14CX(配列番号40および41)混合物の投与後、2回目および3回目のパンニングにおいて、脳に帰巣するファージが、腎臓に比べて、それぞれ11倍および8倍高かった。このように、脳に結合するファージのかなりの富化が、2回目および3回目のインビボパンニング後に観察された。
【0148】
2回目および3回目のインビボパンニングの間に脳から回収された、73個のクローン化されたファージに存在する挿入片のアミノ酸配列を決定した。SRLモチーフを含むペプチドが優勢であり(配列決定されたクローンの36%;配列番号1、3および5を参照のこと)、次いでVLRモチーフを含むペプチド(クローンの20.5%;配列番号4および16)、およびペプチドCENWWGDVC(配列番号2;クローンの19%;表1を参照のこと)が見られた。他のペプチドは、生じた頻度がさらに低かったが、一度より多く存在した。これらは、CGVRLGC(配列番号6)、CKDWGRIC(配列番号7)、CLDWGRIC(配列番号8)、およびCTRITESC(配列番号9)を包含する。8つの別の配列は、それぞれ1度だけ現れたのみで、さらに特徴付けは行われなかった。SRLトリペプチドモチーフは、いくつかの異なる配列背景において存在した。これは、ペプチドをコードする核酸が、多数の独立のファージに由来することを示す。これらの結果は、SRLモチーフを含むペプチドの選択が、いくつかの独立したファージ呈示ペプチドのSRL配列との特異的な結合を表し、そして、例えばファージの増幅による人工物ではないことを示している。さらにいくつかの場合では、異なるファージが、同じアミノ酸配列を有するペプチドを発現したが、しかし、これらは、異なる配列を有するオリゴヌクレオチドによりコードされた。従って、特定のファージの器官への帰巣は、ファージ上で発現される特異的ペプチドに起因することが確認された。
【0149】
同定された個々のモチーフの脳への帰巣の特異性を決定するために、優勢なモチーフを示したファージを個々に増幅し、同じ投入力価に希釈し、そしてマウスに投与した。投与後、脳および腎臓を摘出し、次いでそれぞれの器官におけるファージのTU数を決定した。コントロール器官である腎臓と比較した選択された器官である脳から回収されたファージの富化の比は、最もよく回収された4つのペプチド(CNSRLHLRC(配列番号1)、CENWWGDVC(配列番号2)、WRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)、CLSSRLDAC(配列番号3))の中の1つを示すファージが、それぞれ選択的に、腎臓と比較して脳を標的化することを明らかにした。詳細には、選択的な帰巣の比(脳:腎臓)は、CNSRLHLRC(配列番号1)およびCLSSRLDAC(配列番号3)については約8であり、CENWWGDVC(配列番号2)については約4であり、そしてWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)については約9であった。
【0150】
【表1】

2つのコントロールファージは、脳および腎臓のどちらに対しても低い結合を示した。これらの結果は、インビボパンニングが、選択された器官に帰巣するファージ発現ペプチドを同定するために、ファージディスプレイライブラリーのスクリーンに用いられ得ることを実証する。
【0151】
(B.選択された器官としての腎臓)
腎臓に帰巣するファージ発現ペプチドを単離するために、ファージ発現脳帰巣ペプチドの単離に用いた方法と同じ方法を用いた。これらの実験では、脳をコントロール器官として用いた。CXC(配列番号36)およびCXC(配列番号37)ライブラリーの混合物を、上記のように投与した。腎臓へのファージの帰巣が得られ、そしてインビボでの2度目のパンニング後、腎臓に帰巣するファージは、約3倍から7倍富化されたことが観察された。
【0152】
腎臓に帰巣する48個のクローン化されたファージにおける挿入断片のアミノ酸配列を、決定した。これらのファージにより発現されるペプチドは、2つの優勢な配列(CLPVASC(配列番号21;配列決定されたクローンの46%)およびCGAREMC(配列番号22;クローンの17%)、表2を参照のこと)により表された。さらに、ペプチドCKGRSSAC(配列番号23)が3回現れ、そして別の3つのペプチドがそれぞれ2回現れた。CLPVASC(配列番号21)、CGAREMC(配列番号22)、またはCKGRSSAC(配列番号23)ペプチドをそれぞれ発現するファージは、それぞれ腎臓への選択的な帰巣を示した;腎臓:脳への帰巣の選択性の比は、CLPVASC(配列番号21)については7であり、CGAREMC(配列番号22)については3であり、そしてCKGRSSAC(配列番号23)については2であった。
【0153】
これらの結果は、インビボパンニング方法が、選択された器官に帰巣するファージ発現ペプチドを同定するための、ファージライブラリーのスクリーニングに一般的に適用し得る方法であることを実証する。データベース検索では、脳に帰巣するまたは腎臓に帰巣するペプチドと、内皮細胞レセプターに対する公知のリガンドとにおいて、いかなる有意な相同性も明らかにはされなかった。
【0154】
【表2】

(C.ペプチドの帰巣は特異的である)
選択された器官への帰巣を指向させるペプチドの特異性を確かめるために、ペプチド競合実験を行った。環状ペプチドCLSSRLDAC(配列番号3)(脳帰巣ペプチドの1つ(表1を参照のこと))を合成し(Immunodynamics; La Jolla CA)、次いでHPLCにより精製した。CLSSRLDAC(配列番号3)、CENWWGDVC(配列番号2)、またはWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)を発現するファージの脳への帰巣における影響を、合成ペプチドの同時投与がファージの帰巣に影響するかどうかを決定するために調べた。
【0155】
CLSSRLDAC(配列番号3)、CENWWGDVC(配列番号2)、またはWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)を発現するファージを同じ濃度に滴定し、次いで1×10TUを単独で、または100μgの精製した合成環状CLSSRLDAC(配列番号3)ペプチドと共に、マウスに注入した。合成環状CLSSRLDAC(配列番号3)ペプチドは、CLSSRLDAC(配列番号3)を発現するファージの帰巣を約60%阻害した。この結果は、脳へのファージの帰巣が、CLSSRLDAC(配列番号3)ペプチドのファージにおける発現に特異的に起因することを実証する。
【0156】
合成CLSSRLDAC(配列番号3)ペプチドはまた、WRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)ペプチドを発現するファージの帰巣を約60%阻害したが、しかしCENWWGDVC(配列番号2)ファージの帰巣には影響しなかった。この結果は、CLSSRLDAC(配列番号3)およびWRCVLREGPAGGCAWFNRHRL(配列番号16)ペプチドは、脳の中の同じ標的分子を認識し得るが、CENWWGDVC(配列番号2)ペプチドは、異なる標的を認識することを示す。
【0157】
(D.脳帰巣ペプチドCLSSRLDAC(配列番号3)は、赤血球を脳に指向させる)
合成環状CLSSRLDAC(配列番号3)ペプチド(1mg)を、BoltonおよびHunter試薬(Amersham; Arlington Heights IL)を用いて、ヨウ素−125によって標識した。標識されたペプチドを、Sep−PakTMカートリッジ(Waters, Millipore Corp.; Milford PA)上で逆相HPLCにより精製し、次いで125I−ペプチド(200μg)を製造者の指示書に従って、グルタルアルデヒドで安定化したヒツジ赤血球(RBC)(Sigma Chemical Co.; St. Louis MO)1mlに結合させた。
【0158】
50μlの125I−ペプチド/RBC(200,000cpm)を、単独で、あるいは10mMの未標識CLSSRLDAC(配列番号3)(このペプチドは脳帰巣ペプチドである)と共に、またはCVRLNSLAC(配列番号43)(このペプチドは脳帰巣活性を有さない)と共に、尾静脈に注入した。2分後、各マウスを50mlのDMEMで心臓灌流し、次いで脳および腎臓を摘出し、放射活性についてアッセイした。
【0159】
CLSSRLDAC/RBC複合体(配列番号3)のほぼ2倍量が、腎臓よりも脳に帰巣した。未標識CLSSRLDAC(配列番号3)と複合体との同時投与は、本質的に完全に複合体の脳帰巣を阻害したが、しかし、腎臓に局在する複合体には影響しなかった。これは、腎臓への複合体の局在が非特異的であることを示す。未標識CVRLNSLAC(配列番号43)の同時投与は、複合体の脳への選択的な帰巣に影響はなく、そして腎臓における複合体の非特異的な局在にも影響を与えなかった。これらの結果は、インビボパンニングにより同定された器官帰巣ペプチドが、血液細胞のような部分と結合し得、そして結合された部分の帰巣を、選択された器官へ選択的に指向させ得ることを実証する。
【0160】
(E.細網内皮組織系の構成要素を含む器官へ選択的に帰巣する分子についてのインビボパンニング)
本実施例は、肝臓および脾においてペプチドを呈示するファージの取り込みがRESにより上昇することは、非感染性のファージの同時投与によってブロックされ得、これにより、RESを含む器官へ選択的に帰巣する分子の同定が可能であることを実証する。
【0161】
CX(配列番号39)ライブラリーを発現する約1×10TUの増幅されたファージを、単独でまたは1000倍過剰量の増幅できない非感染性ファージと共に、マウスに静脈注射した。2分後、マウスを屠殺し、肝臓、肺、腎臓、脳、および脾よりファージを回収し、次いで回収された組織の1グラムあたりのファージ数(TU)(TU/g)を決定した。
【0162】
非感染性ファージとライブラリーファージとの同時投与は、回収されるファージ量を、肝臓では約1300TU/gから約200TU/gに、脾では約300TU/gから約200TU/gに、実質的に減少させた。これと比較して、脳、腎臓、または肺から回収されたファージの数は、ファージライブラリーを単独で、または非感染性ファージと組み合わせて投与した場合において、わずかな相違が観察されたか、もしくは相違が全く観察されなかった。この結果は、RES構成要素を含む器官(例えば、肝臓および脾臓)における非特異的なファージの取り込みは、ファージライブラリーと非感染性ファージとの同時投与によりブロックされ得ることを実証する。
【0163】
これらの結果はまた、肺におけるファージの取り込みが選択的であることを実証した。詳細には、肺からのファージの回収は、ファージライブラリーを単独で注入したか、または非感染性ファージと同時投与したかに関わらず、本質的に同一である。従って、肺において以前観察された(PasqualiniおよびRuoslahti, 前出, 1996)ようなファージの高い取り込みは、おそらく、肺に存在する大量の血管系に起因しており、肺のRES構成要素を構成する肺胞食細胞によるファージの取り込みに起因するわけではないと考えられる。
【0164】
非感染性ファージと同時投与した場合に肝臓に帰巣したファージが、実際に肝臓に選択的に帰巣したことを実証するために、ファージライブラリーを、非感染性ライブラリーと同時投与し、次いで、1回目のインビボパンニングの後に肝臓から回収したファージを、インビトロで増幅し、そして2回目のインビボパンニングに用いた。ファージを、肝臓および脳(コントロール器官)から回収し、各回のインビボパンニング後に定量した。
【0165】
2回目のインビボパンニング後では、脳(200TU/g)と比較して、より多くのファージが肝臓(350TU/g)に帰巣した。さらに、1回目のパンニング後では、約150TUファージ/g肝臓が回収されたのに対し、2回目のパンニング後では、約350TUファージ/g肝臓が回収された。これは、1回目のインビボパンニング後に肝臓から回収されるファージの集団は、肝臓に選択的に帰巣するファージで富化されていることを示す。これらの結果は、肝臓のような器官のRES構成要素がブロックされ得ること、従って、インビボパンニング方法を用いることにより、このような器官に選択的に帰巣する分子を同定し得ることを実証する。
【0166】
(実施例III:選択された腫瘍組織に帰巣するペプチドの特徴付け)
本実施例は、インビボパンニングが、乳腫瘍または黒色腫に帰巣するペプチドの同定に用いられ得ることを実証する。
【0167】
(A.ヌードマウスに移植されたヒト乳ガン腫瘍へ帰巣するペプチド)
ヒト435乳ガン細胞(Priceら、Cancer Res. 50:717−721 (1990))を、ヌードマウスの乳房脂肪パッドに接種した。腫瘍が直径約1cmに達した時に、ファージ標的化実験(ここでは、特定のペプチドを発現するファージを、腫瘍を有するマウスに投与した)、またはインビボパンニングのいずれかを行った。
【0168】
乳腫瘍を有するマウスに、CXCXCXC(配列番号47)ペプチドのライブラリーを発現するファージを1×10個注入した。ここでXは、独立に選択されたランダムなアミノ酸の3つの基を示す。ファージを4分間循環させ、次いで、マウスを麻酔し、麻酔下で液体窒素中で急速凍結し、そして腫瘍を取り出した。ファージを、腫瘍から単離し、さらに2回のインビボパンニングに供した。
【0169】
3回目のパンニングの後、ファージを定量し、そして14個のクローン化された異なるファージにより発現されるペプチドの配列を決定した。14個のクローン化されたファージは、4つの異なるペプチドを発現した(表3)。これらの結果は、インビボパンニング方法が、乳腫瘍組織に選択的に帰巣する分子を同定し得ることを実証する。
【0170】
(B.マウスに移植されたB16マウス黒色腫細胞に帰巣するペプチド)
腫瘍に選択的に帰巣するペプチドを同定するインビボパンニング方法の一般的な適用性を、移植されたマウス黒色腫を有するマウスにおいてインビボパンニングを行うことにより調べた。
【0171】
【表3】

黒色腫を有するマウスを、B16B15bマウス黒色腫細胞を移植することにより作製した。これは、高度に血管化された腫瘍を生じる。B16B15bマウス黒色腫細胞をヌードマウス(2カ月齢)の乳房脂肪パッド中に皮下注射し、腫瘍を直径が約1cmになるまで成長させた。インビボパンニングを上記で開示したように行った。CXC(配列番号36)、CXC(配列番号37)、またはCXC(配列番号38)ライブラリーを発現する約1×1012形質導入ユニットのファージを静脈注射し、そして4分間循環させた。次いで、マウスを麻酔下で液体窒素中で急速凍結し、腫瘍組織および脳(コントロール器官)を摘出し、そしてファージを上記のように単離した。インビボパンニングを3回行った。
【0172】
B16B15b腫瘍から回収された89個のクローン化されたファージの挿入断片のアミノ酸配列を決定した。これらのファージにより発現されたペプチドは、2つの優勢な配列(CLSGSLSC(配列番号55;配列決定されたクローンの52%)およびWGTGLC(配列番号52;クローンの25%);表4を参照のこと)により表された。選択されたペプチドの1つを発現するファージを再感染させた結果、脳と比較して腫瘍に帰巣するファージは約3倍富化されていた。
【0173】
【表4】

マウスの器官における腫瘍帰巣ペプチドを発現するファージの局在を、腫瘍および他の様々な組織の免疫組織化学染色により調べた。1×10pfuの、コントロール(挿入断片なし)ファージ、または腫瘍帰巣ペプチドCLSGSLSC(配列番号50)を発現するファージを、腫瘍を有するマウスに静脈注射し、そして4分間循環させた。次いで、マウスをDMEMで灌流し、そして様々な組織(腫瘍を包含する)を摘出し、Bouin’s溶液中に固定した。組織切片を調製し、次いで抗M13(ファージ)抗体により染色した(PasqualiniおよびRuoslahti, 前出,1996を参照のこと)。
【0174】
CLSGSLSC(配列番号50)腫瘍帰巣ペプチドを発現するファージを注入したマウスから得られた黒色腫において、強い免疫染色が明らかであった。腫瘍実質においてもいくらかの染色が存在したが、黒色腫の染色は、一般に、腫瘍内の血管系に局在した。挿入断片を有さないコントロールファージを注入したマウスから得られた腫瘍、または皮膚、またはいずれかのファージを注入したマウスから得られた腎臓サンプルにおいては、本質的には全く染色が観察されなかった。しかし、肝臓の洞様毛細血管および脾臓において免疫染色が検出された。これは、RESを含む器官において、ファージが非特異的に捕捉され得ることを示す。
【0175】
これらの結果は、インビボパンニング方法が、選択された器官または組織(腫瘍を包含する)に帰巣するファージ発現ペプチドを同定するために、ファージライブラリーをスクリーニングするための一般に適用可能な方法であることを実証する。
【0176】
(実施例IV:RGDペプチドを発現するファージの腫瘍へのインビボ標的化)
ヒト435乳ガン細胞を、ヌードマウスの乳房脂肪パッドに接種した。腫瘍の直径が約1cmに達した時に、特異的RGD含有ペプチドを発現するファージを腫瘍を有するマウスに投与した。以下に記載する結果は、ヒト黒色腫C8161細胞の移植、またはマウスB16黒色腫細胞の移植により形成された腫瘍を有するヌードマウスから得られた結果と、類似の結果であった。
【0177】
RGD含有ペプチドCDCRGDCFC(配列番号57;Koivunenら、前出,1995を参照のこと)を発現するファージ、またはコントロール(挿入断片なし)ファージを1×10個マウスに静脈注射し、4分間循環させた。次いで、このマウスを麻酔下で急速凍結し、そして様々な器官(腫瘍、脳、および腎臓を包含する)を摘出し、その器官に存在するファージを定量した(PasqualiniおよびRuoslahti, 前出,1996を参照のこと)。
【0178】
CDCRGDCFC(配列番号57)を発現する約2〜3倍多くのファージが、脳および腎臓と比較して、乳腫瘍において検出された。これは、CDCRGDFC(配列番号57RGDファージ)ペプチドが、ファージの乳ガン腫瘍への選択的な帰巣を生じたことを示す。これと平行した研究において、様々な異なったペプチドを発現する選択されていないファージを、腫瘍を有するマウスに注射し、次いで様々な器官を、ファージの存在について調べた。腫瘍と比較して、腎臓にははるかに大量のファージが存在し、脳においては、腎臓よりは少ない程度でファージが存在した。従って、選択されないファージより80倍多くのRGD発現ファージが、腫瘍において集中した。これらの結果は、RGD含有ペプチドを発現するファージは、おそらく、腫瘍において形成する血管におけるαβインテグリンの発現に起因して、腫瘍に帰巣することを示す。
【0179】
乳腫瘍帰巣ペプチドの特異性が、競合実験により実証された。500μgの遊離ペプチドACDCRGDCFCG(配列番号58)は、不活性なコントロールペプチドGRGESP(配列番号59)との同時注入では本質的に影響を与えないのに対して、腫瘍帰巣ペプチドを発現するファージとの同時注入では腫瘍中のファージの量が約10倍減少した。乳腫瘍に帰巣するファージの免疫組織学染色は、脳または腎臓(コントロール器官)においては染色が観察されなかったが、腫瘍内の血管においてはRGDファージの蓄積を示した。これらの結果は、脈管形成血管系において発現されるインテグリンと結合し得るペプチドを示すファージが、このような血管系を包含する腫瘍のような器官または組織に、インビボで選択的に帰巣し得ることを実証する。
【0180】
本発明は開示された実施例に関して記載されているが、様々な改変が、本発明の意図から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。したがって、本発明は、添付の請求の範囲によってのみ制限される。
【0181】
(発明の効果)
1つ以上の選択される器官または組織に帰巣し得る分子を同定するために、ペプチドのような多数の分子をスクリーニングするためのインビボでの方法を開発する必要性が満たされ、そしてさらに関連した利点が提供される。
【0182】
(配列表)
【0183】
【表5】
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された器官または組織に選択的に帰巣する複数のペプチドまたはペプチド模倣物を含む富化されたライブラリー画分であって、該富化されたライブラリー画分が、以下の工程を包含するインビボパンニングによって回収される、富化されたライブラリー画分:
a.非ヒト被験体に、該ペプチドまたはペプチド模倣物のライブラリーを投与する工程であって、ここで該ペプチドまたはペプチド模倣物の各々は、該ペプチドまたはペプチド模倣物の回収を容易にするタグに結合されている、工程;
b.該選択された器官または組織のサンプルを採集する工程;および
c.該選択された器官または組織に帰巣する該富化されたライブラリー画分を回収する工程。
【請求項2】
前記選択された器官または組織が、脳、腎臓、腫瘍、および脈管形成の血管系からなる群より選択される、請求項1に記載の富化されたライブラリー画分。
【請求項3】
前記腫瘍が、乳ガンおよび黒色腫からなる群から選択される、請求項2に記載の富化されたライブラリー画分。
【請求項4】
部分を前記選択された器官または組織に指向させるための薬学的組成物を調製するための請求項1から3のいずれかに記載の富化されたライブラリー画分の使用。
【請求項5】
前記部分が検出可能な標識である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記部分が細胞傷害性因子である、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記部分が室のあるマイクロデバイスである、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
部分を選択された器官または組織に指向させるための組成物であって、以下を含む、組成物:
該部分および請求項1に記載の富化されたライブラリー画分を含む複合体であって、該部分が該富化されたライブラリー画分に結合されており、該複合体と該選択された器官または組織とが接触させられたとき、請求項1に記載の富化されたライブラリー画分が該選択された器官または組織に選択的に結合し、これにより該部分を該選択された器官または組織に指向させる、複合体。
【請求項9】
前記接触がインビトロで行われる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記接触がインビボで行われる、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記部分が検出可能な標識である、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記部分が細胞傷害性因子である、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記部分が室のあるマイクロデバイスである、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
部分を前記選択された器官または組織に指向させるための薬学的組成物を調製するための、請求項8から13のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項15】
前記部分が検出可能な標識である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記部分が細胞傷害性因子である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記部分が室のあるマイクロデバイスである、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
標的分子の存在を同定する方法であって、該標的分子は選択された器官または組織に選択的に帰巣する分子に特異的に結合し、該方法は以下の工程を包含する、方法:
a.該標的分子を発現すると疑いのある器官または組織からのサンプルと請求項1に記載の富化されたライブラリー画分とを、請求項1に記載の富化されたライブラリー画分と該標的分子との特異的結合を可能にする条件下で接触させる工程;および
b.請求項1に記載の富化されたライブラリー画分の特異的結合を検出する工程であって、該特異的結合が該サンプル中の該標的分子の存在を同定する、工程。
【請求項19】
標的分子を実質的に単離する方法であって、該標的分子は選択された器官または組織に選択的に帰巣する分子に特異的に結合し、該方法は以下の工程を包含する、方法:
a.該選択された器官または組織のサンプルを得る工程であって、該器官または組織が該標的分子を発現している、工程;
b.該サンプルと請求項1に記載の富化されたライブラリー画分とを、請求項1に記載の富化されたライブラリー画分と該標的分子との特異的結合を可能にする条件下で接触させ、複合体を形成させる工程;および
c.該複合体から該標的分子を実質的に単離する工程。
【請求項20】
請求項19に記載の方法により得られる、実質的に単離された標的分子。
【請求項21】
本願明細書等に記載されるような、富化されたライブラリー画分。

【公開番号】特開2007−204483(P2007−204483A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56453(P2007−56453)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【分割の表示】特願2002−245801(P2002−245801)の分割
【原出願日】平成8年9月10日(1996.9.10)
【出願人】(591180152)ザ バーナム インスティテュート (8)
【Fターム(参考)】