説明

インビボイメージング化合物としての四環式オキサゼピン類

インビボイメージング剤として使用するのに適した式(I)の新規化合物、並びに前述化合物を製造するために適した前駆体が提供される。本発明はまた、かかる化合物を含んでなる医薬品及び医薬品製造用のキットも提供する。さらに、被験体における末梢ベンゾジアゼピンレセプターのイメージング、特にPBRがアップレギュレートされている病態(例えば、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ニューロパシー性疼痛、関節炎、喘息、アテローム性動脈硬化症及び癌)のイメージングのためのかかる化合物の使用が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医学イメージングの分野に関し、特に末梢ベンゾジアゼピンレセプター(PBR)のアップレギュレーションに関連する病態のイメージングに関する。かかる病態のイメージングのために有用な化合物及び方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
神経炎症(NI)には、小グリア細胞や星状細胞の活性化並びにサイトカインやケモカイン、補体タンパク質、急性期タンパク質、酸化損傷及び関連する分子過程の発現を含む広いスペクトルの複雑な細胞応答が組み込まれている。これらのイベントは、ニューロン機能に有害な作用を及ぼしてニューロ損傷を引き起こし、結果としてさらなるグリア活性化及び遂には神経変性をもたらすことがある。NIは、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、AIDSの神経学的合併症、脊髄損傷、ある種の末梢ニューロパシーや神経変性疾患、及び筋炎のような種々の疾患において重要な役割を演じる。
【0003】
末梢ベンゾジアゼピンレセプター(PBR)は、NIに関係していると考えられている。PBRは主として末梢組織及びグリア細胞に局在しているが、その生理学的機能はまだ明確に解明されていない。ミトコンドリアの外膜上におけるその存在は、ミトコンドリア機能の調節及び及び免疫系において役割を果たす可能性を表している。さらに、PBRが細胞増殖、ステロイド生成、カルシウム流れ及び細胞呼吸に関与することも仮定されてきた。PBR発現の変化は、急性及び慢性ストレス、不安、うつ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳損傷、癌[Gavish et al,1999,Pharm.Rev.,51,p.629]、ハンチントン病[Neurosci.Lett.,1998,24(1),pp.53−6]、喘息[Gen.Pharmacol.,1997,28(4),pp.495−8]、慢性関節リウマチ[Eur.J.Pharmacol.,2002,452(1),pp.111−22]、アテローム性動脈硬化症[J.Nucl.Med.,2004,45,pp.1898−1907]及び多発性硬化症[Banati et al,2000,Brain,123,p.2321]をはじめとする様々な状態で観察されてきた。PBRはニューロパシー性疼痛にも関連することがあり、Tsudaらはニューロパシー性疼痛をもった被験者で小グリア細胞の活性化を観察している[2005,TINS,28(2),pp.101−7]。
【0004】
PBRに対して親和性を有するリガンドは当技術分野で公知である。米国特許第6451795号には、PBRに対して親和性を有する1群のインドール化合物が開示されている。この特許には、かかる化合物が末梢ニューロパシーの予防又は治療及び中枢神経変性疾患の治療のために有用であると述べられている。Okubuら[Bioorganic & Medicinal Chemistry,2004,12,3569−80]は、PBRに対して親和性を有する1群の四環式インドール化合物の設計、合成及び構造を記載しているが、かかる化合物の特別な用途は論じられていない。Campianiら[2002,J.Med.Chem.,45,4276−81]は、高い親和性(場合によってはピコモル程度の親和性)をもってPBRに結合する1群のピロロベンゾキサゼピン誘導体を開示している。特開平07−165721号には、PBRに対して親和性を有するイソキノリンカルボキサミド誘導体が開示されている。インビボ診断用途のための放射性ヨウ素化及び放射性臭素化誘導体も開示されている。
【0005】
PBR選択性リガンドを用いるPETイメージングでは、(R)−[11C]PK11195が中枢神経系(CNS)炎症の包括的指示薬を提供する。(R)−[11C]PK11195の使用の成功にもかかわらず、それには制約がある。それは、高いタンパク質結合性及び低特異的乃至非特異的結合性を有することが知られている。その放射性標識代謝産物の役割は知られておらず、結合の定量化には複雑なモデル化が要求される。
【0006】
PBRを特異的に標的化する改良イメージング剤が得られれば、上述したような各種の病態のイメージングのために有益であろう。したがって、PBRを標的化するための改良替インビボイメージング剤に対するニーズが今なお存在している。
【特許文献1】米国特許第6451795号明細書
【特許文献2】特開平07−165721号公報
【特許文献3】国際公開第2007/057705号パンフレット
【特許文献4】国際公開第99/51594号パンフレット
【特許文献5】国際公開第98/49900号パンフレット
【非特許文献1】Gavish et al,1999,Pharm.Rev.,51,p.629
【非特許文献2】Neurosci.Lett.,1998,24(1),pp.53−6
【非特許文献3】Gen.Pharmacol.,1997,28(4),pp495−8.
【非特許文献4】Eur.J.Pharmacol.,2002,452(1),pp.111−22
【非特許文献5】J.Nucl.Med.,2004,45,pp.1898−1907
【非特許文献6】Banati et al,2000,Brain,123,p.2321
【非特許文献7】Tsuda et al,2005,TINS,28(2),pp.101−7
【非特許文献8】Okubu et al,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2004,12,3569−80
【非特許文献9】Campiani et al,2002,J.Med.Chem.,45,4276−81
【非特許文献10】Campiani et al,J.Med.Chem.,39(18),1996,3435−3450
【非特許文献11】Cinone et al,Journal of Computer−aided Molecular Design,14(8),2000,753−768
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インビボイメージング剤として使用するのに適した新規化合物を提供する。かかる化合物を製造するための前駆体、並びにかかる化合物を含んでなる医薬品及び医薬品製造用のキットも提供される。さらなる態様で本発明は、被験体における末梢ベンゾジアゼピンレセプターのイメージング、特にPBRがアップレギュレートされていると考えられる状態(例えば、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ニューロパシー性疼痛、関節炎、喘息、アテローム性動脈硬化症及び癌)のイメージングのためのかかる化合物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
化合物
一態様では、本発明は、以下の式Iの化合物或いはその塩又は溶媒和物であって、当該
化合物がイメージング成分で標識されている化合物を提供する。
【0009】
【化1】

式中、
1は水素、C1-6アルキル、C1-6チオアルキル、C1-6アルコキシ及びハロゲンから選択され、
2及びR3は独立に水素、C1-6アルキル、C1-6チオアルキル、C1-6アルコキシ及びハロゲンから選択され、
4及びR5は独立に水素、C1-6アルキル及びC1-6フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共に、N、S及びOから選択されるヘテロ原子を適宜含む適宜置換された三員乃至六員脂肪族環を形成し、
X及びZは独立にCH及びNから選択され、
YはO、S、NH、CH=CH、2−S及びN−C1-6アルキルから選択される。
【0010】
式Iの好ましい化合物に関しては、
1は水素及びハロゲンから選択され、
2及びR3は独立に水素、C1-6アルキル及びハロゲンから選択され、
4及びR5は独立に水素、C1-4アルキル及びC1-3フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共に、Nをヘテロ原子として含む適宜置換された三員乃至六員脂肪族環を形成し、
XはCH及びNから選択され、
YはCH=CH又は2−Sであり、
ZはNである。
【0011】
式Iの最も好ましい化合物に関しては、
1は水素又はClであり、
2及びR3は独立に水素、p−メチル、m−メチル及びフッ素から選択され、
4及びR5は独立に水素、メチル、エチル及びC1-3フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共にシクロプロピル、4−メチルピペラジン又はアゼチジルを形成し、
XはCH及びNから選択され、
YはCH=CH又は2−Sであり、
ZはNである。
【0012】
本発明の若干の特に好ましい化合物は、式Iの化合物であって、
(i)R1〜R4が水素であり、R5がエチルであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNであるか、或いは
(ii)R1が塩素であり、R2〜R4が水素であり、R5がエチルであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNであるか、或いは
(iii)R1〜R3が水素であり、R4及びR5がエチルであり、XがNであり、Yが2−Sであり、ZがNであるか、或いは
(iv)R1及びR3が水素であり、R2がp−メチルであり、R4及びR5がメチルであり、XがNであり、YがCH=CHであり、ZがNであるものである。
【0013】
本発明に係る好適な塩には、生理学的に許容できる酸付加塩、例えば、鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸)から導かれるもの並びに有機酸(例えば、酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸)から導かれるものがある。
【0014】
本発明に係る好適な溶媒和物には、エタノール、水、食塩水、生理的緩衝液及びグリコールから導かれるものがある。
【0015】
本発明のすべての化合物に対する共通の出発原料は5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンである。この出発原料の合成法はCampianiら(J.Med.Chem.,1996,39,2672−2680)によって記載されている。この合成法はフェニル−(2−ピロール−1−イル−フェノキシ)−酢酸から出発するが、その製法も同論文中に記載されている。
【0016】
「イメージング成分で標識されている」という用語は、(i)式Iの化合物の原子の1つそれ自体がイメージング成分である場合、又は(ii)イメージング成分を含む基が式Iの化合物にコンジュゲートされている場合を意味する。
【0017】
イメージング成分
「イメージング成分」は、本発明の化合物を哺乳動物体に投与した後、適当なイメージングモダリティを用いてそれをインビボで検出することを可能にする。本発明の好ましいイメージング成分は、
(i)γ放出型放射性ハロゲン、
(ii)陽電子放出型放射性非金属、
(iii)過分極NMR活性核、
(iv)インビボ光学イメージングに適したレポーター、及び
(v)血管内検出に適したβ放射体
から選択される。
【0018】
γ放出型放射性ハロゲン
イメージング成分がγ放出型放射性ハロゲンである場合、放射性ハロゲンは好適には123I、131I及び77Brから選択される。好ましいγ放出型放射性ハロゲンは123Iである。
【0019】
イメージング成分が放射性ヨウ素である場合、好適な前駆体は、求電子又は求核ヨウ素化を受ける誘導体或いは標識アルデヒド又はケトンとの縮合を受ける誘導体を含むものである。第1のカテゴリーの例は下記の(a)〜(c)である。
【0020】
(a)トリアルキルスタンナン(例えば、トリメチルスタンニル又はトリブチルスタンニル)、トリアルキルシラン(例えば、トリメチルシリル)或いは有機ホウ素化合物(例えば、ボロネートエステル又はオルガノトリフルオロボレート)のような有機金属誘導体。
【0021】
(b)ハロゲン交換用の非放射性アルキルブロミド、或いは求核ヨウ素化用のアルキルトシレート、メシレート又はトリフレート。
【0022】
(c)求電子ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、フェノール類)、及び求核ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、アリールヨードニウム塩、アリールジアゾニウム塩、アリールトリアルキルアンモニウム塩又はニトロアリール誘導体)。
【0023】
放射性ヨウ素化用の前駆体は、好ましくは、(放射性ヨウ素交換を可能にするための)アリールヨージド又はブロミドのような非放射性ハロゲン原子、活性化前駆体アリール環(例えば、フェノール基)、有機金属前駆体化合物(例えば、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機ホウ素化合物)、或いはトリアゼンのような有機前駆体又は求核置換のための良好な脱離基(例えば、ヨードニウム塩)からなる。放射性ヨウ素化用の好ましい前駆体は有機金属前駆体化合物からなり、最も好ましくはトリアルキルスズからなる。
【0024】
有機分子中に放射性ヨウ素を導入するための前駆体及び方法は、Bolton[J.Lab.Comp.Radiopharm.,45,485−528(2002)]によって記載されている。好適なボロネートエステル有機ホウ素化合物及びその製法は、Kabalakaら[Nucl.Med.Biol.,29,841−843(2002)及び30,369−373(2003)]によって記載されている。好適なオルガノトリフルオロボレート及びその製法は、Kabalakaら[Nucl.Med.Biol.,31,935−938(2004)]によって記載されている。
【0025】
放射性ヨウ素が結合できるアリール基の例を以下に示す。
【0026】
【化2】

いずれも、芳香環上への容易な放射性ヨウ素置換を可能にする置換基を含んでいる。放射性ヨウ素を含む代わりの置換基は、(例えば、以下の式のような)放射性ハロゲン交換による直接ヨウ素化で合成できる。
【0027】
【化3】

飽和脂肪族系に結合したヨウ素原子はインビボでの代謝を受けやすく、したがって放射線ヨウ素の損失を招きやすいことが知られているので、放射性ヨウ素原子は好ましくはベンゼン環のような芳香環への直接共有結合により又はビニル基を介して結合される。
【0028】
陽電子放出型放射性非金属
イメージング成分が陽電子放出型放射性非金属である場合、好適なかかる陽電子放射体には、11C、13N、15O、17F、18F、75Br、76Br及び124Iがある。好ましい陽電子放出型放射性非金属は11C、13N、18F及び124Iであり、特に好ましくは11C及び18Fであり、最も好ましくは18Fである。
【0029】
イメージング成分がフッ素の放射性同位体である場合、放射性フッ素原子はフルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基の一部をなすことができる。これは、アルキルフルオリドがインビボでの代謝に耐えるからである。別法として、放射性フッ素原子は直接共有結合によってベンゼン環のような芳香環に結合できる。放射性フッ素化は、18F−フッ化物と良好な脱離基を有する前駆体(例えば、アルキルブロミド、アルキルメシレート又はアルキルトシレート)中の適当な化学基との反応を用いる直接標識によって実施できる。18Fはまた、18F(CH2)3OH反応体でN−ハロアセチル基をアルキル化して−NH(CO)CH2O(CH2)318F誘導体を得ることによっても導入できる。アリール系に関しては、アリールジアゾニウム塩、アリールニトロ化合物又はアリール第四級アンモニウム塩からの18F−フッ化物求核置換が、アリール−18F誘導体への好適な経路である。
【0030】
国際公開第03/080544号に記載されているようなさらに別の放射性ヨウ素化アプローチは、以下の置換基のいずれかを有する前駆体化合物を
【0031】
【化4】

以下の式Vの化合物と反応させて
【0032】
【化5】

(式中、X*及びY*の各々は1〜6のヘテロ原子を適宜含むC1-10ヒドロカルビル基である。)
それぞれ以下の式(Va)又は(Vb)の放射性フッ素化イメージング剤を得るものである。
【0033】
【化6】

(式中、X*及びY*は上記に定義した通りであり、「化合物」は上記に記載したような式Iの化合物である。)
本発明の18F標識化合物は、18F−フルオロジアルキルアミンを生成させ、次いで18F−フルオロジアルキルアミンを(例えば)塩素、P(O)Ph3又は活性化エステルを含む前駆体と反応させた場合のアミド生成によって得ることができる。
【0034】
18F−標識誘導体の合成経路のさらなる詳細は、Bolton[J.Lab.Comp.Radiopharm.,45,485−528(2002)]によって記載されている。
【0035】
陽電子放出型非金属が11Cである場合、それによる1つの標識アプローチは、メチル化化合物前駆体のデスメチル化バージョンを[11C]メチルヨージドと反応させることである。所望化合物の特定炭化水素鎖のグリニャール試薬を[11C]CO2と反応させることで11Cを組み込むことも可能である。11Cの半減期は20.4分にすぎないので、中間の11C部分は高い比放射能を有すること、したがってできるだけ速い反応プロセスを用いて製造することが重要である。
【0036】
かかる11C−標識技法に関する徹底的な総説を、Antoni et al,“Aspects on the Synthesis of 11C−Labelled Compounds”in Handbook of Radiopharmaceuticals,Ed.M.J.Welch and C.S.Redvanly(2003,John Wiley and Sons)中に見出すことができる。
【0037】
過分極NMR活性核
イメージング成分が過分極NMR活性核である場合、かかるNMR活性核は非ゼロ核スピンを有し、13C、15N、19F、29Si及び31Pを含む。これらのうち、13Cが好ましい。「過分極」という用語は、NMR活性核の分極度がその平衡分極を超えて増強されていることを意味する。すくつかの過分極方法が知られている。これらのうちのいくつかは、Golmanら[Magn.Reson.Med.,2001,46,1−5及びAcad.Radiol,2002,9(suppl.2),S507−S510]によって記載されている。
【0038】
12Cに対する)13Cの天然存在度は約1%である。天然存在度のNMR活性核を化合物において過分極を行うことも可能であり得るが、投与前にNMR活性核で富化することが好ましい。好適な13C−標識化合物は過分極前に好適には5%以上、好ましくは50%以上、最も好ましくは90%以上の存在度に富化される。これには、1以上の部位の選択富化又はすべての部位の一様富化が含まれ得る。富化は化学合成又は生物学的標識によって達成できる。
【0039】
インビボ光学イメージングに適したレポーター
イメージング成分がインビボ光学イメージングに適したレポーターである場合、レポーターは光学イメージング手続きで直接又は間接に検出できる任意の成分である。レポーターは、光散乱剤(例えば、着色又は無着色粒子)、吸光剤又は発光剤であり得る。さらに好ましくは、レポーターは発色団又は蛍光化合物のような染料である。染料は、紫外域乃至近赤外域の波長をもった電磁スペクトル中の光と相互作用する任意の染料であり得る。最も好ましくは、レポーターは蛍光特性を有する。好ましい有機発色性及び発蛍光性レポーターには、広範な非局在化電子系を有する群、例えばシアニン類、メロシアニン類、インドシアニン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、トリフェニルメチン類、ポルフィリン類、ピリリウム染料、チアピリリウム染料、スクアリリウム染料、クロコニウム染料、アズレニウム染料、インドアニリン類、ベンゾフェノキサジニウム染料、ベンゾチアフェノチアジニウム染料、アントラキノン類、ナフトキノン類、インダスレン類、フタロイルアクリドン類、トリスフェノキノン類、アゾ染料、分子内及び分子間電荷移動染料及び染料錯体、トロポン類、テトラジン類、ビス(ジチオレン)錯体、ビス(ベンゼン−ジチオレート)錯体、インドアニリン染料、ビス(S,O−ジチオレン)錯体がある。緑色蛍光タンパク質(GFP)及び異なる吸光/発光特性を有するGFPの変種のような蛍光タンパク質も有用である。特定の状況においてはある種の希土類金属(例えば、ユウロピウム、サマリウム、テルビウム又はジスプロシウム)の錯体が使用され、蛍光ナノ結晶(量子ドット)についても同様である。
【0040】
使用できる発色団の具体例には、フルオレセイン、スルホローダミン101(Texas Red)、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン19、インドシアニングリーン、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Marina Blue、Pacific Blue、Oregon Green 88、Oregon Green 514、テトラメチルローダミン、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700及びAlexa Fluor 750がある。
【0041】
発色団を導入するための好適な方法は、国際公開第98/048838号に詳述されている。
【0042】
血管内検出に適したβ放射体
イメージング成分が血管内検出に適したβ放射体である場合、好ましいかかるβ放射体には、非金属である32P、33P、38S、38Cl、39Cl、82Br及び83Brがある。
【0043】
好ましいイメージング成分及び組込み部位
本発明の最も好ましいイメージング成分は、放射性のもの、とりわけγ放出型放射性ハロゲン及び陽電子放出型放射性非金属、特にSPECT又はPETを用いるイメージングに適するものである。
【0044】
下記の式Ia〜Ifは、式I中にイメージング成分を組み込むための好ましい部位、即ちR1〜R5のいずれか又はZに結合したカルボニル炭素の位置を例示している。R1〜R5、X、Y及びZは式Iに関して前記に定義した通りであり、R*はイメージング成分又はイメージング成分を含む置換基を表す。
【0045】
【化7】

イメージング成分で標識された式Iの好ましい化合物の例は、下記のような化合物1〜6である。
【0046】
【化8】

上述の通り、イメージング成分が11Cである場合、好ましい組込み部位は式Iのカルボニル基の位置である(上記化合物1及び4を参照されたい)。例えば、R1〜R4がHであり、R5が前記に定義した通りであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNである場合、合成は5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発できる[Campianiら(J.Med.Chem.,1996,39,3435)]。(テトラヒドロフランのような)無水溶媒中でアルカリ金属水素化物(例えば、KH)のような強塩基と反応させることで反応性エノレート中間体を得る。このエノレートを所望のR5基に対応するアルキル−[11C]カルバモイルクロリドと反応させれば、本発明の特定の化合物が得られる。
【0047】
11Cの別の好ましい組込み部位は、式IのR4上の末端メチル基の一部としてである(上記化合物3を参照されたい)。例えば、R1〜R3がHであり、R4及びR5が前記に定義した通りであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNである場合、デスメチル中間体(例えば、N−エチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル)の製法は、Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)によって記載されている。特定のデスメチル誘導体を無水極性溶媒(例えば、アセトニトリル)中において適当な塩基(例えば、炭酸カリウム)の存在下で[11C]メチルヨージドと反応させれば、本発明の化合物が得られる。
【0048】
イメージング成分が18Fである場合、式IのR5基の末端の位置である(上記化合物2を参照されたい)。例えば、R1〜R4がHであり、R5が前記に定義した通りであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNである場合、合成は5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発できる[Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)]。(テトラヒドロフランのような)無水溶媒中でアルカリ金属水素化物(例えば、KH)のような強塩基と反応させることで反応性エノレート中間体を得る。このエノレートをカルバモイルクロリドと反応させることで中間化合物カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルを得る。極性無水溶媒(例えば、アセトニトリル)中において適当な塩基(例えば、炭酸カリウム)の存在下で所望のR5基に対応する[18F]フルオロアルキルブロミドと反応させれば、本発明の特定の化合物が得られる。[18F]フルオロアルキルブロミドは、Baumanら(Tetrahedron Lett.,2003,44,9165)又はIwataら(J.Labelled Compd.Radiopharm.,2003,46,555)の公表された方法に従って製造できる。
【0049】
18Fの別の好ましい組込み部位は、R4又はR5中の[18F]フルオロメチル基の一部としてである。R1〜R4がHであり、R5が前記に定義した通りであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNである場合にこれを達成するための1つの経路は、5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発することである。中間体N−メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル)の製法は、Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)によって記載されている。この中間体を無水極性溶媒(例えば、アセトニトリル)中において適当な塩基(例えば、炭酸カリウム)の存在下で所望のR5基に対応する[18F]フルオロアルキルブロミドと反応させれば、本発明の特定の化合物が得られる。[18F]フルオロアルキルブロミドの製造は、前の段落で述べた通り、Baumanら又はIwataらの以前に記載された方法に従って実施できる。R4又はR5中の[18F]フルオロメチル基の一部として18Fを組み込むための別の経路は、無水極性溶媒(例えば、アセトニトリル)中において適当な塩基(例えば、炭酸カリウム)の存在下でデスメチル中間体を[18F]フルオロメチルブロミドと反応させることである。
【0050】
化合物1〜6に関する合成経路は、実施例1〜6中に一層詳しく記載される。
【0051】
好ましくは、本発明の化合物はインビボで容易に代謝を受けず、したがって最も好ましくはヒトにおいて60〜240時間のインビボ半減期を示す。かかる化合物は、好ましくは腎臓経由で排泄される(即ち、尿中排泄を示す)。かかる化合物は、好ましくは病巣で1.5以上、最も好ましくは5以上の信号/バックグラウンド比を示し、10以上が特に好ましい。化合物が放射性同位体を含む場合、非特異的に結合しているか又はインビボで遊離している化合物のピークレベルの1/2のクリアランスは、好ましくはイメージング成分の放射性同位体の放射性崩壊半減期以下の時間で起こる。
【0052】
前駆体
別の態様では、本発明は、本発明の化合物を製造するための前駆体であって、当該前駆体がイメージング成分での標識に適した化学基を含むように誘導体化された式Iの化合物である前駆体を提供する。
【0053】
「前駆体」は、好都合な化学形態のイメージング成分との化学反応が部位特異的に起こり、最小数の段階(理想的にはただ1つの段階)で反応を実施でき、かつ格別の精製の必要なしに(理想的にはいかなる追加の精製も必要なしに)所望のイメージング剤を与えるように設計された、式Iの化合物の誘導体からなる。かかる前駆体は合成品であり、良好な化学純度で簡便に得ることができる。「前駆体」は、適宜式Iの化合物のある種の官能基に対する保護基を含むことができる。
【0054】
「保護基」という用語は、望ましくない化学反応を阻止又は抑制するが、分子の残部を変質させない十分に温和な条件下で問題の官能基から脱離させ得るのに十分な反応性を有するように設計された基を意味する。脱保護後には所望の生成物が得られる。保護基は当業者にとって公知であり、アミン基に関してはBoc(ここでBocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)、Fmoc(ここでFmocはフルオレニルメトキシカルボニルである。)、トリフルオロアセチル、アリルオキシカルボニル、Dde[即ち、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル]及びNpys(即ち、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)から適宜に選択され、カルボキシル基に関してはメチルエステル、tert−ブチルエステル及びベンジルエステルから適宜に選択される。ヒドロキシル基に関しては、好適な保護基は、メチル、エチル又はtert−ブチル、アルコキシメチル又はアルコキシエチル、ベンジル、アセチル、ベンゾイル、トリチル(Trt)、又はテトラブチルジメチルシリルのようなトリアルキルシリルである。チオール基に関しては、好適な保護基はトリチル及び4−メトキシベンジルである。さらに他の保護基の使用は、‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theorodora W.Greene and Peter G.M.Wuts(Third Edition,John Wiley&Sons,1999)に記載されている。
【0055】
好適には、本発明の前駆体は、
(i)トリアルキルスタンナン又はトリアルキルシランのような有機金属誘導体、
(ii)求核置換用のアルキルハライド、アルキルトシレート又はアルキルメシレートを含む誘導体、
(iii)求核又は求電子置換に向けて活性化された芳香環を含む誘導体、及び
(iv)チオール含有化合物をアルキル化してチオエーテル含有生成物を与える誘導体
からなる群から選択される化学基で誘導体化される。
【0056】
下記の式Ii〜Ivは、式I中に化学基を組み込むための好ましい部位を例示している。式中、R1〜R5、X、Y及びZは式Iに関して前記に定義した通りであり、CGは前記化学基を表す。
【0057】
【化9】

本発明の好ましい前駆体化合物の例は下記の通りである。
【0058】
【化10】

医薬品組成物
さらに別の態様では、本発明は、本発明の化合物を哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性担体と共に含んでなる医薬品組成物を提供する。好ましくは、医薬品組成物は放射性医薬品組成物である。即ち、式Iの化合物が放射性イメージング成分を含む。
【0059】
「生体適合性担体」は、組成物が生理学的に許容できるようにして(即ち、毒性又は過度の不快感なしに哺乳動物体に投与できるようにして)化合物を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性担体媒質は、好適には、無菌の無発熱原性注射用水、(有利には注射用の最終生成物が等張性又は非低張性になるように平衡させ得る)食塩水のような水溶液、或いは1種以上の張度調整物質(例えば、生体適合性対イオンを有する血漿陽イオンの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能な担体液体である。生体適合性担体媒質はまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は配合物を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性担体媒質は無発熱原性注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静脈内注射用生体適合性担体媒質のpHは好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0060】
かかる医薬品組成物は、好適には、無菌保全性を維持しながら皮下注射針による1回又は数回の穿刺に適したシール(例えば、クリンプ加工した隔壁シールクロージャー)を備えた容器に入った状態で供給される。かかる容器は1回分又は複数回分の患者用量を含み得る。好ましい複数用量容器は、複数の患者用量を含む(例えば、容積10〜30cm3の)単一のバルクバイアルからなり、したがって臨床的状況に合わせて製剤の実用寿命中に様々な時間間隔で1回分の患者用量を臨床グレードの注射器に抜き取ることができる。予備充填注射器は1回分のヒト用量又は「単位用量」を含むように設計され、したがって好ましくは臨床用に適した使い捨て注射器又は他の注射器である。放射性医薬品組成物の場合、予備充填注射器には、施術者を放射線量から保護するための注射器シールドを適宜設けることができる。好適なかかる放射性医薬品注射器シールドは当技術分野で公知であり、好ましくは鉛又はタングステンからなっている。
【0061】
放射性医薬品は、SPECT又はPETイメージングのため、所望の信号を生じるのに十分な量で患者に投与できる。通常、典型的には体重70kg当たり0.01〜100mCi、好ましくは0.1〜50mCiの放射性核種用量が十分である。
【0062】
本発明の医薬品は、以下に記載するようにキットから製造できる。別法として、かかる医薬品を無菌製造条件下で製造することで所望の無菌生成物を得ることができる。かかる医薬品を非無菌条件下で製造し、次いで例えばγ線照射、オートクレーブ処理、乾熱又は(例えば、エチレンオキシドによる)化学処理を用いて終末滅菌を施すこともできる。好ましくは、本発明の医薬品は以下に一層詳しく記載するようにキットから製造される。
【0063】
キット
本発明のさらに別の態様は、第3の実施形態の医薬品組成物を製造するためのキットを提供する。かかるキットは、好ましくは無菌で非発熱性の形態にある本発明の好適な前駆体であって、イメージング成分の無菌供給源との反応により最小数の操作で所望の医薬品が得られるような前駆体を含んでいる。かかる考慮事項は、放射性医薬品(特に、放射性同位体が比較的短い半減期を有する放射性医薬品)の場合において、取扱いを容易にし、したがって放射線薬剤師に対する放射線量を低減させるため特に重要である。したがって、かかるキットの再構成用の反応媒質は好ましくは上記に定義したような「生体適合性担体」であり、最も好ましくは水性のものである。
【0064】
好適なキット容器は、注射器による溶液の添加及び抜取りを許しながら、無菌保全性及び/又は放射能安全性の維持、さらに適宜不活性ヘッドスペースガス(例えば、窒素又はアルゴン)の維持を可能にする密封容器からなっている。好ましいかかる容器は、気密クロージャーを(通例はアルミニウムからなる)オーバーシールと共にクリンプ加工した隔壁密封バイアルである。かかる容器は、例えばヘッドスペースガスの変更又は溶液のガス抜きのために所望される場合、クロージャーが真空に耐え得るという追加の利点を有している。
【0065】
固相に結合された前駆体の場合、密封容器はキットの一部として提供されるカートリッジであってよく、これは適宜に改造された自動合成装置に挿入できる。カートリッジは、固体担体に結合された前駆体とは別に、不要の反応体を除去するためのカラム、及び反応混合物を蒸発させかつ必要に応じて生成物を処方するために連結された適当な容器を含み得る。これらのカートリッジは、11C又は18Fのような短寿命の放射性同位体で標識された本発明の化合物を製造するため特に有用である。
【0066】
キット中に使用する場合、前駆体の好ましい態様は上述した通りである。キット中に使用するための前駆体を無菌製造条件下で使用すれば、所望の無菌で非発熱性の材料を得ることができる。また、前駆体を非無菌条件下で使用し、次いで例えばγ線照射、オートクレーブ処理、乾熱又は(例えば、エチレンオキシドによる)化学処理を用いる終末滅菌を施すこともできる。好ましくは、前駆体は無菌で非発熱性の形態で使用される。最も好ましくは、無菌で非発熱性の前駆体は上述したような密封容器内で使用される。
【0067】
キットはさらに、放射線防護剤、抗菌防腐剤、pH調整剤又はフィラーのような追加成分を適宜含むことができる。
【0068】
「放射線防護剤」という用語は、水の放射線分解から生じる含酸素遊離基のような高反応性遊離基を捕捉することで分解反応(例えば、レドックス過程)を阻止する化合物を意味する。本発明の放射線防護剤は、好適には、アスコルビン酸、p−アミノ安息香酸(即ち、4−アミノ安息香酸)、ゲンチジン酸(即ち、2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、及び生体適合性陽イオンを有するこれらの塩から選択される。「生体適合性陽イオン」及びその好ましい実施形態は、上述した通りである。
【0069】
「抗菌防腐剤」という用語は、潜在的に有害な微生物(例えば、細菌、酵母又はかび)の増殖を阻止する薬剤を意味する。抗菌防腐剤はまた、用量に応じ、多少の殺菌性を示すこともある。本発明の抗菌防腐剤の主な役割は、再構成後の医薬品組成物(即ち、イメージング剤そのもの)中におけるこのような微生物の増殖を阻止することである。しかし、抗菌防腐剤は、再構成前の本発明の非放射性キットの1種以上の成分中における潜在的に有害な微生物の増殖を阻止するためにも適宜使用できる。好適な抗菌防腐剤には、パラベン類(即ち、メチル、エチル、プロピル又はブチルパラベン或いはこれらの混合物)、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールがある。好ましい抗菌防腐剤はパラベン類である。
【0070】
「pH調整剤」という用語は、再構成されたキットのpHがヒト又は哺乳動物への投与のために許容し得る範囲(およそpH4.0〜10.5)内にあることを保証するために有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。好適なかかるpH調整剤には、トリシン、リン酸塩又はTRIS(即ち、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン)のような製剤学的に許容できる緩衝剤、及び炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物のような製剤学的に許容できる塩基がある。前駆体を酸性塩の形態で使用する場合には、pH調整剤を適宜独立のバイアル又は容器に入れて供給することができ、その結果としてキットのユーザーは多段操作の一部としてpHを調整することができる。
【0071】
「フィラー」という用語は、製造及び凍結乾燥中における材料の取扱いを容易にすることができる製剤学的に許容できる増量剤を意味する。好適なフィラーには、塩化ナトリウムのような無機塩、及びスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースのような水溶性糖又は糖アルコールがある。
【0072】
イメージング方法
本発明の化合物はインビボイメージングのために有用である。したがって、さらに別の態様では、本発明はインビボイメージング方法(例えば、SPECT又はPET)で使用するための本発明の化合物を提供する。かかるイメージング方法は、健常被験体或いはPBRの異常発現に関連する病的状態(「PBR状態」)を有することが知られ又は疑われる被験体においてPBRを検査するために使用できる。好ましくは、前記方法はPBR状態を有することが疑われる被験体のインビボイメージングに関し、したがって前記状態の診断において有用である。かかる状態の例には、神経炎症が存在するパーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー病及びハンチントン病のような神経疾患がある。本発明の化合物によるイメージングが有用であり得る他のPBR状態には、ニューロパシー性疼痛、関節炎、喘息、アテローム性動脈硬化症及び癌がある。最も好ましくは、前記イメージング方法は神経炎症が存在するPBR状態を有することが疑われる被験体のインビボイメージングに関する。
【0073】
本発明のこの態様はまた、被験体におけるPBR状態のインビボ診断又はイメージングを行うための方法であって、本発明の化合物を含む医薬品組成物の投与を含んでなる方法を提供する。前記被験体は好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。別の実施形態では、本発明のこの態様はさらに、本発明の医薬品組成物を予め投与した被験体におけるPBR状態のインビボイメージングを行うための、本発明の化合物の使用を提供する。
【0074】
「予め投与した」とは、臨床医の関与の下でイメージング剤を例えば静脈内注射によって患者に投与する段階が既に実施されていることを意味する。本発明のこの態様は、PBR状態のインビボ診断イメージング用の診断薬の製造における、第1の実施形態のイメージング剤の使用を含んでいる。
【0075】
さらに、本発明のこの態様は、PBR状態のインビボ診断又はイメージング用の医薬品の製造における本発明の化合物の使用を提供する。
【0076】
治療モニタリング
さらに別の態様では、本発明は、PBR状態と戦うための薬物によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニターする方法であって、本発明の化合物を前記身体に投与する段階、及び前記化合物の取込みを検出する段階を含んでなる方法を提供する。前記投与及び検出は、任意ではあるが好ましくは、例えば前記薬物による治療前、治療中及び治療後に繰り返して実施される。
【0077】
実施例の簡単な説明
実施例1〜6は、いずれもPETイメージング剤である本発明の化合物1〜6の合成法を記載する。
【実施例】
【0078】
実施例1:エチル−[11C]カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0079】
【化11】

Campianiら(J.Med.Chem.,1996,39,3435)によって記載された方法と同様にして、5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発し、(テトラヒドロフランのような)無水溶媒中でアルカリ金属水素化物(例えば、KH)のような強塩基と反応させることで反応性エノレート中間体を得る。このエノレートをエチル−[11C]カルバモイルクロリドと反応させれば、所望のエチル−[11C]カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。
【0080】
エチル−[11C]カルバモイルクロリドは、他の報告された[11C]カルバモイルクロリド(例えば、Lidstroem et al,J.Labelled Compd.Radiopharm.,1997,40,788を参照されたい)の場合と同様な経路で製造される。[11C]ホスゲンをTHFのような無水溶媒中のエチルアミン溶液と反応させれば、所望のエチル−[11C]カルバモイルクロリドが得られる。
【0081】
実施例2:N−[18F]フルオロエチルカルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0082】
【化12】

5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発し、(テトラヒドロフランのような)無水溶媒中でアルカリ金属水素化物(例えば、KH)のような強塩基と反応させることで反応性エノレート中間体を得る。このエノレートをカルバモイルクロリドと反応させてカルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルを得る。このエステルをアセトニトリル中において炭酸カリウムの存在下で[18F]フルオロエチルブロミドと反応させれば、所望のN−[18F]フルオロエチルカルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。
【0083】
18F]フルオロエチルブロミドは、Baumanら(Tetrahedron Lett.,2003,44,9165)の公表された方法に従って製造できる。
【0084】
実施例3:N−エチル−N−[11C]メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0085】
【化13】

5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発するデスメチル標識前駆体N−エチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの製法は、Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)によって記載されている。このエステルをアセトニトリル中において炭酸カリウムの存在下で[11C]メチルヨージドと反応させれば、所望のN−エチル−N−[11C]メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。
【0086】
実施例4:N−エチル−N−メチル−[11C]カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0087】
【化14】

実施例1と同様にして、5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発し、(テトラヒドロフランのような)無水溶媒中でアルカリ金属水素化物(例えば、KH)のような強塩基と反応させることで反応性エノレート中間体を得る。このエノレートをN−エチル−N−メチル−[11C]カルバモイルクロリドと反応させれば、所望のN−エチル−N−メチル−[11C]カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。
【0088】
N−エチル−N−メチル−[11C]カルバモイルクロリドは、他の報告された[11C]カルバモイルクロリド(例えば、Lidstroem et al,J.Labelled Compd.Radiopharm.,1997,40,788を参照されたい)の場合と同様な経路で製造できる。[11C]ホスゲンをTHFのような無水溶媒中のエチルアミン溶液と反応させれば、所望のN−エチル−N−メチル−[11C]カルバモイルクロリドが得られる。
【0089】
実施例5:N−[18F]フルオロメチル−N−メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0090】
【化15】

5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発するN−メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの製法は、Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)によって記載されている。このエステルをアセトニトリル中において炭酸カリウムの存在下で[18F]フルオロメチルブロミドと反応させれば、所望のN−[18F]フルオロメチル−N−メチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。
【0091】
18F]フルオロメチルブロミドは、Iwataら(J.Labelled Compd.Radiopharm.,2003,46,555)の以前に記載された方法に従って製造される。
【0092】
実施例6:N−エチル−N−[18F]フルオロメチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの合成
【0093】
【化16】

5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−オンから出発するN−エチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステルの製法は、Campianiら(J.Med.Chem.,2002,45,4276)によって記載されている。このエステルをアセトニトリル中において炭酸カリウムの存在下で[18F]フルオロメチルブロミドと反応させれば、所望のN−エチル−N−[18F]フルオロメチル−カルバミン酸5−フェニル−6−オキサ−10b−アザ−ベンゾ[e]アズレン−4−イルエステル()が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式Iの化合物或いはその塩又は溶媒和物であって、当該化合物がイメージング成分で標識されている、化合物。
【化1】

式中、
1は水素、C1-6アルキル、C1-6チオアルキル、C1-6アルコキシ及びハロゲンから選択され、
2及びR3は独立に水素、C1-6アルキル、C1-6チオアルキル、C1-6アルコキシ及びハロゲンから選択され、
4及びR5は独立に水素、C1-6アルキル及びC1-6フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共に、N、S及びOから選択されるヘテロ原子を適宜含む適宜置換された三員乃至六員脂肪族環を形成し、
X及びZは独立にCH及びNから選択され、
YはO、S、NH、CH=CH、2−S及びN−C1-6アルキルから選択される。
【請求項2】
1が水素及びハロゲンから選択され、
2及びR3が独立に水素、C1-6アルキル及びハロゲンから選択され、
4及びR5が独立に水素、C1-4アルキル及びC1-3フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共に、Nをヘテロ原子として含む適宜置換された三員乃至六員脂肪族環を形成し、
XがCH及びNから選択され、
YがCH=CH又は2−Sであり、
ZがNである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
1が水素又はClであり、
2及びR3が独立に水素、p−メチル、m−メチル及びフッ素から選択され、
4及びR5が独立に水素、メチル、エチル及びC1-3フルオロアルキルから選択されるか、或いはこれらが結合したZ基と共にシクロプロピル、4−メチルピペラジン又はアゼチジルを形成する、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
(i)R1〜R4が水素であり、R5がエチルであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNであるか、或いは
(ii)R1が塩素であり、R2〜R4が水素であり、R5がエチルであり、XがCHであり、YがCH=CHであり、ZがNであるか、或いは
(iii)R1〜R3が水素であり、R4及びR5がエチルであり、XがNであり、Yが2−Sであり、ZがNであるか、或いは
(iv)R1及びR3が水素であり、R2がp−メチルであり、R4及びR5がメチルであり、XがNであり、YがCH=CHであり、ZがNである、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
前記イメージング成分が、
(i)γ放出型放射性ハロゲン、
(ii)陽電子放出型放射性非金属、
(iii)過分極NMR活性核、
(iv)インビボ光学イメージングに適したレポーター、及び
(v)血管内検出に適したβ放射体
から選択される、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の化合物。
【請求項6】
前記イメージング成分が、123I、131I及び77Brから選択されるγ放出型放射性ハロゲンである、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
前記γ放出型放射性ハロゲンが123Iである、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
前記イメージング成分が、11C、13N、18F及び124Iから選択される陽電子放出型放射性非金属である、請求項5記載の化合物。
【請求項9】
前記陽電子放出型放射性非金属が11C又は18Fである、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物を製造するための前駆体であって、当該前駆体がイメージング成分での標識に適した化学基を含むように誘導体化された式Iの化合物であり、前記化学基が
(i)トリアルキルスタンナン又はトリアルキルシランのような有機金属誘導体、
(ii)求核置換用のアルキルハライド、アルキルトシレート又はアルキルメシレートを含む誘導体、
(iii)求核又は求電子置換に向けて活性化された芳香環を含む誘導体、或いは
(iv)チオール含有化合物をアルキル化してチオエーテル含有生成物を与える誘導体
からなる、前駆体。
【請求項11】
イメージング成分での標識に適した化学基を含むように誘導体化された前記式Iの化合物が、以下の式Ii〜Ivのいずれかの化合物である、請求項10記載の前駆体。
【化2】

式中、R1〜R5、X、Y及びZは請求項1乃至請求項3で定義した通りであり、CGは前記化学基を表す。
【請求項12】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物或いはその塩又は溶媒和物を、哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性担体と共に含んでなる医薬品組成物。
【請求項13】
化合物が放射性イメージング成分であるイメージング成分を含む、請求項12記載の医薬品組成物。
【請求項14】
請求項10又は請求項11記載の前駆体を含んでなるキットであって、当該キットがそれぞれ請求項12又は請求項13記載の医薬品組成物の製造に適している、キット。
【請求項15】
インビボ診断又はイメージング方法で使用するための、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物。
【請求項16】
前記方法がPBR状態のインビボ診断又はイメージングのためのものである、請求項15記載の化合物。
【請求項17】
被験体におけるPBR状態のインビボ診断又はイメージングを行うための方法であって、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物を含む医薬品組成物の投与を含んでなる方法。
【請求項18】
請求項12又は請求項13記載の医薬品組成物を予め投与した被験体におけるPBR状態のインビボイメージングを行うための、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項19】
PBR状態のインビボ診断又はイメージング用の医薬品の製造における、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項20】
PBR状態と戦うための薬物によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニターする方法であって、請求項12又は請求項13記載の医薬品を前記身体に投与する段階、及び前記医薬品の取込みを検出する段階を含んでなる方法。

【公表番号】特表2009−538894(P2009−538894A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512674(P2009−512674)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002024
【国際公開番号】WO2007/141491
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】