説明

インピーダンス素子

【課題】簡便な製造方法で、1つの磁性体で、磁気結合を抑制し、かつ直流重畳特性を向上するオーディオ用デジタルアンプに使用可能な実装面積の小さいインピーダンス素子を提供する。
【解決手段】略直方体状の1つの磁性体(2)と、前記磁性体の底面に対して垂直な、相対する長手方向の側面(2a,2b)間を独立かつ平行に貫通している1対の第1貫通孔(3a,3b)と、前記第1貫通孔にそれぞれ挿通する2本の導体(3c,3d)と、前記導体間にそれらと独立して延びている断面縦長の第2貫通孔(4)と、前記磁性体(2)に挿通している2本の導体(3c,3d)の両端部(3e,3f)を磁性体の下面に沿わせて曲げ加工した面実装端子とからなるインピーダンス素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルオーディオ等の増幅回路などで用いられているノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
出力5W以上のデジタルオーディオパワーアンプにおいて、音声信号は、矩形波パルスの幅を変化させた搬送波に乗せて送信されるPWM方式が用いられている。このPWM方式の搬送波は、384kHz〜768kHz前後の周波数であるためそのままスピーカーに入力しても人間の可聴帯域外であるため音声には直接影響ないが、スピーカーケーブルから電源ケーブルへの電磁干渉や輻射ノイズの発生源となる。
従って、一般的にはICの出力側にオーディオ周波数帯域を通過させ、搬送波を阻止するためのLCローパスフィルタを挿入している。PWM方式の搬送波はディファレンシャルモードとコモンモード両方の成分を含んでいるため、プラス、マイナスの各ラインにそれぞれインダクタ、各ライン−グランド間にそれぞれコンデンサ、ライン間にコンデンサを挿入してLCローパスフィルタを構成する必要がある。LCローパスフィルタを構成する部品は1チャンネル当たり5個必要となるため、部品点数が大きくなり、機器小型化の障害となっていた。
一方、5W未満の低出力デジタルオーディオパワーアンプでは搬送波であるPWM波の電圧値が低く、また電流値も小さいためLCローパスフィルタを使用せずにフェライトチップビーズを用いてノイズ対策を行うフィルタレス方式が採用されている。
しかしながら、出力5W以上の中出力デジタルオーディオパワーアンプにおいては比較的高電流が流れるため、フェライトチップビーズでは直流重畳特性が悪く、要求されるノイズ対策性能を満足させることが困難であり、フィルタレスが困難となっていた。
したがって、出力5W以上の中出力デジタルオーディオパワーアンプでフィルタレス方式を行う場合、数アンペア程度の電流値でもディファレンシャルモードとコモンモード両方の実効インピーダンスの直流重畳特性のよいインピーダンス素子が必要である。
【0003】
このような課題を解決するため、例えば、図5に示した特許文献1のインピーダンス素子10は、2本の導体11a,11bを2つの磁性体12a,12bにギャップ材13を設けて挟み込み、磁性体間に空間を作ることによって、1個のインピーダンス素子で2個の機能を持ち、かつ直流重畳特性を向上させ、大電流を流してもインピーダンス素子が破損しない構造となっている。また、特許文献1の技術では、2つの磁性体の間にできる隙間が磁気飽和を抑制する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−16797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術は、2つの磁性体を製造してギャップ材を設けて貼り付けるなど、製造工程が複雑になり生産効率が悪い問題があった。したがって、1つの磁性体で、磁気結合を抑制し、かつ直流重畳特性を向上するインピーダンス素子が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の問題を解決するために、略直方体状の磁性体と、前記磁性体の底面に対して垂直な、相対する長手方向の側面間を独立かつ平行に貫通している1対の第1貫通孔と、前記第1貫通孔のそれぞれに挿通する2本の導体と、前記導体間にそれらと独立して延びている断面縦長の第2貫通孔とからなるインピーダンス素子を構成する。
【0007】
前記の目的をより効果的に達成するために、前記第2貫通孔は、磁性体の高さHの2分の1から5分の4の高さとする。
【0008】
さらに、本発明は、前記課題をより効果的に解決する対応として、略直方体状の磁性体と、前記磁性体の相対する底面に対して垂直な、長手方向の側面間を独立かつ平行に貫通している1対の第1貫通孔と、前記第1貫通孔にそれぞれ挿通する2本の導体と、前記導体間にそれらと独立して延びている断面縦長の第2貫通孔と、前記磁性体に挿通した2本の導体の両端部を下方に曲げ加工した面実装端子とからなるインピーダンス素子を構成する。
【0009】
前記磁性体は、Ni-Zn系フェライト材であるインピーダンス素子とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来の技術より簡便な方法で、磁気結合と磁気飽和を抑制し、かつ1個の磁性体で面実装インピーダンス素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るインピーダンス素子の斜視図である。
【図2】前記インピーダンス素子の製造に使用する乾式成型の分解斜視図である。
【図3】インピーダンス素子の導体挿入前の斜視図である。
【図4】インピーダンス素子の導体挿入後の斜視図である。
【図5】従来技術のインピーダンス素子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示すように、本発明に係るインピーダンス素子1は、略直方体状の磁性体2と、一対の第1貫通孔3a,3bと、導体3c,3dと、第2貫通孔4とからなる。
【0013】
前記磁性体2のサイズは、縦A:3〜15mm,横B:4〜10mm,高さH:2〜6mmであり、透磁率80〜2000H/mのNi−Zn系フェライト材からなる。
【0014】
前記第1貫通孔3a,3bは、垂直な長手方向の側面2a,2b間を独立かつ平行に貫通している。前記導体3c,3dは、材料に銅を用い、前記第1貫通孔3a,3bのそれぞれに挿通し、両端部3e,3fは下面に向かって曲げ加工されている。
【0015】
前記第2貫通孔4は、前記導体間にそれらと独立して延びていて、断面は、縦長であり、縦方向の高さは、前記磁性体の高さHの2分の1から5分の4を有する。前記高さにすることで、50〜80%の磁気結合を抑制することができる。第2貫通孔4の高さが磁性体2の高さHの2分の1より小さいと磁気結合の抑制率が50%より低くなるため、ディファレンシャルモードのノイズフィルタとして充分機能しなくなり、磁性体2の高さHの5分の4より高いと、磁気結合の抑制率は、80%より高くなるが、インピーダンス素子の強度が小さくなる。したがって、前記第2貫通孔4の縦方向の高さは、前記範囲が望ましい。
【0016】
以下、インピーダンス素子1の製造方法の実施例について、図面を参照しながら説明する。本発明の製造方法は、次の6つの工程からなる。
(1)原料を混ぜる工程
Ni−Zn系フェライト粉と水とバインダーとをそれぞれ40〜60:40〜60:2〜10の重量割合で混合し、ボールミルで5〜24時間撹拌し、スラリー原料にする。
(2)スプレードライ工程
前記スラリー原料を120〜220℃の熱風中で噴霧にし、粒径が10〜200μmの粉状の磁性体にする。
(3)乾式成形工程
図2に示すように、上型6、下型8には、突出部9a,9b,9cを挿入できる貫通孔があり、それぞれが金属ダイス7に挟まれて上下に動作ができる。土台9は、貫通孔形成用の突出部9a,9b,9cを具備して固定されている。突出部9a,9bは、それぞれ第1貫通孔3a,3bを形成し、突出部9cは、第2貫通孔4を形成する。前項で形成した粉状の磁性体を、土台9が挿入され、下型8と金属ダイス7に挟まれて磁性体2の金型となっている部分に流し込み、上型6と下型8で上下から加圧して、磁性体2を成形する。加圧成形した後、上型6を金属ダイス7からはずし、さらに下型8を、金属ダイス7の上面に対して水平になるまで上昇させ、下から押し出すように、磁性体2の形の乾式成形品を取り出す。
(4)焼成工程
前記乾式成形品を、徐々に加熱して脱バインダーをおこない、高温炉で900〜1300℃で2時間かけて焼成し、磁性体2を得る。
(5)導体挿入工程
図3、図4のように、導体3c,3dを磁性体2の第一貫通孔3a,3bに挿入する。導体3c,3dは、所定の長さが磁性体2の内部からはみ出すように磁性体2に挿入される。
(6)導体折り曲げ工程
磁性体2からはみ出した導体の両端部3e,3fを下方に折り曲げる。好ましくは、下方に向かって折り曲げ、かつ下面に沿わせて折り曲げる。以上の方法で、図1のインピーダンス素子1を製造する。
【0017】
従来の技術では、磁気結合を抑制するために、磁性体を2個貼り合わせて使用する必要があったが、本発明では、導体間に貫通孔4を設けるだけで、磁気結合を抑制し、磁性体を貼り合わせることなく2連インピーダンス素子を製造することができる。また、従来の製造工程では、乾式成型工程で部品数が2倍必要であるため、製造時間が約2倍になり、さらに、導体挿入工程の前に2個の磁性体を貼り合わせる接着工程が必要となる。したがって、本発明は、従来の製造方法に比べて生産性を格段に高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明を利用すると、簡便かつ効率的に、大電流を要するオーディオ用デジタルパワーアンプに使用する面実装インピーダンス素子を提供できる。
【符号の説明】
【0019】
1:インピーダンス素子,2:磁性体,2a,2b:側面,3a,3b:第1貫通孔,
3c,3d:導体,3e,3f:両端部,4:第2貫通孔,6:上型,7:金属ダイス,8:下型,9:土台,9a,9b,9c:突出部,10:従来技術のインピーダンス素子,
11a,11b:導体,12a,12b:磁性体,13:ギャップ材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体状の磁性体(2)と、前記磁性体の底面に対して垂直な、相対する長手方向の側面(2a,2b)間を独立かつ平行に貫通している1対の第1貫通孔(3a,3b)と、前記第1貫通孔のそれぞれに挿通する2本の導体(3c,3d)と、前記導体間にそれらと独立して延びている断面縦長の第2貫通孔(4)とからなるインピーダンス素子。
【請求項2】
前記第2貫通孔の高さは、磁性体の高さHの2分の1から5分の4である請求項1記載のインピーダンス素子。
【請求項3】
略直方体状の磁性体(2)と、前記磁性体の底面に対して垂直な、相対する長手方向の側面(2a,2b)間を独立かつ平行に貫通している1対の第1貫通孔(3a,3b)と、前記第1貫通孔のそれぞれに挿通する2本の導体(3c,3d)と、前記導体間にそれらと独立して延びている断面縦長の第2貫通孔(4)と、前記第1貫通孔に挿通した2本の導体の両端部(3e,3f)を下方に曲げ加工した面実装端子とからなるインピーダンス素子。
【請求項4】
前記磁性体は、Ni-Zn系フェライト材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインピーダンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−93436(P2013−93436A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234646(P2011−234646)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【特許番号】特許第4999028号(P4999028)
【特許公報発行日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】