説明

インフラサウンド測定装置

【課題】簡単な構成で安価に提供することができるとともに、低周波領域において非常に優れた感度を有し、経年劣化も生じにくいインフラサウンド測定装置を提供すること。
【解決手段】開口部を有する容器と、該開口部を覆うように展張されたシートと、該シート表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段とを備えていることを特徴とするインフラサウンド測定装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火山噴火や雷等の自然現象、核実験等の人工爆発現象によって励起されるインフラサウンドを測定するためのインフラサウンド測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、人間は20Hz〜20kHz程度の周波数の音波を聞き取る能力を持っているといわれている。この周波数範囲の音を「可聴音」と呼び、この範囲を超えた音になると、人の耳で捉えることができなくなる。この可聴範囲外の音のうち、20kHz以上の高周波域の音を「ウルトラサウンド(超音波)」といい、20Hz以下の低周波域の音を「インフラサウンド」という。
【0003】
音波は高周波になるほど空気の粘性により強い減衰を受け、その減衰は周波数の2乗に反比例する。すなわち、1kHzの波が1m伝わる時に受ける減衰は、0.1Hzのインフラサウンドが10万km伝わる時に受ける減衰と同等であることから、インフラサウンドは空気の粘性による減衰を受けにくく長距離伝播を可能とする特性を持つ。
【0004】
インフラサウンドは、火山噴火や雷等の自然現象、核実験等の人工爆発現象によって励起されることが知られている。上記した長距離伝播の特性を利用して、近年、火山噴火活動の監視や、核実験の監視などといった広域的な監視のために、インフラサウンドの観測が活用されている。インフラサウンドの到来方向、速度を求めるには3つ以上のセンサを配することで1観測点だけから求めることも可能ではあるが、音波源を特定するためには1観測点では困難であり、複数のセンサを使用した観測点を多地点に配置し総合的に音波源を特定することを必要とする。
【0005】
インフラサウンドを測定するための技術として、特許文献1には、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させた低周波用コンデンサマイク型センサが提案されている。この低周波用コンデンサマイク型センサは、微小差の圧力を計測するのに優れており、0.2Paの分解能を有し、通常使用されるセラミックを利用した微気圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、微小な圧力を検出することができる。
【0006】
しかしながら、低周波用コンデンサマイク型センサは、1台がセンサ単体だけで非常に高額であるために多数設置することは困難である。それ故、多点観測を狙ったインフラサウンド測定センサとして使用するには適していない。安価なインフラサウンド測定センサが開発されれば、多点観測を狙った複数のセンサを設置することができ、多地点インフラサウンド観測網の確立を行い、自然環境下におけるインフラサウンドの計測並びに防災面で利用することができる。
【0007】
上記したような実状に鑑みて、本願発明者らは、特願2008−134750号において、開口部を有する容器と、該開口部を覆うように展張されたシートと、該シート表面に取り付けられた圧電素子(ピエゾフィルム等)からなるインフラサウンド測定センサを提案している。
【0008】
このインフラサウンド測定センサは、単純な構成で従来のセンサと遜色ない感度を有する優れたものである。
しかしながら、このインフラサウンド測定センサでは、シート表面に圧電素子を接触させているため、シート表面に負荷がかかり、振動(微小圧力変動)を妨げる場合があることから、低周波領域における感度に限界があった。
また、経時的に生じるシート表面のアライメント不良により、圧電素子に静電容量が発生し、感度が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−28195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、簡単な構成で安価に提供することができるとともに、低周波領域において非常に優れた感度を有し、経年劣化も生じにくいインフラサウンド測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、開口部を有する容器と、該開口部を覆うように展張されたシートと、該シート表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段とを備えていることを特徴とするインフラサウンド測定装置に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記非接触型変位検出手段が、前記シート表面に対してスポット光を照射する投光部と、該投光部から照射されてシート表面で反射又は散乱した光を受けて電気信号に変換する受光部とからなることを特徴とする請求項1記載のインフラサウンド測定装置に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記受光部が、光位置検出素子を備えていることを特徴とする請求項2記載のインフラサウンド測定装置に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記容器には、ピンホールが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のインフラサウンド測定装置に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記ピンホールが、一端部が前記容器に設けられた小孔に連通するように該容器外面に気密に接続された接続管と、該接続管の他端部に対して着脱可能に取り付けられた該接続管よりも内断面積が小さい小径管とから構成されていることを特徴とする請求項4記載のインフラサウンド測定装置に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、開口部を有する容器と、該開口部を覆うように展張されたシートと、該シート表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段とを備えているインフラサウンド測定装置であるから、インフラサウンドの到達によって容器周囲の圧力が変化し、容器内の圧力が変化しないことにより生じた差圧によって、シート表面(膜面)が上下に振動し、この振動による変位を非接触型変位検出手段により検出することにより、インフラサウンドを測定することができる。
そのため、優れた感度を有する装置を単純な構成で安価に提供することができ、火山噴火活動の監視等のために多地点にて複数台設置することが可能な有用性の高いインフラサウンド測定装置となる。
しかも、シート表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段を備えていることから、シート表面に負荷がかかって振動(微小圧力変動)を妨げることがなく、低周波領域における感度を優れたものとすることができる。また、経時的に生じるシート表面のアライメント不良等によって感度が低下することがなく、長期間に亘って優れた性能を発揮することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、前記非接触型変位検出手段が、前記シート表面に対してスポット光を照射する投光部と、該投光部から照射されてシート表面で反射又は散乱した光を受けて電気信号に変換する受光部とからなることから、シート表面の振動による変位を高感度で検出することが可能となる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、受光部が光位置検出素子を備えていることから、受光部を簡易な構成で高感度なものとすることができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、前記容器にピンホールが設けられていることから、インフラサウンド測定装置が測定可能な周波数を調節することができる。また、容器内に緩やかな温度変化等が生じ、容器内の圧力が緩やかに変化したとしても、ピンホールから圧力が抜けるため、シート表面が上下することがなく、ノイズを低減することができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、ピンホールが、一端部が前記容器に設けられた小孔に連通するように該容器外面に気密に接続された接続管と、該接続管の他端部に対して着脱可能に取り付けられた該接続管よりも内断面積が小さい小径管とから構成されているため、小径管を内径や長さの異なるものに交換することができ、検出周波数範囲を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るインフラサウンド測定装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】インフラサウンド検出部の第一実施形態を示す図である。
【図3】容器にピンホールを設けた図である。
【図4】容器にピンホールを別の形態で設けた図である。
【図5】非接触型変位検出手段の構成を示す図である。
【図6】シートの表面の特性による反射光の挙動の違いを示す説明図である。
【図7】光位置検出素子の動作原理を示す断面構造図である。
【図8】受光面及びその入射位置換算の説明図である。
【図9】電流電圧変換回路の一例を示す回路図である。
【図10】一般的な計装アンプの内部回路および動作原理を示す図である。
【図11】非接触型変位検出手段の一例を示す回路図である。
【図12】非接触型変位検出手段用の電源回路の一例を示す回路図である。
【図13】光位置検出素子による方式(PSD方式)と一次元イメージセンサによる方式のスポット光量分布による誤差を示す図である。
【図14】インフラサウンド検出部の第二実施形態を示す図である。
【図15】インフラサウンド検出部の第二実施形態の分解構成図である。
【図16】本発明に係るインフラサウンド測定装置により測定された連続波形を時間順に示す図である(1番目)。
【図17】本発明に係るインフラサウンド測定装置により測定された連続波形を時間順に示す図である(2番目)。
【図18】本発明に係るインフラサウンド測定装置により測定された連続波形を時間順に示す図である(3番目)。
【図19】本発明に係るインフラサウンド測定装置により測定された連続波形を時間順に示す図である(4番目)。
【図20】インフラサウンド到来予想時刻付近の時間範囲の測定波形の拡大図である。
【図21】図20と同時間範囲内のパワースペクトラムである。
【図22】図20と同時間範囲のダイナミックスペクトルである。
【図23】周波数範囲0Hz〜1.5Hz部分を拡大したダイナミックスペクトル(左)とその2値化画像(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るインフラサウンド測定装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るインフラサウンド測定装置の全体構成を示す概略図である。
本発明に係るインフラサウンド測定装置は、インフラサウンドを検出するインフラサウンド検出部1と、インフラサウンド検出部1から出力された信号を取り込んで解析する信号取り込み解析部10とからなる。
【0023】
図2は、インフラサウンド検出部1の第一実施形態を示す図である。
インフラサウンド検出部1は、開口部21を有する容器2と、開口部21を覆うように展張されたシート3と、シート3の表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段4とを備えている。
【0024】
容器2の形状は、開口部21を有していれば特に限定されず、様々な形状のものを使用することができる。例えば、有底円筒形状のものや有底多角筒形状のものを使用することができるが、開口部21にシート3を展張し易いため、図示のような有底円筒形状が好ましい。
図2では、開口部21と底部22の面積が略同一である寸胴形状の容器2を使用しているが、開口部21の面積が広く、底部22の面積が狭い形状でもよく、逆に、開口部21が狭く底部22が広い形状でもよい。
容器2の開口部21には、図3に示す通り縁部23が幅をもって設けられていることが好ましい。容器2とシート3が接触する面積を多くすることにより、シート3を容器2の開口部21に展張し易くなり、容器2の密閉性をより向上させることができるためである。縁部23の幅は1mm〜3mmが好ましい。
【0025】
容器2の材質としては、容器内外の圧力の変化により形状が変化して容積が変化することがないものを使用することができる。例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、チタン、銅等の金属類、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂等の硬質樹脂類等が好適に用いられる。一方、容器2の形状が容易に変化するもの、例えば可撓性を有する軟質樹脂等を使用した場合、容器内外の圧力の変化により容器自体が膨張、収縮をし、シート表面(膜面という場合がある)31に圧力の変化が伝達されないことにより、インフラサウンドを測定できない可能性があるため好ましくない。
【0026】
容器2は、断熱構造を有していることが好ましい。
容器2に断熱性が備えられることで、容器2外の温度が急激に変化したとしても、それに追随して容器2内の空気が急激に膨張、収縮してシート表面31が上下に変位し、この変位が非接触型変位検出手段4により検出されるのを防止することができる。そのため、インフラサウンド測定装置1が検出するノイズを低減することが可能となる。
断熱構造としては、容器2を二重構造とすることが考えられる。また、容器2を断熱性の優れた素材から形成してもよい。
【0027】
容器2の側面には、図3に示すようにピンホール5を設けることが好ましい。ピンホール5を設けることにより、インフラサウンド測定装置が測定可能な周波数を調節することができるからである。また、容器内に緩やかな温度変化等が生じ、容器内の圧力が緩やかに変化したとしても、ピンホール5から圧力が抜けるために、シート表面31が上下することがないため、ノイズを低減することができる。
【0028】
ピンホール5は、容器2に孔を開けて管を通し、管と容器2の壁面の隙間を接着剤等で密封固定することによって設けられる。容器2に開ける孔の大きさは、管の外径よりもひとまわり大きい程度である。管の材質は特に限定されず、金属や合成樹脂等様々なものを使用することができるが、安定性や耐久性の面から例えばステンレス管を使用することができる。管の内径、管の長さ等は、容器2の容積、インフラサウンド測定装置1に求められる検出感度、ノイズの低減等、その他様々な要因によって適宜設定される。例えば、インフラサウンド測定装置の感度を上げるためには、管の内径をより小さくし、ノイズを低減させる場合は、管の内径をより大きくする。また、管に撚った銅線等を挿入することによって、ピンホール5の見かけ上の内径(断面積)を事後的に減少させることができる。
【0029】
図4は、ピンホール5を別の形態により設けた例を示す図である。
この形態において、ピンホール5は、一端部が容器2に設けられた小孔50に連通するように接続された接続管51と、この接続管51の他端部に対して着脱可能に取り付けられた小径管52とから構成されている
接続管51は、気密性に優れた樹脂製チューブ等からなり、例えば点滴に使用される医療用の樹脂製チューブ等が好適に使用できる。接続管51の長さ及び太さは特に限定されないが、例えば長さ10〜20cm、内径φ1〜5mmのものが使用される。
接続管51は、一端部が容器2の外面に対して気密に接続されており、他端部にはアタッチメント53を介して小径管52が着脱可能に接続されている。アタッチメント53は、様々な太さの小径管52を着脱可能に且つ気密に接続することが可能な公知の構造を有している。
小径管52は、接続管51よりも内断面積(内径)が小さいものであり、例えば注射針等を好適使用することができる。小径管52の長さ及び太さは特に限定されないが、例えば長さ20〜40mm、内径φ0.5〜1.0mmのものが使用される。
この構造では、容器2の内部は、小孔50、接続管51、アタッチメント53、小径管52を介して外部と連通する。
この構造によれば、接続管51の長さにより外気との圧力調整にかかる時間を稼ぐことができる。そして、小径管52が着脱可能であるため、小径管52を内径や長さの異なるものに交換することができ、検出周波数範囲を調整することが可能となる。
【0030】
シート3は、容器2の開口部21を覆うように取り付けられ、容器2を密封するように展張されることにより膜面31を形成する。インフラサウンドにより容器2内外の圧力が変化し、それに伴って膜面31が上下する。図2では、シート2を容器2の側面においてガムテープ等の粘着テープ26を使用することにより固定しているが、容器2の縁部23で両面テープを使用することによりシート2を固定する方法や、容器2の側面において紐等によって縛って固定する方法、その他接着剤を使用することにより固定する方法等がある。
【0031】
シート3の材質は、インフラサウンドにより膜面31が上下するものであれば特に限定はされないが、硬質樹脂フィルム、軟質樹脂フィルム等の合成樹脂フィルムを使用することができ、アルミニウム箔等の金属シートも使用することができる。これらの中でも、アルミニウム蒸着塩化ビニルシート、アルミニウム蒸着ポリプロピレンシート等、市販の菓子の密封構造を維持する包装フィルムとして使用されているアルミニウム蒸着樹脂フィルムの同等品を用いるのが好ましい。シートの耐久性を向上させることができ、シートが破損するのを防止することができるからである。加えて、容器内の急激な温度変化を防止することができるからである。
【0032】
非接触型変位検出手段4は、シート3の上方に配置され、シート3の表面(膜面31)の振動による上下変位を非接触で検出する。
図5は、非接触型変位検出手段4の構成を示す図である。
非接触型変位検出手段4は、シート3の表面に対してスポット光を照射する投光部41と、投光部41から照射されてシート表面で反射又は散乱した光(反射光)を受光する受光部42とから構成される。
【0033】
投光部41としては、半導体レーザ等のレーザポインタが好適に使用される。
投光部41から照射されるスポット光は、シート3の表面31において反射する。
このとき、シート3の表面の特性により反射光の挙動が異なる。
図6は、シート3の表面の特性による反射光の挙動の違いを示す説明図である。
シート3の表面に光沢が無い場合、(a)に示すように拡散反射成分が支配的になる。この場合、鏡面反射光が得られにくいため、スポット光を表面に対して垂直に照射して拡散反射光(散乱光)を受光部にて受光する方式(拡散反射方式)を採る。
シート3の表面に光沢がある場合や表面が鏡面である場合、(b)に示すように正反射成分が支配的になる。この場合、スポット光を表面に対して斜め方向に照射して反射光を受光部にて直接受光する方式(正反射方式)を採る。
本発明においては、上記いずれの方式を採用してもよいが、拡散反射方式とする場合はシート3の表面を反射率が高い白色として白色面での拡散反射とすることが好ましい。
【0034】
受光部42は、フィルタ421と、マクロレンズ422と、コンバータレンズ423と、光位置検出素子424と、計装アンプ425を備えている。但し、フィルタ421は必要に応じて装着すればよく、必須ではない。
シート3の表面において反射した光は、フィルタ421、マクロレンズ422、コンバータレンズ423を順次通過した後、光位置検出素子424の受光面において結像しスポットを形成する。
【0035】
光位置検出素子424は、反射してきたスポット光の位置を検出できる位置検出半導体素子(Position Sensitive Device:PSD)である。
光位置検出素子424の基本構造は、1つの接合面をもつPIN構造となっている。
図7は、光位置検出素子424の動作原理を示す断面構造図である。
接合面は比較的大きく(例えば1mm×3mm)、均一な面状の接合層の受光面であるP層両端に一対の光電流取り出し電極(X1,X2)が形成されている。また裏面のN層には共通電極が形成されている。
受光面にスポット光が当たると電荷が生成されて光電流として両端の電極(X1,X2)に到達し、この光電流はスポット光(入射光)の位置より電極(X1,X2)までの距離に逆比例して分割されて両端の電極(X1,X2)より出力される。出力される電流値(IX1,IX2)はスポット光の重心位置に応じた電流値であり、電極(X1,X2)から取り出された電流は必要な演算を行うことにより、スポット光の位置に比例したデータとして扱うことができる。
【0036】
上述した動作原理の通り、光位置検出素子424に入射するスポット光の重心位置を検出するためには、両端の電極(X1,X2)より出力される光電流(IX1,IX2)について、電流電圧変換、差動増幅を行う回路が必要となる。このときの入射位置換算は下記(式1)により行うことができる。図8は受光面及びその入射位置換算の説明図である。
【0037】

【0038】
電流電圧変換回路としては、光電流のような微弱な電流を実用的な電圧信号に変換するオペアンプを用いたトランスインピーダンス方式の電流電圧変換回路が好適に使用される(図9参照)。
図9において、オペアンプの反転入力端子に入力される微弱な電流Iは、全て帰還抵抗Rを通じてオペアンプの出力側へと流れ、帰還抵抗には−I×Rの電圧が発生する。この場合、トランスインピーダンスゲインの絶対値はRの値と等しくなる。
【0039】
差動増幅回路としては、差動入力でシングルエンド出力をもった閉ループ・ゲインブロックである計装アンプ(instrumentation amplifier)が好適に使用される。図10に一般的な計装アンプの内部回路図および動作原理を示す。
計装アンプ回路の入力バッファは対称な2つのオペアンプであり、入力電圧は単位利得のみをとる。後段では各バッファからの出力を差動増幅回路で減算し、差分電圧だけが出力されて同相電圧は遮断される。通常、計装アンプはパッケージに内蔵される帰還抵抗ネットワークと1個の外付け利得設定抵抗Rから構成される。これはオペアンプと異なり一体構造として構成されたチップである。
【0040】
上述したようにスポット光の重心位置に応じた光電流が光位置検出素子424から出力され、この光電流は上記したトランスインピーダンス方式の電流電圧変換回路により電圧に変換される。図11は非接触型変位検出手段4の一例を示す回路図であり、図12は非接触型変位検出手段4用の電源回路の一例を示す回路図である。
【0041】
光位置検出に対しては光位置検出素子424の分解能は高い(理論的には無限小である)。しかし、実際の入射位置と差動演算で求められる位置についてはシート表面の状態によっては誤差が大きくなる。但し、ここで求められる入射位置は光束の大きさや形状、光量に影響されない。また光スポットのピントが合っていなくても検出面範囲内で一様に拡がっている場合、位置検出に影響はない。
しかし、光位置検出素子424では光スポット全体の光量重心位置のみの情報しか得られないため、真の入射位置との誤差が生じやすい。従って、真の入射位置との誤差を小さくするために、受光部42に用いる受光素子として光位置検出素子424に代えて一次元イメージセンサ(CCD等)を使用してもよい。
一次元イメージセンサは、光位置検出素子に比べて分解能に制限があるが、セルごとの受光量を検出することができるため、シート表面の色むらや表面状態の影響を受けずに正確に光量のピーク位置と光量分布を検出することができる。
図13に光位置検出素子による方式(PSD方式)と一次元イメージセンサによる方式のスポット光量分布による誤差を示す。
【0042】
信号取り込み解析部10は、インフラサウンド検出部1から出力された信号が入力されるADボード101と、ADボード101によりA/D変換されたデジタル信号を取り込むパソコン102とからなる。パソコン102では、ソフトウェアによって取り込まれたデータを相関解析し、インフラサウンドの到来方向と速度を計算して、インフラサウンド測定結果を得る。
【0043】
図14はインフラサウンド検出部1の第二実施形態を示す図であり、図15はその分解構成図(非接触型変位検出手段は省略)である。
第二実施形態のインフラサウンド検出部1は、シート上面固定板61と容器下面固定板62によって挟持されている。以下、第二実施形態について説明を行うが、第一実施形態と同一の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0044】
固定板6は、シート上面固定板61と容器下面固定板62とが対になっている。
固定板6には、容器2の近傍であって、シート上面固定板61と容器下面固定板62の夫々対応する位置に複数の貫通孔63が形成されている。図15では3箇所の貫通孔63がシート上面固定板61と容器下面固定板62に夫々に設けられているが、3箇所に限定されず4箇所以上でもよい。一方、2箇所以下であると、容器2を密封しにくくなるため好ましくない。
シート上面固定板61と容器下面固定板62の貫通孔63にボルト7を挿通し、ナット8で上下から締結することにより、容器2とシート3が図14に示す通りシート上面固定板61と容器下面固定板62とにより狭持される。シート上面固定板61と容器下面固定板62をボルト7とナット8により締め付けることで容器2とシート3との間をより確実に密封することができる。
【0045】
容器2とシート3との間には、図15に示す通り、さらにドーナツ形の密封用パッキン32が設けられていることが好ましい。シート3と容器2との間に隙間が形成されるのを防止することができ、シート3と容器2をより確実に密封することができるからである。
シート3と容器2との間を確実に密封することにより、容器内の空気が容器外へ漏れることを防止することができ、容器内の圧力に対する容器外の空気圧の変化を確実に膜面31に伝達することができ、インフラサウンド検出部の信頼性を向上させることができる。
【0046】
容器2と密封用パッキン32との間の縁部23(図3参照)に、グリスやワセリン等を塗布することが好ましい。密封用パッキン32と容器2との間をより確実に密封することができるからである。
【0047】
シート上面固定板61には、容器2の開口部21において、容器2の開口部21の外縁部24(図3参照)より一回り小さい切り抜き孔64が設けられている。これにより、シート上面固定板61が膜面31と接触せず、膜面31が上下するときにシート上面固定板61の存在によりその動きが妨げられることがない。また、容器2の開口部21の縁部23とシート上面固定板61によりシート3が挟持されるため、容器2とシート3との間を密封することができる。
一方、容器2の開口部21の外縁部24よりも切り抜き孔64が大きい場合は、開口部21の面積が広く、底部22の面積が狭いコップ状の容器2を使用した時にはシート上面固定板61と容器下面固定板62によって容器2とシート3を挟持することができず、好ましくない。
【0048】
切り抜き孔64は、容器2の開口部21の内縁部25(図3参照)より一回り大きいことが好ましい。シート上面固定板61がシート3を密封しつつ膜面31をより広く確保することができ、インフラサウンド検出部1の感度を向上させることができるからである。
【0049】
シート3とシート上面固定板61との間には、図15に示すように、ドーナツ形の弾性部材33が設けられていることが好ましい。弾性部材33が設けられていることにより、上面に配置された固定板に切り抜き孔を開けた場合にバリ等が発生したとしても、固定板によって容器とシートを挟持したときにバリの部分が弾性部材で吸収され、寸法誤差を防止することができる。また、シートと固定板が直接接触することがないため、シートが破損するのを防止することができる。
弾性部材33の材質としては、天然樹脂、合成樹脂等を用いることができる。
尚、シート上面固定板61に切り抜き孔64を設ける際に、バリ等が発生せず、または発生したとしてもやすりがけ等により除去し、シート3を損傷する可能性がない場合は、当該弾性部材33を省略することができる。
【0050】
密封用パッキン32、弾性部材33にはシート上面固定板61に設けられた切り抜き孔64と同一の孔が設けられる。
シート3、密封用パッキン32、弾性部材33の容器2の開口部21の縁部23からはみ出る部分については、切り取ってもよいし、そのままにしてもよい。
【0051】
上記第二実施形態について、シート上面固定板61と容器下面固定板62をボルト7とナット8とによって狭持する形態について説明を行ったが、挟持する手段はボルトとナットには限定されず、例えば、固定板6にはボルト7用の貫通孔63は設けず、シート上面固定板61と容器下面固定板62の端部において複数箇所を万力によって狭持することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を示すことにより本発明の効果を明確とするが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(インフラサウンド検出部の作製)
容器として、開口部φ100mm×高さ110mm、容積1×10mmのステンレス製の有底円筒状容器を使用し、その外周に断熱用のウレタンを巻き付けた。容器の側面の高さ2cmの位置にピンホール用の孔を開けた。このピンホール用の孔に医療用注射針(テルモ注射針22G 1’1/2(φ0.70mm×37mm))を差し込んでピンホールとした。
【0054】
シートとして、市販のアルミニウムが蒸着されたポリプロピレンシートを使用し、容器の開口部を覆う程度の大きさに切断した。密封用パッキンは、通常のゴム板(縦10cm×横10cm×厚さ0.5mm)を使用した。中央部には孔(φ90mm)を開け、シートと同一の大きさに切断することにより確実に密封用パッキンが容器の縁部に重なるようにした。
容器の縁部に密封用パッキンを重ね、その上にシートを重ね、シートの上方に図5に示すように非接触型変位検出手段を配置した。投光部としては半導体レーザからなる赤色レーザポインタ(LM−102/101−A2 WENTA ELECTRONIC社製)を使用し、光位置検出素子としては一次元PSD素子(S3979 浜松ホトニクス社製)を使用した。光位置検出素子に接続される回路は、図9〜図12に示した構造のものを使用した。
【0055】
固定板として、縦15cm×横15cmのアルミ板を2枚使用した。シート上面固定板は厚み3mm、容器下面固定板は厚み5mmとした。固定板同士を重ね合わせて、容器を中心として容器と重ならない位置に、120°間隔で3箇所、ボルト用の6mmの孔を開けた。シート上面固定板には切り抜き孔(φ90mm)を開けた。
弾性部材として通常のゴム板(縦10cm×横10cm×厚さ0.5mm)を使用し、中央部には孔(φ90mm)を開け、容器の縁部に重ねた。
容器下面固定板の下面から上面方向へ高さ10cmのボルト(M6)を3箇所挿通し、容器下面固定板の上面に容器を載置し、シートにさらに弾性部材を重ねた。その後、3箇所のボルトを貫通孔に通しつつシート上面固定板を弾性部材の上に重ねた。最後に、3箇所のボルトをナットによって締結し、一対の固定板によってシートを狭持した。
【0056】
(インフラサウンド測定装置の作製)
上記したように作製したインフラサウンド検出部を、ADボード(ADX85−1000CL 株式会社サヤ製)及びパソコンからなる信号取り込み解析部と接続し、本発明に係るインフラサウンド測定装置とした。ADボードの測定時に使用したレンジは16bit A/Dコンバータ±2.5Vレンジであり、サンプリング周波数は200Hzである。
【0057】
(インフラサウンドの測定試験)
作製したインフラサウンド測定装置を高知工科大学キャンパス内に設置してインフラサウンドの測定を行った。測定装置は上蓋付きの有底ケース内に収容し、ケースの側面から放射状に延びるように、3m長の小孔が無数にあいている8本の園芸用ポーラスパイプ(スプリンクラー用)を接続した。これらのパイプは、測定周波数域に比べ高周波や局所的な風などによるノイズをキャンセルするための構造的ローパスフィルタの役割を果たす。
【0058】
測定は2009年2月5日〜9日までの4日間行った。この期間の2月9日7時46分頃に浅間山(群馬県と長野県の県境、標高2568m)にてごく小規模な噴火が発生した。
図16〜図19に2009年2月9日7時45分50秒〜同9時25分50秒までの計100分間に測定された連続波形を時間順に示す。高周波の変動を除くため、200サンプル(1秒間)の移動平均の波形(黄色又は白色の線)を併せて示した。波形後半の9時00分過ぎからの波型消失(測定レンジ±2.5Vを振り切っている)は、低気圧の接近によると推察される。
【0059】
(考察)
浅間山は高知工科大学より直線距離にて536km離れている。当日の天気状況に近い気温5℃における音速334.55m/sを仮定すると、7時46分頃の噴火から26.7分後の8時12分過ぎに噴火によるインフラサウンドの到来が予想される。
図20に到来予想時刻付近の8時9分50秒〜8時13分50秒までの測定波形の拡大を示す。図20には、環境ノイズとは異なる急峻波形と相対的に遅れてくる波形として、2つの空振と思われる波形(2箇所の矢印部分)を確認できる。また、同時間範囲内のパワースペクトラム(図21参照)でも空振周波数(2箇所の矢印部分)を確認できる。
図22には同時間範囲のダイナミックスペクトルを示し、図23にはその周波数範囲0Hz〜1.5Hz部分を拡大したダイナミックスペクトル(左)とその2値化画像(右)を示す。
図23のダイナミックスペクトルより、1Hz以下の周波数範囲にのみ本発明の測定装置の検出感度があることが確認できる。
先行の0.15Hz帯の波は衝撃波、相対的に後ろにずれた0.05Hz帯の波は膨張波とみることができる、この2つの空振は噴火による空振の可能性が高いと考えられる。
従って、本発明に係るインフラサウンド測定装置によれば、火山噴火により生じるインフラサウンド(空振)を測定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るインフラサウンド測定装置は、火山噴火や雷等の自然現象、核実験等の人工爆発現象を監視・測定するために好適に使用することができる。また、低周波振動センサとして環境計測のために、例えば高速鉄道等のトンネル突入時にトンネル出口側で発生する微気圧波、工場等周辺の低周波騒音の測定、大規模土砂災害等の監視のために好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 インフラサウンド検出部
2 容器
3 シート
31 シート表面(膜面)
4 非接触型変位検出手段
41 投光部
42 受光部
424 光位置検出素子
5 ピンホール
50 小孔
51 接続管
52 小径管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する容器と、
該開口部を覆うように展張されたシートと、
該シート表面の振動による変位を非接触で検出する非接触型変位検出手段と
を備えていることを特徴とするインフラサウンド測定装置。
【請求項2】
前記非接触型変位検出手段が、
前記シート表面に対してスポット光を照射する投光部と、
該投光部から照射されてシート表面で反射又は散乱した光を受けて電気信号に変換する受光部とからなることを特徴とする請求項1記載のインフラサウンド測定装置。
【請求項3】
前記受光部が、光位置検出素子を備えていることを特徴とする請求項2記載のインフラサウンド測定装置。
【請求項4】
前記容器には、ピンホールが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のインフラサウンド測定装置。
【請求項5】
前記ピンホールが、一端部が前記容器に設けられた小孔に連通するように該容器外面に気密に接続された接続管と、該接続管の他端部に対して着脱可能に取り付けられた該接続管よりも内断面積が小さい小径管とから構成されていることを特徴とする請求項4記載のインフラサウンド測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−266392(P2010−266392A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119504(P2009−119504)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年4月27日 日本地球惑星科学連合発行の「日本地球惑星科学連合 2009年大会 予稿集」(CD−ROM)に発表
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】