説明

インフルエンザに対する免疫応答を調節するIi−Keyハイブリッドペプチド

【課題】例えばインフルエンザなどの様々な疾患および状態を診断、治療するためのエピトープ、当該エピトープの特定、当該エピトープに基づいた免疫応答の調節、および当該エピトープに基づく化合物を提供する。
【解決手段】本発明の化合物は、MHCクラスII抗原提示増強能または阻害能を有するハイブリッドポリペプチドである。このハイブリッドは、哺乳類Ii−keyにおけるペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物を含むN末端と、抗原性エピトープを含むC末端とを有し、さらに、これらを共有結合で結ぶ介在的化学構造を有する。この抗原性エピトープは、任意の疾患、特には、インフルエンザウイルス、より詳細には、H5N1型のインフルエンザウイルスのエピトープとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
免疫系は、「異物」や「異常な」構造物を抗原と認識することで、外部の病原体、腫瘍細胞、自己免疫疾患誘発プロセス、アレルゲン、移植片などに応答する。これらの抗原の大部分は、宿主細胞または病原体が合成するタンパク質である。そのような抗原は、(タンパク質分解によって)ペプチド断片にプロセシングされた後、抗原提示細胞の表面上のペプチド提示構造体を介して免疫系の応答性リンパ球に提示される。このペプチド提示構造体は、主要組織適合性複合体(MHC)分子と呼ばれる。当該分子の名前は、近交系マウス間での移植片拒絶を制御する、MHC遺伝子座の対立遺伝子多型の産物として最初に見出されたことに由来する。
【0002】
動物は、「自己」の分子に由来するペプチドを、「非自己」の分子に由来するペプチドと区別するために、このように抗原を提示・認識する複雑な方法を発達させてきた。本発明は、免疫応答の初期段階であるこの基礎的な過程を利用した物および方法に関する。本明細書には、選択された抗原性ペプチドを特定のMHC分子にチャージする能力を増強することを利用した、免疫系のワクチン処置を行うための化合物および方法が開示されている。このようなワクチン処置により、外部から侵入した病原体の異物性や腫瘍に対する毒性応答を増強することができる。本発明の化合物を用いた他の方法として、自己の認識を増強する方法、または自己免疫疾患、アレルギー、もしくは移植片拒絶を制御する方法が挙げられる。
【0003】
特定の抗原に対する免疫応答は、MHC分子内に配された当該抗原のペプチド断片を認識するTリンパ球によって調節される。抗原提示細胞(APC)内では、タンパク質分解によってプロセシングされた抗原のペプチド断片が、主要組織適合性複合体(MHC)分子の抗原性ペプチド結合部位に結合する。このペプチド−MHCの複合体は細胞表面へと送られ、(その外部からのペプチドおよび当該ペプチド周辺のMHC分子表面が)応答性Tリンパ球のT細胞受容体(レセプター)によって認識される。これらのTリンパ球は、免疫制御機能(免疫応答を促進または抑制する機能)を有していたり、エフェクター機能(例えば細胞傷害性免疫応答などによって、病原体や腫瘍を除去する機能)を有していたりする。このような抗原特異的な認識事象による免疫応答のカスケード(cascade)の際には、防御免疫応答が生じたり、あるいは、自己免疫プロセスの場合には有害な免疫応答が生じたりする。
【0004】
二種類のMHC分子が、抗原性ペプチドをT細胞に提示する免疫応答提示体として機能する。MHCクラスI分子は、それが合成される時をほぼ同じくして、生体内で合成されたタンパク質に由来するペプチド、例えば、感染性ウイルスなどを、小胞体において受け取る。MHCクラスI分子に結合した抗原性ペプチドは、細胞表面上でCD8陽性傷害性Tリンパ球に提示される。すると、CD8陽性傷害性Tリンパ球は活性化され、ウイルス発現細胞を直接殺傷することができる。対照的に、MHCクラスII分子は、小胞体において合成され、その抗原性ペプチド結合部位をインバリアント鎖タンパク質(Ii)によってブロックされる。MHCクラスII分子とIiタンパク質との複合体は、小胞体からポストゴルジ区画へと送られ、そこでIiがタンパク質分解によって放出されて特異的な抗原性ペプチドがMHCクラスII分子に結合する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;および非特許文献7)。
【0005】
特許文献1および特許文献2(いずれの教示内容も参照をもって本願に取り入れたものとする)には、Iiタンパク質が切断されてその過程で切断断片が放出されることに起因する、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位への抗原性ペプチドの結合・固定の制御メカニズムが開示されている(非特許文献8;非特許文献9;および非特許文献10)。Iiタンパク質の一断片であるIi(77-92)は、抗原性ペプチドのN末端を保持する抗原性ペプチド結合部位端部付近の、当該抗原性ペプチド結合部位の外側に位置するアロステリック部位(allosteric site)に作用することが判明している。前述の特許文献には、さらに、免疫応答におけるこの初期の調節的な抗原性ペプチド認識事象を、3種類の機序を経由して制御する新規治療用化合物および治療方法が開示されている。第1の機序では、当該特許文献の発明の化合物の作用により、細胞表面のMHCクラスII分子から抗原性ペプチドが放出される。
【0006】
第2の機序では、当該特許文献の発明の化合物により、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位のチャージ能力が増強され、当該抗原性ペプチド結合部位に対する別の合成ペプチドの結合が容易となる。このような挿入されたペプチド配列は、抗原性エピトープでも非抗原性ペプチド配列でもあり得る。いずれにせよ、そのようなペプチド配列は、抗原性ペプチド結合部位に強固に結合して当該部位をブロックする。第3の機序では、複合体からの抗原性ペプチドの結合・解離速度の変化、MHC分子/抗原性ペプチド/T細胞受容体の三分子複合体の各成分間の相互作用の変化、ならびに当該三分子複合体と細胞間相互作用補助分子との相互作用の変化により、応答性Tリンパ球の分化・機能が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5559028号明細書(R. Humphreys (1996))
【特許文献2】米国特許第5919639号明細書(Humphreys, et al.(1999))
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Blum, et al , Proc. Natl Acad. ScI USA85: 3975 (1988)
【非特許文献2】Riberdy, et al., Nature 360: 474 (1992)
【非特許文献3】Daibata, et al., Mol. Immunol. 31: 255 (1994)
【非特許文献4】Xu, et al., Mol. Immunol. 31; 723 (1994)
【非特許文献5】Xu, et al., Antigen Processing and Presentation; Academic Press, NY p227 (1994)
【非特許文献6】Kropshofer, el at., Science 270; 1357 (1995)
【非特許文献7】Urban, et al., J. Exp. Med. 180: 751 (1994)
【非特許文献8】Adams, et al., Eur. J. Immunol. 25: 1693 (1995)
【非特許文献9】Adams, et al., Arzneim. Forsch. Drug Research 47; 1069 (1997)
【非特許文献10】Xu, et al., Arzneim. Forsch. Drug Research in press (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、驚くべきことに、Ii−Keyにおけるペプチドのホモログと抗原性ペプチドとを共有結合させることにより、その抗原性ペプチド提示の力価が大幅に増強されることを見出した。また、そのようなIi−Keyにおけるペプチドの生物学的に活性なコア断片を結合するためのリンカーは、Iiタンパク質由来の特定のペプチド配列である必要はなく、可撓性の単純なリンカー、例えば、メチレン(−CH−)基の繰り返し単位で構成されたリンカーで十分であり且つ好適である。
【0010】
本発明の化合物および方法は、様々な疾患(diseases)および状態(conditions)、例えば、インフルエンザなどの治療用および診断用の新規の化合物としても適用可能である。これらの化合物は、免疫応答の初期の調節的な抗原性ペプチドを認識する事象に働きかけるので、種々の毒性副作用を有する他種の治療薬よりも好適である。
【0011】
本発明の化合物および方法は、特定の用途において、対象の(例えば、インフルエンザに対する)初接種または追加接種に有効な(天然由来および合成由来の)抗原性ペプチドを特定するのに利用することができる。
【0012】
本明細書は、1)感染性疾患、悪性疾患、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、および移植片拒絶における抗原性エピトープの特定、2)このようなエピトープの、診断目的の使用、ならびに3)このようなエピトープの、治療目的の使用、特に、インフルエンザの治療目的の使用を開示する。
【0013】
本発明は米国特許第6432409号明細書(R. Humphreys, et al.)の研究をさらに進めたものであり、当該米国特許の教示内容は参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一構成は、MHCクラスII抗原提示増強能を有するハイブリッドポリペプチドに関する。このハイブリッドは、抗原提示増強能を保持する、哺乳類Ii−keyにおけるペプチドであるLRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)およびその改変物を含むN末端と、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合する、ポリペプチドまたはペプチド模倣構造体の形態の抗原性エピトープを含むC末端とを有し、さらに、当該ハイブリッドのN末端構成要素とC末端構成要素とを共有結合で結ぶ介在的化学構造を有し、当該介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、共有結合原子群である。好ましい実施形態において、介在的化学構造は、MHCクラスII分子に対して空間的(立体的)に顕著な変化を伴う水素結合を形成することができない。また、好ましくは、介在的化学構造は、直線状に並べられると4〜6個のアミノ酸の長さを有する。ハイブリッドに使用されるIi−keyのペプチドの改変には、N末端からの1つ以上のアミノ酸の欠失、C末端からの1つ以上のアミノ酸の欠失、N末端の保護、アミノ酸の置換や、環誘導体の生成などが含まれる。一実施形態において、ハイブリッドに使用されるIi−keyのペプチドは、C末端切断によってLRMK(配列番号:3)に改変されてもよい。本発明の好ましいハイブリッドには、Ac(アセチル化)−LRMK(配列番号:3)−5−アミノペンタノイル−IAYLKQATAK(配列番号:8)−NH;Ac−LRMK(配列番号:3)−5−アミノペンタノイル−5−アミノペンタノイル−IAYLKQATAK(配列番号:8)−NH;Ac−LRMKLPKSIAYLKQATAK−NH(配列番号:9);Ac−LRMKLPKSAKPIAYLKQATAK−NH(配列番号:10);またはAc−LRMKLPKSAKPVSKIAYLKQATAK−NH(配列番号:11);が含まれる。ハイブリッドに使用されるIi−keyのペプチドの他の好ましい改変物として、ペプチド模倣構造体、D−異性体アミノ酸、N−メチル化アミノ酸、L−異性体アミノ酸、修飾L−異性体アミノ酸、または環誘導体による1つ以上のアミノ酸の置換物が挙げられる。なお、MHCクラスII抗原提示増強能を有するハイブリッドに組み込み可能な、Ii−keyのペプチドと等価的に機能する分子を特定する方法も提供する。
【0015】
本発明の他の構成は、T細胞に対するMHCクラスII拘束性の抗原性エピトープの提示能を増強する方法に関し、当該方法は、MHCクラスII拘束性の抗原性エピトープを、本発明のMHCクラスII抗原提示増強能を有するハイブリッドポリペプチドに組み込むことと、その後、生理学的条件下で、前記ハイブリッドポリペプチドと、MHCクラスIIを発現する抗原提示細胞と、前記抗原提示細胞のMHCクラスII分子による前記抗原性エピトープの提示に応答するT細胞とを接触させることと、を含む。この方法は、前記組み込まれた抗原性エピトープに対する、MHCクラスIIの対立遺伝子の応答を増強するので有用である。また、MHCクラスII拘束性の所定のパターンのTh1刺激およびTh2刺激を引き起こす抗原性エピトープを特定するにあたって、そのような抗原性エピトープは、本発明のハイブリッドに組み込むことによって容易に特定することができる。さらに、本発明のハイブリッドは、ある個体の特定のTリンパ球に対する特定の分子の抗原性エピトープのMHCクラスII分子提示能を増強可能なので、当該特定の分子に対するその個体の免疫応答を調節するにあたって有用である。インビボ(in vivo)の方法、およびエクスビボ(ex vivo)の方法の両方を提供する。
【0016】
本発明のさらなる他の構成は、Tリンパ球に対するMHCクラスII拘束性の抗原性エピトープの提示を実質的に阻害する方法に関する。当該方法は、生理学的条件下で、以下の成分を接触させることを含む:MHCクラスIIを発現し、かつ、表面上にTリンパ球提示用の抗原性エピトープを出現させる抗原提示細胞;前記抗原提示細胞のMHCクラスII分子による前記抗原性エピトープの提示に応答するTリンパ球;および抗原提示を阻害するハイブリッドポリペプチド。前記抗原提示を阻害するハイブリッドポリペプチドは、i)抗原提示増強能を保持する、哺乳類Ii−keyにおけるペプチドであるLRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)およびその改変物を含むN末端と、ii)MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合する、抗原結合部位リガンドまたはペプチド模倣構造体を含むC末端と、さらに、iii)当該ハイブリッドのN末端構成要素とC末端構成要素とを共有結合で結ぶ介在的化学構造を有し、当該介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張し得る鎖を形成する、共有結合原子群である。この方法は、個体の抗原提示細胞によるMHCクラスII抗原提示を実質的に阻害するので、当該個体を、有害な免疫応答の発生に関連する疾患について治療するのに有用である。本発明は、MHCクラスII抗原提示を実質的に阻害する化合物を同定する方法についても、提供する。
【0017】
本発明のさらなる他の構成は、Ii−keyハイブリッドに組み込まれることで例えばTリンパ球またはTリンパ球由来のクローン細胞などの刺激を介して免疫応答を刺激可能な、ウイルスエピトープ(例えば、インフルエンザのエピトープなど)および合理的に設計されたエピトープ(例えば、コンビナトリアルケミストリーなどによって)を特定する方法に関する。本発明は、さらに、例えば、Tリンパ球またはTリンパ球由来のクローン細胞などを刺激することによって免疫応答を刺激するのに効果的であることが特定された、Ii−keyハイブリッドに組み込まれる任意の配列に関する。本発明は、さらに、上述のようにして特定され、Ii−keyハイブリッドに組み込まれた配列を対象または個体に投与することによって当該対象または個体の免疫応答を調節する方法およびキットに関する。
【0018】
H5N1の世界的流行の懸念から、そのような集団発生に対して万全の準備を整えるための努力が継続的に行われている。ワクチン接種が、何百万もの生命を奪いかねないパンデミックを抑える最も効果的な手段と考えられている。現在米国ではFDA(米国食品医薬品局)によって認可されたサブビリオンワクチンが備蓄されており、欧州では別の種類のワクチンが用意されているが、いずれのワクチンも最適な免疫原性ではないことが臨床試験で判明しており、ヘマグルチニン阻害の防御力価を得るには複数回の投与が必要とされている。
【0019】
過去の研究によると、抗原特異的ペプチドを用いたCD4陽性T細胞の予備刺激により、ウイルス中和抗体の産生が増強され、かつ、ウイルス排除が促進されることが立証されている(Zhong, W., et al., 2000, J Immunol 164:3274;Crowe, S. R., et al., 2006. Vaccine 24:457;およびZhao, et al., 2007, Methods of Mol Biol, 409:217-225)。保存されたクラスIIエピトープをインバリアント鎖の断片を含有するように改変した改変エピトープを用いる独特なアプローチで、H5N1ワクチンの免疫原性や、他種のインフルエンザ株用の認可済みのワクチンまたは開発中のワクチンの免疫原性を増強したり、異種亜型に対する免疫をもたらしたりするか否かについては予測できていない。出願人の理解するところでは、本願が、ワクチン設計目的のクラスIIH5N1型HA(ヘマグルチニン)エピトープを特定することに成功した初の文献である。他の研究者の研究は、季節性インフルエンザ感染後(Gelder, C, M., et a!., 1995. J Virol. 69:7497;およびRichards, K, A., et al., 2007; J Virol 81:7608)またはワクチン接種後(Gelder, C, M,, et a!., 1996. J Virol 70:4787;Danke, N, A., and W. W. Kwok. 2003, J Immunol 171 3163;およびNovak, E. Jet al., 1999. J Clin Invest 104:R63)の、ヒトCD4陽性T細胞の対HAレパトアに関するものであったが、本願出願人は、不活性化されたH5N1サブビリオンワクチンによるワクチン接種後に最も高確率で認識されるエピトープが何であるかについて分析を行った。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】アルゴリズムで予測されたクラスIIHLAH5N1型のHAペプチドをIi−Key部位を含有するように改変した改変ペプチドによる、インビトロ(in vitro)での刺激時の、CD4陽性IFN−γT細胞の頻度および大きさを示すグラフである。35名のドナーからPBMCサンプルを取り出し、このサンプルをCD8陽性T細胞欠損に調製し、24種類の各HA・Ii−Keyペプチドと共にインキュベートした。24時間のインキュベーション後、ELISPOT分析法を実施して、各ペプチドに対する応答率および応答の大きさを測定した。ワクチン接種者間の、各ペプチドに対する応答率を示す。応答の大きさの総計を、バックグウンドの3〜5倍超、5〜8倍超、8〜10倍超、および10倍超の各区分に適宜分けた(最低でもバックグランドの3倍超、すなわち、30SFC以上とした)。
【図2】H5N1型のHAのペプチドアレイのマトリックス(H5N1 HA peptide array matrix)を示す図である。第1ラウンドのT細胞刺激として、A/Thailand/4(SP-528)/2004由来の94種類の重複HAペプチドからなる20種類のペプチドプールを利用した。マトリックス内において、2種類の正のスコア(最低でもバックグランドの3倍超、すなわち、30SFC以上とした)が両方出た場合に、当該マトリックスから、第2ラウンドのT細胞スクリーニングの試験対象とするための個々のペプチドを導き出した。
【図3】A/Thailand/4(SP-528)/2004由来の94種類の重複HAペプチドプールによる、インビトロ(in vitro)刺激時の、CD4陽性IFN−γに基づく当該ペプチドプールの認識応答および認識率を示したグラフである。35名のドナーからPBMCサンプルを取り出し、このサンプルをCD8陽性T細胞欠損に調製し、H5N1型のHA配列全体をカバーした20種類の各ペプチドプールと共にインキュベートした。24時間のインキュベーション後、ELISPOT分析法を実施して、各ペプチドプールに対する応答率および応答の大きさを測定した。各ペプチドプール、サブビリオンワクチン(ウイルス)、およびH5N1型の組換えHAに対するワクチン接種者の応答率を示す。応答の大きさの総計を、バックグウンドの3〜5倍超、5〜8倍超、8〜10倍超、および10倍超の各区分に適宜分けた(最低でもバックグランドの3倍超、すなわち、30SFC以上とした)。
【図4A】組換えHAに対して応答を示したドナーのPBMCの、各種ペプチドプールに対するCD4陽性IFN−γ応答率を示したグラフである。各種ペプチドに対する応答(グラフ中の円印)からバックグランド応答(非刺激PBMC)を減算し、各ドナーの正味のSFCをプロットした。グラフ中の各々の丸印は、3列式のアッセイ分析によって算出した、各種ペプチドプールに対する平均SFC応答を示すものであり、グラフ中の「X」は組換えHAに対する応答を表す。ナイーブなドナーには、N1〜N8という番号を付した。
【図4B】組換えHAに非応答的なドナーのPBMCの、各種ペプチドプールに対するCD4陽性IFN−γ応答率を示したグラフである。各種ペプチドに対する応答(グラフ中の円印)からバックグランド応答(非刺激PBMC)を減算し、各ドナーの正味のSFCをプロットした。グラフ中の各々の丸印は、3列式のアッセイ分析によって算出した、各種ペプチドプールに対する平均SFC応答を示すものであり、グラフ中の「X」は組換えHAに対する応答を表す。
【図4C】ナイーブなドナーのPBMCの、各種ペプチドプールに対するCD4陽性IFN−γ応答率を示したグラフである。各種ペプチドに対する応答(グラフ中の円印)からバックグランド応答(非刺激PBMC)を減算し、各ドナーの正味のSFCをプロットした。グラフ中の各々の丸印は、3列式のアッセイ分析によって算出した、各種ペプチドプールに対する平均SFC応答を示すものであり、グラフ中の「X」は組換えHAに対する応答を表す。これらナイーブなドナーには、N1〜N8という番号を付した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の種々の構成は、MHCクラスII拘束性抗原性エピトープを適切な介在的化学構造を介して哺乳類Ii−keyのペプチドに共有結合させてハイブリッドポリペプチドとしたものが、その前駆体である抗原性エピトープ単独よりも大幅に高い効率で抗原提示細胞によってTリンパ球に提示されるという研究結果に基づくものである。このようにして形成されるハイブリッドポリペプチドを、本明細書では「MHCクラスII抗原提示増強能を有するハイブリッドポリペプチド」、あるいはよりシンプルに「増強ハイブリッド」と称する。本発明の増強ハイブリッドは、抗原提示増強能(後で詳述する)を保持する、哺乳類Ii−keyにおけるペプチドまたはその改変物を含むN末端を有する。当該Ii−keyにおけるペプチドには、提示される特異的抗原性エピトープが共有結合している。本発明において、当該特異的抗原性エピトープは、ウイルスエピトープ、インフルエンザエピトープ、またはインフルエンザ株H5N1および/またはインフルエンザ株H1N1に由来するエピトープである。前記Ii−keyにおけるペプチドと前記抗原性エピトープとの間には、これら2つの構成要素間を共有結合する介在的化学構造が設けられる。この介在的化学構造を、「スペーサー」と称する。そのようなスペーサーに必要なパラメータについては、後で詳述する。
【0022】
(インフルエンザエピトープ)
本発明の種々の構成は、特に、本発明のハイブリッドペプチドに使用され、所定のTリンパ球または所定のTリンパ球由来のクローン細胞を刺激したり、対象または個体を免疫化したりするのに効果的なウイルスエピトープの認識に関する。本発明の一実施形態において、前記ウイルスエピトープはインフルエンザ由来のものである。
【0023】
インフルエンザH5N1に対するワクチンこそが、世界的な流行が発生した際の罹患率および死亡率を抑えるのに効果的な唯一の手段であると考えられる。昨今の数年間で、トリからヒトへの直接感染の事例は、主に中国南部および東南アジアで報告されている(Fauci, A. S. 2006. Cell 124:665;およびMonto. A. S., and R. J. Whitley. 2008. Clin Infect Ds 46:1024)。さらに、これよりも恐ろしいヒトからヒトへのウイルス伝染があった可能性について、幾つかの事例が特定されている(Taubenberger, J. K., et al., 2007. Jama 297:2025)。ウイルスが遺伝物質を混合(reassort)し、ヒトからヒトへの直接感染が可能となれば、世界的流行の危険が存在する。従来の卵由来のワクチン、例えば、季節性インフルエンザの3価ワクチンなどは、季節性インフルエンザの亜型には極めて効果的であるものの、H5N1インフルエンザに対する十分な交差防御をもたらすことができるかについては疑問視されている。孵化鶏卵を用いてH5N1ウイルスを増殖させてワクチンを生産する初期の試みは、ウイルスの病原性によって高濃度増殖が妨げられたため、比較的少ないワクチン量しか得られず、残念な結果となった。この欠点は、株特異的なH5N1型HAタンパク質およびノイラミニダーゼタンパク質と、病原性のないA/PR/8/1934(H1N1)株由来のウイルス内タンパク質とを組み合わせたサブビリオンワクチン(subvirion vaccine)を生産することによって対処することができた。この手法に加え、HA1とHA2との間の多塩基性切断部位を移動させることにより、鶏卵への最小限の毒性を有するウイルスが高濃度で得られた(ワクチン供給量の増加につながった)。このワクチンは、製造能力の上昇をもたらすものの、臨床試験では弱い程度ないし緩やかな程度の免疫原性しか見受けられなかった(Treanor, J. J., et al., 2006. N Engl J Med 354:1343;Zangwill, K. M., et al., 2008. J Infect Dis 197:580;およびBresson. J. Let al., 2006. Lancet 367:1657)。その一方で、最新の臨床試験では、アジュバントを添加したスプリットワクチン3.8μgを2回にわたり投与することにより、77%の抗体陽転が得られたという結果もある(Leroux-Roels, l., et al., 2007. Lancet 370:580)。しかしながら、これらのワクチンは、力価の経時的な損失や、抗原ドリフトによる変異株の発生などによって効果が低下する可能性があるので、そのようなワクチンを備蓄する意義には疑問の余地がある。
【0024】
インフルエンザ感染の研究は、マウスモデル系で最も徹底的に行われている。そのような研究によると、マウスにおけるB細胞の欠如は、ウイルス曝露後の死亡率を上昇させ得ると示されており(Mozdzanowska, K., et al., 1997. Virology 239:217;およびMozdzanowska. K., et al., 2005. J Virol 79:5943)、これは、強力な抗ウイルス液性免疫が重要であることを示唆している。ただし、CD8陽性エフェクター応答の誘導も、ウイルス排除および回復に貢献しているとされている(Topham, D. J., et al., J Immunol 159:5197)。免疫応答の両部門(液性応答および細胞性応答)の活性化が最も効果的な抗ウイルス応答をもたらすことが分かっているものの、その大半は、CD4陽性T細胞の支援に大きく依存していることが立証されている。活性化されたCD4陽性T細胞は、メモリーB細胞およびメモリーT細胞を誘導するのに必要不可欠なサポートを提供すると共に、B細胞およびCD8陽性細胞に対する間接的な「ヘルプ」も提供する(Brown, D. M., et al., 2004. Semin Immunol 16:171;およびSwain, S, L., et al., 2006, Immunol Rev 211:8)。CD4陽性T細胞のさらなるエフェクター機能として、ウイルス感染に対する直接的な制御が挙げられ(Hogan, R, J., et al., 2001. J Exp Med 193:981;およびPaludan, C., et al., 2002. J Immunol 169:1593)、それには、インフルエンザに対する特異的な細胞殺傷活動も含まれる(Graham. M. B., et al., 1994. J Exp Med 180:1273;およびGraham, M, B., and T. J. Braciale, 1997. J Exp Med 186:2063。いずれもSwain, S. L., et al., 2006. Immunol Rev 211:8のなかで述べられている)。別の研究によると、CD4を欠損したマウスでも、極めて高い致死率のPR8マウスインフルエンザウイルスを排除できる可能性があることが示されている(Mozdzanowska, K., et al., 2000. J Immunol 164:2635)一方、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、およびB細胞の組合せがマウスのウイルス排除能および生存率を大幅に上昇させることが立証されており(Gerhard, W, 2001. Curr Top Microbiol Immunol 260:171;および Levi, R., and R. Arnon 1996, Vaccine 14:85)、すなわち、防御には、多面的な応答が最も効果的であることを示唆している。ヒトのH5N1感染の防御に対する各種細胞の貢献の程度は現在分かっておらず、それは流行株の病原性および総合的な毒性に大きく依存するものと思われる。以上をまとめると、免疫応答の複数の部門を誘導し且つ広範囲の免疫を引き起こすように設計されたH5N1ワクチンが、H5N1の集団発生に対する最も有効な対策であると考えられる。
【0025】
予備的研究では、アルゴリズムで予測したH5N1型HAのMHCクラスIIエピトープをIi−Keyに結合させたものでマウスを予備刺激することにより、臨床試験済みの組換えHAH5N1サブユニットワクチンに対する免疫応答を増強できることが立証された(未発表の研究)。具体的には、H5N1型HAの高度に保存された領域に由来するクラスIIH5N1型HA/Ii−Key予測エピトープを用いた予備刺激により、組換えHAを用いた追加免疫に対するTヘルパー細胞および抗体の応答が増強された。他種の抗原を用いた過去の研究でも、CD4陽性に対し、抗原特異的な予備刺激を行ってから組換えワクチンで追加免疫することの有用性が立証されており、詳細には、このような構成により、より強力な免疫学的応答が得られる(Hosmalin, A., et al., 1991. J Immunol 146:1667)。したがって、従来のH5N1ワクチンの限られた供給量を拡大するためには、H5N1ワクチンの総合的戦略の一部として、Ii−Keyを用いて改変したワクチンペプチドを予防ワクチンとして使用することを推進するのが合理的なように考えられる。また、H5N1型HAの保存された領域に由来する少なくとも1つのIi−Key改変H5N1型HAエピトープは、「単独」のワクチンとしても、世界的流行時に発生しかねない複数のH5N1型に対してある程度の防御を提供し得る可能性がある。
【0026】
出願人は、後述の実施例3で説明するように、このようなワクチンを開発するために、H5N1サブビリオンワクチン臨床試験の被験者からPBMC(末梢血単核球細胞)を入手し、具体的なCD4陽性エピトープ応答を評価・特定した。アルゴリズムで予測されたクラスIIHAペプチド(合理的な設計およびコンビナトリアルケミストリーで得られるエピトープも本発明の用途に適している)をIi−Keyで改変したもの、およびH5N1型HA配列の全体をカバーした重複ペプチドのライブラリ(ペプチドプールのアレイ)を、有望なMHCクラスIIエピトープの特定源として使用した。この研究は、H5N1サブビリオンワクチンに対するCD4陽性応答の特性を把握し、H5N1ワクチン開発に適した有望なMHCクラスIIエピトープを特定する初の研究である。
【0027】
H5N1不活性サブビリオンワクチン接種後のCD4陽性免疫優性エピトープを特定するために、CD8陽性が除去されたPBMCのサンプルを利用し、アルゴリズムで予測された24種類のペプチドをIi−Key部位を含有するように改変した改変ペプチドのセットを用いて、まず、エクスビボ(ex vivo)で直接刺激した。これらのペプチドをスクリーニングすることにより、ドナーPBMCのあいだで高確率で応答を誘導し且つ強力なIFN−γ応答を誘発した数種類のペプチドを見出した。これらのペプチドは他のH5N1株の間で高度に保存されており、複数のHLA−DR対立遺伝子と結合すると予測され、そのためH5N1ペプチドワクチンを得るために2つの望ましい面を有する。この研究結果をさらに拡張するために、エピトープを特定するためのより大胆なアプローチとして、複数の重複HAペプチドからなるペプチドアレイのセットを用意した。マトリックス的アプローチにより、これらの重複ペプチドプールを、35人のワクチン接種者に対して予備試験・分析した後、さらに、個々のペプチドを再び試験した。これにより、一度でたくさんの数のペプチドを実用的にスクリーニングすることができた。このようなアプローチで第1ラウンドのT細胞分析を実行したところ、サブビリオンワクチンに対する応答およびH5N1組換えHAに対する応答をインビトロ(in vitro)で迅速に評価することができ、かつ、クラスIIエピトープの候補を特定することができた。興味深いことに、ワクチンを接種したドナーの約半数は、組換えHAに対して反応を示さなかった。この理由の一部として、当該研究のために得られたサンプルがワクチン接種から約二年後のものであったこと、すなわち、メモリーT細胞が検出不能な範囲であったかもしれないことが考えられ、あるいは、そもそもワクチン自体が新規の免疫応答を誘発するのに有効でなかった可能性も考えられる。後者の説明は、サブビリオンワクチン接種後の初代長期臨床試験の被験者のうちの数名にHA特異的抗体応答が見られなかったことによって部分的に裏付けられる(Treanor, J. J., et al., 2006. N Engl J Med 354:1343;およびZangwill, K. M, et al., 2008 J Infect Dis 197:580)。組換えHAに対するT細胞の応答が、最大のワクチン投与量(90μg×3回)を受けた一部のドナーでは検出不能であった一方、それよりもワクチン投与量の低いドナーでは、応答を示したということ(データは表示せず)は、当該技術分野の予測不可能な側面を表している。また、組換えHAに対して応答を示したドナーのサンプルの圧倒的多数が、ペプチドプールとIi−Keyによって改変された予測エピトープとの両方に応答した一方、組換えHAに非応答的なドナーおよびナイーブ(naive)なドナーがペプチドプールに対して僅かな応答または全く応答を示さなかったという結果は、驚くようなものではない(図4A〜4C)。
【0028】
当該研究の懸念材料としては、季節性インフルエンザウイルスの感染および/または免疫を有する人口の頻度が高いことであり、そのため、ワクチンによって誘発された新規のCD4陽性T細胞応答と、過去の季節性ウイルスの感染または免疫に起因する交差応答とを区別する必要がある。ナイーブなドナーまたは組換えHAに非応答的なドナーのなかには、アルゴリズムで予測されたペプチドおよびH5N1型HA重複ペプチドに対して微かな応答しか示さないものがあったが、H5N1ワクチン接種者のうちH5N1組換えHAに対して応答を示したドナーのPBMCのほうが、遥かに高確率かつ強力な応答をはっきりと示していた。ナイーブな個人にH5N1特異的なT細胞応答が検出されたことは、Roti達の研究結果、具体的には、過去にH5N1に曝されたことのない健康成人がH5N1のHA、NA、マトリックスタンパク質、および核タンパク質のエピトープに対し、検出可能なCD4陽性T細胞応答を示すという研究結果に沿ったものである。出願人の研究のデータ解析は、「予防接種前」の対照PBMCを入手できなかったことから複雑化した。もし、そのような対照PBMCがあれば、試験対象の抗原に対するT細胞応答のバックグランドレベルを確立することができたであろう。しかしながら、この点は、H5N1にナイーブな数名のドナーのPBMCをスクリーニングすることによって部分的に修正することができた。なお、ペプチドプールは、総じて、ワクチン接種者に全体的に弱いIFN−γ活性ないし緩やかなIFN−γ活性(バックグランドの3〜5倍超)を誘発した。ただし、幾つかのプールは、ドナーによっては、それよりも高い活性を誘発した。ドナー達の最新の追加免疫ワクチン投与時とPBMCの収集時との間の時間(約24ヶ月)を考慮すると、ペプチドプールの応答の多くが弱かったのも驚くべきことではない。
【0029】
H5N1の前記ペプチドのライブラリからH5N1型HAに特異的なエピトープを特定する可能性を高めるために、第1ラウンドの試験において組換えHAに応答を示したドナーだけを、特定のペプチドのスクリーニングを行う第2ラウンドに使用した。このグループから活性ペプチドを特定することができたが、一部のドナーは、H1N1組換えHAについても陽性反応を示した。よって、第2ラウンドのスクリーニングにおける活性ペプチドが、交差反応の結果であったという可能性を完全に排除することはできない。16種類の個々のペプチドが、第2ラウンドのT細胞刺激において活性であると認められた。これらのうち8種類は、一般的な季節性インフルエンザH1N1株に対して部分的ないし実質的に完全な配列相同性を有することが判明し、残りの8種類は、ニューカレドニアHAに対して相同性が全くないことから、H5N1型HAに固有である。また、これらの特定された16種類のペプチドは、BEI7(aa 36-52)(BEI Resources寄託機関(本明細書では「BEI」と称することにする);米国バージニア州マナッサス市)からBEI78(aa 459-475)までのHA配列全体に分散しており、それらのうちの75%がHA1に位置している。4種類の重複ペプチドクラスター(BEI7−8、BEI27−29、BEI38−39、BEI73−74)が9種類の有望なエピトープを形成しているが、これらの重複ペプチドは、2種類(以上)の互いに異なるクラスII結合溝挿入部(registry)を有している可能性があり、そのような場合には、未特定のさらなるエピトープが存在していることになる。第2ラウンドのT細胞刺激では、BEI59、BEI73、およびBEI74が、インビトロ(in vitro)でドナーNo.1044、No.34、およびNo.21において強力な記憶応答(recall response)(バックグランドの20〜57倍超)を引き起こした。A/Vietnam/1203/04のHA配列とA/New Caledonia/20/99のHA配列との照らし合わせたところ、これらのインフルエンザ株は、それらの領域において顕著な相同性を有していた。したがって、上述のような強力な応答は、ニューカレドニアインフルエンザ株、別の季節性インフルエンザ株、または同様の相同性を有する亜型に対する既存のT細胞応答のブーストであると考えられる。
【0030】
インフルエンザウイルス感染に対して、防御免疫を発生したり、当該防御免疫に何らかの貢献をしたりする抗原特異的CD4陽性細胞の重要性は、様々な研究によってはっきりと立証されている(MozdKanowska, K., et al., 2005. J Virol 79:5943;Brown, D. M., et al., 2006. J Immunol 177:2888;およびHogan. R. J., et al., 2001. J Exp Med 193:981)。残念なことに、季節性インフルエンザに対するヒトのCD4陽性T細胞のレパトアを調査した研究の数は少なく、出願人の知るところによれば、H5N1型HAに対するこのような応答を調査した研究はひとつもない。ワクチン設計、特に、ペプチドベースのアプローチでワクチン設計を行う場合には、まず、免疫優性なウイルスエピトープを特定することが重要である。本明細書では、H5N1型HAに対して特異的である可能性が高いと思われるMHCクラスIIエピトープペプチド、およびH5N1型HAと季節性インフルエンザウイルスHAとの間に交差反応性を有する可能性が高いと思われるエピトープの両方が特定されている。いずれのエピトープの場合も、有用なワクチンペプチドとなり得る。高度に保存されたMHCクラスIIエピトープを用いた、H5N1型HAに対して応答を示すCD4陽性T細胞を生産するための免疫化は、ある程度の部分免疫をもたらし、H5N1の世界的流行時の致死率を単独で軽減できると十分に考えられ、さらには、異種亜型に対する免疫を増強させる可能性も高いと十分に予測される。また、MHCクラスIIエピトープペプチドは、予防的な免疫戦略に利用できる可能性があるので、これにより、従来の限られた供給量のワクチンの抗原投与量を減らし、より多くの人口をカバーすることができる。
【0031】
(Ii−Key)
過去の研究では、MHCクラスII拘束性の幾つかの抗原性ペプチドを、当該抗原性ペプチドを認識するTリンパ球−ハイブリドーマに提示する提示能について、哺乳類のIi−keyにおけるペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)およびその改変物:YRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:2)を用いることにより、その抗原性ペプチドの提示能を変化できることが立証された(特許文献1;特許文献2;および米国特許第6432409号明細書(R. Humphreys, et al.)を参照。これら米国特許の開示内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする)。Ii−keyのペプチドの改変バージョンを用いた過去の実験によると、このようなポリペプチドに対し、その活性に悪影響を及ぼすことなく様々な変更または改変が可能であることが分かっている。事実、そのような変更または改変により、当該ポリペプチドの抗原提示能が増強した事例が多く存在する。後述の実施例の結果から、抗原提示増強能を保持するあらゆるIi−key改変ペプチドは、適切に組み込まれることにより、本発明の増強ハイブリッドとして良好に機能することが分かる。Ii−keyにおけるペプチドの改変には、N末端からの1つ以上のアミノ酸の欠失、C末端からの1つ以上のアミノ酸の欠失、N末端の保護、アミノ酸の置換や、環状ペプチドの挿入などが含まれる。Ii−keyにおけるペプチドの欠失物であっても、少なくとも元来の配列からの4つの連続するアミノ酸またはその置換バージョンが残っていれば、機能活性(functional activity)を示す。また、各残基部は、様々な天然由来または非天然由来のアミノ酸で置換されていてもよい。置換に使用可能な分子の例として、ペプチド模倣構造体、D−異性体アミノ酸、N−メチル化アミノ酸、L−異性体アミノ酸、修飾L−異性体アミノ酸、環誘導体などが含まれる。また、創薬化学の当業者であれば、当該技術分野の技法を通常の実験法で適用することにより、ハイブリッドのN末端領域の他の改変物を得ることができる。このような技法の例として、合理的ドラッグデザイン、X線回折データや核磁気共鳴データおよびその他の算出法(computational methods)からの構造的情報に基づく分子モデリング、コンビナトリアル化学合成生成物のスクリーニング、天然物の単離などが挙げられる。Ii−keyペプチドにおいて、高い抗原提示促進活性を有することが知られている改変バージョンの例として、LRMK(配列番号:3)、LRMKLPK(配列番号:4)、LRMKLPKS(配列番号:5)、LRMKLPKSAKP(配列番号:6)、LRMKLPKSAKPVSK(配列番号:7)などが挙げられる。Ii−keyペプチドの他の改変物および改変バージョンは、特許文献2および特許文献1に記載されている。Ii−keyにおけるペプチドの、活性を保持することが知られている改変バージョン(YRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:2)は、以降、「Ii−keyのホモログ」と称する。本明細書において、「Ii−keyのホモログ」という用語には、Ii−keyペプチド自体という意味も包まれる。
【0032】
(エピトープ)
増強ハイブリッドの「抗原性エピトープ」とは、所与のT細胞に対して、所与の対立遺伝子の所与のMHCクラスII分子によって提示されるエピトープのことを指す。すなわち、抗原性エピトープは、MHCクラスII分子の抗原性エピトープ結合部位に結合する。本発明の増強ハイブリッドの生産用途のために選択される「抗原性エピトープ」は、その用途に合わせて変更または改変を施されていてもよい。すなわち、抗原性エピトープは、天然ポリペプチド、その配列の改変物、ペプチド模倣構造体、および非天然由来のアミノ酸またはアミノ酸の改変物である化学構造を含んでもよい。また、抗原性エピトープに対し、様々な化学的な改変または変更を施してもよい。例えば、そのような改変または変更として、哺乳類のMHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に対する抗原性ペプチドの結合が、T細胞を刺激するのに好適なものに維持される範囲内で、非天然由来のアミノ酸の全体もしくは一部を組み込んでもよいし、または他の主鎖部位もしくは側鎖部位を組み込んでもよい。このような化学構造は、天然由来のタンパク質配列から導き出された抗原性ペプチドに比べて構造的類似性を少ししか持たないか、ほぼ持たないか、または全く持たない。また、このような改変または変更は、T細胞受容体による認識に影響を及ぼすかもしれないし、または及ぼさないかもしれない。改変または変更によっては、抗原性エピトープの認識を増強させる場合もある(例えば、改変または変更前は認識を行わなかったT細胞受容体のサブセットが、認識を行うようになる可能性がある)。
【0033】
(スペーサー)
ハイブリッドにおける上述のような介在的化学部位、すなわち、「スペーサー」は、Ii−Keyのホモログと抗原性エピトープとを結合するものを指す。このようなスペーサーが複数ある場合には、「複数のスペーサー」と称する。スペーサーは、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸長にまで伸張し得るペプチド主鎖原子を有する、原子数ゼロ以上の共有結合原子群である。好ましくは、スペーサーは、直線で9個未満のアミノ酸長のペプチド主鎖である。最も好適なのは、スペーサーが、直線で4〜6個のアミノ酸長の主鎖ペプチドである場合である。好ましくは、スペーサーは、MHCクラスII分子に対して空間的(立体的)に顕著な変化を伴う水素結合を形成しないものである。
【0034】
スペーサー部位には、アミノ酸の代わりに、様々な種類の化学基が組み込まれてもよい。米国特許第5910300号明細書(Tournier, et. al., (1999))には、そのような化学基の例が記載されており、その内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。好ましい一実施形態において、スペーサーは、ヘテロ原子が適度に介在した脂肪族鎖で構成されており、例えば、C〜Cアルキレン、すなわち、=N−(CH2〜6−N=などが挙げられる。あるいは、スペーサーは、疎水性配列、親油性配列、脂肪族配列、芳香族−脂肪族配列などの単位が交互に並び、O、N、Sなどのヘテロ原子が適度に介在したものである。このようなスペーサーの好ましい構成成分は、以下の種類の化合物から選択される:ステロール類、アルキルアルコール類、様々なアルキル基を有するポリグリセリド、アルキル−フェノール類、アルキル−アミン類、アミド類、疎水性ポリオキシアルキレンなど。他の例として、疎水性ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシ酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられる。スペーサーは、酸素原子によって互いに隔てられた、短い脂肪族鎖の繰り返し単位、例えば、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンタメチレンなどを含むものであってもよい。
【0035】
また、スペーサー中に使用可能なペプチド配列は、米国特許第5856456号(Whitlow, et. al., (1999))に記載されており、この米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。一実施形態において、スペーサーは、内部で切断され得る化学基を含む。このような化学基は、プロテアーゼ、所定の化学基、または触媒活性を有するモノクローナル抗体によって、切断が触媒されるものであってもよいが、必ずしもこれらに限定されない。プロテアーゼ感受性の化学基の場合、トリプシンターゲット(カチオン性の側鎖を有する2種類のアミノ酸)、キモトリプシンターゲット(疎水性の側鎖を有するアミノ酸)、およびカテプシン(B、DまたはS)に感受性を示すものが好適である。本明細書において「トリプシンターゲット」とは、トリプシンやトリプシン様酵素によって認識されるアミノ酸配列を指す。本明細書において「キモトリプシンターゲット」とは、キモトリプシンやキモトリプシン様酵素によって認識されるアミノ酸配列を指す。また、触媒活性を有するモノクローナル抗体の化学的ターゲットや化学的に切断可能なその他の化学基は、ペプチド合成、酵素触媒、および有機化学一般の分野における当業者にとって周知であり、通常の実験的方法を用いて合成したり、ハイブリッド構造体に組み込んだりすることができる。
【0036】
(Ii−Keyハイブリッド)
本発明のハイブリッドは、全体的にペプチド様の性質を有するものから、実質的に非ペプチドの性質の性質を有するものまで多岐にわたる。ホモログの中には、ペプチド様の性質を著しく低下させたものまたは実質的に非ペプチド性のものがあることを考えると、このようなホモログは、好適な特性、例えば、細胞膜内への侵入、可溶性、耐タンパク質分解性、抱合による不活性化に対する耐性、経口バイオアベイラビリティ、長いインビボ(in vivo)での半減期などを有する可能性が高いと考えられる。
【0037】
本発明の範囲には、構造内に酸性基または塩基性基を有する、ハイブリッド分子の薬学的に許容可能な塩も含まれる。「薬学的に許容可能な塩」とは、アセテート(酢酸塩)、アンモニウム塩、ベンゼンスルホネート(ベンゼンスルホン酸塩)、ベンゾエート、ボレート、ブロミド、エデト酸カルシウム、カンシレート(カンシル酸塩)、カルボネート(炭酸塩)、クロリド(塩化物塩)/ジヒドロクロリド、シトレート(クエン酸塩)、クラブラネート(クラブラン酸塩)、エデテート(エデト酸塩)、エディシレート、エストレート、エシレート、フマレート、ヘキシルレゾルシネート(hexylresorcinate)、ヒドラバミン、ヒドロキシナフトエート、イオダイド(ヨウ化物塩)、イソチオネート、ラクテート、ラクトビオネート、ラウレート、メシレート、メチルブロミド、メチルニトレート、メチルサルフェート、ムケート、ナプシレート、ニトレート、N−メチルグルカミド、オレート(oleaste)、オキサレート、パモエート、パルミテート、パノエート、パントテネート(パントテン酸塩)、フォスフェート/ジフォスフェート、ポリガラクツロネート(polygalacturonate)、サブアセテート(subacetate)、スルフェート、タートレート、トシレート、トリエチオダイド、バレレートなどといった、あらゆる種類の薬学的に許容可能な塩を包含する。薬学的に許容可能な塩は、可溶性特性もしくは加水分解特性を改変する剤形、持続放出性の剤形、またはプロドラッグの剤形の形態で使用されてもよい。本発明の化合物の薬学的に許容可能な塩は、その化合物の機能性(functionality)に応じて、例えば、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マンガン、亜鉛などのカチオン、アンモニア、アルギニン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、リシン、N−メチル−グルタミン、オルニチン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−ベンジルフェネチルアミン、ピペラジン、プロカイン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、テトラメチレンジアミンヒドロキシド(tetramethylenejiamine hydroxide)などの塩基から構成してもよい。これらの種類の塩は、一般的な手法、例えば、遊離の酸を適切な有機塩基または無機塩基と反応させる手法によって調製してもよい。また、アミノ基などの塩基性基が存在するとき、アセテート、ヒドロブロミド、ヒドロクロリド、パモエートなどの酸性塩を剤形として利用してもよい。
【0038】
また、酸(−COOH)またはアルコール基に対し、薬学的に許容可能なエステル、例えば、アセテート、マレエート、ピバロイルオキシメチルなど、および可溶性特性または加水分解特性を改変する当該技術分野で公知のエステルを、持続放出性の剤形またはプロドラッグの剤形の形態で使用してもよい。
【0039】
本発明のハイブリッド分子またはハイブリッド分子の成分は、キラル中心を有するものであってもよく、すなわち、ラセミ体、ラセミ混合物、個々のエナンチオマー、ジアステレオマーとして存在し得る。本発明には、それらのあらゆる異性体および異性体の混合物が包含される。さらに、本発明のハイブリッド化合物は、結晶形態の一部が結晶多形として存在していてもよく、そのような結晶多形も、本発明に包含される。さらに、本発明の化合物には、水や一般的な有機溶媒によって溶媒和物を形成するものも含まれる。そのような溶媒和物も、本発明の範囲に包含される。
【0040】
本発明の増強ハイブリッドは、抗原性ペプチドの合成・選択のために開発された方法で合成・選択することのできる、ペプチド単位、ペプチド模倣体単位、またはその他の種類の化学基によって構成されたものであってもよい。これらの方法および化合物は、以下の米国特許明細書に記載されている:米国特許第4708871号(Geysen, et. al., (1987));米国特許第5194392号(Geysen, et. al., (1993)); 米国特許第5270170号(Schatz, et al., (1993));米国特許第5382513号(Lam, et al., (1995)); 米国特許第5539084号(Geysen, et al., (1996));米国特許第5556762号(Pinilla, et al., (1996));米国特許第5595915号(Geysen, et al., (1997));米国特許第5747334号(Kay, et al., (1998));および米国特許第5874214号 (Nova, et al., (1999))。これら米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0041】
(ハイブリッドの活性)
ハイブリッドの活性は、T細胞による抗原性ペプチド配列認識への影響を検出するタイプの一種以上の免疫学的アッセイによって判定することができる。後の実施例で詳述する実験では、種々の抗原性エピトープをハイブリッドに組み込むことの有用性が立証されている。これら各ハイブリッドは、抗原性エピトープ単独の場合よりも、応答性T細胞ハイブリドーマを高効率に刺激することが立証された。このような立証は、抗原提示細胞に対するハイブリッドおよび抗原性エピトープの結合能、およびその後の、抗原提示細胞のMHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合したエピトープを認識するためのT細胞受容体を有するT細胞ハイブリドーマによる認識能を濃度の関数として測定することにより行った。使用した抗原提示細胞はCH27細胞株であり、使用したT細胞ハイブリドーマはTpc9 1 T細胞株であった。実験方法のさらなる詳細は、実施例の欄で後述するとおりである。
【0042】
上記の実験の結果は、試験した各ハイブリッドの活性が、対照の抗原性ペプチドの活性よりも大幅に高いことが立証している。具体的に述べると、抗原性ペプチドの場合、半最大刺激の終点は約20nMである。ハイブリッドの場合、エピトープによって変動はあるものの、半最大刺激の終点は約50pMである。メチレン系スペーサーを用いたハイブリッドの活性は、Iiタンパク質の天然由来のスペーサーを用いたハイブリッドの活性と実質的に同じである。上記の実験は、Ii−Keyのコア配列と抗原性エピトープとのハイブリッドの、インビトロ(in vitro)での効率を立証するものであり、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合する抗原性エピトープを本発明の増強ハイブリッドに組み込むことにより、その提示効率を増強できることを示している。上記の実験は、さらに、Ii−Key配列について登録されたIiタンパク質の一次配列に由来するペプチド配列は必ずしも必要ではなく、さらには、そのような構成は必ずしも最適な構成ではないことを立証している。
【0043】
他の種類のアッセイ系を用いて、本発明の増強ハイブリッドに抗原性エピトープを組み込むことの効果を測定してもよい。MHCクラスII分子に結合した抗原性エピトープの認識能を定量化するための別のアッセイには、B細胞の免疫グロブリンの産生効率を測定する手法、傷害性T細胞の生成効率を測定する手法、および非近交系、近交系、コンジェニック、トランスジェニックなどの動物のナイーブなT細胞を使用し、そのT細胞受容体またはその他の生物学的に関連する分子を利用する手法などが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0044】
(阻害ハイブリッド)
本発明の増強ハイブリッドは、MHCクラスII分子に結合しているエピトープを立ち退かせることにより、当該増強ハイブリッドに組み込まれたエピトープとは別のエピトープに対するT細胞の応答を阻害または調節する能力を有する。すなわち、この場合のハイブリッドは、他のあらゆる種類のエピトープに対するMHCクラスII拘束性抗原提示の実質的な阻害因子(阻害物質、阻害薬)として機能する。この場合のハイブリッドを、「MHCクラスII抗原提示阻害能を有するハイブリッドポリペプチド」、あるいは、単純に「阻害ハイブリッド」と称す。
【0045】
MHCクラスII分子抗原結合部位に結合可能であるけれどT細胞刺激能を有さない分子は、そのようなMHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位のブロッカーであると見なせる。このようなブロッカーが結合することにより、存在する抗原性エピトープの結合が阻害されたり、既に結合している抗原性エピトープの結合が解除されたりする。そのような分子は、免疫抑制剤としての価値がある。本発明の阻害ハイブリッドは、通常は抗原性エピトープが占める場所にブロッカーを組み込むことによって調製してもよい。阻害ハイブリッドにブロッカーを組み込むことにより、ブロッカーの阻害活性を増強することができる。本明細書において「抗原結合部位リガンド」とは、MHCクラスII分子抗原結合部位に結合する分子のことを指す。なお、この用語は、抗原性エピトープおよび非抗原性分子の両方の意味を包含する。
【0046】
抗原性エピトープについて既述したパラメータと同様のパラメータが、阻害ハイブリッドを構成するにあたっての抗原結合部位リガンドの物理的要件にも当てはまる。本明細書において、阻害ハイブリッドを構成するために使用される抗原結合部位リガンドとは、天然由来のあらゆるペプチド配列またはその改変配列、ペプチド模倣配列またはその改変配列、天然由来のアミノ酸または改変アミノ酸を含まない化学構造体を含むものと定義される。抗原結合部位リガンドは、哺乳類のMHCクラスII分子における、一部のT細胞によって認識される公知の抗原性ペプチドが占有する空間の全体または一部に結合することが立証されている、あるいは、そうであると考えられている。抗原結合部位リガンドは、必ずしも天然由来のアミノ酸で構成されたものである必要はなく、天然由来のアミノ酸の種々の改変物で構成されたものであってもよく、改変物を含む抗原結合部位リガンドとして、例えば、その全体または一部が天然由来でないアミノ酸で構成されたものや、アミノ酸の全体または一部が他種の主鎖または側鎖で改変されたものが挙げられ、このような改変により、哺乳類のMHCクラスII分子の抗原ペプチド結合部位に対する結合が、所望の結果を生じるように適宜になされる場合がある。そのような化学的構造体は、天然のタンパク質配列に由来する抗原性ペプチドの構造と少ししか類似性がなかったり、少しも類似性がなかったり、あるいは、全く類似性がなかったりし得る。
【0047】
本発明のハイブリッドに組み込まれることによって阻害活性を生じる抗原結合部位リガンドは、以下の1つ以上の米国特許明細書に記載されているか、それらの米国特許明細書に記載された方法によって見出すことができる:米国特許第5736142号(Sette, et al., (1998));米国特許第5817757号(Adams, et al., (1998));米国特許第5679640号(Gaeta, et al., (1997));米国特許第5662907号(Kubo, et al., (1997));米国特許第5843648号(Robbins, et al., (1998));および米国特許第5844075号(Kawakami, et al., (1998))。これらの米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0048】
本発明の阻害ハイブリッドによる、当該阻害ハイブリッドに組み込まれたエピトープとは異なる抗原性エピトープ(基準抗原性エピトープまたは対照抗原性エピトープ)に対するT細胞の応答を阻害または調節する効果を測定するためのアッセイは、当業者の日常的な実験手法を用いて構築されてもよい。このようなアッセイにおいて、阻害ハイブリッドは、当該阻害ハイブリッドに組み込まれたエピトープとは異なる抗原性エピトープを投入する前、その投入と同時に、またはその投入後に、基準アッセイ混合物(standard assay mixture)に投入される。ハイブリッドに組み込まれたエピトープとは異なる抗原性エピトープを投入する前、またはその投入後に上記ハイブリッドを投入する場合、当該ハイブリッドの投入は複数回行われてもよい。これらのアッセイは、様々な条件下の有用性を有し得る。例えば、免疫応答の阻害をもたらす最適なハイブリッド構造の検出や、体内でプロセシングされてチャージされた抗原性エピトープを生理学的条件下で排除して合成ペプチドに置き換える最適なハイブリッド構造体の検出などにおける有用性が見込まれる。
【0049】
(エピトープ提示の増強)
本発明の他の構成は、Tリンパ球に対するMHCクラスII拘束性抗原性エピトープの提示能を増強する方法に関する。この方法では、MHCクラスII拘束性の抗原性エピトープを、既述したとおり、本発明の増強ハイブリッドのC末端に適切に組み込む。その後、生理学的条件下で、上記のように調製された増強ハイブリッドを、MHCクラスIIを発現する抗原提示細胞と接触させる。このMHCクラスIIを発現する抗原提示細胞は、T細胞と接触しているか、または後にT細胞と接触する。前記T細胞は、当該抗原提示細胞のMHCクラスII分子による前記抗原性エピトープの提示に応答する。この方法は、抗原性エピトープに関する前述の説明に当てはまる、あらゆる抗原性エピトープに対して好適である。このようなインビトロ(in vitro)での増強をアッセイ分析する方法の例は、後の実施例、および本願に記載した米国特許明細書に詳述されている。
【0050】
このようなTリンパ球に対するMHCクラスII拘束性抗原性エピトープの提示能を増強する方法は、疾患の診断および治療において幅広く適用することができる。診断目的の抗原性エピトープに対するT細胞応答は、しばしば、疾患を診断するにあたって測定され、特に、病原性感染因子を診断するにあたって測定される。このようなインビトロ(in vitro)での診断アッセイにおいて、本発明の増強ハイブリッドにそのような診断目的の抗原性エピトープを組み込んだものを使用することにより、当該診断アッセイの感受性を著しく向上させることができる。感染性疾患およびがんの場合、病原体として特定される抗原性エピトープまたはがん特異的な抗原性エピトープを本発明の増強ハイブリッドに組み込んだ後、この増強ハイブリッドを用いて病原体特異的またはがん特異的なMHCクラスII提示抗原性エピトープに対するTh応答を引き起こすようにしてもよい。この応答は、Tヘルパー細胞の活性化および拡大をもたらし、このような活性化および拡大により、樹状細胞が活性化、すなわち、樹状細胞が「許可」されるので、外部から侵入した生物に対する効果的なMHCクラスI拘束性傷害性Tリンパ球応答が活性化する。自己免疫疾患、アレルギー、および移植片拒絶の場合、病原性免疫応答を引き起こす特異的抗原性エピトープを特定した後、これを本発明の増強ハイブリッドに組み込む。このハイブリッドを用いることにより、Th2応答を引き起こしてT細胞応答のダウンレギュレーションをもたらすようにT細胞を刺激することができる。この場合、サプレッサー細胞応答が刺激されることにより、病原性免疫応答のダウンレギュレーションがもたらされる。所定のサブセットのTリンパ球を特異的に刺激する増強ハイブリッドを特定する方法については、既述したとおりである。このようなハイブリッドの、疾患を治療するにあたっての有用性および方法については、後述するとおりである。
【0051】
(コンビナトリアルケミストリーによって特定される抗原性エピトープ)
本発明のさらなる他の構成は、ペプチド合成のためのコンビナトリアルケミストリー、合理的な設計、またはアルゴリズムベースの予測手法を用いることにより、(所定の)Tリンパ球またはTリンパ球由来のクローン細胞を刺激する特異的な抗原性エピトープを特定する方法に関する。本発明の増強ハイブリッドを用いた、MHCクラスII拘束性T細胞刺激の感受性の増強を利用することにより、多数の異なる分子の中から、Tリンパ球内のT細胞刺激活性に好適な分子をスクリーニングすることが容易となる。この方法では、候補となるペプチド(候補ペプチド)または化合物(候補化合物)のライブラリが用意または合成される。ライブラリ内の各候補化合物は、既述したように、前述のスペーサーを介して、N末端が哺乳類のIi−keyのホモログに独立して共有結合しており、本発明の増強ハイブリッドに類似したハイブリッドを形成する。これら各ハイブリッドについて、抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合した状態で提示された際の、所定のTリンパ球を刺激する能力を試験する。このような試験は、各ハイブリッド生成物を、抗原提示細胞と、当該抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合した状態で提示される適切な抗原性エピトープに応答するTリンパ球とに接触させることによって実施することができる。好ましい一実施形態において、このようなアッセイは、多数の候補をスクリーニングするように大規模に実施される。抗原提示細胞によって提示された際にTリンパ球を刺激することが判明したハイブリッドは、Tリンパ球を刺激する抗原性エピトープを含有するハイブリッドであると定義される。
【0052】
候補化合物は、様々な入手源から得ることができ、例えば、自然界に存在する分子のライブラリ、コンビナトリアルケミストリーのライブラリ、合理的な設計、およびアルゴリズムベースの予測から得ることができる。一実施形態において、候補化合物を合成するための方法は、必要なハイブリッドを生成する方法として拡張されてもよい。多くの場合、それらのライブラリは、候補となる(possible)配列のセットを用いて設計される。当該候補となる各配列は、それぞれ、所定の位置において1つないし幾つかのアミノ酸を含んでいる。これらのペプチドの合成過程は、C方向またはN方向で進められ、スペーサー配列の1つ以上の残基が追加された後、N末端部のIi−keyの所望の残基が追加される。候補化合物を構成する材料または成分は、本明細書で定義される抗原性エピトープの有望な材料または成分として既述のとおり特定したものであれば何でもよい。最も好適なのは、候補化合物が、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合すると予測されるポリペプチドまたはペプチド模倣構造体の場合である。
【0053】
本発明は、さらに、上記の方法によって特定される特異的な抗原性エピトープを包含する。また、この特異的な抗原性エピトープが組み込まれた増強ハイブリッドも、本発明に包含される。
【0054】
候補化合物は、インビトロ(in vitro)の方法によって遺伝子学的レベルでの多様性を確保してから、ポリペプチド配列の発現(例えば、定方向分子進化など)によって入手してもよい。このようなスクリーニングによって特定された化合物は、さらに、そのスクリーニングと同一のアッセイまたは他の種類のアッセイでのスクリーニングにかけることにより、さらなるサブライブラリのベースとしてもよい。抗原性エピトープの配列の多様性を発生させる方法には、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、インビトロ(in vitro)RNA−タンパク質混合技術などの様々な方法がある。これらの方法の一部は、以下の米国特許明細書に記載されている:米国特許第5516637号(Huang, et al., (1996));米国特許第5821047号(Garrard, et al., (1998));米国特許第5852167号(Kay, et al., (1998));および米国特許第5925559号(Collines, et al., (1998))。これらの米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。上記の方法の一部は、他にも、以下の文献にも紹介されている:Roberts, et al., ( 1997) Proc Natl, Acad. Sci, U.S.A. 94: 12297;Hanes, et al., (1998) Proc. Natl. Acad. Sci, U.S.A. 95: 14130;および Jermutus, et al., (1998) Curr. Opin. Biotechnol, 9: 534。これらの方法に基づいた方法により、遺伝子学的手法を用いて配列LRMK(配列番号:3)およびその改変物をポリペプチド生成物に導入するようにしてもよい。この生成物の直線状配列に配されたLRMK(配列番号:3)モチーフは、前述したようなスペーサーにより、抗原性エピトープから適切に隔離される。このようなポリペプチド生成物の生成、発現、および解析、ならびに好適な特性を有する1つ以上のポリペプチド生成物の選択を行うための実験方法は、当業者にとって周知な常套方法である。
【0055】
すなわち、本発明は、さらに、免疫応答の刺激に効果的なウイルスエピトープ、特に、所定のTリンパ球または所定のTリンパ球に由来するクローン細胞を刺激するのに効果的なウイルスエピトープを構築および/または特定する方法に関する。具体的に述べると、本発明は、さらに、免疫応答の刺激に効果的なインフルエンザウイルスエピトープ、特に、所定のTリンパ球または所定のTリンパ球に由来するクローン細胞を刺激するのに効果的なインフルエンザエピトープを構築および/または特定する方法に関する。このような構築物の例は、実施例3に記載されている。
【0056】
(治療用途)
個体の免疫応答を調節する前述の方法の用途として、個体の疾患または状態の治療処置が挙げられる。まず、抗原性エピトープとして、そのエピトープに対する免疫応答の増強が患者の治療に有益な結果をもたらすと考えられるものが選択される。一実施形態において、前記抗原性エピトープの由来となる分子は、発病に寄与する分子である。あるいは、前記抗原性エピトープは、病原体などの有害因子または病原体の感染した細胞に見受けられるエピトープである。本明細書における「治療処置」という用語は、疾患の兆候または症状を改善すること、および疾患に罹っていると特定されたかまたはそうであると考えられる個体における当該疾患の進行を阻止することの両方の意味を含む。本明細書において「予防」という用語は、疾患の認識可能な兆候または症状を未だ示していない個体について、当該疾患の根本的な原因または関連する素因を改善するという意味を含む。
【0057】
前記疾患は、細菌、ウイルス、寄生体、真菌、リケッチア、その他の感染因子、またはこれらの因子の組合せの感染によって引き起こされた感染性疾患またはそのような感染に関係する感染性疾患であり得る。前記治療は、疾患の毒素に対するものであってもよい。エピトープを導き出すのに好適な毒素には、ブドウ球菌腸毒素、トキシックショック症候群毒素、レトロウイルス抗原(例えば、ヒト免疫不全ウイルスなど)、連鎖球菌抗原、マイコプラズマ、ミコバクテリウム、ヘルペスウイルスなどが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。極めて好適な毒素は、SEA、SEB、SE1〜3、SED、およびSEEである。
【0058】
前記疾患または状態として、自己免疫プロセス、例えば、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、深在性エリテマトーデス、真性糖尿病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、強皮症、皮膚筋炎、天疱瘡、その他の同様のプロセスなどが考えられ得る。本発明の化合物および方法の効果を評価するために利用可能な、これらのような自己免疫疾患のモデル系として、例えば、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、実験的アレルギー脳脊髄炎などが挙げられる。これらの実験を実施するための手順は、米国特許第5284935号明細書(Clark, et al., (1994))に紹介されている。当該米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0059】
前記疾患または状態として、アレルギープロセス、例えば、喘息、枯草熱、アレルギー性鼻炎、局所性皮膚炎、大腸炎、特定のアレルゲンまたは不特定のアレルゲンによって引き起こされるかまたはそれに関連するその他のアレルギープロセスなどが考えられ得る。このようなアレルゲンとして、例えば、植物、動物、バクテリア、寄生体性アレルゲン(parasitic allergen)、接触過敏性を引き起こす金属系アレルゲンなどが挙げられる。本発明の用途に適したアレルゲンとして、雑草、芝生、ピーナッツ、ダニ、ノミ、ネコ抗原などが挙げられる。
【0060】
あるいは、前記疾患または状態として、増殖性プロセスまたは悪性プロセス、例えば、がん、良性前立腺肥大、乾癬、腺腫やその他の内因性の細胞増殖、ウイルスプロセスやその他の感染プロセス、刺激性プロセス、環境プロセスなどが挙げられる。
【0061】
本明細書において「哺乳類」という用語は、ヒト種およびその他のあらゆる哺乳類種を包含する。本発明の化合物および方法は、どの哺乳類腫の個体に生じる疾患および状態の治療に適用されてもよい。「個体」または「対象」という用語は、ヒト種を含む全ての哺乳類種のうちの一種のことを指す。本明細書においてヒト種を例に挙げて述べた、個体に生じ得る前記疾患および状態は、それが同一の生体または発病プロセスによって引き起こされたものであるか否かに関係なく、かつ、それが関連する生体または発病プロセスによって引き起こされたものであるか否かに関係なく、また、それがその他の生体および/または発病プロセス、または未知の生体および/または発病プロセスによって引き起こされたものであるか否かに関係なく、他の種において生じ得る同等の疾患または状態を包含するものとする。本明細書において「医師」という用語は、獣医師、哺乳類種の個体の診断および/または治療に参加するあらゆる個人、例えば、看護師、医師助手、医療補助員(パラメディック)などを包含する。
【0062】
本発明は、さらに、化合物を、適切な医薬処方物の形態に調製した、薬剤、当該化合物のプロドラッグ、または当該化合物の薬物代謝物として投与することを含む。「投与」または化合物と「投与する」という用語は、本発明の化合物を、薬剤、当該化合物のプロドラッグ、または当該化合物の薬物代謝物として、疾患の治療または予防を必要とする個体に供給することを意味する。本発明の1種以上のハイブリッドポリペプチドを、前述の1つ以上の疾患および状態の治療または予防のための活性主成分として含有するこのような薬剤は、一般的な添加剤によって調製された、局所投与、経口投与、経腸投与、および非経口投与に用いられる様々な治療剤形で投与されてもよい。投与経路および投与計画は、治療対象の疾患または状態に応じて変更され、熟練者によって決定される。例えば、前記化合物は、錠剤もしくはカプセル剤(それぞれ、徐放性処方物または持続放出性処方物を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤などの経口投与剤形の形態、または注射剤によって投与されてもよい。同様に、前記化合物は、静脈(ボーラス法もしくは注入法)、腹腔内、皮下、密封(occlusion)または非密封の外用剤、筋肉内に投与されてもよい。医薬分野の当業者であれば、これらの全ての形態は周知である。
【0063】
当該製品の1日用量は、大人で0.001mgから1,000mgである。経口投与の場合、好ましくは、当該組成物は、治療過程で患者の兆候および症状に合わせて用量を対症調節できるように、活性成分0.001〜1,000mgの錠剤の形態で供給され、より好ましくは活性成分0.001mg、0.01mg、0.05mg、0.1mg、0.5mg、1.0mg、2.5mg、10.0mg、20.0mg、50.0mg、または100.0mgの錠剤の形態で供給される。通常、薬剤の有効量は、約0.0001mg/kg体重/日から約50mg/kg体重/日の投与レベルで供給される。特には、薬剤の有効量は、約0.0001mg/kg体重/日から約7mg/kg体重/日の投与レベルで供給される。
【0064】
有利なことに、本発明の適切な処方物(剤形)は、1日用量で投与されてもよいし、1日総量を、例えば1日あたり2回、3回、または4回に分けて投与してもよい。本発明の増強ハイブリッドポリペプチドは、前述した疾患または状態の治療に有用な薬剤または薬を調製するのに使用されてもよい。また、本発明の化合物は、適切な鼻腔内用の添加剤を用いて鼻腔内に局所投与されてもよいし、当業者にとって周知の経皮吸収パッチ(transdermal skin patch)の形態で経皮経由で投与されてもよい。用量投与を経皮送達系の形態で行うのであれば、当該投与は、断続的ではなく投与計画をとおして継続的に行われる。
【0065】
本発明のハイブリッドポリペプチドは、局所投与用に適合された薬学的に許容可能な担体と組み合わせられた活性化合物を含む、疾患の治療用および予防用の医薬組成物の形態で投与されてもよい。局所投与用の医薬組成物は、例えば、皮膚への適用に適合された、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、シャンプー剤、またはエアロゾル剤(aerosol formulation)の形態であってもよい。本発明の化合物を含有するこれらの局所用医薬組成物は、通常、活性化合物約0.005%から約5%を、薬学的に許容可能な添加剤との混合物として含有している。
【0066】
本発明のハイブリッドポリペプチドは、疾患および状態、例えば、前述した疾患および状態の治療および予防のために、それらのような疾患および状態を治療するのに有用であることが知られている他種の薬剤(agent)と共に使用されてよい。2種類以上の活性成分による組合せ治療、すなわち、それらの活性成分が併用的に投与され得る治療では、それらの活性成分は、同時投与されてもよいし、あるいは、時間をずらして別々に投与されてもよい。
【0067】
本発明の組成物を利用した投与計画は、様々なファクタ(因子)、例えば、患者の型、種、年齢、体重、性別、医学的状態(medical condition)、治療対象の状態の重症度、使用される特定の化合物などに応じて選択される。当該技術分野の医師であれば、前記疾患または状態の進行を予防、対抗、または阻止するのに必要な薬剤の有効量を容易に決定・処方できるであろう。薬剤の濃度を、毒性を全く生じないかまたは毒性を許容可能な程度に抑えて効能が発揮される範囲に高精度に調節するには、ターゲット部位への薬剤の到達動態に基づいた投与計画が必要となる。これには、薬剤の分散、平衡、および消失を考慮することが必要となるが、それらは当該技術分野の熟練者の能力範囲内である。
【0068】
本明細書で詳述する化合物は、本発明の方法での活性成分を構成することができ、かつ、典型的には、従来の薬務に沿って、経口の錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などの目的の投与形態に応じて適宜選択された適切な薬学的な希釈剤、賦形剤、担体(cardar)(本明細書ではこれらをまとめて「担体物質(cardar material)」と称する)との混合物として投与される。例えば、錠剤またはカプセル剤の形態での経口投与の場合、薬剤の活性成分は、エタノール、グリセロール、水などの経口用の非毒性の薬学的に許容可能な不活性の担体と組み合わされてもよい。この混合物には、さらに、必要に応じて、または所望どおりに、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、および着色剤が組み込まれてもよい。適切な結合剤には、スターチ、ゼラチン、グルコースやβ−ラクトースなどの天然糖、デンプン糖、アラビアガム、トラガカント、アルギン酸ナトリウムなどの天然または人工ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。この剤形(dosage)に使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マンガン、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。崩壊剤には、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0069】
液状の剤形である場合、当該剤形は、合成ガムおよび天然ガム、例えば、トラガカント、アラビアガム、メチルセルロースなどによって適宜風味付けされた懸濁剤または分散剤であってもよい。使用可能な分散剤として、他にもグリセリンなどが挙げられる。経口投与には、無菌懸濁剤および無菌液剤が望ましい。静脈への投与が望ましい場合、適切な防腐剤を一般的に含有した等張調製物が使用される。
【0070】
薬剤の活性成分を含有した局所投与用の調製物は、当該技術分野において周知の様々なキャリア材料、例えば、アルコール、アロエベラゲル、アラントイン、グリセリン、ビタミンAオイル、ビタミンEオイル、鉱物油、プロピオン酸PPG−2ミリスチルなどと混合されて、例えば、クリーム剤形またはゲル剤形の、アルコール性液剤、局所用洗浄剤、クレンジング用クリーム、スキンジェル、スキンローション、シャンプーなどを形成するものであってもよい。
【0071】
本発明のハイブリッドポリペプチドは、スモールユニラメラベシクル、ラージユニラメラベシクル、マルチラメラベシクルなどのリポソーム送達系の形態で投与されてもよい。リポソームは、例えば、コレステロール、ステアリルアミン、種々のフォスファチジルコリンなどの様々な化合物から形成され得る。
【0072】
本発明のハイブリッドポリペプチドまたはその処方物は、薬剤の放出制御を達成するのに有用な生分解性ポリマー類、例えば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、ヒドロゲルの架橋ブロックコポリマーまたは両親媒性ブロックコポリマーなどに結合されてもよい。
【0073】
本発明のハイブリッドポリペプチドおよびその処方物は、容易に入手可能な開始材料、試薬、および従来の合成手法を用いて調製されてもよい。この場合の反応について、当業者に知られているが本明細書には詳述しないような変更または変形を施してもよい。
【0074】
(本発明のエクスビボ(ex vivo)での使用)
本発明の増強ハイブリッドを個体に直接投与することにより、当該個体のTリンパ球に対する抗原性エピトープのMHCクラスII提示能を増強する構成の変形例として、当該個体から抗原提示細胞の集団を得て、これらを本発明の増強ハイブリッドによってエクスビボ(ex vivo)で処理するようにしてもよい。これらの細胞を、前記増強ハイブリッドにより、当該ハイブリッドが抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合するのに適切な条件下で処理する。処理後の抗原提示細胞は、当該処理後の細胞と前記個体のTリンパ球との物理的接触を促進する条件下で、当該個体に投与される。既述のとおり、免疫応答に対する効果(増強または抑制)は、どのT細胞のサブセットが当該増強ハイブリッドによって好適に刺激されるかに依存する。免疫応答の増強は、傷害性応答、例えば、がん細胞や感染性生物などに対する傷害性応答に好ましい効果をもたらし得る。一方、Tサブレッサー細胞応答の増強は、特定の分子に対する免疫応答を抑制する効果をもたらし得る。このような抑制は、自己免疫疾患、例えば、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、重症筋無力症、深在性エリテマトーデスなどの病因性抗原由来の抗原性エピトープを利用した際に、治療効果をもたらし得る。本発明の化合物および方法を用いて、患者の細胞をエクスビボ(ex vivo)で処理する方法および手順については、以下の米国特許明細書に記載されたものを採用・適合してもよい:米国特許第5126132号(Rosenberg (1998) );米国特許第5693522号(Chada, et al., (1997));米国特許第5849586号(Kriegler, et al., (1998));米国特許第5856185号(Gruber, et al., (1999));および 米国特許第5874077号(Kriegler, et al., (1999))。これらの米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0075】
さらなる他の構成において、本発明の化合物および方法は、米国特許第5846827号(Celis, et al., (1998))に記載された化合物および方法にしたがい、エクスビボ(ex vivo)の条件下で傷害性Tリンパ球の生成を促進するのに使用されてもよい。上記米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0076】
(本発明の他の用途)
本発明の増強ハイブリッドに抗原性エピトープを組み込むことは、抗原提示細胞による抗原性エピトープの総合的な提示効率を増強することのほかにも、ある対立遺伝子拘束性の抗原性エピトープについて、そのエピトープを提示可能なMHCクラスII対立遺伝子型の範囲を拡大することができる。増強ハイブリッドによって所与の抗原性エピトープに対する対立遺伝子型の範囲が拡大したか否かは、前述のアッセイ手法において、抗原提示細胞から広範囲の型のMHCクラスII対立遺伝子を発現させることによって検出することができる。そのようなMHCクラスII対立遺伝子の型の広範囲は、所望の範囲を反映するものであるのが望ましい。このようにMHCクラスII分子の多種類の対立遺伝子を提示するアッセイ系の例は、特許文献1、特許文献2などに紹介されている。これらの米国特許の内容については、既述のとおりである。MHCクラスII対立遺伝子の型の所望の範囲内で最大の活性を示すハイブリッドを、使用のために選択する。対立遺伝子の前記所望の範囲での活性は、公知の疾患またはその他の医学的状態に関係するものであってもよい。好ましい一実施形態において、前記MHCクラスII対立遺伝子の型の範囲は、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病などに関係するHLA−DR対立遺伝子から選択される。このようなHLA−DR対立遺伝子の選択、ならびにそのような対立遺伝子に対する反応性についてアッセイ分析される抗原提示細胞、T細胞株、およびハイブリドーマの選択は、当業者であれば、簡単に入手可能な材料および日常的な実験条件を用いて容易に行うことができる。
【0077】
本発明のさらなる他の構成は、MHCクラスII拘束性の所定のパターンのTh1刺激およびTh2刺激を示す抗原性エピトープを特定する方法または選択する方法に関する。所望の前記所定のパターンの刺激は、T細胞に対してMHCクラスII拘束性抗原性エピトープが提示された際の応答の、Th1刺激のみ、Th2刺激のみ、あるいは、Th1刺激およびTh2刺激の両方であってもよい。本発明の抗原提示増強能を有するハイブリッドポリペプチドには、候補となる抗原性エピトープが適切に組み込まれる。その後、所望のパターンのMHCクラスII拘束性のTh1刺激およびTh2刺激を伴う提示活性を示す増強ハイブリッドが、調製された複数の増強ハイブリッドの中から特定される。所望の活性を示すハイブリッド分子のスクリーニングは、ハイブリッドポリペプチドを、MHCクラスIIに係る抗原提示細胞と、当該抗原提示細胞のMHCクラスII分子による抗原性エピトープの提示に応答するT細胞とに接触させることによって実行される。前記ハイブリッドと前記細胞との接触は、生理学的条件下で行われるのが望ましい。Th1応答およびTh2応答のアッセイ方法は、以下の米国特許明細書に記載されている:米国特許第5540919号(Daynes, et al., (1996));米国特許第5601815号(Powrie, et al., (1997));米国特許第5665347号(Metzger, et al., (1997));米国特許第5776451号(Hsu, et al., (1998));米国特許第5830880号(Sedlacek, et al., (199S));米国特許第5837269号(Daynes, et al., (1998));米国特許第5879687号(Reed (1399));米国特許第5895646号(Wang (1999));米国特許第5897990号(Baumann, et al., (1999));および米国特許第5908839号(Levitt, et al., (1999))。これらの米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。
【0078】
一般的に、Th1刺激およびTh2刺激は、サイトカイン放出についてのアッセイによって決定することができる。所望のTh1刺激および/またはTh2刺激に相関するサイトカイン放出について最大の活性を示す増強ハイブリッドが特定され、選択して使用される。好ましい一実施形態において、前記所定のパターンのサイトカイン放出は、疾患またはその他の生理学的状態の増強または抑制に関連したパターンを反映したものである。例えば、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病などの自己免疫疾患に関連したパターンのサイトカイン放出を引き起こすハイブリッドが好ましいとされる。また、感染性疾患およびアレルギーに関連するパターンのサイトカイン放出に対して好適な影響をもたらすハイブリッドが選択されてもよい。Th1刺激およびTh2刺激を決定する適切なアッセイの選択および実行は、動物実験およびこれに付随する当該動物の応答についてのインビトロ(in vitro)でのアッセイ、およびその他のインビトロ(in vitro)でのアッセイを含め、当業者であれば、簡単に入手可能な材料および日常的な実験条件を用いて容易に行うことができる。
【0079】
本発明の増強ハイブリッドポリペプチドは、個体のTリンパ球に対する特定の分子の抗原性エピトープのMHCクラスII提示能を増強し、その特定の分子に対する当該個体の免疫応答を調節するのに使用されてもよい。免疫応答の調節とは、増強または抑制であり、増強は、TヘルパーのTリンパ球サブセットに対応し、抑制は、TサプレッサーのTリンパ球サブセットに対応し、いずれも刺激を受ける。どちらのTリンパ球が刺激されるかは、投与される特定の増強ハイブリッドによって決まり、そのような特定のハイブリッドは、上述のように所望のTリンパ球刺激のパターンに応じて選択される。適切な増強ハイブリッドが調製・選択されると、当該増強ハイブリッドは、個体に対し、当該個体の抗原提示細胞に対するハイブリッドの送達が適切に行われる条件下で投与される。増強ハイブリッドの適切な送達を行うために、薬学的に許容可能な担体が使用されてもよい。本発明の増強ハイブリッドの適切な処方物(製剤)には、局所投与用、経口投与用、経腸投与用、および非経口投与用の処方物が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。処方物(製剤)、投与方法、および投与量については、後で詳述する。
【0080】
本発明のさらなる他の構成は、Tリンパ球に対するMHCクラスII拘束性抗原性エピトープの提示または提示能を阻害する方法である。既述のとおり、抗原結合部位リガンドは、主要組織適合性クラスII分子の抗原性ペプチド結合部位に結合するあらゆるペプチドまたは分子で構成される。当該結合する分子は、Tリンパ球刺激活性を有するものであっても、有さないものであってもよい。Ii−keyのホモログをスペーサーを介して抗原結合部位リガンドに結合することにより、MHCクラスII拘束性抗原提示を実質的に阻害する能力が増強されたハイブリッドを調製することができる。Tリンパ球に対するMHCクラスII拘束性抗原性エピトープの提示または提示能を実質的に阻害するために、抗原提示能を阻害する阻害ハイブリッドペプチドが、MHCクラスIIを発現する抗原提示細胞に接触させられる。当該抗原提示細胞は、MHCクラスII拘束性Tリンパ球提示抗原性エピトープをその表面上に出現させている。このような操作により、抗原提示細胞のMHCクラスII分子による抗原性エピトープの提示に応答するTリンパ球の機能が調節される。
【0081】
T細胞に対する抗原性エピトープの提示または提示能が阻害されたことを証明するためのインビトロ(in vitro)でのアッセイは、特許文献1および特許文献2に記載されており、これら特許文献の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。ハイブリッドの生物学的活性のアッセイ分析、例えば、抗原特異的なTリンパ球活性化を阻害する能力などのアッセイ分析は、多種多様なアッセイ系で行ってもよい。プロトコルの一例として、過剰な量のハイブリッドを、公知のMHC発現(例えば、HLA−DR1など)の抗原提示細胞と、公知の抗原特異性(例えば、破傷風毒素(830-843))およびMHC拘束性(例えば、HLA−DR1など)のクローンT細胞と、抗原性ペプチド(破傷風毒素(830-843))と共にインキュベートすることが挙げられる。このアッセイ培地は、T細胞の増殖に十分な時間(例えば、1〜4日間)インキュベートした後、増殖を定量化する。この定量化は、インキュベーションの最後の18時間をトリチウム標識チミジンでパルスすることで実施してもよいし、あるいは、その上澄み液を、応答性T細胞が放出するインターロイキン次第で増殖の是非が決まるHT−2細胞の二次培養培地(second culture)に移した後、インキュベーションの最後の18時間をトリチウム標識チミジンでパルスすることで実施してもよい。そして、阻害因子を受けなかった対照と比較し、その対照に対する阻害率を算出する。インビトロ(in vitro)でのアッセイで分析される、ハイブリッドおよびその他の阻害要因の抗原提示または抗原提示能の容量は、そのような化合物の、免疫応答に対するインビボ(in vivo)での阻害能力と相関し得る。動物モデルにおけるインビボ(in vivo)活性は、例えば、前記ペプチドを介して認識され、特定のMHC分子に拘束されることが判明している抗原と、免疫調節ハイブリッドとを投与することによって決定してもよい。そのような投与後、当該動物からTリンパ球を取り出し、ある用量域の抗原で培養する。そして、刺激の阻害または阻害能を、一般的な手段、例えば、トリチウム標識チミジンをパルスした後に適切な対照と比較するという手段などによって測定する。当業者であれば、実験の詳細は明白であろう。
【0082】
本発明の阻害性増強ハイブリッドに抗原性ペプチド結合部位リガンドを組み込むことによってもたらされる活性増強は、阻害活性のより迅速かつ高精度な検出を可能にする。このように向上した検出により、MHCクラスII抗原提示または提示能を阻害する新規の化合物の特定が可能になる。この点を踏まえると、本発明は、さらに、MHCクラスII抗原提示または提示能を阻害する化合物を特定する方法に関する。この方法は、抗原結合部位リガンドであると予測される候補化合物のライブラリを用意し、候補化合物の各々を、哺乳類のIi−keyのホモログに対し、前記Ii−keyのホモログがN末端に位置して当該候補化合物C末端に位置するようにスペーサーを解して共有結合させることを含む。このようにして得られた生成物は、「抗原提示阻害能を有するハイブリッドポリペプチド候補」、あるいは、「阻害ハイブリッド候補」と称することにする。上記のようにして得られた阻害ハイブリッド候補のスクリーニングは、これらの各候補を、MHCクラスII分子の一部に天然由来の配列の抗原性ペプチドを発現している抗原提示細胞と、前記抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合した状態で提示される前記抗原性エピトープに応答するTリンパ球とに接触させることによって行われる(Tリンパ球活性化アッセイとして知られている)。そして、阻害ハイブリッドの候補が、対照の反応と比べてTリンパ球の活性化を低減させているか否かを判断する。このアッセイでTリンパ球の活性が低下していると、それは、ハイブリッドに組み込まれた候補化合物、および阻害ハイブリッドの候補それ自体が、MHCクラスII抗原提示または提示能の阻害因子であるということを示唆している。
【0083】
阻害ハイブリッドの候補を調製するために使用される候補化合物は、自然界で生じる生成物であってもよいし、コンビナトリアルによって調製されたペプチドもしくはペプチド模倣体であってもよいし、またはその他の有機化合物であってもよい。
【0084】
本発明は、さらに、上述した方法によって特定される阻害分子および阻害ハイブリッドを包含する。このような抗原提示または提示能の阻害因子の主な用途は、インビトロ(in vitro)ではなくインビボ(in vivo)であり、詳細には、MHCクラスII抗原性ペプチド結合部位の連続的なブロックを介して、またはそのようなブロックを介さずに、体内で結合した抗原性ペプチドを放出させることで有益な効果をもたらす臨床用途である。このようなハイブリッドの他の用途として、既述のとおり、自己免疫疾患の治療が挙げられる。
【0085】
本発明のさらなる他の構成は、個体のTリンパ球に対する応答を実質的に阻害する本発明の阻害ハイブリッドを当該個体に投与することにより、抗原性エピトープに特異的なTリンパ球の応答を阻害して、当該個体の疾患を治療する治療方法に関する。阻害ハイブリッド化合物の許容可能な処方物(製剤)、投与方法、および投与計画は、本発明の増強ハイブリッドの既述の許容可能な処方物(製剤)、投与方法、および投与計画とそれぞれ一致する。
【0086】
本発明の化合物および方法は、米国特許第5820866号明細書(Kappier, et al., (1998))(本米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。)に開示された化合物および方法とは異なる。なぜなら、本発明の抗原性ペプチドは、MHCクラスII分子の各受容体部位に非共有結合的に結合するIiタンパク質断片に結合しているのであり、MHCクラスII分子の2本の鎖のうちの一方のN末端に共有結合する構成ではない点で異なっているためである。また、本発明の範囲には、以下のような構築物も包含される。すなわち、前記構築物では、抗原性ペプチドが、他種の化合物に対し結合しており、この他種の化合物は、適切な親和性をもって、MHCクラスII分子(必ずしもIi−keyのホモログが結合する部位ではない)、または他の細胞表面タンパク質(例えば、CD4など)に対して結合する。なお、前記他の細胞表面タンパク質は、MHCクラスII分子とT細胞受容体との結合(例えば、抗原提示細胞とTリンパ球との結合など)によって形成される複合体と相互作用する。このようなハイブリッドは、本明細書の別の箇所で述べたように、MHCクラスII分子の構造モデルに基づいて設計してもよく、また、古典的な薬剤設計方法、またはコンビナトリアル合成によるスクリーニング生成物によって設計してもよく、あるいは、そのようなハイブリッドは、天然の生成物の単離によって得られてもよい。
【0087】
本発明の化合物および方法は、米国特許第5284935号明細書(Clark, et al., (1934))(本米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。)に開示された化合物および方法とは異なる。なぜなら、当該米国特許の発明の化合物では、抗原性ペプチドとMHCクラスII分子とが共有結合した複合体を用いているが、その複合体の抗原性ペプチドまたはMHCクラスII分子(例えば、MHCクラスII分子の一方の鎖のM末端)のいずれかに、毒素が結合されている。
【0088】
本発明の化合物および方法は、米国特許第5807552号明細書(Stanton, et al., (1998))(本米国特許の内容は、参照をもって本明細書に取り入れたものとする。)に開示された化合物および方法とは異なる。なぜなら、当該米国特許の発明の化合物では、両親媒性のヘリックスペプチドの複数のペプチド断片によって抗原性エピトープが囲まれており、このペプチド断片の相互作用により、周期的に離間した抗原性エピトープが非共有結合的に集合した多量体が形成される。
【0089】
本発明の化合物および方法は、改変遺伝子を抗原提示細胞に導入させることにより改変したIiを発現しているIiタンパク質配列中において、置換・改変された抗原性エピトープを含有する化合物およびその方法とは異なる(Barton, et al., Internat, Immunol, 10:1159 (1998));Fujii, et a!., Human Immunology 59; 607 (1998);Malcherek, et al., Eur. J. Immunol. 28: 1524 (1998);Stumptner, et al., The EMBO Journal 16: 5807 (1997));およびVan Bergen, el al., Proc Natl. Acad. Sci. USA 94: 7499 (1997))。少なくとも、このような構築物は、Iiタンパク質とMHCクラスII分子との間で形成された複合体の細胞内送達が、ポストゴルジ区画方向に優勢になるようにすることで、抗原/Iiタンパク質のプロセシングおよびMHCクラスIIペプチドに対するチャージング(charging)を促進させるものとして記載されている(Bakke, et al., Cell 16: 707 (1990);およびLamb, et al., J. Immunol. 148: 3478 (1992))。すなわち、これらの構成では、本発明の特徴的な分子メカニズムおよび細胞生物学的メカニズムが好適に利用されていない。
【0090】
後述の実施例の欄で紹介するデータは、マウスの生物学的活性を分析するアッセイを用いて実験的に得られるものであるが、同様の結果は、インビトロ(in vitro)条件下のヒト細胞からでも、生理学的条件下のヒト細胞からでも得られる。Ii−key配列およびスペーサーから導き出されるハイブリッド構築物の断片の最適化は、日常的な実験で達成することができる。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
[Ii−Keyコアモチーフと抗原性エピトープとを結び付けるスペーサーの構成が多様に変更されたハイブリッドペプチドの設計および合成]
【0092】
Ii−Keyにおけるペプチドの活性コアと抗原性エピトープとを共有結合させて、「ハイブリッド」ペプチドを調製した。このような構築物は、そのIi−Keyの作用で、当該ハイブリッドに組み込まれた抗原性ペプチドを提示するMHCクラスII分子の提示能が変化することにより、力価およびその他の機能的な利点が増強されている。これら2種類の生物学的に活性な単位同士を結び付けるスペーサーの構成を多様(様々な長さおよび組成)に変化させた数種類のハイブリッドを、それらの生物学的活性を判定する目的で調製した。
【0093】
上記ハイブリッドを設計するにあたっての最初の構造的課題は、Ii−Keyにおけるコアペプチドの、活性に必要な長さの決定であった。Ii−Keyにおける活性配列の最小単位であるペプチドLRMK(配列番号:3)を、本研究の試験対象となるハイブリッドの調製に使用した。過去の研究において、このテトラペプチドの、MHCクラスII分子による抗原性ペプチドの提示能に対する効果をアッセイで調べた結果、当該テトラペプチドは、Ii−keyペプチド群の任意のペプチドが持つ最大活性の少なくとも50%を保持することが判明していた(Adams, et al., Eur. J. Immunol. 25: 1693 (1995));およびAdams, et al., Arzneim. Forsch./Drug Research 47: 1069 (1997))。LRMK(配列番号:3)のC末端からIiタンパク質の配列由来のさらなる残基が続いたペプチドも、過去の研究によると、MHCクラスII分子にペプチドをチャージする能力の増強を調べる基礎的アッセイ(basic assay)において、より強力な活性を示すことが判明している。しかしながら、上記のホモログ群におけるIi−keyペプチド部位については、LRMK(配列番号:3)を用いて一定とした。
【0094】
上記のホモログ群における抗原性ペプチドについても、同様に一定とした。その抗原性ペプチドには、ハトチトクロームC(PGCC)抗原性ペプチドであるPGCC95-104;IAYLKQATAK(配列番号:8)を用いた。
【0095】
後述の表1に挙げたハイブリッド群は、その活性に対するスペーサーの長さおよび組成の影響を調べるために設計されたものである。この化合物群を設計するにあたっては、Iiタンパク質由来ペプチドおよび抗原性ペプチドの、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合溝への結合についての知見を一部利用した。インフルエンザヘマグルチニンHA(307-319)(Stern, et al., Nature 378: 215-221 (1994))由来の抗原性ペプチド、およびロイペプチン誘導切断ペプチド(CLIP)として知られるIiタンパク質由来のペプチド(Ii(86-102))(Ghosh, et al., Nature 378: 457-462 (1995))を用いた過去のX線結晶構造解析により、これらのペプチドの、MHCクラスII分子であるHLA−DR1の抗原性ペプチド結合部位内での分子配向が判明した。抗原性ペプチド結合部位内でCLIPが占める位置は、CLIPを含む弱結合性ペプチドを取り除いて強結合性の抗原性ペプチドと交換する機能を持つHLA−DM分子を欠如した細胞株において特定された(Setts, et al., Science 258: 1801 (1992);Avva, et al., Immunity 1: 763-772 (1994);Sloan, et al., Nature 375: 802-805 (1995);およびDenzin, et al., Cell 82: 155-163 (1995))。Ii−Keyにおけるコア:LRMK(配列番号:3)は、特定されたCLIPペプチド群のなかの最長のペプチドにおいて、N末端から離れた場所に位置する(Chicz, et al., Nature 358: 764 (1992))。しかしながら、Ii−Keyペプチド群のうちの長いホモログ(LRMK(配列番号:3)のC末端からさらに続いたもの)は、CLIPペプチド群のうちの長いペプチドのN末端の一次アミノ酸配列との間で重複する部分を有する。
【0096】
【表1】

【0097】
表1のハイブリッド6は、C末端に向かってIi−Keyにおけるコア配列:LRMK(配列番号:3)と、そこから延びるIiタンパク質残基のスペーサー:LPKSAKPVSK(配列番号:12)と、それに続く抗原性エピトープ:IAYLKQATAK(配列番号:8)とを含むハイブリッドである。この「参照ハイブリッド」のスペーサー部位にIiタンパク質の一配列を配するという構成は、ハイブリッド6のX線結晶構造解析画像に、前述した過去の2種類のX線結晶構造解析画像を重ね合わせることによって想到した。これらの画像は、HA(307-319)(Stern, et al., Nature 378: 215-221 (1994))がHLA−DR1のMHCクラスII分子結合ポケットに結合した画像と、CLIPがHLA−DR1のMHCクラスII分子結合ポケットに結合した画像(Ghosh, et al., Nature 378: 457-462 (1995))であった。これら2種類の結晶構造解析画像において、HLA−DR1のMHCクラスII分子のP1疎水性ポケットには、CLIPのIi配列のメチオニン99またはHA(307-319)ペプチドのロイシン87が充填されている。よって、当業者であれば、この疎水性P1ポケットには、PGCC(95-104)のイソロイシン95も適合できると十分に予測できる。そのため、ハイブリッド6は、Iiタンパク質のリシン90を中心とした配列を含み、かつ、C末端にはPGCC(95-104)配列を含む。このハイブリッドにおけるIiタンパク質の配列と抗原性ペプチドとの配列「重複」は、HLA−DR1のP1疎水性ポケットに結合すると予測される残基の位置の直前に生じている。
【0098】
その他のハイブリッドペプチドは、ポリプロリル型II(PPII)へリックスとしての、Ii部位および抗原性ペプチド部位の二次構造と配置、特に抗原性ペプチド結合溝に対する適合性とを入念に考慮したうえで設計した。X線結晶構造解析画像によると、CLIPと抗原性ペプチドは、それぞれ、二次構造においてポリプロリル型IIへリックスの螺旋を形成することが示されている。この型のヘリックスは、一巻きごとのアミノ酸繰り返し頻度が3.0アミノ酸であり、これは、周知のαヘリックスで見受けられる、一巻きごとのアミノ酸繰り返し頻度3.2アミノ酸とは対照的である。これら二種類のヘリックスを長手軸心に沿って観察すると、PPIIヘリックスは、αヘリックスよりも、一巻きごとに「伸張する」距離が約2倍である。また、PPIIヘリックスは、αヘリックスとは異なり、ヘリックスを安定化させる巻き内部の水素結合を有していない。つまり、α−ヘリックスでは、i番目の残基のペプチド主鎖のイミド部のプロトンが、i+3番目の残基のペプチド主鎖のカルボニル基に水素結合している。このようなペプチド主鎖の巻きに沿って生じる内部安定化が、α−ヘリックスの、比較的強力なエネルギーを有する局所的二次構造を形成している。αヘリックスは、タンパク質内で、互いに折り重なりあったり、他種の局所的な二次構造に折り重なったりすることができる。これとは対照的に、PPII構造は、タンパク質内で、タンパク質−タンパク質の相互作用を認識する単位として用いられる。このようなPPIIヘリックスは、例えば、SR−1ドメインに見受けられ、当該SR−1ドメインは、細胞間タンパク質によって膜貫通型受容体の細胞内領域が認識される過程を仲介する。なお、当該細胞内領域の構造または間隔は、細胞表面事象によって変化する。T細胞によって認識される抗原性エピトープも、PPII構造として螺旋を形成している。このようなPPII構造は、α−ヘリックスに比べて、幅広い領域において、抗原性配列に含まれる多数の側鎖の提示が可能になると考えられている。これにより等辺ピラミッド構造が生じ、この構造では、抗原性ペプチドのヘリックスの稜線に沿った複数の残基が、MHCクラスII分子の抗原性ペプチド結合割れ目(cleft)の基部に位置した疎水性ポケットに結合する。抗原性ペプチドのPPIIヘリックスのその他の2本の稜線に沿った複数の側鎖は、MHC分子の表面に沿った浅いポケットに曝されてT細胞受容体と相互作用する。抗原性配列が、α−ヘリックスではなくPPIIヘリックスであることにより、当該抗原性配列の各側鎖に接触し得るMHCクラスII分子およびTCR分子の側鎖の原子の数は、約2倍になる。2つの非平行なヘリックスの間の抗原性ペプチド結合内では、結合した抗原性ペプチドのPPIIヘリックス構造のN末端が、一般的に抗原性エピトープであると特定される第1の残基から少なくとも5個の残基分延びている。X線結晶構造解析によると、2つの非平行α−ヘリックス(これらの間には、CLIPまたは抗原性ペプチドが配される)によって形成される溝の端部には、Ii配列のP87の存在が確認される。
【0099】
本発明は特定の理論に限定されるものではないが、Ii−Keyコア構造:LRMK(配列番号:3)と抗原性エピトープ:IAYLKQATAK(配列番号:8)とが結び付いたハイブリッドペプチドに生じ得る相互作用をモデル化したものから、LRMK(配列番号:3)の機能性基(functional group)および抗原性エピトープを結合するスペーサーに含まれる原子(表1)とMHCクラスII分子との相互作用の構造的要件についての幾つかの仮説を導き出すことができる。第一の仮説として、スペーサーのアミノ酸側鎖の原子は、当該スペーサーがPPIIヘリックスである場合にのみ、MHCクラスII分子の特定の残基と最適に相互作用するというものが挙げられる。この仮説については、ハイブリッド6(表1を参照)によって試験した。このハイブリッドでは、Iiタンパク質の配列においてLRMK91(配列番号:3)のC末端から直接続く完全な10個のアミノ酸残基によってスペーサーが構成されており、CLIPのIiタンパク質配列のX線結晶構造解析モデルとHAの抗原性ペプチドのX線結晶構造解析モデルとを重ね合わせた際に見られた、これらの合致部(registry)が維持されている。もし、試験でハイブリッド6だけが生物学的に活性であると判明したならば、当業者であれば、抗原性配列の第1の残基から離れた場所に位置する、MHCクラスの溝における残基に対する接触が必要条件であると結論付けることができるであろう。
【0100】
他の仮説は、前記スペーサーにおける一部の残基のみが、ハイブリッドペプチドの機能的観点からみて必要であるというものである。ハイブリッド5(表1を参照)は、Iiタンパク質の配列においてLRMK91(配列番号:3)のC末端から直接続く最初の7個の残基のみが、前記スペーサーにおいて残るように設計されている。ハイブリッド4(表1を参照)では、Iiタンパク質の配列においてLRMK91(配列番号:3)のC末端から直接続く最初の4個の残基のみがスペーサーを構成している。もし、ハイブリッド5(表1を参照)とハイブリッド4(表1を参照)がハイブリッド6と同等の活性を示した場合、この結果は、介在的部位がポリプロリル型II(PPII)ヘリックスの二次構造であることは重要でないことを示唆している。さらに、この結果は、MHCクラスII分子に含まれる残基のなかの重要な接触対象残基と、そのような相互作用に重要な(恐らく)主鎖の位置(例えば、ペプチドのカルボニル残基またはイミノ残基)とを探し出す動機となる。
【0101】
その他のハイブリッドは、スペーサーにIiタンパク質の配列の明確な残基が必要であるか否かを調べるものである。スペーサー配列中にIiタンパク質の特定の残基が必要であることが分かると、当該スペーサーが活性部位においてPPIIヘリックスとして螺旋を形成している必要があるという見解が支持されることとなる。これらのハイブリッドでは、前記スペーサーのアミノ酸残基が、E−アミノ−吉草酸(ava)残基に置き換えられている。ハイブリッド3(表1を参照)には2個のava残基が含まれており、ハイブリッド2(表1を参照)には1個のava残基が含まれている。これらのハイブリッドペプチドは、それぞれ、ハイブリッド5のホモログ、ハイブリッド4のホモログである。アミノ基−メチレン−カルボキシ基を含むava残基が直線状に延在している構造は、トリペプチド単位の主鎖長さに実質的に相当する。これらの「欠失ホモログ」ならびにハイブリッド5およびハイブリッド4のいずれもが生物的活性を有していた場合、スペーサーの側鎖原子とMHCクラスIIペプチド結合溝との相互作用について、特定の機能的な条件は存在しないと結論付けることができる。
【0102】
本研究で使用した全種類のハイブリッドペプチドについて、エキソペプチダーゼの活性を阻害するために、N末端をアセチル化し、かつ、C末端をアミド化した。
【0103】
表1のペプチドは、Commonwealth Biotechnologies, Inc.,社(米国23225バージニア州リッチモンド市Biotech Drive 601)によって合成されたものであった。各種類のペプチドの純度および組成は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分離および質量分析によって確認した。
【0104】
(実施例2)
[ハイブリッドペプチドの生物学的活性]
表1に挙げたペプチド群の生物学的活性を、Tハイブリドーマ応答アッセイによって判定した。蛾・チトクロームCエピトープ:IAYLKQATAK(配列番号:8)に特異的なT細胞ハイブリドーマを、その抗原性ペプチド、または、表1に挙げたような、その抗原性ペプチドとIi−Keyにおけるコア配列とのハイブリッド群の各ハイブリッドによって刺激した。これら各ハイブリッドは、それぞれ互いに異なる長さの結合スペーサーを含んでいた。これらのスペーサーは、Iiタンパク質の天然由来の配列のアミノ酸、または5−アミノ−n−吉草酸(ava:5−アミノペンタン酸)のメチレン基を含んでいた。抗原提示細胞とT細胞ハイブリドーマとの培地に対し、抗原性ペプチドにより、これを3μMからの段階的な希釈系列(1:4)でインキュベートした。この抗原性刺激培地(24時間刺激)の上澄みをHT−2培地に移し、当該HT−2培地によるトリチウム標識チミジンの取込量を測定することにより、応答を判定した(以下の表2を参照)。ハイブリッド1(抗原性ペプチド単独)における半最大応答の終点は、約20nMであった。ハイブリッド5およびハイブリッド2における半最大刺激の終点は、約50pMであった。メチレン系スペーサーを含んだハイブリッドであるハイブリッド2およびハイブリッド3の活性は、Iiタンパク質の天然由来の配列を含んだスペーサーを有するハイブリッドの活性と同等であった。この実験から、Ii−Keyにおけるコア配列と抗原性ペプチドとのハイブリッドのインビトロ(in vitro)での効果が立証された。
【0105】
【表2】

【0106】
上記の実験の結果は、Ii−Keyにおけるコア配列、例えば、LRMK(配列番号:3)を、可撓性の鎖を介して、選択された抗原性エピトープに共有結合的にハイブリッド化することにより、効果的な治療薬を調製できることを示唆している。この可撓性の鎖は、その長さが3〜6個のペプチド単位に伸張可能なものであってもよいし、MHCクラスII分子に対して空間的(立体的)に顕著な変化を伴う水素結合を形成しない単純な繰り返し単位で構成されたものであってもよい。このように短くて単純な可撓性のスペーサーは、最善の水準に次ぐ(sub-optimal)活性を有するハイブリッド6によって示されたように、特定のアミノ酸残基で構成された長いスペーサーに比べて、より大きな活性増強をもたらすことができる。当該ハイブリッド6は、詳細には、Iiタンパク質の天然由来の10個のアミノ酸からなるスペーサーと、結晶構造解析データから示唆されるように、LRMK(配列番号:3)と、CLIPと抗原性ペプチドとの推定重複部位とで構成されているものである。
【0107】
(方法)
本研究のアッセイでは、一次培養培地(primary culture)に対し、以下の成分を同時に投入した:(a)抗原性エピトープを含むハイブリッドペプチド(表1);(b)特異的な抗原性ペプチドの結合およびその抗原性ペプチドに特異的なT細胞ハイブリドーマに対する当該抗原性ペプチドの提示に必要なMHCクラスII対立遺伝子を有する、マイトマイシンCで処理したMHCクラスII陽性抗原提示細胞(APC);ならびに(c)前記抗原性ペプチドおよびその提示の拘束性を有するMHCクラスII対立遺伝子に特異的な、MHCクラスII対立遺伝子拘束性T細胞ハイブリドーマ。この一次培養培地のインキュベーションの終了時に、その上澄みの一定分量を二次培養培地に移し、インターロイキン依存性リンパ芽球様細胞株と共にインキュベートした。一次培養培地の活性化T細胞ハイブリドーマから放出されたインターロイキンによる、当該二次培養培地の指標細胞の刺激の程度を、当該二次培養培地のHT−2指標細胞のDNAへのトリチウム標識チミジンデオキシリボース{[H]TdR}の取込量を定量化することによって測定した。
【0108】
Ii−Keyにおけるコア配列:LRMK(配列番号:3)とPGCC95〜104:ハトチトクロームC(95-104):IAYLKQATAK(配列番号:8)とのハイブリッドは、Eによって提示される。これらのペプチドを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:0.01Mのリン酸ナトリウム緩衝成分;pH7.2で0.1MのNaCl)に溶解した。これらの溶液を、滅菌ろ過した。TPc9.1Tハイブリドーマは、マウスのMHCクラスII対立遺伝子E上に提示されるハトチトクロームC81〜104ペプチドに特異的である。H−2対立遺伝子を発現するCH27B細胞リンパ腫株を、抗原提示細胞として使用した。
【0109】
抗原性ペプチド特異的なT細胞の活性化を、以下の手順で測定した。すなわち、5×10細胞数/mLを、マイトマイシンC(シグマ社)0.025mg/mLと共に、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/N−2(ヒドロキシエチルピペラジン−N’[2−エタンスルホン酸])(HEPES)10mMにおいて、37℃で20分間インキュベートした後、4vol倍のDMEM−5%ウシ胎児血清(FCS)、HEPES10mMで2回洗浄することにより、マイトマイシンCで処理したCH27細胞群(A)APC(抗原提示細胞)を調製した。また、各アッセイ分析前には、T細胞ハイブリドーマに対し、2200radの照射を行った。
【0110】
一次培養培地のアッセイでは、5×10個のマイトマイシンCで処理されたAPC、5×10個のTハイブリドーマ細胞、および抗原性エピトープを含むペプチド(3μMからの段階希釈(1:4))を、ウシ胎児血清(FCS)5%、HEPES10mM、1×非必須アミノ酸(シグマ社)、ピルビン酸ナトリウム1mM、L−グルタミン2mM、ペニシリンG100U/mL、硫酸ストレプトマイシン100μg/mL、および2−メルカプトエタノール(2−ME)5×10−5を含む完全DMEM培地において培養した。Tハイブリドーマ(T)およびAPCのみを含有するウェルを、T細胞活性化のバックグランドをモニタリングするために含め、T、APCおよび抗原性ペプチドを含有するウェルを、AE101シリーズの各ペプチドによる非特異的なTハイブリドーマ活性化をモニタリングするために含めた。24時間後に各種培地から上澄み(分量:20μl、40μl、75μl)を取り出して、1×10個のインターロイキン依存性HT−2リンパ芽球様細胞株(Roswell Park Memorcial Institute(RPMI)1640緩衝完全培地−5%FCS:それぞれ、140μl、120μl、75μl)の生育に対する影響をアッセイし、[H]TdRをHT−2アッセイの24時間中、最後の5時間に1μCi/ウェルで組み込むことによって測定し、分析した。全てのアッセイ分析において、報告値は、3列ウェル(triplicate well)の平均値であり、平均標準誤差は±10%未満であった。一次培養培地においても、二次培養HT−2指標培地においても、アッセイ間で刺激の程度は変動するので、様々な時間でアッセイ間を比較するために、標準となるペプチド、すなわち、参照ペプチドを常に含めておいた。
【0111】
(実施例3)
[インフルエンザA(H5N1)のサブビリオンワクチン接種後の、HLAクラスIIH5N1型ヘマグルチニンエピトープの特定]
【0112】
(第1ラウンドのPBMC分析:アルゴリズムで予測されたIi−Keyにおけるペプチド、およびH5N1型HAにおける重複ペプチドによる刺激後のエクスビボ(ex vivo)でのCD4陽性T細胞IFN−γ応答)
【0113】
H5N1不活性化サブビリオンワクチン接種後のCD4陽性免疫優性エピトープを特定するために、免疫化された対象からボランディアを募り、これらのボランティアからPBMCを取り出し、CD8陽性欠損PBMCサンプルを調製して、これを、アルゴリズムで予測されたHAのクラスIIエピトープをIi−Keyに結合したもの、またはHAの重複ペプチドのライブラリに対して、エクスビボ(ex vivo)で刺激した。SYFPEITHIアルゴリズムを、各種HAに対して無差別かつ各種HA間で保存されたエピトープが特定される可能性を最大限に高めるようにして使用した。これにより、少数のクラスIIエピトープで、幅広い人口をカバーでき、かつ、株間の交差防御を誘発することのできる有望なワクチンを調製することができる。このようにして得られた試験対象の24個のペプチドは、HA1領域およびHA2領域の両方に分布している。これらのアルゴリズムで予測された24個のエピトープの配列を、以下の表3に示す。アルゴリズムで予測されたペプチドは、試験対象の35人のワクチン接種者の最大29%に対してIFN−γ陽性応答を誘発することができた(図1)。これらの応答の特徴を示すために、当該応答を、さらに、4段階の力価:バックグランドの3〜5倍超、5〜8倍超、8〜10倍超、および10倍超に適宜振り分けた。Ii−Keyペプチドによって誘導された応答は主にバックグランドの3〜10倍超であった一方、24個のペプチドのうちの7個はバックグラウンドの10倍超の応答を誘導した。試験した24個のペプチドのうち、Ii−KeyペプチドのNo.177、No.170、およびNo.121は、最も高頻度に認識され(それぞれ、ワクチン接種者35人のうちの10人、9人、9人)、インビトロ(in vitro)で強力なIFN−γ応答を誘発した。なおかつ、これらのペプチドは、ドナーのHLAタイピング結果(データは示さず)に基づいてHLA拘束性でないことが判明し、これは、少なくともある程度のエピトープ無差別性(epitope promiscuity)を有することを示唆している
【0114】
【表3】

【0115】
ワクチン開発用のクラスIIのさらなるH5N1型HAエピトープを特定するために、ワクチン接種者のPBMCを、HA配列全体をカバーしたクラスII重複ペプチドのライブラリに対してスクリーニングするという古典的かつ大胆なアプローチを取った。これは、20種類の個別のペプチドプールを利用したマトリックス的アプローチ(図2)を用いることにより実施した。各ペプチドプールは、A/Thailand/4(SP-528)/2004のHAタンパク質配列全体にわたって分布する最大10個の重複16〜17mer(マー;アミノ酸残基数の単位)を含み、かつ、そのワクチン株と99%の相同性を有するものとした。このような各ペプチドプールを用いて、CD4陽性T細胞を刺激した。このようなアプローチは、一度でたくさんの数のペプチドを実用的にスクリーニングし、後の再試験対象となる個別のペプチドを特定することを可能にする。各ペプチドプールでドナーのPBMCを24時間インキュベートした後、ELISPOT法を用いてIFN−γの誘導の程度についてアッセイ分析した。試験対象の各ドナーのスポット形成細胞(SFC)の数を正規化した後、ペプチドプールの応答率を決定した。ワクチン接種者の応答率は、特定のペプチドプールにもよるが、6〜26%であった(図3)。全般的に、T細胞応答の大きさは、バックグランドの3〜5倍超であった。その一方、数種類のプールではバックグランドの5〜8倍超の応答が得られ、さらには、数種類のプールでは、バックグランドの8〜10倍超および10倍超の応答が誘導された。また、CD8陽性欠陥サンプルを、ペプチドに対する高確率かつ強力な応答を誘導すると予測される臨床試験サブビリオンワクチンを用いて試験した。事実、試験対象者の80%が、このインビトロ(in vitro)で試験したサブビリオンワクチンに対してバックグランドの3.2〜494倍超の測定可能なT細胞応答を示した。このサブビリオンワクチンは他種のウイルスタンパク質:(NA、NP、M2)を含んだ全ウイルス不活性化H5N1ウイルス調製物であり、これら他種のウイルスタンパク質一部は季節性インフルエンザ株と高い相同性を有するので、上述のようなH5N1に対する応答の一部は、T細胞の交差応答に起因すると考えられる。この点を部分的に考慮に入れるために、PBMCを、さらに、「HA単独」での応答を評価するための手段として、高純度のH5N1型の組換えHAで再刺激した。H51N株間では高いHA相同率(95%超)があるにもかかわらず、A/Vietnam/1203/2004と最近の流行株である季節性インフルエンザ株A/New Caledonia/20/99との間には約63%程度の相同性しかない。よって、このH5N1型の組換えHAに対する応答はワクチンによって誘導された可能性が高い。55%のボランティアが組換えHAに対して検出可能な応答を示し、29%のドナーは10倍超の応答を示した(図3)。前述のペプチドプール内に存在する、T細胞の刺激に活性な特定のペプチドを特定するための第2ラウンドのT細胞スクリーニングでは、組換えHAに対して応答を示したドナーからのPBMCのみを使用した。このような組換えHAに関する条件を入れたこと、および限られた数のドナーPBMC試料の制限により、第2ラウンドの試験では、最初の35人のドナーのうちの14人のPBMCを使用することとなった(下記の説明を参照)。
【0116】
(アルゴリズムで予測されたペプチドとIi−Keyとのハイブリッドおよび重複ペプチドに対するIFN−γ測定応答は、主にワクチンによって誘導されたものである。)
【0117】
第1ラウンドにおいて組換えHAに対して応答を示したドナーPBMCサンプルは、HAのペプチドプールおよびアルゴリズムで予測されたペプチドに対し、より高確率で応答を示すと予測された。これは、観察される応答は、ワクチンによって誘導されたものであり、交差反応性によるものではないことが示唆される。これを試験するために、組換えHAに応答を示したワクチン接種ドナーと、組換えHAに対して非応答的であったワクチン接種ドナーと、8人のナイーブな個人(非ワクチン接種者)との間で、ペプチドプールに対する応答率を比較した。ワクチン接種ボランティアの「ワクチン接種前」のPBMCサンプルが入手できず、各ドナーのベースラインT細胞活性を決定できなかったので、本研究で特定されたクラスIIエピトープに対するPBMC応答がワクチンによって誘導されたものなのか、それとも交差反応性による既存の免疫によってもたらされたものであるのかを確定するのに困難が生じた。組換えHAに対して応答を示したワクチン接種者は、ペプチドプールに対して高確率の応答を示すと予測される。第1ラウンドのスクリーニングで試験した組換えHA陽性ワクチン接種者19人のうちの14人は、組換えHAに対する応答(図4A中の「X」)と、20種類のうちの18種類のペプチドプールに対する応答(図4A中の閉じた円)との両方を示した。興味深いことに、このグループ中の5人のドナーは、組換えHAには応答を示した一方で、ペプチドプールについてはどのプールにも応答を示さなかった。この理由としては、アッセイ分析のばらつきや、これらの個人にとっては各ペプチドプールが最適以下であった可能性が考えられる。組換えHAに非応答的なワクチン接種ドナーのPBMCサンプルを調べた結果、16人のうちの3人(ドナーNo.1004、No.025、No.033)だけが、数種類のペプチドプールに測定可能な応答を示した(図4B)。また、組換えHAに対する応答性は、予測されたペプチドをIi−Keyで改変した改変ペプチドに対する応答率と相関した(データは示さず)。最後に、上記と同一の解析を、ナイーブなドナーのPBMCに対しても実施した。応答率は低かったものの、8人のうちの3人のドナーのサンプルにおいて、数種類のペプチドプールおよび組換えHAに対するT細胞応答が観察された(図4C)。これは、健康な被験者がH5N1型HAクラスIIエピトープに対して検出可能なCD4陽性T細胞応答を示し、かつ、それは、季節性インフルエンザウイルスに対する交差応答の結果である可能性が高いということを立証した近年の研究結果(Roti, 2008)と一致するものである。まとめると、以上のデータは、組換えHAに対して応答を示す個人の応答率と、ペプチドプールおよびIi−Key改変ペプチドの両方に対して応答を示す個人の応答率との間には正の相関性があることを明確に示しており、さらに、これらの応答が主にワクチンによって誘導されたものであるという我々の予測を裏付けるものである。
【0118】
(第2ラウンドのPBMC分析:マトリックスから導き出したHAペプチドの特定およびその活性の確認)
【0119】
重複ペプチドのライブラリから特定のH5N1型HAクラスIIペプチドを決定するために、第1ラウンドのT細胞スクリーニングで用いたマトリックスから導きだされた各ペプチドを、第2ラウンドのアッセイ分析で再試験することにより、活性を確認した。第1ラウンドでH5N1の組換えHAに対する陽性応答が証明されたドナーのPBMCのみを、第2ラウンドのスクリーニングに使用した。この選択基準条件により、サブビリオンワクチンのHAに対してワクチン誘導による特異的なT細胞応答を示さなかったと考えられるドナーのサンプルを取り除いた。H5N1型HAの94個の重複ペプチドのうち、14名の各ドナーに対して、HA配列全体にわたって広範囲に分布する種々のペプチドが「ヒット」した。第1ラウンドを経たこの方法は、偽陽性(後検出)を特定することができるので、マトリックスによって導き出されて「ヒット」した全種類のペプチドを、各ドナーに対して個別的に試験した。その結果、各ドナーに対する試験対象となる28種類のペプチドが得られた。このようにマトリックスで導き出されたペプチドを試験することにより、純粋に活性なペプチドを少数に絞ることができた。一部のドナーは、マトリックスで導き出されたペプチドのうちの1種類のみに応答し、その一方で、他のドナー(例えば、ドナーNo.1008など)は、最大7種類のペプチドに対して応答を示した(表4)。総合的には、94種類のアレイペプチドのうち、16種類が検出され、そのうちの8種類(BEI 12、39、54、57、59、73、74、78)はNew Caledonia型の組換えHA配列に対して半分ないし実質上同一の相同性を有し、残りの8種類(BEI 7、8、22、27、28、29、36、38)は、H5N1の組換えHAに固有のものであった。つまり、後者のペプチドが、ワクチン特異的であるように思われる。マトリックスで導き出されたペプチドのうちの数種類、例えば、BEI 36、59などは、他種類のペプチドよりも高確率(21%)で認識された;他方、観測された応答の大きさは、広範囲にばらついていた(バックグランドの3.3〜57倍超)。表4の結果は、第2ラウンドの試験で陽性を示したペプチドのみを示していることに注意されたい。例えば、ドナーNo.27は、マトリックス導き出されたペプチドのうち20種類のペプチドがヒットしたが、その後これらのペプチドを個別的に試験した結果、実際には2種類のみ(BEI 36、78)が活性であることが確認された。同様に、ドナーNo.32は、第1ラウンドの分析のマトリックスで導き出されたペプチドのうち6種類がヒットしたが、それらのペプチドを個別に試験してみると、バックグランドを超える応答を示すペプチドは一つもなかった。このことは、ペプチドのライブラリをスクリーニングする際のマトリックス戦略の制限を示している可能性がある。すなわち、10種類のペプチドで構成される一つのプールに対するPBMCのインビトロ(in vitro)の応答(第1ラウンド)は、(例えば、ペプチド間の競合などの原因により、)それと同じペプチドを個別的に試験した際の応答と異なる可能性があるということである。とはいえ、ライブラリ内の全種類のペプチド(94種類のH5N1型HAペプチド)を、14人の全ドナーに対して個々にスクリーニングするというのは、存在する細胞数を考慮すると、実用的ではなかったであろう。マトリックスで導き出されたペプチド配列のうち、ドナーのPBMCにおいて免疫応答を引き起こすものを、以下の表5に示した。
【0120】
【表4】

【0121】
【表5】

【0122】
第2ラウンドのスクリーニングでのH5N1型HAに対するT細胞応答は、全体的に第1ラウンドの分析と同等であったが、14人のドナーのうちの6人のサンプルに関しては、第1ラウンドで陽性応答を示したにもかかわらず、組換えHAに対する応答が陽性閾レベルよりも下回った。これら6人のうち、ドナーNo.1008、No.1007、No.27は、第1ラウンドでの組換えHAに対する応答が弱かった。第2ラウンドの刺激で検出が認められなかった原因は、最大11%にまで変動すると報告(Lindemann, M., et al., 2006. Clin Immunol 120:342;およびMwau, M., et al., 2002. AIDS Res Hum Retroviruses 18:611.)されているELISPOTアッセイ法のアッセイ間ばらつきか、あるいは、T細胞活性化の最適下限であると思われる。
H5N1型のHA由来のMHCクラスIIエピトープに対する応答が、H5N1に曝されていない個人にも観察されている(Roti, M., et al., 2008. J Immunol 180:1758)ので、本研究の応答の一部も、季節性インフルエンザに対する交差応答T細胞によるものである可能性がある。この可能性に対処するため、ドナーのPBMCを、New Caledonia(H1N1)型の組換えHAに対して試験した。事実、第2ラウンドの刺激時に試験した14人のドナーのうちの8人に、この抗原に対するIFN−γの検出可能なレベルとして、バックグランドの3.1〜240倍超の応答大きさが見受けられた(表4)。例えば、ドナーNo.23、No.20、No.1044、No.34、No.21、No.32は、いずれも、H5N1型の組換えHAおよびH1N1型の組換えHAの両方に対して測定可能な応答を示した。そのため、H5N1型の組換えHAに対する抗原特異的応答の誘導の全体が、サブビリオンワクチンによって誘導されたものであるの否かを結論付けることが難しくなった。これら2種類の株の間の配列相同性が約63%のみであるといえども、自然感染またはワクチン接種による比較的最近のNew Caledonia(またはその他の季節性亜型)に対する既存の免疫により、H5N1型のHAに対する交差応答性のT細胞免疫が誘発された可能性が存在する。なお、この証拠は、ドナーNo.1044、No.34、No.21が、A/Thailand/4(SP-528)/2004株のaa 345-361に相当するBEI 59に対して(それぞれ、28倍、39倍、57倍の)強力な応答を示したという事実に見受けられる。当該A/Thailand/4(SP-528)/2004株は、その17merの最初のアミノ酸および最後のアミノ酸を除けば、A/New Caledonia/20/99と配列が完全に相同している。同様に、ドナーNo.1044、No.21は、New Caledonia株のHAの同一の領域内との間で88%の配列相同性を有するaa 435-451に相当するBEI 74に対して(それぞれ、20倍、49倍の)強力な応答を示した。この領域に対する交差反応性は、インフルエンザHAに対するヒトCD4陽性T細胞レパトアを調査した過去の研究において立証されており(Roti, M., et al., 2008. J Immunol 180:1758;およびGelder, C. M. et al., 1995 J Virol 69:7497)、さらに、A/New Caledonia/20/99に感染したHLA−DRトランスジェニックマウスからも立証されている(Richards, K. A,, et al., 2007. J Virol 81:7608)。最後に、aa 429-445に相当するBEI 73(15倍)に対して緩やかなT細胞応答を示したドナーNo.30は、H5N1型の組換えHAに対して検出可能な応答を示さなかった。このことは、当該ドナーの対ペプチド応答が、季節性インフルエンザに対する既存のメモリーT細胞応答によるものであったことを示唆している。同様に、アルゴリズムで予測されたエピトープをIi−Keyで改変した改変ペプチドの一部も、H5N1型のHAに非応答的であったドナーのサンプルにおいて活性を示した。H5N1に曝されたことのない個人の、H5N1型のHA由来のペプチドに対するT細胞応答には交差応答が含まれていることを立証した点では他者の研究と合致したが、この第2ラウンドの分析で特定されたペプチドの少なくとも半分が、過去のH5N1サブビリオンによる免疫化の結果であることは明白である。
【0123】
[材料および方法]
(PBMCサンプル)
【0124】
最初の二重盲検試験は、H5N1インフルエンザAサブビリオンワクチン(rgA/Vietnam/1203/2004)の2回の筋肉内投与(投与量:90、45、15、または7.5μg)を受けた後に安全性試験、忍容性試験、および赤血球凝集抑制試験を受けた451人の健康成人に対して実施された(Treanor, J. J., et al., 2006. N Engl J Med 354:1343)。2回目の免疫化から6ヵ月後、337人の研究参加者に対し、前述の最初の研究に対する追跡研究として3回目の免疫化処置を行った(Zangwill, K. M., et al., 2008. J Infect Dis 197:580)。その研究完了の20〜29ヶ月後に、これらの参加者から35名の被験者(年齢:23〜78歳)を、University of Rochesterに呼び戻し、血液を採取して、PBMCの単離を行った。その後、これらのPBMCは、液体窒素ドライシッパー(dry shipper)を用いてAntigen Express社に輸送し、分析を行うまで液体窒素内に保管した状態を保った。
【0125】
(合成ペプチド、組換えHAタンパク質、およびH5N1サブビリオンワクチン)
【0126】
免疫優性クラスIIHAエピトープの特定のために、インフルエンザのペプチドのアレイを利用した。BEI Resources機関(本明細書では「BEI」と称する)(米国バージニア州マナッサス市)によって提供されたこのアレイは、A/Thailand/4(SP-528)/2004のHAタンパク質全体をカバーした、94種類の重複ペプチド(11〜12個のアミノ酸で互いに重複した、16〜17merの重複ペプチドからなる)を含んでいた。当該94種類の重複ペプチドは、さらに、試験で使用されたVietnam/1203/2004株のHAと約99%の相同率を有するものであった。クラスIIエピトープを特定するために、PBMCに対する最初のスクリーニング(第1ラウンド)を、マトリックス的アプローチに基づいて、IFN−γを調べるELISPOT法を使用して実行した。簡単に説明すると、94種類のH5N1型のHAペプチドからなるアレイを、各プール(2mg/ml)に10個のペプチドが配されるように、20種類の互いに異なるペプチドプールに分けた。例外として、プール5〜10には、それぞれ9個のペプチドが配され、プール20には、4個のペプチドのみを含ませた。新規の有望なクラスIIエピトープを迅速かつ効率よく特定するために、Kaufmann et al.(Kaufmann, D. E., et al., 2004. J Virol 78:4463)に記載されたものと同様のマトリックス的戦略を用いた。詳細には、1つのペプチドが2種類の異なるプールの両方に含まれるように構成することにより、これら2種類の異なるプールの両方で正の応答が生じた場合に、目的とするペプチドを個別的に特定することが可能となる。その後、このようにして特定された各ペプチドを、第2ラウンドのELISPOT解析で再試験することにより、その反応性を確認した。
【0127】
上述のように重複ペプチドのライブラリをスクリーニングするのに加えて、予測されたH5N1型のHAクラスIIエピトープに対するT細胞応答も分析した。SYFPEITHIアルゴリズム(www.syfpeithi.de)を、H5N1型A/Duck/Anyang/AVL-1/2001のHAアミノ酸配列(GenBank、寄託番号:#AF468837)から各種HAに対して無差別なエピトープが特定される可能性を最大限に高めるようにして使用した。エピトープは、HLA−DRβ1対立遺伝子(DRβ10101、DRβ10301、DRβ10401、DRβ10701、DRβ11101、およびDRβ11501)に対して予測されたものであり、予測されたエピトープを、前述の対立遺伝子に対してSYFPEITHIプログラムが挙げたスコアの累積をもとにしたランキングで、トップスコアの40種類のエピトープを格付けした。トップスコアの40種類のペプチドに対してさらなる基準条件および制限条件(例えば、他のH5N1株に対する相同性、無差別性(promiscuity)、ペプチド合成の容易性など)を適用することにより、試験対象となる24種類のクラスII予測エピトープからなる、より小規模なグループを得ることができた。ペプチドは、クラスII分子との相互作用が増強されるように、Ii−Keyモチーフ(LRMK)を含有する改変ペプチドとして合成されたもの(NeoMPS社;米国カリフォルニア州サンディエゴ市)を使用した。当該改変ペプチドは、各種ペプチドのN末端に対し、リンカー配列(5−アミノペンタン酸、ava)を介して共有結合されたものであった。当該ペプチドは、使用するまで、20%DMSOに溶解して−80℃で凍結させておいた。
【0128】
T細胞応答を、さらに、H5N1型の組換えHA(rHA)(A/Vietnam/1203/2004)5μg/ml、H1N1型の組換えHA(A/New Caledonia/20/99)(Protein Sciences社;米国コネチカット州メリデン市))5μg/ml、およびH5N1サブビリオンワクチン(rgA/Vietnam/1203/2004)(BEI Resources機関)2.5μg/mlに対して試験・測定した。
【0129】
(PBMC調製およびCD8陽性欠損)
【0130】
ELISPOT分析の準備のために、ドナーのPBMCサンプルを、37℃のぬるま湯で急速解凍し、これを、予備加熱した完全培地(X−Vivo、Cambrex社製;米国メリーランド州ウォーカーズビル市:および10%ヒトAB、Gemini Bio Products社;米国カリフォルニア州サクラメント市)に対してゆっくりと滴下投入した。ワクチン接種前のサンプルが入手できなかったので、無作為選出の8人のナイーブなドナーのPBMCサンプル(AllCells社;米国カリフォルニア州エメリービル市)を用いて、交差応答性のT細胞応答の有無を調べた。細胞(PBMC)は、遠心分離し、デカンテーション法で取り出した後、当該PBMCを完全培地に再懸濁させた。細胞数および細胞生存率の測定を、トリパンブルー色素排除試験法によって実行した結果、実質的に90%超の生存率が得られた。さらに、PBMCは、抗体ベースの磁気分離カラム(Miltenyi社;米国カリフォルニア州オーバーン市)を用いてCD8陽性T細胞を欠損させた後、フローサイトメトリー解析によって細胞集団の純度を測定した。除去されずに残っていたCD8陽性細胞は、いずれのサンプルでも1%未満であった。
【0131】
(ELISPOT分析)
【0132】
ELISPOT分析を、ヒト抗IFN−γキット(BD Biosciences社製;米国カリフォルニア州サンノゼ市)を用いて実施した。簡単に説明すると、PVDFプレートを、滅菌PBS(100μl/ウェル)に希釈した抗IFN−γ抗体5μg/mlによってコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートのブロッキングは、完全培地200μl/ウェルによって1回洗浄した後、完全培地(200μl/ウェル)を添加してから室温で2時間インキュベートすることによって実行した。完全培地は、デカンテーション法で取り出した後、CD8陽性欠損PBMCを、試験対象のドナーのサンプルに応じて(1〜4)×10/ウェル添加した。第1ラウンドのT細胞刺激では、ペプチドプール、およびIi−Keyを含有するように改変されたH5N1型のアルゴリズム予測HAペプチドを試験した(最終濃度:20μg/ml)。さらに、H5N1型の組換えHA(5μg/ml)に対する応答、および不活性化H5N1サブビリオンウイルス(2.5μg/ml)に対する応答も試験した。陽性対照ウェルには、ConA(10μg/ml:Sigma社製;米国ミズーリ州セントルイス市)および破傷風トキソイド(1μg/ml:Astarte Biologics社製;米国ワシントン州レドモンド市)が含まれ、陰性対照は、抗原性刺激の不在下で試験される各ドナーのPBMCからなるものとした。ELISPOTプレートは、その後、37℃で24時間インキュベートした。プレートは、プレートウォッシャー(Biotek Instruments社製;米国バーモント州ウィノースキー市)を用いてPBS/0.5%Tween20(PBST)で3回洗浄した後、PBS/10%FBSに希釈されたビオチン化抗ヒトIFN−γ(2μg/ml)を添加した。2時間のインキュベーションを行った後、プレートをPBSTで3回洗浄し、その後、PBS/10%FBSに(1:100)希釈したストレプトアビジン/HRPを添加した。室温で1時間のインキュベーションを行った後、プレートをPBSTで3回洗浄し、その後、さらに、PBSで2回洗浄した。そして、十分なスポット形成が生じるまで(典型的には1〜2分間)AEC基質(BD Biotsciences社製;米国カリフォルニア州サンディエゴ市)を添加することにより、アッセイ最適化(assay development)を実行した。その後、脱イオン蒸留水でリンスしてから乾燥させた。このようにして得られたイムノスポットを、AID ELISPOTリーダー(Autoimmun Diagnoticka社製;独国ストラスバーグ市)を用いてカウントした。データは、3列で試験した各抗原の平均スポット数を用いて算出した。この数値が、30SFC/10PBMCを上回っており且つ非刺激の対象ウェルの少なくとも3倍超である場合を、陽性の応答とした。実験によっては、ELISPOTデータは、抗原刺激済みサンプルが、非刺激の対照のバックグランド(ベースラインは3.0と考えられる)に対して何倍増(fold increase)であるかによって表され、他の実験では、非刺激のバックグランドSFCから抗原刺激済みのサンプルを減算した正味のSFC/10PBMCが、報告値とされる。
【0133】
第2ラウンドのT細胞刺激およびELISPOT分析を、第1ラウンドの刺激においてH5N1型の組換えHAに対して応答を示したドナーを用いて実施した。詳細には、14人のドナーを、第1ラウンドのスクリーニング時のマトリックスでの位置をもとに活性であると予測された、ライブラリ由来の各ペプチド(20μg/ml)に対して試験した。季節性インフルエンザのHAとH5N1型のHAとの交差応答の可能性を調べるために、PBMCサンプルを、A/New Caledonia/20/99の組換えHA(2.5μg/ml)に対して試験した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のTリンパ球または当該Tリンパ球由来のクローン細胞を刺激する、特異的なインフルエンザ抗原性エピトープを、ペプチド合成コンビナトリアルケミストリーの手法によって特定する方法であって、
a)Tリンパ球、または当該Tリンパ球由来のクローン細胞を用意するステップと、
b)インフルエンザ抗原性エピトープの候補化合物のライブラリを用意するステップであって、前記ライブラリ内の候補化合物の各々は、そのN末端で、哺乳類のIi−keyにおいて抗原提示増強能を保持するペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物と介在的化学構造を介して共有結合することでハイブリッドポリペプチドを形成しているステップと、
c)前記b)ステップで得られるハイブリッドのうち、抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合した状態で提示された際に前記a)ステップのTリンパ球を刺激するハイブリッドを特定するステップと、
を含み、
前記介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、結合原子群であり、
このようにして特定された特異的なハイブリッドに含まれる候補化合物は、前記T細胞を刺激する特異的な抗原性エピトープに相当する、
特異的なインフルエンザ抗原性エピトープの特定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H5N1インフルエンザウイルスに由来するものである、特異的なインフルエンザ抗原性エピトープの特定方法。
【請求項3】
請求項1において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H1N1インフルエンザウイルスに由来するものである、特異的なインフルエンザ抗原性エピトープの特定方法。
【請求項4】
請求項1において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、および配列番号:59の配列からなる群から選択されるいずれかである、特異的なインフルエンザ抗原性エピトープの特定方法。
【請求項5】
配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、および配列番号:59からなる群から選択されるいずれかである、ペプチド配列。
【請求項6】
請求項5に記載のいずれか1つの配列であって、
そのN末端で、哺乳類のIi−keyにおいて抗原提示増強能を保持するペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物と介在的化学構造を介して共有結合することでハイブリッドポリペプチドを形成しており、前記介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、結合原子群である、配列。
【請求項7】
配列番号:61〜配列番号:76からなる群から選択されるいずれかであるペプチド配列であって、
そのN末端で、哺乳類のIi−keyにおいて抗原提示増強能を保持するペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物と介在的化学構造を介して共有結合することでハイブリッドポリペプチドを形成しており、前記介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、結合原子群である、ペプチド配列。
【請求項8】
末梢血単核球(PBMC)の、サイトカインに対する応答を調節する方法であって、
a)PBMCを用意するステップと、
b)MHCクラスIIのインフルエンザ抗原性エピトープを用意するステップであって、前記エピトープは、そのN末端で、哺乳類のIi−keyにおいて抗原提示増強能を保持するペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物と介在的化学構造を介して共有結合させて形成したハイブリッドポリペプチドを形成しており、前記介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、結合原子群であるステップと、
c)前記b)ステップのIi−keyハイブリッドを、前記a)ステップの前記PBMCに接触させるステップと、
を含む、
PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項9】
請求項8において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H5N1インフルエンザウイルスに由来するものである、PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項10】
請求項8において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H1N1インフルエンザウイルスに由来するものである、PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項11】
請求項8において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、および配列番号:59の配列からなる群から選択されるいずれかである、PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項12】
請求項8において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、配列番号:61〜配列番号:76からなる群から選択されるいずれかである、PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項13】
請求項8において、前記サイトカインがIFN−γである、PBMCのサイトカイン応答の調節方法。
【請求項14】
対象の免疫応答を調節する方法であって、
a)対象を用意するステップと、
b)MHCクラスIIのインフルエンザ抗原性エピトープを用意するステップであって、前記エピトープは、そのN末端で、哺乳類のIi−keyにおいて抗原提示増強能を保持するペプチド:LRMKLPKPPKPVSKMR(配列番号:1)またはその改変物と介在的化学構造を介して共有結合させて形成したハイブリッドポリペプチドを形成しており、前記介在的化学構造は、直線状に並べられると最大20個のアミノ酸の長さにまで伸張する可撓性の鎖を形成する、結合原子群であるステップと、
c)前記b)ステップのIi−keyハイブリッドを、前記a)ステップの前記対象に投与するステップと、
を含む、
免疫応答の調節方法。
【請求項15】
請求項14において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H5N1インフルエンザウイルスに由来するものである、免疫応答の調節方法。
【請求項16】
請求項14において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、H1N1インフルエンザウイルスに由来するものである、免疫応答の調節方法。
【請求項17】
請求項14において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、配列番号:13、配列番号:15、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29、配列番号:31、配列番号:33、配列番号:35、配列番号:37、配列番号:39、配列番号:41、配列番号:43、配列番号:45、配列番号:47、配列番号:49、配列番号:51、配列番号:53、配列番号:55、配列番号:57、および配列番号:59の配列からなる群から選択されるいずれかである、免疫応答の調節方法。
【請求項18】
請求項14において、前記インフルエンザ抗原性エピトープが、配列番号:61〜配列番号:76からなる群から選択されるいずれかである、免疫応答の調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公表番号】特表2012−516350(P2012−516350A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548298(P2011−548298)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/022413
【国際公開番号】WO2010/088393
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(509255598)アンティジェン・エクスプレス・インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ANTIGEN EXPRESS,INC.
【Fターム(参考)】