説明

インフルエンザの予防および/または治療剤

【課題】副作用がなく、安全性が高く、摂取が容易なインフルエンザの予防および/または治療剤の提供。
【解決手段】ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌を有効成分として含有するインフルエンザの予防および/または治療剤とする。
ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌は生菌、または死菌、または両者の混合物のいずれであってもよく、1日摂取量当たりの乳酸菌の含有量は1×10〜1×1011個であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザの予防および/または治療剤に関する。より詳細には、本発明は、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌を有効成分として含有するインフルエンザの予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染により発病する、感染力の強い感染症である。そして、近年は毎年の如くインフルエンザが大流行し、循環器、肝臓、腎疾患などの基礎疾患を有する人や高齢者、幼児などには脅威となっている。インフルエンザの予防としては主にインフルエンザワクチンが使用され、またインフルエンザの治療薬として種々の薬剤が開発されているが、ヒト由来でない成分からなることが多いこれらワクチンや薬剤を用いると、深刻な副作用を生じることがあり、また、ヒト由来であっても、問題となるケースもある。
したがって、副作用がなく、安全性が高いインフルエンザの予防および/または治療剤が強く要望されている。
【0003】
ここで、乳酸菌は古くからヒトの食生活に利用され、食べ続けられてきたもので、健康に良いものとして知られている。そして、ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌は、ヒト由来の菌であり、ヒト消化管内に生息することが知られ、腸内環境の改善、腸管機能の亢進をはじめ、近年は、コレステロール抑制、免疫バランスの改善による抗アレルギー作用や抗腫瘍作用など多くの生理活性を有することが報告されている。
【0004】
例えば、ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌(以下、「L.アシドフィラス」ともいう。)が、血中および肝臓コレステロール低下作用を有すること(特許文献1)、L.アシドフィラスやラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus
fermentum)に属する乳酸菌がI型アレルギーの発症に関わるIgE抗体量を減少させてアレルギー体質を改善することができること(特許文献2)が知られている。また、ラクトバチルス菌属に属する乳酸菌(L.アシドフィラスを含む)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)菌属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)菌属に属する3属の乳酸菌から選択した1種または2種以上の乳酸菌を用いて複数のグループを形成し、それらグループ毎に継代培養して共生状態を維持し、この継代培養されたグループ単位の乳酸菌同士をさらに共棲培養して得た乳酸菌培養液を、加熱滅菌した後にろ過して得たろ液と、このろ液をろ過したときの残渣を粉末化した粉末とを混合した抗腫瘍活性剤(特許文献3)が知られている。
しかし、L.アシドフィラスが、インフルエンザの予防および/または治療剤として効果を有することについては知られていなかった。
【0005】
なお、インフルエンザの予防に関して、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillusplantarum)に属する乳酸菌を有効成分として含有する、インフルエンザワクチンのアジュバントに関する発明が知られている(特許文献4)が、この「アジュバント」とは、薬剤の効果を増強する添加剤のことであり、それ自体(ラクトバチルス・プランタラム)が単独で予防または治療の効果を有するものではないうえ、ラクトバチルス・プランタラムは植物由来の菌が多く、ヒト由来の菌であるL.アシドフィラスとは、基本的にその性質は異なるものと認識されている。そして、該特許文献4には、L.アシドフィラス自体のインフルエンザの予防および/または治療剤に関する知見はなんら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−250670公報
【特許文献2】特開2004−26729公報
【特許文献3】特開2005−97280号公報
【特許文献4】特開2010−47485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のインフルエンザの予防・治療剤が抱える問題点を踏まえ、副作用がなく、安全性が高いインフルエンザの予防および/または治療剤の提供を目的とするものである。
さらに、本発明は、摂取しやすく、長期に服用しても副作用がなく、安全性が高いインフルエンザの予防および/または治療剤提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、意外にも、ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌が、インフルエンザの予防および/または治療に極めて有用であることを見出し、この知見をもとに本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、以下の(1)、(2)、(3)および(4)に記載のインフルエンザの予防および/または治療剤を要旨とする。
(1)ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌を有効成分として含有するインフルエンザの予防および/または治療剤。
(2)ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌が、ラクトバチルス・アシドフィラスCL−92株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4981)、又はその派生株若しくは変異株、およびラクトバチルス・アシドフィラスCL−0062株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4980)、又はその派生株若しくは変異株から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、上記(1)記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。
(3)1日摂取量当たりの乳酸菌の含有量が1×10〜1×1011個であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。
(4)乳酸菌が生菌および/または死菌であることを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、古くからヒトの食生活に利用され食べ続けられてきた安全な乳酸菌の新たな機能の発見に基づく用途発明に関するものであり、本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤は、副作用がなく、安全性が高い予防および/または治療剤であるという効果を有するものである。
さらに、本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤は、ワクチン接種のような手段を要せずに、口から容易に摂取できるものであるので、摂取しやすく、長期に服用しても副作用がなく、安全性が高い予防および/または治療剤であり、高齢者や幼児にも手軽に利用できるものであるから、健康に寄与する効果が大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(生菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスの飼育期間中の一般状態の観察グラフである。
【図2】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(生菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスの体重推移のグラフである。
【図3】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(生菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスのウイルス学的検査の比較グラフである。
【図4】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(生菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスの肺の左葉(左肺)の病理組織学検査の比較グラフである。
【図5】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(死菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスの飼育期間中の一般状態の観察グラフである。
【図6】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(死菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスの体重推移のグラフである。
【図7】は、インフルエンザ感染実験における、生理食塩水試料と乳酸菌菌体(死菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスのウイルス学的検査の比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌としては、種々の公知のものが使用でき、生菌、死菌いずれにも限定されない。
ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・アシドフィラスCL−92株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4981)、又はその派生株若しくは変異株、ラクトバチルス・アシドフィラスCL−0062株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4980)、又はその派生株若しくは変異株、またはこれらの組み合わせからなる群より選択されるものなどが好ましく使用でき、特に、ラクトバチルス・アシドフィラスCL−92株又はその派生株若しくは変異株が好ましい。
【0013】
本願発明のインフルエンザの予防および/または治療剤の摂取量としては、1日摂取量当たり、有効成分である上記乳酸菌の含有量が1×10〜1×1011個となるよう摂取することが好ましく、より好ましくは1×10〜1×1011個である。
【0014】
本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤には、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、坑酸化剤、コーティング剤、着色剤、橋味橋臭剤、界面活性剤、可塑剤、食品原料、あるいは香料、香味料などを混合して常法により、顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤などの経口製剤とすることができる。
【0015】
また、本発明はラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌を必須成分とするものであり、食品や飼料に好適に適用できる。例えば、適用形態として、発酵乳、ヨーグルト、乳飲料、清涼飲料水、乳酸菌飲料等の飲料、チーズ、ゼリー、生菓子、錠菓、ペースト、パンなど様々な食品に配合したものなど、一般食品が挙げられる。
以下に試験例、実施例により本発明の効果を含めて本発明を更に具体的に説明するが、当該、試験例、実施例の内容により本発明の技術的範囲が限定解釈されるものではない。
【0016】
<インフルエンザ感染実験>
(I)試験例1;乳酸菌生菌を用いた動物実験
生理食塩水試料と乳酸菌菌体(生菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスに対し、インフルエンザウイルスを接種してインフルエンザに対する予防・治療の効果について検討した。

(乳酸菌菌体(生菌)試料の調整)
乳酸菌Lactobacillus acidophilus CL−92株をMRS(de Man−Rogosa−Sharpe, DIFCO)培地で培養し、1×10CFU/ml以上の菌体量となるように生理的食塩水に懸濁し、乳酸菌菌体試料とした。

(投与方法)
4週齢の雌性BALB/c系マウス(BALB/c Cr Slc,SPF)36匹を購入し、6日間の訓化期間を設けた。この訓化期間後に体重の軽い動物を除外して30匹の動物を選択し、ランダムに群分けして一群15匹の2群を形成した。これを5匹/ケージにて滅菌済飼料FR-2(株式会社フナバシファーム)、飲料水は上水道水をそれぞれ自由摂取させて飼育した。
試験群Iには生理食塩水を、試験群IIには乳酸菌菌体試料を、それぞれ21日間、経口ゾンデ(有限会社 フチガミ器械)にて0.3ml/匹/日となるように強制投与した。16日目にマウス・インフルエンザウイルスPR8 [A/PR/8/34 (H1N1)] 株を1匹あたり0.05ml(6×105pfu/匹)ずつ、1回だけマイクロピペット(eppendorf
Reference 10-100μl)を用いて鼻腔へ滴下することで経鼻接種した。21日目のゾンデによる各被験物質の投与後、ジエチルエーテルによる吸入麻酔下で安楽死させて、マウスの胸腔を解剖用剪刀で切開した。
【0017】
(評価方法および結果)
生理食塩水試料で飼育したマウス群(試験群I)と乳酸菌菌体試料で飼育したマウス群(試験群II)について、(1)一般状態の観察、(2)体重測定、(3)臓器肉眼的観察、(4)ウイルス粒子数の測定、(5)病理組織学的検査をおこない、両群の差異を検討した。
【0018】
(1)一般状態の観察
投与期間中は一日一回、観察を行い、下記の表1の評価方法を実施した。その結果、乳酸菌菌体試料を投与した群では生理食塩水投与群に対してウイルス接種2日後以降のスコアを低いままに保っていた(図1)。
【0019】
【表1】

【0020】
(2)体重測定
体重測定は電子天秤にて、被験物質投与開始日、被験物質投与7日目、14日目、ウイルス接種日(ウィルス接種直前)、ウイルス接種翌日、観察終了日に実施した。その結果、生理食塩水投与群では観察最終日に顕著な体重低下が確認されたが、乳酸菌菌体投与群ではその変化は穏やかなものであった(図2)。
【0021】
(3)臓器肉眼的観察
投与終了後、肉眼的検査を下記の表2の評価方法を参考にして実施した。なお,スコアが2つ以上に跨る場合はその平均で示した。その結果、肺の右葉、左葉ともに乳酸菌菌体投与群では有意なスコアの低下が確認された(表3)。
解剖により摘出した肺組織はその重量を測定し、肺の右葉(右肺)をウイルス粒子数の測定に、肺の左葉(左肺)を病理組織学的検査に用いた。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
(4)ウイルス粒子数の測定
重量を測定した肺の右葉(右肺)を解剖用剪刀などで細片化し、生理食塩液(大塚生食注,株式会社大塚製薬工場)2mlに懸濁し、撹拌機撹拌機(ホモジナイザー T10 ベーシック、IKA ジャパン 株式会社)でホモジネートして、肺組織液とした。
この肺組織液を用いたウイルス粒子数は以下に示す逆培養法で測定した。MDCK細胞を12 well-plate(MULTIWELL 12 Well;FALCON)に撒き、炭酸ガス培養装置(MC-069:37℃、5%CO2、95%空気、飽和湿度;MCO-175、三洋電機特機株式会社)で5日間培養した。肺組織液を分取し,原液を104までMEM(GIBCO)で希釈した。原液・10・10-2・10-3・10-4の各希釈液を0.1mlずつMDCK細胞に接種し、ウイルスを細胞に1時間吸着させた後に接種ウイルス液の精製に用いた同様の培地A[10×MEM(GIBCO) 10ml、7.5% NaHCO3(和光純薬工業株式会社)3ml、200mM L-グルタミン 〔
L(+)-Glutamine、和光純薬工業株式会社 〕 2ml、1% DEAEデキストラン(Pharmacia Biotech)1ml、15% グルコース(片山化学工業株式会社) 1ml、10% BSA(Boehringer
Mannheim GmbH) 1ml、2.5% トリプシン(GIBCO) 40μl、抗生剤(Antibiotic-Antimycotic、GIBCO) 1ml、滅菌蒸留水
31ml]と培地B[アガロース( AGAR NOBLE、三光純薬工業株式会社)0.8g、蒸留水 50ml]を等量混ぜ合わせ1.5mlずつ細胞に重層した。アガロース液が固まったら炭酸ガス培養装置(MC-069:37℃、5%CO2、95%空気、飽和湿度;MCO-175、三洋電機特機株式会社)で2日間培養した後、ニュートラルレッド(メルク株式会社:1ml / well当たりをPBSで10倍希釈)を加えた寒天液を重層し、翌日,ウイルスプラークを計測した。
その集計を平均値および標準誤差で表示した。なお、プラーク数が最高希釈倍率において20以下の場合はウイルス数集計および統計処理から除外し、その前の希釈倍率のプラーク数を採用した。また、原液においてプラーク数が20以下の場合でもウイルス数集計および統計処理に採用した。
その結果、生理食塩水投与群に対して乳酸菌菌体投与群では有意な肺組織内ウイルス粒子数の抑制が観察された(図3)。
【0025】
(5)病理組織学的検査
摘出した肺の左葉(左肺)を10%中性緩衝formalin液で固定した。固定後、常法(SOP/PT/001,002,005,110,113〜118,128〜129)に従って各実験群の全例においてparaffin切片を作製し、HE染色を施して光学顕微鏡学的検査を実施した。病理組織所見は、0;変化なし(-)、1;ごく軽度(
± )、2;軽度(+)、3;中等度(++)、4; 重度(+++)の5段階にスコア化した。所見は、気管支肺炎所見および間質性肺炎所見に分類し、個体毎の肺(左葉)の気管支肺炎スコアおよび間質性肺炎スコアを算出した。気管支肺炎スコアおよび間質性肺炎スコアの合計を総肺炎スコアとし、群毎の平均および標準誤差で示した。その結果、各スコアともに有意差をもって乳酸菌菌体投与群での抑制効果を確認した(図4)。
【0026】
(結果の検討)
上記の「評価方法および結果」で述べたように、(1)飼育期間中の一般状態の観察(図1)、(2)飼育期間における体重変化(図2)、(3)臓器肉眼的観察(表3)、(4)肺組織内のウイルス粒子数(図3)、(5)病理組織学的検査(図4)のいずれにおいても、乳酸菌菌体(生菌)試料で飼育したマウス群(試験群II)は、生理食塩水試料で飼育したマウス群(試験群I)に比し、インフルエンザに対する予防・治療の効果が大きいという結果が示された。
この試験例1により、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus
acidophilus)に属する乳酸菌(生菌)が、インフルエンザの予防および/または治療に顕著な効果があることが確認された。
【0027】
(II)試験例2;乳酸菌死菌を用いた動物実験
生理食塩水試料と乳酸菌菌体(死菌)試料とでそれぞれ飼育した、各群のマウスに対し、インフルエンザウイルスを接種してインフルエンザに対する予防・治療の効果について検討した。

(乳酸菌菌体(死菌)試料の調製)
乳酸菌Lactobacillus acidophilus CL−92kabu(死菌)を50%含む原料「L−92乳酸菌粉末S」(Lot. 091114)(カルピス株式会社)を66.4 mg/ml(1×1011個/ml相当)の濃度で生理食塩水に懸濁し、乳酸菌菌体試料とした。

(投与方法)
4週齢の雌性BALB/c系マウス(BALB/c Cr Slc、SPF)を購入し、4日間の馴化期間を設けた。馴化終了時に異常が認められなかった動物のうち、体重の軽い動物を任意に除外し、残った動物をランダムに群分けして一群20匹の2群を形成した。これを5匹/ケージにて滅菌飼料FR-2(株式会社フナバシファーム)、飲料水は上水道水をそれぞれ自由摂取させて飼育した。
試験群I’には生理食塩水を、試験群II’には乳酸菌菌体試料を、それぞれ21日間、経口ゾンデ(有限会社 フチガミ器械)にて0.3 ml/匹/日(3×1010個/匹/日 相当)となるように強制投与した。16日目にマウス・インフルエンザウイルスPR8 [A/PR/8/34 (H1N1)]株を1匹あたり0.05 ml(6×105 pfu /匹)ずつ、1回だけマイクロピペット(eppendorf Reference、10-100μL)を用いて鼻腔へ滴下することで経鼻接種した。21日目のゾンデによる各試験物質の投与後、22日目にジエチルエーテルによる吸入麻酔下で安楽死させて、マウスの胸腔を解剖用剪刀で切開した。
【0028】
(評価方法および結果)
生理食塩水試料で飼育したマウス群(試験群I’)と乳酸菌菌体試料で飼育したマウス群(試験群II’)について、(1)一般状態の観察(各群20匹)、(2)体重測定(各群20匹)、(3)臓器肉眼観察(各群20匹)、(4)ウイルス粒子数(各群15匹)の測定をおこない、両群の差異を検討した。
【0029】
(1)一般状態の観察
投与期間中は一日一回、観察を行い、試験例1と同じく表1の評価方法を実施した。その結果、乳酸菌菌体試料を投与した群では生理食塩水投与群に対してウイルス接種2日後以降のスコアを低いままに保っていた(図5)。
【0030】
(2)体重測定
体重測定は電子天秤にて、被験物質投与開始日、被験物質投与7日目、14日目、ウイルス接種日(ウイルス接種直前)、ウイルス接種翌日、観察終了日に実施した。その結果、生理食塩水群では観察最終日に顕著な体重低下が確認されたが、乳酸菌菌体投与群では生理食塩水群よりも変化が穏やかなものであった(図6)。
【0031】
(3)臓器肉眼的観察
投与終了後、肉眼的検査を、試験例1と同じく表2の評価方法を参考にして実施した。なおスコアが2つ以上に跨る場合はその平均で示した。その結果、肺の右葉、左葉ともに乳酸菌菌体投与群では生理食塩水群よりも若干スコアが低下した(表4)。
解剖により摘出した肺組織はその重量を測定し、肺の左葉(左肺)をウイルス粒子数の測定に用いた。
【0032】
【表4】

【0033】
(4)ウイルス粒子数の測定
重量を測定した肺の左葉(左肺)を解剖用剪刀などで細片化し、プロテアーゼインヒビター(Lot
No.:129K4044、Protease Inhibitor
Cocktail;Protease Inhibitor Cocktail for use with
mammalian cell and tissue extracts、DMSO solution、P8340-5ML、SIGMA-ALDRICH)を0.05ml/g含む生理食塩水(日本薬局方、大塚生食注;株式会社大塚製薬工場)2mLを加えて、撹拌機(ホモジナイザー T10 ベーシック、IKA ジャパン 株式会社)でホモジネートして、肺組織液とした。
この肺組織液を用いたウイルス粒子数は以下に示す逆培養法で測定した。MDCK細胞を10%仔ウシ血清(FBS、MultiSter
Foetal Bovine Searum、Thermo Electron.)加Eagle D-MEM培地(SIGMA)で、12 well-plate(MULTIWELL 12 Well;FALCON)にて、炭酸ガス培養装置(MC-069:37℃、5%CO2、95%空気、飽和湿度;MCO-175、三洋電機特機株式会社)で2日間培養した。肺組織液の原液と10-2希釈液を0.1mlずつMDCK細胞に接種し、ウイルスを細胞に1時間吸着させた後に培地A[10×MEM(GIBCO) 10mL、7.5% NaHCO3(和光純薬工業株式会社)3mL、200mM L-グルタミン [
L(+)-Glutamine、和光純薬工業株式会社 ] 2mL、1% DEAEデキストラン(DEAE-Dextran、Pharmacia Biotech)1mL、15% グルコース(D-グルコース、片山化学工業株式会社) 1mL、10% BSA(Boehringer
Mannheim GmbH) 1mL、2.5% トリプシン(GIBCO) 40μL、抗生剤(Antibiotic-Antimycotic、GIBCO)1mL、滅菌蒸留水31mL]と培地B [アガロース( AGAR NOBLE、三光純薬工業株式会社)0.8g、蒸留水 50mL]を等量混ぜ合わせ、1.5mLずつ細胞に重層した。アガロース液が固まったら炭酸ガス培養装置(MC-069:37℃、5%CO2、95%空気、飽和湿度;MCO-175、三洋電機特機株式会社)で2日間培養し、ニュートラルレッド(関東化学株式会社)1mLを重層し1時間炭酸ガス培養装置で培養後に上清を除去した。室温の暗所で1晩放置後にウイルスプラーク数を計測した。
その集計を平均値および標準誤差で表示した。なお、プラーク数が最高希釈倍率において20以下の場合はウイルス数集計および統計処理から除外し、その前の希釈倍率のプラーク数を採用した。又、原液においてプラーク数が20以下の場合でもウイルス数集計および統計処理に採用した。
その結果、生理食塩水投与群に対して乳酸菌菌体投与群では有意な肺組織内ウイルス粒子数の抑制が観察された(図7)。
【0034】
(結果の検討)
上記の「評価方法および結果」で述べたように、(1)飼育期間中の一般状態の観察(図5)、(2)飼育期間中における体重変化(図6)、(3)臓器肉眼観察(表4)、(4)肺組織内のウイルス粒子数(図7)のいずれにおいても、乳酸菌菌体(死菌)試料で飼育したマウス群(試験群II’)は、生理食塩水試料で飼育したマウス群(試験群I’)に比し、インフルエンザに対する予防・治療の効果が大きいという結果が示された。
この試験例2により、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus
acidophilus)に属する乳酸菌(死菌)が、インフルエンザの予防および/または治療に顕著な効果があることが裏付けられた。
【0035】
(III)試験例3;人における予防・治療の効果の実験
人における、ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌の継続摂取によるインフルエンザに対する予防・治療の効果について検討した。

(ヨーグルト試料の作成)
乳酸菌Lactobacillus acidophilus CL−92株を還元脱脂乳で培養して、1×1010CFU/ml以上を含む発酵乳を調製した。市販DVSを用いたヨーグルトを調製する際に上記CL−92発酵乳を1/10量添加し、CL−92株を1×10CFU /ml以上を含むヨーグルト製品を調製した。

(被験者および摂取方法)
毎年、冬季に風邪をひきやすいと感じていて、過去インフルエンザ症に感染した経験を持ち、かつ過去1年間にインフルエンザワクチンを接種していない被験者221名(20歳以上59歳以下の日本人男性および女性)を2つの群に分けた。
一方の群には上記、CL-92株を1×109CFU/ml以上を含むヨーグルト製品を毎日100g、8週間継続して摂取してもらい、毎日の起床時の体温を記録してもらった。また就寝前にその日の体調をアンケートで回答してもらった。もう一方の群では特別な介入は行わずに通常の生活を継続してもらい、体温の記録とアンケートにのみ回答してもらった。
【0036】
(結果および評価)
1.発熱観察による解析:全期間で一回以上38℃以上の発熱を検出したものを発熱者とした。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】


摂取群で1.8%、非摂取群で9.1%の発症率となり、二群間においてカイ二乗検定でP<0.05で有意差のある結果となった。
【0038】
2.生活状況アンケート結果
日々の生活状況をアンケートにより聞き取り調査を行なった。うがいの実施やマスクの着用、手洗いの励行など、風邪の予防行動については群間で差は無かったが、鼻づまりがひどい、のどの痛みがある、せきがよく出る、倦怠感がある、頭痛がする、嘔吐した、悪寒がする、声が枯れている、充分な休養・睡眠が取れている、と言う風邪様症状の項目について、群間で有意な改善効果を認めた。
【実施例1】
【0039】
(液状(ドリンク形態)剤の調整)
1%酵母エキスを添加した脱脂乳を殺菌し、これにラクトバチルス・アシドフィラスCL−92菌スタータを接種し、pH管理により菌数を調整しながら発酵乳を製造した。この際、必要に応じて、他の乳酸菌と共生発酵することにより発酵を速やかに行うことができる。例えば、37℃、6時間培養により10個/gの菌体を含む液状のドリンク形態のインフルエンザの予防および/または治療剤が得られた。
【実施例2】
【0040】
(凍結乾燥粉末および錠剤の調整)
実施例1と同様に製造した発酵乳を集菌し、真空凍結乾燥することにより粉末形態のインフルエンザの予防および/または治療剤が得られた。また、集菌用の発酵素材については、CL−92株の発酵を良好にする目的で、異なる乳培地以外を用いることができる。例えば、MRS培地などが一般的に挙げられる。
さらに、該粉末について、常法による造粒や賦形剤を添加して打錠することにより、錠剤形態のインフルエンザの予防および/または治療剤が得られた。
なお、本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤には、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、坑酸化剤、コーティング剤、着色剤、橋味橋臭剤、界面活性剤、可塑剤、食品原料、あるいは香料、香味料などを混合することが可能である。
【0041】
(適用例)
本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤は、食品や飼料に好適に適用できる。他の組成物と混合する場合は、有効成分である本発明の乳酸菌の含有量が1日当たり10個以上を摂取できるよう配合することが推奨される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、古くからヒトの食生活に利用され食べ続けられてきた安全な乳酸菌の新たな機能の発見に基づく用途発明に関するものであり、本発明は、副作用がなく、安全性が高いインフルエンザの予防および/または治療剤を提供するものであるので、その産業上の利用可能性は大である。
さらに、本発明のインフルエンザの予防および/または治療剤は、ワクチン接種のような手段を要せずに、口から容易に摂取できるものであるので、摂取しやすく、長期に服用しても副作用がなく、安全性が高い予防および/または治療剤であり、高齢者や幼児にも手軽に利用できるものであるから、健康に寄与する効果が大きく、産業上の利用可能性が大である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)に属する乳酸菌を有効成分として含有するインフルエンザの予防および/または治療剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・アシドフィラスに属する乳酸菌が、ラクトバチルス・アシドフィラスCL−92株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4981)、又はその派生株若しくは変異株、およびラクトバチルス・アシドフィラスCL−0062株(特許生物寄託センター受託番号FERM BP−4980)、又はその派生株若しくは変異株から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。
【請求項3】
1日摂取量当たりの乳酸菌の含有量が1×10〜1×1011個であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。
【請求項4】
乳酸菌が生菌および/または死菌であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のインフルエンザの予防および/または治療剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−72113(P2012−72113A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108851(P2011−108851)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】