インフルエンザ感染防止クリーンブース
【課題】比較的単純な構成で確実にインフルエンザ感染を抑制できる感染防止ブースを提供する。
【解決手段】本発明は、出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含む。前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子は、前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に、前記排気口から前記クリーンブース室外に排出される。
【解決手段】本発明は、出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含む。前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子は、前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に、前記排気口から前記クリーンブース室外に排出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関、介護福祉施設、歯科診療施設等で、細菌やウイルスなどの病原体の感染防止を目的として、病原体保持者を収容あるいは医療従事者が診察するために設置される感染防止ブースに関し、特に、インフルエンザに感染した患者を収容または診察するのに適した感染防止ブースに関する。
【背景技術】
【0002】
保菌患者を収容する無菌治療室ユニットとして、室内に、内側および外側の二重構造ユニットを設置し、保菌者のためのベッドを収容する空間を前記内側ユニットで形成し、前記空間に高性能フィルタを経て清浄化された空気を送ると共に、前記空間内の空気が前記内側ユニットおよび外側ユニット間の負圧領域を経て高性能フィルタに導かれ、該フィルタを通して無菌治療室ユニットが設定された前記室内から排気される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような無菌治療室ユニットによれば、保菌者を収容する前記空間が内側および外側の両ユニット間で形成される負圧領域で覆われていることから、前記空間に収容された患者からの病原菌は、前記治療室ユニットが配置された前記室内に漏れ出ることを確実に防止できる。したがって、このような無菌治療室ユニットをインフルエンザ感染防止ブースとして利用し、該ブース内でインフルエンザ患者と思われる患者の診察を行うことにより、施設内へのインフルエンザの感染を確実に防止できる。
【0004】
しかしながら、前記したような治療室ユニットは二重ユニット構造を必要とし、構造が複雑となる。
【0005】
【特許文献1】特開平9−222247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、比較的単純な構成で確実にインフルエンザ感染を抑制できる感染防止ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成に先立って、本発明の基本原理を説明する。インフルエンザウイルスの感染防止には、マスクの装着、特に、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)のN−95規格(0.3μm以上の試験粒子を95%以上捕集可能)を満たすマスクの装着が有効とされている。しかし、これらのマスクのフィルタの濾材による粒子捕集性能は、濾材を構成する繊維の径に依存するものの、繊維径の如何に拘わらず、概ね0.1μm以上から0.4μm未満の粒子については充分な捕集性能を発揮することができないことが知られている。
【0008】
図1は、ウイリアム C.ハインズ著、早川一也監訳による「エアロゾロテクノロジー」、井上書院、1985年のp178に掲載されたフィルタ特性のグラフである。前記グラフでは、フィルタに用いられる繊維の直径(μm)をパラメータとして、フィルタによる捕集物の粒径(μm)と、フィルタ効率(%)との関係を示すグラフであり、それぞれが横軸(μm)および縦軸(%)で示されている。特性線1、2および3は、フィルタの繊維の直径dfがそれぞれ0.5μm、2μmおよび10μmの場合の特性を示す。なお、フィルタの充填率は0.05、面速度10cm/s、各フィルタのフィルタ厚は、所定の等しい圧力降下を示す値に設定された。このグラフからも、粒径が約0.1〜0.4μmの範囲の粒子に対する捕集性能の著しい低下が見て取れる。
【0009】
インフルエンザウイルスは、ほぼ0.1μmの大きさである。そのため、前記したマスクのフィルタを構成する濾材は、このウイルスの放出源となる患者のくしゃみや咳等で患者から放出されるインフルエンザウイルスを含む0.1μm以上から0.4μm未満のエアロゾル粒子すなわち霧状の粒子に対しては、充分なマスク効果を発揮しえないことが知られている。
【0010】
また、Haper G. Jによる「Airborne micro-organisms survival test with four viruses」、J. Hyg. Camb.(1961)59、479〜489頁では、高温多湿の夏季にインフルエンザが流行しないことが報告されている。
【0011】
本願発明者等によれば、さらに、50%RHを超える相対湿度下では、活性インフルエンザウイルスを含む前記エアロゾル粒子の粒径分布は、極めて短時間で、粒子径が小さいほどその分布割合が低下することが判明した。
【0012】
本発明は、前記したインフルエンザウイルスに対するマスクの特性、インフルエンザウイルスの相対湿度に関するインフルエンザウイルスの従来の知見に加えて、この活性インフルエンザウイルスを含む粒子径分布についての前記した新たな知見を利用して、マスクを透過し易い粒子径に含まれるインフルエンザウイルスのようなウイルスを外部に放出することのない簡易的なクリーンブースを提供する。
【0013】
より具体的には、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスのうち、相対湿度50%以上の環境下では、マスクに捕獲されるに十分な大きさの粒子径である約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはない。しかしマスクを透過する粒径が0.1〜0.4μmのエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスは、相対湿度50%以上の環境下では、約3秒を経過すると、その活性を失う。このことから、例えばN−95規格を満たすマスクで確実に除去し得ない微粒子に含まれるインフルエンザウイルスの感染価は、前記した状況下で著しく低減する。本発明はこの原理を利用する。
【0014】
すなわち、本発明に係るウイルス感染防止クリーンブースは、出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含み、前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子が前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に前記排気口から前記クリーンブース室外に排出されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る前記クリーンブースによれば、該クリーンブース内の前記定位置に在る患者の口から、例えば咳あるいはくしゃみと共に、インフルエンザウイルスを含むエアロゾル粒子が放出されると、この粒子は、約50%RH以上の湿度を保持された前記クリーンブース内に約3秒を超えて滞在した後、前記排気口からクリーンブース外に放出される。このクリーンブース内に放出されたインフルエンザウイルスを含むエアロゾル粒子の内、マスクに捕獲される約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、少なくとも0.1μm以上0.4μm未満のエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスは、前記クリーンブース内で活性を失う。そのため、このクリーンブースの前記排気口から放出されかつマスクで捕獲し得ないエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスについての感染価が著しく低減する。
【0016】
このことから、クリーンブース外の環境下では、マスクを装着しさえすれば、クリーンブースの排出口から排出されたエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスによる感染を効果的に防止することができる。
【0017】
したがって、本発明によれば、2重構造ユニット体を採用することなく、比較的単純な構成の包囲体でクリーンブースを構成することができる。
【0018】
前記送風器からの空気流の速さをNm/秒とすると、前記定位置から前記排気口までの水平距離がNm/秒×3秒を超える値に設定することができる。
【0019】
前記クリーンブース室内における前記送風口から前記排気口に向けての空気流路中に前記定位置を設定することができる。
【0020】
前記包囲体は、前記出入り口が設けられた周壁部と、天井部とを有し、前記建物の床上に空間を区画するためのフードで構成することができる。
【0021】
前記送風器の前記送風口は、前記クリーンブース室内に前記床から所定の高さ領域でほぼ水平方向への前記空気流を吹き出すべく前記周壁部の所定の高さ位置に形成することができる。
【0022】
前記出入り口は、前記周壁部における前記送風口と反対側に設けることができる。また、前記出入り口には該出入り口を開閉するためのドアを配置することができる。この場合、前記ドアの下縁は前記床から間隔をおくことができ、該間隔を前記排気口として使用することができる。前記ドアは、例えばビニールシートのような可撓性シート部材を用い、このシート部材の巻き上げ、巻き戻しによって前記出入り口を開閉することができる。これに代えて、すだれ式の可撓性シート部材を用いることができる。その他、ドアとして種々の形態を採用することができる。また、例えば、前記定位置と出入り口との距離および前記送風口からの送風速度の関係によっては、前記ドアを不要とし、前記出入り口を開放状態におくことができる。
【0023】
前記周壁部は、前記床上に矩形底面を区画すべく該床上から立ち上がる4つの周壁部分を備えることができる。この場合、互いに対向する一組の前記周壁部分の一方の前記周壁部分に前記送風口を設け、前記一組の前記周壁部分の他方の前記周壁部分に前記排気口を設けることができる。前記周壁部分の互いに対向する他の一組は、その下縁が前記床から所定の間隔をおくべく保持することができる。前記他の一組の周壁部の下縁を前記床から間隔をおくように該周壁部を設置することにより、該周壁部の下縁を前記床に直接固定する必要がないので、パーティションウオールにおけると同様、前記周壁部の簡易的な設置が可能となる。前記下縁と前記床との間隔は、前記送風口からの送風に関して適正に設定することにより、後述するように、前記間隔を経るクリーンブース内外間での空気の流入、流出の影響を実質的に排除することができる。
【0024】
前記クリーンブース室内の天井高さは、該クリーンブース内の患者あるいは医師の身長を配慮して、前記床から1.8m以上とすることが好ましい。前記送風口の上端は前記クリーンブースの天井高さに達することが好ましい。また、患者が幼児である場合を考慮して、前記送風口の下端は前記床から約80cm以下とすることが好ましい。なぜならば、前記定位置にある幼児は、くしゃみや咳を発する口の位置が大人のそれに比較して低くなる。しかしながら、前記送風口の下端を前記前記床から約80cm以下とすることにより、幼児が発するくしゃみや咳と共に放出されるエアロゾル粒子を前記送風口からの送風によって確実に前記排出口に案内することができるからである。
【0025】
前記他の一組の前記周壁部分の下縁の高さ位置は、前記送風口の前記下端の高さ位置から約10cm高い高さ位置よりも下方に位置させることができる。前記下縁の高さ位置から±10cm程度の領域では、前記送風口から吹き出す空気流の作用により、前記クリーンブース外から該クリーンブース内へのわずかな空気の吸引作用が見られる。前記下縁の高さ位置から−10cmより下方の領域での清浄度はブース外の清浄度にほぼ等しい。しかしながら、前記した領域では、この吸引作用によって前記定位置にある患者がクリーンブース外の雑菌による影響を受けるほどに前記クリーンブース内の清浄度が実質的に低下することはない。また、前記クリーンブース内の前記下縁より10cm以上低い高さ領域では、さらに清浄度が低下したとしても、前記クリーンブース内の前記定位にある患者が前記床に寝転ぶような体位を取らない限り、患者は前記下縁の高さ位置から+10cmより上方の清浄度の高い空気流領域で呼吸を行う。そのため、前記クリーンブース内の患者は、該クリーンブース内の前記空気流の領域より10cm以上も下方の領域の雰囲気の影響を実質的に受けることはない。
【0026】
前記クリーンブース室内には、前記定位置を規定する患者用の椅子と、医師用の椅子とを配置することができる。前記医師用の椅子は前記患者用の椅子よりも前記空気流の上流側に配置することが望ましい。これにより、患者の咳やくしゃみ等によって患者から放出されたエアロゾルが直接医師に向かうことを防止することができる。この点で、両椅子の間隔は、90cm以上とすることが望ましいが、治療の状態を考慮すると、約90cmとすることが好ましい。
【0027】
前記周壁部分または前記床に、少なくとも前記患者用の椅子を配置するための着座位置を例えばペイントまたは色テープを用いて表示することができる。前記着座位置は、該着座位置から前記排気口までの水平距離が前記送風口から前記排気口への空気流の平均風速(毎秒)と3秒との積を超える値となるように設定することができる。
【0028】
前記クリーンブースの天井に、前記患者の着座位置と前記医師の着座位置との間で前記空気流の一部に下方へ向けての偏向を与える偏向手段を設けることができる。
【0029】
前記偏向手段は、前記天井から垂れ下がる垂れ壁で構成することができる。該垂れ壁の下端は、前記クリーンブースの天井面から20cm以上低くかつ前記クリーンブースの床面から150cm以上高い高さ位置とすることが望ましい。
【0030】
前記フィルタとして、直径が0.3μmの浮遊粒子を99%以上捕集可能の性能を有するフィルタを用いることができる。このようなフィルタの代表として、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を挙げることができる。
【0031】
前記建物室内の天井に設けられた給気口にダクトを経て前記送風口を接続することができる。この場合、前記給気口を経て湿度調整された空気を前記クリーンブース内に供給することができる。
【0032】
前記湿度は、約70%RH以下とすることが望ましい。すなわち、人の快適さをも考慮すると、前記湿度は、約50%RH〜約70%RHの範囲内に設定することが望ましい。
【0033】
前記クリーンブース内の温度は、15℃から30℃、より好ましくは15℃から25℃の間に保持される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の方法によれば、前記したように、クリーンブースを2重構造ユニット体とすることなく、比較的単純な構成の包囲体で構成することができるので、マスクの装着により、確実にインフルエンザ感染を抑制できる感染防止ブースを簡易的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の実施例について説明するに先立ち、浮遊インフルエンザウイルス失活のミスト粒子径依存性を求めるための実験を図2に沿って説明する。この実験は、図2に示すように、ビニル包囲体10により形成された立方体のウイルス実験ブース12(2000mm×2000mm×2000mm)内で行われた。ビニル包囲体10には、ウイルス実験ブース12内への出入りを許すための開閉チャック14が設けられている。
【0036】
国立感染症研究所のガイドラインによれば、インフルエンザウイルスの取り扱いは、陰圧が確保されるバイオセーフティ2レベルのクリーン空間で行うことが定められている。この基準を満たすために、ヘパ(HEPA)フィルタを装着したファン付きの空気清浄機16を経た浄化空気がウイルス実験ブース12内に供給され、実験ブース12にはHEPAフィルタ12aが設けられた吸気管12bが接続され、HEPAフィルタ12dおよび真空排気ポンプ12cが設けられた排気管12eが接続された。この真空排気ポンプ12c(約10リットル/分の大気排出能力)の作動により、実験ブース12内の陰圧が保持された。また、ウイルス実験ブース12内には、該ブース内の温度調整および湿度調整のために、暖房または加熱手段として遠赤外線ヒータ18が配置され、加湿手段として超音波加湿器20が配置された。これら両手段18および20が、室温および湿度を所定の値に維持すべく、温湿度センサ22の検出値に基づいて作動の制御を受けた。さらに、ウイルス実験ブース12内に配置された撹拌ファン24の空気撹拌作用により、ウイルス実験ブース12内の温度および湿度が所定の均一値に保持された。ウイルス実験ブース12内のこれら機器16〜24等の容積を除いた実効容積は、ほぼ7.2m3であった。
【0037】
ウイルス実験ブース12内には、浮遊ウイルス搬送チューブ26と、該浮遊ウイルス搬送チューブの一端に配置されるウイルス噴霧器(ネブライザ)28と、浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端に接続された多段分級器30と、該多段分級器に接続された吸引ポンプ32とが設置された。
【0038】
浮遊ウイルス搬送チューブ26には、直径が100mmおよび長さが500mmの両端開放のステンレスチューブが用いられた。ウイルス噴霧器28は、このステンレスチューブ26の一端からインフルエンザウイルを含むウイルス液の霧(粒子径が10μm以下)を他端に向けて噴霧する。吸引ポンプ32は、多段分級器30を通して、ウイルス噴霧器28からのウイルス液の霧と共にウイルス実験ブース12内の空気を吸引する。この吸引ポンプ32は、長さが500mmの浮遊ウイルス搬送チューブ26内の通過空気量が80リットル/min、浮遊ウイルス搬送チューブ26内の風速が17cm/secとなるように動作された。しがって、浮遊ウイルス搬送チューブ26の一端でウイルス噴霧器28から噴霧されたウイルス液の霧は、約3秒(500÷170)後に浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端に至り、該他端に接続された多段分級器30に到達する。前記通過空気量、温度および湿度等は、浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端である出口と、多段分級器30の入口との間で測定された。
【0039】
ウイルス噴霧器28として、オムロン株式会社製のコンプレッサ式ネブライザNE−C16が用いられた。また、ウイルス噴霧器28から噴霧されるウイルス液は、発育鶏卵奨尿液膜腔を用いてウイルスを増殖させることにより得られた液体であり、奨尿液と称される液体中にインフルエンザ(A型A/Aich/2/68(H3N2))が存在する液体である。この液体は、約1wt%の蛋白質濃度を有する。このウイルス液に含まれるインフルエンザウイルスの濃度は、5.5×107〜16×107PFU(Plaque forming unit)/ccであった。ウイルス噴霧器28は、このウイルス液の霧を毎秒1μリットル(0.001cc)の流量割合で15秒間連続して浮遊ウイルス搬送チューブ26内に噴霧した。
【0040】
浮遊ウイルス搬送チューブ26の一端でウイルス噴霧器28から噴霧されたウイルス液の霧は、ほぼ瞬時に蒸発、乾燥して浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端へ向かい、前記したように、約3秒後に多段分級器30に至り、該多段分級器で回収される。
【0041】
多段分級器30には、米国MSPコーポレーションの「ザ ネクスト ジェネレーション ファーマシューティカル インパクタ(The Next Generation Pharmaceutical Impactor)」が用いられた。この多段分級器30は、アンダーセンサンプラと同様な慣性インパクタの一種である。前記インパクタから成る多段分級器30は、内部容積が1リットルであり、80リットル/minの空気流が多段分級器30を通過する時間は0.0125秒である。分級される粒径範囲は、80リットル/minの空気流の場合、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、0.26〜0.45μm以下、0.45〜0.78μm以下、0.78〜1.4μm以下、1.4〜2.3μm以下、2.3〜3.8μm以下、3.8〜6.7μm以下、および6.7μmを超える範囲の全9段階に分けられた。最小分級範囲である0.06μm以下は、0.06μmよりも小さい粒子であれば、その粒子径の大小に拘わらず98.7%以上を捕獲する性能を有するゼラチンメンブレンフィルタと称される特殊濾過材を多段分級器30の出口に取り付けることにより、回収した。
【0042】
図3は、ウイルス実験ブース12内の室温を15℃、20℃、25℃および30℃のそれぞれに保持した状態で、ウイルス実験ブース12内の前記湿度を変化させたとき多段分級器30による活性インフルエンザウイルスの回収率との関係を示すグラフである。
【0043】
図3のグラフの横軸は、相対湿度(%RH)を表し、その縦軸は回収率(%)を表す。回収率(%)は、ウイルス噴霧器28から浮遊ウイルス搬送チューブ26内に毎秒1μリットル(0.001cc)の流量割合で15秒間連続して噴霧された全ウイルスの感染価を100として、多段分級器30で回収された全ウイルスの感染価の割合を%で示す。前記グラフの特性線34a、34b、34cおよび34dは、前記環境温度を15℃、20℃、25℃および30℃にそれぞれ保持した状態で、相対湿度(%RH)を変化させたときの回収率(%RH)の変化を示す。
【0044】
前記グラフの例えば特性線34aによれば、室温が15℃に保持されている状態では、20%の相対湿度下では約25%弱の回収率であり、このことは、ウイルス噴霧器28から浮遊ウイルス搬送チューブ26に供給された全ウイルスのうち約75%が不活性化したことを示す。各特性線34a〜34dについて、特性線34bを除き、それらが示す不活性化の割合は、相対湿度60%および70%で変化が見られる。しかしながら、実験毎の各状況のばらつきあるいは測定誤差を考慮すると、各特性線34a〜34dの傾向から、温度の如何に拘わらず約70%以上のインフルエンザウイルスが不活性化されていると言える。また、相対湿度の変化に伴ってウイルスの回収率が大きく変化することはなく、相対湿度の変化に拘わらず全回収ウイルスの感染価はほぼ一定であり、回収される全ウイルス感染価すなわち全活性化ウイルスの量は、相対湿度の変化に伴って減少あるいは増大することはないと言える。
【0045】
図4から図7に示すグラフは、前記室温を15℃、20℃、25℃および30℃にそれぞれ保持した状態で、相対湿度(%RH)を変化させたときの多段分級器30により回収された粒子の粒子径分布を示す。
【0046】
たとえば、図4に示す室温15℃での粒子径分布のグラフによれば、相対湿度20、30および40%RHでは、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、および0.26〜0.45μm以下の各粒子範囲で他の粒子範囲の分布割合に比較して著しい低減は見られない。これに対し、同グラフの相対湿度50、60および70%RHでは、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、および0.26〜0.45μm以下の各粒子範囲で他の粒子範囲の分布割合に比較して著しい低減が見られる。
【0047】
相対湿度50%RHを境とするこの傾向は、室温20℃、25℃および30℃での粒径分布を示す図5〜図7の各グラフでも見られる。したがって、相対湿度50%を超えると、0.45μm未満の粒子の分布割合が激減する。また、以下に詳細に述べるように、マスクに捕獲され得る約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、マスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスが不活性化される。
【0048】
以上のことから、インフルエンザウイルスを含むエアロゾルを相対湿度50%RHを超える環境下に約3秒間滞在させることによって、マスクに捕獲される約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、マスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスを不活性化できる。このことから、マスクを装着する限り、インフルエンザウイルスの感染を防止することができる。
【0049】
3秒以上とする根拠について、生物学的ミストの乾燥に関して以下のような考察が行われた。不純物を含まない微少水滴が乾燥し切るまでの時間は、10μmの大きさの水滴であっても、10℃〜30℃、10%RH〜80%RHの温湿度環境では、僅かに0.06〜0.7秒に過ぎない。他方、咳やくしゃみによって生じるミストは、それらの主成分を唾液と仮定すると、唾液成分の99.5%は水分で、その残りの0.5%がアルブミンを主成分とする蛋白質成分および塩類であると考えられる。そのため、咳やくしゃみによって生じるミストの場合、乾燥のダイナミクスが不純物を含まない微少水滴とは異なることが予想される。
【0050】
唾液ミストと不純物を含まない水滴との乾燥の違いは、前者が蒸発による蛋白質濃度の上昇に伴い、その蒸気分圧が低下していくために、後者に比較して蒸発しづらくなることである。また不純物を含まない水は最終的に完全に蒸発するのに対して、蛋白質のような不純物を含む唾液は、その水分がたとえ蒸発しても、蒸発残渣である蛋白質の固体粒子が残ることである。
【0051】
本願発明者らは、蛋白質溶液の濃度と周囲雰囲気の温湿度と蒸気圧との関係を実験により求めた。図8のグラフは、その実験結果を示し、横軸は蛋白質を含む蛋白質ミストの重量濃度(wt%)を示し、縦軸は蒸気分圧(相対湿度)(%RH)を示す。○は30℃、●は25℃、△は20℃、▲は15℃および□は10℃での測定結果を示し、実線はそれらを結ぶ近似曲線である。
【0052】
図8のグラフによれば、例えば相対湿度80%RHの空気中に噴霧された蛋白質を含むミストは、周囲の水蒸気分圧(80%RH)に平衡する蛋白質重量濃度が30wt%で乾燥が完了する。すなわち、蛋白質が30wt%、水分が70wt%となる。他方、相対湿度40%RHの空気中に噴霧された蛋白質を含むミストは、周囲の水蒸気分圧(40%RH)に平衡する蛋白質重量濃度が90wt%で乾燥が完了する。すなわち、蛋白質が90wt%、水分が10wt%となる。Haper G. Jによる前記論文にも明らかなように、浮遊インフルエンザウイルスは、水蒸気分圧が40%RH以上、換言すれば、蛋白質の重量濃度が90wt%以下または水分重量濃度が10wt%以上で失活し易い特性を有する。
【0053】
図4から7に示したグラフの意味するところは、噴霧ミストの粒子径が小さいほど、周囲の水蒸気分圧と平衡になるまでの乾燥時間が短く、3秒の浮遊時間では、0.45μm以下の小粒子は確実に周囲の蒸気分圧と平衡になる蛋白質重量濃度まで乾燥しきる。周囲の蒸気分圧が40%RH以下では、3秒の浮遊時間で水分濃度が10wt%以下になるので感染価が維持されるが、周囲の蒸気分圧が50%RH以上では、3秒の浮遊時間で水分濃度が24wt%以上になるのでインフルエンザウイルスは失活する。
【0054】
浮遊時間が3秒では、0.45μmを超える粒子は、まだ乾燥途中にあり、周囲蒸気分圧と平衡に達していないので、それに含まれるインフルエンザウイルスは、感染価を維持している。他方、0.45μm以下の小粒子は、3秒の浮遊時間で、周囲の蒸気分圧と平衡に達するので、50%RH以上ではそれに含まれるインフルエンザウイルスは確実に失活する。このことから、50%RH以上の環境下での最小浮遊時間、3秒の値が決定された。
【0055】
50%RH以上で、0.45μmを超える粒子に含まれるインフルエンザウイルスを失活させるには、3秒よりも長い浮遊時間を確保することにより、周囲の蒸気分圧と平衡させることが考えられる。しかしながら、浮遊時間を3秒より長くするとブース長の増大を招く。前記したN−95のようなマスクを着用した感染防止対策であれば、0.45μmを超える大きな粒子に含まれるインフルエンザウイルスの失活させることは、実用上不要となる。
【0056】
本発明に係るクリーンブース50は、このような知見に基づくものであり、図9に示すように、例えば、病院の病室52の床52a上に設置される。クリーンブース50は、例えばビニルからなる全体に矩形の包囲体54と、該包囲体により区画されるクリーンブース室内56内の湿度センサ56a(図10参照)の検出値に基づいてクリーンブース室内56の湿度を調整するための湿度調整器58と、導管58aにより湿度調整器58に接続され、該湿度調整器により加湿された空気を浄化してクリーンブース室内56に供給するための送風器60とを含む。
【0057】
包囲体54は、長さL、幅W及び高さHがそれぞれ2.5m、1.0mおよび2.0mの枠体62を覆って配置されたビニル製のフードから成る。包囲体54は、基本的に、長方形の天井部54aと、該天井部の長辺に沿った一対の側壁部分54b、54bと、天井部54aの短辺に沿った一対の端壁部分54c、54cとを備える。図示の例では、包囲体54の下縁は、床52aに接することなく、該床から所定の高さ寸法h1、例えば80cmの間隔をおく。
【0058】
一対の側壁部分54b、54bおよび一対の端壁部分54c、54cは、包囲体54の周壁部を構成する。図示の例では、一方の端壁部分54cは送風器60の送風口60aで置き換えられており、該送風口にはフィルタ64が装着されている。また、他方の端壁部分54cは、ドア(54c)として用いられており、該ドア54cは、クリーンブース50の出入り口50aを開閉する。
【0059】
送風口60aは、図9に示したように、包囲体54の端壁部分54cの幅W寸法に一致した幅寸法を有し、また、図10に示されているように、送風口60aの上端は天井部54aすなわち天井に達する矩形平面形状を備える。送風口60aの下端は、図示の例では、前記したように床52aから80cmの高さに設定されている。
【0060】
フィルタ64は、送風口60aを覆って配置される矩形平面形状を有し、したがって、その下端は、床52aから80cmの高さに位置する。フィルタ64は、例えば前記したHEPAフィルタのような粒子除去フィルタからなる。
【0061】
送風器60は、その作動により、クリーンブース50が設置された病室52内の空気を取り込み、この空気の湿度を湿度調整器58によって調整し、さらに必要に応じて送風器60に組み込まれた図示しない温度調整器によってその温度を調整する。これにより、送風器60は、フィルタ64を通して、この調整された空気をクリーンブース室内56内に浄化空気として供給する。
【0062】
フィルタ64は、一方の端壁部分54cの領域を覆うように設置されている。したがって、送風器60の作動により、フィルタ64からは、図10に示すように天井部54aから側壁部54bの下縁に至る高さの領域で、ドア54cへ向けて水平方向へのほぼ均一な浄化空気流が噴出される。この浄化空気流は、クリーンブース室内56の幅寸法のほぼ全域にわたってほぼ均等に作用する。
【0063】
前記浄化空気流が向かうドア54cの下縁は、出入り口50aを閉鎖する状態で床52aから高さ寸法h1の間隔をおき、この間隔によって排気口66が形成されている。したがって、フィルタ64からドア54cへ向けて噴出された浄化空気流は、ドア54cの閉鎖状態では、該ドアの下方に位置する排気口66から病室52内に排気される。
【0064】
クリーンブース室内56を診察エリアとして使用するために、図10に示されているように、クリーンブース室内56には、患者68のための椅子68aと医師70のための椅子70aが、前記浄化空気流の流れの方向へ互い間隔を置いて配置されている。
【0065】
患者用の椅子68aは、医師用の椅子70aに比較して、前記浄化空気流の下流側に配置され、両椅子68a、70aは、患者68および医師70が対面可能なように、向き合って配置されている。図10に示す例では、患者用の椅子68aの配置位置を規定するマーク72が床52a上に形成されている。前記浄化空気流の流れの方向に沿った排気口66からのマーク72の水平距離l1は、前記浄化空気流の平均流速をNm/秒とすると、Nm/秒×3秒以上の値に設定されている。
【0066】
患者用の椅子68aは、マーク72を目印に、該椅子に座る患者68の口の位置を通るであろう仮想垂直線がほぼマーク72と交差する位置に配置される。マーク72を床52aに設けることに代えて、あるいは床52aに加えて、側壁部54bに設けることができる。また、マーク72を不要とし、椅子68aを前記した所定位置に着脱可能と固定することができる。
【0067】
くしゃみによる微粒子が到達する最大距離までの飛散時間は、無風下で、0.2〜0.5秒(西村他による「くしゃみによるエアロゾル粒子と空中エアロゾル中のインフルエンザウイルスの活性の解析」、第25回空気浄化とコンタミネーションコントロール大会予行集p81〜83、2007年、参照)であることを考慮すると、両椅子68a、70aの間隔は、90cm以上とすることが望ましい。これにより、椅子68aに座った患者68の咳やくしゃみに伴う微粒子が椅子70aに座った医師70に直接到達することを防止することができる。もちろん,椅子70aに座る医師70は、マスクを装着することが望ましい。
【0068】
前記したクリーンブース50では、クリーンブース室内56の温度が20℃から25℃の間の適正温度に維持され、湿度は、50%RHから快適性を大きく損なわないために約70%RHまでの間で、適正な相対湿度に維持され、HEPAフィルタ64を通った浄化空気流の平均流速が約30cm/秒であった。このときのクリーンブース室内56の清浄度は、レーザパーティクルカウンタ(リオン株式会社製KR−12A)を用いた測定によれば、クリーンブースとして使用するに充分な清浄度であるクラス100(1m3の空気中、0.1μm以上の大きさの粒子が100個ほど含まれる。)が得られた。また、この場合、排気口66からのマーク72の水平距離l1は、90cmに設定された。
【0069】
このようなクリーンブース50内の環境下で、椅子68aに座った患者68がくしゃみや咳をし、これに伴って患者68からインフルエンザウイルスを伴うエアロゾルがクリーンブース室内56に放出されると、このエアロゾルは、排気口66に向かう前記浄化空気流に乗って、排気口66に向けて流れる。そのため、このエアロゾルが、排気口66に至る間に包囲体54の下縁と床52aとの間隙h1から病室52内に漏れ出ることはなく、確実に排気口66へ案内され、該排気口から病室52内に排出される。
【0070】
そのため、患者68から排出されたエアロゾルは、3秒を超えて50%RH以上の高湿度下に置かれることから、前記したように、前記エアロゾルに含まれる一部のインフルエンザを不活性化される。しかも、実質的にマスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスを実質的に不活性化することができるので、そのようなエアロゾルが排気口66からクリーンブース50外の病室52に排出されても、該病室内の人間74(図11参照)へのインフルエンザウイルスの感染は、この人々74が所定のマスクを装着する限り、確実に防止することができる。
【0071】
また、フィルタ64に、その粒子除去性能がHEPAのような高性能でない例えば中性能フィルタを用いることができる。このような場合、特に、送風器60の送風口60aから医師用の椅子70aまでの水平距離をNm/秒×3秒以上の値に設定することが望ましい。すなわち、前記したように、浄化空気流の平均流速が約30cm/秒である場合、椅子70aを送風口60aから90cm以上の距離を隔てて配置することが望ましい。これにより、椅子70aに着座する医師70の位置において、クリーンブース50外からフィルタ64を経てクリーンブース室内56に取り入れられる空気中に含まれるインフルエンザウイルスの感染価を大幅に低減することができるので、医師70に対する安全性が高められる。
【0072】
図10に仮想線76aで示すように、包囲体54の下縁すなわちブース裾を送風口60aの下縁よりも10cm低く設定し、あるいは仮想線76bで示すように、包囲体54の下縁であるブースの裾を送風口60aの下縁よりも10cm高く設定し、それぞれの場合におけるクリーンブース室内56の前記ブース裾76a、76bの近傍での清浄度を測定した。
【0073】
前記ブース裾を送風口60aの下端よりも10cm低く設定した場合、前記ブース裾を送風口60aの下端に一致させた場合と同様に、床52aから80cm以上の前記浄化空気流領域の清浄度は、クラス100を達成できた。しかし、床52aから70−80cmの高さ領域での清浄度は、クラス10万(1m3の空気中、0.1μm以上の大きさの粒子が10万個ほど含まれる。)であり、この領域では、クリーンブース室内56への病室52内の空気の部分的な吸込が生じていることが判明した。
【0074】
また、前記ブース裾を送風口60aの下端よりも10cm高く設定した場合、前記ブース裾に一致する床上90cm以上の領域で、クラス100を実現できた。しかし、前記ブース裾下10cmすなわち床52a上80cmから、前記ブース裾すなわち床52a上90cmの領域では、クラス10万であった。
【0075】
このことから、ブース裾の上下10cmの領域で、クリーンブース50外からの空気の混合現象が見られるが、この混合領域が患者の口の高さ領域に入らない限り、前記ブース裾の高さ位置を送風口60aの下端位置との関係で、適宜設定することができる。もちろん、ブース裾を床52aに接することができるが、前記したように、ブース裾を床52aから間隔をおくことがクリーンブース50の設置工事の簡素化の上で、好ましい。
【0076】
送風器60の送風口60aの上端は、これが天井に達することなく、天井部54aから下方10cm以内に位置するように設定できる。これによって、クリーンブース50内の清浄度に実質的な変化は見られなかった。
【0077】
また、前記したところから明らかなように、出入り口50aを開放状態にしても、椅子68aに着座した患者68からのエアロゾルは、3秒以上の時間を経過した後、クリーンブース50外に排出される。このことから、ドア54cを不要とし、出入り口50aを開放状態におくことができる。しかしながら、この場合、クリーンブース室内56の湿度を50%RH以上に保持するために、湿度調整器58により大きな加湿能力が必要となる。したがって、湿度調整器58に要求される能力を削減する上で、ドア54cを設けることが望ましい。
【0078】
図11は、図10に示したクリーンブース50の湿度調整器58および送風器60に代えて、病室52の天井プレナムチャンバ78に設定された空調機80を利用した例を示す。
【0079】
空調機80は、例えば50m3の空間容積を有する病室52の天井82に設けられた換気口84から吸引した空気の温度を調整する温度調整機能を有しかつその湿度を調整する機能を有する。この温度及び湿度が調整された空気の一部は、第1の給気口86を経て病室52内に戻される。また温度及び湿度が調整された前記空気の残部が第2の給気口88からダクト90を経てフィルタ64が設けられた送風口60aに供給される。
【0080】
空調機80は、例えば、最大風量が30m3/分であり、例えば20℃、30%RHの空気を22℃50%RHの空気に変換する能力を有する。この空調機80の作動により、フィルタ64から例えば20℃、50%RHの浄化空気が例えば前記したと同様な約30cm/秒の平均速度でクリーンブース室内56に供給できる。したがって、空調機80は、前記した湿度調整器58および送風器60として作用する。
【0081】
図12は、図10に示したクリーンブース50内に、天井部54aから患者68と医師70との間に垂れ下がる垂れ壁92を設けた例を示す。垂れ壁92が設けられていない図9の例で、図12に示すようなレーザパーティクルカウンタ94を用いて、医師70の口元前方の清浄度を計測したところ、クラス10000を示すことがあった。これは、図13に示すように、椅子70aに着座した医師70は送風口60aからの水平空気流を背面から受けるために、医師70の口元前方に空気のよどみ域96が形成され、該よどみ域に、医師70の動きに伴って、床52aと包囲体54の側壁部分54bの下端との間からクリーンブース50外の空気が巻き込まれることがあると考えられる。
【0082】
このよどみ域96をなくすために、図12に示す垂れ壁92が設けられた。この垂れ壁92は、クリーンブース室内56の水平空気流の一部に、医師70の口元前方で下方へ向かう空気流を生じさせる。この垂れ壁92の偏向作用により、レーザパーティクルカウンタ94の計測によれば、医師70の動きに拘わらずその口元前方の領域で常時クラス10レベルの清浄度を維持することができた。
【0083】
垂れ壁92は、板部材で形成することができる。垂れ壁92の下端は、天井部54aから20cm以下および床面52a上150cm以上の間の範囲に位置することが望ましい。これにより、医師70の診察に伴う運動を妨げることなく、効果的によどみ域96の発生を防止することができる。
【0084】
垂れ壁92は、68と医師70との間で、空気流の水平方向に沿って可動式とすることにより、垂れ壁92を診察の妨げにならない位置に移動させることができる点で、より望ましい。また、垂れ壁92に代えて、ビニールのような合成フィルムあるいは布のような垂れ幕からなる偏向手段の他、よどみ96の発生を防止するための種々の偏向手段を設けることができる。医師または患者が誤って垂れ壁に衝突した場合の傷害または破損を防止できるように、図12に示すように、衝突時には天井部に向かって自然に跳ね上がるようになっていることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。例えば、ドア54cは、巻き上げ式およびアコーデオン式等の種々の開閉扉構造とすることができる。また、包囲体54の材質、形状及び寸法等は、前記した例に限られず、適宜選択することができる。さらに、フィルタとして、前記したHEPAフィルタの他、0.45μm以上の粒子を確実に捕獲し得る種々のフィルタ濾材を装着したフィルタを用いることができる。また、浄化空気流の平均流速は、患者68や医師70に不快感を与えない範囲で、クリーンブース50の大きさとの関係で種々に変更することができる。
【0086】
さらに、前記したところでは、クリーンブース50を診察用ブースとして利用したが、患者用の椅子68aに代えて図示しない患者用ベッドを配置することにより、前記クリーンブースを患者収容用ブースとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】フィルタのフィルタ径(df)をパラメータとしたときの浮遊粒子の捕獲粒子径(μm)と捕獲効率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図2】浮遊インフルエンザウイルス失活のミスト粒子径依存性を求めるための実験装置を概略的に示す模式図である。
【図3】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度をパラメータとしたときの環境相対湿度(%RH)と活性インフルエンザウイルスの回収率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図4】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を15℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図5】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を20℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図6】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を25℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図7】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を30℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図8】蛋白質ミスト重量濃度(wt%)と、蒸気分圧(相対湿度)(%RH)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図9】本発明に係るクリーンブースを概略的に示す斜視図である。
【図10】本発明に係るクリーンブースを模式的に示す説明図である。
【図11】本考案に係る他のクリーンブースを示す図10と同様な図面である。
【図12】本発明に係るクリーンブースのさらに他の例を示す図10と同様な図面である。
【図13】よどみの発生を説明するための模式的な説明図である。
【符号の説明】
【0088】
50 クリーンブース
52 病室
52a 床
54 包囲体
54a 天井部
54b 側壁部
54c ドア
56 クリーンブース室内
58 湿度調整器
60 送風器
64 フィルタ
66 排気口
68a 患者用の椅子
70a 医師用の椅子
72 マーク
80 空調機
92 偏向手段(垂れ壁)
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関、介護福祉施設、歯科診療施設等で、細菌やウイルスなどの病原体の感染防止を目的として、病原体保持者を収容あるいは医療従事者が診察するために設置される感染防止ブースに関し、特に、インフルエンザに感染した患者を収容または診察するのに適した感染防止ブースに関する。
【背景技術】
【0002】
保菌患者を収容する無菌治療室ユニットとして、室内に、内側および外側の二重構造ユニットを設置し、保菌者のためのベッドを収容する空間を前記内側ユニットで形成し、前記空間に高性能フィルタを経て清浄化された空気を送ると共に、前記空間内の空気が前記内側ユニットおよび外側ユニット間の負圧領域を経て高性能フィルタに導かれ、該フィルタを通して無菌治療室ユニットが設定された前記室内から排気される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような無菌治療室ユニットによれば、保菌者を収容する前記空間が内側および外側の両ユニット間で形成される負圧領域で覆われていることから、前記空間に収容された患者からの病原菌は、前記治療室ユニットが配置された前記室内に漏れ出ることを確実に防止できる。したがって、このような無菌治療室ユニットをインフルエンザ感染防止ブースとして利用し、該ブース内でインフルエンザ患者と思われる患者の診察を行うことにより、施設内へのインフルエンザの感染を確実に防止できる。
【0004】
しかしながら、前記したような治療室ユニットは二重ユニット構造を必要とし、構造が複雑となる。
【0005】
【特許文献1】特開平9−222247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、比較的単純な構成で確実にインフルエンザ感染を抑制できる感染防止ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成に先立って、本発明の基本原理を説明する。インフルエンザウイルスの感染防止には、マスクの装着、特に、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)のN−95規格(0.3μm以上の試験粒子を95%以上捕集可能)を満たすマスクの装着が有効とされている。しかし、これらのマスクのフィルタの濾材による粒子捕集性能は、濾材を構成する繊維の径に依存するものの、繊維径の如何に拘わらず、概ね0.1μm以上から0.4μm未満の粒子については充分な捕集性能を発揮することができないことが知られている。
【0008】
図1は、ウイリアム C.ハインズ著、早川一也監訳による「エアロゾロテクノロジー」、井上書院、1985年のp178に掲載されたフィルタ特性のグラフである。前記グラフでは、フィルタに用いられる繊維の直径(μm)をパラメータとして、フィルタによる捕集物の粒径(μm)と、フィルタ効率(%)との関係を示すグラフであり、それぞれが横軸(μm)および縦軸(%)で示されている。特性線1、2および3は、フィルタの繊維の直径dfがそれぞれ0.5μm、2μmおよび10μmの場合の特性を示す。なお、フィルタの充填率は0.05、面速度10cm/s、各フィルタのフィルタ厚は、所定の等しい圧力降下を示す値に設定された。このグラフからも、粒径が約0.1〜0.4μmの範囲の粒子に対する捕集性能の著しい低下が見て取れる。
【0009】
インフルエンザウイルスは、ほぼ0.1μmの大きさである。そのため、前記したマスクのフィルタを構成する濾材は、このウイルスの放出源となる患者のくしゃみや咳等で患者から放出されるインフルエンザウイルスを含む0.1μm以上から0.4μm未満のエアロゾル粒子すなわち霧状の粒子に対しては、充分なマスク効果を発揮しえないことが知られている。
【0010】
また、Haper G. Jによる「Airborne micro-organisms survival test with four viruses」、J. Hyg. Camb.(1961)59、479〜489頁では、高温多湿の夏季にインフルエンザが流行しないことが報告されている。
【0011】
本願発明者等によれば、さらに、50%RHを超える相対湿度下では、活性インフルエンザウイルスを含む前記エアロゾル粒子の粒径分布は、極めて短時間で、粒子径が小さいほどその分布割合が低下することが判明した。
【0012】
本発明は、前記したインフルエンザウイルスに対するマスクの特性、インフルエンザウイルスの相対湿度に関するインフルエンザウイルスの従来の知見に加えて、この活性インフルエンザウイルスを含む粒子径分布についての前記した新たな知見を利用して、マスクを透過し易い粒子径に含まれるインフルエンザウイルスのようなウイルスを外部に放出することのない簡易的なクリーンブースを提供する。
【0013】
より具体的には、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスのうち、相対湿度50%以上の環境下では、マスクに捕獲されるに十分な大きさの粒子径である約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはない。しかしマスクを透過する粒径が0.1〜0.4μmのエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスは、相対湿度50%以上の環境下では、約3秒を経過すると、その活性を失う。このことから、例えばN−95規格を満たすマスクで確実に除去し得ない微粒子に含まれるインフルエンザウイルスの感染価は、前記した状況下で著しく低減する。本発明はこの原理を利用する。
【0014】
すなわち、本発明に係るウイルス感染防止クリーンブースは、出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含み、前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子が前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に前記排気口から前記クリーンブース室外に排出されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る前記クリーンブースによれば、該クリーンブース内の前記定位置に在る患者の口から、例えば咳あるいはくしゃみと共に、インフルエンザウイルスを含むエアロゾル粒子が放出されると、この粒子は、約50%RH以上の湿度を保持された前記クリーンブース内に約3秒を超えて滞在した後、前記排気口からクリーンブース外に放出される。このクリーンブース内に放出されたインフルエンザウイルスを含むエアロゾル粒子の内、マスクに捕獲される約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、少なくとも0.1μm以上0.4μm未満のエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスは、前記クリーンブース内で活性を失う。そのため、このクリーンブースの前記排気口から放出されかつマスクで捕獲し得ないエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスについての感染価が著しく低減する。
【0016】
このことから、クリーンブース外の環境下では、マスクを装着しさえすれば、クリーンブースの排出口から排出されたエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスによる感染を効果的に防止することができる。
【0017】
したがって、本発明によれば、2重構造ユニット体を採用することなく、比較的単純な構成の包囲体でクリーンブースを構成することができる。
【0018】
前記送風器からの空気流の速さをNm/秒とすると、前記定位置から前記排気口までの水平距離がNm/秒×3秒を超える値に設定することができる。
【0019】
前記クリーンブース室内における前記送風口から前記排気口に向けての空気流路中に前記定位置を設定することができる。
【0020】
前記包囲体は、前記出入り口が設けられた周壁部と、天井部とを有し、前記建物の床上に空間を区画するためのフードで構成することができる。
【0021】
前記送風器の前記送風口は、前記クリーンブース室内に前記床から所定の高さ領域でほぼ水平方向への前記空気流を吹き出すべく前記周壁部の所定の高さ位置に形成することができる。
【0022】
前記出入り口は、前記周壁部における前記送風口と反対側に設けることができる。また、前記出入り口には該出入り口を開閉するためのドアを配置することができる。この場合、前記ドアの下縁は前記床から間隔をおくことができ、該間隔を前記排気口として使用することができる。前記ドアは、例えばビニールシートのような可撓性シート部材を用い、このシート部材の巻き上げ、巻き戻しによって前記出入り口を開閉することができる。これに代えて、すだれ式の可撓性シート部材を用いることができる。その他、ドアとして種々の形態を採用することができる。また、例えば、前記定位置と出入り口との距離および前記送風口からの送風速度の関係によっては、前記ドアを不要とし、前記出入り口を開放状態におくことができる。
【0023】
前記周壁部は、前記床上に矩形底面を区画すべく該床上から立ち上がる4つの周壁部分を備えることができる。この場合、互いに対向する一組の前記周壁部分の一方の前記周壁部分に前記送風口を設け、前記一組の前記周壁部分の他方の前記周壁部分に前記排気口を設けることができる。前記周壁部分の互いに対向する他の一組は、その下縁が前記床から所定の間隔をおくべく保持することができる。前記他の一組の周壁部の下縁を前記床から間隔をおくように該周壁部を設置することにより、該周壁部の下縁を前記床に直接固定する必要がないので、パーティションウオールにおけると同様、前記周壁部の簡易的な設置が可能となる。前記下縁と前記床との間隔は、前記送風口からの送風に関して適正に設定することにより、後述するように、前記間隔を経るクリーンブース内外間での空気の流入、流出の影響を実質的に排除することができる。
【0024】
前記クリーンブース室内の天井高さは、該クリーンブース内の患者あるいは医師の身長を配慮して、前記床から1.8m以上とすることが好ましい。前記送風口の上端は前記クリーンブースの天井高さに達することが好ましい。また、患者が幼児である場合を考慮して、前記送風口の下端は前記床から約80cm以下とすることが好ましい。なぜならば、前記定位置にある幼児は、くしゃみや咳を発する口の位置が大人のそれに比較して低くなる。しかしながら、前記送風口の下端を前記前記床から約80cm以下とすることにより、幼児が発するくしゃみや咳と共に放出されるエアロゾル粒子を前記送風口からの送風によって確実に前記排出口に案内することができるからである。
【0025】
前記他の一組の前記周壁部分の下縁の高さ位置は、前記送風口の前記下端の高さ位置から約10cm高い高さ位置よりも下方に位置させることができる。前記下縁の高さ位置から±10cm程度の領域では、前記送風口から吹き出す空気流の作用により、前記クリーンブース外から該クリーンブース内へのわずかな空気の吸引作用が見られる。前記下縁の高さ位置から−10cmより下方の領域での清浄度はブース外の清浄度にほぼ等しい。しかしながら、前記した領域では、この吸引作用によって前記定位置にある患者がクリーンブース外の雑菌による影響を受けるほどに前記クリーンブース内の清浄度が実質的に低下することはない。また、前記クリーンブース内の前記下縁より10cm以上低い高さ領域では、さらに清浄度が低下したとしても、前記クリーンブース内の前記定位にある患者が前記床に寝転ぶような体位を取らない限り、患者は前記下縁の高さ位置から+10cmより上方の清浄度の高い空気流領域で呼吸を行う。そのため、前記クリーンブース内の患者は、該クリーンブース内の前記空気流の領域より10cm以上も下方の領域の雰囲気の影響を実質的に受けることはない。
【0026】
前記クリーンブース室内には、前記定位置を規定する患者用の椅子と、医師用の椅子とを配置することができる。前記医師用の椅子は前記患者用の椅子よりも前記空気流の上流側に配置することが望ましい。これにより、患者の咳やくしゃみ等によって患者から放出されたエアロゾルが直接医師に向かうことを防止することができる。この点で、両椅子の間隔は、90cm以上とすることが望ましいが、治療の状態を考慮すると、約90cmとすることが好ましい。
【0027】
前記周壁部分または前記床に、少なくとも前記患者用の椅子を配置するための着座位置を例えばペイントまたは色テープを用いて表示することができる。前記着座位置は、該着座位置から前記排気口までの水平距離が前記送風口から前記排気口への空気流の平均風速(毎秒)と3秒との積を超える値となるように設定することができる。
【0028】
前記クリーンブースの天井に、前記患者の着座位置と前記医師の着座位置との間で前記空気流の一部に下方へ向けての偏向を与える偏向手段を設けることができる。
【0029】
前記偏向手段は、前記天井から垂れ下がる垂れ壁で構成することができる。該垂れ壁の下端は、前記クリーンブースの天井面から20cm以上低くかつ前記クリーンブースの床面から150cm以上高い高さ位置とすることが望ましい。
【0030】
前記フィルタとして、直径が0.3μmの浮遊粒子を99%以上捕集可能の性能を有するフィルタを用いることができる。このようなフィルタの代表として、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を挙げることができる。
【0031】
前記建物室内の天井に設けられた給気口にダクトを経て前記送風口を接続することができる。この場合、前記給気口を経て湿度調整された空気を前記クリーンブース内に供給することができる。
【0032】
前記湿度は、約70%RH以下とすることが望ましい。すなわち、人の快適さをも考慮すると、前記湿度は、約50%RH〜約70%RHの範囲内に設定することが望ましい。
【0033】
前記クリーンブース内の温度は、15℃から30℃、より好ましくは15℃から25℃の間に保持される。
【発明の効果】
【0034】
本発明の方法によれば、前記したように、クリーンブースを2重構造ユニット体とすることなく、比較的単純な構成の包囲体で構成することができるので、マスクの装着により、確実にインフルエンザ感染を抑制できる感染防止ブースを簡易的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の実施例について説明するに先立ち、浮遊インフルエンザウイルス失活のミスト粒子径依存性を求めるための実験を図2に沿って説明する。この実験は、図2に示すように、ビニル包囲体10により形成された立方体のウイルス実験ブース12(2000mm×2000mm×2000mm)内で行われた。ビニル包囲体10には、ウイルス実験ブース12内への出入りを許すための開閉チャック14が設けられている。
【0036】
国立感染症研究所のガイドラインによれば、インフルエンザウイルスの取り扱いは、陰圧が確保されるバイオセーフティ2レベルのクリーン空間で行うことが定められている。この基準を満たすために、ヘパ(HEPA)フィルタを装着したファン付きの空気清浄機16を経た浄化空気がウイルス実験ブース12内に供給され、実験ブース12にはHEPAフィルタ12aが設けられた吸気管12bが接続され、HEPAフィルタ12dおよび真空排気ポンプ12cが設けられた排気管12eが接続された。この真空排気ポンプ12c(約10リットル/分の大気排出能力)の作動により、実験ブース12内の陰圧が保持された。また、ウイルス実験ブース12内には、該ブース内の温度調整および湿度調整のために、暖房または加熱手段として遠赤外線ヒータ18が配置され、加湿手段として超音波加湿器20が配置された。これら両手段18および20が、室温および湿度を所定の値に維持すべく、温湿度センサ22の検出値に基づいて作動の制御を受けた。さらに、ウイルス実験ブース12内に配置された撹拌ファン24の空気撹拌作用により、ウイルス実験ブース12内の温度および湿度が所定の均一値に保持された。ウイルス実験ブース12内のこれら機器16〜24等の容積を除いた実効容積は、ほぼ7.2m3であった。
【0037】
ウイルス実験ブース12内には、浮遊ウイルス搬送チューブ26と、該浮遊ウイルス搬送チューブの一端に配置されるウイルス噴霧器(ネブライザ)28と、浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端に接続された多段分級器30と、該多段分級器に接続された吸引ポンプ32とが設置された。
【0038】
浮遊ウイルス搬送チューブ26には、直径が100mmおよび長さが500mmの両端開放のステンレスチューブが用いられた。ウイルス噴霧器28は、このステンレスチューブ26の一端からインフルエンザウイルを含むウイルス液の霧(粒子径が10μm以下)を他端に向けて噴霧する。吸引ポンプ32は、多段分級器30を通して、ウイルス噴霧器28からのウイルス液の霧と共にウイルス実験ブース12内の空気を吸引する。この吸引ポンプ32は、長さが500mmの浮遊ウイルス搬送チューブ26内の通過空気量が80リットル/min、浮遊ウイルス搬送チューブ26内の風速が17cm/secとなるように動作された。しがって、浮遊ウイルス搬送チューブ26の一端でウイルス噴霧器28から噴霧されたウイルス液の霧は、約3秒(500÷170)後に浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端に至り、該他端に接続された多段分級器30に到達する。前記通過空気量、温度および湿度等は、浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端である出口と、多段分級器30の入口との間で測定された。
【0039】
ウイルス噴霧器28として、オムロン株式会社製のコンプレッサ式ネブライザNE−C16が用いられた。また、ウイルス噴霧器28から噴霧されるウイルス液は、発育鶏卵奨尿液膜腔を用いてウイルスを増殖させることにより得られた液体であり、奨尿液と称される液体中にインフルエンザ(A型A/Aich/2/68(H3N2))が存在する液体である。この液体は、約1wt%の蛋白質濃度を有する。このウイルス液に含まれるインフルエンザウイルスの濃度は、5.5×107〜16×107PFU(Plaque forming unit)/ccであった。ウイルス噴霧器28は、このウイルス液の霧を毎秒1μリットル(0.001cc)の流量割合で15秒間連続して浮遊ウイルス搬送チューブ26内に噴霧した。
【0040】
浮遊ウイルス搬送チューブ26の一端でウイルス噴霧器28から噴霧されたウイルス液の霧は、ほぼ瞬時に蒸発、乾燥して浮遊ウイルス搬送チューブ26の他端へ向かい、前記したように、約3秒後に多段分級器30に至り、該多段分級器で回収される。
【0041】
多段分級器30には、米国MSPコーポレーションの「ザ ネクスト ジェネレーション ファーマシューティカル インパクタ(The Next Generation Pharmaceutical Impactor)」が用いられた。この多段分級器30は、アンダーセンサンプラと同様な慣性インパクタの一種である。前記インパクタから成る多段分級器30は、内部容積が1リットルであり、80リットル/minの空気流が多段分級器30を通過する時間は0.0125秒である。分級される粒径範囲は、80リットル/minの空気流の場合、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、0.26〜0.45μm以下、0.45〜0.78μm以下、0.78〜1.4μm以下、1.4〜2.3μm以下、2.3〜3.8μm以下、3.8〜6.7μm以下、および6.7μmを超える範囲の全9段階に分けられた。最小分級範囲である0.06μm以下は、0.06μmよりも小さい粒子であれば、その粒子径の大小に拘わらず98.7%以上を捕獲する性能を有するゼラチンメンブレンフィルタと称される特殊濾過材を多段分級器30の出口に取り付けることにより、回収した。
【0042】
図3は、ウイルス実験ブース12内の室温を15℃、20℃、25℃および30℃のそれぞれに保持した状態で、ウイルス実験ブース12内の前記湿度を変化させたとき多段分級器30による活性インフルエンザウイルスの回収率との関係を示すグラフである。
【0043】
図3のグラフの横軸は、相対湿度(%RH)を表し、その縦軸は回収率(%)を表す。回収率(%)は、ウイルス噴霧器28から浮遊ウイルス搬送チューブ26内に毎秒1μリットル(0.001cc)の流量割合で15秒間連続して噴霧された全ウイルスの感染価を100として、多段分級器30で回収された全ウイルスの感染価の割合を%で示す。前記グラフの特性線34a、34b、34cおよび34dは、前記環境温度を15℃、20℃、25℃および30℃にそれぞれ保持した状態で、相対湿度(%RH)を変化させたときの回収率(%RH)の変化を示す。
【0044】
前記グラフの例えば特性線34aによれば、室温が15℃に保持されている状態では、20%の相対湿度下では約25%弱の回収率であり、このことは、ウイルス噴霧器28から浮遊ウイルス搬送チューブ26に供給された全ウイルスのうち約75%が不活性化したことを示す。各特性線34a〜34dについて、特性線34bを除き、それらが示す不活性化の割合は、相対湿度60%および70%で変化が見られる。しかしながら、実験毎の各状況のばらつきあるいは測定誤差を考慮すると、各特性線34a〜34dの傾向から、温度の如何に拘わらず約70%以上のインフルエンザウイルスが不活性化されていると言える。また、相対湿度の変化に伴ってウイルスの回収率が大きく変化することはなく、相対湿度の変化に拘わらず全回収ウイルスの感染価はほぼ一定であり、回収される全ウイルス感染価すなわち全活性化ウイルスの量は、相対湿度の変化に伴って減少あるいは増大することはないと言える。
【0045】
図4から図7に示すグラフは、前記室温を15℃、20℃、25℃および30℃にそれぞれ保持した状態で、相対湿度(%RH)を変化させたときの多段分級器30により回収された粒子の粒子径分布を示す。
【0046】
たとえば、図4に示す室温15℃での粒子径分布のグラフによれば、相対湿度20、30および40%RHでは、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、および0.26〜0.45μm以下の各粒子範囲で他の粒子範囲の分布割合に比較して著しい低減は見られない。これに対し、同グラフの相対湿度50、60および70%RHでは、0.06μm以下、0.06〜0.26μm以下、および0.26〜0.45μm以下の各粒子範囲で他の粒子範囲の分布割合に比較して著しい低減が見られる。
【0047】
相対湿度50%RHを境とするこの傾向は、室温20℃、25℃および30℃での粒径分布を示す図5〜図7の各グラフでも見られる。したがって、相対湿度50%を超えると、0.45μm未満の粒子の分布割合が激減する。また、以下に詳細に述べるように、マスクに捕獲され得る約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、マスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスが不活性化される。
【0048】
以上のことから、インフルエンザウイルスを含むエアロゾルを相対湿度50%RHを超える環境下に約3秒間滞在させることによって、マスクに捕獲される約0.4μm以上の粒子径を有するエアロゾル粒子に含まれるインフルエンザウイルスの活性が失なわれることはないが、マスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスを不活性化できる。このことから、マスクを装着する限り、インフルエンザウイルスの感染を防止することができる。
【0049】
3秒以上とする根拠について、生物学的ミストの乾燥に関して以下のような考察が行われた。不純物を含まない微少水滴が乾燥し切るまでの時間は、10μmの大きさの水滴であっても、10℃〜30℃、10%RH〜80%RHの温湿度環境では、僅かに0.06〜0.7秒に過ぎない。他方、咳やくしゃみによって生じるミストは、それらの主成分を唾液と仮定すると、唾液成分の99.5%は水分で、その残りの0.5%がアルブミンを主成分とする蛋白質成分および塩類であると考えられる。そのため、咳やくしゃみによって生じるミストの場合、乾燥のダイナミクスが不純物を含まない微少水滴とは異なることが予想される。
【0050】
唾液ミストと不純物を含まない水滴との乾燥の違いは、前者が蒸発による蛋白質濃度の上昇に伴い、その蒸気分圧が低下していくために、後者に比較して蒸発しづらくなることである。また不純物を含まない水は最終的に完全に蒸発するのに対して、蛋白質のような不純物を含む唾液は、その水分がたとえ蒸発しても、蒸発残渣である蛋白質の固体粒子が残ることである。
【0051】
本願発明者らは、蛋白質溶液の濃度と周囲雰囲気の温湿度と蒸気圧との関係を実験により求めた。図8のグラフは、その実験結果を示し、横軸は蛋白質を含む蛋白質ミストの重量濃度(wt%)を示し、縦軸は蒸気分圧(相対湿度)(%RH)を示す。○は30℃、●は25℃、△は20℃、▲は15℃および□は10℃での測定結果を示し、実線はそれらを結ぶ近似曲線である。
【0052】
図8のグラフによれば、例えば相対湿度80%RHの空気中に噴霧された蛋白質を含むミストは、周囲の水蒸気分圧(80%RH)に平衡する蛋白質重量濃度が30wt%で乾燥が完了する。すなわち、蛋白質が30wt%、水分が70wt%となる。他方、相対湿度40%RHの空気中に噴霧された蛋白質を含むミストは、周囲の水蒸気分圧(40%RH)に平衡する蛋白質重量濃度が90wt%で乾燥が完了する。すなわち、蛋白質が90wt%、水分が10wt%となる。Haper G. Jによる前記論文にも明らかなように、浮遊インフルエンザウイルスは、水蒸気分圧が40%RH以上、換言すれば、蛋白質の重量濃度が90wt%以下または水分重量濃度が10wt%以上で失活し易い特性を有する。
【0053】
図4から7に示したグラフの意味するところは、噴霧ミストの粒子径が小さいほど、周囲の水蒸気分圧と平衡になるまでの乾燥時間が短く、3秒の浮遊時間では、0.45μm以下の小粒子は確実に周囲の蒸気分圧と平衡になる蛋白質重量濃度まで乾燥しきる。周囲の蒸気分圧が40%RH以下では、3秒の浮遊時間で水分濃度が10wt%以下になるので感染価が維持されるが、周囲の蒸気分圧が50%RH以上では、3秒の浮遊時間で水分濃度が24wt%以上になるのでインフルエンザウイルスは失活する。
【0054】
浮遊時間が3秒では、0.45μmを超える粒子は、まだ乾燥途中にあり、周囲蒸気分圧と平衡に達していないので、それに含まれるインフルエンザウイルスは、感染価を維持している。他方、0.45μm以下の小粒子は、3秒の浮遊時間で、周囲の蒸気分圧と平衡に達するので、50%RH以上ではそれに含まれるインフルエンザウイルスは確実に失活する。このことから、50%RH以上の環境下での最小浮遊時間、3秒の値が決定された。
【0055】
50%RH以上で、0.45μmを超える粒子に含まれるインフルエンザウイルスを失活させるには、3秒よりも長い浮遊時間を確保することにより、周囲の蒸気分圧と平衡させることが考えられる。しかしながら、浮遊時間を3秒より長くするとブース長の増大を招く。前記したN−95のようなマスクを着用した感染防止対策であれば、0.45μmを超える大きな粒子に含まれるインフルエンザウイルスの失活させることは、実用上不要となる。
【0056】
本発明に係るクリーンブース50は、このような知見に基づくものであり、図9に示すように、例えば、病院の病室52の床52a上に設置される。クリーンブース50は、例えばビニルからなる全体に矩形の包囲体54と、該包囲体により区画されるクリーンブース室内56内の湿度センサ56a(図10参照)の検出値に基づいてクリーンブース室内56の湿度を調整するための湿度調整器58と、導管58aにより湿度調整器58に接続され、該湿度調整器により加湿された空気を浄化してクリーンブース室内56に供給するための送風器60とを含む。
【0057】
包囲体54は、長さL、幅W及び高さHがそれぞれ2.5m、1.0mおよび2.0mの枠体62を覆って配置されたビニル製のフードから成る。包囲体54は、基本的に、長方形の天井部54aと、該天井部の長辺に沿った一対の側壁部分54b、54bと、天井部54aの短辺に沿った一対の端壁部分54c、54cとを備える。図示の例では、包囲体54の下縁は、床52aに接することなく、該床から所定の高さ寸法h1、例えば80cmの間隔をおく。
【0058】
一対の側壁部分54b、54bおよび一対の端壁部分54c、54cは、包囲体54の周壁部を構成する。図示の例では、一方の端壁部分54cは送風器60の送風口60aで置き換えられており、該送風口にはフィルタ64が装着されている。また、他方の端壁部分54cは、ドア(54c)として用いられており、該ドア54cは、クリーンブース50の出入り口50aを開閉する。
【0059】
送風口60aは、図9に示したように、包囲体54の端壁部分54cの幅W寸法に一致した幅寸法を有し、また、図10に示されているように、送風口60aの上端は天井部54aすなわち天井に達する矩形平面形状を備える。送風口60aの下端は、図示の例では、前記したように床52aから80cmの高さに設定されている。
【0060】
フィルタ64は、送風口60aを覆って配置される矩形平面形状を有し、したがって、その下端は、床52aから80cmの高さに位置する。フィルタ64は、例えば前記したHEPAフィルタのような粒子除去フィルタからなる。
【0061】
送風器60は、その作動により、クリーンブース50が設置された病室52内の空気を取り込み、この空気の湿度を湿度調整器58によって調整し、さらに必要に応じて送風器60に組み込まれた図示しない温度調整器によってその温度を調整する。これにより、送風器60は、フィルタ64を通して、この調整された空気をクリーンブース室内56内に浄化空気として供給する。
【0062】
フィルタ64は、一方の端壁部分54cの領域を覆うように設置されている。したがって、送風器60の作動により、フィルタ64からは、図10に示すように天井部54aから側壁部54bの下縁に至る高さの領域で、ドア54cへ向けて水平方向へのほぼ均一な浄化空気流が噴出される。この浄化空気流は、クリーンブース室内56の幅寸法のほぼ全域にわたってほぼ均等に作用する。
【0063】
前記浄化空気流が向かうドア54cの下縁は、出入り口50aを閉鎖する状態で床52aから高さ寸法h1の間隔をおき、この間隔によって排気口66が形成されている。したがって、フィルタ64からドア54cへ向けて噴出された浄化空気流は、ドア54cの閉鎖状態では、該ドアの下方に位置する排気口66から病室52内に排気される。
【0064】
クリーンブース室内56を診察エリアとして使用するために、図10に示されているように、クリーンブース室内56には、患者68のための椅子68aと医師70のための椅子70aが、前記浄化空気流の流れの方向へ互い間隔を置いて配置されている。
【0065】
患者用の椅子68aは、医師用の椅子70aに比較して、前記浄化空気流の下流側に配置され、両椅子68a、70aは、患者68および医師70が対面可能なように、向き合って配置されている。図10に示す例では、患者用の椅子68aの配置位置を規定するマーク72が床52a上に形成されている。前記浄化空気流の流れの方向に沿った排気口66からのマーク72の水平距離l1は、前記浄化空気流の平均流速をNm/秒とすると、Nm/秒×3秒以上の値に設定されている。
【0066】
患者用の椅子68aは、マーク72を目印に、該椅子に座る患者68の口の位置を通るであろう仮想垂直線がほぼマーク72と交差する位置に配置される。マーク72を床52aに設けることに代えて、あるいは床52aに加えて、側壁部54bに設けることができる。また、マーク72を不要とし、椅子68aを前記した所定位置に着脱可能と固定することができる。
【0067】
くしゃみによる微粒子が到達する最大距離までの飛散時間は、無風下で、0.2〜0.5秒(西村他による「くしゃみによるエアロゾル粒子と空中エアロゾル中のインフルエンザウイルスの活性の解析」、第25回空気浄化とコンタミネーションコントロール大会予行集p81〜83、2007年、参照)であることを考慮すると、両椅子68a、70aの間隔は、90cm以上とすることが望ましい。これにより、椅子68aに座った患者68の咳やくしゃみに伴う微粒子が椅子70aに座った医師70に直接到達することを防止することができる。もちろん,椅子70aに座る医師70は、マスクを装着することが望ましい。
【0068】
前記したクリーンブース50では、クリーンブース室内56の温度が20℃から25℃の間の適正温度に維持され、湿度は、50%RHから快適性を大きく損なわないために約70%RHまでの間で、適正な相対湿度に維持され、HEPAフィルタ64を通った浄化空気流の平均流速が約30cm/秒であった。このときのクリーンブース室内56の清浄度は、レーザパーティクルカウンタ(リオン株式会社製KR−12A)を用いた測定によれば、クリーンブースとして使用するに充分な清浄度であるクラス100(1m3の空気中、0.1μm以上の大きさの粒子が100個ほど含まれる。)が得られた。また、この場合、排気口66からのマーク72の水平距離l1は、90cmに設定された。
【0069】
このようなクリーンブース50内の環境下で、椅子68aに座った患者68がくしゃみや咳をし、これに伴って患者68からインフルエンザウイルスを伴うエアロゾルがクリーンブース室内56に放出されると、このエアロゾルは、排気口66に向かう前記浄化空気流に乗って、排気口66に向けて流れる。そのため、このエアロゾルが、排気口66に至る間に包囲体54の下縁と床52aとの間隙h1から病室52内に漏れ出ることはなく、確実に排気口66へ案内され、該排気口から病室52内に排出される。
【0070】
そのため、患者68から排出されたエアロゾルは、3秒を超えて50%RH以上の高湿度下に置かれることから、前記したように、前記エアロゾルに含まれる一部のインフルエンザを不活性化される。しかも、実質的にマスクで捕獲し得ない0.4μm未満のエアロゾルに含まれるインフルエンザウイルスを実質的に不活性化することができるので、そのようなエアロゾルが排気口66からクリーンブース50外の病室52に排出されても、該病室内の人間74(図11参照)へのインフルエンザウイルスの感染は、この人々74が所定のマスクを装着する限り、確実に防止することができる。
【0071】
また、フィルタ64に、その粒子除去性能がHEPAのような高性能でない例えば中性能フィルタを用いることができる。このような場合、特に、送風器60の送風口60aから医師用の椅子70aまでの水平距離をNm/秒×3秒以上の値に設定することが望ましい。すなわち、前記したように、浄化空気流の平均流速が約30cm/秒である場合、椅子70aを送風口60aから90cm以上の距離を隔てて配置することが望ましい。これにより、椅子70aに着座する医師70の位置において、クリーンブース50外からフィルタ64を経てクリーンブース室内56に取り入れられる空気中に含まれるインフルエンザウイルスの感染価を大幅に低減することができるので、医師70に対する安全性が高められる。
【0072】
図10に仮想線76aで示すように、包囲体54の下縁すなわちブース裾を送風口60aの下縁よりも10cm低く設定し、あるいは仮想線76bで示すように、包囲体54の下縁であるブースの裾を送風口60aの下縁よりも10cm高く設定し、それぞれの場合におけるクリーンブース室内56の前記ブース裾76a、76bの近傍での清浄度を測定した。
【0073】
前記ブース裾を送風口60aの下端よりも10cm低く設定した場合、前記ブース裾を送風口60aの下端に一致させた場合と同様に、床52aから80cm以上の前記浄化空気流領域の清浄度は、クラス100を達成できた。しかし、床52aから70−80cmの高さ領域での清浄度は、クラス10万(1m3の空気中、0.1μm以上の大きさの粒子が10万個ほど含まれる。)であり、この領域では、クリーンブース室内56への病室52内の空気の部分的な吸込が生じていることが判明した。
【0074】
また、前記ブース裾を送風口60aの下端よりも10cm高く設定した場合、前記ブース裾に一致する床上90cm以上の領域で、クラス100を実現できた。しかし、前記ブース裾下10cmすなわち床52a上80cmから、前記ブース裾すなわち床52a上90cmの領域では、クラス10万であった。
【0075】
このことから、ブース裾の上下10cmの領域で、クリーンブース50外からの空気の混合現象が見られるが、この混合領域が患者の口の高さ領域に入らない限り、前記ブース裾の高さ位置を送風口60aの下端位置との関係で、適宜設定することができる。もちろん、ブース裾を床52aに接することができるが、前記したように、ブース裾を床52aから間隔をおくことがクリーンブース50の設置工事の簡素化の上で、好ましい。
【0076】
送風器60の送風口60aの上端は、これが天井に達することなく、天井部54aから下方10cm以内に位置するように設定できる。これによって、クリーンブース50内の清浄度に実質的な変化は見られなかった。
【0077】
また、前記したところから明らかなように、出入り口50aを開放状態にしても、椅子68aに着座した患者68からのエアロゾルは、3秒以上の時間を経過した後、クリーンブース50外に排出される。このことから、ドア54cを不要とし、出入り口50aを開放状態におくことができる。しかしながら、この場合、クリーンブース室内56の湿度を50%RH以上に保持するために、湿度調整器58により大きな加湿能力が必要となる。したがって、湿度調整器58に要求される能力を削減する上で、ドア54cを設けることが望ましい。
【0078】
図11は、図10に示したクリーンブース50の湿度調整器58および送風器60に代えて、病室52の天井プレナムチャンバ78に設定された空調機80を利用した例を示す。
【0079】
空調機80は、例えば50m3の空間容積を有する病室52の天井82に設けられた換気口84から吸引した空気の温度を調整する温度調整機能を有しかつその湿度を調整する機能を有する。この温度及び湿度が調整された空気の一部は、第1の給気口86を経て病室52内に戻される。また温度及び湿度が調整された前記空気の残部が第2の給気口88からダクト90を経てフィルタ64が設けられた送風口60aに供給される。
【0080】
空調機80は、例えば、最大風量が30m3/分であり、例えば20℃、30%RHの空気を22℃50%RHの空気に変換する能力を有する。この空調機80の作動により、フィルタ64から例えば20℃、50%RHの浄化空気が例えば前記したと同様な約30cm/秒の平均速度でクリーンブース室内56に供給できる。したがって、空調機80は、前記した湿度調整器58および送風器60として作用する。
【0081】
図12は、図10に示したクリーンブース50内に、天井部54aから患者68と医師70との間に垂れ下がる垂れ壁92を設けた例を示す。垂れ壁92が設けられていない図9の例で、図12に示すようなレーザパーティクルカウンタ94を用いて、医師70の口元前方の清浄度を計測したところ、クラス10000を示すことがあった。これは、図13に示すように、椅子70aに着座した医師70は送風口60aからの水平空気流を背面から受けるために、医師70の口元前方に空気のよどみ域96が形成され、該よどみ域に、医師70の動きに伴って、床52aと包囲体54の側壁部分54bの下端との間からクリーンブース50外の空気が巻き込まれることがあると考えられる。
【0082】
このよどみ域96をなくすために、図12に示す垂れ壁92が設けられた。この垂れ壁92は、クリーンブース室内56の水平空気流の一部に、医師70の口元前方で下方へ向かう空気流を生じさせる。この垂れ壁92の偏向作用により、レーザパーティクルカウンタ94の計測によれば、医師70の動きに拘わらずその口元前方の領域で常時クラス10レベルの清浄度を維持することができた。
【0083】
垂れ壁92は、板部材で形成することができる。垂れ壁92の下端は、天井部54aから20cm以下および床面52a上150cm以上の間の範囲に位置することが望ましい。これにより、医師70の診察に伴う運動を妨げることなく、効果的によどみ域96の発生を防止することができる。
【0084】
垂れ壁92は、68と医師70との間で、空気流の水平方向に沿って可動式とすることにより、垂れ壁92を診察の妨げにならない位置に移動させることができる点で、より望ましい。また、垂れ壁92に代えて、ビニールのような合成フィルムあるいは布のような垂れ幕からなる偏向手段の他、よどみ96の発生を防止するための種々の偏向手段を設けることができる。医師または患者が誤って垂れ壁に衝突した場合の傷害または破損を防止できるように、図12に示すように、衝突時には天井部に向かって自然に跳ね上がるようになっていることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。例えば、ドア54cは、巻き上げ式およびアコーデオン式等の種々の開閉扉構造とすることができる。また、包囲体54の材質、形状及び寸法等は、前記した例に限られず、適宜選択することができる。さらに、フィルタとして、前記したHEPAフィルタの他、0.45μm以上の粒子を確実に捕獲し得る種々のフィルタ濾材を装着したフィルタを用いることができる。また、浄化空気流の平均流速は、患者68や医師70に不快感を与えない範囲で、クリーンブース50の大きさとの関係で種々に変更することができる。
【0086】
さらに、前記したところでは、クリーンブース50を診察用ブースとして利用したが、患者用の椅子68aに代えて図示しない患者用ベッドを配置することにより、前記クリーンブースを患者収容用ブースとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】フィルタのフィルタ径(df)をパラメータとしたときの浮遊粒子の捕獲粒子径(μm)と捕獲効率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図2】浮遊インフルエンザウイルス失活のミスト粒子径依存性を求めるための実験装置を概略的に示す模式図である。
【図3】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度をパラメータとしたときの環境相対湿度(%RH)と活性インフルエンザウイルスの回収率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図4】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を15℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図5】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を20℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図6】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を25℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図7】図2に示した実験装置を用いた実験結果を示し、環境温度を30℃に保持した状態で相対湿度をパラメータとしたときの活性インフルエンザウイルスを含むミストの3秒間浮遊後の粒子径(μm)と、その分布率(%)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図8】蛋白質ミスト重量濃度(wt%)と、蒸気分圧(相対湿度)(%RH)との関係をそれぞれ横軸および縦軸として示すグラフである。
【図9】本発明に係るクリーンブースを概略的に示す斜視図である。
【図10】本発明に係るクリーンブースを模式的に示す説明図である。
【図11】本考案に係る他のクリーンブースを示す図10と同様な図面である。
【図12】本発明に係るクリーンブースのさらに他の例を示す図10と同様な図面である。
【図13】よどみの発生を説明するための模式的な説明図である。
【符号の説明】
【0088】
50 クリーンブース
52 病室
52a 床
54 包囲体
54a 天井部
54b 側壁部
54c ドア
56 クリーンブース室内
58 湿度調整器
60 送風器
64 フィルタ
66 排気口
68a 患者用の椅子
70a 医師用の椅子
72 マーク
80 空調機
92 偏向手段(垂れ壁)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含み、前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子が前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に前記排気口から前記クリーンブース室外に排出されることを特徴とするウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項2】
前記送風器からの空気流の速さをNm/秒とすると、前記定位置から前記排気口までの水平距離がNm/秒×3秒を超える値に設定されている、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項3】
前記クリーンブース室内における前記送風口から前記排気口に向けての空気流路中に前記定位置が設定されている、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項4】
前記包囲体は、前記出入り口が設けられた周壁部と、天井部とを有し、前記建物の床上に空間を区画するためのフードから成る、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項5】
前記送風器の前記送風口は、前記クリーンブース室内に前記床から所定の高さ領域でほぼ水平方向への前記空気流を吹き出すべく前記周壁部の所定の高さ位置に形成されている、請求項4に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項6】
前記出入り口は、前記周壁部における前記送風口と反対側に設けられており、前記出入り口には該出入り口を開閉するためのドアが配置され、該ドアの下縁は前記床から間隔をおき、該間隔によって前記排気口が形成されている、請求項5に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項7】
前記周壁部は、前記床上に矩形底面を区画すべく該床上から立ち上がる4つの周壁部分を備え、互いに対向する一組の前記周壁部分の一方の前記周壁部分に前記送風口が設けられ、前記一組の前記周壁部分の他方の前記周壁部分に前記排気口が設けられており、前記周壁部分の互いに対向する他の一組は、その下縁が前記床から所定の間隔をおくべく保持されている、請求項6に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項8】
前記クリーンブース室内の天井高さは前記床から1.8m以上であり、前記送風口の上端は前記クリーンブースの天井高さに達するかまたは天井から下方10cm以内に位置し、前記送風口の下端は前記前記床から約80cm以下に位置する、請求項7に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項9】
前記他の一組の前記周壁部分の下縁の高さ位置は、前記送風口の前記下端の高さ位置から約10cm高い高さ位置よりも下方に位置する、請求項8に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項10】
前記クリーンブース室内には、前記定位置を規定する患者用の椅子と、医師用の椅子とが配置され、該医師用の椅子は前記患者用の椅子よりも前記空気流の上流側に配置されている、請求項3に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項11】
前記周壁部分または前記床に少なくとも前記患者用の椅子を配置するための着座位置が表示されており、該着座位置は、該着座位置から前記排気口までの水平距離が前記送風口から前記排気口への空気流の平均風速(毎秒)と3秒との積を超える値となるように設定されている、請求項10に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項12】
前記クリーンブースの天井には、前記患者の着座位置と前記医師の着座位置との間で前記空気流の一部に下方へ向けての偏向を与える偏向手段が設けられている、請求項10に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項13】
前記偏向手段は、前記天井から垂れ下がる垂れ壁であり、該垂れ壁の下端は前記クリーンブースの天井面から20cm以下でありかつ前記クリーンブースの床面から150cm以上の高さ位置にある、請求項12に記載のウイルス感染防止ブース。
【請求項14】
前記フィルタは、直径が0.3μmの浮遊粒子を99%以上捕集可能の性能を有する請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項15】
前記送風口は前記建物室内の天井に設けられた給気口にダクトを経て接続され、該給気口を経て湿度調整された前記空気の供給を受ける、請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項16】
前記湿度は、約70%RH以下である、請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項17】
前記クリーンブース内の温度は、15℃から30℃の温度範囲に保持されている、請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項1】
出入り口を有するクリーンブースを建物内に形成するための包囲体と、該包囲体に設けられた排気口と、前記クリーンブースの室内に、フィルタを経て浄化された空気流であって前記排気口へ向けてほぼ水平方向に流れる空気流を供給するための送風口を有する送風器と、前記クリーンブース室内の湿度を約50%RH以上に保持する湿度調整器とを含み、前記クリーンブース室内の患者のための定位置から飛散するインフルエンザウイルスを含む霧状の粒子が前記クリーンブース室内に約3秒を超える滞在時間後に前記排気口から前記クリーンブース室外に排出されることを特徴とするウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項2】
前記送風器からの空気流の速さをNm/秒とすると、前記定位置から前記排気口までの水平距離がNm/秒×3秒を超える値に設定されている、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項3】
前記クリーンブース室内における前記送風口から前記排気口に向けての空気流路中に前記定位置が設定されている、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項4】
前記包囲体は、前記出入り口が設けられた周壁部と、天井部とを有し、前記建物の床上に空間を区画するためのフードから成る、請求項1に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項5】
前記送風器の前記送風口は、前記クリーンブース室内に前記床から所定の高さ領域でほぼ水平方向への前記空気流を吹き出すべく前記周壁部の所定の高さ位置に形成されている、請求項4に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項6】
前記出入り口は、前記周壁部における前記送風口と反対側に設けられており、前記出入り口には該出入り口を開閉するためのドアが配置され、該ドアの下縁は前記床から間隔をおき、該間隔によって前記排気口が形成されている、請求項5に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項7】
前記周壁部は、前記床上に矩形底面を区画すべく該床上から立ち上がる4つの周壁部分を備え、互いに対向する一組の前記周壁部分の一方の前記周壁部分に前記送風口が設けられ、前記一組の前記周壁部分の他方の前記周壁部分に前記排気口が設けられており、前記周壁部分の互いに対向する他の一組は、その下縁が前記床から所定の間隔をおくべく保持されている、請求項6に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項8】
前記クリーンブース室内の天井高さは前記床から1.8m以上であり、前記送風口の上端は前記クリーンブースの天井高さに達するかまたは天井から下方10cm以内に位置し、前記送風口の下端は前記前記床から約80cm以下に位置する、請求項7に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項9】
前記他の一組の前記周壁部分の下縁の高さ位置は、前記送風口の前記下端の高さ位置から約10cm高い高さ位置よりも下方に位置する、請求項8に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項10】
前記クリーンブース室内には、前記定位置を規定する患者用の椅子と、医師用の椅子とが配置され、該医師用の椅子は前記患者用の椅子よりも前記空気流の上流側に配置されている、請求項3に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項11】
前記周壁部分または前記床に少なくとも前記患者用の椅子を配置するための着座位置が表示されており、該着座位置は、該着座位置から前記排気口までの水平距離が前記送風口から前記排気口への空気流の平均風速(毎秒)と3秒との積を超える値となるように設定されている、請求項10に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項12】
前記クリーンブースの天井には、前記患者の着座位置と前記医師の着座位置との間で前記空気流の一部に下方へ向けての偏向を与える偏向手段が設けられている、請求項10に記載のウイルス感染防止クリーンブース。
【請求項13】
前記偏向手段は、前記天井から垂れ下がる垂れ壁であり、該垂れ壁の下端は前記クリーンブースの天井面から20cm以下でありかつ前記クリーンブースの床面から150cm以上の高さ位置にある、請求項12に記載のウイルス感染防止ブース。
【請求項14】
前記フィルタは、直径が0.3μmの浮遊粒子を99%以上捕集可能の性能を有する請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項15】
前記送風口は前記建物室内の天井に設けられた給気口にダクトを経て接続され、該給気口を経て湿度調整された前記空気の供給を受ける、請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項16】
前記湿度は、約70%RH以下である、請求項1に記載のクリーンブース。
【請求項17】
前記クリーンブース内の温度は、15℃から30℃の温度範囲に保持されている、請求項1に記載のクリーンブース。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−17225(P2010−17225A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177835(P2008−177835)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】
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