説明

インフレーションフイルム成形用エアリングと、このエアリングを備えるインフレーションフイルム成形装置。

【課題】隣接するエア供給路間でエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることにより、隣接する区分間でエアの一部を相互に分流させ、隣接する区分の吹出口間におけるエア流の風量不足を解消し、これに伴いバブルの冷却不足箇所を解消し、白筋の発生を解消する。
【解決手段】隣接するエア供給路52間でエアが相互に流れる間隙57を形成し、この間隙57で分流するエアの連絡路が形成されていることにより、連絡路でバブル全周にわたる薄膜の冷却エア層が形成されているため、隣接するエア供給路52間の位置においての風量が不足する領域が解消され、更にこのバブル全周にわたる冷却エア層と隣接して、各区分されたエア供給路52から送られる大量の冷却エアで吹出口50に対面するバブルの表面を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
合成樹脂をフイルム化する手段として、インフレーション法が多く用いられている。この方法は、比較的簡易な設備で生産が行えるため、コスト的に有利であるという長所を有している。この方法においてフイルムの厚みむら調整は、ダイリップの間隙を調整することによって行われる。しかしながらこの調整は熟練を要するとともに、長時間をかけて調整してもその厚み精度には限界があった。
【背景技術】
【0002】
このような問題を解決する手段として従来より多くの試みがなされてきた。例えば、チューブ状に押し出されて固化したフイルムの厚みを全周にわたって計測し、そのデータをもとに、ダイリップの間隙を自動調整するという方法がある。しかしながらこの方法は、ダイリップの間隙を調整するための機構が複雑でコスト高となるという問題が、さらには、ダイリップの間隙を調整するための機構をサーキュラーダイスに直接設ける必要があり、装置が大がかりになるという問題があった。
【0003】
一方、前記したと同様に、チューブ状に押し出されて固化したフイルムの厚みを全周にわたって計測し、次いでそのデータをもとに、エアリングから吹き付ける冷却エア流の温度を調整するという方法がある。この方法は、ダイリップからチューブ状に吐出する溶融樹脂に冷却エアを吹き付ける場合、冷却エアの温度を低くすればその部分の合成樹脂がより速く固化して厚みが厚くなり、逆に冷却エアの温度を高くすればその部分は合成樹脂の固化が遅くなり、よりブローアップが進行する結果、厚みが薄くなるという現象を利用したものであり、厚み精度改良において効果を示す。しかしながらこの方法は、溶融樹脂を冷却するための主たる手段であるエアリングから吹き付ける冷却エアの温度を直接的に制御するものである。従って、チューブ状に押し出された溶融樹脂に吹き付ける冷却エアの温度がそれぞれの箇所において制御され、良好な厚み精度のチューブ状フイルムが得られている状態から、押出量の増減、引き取り速度の増減、ブロー比の増減等の製造条件の変更に伴い、エアリングから供給する冷却エアのトータル量を増減させると、良好に制御されていた状態が崩れてしまい、再び制御が安定するまでに相当の時間を要するという問題があった。従ってこれらの方法は、生産条件の変化があるような場面での使用には適していなかった。さらに、これらの方法においては溶融樹脂を冷却するための能力のほとんどをエアリングが担っており、このエアリングの冷却能力が直接的に制御されるため、制御の振れが大きくなりやすいという欠点もあった。
【0004】
最新の従来技術においては、図5に示す前記従来の改良版として、エアリングのエア供給路52´を円周方向に少なくとも80分割し、仕切り壁53´より分割されたエア供給路52´における冷却エアの吹出し量を、このエアリングより下流に位置する厚み測定装置からフイルムの偏肉を電気信号として入力される中央演算システムからの出力信号により、前記厚みの変動に対応して電気的に制御している(特許文献1の図1参照)。
【特許文献1】ヨーロッパ特許第0478641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、最新の従来技術をしても、前記隣接するエア供給路52´の位置において、この白筋の発生原因は明確に解明されていないが、各区分されたエア供給路52の壁面近くと、それぞれのエア供給路52の中央部分とでは、流体摩擦の影響で、風量乃至風速がそれぞれ異なることが考えられ、その結果、一様に冷却エアがバブル外周面に吹き付けられず、隣接するエア供給路52の境界箇所近傍の冷却エアの風量が不足がちとなり、成形中のフイルムの引き取り方向、即ち、長手方向に沿って冷却班と思われる白筋が前記エアリングの分割数に相当する本数発生する現象があり、製品の品質上好ましくないことが判明した。この白筋を解消すべく本件発明者は試行錯誤し、前記隣接する区分間でのエア供給通路52を改良することで、各通路の壁面近くの風量減少が起こらないようにして前記課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本件特定発明においては、インフレーションフイルム成形ダイの環状吐出口近傍にこのダイと同心的に上下2段の環状吹出口を有するインフレーションフイルム成形用エアリングにおいて、
前記環状吐出口寄りの下段の環状吹出口は内側リップと中間リップにより形成され、前記上段の環状吹出口は前記中間リップと外側リップとによりラッパ状に形成され、
前記上段の環状吹出口に連なるエア供給路は、前記上段の環状吹出口の中心部から放射状に伸びる複数のエア供給路として形成され、隣接する区分のエア供給路は略垂直な仕切り壁でそれぞれ仕切られ、各仕切り壁は前記吹出口側ほど厚みが順次薄くなる平面細長な三角の横断面形状としてあり、これら仕切り壁の下面、上面のうちの一方はエア供給路の底面天井面のうちの一方から若干離間し、隣接するエア供給路間においてエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることを特徴とするインフレーションフイルム成形用エアリングとしてある。
【0007】
更に前記課題を解決するために、関連発明は、前記エアリングと、前記インフレーションフイルム成形ダイの環状吐出口からチューブ状に吐出されたバブルが冷却・固化されて成形されたチューブ状フイルムの厚みを、その全周にわたって測定する厚み計測装置と、前記厚み計測装置によって得られたチューブ状フイルムの厚みデータに基づいて、前記エアリング内における複数のエア供給路から吹出される冷却エアの風量乃至温度を、エア供給路毎にそれぞれ独立して制御する制御装置とを備えることを特徴とするインフレーションフイルム成形装置としてある。
【発明の効果】
【0008】
前記のように構成したエアリングにおいては、隣接するエア供給路間でエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることにより、隣接する区分間でエアの一部を分割させずに相互に連絡させ、隣接する区分エア流の壁面近くでの風量不足を解消し、これに伴いバブルの冷却不足箇所を解消し、前記白筋の発生を解消し、フイルムの肉厚の均一化を達成できる。換言すれば、隣接するエア供給路間でエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることにより、連絡路でバブル全周にわたる薄膜の冷却エア層が形成されているため、前記吹出口の位置においてその一部に風量が不足する領域が解消され、更にこのバブル全周にわたる冷却エア層と接触して、各区分されたエア供給路から送られる大量の冷却エアでバブルの表面を冷却することにより、フロストラインの下側でまだ溶融状態にあるバブルを従来と同様に冷却できるとともに、成形中のフイルムの引き取り方向、即ち、長手方向に沿って冷却班と思われる白筋が前記エアリングの分割数に相当する本数発生する現象を解消する。
更に、詳細に証明すれば、図5に示される従来の完全に仕切り壁53´で仕切られているエア供給路52´を有するエアリングに比べて、隣接するエア供給路を流れる冷却エアの一部は相互連通し、バブル側において吹き付けられる時でも、隣接するエア供給路間にわたり連続した冷却エア層を存在させることができ、各エア供給路から吐出する冷却エアの風量乃至風速分布は放物線を描き、前記区分されたエア供給路から吐出される冷却エアは、前記放物線を連ねた波形の曲線を描くが、前記隣接するエア供給路間の間隙を通り吐出する冷却エア層が360度にわたり連続して形成され積層されているため、前記波形の曲線の谷部、即ち隣接するエア供給路の頂点に当たる冷却エア層の谷部の厚さを厚くでき、バブル冷却効果の低減を少なくし、冷却不足を解消できる。この結果、前記白筋が前記エア供給路の分割数に相当する本数発生する現象を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この形態は、請求項1乃至5記載の発明の代表的な実施の形態を示し、請求項6記載の関連発明の代表的な実施の形態と併せて説明する。
【0010】
図1において、10はインフレーションフイルム成形用エアリングを示し、インフレーションフイルム成形ダイ20の環状吐出口30近傍にこのダイ20と同心的に上下2段の環状吹出口40、50を有する。
前記環状吐出口30寄りの下段の環状吹出口40は内側リップ60と中間リップ70により形成され、この内側リップ60の先端は前記環状吐出口30から吐出されるバブルの流れ方向へこのバブルに沿って外側に傾斜している。前記上段の環状吹出口50は前記中間リップ70と外側リップ80とによりラッパ状に形成されている。
前記上段の環状吹出口50の上流であるエア供給路52はこのエアリングの周方向で例えば80個に区分され、この吹出口50に連なるエア供給路52は、前記上段の環状吹出口50の中心部から放射状に伸びる複数のエア供給路として形成され、隣接するエア供給路52は略垂直な仕切り壁53で仕切られ、この仕切り壁53には、隣接するエア供給路52間でエアが相互に流れる寸法の間隙57が形成され、この間隙57部分においてはエアは区間されることなく送風される。
前記仕切り壁53は、前記吹出口50側、即ちバブル側程、その厚みが順次薄くなり、その頂点54が全バブル側に位置する平面細長な三角の横断面形状としてあり、その下面55はエア供給路52の底面56から若干離間し、隣接するエア供給路52間でエアが相互に流れる間隙57を形成し、この間隙57で分流するエアの連絡路が形成されている。
【0011】
前記間隙57の寸法は約1乃至5ミリメートルとしてある。この下段の環状吹出口40は周方向で360度にわたり連通している環状エア通路41に連なり、この下段の環状吹出口40からバブル吹き付けられる風量は、前記上段の環状吹出口50からバブル吹き付けられる風量の略2分の1としてある。なお、この風量を同等とすることもある。
【0012】
前記下段の環状吹出口40と前記上段の環状吹出口50は共通の送風機の2次側に連通配備されている。
好ましくは、前記中間リップ70と内側リップ60の上端は略水平で同一平面内に位置し、前記下段の環状吹出口40は略垂直な上向きとしてあり、前記上段の環状吹出口50における外側リップ80の前記エア供給路52との接続箇所近傍は内方に張り出す縮径部として形成され、前記吹出口51の中間リップ70上端とその外側リップ80の上端の直径および高さは大きく相違し、前記縮径部に連なるラッパ状の口縁を形成している。
このように形成することで、連絡路でバブル全周にわたる薄膜の冷却エア層と、各区分されたエア供給路52から送られる大量の冷却エア層が略積層された状態で、前記吹出口51から対面するバブルの表面に向けて吹き付けられ、バブル冷却を行う。この結果として、各仕切り壁53の壁面抵抗による風量減少が緩和され、明確な温度変化となって現れず、フロストラインの下側でまだ溶融状態にあるバブルをその全周において過剰冷却、過小冷却箇所を伴わずに均一に冷却するとともに、成形中のフイルムの引き取り方向、即ち、長手方向に沿って冷却班と思われる白筋が前記エアリングの分割数に相当する本数発生する現象を解消する。
前記エアリング10は最外層にポリエチレン層を有する5層フイルム成形用として最適である。
【0013】
前記エアリング10と、前記インフレーションフイルム成形ダイ20の環状吐出口30からチューブ状に吐出されたバブルが冷却・固化されて成形されたチューブ状フイルムの厚みを、その全周にわたって測定する厚み計測装置90と、前記厚み計測装置90によって得られたチューブ状フイルムの厚みデータに基づいて、前記エアリング10内における複数のエア供給路52から吹出される冷却エアの風量を、エア供給路52毎にそれぞれ独立して制御する制御装置100とを、インフレーションフイルム成形装置101は備える。
なお、前記形態においては、この仕切り壁53の下面55をエア供給路52の底面56から若干離間し、隣接するエア供給路52間でエアが相互に流れる間隙57を形成しているが、この仕切り壁53の上面をエア供給路52の天井面から若干離間し、隣接するエア供給路52間でエアが相互に流れる間隙57を形成しても、この発明の技術的な範囲に入る。更に、前記冷却エアの風量に代えて、その温度を調整することもある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態のエアリングの概略縦断面図である。
【図2】図1におけるエア供給路の一部区画縦断面図である。
【図3】図2の概略横断面図である。
【図4】図1におけるエアリングを備えるインフレーションフイルム成形装置の概略図である。
【図5】従来例のエアリングのエア供給路の一部区画断面図である。
【符号の説明】
【0015】
10 インフレーションフイルム成形用エアリング
20 インフレーションフイルム成形ダイ
30 環状吐出口
40 下段の環状吹出口
50 上段の環状吹出口
52、52´ エア供給路
53、53´ 仕切り壁
56、56´ 底面
57 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレーションフイルム成形ダイの環状吐出口近傍にこのダイと同心的に上下2段の環状吹出口を有するインフレーションフイルム成形用エアリングにおいて、
前記環状吐出口寄りの下段の環状吹出口は内側リップと中間リップにより形成され、前記上段の環状吹出口は前記中間リップと外側リップとによりラッパ状に形成され、
前記上段の環状吹出口に連なるエア供給路は、前記上段の環状吹出口の中心部から放射状に伸びる複数のエア供給路として形成され、隣接する区分のエア供給路は略垂直な仕切り壁でそれぞれ仕切られ、各仕切り壁は前記吹出口側ほど厚みが順次薄くなる平面細長な三角の横断面形状としてあり、これら仕切り壁の下面、上面のうちの一方はエア供給路の底面天井面のうちの一方から若干離間し、隣接するエア供給路間においてエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることを特徴とするインフレーションフイルム成形用エアリング。
【請求項2】
前記間隙の寸法は約1乃至5ミリメートルとしてあることを特徴とする請求項1記載のインフレーションフイルム成形用エアリング。
【請求項3】
前記下段の環状吹出口は周方向で360度にわたり連通している環状エア通路に連なり、この下段の環状吹出口からバブル吹き付けられる風量は、前記上段の環状吹出口からバブル吹き付けられる風量の略1:1〜1:2としてあることを特徴とする請求項1または2記載のインフレーションフイルム成形用エアリング。
【請求項4】
前記下段の環状吹出口と前記上段の環状吹出口は共通の送風機の2次側に連通配備され、前記中間リップと内側リップの上端は略水平で同一平面内に位置し、前記下段の環状吹出口は略垂直な上向きとしてあり、前記上段の環状吹出口における外側リップの根元近傍は内方に張り出す縮径部として形成され、前記吹出口の中間リップ上端とその外側リップの上端の直径および高さは大きく相違し、外側リップの前記縮径部に連なるラッパ状の口縁を形成していることを特徴とする請求項1、2または3記載のインフレーションフイルム成形用エアリング。
【請求項5】
前記エアリングは複層フイルム成形用として、各仕切り壁は、その頂点が全バブル側に位置する程次第に厚みが薄くなる平面細長な三角の横断面形状としてあり、その下面はエア供給路の底面から若干離間し、隣接するエア供給路間でエアが相互に流れる間隙を形成し、この間隙で分流するエアの連絡路が形成されていることを特徴とする請求項1、2、3または4記載のインフレーションフイルム成形用エアリング。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のエアリングと、前記インフレーションフイルム成形ダイの環状吐出口からチューブ状に吐出されたバブルが冷却・固化されて成形されたチューブ状フイルムの厚みを、その全周にわたって測定する厚み計測装置と、前記厚み計測装置によって得られたチューブ状フイルムの厚みデータに基づいて、前記エアリング内における複数のエア供給路から吹出される冷却エアの風量乃至温度を、エア供給路毎にそれぞれ独立して制御する制御装置とを備えることを特徴とするインフレーションフイルム成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−223150(P2007−223150A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46529(P2006−46529)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000136723)株式会社プラコー (8)
【Fターム(参考)】