説明

インホイールモータシステム

【課題】インホイールモータにフレキシブルカップリングをモータに精度よく取付けることができるとともに、組立や取り外しが容易な構成のインホイールモータシステムを提供する。
【解決手段】インホイールモータ3の回転側ケース3bのフレキシブルカップリング20側の外径を小さくして、円環状の嵌合部3Kを形成するとともに、モータ側プレート21に円環状の突出部21Kを設けて、上記回転側ケース3b側と上記モータ側プレート21とを嵌合させるようにするとともに、モータ側プレート21側から回転側ケース3bに複数のトルク伝達ピン24を打込んでモータ側プレート21を回転側ケース3bに取付けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイレクトドライブホイールを駆動輪とする車輌において用いられるインホイールモータシステムに関するもので、特に、モータを、車輌の足回り部品に対して、緩衝機構を介して弾性支持するとともに、モータとホイールとをフレキシブルカップリングにより結合する構成のインホイールモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車などのモータによって駆動される車輌においては、モータを車輪に内蔵するインホイールモータシステムが採用されつつある。その中でも、図7に示すような、インホイールモータ3を、緩衝機構10を介して、車輌の足回り部品に対して弾性支持する構成のインホイールモータシステムが注目されている。このインホイールモータシステムでは、モータロータ3Rが取り付けられた回転側ケース3bと、このモータケース3bと同心円状に配置され、上記モータロータ3Rと所定の間隔を隔ててモータステータ3Sが取り付けられた非回転側ケース3aとを軸受け3jを介して回転可能に連結した中空形状のダイレクトドライブモータ3の上記非回転側ケース3aを、直動ガイド14Aと車輌上下方向に作動する上,下のバネ部材14B,14Bとを一体に構成したバネ付き直動ガイド14と片ロッド型のダンパー15とにより結合された2枚のプレート11,12を備えた緩衝機構10を介して、車軸6に結合される車輌の足回り部品であるナックル5に連結するとともに、上記回転側ケース3bとホイール2とを、上記回転側ケース3bに取付けられるモータ側プレート21とホイール2に取付けられるホイール側プレート22とを複数のクロスガイド23で連結したフレキシブルカップリング20により結合する構成となっている(例えば、特許文献1〜3参照)。
なお、図7において、1は上記ホイール2に装着されるタイヤ、4はホイール2とその回転軸において連結されたハブ部、7はショックアブゾーバ等から成るサスペンション部材、8は上記ハブ部4に装着されたブレーキディスクから成る制動装置である。
【特許文献1】WO 02/083446 A1
【特許文献2】特開2004−161189号公報
【特許文献3】特開2005−178684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来のインホイールモータシステムにおいては、モータの回転側ケース3bにフレキシブルカップリング20のモータ側プレート21を取付ける際に、上記回転側ケース3bのホイール側に予め雌ネジを切っておき、モータ側プレート21から数十本のネジでネジ止めしていた。
しかしながら、このような取付け方法では、組立て時や、整備時にフレキシブルカップリング20を取外す作業が煩雑であるばかりでなく、ネジの締め具合を均一にする必要があるため、作業に熟練を要していた。
また、ネジ止めによる取付けでは同軸度が劣るといった欠点があるため、組立精度によっては、モータ3の駆動力を十分にホイール2に伝達できない恐れがあった。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、インホイールモータにフレキシブルカップリングをモータに精度よく取付けることができるとともに、組立や取り外しが容易な構成のインホイールモータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、モータロータが取り付けられた回転側ケースと、この回転側ケースと同心円状に配置され、上記モータロータと所定の間隔を隔ててモータステータが取り付けられた非回転側ケースとを回転可能に連結した中空形状のダイレクトドライブモータの上記非回転側ケースを、車輌の足回り部品であるナックルに対して緩衝機構を介して弾性支持するとともに、上記回転側ケースとホイールとを、上記回転側ケースに取付けられるモータ側プレートと、モータ側プレートとホイール、もしくは、モータ側プレートとホイールに取付けられるホイール側プレートとを連結するガイド部材とを備えたフレキシブルカップリングにより結合する構成のインホイールモータシステムにおいて、上記回転側ケースのホイール側の外径を小さくするとともに、上記モータ側プレートのモータ側に、上記回転側ケース側に突出する環状の突出部を設けて、上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを嵌合させ、上記フレキシブルカップリングを上記回転側ケースに取付けた構成としたものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインホイールモータシステムにおいて、上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを複数のトルク伝達ピンにより連結したものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインホイールモータシステムにおいて、上記モータ側プレートの外周面と上記回転側ケースの外周面とを連結する脱落防止用のクリップを設けたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インホイールモータを、車輌の足回り部品であるナックルに対して、緩衝機構を介して弾性支持するとともに、上記回転側ケースとホイールとをフレキシブルカップリングにより結合する構成のインホイールモータシステムにおいて、上記回転側ケースのホイール側の外径を小さくするとともに、上記回転側ケースに取付けられるモータ側プレートのモータ側に、上記回転側ケース側に突出する環状の突出部を設けて、上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを嵌合させ、上記フレキシブルカップリングを上記回転側ケースに取付けた構成として、モータ側プレートをモータの回転側ケースに正確に同軸に取付けることができるようにしたので、組立精度を向上させることができる。
また、上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを複数のトルク伝達ピンにより連結したので、従来のネジ留めに比較して組立が容易となるだけでなく、モータの駆動力を確実にホイールに伝達することができる。
更に、上記モータ側プレートの外周面と上記回転側ケースの外周面とを連結する脱落防止用のクリップを設けたので、上記モータ側プレートの脱落を確実に防止することができるとともに、フレキシブルカップリングの着脱を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本最良の形態に係るインホイールモータシステムに用いられるフレキシブルカップリング20の取付け状態を示す要部断面図で、同図において、3はモータステータ3Sが取り付けられた非回転側ケース3aとモータロータ3Rが取り付けられた回転側ケース3bとを軸受け3jを介して回転可能に連結した中空形状のダイレクトドライブモータ、21は動力伝達機構であるフレキシブルカップリング20のモータ側プレート、22はホイール側プレート、23はクロスガイドである。
本例では、図2(a),(b)にも示すように、上記回転側ケース3bのフレキシブルカップリング20側の外径を小さくして、円環状の嵌合部3Kを形成するとともに、上記モータ側プレート21の外周側である上記嵌合部3Kに対応する部分に、上記回転側ケース3b側に突出する円環状の突出部21Kを設けて、上記回転側ケース3bとモータ側プレート21とをインローの関係になるようにするとともに、上記モータ側プレート21の上記突出部21Kの内周側にピン差込孔21hを、上記回転側ケース3bの嵌合部3Kの内周側で上記ピン差込孔21に対応する部分にピン収納穴3hを設けて、上記回転側ケース3bと上記モータ側プレート21とを嵌合させた後、上記ピン差込孔21hからトルク伝達ピン24を打込んで上記ピン収納穴3hに固定するようにしている。これにより、モータ側プレート21と回転側ケース3aとの同軸度を精度よく確保することができ、組立精度を向上させることができるとともに、インホイールモータ3の駆動力を確実にホイールに伝達することができる。
なお、上記回転側ケース3bが軽金属製の場合、上記トルク伝達ピン24から受ける力により、上記ピン収納穴3hが磨耗・変形し、損傷する可能性があるので、このような場合には、図1に示すように、上記回転側ケース3bに鋼などの硬質部材から成るスリーブ3Dを打込み、このスリーブ3Dに上記トルク伝達ピン24を挿入するようにすれば、上記ピン収納穴3hの損傷を防止することができる。
また、トルク伝達ピン24を嵌合後に打込むのではなく、トルク伝達ピン24を予め上記モータ側プレート21側に固定しておき、上記回転側ケース3bと上記モータ側プレート21との嵌合時に上記ピン収納穴3hに固定するようにしてもよい。
また、上記トルク伝達ピン24の本数及び配置としては、例えば、16本程度を等間隔に打込んでおけばよい。
このように、モータ側プレート21と回転側ケース3aとを複数のトルク伝達ピン24により連結すれば、従来のネジ留めに比較して組立が容易となるだけでなく、ネジ締めの不均一についても考慮する必要がないので、モータの駆動力を確実にホイールに伝達することができる。
【0008】
また、本実施の形態では、図1〜図3に示すように、上記モータ側プレート21の突出部21Kの上記回転側ケース3bの外周面との当接部と上記回転側ケース3bの外周面とにそれぞれ溝部21m,3mを設けるとともに、上記溝部21m,3mに断面がコの字状の脱落防止用のクリップ25を嵌め込んで、上記モータ側プレート21の外周面と上記回転側ケース3aの外周面とを連結するようにしている。具体的には、脱落防止用のクリップ25の一方の脚部25aを上記モータ側プレート21の溝部21mに係止し、他方の脚部25bを上記回転側ケース3aの溝部3mに係止することにより、上記モータ側プレート21の外周面と上記回転側ケース3aの外周面とを連結する。これにより、上記モータ側プレート21の脱落を防止することができる。
また、上記トルク伝達ピン24は回転側ケース3aのピン収納穴3hに打込んであり、上記脱落防止用のクリップ25は溝部21m,3mに係止されているだけなので、フレキシブルカップリング20を回転側ケース3aに容易に着脱することができる。したがって、作業性、メンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0009】
このように、本最良の形態によれば、インホイールモータ3の回転側ケース3bのフレキシブルカップリング20側の外径を小さくして、円環状の嵌合部3Kを形成するとともに、上記モータ側プレート21に円環状の突出部21Kを設けて、上記回転側ケース3b側と上記モータ側プレート21とを嵌合させるようにするとともに、モータ側プレート21側から回転側ケース3bに複数のトルク伝達ピン24を打込んでモータ側プレート21を回転側ケース3bに取付けるようにしたので、モータ側プレート21を回転側ケース3aに精度よく取付けることができるとともに、インホイールモータ3の駆動力を確実にホイールに伝達することができる。
また、上記モータ側プレート21の外周面と上記回転側ケース3bの外周面とを断面がコの字状の脱落防止用のクリップ25により連結したので、上記モータ側プレート21の脱落を確実に防止することができる。
【0010】
なお、上記最良の形態では、インホイールモータ3とホイール2とを、モータ側プレート21とホイール側プレート22とを複数のクロスガイド23で連結した構成のフレキシブルカップリング20により結合した例について説明したが、本発明の適用されるフレキシブルカップリングとしてはこれに限るものではなく、図4に示すような、モータ側プレート21とホイール側プレート22の互いに対向する面側の周上に、径方向と45°の角度をなして互いに直交する方向に延長する複数の溝部21k,22kを形成し、上記溝部21k,22k間に小球30mをスライド可能に挟持するとともに、上記モータ側プレート21とホイール側プレート22との間に上記小球30mを径方向と直交する方向に案内するガイド孔30sを有する中間プレート30Pを配置した構成のフレキシブルカップリング30などのような、モータ3の回転側ケース3bに取付けるモータ側プレート21を備えたフレキシブルカップリングであれば適用可能である。
また、上記例では、脱落防止用のクリップとして、断面がコの字状の脱落防止用のクリップ25を用いたが、図5に示すように、上記クリップ25に代えて、一方の脚部25bの内側の面25vを傾斜面とした脱落防止用のクリップ25zを用いるとともに、上記傾斜面25vを有する脚部25bに対応する溝部である回転側ケース3bの外周面に設けられた溝部3mに上記傾斜面25vが当接する傾斜面3vを設けた構成とすれば、上記脱落防止用のクリップ25を上記溝部21m,3mに取付け、ネジ等で固定する際に、モータ側プレート21と回転側ケース3b回転側ケース3aとを引寄せる力が発生するので、両者を軸方向にガタなく固定することができる。なお、脚部25aの内側の面を傾斜面とし、モータ側プレート21の溝部21mに上記脚部25aの傾斜面が当接する傾斜面を設けた構成としても同様の効果を得ることができる。
また、上記例では、モータ側プレート21の突出部21Kの内周側にピン差込孔21hを形成して、トルク伝達ピン24を回転側ケース3bのピン収納穴3hに打込む構成としたが、図6に示すように、トルク伝達ピン24Aをモータ側プレート21側に予め打込んでおき、回転側ケース3b側とモータ側プレート21とを嵌合させるときに、同時に、上記トルク伝達ピン24Aを上記ピン収納穴3hに打込んで固定するようにしてもよい。なお、この場合にも、上記回転側ケース3bに硬質部材から成るスリーブ3Dを打込み、このスリーブ3Dに上記トルク伝達ピン24Aを打込むようにすれば、上記ピン収納穴3hの損傷を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構成でインホイールモータにフレキシブルカップリングを同軸に取付けることができるので、組立精度を向上させることができるとともに、組立やメンテナンスの作業性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の最良の形態に係るフレキシブルカップリングの取付け構造を示す要部断面図である。
【図2】本最良の形態に係るモータ側プレートとモータケースの模式図である。
【図3】本最良の形態に係る脱落防止用のクリップの取付状態を示す図である。
【図4】フレキシブルカップリングの他の構成を示す図である。
【図5】脱落防止用のクリップの他の構成を示す図である。
【図6】トルク伝達ピンの他の構成を示す図である。
【図7】従来のインホイールモータシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
3 インホイールモータ、3D スリーブ、3K 嵌合部、3R モータロータ、
3S モータステータ、3a 非回転側ケース、3b 回転側ケース、
3h ピン収納穴、3j 軸受け、3m 溝部、20 フレキシブルカップリング、
21 モータ側プレート、21K 突出部、21h ピン差込孔、21m 溝部、
22 ホイール側プレート、23 クロスガイド、24 トルク伝達ピン、
25 脱落防止用のクリップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータロータが取り付けられた回転側ケースと、この回転側ケースと同心円状に配置され、上記モータロータと所定の間隔を隔ててモータステータが取り付けられた非回転側ケースとを回転可能に連結した中空形状のダイレクトドライブモータの上記非回転側ケースを、車輌の足回り部品であるナックルに対して緩衝機構を介して弾性支持するとともに、上記回転側ケースとホイールとを、上記回転側ケースに取付けられるモータ側プレートと、モータ側プレートとホイール、もしくは、モータ側プレートとホイールに取付けられるホイール側プレートとを連結するガイド部材とを備えたフレキシブルカップリングにより結合する構成のインホイールモータシステムにおいて、上記回転側ケースのホイール側の外径を小さくするとともに、上記モータ側プレートのモータ側に、上記回転側ケース側に突出する環状の突出部を設けて、上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを嵌合させ、上記フレキシブルカップリングを上記回転側ケースに取付けた構成としたことを特徴とするインホイールモータシステム。
【請求項2】
上記モータ側プレートと上記回転側ケースとを複数のトルク伝達ピンにより連結したことを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータシステム。
【請求項3】
上記モータ側プレートの外周面と上記回転側ケースの外周面とを連結する脱落防止用のクリップを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインホイールモータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90952(P2007−90952A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280262(P2005−280262)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】