説明

インホイールモータ駆動ユニット

【課題】タイヤ横力などに伴うホイールハブの変位によっても、インホイールモータ駆動ユニット内の歯車が噛み合い率を悪化することのない構成を提供する。
【解決手段】電動モータ4のロータ回転はモータ軸6を介して歯車組5のサンギヤ21に伝達され、段付きプラネタリピニオン23をリングギヤ22の内周およびサンギヤの外周に沿って転動させ、キャリア24および終tr右翼軸7を順次介してホイールハブ11に達する。モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様で相互に回転自在とし、出力軸の内端7aを軸受8によりハウジング3に揺動可能な態様で軸承し、外端7bをホイールハブに剛結合し、軸6,7に歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けたため、ホイールハブのこじりAによっても、歯車組5の構成要素が軸と共に一体的に径方向へ変位するだけで、相対変位せず、インホイールモータ駆動ユニット内の歯車の噛み合い率悪化を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる車輪ごとのインホイールモータ駆動ユニットに関し、
特に、インホイールモータ駆動ユニット内における変速歯車組の歯車噛合状態を、車輪取り付けメンバの変位時やガタ発生時においても、良好に維持し得るようになす技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるインホイールモータ駆動ユニットとしては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
この提案技術になるインホイールモータ駆動ユニットは、ハウジングに内蔵した電動モータがモータ軸から減速歯車組を経て、ハウジングに回転自在に支持した車輪取り付けメンバであるホイールハブに伝達されるようにしたものである。
【0003】
具体的には、ハウジングに直接、回転自在に支持してピニオンを設けると共に、同じくハウジングに直接、回転自在に支持してホイールハブを設け、このホイールハブに形成した大径歯車に上記のピニオンを噛合させて、これら大径歯車およびピニオンより成る減速歯車組を介し、電動モータ(モータ軸)およびホイールハブ(車輪)間を駆動結合したものである。
【0004】
かかるインホイールモータ駆動ユニットを駆動車輪ごとに具える電気自動車にあっては、電動モータを駆動するとき、その回転が減速歯車組による減速下で車輪に伝達され、車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−044437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる従来のインホイールモータ駆動ユニットにあっては、減速歯車組を構成するピニオンおよび大径歯車がそれぞれ共に、ハウジングに対し直接、回転自在に支持されているため、以下のような問題を生ずる。
【0007】
つまり、旋回走行時などにおいてタイヤ接地面から車輪へタイヤ横力(車幅方向荷重)が入力されると、ホイールハブがそのハウジングへの支承部を支点として倒れる(こじられる)傾向となる。
上記タイヤ横力によるホイールハブの倒れ(こじり)は、大径歯車の軸線を対応方向へ傾斜させる。
この現象は、ホイールハブをハウジングに回転自在に支持する軸受(ハブベアリング)の摩耗や製造誤差などで、ホイールハブがハウジングに対し「ガタ」を発生したり、相対変位する時も同様に生ずる。
【0008】
他方でピニオンに上記のタイヤ横力が入力されることはないため、またホイールハブの「ガタ」や相対変位が及ぶことはないため、ピニオンの軸線は傾斜しない。
そのため、大径歯車の軸線とピニオンの軸線との平行がくずれ、大径歯車およびピニオン間に径方向相対変位を生ずる。
【0009】
この場合、大径歯車およびピニオン間の軸間距離が変化し、これら歯車間の噛み合い率を悪化させて、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招いたり、不快な異音が発生するという問題を生じたり、抵抗力の増大で車輪が減速される現象を生ずることがある。
【0010】
これらの問題を解消するためには、上記のような横力や、ホイールハブの変位(ガタ)が、インホイールモータ駆動ユニット内の歯車組に達することのないよう吸収する機構を追加することが考えられる。
しかし、かかる変位吸収機構を追加する対策は、インホイールモータ駆動ユニットのコスト高や、大型化を生ずるだけでなく、伝動系の捩り振動固有値の低下を招いて、音振性能の悪化を生ずるという別の問題を発生し、抜本的な解決策たり得ない。
【0011】
本発明は、この観点から当該変位吸収機構の追加に頼ることなく、前記のような横力や、ホイールハブの変位(ガタ)によっても、歯車組を構成する部品間に径方向の相対変位を生じないような構成とし、これにより上記の問題を回避し得るよう改良したインホイールモータ駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため、本発明のインホイールモータ駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるインホイールモータ駆動ユニットを説明するに、これは、
ハウジングに内蔵した電動モータがモータ軸から変速歯車組を経て出力軸へモータ回転を向かわせ、該出力軸へのモータ回転を、上記ハウジングに回転自在に支持した車輪取り付けメンバに伝達するようにしたものである。
【0013】
本発明は、かかるインホイールモータ駆動ユニットに対し、以下の改良を施した構成に特徴づけられる。
つまり先ず、上記車輪取り付けメンバから遠い上記出力軸の内端を上記ハウジングに回転自在に支持し、反対側における前記出力軸の外端は上記車輪取り付けメンバを介して上記ハウジングに回転自在に支持する。
そして、上記モータ軸を上記出力軸に相対変位不能にして回転自在に嵌合し、これらモータ軸および出力軸に上記変速歯車組の構成要素を取り付けたものである。
【発明の効果】
【0014】
かかる本発明のインホイールモータ駆動ユニットによれば、前記した横力や、車輪取り付けメンバの変位(ガタ)によっても、モータ軸および出力軸が相対変位することがなく、一体的に変位するだけであるため、これらモータ軸および出力軸に取り付けた変速歯車組の構成要素も全てが一体的に変位することとなる。
【0015】
このため、変速歯車組の構成要素が径方向に相対変位することがなく、歯車間の噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くという前記の問題を生じなくし得ると共に、不快な異音が発生するという問題も生じなくすることができ、更に、変速歯車組内における抵抗力の増大で車輪が減速されるという現象も回避することができる。
【0016】
しかも、前記した変位吸収機構の追加に頼ることなく上記の効果が得られるようにしたため、変位吸収機構の追加による前記の問題、つまりインホイールモータ駆動ユニットのコスト高や、大型化に関する問題や、伝動系の捩り振動固有値の低下による音振性能の悪化に関した問題を生ずることなく、上記の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図2】本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを示し、 (a)は、該インホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図、 (b)は、タイヤ横力入力時における該インホイールモータ駆動ユニットの出力軸傾斜状態を例示する説明図である。
【図3】本発明の第3実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図4】本発明の第4実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図5】本発明の第5実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図6】本発明の第6実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図7】本発明の第7実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図8】本発明の第8実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図9】本発明の第9実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図10】本発明の第10実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図11】本発明の第11実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
【図12】本発明の第12実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの実体構成を示す縦断側面図である。
【図13】本発明の第13実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの実体構成を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図である。
この図において、1は、インホイールモータ駆動ユニットのケース本体1は、該ケース本体1のリヤカバーで、これらケース本体1およびリヤカバー2により、インホイールモータ駆動ユニットのハウジング3を構成する。
【0019】
図1に示すインホイールモータ駆動ユニットは、ハウジング3内に電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5(以下、単に「減速歯車組」と言う)を収納して構成する。
電動モータ4は、ケース本体1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ4sと、かかる円環状ステータ4sの内周にラジアルギャップ(径方向隙間)を持たせて同心に配したロータ4rとで構成し、ロータ4rをモータ軸6に結合する。
【0020】
減速歯車組5は本発明における変速歯車組に相当するもので、上記モータ軸6と出力軸7との間を駆動結合する用をなす。
出力軸7は、ハウジング3内における内端7aを軸受8によりハウジング3(リヤカバー1)に対し回転自在に支持し、他端(外端)7bをハウジング3(ケース本体1)の前端開口1aから突出させる。
【0021】
ハウジング3(ケース本体1)の前端開口1a内には、複列アンギュラベアリングを可とするホイールベアリング9を介してホイールハブ11を回転自在に支持する。
ホイールハブ11の外周部には、ブレーキディスク12を同心に固着して設けると共に、ホイールハブ11の外周部からブレーキディスク12を貫通して車幅方向外方に突出する複数個のハブボルト13を植設する。
【0022】
ハブボルト13は、車輪14をホイールハブ11に取り付けるためのもので、この取り付けに当たっては図示のごとく、車輪14のホイールディスクに穿ったボルト孔にハブボルト13が貫通するよう、当該ホイールディスクをホイールハブ11の外側面に密接させ、この状態でハブボルト13の先端にホイールナット15を緊締螺合することにより、ホイールハブ11に対する車輪14の取り付けを行う。
従ってホイールハブ11は、本発明における車輪取り付けメンバに相当する。
【0023】
ブレーキディスク12の外周に跨るよう配してブレーキキャリパ16を設け、これブレーキキャリパ16をハウジング3に固設する。
ブレーキキャリパ16は、ブレーキ操作力に応じたブレーキ液圧で作動され、ブレーキディスク12の外周を軸線方向に挟圧して車輪14の制動を行うものとする。
【0024】
ハウジング3(ケース本体1)の前端開口1aから突出する出力軸7の外端7bは、ホイールハブ11の中心孔にセレーション嵌合した後、ロックナット19で抜け止めすることによりホイールハブ11に剛結合する。
かくして出力軸7の外端7bは、ホイールベアリング9によりホイールハブ11を介してハウジング3(ケース本体1)の前端開口1aに回転自在に支持する。
【0025】
モータ軸6は中空とし、出力軸7の両端7a,7b間における箇所で出力軸7上に嵌合する。
モータ軸6の両端開口と、出力軸7との間にそれぞれ、軸受17,18を介在させ、これら軸受17,18によりモータ軸6を出力軸7に対し、軸線方向および径方向相対変位不能な態様で回転自在に支持する。
【0026】
上記のごとくこれらモータ軸6および出力軸7間を駆動結合するための減速歯車組5は、サンギヤ21と、このサンギヤ21に対しホイールハブ11に接近する軸線方向へずらせて同心配置した回転不能なリングギヤ22と、これらサンギヤ21およびリングギヤ22に噛合する大径ピニオン部23aおよび小径ピニオン部23bを一体に有した段付きプラネタリピニオン23と、かかる段付きプラネタリピニオン23を回転自在に支持するキャリア24とにより構成する。
【0027】
サンギヤ21は、ロータ4rを結合したモータ軸6の箇所と、軸受18との間における軸線方向位置で、モータ軸6の外周に一体成形し、減速歯車組5の入力要素として機能させ、
キャリア24は、出力軸7に結着し、減速歯車組5の出力要素として機能させ、
リングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に廻り止め、且つ抜け止めして取り付け、減速歯車組5の反力要素として機能させる。
ただしリングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に対し径方向の遊びを設定して取り付ける。
【0028】
ところでホイールハブ11は、タイヤ接地面から車輪14へタイヤ横力(車幅方向荷重)が入力されると、またホイールベアリング9の摩耗や製造誤差などで「ガタ」が発生すると、ホイールハブ11がハウジング3に対し例えば矢Aで示す径方向へ相対変位する。
この時におけるホイールハブ11の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、ケース本体1(ハウジング3)に取り付けて設ける。
従って変位センサ25は、本発明におけるガタ量検出手段に相当する。
【0029】
変位センサ25からの信号を受信する図示せざる安全対策手段を設け、この手段は、変位センサ25が検出したホイールハブ11の径方向ガタ量に応答して、この径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6への出力を制限したり、警報を運転者に発するものとする。
【0030】
<第1実施例の作用>
電動モータ4のステータ4sに通電すると、これからの電磁力で電動モータ4のロータ4rが回転駆動され、この回転駆動力はモータ軸6を介して減速歯車組5のサンギヤ21に伝達される。
これによりサンギヤ21は、大径ピニオン部23aを介して段付きプラネタリピニオン23を回転させるが、このとき廻り止めされているリングギヤ22が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリピニオン23は、小径ピニオン部23bがリングギヤ22の内周に沿って転動し、また大径ピニオン部23aがサンギヤ21の外周に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリピニオン23の遊星運動は、キャリア24および出力軸7を順次介してホイールハブ11に伝達され、ホイールハブ11をモータ軸6と同方向に回転させる。
【0031】
上記の伝動作用により減速歯車組5は、電動モータ4からモータ軸6への回転を、サンギヤ21の歯数およびリングギヤ22の歯数により決まる比で減速してホイールハブ11に伝達する。
ホイールハブ11への回転は、これにハブボルト13で結合した車輪14に伝達され、車両を走行させることができる。
【0032】
<第1実施例の効果>
第1実施例においては矢Aで例示するごとく、タイヤ横力によるホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ハブベアリング9の摩耗や製造誤差などによるホイールハブ11の変位「ガタ」が発生するとき、出力軸7は軸受8による支持点O1の周りでモータ軸6と共に対応方向へ揺動する。
【0033】
従って、上記したホイールハブ11の倒れ(こじり)や変位(ガタ)によっても、モータ軸6および出力軸7は相対変位することがなく、一体的に変位するだけであるため、これらモータ軸6および出力軸7に対し前記したごとく取り付けた減速歯車組5の構成要素21,23,24も全てが一体的に変位することとなる。
【0034】
このため、変速歯車組5の構成要素21,23,24が径方向に相対変位することがなく、またリングギヤ22が前記した通り、ハウジング3の内周に径方向の遊びをもって回転係合されていることとも相俟って、変速歯車組5の歯車間における噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くという問題を回避し得ると共に、不快な異音が発生するという問題も回避可能であり、更に、変速歯車組5内の抵抗力が増大して車輪14が減速される現象も回避することができる。
【0035】
しかも、ホイールハブ11の倒れ(こじり)や変位(ガタ)が減速歯車組5に及ばないようにする変位吸収機構の追加に頼るのではなく、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けて上記の効果が得られるようにしたため、
変位吸収機構を追加する場合の問題、つまりインホイールモータ駆動ユニットのコスト高や、大型化に関する問題や、伝動系の捩り振動固有値の低下による音振性能の悪化に関した問題を生ずることなく、上記の効果を奏することができる。
【0036】
そして、同様な構成上の理由からモータ軸6および出力軸7を、減速歯車組5の構成要素21,23,24と共に予備組み立てしておくことができ、インホイールモータ駆動ユニットの組み立て作業性が向上して、組み立て工程の簡易化およびコスト低減にとっても大いに有利である。
【0037】
また、出力軸7をホイールハブ11から遠い端部7aにおいて軸受8でハウジング3に支持したため、
ホイールハブ11の矢Aで示す変位時にモータ軸6および出力軸7が、軸受8による支持点O1の周りに揺動すると共に、この揺動中心O1およびホイールハブ11間に電動モータ4および減速歯車組5が位置することとなる。
【0038】
このため、ホイールハブ11の矢Aで示す変位量よりも、電動モータ4(ロータ4r)および減速歯車組5(構成要素21,23,24)の同方向変位量が小さく、その分だけ、ロータ4rおよびステータ4s間のラジアルギャップを小さくし得ると共に、リングギヤ22およびハウジング3間に設定すべき径方向の遊びを小さくすることができる。
従って、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを減じて歯車打音やギヤ噛み合い騒音を小さくすることができると共に、伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0039】
更に本実施例においては、ホイールハブ11の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、図1のごとくハウジング3に設け、このセンサ25で検出したホイールハブ11の径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6へのモータ出力を制限したり、警報を運転者に発するようにしたため、安全上大いに有利であると共に、信頼性を向上させることができる。
【0040】
ちなみに減速歯車組5自身は大きなホイールハブ11のガタ量を許容し得ないものであるが、本実施例のインホイールモータ駆動ユニットでは上記した特異な構成によりホイールハブ11の許容ガタ量が上記の通り大きくなることから、
センサ25によるホイールハブ11のガタ量検出が可能になり、このセンサ25による検出結果を用いて本実施例のような安全対策が実現可能となる。
【0041】
<第2実施例の構成>
図2(a)は、本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図、同図(b)は出力軸7およびホイールハブ11の相関関係を示す模式図で、これらの図中、図1におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図1に示した第1実施例と略同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付ける。
【0042】
しかし、出力軸7の外端7bをホイールハブ11に剛結合せず、以下の要領で揺動可能に駆動結合する。
つまり、出力軸7に対向するホイールハブ11の端面に中心軸部11aと、これに同心の円筒部11bとを一体成形して設け、これら中心軸部11aおよび円筒部11b間の円環状開口に嵌合するような形状に出力軸7の外端7bを成形する。
【0043】
ホイールハブ11の中心軸部11aと出力軸7の外端7bとの間に軸受31を介在させ、この軸受31を介してホイールハブ11の中心軸部11a上に出力軸7の外端7bを、支持点O2の周りで揺動し得るよう支持する。
出力軸7の外端7bは更に、その外周をギヤカップリングや等速ジョイントなどの噛合式駆動結合機構32で円筒部11bの内周に回転係合させ、これにより出力軸7の外端7bをホイールハブ11に対し支持点O2の周りで揺動し得るよう駆動結合する。
【0044】
<第2実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、第1実施例と同様に機能し、同様な効果を達成し得るが、それに加えて以下の作用、効果をも奏することができる。
【0045】
つまり、図1の矢Aで例示するごとく、タイヤ横力によるホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ハブベアリング9の摩耗や製造誤差などによるホイールハブ11の変位「ガタ」が発生するとき、
ホイールハブ11は図2(b)に示すように、出力軸7に対し軸受31による支持点O2の周りで揺動しつつ、或る中心点O3の周りで例えば矢Bの方向へ変位し、出力軸7を軸受8による支持点O1の周りでモータ軸6と共に対応方向へ揺動させて傾斜させる。
【0046】
この間モータ軸6および出力軸7は相対変位することなく一体的に変位するだけであるため、これらモータ軸6および出力軸7に対し前記したごとく取り付けた減速歯車組5の構成要素21,23,24も全てが一体的に変位することとなり、変速歯車組5の歯車間における噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くという問題を回避し得ると共に、不快な異音が発生するという問題も回避可能であり、更に、変速歯車組5内の抵抗力が増大して車輪14が減速される現象も回避することができる。
【0047】
しかも本実施例では、出力軸7およびホイールハブ11間を揺動可能に駆動結合したため、ホイールハブ11の変位の発生形態によらず、この変位がインホイールモータ駆動ユニット内の変速歯車組5に至るのを確実に回避して、上記の作用、効果を一層確実なものにすることができる。
【0048】
また同様な理由から、路面から車輪14への反力がホイールハブ11から出力軸7に至るのを、ホイールハブ11および出力軸7間の噛合型変位吸収式駆動結合機構32において緩和することができ、出力軸7自身はもとより、その軸受8,31の小型化および軽量化を図ることができる。
【0049】
<第3実施例の構成>
図3は、本発明の第3実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図1,2におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図1に示した第1実施例と略同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付ける。
【0050】
しかし、出力軸7の外端7bをホイールハブ11に剛結合せず、以下の要領で、但し図2の第2実施例とは若干異なる構成で、揺動可能に駆動結合する。
つまり、出力軸7に対向するホイールハブ11の端面に同心の円筒部11bを一体成形して設け、この円筒部11b内に出力軸7の外端7bを挿入する。
出力軸7の外端7bには更に、ホイールハブ円筒部11bの外周に被さるよう軸線方向に突出する円筒部7cを一体成形する。
【0051】
ホイールハブ11の円筒部11bと、この円筒部11b内に侵入する出力軸7の外端7bとの間に軸受31を介在させ、この軸受31を介してホイールハブ円筒部11b内に出力軸7の外端7bを、支持点O2の周りで揺動し得るよう支持する。
出力軸7の円筒部7cには、その内周と、ホイールハブ円筒部11bの外周との間を駆動結合する、ギヤカップリングや等速ジョイントなどの噛合式駆動結合機構32を設け、これにより出力軸7の外端7bをホイールハブ11に対し支持点O2の周りで揺動し得るよう駆動結合する。
【0052】
<第3実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、第1実施例と同様に機能し、同様な効果を達成し得るが、それに加えて、第2実施例と同様に、以下の作用、効果をも奏することができる。
【0053】
つまり、図1の矢Aで例示するごとく、タイヤ横力によるホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ハブベアリング9の摩耗や製造誤差などによるホイールハブ11の変位「ガタ」が発生するとき、
ホイールハブ11は図2(b)につき前述したように、出力軸7に対し軸受31による支持点O2の周りで揺動しつつ、或る中心点O3の周りで例えば矢Bの方向へ変位し、出力軸7を軸受8による支持点O1の周りでモータ軸6と共に対応方向へ揺動させて傾斜させる。
【0054】
この間モータ軸6および出力軸7は相対変位することなく一体的に変位するだけであるため、これらモータ軸6および出力軸7に対し前記したごとく取り付けた減速歯車組5の構成要素21,23,24も全てが一体的に変位することとなり、変速歯車組5の歯車間における噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くという問題を回避し得ると共に、不快な異音が発生するという問題も回避可能であり、更に、変速歯車組5内の抵抗力が増大して車輪14が減速される現象も回避することができる。
【0055】
しかも本実施例では、出力軸7およびホイールハブ11間を揺動可能に駆動結合したため、ホイールハブ11の変位の発生形態によらず、この変位がインホイールモータ駆動ユニット内の変速歯車組5に至るのを確実に回避して、上記の作用、効果を一層確実なものにすることができる。
【0056】
また同様な理由から、路面から車輪14への反力がホイールハブ11から出力軸7に至るのを、ホイールハブ11および出力軸7間の噛合型変位吸収式駆動結合機構32において緩和することができ、出力軸7自身はもとより、その軸受8,31の小型化および軽量化を図ることができる。
【0057】
<第4実施例の構成>
図4は、本発明の第4実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図1,2におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図1に示した第1実施例と略同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付ける。
【0058】
しかし、出力軸7の外端7bをホイールハブ11に剛結合せず、図2(a)に示す第2実施例と同様な要領で、支持点O2の周りに揺動可能にして駆動結合する。
【0059】
そしてモータ軸6は、その両端6a,6bにおける軸受17,18により、出力軸7に対し相対変位不能な態様で回転自在に支持する。
一方、ホイールハブ11から遠いモータ軸6の内端6aを軸受33でハウジング3に回転自在に支持することにより、モータ軸6の内端6aを介して出力軸7の内端7aをハウジング3に回転自在に支持する。
よって本実施例の場合、ハウジング3に対するモータ軸6の内端支持点O1は軸受33により提供されることとなる。
【0060】
<第4実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、第1実施例と同様に機能し、同様な効果を達成し得ると共に、第2実施例と同様な作用、効果を奏することができる。
【0061】
加えて本実施例では、軸受17,33が同じ軸線方向位置に存在するため、軸線方向寸法の短縮が可能であると共に、モータ軸6および出力軸7に作用する反力が同じ軸直角面内において軸受17,33に負荷されることとなって、荷重範囲を最小限にすることができ、部品必要強度の低下によりインホイールモータ駆動ユニットの小型化に寄与する。
【0062】
<第5実施例の構成>
図5は、本発明の第5実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図1,2におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図1に示した第1実施例と略同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付ける。
【0063】
しかし、出力軸7の外端7bをホイールハブ11に剛結合せず、図2(a)に示す第2実施例と同様な要領で、支持点O2の周りに揺動可能にして駆動結合する。
【0064】
そして出力軸7は、その内端7aを図2(a)に示す第2実施例と同様、軸受8によりハウジング3に回転自在に支持するが、
モータ軸6は、その内端6aを出力軸7に支持せず(図2の軸受17を排除し)、その代わりに軸受33によりハウジング3に対し回転自在に支持する。
【0065】
従って、ハウジング3に対する出力軸7の内端支持点O1は、図2(a)に示す第2実施例と同様、軸受8により提供されるが、
ハウジング3に対するモータ軸6の内端支持点O4は、前記した何れの実施例とも異なり、軸受33により提供されることとなる。
しかし、ハウジング3に対するモータ軸6の内端支持点O4は、ハウジング3に対する出力軸7の内端支持点O1にできるだけ近いのがよく、このため軸受33は可能な限り軸受8の近くに配置する。
【0066】
<第5実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、モータ軸6の揺動中心O4が出力軸7の揺動中心O1と異なる以外、第1実施例および第2実施例と同様に作用し、モータ軸6の揺動中心O4を出力軸7の揺動中心O1にできるだけ接近させることもあって、第1実施例および第2実施例と同様な効果を奏することができる。
【0067】
加えて本実施例では、軸受8,33がそれぞれ、出力軸7およびモータ軸6に作用する反力を個別に受け止めることとなって、これら軸受8,33の小型、軽量化が可能であり、インホイールモータ駆動ユニットの小型化および軽量化に寄与する。
また、出力軸7およびモータ軸6から軸受8,33への反力が、ハウジング3にそのまま個別に伝達されるため、これら反力が合算されることがなくなり、軸受8,33を設置するハウジング3の箇所を補強する必要がなくて、この点でもインホイールモータ駆動ユニットの小型、軽量化および低廉化が可能である。
【0068】
<第6実施例の構成>
図6は、本発明の第6実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図2におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図2に示した第2実施例と基本的に同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けると共に、
出力軸7の外端7bをホイールハブ11に対し、支持点O2の周りに揺動可能にして駆動結合する。
【0069】
しかして、モータ軸6および出力軸7間に介在させる減速歯車組5を、図2に示した第2実施例とは軸線方向逆向きに配置する。
つまり、モータ軸6上に形成したサンギヤ21よりもホイールハブ11から遠い軸線方向位置にリングギヤ22を配置する。
このリングギヤ22をハウジング3の内周に廻り止めして、しかし径方向へ若干の遊びを持たせて収納する。
【0070】
プラネタリピニオン23は、その大径ピニオン部23aが小径ピニオン部23bよりもホイールハブ11に近くなる向きにしてキャリア24に回転自在に支持し、プラネタリピニオン23の大径ピニオン部23aをサンギヤ21に噛合させ、小径ピニオン部23bをリングギヤ22の内周に噛合させる。
【0071】
<第6実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、減速歯車組5が図2に示した第2実施例と左右逆向きであっても、第2実施例と同様に作用し、同様な効果を奏することができる。
【0072】
加えて本実施例では、減速歯車組5が図2に示した第2実施例と左右逆向きであるため、リングギヤ22がホイールハブ11から遠い軸線方向位置にあって、出力軸7およびモータ軸6の揺動中心O1に近いため、
支持点O1周りにおける出力軸7およびモータ軸6の揺動に伴う減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位量が少なくなる。
【0073】
そのため、かかる減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位量を吸収し得るよう設定すべきリングギヤ22の径方向における遊びが少なくてよく、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを減じて、歯車打音やギヤ噛み合い騒音を小さくすることができると共に、伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0074】
<第7実施例の構成>
図7は、本発明の第7実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図2,6におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図2,6に示した第2実施例および第6実施例と基本的に同様な構成とし、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けると共に、
出力軸7の外端7bをホイールハブ11に対し、支持点O2の周りに揺動可能にして駆動結合する。
そして、モータ軸6および出力軸7間に介在させる減速歯車組5を、図6に示した第6実施例と同様な向き、つまり図2に示した第2実施例とは軸線方向逆向きに配置する。
【0075】
ところで本実施例においては、かかる向きに配置した減速歯車組5を、図6よりも更にホイールハブ11から遠い軸線方向位置に配置する。
つまり減速歯車組5のキャリア24を、出力軸7の内端7aに結合して取り付け、サンギヤ21をモータ軸6の内端6aに一体成形して設ける。
【0076】
そして、モータ軸6の内端6aに形成したサンギヤ21よりもホイールハブ11から遠い軸線方向位置にリングギヤ22を配置し、
このリングギヤ22をハウジング3の内周に廻り止めして、しかし径方向へ若干の遊びを持たせて収納する。
【0077】
プラネタリピニオン23は、その大径ピニオン部23aが小径ピニオン部23bよりもホイールハブ11に近くなる向きにしてキャリア24に回転自在に支持し、プラネタリピニオン23の大径ピニオン部23aをサンギヤ21に噛合させ、小径ピニオン部23bをリングギヤ22の内周に噛合させる。
【0078】
<第7実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、減速歯車組5が図6に示した第6実施例よりも更にホイールハブ11から遠い軸線方向位置に配置されていても、第6実施例(第2実施例)と同様に作用し、同様な効果を奏することができる。
【0079】
加えて本実施例では、減速歯車組5が図6に示した第6実施例よりも更にホイールハブ11から遠い軸線方向位置に配置されているため、リングギヤ22が図6の第6実施例よりも更にホイールハブ11から遠い軸線方向位置にあって、出力軸7およびモータ軸6の揺動中心O1に近い。
【0080】
このため、支持点O1周りにおける出力軸7およびモータ軸6の揺動に伴う減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位量が少なくなる。
従って、かかる減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位量を吸収し得るよう設定すべきリングギヤ22の径方向における遊びが更に少なくてよく、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを更に減じて、歯車打音やギヤ噛み合い騒音を更に小さくすることができると共に、更なる伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0081】
<第8実施例の構成>
図8は、本発明の第8実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面図で、この図中、図7におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図7に示した第7実施例と基本的に同様な構成とする。
【0082】
つまり、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付ける。
また、出力軸7の外端7bをホイールハブ11に対し、支持点O2の周りに揺動可能にして駆動結合する。
そして、モータ軸6および出力軸7間に介在させる減速歯車組5を、リングギヤ22がサンギヤ21よりもホイールハブ11から遠い軸線方向位置となる向きに配置する。
【0083】
ところで本実施例においては、かかる向きの減速歯車組5を、図6の第6実施例と同様な趣旨でホイールハブ11から遠い軸線方向位置に配置するに際し、
減速歯車組5のリングギヤ22が、ハウジング3に対する出力軸7の内端軸受8と同じ軸線方向位置となるよう減速歯車組5を配置する。
【0084】
<第8実施例の作用、効果>
かかる本実施例のインホイールモータ駆動ユニットは、減速歯車組5が上記の配置であっても、第6実施例(第2実施例)と同様に作用し、同様な効果を奏することができる。
【0085】
加えて本実施例では、減速歯車組5のリングギヤ22が、ハウジング3に対する出力軸7の内端軸受8と同じ軸線方向位置に存在するため、リングギヤ22が出力軸7およびモータ軸6の揺動中心O1と同じ軸線方向位置にあって、両者間の軸線方向離間距離が0である。
【0086】
このため、支持点O1周りにおける出力軸7およびモータ軸6の揺動に伴う減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位時に、リングギヤ22と噛合する小径ピニオン部23bの径方向変位量も理論上0になる。
従って、かかる小径ピニオン部23bの径方向変位量を吸収し得るよう設定すべきリングギヤ22の径方向における遊びが理論上必要でなくなり、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを更に減じて、歯車打音やギヤ噛み合い騒音を更に小さくすることができると共に、更なる伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0087】
なお、出力軸7およびモータ軸6の揺動に伴う減速歯車組5(構成要素21,23,24)の径方向変位時に、小径ピニオン部23bは径方向変位することなく傾動するのみであるため、リングギヤ22は小径ピニオン部23bのかかる傾動を吸収し得るよう、ハウジング3に対し傾動方向の遊びを持たせるだけでよい。
【0088】
ところでリングギヤ22の傾動方向における遊びは、ハウジング3とリングギヤ22との間の廻り止め歯22aに図示のごときクラウニングを施すだけで簡単、且つ容易に設定し得ることから、径方向の遊びを設定するよりも遙かに対処し易くて有利である。
また、リングギヤ22の傾動方向における遊びは、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュに関与しないため、このバックラッシュを悪化させることなく、リングギヤ22の傾動方向における遊びを要求とおりに設定することができ、この点でも大いに有利である。
【0089】
<第9実施例の構成>
図9は、本発明の第9実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面で、この図中、図2(a)におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、減速歯車組5を含めて図2に示した第2実施例と基本的に同様な構成とするが、減速歯車組5を、そのリングギヤ22が軸受31と同じ軸線方向位置となるよう、ホイールハブ11の外周に配置する。
【0090】
<第9実施例の作用、効果>
本実施例においても、減速歯車組5がホイールハブ11を取り巻くようその外周に配置されている以外、図2に示した第2実施例と同様な構成であるため、この第2実施例と同様な作用、効果を奏し得る。
【0091】
そして、減速歯車組5の上記した特異な配置に起因し、インホイールモータ駆動ユニットの軸線方向長さを短縮することができると共に、減速歯車組5の大径化により減速比を大きくし得て、電動モータ4をその定格トルクの低下により小型化および軽量化することができる。
【0092】
<第10実施例の構成>
図10は、本発明の第10実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面で、この図中、図3におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、減速歯車組5を含めて図3に示した第3実施例と基本的に同様な構成とするが、減速歯車組5を、そのリングギヤ22が軸受31と同じ軸線方向位置となるよう、ホイールハブ11の内周に配置する。
【0093】
このため、出力軸7に対向するホイールハブ11の端面に、図3につき前述した同心円筒部11bのほかに、これを取り巻くドラム部11cを一体成形して設ける。
ドラム部11cはハウジング3(ケース本体1)の開口前端1bに被せて配置し、ドラム部11cの内周とハウジング3(ケース本体1)の開口前端1bとの間にホイールベアリング9を介在させることにより、ホイールハブ11をハウジング3に対し回転自在に支持する。
【0094】
ハウジング3(ケース本体1)の開口前端1b内に、リングギヤ22を廻り止めして、しかし径方向へ遊び分だけ変位可能にして配置し、
該リングギヤ22の内周およびサンギヤ21の外周にそれぞれ、段付きプラネタリピニオン23の小径ピニオン部23bおよび大径ピニオン部23aを噛合させて減速歯車組5を構成する。
つまり減速歯車組5を、ハウジング3に対するホイールハブ11の軸受部9の内周に配置する。
【0095】
<第10実施例の作用、効果>
本実施例においても、減速歯車組5がハウジング3に対するホイールハブ11の軸受部9の内周に配置されている以外、図3に示した第3実施例と同様な構成であるため、この第3実施例と同様な作用、効果を奏し得る。
【0096】
そして、減速歯車組5の上記した特異な配置に起因し、インホイールモータ駆動ユニットの軸線方向長さを短縮することができると共に、減速歯車組5の大径化により減速比を大きくし得て、電動モータ4をその定格トルクの低下により小型化および軽量化することができる。
【0097】
更に、ホイールベアリング9の大径化により、その高剛性化を図り得ると共に、負荷容量の低下を図り得て、ホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ホイールハブ11の変位「ガタ」を小さくすることができる。
従って、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを減じて歯車打音やギヤ噛み合い騒音を小さくすることができると共に、伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0098】
<第11実施例の構成>
図11は、本発明の第11実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを模式的に示す概略縦断側面で、この図中、図1におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
本実施例は、図1に示した第1実施例と基本的に同様な構成とするが、減速歯車組5を、同じ遊星歯車式減速歯車組であっても、そのプラネタリピニオン23が段付きピニオンではなくて、1個のピニオン部のみで構成された、以下のようなものとする。
【0099】
つまり、モータ軸6に一体成形したサンギヤ21と同じ軸線方向位置に配してリングギヤ22を設け、これらサンギヤ21およびリングギヤ22にプラネタリピニオン23を噛合させる。
従って減速歯車組5は、サンギヤ21、リングギヤ22およびプラネタリピニオン23を同じ軸線方向位置に配置した構成とする。
【0100】
そして、プラネタリピニオン23を回転自在に支持するキャリア24は、ハウジング3に固設して反力要素となし、リングギヤ22を出力要素としてホイールハブ11に固着する。
なお本実施例でもホイールハブ11を2個のハブベアリング9a,9bによりハウジング3に対し回転自在に支持するが、一方のハブベアリング9bはリングギヤ22の外周とハウジング3との間に介在させて、ホイールハブ11の外周とハウジング3との間における他方のハブベアリング9aから軸線方向に離間させる。
【0101】
従って本実施例では、ハブベアリング9bの内周に減速歯車組5を配置して設けることとなる。
【0102】
<第11実施例の作用、効果>
本実施例においても、減速歯車組5を上記したとおり、前記各実施例よりも簡易な構成となし、キャリア24を反力要素とし、リングギヤ22を出力要素とする以外、図1に示した第1実施例と同様な構成であるため、この第1実施例と同様な作用、効果を奏し得る。
【0103】
そして、減速歯車組5の上記した特異な構成、配置に起因して、インホイールモータ駆動ユニットの軸線方向長さを短縮することができると共に、減速歯車組5の大径化により減速比を大きくし得て、電動モータ4をその定格トルクの低下により小型化および軽量化することができる。
【0104】
更に、ホイールベアリング9bの大径化により、その高剛性化を図り得ると共に、負荷容量の低下を図り得て、ホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ホイールハブ11の変位「ガタ」を小さくすることができる。
従って、小径ピニオン部23bおよびリングギヤ22間のバックラッシュを減じて歯車打音やギヤ噛み合い騒音を小さくすることができると共に、伝動効率の向上およびショック軽減を実現することができる。
【0105】
しかもホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ホイールハブ11の変位「ガタ」を吸収するための径方向の遊びを、設定し難いリングギヤ22およびハウジング3間ではなくて、設定が容易なキャリア24およびハウジング3間、またはキャリア24に対するプラネタリピニオン23の軸承部に持たせるだけでよいため、設計が容易である。
【0106】
更に、減速歯車組5の上記した特異な構成によれば、これを図11に示すごとく、電動モータ4から区画した専用スペースに収納することができ、減速歯車組5用の潤滑油量が少なくてよいほか、この潤滑油が電動モータ4に悪影響を及ぼすのを回避することができ、インホイールモータ駆動ユニットの小型、軽量化、更には低廉化が可能である。
【0107】
<第12実施例の構成>
上記した第1実施例〜第11実施例における各部の着想は任意に組み合わせて用いることができる。
図12は、これら着想の或る組み合わせによって構成した、本発明の第12実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの実体構成を示す縦断側面図である。
なお図12中、図1〜11におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
【0108】
図12のインホイールモータ駆動ユニットは、ケース本体1およびリヤカバー2の相互合体に成るハウジング3内に電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5を収納して構成する。
電動モータ4は、ケース本体1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ4sと、該円環状ステータ4sの内周にラジアルギャップ(径方向隙間)を持たせて同心に配したロータ4rとを具え、ロータ4rをモータ軸6の両端6a,6b間に結合して構成する。
【0109】
モータ軸6は中空として出力軸7に嵌合し、モータ軸6の両端6a,6bと出力軸7との間に介在させた、ローラベアリングを可とする軸受17,18により、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様で相互に回転自在となす。
モータ軸6の車幅方向内側における内端6aの外周および出力軸7の車幅方向内側における内端7aの、ハウジング3に対する支持要領は図4につき前述したと同様とし、
モータ軸6の外周は、ボールベアリングを可とする軸受33によりハウジング3に回転自在、且つ揺動可能に支持し、これにより出力軸7の内端7aは、モータ軸6の内端6aを介してハウジング3に回転自在、且つ揺動可能に支持する。
【0110】
ハウジング3(ケース本体1)の車幅方向外方端の開口1a内にベアリングサポート41を介して、複列アンギュラベアリングを可とするハブベアリング9を取着し、このハブベアリング9を介してホイールハブ11をハウジング3(ケース本体1)に対し回転自在に支持する。
【0111】
ホイールハブ11は中心軸部11aと外周円筒部11bとから成り、円筒部11bの外周フランジにブレーキディスク12を一体結合して具えると共に、これら円筒部11bの外周フランジおよびブレーキディスク12を貫通して車幅方向外方へ突出するハブボルト13を具え、当該ハブボルト13により車輪14をホイールハブ11に取り付ける。
【0112】
出力軸7の車幅方向外側における外端7bは、ホイールハブ11の中心軸部11a内に侵入するよう延在させ、出力軸7の外端7bとホイールハブ11の中心軸部11aとの間に、ボールベアリングを可とする軸受31を介在させる。
このボールベアリングを可とする軸受31は、ホイールハブ11(中心軸部11a)を介して出力軸7の外端7bをハウジング3に対し回転自在に支持する用をなすほか、軸受31の周りにおいて、出力軸7の外端7bとホイールハブ11(中心軸部11a)との間の相対的な揺動を許容する。
【0113】
減速歯車組5は本発明における変速歯車組に相当し、上記モータ軸6と出力軸7との間を駆動結合するもので、
サンギヤ21と、このサンギヤ21に対しホイールハブ11に接近する軸線方向へずらせて同心配置した回転不能なリングギヤ22と、これらサンギヤ21およびリングギヤ22に噛合する大径ピニオン部23aおよび小径ピニオン部23bを一体に有した段付きプラネタリピニオン23と、かかる段付きプラネタリピニオン23を回転自在に支持するキャリア24とにより構成する。
【0114】
サンギヤ21は、ロータ4rを結合したモータ軸6の箇所と、軸受18との間における軸線方向位置で、モータ軸6の外周に一体成形し、減速歯車組5の入力要素として機能させ、
キャリア24は、出力軸7に結着し、減速歯車組5の出力要素として機能させ、
リングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に廻り止め、且つ抜け止めして取り付け、減速歯車組5の反力要素として機能させる。
ただしリングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に対し径方向の遊びを設定して取り付ける。
【0115】
キャリア24には、ホイールハブ11の外周円筒部11b内に侵入するよう軸線方向に突出させて円筒部24aを設け、円筒部24aの先端外周をギヤカップリングや等速ジョイントなどの噛合式駆動結合機構32でホイールハブ外周円筒部11bの内周に回転係合させる。
しかして噛合式駆動結合機構32は、前記した軸受31の周りにおける出力軸7とホイールハブ11との相対的な揺動を許容し、この揺動中もキャリア24の円筒部24aと、ホイールハブ外周円筒部11bとの回転係合を維持し得るものとする。
【0116】
また、ホイールハブ11が、タイヤ接地面から車輪14へのタイヤ横力(車幅方向荷重)や、ホイールベアリング9の摩耗や製造誤差などによる「ガタ」で、ハウジング3に対し径方向へ相対変位した時の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、ケース本体1(ハウジング3)に取り付けて設ける。
【0117】
かかる変位センサ25からの信号を受信する図示せざる安全対策手段を設け、この手段は、変位センサ25が検出したホイールハブ11の径方向ガタ量に応答して、この径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6への出力を制限したり、警報を運転者に発するものとする。
【0118】
<第12実施例の作用>
電動モータ4からモータ軸6への回転は減速歯車組5のサンギヤ21に伝達される。
サンギヤ21は、大径ピニオン部23aを介して段付きプラネタリピニオン23を回転させるが、このとき廻り止めされているリングギヤ22が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリピニオン23は、小径ピニオン部23bがリングギヤ22の内周に沿って転動し、また大径ピニオン部23aがサンギヤ21の外周に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリピニオン23の遊星運動は、キャリア24およびその円筒部24aを順次介してホイールハブ11に伝達され、ホイールハブ11をモータ軸6と同方向に回転させる。
【0119】
上記の伝動作用により減速歯車組5は、電動モータ4からモータ軸6への回転を、サンギヤ21の歯数およびリングギヤ22の歯数により決まる比で減速してホイールハブ11に伝達する。
ホイールハブ11への回転は、これにハブボルト13で結合した車輪14に伝達され、車両を走行させることができる。
【0120】
<第12実施例の効果>
本実施例においては、タイヤ横力によるホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ハブベアリング9の摩耗や製造誤差などによるホイールハブ11の変位「ガタ」が発生するとき、
ホイールハブ11は図2(b)につき前述したように、出力軸7に対し軸受31による支持点(O2)の周りで揺動しつつ、或る中心点(O3)の周りで例えば図2(b)の矢印B方向へ変位し、出力軸7を軸受33による支持点(O1)の周りでモータ軸6と共に対応方向へ揺動させて傾斜させる。
【0121】
この間モータ軸6および出力軸7は相対変位することなく一体的に変位するだけであるため、これらモータ軸6および出力軸7に対し前記したごとく取り付けた減速歯車組5の構成要素21,23,24も全てが一体的に変位することとなり、径方向に相対変位することがなく、またリングギヤ22が前記した通り、ハウジング3の内周に径方向の遊びをもって回転係合されていることとも相俟って、変速歯車組5の歯車間における噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くことがないと共に、不快な異音が発生することもなく、更に、変速歯車組5内の抵抗力が増大して車輪14が減速される現象を生じることもない。
【0122】
しかも本実施例では、出力軸7およびホイールハブ11間を軸受31および噛合型変位吸収式駆動結合機構32で揺動可能に駆動結合したため、ホイールハブ11の変位の発生形態によらず、この変位がインホイールモータ駆動ユニット内の変速歯車組5に至るのを確実に回避して、上記の作用、効果を一層確実なものにすることができる。
【0123】
また同様な理由から、路面から車輪14への反力がホイールハブ11から出力軸7に至るのを、ホイールハブ11および出力軸7間の軸受31および噛合型変位吸収式駆動結合機構32において緩和することができ、出力軸7自身はもとより、これに係わる軸受31,33の小型化および軽量化を図ることができる。
【0124】
しかも、ホイールハブ11の倒れ(こじり)や変位(ガタ)が減速歯車組5に及ばないようにする変位吸収機構の追加に頼るのではなく、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けて上記の効果が得られるようにしたため、
変位吸収機構を追加する場合のようにコスト高や、大型化に関する問題や、伝動系の捩り振動固有値の低下による音振性能の悪化に関した問題を生ずることなく、上記の効果を奏することができる。
【0125】
そして、同様な構成上の理由からモータ軸6および出力軸7を、減速歯車組5の構成要素21,23,24と共に予備組み立てしておくことができ、インホイールモータ駆動ユニットの組み立て作業性が向上して、組み立て工程の簡易化およびコスト低減にとっても大いに有利である。
【0126】
更に本実施例においては、ホイールハブ11の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、図12のごとくハウジング3に設け、このセンサ25で検出したホイールハブ11の径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6へのモータ出力を制限したり、警報を運転者に発するようにしたため、安全上大いに有利であると共に、信頼性を向上させることができる。
【0127】
<第13実施例の構成>
図13は、前記した第1実施例〜第11実施例における各部の着想を、図12とは異なる組み合わせによって構成した、本発明の第13実施例になるインホイールモータ駆動ユニットの実体構成を示す縦断側面図である。
なお図13中、図1〜12におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
【0128】
図13のインホイールモータ駆動ユニットは、ハウジング3内に収納する電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5を、図12におけると同様に構成するが、
出力軸7に嵌合され、ロータ4rを結合された中空モータ軸6の内端6aと、出力軸7の内端7aとの間に軸受(図12の軸受17に相当するもの)を介在させず、モータ軸6の内端6aおよび出力軸7の内端7aをそれぞれハウジング3に対し、図5につき前述した要領で個々の軸受33,8により回転自在に支持する。
【0129】
つまり、これらモータ軸6の内端6aおよび出力軸7の内端7aを軸承するハウジング3(リヤカバー2)の開口内に、ボールベアリングを可とする軸受33を介してパークロックギヤ42を回転自在に支持する。
そして、該パークロックギヤ42の内周にモータ軸6の内端6aをセレーション嵌合などにより一体結合し、このパークロックギヤ42を介して軸受33によりモータ軸6の内端6aをハウジング3(リヤカバー2)に対し、揺動可能な態様で回転自在に支持する。
【0130】
また、モータ軸6の内端6aから突出する出力軸7の内端7aと、パークロックギヤ42の内周との間に、ボールベアリングを可とする軸受8を介在させ、この軸受8によりパークロックギヤ42を介して出力軸7の内端7aをハウジング3(リヤカバー2)に対し、揺動可能な態様で回転自在に支持する。
軸受8は、軸受33と略同じ軸線方向位置に位置させ、軸受8による出力軸7の支持点O1(図5参照)を、軸受33によるモータ軸6の支持点O4(図5参照)と、略同じ軸線方向位置に位置させる。
【0131】
ハウジング3(ケース本体1)の車幅方向外方端の開口1a内にベアリングサポート41を介して、複列アンギュラベアリングを可とするハブベアリング9を取着し、このハブベアリング9を介してホイールハブ11をハウジング3(ケース本体1)に対し回転自在に支持する。
【0132】
ホイールハブ11は中心軸部11aと外周円筒部11bとから成り、円筒部11bの外周フランジにブレーキディスク12を一体結合して具えると共に、これら円筒部11bの外周フランジおよびブレーキディスク12を貫通して車幅方向外方へ突出するハブボルト13を具え、当該ハブボルト13により車輪14をホイールハブ11に取り付ける。
【0133】
出力軸7の外端7bは先端を、ホイールハブ11の中心軸部11aに被さるよう筒状に延在させ、出力軸筒状外端7bの内周とホイールハブ中心軸部11aの外周との間に、ボールベアリングを可とする軸受31を介在させる。
このボールベアリングを可とする軸受31は、ホイールハブ11(中心軸部11a)を介して出力軸7の外端7bをハウジング3に対し回転自在に支持する用をなすほか、軸受31の周りにおいて、出力軸7の外端7bとホイールハブ11(中心軸部11a)との間の相対的な揺動を許容する。
【0134】
出力軸筒状外端7bの外周は、ギヤカップリングや等速ジョイントなどの噛合式駆動結合機構32でホイールハブ外周円筒部11bの内周に回転係合させる。
しかして噛合式駆動結合機構32は、上記した軸受31の周りにおける出力軸7とホイールハブ11との相対的な揺動を許容し、この揺動中も出力軸7の外端7bと、ホイールハブ外周円筒部11bとの回転係合を維持し得るものとする。
【0135】
減速歯車組5は図12につき前述したと同様に、サンギヤ21と、このサンギヤ21に対しホイールハブ11に接近する軸線方向へずらせて同心配置した回転不能なリングギヤ22と、これらサンギヤ21およびリングギヤ22に噛合する大径ピニオン部23aおよび小径ピニオン部23bを一体に有した段付きプラネタリピニオン23と、かかる段付きプラネタリピニオン23を回転自在に支持するキャリア24とにより構成する。
【0136】
サンギヤ21は、ロータ4rを結合したモータ軸6の箇所と、軸受18との間における軸線方向位置で、モータ軸6の外周に一体成形し、減速歯車組5の入力要素として機能させ、
キャリア24は、出力軸7に結着し、減速歯車組5の出力要素として機能させ、
リングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に廻り止め、且つ抜け止めして取り付け、減速歯車組5の反力要素として機能させる。
ただしリングギヤ22は、ハウジング3(ケース本体1)の内周に対し径方向の遊びを設定して取り付ける。
【0137】
また、ホイールハブ11が、タイヤ接地面から車輪14へのタイヤ横力(車幅方向荷重)や、ホイールベアリング9の摩耗や製造誤差などによる「ガタ」で、ハウジング3に対し径方向へ相対変位した時の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、ケース本体1(ハウジング3)に取り付けて設ける。
【0138】
かかる変位センサ25からの信号を受信する図示せざる安全対策手段を設け、この手段は、変位センサ25が検出したホイールハブ11の径方向ガタ量に応答して、この径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6への出力を制限したり、警報を運転者に発するものとする。
【0139】
<第13実施例の作用>
電動モータ4からモータ軸6への回転は減速歯車組5のサンギヤ21に伝達され、サンギヤ21は、リングギヤ22を反力受けとして段付きプラネタリピニオン23を、リングギヤ22の内周に沿って転動(遊星運動)させる。
かかる段付きプラネタリピニオン23の遊星運動は、キャリア24、出力軸7の外端7bおよび噛合式駆動結合機構32を順次介してホイールハブ11に伝達され、ホイールハブ11(車輪14)をモータ軸6と同方向に回転させて、車両を走行させることができる。
【0140】
<第13実施例の効果>
本実施例においては、タイヤ横力によるホイールハブ11の倒れ(こじり)や、ハブベアリング9の摩耗や製造誤差などによるホイールハブ11の変位「ガタ」が発生するとき、
ホイールハブ11は図2(b)につき前述したように、出力軸7に対し軸受31による支持点(O2)の周りで揺動しつつ、或る中心点(O3)の周りで例えば図2(b)の矢印B方向へ変位し、出力軸7を軸受8による支持点(O1)の周りで対応方向へ揺動させて傾斜させる。
このときモータ軸6は出力軸7に伴われ、軸受33による支持点(図5にO4により示した)の周りで対応方向へ揺動される。
【0141】
この間、モータ軸6の揺動中心(O4)と出力軸7の揺動中心(O1)とが略同じ軸線方向位置であることもあって、モータ軸6および出力軸7は相対変位することなく一体的に変位するだけである。
従って、これらモータ軸6および出力軸7に対し前記したごとく取り付けた減速歯車組5の構成要素21,23,24も全てが一体的に変位することとなり、径方向に相対変位することがなく、またリングギヤ22が前記した通り、ハウジング3の内周に径方向の遊びをもって回転係合されていることとも相俟って、変速歯車組5の歯車間における噛み合い率が悪化するのを回避することができる。
従って、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招くことがないと共に、不快な異音が発生することもなく、更に、変速歯車組5内の抵抗力が増大して車輪14が減速される現象を生じることもない。
【0142】
しかも本実施例では、出力軸7およびホイールハブ11間を軸受31および噛合型変位吸収式駆動結合機構32で揺動可能に駆動結合したため、ホイールハブ11の変位の発生形態によらず、この変位がインホイールモータ駆動ユニット内の変速歯車組5に至るのを確実に回避して、上記の作用、効果を一層確実なものにすることができる。
【0143】
また同様な理由から、路面から車輪14への反力がホイールハブ11から出力軸7に至るのを、ホイールハブ11および出力軸7間の軸受31および噛合型変位吸収式駆動結合機構32において緩和することができ、出力軸7自身はもとより、これに係わる軸受31,33の小型化および軽量化を図ることができる。
【0144】
しかも、ホイールハブ11の倒れ(こじり)や変位(ガタ)が減速歯車組5に及ばないようにする変位吸収機構の追加に頼るのではなく、モータ軸6および出力軸7を相対変位不能な態様でハウジング3に回転自在に支持し、これらモータ軸6および出力軸7に減速歯車組5の構成要素21,23,24を取り付けて上記の効果が得られるようにしたため、
変位吸収機構を追加する場合のようにコスト高や、大型化に関する問題や、伝動系の捩り振動固有値の低下による音振性能の悪化に関した問題を生ずることなく、上記の効果を奏することができる。
【0145】
そして、同様な構成上の理由からモータ軸6および出力軸7を、減速歯車組5の構成要素21,23,24と共に予備組み立てしておくことができ、インホイールモータ駆動ユニットの組み立て作業性が向上して、組み立て工程の簡易化およびコスト低減にとっても大いに有利である。
【0146】
更に本実施例においては、ホイールハブ11の径方向ガタ量を検出する変位センサ25を、図12のごとくハウジング3に設け、このセンサ25で検出したホイールハブ11の径方向ガタ量が安全上や構造上の許容限界を超えるとき、モータ軸6へのモータ出力を制限したり、警報を運転者に発するようにしたため、安全上大いに有利であると共に、信頼性を向上させることができる。
【0147】
加えて本実施例では、軸受8,33がそれぞれ、出力軸7およびモータ軸6に作用する反力を個別に受け止めることとなって、これら軸受8,33の小型、軽量化が可能であり、インホイールモータ駆動ユニットの小型化および軽量化に寄与する。
また、出力軸7およびモータ軸6から軸受8,33への反力が、ハウジング3にそのまま個別に伝達されるため、これら反力が合算されることがなくなり、軸受8,33を設置するハウジング3の箇所を補強する必要がなくて、この点でもインホイールモータ駆動ユニットの小型、軽量化および低廉化が可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 ケース本体
2 リヤカバー
3 ハウジング
4 電動モータ
5 遊星歯車式減速歯車組(変速歯車組)
6 モータ軸
7 出力軸
8 軸受
9 ハブベアリング
11 ホイールハブ(車輪取り付けメンバ)
17,18 軸受
21 サンギヤ
22 リングギヤ
23 段付きプラネタリピニオン
24 キャリア
31 軸受
32 噛合式駆動結合機構
33 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに内蔵した電動モータがモータ軸から変速歯車組を経て出力軸へモータ回転を向かわせ、該出力軸へのモータ回転を、前記ハウジングに回転自在に支持した車輪取り付けメンバに伝達するようにしたインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記車輪取り付けメンバから遠い前記出力軸の内端を前記ハウジングに回転自在に支持し、反対側における前記出力軸の外端は前記車輪取り付けメンバを介して前記ハウジングに回転自在に支持し、
前記モータ軸を前記出力軸に相対変位不能にして回転自在に嵌合し、これらモータ軸および出力軸に前記変速歯車組の構成要素を取り付けたことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記出力軸の外端を前記車輪取り付けメンバに、揺動可能な態様で駆動結合したことを特徴とする歯車電動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記車輪取り付けメンバから遠い前記モータ軸の内端を前記ハウジングに回転自在に支持し、該モータ軸の内端を介して前記出力軸の内端を前記ハウジングに回転自在に支持しことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記車輪取り付けメンバから遠い前記モータ軸および出力軸の内端をそれぞれ、前記ハウジングに対し直接回転自在に支持したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項5】
前記変速歯車組が、前記ハウジングに回転係合された反力要素を具える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記反力要素とハウジングとの回転係合部に径方向の隙間を設定したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項6】
請求項5に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記反力要素が、前記車輪取り付けメンバから遠い変速歯車組の軸線方向位置に存在するよう、該変速歯車組の軸線方向における向きを定めたことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記変速歯車組を、前記電動モータよりも前記車輪取り付けメンバから遠い軸線方向位置に位置させたことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項8】
前記変速歯車組が、前記ハウジングに回転係合された反力要素を具える、請求項7に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記ハウジングに対する前記出力軸の内端支持部を、前記反力要素と略同じ軸線方向位置としたことを特徴とする歯車伝動ユニット。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記変速歯車組は、前記車輪取り付けメンバに対する前記出力軸の外端支持部と略同じ軸線方向位置において、該支持部を取り巻くよう配置したものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記変速歯車組は、前記ハウジングに対する前記車輪取り付けメンバの支持部と略同じ軸線方向位置において、該支持部により包囲されるよう配置したものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項11】
請求項10に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記変速歯車組の出力要素を前記車輪取り付けメンバの内周に一体的に設けたものであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記車輪取り付けメンバのガタ量を検出するガタ量検出手段と、
該手段からの信号に応答して、車輪取り付けメンバのガタ量が許容限界を超えるとき、前記モータ軸への出力を制限したり、警報を発する安全対策手段とを設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−71685(P2013−71685A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213643(P2011−213643)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】