説明

インホイールモータ

【課題】結合部とホイールとを干渉しにくくして、ホイールサイズを大きくすることのないインホイールモータを提供すること。
【解決手段】インホイールモータMでは、ステータ11及びロータ12を収容し、ホイール41の内側領域に少なくとも一部が配置されるモータケース30と、このモータケース30を車体側部材Sに取り付けるため、ホイール41の外側領域に位置する取付部51と、モータケース30と取付部51とを結合する結合部52と、を有する。そして、この結合部52は、複数のリブを有し、この複数のリブをモータケース30の外側面31bに対して一体成形すると共に、ホイール41の外側領域に延伸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動するインホイールモータに関し、特にトレーリングアーム、ロアアーム、又はショックアブソーバといった車体側部材に対する取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤを支持するホイールの内側に駆動モータを設け、この駆動モータを収容するモータケースにアクスル機能を付加したインホイールモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-247713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のインホイールモータでは、モータケースの上下外側面に台座を設け、この台座にサスペンション機構に連結されるアタッチメントをねじ等で固定する。そのため、アタッチメントがホイールの内側領域に入り込んでしまい、ホイールとアタッチメントが干渉しないように、ホイール内径を大きくする必要があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ホイールサイズを大きくすることのないインホイールモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のインホイールモータでは、モータケースと、取付部と、結合部と、を備えている。
前記モータケースは、ステータ及びロータを収容し、ホイールの内側領域に少なくとも一部が配置される。
前記取付部は、前記モータケースを車体側部材に取り付けるため、前記ホイールの外側領域に位置する。
前記結合部は、前記モータケースと前記取付部とを結合する複数のリブを有し、前記複数のリブを前記モータケースの外側面に対して一体成形すると共に、前記ホイールの外側領域に延伸した。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインホイールモータにあっては、モータケースと、このモータケースを車体側部材に取り付けるための取付部とが、モータケースの外側面に一体成形すると共に、ホイールの外側領域に延伸した複数のリブを有する結合部によって結合されている。
つまり、モータケースと取付部を複数のリブで結合すると共に、各リブをモータケースに対して一体成形した。これにより、結合部に作用する応力は、モータケースの外側面から突出した複数のリブに分散して作用する。そのため、各リブを大きくすることなく、応力を支持することができる。すなわち、結合部の小型化を図ることができる。さらに、この結合部はホイールの外側領域に延伸しているため、ホイールに対する隙間を確保することができる。
この結果、結合部がモータホイールと干渉しにくくなり、ホイールサイズを大きくすることのないインホイールモータとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のインホイールモータを示す断平面図である。
【図2】実施例1のインホイールモータの要部を示す斜視図である。
【図3】図2における矢印A方向からの平面図である。
【図4】第1比較例のインホイールモータを示す斜視図である。
【図5】第2比較例のインホイールモータを示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はホイールとの位置関係を示す断面図である。
【図6】(a)は、実施例2のインホイールモータの要部を示す斜視図であり、(b)は、湯溜まり部を示す平面図であり、(c)は、湯溜まり部を示す側面図である。
【図7】(a)は、比較例のインホイールモータの要部を示す斜視図であり、(b)は、比較例のインホイールモータにおける溶湯が流れる溶湯経路を示す模式図であり、(c)は、比較例のインホイールモータにおける引け巣の発生を示す説明図である。
【図8】(a)は、実施例2のインホイールモータにおける溶湯が流れる溶湯経路を示す模式図であり、(b)は、実施例2のインホイールモータにおける引け巣の発生を示す説明図である。
【図9】実施例2における溶湯の流れと巻き込まれた空気の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のインホイールモータを実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、本発明のインホイールモータにおける構成を、「インホイールモータの全体構成」、「インホイールモータの取付機構の構成」に分けて説明する。
【0011】
[インホイールモータの全体構成]
図1は、実施例1のインホイールモータを示す断平面図である。
【0012】
図1に示すインホイールモータMは、例えば電気自動車に適用されるものであり、タイヤ40を支持するホイール41の内側領域に配置されて、このホイール41と共にタイヤ40を駆動する。ここで、ホイール41の内側領域とは、ホイール41のリム42とホイールディスク46とで囲まれる領域である。
【0013】
前記インホイールモータMは、モータ10と、減速機20と、モータケース30と、を備えている。
【0014】
前記モータ10は、モータケース30の内側に固定した円環状の外周ステータ(以下、単に「ステータ」と言う)11と、このステータ11の内周にラジアルギャップを持たせて同心に配した内周ロータ(以下、単に「ロータ」と言う)12とを有する。
【0015】
前記減速機20は、遊星歯車式減速機であり、同軸に対向させて配置した入力軸21及び出力軸22と、サンギヤ23と、このサンギヤ23に対し軸線方向へずらせて同心配置したリングギヤ24と、これらサンギヤ23及びリングギヤ24に噛合する段付きプラネタリピニオン25と、かかる段付きプラネタリピニオン25を回転自在に支持するキャリア26とを有する。
【0016】
前記入力軸21は、外周面にサンギヤ23を一体成形して具え、このサンギヤ23から延在された部分に、モータ結合部21aを介してロータ12が固定され、このロータ12と一体回転可能に支持されている。
前記出力軸22は、一端が減速機20の出力メンバであるキャリア26に接続され、他端がモータケース30から突出してホイール41が結合される。
【0017】
前記リングギヤ24は、モータケース30の内周面に回転止め且つ抜け止めして固設されている。
前記段付きプラネタリピニオン25は、サンギヤ23に噛合する大径ギヤ部25a、及び、リングギヤ24に噛合する小径ギヤ部25bを一体に有している。なお、段付きプラネタリピニオン25は、ここでは1個のみを図示しているが、3個一組として円周方向に等間隔に配置され、キャリア26により、円周方向等間隔配置を保って回転自在に支持されている。
前記キャリア26は、減速機20の出力回転メンバであり、入力軸21と出力軸22の間で、この両軸21,22と同軸位置に配置される。また、このキャリア26の内側端26aには、ベアリング27を介して入力軸21の突合せ端部21bが相対回転可能に軸受け挿入されている。
【0018】
このように、入出力軸21,22は、相対回転可能な軸ユニットを構成し、この軸ユニットは同時にキャリア26及び段付きプラネタリピニオン25をも、同一ユニットとして具えている。このようにユニット化させた入出力軸21,22の軸ユニットを、モータケース30に対して回転自在に支承するに際しては、軸線方向に離間した2箇所でベアリング28a,28bを用いている。
ここで、ベアリング28a,28bのうち、モータ側ベアリング28aは、モータケース30と略同じ軸線方向位置において当該モータケース30の中心孔内周と入力軸21の対応端部外周との間に介在させる。また、車輪側ベアリング28bは、モータケース30に取着したベアリングサポート29の内周と、モータケース30から突出した出力軸22に嵌着したホイールハブ43の外周との間に介在させる。
【0019】
なお、出力軸22に対してホイール41を結合するには、まず、ホイールハブ43に、ブレーキドラム44を同心に重ね合わせ、これらホイールハブ43及びブレーキドラム44を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト45を植設する。
そして、ホイール41のホイールディスク46に穿ったボルト孔(図示せず)にホイールボルト45が貫通するようブレーキドラム44の側面にホイールディスク46を密接させ、この状態でホイールボルト45にホイールナット47を緊締螺合させる。これにより、出力軸22に対してホイール41の取り付けを行う。
【0020】
前記モータケース30は、モータ10及び減速機20を収容し、ホイール41の内側に少なくとも一部が配置される金属製のハウジングである。このモータケース30は、ケース本体31と、リヤカバー32と、延長ケース33と、を有している。
【0021】
前記ケース本体31は、ホイール41の内側領域に入り込む一方の端部にシャフト開口31aが形成され、ホイール41の内側領域から突出した他方の端部が開放した円筒形状を呈している。このケース本体31の内周面には、ステータ11が固着されている。また、このケース本体31のリム42に対向した外側面31bには、モータケース30を車体側部材Sに取り付けるための取付機構50,50が鋳造により一体的に形成されている。ここで、車体側部材Sとは、例えば、サイドメンバ等に保持されるサスペンション機構のショックアブソーバや、クロスメンバ等に保持されるトレーリングアーム等である。
【0022】
前記リヤカバー32は、ホイール41の内側領域から突出したケース本体31の開放端部を閉鎖するように設けられる。このリヤカバー32には、モータ10に接続される三相交流ハーネスのコネクタや、上述のモータ側ベアリング28aが設けられている。
【0023】
前記延長ケース33は、シャフト開口31aの周囲を囲む両端が開放した円筒形状を呈し、シャフト開口31aの周囲に設けられる。これにより、この延長ケース33は、ホイール41の内側領域に配置される。
【0024】
[インホイールモータの取付機構の構成]
【0025】
図2は、実施例1のインホイールモータの要部を示す斜視図である。図3は、図2における矢印A方向からの平面図である。
【0026】
前記取付機構50は、モータケース30のケース本体31に対して一体成形されており、ホイール41の外側領域に位置する取付部51と、取付部51とモータケース30を結合する結合部52とを有している。ここで、ホイール41の外側領域とは、ホイール41のリム42とホイールディスク46とで囲まれる領域よりも車両内側に位置する領域である。
【0027】
前記取付部51は、車体側部材Sに連結可能な形状であり、ここでは、モータケース30の車両前方側あるいは車両後方側に位置すると共に、軸方向が車両上下方向にほぼ一致して両端が開放した円筒形状を呈している。
【0028】
前記結合部52は、ホイール41の内側領域に位置するモータケース30のケース本体31の外側面31bから、ホイール41の外側領域に延伸した複数のリブ53A,53B,53Cを有している。
前記リブ53Aは、モータケース30と取付部51の車両上方に臨む一方の端部51aとを結合する側方リブである。
また、前記リブ53Bは、モータケース30と取付部51の車両下方に臨む他方の端部51bとを結合する側方リブである。
そして、前記リブ53Cは、リブ53A,53Bの間に配設され、モータケース30と取付部51の車両上下方向の中間部を結合する中央リブである。
なお、リブ53Aとリブ53Bは、取付部51からモータケース30に向かうにつれて、互いに離間し、この取付部51を中心に互いに反対方向に傾斜している。そのため、図3に示すように、ホイール41側から見たとき、リブ53Aとリブ53Bとケース本体31とで囲まれる領域はほぼ三角形状となる。
【0029】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例のインホイールモータの取付構造とその課題」の説明を行い、続いて、実施例1のインホイールモータにおける「ホイール非干渉作用」を説明する。
【0030】
[比較例のインホイールモータの取付構造とその課題]
図4は、第1比較例のインホイールモータを示す斜視図である。図5は、第2比較例のインホイールモータを示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)はホイールとの位置関係を示す断面図である。
【0031】
図4に示す第1比較例のインホイールモータ100は、モータケース101の外側面101aに台座部103を形成し、この台座部103にモータケース101とは別体に形成された結合部102を複数のボルト104,…で固定している。
【0032】
この第1比較例のインホイールモータ100では、結合部102に作用する応力が複数のボルト104,…による固定部分に集中する。ここで、モータケース101と結合部102が別体であるため応力に対する強度が比較的低く、強度を高めるためにはボルト104の径を大きくする等の対応が必要となる。そのため、結合部102が大きくなり、ホイールサイズの縮小を図ることは難しかった。
【0033】
また、この第1比較例のインホイールモータ100では、モータケース101と結合部102を別体とすることで、構成部品が増大すると共に、組立工数も増えてしまうという問題も生じる。
【0034】
一方、図5に示す第2比較例のインホイールモータ200は、モータケース201の外側面201aから突出し、先端に車体側部材に取り付けられる取付部202aが形成された結合部202を有している。つまり、この第2比較例のインホイールモータ200は、結合部202をモータケース201と一体化している。そのため、第2比較例のインホイールモータ200は、結合部202に作用する応力に対する強度の向上を図ることができると共に、第1比較例のインホイールモータ100よりも部品点数が削減できるため、安価な構造となる。
【0035】
しかしながら、結合部202の基部202bに応力が集中するため、強度を保持するためには結合部202を小型化することができない。そのため、図5(b)のB部に示すように、結合部202とホイールHが干渉しやすくなるため、ホイールサイズを大きく確保しないとレイアウトが成立しないという問題があった。
【0036】
[ホイール非干渉作用]
図1に示すように、実施例1のインホイールモータMは、タイヤ40を支持するホイール41が取り付けられた状態で、取付機構50を介して、ホイール41の外側領域において車体側部材Sに支持される。
【0037】
このとき、タイヤ40やホイール41、さらにインホイールモータM自身の重量は、取付機構50によって支えられる。すなわち、この取付機構50の結合部52には、重力方向に引っ張られる応力が作用する。
【0038】
ここで、実施例1のインホイールモータMでは、結合部52が、モータケース30の外側面31bから一体的に突出してホイール41の外側領域に延伸し、モータケース30のケース本体31と取付部51とを結合する複数のリブ53A,53B,53Cを有している。
【0039】
そのため、結合部52に作用する応力は、複数のリブ53A,53B,53Cに分散して作用する。これにより、各リブ53A,53B,53Cを大きくしなくとも応力を支持することができる。この結果、結合部52の小型化を図ることができるため、結合部52がホイール41のリム42に干渉しにくくなり、ホイールサイズを大きくすることのないインホイールモータMとすることができる。
【0040】
また、結合部52の小型化を図ることで軽量化に寄与することができるし、複数のリブ53A,53B,53Cとすることで結合部52の表面積が増大するため、モータケース30からの放熱性を向上することもできる。さらに、ケース本体31と取付機構50とは、鋳造により一体成形されており、モータケース30と結合部52を連結させるためのボルト等の部材が不要となる。そのため、部品点数の低減を図り、安価に製造することができる。また、結合部52を複数のリブ53A,53B,53Cとすることで、ケース本体31と取付部51との間の溶湯が流れる経路が複数になる。そのため、ケース本体31と取付部51との間の湯流れ性が向上し、充填不良や湯境が発生しにくくなる。さらに、駄肉が削減され、引け巣の発生を抑制することができる。
【0041】
また、実施例1のインホイールモータMでは、結合部52が、モータケース30のケース本体31と取付部51の両端部51a,51bとを結合する一対の側方リブとなるリブ53A,53Bを有している。
【0042】
これにより、取付部51は両端部51a,51bを支持されることになり、この取付部51の強度を向上することができる。
【0043】
さらに、この一対の側方リブとなるリブ53A,53Bは、図3に示すように、取付部51からモータケース30に向かうにつれて、互いに離間し、この取付部51を中心に互いに反対方向に傾斜する。この結果、ホイール41側から見たとき、リブ53Aとリブ53Bとケース本体31とで囲まれる領域がほぼ三角形状となる。そのため、取付部51の強度をさらに向上することができる。
【0044】
そして、このようなリブ53A,53Bの間には、モータケース30のケース本体31と取付部51の中間部とを結合する中央リブとなるリブ53Cが形成されている。これにより、取付部51の強度をさらに向上することができる。
【0045】
次に、効果を説明する。
実施例1のインホイールモータにあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0046】
(1) ステータ11及びロータ12を収容し、ホイール41の内側領域に少なくとも一部が配置されるモータケース30と、
前記モータケース30を車体側部材Sに取り付けるため、前記ホイール41の外側領域に位置する取付部51と、
前記モータケース30と前記取付部51とを結合する複数のリブ53A,53B,53Cを有し、前記複数のリブ53A,53B,53Cを前記モータケース30の外側面31bに対して一体成形すると共に、前記ホイール41の外側領域に延伸した結合部52と、
を備えた構成とした。
このため、結合部52を小型化して、この結合部52とホイール41とを干渉しにくくでき、ホイールサイズを大きくすることのないインホイールモータMとすることができる。
【0047】
(2) 前記結合部52は、前記モータケース30と前記取付部51の両端部51a,51bとを結合する一対の側方リブ53A,53Bを有する構成とした。
このため、結合部52の強度の向上を図ることができ、さらに結合部52の小型化を図ることができる。
【0048】
(3) 前記一対の側方リブ53A,53Bは、前記取付部51から前記モータケース30に向かうにつれて、互いに離間し、前記取付部51を中心に互いに反対方向に傾斜する構成とした。
このため、さらに結合部52の強度の向上を図ることができる。
【0049】
(4) 前記結合部52は、前記一対の側方リブ53A,53Bの間に配設され、前記モータケース30と前記取付部51の中間部とを結合する中央リブ53Cを有する構成とした。
このため、さらに結合部52の強度の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0050】
実施例2は、モータケースに形成したリブに湯溜まり部を設けた例である。
図6(a)は、実施例2のインホイールモータの要部を示す斜視図を示し、(b)は湯溜まり部の平面図を示し、(c)は湯溜まり部の側面図を示す。
【0051】
実施例2のインホイールモータでは、モータケース60を鋳造により形成しており、加熱した金属(溶湯)を鋳造用金型に流し込み、冷えて固まった後にこの鋳造用金型から取り出すことで、ケース本体61に対して取付機構70を一体成形する。
【0052】
前記ケース本体61は、ホイール(ここでは図示せず)の内側領域に入り込む一方の端部である円盤状の外側端面(外側面)61cと、この外側端面61cの周縁部から車両内側に向かって立ち上がり、リム(ここでは図示せず)に対向する周面(外側面)61dと、を有する車両内側に開放した円筒形状を呈している。そして、外側端面61cの中央にはシャフト開口61aが形成されている。また、ホイールの外側領域に突出し、車両内側に開放した開放端部は、図示しないリヤカバーによって閉鎖される。
【0053】
前記取付機構70は、ケース本体61の周面61dに設けられ、ホイールの外側領域に位置する取付部71と、取付部71とモータケース60を結合する結合部72と、を有している。
【0054】
前記取付部71は、ショックアブソーバ等の車体側部材(ここでは図示せず)に連結される部分である。この取付部71は、実施例1と同様に、ここではモータケース60の車両前方側あるいは車両後方側に位置すると共に、軸方向が車両上下方向にほぼ一致して両端が開放した円筒形状を呈している。
【0055】
前記結合部72は、図6に示すように、複数のリブである第1リブ72A、第2リブ72B、第3リブ72Cを有している。各リブ72A,72B,72Cは、それぞれ一端がケース本体61と一体化し、他端がホイール(図示せず)の外側領域に伸延して取付部71と結合している。
【0056】
前記第1リブ72Aは、モータケース60と取付部71の車両上方に臨む一方の端部71aとを結合する側方リブである。この第1リブ72Aのケース本体61側の一端は、ケース本体61の周面61dから立上っている。
【0057】
前記第2リブ72Bは、モータケース60と取付部71の車両下方に臨む他方の端部71bとを結合する側方リブである。この第2リブ72Bのケース本体61側の一端は、ケース本体61の周面61dから立上っている。
【0058】
前記第3リブ72Cは、第1リブ72Aと第2リブ72Bの間に配設され、モータケース60と取付部71の中間部を結合する中央リブである。この第3リブ72Cは、立上りリブ部73と、延長リブ部74と、環状リブ部75と、を有する。
前記立上りリブ部73は、ケース本体61の周面61dから立設され、先端が取付部71の中央部と一体化している。前記延長リブ部74は、立上りリブ部73のケース本体側端部に連続すると共に、外側端面61cに沿いながらケース本体61の中心に向かって延在された部分である。前記環状リブ部75は、延長リブ部74から連続すると共に、シャフト開口61aを取り囲む部分である。
さらに、この第3リブ72Cは、ケース本体61の外側端面61cに沿った延長リブ部74の途中位置に、湯溜まり部(湯溜まり形状)76が形成されている。この湯溜まり部76は、延長リブ部74の中間部の両側面74a,74aを、ケース本体61の外側端面61cに沿って突出させて幅広にした部分である。
なお、この湯溜まり部76の外側端面61cからの立上り寸法H1は、延長リブ部74の外側端面61cからの立上り寸法H2よりも小さい(図6(c)参照)。また、外側端面61cから立上った湯溜まり部76の側面76aは、湾曲した曲面となっている(図6(b)参照)。
【0059】
ここで、このケース本体61及び取付機構70を鋳造する際の鋳造用金型(図示せず)は、シャフト開口61aの開口端面61bに対向する位置(図6(a)においてA部で示す位置)に溶湯を流し込む湯口78(図8参照)を形成する。つまり、この湯溜まり部76は、この鋳造用金型の湯口78から、ケース本体61の外側端面61cに沿った延長リブ部74の途中位置までの間に設けられている。
【0060】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例のインホイールモータの取付構造とその課題」の説明を行い、続いて、実施例2のインホイールモータにおける「引け巣発生防止作用」を説明する。
【0061】
[比較例のインホイールモータの取付構造とその課題]
図7(a)は、比較例のインホイールモータの要部を示す斜視図であり、(b)は、比較例のインホイールモータにおける溶湯が流れる溶湯経路を示す模式図であり、(c)は、比較例のインホイールモータにおける引け巣の発生を示す説明図である。
【0062】
図7(a)に示す比較例のインホイールモータ300では、モータケース301及び取付部302、結合部303が鋳物により一体成形されている。ここで、結合部303は、ケース本体304の周面304aに立設され、車体側部材に取り付けられる取付部302が先端に一体化している。
【0063】
ここで、この比較例のインホイールモータ300における結合部303は、ケース本体側端部303aが、周面304aから連続し、外側端面304bに沿いながらケース本体304の中心に向かって延在されている。このとき、外側端面304bに沿った部分の径方向の幅W1は、延在方向において一定になっている。つまり、この結合部303は、取付部302の車両上下方向の幅Wを保ったまま、延在されている。
【0064】
これにより、図7(b)に示すように、加熱した金属(以下、溶湯という)を流し込む湯口305から延在されて溶湯が流れる溶湯経路(製品キャビティの基本骨格となる部分)305Aは、湯口305から取付部302に至るまでの間、一定の幅(厚み)になる。そのため、溶湯を溶湯経路305A内に流し込む際に、湯口305の外側周囲の空気を巻き込んでしまうと、この巻き込まれた空気によって、金型の終端である取付部302近傍で比較的大きな引け巣HSが発生することがあった(図7(c)参照)。
【0065】
つまり、溶湯を流し込む際に溶湯経路305A内に巻き込まれた空気は、溶湯の流れにより溶湯経路305Aの側面に沿って流れる。そして、この空気は、溶湯経路305Aの側面に沿ったまま金型の終端(取付部302)近傍まで押し流され、蓄積される。その結果、取付部302近傍で比較的大きな引け巣HSが発生してしまう。
【0066】
[引け巣発生防止作用]
図8(a)は、実施例2のインホイールモータにおける溶湯が流れる溶湯経路を示す模式図であり、(b)は、実施例2のインホイールモータにおける引け巣の発生を示す説明図である。図9は、実施例2における溶湯の流れと巻き込まれた空気の流れを示す模式図である。
【0067】
実施例2のインホイールモータでは、第3リブ72Cが延長リブ部74の途中位置に形成された湯溜まり部76を有している。そして、この湯溜まり部76を形成するために、図8(a)に示すように、加熱した金属(以下、溶湯という)を流し込む湯口78から延在されて溶湯が流れる溶湯経路(製品キャビティの基本骨格となる部分)77は、湯溜まり部76を形成する位置で幅広になっている。
【0068】
これにより、湯口78から溶湯を流し込んだ際に、湯口78の外側周囲の空気を巻き込んでしまっても、巻き込んだ空気が湯溜まり部76に蓄積される。このため、溶湯内に巻き込まれた空気が立上りリブ部73や、その先端に設けられる取付部71にまで流されることが防止される。この結果、図8(b)に示すように、取付部71の近傍で大きな引け巣が発生してしまうことが防止でき、高品質の製品を製造することが可能となる。
【0069】
すなわち、図9に示すように、溶湯を流し込む際に溶湯経路77内に巻き込まれた空気(気泡)Kは、溶湯よりも軽量なので重力方向の上側位置の溶湯経路77の側面77aに沿って流れる。そして、この空気Kは、溶湯経路77の側面77aに沿いながら湯溜まり部76の内側に流れ込む。ここで、湯溜まり部76が幅広になっているので、溶湯は湯溜まり部76の内側で乱流を発生する。そのため、湯溜まり部76の内側に流れ込んだ空気Kは、乱流に巻き込まれることによって湯溜まり部76の内側に留まることとなる。この結果、湯溜まり部76よりも溶湯の流れの下流側、つまり立上りリブ部73や取付部71側へと流れる溶湯から空気が除去され、湯溜まり部76よりも下流側に空気Kを流れにくくすることができ、取付部71の近傍(図8(b)においてB部で示す位置)で大きな引け巣が発生することが防止できる。
【0070】
特に、実施例2では、湯溜まり部76の側面76aが曲面となっているため、湯溜まり部76の内側に空気Kを流れ込みやすくして、湯溜まり部76よりも下流側に流れる溶湯からの空気Kの除去率の向上を図ることができる。
【0071】
次に、効果を説明する。
実施例2のインホイールモータにあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0072】
(5) 前記モータケース60と、前記取付部71と、前記結合部72は、鋳造により一体成形され、
前記結合部72の複数のリブ(第1〜第3リブ)72A,72B,72Cのうちの少なくとも一つ(第3リブ72C)は、鋳造用金型の湯口78から前記取付部71までの間に湯溜まり部76を有する構成とした。
このため、取付部71近傍に引け巣が発生することを防止できる。
【0073】
(6) 前記結合部72の複数のリブ(第1〜第3リブ)72A,72B,72Cのうちの少なくとも一つ(第3リブ72C)は、前記モータケース60の外側面(周面)61dから立設して先端に前記取付部71が一体形成される立上りリブ部73と、前記立上りリブ部73に連続すると共に前記モータケース60の外側面(外側端面)61cに沿う延長リブ部と74、を有し、
前記湯溜まり部76は、前記湯口78から前記延長リブ部74の途中位置までの間に設けられた構成とした。
このため、湯溜まり部76を形成したことによるリブ(第3リブ72C)の強度不足を抑制することができる。
【0074】
以上、本発明のインホイールモータを実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
実施例1では、取付部51がモータケース30の車両前方側あるいは車両後方側に位置しているが、これに限らない。車体側部材Sの位置に応じて、モータケース30の上方や下方に位置してもよい。また、この取付部51はモータケース30の周囲であって、ホイール41の外側領域に一つ以上設けてあればよい。
【0076】
また、実施例1では、結合部52が複数のリブ53A,53B,53Cを有しているが、例えば側方リブであるリブ53A,53Bのみを有するものであってもよいし、さらにリブの数を増加してもよい。
【0077】
そして、実施例1では、図3に示すように、各リブ53A,53B,53Cが独立しているが、例えば各リブ53A,53B,53Cの中間部を互いに連結してもよい。この場合では、結合部52の強度をさらに向上し、小型化を図ることができる。
【0078】
また、実施例2において、湯溜まり部76を第3リブ72Cの延長リブ部74の途中位置を幅広にすると共に、側面76aを曲面としているが、例えば単にリブを幅広形状とするだけでなく、ホイール近傍に設けられるブラケット類の締結を可能とする形状にしてもよい。これにより、湯溜まり部によって引け巣の発生を防止すると同時に、この湯溜まり部をブラケット類の締結部位として利用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
M インホイールモータ
10 モータ
11 ステータ
12 ロータ
20 減速機
30 モータケース
31 ケース本体
31b 外側面
32 リヤカバー
33 延長ケース
40 タイヤ
41 ホイール
42 リム
50 取付機構
51取付部
51a 端部
51b 端部
52 結合部
53A リブ(側方リブ)
53B リブ(側方リブ)
53C リブ(中央リブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ及びロータを収容し、ホイールの内側領域に少なくとも一部が配置されるモータケースと、
前記モータケースを車体側部材に取り付けるため、前記ホイールの外側領域に位置する取付部と、
前記モータケースと前記取付部とを結合する複数のリブを有し、前記複数のリブを前記モータケースの外側面に対して一体成形すると共に、前記ホイールの外側領域に延伸した結合部と、
を備えたことを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
請求項1に記載されたインホイールモータにおいて、
前記結合部は、前記モータケースと前記取付部の両端部とを結合する一対の側方リブを有することを特徴とするインホイールモータ。
【請求項3】
請求項2に記載されたインホイールモータにおいて、
前記一対の側方リブは、前記取付部から前記モータケースに向かうにつれて、互いに離間し、前記取付部を中心に互いに反対方向に傾斜することを特徴とするインホイールモータ。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載されたインホイールモータにおいて、
前記結合部は、前記一対の側方リブの間に配設され、前記モータケースと前記取付部の中間部とを結合する中央リブを有することを特徴とするインホイールモータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたインホイールモータにおいて、
前記モータケースと、前記取付部と、前記結合部は、鋳造により一体成形され、
前記結合部の複数のリブのうちの少なくとも一つは、鋳造用金型の湯口から前記取付部までの間に湯溜まり部を有することを特徴とするインホイールモータ。
【請求項6】
請求項5に記載されたインホイールモータにおいて、
前記結合部の複数のリブのうちの少なくとも一つは、前記モータケースの外側面から立設して先端に前記取付部が一体形成される立上りリブ部と、前記立上りリブ部に連続すると共に前記モータケースの外側面に沿う延長リブ部と、を有し、
前記湯溜まり部は、前記湯口から前記延長リブの途中位置までの間に設けられたことを特徴とするインホイールモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32139(P2013−32139A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−124370(P2012−124370)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】