説明

ウィスカー形成磁性体及びその製造方法

【課題】簡易な工程で製造でき、高強度で表面積の大きいウィスカー形成磁性体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】連結された磁性粒子の焼結体表面にウィスカーを備えるウィスカー形成磁性体である。磁性粒子は、磁性元素及びウィスカー構成元素を含む。磁性粒子の平均径はウィスカーの平均太さの10倍以上である。磁性粒子は線状や多孔質状に連結されている。磁性粒子を励磁させながら、不活性ガス雰囲気中且つ微量酸素の存在下で加熱処理し、磁性粒子を相互に連結させて、ウィスカー形成磁性体を製造する。磁性粒子のキュリー点よりも低温で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィスカー形成磁性体及びその製造方法に係り、更に詳細には、任意形状に連結させた磁性体に微細なウィスカーを密生させた、著しく大きな表面積を有するウィスカー形成磁性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化物ウィスカーの製造方法としては、多孔質基材表面にチタン−バナジウム(Ti−V)合金層又はチタン−モリブデン(Ti−Mo)合金層をスパッタで形成し、酸化処理により表面に酸化チタンウィスカーを形成させることが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−335520号公報
【0003】
しかし、この方法では、多孔質基材をあらかじめ準備する必要がある。また、スパッタ成膜、酸化処理の工程が必要となる。
【0004】
また、マグネシウム(Mg)を含む合金形成基体をCOガスとCOガスの混合気体中で加熱したマグネシアウィスカーの形成方法も提案されている(例えば特許文献2参照。)。
【特許文献2】特許第3121888号公報
【0005】
しかし、この場合は、原料粉末をプレス成型してウィスカー形成基材を得ているが、ウィスカーを回収する前提で成型体にウィスカーを得ているに過ぎない。また、プレス時にバインダーなどを使用している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な工程で製造でき、高強度で表面積の大きいウィスカー形成磁性体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料粉末として、連なった形状のまま焼結できる磁性材料を使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のウィスカー形成磁性体は、磁性粒子の焼結体が連結されて成り、その表面にウィスカーを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のウィスカー形成磁性体の好適形態は、磁性を有する元素及びウィスカーを構成する元素を含むことを特徴とする。
【0010】
更に、本発明のウィスカー形成磁性体の他の好適形態は、上記磁性粒子が線状に連結されていることを特徴とする。
【0011】
更にまた、本発明のウィスカー形成磁性体の更に他の好適形態は、上記磁性粒子が多孔質状に連結されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のウィスカー形成磁性体の製造方法は、ウィスカー形成磁性体を製造するに当たり、上記磁性粒子を励磁させながら、不活性ガス雰囲気中且つ微量酸素の存在下で加熱処理し、該磁性粒子を相互に連結させることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明のウィスカー形成磁性体の製造方法の好適形態は、上記加熱処理において、上記磁性粒子のキュリー点よりも低温で該磁性粒子を焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な工程で、高強度で表面積の大きいウィスカー形成磁性体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のウィスカー形成磁性体について詳細に説明する。なお、本特許請求の範囲及び本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0016】
上述の如く、本発明のウィスカー形成磁性体は、磁性粒子の焼結体が連結されて成る。言い換えれば、磁性粒子同士が焼結された状態(化学的に相互に結合している状態)である。
また、上記ウィスカー形成磁性体を構成する磁性粒子は、表面にウィスカーを備える。
なお、ここでいう「磁性」とは強磁性のことを指す。
【0017】
このように、磁性粒子を使用することで、製造の際は、図1に示すように、原料粒子を磁場中で相互に接触した状態に保持できるので、磁性粒子が強固に連結したウィスカー形成磁性体が得られる。
また、ウィスカーの存在による微細構造とも相俟って、フィルターや各種薬剤や触媒を担持させる担体のみならず、微小な導電材やクッション材、防振材としても利用できる。例えば、燃料電池(FC)、キャパシタにおける集電体として利用することが可能である。FCの集電体として用いれば、その防振効果やクッション性から電極を破損から保護するのに極めて有用である。
【0018】
ここで、上記磁性粒子は、磁性を有する元素及びウィスカーを構成する元素を含むことが好適である。
このときは、磁性元素とウィスカー構成元素の両方が原料粉に含まれるので、外部からの原料供給が不要となり、生産性が良好となる。
【0019】
磁性元素としては、鉄、コバルト、ニッケルなどが挙げられ、例えばこれらが含まれる酸化物系永久磁石(酸化鉄、酸化クロム、スピネル系フェライト、マグネトブランバイト型フェライトなど)や、希土類磁石(希土類・ニッケル系合金、ミッシュメタルなど)を使用できる。
【0020】
また、ウィスカー構成元素としては、蒸気圧の高い元素が望ましい。例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、スカンジウム(Sc)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)などが挙げられる。これらウィスカー構成元素は、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、銅(Cu)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などとの合金でも使用できる。また、これらウィスカー構成元素を含有するセラミックスなども使用できる。
なお、ウィスカーの形成がVLS成長によるものであると仮定すると、これら原料中には、例えばリン(P)などの低融点成分を含んでもよい。当該低融点成分は、原料の表面に局所的に融解し易く、これが幹部形成のきっかけと成るからである。但し、当該低融点成分は、必ずしも原料に添加する必要は無く、不可避不純物としての含有量で足りると考えられる。また、これらの成分を含まない場合にもウィスカーの形成は可能である。
【0021】
上記磁性元素とウィスカー構成元素の含有比率は、磁性粒子の磁性が失われない程度でなければならない。代表的には、質量換算で50〜99:1〜50の割合とすることができる。
【0022】
また、ウィスカーは、磁性粒子に対してある程度細かいことが良い。そこで、上記磁性粒子の平均径は、ウィスカーの平均太さの10倍以上とすることが好適である。
このときは、強度があり表面積の大きい磁性体が得られる。なお、ウィスカーが磁性粒子に対して大きいと、磁性体の強度が低下してしまう。
具体的には、磁性粒子の平均径を0.1〜100μmとし、ウィスカーの平均太さを0.01〜10μmとしたウィスカー形成磁性体が得られる。
【0023】
更に、上記磁性粒子の連結状態は、製造時の磁場の大きさ、加熱処理条件などを変更することで、線状や多孔質状とすることができる。
このときは、ウィスカー形成磁性体を、加工の難しい細線や径の細い多孔体などの形状に容易に設計できるので有効である。
なお、上記「線状」とは、図2に示すように、磁性粒子が線形に連なった形状で、塊になっていない(普通の焼成で得られる形状ではない)ことをいう。極端な場合には粒子が1つずつ数珠繋ぎになっている状態もありうる。
また、上記「多孔質状」とは、図3に示すように、磁性粒子があらゆる方向で隣接する他の磁性粒子と連結されており、全体として多孔質体を形成していることをいう。
【0024】
次に、本発明のウィスカー形成磁性体の製造方法について詳細に説明する。
本発明のウィスカー形成磁性体の製造方法では、上述のウィスカー形成磁性体を製造するに当たり、磁性粒子を励磁させながら、不活性ガス雰囲気中且つ微量酸素の存在下で加熱処理する。
このように磁場中で加熱することにより、バインダーや造孔材などを使用せずに磁性粒子が相互に連結される。また、1つの焼成工程で磁性粒子の連結とウィスカーの形成ができる。
【0025】
また、上記加熱処理においては、該磁性粒子のキュリー点よりも低温で磁性粒子が焼結され連結することがよい。即ち、磁性粒子のキュリー点よりも低温で該磁性粒子を焼成することが好適である。
このときは、磁場をかけることで、磁性粒子の連結形状を制御できるので有効である。
なお、強磁性体は高温状態になるとその強磁性が失われ、キュリー点を越えると、常磁性体に変化する。常磁性体になると、連なった粒子は連結状態を維持できなくなってしまう。
【0026】
更に、上記不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン及びラドン、又はこれらを任意に組合わせたガスを使用できる。
【0027】
更にまた、加熱処理においては、これら不活性ガスとともに、微量の酸素が存在することを要する。これは、上記ウィスカーは酸化物として成長するからである。但し、当該酸素の濃度は、加熱炉内に不活性ガスを送入する際に残存する程度(1〜1000ppm程度)で足りる。
【0028】
また、加熱処理においては、焼成温度は使用する炉や試料の大きさ形状などにも依存するが、例えば、加熱炉の容積が3Lの場合には、不活性ガスを0.1〜5L/minで供給し、900〜1100℃で30〜1000分間焼成することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
磁性元素を含む材料として、永久磁石を用いて磁化させた鉄片を用意した。これに、ウィスカー形成材料として、平均粒径10μmのMn10%を含むNi合金粉末をまぶし、余分な粉末を落として、磁性粒子を得た。
次いで、磁性粒子を加熱炉に入れ、不活性ガスとしてアルゴンを1l/minで導入し、1050℃で1時間焼成した。
冷却後、多孔質焼結体金属が形成され、この表面にウィスカーの存在が認められた。
【0031】
得られたウィスカー形成磁性体の写真を図2に示す。また、EDXでウィスカーの組成分析を行ったところ、MnとOのみが検出された。
【0032】
(比較例1)
Ti−20wt%V合金製ターゲットを使用してアルミナ質の基材にスパッタ成膜した。得られたTi−V合金被膜は、厚み2〜3μmで、通常のスパッタ金属膜と同様の柱状結晶構造であった。
次いで、Ti−V合金被膜の酸化処理を行った。この際には、アルゴンガスで1%程度に希釈した空気中で約3時間かけて徐々に700℃まで昇温し、その後700℃で22時間保持した。
【0033】
酸化処理後のTi−V合金被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察すると、数μmの長さの酸化チタンウイスカーが基材の全面に面積1平方μm当たり数十本程度密集して成長した。酸化チタンウイスカーのX線回折測定を行ったところ、ルチル型酸化チタンの回折線のみが得られた。
【0034】
実施例1及び比較例1より、本発明では、簡易な工程で表面積が大きいウィスカー形成磁性体が得られることがわかる。また、本発明では、線状に連結した磁性粒子にウィスカーが形成されているという、従来提案されていない形状でも簡易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】磁場中で線状に連結されている磁性粒子の一例を示す拡大写真である。
【図2】線状に連結された磁性粒子にウィスカーが形成された状態の一例を示す拡大写真である。
【図3】多孔質状に連結された磁性粒子にウィスカーが形成された状態の一例を示す拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子の焼結体が連結されて成り、その表面にウィスカーを備えることを特徴とするウィスカー形成磁性体。
【請求項2】
上記磁性粒子は、磁性を有する元素及びウィスカーを構成する元素を含むことを特徴とする請求項1に記載のウィスカー形成磁性体。
【請求項3】
上記磁性粒子の平均径が、ウィスカーの平均太さの10倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のウィスカー形成磁性体。
【請求項4】
上記磁性粒子が線状に連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のウィスカー形成磁性体。
【請求項5】
上記磁性粒子が多孔質状に連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のウィスカー形成磁性体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のウィスカー形成磁性体を製造するに当たり、
上記磁性粒子を励磁させながら、不活性ガス雰囲気中且つ微量酸素の存在下で加熱処理し、該磁性粒子を相互に連結させることを特徴とするウィスカー形成磁性体の製造方法。
【請求項7】
上記加熱処理において、上記磁性粒子のキュリー点よりも低温で該磁性粒子を焼成することを特徴とするウィスカー形成磁性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−216884(P2006−216884A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30307(P2005−30307)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】