ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ及び放出電子顕微鏡
【課題】 ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができるウィーンフィルタ型アナライザの提供を目的とする。
【解決手段】 ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極13とヨークレスコイル14による磁極を12極にしている。このため、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。ヨークレスコイル14は、磁極をコイルのみに置き換えたものであり、コイル受け台15上に配設されている。磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【解決手段】 ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極13とヨークレスコイル14による磁極を12極にしている。このため、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。ヨークレスコイル14は、磁極をコイルのみに置き換えたものであり、コイル受け台15上に配設されている。磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム光学の分野に分類され、特にウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子線だけを選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ及びウィーンフィルタ型エネルギーアナライザを電子レンズ系に設けたエネルギー選別型電子顕微鏡装置に関する。このエネルギー選別型電子顕微鏡装置は光電子分光装置と電子顕微鏡を組み合わせた装置であり、表面分析に広く応用される。
【背景技術】
【0002】
エネルギーアナライザは、オージェ電子分光や光電子分光などの装置で用いられる他、電子顕微鏡において、特定のエネルギーを持った電子線だけを選んで結像させるエネルギー選別型電子顕微鏡(energy-filtering microscopy)のためにも用いられる。このような装置において、電子分光系としての性能、すなわちエネルギー分解能と感度を決める主たる要因の一つに、アナライザの収差がある。これは、アナライザの入口において許される電子ビームの開き角の上限を決めるものである。この収差を小さくすればするほど電子を取り込める角度が広がり、ある一定のエネルギー分解能のもとでの感度を向上させることができる。同じことであるが、ある一定の感度のもとでのエネルギー分解能を向上させることができる。逆に、この収差が大きいと、アナライザの出口、つまりエネルギー選別面においてビームがボケてしまい、エネルギー分解能と感度を損なうことになる。そこで、アナライザの収差を低減する問題は、電子分光装置の性能を向上させるための重要な課題となる。
【0003】
従来、下記特許文献1に記載のように、エネルギーアナライザとしてウィーンフィルタが用いられている。ウィーンフィルタは、互いに直交する電場と磁場からなる。このウィーンフィルタにおいては、ある特定のエネルギーを持った電子に対しては、電場と磁場からの力が打ち消し合い、その電子はフィルタを通過できるが、そうでない電子は、偏向されて通過できなくなる。
【0004】
ウィーンフィルタは、他の種類のエネルギーアナライザに比べて次の特徴がある。まず、他のアナライザが例外なく光軸が曲線であるのに対し、ウィーンフィルタだけが光軸が直線である。これは、電子分光系の他の光学要素が、ほとんどの場合軸対称レンズで構成されるという事実と整合し、軸合わせや光学調整を容易にする。これは特に、調整が微妙になるエネルギー選別型顕微鏡においては、非常に重要な長所となる。
【0005】
また、他のエネルギーアナライザは、種類によって収差係数が決まってしまう。例えば、電子分光装置で最も多く用いられている静電半球エネルギーアナライザ(HSA)では、その光軸の半径をr0 とすると、入射角α0 の時の出口でのエネルギー分散方向のビームの収差Δxは、Δx=2r0α02 で与えられる。この2r0は2次の開口収差係数と呼ばれる。エネルギーアナライザの性能を決めるのは、エネルギー分散方向において入射角のn乗に比例する収差であり、これはn次の開口収差と呼ばれる。nが小さいほど収差の影響が大きく、2次が最低次である。開口収差が何次から始まるかでエネルギーアナライザの性能の程度が分かる。HSAでは、この収差を有効に補正する方法がなく、収差の程度としては大きい部類に入る。
【0006】
これに対し、ウィーンフィルタでは、電場と磁場をつくる電極と磁極の形状、或いはそれらにかける電圧と励磁を調整することにより、収差補正が可能である。
【0007】
図17は、現在、エネルギー選別型X線光電子放出顕微鏡で使用されているウィーンフィルタ型アナライザの断面図である。このウィーンフィルタ型アナライザは、4つの電極1、2、3及び4と、2つの磁極5及び6からなる。図17では、電極1と磁極5は、電極と磁極を兼ねた電磁極からなる。また、電極3と磁極6も、電極と磁極を兼ねた電磁極からなる。このウィーンフィルタ型アナライザの原理は直交した電場Eと磁場Bを使って、電子に働く静電気力とローレンツ力の釣り合いから特定運動エネルギーの電子を選別する。
【0008】
図18は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの電子の選別原理を示す図である。4つの電極1、2、3及び4によって形成された電場Eと、2つの磁極5及び6によって形成された磁場Bの中を電子が進行する。特定運動エネルギー以外の電子はスリット7を使って進行を遮断する。
【0009】
ウィーンフィルタ内の電子の一次軌道方程式は下記(1)式及び(2)式によって表される。
【数1】
【数2】
【0010】
ただし、(1)式及び(2)式にあって、x,yは光軸zに直交しており、x方向がエネルギー分散方向となる。またvはウィーンフィルタ内の電子の速度であり、1/2mv2=eφ0の関係を持つ。
【0011】
特定運動エネルギーの電子を選別するための条件として(1)式の右辺を0にする直進条件が(3)式で与えられる。
【数3】
【0012】
これは電揚Eと磁場Bの双極子成分を必要とするため、最低2個の電極と磁極を必要とする。またx方向とy方向のレンズ作用を同じにするための条件として(1)、(2)式の第2項目が同じになるための条件が(4)式で与えられる。
【数4】
【0013】
これは少なくとも電場E、或いは磁場Bの4極子成分を必要とする。このため、ここで挙げている装置では、4つの電極1、2、3及び4を用いているわけである。
【0014】
図19は4極子成分を使用した場合(上図)と、2極子成分を使用した場合(下図)の電子の軌道を比較する図である。横軸は光軸z上の距離である。z軸上で像面が形成される位置を0として、前後の距離を±の数値で示している。縦軸は光軸zに垂直なx軸、y軸上の距離を示している。光軸zの位置を0とし、上下の距離を±の数値で示している。この図からも4極子成分を使用した場合(上)の方が、入射する電子の角度を大きくし、かつ出口では電子の軌道を絞ることができるのが明らかである。
【0015】
以上がここで挙げている装置のエネルギー分散の原理であるが、レンズ条件を含めた動作は以下の通りとなる。まず最初に減速レンズを使って電子の運動エネルギーをある一定量だけ下げる。そして、図18のアナライザの入口に、図20に示す回折面8、すなわち焦点を持ってくる。そしてアナライザの中心に像面9を持って来て、アナライザの出口にはその入口と共役になる回折面10を持ってくる。すなわち、図20に示すように、アナライザ入口のビームに対してアナライザのレンズ作用を使って出口に焦点を持ってくる。アナライザ内を通過する間に特定運動エネルギー以外の電子を分散させ、出口に設置されているスリット7を使って所望の運動エネルギーの電子を取り出す仕組みになっている。さらにスリット7を通過した電子は、加速レンズによって元の運動エネルギーまで加速される。
【特許文献1】特開平11−233062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、従来のウィーンフィルタ型アナライザでは、磁極に使うヨークがコア装置の大部分を占めるため、電子の通過する内径を大きくすることができず、そのため、ウィーンフィルタの性能を以下の理由から十分発揮することができなかった。
【0017】
一つはウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かせないことである。仮にウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かして、アナライザの収差補正を行なった場合、大角度で入射する電子を取り込んでもアナライザ出力で与えられる収差が小さくなるためエネルギー分解能の低下を招くことがない。しかしながら、実際には大角度で入射する電子は、軌道の半径方向が大きくなる。光軸方向をzとし、アナライザ入力z=z0において、x(z0)=0,x'(z0)=tanα0の初期条件を与え、上記(1)式、(2)式を解くと軌道の半径方向の成分rが(5)式として与えられる。
【数5】
【0018】
ただし、α0,Lはそれぞれ入射角度とアナライザの長さに対応する。(5)式より入射角度を大きくするほど、軌道の半径方向の成分rが大きくなることが分かる。したがって、アナライザで損失する電子に起因する感度の低下を招かずに収差補正を行なうためには、アナライザで損失する電子を低減するために、アナライザの内径を大きくすることが必要となる。
【0019】
もう一つはエネルギー分解能を大きくすることができないことである。ウィーンフィルタのエネルギー分解能ΔEは、(6)式で表される。
【数6】
【0020】
ただし、d,φ0はそれぞれアナライザ出力に対するスリット幅と電子の運動エネルギーである。(6)式からLを大きくするほど、エネルギー分解能が向上することが分かる。すなわち光軸z方向に長いウィーンフィルタほど性能の良いウィーンフィルタとなる。しかしながら(5)式から分かるようにLを大きくすると軌道の半径方向の成分r(z)も大きくなるため、エネルギー分解能を向上させるためには、やはりアナライザの内径を大きくすることが必要となる。
【0021】
このように磁極にヨークとコアを使用した場合、軌道の半径方向の成分rに制限され、アナライザのサイズを大きくすることは困難であり、アナライザの性能を十分に発揮することができなかった。
【0022】
一方で、磁極を単にコイルに変更しただけでは磁場と電場を同一位置から発生することができない。特に双極子成分は電子に偏向を与える場であり、磁場と電場の光軸上のポテンシャル分布が大きく異なっていると、アナライザ内で収差を増大させることとなっていた。
【0023】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができるウィーンフィルタ型アナライザの提供を目的とする。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮できるウィーンフィルタ型アナライザの提供を目的とする。
【0024】
また、本発明は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができ、材料の表面分析を高精度に行なうことができるエネルギー選別型電子顕微鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係るウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、前記課題を解決するために、ウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおいて、真空部内の電子線の経路上に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させる。
【0026】
このウィーンフィル型エネルギーアナライザは、真空中の電極と、磁極をコイルのみに置き換えて大気中に設置するヨークレスコイルとを備えるウィーンフィルタ型エネルギーアナライザであり、かつ電場のポテンシャルと前記磁場のポテンシャルの双極子成分とを一致させている。電場のポテンシャルと前記磁場のポテンシャルの双極子成分とを一致させるためには、アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極にテーパを付けるという手段がある。また、アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるようコイルの光軸方向の長さを電極より長くするという手段もある。
【0027】
本発明に係るエネルギー選別型電子顕微鏡は、前記課題を解決するために、量子線を発生する量子線源と、前記量子線源から発生された量子線が照射される試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された試料から放出された電子が入射されて特定のエネルギーを持った電子だけを選ぶウィーンフィルタ型エネルギーアナライザと、前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにて選択された電子の像が結像されるスクリーンと、前記スクリーン上の像を撮影する撮影部と、前記撮影部により撮影された像を表示する表示部とを備え、前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、電子の通過する真空部内に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮できる
本発明に係るエネルギー選別型電子顕微鏡は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。この実施の形態は、エネルギー選別型電子顕微鏡又は放出電子顕微鏡に用いられる電子レンズ系を構成するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザである。ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、エネルギー選別型電子顕微鏡の電子線源から試料に照射された電子線により試料から放出された電子のうち、特定のエネルギーを持つ電子だけを選んで蛍光スクリーンに結像させる。
【0030】
図1は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11の側面側から見た断面図であり、入口11−INを左側にし、出口11−OUTを右側にした長手方向の断面を示している。図2、図3、図4は、図1中に示した入口11−IN付近、中心11−CEN付近、出口11−OUT付近の各断面図であり、長手方向に垂直な方向の断面を示している。
【0031】
ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、チャンバー12内の真空中に設けた12個の電極13と、チャンバー12外の大気中に設けた12個のヨークレスコイル14とを有してなる。すなわち、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極13とヨークレスコイル14による磁極を12極にしている。このため、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。
【0032】
ヨークレスコイル14は、磁極をコイルのみに置き換えたものであり、コイル受け台15上に配設されている。磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【0033】
また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、光軸方向のアナライザの長さを従来のアナライザよりも長くしている。このため、エネルギーの分解能を向上させることができた。
【0034】
また、シャント17は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTにてそれぞれ断面が矩形である。さらに、シャント17は、チャンバー12内部の真空中に配置されており、チャンバー12の外部の大気側に配置された磁気遮蔽シールド19と磁気的に閉じるように設計されている。このため、電場Eと磁場Bのポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができる。シャント17は、減速レンズの減速電極の電位に等しい。
【0035】
また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極14のポテンシャルと一致させるよう各電極13に、入口11−IN及び出口11−OUTに向けて電極13の厚みを滑らかに薄くするようなテーパを付けている。言い換えると、中心11−CENの周辺では断面の厚みを平行としているが、入口11−IN及び出口11−OUTに向けてテーパを付けて電極13の厚みを徐々に薄くしている。
【0036】
さらに、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるようヨークレスコイル14の光軸z方向の長さMを電極の長さNより長くしている(M>N)。
【0037】
なお、12個の各電極13間の間隙と、各電極13とチャンバー12の筐体との間隙はガイシ16により絶縁されている。
【0038】
図2に示した入口11−INの断面図には、破線で電極13を示している。入口IN付近では、矩形状のシャント17によって電極13は隠れているがシャント17の延長上に電極13が位置しているので、入口付近の電極13の構成を明らかにするため記載している。つまり、アナライザ入口11−INの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるよう光軸z方向の長さをMとしたヨークレスコイル14と、Mよりも短い長さNの電極13は、入口11−INから若干中心側に向かったところでは、後述の開口18に向かって同芯上にチャンバー12の筐体を挟むよう重ねて配置されている。ただし、上述したように、12個の電極13はチャンバー12の内部にあるので真空中に配置されているが、12個のヨークレスコイル14はチャンバー12の外部にあるので大気中に配置されている。試料から放出された電子は入口INの開口18からアナライザ11内に入る。
【0039】
図3に示した中央部11−CEN付近の断面図によれば、各電極13は入口11−IN付近及び出口11−OUT付近の各電極13よりも厚くしているのが分かる。つまり、各電極13は入口11−IN付近及び出口11−OUT付近の方が中央部11−CENよりも薄くしてある。これにより、上述したように、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極14のポテンシャルと一致させることができる。また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、GND電位に等しい磁気シールド19によって覆われている。磁気シールド19は、チャンバー12の外部の大気側に配置されているが、チャンバー12内部の真空中に配置されているシャント17とは磁気的に閉じるように設計されている。
【0040】
図4に示した出口OUT付近の断面図にも、破線で電極13を示している。出口OUT付近でも、シャント17によって電極13は隠れているがシャント17の延長上に電極13が位置しているので説明の都合上記載している。つまり、アナライザ出口11−OUTの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるよう光軸L方向の長さをMとしたヨークレスコイル14と、Mよりも短い長さNの電極13は、出口11−OUTから若干中心側に向かったところでは、光軸xに向かって同心上にチャンバー12の筐体を挟むよう重ねて配置されている。試料から放出された電子は出口OUTの開口21の径に略等しい通過部を有するスリット56によって選別されてアナライザ11外に出る。スリット56は、減速電極の電位に等しい。スリット56によって選別されてアナライザ11から出た電子は、電場形成用電極20によって形成された電場の中を進行する。電場形成用電極20は、減速電極の電位に等しい。
【0041】
以下には、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11の形状を図1乃至図4に示した形状した理由を、前提となる要件と、特徴となる要件にしたがって説明する。
【0042】
まず、電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29の一致のための前提となる要件を説明する。ウィーンフィルタ型アナライザ内の電磁場は電場及び磁場のポテンシャルΦ(x,y)及びΨ(x、y)を多重展開することにより(7)式、(8)式で表される。
【数7】
【数8】
【0043】
ここで、各項は、多極子成分のポテンシャルを表す。
【0044】
収差補正を行うためにウィーンフィルタ型アナライザの持つ収差の定式化が必要であり、収差係数は、式中に現れる多極子成分ポテンシャルの係数E1,B1,E2,B2,E3,B3,E4,B4で表される。ここで述べられている収差補正とは収差係数をゼロにすることで、収差を消去することである。なおここで補正されるのは2次収差と3次開口収差である。収差係数がゼロになるようなポテンシャルの係数を電気的、磁気的に与えるためには、電極、磁極を多極に配置しなければならない。そして必要なポテンシャル分布を得るためには、必要とされる電圧値、電流値の計算法が確立されている必要がある。また電極と磁極を精度良く配置する必要がある。前者に関しては収差係数をゼロにするようなポテンシャルの係数と(7)式,(8)式を用いて電圧、電流値を算出することが出来なければならないが,このような計算例は電極が4つ,磁極が2つの多極子ウィーンフィルタ型アナライザでも応用されており,実現可能である。一方、多極子型の電極と磁極の精度を出すための配置は、偏向器を製作するための技術を用いれば十分可能である。
【0045】
アナライザのエネルギー分散長を増すためには、アナライザ内を通過する電子の運動エネルギーが低い方が望ましい。そのため,アナライザ入口の直前に減速レンズを挿入する。この方式は、すでに多くのエネルギーアナライザで採用されている方式で技術的な面は十分確立している。
【0046】
次に、ウィーンフィルタ型アナライザ11を図1に示した形状にした理由の要部をなす、本発明の特徴となる要件を説明する。図5は、収差補正を行うことによって大角度で入射される電子を取り込んでも出口でのスポットサイズを小さくできることを示す図である。図5(a)は比較例として挙げたものであり、収差補正をしていない場合のアナライザ出口でのスポット形状である。x軸及びy軸方向ともに収差が生じている。図5(b)は収差補正をした場合のアナライザ出口でのスポット形状である。若干残っている収差は後段のスリットにより取り除くことが可能である。
【0047】
また、図6は、収差を低減するために必要な電極、磁極の数は、ポテンシャルの多極子成分制御の観点から12極が適することを、数値計算より示した図である。図6(a)は電極、磁極の数を8極として行なった収差補正の特性を示している。8極の場合の収差補正では、x軸及びy軸に収差がかなり残っているのが分かる。図6(b)は電極、磁極の数を10極として行なった収差補正の特性を示している。まだ、x軸及びy軸に収差が残っているのが分かる。図6(c)は電極、磁極の数を12極として行なった収差補正の特性を示している。図6(a)及び(b)に示した8極及び10極の収差よりも収差が補正されたのが分かる。また、図6(d)は電極、磁極の数を18極として行なった収差補正の特性を示しているが、図6(c)に示した12極の場合とほとんど変わらない補正状況なので、コストの面を考慮すれば、12極が適すると判断できる。
【0048】
図7は、電極及び磁極25を12個用いた12極子のウィーンフィルタを示す図である。図7(a)は長手方向に沿って側面側から見た断面図であり、図7(b)は長手方向に垂直な断面図である。12個の電極及び磁極25は、光軸Lに平行な軸z方向に均一の厚さで形成されている。
【0049】
このように、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、収差補正を行なうことが必要であり、さらに収差補正を効率よく行なうためにはポテンシャルの多極子成分制御を必要とするので、アナライザの構成は、電極、磁極が多数取り付けられた、例えば12極子のような多極子型になる。この多極子型により、収差補正を行うことによって大角度で入射される電子を取り込んでも出口でのスポットサイズが小さく高エネルギー分解能を実現できる。
【0050】
ところで、大角度でアナライザに入射される電子をエネルギー選別する際、少ないロスでアナライザ出口まで電子を輸送するために電子が通過する内径の大口径化を図る必要がある。大口径化を図るのには、磁極を構成するヨーク、コアを取り除くことによって磁極をコイルのみに置き換える方法がある。
【0051】
図8(b)は磁極をコイル26にしたウィーンフィルタの構成を示す図である。同心円上に配設した12個のコイル26の内部には、同じく同心円上に12個の電極27を配設している。アナライザの内径はdbである。比較のため、図8(a)には電磁極28を12個用いたウィーンフィルタの構成を示す。アナライザの内径はdaである。図8(b)に示すように、磁極をコイル26にしたウィーンフィルタの方がアナライザの内径dbを拡大できることが分かる(db>da )。
【0052】
しかしながら、コイル26は冷却方法の観点から真空内に配置することが困難であるため、電極27とコイル26を同一位置に配置することは難しく、光軸x方向に同一長さの電極27とコイル26を配置しただけでは電子の偏向に寄与する電場E、磁場Bのポテンシャルの双極子成分を一致させることができなかった。
【0053】
そこで、本実施の形態のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、両者のポテンシャルの双極子成分を一致させるために電極形状とコイル、シャントに以下の(I)、(II)、(III)、(IV)に挙げる特徴を持たせて、上記図1、図2、図3及び図4の構成とした。
【0054】
(I)アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げるために電極にテーパを付けた。(II)アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げるためにコイルの光軸方向の長さを電極より長くした。(III)両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させるためにシャント形状に特徴を持たせた。(IV)大気側に配置されている磁気遮蔽シールドと真空側に配置されているシャントが磁気的に閉じるようにした。
【0055】
以上に挙げた特徴にしたがって、ウィーンフィルタ型アナライザ11は多極化、磁極のコイル化、電極、磁極形状の最適化を実現した。このため、ウィーンフィルタ型アナライザ11は高透過率のアナライザを実現できた。
【0056】
図9は、ウィーンフィルタ型アナライザ11を用いた収差補正の前後での光軸方向のポテンシャル分布を比較する図である。図9(a)は補正前のポテンシャルの分布を示し、図9(b)は補正後のポテンシャルの分布を示す。収差補正前の光軸方向のポテンシャル(図9(a))では電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29が不一致であるが、補正後の光軸方向のポテンシャル(図9(b))では電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29が一致した。
【0057】
以上に説明したように、本実施の形態のウィーンフィルタ型アナライザ11は、チャンバー内の真空中に12個の電極13と、チャンバー外の大気中に12個のヨークレスコイル14を有し、かつアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極13にテーパを付け、さらに、アナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場Eのポテンシャルと一致させるようにコイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしたので、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮することができる。
【0058】
次に、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11を電子レンズ系に内蔵した、エネルギー選別型電子顕微鏡について説明する。
【0059】
本手法は量子線(電子線、光子、荷電粒子等)を線源とすることができるが、量子線の一つの例である光子を使った場合を以下に説明する。
【0060】
図10はエネルギー選別型電子顕微鏡の正面図であり、図11は側面図である。エネルギー選別型電子顕微鏡30は、特性X線を発生する光源であるX線源31と、X線源31から発生された特性X線が照射される試料を乗せるためのステージ32とその駆動機構である試料ステージ駆動機構33と、試料を分析するための分析室34と、試料の準備を行うための試料準備室35と、試料準備室35から分析室34へ試料を移動するマニュピレータ36と、分析室34及び試料準備室35を真空にする排気系37と、排気系37の排気システムをコントロールする排気系コントローラ38とを備える。また、エネルギー選別型電子顕微鏡30は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11を内蔵する電子レンズ系39と、電子レンズ系39をコントロールする電子レンズ系コントローラ40と、X線源31によるX線の発生をコントロールするX線発生用コントローラ41とを備える。また、エネルギー選別型電子顕微鏡30は、電子レンズ系39を制御するためのソフトがインストールされているシステム制御用パーソナルコンピュータ42と、電子レンズ系39を介して像を取得するCCDカメラ43と、CCDカメラ43から得られた画像を写すCRT44とを備える。
【0061】
X線源31は、試料表面の内殻電子及び二次電子を励起するための光源である。強い光源を用いるほど多くの光電子が得られる。ここでは、特性X線を用いて、分光結晶部(10−6Pa程度)において単色化、及び集光され、試料表面に光が照射される。X線光源31は、図10の正面図では紙面よりも手前側から、また図11の側面図を見ると分かるように斜め下方向に向かって特性X線を出射する。X線源31はX線発生コントローラ41と電気的に接続している。X線発生コントローラ41は、X線源31にX線を発生させ、制御するための電源、及びコントローラを格納している。X線光源31から出射された特性X線は、図示を省略する光路折曲部により光路が折り曲げられ、試料ステージ駆動機構33のステージ32上の試料に導かれる。つまり、X線光源31と試料ステージ駆動機構33は機械的に接続している。
【0062】
試料ステージ駆動機構33は、試料を乗せたステージ32を、x,y,zなどの方向に動かしたり、θ,φなどの角度に傾けることができる。この試料ステージ駆動機構33によって試料の位置が調整される。この試料ステージ駆動機構33は、後述の分析室34と機械的に接続している。
【0063】
分析室34は、内殻電子を用いて電子レンズ系を使い、試料を分析するための超高真空槽である。真空の度合いは10−8Pa程度である。また、試料準備室35は、試料の挿入、表面の清浄を行なうための10−6Pa程度の超高真空槽である。試料準備室35はマニュピレータ36と機械的に接続している。また、分析室34と試料準備室35は、機械的に接続しており、試料準備室35により挿入され、表面が清浄された試料は、マニュピュレータ36によって分析室に移動される。
【0064】
排気系37は分析室34、試料準備室35を超高真空に排気するためのシステムを格納している。排気系37は排気系コントローラ38と電気的に接続しており、排気系コントローラ38は排気系37をコントロールするシステムを組み込んでいる。
【0065】
電子レンズ系39は、分析室34と機械的に接続しており、試料からの放出電子が入射されると、電子を集光し、角度制限、視野制限を行なってから減速し、ウィーンフィルタ型アナライザ11に通す。ウィーンフィルタ型アナライザ11は前述したように、特定運動エネルギーの電子のみを選別し、蛍光スクリーンに結像させる。
【0066】
電子レンズ系コントローラ40は、電子レンズ系39と電気的に接続しており、電子レンズ系39の電圧、電流を制御するためのコントローラ、及び電源を格納している。電子レンズ系コントローラ40は、システム制御用パーソナルコンピュータ42にも電気的及び機械的に接続している。システム制御用パーソナルコンピュータ42は、電子レンズ系39に適切な電圧、電流を与えるためのソフトがインストールされている。
【0067】
システム制御用パーソナルコンピュータ42は、CCDカメラ43及びCRT44にも電気的に接続している。CCDカメラ43は、電子レンズ系39の蛍光スクリーン上に写された像を取得、保存するために使われる。CRT44は、CCDカメラ43から得られた画像を映し出すための表示部である。また、システム制御用パーソナルコンピュータ42は、試料ステージ駆動機構33とも電気的に接続している。また、システム制御用パーソナルコンピュータ42は、CCDカメラ43から得られる画像信号を取り込み、保存する。
【0068】
次に、図10に示したエネルギー選別型電子顕微鏡30の動作について説明する。
【0069】
まず、排気系コントローラ38のコントロールの基に排気系37が試料準備室35、分析室34及び電子レンズ系39内の排気を行なう。試料準備室35により挿入され、表面が清浄された試料は、マニュピレータ36によって分析室34ないの試料ステージ32に移動される。試料を載せた試料ステージ32は、試料ステージ駆動機構33の駆動によって適切な位置に移動される。
【0070】
X線発生用コントローラ41は、適切な管電圧、管電流をX線源(X線発生装置)31に与える。X線源31は、特性X線を発生し、この特性X線は分析室34内の試料ステージ32上の試料に照射される。システム制御用パーソナルコンピュータ42は、電子レンズ系コントローラ40へ適切な電圧値、電流値を信号を送信する。電子レンズ系コントローラ40は、電子レンズ系39に、システム制御用パーソナルコンピュータ42の制御に基づいた適切な電圧、電流値を供給する。
【0071】
すると、特性X線の照射により試料から放射された電子は電子レンズ系39に入射し、集光され、角度制限、視野制限が行なわれてから減速され、ウィーンフィルタ型アナライザ11を通される。ウィーンフィルタ型アナライザ11は、前述した動作により、特定運動エネルギーの電子のみを選別し、蛍光スクリーンに結像させる。
【0072】
蛍光スクリーン上に結像された像は、CCDカメラ43によって撮影され、CRT44に画像化される。CCDカメラ43によって撮影された画像信号は、システム制御用パーソナルコンピュータ42に取り込まれ、内蔵のHDD,RAMなどの記憶媒体に保存される。
【0073】
まず、図12は、電子レンズ系39の第1具体例である電子レンズ系39−1の詳細な構成を示す図である。この構成図には、電子軌道及びポテンシャル分布も示している。以下の各具体例でも同様である。
【0074】
電子レンズ系39−1は、対物レンズ51と、インプットレンズ52と、インプットレンズ52内の角度制限絞り53と、同じくインプットレンズ52内の視野制限絞り54と、減速レンズ55とを備える。また、電子レンズ系39−1は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11と、出口スリット56と、投影レンズ57と、電子の増倍機構であるMCP58と、蛍光スクリーン59とを備える。さらに、各レンズ間には、電子レンズ系の光軸を補正するための偏向器(図示せず)が設けられている。なお、電子レンズ系39−1の電極間はガイシによって絶縁されている。
【0075】
対物レンズ51は、磁界型対物レンズを用いて、電子を集光するために用いられるレンズである。インプットレンズ52は、像の拡大と像の形成に使われるレンズである。角度制限絞り53は、試料から放出される光電子で電子レンズの光軸に対して大角度で入射する電子を制限するための開口で、これを使うことにより電子レンズの球面収差を低減することができる。視野制限絞り54は、顕微鏡で観測する視野を制限するために用いられる。
【0076】
減速レンズ55は、アナライザに入射する電子の速度を減速するレンズである。アナライザ11を通過する電子を遅くするほど、分散の効果を長い時間受けることができ、エネルギー分解能を上げることができる。このため、減速レンズ55により電子を減速する。
【0077】
ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、図1乃至図4などを用いて説明したように、チャンバー内の真空中に12個の電極13と、チャンバー外の大気中に12個のヨークレスコイル14を有し、かつアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極13にテーパを付け、さらに、アナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場Eのポテンシャルと一致させるようにコイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしたので、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えて、特定運動エネルギーの電子を選別することができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮して、特定運動エネルギーの電子を選別することができる。
【0078】
出口スリット56は、特定運動エネルギー付近の電子のみを通過するための仕切りである。投影レンズ57は像を拡大するためのレンズである。MCP58は、輸送された電子を増倍して感度を上げるための電子の増倍機構である。蛍光スクリーン59は、電子を実際の光に変換するための機構である。
【0079】
したがって、この電子レンズ系39−1を備えてなるエネルギー選別型電子顕微鏡30を第1実施例とすると、この第1実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−1は、アナライザ11で損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0080】
これは、電子レンズ系39−1内に設けたウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11が以下の効果を奏するからである。すなわち、エネルギー選別型電子顕微鏡30−1の電子レンズ系39−1に用いられるウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極とヨークレスコイルによる磁極を12極にしているので、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。また、磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【0081】
また、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、光軸方向のアナライザの長さを長くしたので、エネルギーの分解能を向上させることができた。
【0082】
また、電極にテーパを付けることにより、アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができた。また、コイルの光軸方向の長さを電極より長くして、アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができた。
【0083】
また、シャント形状を矩形にしたので、両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができた。
【0084】
また、大気側に配置されている磁気遮蔽シールドと真空側に配置されているシャントが磁気的に閉じるように設計したので、両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができた。
【0085】
図13は、電子レンズ系39−2の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−2もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、電子レンズ系39−1とは、出口スリット56の後に、スティングメータ60を用いていることが異なる。スティングメータは、投影レンズ57の先端部分に配設されており、アナライザ11から出た電子の非点収差を補正するためのレンズである。他の構成は電子レンズ系39−1と同様であるので説明を省略する。
【0086】
したがって、この電子レンズ系39−2を備えてなる、第2実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−2は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができ、さらに非点収差を補正できるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0087】
図14は、電子レンズ系39−3の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−3もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは、対物レンズ51の後にカソードオブジェクティブレンズ61を有していることが異なる。カソードオブジェクティブレンズ61は、サンプルホルダーに電圧を印加することによって使用される。他の構成は電子レンズ系39−1と同様であるので説明を省略する。
【0088】
したがって、この電子レンズ系39−3を備えてなる、第3実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−3も、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0089】
図15は、電子レンズ系39−4の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−4もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは、対物レンズ51の後にビームセパレータ62を有していることが異なる。
【0090】
この電子レンズ系39−4を有する第4実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−4は、第1実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−1と異なり、X線源を用いるのではなく、電子銃を用いている。このため、図10及び図11に示した構成図においては、電子銃71から試料ステージ32上の試料に電子線を照射する。このため、電子銃コントローラ72をX線発生用コントローラ41の替わりに備えている。電子銃コントローラ72は、電子銃71と電気的に接続しており、電子銃71から電子線を発生させ、制御するための電源、及びコントローラを格納している。
【0091】
このため、図15に示した電子レンズ系39−4は、前述したように、対物レンズ51の後にビームセパレータ62を備え、電子銃71より出射された電子線を試料表面に対して垂直に照射し、試料表面の反射電子をインプットレンズ52へ導くのに用いられる。
【0092】
したがって、この第4実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−4は、電子銃71から出射された電子線を試料に照射し、試料から放出された電子を、アナライザで損失することなくよって感度の低下を抑えて、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0093】
図16は、電子レンズ系39−5の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−5は、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは異なり、対物レンズ51の後にカソードオブジェクティブレンズ61を有している。さらに、ウィーンフィルタ型アナライザ11の出口スリット56の手前に加速レンズ63を備えている点が異なる。
【0094】
加速レンズ63は、後段の投影レンズ57へ送られる電子を減速レンズ55で減速される以前の速度に戻すためのレンズである。
【0095】
したがって、第5実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−5は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0096】
さらに、第6実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−6としては、第1実施例のX線源31の替わりに紫外光源81を用い、X線発生用コントローラ41の替わりに紫外線発生用コントローラ82を用いる構成の装置を挙げてもよい。紫外光源81は、紫外線発生用コントローラ82から適切な管電圧、管電流が供給されて、紫外線を発生し、試料ステージ32上の試料に照射する。他の構成及び動作は省略する。
【0097】
また、第7実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−7としては、第1実施例のX線源31の替わりに放射線源91を用い、X線発生用コントローラ41の替わりに放射線発生用コントローラ92を用いる構成の装置を挙げてもよい。放射線源91は、放射線発生用コントローラ92から適切な管電圧、管電流が供給されて、放射線を発生し、試料ステージ32上の試料に照射する。他の構成及び動作は省略する。
【0098】
なお、図1乃至図4に示したウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させるため、電極13にテーパを付けてアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げ、かつ、コイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしてアナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げているが、必ずしも両方の手段を共に使う必要はない。いずれか一方の手段により、静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができればそれでもよい。もちろん、磁極をヨークレスコイルに換えることによってアナライザの内径を大きくすることと共にいずれかの手段を用いることは必要である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの側面側から見た断面図である。
【図2】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの入口付近の断面図である。
【図3】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの中心付近の断面図である。
【図4】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの出口付近の断面図である。
【図5】収差補正をしていない場合と収差補正をした場合のアナライザ出口でのスポット形状を示す図である。
【図6】電極、磁極の数を8極、10極、12極及び18極として行なった収差補正の特性図である。
【図7】電極及び磁極を12個用いた12極子のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザを示す図である。
【図8】電磁極を12個用いたウィーンフィルタと12個の電極と12個のコイルを用いた12極子のウィーンフィルタの断面図である。
【図9】補正前のポテンシャルの分布と、補正後のポテンシャルの分布を示す図である。
【図10】エネルギー選別型電子顕微鏡の正面図である。
【図11】エネルギー選別型電子顕微鏡の側面図である。
【図12】電子レンズ系の第1具体例の詳細な構成を示す図である。
【図13】電子レンズ系の第2具体例の詳細な構成を示す図である。
【図14】電子レンズ系の第3具体例の詳細な構成を示す図である。
【図15】電子レンズ系の第4具体例の詳細な構成を示す図である。
【図16】電子レンズ系の第5具体例の詳細な構成を示す図である。
【図17】従来のウィーンフィルタ型アナライザの断面図である。
【図18】ウィーンフィルタ型アナライザの電子の選別原理を示す図である。
【図19】4極子を使用した場合と、2極子を使用した場合の電子の軌道の比較図である。
【図20】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおける回折面と像面の位置を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
11 ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ、12 チャンバー、13 電極、14 ヨークレスコイル、15 ヨーク受け台、16 ガイシ、17 シャント、19 磁気シールド、20 電場形成用電極、30 エネルギー選別型電子顕微鏡、31 X線源、32 試料ステージ、33 試料ステージ駆動機構、34 分析室、35 試料準備室、36 マニュピュレータ、37 排気系、38 排気系コントローラ、39 電子レンズ系、40 電子レンズ系コントローラ、41 X線用発生コントローラ、42 システム制御用パーソナルコンピュータ、43 CCDカメラ、44 CRT、51 対物レンズ、52 インプットレンズ、53 角度制限絞り、54 視野制限絞り、55 減速レンズ、56 出口スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム光学の分野に分類され、特にウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子線だけを選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ及びウィーンフィルタ型エネルギーアナライザを電子レンズ系に設けたエネルギー選別型電子顕微鏡装置に関する。このエネルギー選別型電子顕微鏡装置は光電子分光装置と電子顕微鏡を組み合わせた装置であり、表面分析に広く応用される。
【背景技術】
【0002】
エネルギーアナライザは、オージェ電子分光や光電子分光などの装置で用いられる他、電子顕微鏡において、特定のエネルギーを持った電子線だけを選んで結像させるエネルギー選別型電子顕微鏡(energy-filtering microscopy)のためにも用いられる。このような装置において、電子分光系としての性能、すなわちエネルギー分解能と感度を決める主たる要因の一つに、アナライザの収差がある。これは、アナライザの入口において許される電子ビームの開き角の上限を決めるものである。この収差を小さくすればするほど電子を取り込める角度が広がり、ある一定のエネルギー分解能のもとでの感度を向上させることができる。同じことであるが、ある一定の感度のもとでのエネルギー分解能を向上させることができる。逆に、この収差が大きいと、アナライザの出口、つまりエネルギー選別面においてビームがボケてしまい、エネルギー分解能と感度を損なうことになる。そこで、アナライザの収差を低減する問題は、電子分光装置の性能を向上させるための重要な課題となる。
【0003】
従来、下記特許文献1に記載のように、エネルギーアナライザとしてウィーンフィルタが用いられている。ウィーンフィルタは、互いに直交する電場と磁場からなる。このウィーンフィルタにおいては、ある特定のエネルギーを持った電子に対しては、電場と磁場からの力が打ち消し合い、その電子はフィルタを通過できるが、そうでない電子は、偏向されて通過できなくなる。
【0004】
ウィーンフィルタは、他の種類のエネルギーアナライザに比べて次の特徴がある。まず、他のアナライザが例外なく光軸が曲線であるのに対し、ウィーンフィルタだけが光軸が直線である。これは、電子分光系の他の光学要素が、ほとんどの場合軸対称レンズで構成されるという事実と整合し、軸合わせや光学調整を容易にする。これは特に、調整が微妙になるエネルギー選別型顕微鏡においては、非常に重要な長所となる。
【0005】
また、他のエネルギーアナライザは、種類によって収差係数が決まってしまう。例えば、電子分光装置で最も多く用いられている静電半球エネルギーアナライザ(HSA)では、その光軸の半径をr0 とすると、入射角α0 の時の出口でのエネルギー分散方向のビームの収差Δxは、Δx=2r0α02 で与えられる。この2r0は2次の開口収差係数と呼ばれる。エネルギーアナライザの性能を決めるのは、エネルギー分散方向において入射角のn乗に比例する収差であり、これはn次の開口収差と呼ばれる。nが小さいほど収差の影響が大きく、2次が最低次である。開口収差が何次から始まるかでエネルギーアナライザの性能の程度が分かる。HSAでは、この収差を有効に補正する方法がなく、収差の程度としては大きい部類に入る。
【0006】
これに対し、ウィーンフィルタでは、電場と磁場をつくる電極と磁極の形状、或いはそれらにかける電圧と励磁を調整することにより、収差補正が可能である。
【0007】
図17は、現在、エネルギー選別型X線光電子放出顕微鏡で使用されているウィーンフィルタ型アナライザの断面図である。このウィーンフィルタ型アナライザは、4つの電極1、2、3及び4と、2つの磁極5及び6からなる。図17では、電極1と磁極5は、電極と磁極を兼ねた電磁極からなる。また、電極3と磁極6も、電極と磁極を兼ねた電磁極からなる。このウィーンフィルタ型アナライザの原理は直交した電場Eと磁場Bを使って、電子に働く静電気力とローレンツ力の釣り合いから特定運動エネルギーの電子を選別する。
【0008】
図18は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの電子の選別原理を示す図である。4つの電極1、2、3及び4によって形成された電場Eと、2つの磁極5及び6によって形成された磁場Bの中を電子が進行する。特定運動エネルギー以外の電子はスリット7を使って進行を遮断する。
【0009】
ウィーンフィルタ内の電子の一次軌道方程式は下記(1)式及び(2)式によって表される。
【数1】
【数2】
【0010】
ただし、(1)式及び(2)式にあって、x,yは光軸zに直交しており、x方向がエネルギー分散方向となる。またvはウィーンフィルタ内の電子の速度であり、1/2mv2=eφ0の関係を持つ。
【0011】
特定運動エネルギーの電子を選別するための条件として(1)式の右辺を0にする直進条件が(3)式で与えられる。
【数3】
【0012】
これは電揚Eと磁場Bの双極子成分を必要とするため、最低2個の電極と磁極を必要とする。またx方向とy方向のレンズ作用を同じにするための条件として(1)、(2)式の第2項目が同じになるための条件が(4)式で与えられる。
【数4】
【0013】
これは少なくとも電場E、或いは磁場Bの4極子成分を必要とする。このため、ここで挙げている装置では、4つの電極1、2、3及び4を用いているわけである。
【0014】
図19は4極子成分を使用した場合(上図)と、2極子成分を使用した場合(下図)の電子の軌道を比較する図である。横軸は光軸z上の距離である。z軸上で像面が形成される位置を0として、前後の距離を±の数値で示している。縦軸は光軸zに垂直なx軸、y軸上の距離を示している。光軸zの位置を0とし、上下の距離を±の数値で示している。この図からも4極子成分を使用した場合(上)の方が、入射する電子の角度を大きくし、かつ出口では電子の軌道を絞ることができるのが明らかである。
【0015】
以上がここで挙げている装置のエネルギー分散の原理であるが、レンズ条件を含めた動作は以下の通りとなる。まず最初に減速レンズを使って電子の運動エネルギーをある一定量だけ下げる。そして、図18のアナライザの入口に、図20に示す回折面8、すなわち焦点を持ってくる。そしてアナライザの中心に像面9を持って来て、アナライザの出口にはその入口と共役になる回折面10を持ってくる。すなわち、図20に示すように、アナライザ入口のビームに対してアナライザのレンズ作用を使って出口に焦点を持ってくる。アナライザ内を通過する間に特定運動エネルギー以外の電子を分散させ、出口に設置されているスリット7を使って所望の運動エネルギーの電子を取り出す仕組みになっている。さらにスリット7を通過した電子は、加速レンズによって元の運動エネルギーまで加速される。
【特許文献1】特開平11−233062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、従来のウィーンフィルタ型アナライザでは、磁極に使うヨークがコア装置の大部分を占めるため、電子の通過する内径を大きくすることができず、そのため、ウィーンフィルタの性能を以下の理由から十分発揮することができなかった。
【0017】
一つはウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かせないことである。仮にウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かして、アナライザの収差補正を行なった場合、大角度で入射する電子を取り込んでもアナライザ出力で与えられる収差が小さくなるためエネルギー分解能の低下を招くことがない。しかしながら、実際には大角度で入射する電子は、軌道の半径方向が大きくなる。光軸方向をzとし、アナライザ入力z=z0において、x(z0)=0,x'(z0)=tanα0の初期条件を与え、上記(1)式、(2)式を解くと軌道の半径方向の成分rが(5)式として与えられる。
【数5】
【0018】
ただし、α0,Lはそれぞれ入射角度とアナライザの長さに対応する。(5)式より入射角度を大きくするほど、軌道の半径方向の成分rが大きくなることが分かる。したがって、アナライザで損失する電子に起因する感度の低下を招かずに収差補正を行なうためには、アナライザで損失する電子を低減するために、アナライザの内径を大きくすることが必要となる。
【0019】
もう一つはエネルギー分解能を大きくすることができないことである。ウィーンフィルタのエネルギー分解能ΔEは、(6)式で表される。
【数6】
【0020】
ただし、d,φ0はそれぞれアナライザ出力に対するスリット幅と電子の運動エネルギーである。(6)式からLを大きくするほど、エネルギー分解能が向上することが分かる。すなわち光軸z方向に長いウィーンフィルタほど性能の良いウィーンフィルタとなる。しかしながら(5)式から分かるようにLを大きくすると軌道の半径方向の成分r(z)も大きくなるため、エネルギー分解能を向上させるためには、やはりアナライザの内径を大きくすることが必要となる。
【0021】
このように磁極にヨークとコアを使用した場合、軌道の半径方向の成分rに制限され、アナライザのサイズを大きくすることは困難であり、アナライザの性能を十分に発揮することができなかった。
【0022】
一方で、磁極を単にコイルに変更しただけでは磁場と電場を同一位置から発生することができない。特に双極子成分は電子に偏向を与える場であり、磁場と電場の光軸上のポテンシャル分布が大きく異なっていると、アナライザ内で収差を増大させることとなっていた。
【0023】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができるウィーンフィルタ型アナライザの提供を目的とする。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮できるウィーンフィルタ型アナライザの提供を目的とする。
【0024】
また、本発明は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができ、材料の表面分析を高精度に行なうことができるエネルギー選別型電子顕微鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係るウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、前記課題を解決するために、ウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおいて、真空部内の電子線の経路上に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させる。
【0026】
このウィーンフィル型エネルギーアナライザは、真空中の電極と、磁極をコイルのみに置き換えて大気中に設置するヨークレスコイルとを備えるウィーンフィルタ型エネルギーアナライザであり、かつ電場のポテンシャルと前記磁場のポテンシャルの双極子成分とを一致させている。電場のポテンシャルと前記磁場のポテンシャルの双極子成分とを一致させるためには、アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極にテーパを付けるという手段がある。また、アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるようコイルの光軸方向の長さを電極より長くするという手段もある。
【0027】
本発明に係るエネルギー選別型電子顕微鏡は、前記課題を解決するために、量子線を発生する量子線源と、前記量子線源から発生された量子線が照射される試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された試料から放出された電子が入射されて特定のエネルギーを持った電子だけを選ぶウィーンフィルタ型エネルギーアナライザと、前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにて選択された電子の像が結像されるスクリーンと、前記スクリーン上の像を撮影する撮影部と、前記撮影部により撮影された像を表示する表示部とを備え、前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、電子の通過する真空部内に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮できる
本発明に係るエネルギー選別型電子顕微鏡は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。この実施の形態は、エネルギー選別型電子顕微鏡又は放出電子顕微鏡に用いられる電子レンズ系を構成するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザである。ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、エネルギー選別型電子顕微鏡の電子線源から試料に照射された電子線により試料から放出された電子のうち、特定のエネルギーを持つ電子だけを選んで蛍光スクリーンに結像させる。
【0030】
図1は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11の側面側から見た断面図であり、入口11−INを左側にし、出口11−OUTを右側にした長手方向の断面を示している。図2、図3、図4は、図1中に示した入口11−IN付近、中心11−CEN付近、出口11−OUT付近の各断面図であり、長手方向に垂直な方向の断面を示している。
【0031】
ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、チャンバー12内の真空中に設けた12個の電極13と、チャンバー12外の大気中に設けた12個のヨークレスコイル14とを有してなる。すなわち、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極13とヨークレスコイル14による磁極を12極にしている。このため、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。
【0032】
ヨークレスコイル14は、磁極をコイルのみに置き換えたものであり、コイル受け台15上に配設されている。磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【0033】
また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、光軸方向のアナライザの長さを従来のアナライザよりも長くしている。このため、エネルギーの分解能を向上させることができた。
【0034】
また、シャント17は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTにてそれぞれ断面が矩形である。さらに、シャント17は、チャンバー12内部の真空中に配置されており、チャンバー12の外部の大気側に配置された磁気遮蔽シールド19と磁気的に閉じるように設計されている。このため、電場Eと磁場Bのポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができる。シャント17は、減速レンズの減速電極の電位に等しい。
【0035】
また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極14のポテンシャルと一致させるよう各電極13に、入口11−IN及び出口11−OUTに向けて電極13の厚みを滑らかに薄くするようなテーパを付けている。言い換えると、中心11−CENの周辺では断面の厚みを平行としているが、入口11−IN及び出口11−OUTに向けてテーパを付けて電極13の厚みを徐々に薄くしている。
【0036】
さらに、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるようヨークレスコイル14の光軸z方向の長さMを電極の長さNより長くしている(M>N)。
【0037】
なお、12個の各電極13間の間隙と、各電極13とチャンバー12の筐体との間隙はガイシ16により絶縁されている。
【0038】
図2に示した入口11−INの断面図には、破線で電極13を示している。入口IN付近では、矩形状のシャント17によって電極13は隠れているがシャント17の延長上に電極13が位置しているので、入口付近の電極13の構成を明らかにするため記載している。つまり、アナライザ入口11−INの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるよう光軸z方向の長さをMとしたヨークレスコイル14と、Mよりも短い長さNの電極13は、入口11−INから若干中心側に向かったところでは、後述の開口18に向かって同芯上にチャンバー12の筐体を挟むよう重ねて配置されている。ただし、上述したように、12個の電極13はチャンバー12の内部にあるので真空中に配置されているが、12個のヨークレスコイル14はチャンバー12の外部にあるので大気中に配置されている。試料から放出された電子は入口INの開口18からアナライザ11内に入る。
【0039】
図3に示した中央部11−CEN付近の断面図によれば、各電極13は入口11−IN付近及び出口11−OUT付近の各電極13よりも厚くしているのが分かる。つまり、各電極13は入口11−IN付近及び出口11−OUT付近の方が中央部11−CENよりも薄くしてある。これにより、上述したように、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、アナライザ入口11−IN及び出口11−OUTの電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極14のポテンシャルと一致させることができる。また、このウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、GND電位に等しい磁気シールド19によって覆われている。磁気シールド19は、チャンバー12の外部の大気側に配置されているが、チャンバー12内部の真空中に配置されているシャント17とは磁気的に閉じるように設計されている。
【0040】
図4に示した出口OUT付近の断面図にも、破線で電極13を示している。出口OUT付近でも、シャント17によって電極13は隠れているがシャント17の延長上に電極13が位置しているので説明の都合上記載している。つまり、アナライザ出口11−OUTの磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるよう光軸L方向の長さをMとしたヨークレスコイル14と、Mよりも短い長さNの電極13は、出口11−OUTから若干中心側に向かったところでは、光軸xに向かって同心上にチャンバー12の筐体を挟むよう重ねて配置されている。試料から放出された電子は出口OUTの開口21の径に略等しい通過部を有するスリット56によって選別されてアナライザ11外に出る。スリット56は、減速電極の電位に等しい。スリット56によって選別されてアナライザ11から出た電子は、電場形成用電極20によって形成された電場の中を進行する。電場形成用電極20は、減速電極の電位に等しい。
【0041】
以下には、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11の形状を図1乃至図4に示した形状した理由を、前提となる要件と、特徴となる要件にしたがって説明する。
【0042】
まず、電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29の一致のための前提となる要件を説明する。ウィーンフィルタ型アナライザ内の電磁場は電場及び磁場のポテンシャルΦ(x,y)及びΨ(x、y)を多重展開することにより(7)式、(8)式で表される。
【数7】
【数8】
【0043】
ここで、各項は、多極子成分のポテンシャルを表す。
【0044】
収差補正を行うためにウィーンフィルタ型アナライザの持つ収差の定式化が必要であり、収差係数は、式中に現れる多極子成分ポテンシャルの係数E1,B1,E2,B2,E3,B3,E4,B4で表される。ここで述べられている収差補正とは収差係数をゼロにすることで、収差を消去することである。なおここで補正されるのは2次収差と3次開口収差である。収差係数がゼロになるようなポテンシャルの係数を電気的、磁気的に与えるためには、電極、磁極を多極に配置しなければならない。そして必要なポテンシャル分布を得るためには、必要とされる電圧値、電流値の計算法が確立されている必要がある。また電極と磁極を精度良く配置する必要がある。前者に関しては収差係数をゼロにするようなポテンシャルの係数と(7)式,(8)式を用いて電圧、電流値を算出することが出来なければならないが,このような計算例は電極が4つ,磁極が2つの多極子ウィーンフィルタ型アナライザでも応用されており,実現可能である。一方、多極子型の電極と磁極の精度を出すための配置は、偏向器を製作するための技術を用いれば十分可能である。
【0045】
アナライザのエネルギー分散長を増すためには、アナライザ内を通過する電子の運動エネルギーが低い方が望ましい。そのため,アナライザ入口の直前に減速レンズを挿入する。この方式は、すでに多くのエネルギーアナライザで採用されている方式で技術的な面は十分確立している。
【0046】
次に、ウィーンフィルタ型アナライザ11を図1に示した形状にした理由の要部をなす、本発明の特徴となる要件を説明する。図5は、収差補正を行うことによって大角度で入射される電子を取り込んでも出口でのスポットサイズを小さくできることを示す図である。図5(a)は比較例として挙げたものであり、収差補正をしていない場合のアナライザ出口でのスポット形状である。x軸及びy軸方向ともに収差が生じている。図5(b)は収差補正をした場合のアナライザ出口でのスポット形状である。若干残っている収差は後段のスリットにより取り除くことが可能である。
【0047】
また、図6は、収差を低減するために必要な電極、磁極の数は、ポテンシャルの多極子成分制御の観点から12極が適することを、数値計算より示した図である。図6(a)は電極、磁極の数を8極として行なった収差補正の特性を示している。8極の場合の収差補正では、x軸及びy軸に収差がかなり残っているのが分かる。図6(b)は電極、磁極の数を10極として行なった収差補正の特性を示している。まだ、x軸及びy軸に収差が残っているのが分かる。図6(c)は電極、磁極の数を12極として行なった収差補正の特性を示している。図6(a)及び(b)に示した8極及び10極の収差よりも収差が補正されたのが分かる。また、図6(d)は電極、磁極の数を18極として行なった収差補正の特性を示しているが、図6(c)に示した12極の場合とほとんど変わらない補正状況なので、コストの面を考慮すれば、12極が適すると判断できる。
【0048】
図7は、電極及び磁極25を12個用いた12極子のウィーンフィルタを示す図である。図7(a)は長手方向に沿って側面側から見た断面図であり、図7(b)は長手方向に垂直な断面図である。12個の電極及び磁極25は、光軸Lに平行な軸z方向に均一の厚さで形成されている。
【0049】
このように、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、収差補正を行なうことが必要であり、さらに収差補正を効率よく行なうためにはポテンシャルの多極子成分制御を必要とするので、アナライザの構成は、電極、磁極が多数取り付けられた、例えば12極子のような多極子型になる。この多極子型により、収差補正を行うことによって大角度で入射される電子を取り込んでも出口でのスポットサイズが小さく高エネルギー分解能を実現できる。
【0050】
ところで、大角度でアナライザに入射される電子をエネルギー選別する際、少ないロスでアナライザ出口まで電子を輸送するために電子が通過する内径の大口径化を図る必要がある。大口径化を図るのには、磁極を構成するヨーク、コアを取り除くことによって磁極をコイルのみに置き換える方法がある。
【0051】
図8(b)は磁極をコイル26にしたウィーンフィルタの構成を示す図である。同心円上に配設した12個のコイル26の内部には、同じく同心円上に12個の電極27を配設している。アナライザの内径はdbである。比較のため、図8(a)には電磁極28を12個用いたウィーンフィルタの構成を示す。アナライザの内径はdaである。図8(b)に示すように、磁極をコイル26にしたウィーンフィルタの方がアナライザの内径dbを拡大できることが分かる(db>da )。
【0052】
しかしながら、コイル26は冷却方法の観点から真空内に配置することが困難であるため、電極27とコイル26を同一位置に配置することは難しく、光軸x方向に同一長さの電極27とコイル26を配置しただけでは電子の偏向に寄与する電場E、磁場Bのポテンシャルの双極子成分を一致させることができなかった。
【0053】
そこで、本実施の形態のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、両者のポテンシャルの双極子成分を一致させるために電極形状とコイル、シャントに以下の(I)、(II)、(III)、(IV)に挙げる特徴を持たせて、上記図1、図2、図3及び図4の構成とした。
【0054】
(I)アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げるために電極にテーパを付けた。(II)アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げるためにコイルの光軸方向の長さを電極より長くした。(III)両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させるためにシャント形状に特徴を持たせた。(IV)大気側に配置されている磁気遮蔽シールドと真空側に配置されているシャントが磁気的に閉じるようにした。
【0055】
以上に挙げた特徴にしたがって、ウィーンフィルタ型アナライザ11は多極化、磁極のコイル化、電極、磁極形状の最適化を実現した。このため、ウィーンフィルタ型アナライザ11は高透過率のアナライザを実現できた。
【0056】
図9は、ウィーンフィルタ型アナライザ11を用いた収差補正の前後での光軸方向のポテンシャル分布を比較する図である。図9(a)は補正前のポテンシャルの分布を示し、図9(b)は補正後のポテンシャルの分布を示す。収差補正前の光軸方向のポテンシャル(図9(a))では電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29が不一致であるが、補正後の光軸方向のポテンシャル(図9(b))では電場ポテンシャル28と磁場ポテンシャル29が一致した。
【0057】
以上に説明したように、本実施の形態のウィーンフィルタ型アナライザ11は、チャンバー内の真空中に12個の電極13と、チャンバー外の大気中に12個のヨークレスコイル14を有し、かつアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極13にテーパを付け、さらに、アナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場Eのポテンシャルと一致させるようにコイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしたので、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えることができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮することができる。
【0058】
次に、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11を電子レンズ系に内蔵した、エネルギー選別型電子顕微鏡について説明する。
【0059】
本手法は量子線(電子線、光子、荷電粒子等)を線源とすることができるが、量子線の一つの例である光子を使った場合を以下に説明する。
【0060】
図10はエネルギー選別型電子顕微鏡の正面図であり、図11は側面図である。エネルギー選別型電子顕微鏡30は、特性X線を発生する光源であるX線源31と、X線源31から発生された特性X線が照射される試料を乗せるためのステージ32とその駆動機構である試料ステージ駆動機構33と、試料を分析するための分析室34と、試料の準備を行うための試料準備室35と、試料準備室35から分析室34へ試料を移動するマニュピレータ36と、分析室34及び試料準備室35を真空にする排気系37と、排気系37の排気システムをコントロールする排気系コントローラ38とを備える。また、エネルギー選別型電子顕微鏡30は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11を内蔵する電子レンズ系39と、電子レンズ系39をコントロールする電子レンズ系コントローラ40と、X線源31によるX線の発生をコントロールするX線発生用コントローラ41とを備える。また、エネルギー選別型電子顕微鏡30は、電子レンズ系39を制御するためのソフトがインストールされているシステム制御用パーソナルコンピュータ42と、電子レンズ系39を介して像を取得するCCDカメラ43と、CCDカメラ43から得られた画像を写すCRT44とを備える。
【0061】
X線源31は、試料表面の内殻電子及び二次電子を励起するための光源である。強い光源を用いるほど多くの光電子が得られる。ここでは、特性X線を用いて、分光結晶部(10−6Pa程度)において単色化、及び集光され、試料表面に光が照射される。X線光源31は、図10の正面図では紙面よりも手前側から、また図11の側面図を見ると分かるように斜め下方向に向かって特性X線を出射する。X線源31はX線発生コントローラ41と電気的に接続している。X線発生コントローラ41は、X線源31にX線を発生させ、制御するための電源、及びコントローラを格納している。X線光源31から出射された特性X線は、図示を省略する光路折曲部により光路が折り曲げられ、試料ステージ駆動機構33のステージ32上の試料に導かれる。つまり、X線光源31と試料ステージ駆動機構33は機械的に接続している。
【0062】
試料ステージ駆動機構33は、試料を乗せたステージ32を、x,y,zなどの方向に動かしたり、θ,φなどの角度に傾けることができる。この試料ステージ駆動機構33によって試料の位置が調整される。この試料ステージ駆動機構33は、後述の分析室34と機械的に接続している。
【0063】
分析室34は、内殻電子を用いて電子レンズ系を使い、試料を分析するための超高真空槽である。真空の度合いは10−8Pa程度である。また、試料準備室35は、試料の挿入、表面の清浄を行なうための10−6Pa程度の超高真空槽である。試料準備室35はマニュピレータ36と機械的に接続している。また、分析室34と試料準備室35は、機械的に接続しており、試料準備室35により挿入され、表面が清浄された試料は、マニュピュレータ36によって分析室に移動される。
【0064】
排気系37は分析室34、試料準備室35を超高真空に排気するためのシステムを格納している。排気系37は排気系コントローラ38と電気的に接続しており、排気系コントローラ38は排気系37をコントロールするシステムを組み込んでいる。
【0065】
電子レンズ系39は、分析室34と機械的に接続しており、試料からの放出電子が入射されると、電子を集光し、角度制限、視野制限を行なってから減速し、ウィーンフィルタ型アナライザ11に通す。ウィーンフィルタ型アナライザ11は前述したように、特定運動エネルギーの電子のみを選別し、蛍光スクリーンに結像させる。
【0066】
電子レンズ系コントローラ40は、電子レンズ系39と電気的に接続しており、電子レンズ系39の電圧、電流を制御するためのコントローラ、及び電源を格納している。電子レンズ系コントローラ40は、システム制御用パーソナルコンピュータ42にも電気的及び機械的に接続している。システム制御用パーソナルコンピュータ42は、電子レンズ系39に適切な電圧、電流を与えるためのソフトがインストールされている。
【0067】
システム制御用パーソナルコンピュータ42は、CCDカメラ43及びCRT44にも電気的に接続している。CCDカメラ43は、電子レンズ系39の蛍光スクリーン上に写された像を取得、保存するために使われる。CRT44は、CCDカメラ43から得られた画像を映し出すための表示部である。また、システム制御用パーソナルコンピュータ42は、試料ステージ駆動機構33とも電気的に接続している。また、システム制御用パーソナルコンピュータ42は、CCDカメラ43から得られる画像信号を取り込み、保存する。
【0068】
次に、図10に示したエネルギー選別型電子顕微鏡30の動作について説明する。
【0069】
まず、排気系コントローラ38のコントロールの基に排気系37が試料準備室35、分析室34及び電子レンズ系39内の排気を行なう。試料準備室35により挿入され、表面が清浄された試料は、マニュピレータ36によって分析室34ないの試料ステージ32に移動される。試料を載せた試料ステージ32は、試料ステージ駆動機構33の駆動によって適切な位置に移動される。
【0070】
X線発生用コントローラ41は、適切な管電圧、管電流をX線源(X線発生装置)31に与える。X線源31は、特性X線を発生し、この特性X線は分析室34内の試料ステージ32上の試料に照射される。システム制御用パーソナルコンピュータ42は、電子レンズ系コントローラ40へ適切な電圧値、電流値を信号を送信する。電子レンズ系コントローラ40は、電子レンズ系39に、システム制御用パーソナルコンピュータ42の制御に基づいた適切な電圧、電流値を供給する。
【0071】
すると、特性X線の照射により試料から放射された電子は電子レンズ系39に入射し、集光され、角度制限、視野制限が行なわれてから減速され、ウィーンフィルタ型アナライザ11を通される。ウィーンフィルタ型アナライザ11は、前述した動作により、特定運動エネルギーの電子のみを選別し、蛍光スクリーンに結像させる。
【0072】
蛍光スクリーン上に結像された像は、CCDカメラ43によって撮影され、CRT44に画像化される。CCDカメラ43によって撮影された画像信号は、システム制御用パーソナルコンピュータ42に取り込まれ、内蔵のHDD,RAMなどの記憶媒体に保存される。
【0073】
まず、図12は、電子レンズ系39の第1具体例である電子レンズ系39−1の詳細な構成を示す図である。この構成図には、電子軌道及びポテンシャル分布も示している。以下の各具体例でも同様である。
【0074】
電子レンズ系39−1は、対物レンズ51と、インプットレンズ52と、インプットレンズ52内の角度制限絞り53と、同じくインプットレンズ52内の視野制限絞り54と、減速レンズ55とを備える。また、電子レンズ系39−1は、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11と、出口スリット56と、投影レンズ57と、電子の増倍機構であるMCP58と、蛍光スクリーン59とを備える。さらに、各レンズ間には、電子レンズ系の光軸を補正するための偏向器(図示せず)が設けられている。なお、電子レンズ系39−1の電極間はガイシによって絶縁されている。
【0075】
対物レンズ51は、磁界型対物レンズを用いて、電子を集光するために用いられるレンズである。インプットレンズ52は、像の拡大と像の形成に使われるレンズである。角度制限絞り53は、試料から放出される光電子で電子レンズの光軸に対して大角度で入射する電子を制限するための開口で、これを使うことにより電子レンズの球面収差を低減することができる。視野制限絞り54は、顕微鏡で観測する視野を制限するために用いられる。
【0076】
減速レンズ55は、アナライザに入射する電子の速度を減速するレンズである。アナライザ11を通過する電子を遅くするほど、分散の効果を長い時間受けることができ、エネルギー分解能を上げることができる。このため、減速レンズ55により電子を減速する。
【0077】
ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、図1乃至図4などを用いて説明したように、チャンバー内の真空中に12個の電極13と、チャンバー外の大気中に12個のヨークレスコイル14を有し、かつアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるよう電極13にテーパを付け、さらに、アナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場Eのポテンシャルと一致させるようにコイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしたので、ウィーンフィルタの持つ収差補正の特性を十分に生かし、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えて、特定運動エネルギーの電子を選別することができる。また、エネルギー分解能を向上させてアナライザの性能を十分発揮して、特定運動エネルギーの電子を選別することができる。
【0078】
出口スリット56は、特定運動エネルギー付近の電子のみを通過するための仕切りである。投影レンズ57は像を拡大するためのレンズである。MCP58は、輸送された電子を増倍して感度を上げるための電子の増倍機構である。蛍光スクリーン59は、電子を実際の光に変換するための機構である。
【0079】
したがって、この電子レンズ系39−1を備えてなるエネルギー選別型電子顕微鏡30を第1実施例とすると、この第1実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−1は、アナライザ11で損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0080】
これは、電子レンズ系39−1内に設けたウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11が以下の効果を奏するからである。すなわち、エネルギー選別型電子顕微鏡30−1の電子レンズ系39−1に用いられるウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、電極とヨークレスコイルによる磁極を12極にしているので、2次収差、3次の開口収差までを消去できるような電場Eと磁場Bを発生することができるようになった。また、磁極をヨークレスコイルに置き換えたことにより、アナライザの内径を大きくすることができ、感度を向上させることができた。また、磁性体を用いていないため、磁性体のヒステリシスを考慮しなくて良く、再現性の良い磁場を得ることができた。
【0081】
また、ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、光軸方向のアナライザの長さを長くしたので、エネルギーの分解能を向上させることができた。
【0082】
また、電極にテーパを付けることにより、アナライザ出入口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができた。また、コイルの光軸方向の長さを電極より長くして、アナライザ出入口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができた。
【0083】
また、シャント形状を矩形にしたので、両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができた。
【0084】
また、大気側に配置されている磁気遮蔽シールドと真空側に配置されているシャントが磁気的に閉じるように設計したので、両者のポテンシャルの双極子成分のフリンジを一致させることができた。
【0085】
図13は、電子レンズ系39−2の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−2もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、電子レンズ系39−1とは、出口スリット56の後に、スティングメータ60を用いていることが異なる。スティングメータは、投影レンズ57の先端部分に配設されており、アナライザ11から出た電子の非点収差を補正するためのレンズである。他の構成は電子レンズ系39−1と同様であるので説明を省略する。
【0086】
したがって、この電子レンズ系39−2を備えてなる、第2実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−2は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができ、さらに非点収差を補正できるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0087】
図14は、電子レンズ系39−3の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−3もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは、対物レンズ51の後にカソードオブジェクティブレンズ61を有していることが異なる。カソードオブジェクティブレンズ61は、サンプルホルダーに電圧を印加することによって使用される。他の構成は電子レンズ系39−1と同様であるので説明を省略する。
【0088】
したがって、この電子レンズ系39−3を備えてなる、第3実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−3も、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0089】
図15は、電子レンズ系39−4の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−4もウィーンフィルタ型アナライザ11を有してなり、減速レンズ55によりアナライザに入射する電子の速度を遅くしている構成であるが、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは、対物レンズ51の後にビームセパレータ62を有していることが異なる。
【0090】
この電子レンズ系39−4を有する第4実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−4は、第1実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−1と異なり、X線源を用いるのではなく、電子銃を用いている。このため、図10及び図11に示した構成図においては、電子銃71から試料ステージ32上の試料に電子線を照射する。このため、電子銃コントローラ72をX線発生用コントローラ41の替わりに備えている。電子銃コントローラ72は、電子銃71と電気的に接続しており、電子銃71から電子線を発生させ、制御するための電源、及びコントローラを格納している。
【0091】
このため、図15に示した電子レンズ系39−4は、前述したように、対物レンズ51の後にビームセパレータ62を備え、電子銃71より出射された電子線を試料表面に対して垂直に照射し、試料表面の反射電子をインプットレンズ52へ導くのに用いられる。
【0092】
したがって、この第4実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−4は、電子銃71から出射された電子線を試料に照射し、試料から放出された電子を、アナライザで損失することなくよって感度の低下を抑えて、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0093】
図16は、電子レンズ系39−5の詳細な構成を示す図である。この電子レンズ系39−5は、第1の実施例である電子レンズ系39−1とは異なり、対物レンズ51の後にカソードオブジェクティブレンズ61を有している。さらに、ウィーンフィルタ型アナライザ11の出口スリット56の手前に加速レンズ63を備えている点が異なる。
【0094】
加速レンズ63は、後段の投影レンズ57へ送られる電子を減速レンズ55で減速される以前の速度に戻すためのレンズである。
【0095】
したがって、第5実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−5は、アナライザで損失する電子を低減して感度の低下を抑えことができるので、材料の表面分析を高精度に行なうことができる。
【0096】
さらに、第6実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−6としては、第1実施例のX線源31の替わりに紫外光源81を用い、X線発生用コントローラ41の替わりに紫外線発生用コントローラ82を用いる構成の装置を挙げてもよい。紫外光源81は、紫外線発生用コントローラ82から適切な管電圧、管電流が供給されて、紫外線を発生し、試料ステージ32上の試料に照射する。他の構成及び動作は省略する。
【0097】
また、第7実施例のエネルギー選別型電子顕微鏡30−7としては、第1実施例のX線源31の替わりに放射線源91を用い、X線発生用コントローラ41の替わりに放射線発生用コントローラ92を用いる構成の装置を挙げてもよい。放射線源91は、放射線発生用コントローラ92から適切な管電圧、管電流が供給されて、放射線を発生し、試料ステージ32上の試料に照射する。他の構成及び動作は省略する。
【0098】
なお、図1乃至図4に示したウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ11は、静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させるため、電極13にテーパを付けてアナライザ出入口の電場Eのポテンシャルの双極子成分の強度を下げ、かつ、コイルの光軸方向の長さを電極の光軸方向の長さより長くしてアナライザ出入口の磁場Bのポテンシャルの双極子成分の強度を上げているが、必ずしも両方の手段を共に使う必要はない。いずれか一方の手段により、静電ポテンシャルと磁場のスカラーポテンシャルの双極子成分を一致させることができればそれでもよい。もちろん、磁極をヨークレスコイルに換えることによってアナライザの内径を大きくすることと共にいずれかの手段を用いることは必要である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの側面側から見た断面図である。
【図2】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの入口付近の断面図である。
【図3】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの中心付近の断面図である。
【図4】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザの出口付近の断面図である。
【図5】収差補正をしていない場合と収差補正をした場合のアナライザ出口でのスポット形状を示す図である。
【図6】電極、磁極の数を8極、10極、12極及び18極として行なった収差補正の特性図である。
【図7】電極及び磁極を12個用いた12極子のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザを示す図である。
【図8】電磁極を12個用いたウィーンフィルタと12個の電極と12個のコイルを用いた12極子のウィーンフィルタの断面図である。
【図9】補正前のポテンシャルの分布と、補正後のポテンシャルの分布を示す図である。
【図10】エネルギー選別型電子顕微鏡の正面図である。
【図11】エネルギー選別型電子顕微鏡の側面図である。
【図12】電子レンズ系の第1具体例の詳細な構成を示す図である。
【図13】電子レンズ系の第2具体例の詳細な構成を示す図である。
【図14】電子レンズ系の第3具体例の詳細な構成を示す図である。
【図15】電子レンズ系の第4具体例の詳細な構成を示す図である。
【図16】電子レンズ系の第5具体例の詳細な構成を示す図である。
【図17】従来のウィーンフィルタ型アナライザの断面図である。
【図18】ウィーンフィルタ型アナライザの電子の選別原理を示す図である。
【図19】4極子を使用した場合と、2極子を使用した場合の電子の軌道の比較図である。
【図20】ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおける回折面と像面の位置を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
11 ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ、12 チャンバー、13 電極、14 ヨークレスコイル、15 ヨーク受け台、16 ガイシ、17 シャント、19 磁気シールド、20 電場形成用電極、30 エネルギー選別型電子顕微鏡、31 X線源、32 試料ステージ、33 試料ステージ駆動機構、34 分析室、35 試料準備室、36 マニュピュレータ、37 排気系、38 排気系コントローラ、39 電子レンズ系、40 電子レンズ系コントローラ、41 X線用発生コントローラ、42 システム制御用パーソナルコンピュータ、43 CCDカメラ、44 CRT、51 対物レンズ、52 インプットレンズ、53 角度制限絞り、54 視野制限絞り、55 減速レンズ、56 出口スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおいて、
電子線の経路上に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、
前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、
さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分を一致させることを特徴とするウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項2】
前記複数nの各電極には、アナライザ入口及び出口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるように、入口及び出口に向けて厚みを滑らかに薄くするようにテーパを付けることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項3】
前記複数nの各ヨークレスコイルの光軸方向の長さは、アナライザ入口及び出口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるように、電極の長さより長くすることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項4】
エネルギーアナライザの出入り口にあるシャントも真空部内に配置されており、大気側に配置された磁気遮蔽シールドと磁気的に閉じていることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項5】
前記電極及びヨークレスコイルを12個用いた12極子のウィーンフィルタを用いることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項6】
量子線を発生する量子線源と、
前記量子線源から発生された量子線が照射される試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージ上に載置された試料から放出された電子が入射されて特定のエネルギーを持つ電子線を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザと、
前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにて選択された電子による像が結像されるスクリーンと、
前記スクリーン上の像を撮影する撮影部と、
前記撮影部により撮影された像を表示する表示部とを備え、
前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、電子の通過する真空部内に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させることを特徴とするエネルギー選別型電子顕微鏡。
【請求項1】
ウィーンフィルタを用いて特定のエネルギーを持つ電子を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにおいて、
電子線の経路上に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、
前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、
さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分を一致させることを特徴とするウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項2】
前記複数nの各電極には、アナライザ入口及び出口の電場のポテンシャルの双極子成分の強度を下げて磁極のポテンシャルと一致させるように、入口及び出口に向けて厚みを滑らかに薄くするようにテーパを付けることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項3】
前記複数nの各ヨークレスコイルの光軸方向の長さは、アナライザ入口及び出口の磁場のポテンシャルの双極子成分の強度を上げて電場のポテンシャルと一致させるように、電極の長さより長くすることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項4】
エネルギーアナライザの出入り口にあるシャントも真空部内に配置されており、大気側に配置された磁気遮蔽シールドと磁気的に閉じていることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項5】
前記電極及びヨークレスコイルを12個用いた12極子のウィーンフィルタを用いることを特徴とする請求項1記載のウィーンフィルタ型エネルギーアナライザ。
【請求項6】
量子線を発生する量子線源と、
前記量子線源から発生された量子線が照射される試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージ上に載置された試料から放出された電子が入射されて特定のエネルギーを持つ電子線を選択するウィーンフィルタ型エネルギーアナライザと、
前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザにて選択された電子による像が結像されるスクリーンと、
前記スクリーン上の像を撮影する撮影部と、
前記撮影部により撮影された像を表示する表示部とを備え、
前記ウィーンフィルタ型エネルギーアナライザは、電子の通過する真空部内に電場を形成するために真空部内に配置される複数n(nは自然数)の電極と、前記真空部内に磁場を形成するために前記真空部外の大気中に配置される複数nのヨークレスコイルとを備え、さらに前記電場と前記磁場のそれぞれのポテンシャルの双極子成分とを一致させることを特徴とするエネルギー選別型電子顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−278069(P2006−278069A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93241(P2005−93241)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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