ウィーンフィルタ
【課題】 ウィーンフィルタ内で静電偏向場、及び静磁偏向場に付随して発生する六極子場に対して、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【解決手段】 静電場発生部4は、この12極型ウィーンフィルタが適用されるモノクロメータにおいてスリット上でビームを絞るために、ユーザが操作部6を使って操作した指示にしたがって、各電源の印加電圧を調整し、静電偏向場、静電四極子場、静電六極子場のような多重極静電場を発生する。
【解決手段】 静電場発生部4は、この12極型ウィーンフィルタが適用されるモノクロメータにおいてスリット上でビームを絞るために、ユーザが操作部6を使って操作した指示にしたがって、各電源の印加電圧を調整し、静電偏向場、静電四極子場、静電六極子場のような多重極静電場を発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、モノクロメータ、エネルギーアナライザ等で用いられるウィーンフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子線をエネルギーによって選択するために、ウィーンフィルタが利用されている。加速された電子線などの荷電粒子線は、電場に対してはプラス極方向に偏向され、磁場に対しては荷電粒子線の進行方向と磁場とに垂直な方向に偏向される。ウィーンフィルタは、この性質を利用したもので、荷電粒子線の進行方向に直行する面内において互いに直交する電場と磁場を配置することで、荷電粒子線を特定方向に直進させるものである。
【0003】
このウィーンフィルタは、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、モノクロメータ、エネルギーアナライザ等で用いられる。特に、モノクロメータは、電子線を単色化するために、入射される電子線について所定のエネルギーを有する成分のみを透過させる。モノクロメータ付電子銃では、分析電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光の分解能の向上を目的とし、電子銃の直下にエネルギー選択スリットとともに用いられる。モノクロメータは、電子線を電子のエネルギーに応じて分散させる光学素子と、エネルギーに応じて分散された電子線から所望の成分を選択するスリットから構成される。電子線をエネルギーに応じて分散させる光学素子として、ウィーンフィルタが用いられる。
【0004】
図13はウィーンフィルタ内静電場発生方向を示す図である。また、図14はウィーンフィルタ内静磁場発生方向を示す図である。従来のウィーンフィルタは光軸と直交する平面上にそれぞれ垂直に静電偏向場(E1)、静磁偏向場(B1)を発生し、さらに非点なし結像型ウィーンフィルタでは前記偏向場に加えて静電四極子場(E2)、静磁四極子場(B2)を重畳させる。なお、図13及び図14において、電子銃の進行方向は、紙面表から裏へと進むとする。
【0005】
前記電磁場を発生可能なウィーンフィルタとして、12極型ウィーンフィルタが提案されている。下記特許文献1には、Z軸にほぼ平行な光軸を有し、少なくとも、X軸方向に双極子電場を生成し、Y軸方向に双極子磁場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸にほぼ平行に伸びる12個の極を有し、かつ、XY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として12回の回転対称性を有するウィーンフィルタが記載されている。また、下記特許文献2にも12極型ウィーンフィルタが記載されている。
【0006】
図15は電磁場を発生可能な12極型ウィーンフィルタの概略図である。図中時計周りに極P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11及びP12が形成されている。極P2,P5及びP8,P11は、ウィーンフィルタの外側で機械的に接続されている。
【0007】
この12極型ウィーンフィルタが前記図13及び図14に示したような電場及び磁場を発生するために、各極に与える電界及び磁界の方向は、以下のとおりである。
【0008】
すなわち、図13に方向を示した静電偏向場(E1)の発生のためには、極P8,P9,P10,P11を+極にし、P2,P3,P4,Pを−極にする。また、同様に図13に示した静電四極子場(E2)の発生のためには、極P3,P4,P9,P10を+極にし、極P1,P6,P7,P12を−極にする。
【0009】
また、図14に方向を示した静磁偏向場(B1)の発生のためには、極P1,P2,P11,P12をN極にし、極P5,P6,P7,P8をS極にする。また、同様に図14に示した静磁四極子場(B2)の発生のためには、極P2,P8をN極、極P5,P11をS極にする。
【0010】
なお、図15において、A−A‘、B−B’は静磁偏向場(B1)を励磁するコイルであり、C,D,E,Fは静磁四極子場(B2)を励磁するコイルである。また、G−G‘、H−H’はアライメントコイルであり、本発明には本質的に関係ない。
【0011】
以上に説明したように、従来の12極型ウィーンフィルタでは、各電極電源の組み合わせで静電偏向場、静電四極子場を発生させていた。
【特許文献1】特開2003−234077号公報
【特許文献2】特開2004−095489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、ウィーンフィルタは強力な静電、及び静磁偏向場を用いてエネルギー分散を発生させる。偏向場は静電、または静磁ポテンシャル表記で光軸を原点とした1次の対称性を持った奇関数の分布をもった場で表すことが出来る。一方、六極子場は3次の対称性を持った奇関数の分布をもった場であり、偏向場に付随して発生する。即ち、光軸上の偏向場に対して光軸から離れた位置での偏向場の強度に差が生じた場合、この差が六極子場成分として現れる。偏向場の均一度が高い場合、六極子場は弱くなり、均一度が低い場合は六極子場が強く現れる。
【0013】
六極子場は電子線に対して三回非点収差を引き起こす。三回非点収差は光源像のボケを引き起こし、ウィーンフィルタを搭載したモノクロメータにおいてはエネルギー選択面でのビーム径の増大はエネルギー分解能の低下を引き起こし、さらに、エネルギー選択スリットによるエネルギー選択効率の低下を引き起こし、モノクロメータでの電子線の単色化を行う際ビーム電流量の低下を招く。ビーム電流量の低下は電子線の輝度の低下を引き起こし、通常の電子顕微鏡としての性能の低下を招く。
【0014】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、ウィーンフィルタ内で静電偏向場、及び静磁偏向場に付随して発生する六極子場に対して、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正することを目的とする。
【0015】
本発明を導入することにより、ウィーンフィルタを搭載したモノクロメータにおいて、エネルギー分解能の改善が見込まれ、さらに、エネルギー選択を行った場合でのビーム電流の低減を抑えることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るウィーンフィルタは、前記課題を解決するために、Z軸にほぼ平行な光軸を有し、この光軸に直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、X軸方向に静電偏向場を生成し、Y軸方向に静磁偏向場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸に平行に伸びる2n(nは4以上の整数)個の極を有し、かつXY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として回転対称性を有するウィーンフィルタにおいて、前記2n個の極に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部を制御することにより前記静電偏向場に加えて静電四極子場、さらに静電六極子場を発生する静電場発生手段を備え、前記静電場発生手段により前記静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0017】
ウィーンフィルタの偏向場に付随して発生する六極子場によるビームの三回非点の発生方向は電場、磁場に依らず同一であり、図16のようになる。これに対して、図15において極P2,P5,P9,P10を+極とし、極P3,P4,P8,P11を−極として電圧を印加する。なお、極2,5と極8,11は機械的に接触されている。もちろん、+、−の符号が逆転しても問題ない。
【0018】
これにより、上で述べた機械的、及び電気的構成を変えないまま六極子電界を発生可能になり、モノクロメータの性能に大きく影響を及ぼす3回非点を補正可能になる。
【0019】
また、静電場の対称性を保つため、それぞれの極へかける印加電圧の絶対値は同一に揃える必要があるが、ウィーンフィルタの機械的構成から来る対称性の問題のため、表2に記述される電圧が印加される。即ち、六極子場発生時での極P1,P6,P7,P12には0が、P2,P5には+1.47*V3が、P9,P10には+V3が、そしてP8,P11には−1.47*V3が、P3,P4には−V3が印加されて電極間での電位のバランスを取っている。ここで示された1.47の係数は、理論計算から求めた理想状態での数値であり、実施に当たっては、各電極の製作時の加工精度や、組み立て精度による誤差が発生する為、+側と−側での係数が必ずしも一致するとは限らないし、また、この1.47の係数が保証されるものとは限らない。そのため、これらの係数を独立に任意の値に設定出来るような電気回路が必要となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るウィーンフィルタによれば、ウィーンフィルタ内で静電偏向場、及び静磁偏向場に付随して発生する六極子場に対して、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。例えば、ウィーンフィルタを用いたモノクロメータ付き電子銃において、ウィーンフィルタ内に六極子電界を重畳させることにより、ウィーンフィルタにより発生する収差のひとつである3回非点を補正し、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0021】
3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、モノクロメータ付き電子銃のエネルギー分解能が向上できるようになる。
【0022】
3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータで電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。
【0023】
モノクロメータで電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。この実施の形態は12極型ウィーンフィルタである。図1は12極型ウィーンフィルタの断面図である。図2は12極型ウィーンフィルタのYZ平面に沿う断面図である。図3は12極型ウィーンフィルタの静電場発生方向を示す図である。図4は12極型ウィーンフィルタの静磁場発生方向を示す図である。
【0025】
図1に示すように、この12極型ウィーンフィルタは、Z軸にほぼ平行な光軸oを有する。また12極型ウィーンフィルタは、Z軸方向において光軸oに平行に伸びる2×n=2×6=12個の極P1〜P12を有する。極P1〜P12は、時計周りに配置されている。この光軸oに直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、XY面内において、光軸oに面する各極P1〜P12の先端部は、光軸oを中心として回転対称性を有する。前記12個の極P1〜P12は、いずれも磁性材料からなる。この磁性材料は、例えば鉄、ニッケル、パーマロイ等を含む。
【0026】
より詳細には、以下のとおりである。図1及び図2に示すように、この12極型ウィーンフィルタは、荷電粒子線としての電子線が通過する円筒状空間2(その中心線は光軸oと一致する)の内部に、所望の分布の電磁場を生成するために、光軸oに平行に伸びる12個の極P1〜P12を有する。
【0027】
12極型ウィーンフィルタは、図3及び図4に示すように、X軸方向に静電偏向場E1を生成し、Y軸方向に静磁偏向場B1を生成する。また、12極型ウィーンフィルタが非点なし結像型ウィーンフィルタである場合には、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、静磁偏向場B1に加えて静磁四極子場B2を重畳させる。この12極型ウィーンフィルタは、さらに静電六極子場を発生する。
【0028】
図5は、本発明の要部となる静電場発生部4と12極型ウィーンフィルタの極(P1〜P12)部3の各極と、5つの独立制御可能な電源部との接続図である。静電場発生部4は、12極P1〜P12に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部(電源SA,SB,SC,SD及びSE)5を制御することにより、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、さらに静電六極子場を発生する。
【0029】
静電場発生部4は、この12極型ウィーンフィルタが適用される後述するモノクロメータにおいてスリット上でビームを絞るために、ユーザが操作部6を使って操作した指示にしたがって、各電源の印加電圧を調整し、静電偏向場、静電四極子場、静電六極子場のような多重極静電場を発生する。
【0030】
静電場発生部4は、各電源(電源SA,SB,SC,SD及びSE)と、次の表1のように接続された12極型ウィーンフィルタに、表2のような印加電圧を印加する。
【表1】
【0031】
電源SAは極P1,P6,P7及びP12に接続される。電源SBは極P2,P5に接続される。電源SCは極P3,P4に接続される。電源SDは極P8,P11に接続される。電源SEは極P9,P10に接続される。
【表2】
【0032】
表2は、多重極静電場として静電偏向場、静電四極場、静電六極部を発生するときの各電源への印加電圧を示している。静電偏向場の印加電圧をV1、静電四極場の印加電圧をV2、静電六極場の印加電圧をV3としている。静電偏向場を発生するために、電源SAには0、電源SBには−V1、電源SCには−V1、電源SDには+V1、電源SEには+V1を印加する。図6は静電偏向場の発生図である。
【0033】
静電四極場を生成するために、電源SAには−V2、電源SBには0、電源SCには+V2、電源SDには0、電源SEには+V2を印加する。図7は静電四極場の発生図である。
【0034】
静電六極場を生成するために、電源SAには0、電源SBには+1.47×V3、電源SCには−V3、電源SDには−1.47×V3、電源SEには+V3を印加する。図8は静電六極場の発生図である。
【0035】
そして、静電場発生部4は、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。図9は、12極型ウィーンフィルタと、三回非点発生方向を示す図である。図8に示す静電六極場の発生により、三回非点が補正できる。これにより、図10に示すように、モノクロメータに適用した場合、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0036】
図11は、12極型ウィーンフィルタを適用したモノクロメータを有する電子光学系の構成図である。この電子光学系は、電子源11の直下であって加速段16の前段に、モノクロメータ12を有している。モノクロメータ12は、絞り13、ウィーンフィルタ14及びスリット15からなる。ウィーンフィルタ14は、12極型ウィーンフィルタであり、図1〜図5に示した構成であり、静電場発生部4により、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0037】
電子源11から出射された電子線は、モノクロメータ12によって、3回非点が補正されながら、所定のエネルギー分布幅を有する所定のエネルギーの成分が選択される。モノクロメータ12で選択された成分からなる電子線は、加速部16における静電勾配によって、加速され、集束レンズ17によって試料18に照射される。
【0038】
この電子光学系では、モノクロメータ12により、12極型ウィーンフィルタ14にて3回非点を低減し、スリット15上でビームを絞ることが出来るようになるので、電子源11のエネルギー分解能が向上できるようになる。また、3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。また、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃(電子源)の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【0039】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。この他の実施の形態は、8極型ウィーンフィルタである。図12は8極型ウィーンフィルタの断面図である。この8極型ウィーンフィルタは、Z軸にほぼ平行な光軸oを有する。また8極型ウィーンフィルタは、Z軸方向において光軸oに平行に伸びる2×n=2×4=8個の極P1〜P8を有する。極P1〜P8は、時計周りに配置されている。この光軸oに直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、XY面内において、光軸oに面する各極P1〜P8の先端部は、光軸oを中心として回転対称性を有する。前記8個の極P1〜P8は、いずれも磁性材料からなる。この磁性材料は、例えば鉄、ニッケル、パーマロイ等を含む。
【0040】
この8極型ウィーンフィルタも、図3及び図4に示したのと同様な、X軸方向に静電偏向場E1を生成し、Y軸方向に静磁偏向場B1を生成する。また、8極型ウィーンフィルタが非点なし結像型ウィーンフィルタである場合には、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、静磁偏向場B1に加えて静磁四極子場B2を重畳させる。この8極型ウィーンフィルタは、さらに静電六極子場を発生する。
【0041】
この8極型ウィーンフィルタにあっても、前記図5を準用すれば静電場発生部4が静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、さらに静電六極子場を発生することが分かる。
【0042】
静電場発生部4は、各電源(電源SA,SB,SC,SD及びSE)と、次の表3のように接続された8極型ウィーンフィルタに、表4のような印加電圧を印加する。
【表3】
【0043】
電源SAは極P1,P5に接続される。電源SBは極P2,P4に接続される。電源SCは極P3に接続される。電源SDは極P6,P8に接続される。電源SEは極P7に接続される。
【表4】
【0044】
表4は、多重極静電場として静電偏向場、静電四極場、静電六極部を発生するときの各電源への印加電圧を示している。静電偏向場の印加電圧をV1、静電四極場の印加電圧をV2、静電六極場の印加電圧をV3としている。静電偏向場を発生するために、電源SAには0、電源SBには−V1、電源SCには−V1、電源SDには+V1、電源SEには+V1を印加する。
【0045】
静電四極場を生成するために、電源SAには−V2、電源SBには0、電源SCには+V2、電源SDには0、電源SEには−V2を印加する。
【0046】
静電六極場を生成するために、電源SAには0、電源SBには+1.47×V3、電源SCには−V3、電源SDには−1.47×V3、電源SEには+V3を印加する。
【0047】
そして、静電場発生部4は、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。この8極型ウィーンフィルタを、モノクロメータに適用した場合、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0048】
図11に示した電子光学系における、モノクロメータに8極型ウィーンフィルタを適用できる。静電場発生部4により、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0049】
電子源11から出射された電子線は、モノクロメータ12によって、3回非点が補正されながら、所定のエネルギー分布幅を有する所定のエネルギーの成分が選択される。モノクロメータ12で選択された成分からなる電子線は、加速部16における静電勾配によって、加速され、集束レンズ17によって試料18に照射される。
【0050】
この電子光学系でも、モノクロメータ12により、8極型ウィーンフィルタ14にて3回非点を低減し、スリット15上でビームを絞ることが出来るようになるので、電子源11のエネルギー分解能が向上できるようになる。また、3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。また、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃(電子源)の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【0051】
なお、本発明のウィーンフィルタは、モノクロメータのみならず、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、エネルギーアナライザ等で用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】12極型ウィーンフィルタの光軸に直交するXY面に沿う断面図である。
【図2】12極型ウィーンフィルタのYZ面に沿う断面図である。
【図3】12極型ウィーンフィルタの静電場発生方向を示す図である。
【図4】12極型ウィーンフィルタの静磁場発生方向を示す図である。
【図5】静電場発生部と12極型ウィーンフィルタの極(P1〜P12)部の各極と、5つの独立制御可能な電源部との接続図である。
【図6】静電偏向場発生図である。
【図7】静電四極子場発生図である。
【図8】静電六極子場発生図である。
【図9】12極型ウィーンフィルタと三回非点発生方向を示す図である。
【図10】スリットと三回非点の関係を示す図である。
【図11】12極型ウィーンフィルタを適用したモノクロメータを備えた電子光学系の構成図である。
【図12】八極子ウィーンフィルタのXY面に沿った断面図である。
【図13】ウィーンフィルタ内静電場発生方向図である。
【図14】ウィーンフィルタ内静磁場発生方向図である。
【図15】12極型ウィーンフィルタの断面図である。
【図16】三回非点発生方向を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
3 極部
4 静電場発生部
5 電源部
6 操作部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、モノクロメータ、エネルギーアナライザ等で用いられるウィーンフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子線をエネルギーによって選択するために、ウィーンフィルタが利用されている。加速された電子線などの荷電粒子線は、電場に対してはプラス極方向に偏向され、磁場に対しては荷電粒子線の進行方向と磁場とに垂直な方向に偏向される。ウィーンフィルタは、この性質を利用したもので、荷電粒子線の進行方向に直行する面内において互いに直交する電場と磁場を配置することで、荷電粒子線を特定方向に直進させるものである。
【0003】
このウィーンフィルタは、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、モノクロメータ、エネルギーアナライザ等で用いられる。特に、モノクロメータは、電子線を単色化するために、入射される電子線について所定のエネルギーを有する成分のみを透過させる。モノクロメータ付電子銃では、分析電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光の分解能の向上を目的とし、電子銃の直下にエネルギー選択スリットとともに用いられる。モノクロメータは、電子線を電子のエネルギーに応じて分散させる光学素子と、エネルギーに応じて分散された電子線から所望の成分を選択するスリットから構成される。電子線をエネルギーに応じて分散させる光学素子として、ウィーンフィルタが用いられる。
【0004】
図13はウィーンフィルタ内静電場発生方向を示す図である。また、図14はウィーンフィルタ内静磁場発生方向を示す図である。従来のウィーンフィルタは光軸と直交する平面上にそれぞれ垂直に静電偏向場(E1)、静磁偏向場(B1)を発生し、さらに非点なし結像型ウィーンフィルタでは前記偏向場に加えて静電四極子場(E2)、静磁四極子場(B2)を重畳させる。なお、図13及び図14において、電子銃の進行方向は、紙面表から裏へと進むとする。
【0005】
前記電磁場を発生可能なウィーンフィルタとして、12極型ウィーンフィルタが提案されている。下記特許文献1には、Z軸にほぼ平行な光軸を有し、少なくとも、X軸方向に双極子電場を生成し、Y軸方向に双極子磁場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸にほぼ平行に伸びる12個の極を有し、かつ、XY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として12回の回転対称性を有するウィーンフィルタが記載されている。また、下記特許文献2にも12極型ウィーンフィルタが記載されている。
【0006】
図15は電磁場を発生可能な12極型ウィーンフィルタの概略図である。図中時計周りに極P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11及びP12が形成されている。極P2,P5及びP8,P11は、ウィーンフィルタの外側で機械的に接続されている。
【0007】
この12極型ウィーンフィルタが前記図13及び図14に示したような電場及び磁場を発生するために、各極に与える電界及び磁界の方向は、以下のとおりである。
【0008】
すなわち、図13に方向を示した静電偏向場(E1)の発生のためには、極P8,P9,P10,P11を+極にし、P2,P3,P4,Pを−極にする。また、同様に図13に示した静電四極子場(E2)の発生のためには、極P3,P4,P9,P10を+極にし、極P1,P6,P7,P12を−極にする。
【0009】
また、図14に方向を示した静磁偏向場(B1)の発生のためには、極P1,P2,P11,P12をN極にし、極P5,P6,P7,P8をS極にする。また、同様に図14に示した静磁四極子場(B2)の発生のためには、極P2,P8をN極、極P5,P11をS極にする。
【0010】
なお、図15において、A−A‘、B−B’は静磁偏向場(B1)を励磁するコイルであり、C,D,E,Fは静磁四極子場(B2)を励磁するコイルである。また、G−G‘、H−H’はアライメントコイルであり、本発明には本質的に関係ない。
【0011】
以上に説明したように、従来の12極型ウィーンフィルタでは、各電極電源の組み合わせで静電偏向場、静電四極子場を発生させていた。
【特許文献1】特開2003−234077号公報
【特許文献2】特開2004−095489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、ウィーンフィルタは強力な静電、及び静磁偏向場を用いてエネルギー分散を発生させる。偏向場は静電、または静磁ポテンシャル表記で光軸を原点とした1次の対称性を持った奇関数の分布をもった場で表すことが出来る。一方、六極子場は3次の対称性を持った奇関数の分布をもった場であり、偏向場に付随して発生する。即ち、光軸上の偏向場に対して光軸から離れた位置での偏向場の強度に差が生じた場合、この差が六極子場成分として現れる。偏向場の均一度が高い場合、六極子場は弱くなり、均一度が低い場合は六極子場が強く現れる。
【0013】
六極子場は電子線に対して三回非点収差を引き起こす。三回非点収差は光源像のボケを引き起こし、ウィーンフィルタを搭載したモノクロメータにおいてはエネルギー選択面でのビーム径の増大はエネルギー分解能の低下を引き起こし、さらに、エネルギー選択スリットによるエネルギー選択効率の低下を引き起こし、モノクロメータでの電子線の単色化を行う際ビーム電流量の低下を招く。ビーム電流量の低下は電子線の輝度の低下を引き起こし、通常の電子顕微鏡としての性能の低下を招く。
【0014】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、ウィーンフィルタ内で静電偏向場、及び静磁偏向場に付随して発生する六極子場に対して、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正することを目的とする。
【0015】
本発明を導入することにより、ウィーンフィルタを搭載したモノクロメータにおいて、エネルギー分解能の改善が見込まれ、さらに、エネルギー選択を行った場合でのビーム電流の低減を抑えることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るウィーンフィルタは、前記課題を解決するために、Z軸にほぼ平行な光軸を有し、この光軸に直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、X軸方向に静電偏向場を生成し、Y軸方向に静磁偏向場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸に平行に伸びる2n(nは4以上の整数)個の極を有し、かつXY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として回転対称性を有するウィーンフィルタにおいて、前記2n個の極に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部を制御することにより前記静電偏向場に加えて静電四極子場、さらに静電六極子場を発生する静電場発生手段を備え、前記静電場発生手段により前記静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0017】
ウィーンフィルタの偏向場に付随して発生する六極子場によるビームの三回非点の発生方向は電場、磁場に依らず同一であり、図16のようになる。これに対して、図15において極P2,P5,P9,P10を+極とし、極P3,P4,P8,P11を−極として電圧を印加する。なお、極2,5と極8,11は機械的に接触されている。もちろん、+、−の符号が逆転しても問題ない。
【0018】
これにより、上で述べた機械的、及び電気的構成を変えないまま六極子電界を発生可能になり、モノクロメータの性能に大きく影響を及ぼす3回非点を補正可能になる。
【0019】
また、静電場の対称性を保つため、それぞれの極へかける印加電圧の絶対値は同一に揃える必要があるが、ウィーンフィルタの機械的構成から来る対称性の問題のため、表2に記述される電圧が印加される。即ち、六極子場発生時での極P1,P6,P7,P12には0が、P2,P5には+1.47*V3が、P9,P10には+V3が、そしてP8,P11には−1.47*V3が、P3,P4には−V3が印加されて電極間での電位のバランスを取っている。ここで示された1.47の係数は、理論計算から求めた理想状態での数値であり、実施に当たっては、各電極の製作時の加工精度や、組み立て精度による誤差が発生する為、+側と−側での係数が必ずしも一致するとは限らないし、また、この1.47の係数が保証されるものとは限らない。そのため、これらの係数を独立に任意の値に設定出来るような電気回路が必要となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るウィーンフィルタによれば、ウィーンフィルタ内で静電偏向場、及び静磁偏向場に付随して発生する六極子場に対して、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。例えば、ウィーンフィルタを用いたモノクロメータ付き電子銃において、ウィーンフィルタ内に六極子電界を重畳させることにより、ウィーンフィルタにより発生する収差のひとつである3回非点を補正し、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0021】
3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、モノクロメータ付き電子銃のエネルギー分解能が向上できるようになる。
【0022】
3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータで電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。
【0023】
モノクロメータで電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。この実施の形態は12極型ウィーンフィルタである。図1は12極型ウィーンフィルタの断面図である。図2は12極型ウィーンフィルタのYZ平面に沿う断面図である。図3は12極型ウィーンフィルタの静電場発生方向を示す図である。図4は12極型ウィーンフィルタの静磁場発生方向を示す図である。
【0025】
図1に示すように、この12極型ウィーンフィルタは、Z軸にほぼ平行な光軸oを有する。また12極型ウィーンフィルタは、Z軸方向において光軸oに平行に伸びる2×n=2×6=12個の極P1〜P12を有する。極P1〜P12は、時計周りに配置されている。この光軸oに直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、XY面内において、光軸oに面する各極P1〜P12の先端部は、光軸oを中心として回転対称性を有する。前記12個の極P1〜P12は、いずれも磁性材料からなる。この磁性材料は、例えば鉄、ニッケル、パーマロイ等を含む。
【0026】
より詳細には、以下のとおりである。図1及び図2に示すように、この12極型ウィーンフィルタは、荷電粒子線としての電子線が通過する円筒状空間2(その中心線は光軸oと一致する)の内部に、所望の分布の電磁場を生成するために、光軸oに平行に伸びる12個の極P1〜P12を有する。
【0027】
12極型ウィーンフィルタは、図3及び図4に示すように、X軸方向に静電偏向場E1を生成し、Y軸方向に静磁偏向場B1を生成する。また、12極型ウィーンフィルタが非点なし結像型ウィーンフィルタである場合には、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、静磁偏向場B1に加えて静磁四極子場B2を重畳させる。この12極型ウィーンフィルタは、さらに静電六極子場を発生する。
【0028】
図5は、本発明の要部となる静電場発生部4と12極型ウィーンフィルタの極(P1〜P12)部3の各極と、5つの独立制御可能な電源部との接続図である。静電場発生部4は、12極P1〜P12に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部(電源SA,SB,SC,SD及びSE)5を制御することにより、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、さらに静電六極子場を発生する。
【0029】
静電場発生部4は、この12極型ウィーンフィルタが適用される後述するモノクロメータにおいてスリット上でビームを絞るために、ユーザが操作部6を使って操作した指示にしたがって、各電源の印加電圧を調整し、静電偏向場、静電四極子場、静電六極子場のような多重極静電場を発生する。
【0030】
静電場発生部4は、各電源(電源SA,SB,SC,SD及びSE)と、次の表1のように接続された12極型ウィーンフィルタに、表2のような印加電圧を印加する。
【表1】
【0031】
電源SAは極P1,P6,P7及びP12に接続される。電源SBは極P2,P5に接続される。電源SCは極P3,P4に接続される。電源SDは極P8,P11に接続される。電源SEは極P9,P10に接続される。
【表2】
【0032】
表2は、多重極静電場として静電偏向場、静電四極場、静電六極部を発生するときの各電源への印加電圧を示している。静電偏向場の印加電圧をV1、静電四極場の印加電圧をV2、静電六極場の印加電圧をV3としている。静電偏向場を発生するために、電源SAには0、電源SBには−V1、電源SCには−V1、電源SDには+V1、電源SEには+V1を印加する。図6は静電偏向場の発生図である。
【0033】
静電四極場を生成するために、電源SAには−V2、電源SBには0、電源SCには+V2、電源SDには0、電源SEには+V2を印加する。図7は静電四極場の発生図である。
【0034】
静電六極場を生成するために、電源SAには0、電源SBには+1.47×V3、電源SCには−V3、電源SDには−1.47×V3、電源SEには+V3を印加する。図8は静電六極場の発生図である。
【0035】
そして、静電場発生部4は、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。図9は、12極型ウィーンフィルタと、三回非点発生方向を示す図である。図8に示す静電六極場の発生により、三回非点が補正できる。これにより、図10に示すように、モノクロメータに適用した場合、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0036】
図11は、12極型ウィーンフィルタを適用したモノクロメータを有する電子光学系の構成図である。この電子光学系は、電子源11の直下であって加速段16の前段に、モノクロメータ12を有している。モノクロメータ12は、絞り13、ウィーンフィルタ14及びスリット15からなる。ウィーンフィルタ14は、12極型ウィーンフィルタであり、図1〜図5に示した構成であり、静電場発生部4により、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0037】
電子源11から出射された電子線は、モノクロメータ12によって、3回非点が補正されながら、所定のエネルギー分布幅を有する所定のエネルギーの成分が選択される。モノクロメータ12で選択された成分からなる電子線は、加速部16における静電勾配によって、加速され、集束レンズ17によって試料18に照射される。
【0038】
この電子光学系では、モノクロメータ12により、12極型ウィーンフィルタ14にて3回非点を低減し、スリット15上でビームを絞ることが出来るようになるので、電子源11のエネルギー分解能が向上できるようになる。また、3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。また、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃(電子源)の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【0039】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。この他の実施の形態は、8極型ウィーンフィルタである。図12は8極型ウィーンフィルタの断面図である。この8極型ウィーンフィルタは、Z軸にほぼ平行な光軸oを有する。また8極型ウィーンフィルタは、Z軸方向において光軸oに平行に伸びる2×n=2×4=8個の極P1〜P8を有する。極P1〜P8は、時計周りに配置されている。この光軸oに直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、XY面内において、光軸oに面する各極P1〜P8の先端部は、光軸oを中心として回転対称性を有する。前記8個の極P1〜P8は、いずれも磁性材料からなる。この磁性材料は、例えば鉄、ニッケル、パーマロイ等を含む。
【0040】
この8極型ウィーンフィルタも、図3及び図4に示したのと同様な、X軸方向に静電偏向場E1を生成し、Y軸方向に静磁偏向場B1を生成する。また、8極型ウィーンフィルタが非点なし結像型ウィーンフィルタである場合には、静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、静磁偏向場B1に加えて静磁四極子場B2を重畳させる。この8極型ウィーンフィルタは、さらに静電六極子場を発生する。
【0041】
この8極型ウィーンフィルタにあっても、前記図5を準用すれば静電場発生部4が静電偏向場E1に加えて静電四極子場E2、さらに静電六極子場を発生することが分かる。
【0042】
静電場発生部4は、各電源(電源SA,SB,SC,SD及びSE)と、次の表3のように接続された8極型ウィーンフィルタに、表4のような印加電圧を印加する。
【表3】
【0043】
電源SAは極P1,P5に接続される。電源SBは極P2,P4に接続される。電源SCは極P3に接続される。電源SDは極P6,P8に接続される。電源SEは極P7に接続される。
【表4】
【0044】
表4は、多重極静電場として静電偏向場、静電四極場、静電六極部を発生するときの各電源への印加電圧を示している。静電偏向場の印加電圧をV1、静電四極場の印加電圧をV2、静電六極場の印加電圧をV3としている。静電偏向場を発生するために、電源SAには0、電源SBには−V1、電源SCには−V1、電源SDには+V1、電源SEには+V1を印加する。
【0045】
静電四極場を生成するために、電源SAには−V2、電源SBには0、電源SCには+V2、電源SDには0、電源SEには−V2を印加する。
【0046】
静電六極場を生成するために、電源SAには0、電源SBには+1.47×V3、電源SCには−V3、電源SDには−1.47×V3、電源SEには+V3を印加する。
【0047】
そして、静電場発生部4は、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。この8極型ウィーンフィルタを、モノクロメータに適用した場合、エネルギー選択スリット上によりビームを絞ることを可能にする。
【0048】
図11に示した電子光学系における、モノクロメータに8極型ウィーンフィルタを適用できる。静電場発生部4により、静電六極子場を積極的に発生させ、3回非点を補正する。
【0049】
電子源11から出射された電子線は、モノクロメータ12によって、3回非点が補正されながら、所定のエネルギー分布幅を有する所定のエネルギーの成分が選択される。モノクロメータ12で選択された成分からなる電子線は、加速部16における静電勾配によって、加速され、集束レンズ17によって試料18に照射される。
【0050】
この電子光学系でも、モノクロメータ12により、8極型ウィーンフィルタ14にて3回非点を低減し、スリット15上でビームを絞ることが出来るようになるので、電子源11のエネルギー分解能が向上できるようになる。また、3回非点を低減し、スリット上でビームを絞ることが出来るようになることにより、エネルギー選択効率が上がり、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になる。また、モノクロメータ12で電子ビームを単色化させる際にビーム電流量の低減を抑えることが可能になることにより、モノクロメータ付き電子銃(電子源)の電子線輝度の低下を極力抑えることが可能になる。
【0051】
なお、本発明のウィーンフィルタは、モノクロメータのみならず、電子顕微鏡のエネルギーフィルタ、マスフィルタ、スピンローテイタ、エネルギーアナライザ等で用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】12極型ウィーンフィルタの光軸に直交するXY面に沿う断面図である。
【図2】12極型ウィーンフィルタのYZ面に沿う断面図である。
【図3】12極型ウィーンフィルタの静電場発生方向を示す図である。
【図4】12極型ウィーンフィルタの静磁場発生方向を示す図である。
【図5】静電場発生部と12極型ウィーンフィルタの極(P1〜P12)部の各極と、5つの独立制御可能な電源部との接続図である。
【図6】静電偏向場発生図である。
【図7】静電四極子場発生図である。
【図8】静電六極子場発生図である。
【図9】12極型ウィーンフィルタと三回非点発生方向を示す図である。
【図10】スリットと三回非点の関係を示す図である。
【図11】12極型ウィーンフィルタを適用したモノクロメータを備えた電子光学系の構成図である。
【図12】八極子ウィーンフィルタのXY面に沿った断面図である。
【図13】ウィーンフィルタ内静電場発生方向図である。
【図14】ウィーンフィルタ内静磁場発生方向図である。
【図15】12極型ウィーンフィルタの断面図である。
【図16】三回非点発生方向を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
3 極部
4 静電場発生部
5 電源部
6 操作部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z軸にほぼ平行な光軸を有し、この光軸に直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、X軸方向に静電偏向場を生成し、Y軸方向に静磁偏向場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸に平行に伸びる2n(nは4以上の整数)個の極を有し、かつXY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として回転対称性を有するウィーンフィルタにおいて、
前記2n個の極に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部を制御することにより前記静電偏向場に加えて静電四極子場、さらに静電六極子場を発生する静電場発生手段を備え、
前記静電場発生手段により前記静電六極子場を発生させ、3回非点を補正することを特徴とするウィーンフィルタ。
【請求項1】
Z軸にほぼ平行な光軸を有し、この光軸に直交する二つの軸をX軸及びY軸としたとき、X軸方向に静電偏向場を生成し、Y軸方向に静磁偏向場を生成するウィーンフィルタにして、Z軸方向において光軸に平行に伸びる2n(nは4以上の整数)個の極を有し、かつXY面内において、光軸に面する各極の先端部が、光軸を中心として回転対称性を有するウィーンフィルタにおいて、
前記2n個の極に独立に電源を供給する5つの独立制御可能な電源部を制御することにより前記静電偏向場に加えて静電四極子場、さらに静電六極子場を発生する静電場発生手段を備え、
前記静電場発生手段により前記静電六極子場を発生させ、3回非点を補正することを特徴とするウィーンフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2008−135336(P2008−135336A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321980(P2006−321980)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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