ウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染抑制剤
【課題】 亜型や変異体の出現などのウイルス側の変化に影響されることなくウイルスの感染を抑制することができる、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤、およびエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤を提供する。
【解決手段】 クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程とを有する。
【解決手段】 クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染抑制剤に関し、特に、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤、およびエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスとは、細胞を構成単位とせずにDNAかRNAのいずれかをゲノムとして有し、宿主細胞内だけで増殖する微小構造体であり、宿主細胞内の代謝系を利用して増殖する。その際、病原体としてふるまうことがあり、ウイルスが増殖した結果として宿主に惹起される疾病をウイルス感染症という。ウイルス感染症には、例えば、ライノウイルスによる感冒、インフルエンザウイルスによるインフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルスによる後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome;AIDS)、単純ヘルペスウイルスによる単純ヘルペス、腫瘍ウイルスによる癌など、さまざまなものがある。
【0003】
ウイルスの増殖は、I「細胞表面への吸着」、II「細胞内への侵入」、III「脱殻」、IV「ウイルスゲノムやウイルスタンパク質などのウイルス部品の合成」、V「ウイルス部品の集合」、VI「細胞からの放出」の、I〜VIのステップを経てなされる。従って、従来より、これらのステップを攻撃対象として、種々のウイルス感染症の治療剤やウイルス感染予防・阻害剤の研究開発がされている。
【0004】
例えば、ウイルス感染予防・阻害剤やウイルス感染症治療剤として代表的であるワクチンは、弱毒化または不活化したウイルスを宿主に取り込ませて免疫を獲得させ、これを利用することで、前記ステップのうち、I「細胞表面への吸着」、II「細胞内への侵入」、あるいはVI「細胞からの放出」ステップを対象としている。また、特開2008−253188号公報に開示されているDNaseXタンパク質は、ウイルス遺伝子の宿主への取り込みを抑制することで、特開2007−16044号公報に開示されているペプチドは、レトロウイルスのインテグラーゼを阻害することで、それぞれIV「ウイルスゲノムやウイルスタンパク質などのウイルス部品の合成」ステップを攻撃する(特許文献1および特許文献2)。
【0005】
一方、インフルエンザは、代表的なウイルス感染症として知られている。インフルエンザの治療剤、インフルエンザウイルス感染予防・阻害剤としては、例えば、インフルエンザ表面に存在する酵素ノイラミニダーゼの働きを阻害することによりVI「細胞からの放出」ステップを攻撃するオセルタミビル(商品名タミフル;ロシュ社)やザナミビル(商品名リレンザ;グラクソ・スミスクライン社)の他、インフルエンザウイルスのM2タンパク質を阻害することによりIII「脱殻」ステップを攻撃するアマンタジン(商品名シンメトレル;ノバルティスファーマ社)を挙げることができる。また、国際公開WO2007/105565号パンフレットには、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに親和性の高いペプチドが開示されており、I「細胞表面への吸着」およびII「細胞内への侵入」ステップを対象としている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−253188号公報
【特許文献2】特開2007−16044号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/105565号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたウイルス感染予防・阻害剤は、外来遺伝子の分解を促進することが示されているものの、実際のウイルス感染を阻害するか否かは確かめられておらず、ウイルス感染阻害効果は不明である。また、ワクチン、レトロウイルス感染阻害剤(特許文献2)、オセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、インフルエンザ予防・治療剤(特許文献3)は、いずれもウイルス本体に由来するタンパク質を標的としているため、亜型への効果が期待できず、また、変異体の出現により耐性獲得が生じやすいという問題点を抱えている。例えば、現在日本で使用されている季節性インフルエンザに対するワクチンは、先行するオーストラリアでの流行株の情報に基づき、日本で流行すると予想された株に対するワクチンが作製されるため、毎年不安定であるうえ、この予測が外れた場合や変異体が生じた場合には、対応が困難となる。
【0008】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、亜型や変異体の出現などのウイルス側の変化に影響されることなくウイルスの感染を抑制することができる、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤、およびエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、宿主細胞側の因子であるrat sarcoma(Ras)タンパク質とPhosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とが複合体を形成し、エンドソーム上に存在することで、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによってウイルスが感染すること、および、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質との複合体の形成を阻害することにより、あるいはこれらが形成する複合体がエンドソーム上に存在することを抑制することにより、あるいはまたPI3Kタンパク質の活性を抑制することにより、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制できることを見出し、さらに、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスとクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)とを抑制することにより、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制できることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質に結合可能なrat sarcoma(Ras)タンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)と対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程とを有する、前記方法。
【0011】
(2)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(1)に記載の方法。
【0012】
(3)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(1)または(2)に記載の方法。
【0013】
(4)蛍光共鳴エネルギー移動を観測する方法を用いる、(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(5)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程とを有する、前記方法;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド。
【0015】
(6)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(5)に記載の方法。
【0016】
(7)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(5)または(6)に記載の方法。
【0017】
(8)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0018】
(9)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(8)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0019】
(10)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、(8)または(9)に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0020】
(11)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(8)から(10)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0021】
(12)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【0022】
(13)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(12)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0023】
(14)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(12)または(13)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0024】
(15)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0025】
(16)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(15)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0026】
(17)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(15)または(16)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0027】
(18)エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0028】
(19)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(18)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0029】
(20)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質が、下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上の物質および/またはポリペプチドである、(18)に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質、
(ii)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iv)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(v)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(vi)PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質。
【0030】
(21)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項20に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0031】
(22)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(18)から(21)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る方法によれば、亜型や変異体の出現などのウイルス側の変化に影響されることなく、広範囲のウイルス株に対して長期的に感染を抑制することができる物質をスクリーニングすることができる。また、本発明に係るウイルス感染抑制剤によれば、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスおよび/またはエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】エンドサイトーシスの経路を説明する図である。
【図2】蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer;FRET)を用いてRasタンパク質とPI3Kタンパク質またはそのRBDとの結合を確認する場合の模式図である。
【図3】pCAGGS−EGFP−H−RasG12V(6170bp)の制限酵素地図である。
【図4】pCXN2−Flag−H−RasG12V(6791bp)の制限酵素地図である。
【図5a】H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体、H−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの複合体、およびH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所をVenusタンパク質の蛍光(緑色)により観察し、early endosome−associated antigen 1(EEA1)の細胞内における存在箇所をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である。
【図5b】PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、1細胞における緑、赤および黄の各色の顆粒数の平均値を示すグラフである。
【図6】PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、EGFを添加しない場合およびEGFを添加した場合の、1細胞における「黄色の顆粒数/赤色の顆粒数」の平均値を示すグラフである。
【図7】pIRM21−3HA(8069bp)の制限酵素地図である。
【図8a】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度をデキストランの取り込み量に換算して表したグラフである。
【図8b】野生型MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度をトランスフェリンの取り込み量に換算して表したグラフである。
【図9a】野生型MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群について、FuGene HD Transfection ReagentおよびNucleofectorをそれぞれ用いて導入したECFP遺伝子の発現が見られる細胞数の割合を示す図である。
【図9b】野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群について、FuGene HD Transfection Reagent、Nucleofector、レンチウイルスHIVおよびレトロウイルスMSCVをそれぞれ用いて導入したECFP遺伝子の発現が見られる細胞数の割合を示す図である。
【図10】PI3KCGタンパク質およびK251Eタンパク質の細胞内における存在箇所をそれぞれAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察し、H−Rasタンパク質の細胞内における存在箇所をEGFPの蛍光(緑色)により観察し、EEA1の細胞内における存在箇所をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である。
【図11a】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群に、PR8ウイルスを接種した場合のウイルス感染率を示す図である。図中、右側のシャーレの写真はプラークアッセイを行って出現したプラークを示す。
【図11b】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群にAichiウイルスを接種した場合のウイルス感染率を示す図である。
【図12a】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、近隣結合法により作成した系統樹を示す図である。
【図12b】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、Clustal Wにより作成したアラインメントを示す図である。図中、PI3KCGタンパク質のRBDに特徴的なN末端側の28アミノ酸を囲んで示す。
【図12c】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、アラインメント作成結果に基づき、配列の保存性について視覚的に表現した図である。
【図13】H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所を、EGF刺激前後について、Venusタンパク質の蛍光(緑色)により観察した結果を示す図である。
【図14】pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBD(5918bp)の制限酵素地図である。
【図15】pCAGGS−Venus−N28(5675bp)の制限酵素地図である。
【図16】pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBD(5261bp)の制限酵素地図である。
【図17】pCAGGS−3HA−N28(5083bp)の制限酵素地図である。
【図18】N28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、デキストランを取り込ませたMDCK細胞において、デキストランをAlexaFluor488の蛍光(緑色)により観察し、N28ポリペプチドの発現をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察した結果を示す図である(上図)。また、24個のMDCK細胞について、AlexaFluor647の蛍光強度およびAlexaFluor488の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(下図)。
【図19】N28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞において、N28ポリペプチドの発現をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察し、PR8ウイルス核タンパク質をAlexaFluor488の蛍光(緑色)により観察した結果を示す図である。
【図20】pCAGGS−ECFP−H−RasG12V(6170bp)の制限酵素地図である。
【図21】ECFPで標識したN28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(N28群)およびECFPのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)において、導入したcDNAの発現をECFPの蛍光(青色)により観察し、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である(左図)。また、各群の120個のMDCK細胞について、ECFPの蛍光強度およびAlexaFluor594の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(右図)。
【図22】ECFPで標識したN11ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(N11群)およびECFPのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)において、導入したcDNAの発現をECFPの蛍光(青色)により観察し、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である(上図)。また、各群の90個のMDCK細胞について、ECFPの蛍光強度およびAlexaFluor594の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(下図)。
【図23】PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)、LY294002を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY294002群)、モノダンシルカダベリン(MDC)を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(MDC群)、LY294002とMDCとを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY+MDC群)、およびオセルタミビルを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(オセルタミビル群)の、それぞれのウイルス感染率を示すグラフである。
【図24】pCAGGS−Venus−CLCa(6245bp)の制限酵素地図である。
【図25】PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)、LY294002を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY294002群)、MDCを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(MDC群)およびLY294002とMDCとを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY+MDC群)における、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により、Rab5タンパク質をECFPの蛍光(青色)により、Rab7タンパク質をECFPの蛍光(青色)により、CLCaタンパク質をVenusタンパク質の蛍光(緑色)によりそれぞれ検出した結果を示す図(左図)および各群における「ECFPの蛍光(青色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒数/AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒数(b/a)」と「Venusタンパク質の蛍光(緑色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒数/AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒数(c/a)」を示すグラフ(右図)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染抑制剤について詳細に説明する。本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(i)PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域であるRBDと対象物質とを共存させる工程(Ras−PI3K/RBD共存工程)、
(ii)対象物質がRasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)、
以上(i)および(ii)の工程を有する。
【0035】
すなわち、前記ウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合することにより、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づいており、その複合体の形成を阻害する物質、すなわち前記ウイルスの感染を抑制する物質をスクリーニングする方法である。
【0036】
エンドサイトーシスとは、一般に、細胞が外界からの物質を細胞膜の小胞化と融合により内部に取り込む方式の総称である。エンドサイトーシスは、取り込む物質の種類や大きさ、関与する細胞装置の違いにより、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)などに分類されている(図1;Marshら、Cell、第134巻、第729頁、2009年)。
【0037】
また、エンドサイトーシスは、細胞膜に存在する受容体タンパク質への刺激により生じるか否かにより、受容体依存性エンドサイトーシスおよび受容体非依存性エンドサイトーシスにも分類可能である。この場合、前者には前記の分類でいうクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)やカベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar dependent endocytosis)などに相当するエンドサイトーシスが含まれ、後者には前記の分類でいうクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)やマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)に相当する、食作用(ファゴサイトーシス)や飲作用(ピノサイトーシス)などが含まれる。
【0038】
すなわち、本発明において「エンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能なウイルス、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)により感染可能なウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能なウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能なウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能なウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能なウイルスが包含される。
【0039】
対象となる、エンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、シミアン−ウイルス40、ワクシニアウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヘルペスウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、Coxsackievirus type B(CVB)、イネ萎縮ウイルス、C型肝炎ウイルスなどを挙げることができる。
【0040】
また、本発明において「クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)によって専ら感染するウイルスを除いた、エンドサイトーシスによって感染可能な(感染性を有する)ウイルス、すなわちクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルスが包含される。
【0041】
また、対象となる、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスとしては、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルスを挙げることができる。好ましくは、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能なウイルスを挙げることができ、そのようなウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、シミアン−ウイルス40、ワクシニアウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどを挙げることができる。
【0042】
ウイルスが細胞内へ侵入する際、一般的に、エンベロープを持つウイルスは膜融合を利用し、アデノウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスはエンドサイトーシスを利用する場合が多いが、エンベロープを持つウイルスのうち、インフルエンザウイルスなどは、エンドサイトーシスにより感染可能であることが知られている。すなわち、本発明における「エンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」または「クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、膜融合により感染可能な(感染性を有する)ウイルスであっても、それぞれ、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスまたはクラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスであれば包含される。
【0043】
本発明において、感染を抑制するか否かは、J.Biol.Chem.、第276巻 、第10990頁、2001年や、Nature Cell Biol.、第3巻、第301頁、2001年、あるいはPLoS.Pathogens、第5巻、第3号、第e1000350頁、2009年などに従い、感染率を算出することにより評価することができる他、例えば、ウイルス株の感染価を指標として評価することができる。感染価とは、一般的に感染性の微生物を含む検体を培養細胞に等量ずつ接種した時、感染率50%を与えるようなその検体の量をいい、「TCID50(tissue culture infective dose)」で表される。
【0044】
なお、本発明において「感染を抑制する」は、「感染を予防する」、「感染を阻止する」、「感染を阻害する」と交換可能に用いられる。また、「活性を抑制する」という場合は、「活性を阻害する」と交換可能に用いられる。
【0045】
工程(i)(Ras−PI3K/RBD共存工程)における、PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを共存させる方法は、当業者によって適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、Rasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質との溶液を調製することにより共存させる方法や、Rasタンパク質を固定した担体を、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを含む溶液に浸漬することにより共存させる方法などを挙げることができる。また、Rasタンパク質、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質は、必要に応じて、担体に結合させ、あるいは標識物質で標識することができる。そのような担体としては、例えば、マイクロプレートなどのプレート、試験管、チューブ、ビーズ、ボール、フィルター、メンブレン、セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体、多孔性シリカ系担体などの不溶性担体、ウシ血清アルブミン(BSA)、グルタチオン−s−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質(MBP)などの可溶性タンパク質担体をはじめとする生物学的担体などを挙げることができ、担体への結合は、その種類に応じて、当業者が適宜選択可能な方法を用いることができる。また、使用可能な標識物質としては、例えば、着色粒子、酵素、蛍光物質、アイソトープなどを挙げることができる。
【0046】
工程(ii)(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)における、「Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの『結合』」とは、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとが、水素結合、イオン結合、疎水結合、ファンデルワールス結合により非共有的に結合することをいう。
【0047】
工程(ii)(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)における、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合を確認する方法は、当業者によって適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、共免疫沈降法、カラムまたはビーズを用いたプルダウン法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、BIACORE、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer;FRET)を用いた方法などのインビトロアッセイを挙げることができる。
【0048】
FRETとは、近接した2個の蛍光物質の間で、励起エネルギーが電磁波ではなく電子の共鳴により直接移動する現象であり、一方の分子(供与体)で吸収された光のエネルギーによって他方の分子(受容体)から蛍光が放射される現象をいう。すなわち、2個の蛍光物質が近接している場合は、供与体の吸収スペクトルに相当する光で励起すると、供与体ではなく受容体の発光スペクトルに従う蛍光が現れる。
【0049】
Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合を確認する方法としてFRETを用いる場合、例えば、図2上段に示すように、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDに、それぞれ二つの異なる蛍光タンパク質をつなぎ、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合により観察されるFRETの蛍光が、対象物質を共存させた場合に減ずるか否かを確認することにより行うことができる。また、図2下段に示すように、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDをつなげて一つのポリペプチドとし、それぞれのドメインに二つの異なる蛍光タンパク質をつないでもよい。この場合は、Rasタンパク質ドメインとPI3Kタンパク質ドメインまたはRBDドメインとの結合により観察されるFRETの蛍光が、対象物質を共存させた場合に減ずるか否かを確認すればよい。なお、本発明におけるFRETで用いることができる蛍光タンパク質として、青緑色蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein;CFP)および黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein;YFP)を挙げることができる。
【0050】
また、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法の異なる態様は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(i)下記(a)〜(d)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程(ポリペプチド共存工程)、
(a)配列番号28のアミノ酸配列
(b)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体PI3Kタンパク質をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド
(c)配列番号40のアミノ酸配列
(d)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体PI3Kタンパク質をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド
(ii)前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程(ポリペプチド結合能評価工程)
以上(i)および(ii)の工程を有する。
【0051】
すなわち、前記異なる態様に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合し、RBDのアミノ(N)末端ポリペプチドによって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づいており、前記(a)〜(d)から選択される1または2以上のポリペプチドと結合可能であって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することを阻害する物質、すなわち前記ウイルスの感染を抑制する物質をスクリーニングする方法である。
【0052】
ここで、本発明においてポリペプチドとは、2以上のアミノ酸がペプチド結合により結合してなる化合物のことをいい、構成するアミノ酸数は特に限定されず、例えば、2アミノ酸からなるジペプチド、3アミノ酸からなるトリペプチド、4アミノ酸からなるテトラペプチド、10程度のアミノ酸からなるオリゴペプチド、20以上のアミノ酸からなるペプチドやタンパク質が包含される。
【0053】
また、本発明において、「1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」というときの、欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の個数は、配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制する限り、配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、Rasタンパク質に結合する限り特に限定されないが、例えば1〜27個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、よりさらに好ましくは1〜5個の任意の個数を挙げることができる。なお、同一あるいは性質の似たアミノ酸配列に相当するのであれば、さらに多くのアミノ酸が置換、挿入、および/または付加されてもよい。
【0054】
すなわち、配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質のRBDのN末端側1〜28番目のアミノ酸から構成されるポリペプチドであるN28ポリペプチドまたはPI3Kタンパク質のRBDのN末端側9〜19番目のアミノ酸から構成されるポリペプチドであるN11ポリペプチドと、それぞれ高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチドが含まれる。また、配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質のRBD、N28ポリペプチドを欠くPI3Kタンパク質のRBD、またはN11ポリペプチドを欠くPI3Kタンパク質のRBDと、それぞれ高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質に結合するポリペプチドが含まれる。また、ここにいう「高い同一性」とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0055】
本発明に係る配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドには、PI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制する機能を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるペプチドが包含され、また、本発明に係る配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドには、Rasタンパク質に結合する機能を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるペプチドが包含される。
【0056】
本発明において、保存的アミノ酸置換とは、生じる分子の生理学的活性を変化させることなく一般的になされ得る範囲、すなわち保存的置換の範囲で認められるもの(Watsonら,Molecular Biology of Geneなど)であり、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファンの非極性アミノ酸;グリシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンの極性無電荷側鎖アミノ酸;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンの芳香族アミノ酸といった側鎖に類似性のあるアミノ酸同士(アミノ酸のファミリー内部)で起こる置換を挙げることができる。同様に、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリンおよびトレオニンの脂肪族アミノ酸(セリンおよびトレオニンの脂肪族−ヒドロキシアミノ酸と分類することもできる);フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンの芳香族アミノ酸;アスパラギンおよびグルタミンのアミド);システインおよびメチオニンの含硫アミノ酸といった分類をすることができる。
【0057】
本発明に係るポリペプチドがPI3Kタンパク質の一部を構成する場合、PI3Kタンパク質のアミノ酸配列において本発明に係るポリペプチドが構成する部位は、PI3Kタンパク質のRBD、RBD以外の部位のいずれでもよいが、RBDが好ましく、RBDのN末端付近がより好ましく、RBDのN末端から数えて1〜28番目で構成されるポリペプチドがさらに好ましく、RBDのN末端から数えて5〜24番目で構成されるがよりさらに好ましく、RBDのN末端から数えて9〜19番目が最も好ましい。
【0058】
工程(i)(ポリペプチド共存工程)における、前記(a)〜(d)のポリペプチドと対象物質とを共存させる方法としては、前記Ras−PI3K/RBD共存工程における方法と同様の方法を挙げることができる。
【0059】
工程(ii)(ポリペプチド結合能評価工程)における、「前記ポリペプチドと対象物質との結合」とは、前記Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程における「Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの『結合』」と同様、前記ポリペプチドと対象物質とが、水素結合、イオン結合、疎水結合、ファンデルワールス結合により非共有的に結合することをいい、前記ポリペプチドと対象物質との結合を確認する方法としては、前記Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程における方法と同様の方法を挙げることができる。
【0060】
なお、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法には、その特徴を損なわない限りにおいて、他の工程を有してもよく、例えば、インキュベート工程や洗浄工程などを有してもよい。
【0061】
本発明に係るウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする。
【0062】
すなわち、前記ウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合することにより、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づき、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とするアンタゴニストである。
【0063】
PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質としては、下記(e)から(j)のポリペプチドの他、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法によってスクリーニングされた物質を挙げることができる;
(e)PI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(f)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド
(g)N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(h)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、(i)N11ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(j)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0064】
前記(e)から(j)のポリペプチドを有効成分とする場合、これらがPI3Kタンパク質と拮抗してRasタンパク質と結合することにより、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との複合体の形成を阻害することができる。
【0065】
本発明に係る異なる第二の態様のウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(k)〜(n)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする;
(k)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(l)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド
(m)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(n)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【0066】
すなわち、前記異なる第二の態様に係るウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合し、RBDのN末端ポリペプチドによって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づき、RBDのN末端ポリペプチドと同一のポリペプチドである前記(k)および/または前記(m)、もしくは前記(k)および・または前記(m)とそれぞれ高い相同性を有する前記(l)および/または前記(n)の各ポリペプチドから選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とするものであり、これらのポリペプチドは、前記複合体がエンドソーム上に存在(局在)するのを抑制する。
【0067】
また、これらのポリペプチドは、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)するのを抑制する限り、細胞内への移行を促進することが知られているポリリジン等の配列が付加されていてもよい。
【0068】
本発明におけるポリペプチドは、その配列を基にして、当業者によって適宜選択可能な方法を用いて合成することができる。そのような方法としては、例えば、アミノ酸1つ1つを化学的に重合してポリペプチドを合成するペプチド合成法の他、本発明におけるポリペプチドに相当するcDNAが挿入された組換えベクターを作製し、作製したベクターを適切な宿主細胞中に導入して得られる形質転換体を培地にて培養し、得られた培養物から採取する方法や、本発明におけるポリペプチドに相当するcDNAを無細胞タンパク質合成系で発現させて得る方法などを挙げることができる。
【0069】
本発明に係る異なる第三の態様のウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする。
【0070】
すなわち、前記異なる第三の態様に係るウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質とRasタンパク質とが複合体を形成している場合であっても、PI3Kタンパク質の活性を抑制することにより、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスが阻害されるという知見に基づき、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分としている。
【0071】
PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質としては、例えば、LY294002[2−(4−morpholinyl)−8−phenyl−4H−1−benzopyran−4−one]、Wortmannin、ZSTK474[2−(2−difluoromethylbenzimidazol−1−yl)−4,6−dimorpholino−1,3,5−triazine](Yaguchiら、J.Natl.Cancer Inst.第98巻、第545−556頁、2006年)、Quercetin[3,3’,4’,5,7−Pentahydroxyflavone](W.F.Matterら、Biochem.Biophys.Res.Commun.第186巻、第624−631頁、1992年)などのPI3K阻害剤を挙げることができる。なお、本実施例においては、好適なPI3Kタンパク質の活性を抑制する物質として、LY294002を用いている。
【0072】
本発明に係る異なる第四の態様のウイルス感染抑制剤は、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする。
【0073】
すなわち、前記異なる第四の態様に係るウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスとクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)とを抑制することにより、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染が顕著に抑制されるという知見に基づき、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)を抑制する物質とを有効成分としている。
【0074】
本発明において、エンドサイトーシスを抑制するとは、エンドサイトーシスの一連の過程のうちの1または2以上のステップを抑制することをいう。エンドサイトーシスには、外界からの物質を内部に含む小胞の形成、小胞とライソゾームやゴルジ体、カベオソーム、小胞体などの細胞小器官との融合、あるいは外界からの物質の消化・分解の一連の過程があり、この過程には、例えば、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)であれば、リガンドの受容体への結合、細胞膜の陥入、リガンドの初期エンドソームへの取り込み、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟、後期エンドソームとリソソームとの合体、後期エンドソームとゴルジ体からの小胞との合体などのステップがあり、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)やマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)であれば、それぞれ細胞膜の陥入や葉状仮足からのマクロピノソームの形成、リガンドの初期エンドソームへの取り込み、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟、後期エンドソームとリソソームとの合体、後期エンドソームとゴルジ体からの小胞との合体などのステップがある。
【0075】
本発明に係るエンドサイトーシスを抑制する物質は、エンドサイトーシスの一連の過程に含まれるステップうち1または2以上のステップを抑制することにより、エンドサイトーシスを抑制する物質である。
【0076】
本発明において、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうち、いずれか一つの経路、例えば、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)のみ、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)のみ、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)のみ、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)のみ、またはダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)のみを抑制するものでもよく、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうちの2以上の経路を抑制するものでもよいが、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)を抑制する物質が好ましい。
【0077】
本発明において、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質としては、例えば、サイトカラシンB、5−(N−ethyl−N−isopropyl)amirolide(EIPA)、アミロリドなどを挙げることができる他、本発明に係るクラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤を用いることができる。
【0078】
本発明において、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質としては、例えば、モノダンシルカダベリン(MDC)、ショ糖、クロロプロマジン(CPZ)、メチル−β−Cydなどを挙げることができる。なお、本実施例においては、好適なクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質として、MDCを用いている。
【0079】
本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法により得られるウイルスの感染を抑制する物質やウイルス感染抑制剤の製剤化には、当業者に公知の方法を用いることができる。投与形態もまた、当業者によって適宜選択することができる投与形態でよく、そのような投与形態としては、例えば、経口投与製剤として調製する場合の、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤などの形態を挙げることができ、非経口投与製剤にする場合の、吸入剤、注射剤、点滴剤、座薬、塗布剤、噴霧剤、貼付剤などの形態を挙げることができる。また、その投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定することができる。
【0080】
以下、本発明に係るウイルスの感染を阻害する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染阻害剤について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0081】
<実施例1>H−Rasタンパク質とPI3KCG−RBDタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の確認
H−rat sarcoma(H−Ras)タンパク質とPhosphoinositide 3−kinase(PI3K)触媒サブユニットγ(CG)タンパク質のRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)との複合体を、Bimolecular Fluorescence Complementation(BiFC)法により可視化し、また、初期エンドソームマーカーであるearly endosome−associated antigen 1(EEA1)タンパク質を免疫抗体染色により可視化して、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所を確認した。H−Rasは、活性化型変異H−RasであるH−RasG12Vを用いた。H−RasG12V(配列番号3)は、H−Ras(配列番号1)の35番目のグアニンをチミンに、36番目のシトシンをアデニンに置換したものであり、それ故、H−RasG12Vタンパク質(配列番号4)は、H−Rasタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の12番目であるグリシンがバリンに置換されており、H−RasG12Vタンパク質は、GTP結合型である活性化H−Rasタンパク質の状態を恒常的に維持している(Lowy D.R.ら、Annu.Rev.Biochem.、第62巻、第851−891頁、1993年)。また、H−Rasタンパク質と、生体内においてRasタンパク質に結合することが知られている因子であるc−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質の、それぞれのRBDとの複合体の細胞内における存在箇所も同時に確認し、H−Rasタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所と比較した。
【0082】
(1)ベクターの調製
以下、XhoI/NotIサイトにH−RasG12Vが挿入され、かつEcoRI/XhoIサイトに強化緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein;EGFP)のcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−EGFP−H−RasG12Vは、京都大学の松田道行氏から供与されたものを用いた。このベクターの制限酵素地図を図3に示す。また、XhoI/NotIサイトにH−RasG12Vが挿入されたベクターpCXN2−Flag−H−RasG12Vは、京都大学の松田道行氏から供与されたものを用いた。このベクターの制限酵素地図を図4に示す。さらに、蛍光タンパク質であるVenusタンパク質のcDNA(Venus;配列番号5)は、理化学研究所の宮脇敦史氏から供与されたものを用いた。
【0083】
Venusを鋳型として、Expand High Fidelity PCR System(ロシュ社)を用いてPCRを行い、Venusの1〜516番目(VN配列;配列番号6)および517〜714番目(VC配列;配列番号7)を、それぞれ増幅して単離した。PCRに用いたプライマー、PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は下記のとおりである。
【0084】
VN配列の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号8)
リバースプライマー ;5’−GGCTCGAGGATGTTGTGGCGGATCTTGA−3’(配列番号9)
VC配列の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CCGCGGCCGCGAGGACGGCGGCGTGCAGCT−3’(配列番号10)
リバースプライマー ;5’−GGAGATCTTCACTACAGCTCGTCCATGCCG−3’(配列番号11)
PCR反応溶液組成;dNTP 200μmol/L、フォワードプライマー 300nmol/L、リバースプライマー 300nmol/L、鋳型DNA 100ng、MgCl2 1.5mmol/L、1×Expand High Fidelity Reaction buffer、Expand High Fidelity Enzyme mix 52U/mL
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0085】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。VN配列のPCR産物は、制限酵素EcoRIおよびXhoIで消化した後、前記ベクターpCAGGS−EGFP−H−RasG12VのEcoRI/XhoIサイトに、EGFPのcDNAに代えて挿入し、pCAGGS−VN−H−RasG12Vを得た。また、VC配列のPCR産物は、制限酵素NotIおよびBglIIで消化した後、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12VのNotI/BglIIサイトに挿入し、pCXN2−Flag−H−RasG12V−VCを得た。
【0086】
続いて、The Babraham InstituteのL.Stephen氏から供与されたPI3KCGタンパク質のRBD(配列番号13)のcDNA(配列番号12)、北里大学の服部成介氏から供与されたc−Raf1タンパク質のRBD(配列番号15)のcDNA(配列番号14)および内皮細胞cDNAライブラリーから単離したRalGDSタンパク質のRBD(配列番号17)のcDNA(配列番号16)を、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12V−VCのXhoI/NotIサイトに、H−RasG12Vに代えてそれぞれ挿入し、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC、pCXN2−Flag−c−Raf1−RBD−VCおよびpCXN2−Flag−RalGDS−RBD−VCの各ベクターを得た。
【0087】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
アフリカミドリザル腎由来のCos1細胞群(American Type Culture Collection;ATCC;受託番号CRL−1650)を3群に分け、PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群とした。FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、付属の使用書に従い、各群に本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入した。その組み合わせは次のとおりである。
【0088】
導入したベクターの組み合わせ
PI3KCG群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC
c−Raf1群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−c−Raf1−RBD−VC
RalGDS群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−RalGDS−RBD−VC
【0089】
その後、胎児牛血清(FBS;Cansera社)を10%(v/v)含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM培地;シグマ社)で、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて24時間培養した。
【0090】
(3)免疫蛍光染色
本実施例(2)のPI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群を、パラホルムアルデヒドを3%含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて室温で15分間固定した後、PBSで洗浄した。続いて、TritonX−100を0.1%含むPBSを用いて室温で4分間透過処理した後、PBSで洗浄した。ウシ血清アルブミン(BSA)を1%含むPBSを用いて室温にて30分間ブロッキングを行った後、PBSにTritonX−100およびBSAをそれぞれ0.05%および0.1%となるよう添加して調製したPBTで洗浄した。続いて、抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)をPBSで1000倍希釈した溶液に4℃にて一晩曝して、一次抗体による抗原抗体反応を行った後、PBSで洗浄した。次に、AlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)をPBSで200倍希釈した溶液に室温にて1時間曝して、二次抗体による抗原抗体反応を行った後、PBSで洗浄した。
【0091】
(4)蛍光顕微鏡による観察
本実施例(3)のPI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、Venusタンパク質の蛍光(緑色)およびAlexaFluor594の蛍光(赤色)を、共焦点レーザー顕微鏡FV‐1000(オリンパス社)を用いて、既報に従い観察した{Ohba Y.ら、EMBO.J.第22巻、第4号、第859−869頁、2003年}。すなわち、PI3KCG群においてはH−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの、c−Raf1群においてはH−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの、RalGDS群においてはH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの、それぞれの複合体をVenusタンパク質の蛍光(緑色)により検出し、EEA1をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図5aに示す。また、画像処理ソフトウェアMetamorph(Universal Imaging Corporation)を用いて、各群の10個から20個の細胞について、1細胞毎に、Venusタンパク質の蛍光を示す顆粒(緑色の顆粒)、AlexaFluor594の蛍光を示す顆粒(赤色の顆粒)、およびVenusタンパク質の蛍光とAlexaFluor594の蛍光の重複を示す顆粒(黄色の顆粒)の数をそれぞれ数え、1細胞における各色の顆粒数の平均値と標準偏差を求めてグラフに表した。その結果を図5bに示す。
【0092】
図5aに示すように、PI3KCG群では、緑色の蛍光を示す箇所と、赤色の蛍光を示す箇所の多くが重複しているため、緑色と赤色との混色による黄色の蛍光が多く見られた。一方、c−Raf1群およびRalGDS群では、緑色の蛍光を示す箇所と、赤色の蛍光を示す箇所の重複が少ないため、緑色と赤色との混色による黄色の蛍光はほとんど見られなかった。また、図5bに示すように、緑色、赤色および黄色の顆粒の数をそれぞれ数えた結果も同様で、PI3KCG群では、緑色の顆粒数および赤色の顆粒数と比較して黄色の顆粒数が多かったが、c−Raf1群およびRalGDS群では、緑色の顆粒数および赤色の顆粒数と比較して黄色の顆粒数は少なかった。
【0093】
以上より、H−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの複合体およびH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの複合体は初期エンドソームにほとんど存在しない一方で、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体は初期エンドソームに存在することが明らかになった。
【0094】
<実施例2>EGF刺激によるH−Rasタンパク質とPI3KCG−RBDタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の変化の確認
上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor;EGF)の刺激により、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所が変化するか否かを確認した。
【0095】
まず、実施例1(1)に記載の方法によりベクターを調製し、実施例1(2)に記載の方法によりCos1細胞群にベクターを導入した後、24時間培養した。
【0096】
その後、各群をそれぞれさらに2つに分け、そのうち一方の培地にEGFを100ng/mLとなるよう添加して、20分間培養した。
【0097】
続いて、実施例1(3)に記載の方法により免疫蛍光染色を行った。その後、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行い、各群の10個から20個の細胞について、黄色の顆粒数および赤色の顆粒数を数えて、1細胞における「黄色の顆粒数/赤色の顆粒数」を算出し、その平均値と標準偏差を求めた。その結果を図6に示す。
【0098】
図6に示すように、PI3KCG群では、EGFを添加した場合はEGFを添加しない場合と比較して、黄色の顆粒数の割合が顕著に増加した。一方、c−Raf1群およびRalGDS群では、EGFを添加した場合はEGFを添加しない場合と比較して、黄色の顆粒数の割合はほとんど変わらなかった。
【0099】
以上より、EGFにより刺激をすると、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体がエンドソームに存在するようになることが明らかになった。
【0100】
<実施例3>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞におけるエンドサイトーシス機能の確認
主にクラスリン依存性エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られているトランスフェリンと、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうち、主にクラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られている分子量10000のデキストランとを、PI3KCGタンパク質を欠く細胞およびRasタンパク質に結合しない変異PI3KCGタンパク質(K251Eタンパク質;配列番号19)を発現する細胞に取り込ませ、それらの取り込み量を調べた。K251Eタンパク質のcDNA配列(K251E;配列番号18)では、PI3KCGタンパク質のcDNA配列(PI3KCG;配列番号20)の751番目のアデニンがグアニンに置換されており、これによりK251Eタンパク質ではPI3KCGタンパク質(配列番号21)のアミノ酸配列の251番目のリジンがグルタミン酸に置換されている。その結果、K251Eタンパク質はRasタンパク質に結合しないことが確認されている{Pacold M.E.ら、Cell、第103巻、第6号、第931−943頁、2000年}。
【0101】
(1)野生型MEF細胞群およびLY294002を培地に添加して培養した野生型MEF細胞群(LY294002添加MEF細胞群)の調製
野生型マウス(C57BL/6N Jcl;日本クレア社)からマウス胎児繊維芽(Mouse embryonic fibroblast;MEF)細胞群を既報に従って調製し{Sasakiら、Science、第287巻、第5455号、第1040−1046頁、2000年}、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。続いて、この細胞群を2群に分け、そのうち一方は野生型MEF細胞群とした。残りの一方は、全てのクラスのPI3Kタンパク質活性阻害剤であるLY294002(Calbiochem社)を50μmol/Lとなるよう培地に添加して1時間培養し、LY294002添加MEF細胞群とした。
【0102】
(2)PI3KCG欠損MEF細胞群の調製
C57BL/6N JclバックグラウンドのPIK3CG欠損マウスからPI3KCGを欠くMEF細胞群を既報に従って調製し{Sasakiら、Science、第287巻、第5455号、第1040−1046頁、2000年}、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。
【0103】
(3)PI3KCG導入MEF細胞群の調製
[3−1]ベクターの調製
京都大学の松田道行氏から供与された、ヘマグルチニン(HA)のcDNAが3コピー挿入されたベクターpIRM21−3HAの制限酵素地図を図7に示す。The Babraham InstituteのL.Stephen氏から供与されたPI3KCGを鋳型としてPCRを行い、PI3KCGを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0104】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGAGCTGGAGAACTATAA−3’(配列番号22)
リバースプライマー ;5’−CCGGGCCCTCAGCTAGTTAGCGGCCGCCGGCTGAATGTTTCTCTC−3’(配列番号23)
【0105】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、pIRM21−3HAのXhoI/NotIサイトに挿入し、pIRM21−3HA−PI3KCGを得た。続いて、これを制限酵素SalIおよびNotIで消化し、プロモーター領域、3HAおよびPIK3CGを含むDNA断片を得た後、実施例1(1)に記載の方法により調製したpCXN2−Flag−H−RasG12VのSalI/NotIサイトに、FlagおよびH−RasG12Vを含むDNA断片に代えて挿入し、pCXN2−3HA−PIK3CGを得た。
【0106】
[3−2] PI3KCG欠損MEF細胞群へのベクターの導入
本実施例(3)[3−1]で調製したpCXN2−3HA−PI3KCGをScaIで消化した後、Nucleofector(amaxa社)を用いて、付属の使用書に従い、本実施例(2)で調製したPI3KCG欠損MEF細胞に導入した。
【0107】
その後、実施例1(2)に記載の環境下で2日間培養した後、培地にG418二硫酸塩(シグマ社)を0.5mg/mLとなるよう添加してさらに培養し、耐性細胞を得た。続いて、得られた耐性細胞について、常法に従いウェスタンブロットを行ってPI3KCGタンパク質の発現の有無を確認し、PI3KCGタンパク質を安定して発現している細胞を選択し、G418二硫酸塩(シグマ社)を0.2mg/mL含むDMEM培地で培養した。
【0108】
(4)K251E導入MEF細胞群の調製
[4−1]ベクターの調製
PI3KCGの751番目のアデニンをグアニンに置換した部分を含む22塩基のフォワードプライマーおよびリバースプライマーを設計した。これらのプライマーをそれぞれ用いて、本実施例(3)のPI3KCGを鋳型として1回目のPCRを行い、K251Eの1〜762番目およびK251Eの740〜3309番目をそれぞれ増幅した。PCR反応溶液組成は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCRに用いたプライマーおよびPCR反応条件は下記のとおりである。用いたプライマーにおいて、PI3KCGの751番目のアデニンをグアニンに置換した部分を下線で示す。
【0109】
1回目のPCR
K251Eの1〜762番目の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;配列番号9のプライマー
リバースプライマー ;5’−CTTGGCCATCTCGGTGAAGAAG−3’(配列番号24)
K251Eの740〜3309番目の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CTTCTTCACCGAGATGGCCAAG−3’(配列番号25)
リバースプライマー ;配列番号10のプライマー
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、58℃で30秒、68℃で3分の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0110】
続いて、1回目のPCR産物を鋳型として、本実施例(3)[3−1]に記載のプライマーを用いて2回目のPCRを行い、K251Eを増幅して単離した。PCR反応溶液組成は、鋳型DNAを1回目のPCR産物各50ngずつとした他は、実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCR反応条件は下記のとおりである。
【0111】
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で3分の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0112】
得られたPCR産物は、本実施例(3)[3−1]に記載の方法によりベクターに挿入し、pCXN2−3HA−K251Eを得た。
【0113】
[4−2]PI3KCG欠損MEF細胞群へのベクターの導入
本実施例(4)[4−1]で調製したpCXN2−3HA−K251Eを、本実施例(3)[3−2]に記載の方法により、PI3KCG欠損MEF細胞に導入し、K251E導入MEF細胞群を調製した。
【0114】
(5)エンドサイトーシス機能の評価
本実施例(1)から(4)で調製した各群をそれぞれ2つに分け、そのうち一方にはAlexaFluor546を結合した分子量10000のデキストラン(インビトロジェン社)を、他方にはAlexaFluor546を結合したトランスフェリン(インビトロジェン社)を、それぞれ0.5mg/mLとなるよう培地に添加し、37℃、CO25%を含む加湿環境下で、10分間培養した。
【0115】
その後、37℃に保った状態で実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行い、各群における20個の細胞について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度を測定し、その平均値をデキストランの取り込み量およびトランスフェリンの取り込み量に換算してグラフに表した。その結果を図8aおよび図8bに示す。
【0116】
図8aに示すように、PI3KCG欠損MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と比較してデキストランの取り込み量の低下が見られた。一方、PI3KCG導入MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と同程度のデキストランの取り込みが見られた。また、図8bに示すように、トランスフェリンの取り込み量は、いずれの細胞群においても野生型MEF細胞群との違いが見られなかった。
【0117】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異によりRasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合またはLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合には、クラスリン依存性のエンドサイトーシスは抑制されない一方で、クラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスは抑制されることが明らかになった。
【0118】
<実施例4>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞における強化青緑色蛍光タンパク質(enhanced cyan fluorescent protein;ECFP)遺伝子発現率の確認
エンドサイトーシスを介する遺伝子導入試薬であるFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いる方法、エレクトロポレーション法による遺伝子導入装置であるNucleofector(amaxa社)を用いる方法、エンドサイトーシスにより感染することが知られているレンチウイルスHIVを用いる方法、および膜融合により感染することが知られているレトロウイルスMSCVを用いる方法の4つの方法により、PI3KCG欠損細胞群およびK251E導入細胞群にECFP遺伝子の導入を行い、導入したECFP遺伝子を発現する細胞数を調べた。
【0119】
(1)FuGene HD Transfection ReagentおよびNucleofectorにより導入したECFP遺伝子の発現率
実施例3(1)から(4)に記載の方法により調製した野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群に、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)およびNucleofector(amaxa社)をそれぞれ用いて、ECFPのcDNA(配列番号26)が挿入されたベクターpECFP−C1(クロンテック社)を、付属の使用書に従い導入した。なお、LY294002添加MEF細胞群については、LY294002を添加した培地において、ベクターの導入を行った。
【0120】
その後、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。続いて、気温を37℃に保った状態で下記に示す条件により蛍光観察を行い、ECFPの蛍光(青色)が見られる細胞を数え、各群の全体の細胞数に占める割合を算出した。その結果を図9aに示す。
【0121】
蛍光観察に用いた条件
顕微鏡;倒立型リサーチ顕微鏡 IX71(オリンパス社)
電動シャッター・ステージ;BioPointMAC5000(Ludi社)
光源;キセノンランプ、75ワット
減光フィルター;6%
ダイクロイックミラー;XF2034(455DRLP;オメガ社)
励起フィルター;XF1071(440AF21)(オメガ社)
吸収フィルター;XF3075(480AF30)(オメガ社)
記録装置;冷却CCDカメラCoolSNAP−HQ(RoperScientific社)
CCDカメラおよびフィルターホイールの制御、画像データの分析;MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社)
【0122】
図9aに示すように、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、PI3KCG欠損MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群では、それぞれ野生型MEF細胞群と比較して、ECFP発現細胞数の割合が顕著に低下した。また、PI3KCG導入MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と比較して、ECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。一方、Nucleofector(amaxa社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、いずれの細胞群においても、それぞれ野生型MEF細胞群と比較してECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。
【0123】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異により、Rasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合およびLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合に、エンドサイトーシスを介する遺伝子導入試薬であるFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によるECFPのcDNAの導入が抑制された一方で、エレクトロポレーション法による遺伝子導入装置であるNucleofector(amaxa社)によるECFPのcDNAの導入は抑制されないことから、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異によりRasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合、またはLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合は、エンドサイトーシスが抑制されることが明らかになった。
【0124】
(2)レトロウイルスおよびレンチウイルスの感染により導入した遺伝子の発現率
[2−1]レトロウイルスMSCVおよびレンチウイルスHIVの調製
ブリティッシュコロンビア大学のM.R.Gold氏から供与されたレトロウイルスベクターpMSCV−pac−ECFPを、同氏から供与されたパッケージング細胞であるBOSC23細胞に導入することにより、ECFPのcDNAを保持したレトロウイルスmurine stem cell virus(MSCV)を作成した。また、理化学研究所の三好浩之氏から供与されたCS−CA−ECFP、pCMV−VSV−RSV−RevおよびレンチウイルスベクターpCAG−HIVgpの3つのベクターを、コネチカット大学のB.Mayer氏から供与された、パッケージング細胞であるヒト胚性腎(human embryonic kidney;HEK)293T細胞に導入することにより、ECFPのcDNAを保持したレンチウイルスHIVを作成した{Pearら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第90巻、第8392頁、1993年;Ohba Y.ら、EMBO.J.第20巻、第13号、第3333−3341頁、2001年;Inuzuka T.ら、B.B.R.C.第379巻、第510−513頁、2009年;Miyoshiら、Mothods Mol.Bio.第l246巻、第429−438頁、2004年}。
【0125】
[2−2]野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群へのレトロウイルスおよびレンチウイルス接種
本実施例(2)[2−1]のレトロウイルスMSCVおよびレンチウイルスHIVを、それぞれ重複感染度(Multiplicity of infection;MOI)=1となるようDMEM培地に加えて、レトロウイルス含有培地およびレンチウイルス含有培地を調製した。実施例3(1)および(2)に記載の方法により調製した野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群をPBSで洗浄した後、それぞれを2群に分け、そのうち一方にはレトロウイルス含有培地を、他方にはレンチウイルス含有培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて12時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、実施例1(2)に記載の環境下で2日間培養した。
【0126】
[2−3]ECFPの蛍光観察
本実施例(2)[2−2]の各群について、気温を37℃に保った状態で本実施例(1)に記載の方法により蛍光観察を行い、ECFPの蛍光(青色)が検出される細胞を数えて、全体の細胞数に占める割合を算出した。その結果を図9bに示す。
【0127】
また、本実施例(1)の結果のうち、野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群における結果について、「ECFP発現細胞数/全体の細胞数」の値に換算して、図9bに示す。
【0128】
図9bに示すように、レンチウイルスHIVの感染によりECFPのcDNAを導入した場合、およびFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、野生型MEF細胞群と比較して、PI3KCG欠損MEF細胞群におけるECFP発現細胞数の割合が顕著に低下した。一方、レトロウイルスMSCVの感染によりECFPのcDNAの導入を行った場合、およびNucleofector(amaxa社)によりECFPのcDNAの導入を行った場合は、野生型MEF細胞群と比較して、PI3KCG欠損MEF細胞群におけるECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。
【0129】
以上より、PI3KCGタンパク質が欠損すると、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によるエンドサイトーシスを介した遺伝子導入、およびレンチウイルスの感染による遺伝子導入すなわちエンドサイトーシスによるウイルス感染が抑制されることが明らかになった。一方、PI3KCGタンパク質が欠損しても、レトロウイルスの感染すなわち膜融合によるウイルス感染は抑制されないことが明らかになった。
【0130】
<実施例5>K251Eタンパク質およびH−Rasタンパク質の細胞内における存在箇所の確認
K251Eタンパク質およびH−Rasタンパク質を免疫抗体染色および蛍光標識により可視化し、これらのタンパク質が細胞内において存在する箇所を確認した。
【0131】
(1)ベクターの調製
実施例3(3)[3−1]に記載の方法によりpCXN2−3HA−PI3KCGを得た。また、実施例3(4)[4−1]に記載の方法によりpCXN2−3HA−K251Eを得た。pCAGGS−EGFP−H−RasG12Vは実施例1(1)に記載のものを用いた。
【0132】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
Cos1細胞群(ATCC;受託番号CRL−1650)を2群に分けてPI3KCG群およびK251E群とし、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、付属の使用書に従い、本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入し、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。前記ベクターの組み合わせは次のとおりである。
【0133】
導入したベクターの組み合わせ
PI3KCG群;pCXN2−3HA−PI3KCGとpCAGGS−EGFP−H−RasG12V
K251E群;pCXN2−3HA−K251EとpCAGGS−EGFP−H−RasG12V
【0134】
(3)免疫蛍光染色
本実施例(2)のPI3KCG群およびK251E群について、実施例1(3)に記載の方法により免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)に加えて抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)を用い、二次抗体として、AlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)に加えてAlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)を用いた。
【0135】
(4)共焦点顕微鏡による観察
本実施例(2)のPI3KCG群およびK251E群について、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。すなわち、PI3KCGタンパク質およびK251Eタンパク質の存在する箇所をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により検出し、H−RasG12Vタンパク質の存在する箇所をEGFPの蛍光により検出した。また、EEA1をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図10に示す。融合図の下段のグラフは、融合図内に点線で示したラインに沿って、各蛍光の強度を示したものである。また、拡大図は融合図内の囲みの部分を拡大した図である。
【0136】
図10に示すように、PI3KCG群では、PI3KCGタンパク質、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現の多くが、細胞内の同じ箇所で確認された。一方、K251E群では、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現は同じ箇所に観察されるものの、K251Eタンパク質の発現は、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現と、細胞内の同じ箇所ではほとんど確認されなかった。
【0137】
以上より、PI3KCGタンパク質とH−RasG12Vタンパク質との結合が阻害されると、初期エンドソームにおけるPI3KCGタンパク質の存在(局在)が抑制されることが明らかになった。
【0138】
<実施例6>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞におけるウイルス感染率の確認
PI3KCG欠損細胞群およびK251E導入細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、ウイルス感染率を調べた。
【0139】
(1)MEF細胞群の調製
まず、実施例3(1)から(4)に記載の方法により、野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群を調製した。
【0140】
(2)インフルエンザウイルスの調製
次に、北海道大学の高田礼人氏より供与されたインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1;PR8)およびA/Aichi/2/68(H3N2;Aichi)を、ニワトリ卵10日胚(ホクレン中央種鶏場)の漿尿膜へ接種して、37℃にて48時間培養して増殖させた。
【0141】
(3)MEF細胞群へのインフルエンザウイルス接種
続いて、本実施例(2)のPR8ウイルスおよびAichiウイルスを、それぞれ重複感染度(Multiplicity of infection;MOI)=250となるようminimal essential medium(MEM培地)(インビトロジェン社)に加えて、PR8ウイルス含有培地およびAichiウイルス含有培地を調製した。本実施例(1)の各群をPBSで洗浄した後、それぞれを2群に分け、そのうち一方にはPR8ウイルス含有培地を、他方にはAichiウイルス含有培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて1時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、1%(w/v)のBact−agarおよび5μg/mLのトリプシンを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて2日間培養した。
【0142】
(4)プラークアッセイによるウイルス感染率の確認
その後、本実施例(3)の培養上清を、12穴プレートで単層培養したMadin−Darby canine kidney(MDCK)細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)に添加して、37℃にて1時間培養した。続いて、培養上清を除去し、Bact−agar1%(w/v)およびトリプシン5μg/mLを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加して、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて2日間培養し、出現したプラークを数えた。この結果をもとに、PR8ウイルスおよびAichiウイルスの各群におけるウイルス感染率を求めた{J.Biol.Chem.、第276巻 、第10990頁、2001年;Nature Cell Biol.、第3巻、第301頁、2001年;PLoS.Pathogens、第5巻、第3号、第e1000350頁、2009年}。PR8ウイルスの結果を図11aに、Aichiウイルスの結果を図11bにそれぞれ示す。
【0143】
図11aおよび図11bに示すように、PI3KCG欠損MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群では、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも顕著に低下した。また、LY294002添加MEF細胞群でも、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも低下した。一方、PI3KCG導入MEF細胞群では、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも野生型MEF細胞群と同程度に高いことが確認された。
【0144】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異により、PI3KCGタンパク質のRasタンパク質への結合が阻害されると、インフルエンザウイルスの感染が抑制されることが明らかになった。また、LY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合も、インフルエンザウイルスの感染が抑制されることが明らかになった。
【0145】
<実施例7>Ras結合領域の配列比較
PI3KCGタンパク質のRBDのアミノ酸配列と他の代表的なRas結合分子であるRafタンパク質およびRalGDSタンパク質の、それぞれのRBDのアミノ酸配列とを比較検討し、PI3KCGタンパク質のRBDに特異的な配列を抽出した。
【0146】
PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、近隣結合(neighbor−joining;NJ)法により系統樹を作成した。その結果を図12aに示す。また、これらの配列について、Clustal W(http://clustalw.ddbj.nig.ac.JP/top−j.html)を用いてアラインメントを作成した。その結果を図12bに示す。また、アラインメント作成結果に基づき、配列の保存性について視覚的に表現した図を図12cに示す。
【0147】
図12aに示すように、PI3KCGタンパク質のRBDのアミノ酸配列は、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列と別のカテゴリーに分類された。それは、PI3KCGタンパク質のRBDのN末端側のアミノ酸配列がc−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のものより長く、かつ特徴的な28アミノ酸の配列を有することに起因することが図12bより確認された。さらに、図12cに示すように、N末端側においてアミノ酸配列の保存性が低いことが確認された。
【0148】
以上より、PI3KCGタンパク質のRBDのN末端28アミノ酸(N28ポリペプチド;配列番号27および配列番号28)が、PI3KCGタンパク質に、他のRas結合因子とは異なる機能を付与する配列であることが示唆された。
【0149】
<実施例8>H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の確認
H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体を、BiFC法により可視化し、この複合体が細胞内において存在する箇所を確認した。
【0150】
(1)ベクターの調製
実施例1(1)に記載の方法により、pCAGGS−VN−H−RasG12V、pCXN2−Flag−H−RasG12V−VCおよびpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VCを得た。
【0151】
実施例3(3)[3−1]のPI3KCGを鋳型として、N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBD(配列番号30)に相当するcDNA(配列番号29)を増幅した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCRに用いたプライマーは下記のとおりである。
【0152】
フォワードプライマー;5’−CCCTCGAGCAGACCATTAAGGTCTCACC−3’(配列番号31)
リバースプライマー ;5’−GGGCGGCCGCCGTCTGGAGGCGTGTCCAGT−3’(配列番号32)
【0153】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12V−VCのXhoI/NotIサイトに、H−RasG12Vに代えて挿入し、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VCを得た。
【0154】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
Cos1細胞(ATCC;受託番号CRL−1650)を、コラーゲンでコートした直径35mmのガラスベースディッシュ(旭テクノガラス社)に置き、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、添付の使用書に従い、本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入した。その組み合わせは次のとおりである。
【0155】
導入したベクターの組み合わせ
pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC
pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VC
【0156】
ベクター導入後の細胞は、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養し、培地を除去した後、FBSを含まないフェノールレッド不含培地Dulbecco’s Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F−12(DMEM/F12;インビトロジェン社)を添加し、さらに4時間培養した。
【0157】
(3)蛍光顕微鏡による観察
その後、37℃に保った状態で、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。観察開始から20分後に、培地にEGFを100ng/mLとなるよう添加し、さらに観察を行った。EGF添加前の結果を図13上段に、EGF添加後の結果を図13下段にそれぞれ示す。
【0158】
図13上段および下段に示すように、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VCを導入した細胞では、EGF添加前と比較して、EGF添加後にVenusタンパク質の蛍光(緑色)がエンドソームにおいて多数見られた。一方、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VCを導入した細胞では、EGF添加前と比較して、EGF添加後にVenusタンパク質の蛍光(緑色)がゴルジ装置に集積していることが確認された。
【0159】
以上より、N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDとH−RasG12Vタンパク質との複合体は、エンドソームへ存在せずゴルジ装置に集積することが明らかになった。すなわち、N28ポリペプチドはPI3KCGタンパク質のRBDとH−RasG12Vタンパク質との複合体をエンドソームへ存在させる機能を有することが明らかになった。
【0160】
<実施例9>N28ポリペプチドを発現させた細胞のエンドサイトーシス機能の確認
分子量10000のデキストランを、N28ポリペプチドを発現させたMDCK細胞に取り込ませ、それらの取り込み量を調べた。
【0161】
(1)ベクターの調製
実施例3(3)[3−1]のPI3KCGタンパク質のRBDのcDNAを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたベクターpCAGGS−VenusのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBDを得た。このベクターの制限酵素地図を図14に示す。
【0162】
続いて、pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBDを鋳型としてPCRを行い、VenusとN28ポリペプチドのcDNAとを含むDNA断片を増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0163】
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号33)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGCTGGTGGTGCTGCGG−3’(配列番号34)
【0164】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素EcoRIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−EGFP−H−RasのEcoRI/NotIサイトに、EGFP−H−Rasに代えて挿入し、pCAGGS−Venus−N28を得た。このベクターの制限酵素地図を図15に示す。
【0165】
次に、実施例3(3)[3−1]のPI3KCGタンパク質のRBDのcDNAを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたベクターpCAGGS−3HAのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBDを得た。このベクターの制限酵素地図を図16に示す。続いて、pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBDを制限酵素SpeIおよびXhoIで消化し、プロモーターとヘマグルチニンのcDNAを含む約1.7kbpのDNA断片を得て、これを、pCAGGS−Venus−N28のSpeI/XhoIサイトに、Venusに代えて挿入し、pCAGGS−3HA−N28を得た。このベクターの制限酵素地図を図17に示す。
【0166】
(2)MDCK細胞群へのベクターの導入
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を、コラーゲンでコートした直径35mmのガラスベースディッシュ(旭テクノガラス社)に置き、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、添付の使用書に従い、本実施例(1)で調製したpCAGGS−3HA−N28を導入した。その後、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。
【0167】
(3)エンドサイトーシス機能の評価
本実施例(2)のMDCK細胞群をPBSで洗浄した後、AlexaFluor488を結合した分子量10000のデキストラン(インビトロジェン社)0.5mg/mLおよびFBS10%(v/v)を含むDMEM培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて10分間培養した。
【0168】
(4)免疫蛍光染色
本実施例(3)のMDCK細胞群について、実施例1(3)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体は抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)に代えて抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)を用い、二次抗体はAlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)に代えてAlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)を用いた。また、抗体の希釈にはPBSに代えてPBTを用い、二次抗体の希釈倍率は200倍に代えて300倍とし、一次抗体による抗原抗体反応の時間は一晩に代えて12時間とした。
【0169】
(5)蛍光顕微鏡による観察
本実施例(4)のMDCK細胞群について、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行い、AlexaFluor488の蛍光(緑色)およびAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)を検出した。その結果を図18の上図に示す。また、24個の細胞について、1細胞におけるAlexaFluor488の蛍光強度およびAlexaFluor647の蛍光強度をそれぞれ測定し、AlexaFluor488の蛍光強度を縦軸に、AlexaFluor647の蛍光強度を横軸にとったグラフにプロットした。その結果を図18の下図に示す。
【0170】
図18の上図および下図に示すように、AlexaFluor488の蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor647の蛍光強度が小さい細胞、AlexaFluor488の蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor647の蛍光強度が大きい細胞、およびAlexaFluor488の蛍光強度とAlexaFluor647の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、AlexaFluor488の蛍光強度とAlexaFluor647の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。
【0171】
以上より、N28ポリペプチドを発現させた細胞では、クラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスが抑制されることが明らかになった。
【0172】
<実施例10>N28ポリペプチドを発現させた細胞のウイルス核タンパク質取り込み量の確認
N28ポリペプチドを発現させたMDCK細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、細胞内へのウイルス核タンパク質の取り込み量を調べた。
【0173】
(1)HAにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるウイルス核タンパク質の取り込み量
[1−1]ベクターの調製およびMDCK細胞群へのベクターの導入
実施例9(1)に記載の方法によりpCAGGS−3HA−N28を得て、これを実施例9(2)に記載の方法によりMDCK細胞群に導入した。
【0174】
[1−2]MDCK細胞群へのインフルエンザウイルス接種
実施例6(2)に記載の方法により調製したPR8ウイルスを、MOI=2となるようMEM培地(インビトロジェン社)に加えて、PR8ウイルス含有培地を調製した。本実施例(1)[1−1]のMDCK細胞群をPBSで洗浄した後、PR8ウイルス含有培地を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて1時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、1%(w/v)のBact−agarおよび5μg/mLのトリプシンを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて5時間培養した。
【0175】
[1−3]免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(1)[1−2]のMDCK細胞群について、実施例9(4)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)に加えて北海道大学の高田礼人氏から供与された抗インフルエンザウイルス核タンパク質マウスモノクローナル抗体を用い、二次抗体として、AlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)に加えてAlexaFluor488を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)を用いた。その後、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。その結果を図19に示す。
【0176】
図19に示すように、AlexaFluor647の蛍光強度が大きい細胞ではAlexaFluor488の蛍光強度が小さく、AlexaFluor488の蛍光強度が大きい細胞ではAlexaFluor647の蛍光強度が小さかった。
【0177】
以上より、HAにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。
【0178】
(2)ECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるウイルス核タンパク質の取り込み量
[2−1]ベクターの調製
京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFP−H−RasG12V(制限酵素地図を図20に示す)を制限酵素SpeIおよびXhoIで消化して、プロモーターとECFPのcDNAを含む約2.4kbpの断片を得た。この2.4kbpの断片を、実施例9(1)に記載の方法により得たpCAGGS−3HA−N28のSpeI/XhoIサイトに、3コピーのHAのcDNAに代えて挿入し、pCAGGS−ECFP−N28を得た。
【0179】
[2−2]MDCK細胞群へのベクターの導入およびインフルエンザウイルス接種
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を2群に分け、コントロール群およびN28群とした。実施例9(2)に記載の方法により、コントロール群には京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPを、N28群には本実施例(2)[2−1]のpCAGGS−ECFP−N28をそれぞれ導入した。その後、本実施例(1)[1−2]に記載の方法によりコントロール群およびN28群にPR8ウイルスを接種した。
【0180】
[2−3]免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(2)[2−2]のコントロール群およびN28群について、実施例9(4)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)に代えて北海道大学の高田礼人氏から供与された抗インフルエンザウイルス核タンパク質マウスモノクローナル抗体を用い、二次抗体として、AlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)に代えてAlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)を用いた。その後、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行った。その結果を図21の左図に示す。また、各群のそれぞれ120個の細胞について、1細胞におけるAlexaFluor594の蛍光強度およびECFPの蛍光強度をそれぞれ測定して、AlexaFluor594の蛍光強度を縦軸に、ECFPの蛍光強度を横軸にとったグラフにプロットした。その結果を図21の右図に示す。
【0181】
図21左図および右図に示すように、N28群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、ECFPの蛍光強度の蛍光強度とAlexaFluor594とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。一方、コントロール群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞が同程度に存在していた。
【0182】
以上より、ECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。また、この結果は本実施例(1)と同様の結果であることから、HAにより標識したN28ポリペプチドまたはECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるインフルエンザウイルスの細胞内への取り込み抑制効果は、標識タンパク質によるものではなく、N28ポリペプチドによるものであることが確認された。
【0183】
<実施例11>N28ポリペプチドの中央部11アミノ酸を発現させた細胞のウイルス核タンパク質取り込み量の確認
N28ポリペプチドの中央部11アミノ酸(N11ポリペプチド;配列番号39および配列番号40)を発現させたMDCK細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、細胞内へのウイルス核タンパク質の取り込み量を調べた。
【0184】
(1)ベクターの調製
実施例10(2)[2−1]に記載の方法によりpCAGGS−ECFP−N28を得た。pCAGGS−ECFP−N28を鋳型としてPCRを行い、N28ポリペプチドのカルボキシル(C)末端側20アミノ酸(配列番号36)に相当するcDNA(配列番号35)を含む200bpのDNA断片を増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0185】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGCTGTGGAAGAAGATTGCC−3’(配列番号37)
リバースプライマー ;5’−AGATGCTCAAGGGGCTTCATGATG−3’(配列番号38)
【0186】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびBglIIで消化した後、pCAGGS−ECFP−N28のXhoI/BglIIサイトに挿入し、N28ポリペプチドに相当するcDNAに代えてN28ポリペプチドのC末端側20アミノ酸に相当するcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−ECFP−N20を得た。
【0187】
続いて、pCAGGS−ECFP−N20を鋳型としてPCRを行い、N11ポリペプチドに相当するcDNA(配列番号39)を含む700bpのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0188】
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号41)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGAAGATGCAGTTGTTGGC−3’(配列番号42)
【0189】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素EcoRIおよびNotIで消化した後、pCAGGS−ECFP−N20のEcoRI/NotIサイトに挿入し、N28ポリペプチドのC末端側20アミノ酸に相当するcDNAに代えてN11ポリペプチドに相当するcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−ECFP−N11を得た。
【0190】
(2)MDCK細胞群へのベクターの導入およびインフルエンザウイルス接種
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を2群に分け、コントロール群およびN11群とした。実施例9(2)に記載の方法により、コントロール群には京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPを、N11群には本実施例(1)で調製したpCAGGS−ECFP−N11をそれぞれ導入した。その後、実施例10(2)[2−2]に記載の方法によりコントロール群およびN11群にPR8ウイルスを接種した。
【0191】
(3)免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(2)のコントロール群およびN11群について、実施例10(2)[2−3]に記載の方法により、免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察を行った。ただし、蛍光強度を測定した細胞数は120個に代えて90個とした。その結果を図22上図および下図に示す。
【0192】
図22上図および下図に示すように、N11群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。一方、コントロール群では、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞が同程度に存在していた。
【0193】
以上より、N11ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。
【0194】
<実施例12>クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した細胞におけるウイルス感染率の確認
実施例3および実施例4においてクラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制することが確認された、PI3Kタンパク質の活性阻害剤であるLY294002およびクラスリン依存性エンドサイトーシスを抑制することが知られているモノダンシルカダベリン(MDC;Schlegelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第79巻、第2291−2295頁、1982年; Rayら、FEBS Lett.、第378巻、第235−239頁、1996年)を添加してインフルエンザウイルスを接種し、ウイルス感染率を調べた。
【0195】
(1)各試薬による前処理
12ウェルプレートでMEM培地を用いて培養したMDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を5群に分け、コントロール群、LY294002群、MDC群、LY+MDC群およびオセルタミビル群とした。続いて、各群の培地に下記の試薬を添加して30分間培養することにより、前処理を行った。濃度は培地中の濃度を示す。
【0196】
コントロール群 ;無添加
LY294002群;LY294002(Calbiochem社)50μmol/L
MDC群 ;モノダンシルカダベリン(MDC;シグマ社)50μmol/L
LY+MDC群 ;LY294002(Calbiochem社)50μmol/L
モノダンシルカダベリン(MDC;シグマ社)50μmol/L
オセルタミビル群 ;オセルタミビル(Roche社) 100μmol/L
【0197】
(2)MDCK細胞群へのインフルエンザウイルス接種およびプラークアッセイによるウイルス感染率の確認
実施例10(1)[1−2]に記載の方法により、本実施例(1)の各群にPR8ウイルスを接種した。ただし、MOI=2に代えてMOI=1とし、各群に添加するPR8ウイルス含有培地には、本実施例(1)の前処理時と同じ試薬を同じ濃度となるよう添加した。また、ウイルス接種後の培養時間は5時間に代えて2日間とした。その後、実施例6(4)に記載の方法によりプラークアッセイを行い、ウイルス感染率を求めた。その結果を図23に示す。
【0198】
図23に示すように、LY294002群、MDC群、LY+MDC群およびオセルタミビル群のウイルス感染率は、コントロール群と比較してそれぞれ約1/5、約1、約1/100および約1/10であった。
【0199】
以上より、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制すると、インフルエンザウイルスの感染を顕著に抑制できることが明らかになった。
【0200】
<実施例13>クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した細胞におけるウイルス核タンパク質の存在(局在)箇所の確認
【0201】
初期エンドソームマーカータンパク質、後期エンドソームマーカータンパク質、クラスリン軽鎖タンパク質およびウイルス核タンパク質を免疫抗体染色および蛍光標識により可視化し、LY294002およびMDCを添加してインフルエンザウイルスを接種した細胞において、これらのタンパク質が存在する箇所を調べた。
【0202】
(1)ベクターの調製
初期エンドソームに存在(局在)することが知られているRab5タンパク質(配列番号44)のcDNA(配列番号43)が挿入されたベクターpEGFP−C1−Rab5、および後期エンドソームに存在(局在)することが知られているRab7タンパク質(配列番号46)のcDNA(配列番号45)が挿入されたベクターpEGFP−C1−Rab7は東京大学の坪井貴司氏から供与された。また、クラスリン軽鎖(CLCa)タンパク質(配列番号48)のcDNA(配列番号47)は東京大学の河岡義裕氏から供与された。CLCaのcDNAを鋳型としてPCRを行い、5’端および3’端にそれぞれXhoIおよびNotIサイトが付加されたCLCaのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0203】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGCTGAGCTGGATCC−3’(配列番号49)
リバースプライマー;5’−TAGCGGCCGCTCAGTGCACCAGCGGG−3’(配列番号50)
【0204】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−VenusのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−Venus−CLCaを得た。このベクターの制限酵素地図を図24に示す。
【0205】
続いて、pEGFP−C1−Rab5およびpEGFP−C1−Rab7を鋳型としてPCRを行い、Rab5タンパク質およびRab7タンパク質のそれぞれのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0206】
Rab5の増幅に用いたプライマー
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGCTAATCGAGGAGC−3’(配列番号51)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGTTACTACAACACTGG−3’(配列番号52)
Rab7の増幅に用いたプライマー
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGACCTCTAGGAAGAAAG−3’(配列番号53)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAACAACTGCAGCTTTC−3’(配列番号54)
【0207】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPのXhoI/NotIサイトにそれぞれ挿入し、pCAGGS−ECFP−Rab5およびpCAGGS−ECFP−Rab7を得た。
【0208】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
実施例9(2)に記載の方法により、本実施例(1)のpCAGGS−ECFP−Rab5、pCAGGS−ECFP−Rab7およびpCAGGS−Venus−CLCaをCos1細胞群(ATCC;受託番号CRL−1650)に導入した。
【0209】
(3)各試薬による前処理
本実施例(2)のCos1細胞群を4群に分け、コントロール群、LY294002群、MDC群およびLY+MDC群とした。続いて、これらの各群に、実施例12(1)に記載の方法により各試薬による前処理を行った。
【0210】
(4)Cos1細胞群へのインフルエンザウイルス接種
実施例10(1)[1−2]に記載の方法により、本実施例(3)の各群にPR8ウイルスを接種した。ただし、MOI=2に代えてMOI=100とし、各群に添加するPR8ウイルス含有培地には、本実施例(3)の前処理時と同じ試薬を同じ濃度となるよう添加した。またウイルス接種後の培養は行わなかった。
【0211】
(5)免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(4)の各群について、実施例10(2)[2−3]に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、二次抗体の希釈倍率は300倍に代えて250倍とした。その後、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行い、Rab5タンパク質、Rab7タンパク質、CLCaタンパク質およびインフルエンザウイルスのウイルス核タンパク質をそれぞれECFP、Venusタンパク質の蛍光(緑色)およびAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図25の左図に示す。また、各群の10個の細胞について、下記の蛍光を示す顆粒の数をそれぞれ数え、b/aおよびc/aの1細胞あたりの割合をそれぞれ求めた。その結果を図25の右図に示す。
【0212】
a;AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒
b;ECFPの蛍光(青色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒
c;Venusタンパク質の蛍光(緑色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒
【0213】
図25の左図および右図に示すように、LY294002群では、コントロール群と比較してb/aが低下した一方で、c/aは同様の割合であり、MDC群では、コントロール群と比較してb/aがやや低下した一方で、c/aは顕著に低下した。これに対し、LY+MDC群では、コントロール群と比較してb/aおよびc/aのいずれも顕著に低下した。
【0214】
以上より、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制した場合はクラスリン依存性エンドサイトーシスによりインフルエンザウイルスが細胞内に取り込まれ、クラスリン依存性エンドサイトーシスのみを抑制した場合はクラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりインフルエンザウイルスが細胞内に取り込まれることが明らかになった。これに対し、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した場合は、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが顕著に抑制されることが明らかになった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染抑制剤に関し、特に、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤、およびエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスとは、細胞を構成単位とせずにDNAかRNAのいずれかをゲノムとして有し、宿主細胞内だけで増殖する微小構造体であり、宿主細胞内の代謝系を利用して増殖する。その際、病原体としてふるまうことがあり、ウイルスが増殖した結果として宿主に惹起される疾病をウイルス感染症という。ウイルス感染症には、例えば、ライノウイルスによる感冒、インフルエンザウイルスによるインフルエンザ、ヒト免疫不全ウイルスによる後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome;AIDS)、単純ヘルペスウイルスによる単純ヘルペス、腫瘍ウイルスによる癌など、さまざまなものがある。
【0003】
ウイルスの増殖は、I「細胞表面への吸着」、II「細胞内への侵入」、III「脱殻」、IV「ウイルスゲノムやウイルスタンパク質などのウイルス部品の合成」、V「ウイルス部品の集合」、VI「細胞からの放出」の、I〜VIのステップを経てなされる。従って、従来より、これらのステップを攻撃対象として、種々のウイルス感染症の治療剤やウイルス感染予防・阻害剤の研究開発がされている。
【0004】
例えば、ウイルス感染予防・阻害剤やウイルス感染症治療剤として代表的であるワクチンは、弱毒化または不活化したウイルスを宿主に取り込ませて免疫を獲得させ、これを利用することで、前記ステップのうち、I「細胞表面への吸着」、II「細胞内への侵入」、あるいはVI「細胞からの放出」ステップを対象としている。また、特開2008−253188号公報に開示されているDNaseXタンパク質は、ウイルス遺伝子の宿主への取り込みを抑制することで、特開2007−16044号公報に開示されているペプチドは、レトロウイルスのインテグラーゼを阻害することで、それぞれIV「ウイルスゲノムやウイルスタンパク質などのウイルス部品の合成」ステップを攻撃する(特許文献1および特許文献2)。
【0005】
一方、インフルエンザは、代表的なウイルス感染症として知られている。インフルエンザの治療剤、インフルエンザウイルス感染予防・阻害剤としては、例えば、インフルエンザ表面に存在する酵素ノイラミニダーゼの働きを阻害することによりVI「細胞からの放出」ステップを攻撃するオセルタミビル(商品名タミフル;ロシュ社)やザナミビル(商品名リレンザ;グラクソ・スミスクライン社)の他、インフルエンザウイルスのM2タンパク質を阻害することによりIII「脱殻」ステップを攻撃するアマンタジン(商品名シンメトレル;ノバルティスファーマ社)を挙げることができる。また、国際公開WO2007/105565号パンフレットには、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに親和性の高いペプチドが開示されており、I「細胞表面への吸着」およびII「細胞内への侵入」ステップを対象としている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−253188号公報
【特許文献2】特開2007−16044号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/105565号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたウイルス感染予防・阻害剤は、外来遺伝子の分解を促進することが示されているものの、実際のウイルス感染を阻害するか否かは確かめられておらず、ウイルス感染阻害効果は不明である。また、ワクチン、レトロウイルス感染阻害剤(特許文献2)、オセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、インフルエンザ予防・治療剤(特許文献3)は、いずれもウイルス本体に由来するタンパク質を標的としているため、亜型への効果が期待できず、また、変異体の出現により耐性獲得が生じやすいという問題点を抱えている。例えば、現在日本で使用されている季節性インフルエンザに対するワクチンは、先行するオーストラリアでの流行株の情報に基づき、日本で流行すると予想された株に対するワクチンが作製されるため、毎年不安定であるうえ、この予測が外れた場合や変異体が生じた場合には、対応が困難となる。
【0008】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、亜型や変異体の出現などのウイルス側の変化に影響されることなくウイルスの感染を抑制することができる、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤、およびエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスのウイルス感染抑制剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、宿主細胞側の因子であるrat sarcoma(Ras)タンパク質とPhosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とが複合体を形成し、エンドソーム上に存在することで、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによってウイルスが感染すること、および、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質との複合体の形成を阻害することにより、あるいはこれらが形成する複合体がエンドソーム上に存在することを抑制することにより、あるいはまたPI3Kタンパク質の活性を抑制することにより、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制できることを見出し、さらに、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスとクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)とを抑制することにより、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制できることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質に結合可能なrat sarcoma(Ras)タンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)と対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程とを有する、前記方法。
【0011】
(2)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(1)に記載の方法。
【0012】
(3)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(1)または(2)に記載の方法。
【0013】
(4)蛍光共鳴エネルギー移動を観測する方法を用いる、(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(5)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程と、前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程とを有する、前記方法;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド。
【0015】
(6)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(5)に記載の方法。
【0016】
(7)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(5)または(6)に記載の方法。
【0017】
(8)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0018】
(9)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(8)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0019】
(10)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、(8)または(9)に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0020】
(11)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(8)から(10)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0021】
(12)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【0022】
(13)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(12)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0023】
(14)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(12)または(13)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0024】
(15)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0025】
(16)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(15)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0026】
(17)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(15)または(16)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【0027】
(18)エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【0028】
(19)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、(18)に記載のウイルス感染抑制剤。
【0029】
(20)クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質が、下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上の物質および/またはポリペプチドである、(18)に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質、
(ii)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iv)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(v)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(vi)PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質。
【0030】
(21)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項20に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0031】
(22)ウイルスがインフルエンザウイルスである、(18)から(21)のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る方法によれば、亜型や変異体の出現などのウイルス側の変化に影響されることなく、広範囲のウイルス株に対して長期的に感染を抑制することができる物質をスクリーニングすることができる。また、本発明に係るウイルス感染抑制剤によれば、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスおよび/またはエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】エンドサイトーシスの経路を説明する図である。
【図2】蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer;FRET)を用いてRasタンパク質とPI3Kタンパク質またはそのRBDとの結合を確認する場合の模式図である。
【図3】pCAGGS−EGFP−H−RasG12V(6170bp)の制限酵素地図である。
【図4】pCXN2−Flag−H−RasG12V(6791bp)の制限酵素地図である。
【図5a】H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体、H−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの複合体、およびH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所をVenusタンパク質の蛍光(緑色)により観察し、early endosome−associated antigen 1(EEA1)の細胞内における存在箇所をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である。
【図5b】PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、1細胞における緑、赤および黄の各色の顆粒数の平均値を示すグラフである。
【図6】PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、EGFを添加しない場合およびEGFを添加した場合の、1細胞における「黄色の顆粒数/赤色の顆粒数」の平均値を示すグラフである。
【図7】pIRM21−3HA(8069bp)の制限酵素地図である。
【図8a】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度をデキストランの取り込み量に換算して表したグラフである。
【図8b】野生型MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度をトランスフェリンの取り込み量に換算して表したグラフである。
【図9a】野生型MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群について、FuGene HD Transfection ReagentおよびNucleofectorをそれぞれ用いて導入したECFP遺伝子の発現が見られる細胞数の割合を示す図である。
【図9b】野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群について、FuGene HD Transfection Reagent、Nucleofector、レンチウイルスHIVおよびレトロウイルスMSCVをそれぞれ用いて導入したECFP遺伝子の発現が見られる細胞数の割合を示す図である。
【図10】PI3KCGタンパク質およびK251Eタンパク質の細胞内における存在箇所をそれぞれAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察し、H−Rasタンパク質の細胞内における存在箇所をEGFPの蛍光(緑色)により観察し、EEA1の細胞内における存在箇所をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である。
【図11a】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群に、PR8ウイルスを接種した場合のウイルス感染率を示す図である。図中、右側のシャーレの写真はプラークアッセイを行って出現したプラークを示す。
【図11b】野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群にAichiウイルスを接種した場合のウイルス感染率を示す図である。
【図12a】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、近隣結合法により作成した系統樹を示す図である。
【図12b】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、Clustal Wにより作成したアラインメントを示す図である。図中、PI3KCGタンパク質のRBDに特徴的なN末端側の28アミノ酸を囲んで示す。
【図12c】PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、アラインメント作成結果に基づき、配列の保存性について視覚的に表現した図である。
【図13】H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所を、EGF刺激前後について、Venusタンパク質の蛍光(緑色)により観察した結果を示す図である。
【図14】pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBD(5918bp)の制限酵素地図である。
【図15】pCAGGS−Venus−N28(5675bp)の制限酵素地図である。
【図16】pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBD(5261bp)の制限酵素地図である。
【図17】pCAGGS−3HA−N28(5083bp)の制限酵素地図である。
【図18】N28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、デキストランを取り込ませたMDCK細胞において、デキストランをAlexaFluor488の蛍光(緑色)により観察し、N28ポリペプチドの発現をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察した結果を示す図である(上図)。また、24個のMDCK細胞について、AlexaFluor647の蛍光強度およびAlexaFluor488の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(下図)。
【図19】N28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞において、N28ポリペプチドの発現をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により観察し、PR8ウイルス核タンパク質をAlexaFluor488の蛍光(緑色)により観察した結果を示す図である。
【図20】pCAGGS−ECFP−H−RasG12V(6170bp)の制限酵素地図である。
【図21】ECFPで標識したN28ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(N28群)およびECFPのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)において、導入したcDNAの発現をECFPの蛍光(青色)により観察し、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である(左図)。また、各群の120個のMDCK細胞について、ECFPの蛍光強度およびAlexaFluor594の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(右図)。
【図22】ECFPで標識したN11ポリペプチドのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(N11群)およびECFPのcDNAが挿入されたベクターを導入した後、PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)において、導入したcDNAの発現をECFPの蛍光(青色)により観察し、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により観察した結果を示す図である(上図)。また、各群の90個のMDCK細胞について、ECFPの蛍光強度およびAlexaFluor594の蛍光強度をそれぞれ測定した結果を示すグラフである(下図)。
【図23】PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)、LY294002を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY294002群)、モノダンシルカダベリン(MDC)を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(MDC群)、LY294002とMDCとを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY+MDC群)、およびオセルタミビルを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(オセルタミビル群)の、それぞれのウイルス感染率を示すグラフである。
【図24】pCAGGS−Venus−CLCa(6245bp)の制限酵素地図である。
【図25】PR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(コントロール群)、LY294002を添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY294002群)、MDCを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(MDC群)およびLY294002とMDCとを添加してPR8ウイルスを接種したMDCK細胞群(LY+MDC群)における、PR8ウイルスのウイルス核タンパク質をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により、Rab5タンパク質をECFPの蛍光(青色)により、Rab7タンパク質をECFPの蛍光(青色)により、CLCaタンパク質をVenusタンパク質の蛍光(緑色)によりそれぞれ検出した結果を示す図(左図)および各群における「ECFPの蛍光(青色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒数/AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒数(b/a)」と「Venusタンパク質の蛍光(緑色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒数/AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒数(c/a)」を示すグラフ(右図)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染抑制剤について詳細に説明する。本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(i)PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域であるRBDと対象物質とを共存させる工程(Ras−PI3K/RBD共存工程)、
(ii)対象物質がRasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)、
以上(i)および(ii)の工程を有する。
【0035】
すなわち、前記ウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合することにより、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づいており、その複合体の形成を阻害する物質、すなわち前記ウイルスの感染を抑制する物質をスクリーニングする方法である。
【0036】
エンドサイトーシスとは、一般に、細胞が外界からの物質を細胞膜の小胞化と融合により内部に取り込む方式の総称である。エンドサイトーシスは、取り込む物質の種類や大きさ、関与する細胞装置の違いにより、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)などに分類されている(図1;Marshら、Cell、第134巻、第729頁、2009年)。
【0037】
また、エンドサイトーシスは、細胞膜に存在する受容体タンパク質への刺激により生じるか否かにより、受容体依存性エンドサイトーシスおよび受容体非依存性エンドサイトーシスにも分類可能である。この場合、前者には前記の分類でいうクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)やカベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar dependent endocytosis)などに相当するエンドサイトーシスが含まれ、後者には前記の分類でいうクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)やマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)に相当する、食作用(ファゴサイトーシス)や飲作用(ピノサイトーシス)などが含まれる。
【0038】
すなわち、本発明において「エンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能なウイルス、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)により感染可能なウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能なウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能なウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能なウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能なウイルスが包含される。
【0039】
対象となる、エンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、シミアン−ウイルス40、ワクシニアウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヘルペスウイルス、エボラウイルス、ポリオウイルス、Coxsackievirus type B(CVB)、イネ萎縮ウイルス、C型肝炎ウイルスなどを挙げることができる。
【0040】
また、本発明において「クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)によって専ら感染するウイルスを除いた、エンドサイトーシスによって感染可能な(感染性を有する)ウイルス、すなわちクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルスが包含される。
【0041】
また、対象となる、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスとしては、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルス、ダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)により感染可能な(感染性を有する)ウイルスを挙げることができる。好ましくは、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)により感染可能なウイルスを挙げることができ、そのようなウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、HIVウイルス、コロナウイルス、シミアン−ウイルス40、ワクシニアウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどを挙げることができる。
【0042】
ウイルスが細胞内へ侵入する際、一般的に、エンベロープを持つウイルスは膜融合を利用し、アデノウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスはエンドサイトーシスを利用する場合が多いが、エンベロープを持つウイルスのうち、インフルエンザウイルスなどは、エンドサイトーシスにより感染可能であることが知られている。すなわち、本発明における「エンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」または「クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルス」には、膜融合により感染可能な(感染性を有する)ウイルスであっても、それぞれ、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスまたはクラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能な(感染性を有する)ウイルスであれば包含される。
【0043】
本発明において、感染を抑制するか否かは、J.Biol.Chem.、第276巻 、第10990頁、2001年や、Nature Cell Biol.、第3巻、第301頁、2001年、あるいはPLoS.Pathogens、第5巻、第3号、第e1000350頁、2009年などに従い、感染率を算出することにより評価することができる他、例えば、ウイルス株の感染価を指標として評価することができる。感染価とは、一般的に感染性の微生物を含む検体を培養細胞に等量ずつ接種した時、感染率50%を与えるようなその検体の量をいい、「TCID50(tissue culture infective dose)」で表される。
【0044】
なお、本発明において「感染を抑制する」は、「感染を予防する」、「感染を阻止する」、「感染を阻害する」と交換可能に用いられる。また、「活性を抑制する」という場合は、「活性を阻害する」と交換可能に用いられる。
【0045】
工程(i)(Ras−PI3K/RBD共存工程)における、PI3Kタンパク質に結合可能なRasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを共存させる方法は、当業者によって適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、Rasタンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質との溶液を調製することにより共存させる方法や、Rasタンパク質を固定した担体を、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質とを含む溶液に浸漬することにより共存させる方法などを挙げることができる。また、Rasタンパク質、PI3Kタンパク質またはそのRBDと対象物質は、必要に応じて、担体に結合させ、あるいは標識物質で標識することができる。そのような担体としては、例えば、マイクロプレートなどのプレート、試験管、チューブ、ビーズ、ボール、フィルター、メンブレン、セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体、多孔性シリカ系担体などの不溶性担体、ウシ血清アルブミン(BSA)、グルタチオン−s−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質(MBP)などの可溶性タンパク質担体をはじめとする生物学的担体などを挙げることができ、担体への結合は、その種類に応じて、当業者が適宜選択可能な方法を用いることができる。また、使用可能な標識物質としては、例えば、着色粒子、酵素、蛍光物質、アイソトープなどを挙げることができる。
【0046】
工程(ii)(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)における、「Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの『結合』」とは、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとが、水素結合、イオン結合、疎水結合、ファンデルワールス結合により非共有的に結合することをいう。
【0047】
工程(ii)(Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程)における、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合を確認する方法は、当業者によって適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、共免疫沈降法、カラムまたはビーズを用いたプルダウン法、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、BIACORE、蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer;FRET)を用いた方法などのインビトロアッセイを挙げることができる。
【0048】
FRETとは、近接した2個の蛍光物質の間で、励起エネルギーが電磁波ではなく電子の共鳴により直接移動する現象であり、一方の分子(供与体)で吸収された光のエネルギーによって他方の分子(受容体)から蛍光が放射される現象をいう。すなわち、2個の蛍光物質が近接している場合は、供与体の吸収スペクトルに相当する光で励起すると、供与体ではなく受容体の発光スペクトルに従う蛍光が現れる。
【0049】
Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合を確認する方法としてFRETを用いる場合、例えば、図2上段に示すように、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDに、それぞれ二つの異なる蛍光タンパク質をつなぎ、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの結合により観察されるFRETの蛍光が、対象物質を共存させた場合に減ずるか否かを確認することにより行うことができる。また、図2下段に示すように、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDをつなげて一つのポリペプチドとし、それぞれのドメインに二つの異なる蛍光タンパク質をつないでもよい。この場合は、Rasタンパク質ドメインとPI3Kタンパク質ドメインまたはRBDドメインとの結合により観察されるFRETの蛍光が、対象物質を共存させた場合に減ずるか否かを確認すればよい。なお、本発明におけるFRETで用いることができる蛍光タンパク質として、青緑色蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein;CFP)および黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein;YFP)を挙げることができる。
【0050】
また、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法の異なる態様は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(i)下記(a)〜(d)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程(ポリペプチド共存工程)、
(a)配列番号28のアミノ酸配列
(b)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体PI3Kタンパク質をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド
(c)配列番号40のアミノ酸配列
(d)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体PI3Kタンパク質をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド
(ii)前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程(ポリペプチド結合能評価工程)
以上(i)および(ii)の工程を有する。
【0051】
すなわち、前記異なる態様に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合し、RBDのアミノ(N)末端ポリペプチドによって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づいており、前記(a)〜(d)から選択される1または2以上のポリペプチドと結合可能であって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することを阻害する物質、すなわち前記ウイルスの感染を抑制する物質をスクリーニングする方法である。
【0052】
ここで、本発明においてポリペプチドとは、2以上のアミノ酸がペプチド結合により結合してなる化合物のことをいい、構成するアミノ酸数は特に限定されず、例えば、2アミノ酸からなるジペプチド、3アミノ酸からなるトリペプチド、4アミノ酸からなるテトラペプチド、10程度のアミノ酸からなるオリゴペプチド、20以上のアミノ酸からなるペプチドやタンパク質が包含される。
【0053】
また、本発明において、「1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」というときの、欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の個数は、配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制する限り、配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、Rasタンパク質に結合する限り特に限定されないが、例えば1〜27個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、よりさらに好ましくは1〜5個の任意の個数を挙げることができる。なお、同一あるいは性質の似たアミノ酸配列に相当するのであれば、さらに多くのアミノ酸が置換、挿入、および/または付加されてもよい。
【0054】
すなわち、配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質のRBDのN末端側1〜28番目のアミノ酸から構成されるポリペプチドであるN28ポリペプチドまたはPI3Kタンパク質のRBDのN末端側9〜19番目のアミノ酸から構成されるポリペプチドであるN11ポリペプチドと、それぞれ高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチドが含まれる。また、配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列については、PI3Kタンパク質のRBD、N28ポリペプチドを欠くPI3Kタンパク質のRBD、またはN11ポリペプチドを欠くPI3Kタンパク質のRBDと、それぞれ高い同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質に結合するポリペプチドが含まれる。また、ここにいう「高い同一性」とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0055】
本発明に係る配列番号28または配列番号40(配列番号39)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドには、PI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させ、PI3Kタンパク質の一部を構成しない場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制する機能を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるペプチドが包含され、また、本発明に係る配列番号13、配列番号30または配列番号56(配列番号55)において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドには、Rasタンパク質に結合する機能を有する限り、これらアミノ酸配列の1または複数の保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるペプチドが包含される。
【0056】
本発明において、保存的アミノ酸置換とは、生じる分子の生理学的活性を変化させることなく一般的になされ得る範囲、すなわち保存的置換の範囲で認められるもの(Watsonら,Molecular Biology of Geneなど)であり、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンおよびトリプトファンの非極性アミノ酸;グリシン、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンの極性無電荷側鎖アミノ酸;フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンの芳香族アミノ酸といった側鎖に類似性のあるアミノ酸同士(アミノ酸のファミリー内部)で起こる置換を挙げることができる。同様に、アスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸;リシン、アルギニンおよびヒスチジンの塩基性アミノ酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリンおよびトレオニンの脂肪族アミノ酸(セリンおよびトレオニンの脂肪族−ヒドロキシアミノ酸と分類することもできる);フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンの芳香族アミノ酸;アスパラギンおよびグルタミンのアミド);システインおよびメチオニンの含硫アミノ酸といった分類をすることができる。
【0057】
本発明に係るポリペプチドがPI3Kタンパク質の一部を構成する場合、PI3Kタンパク質のアミノ酸配列において本発明に係るポリペプチドが構成する部位は、PI3Kタンパク質のRBD、RBD以外の部位のいずれでもよいが、RBDが好ましく、RBDのN末端付近がより好ましく、RBDのN末端から数えて1〜28番目で構成されるポリペプチドがさらに好ましく、RBDのN末端から数えて5〜24番目で構成されるがよりさらに好ましく、RBDのN末端から数えて9〜19番目が最も好ましい。
【0058】
工程(i)(ポリペプチド共存工程)における、前記(a)〜(d)のポリペプチドと対象物質とを共存させる方法としては、前記Ras−PI3K/RBD共存工程における方法と同様の方法を挙げることができる。
【0059】
工程(ii)(ポリペプチド結合能評価工程)における、「前記ポリペプチドと対象物質との結合」とは、前記Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程における「Rasタンパク質とPI3Kタンパク質またはRBDとの『結合』」と同様、前記ポリペプチドと対象物質とが、水素結合、イオン結合、疎水結合、ファンデルワールス結合により非共有的に結合することをいい、前記ポリペプチドと対象物質との結合を確認する方法としては、前記Ras−PI3K/RBD結合阻害能評価工程における方法と同様の方法を挙げることができる。
【0060】
なお、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法には、その特徴を損なわない限りにおいて、他の工程を有してもよく、例えば、インキュベート工程や洗浄工程などを有してもよい。
【0061】
本発明に係るウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする。
【0062】
すなわち、前記ウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合することにより、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づき、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とするアンタゴニストである。
【0063】
PI3Kタンパク質とRasタンパク質との結合を阻害する物質としては、下記(e)から(j)のポリペプチドの他、本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法によってスクリーニングされた物質を挙げることができる;
(e)PI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(f)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド
(g)N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(h)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、(i)N11ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDと同一のポリペプチドである配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(j)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【0064】
前記(e)から(j)のポリペプチドを有効成分とする場合、これらがPI3Kタンパク質と拮抗してRasタンパク質と結合することにより、PI3Kタンパク質とRasタンパク質との複合体の形成を阻害することができる。
【0065】
本発明に係る異なる第二の態様のウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(k)〜(n)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする;
(k)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(l)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド
(m)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(n)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【0066】
すなわち、前記異なる第二の態様に係るウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質のRBDとこれに結合可能なRasタンパク質とが結合し、RBDのN末端ポリペプチドによって、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)することとなり、その結果、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりウイルスが感染するという知見に基づき、RBDのN末端ポリペプチドと同一のポリペプチドである前記(k)および/または前記(m)、もしくは前記(k)および・または前記(m)とそれぞれ高い相同性を有する前記(l)および/または前記(n)の各ポリペプチドから選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とするものであり、これらのポリペプチドは、前記複合体がエンドソーム上に存在(局在)するのを抑制する。
【0067】
また、これらのポリペプチドは、Rasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在(局在)するのを抑制する限り、細胞内への移行を促進することが知られているポリリジン等の配列が付加されていてもよい。
【0068】
本発明におけるポリペプチドは、その配列を基にして、当業者によって適宜選択可能な方法を用いて合成することができる。そのような方法としては、例えば、アミノ酸1つ1つを化学的に重合してポリペプチドを合成するペプチド合成法の他、本発明におけるポリペプチドに相当するcDNAが挿入された組換えベクターを作製し、作製したベクターを適切な宿主細胞中に導入して得られる形質転換体を培地にて培養し、得られた培養物から採取する方法や、本発明におけるポリペプチドに相当するcDNAを無細胞タンパク質合成系で発現させて得る方法などを挙げることができる。
【0069】
本発明に係る異なる第三の態様のウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする。
【0070】
すなわち、前記異なる第三の態様に係るウイルス感染抑制剤は、PI3Kタンパク質とRasタンパク質とが複合体を形成している場合であっても、PI3Kタンパク質の活性を抑制することにより、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスが阻害されるという知見に基づき、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分としている。
【0071】
PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質としては、例えば、LY294002[2−(4−morpholinyl)−8−phenyl−4H−1−benzopyran−4−one]、Wortmannin、ZSTK474[2−(2−difluoromethylbenzimidazol−1−yl)−4,6−dimorpholino−1,3,5−triazine](Yaguchiら、J.Natl.Cancer Inst.第98巻、第545−556頁、2006年)、Quercetin[3,3’,4’,5,7−Pentahydroxyflavone](W.F.Matterら、Biochem.Biophys.Res.Commun.第186巻、第624−631頁、1992年)などのPI3K阻害剤を挙げることができる。なお、本実施例においては、好適なPI3Kタンパク質の活性を抑制する物質として、LY294002を用いている。
【0072】
本発明に係る異なる第四の態様のウイルス感染抑制剤は、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする。
【0073】
すなわち、前記異なる第四の態様に係るウイルス感染抑制剤は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスとクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)とを抑制することにより、エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染が顕著に抑制されるという知見に基づき、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)を抑制する物質とを有効成分としている。
【0074】
本発明において、エンドサイトーシスを抑制するとは、エンドサイトーシスの一連の過程のうちの1または2以上のステップを抑制することをいう。エンドサイトーシスには、外界からの物質を内部に含む小胞の形成、小胞とライソゾームやゴルジ体、カベオソーム、小胞体などの細胞小器官との融合、あるいは外界からの物質の消化・分解の一連の過程があり、この過程には、例えば、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−mediated endocytosis)であれば、リガンドの受容体への結合、細胞膜の陥入、リガンドの初期エンドソームへの取り込み、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟、後期エンドソームとリソソームとの合体、後期エンドソームとゴルジ体からの小胞との合体などのステップがあり、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)やマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)であれば、それぞれ細胞膜の陥入や葉状仮足からのマクロピノソームの形成、リガンドの初期エンドソームへの取り込み、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟、後期エンドソームとリソソームとの合体、後期エンドソームとゴルジ体からの小胞との合体などのステップがある。
【0075】
本発明に係るエンドサイトーシスを抑制する物質は、エンドサイトーシスの一連の過程に含まれるステップうち1または2以上のステップを抑制することにより、エンドサイトーシスを抑制する物質である。
【0076】
本発明において、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質は、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうち、いずれか一つの経路、例えば、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)のみ、マクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)のみ、カベオラ依存性エンドサイトーシス(Caveolar−dependent endocytosis)のみ、コレステロール依存性エンドサイトーシス(Cholesterol−dependent endocytosis)のみ、またはダイナミン−2依存性エンドサイトーシス(Dynamin−2−dependent endocytosis)のみを抑制するものでもよく、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうちの2以上の経路を抑制するものでもよいが、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)を抑制する物質が好ましい。
【0077】
本発明において、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質としては、例えば、サイトカラシンB、5−(N−ethyl−N−isopropyl)amirolide(EIPA)、アミロリドなどを挙げることができる他、本発明に係るクラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤を用いることができる。
【0078】
本発明において、クラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質としては、例えば、モノダンシルカダベリン(MDC)、ショ糖、クロロプロマジン(CPZ)、メチル−β−Cydなどを挙げることができる。なお、本実施例においては、好適なクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質として、MDCを用いている。
【0079】
本発明に係るウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法により得られるウイルスの感染を抑制する物質やウイルス感染抑制剤の製剤化には、当業者に公知の方法を用いることができる。投与形態もまた、当業者によって適宜選択することができる投与形態でよく、そのような投与形態としては、例えば、経口投与製剤として調製する場合の、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤などの形態を挙げることができ、非経口投与製剤にする場合の、吸入剤、注射剤、点滴剤、座薬、塗布剤、噴霧剤、貼付剤などの形態を挙げることができる。また、その投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定することができる。
【0080】
以下、本発明に係るウイルスの感染を阻害する物質のスクリーニング方法およびウイルス感染阻害剤について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0081】
<実施例1>H−Rasタンパク質とPI3KCG−RBDタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の確認
H−rat sarcoma(H−Ras)タンパク質とPhosphoinositide 3−kinase(PI3K)触媒サブユニットγ(CG)タンパク質のRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)との複合体を、Bimolecular Fluorescence Complementation(BiFC)法により可視化し、また、初期エンドソームマーカーであるearly endosome−associated antigen 1(EEA1)タンパク質を免疫抗体染色により可視化して、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所を確認した。H−Rasは、活性化型変異H−RasであるH−RasG12Vを用いた。H−RasG12V(配列番号3)は、H−Ras(配列番号1)の35番目のグアニンをチミンに、36番目のシトシンをアデニンに置換したものであり、それ故、H−RasG12Vタンパク質(配列番号4)は、H−Rasタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)の12番目であるグリシンがバリンに置換されており、H−RasG12Vタンパク質は、GTP結合型である活性化H−Rasタンパク質の状態を恒常的に維持している(Lowy D.R.ら、Annu.Rev.Biochem.、第62巻、第851−891頁、1993年)。また、H−Rasタンパク質と、生体内においてRasタンパク質に結合することが知られている因子であるc−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質の、それぞれのRBDとの複合体の細胞内における存在箇所も同時に確認し、H−Rasタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所と比較した。
【0082】
(1)ベクターの調製
以下、XhoI/NotIサイトにH−RasG12Vが挿入され、かつEcoRI/XhoIサイトに強化緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein;EGFP)のcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−EGFP−H−RasG12Vは、京都大学の松田道行氏から供与されたものを用いた。このベクターの制限酵素地図を図3に示す。また、XhoI/NotIサイトにH−RasG12Vが挿入されたベクターpCXN2−Flag−H−RasG12Vは、京都大学の松田道行氏から供与されたものを用いた。このベクターの制限酵素地図を図4に示す。さらに、蛍光タンパク質であるVenusタンパク質のcDNA(Venus;配列番号5)は、理化学研究所の宮脇敦史氏から供与されたものを用いた。
【0083】
Venusを鋳型として、Expand High Fidelity PCR System(ロシュ社)を用いてPCRを行い、Venusの1〜516番目(VN配列;配列番号6)および517〜714番目(VC配列;配列番号7)を、それぞれ増幅して単離した。PCRに用いたプライマー、PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は下記のとおりである。
【0084】
VN配列の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号8)
リバースプライマー ;5’−GGCTCGAGGATGTTGTGGCGGATCTTGA−3’(配列番号9)
VC配列の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CCGCGGCCGCGAGGACGGCGGCGTGCAGCT−3’(配列番号10)
リバースプライマー ;5’−GGAGATCTTCACTACAGCTCGTCCATGCCG−3’(配列番号11)
PCR反応溶液組成;dNTP 200μmol/L、フォワードプライマー 300nmol/L、リバースプライマー 300nmol/L、鋳型DNA 100ng、MgCl2 1.5mmol/L、1×Expand High Fidelity Reaction buffer、Expand High Fidelity Enzyme mix 52U/mL
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で30秒の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0085】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。VN配列のPCR産物は、制限酵素EcoRIおよびXhoIで消化した後、前記ベクターpCAGGS−EGFP−H−RasG12VのEcoRI/XhoIサイトに、EGFPのcDNAに代えて挿入し、pCAGGS−VN−H−RasG12Vを得た。また、VC配列のPCR産物は、制限酵素NotIおよびBglIIで消化した後、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12VのNotI/BglIIサイトに挿入し、pCXN2−Flag−H−RasG12V−VCを得た。
【0086】
続いて、The Babraham InstituteのL.Stephen氏から供与されたPI3KCGタンパク質のRBD(配列番号13)のcDNA(配列番号12)、北里大学の服部成介氏から供与されたc−Raf1タンパク質のRBD(配列番号15)のcDNA(配列番号14)および内皮細胞cDNAライブラリーから単離したRalGDSタンパク質のRBD(配列番号17)のcDNA(配列番号16)を、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12V−VCのXhoI/NotIサイトに、H−RasG12Vに代えてそれぞれ挿入し、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC、pCXN2−Flag−c−Raf1−RBD−VCおよびpCXN2−Flag−RalGDS−RBD−VCの各ベクターを得た。
【0087】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
アフリカミドリザル腎由来のCos1細胞群(American Type Culture Collection;ATCC;受託番号CRL−1650)を3群に分け、PI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群とした。FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、付属の使用書に従い、各群に本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入した。その組み合わせは次のとおりである。
【0088】
導入したベクターの組み合わせ
PI3KCG群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC
c−Raf1群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−c−Raf1−RBD−VC
RalGDS群;pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−RalGDS−RBD−VC
【0089】
その後、胎児牛血清(FBS;Cansera社)を10%(v/v)含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM培地;シグマ社)で、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて24時間培養した。
【0090】
(3)免疫蛍光染色
本実施例(2)のPI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群を、パラホルムアルデヒドを3%含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて室温で15分間固定した後、PBSで洗浄した。続いて、TritonX−100を0.1%含むPBSを用いて室温で4分間透過処理した後、PBSで洗浄した。ウシ血清アルブミン(BSA)を1%含むPBSを用いて室温にて30分間ブロッキングを行った後、PBSにTritonX−100およびBSAをそれぞれ0.05%および0.1%となるよう添加して調製したPBTで洗浄した。続いて、抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)をPBSで1000倍希釈した溶液に4℃にて一晩曝して、一次抗体による抗原抗体反応を行った後、PBSで洗浄した。次に、AlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)をPBSで200倍希釈した溶液に室温にて1時間曝して、二次抗体による抗原抗体反応を行った後、PBSで洗浄した。
【0091】
(4)蛍光顕微鏡による観察
本実施例(3)のPI3KCG群、c−Raf1群およびRalGDS群について、Venusタンパク質の蛍光(緑色)およびAlexaFluor594の蛍光(赤色)を、共焦点レーザー顕微鏡FV‐1000(オリンパス社)を用いて、既報に従い観察した{Ohba Y.ら、EMBO.J.第22巻、第4号、第859−869頁、2003年}。すなわち、PI3KCG群においてはH−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの、c−Raf1群においてはH−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの、RalGDS群においてはH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの、それぞれの複合体をVenusタンパク質の蛍光(緑色)により検出し、EEA1をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図5aに示す。また、画像処理ソフトウェアMetamorph(Universal Imaging Corporation)を用いて、各群の10個から20個の細胞について、1細胞毎に、Venusタンパク質の蛍光を示す顆粒(緑色の顆粒)、AlexaFluor594の蛍光を示す顆粒(赤色の顆粒)、およびVenusタンパク質の蛍光とAlexaFluor594の蛍光の重複を示す顆粒(黄色の顆粒)の数をそれぞれ数え、1細胞における各色の顆粒数の平均値と標準偏差を求めてグラフに表した。その結果を図5bに示す。
【0092】
図5aに示すように、PI3KCG群では、緑色の蛍光を示す箇所と、赤色の蛍光を示す箇所の多くが重複しているため、緑色と赤色との混色による黄色の蛍光が多く見られた。一方、c−Raf1群およびRalGDS群では、緑色の蛍光を示す箇所と、赤色の蛍光を示す箇所の重複が少ないため、緑色と赤色との混色による黄色の蛍光はほとんど見られなかった。また、図5bに示すように、緑色、赤色および黄色の顆粒の数をそれぞれ数えた結果も同様で、PI3KCG群では、緑色の顆粒数および赤色の顆粒数と比較して黄色の顆粒数が多かったが、c−Raf1群およびRalGDS群では、緑色の顆粒数および赤色の顆粒数と比較して黄色の顆粒数は少なかった。
【0093】
以上より、H−RasG12Vタンパク質とc−Raf1タンパク質のRBDとの複合体およびH−RasG12Vタンパク質とRalGDSタンパク質のRBDとの複合体は初期エンドソームにほとんど存在しない一方で、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体は初期エンドソームに存在することが明らかになった。
【0094】
<実施例2>EGF刺激によるH−Rasタンパク質とPI3KCG−RBDタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の変化の確認
上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor;EGF)の刺激により、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体の細胞内における存在箇所が変化するか否かを確認した。
【0095】
まず、実施例1(1)に記載の方法によりベクターを調製し、実施例1(2)に記載の方法によりCos1細胞群にベクターを導入した後、24時間培養した。
【0096】
その後、各群をそれぞれさらに2つに分け、そのうち一方の培地にEGFを100ng/mLとなるよう添加して、20分間培養した。
【0097】
続いて、実施例1(3)に記載の方法により免疫蛍光染色を行った。その後、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行い、各群の10個から20個の細胞について、黄色の顆粒数および赤色の顆粒数を数えて、1細胞における「黄色の顆粒数/赤色の顆粒数」を算出し、その平均値と標準偏差を求めた。その結果を図6に示す。
【0098】
図6に示すように、PI3KCG群では、EGFを添加した場合はEGFを添加しない場合と比較して、黄色の顆粒数の割合が顕著に増加した。一方、c−Raf1群およびRalGDS群では、EGFを添加した場合はEGFを添加しない場合と比較して、黄色の顆粒数の割合はほとんど変わらなかった。
【0099】
以上より、EGFにより刺激をすると、H−RasG12Vタンパク質とPI3KCGタンパク質のRBDとの複合体がエンドソームに存在するようになることが明らかになった。
【0100】
<実施例3>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞におけるエンドサイトーシス機能の確認
主にクラスリン依存性エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られているトランスフェリンと、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスのうち、主にクラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られている分子量10000のデキストランとを、PI3KCGタンパク質を欠く細胞およびRasタンパク質に結合しない変異PI3KCGタンパク質(K251Eタンパク質;配列番号19)を発現する細胞に取り込ませ、それらの取り込み量を調べた。K251Eタンパク質のcDNA配列(K251E;配列番号18)では、PI3KCGタンパク質のcDNA配列(PI3KCG;配列番号20)の751番目のアデニンがグアニンに置換されており、これによりK251Eタンパク質ではPI3KCGタンパク質(配列番号21)のアミノ酸配列の251番目のリジンがグルタミン酸に置換されている。その結果、K251Eタンパク質はRasタンパク質に結合しないことが確認されている{Pacold M.E.ら、Cell、第103巻、第6号、第931−943頁、2000年}。
【0101】
(1)野生型MEF細胞群およびLY294002を培地に添加して培養した野生型MEF細胞群(LY294002添加MEF細胞群)の調製
野生型マウス(C57BL/6N Jcl;日本クレア社)からマウス胎児繊維芽(Mouse embryonic fibroblast;MEF)細胞群を既報に従って調製し{Sasakiら、Science、第287巻、第5455号、第1040−1046頁、2000年}、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。続いて、この細胞群を2群に分け、そのうち一方は野生型MEF細胞群とした。残りの一方は、全てのクラスのPI3Kタンパク質活性阻害剤であるLY294002(Calbiochem社)を50μmol/Lとなるよう培地に添加して1時間培養し、LY294002添加MEF細胞群とした。
【0102】
(2)PI3KCG欠損MEF細胞群の調製
C57BL/6N JclバックグラウンドのPIK3CG欠損マウスからPI3KCGを欠くMEF細胞群を既報に従って調製し{Sasakiら、Science、第287巻、第5455号、第1040−1046頁、2000年}、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。
【0103】
(3)PI3KCG導入MEF細胞群の調製
[3−1]ベクターの調製
京都大学の松田道行氏から供与された、ヘマグルチニン(HA)のcDNAが3コピー挿入されたベクターpIRM21−3HAの制限酵素地図を図7に示す。The Babraham InstituteのL.Stephen氏から供与されたPI3KCGを鋳型としてPCRを行い、PI3KCGを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0104】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGAGCTGGAGAACTATAA−3’(配列番号22)
リバースプライマー ;5’−CCGGGCCCTCAGCTAGTTAGCGGCCGCCGGCTGAATGTTTCTCTC−3’(配列番号23)
【0105】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、pIRM21−3HAのXhoI/NotIサイトに挿入し、pIRM21−3HA−PI3KCGを得た。続いて、これを制限酵素SalIおよびNotIで消化し、プロモーター領域、3HAおよびPIK3CGを含むDNA断片を得た後、実施例1(1)に記載の方法により調製したpCXN2−Flag−H−RasG12VのSalI/NotIサイトに、FlagおよびH−RasG12Vを含むDNA断片に代えて挿入し、pCXN2−3HA−PIK3CGを得た。
【0106】
[3−2] PI3KCG欠損MEF細胞群へのベクターの導入
本実施例(3)[3−1]で調製したpCXN2−3HA−PI3KCGをScaIで消化した後、Nucleofector(amaxa社)を用いて、付属の使用書に従い、本実施例(2)で調製したPI3KCG欠損MEF細胞に導入した。
【0107】
その後、実施例1(2)に記載の環境下で2日間培養した後、培地にG418二硫酸塩(シグマ社)を0.5mg/mLとなるよう添加してさらに培養し、耐性細胞を得た。続いて、得られた耐性細胞について、常法に従いウェスタンブロットを行ってPI3KCGタンパク質の発現の有無を確認し、PI3KCGタンパク質を安定して発現している細胞を選択し、G418二硫酸塩(シグマ社)を0.2mg/mL含むDMEM培地で培養した。
【0108】
(4)K251E導入MEF細胞群の調製
[4−1]ベクターの調製
PI3KCGの751番目のアデニンをグアニンに置換した部分を含む22塩基のフォワードプライマーおよびリバースプライマーを設計した。これらのプライマーをそれぞれ用いて、本実施例(3)のPI3KCGを鋳型として1回目のPCRを行い、K251Eの1〜762番目およびK251Eの740〜3309番目をそれぞれ増幅した。PCR反応溶液組成は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCRに用いたプライマーおよびPCR反応条件は下記のとおりである。用いたプライマーにおいて、PI3KCGの751番目のアデニンをグアニンに置換した部分を下線で示す。
【0109】
1回目のPCR
K251Eの1〜762番目の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;配列番号9のプライマー
リバースプライマー ;5’−CTTGGCCATCTCGGTGAAGAAG−3’(配列番号24)
K251Eの740〜3309番目の増幅に用いたプライマー:
フォワードプライマー;5’−CTTCTTCACCGAGATGGCCAAG−3’(配列番号25)
リバースプライマー ;配列番号10のプライマー
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、58℃で30秒、68℃で3分の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0110】
続いて、1回目のPCR産物を鋳型として、本実施例(3)[3−1]に記載のプライマーを用いて2回目のPCRを行い、K251Eを増幅して単離した。PCR反応溶液組成は、鋳型DNAを1回目のPCR産物各50ngずつとした他は、実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCR反応条件は下記のとおりである。
【0111】
PCR反応条件;94℃で2分の反応の後、94℃で30秒、58℃で30秒、72℃で3分の各反応を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の反応を行った。
【0112】
得られたPCR産物は、本実施例(3)[3−1]に記載の方法によりベクターに挿入し、pCXN2−3HA−K251Eを得た。
【0113】
[4−2]PI3KCG欠損MEF細胞群へのベクターの導入
本実施例(4)[4−1]で調製したpCXN2−3HA−K251Eを、本実施例(3)[3−2]に記載の方法により、PI3KCG欠損MEF細胞に導入し、K251E導入MEF細胞群を調製した。
【0114】
(5)エンドサイトーシス機能の評価
本実施例(1)から(4)で調製した各群をそれぞれ2つに分け、そのうち一方にはAlexaFluor546を結合した分子量10000のデキストラン(インビトロジェン社)を、他方にはAlexaFluor546を結合したトランスフェリン(インビトロジェン社)を、それぞれ0.5mg/mLとなるよう培地に添加し、37℃、CO25%を含む加湿環境下で、10分間培養した。
【0115】
その後、37℃に保った状態で実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行い、各群における20個の細胞について、1細胞あたりの顆粒状構造物の蛍光強度を測定し、その平均値をデキストランの取り込み量およびトランスフェリンの取り込み量に換算してグラフに表した。その結果を図8aおよび図8bに示す。
【0116】
図8aに示すように、PI3KCG欠損MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と比較してデキストランの取り込み量の低下が見られた。一方、PI3KCG導入MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と同程度のデキストランの取り込みが見られた。また、図8bに示すように、トランスフェリンの取り込み量は、いずれの細胞群においても野生型MEF細胞群との違いが見られなかった。
【0117】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異によりRasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合またはLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合には、クラスリン依存性のエンドサイトーシスは抑制されない一方で、クラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスは抑制されることが明らかになった。
【0118】
<実施例4>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞における強化青緑色蛍光タンパク質(enhanced cyan fluorescent protein;ECFP)遺伝子発現率の確認
エンドサイトーシスを介する遺伝子導入試薬であるFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いる方法、エレクトロポレーション法による遺伝子導入装置であるNucleofector(amaxa社)を用いる方法、エンドサイトーシスにより感染することが知られているレンチウイルスHIVを用いる方法、および膜融合により感染することが知られているレトロウイルスMSCVを用いる方法の4つの方法により、PI3KCG欠損細胞群およびK251E導入細胞群にECFP遺伝子の導入を行い、導入したECFP遺伝子を発現する細胞数を調べた。
【0119】
(1)FuGene HD Transfection ReagentおよびNucleofectorにより導入したECFP遺伝子の発現率
実施例3(1)から(4)に記載の方法により調製した野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群に、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)およびNucleofector(amaxa社)をそれぞれ用いて、ECFPのcDNA(配列番号26)が挿入されたベクターpECFP−C1(クロンテック社)を、付属の使用書に従い導入した。なお、LY294002添加MEF細胞群については、LY294002を添加した培地において、ベクターの導入を行った。
【0120】
その後、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。続いて、気温を37℃に保った状態で下記に示す条件により蛍光観察を行い、ECFPの蛍光(青色)が見られる細胞を数え、各群の全体の細胞数に占める割合を算出した。その結果を図9aに示す。
【0121】
蛍光観察に用いた条件
顕微鏡;倒立型リサーチ顕微鏡 IX71(オリンパス社)
電動シャッター・ステージ;BioPointMAC5000(Ludi社)
光源;キセノンランプ、75ワット
減光フィルター;6%
ダイクロイックミラー;XF2034(455DRLP;オメガ社)
励起フィルター;XF1071(440AF21)(オメガ社)
吸収フィルター;XF3075(480AF30)(オメガ社)
記録装置;冷却CCDカメラCoolSNAP−HQ(RoperScientific社)
CCDカメラおよびフィルターホイールの制御、画像データの分析;MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社)
【0122】
図9aに示すように、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、PI3KCG欠損MEF細胞群、K251E導入MEF細胞群およびLY294002添加MEF細胞群では、それぞれ野生型MEF細胞群と比較して、ECFP発現細胞数の割合が顕著に低下した。また、PI3KCG導入MEF細胞群では、野生型MEF細胞群と比較して、ECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。一方、Nucleofector(amaxa社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、いずれの細胞群においても、それぞれ野生型MEF細胞群と比較してECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。
【0123】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異により、Rasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合およびLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合に、エンドサイトーシスを介する遺伝子導入試薬であるFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によるECFPのcDNAの導入が抑制された一方で、エレクトロポレーション法による遺伝子導入装置であるNucleofector(amaxa社)によるECFPのcDNAの導入は抑制されないことから、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異によりRasタンパク質とPI3KCGタンパク質との結合が阻害された場合、またはLY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合は、エンドサイトーシスが抑制されることが明らかになった。
【0124】
(2)レトロウイルスおよびレンチウイルスの感染により導入した遺伝子の発現率
[2−1]レトロウイルスMSCVおよびレンチウイルスHIVの調製
ブリティッシュコロンビア大学のM.R.Gold氏から供与されたレトロウイルスベクターpMSCV−pac−ECFPを、同氏から供与されたパッケージング細胞であるBOSC23細胞に導入することにより、ECFPのcDNAを保持したレトロウイルスmurine stem cell virus(MSCV)を作成した。また、理化学研究所の三好浩之氏から供与されたCS−CA−ECFP、pCMV−VSV−RSV−RevおよびレンチウイルスベクターpCAG−HIVgpの3つのベクターを、コネチカット大学のB.Mayer氏から供与された、パッケージング細胞であるヒト胚性腎(human embryonic kidney;HEK)293T細胞に導入することにより、ECFPのcDNAを保持したレンチウイルスHIVを作成した{Pearら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第90巻、第8392頁、1993年;Ohba Y.ら、EMBO.J.第20巻、第13号、第3333−3341頁、2001年;Inuzuka T.ら、B.B.R.C.第379巻、第510−513頁、2009年;Miyoshiら、Mothods Mol.Bio.第l246巻、第429−438頁、2004年}。
【0125】
[2−2]野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群へのレトロウイルスおよびレンチウイルス接種
本実施例(2)[2−1]のレトロウイルスMSCVおよびレンチウイルスHIVを、それぞれ重複感染度(Multiplicity of infection;MOI)=1となるようDMEM培地に加えて、レトロウイルス含有培地およびレンチウイルス含有培地を調製した。実施例3(1)および(2)に記載の方法により調製した野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群をPBSで洗浄した後、それぞれを2群に分け、そのうち一方にはレトロウイルス含有培地を、他方にはレンチウイルス含有培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて12時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、実施例1(2)に記載の環境下で2日間培養した。
【0126】
[2−3]ECFPの蛍光観察
本実施例(2)[2−2]の各群について、気温を37℃に保った状態で本実施例(1)に記載の方法により蛍光観察を行い、ECFPの蛍光(青色)が検出される細胞を数えて、全体の細胞数に占める割合を算出した。その結果を図9bに示す。
【0127】
また、本実施例(1)の結果のうち、野生型MEF細胞群およびPI3KCG欠損MEF細胞群における結果について、「ECFP発現細胞数/全体の細胞数」の値に換算して、図9bに示す。
【0128】
図9bに示すように、レンチウイルスHIVの感染によりECFPのcDNAを導入した場合、およびFuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によりECFPのcDNAを導入した場合は、野生型MEF細胞群と比較して、PI3KCG欠損MEF細胞群におけるECFP発現細胞数の割合が顕著に低下した。一方、レトロウイルスMSCVの感染によりECFPのcDNAの導入を行った場合、およびNucleofector(amaxa社)によりECFPのcDNAの導入を行った場合は、野生型MEF細胞群と比較して、PI3KCG欠損MEF細胞群におけるECFP発現細胞数の割合はほぼ同じであった。
【0129】
以上より、PI3KCGタンパク質が欠損すると、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)によるエンドサイトーシスを介した遺伝子導入、およびレンチウイルスの感染による遺伝子導入すなわちエンドサイトーシスによるウイルス感染が抑制されることが明らかになった。一方、PI3KCGタンパク質が欠損しても、レトロウイルスの感染すなわち膜融合によるウイルス感染は抑制されないことが明らかになった。
【0130】
<実施例5>K251Eタンパク質およびH−Rasタンパク質の細胞内における存在箇所の確認
K251Eタンパク質およびH−Rasタンパク質を免疫抗体染色および蛍光標識により可視化し、これらのタンパク質が細胞内において存在する箇所を確認した。
【0131】
(1)ベクターの調製
実施例3(3)[3−1]に記載の方法によりpCXN2−3HA−PI3KCGを得た。また、実施例3(4)[4−1]に記載の方法によりpCXN2−3HA−K251Eを得た。pCAGGS−EGFP−H−RasG12Vは実施例1(1)に記載のものを用いた。
【0132】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
Cos1細胞群(ATCC;受託番号CRL−1650)を2群に分けてPI3KCG群およびK251E群とし、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、付属の使用書に従い、本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入し、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。前記ベクターの組み合わせは次のとおりである。
【0133】
導入したベクターの組み合わせ
PI3KCG群;pCXN2−3HA−PI3KCGとpCAGGS−EGFP−H−RasG12V
K251E群;pCXN2−3HA−K251EとpCAGGS−EGFP−H−RasG12V
【0134】
(3)免疫蛍光染色
本実施例(2)のPI3KCG群およびK251E群について、実施例1(3)に記載の方法により免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)に加えて抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)を用い、二次抗体として、AlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)に加えてAlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)を用いた。
【0135】
(4)共焦点顕微鏡による観察
本実施例(2)のPI3KCG群およびK251E群について、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。すなわち、PI3KCGタンパク質およびK251Eタンパク質の存在する箇所をAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)により検出し、H−RasG12Vタンパク質の存在する箇所をEGFPの蛍光により検出した。また、EEA1をAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図10に示す。融合図の下段のグラフは、融合図内に点線で示したラインに沿って、各蛍光の強度を示したものである。また、拡大図は融合図内の囲みの部分を拡大した図である。
【0136】
図10に示すように、PI3KCG群では、PI3KCGタンパク質、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現の多くが、細胞内の同じ箇所で確認された。一方、K251E群では、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現は同じ箇所に観察されるものの、K251Eタンパク質の発現は、H−RasG12Vタンパク質およびEEA1タンパク質の発現と、細胞内の同じ箇所ではほとんど確認されなかった。
【0137】
以上より、PI3KCGタンパク質とH−RasG12Vタンパク質との結合が阻害されると、初期エンドソームにおけるPI3KCGタンパク質の存在(局在)が抑制されることが明らかになった。
【0138】
<実施例6>PI3KCG欠損細胞およびK251E導入細胞におけるウイルス感染率の確認
PI3KCG欠損細胞群およびK251E導入細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、ウイルス感染率を調べた。
【0139】
(1)MEF細胞群の調製
まず、実施例3(1)から(4)に記載の方法により、野生型MEF細胞群、LY294002添加MEF細胞群、PI3KCG欠損MEF細胞群、PI3KCG導入MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群を調製した。
【0140】
(2)インフルエンザウイルスの調製
次に、北海道大学の高田礼人氏より供与されたインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1;PR8)およびA/Aichi/2/68(H3N2;Aichi)を、ニワトリ卵10日胚(ホクレン中央種鶏場)の漿尿膜へ接種して、37℃にて48時間培養して増殖させた。
【0141】
(3)MEF細胞群へのインフルエンザウイルス接種
続いて、本実施例(2)のPR8ウイルスおよびAichiウイルスを、それぞれ重複感染度(Multiplicity of infection;MOI)=250となるようminimal essential medium(MEM培地)(インビトロジェン社)に加えて、PR8ウイルス含有培地およびAichiウイルス含有培地を調製した。本実施例(1)の各群をPBSで洗浄した後、それぞれを2群に分け、そのうち一方にはPR8ウイルス含有培地を、他方にはAichiウイルス含有培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて1時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、1%(w/v)のBact−agarおよび5μg/mLのトリプシンを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて2日間培養した。
【0142】
(4)プラークアッセイによるウイルス感染率の確認
その後、本実施例(3)の培養上清を、12穴プレートで単層培養したMadin−Darby canine kidney(MDCK)細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)に添加して、37℃にて1時間培養した。続いて、培養上清を除去し、Bact−agar1%(w/v)およびトリプシン5μg/mLを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加して、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて2日間培養し、出現したプラークを数えた。この結果をもとに、PR8ウイルスおよびAichiウイルスの各群におけるウイルス感染率を求めた{J.Biol.Chem.、第276巻 、第10990頁、2001年;Nature Cell Biol.、第3巻、第301頁、2001年;PLoS.Pathogens、第5巻、第3号、第e1000350頁、2009年}。PR8ウイルスの結果を図11aに、Aichiウイルスの結果を図11bにそれぞれ示す。
【0143】
図11aおよび図11bに示すように、PI3KCG欠損MEF細胞群およびK251E導入MEF細胞群では、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも顕著に低下した。また、LY294002添加MEF細胞群でも、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも低下した。一方、PI3KCG導入MEF細胞群では、PR8ウイルスおよびAichiウイルスのウイルス感染率はいずれも野生型MEF細胞群と同程度に高いことが確認された。
【0144】
以上より、PI3KCGタンパク質の欠損またはPI3KCGタンパク質の変異により、PI3KCGタンパク質のRasタンパク質への結合が阻害されると、インフルエンザウイルスの感染が抑制されることが明らかになった。また、LY294002によりPI3KCGタンパク質を含むPI3Kタンパク質のキナーゼ活性が阻害された場合も、インフルエンザウイルスの感染が抑制されることが明らかになった。
【0145】
<実施例7>Ras結合領域の配列比較
PI3KCGタンパク質のRBDのアミノ酸配列と他の代表的なRas結合分子であるRafタンパク質およびRalGDSタンパク質の、それぞれのRBDのアミノ酸配列とを比較検討し、PI3KCGタンパク質のRBDに特異的な配列を抽出した。
【0146】
PI3KCGタンパク質、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列について、近隣結合(neighbor−joining;NJ)法により系統樹を作成した。その結果を図12aに示す。また、これらの配列について、Clustal W(http://clustalw.ddbj.nig.ac.JP/top−j.html)を用いてアラインメントを作成した。その結果を図12bに示す。また、アラインメント作成結果に基づき、配列の保存性について視覚的に表現した図を図12cに示す。
【0147】
図12aに示すように、PI3KCGタンパク質のRBDのアミノ酸配列は、c−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のRBDのアミノ酸配列と別のカテゴリーに分類された。それは、PI3KCGタンパク質のRBDのN末端側のアミノ酸配列がc−Raf1タンパク質およびRalGDSタンパク質のものより長く、かつ特徴的な28アミノ酸の配列を有することに起因することが図12bより確認された。さらに、図12cに示すように、N末端側においてアミノ酸配列の保存性が低いことが確認された。
【0148】
以上より、PI3KCGタンパク質のRBDのN末端28アミノ酸(N28ポリペプチド;配列番号27および配列番号28)が、PI3KCGタンパク質に、他のRas結合因子とは異なる機能を付与する配列であることが示唆された。
【0149】
<実施例8>H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体の細胞内における存在箇所の確認
H−Rasタンパク質とN28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質との複合体を、BiFC法により可視化し、この複合体が細胞内において存在する箇所を確認した。
【0150】
(1)ベクターの調製
実施例1(1)に記載の方法により、pCAGGS−VN−H−RasG12V、pCXN2−Flag−H−RasG12V−VCおよびpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VCを得た。
【0151】
実施例3(3)[3−1]のPI3KCGを鋳型として、N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBD(配列番号30)に相当するcDNA(配列番号29)を増幅した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。PCRに用いたプライマーは下記のとおりである。
【0152】
フォワードプライマー;5’−CCCTCGAGCAGACCATTAAGGTCTCACC−3’(配列番号31)
リバースプライマー ;5’−GGGCGGCCGCCGTCTGGAGGCGTGTCCAGT−3’(配列番号32)
【0153】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、前記ベクターpCXN2−Flag−H−RasG12V−VCのXhoI/NotIサイトに、H−RasG12Vに代えて挿入し、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VCを得た。
【0154】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
Cos1細胞(ATCC;受託番号CRL−1650)を、コラーゲンでコートした直径35mmのガラスベースディッシュ(旭テクノガラス社)に置き、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、添付の使用書に従い、本実施例(1)で調製したベクターを組み合わせて導入した。その組み合わせは次のとおりである。
【0155】
導入したベクターの組み合わせ
pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VC
pCAGGS−VN−H−RasG12VとpCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VC
【0156】
ベクター導入後の細胞は、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養し、培地を除去した後、FBSを含まないフェノールレッド不含培地Dulbecco’s Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F−12(DMEM/F12;インビトロジェン社)を添加し、さらに4時間培養した。
【0157】
(3)蛍光顕微鏡による観察
その後、37℃に保った状態で、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。観察開始から20分後に、培地にEGFを100ng/mLとなるよう添加し、さらに観察を行った。EGF添加前の結果を図13上段に、EGF添加後の結果を図13下段にそれぞれ示す。
【0158】
図13上段および下段に示すように、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−VCを導入した細胞では、EGF添加前と比較して、EGF添加後にVenusタンパク質の蛍光(緑色)がエンドソームにおいて多数見られた。一方、pCXN2−Flag−PI3KCG−RBD−N28d−VCを導入した細胞では、EGF添加前と比較して、EGF添加後にVenusタンパク質の蛍光(緑色)がゴルジ装置に集積していることが確認された。
【0159】
以上より、N28ポリペプチドを欠くPI3KCGタンパク質のRBDとH−RasG12Vタンパク質との複合体は、エンドソームへ存在せずゴルジ装置に集積することが明らかになった。すなわち、N28ポリペプチドはPI3KCGタンパク質のRBDとH−RasG12Vタンパク質との複合体をエンドソームへ存在させる機能を有することが明らかになった。
【0160】
<実施例9>N28ポリペプチドを発現させた細胞のエンドサイトーシス機能の確認
分子量10000のデキストランを、N28ポリペプチドを発現させたMDCK細胞に取り込ませ、それらの取り込み量を調べた。
【0161】
(1)ベクターの調製
実施例3(3)[3−1]のPI3KCGタンパク質のRBDのcDNAを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたベクターpCAGGS−VenusのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBDを得た。このベクターの制限酵素地図を図14に示す。
【0162】
続いて、pCAGGS−Venus−PI3KCG−RBDを鋳型としてPCRを行い、VenusとN28ポリペプチドのcDNAとを含むDNA断片を増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0163】
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号33)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGCTGGTGGTGCTGCGG−3’(配列番号34)
【0164】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素EcoRIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−EGFP−H−RasのEcoRI/NotIサイトに、EGFP−H−Rasに代えて挿入し、pCAGGS−Venus−N28を得た。このベクターの制限酵素地図を図15に示す。
【0165】
次に、実施例3(3)[3−1]のPI3KCGタンパク質のRBDのcDNAを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたベクターpCAGGS−3HAのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBDを得た。このベクターの制限酵素地図を図16に示す。続いて、pCAGGS−3HA−PI3KCG−RBDを制限酵素SpeIおよびXhoIで消化し、プロモーターとヘマグルチニンのcDNAを含む約1.7kbpのDNA断片を得て、これを、pCAGGS−Venus−N28のSpeI/XhoIサイトに、Venusに代えて挿入し、pCAGGS−3HA−N28を得た。このベクターの制限酵素地図を図17に示す。
【0166】
(2)MDCK細胞群へのベクターの導入
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を、コラーゲンでコートした直径35mmのガラスベースディッシュ(旭テクノガラス社)に置き、FuGene HD Transfection Reagent(ロシュ社)を用いて、添付の使用書に従い、本実施例(1)で調製したpCAGGS−3HA−N28を導入した。その後、実施例1(2)に記載の環境下で24時間培養した。
【0167】
(3)エンドサイトーシス機能の評価
本実施例(2)のMDCK細胞群をPBSで洗浄した後、AlexaFluor488を結合した分子量10000のデキストラン(インビトロジェン社)0.5mg/mLおよびFBS10%(v/v)を含むDMEM培地を添加し、37℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて10分間培養した。
【0168】
(4)免疫蛍光染色
本実施例(3)のMDCK細胞群について、実施例1(3)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体は抗EEA1マウスモノクローナル抗体(BD Transduction Laboratories社)に代えて抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)を用い、二次抗体はAlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)に代えてAlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)を用いた。また、抗体の希釈にはPBSに代えてPBTを用い、二次抗体の希釈倍率は200倍に代えて300倍とし、一次抗体による抗原抗体反応の時間は一晩に代えて12時間とした。
【0169】
(5)蛍光顕微鏡による観察
本実施例(4)のMDCK細胞群について、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行い、AlexaFluor488の蛍光(緑色)およびAlexaFluor647の蛍光(赤紫色)を検出した。その結果を図18の上図に示す。また、24個の細胞について、1細胞におけるAlexaFluor488の蛍光強度およびAlexaFluor647の蛍光強度をそれぞれ測定し、AlexaFluor488の蛍光強度を縦軸に、AlexaFluor647の蛍光強度を横軸にとったグラフにプロットした。その結果を図18の下図に示す。
【0170】
図18の上図および下図に示すように、AlexaFluor488の蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor647の蛍光強度が小さい細胞、AlexaFluor488の蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor647の蛍光強度が大きい細胞、およびAlexaFluor488の蛍光強度とAlexaFluor647の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、AlexaFluor488の蛍光強度とAlexaFluor647の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。
【0171】
以上より、N28ポリペプチドを発現させた細胞では、クラスリン非依存性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスが抑制されることが明らかになった。
【0172】
<実施例10>N28ポリペプチドを発現させた細胞のウイルス核タンパク質取り込み量の確認
N28ポリペプチドを発現させたMDCK細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、細胞内へのウイルス核タンパク質の取り込み量を調べた。
【0173】
(1)HAにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるウイルス核タンパク質の取り込み量
[1−1]ベクターの調製およびMDCK細胞群へのベクターの導入
実施例9(1)に記載の方法によりpCAGGS−3HA−N28を得て、これを実施例9(2)に記載の方法によりMDCK細胞群に導入した。
【0174】
[1−2]MDCK細胞群へのインフルエンザウイルス接種
実施例6(2)に記載の方法により調製したPR8ウイルスを、MOI=2となるようMEM培地(インビトロジェン社)に加えて、PR8ウイルス含有培地を調製した。本実施例(1)[1−1]のMDCK細胞群をPBSで洗浄した後、PR8ウイルス含有培地を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて1時間培養することによりウイルス接種を行った。続いて、PBSで洗浄した後、1%(w/v)のBact−agarおよび5μg/mLのトリプシンを含むMEM培地(インビトロジェン社)を添加し、35℃、CO25%(v/v)を含む加湿環境下にて5時間培養した。
【0175】
[1−3]免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(1)[1−2]のMDCK細胞群について、実施例9(4)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)に加えて北海道大学の高田礼人氏から供与された抗インフルエンザウイルス核タンパク質マウスモノクローナル抗体を用い、二次抗体として、AlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)に加えてAlexaFluor488を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)を用いた。その後、実施例1(4)に記載の方法により蛍光観察を行った。その結果を図19に示す。
【0176】
図19に示すように、AlexaFluor647の蛍光強度が大きい細胞ではAlexaFluor488の蛍光強度が小さく、AlexaFluor488の蛍光強度が大きい細胞ではAlexaFluor647の蛍光強度が小さかった。
【0177】
以上より、HAにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。
【0178】
(2)ECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるウイルス核タンパク質の取り込み量
[2−1]ベクターの調製
京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFP−H−RasG12V(制限酵素地図を図20に示す)を制限酵素SpeIおよびXhoIで消化して、プロモーターとECFPのcDNAを含む約2.4kbpの断片を得た。この2.4kbpの断片を、実施例9(1)に記載の方法により得たpCAGGS−3HA−N28のSpeI/XhoIサイトに、3コピーのHAのcDNAに代えて挿入し、pCAGGS−ECFP−N28を得た。
【0179】
[2−2]MDCK細胞群へのベクターの導入およびインフルエンザウイルス接種
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を2群に分け、コントロール群およびN28群とした。実施例9(2)に記載の方法により、コントロール群には京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPを、N28群には本実施例(2)[2−1]のpCAGGS−ECFP−N28をそれぞれ導入した。その後、本実施例(1)[1−2]に記載の方法によりコントロール群およびN28群にPR8ウイルスを接種した。
【0180】
[2−3]免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(2)[2−2]のコントロール群およびN28群について、実施例9(4)に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、一次抗体として、抗HAラットモノクローナル抗体3F10(ロシュ社)に代えて北海道大学の高田礼人氏から供与された抗インフルエンザウイルス核タンパク質マウスモノクローナル抗体を用い、二次抗体として、AlexaFluor647を結合した抗ラット抗体(インビトロジェン社)に代えてAlexaFluor594を結合した抗マウス抗体(インビトロジェン社)を用いた。その後、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行った。その結果を図21の左図に示す。また、各群のそれぞれ120個の細胞について、1細胞におけるAlexaFluor594の蛍光強度およびECFPの蛍光強度をそれぞれ測定して、AlexaFluor594の蛍光強度を縦軸に、ECFPの蛍光強度を横軸にとったグラフにプロットした。その結果を図21の右図に示す。
【0181】
図21左図および右図に示すように、N28群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、ECFPの蛍光強度の蛍光強度とAlexaFluor594とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。一方、コントロール群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞が同程度に存在していた。
【0182】
以上より、ECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。また、この結果は本実施例(1)と同様の結果であることから、HAにより標識したN28ポリペプチドまたはECFPにより標識したN28ポリペプチドを発現させた細胞におけるインフルエンザウイルスの細胞内への取り込み抑制効果は、標識タンパク質によるものではなく、N28ポリペプチドによるものであることが確認された。
【0183】
<実施例11>N28ポリペプチドの中央部11アミノ酸を発現させた細胞のウイルス核タンパク質取り込み量の確認
N28ポリペプチドの中央部11アミノ酸(N11ポリペプチド;配列番号39および配列番号40)を発現させたMDCK細胞群にインフルエンザウイルスを接種し、細胞内へのウイルス核タンパク質の取り込み量を調べた。
【0184】
(1)ベクターの調製
実施例10(2)[2−1]に記載の方法によりpCAGGS−ECFP−N28を得た。pCAGGS−ECFP−N28を鋳型としてPCRを行い、N28ポリペプチドのカルボキシル(C)末端側20アミノ酸(配列番号36)に相当するcDNA(配列番号35)を含む200bpのDNA断片を増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0185】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGCTGTGGAAGAAGATTGCC−3’(配列番号37)
リバースプライマー ;5’−AGATGCTCAAGGGGCTTCATGATG−3’(配列番号38)
【0186】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびBglIIで消化した後、pCAGGS−ECFP−N28のXhoI/BglIIサイトに挿入し、N28ポリペプチドに相当するcDNAに代えてN28ポリペプチドのC末端側20アミノ酸に相当するcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−ECFP−N20を得た。
【0187】
続いて、pCAGGS−ECFP−N20を鋳型としてPCRを行い、N11ポリペプチドに相当するcDNA(配列番号39)を含む700bpのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0188】
フォワードプライマー;5’−CCGAATTCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAG−3’(配列番号41)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGAAGATGCAGTTGTTGGC−3’(配列番号42)
【0189】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素EcoRIおよびNotIで消化した後、pCAGGS−ECFP−N20のEcoRI/NotIサイトに挿入し、N28ポリペプチドのC末端側20アミノ酸に相当するcDNAに代えてN11ポリペプチドに相当するcDNAが挿入されたベクターpCAGGS−ECFP−N11を得た。
【0190】
(2)MDCK細胞群へのベクターの導入およびインフルエンザウイルス接種
MDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を2群に分け、コントロール群およびN11群とした。実施例9(2)に記載の方法により、コントロール群には京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPを、N11群には本実施例(1)で調製したpCAGGS−ECFP−N11をそれぞれ導入した。その後、実施例10(2)[2−2]に記載の方法によりコントロール群およびN11群にPR8ウイルスを接種した。
【0191】
(3)免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(2)のコントロール群およびN11群について、実施例10(2)[2−3]に記載の方法により、免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察を行った。ただし、蛍光強度を測定した細胞数は120個に代えて90個とした。その結果を図22上図および下図に示す。
【0192】
図22上図および下図に示すように、N11群では、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞が多数存在するのに対し、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞は存在しなかった。一方、コントロール群では、ECFPの蛍光強度が小さく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が大きい細胞、ECFPの蛍光強度が大きく、かつAlexaFluor594の蛍光強度が小さい細胞、ECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが小さい細胞およびECFPの蛍光強度とAlexaFluor594の蛍光強度とのいずれもが大きい細胞が同程度に存在していた。
【0193】
以上より、N11ポリペプチドを発現させた細胞では、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが抑制されることが明らかになった。
【0194】
<実施例12>クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した細胞におけるウイルス感染率の確認
実施例3および実施例4においてクラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制することが確認された、PI3Kタンパク質の活性阻害剤であるLY294002およびクラスリン依存性エンドサイトーシスを抑制することが知られているモノダンシルカダベリン(MDC;Schlegelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第79巻、第2291−2295頁、1982年; Rayら、FEBS Lett.、第378巻、第235−239頁、1996年)を添加してインフルエンザウイルスを接種し、ウイルス感染率を調べた。
【0195】
(1)各試薬による前処理
12ウェルプレートでMEM培地を用いて培養したMDCK細胞群(JCRB細胞バンク:JCRB9029)を5群に分け、コントロール群、LY294002群、MDC群、LY+MDC群およびオセルタミビル群とした。続いて、各群の培地に下記の試薬を添加して30分間培養することにより、前処理を行った。濃度は培地中の濃度を示す。
【0196】
コントロール群 ;無添加
LY294002群;LY294002(Calbiochem社)50μmol/L
MDC群 ;モノダンシルカダベリン(MDC;シグマ社)50μmol/L
LY+MDC群 ;LY294002(Calbiochem社)50μmol/L
モノダンシルカダベリン(MDC;シグマ社)50μmol/L
オセルタミビル群 ;オセルタミビル(Roche社) 100μmol/L
【0197】
(2)MDCK細胞群へのインフルエンザウイルス接種およびプラークアッセイによるウイルス感染率の確認
実施例10(1)[1−2]に記載の方法により、本実施例(1)の各群にPR8ウイルスを接種した。ただし、MOI=2に代えてMOI=1とし、各群に添加するPR8ウイルス含有培地には、本実施例(1)の前処理時と同じ試薬を同じ濃度となるよう添加した。また、ウイルス接種後の培養時間は5時間に代えて2日間とした。その後、実施例6(4)に記載の方法によりプラークアッセイを行い、ウイルス感染率を求めた。その結果を図23に示す。
【0198】
図23に示すように、LY294002群、MDC群、LY+MDC群およびオセルタミビル群のウイルス感染率は、コントロール群と比較してそれぞれ約1/5、約1、約1/100および約1/10であった。
【0199】
以上より、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制すると、インフルエンザウイルスの感染を顕著に抑制できることが明らかになった。
【0200】
<実施例13>クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した細胞におけるウイルス核タンパク質の存在(局在)箇所の確認
【0201】
初期エンドソームマーカータンパク質、後期エンドソームマーカータンパク質、クラスリン軽鎖タンパク質およびウイルス核タンパク質を免疫抗体染色および蛍光標識により可視化し、LY294002およびMDCを添加してインフルエンザウイルスを接種した細胞において、これらのタンパク質が存在する箇所を調べた。
【0202】
(1)ベクターの調製
初期エンドソームに存在(局在)することが知られているRab5タンパク質(配列番号44)のcDNA(配列番号43)が挿入されたベクターpEGFP−C1−Rab5、および後期エンドソームに存在(局在)することが知られているRab7タンパク質(配列番号46)のcDNA(配列番号45)が挿入されたベクターpEGFP−C1−Rab7は東京大学の坪井貴司氏から供与された。また、クラスリン軽鎖(CLCa)タンパク質(配列番号48)のcDNA(配列番号47)は東京大学の河岡義裕氏から供与された。CLCaのcDNAを鋳型としてPCRを行い、5’端および3’端にそれぞれXhoIおよびNotIサイトが付加されたCLCaのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0203】
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGCTGAGCTGGATCC−3’(配列番号49)
リバースプライマー;5’−TAGCGGCCGCTCAGTGCACCAGCGGG−3’(配列番号50)
【0204】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−VenusのXhoI/NotIサイトに挿入し、pCAGGS−Venus−CLCaを得た。このベクターの制限酵素地図を図24に示す。
【0205】
続いて、pEGFP−C1−Rab5およびpEGFP−C1−Rab7を鋳型としてPCRを行い、Rab5タンパク質およびRab7タンパク質のそれぞれのcDNAを増幅して単離した。PCR反応溶液組成およびPCR反応条件は実施例1(1)に記載の方法と同様にした。用いたプライマーは下記のとおりである。
【0206】
Rab5の増幅に用いたプライマー
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGGCTAATCGAGGAGC−3’(配列番号51)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAGTTACTACAACACTGG−3’(配列番号52)
Rab7の増幅に用いたプライマー
フォワードプライマー;5’−GGCTCGAGATGACCTCTAGGAAGAAAG−3’(配列番号53)
リバースプライマー ;5’−TAGCGGCCGCTCAACAACTGCAGCTTTC−3’(配列番号54)
【0207】
得られたPCR産物はQIAXII(キアゲン社)により精製した。これを制限酵素XhoIおよびNotIで消化した後、京都大学の松田道行氏から供与されたpCAGGS−ECFPのXhoI/NotIサイトにそれぞれ挿入し、pCAGGS−ECFP−Rab5およびpCAGGS−ECFP−Rab7を得た。
【0208】
(2)Cos1細胞群へのベクターの導入
実施例9(2)に記載の方法により、本実施例(1)のpCAGGS−ECFP−Rab5、pCAGGS−ECFP−Rab7およびpCAGGS−Venus−CLCaをCos1細胞群(ATCC;受託番号CRL−1650)に導入した。
【0209】
(3)各試薬による前処理
本実施例(2)のCos1細胞群を4群に分け、コントロール群、LY294002群、MDC群およびLY+MDC群とした。続いて、これらの各群に、実施例12(1)に記載の方法により各試薬による前処理を行った。
【0210】
(4)Cos1細胞群へのインフルエンザウイルス接種
実施例10(1)[1−2]に記載の方法により、本実施例(3)の各群にPR8ウイルスを接種した。ただし、MOI=2に代えてMOI=100とし、各群に添加するPR8ウイルス含有培地には、本実施例(3)の前処理時と同じ試薬を同じ濃度となるよう添加した。またウイルス接種後の培養は行わなかった。
【0211】
(5)免疫蛍光染色および蛍光顕微鏡による観察
本実施例(4)の各群について、実施例10(2)[2−3]に記載の方法により、免疫蛍光染色を行った。ただし、二次抗体の希釈倍率は300倍に代えて250倍とした。その後、実施例1(4)に記載の方法により、蛍光観察を行い、Rab5タンパク質、Rab7タンパク質、CLCaタンパク質およびインフルエンザウイルスのウイルス核タンパク質をそれぞれECFP、Venusタンパク質の蛍光(緑色)およびAlexaFluor594の蛍光(赤色)により検出した。その結果を図25の左図に示す。また、各群の10個の細胞について、下記の蛍光を示す顆粒の数をそれぞれ数え、b/aおよびc/aの1細胞あたりの割合をそれぞれ求めた。その結果を図25の右図に示す。
【0212】
a;AlexaFluor594の蛍光(赤色)を示す顆粒
b;ECFPの蛍光(青色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒
c;Venusタンパク質の蛍光(緑色)とAlexaFluor594の蛍光(赤色)との重複を示す顆粒
【0213】
図25の左図および右図に示すように、LY294002群では、コントロール群と比較してb/aが低下した一方で、c/aは同様の割合であり、MDC群では、コントロール群と比較してb/aがやや低下した一方で、c/aは顕著に低下した。これに対し、LY+MDC群では、コントロール群と比較してb/aおよびc/aのいずれも顕著に低下した。
【0214】
以上より、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制した場合はクラスリン依存性エンドサイトーシスによりインフルエンザウイルスが細胞内に取り込まれ、クラスリン依存性エンドサイトーシスのみを抑制した場合はクラスリンに依存しないエンドサイトーシスによりインフルエンザウイルスが細胞内に取り込まれることが明らかになった。これに対し、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスおよびクラスリン依存性エンドサイトーシスのいずれも抑制した場合は、インフルエンザウイルスの細胞内への取り込みが顕著に抑制されることが明らかになった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質に結合可能なrat sarcoma(Ras)タンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)と対象物質とを共存させる工程と、
前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項2】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光共鳴エネルギー移動を観測する方法を用いる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程と、
前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程と
を有する、前記方法;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド。
【請求項6】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項9】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項8に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項10】
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項8または請求項9に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【請求項11】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項8から請求項10のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項12】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【請求項13】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項12に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項14】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項12または請求項13のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項15】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項16】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項15に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項17】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項15または請求項16のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項18】
エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項19】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項18に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項20】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質が、下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上の物質および/またはポリペプチドである、請求項18に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質、
(ii)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iv)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(v)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(vi)PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質。
【請求項21】
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項20に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【請求項22】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項18から請求項21のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項1】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質に結合可能なrat sarcoma(Ras)タンパク質と、PI3Kタンパク質またはそのRas結合領域(Ras Binding Domain;RBD)と対象物質とを共存させる工程と、
前記対象物質が前記Rasタンパク質と前記PI3Kタンパク質または前記RBDとの結合阻害能を有するか否かを評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項2】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光共鳴エネルギー移動を観測する方法を用いる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染を抑制する物質のスクリーニング方法であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドと対象物質とを共存させる工程と、
前記対象物質が前記ポリペプチドとの結合能を有するか否かを評価する工程と
を有する、前記方法;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつPI3Kタンパク質の一部を構成した場合にRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体をエンドソーム上に存在させることができるポリペプチド。
【請求項6】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項9】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項8に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項10】
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項8または請求項9に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド、
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【請求項11】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項8から請求項10のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項12】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、下記(i)〜(iv)から選択される1または2以上のポリペプチドを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iii)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド。
【請求項13】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項12に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項14】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項12または請求項13のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項15】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質を有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項16】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項15に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項17】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項15または請求項16のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項18】
エンドサイトーシスにより感染可能なウイルスの感染抑制剤であって、クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質とクラスリン依存性エンドサイトーシス(Clathrin−dependent endocytosis)を抑制する物質とを有効成分とする、前記ウイルス感染抑制剤。
【請求項19】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスがクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Clathrin−independent endocytosis)および/またはマクロピノサイトーシス(Macropinocytosis)である、請求項18に記載のウイルス感染抑制剤。
【請求項20】
クラスリンに依存しないエンドサイトーシスを抑制する物質が、下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上の物質および/またはポリペプチドである、請求項18に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質、
(ii)配列番号28のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iii)配列番号28において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(iv)配列番号40のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(v)配列番号40において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質とPI3Kタンパク質とが形成する複合体がエンドソーム上に存在するのを抑制するポリペプチド、
(vi)PI3Kタンパク質の活性を抑制する物質。
【請求項21】
Phosphoinositide 3−kinase(PI3K)タンパク質とrat sarcoma(Ras)タンパク質との結合を阻害する物質が下記(i)〜(vi)から選択される1または2以上のポリペプチドである、請求項20に記載のウイルス感染抑制剤;
(i)配列番号13のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号13において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(iii)配列番号30のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(iv)配列番号30において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
(v)配列番号56のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(vi)配列番号56において1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、かつRasタンパク質と結合するポリペプチド。
【請求項22】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項18から請求項21のいずれかに記載のウイルス感染抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2013−6772(P2013−6772A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107602(P2010−107602)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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