ウイルスワクチン候補のための無血清ウイルス増殖プラットフォーム
本発明はウイルスの増殖方法に関する。特に、本発明は、ウイルス増殖のための最適化条件を提供する。以下のパラメータ、すなわち培地への添加物としての脂質濃縮物、感染前から感染後の温度のシフト、感染多重度、直接ビーズ間移行、及び感染前培地への血清添加、の最適化を提供する。特に、本発明は初めて、ウイルスを感染させた細胞を、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地中で培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。別の請求において、CDLCは、ウイルス感染細胞の培養のための実質的に血清を含まない培地に添加される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.導入
本発明はウイルスの増殖方法に関する。特に、本発明は、ウイルス増殖のための最適化条件を提供する。以下のパラメータ、すなわち培地への添加物としての脂質濃縮物、感染前から感染後の温度のシフト、感染多重度、及び感染前培地への血清添加、の最適化を提供する。特に、本発明は初めて、ウイルスを感染させた細胞を、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地中で培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。別の実施形態において、CDLCは、ウイルス感染細胞の培養のための実質的に血清を含まない培地に添加される。また別の実施形態において、本発明は、直接ビーズ間移行方法によるウイルス細胞培養物の増殖を提供する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
ヒトパラインフルエンザウイルス1〜3型(hPIV1-3)及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、パラミクソウイルス科の非分節型のマイナス鎖RNAウイルスである。パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)は、モノネガウイルス目(Mononegavirales)内の科であり、パラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)とニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)からなる。パラインフルエンザウイルスは、パラミクソウイルス科のレスピロウイルス属(Respirovirus)のメンバー(PIV1、PIV2及びPIV3)である。ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)は、ニューモウイルス属(Pneumovirus)の1種であり、世界中で幼児及び小児の間の下気道感染症の単一の最も重要な原因である(Domachowske & Rosenberg, 1999, Clin. Microbio. Rev. 12(2):298-309)。hMPVは、軽度な上気道疾患から重篤な細気管支炎及び肺炎までの範囲の、hRSV感染により引き起こされるものを連想させる臨床症状を有するパラミクソウイルス科の新規メンバーである(Van Den Hoogen et al., 2001, Nature Medicine 7:719-724)。ヒトメタニューモウイルスのゲノム構成はvan den Hoogen et al., 2002, Virology 295:119-132に記載されている。合わせて、hPIV3及びRSV及びhMPVは、入院にまで至らせる小児呼吸器疾患の全症例のおよそ三分の一を占めると考えられている(Hall, 2001, N Eng J Med 344:1917-1927)。
【0003】
2.1 PIV感染
パラインフルエンザウイルス(PIV)感染は、幼児と小児で重症の呼吸器疾患を引き起こす(Taoら、1999, Vaccine 17:1100-08)。感染性パラインフルエンザウイルス感染症は、世界中で呼吸器感染症にかかった小児患者のすべての入院数の約20%を占める。同上。
【0004】
PIVは2つの構造モジュール(module)から構成されている:(1)内部リボ核タンパク質コア、又はヌクレオカプシド(ウイルスゲノムを含む)、(2)外部のほぼ球形のリポタンパク質エンベロープ。そのゲノムは、マイナスセンスRNAの1本鎖からなり、これは、約15,456ヌクレオチド長であり、少なくとも8個のポリペプチドをコードする。これらのタンパク質には、ヌクレオカプシド構造タンパク質(属によりNP、NC、又はN)、ホスホタンパク質(P)、マトリックスタンパク質(M)、融合糖タンパク質(F)、血球凝集素−ノイラミニダーゼ糖タンパク質(HN)、大ポリメラーゼタンパク質(L)、及び機能が未知のCタンパク質とDタンパク質がある(同上)。
【0005】
パラインフルエンザヌクレオカプシドタンパク質(NP、NC、又はN)は、RNAと直接相互作用するアミノ末端ドメイン(分子の約3分の2を含む)と、組み立てられたヌクレオカプシドの表面上に存在するカルボキシ末端ドメインとを含む、各タンパク質ユニット内の2つのドメインからなる。これらの2つのドメインの結合部にヒンジが存在すると考えられ、従ってこのタンパク質にある程度の可撓性を付与している(Fieldsら(編)、1991, Fundamental Virology, 第2版参照、ラーベンプレス(Raven Press)、ニューヨーク、これは参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)。マトリックスタンパク質(M)は明らかにウイルス組み立てに関与し、ウイルス膜とヌクレオカプシドタンパク質の両方と相互作用する。リン酸化を受けるホスホタンパク質(P)は、転写において制御的役割を果たし、またメチル化、リン酸化及びポリアデニル化にも関与している可能性がある。融合糖タンパク質(F)はウイルス膜と相互作用し、まず不活性前駆体として産生され、次に翻訳後切断を受けて2つのジスルフィド結合で結合したポリペプチドを産生する。活性Fタンパク質はまた、ウイルスエンベロープと宿主細胞原形質膜との融合を促進することにより、宿主細胞へのパラインフルエンザウイルス粒子の貫通を促進する(同上)。糖タンパク質である血球凝集素−ノイラミニダーゼ(HN)は、エンベロープから突き出て、ウイルスが血球凝集素活性及びノイラミニダーゼ活性を含有することを可能にする。HNはアミノ末端で強い疎水性であり、これがHNタンパク質を脂質二重層中に固定するよう機能する。同上。最後に大ポリメラーゼタンパク質(L)は、転写と複製の両方で重要な役割を果たす(同上)。
【0006】
2.2 RSV感染
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、幼児と小児の重症の下気道疾患の主原因である(Feigenら(編)、1987、Textbook of Pediatric Infectious Diseases中、ダブリュー・ビー・ソンダース(WB Saunders)、フィラデルフィア、1653〜1675頁;New Vaccine Development, Establishing Priorities、第1巻、1985、ナショナルアカデミープレス(National Academy Press)、ワシントンDC、397〜409頁;及びRuuskanenら、1993, Curr. Probl. Pediatr. 23:50-79)。RSV感染の毎年の流行性は世界的に明らかであるが、ある季節のRSV疾患の発症率と重症度は地域により変動する(Hall, 1993, Contemp. Pediatr. 10:92-110)。北半球の温帯地域では、これは通常晩秋に始まり晩春に終わる。1次RSV感染はほとんど6週齢〜2才の小児で起き、まれに院内流行中に生後4週間以内に起きる(Hallら、1979, New Engl. J. Med. 300:393-396)。RSV感染のリスクの高い小児には、特に限定されないが、早産児(Hallら、1979, New Engl. J. Med. 300:393-396)、気管支肺異形成の小児(Groothuisら、1988, Pediatrics 82:199-203)、先天性心疾患(MacDonaldら、New Engl. J. Med. 307:397-400)、先天性又は後天性免疫不全症(Ograら、1988, Pediatr. Infect. Dis. J. 7:246-249;及びPohlら、1992, J. Infect. Dis. 165:166-169)、及び嚢胞性繊維症(Abmanら、1988, J. Pediatr. 113:826-830)がある。RSV感染で入院した心疾患又は肺疾患の幼児の死亡率は、3%〜4%である(Navasら、1992, J. Pediatr. 121:348-354)。
【0007】
RSVは幼児や小児と同様に成人にも起きる。健常成人ではRSVは、主に上気道疾患を引き起こす。一部の成人(特に老人)は、以前報告されているよりはるかに高率に症候性RSV感染症を有することが、最近明らかになっている(Evans, A.S.(編)、Viral Infections of Humans. Epidemiology and Control, 第3版、Plenum Medical Book, ニューヨーク、525〜544頁)。ナーシングホーム患者及び施設の若者の間でもいくつかの流行が報告されている(Falsey, A.R., 1991, Infect. Control Hosp. Epidemiol. 12:602-608;及びGarvieら、1980, Br. Med. J. 281:1253-1254)。最後にRSVは、免疫抑制者、特に骨髄移植患者で重症の疾患を引き起こすことがある(Hertzら、1989, Medicine 68:269-281)。
【0008】
確立したRSV疾患の治療の選択肢は限定されている。下気道の重症のRSV疾患はしばしば、加湿酸素の投与と呼吸補助を含むかなりの補助治療が必要である(Fieldsら編、1990, Virology, 第2版、第1巻、ラーベンプレス(Raven Press)、ニューヨーク、1045-1072頁)。
【0009】
ワクチンによりRSV感染及び/又はRSV関連疾患を予防できる可能性があるが、まだこれを適応症として認可されたワクチンは無い。ワクチン開発に対する大きな障害は安全性である。ホルマリンで不活性化したワクチンは免疫原性であるが、これは予想外に、免疫した幼児で、同様に調製した3価パラインフルエンザワクチンを免疫した幼児よりも、RSVによるより高率かつ重症の下気道疾患を引き起こした(Kimら、1969, Am. J. Epidemiol. 89:422-434;及びKapikianら、1969, Am. J. Epidemiol. 89:405-421)。いくつかのRSVワクチン候補が断念されており、いくつかは開発中である(Murphyら、1994, Virus Res. 32:13-36)が、安全性の問題が解決してもワクチンの効力も改良しなければならない。解決すべき多くの問題がある。下気道疾患の発症率のピークは生後2〜5ヶ月であるため、誕生直後の新生児期免疫が必要である。新生児の免疫応答の未成熟さが母親から獲得したRSV抗体の高力価と組合わさって、新生児期のワクチンの免疫原性を低下させると予測される(Murphyら、1988, J. Virol. 62:3907-3910;及びMurphyら、1991, Vaccine 9:185-189)。最後に、1次RSV感染と疾患は、以後のRSV疾患に対して充分防御してくれない(Hendersonら、1979, New Engl. J. Med. 300:530-534)。
【0010】
現在RSV疾患の予防のために認可されている唯一の方法は受動免疫である。IgGの防御性役割を示唆する最初の証拠は、フェレット(Prince, G.A., 博士論文、カリホルニア大学ロサンゼルス校、1975)とヒト(Lambrechtら、1976, J. Infect. Dis. 134:211-217;及びGlezenら、1981, J. Pediatr. 98:708-715)の母親の抗体が関与する観察結果から得られた。Hemmingら(Morellら編、1986、Clinical Use of Intravenous Immunoglobulins、アカデミックプレス(Academic Press)、ロンドン、285-294頁)は、新生児敗血症が疑われる新生児の静脈内免疫グロブリン(IVIG)の薬物動態が関与する試験中に、RSV感染の治療又は予防においてRSV抗体が有用である可能性を認識した。この試験では、その呼吸器分泌物がRSVを生じた一人の幼児がIVIG注入後に急速に回復することが観察された。IVIGロットの以後の解析により、異常に高力価のRSV中和抗体が明らかになった。この同じ研究者のグループは次に、RSV中和抗体が濃縮された高度免疫血清又は免疫グロブリンが、RSV感染に対してコトンラット及び霊長類を防御する能力を調べた(Princeら、1985, Virus Res. 3:193-206;Princeら、1990, J. Virol. 64:3091-3092;Hemmingら、1985, J. Infect. Dis. 152:1083-1087;Princeら、1983, Infect. Immun. 42:81-87;及びPrinceら、1985, J. Virol. 55:517-520)。これらの研究の結果は、IVIGを、RSV感染の予防、さらにRSV関連障害の治療又は予防に用いることができることを示している。
【0011】
RSVのFタンパク質のA抗原性部位中のエピトープに対するヒト化抗体(SYNAGIS(登録商標))は、RSVシーズン(北半球では11月〜4月)中に、RSVにより引き起こされた重症の下気道疾患のために、推奨された月毎の投与量の15mg/kg体重で小児患者に筋肉内投与することが認可されている。SYNAGIS(登録商標)は、ヒト(95%)とマウス(5%)抗体配列の複合体である。Johnsonら、1997, J. Infect. Diseases 176:1215-1224及び米国特許第5,824,307号(その全内容は参照することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい。ヒトIgG1の定常ドメインとVH遺伝子の可変フレームワーク領域、又はCor(Pressら、1970、Biochem. J. 117:641-660)とCess(Takashiら、1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:194-198)からヒト重鎖配列が得られた。ヒト軽鎖配列は、Cκの定常ドメインと、Jκ-4を有するVL遺伝子の可変フレームワーク領域から得られた(Bentleyら、1980, Nature 288:5194-5198)。マウス配列は、ヒト抗体フレームワークへのマウス相補性決定領域の移植を含む方法により、マウスモノクローナル抗体Mab1129(Beelerら、1989, J. Virology. 63:2941-2950)から得られた。
【0012】
2.3 hMPV感染
最近、軽い上気道疾患から重症の細気管支炎と肺炎の、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)感染が引き起こす症状を思わせる臨床症状を有する28人の小児から、パラミクソウイルス科の新しいメンバーが単離された(Van Den Hoogenら、2001, Nature Medicine 7:719-724)。この新しいウイルスは、配列相同性と遺伝子配置に基づきヒトメタニューモウイルス(hMPV)と命名された。研究によりさらに、オランダのほとんどすべての子供は5才までにhMPVに暴露され、このウイルスは少なくとも半世紀ヒトの中を循環していることが証明された。さらにこの感染症の季節性はRSVと類似しており、冬の数ヶ月がピークである(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。しかしながら、hMPVは、RSVとは異なり、低い率ではあるが年間を通して単離することができる(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。hMPV感染のリスク因子もまたRSVで見出されるものと類似している。ヒトメタニューモウイルスによる感染の最も高い罹患率は、幼児、高齢者及び免疫不全者において見出されている。ヒトメタニューモウイルスによる感染は、早産の危険のある小児における疾患、未熟児の慢性肺疾患、鬱血性心疾患、及び免疫不全の顕著な負担である(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。ヒトメタニューモウイルスは最近、北アメリカの患者から単離された(Peretら、2002, J. Infect. Diseases 185:1660-1663)。
【0013】
ヒトメタニューモウイルスのゲノム構成は、Van Den Hoogenら、2002, Virology 295:119-132に記載されている。系統学的分析によって、hMPV株は、APVウイルスとは異なるA及びB亜群と称する2つの遺伝子クラスターに分類されている(Bastien et al 2003a及びb;Biacchesi et al, 2003;Peret et al 2002及び2004;van den Hoogen, 2002)。これらの亜群において、hMPVはさらにA1、A2、B1及びB2亜型に細分される(van den Hoogen, 2003)。
【0014】
hMPVは、RSVと類似の遺伝子構造を有するが、RSVに見出される非構造遺伝子を欠損している(van den Hoogen, 2002, Virology. 295:119-132)。両方のウイルスが、表面糖タンパク質(G)タンパク質及び融合(F)タンパク質として定義される類似の表面タンパク質をコードする。これらのG及びFタンパク質のアミノ酸配列の差異に基づいて、RSV及びhMPVのいずれもA及びB群に細分されている。しかしながら、hMPVではA及びB亜群のA1、A2、B1及びB2グループへのさらなる分岐がある(Boivin, 2004, Emerg. Infect. Dis.10:1154-1157, 25)。RSV及びhMPVウイルスの両方ではGタンパク質の配列は亜群間で広範な変動を示し、hMPVではGタンパク質はA及びB亜群間でわずかに30%の同一性を有する。RSV及びhMPVウイルスの両方に関して、Fタンパク質はより保存されており、既知のhMPV単離株においてFタンパク質のアミノ酸配列は95%が保存されている(Biacchesi, 2003, Virology 315:1-9; Boivin, 2004, Emerg. Infect. Dis.10:1154-1157; van den Hoogen, 2004, Emerg. Infect. Dis. 10:658-666)。ウイルスの構造上の類似性にもかかわらず、hMPV及びRSVのFタンパク質はわずかに33%のアミノ酸配列同一性を示すにすぎず、RSV又はhMPVに対して生じた抗血清は、ニューモウイルス亜科の群全体を中和することができない(Wyde, 2003, Antiviral Research. 60:51-59)。RSVに関して、融合(F)タンパク質に対する単一のモノクローナル抗体は、重篤な下気道RSV感染症を予防することができる。同様に、hMPV亜群全体にわたってFタンパク質の配列が高度に保存されているため、このタンパク質は、亜群交差反応性中和抗体の作製のための抗原性標的として好ましい可能性がある。
【0015】
ヒトメタニューモウイルスはトリニューモウイルス(APV)に関係している。例えばhMPVのFタンパク質は、APVのFタンパク質と相同性が高い。ヒトメタニューモウイルスのFタンパク質をマガモ(Mallard Duck)から単離されたトリメタニューモウイルスのFタンパク質とアライメントすると、エクトドメインが85.6%の同一性を示す。ヒトメタニューモウイルスのFタンパク質を七面鳥(亜群B)から単離されたトリニューモウイルスのFタンパク質とアライメントすると、エクトドメインが75%の同一性を示す。例えば、HallerとTangによる2002年2月21日に出願された本出願人による同時係属仮出願第60/358,934号(標題「メタニューモウイルスから得られた異種抗原を含む組換えパラインフルエンザウイルス発現系とワクチン」)を参照されたい(これは参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0016】
hMPVを用いる最近の研究に基づくと、hMPVは、ヒト、特に若年性の呼吸系疾患の重要な要因のようである。
【0017】
従って、ヒトの呼吸系疾患のかなりの部分がhPIV3、RSV及びhMPVにより引き起こされるという事実にも関わらず、これらのウイルスに対するワクチンは依然として利用可能ではない(Tangら, 2004, J Virol 78:11198-11207)。
【0018】
2.4 キメラウイルス
組換えウシPIV3ベクターを、ウシPIV3における融合(F)タンパク質及び血球凝集素ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパク質の遺伝子を、それぞれヒトPIV3及びNH遺伝子と置き換えることにより構築したことが報告されている(Haller et al., 2000, J Virol 74:11626-11635)。後の刊行物(Tang et al., 2003, J Virol 77:10819-10828)では、RSV F遺伝子のウシ-ヒトPIV3ベクター骨格への挿入によって、RSV Fタンパク質を発現するキメラウイルスを作製したことが記載されている。このキメラウイルスはMEDI-534と名づけられた。これは、動物研究において、生弱毒化二価ワクチンとして機能した。すなわち、MEDI-534で免疫したハムスター及び非ヒト霊長類が、RSV及びhPIV3によるチャレンジからの防御を示し、そしてそれらの動物は、RSV中和抗体及びhPIV3血液凝集阻害血清抗体を生成した(Tang et al., 2003, 前掲;Tang et al., 2004, 前掲)。
【0019】
有望な免疫原性及び前臨床動物モデルにおける防御結果から、MEDI-534に近縁の種々のウイルスの複製が、種々の許容される哺乳動物細胞系において行われた(Haller et al., 2003, J Gen Virol 84:2153-2162)。全ての事例において、Vero細胞が最も高いウイルス力価を生じた。MEDI-534ウイルスが、Vero細胞における最大10回の連続継代の間にRSV F遺伝子インサートを安定に維持していることが示された(Tang et al., 2003, 前掲)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
2.5 ウイルスの増殖
本発明は、ウイルスの増殖方法に関する。。ウイルスの増殖のための条件は、例えば本発明のウイルスワクチン候補の製造のために、有益と考えられる強固かつ高収量の細胞培養物を作製するために最適化される。
無血清培地
伝達性海綿状脳症(Asher, 1999, Dev Biol Stand 100: 103-118; Galbraith, 2002, Cytotechnology 39: 117-124)及び偶発的ウイルス(Erickson et al., 1989, Dev Biol Stand 70: 59-66)などの感染因子へのヒトの暴露に関する懸念が高まっていることを考慮して、米国(Food and Drug Administration)及び欧州(European Medicine Evaluation Agency)の規制当局は、生物製剤の製造業者に、その製造プロセスにおける動物起源物質の使用を低減及び排除するように推奨している(Castle and Robertson, 1999, Dev Biol Stand 99: 191-196)。
【0021】
熱感受性
熱感受性はウイルス系において観察されており、レトロウイルスパッケージング細胞の培養では37℃の代わりに32℃において、感染性ウイルス粒子の収量が最大2〜15倍に増大した(Kaptein et al., 1997, Gene Therapy 4: 172-176; Kotani et al., 1994 Hum Gene Ther 5: 19-28; Lee et al., 1996, Appl Microbiol Biotechnol 45: 477-483)。
【0022】
細胞密度効果
「細胞密度効果」は、バッチ培養におけるアデノウイルス産生について観察されており、感染時の細胞密度を増大させると特定のウイルス産生能が低減した(Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774; Nadeau and Kamen, 2003, Biotechnol Adv 20: 475-489)。慣用の流加(fed-batch)手法を用いて直面した失敗と比較して(Nadeau et al, 2002; Yuk et al., 2004 Biotechnol Bioeng 86: 637-642)、アデノウイルス産生における「細胞密度効果」を克服するために還流培養物を用いた成功があり(Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774; Yuk et al., 2004 Biotechnol Bioeng 86: 637-642)、これはバッチ及び流加条件下で蓄積する1以上の未同定阻害剤の存在についてほのめかしている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
3.発明の概要
本発明はウイルスの増殖方法に関する。ある実施形態において、本発明は、マイナス鎖RNAウイルスの増殖方法を提供する。特に、本発明は、非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスなどの増殖方法を提供する。具体的には、本発明は、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)の増殖方法を提供する。よりさらに具体的には、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、本発明の方法を利用してRSVヌクレオチド配列を発現するキメラヒト/ウシPIVを増殖させる。
【0024】
特に、本発明は、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地においてウイルスを感染させた細胞を培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。特定の実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。ある実施形態において、培地は、無血清培地、例えばOptiPROTM SFM又はVP-SFMTM又はSFM4MegaVirTM(SFM4MV)又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地などである。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。特定の実施形態において、CDLCは、プルロニックF-68(Pluronic F-68)、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含む。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、無血清培地においてウイルスに感染させた細胞を培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。想定される無血清培地としては、例えば、VP-SFMTM又はSM4MegaVirTM、OptiPROTM SFM又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地が挙げられる。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。別の実施形態において、使用する細胞は、無血清適応Vero細胞である。
【0026】
本発明はさらに、ウイルス増殖のための最適化条件を提供する。一実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染前は第1温度で、そしてウイルスによる感染後は第1温度よりも低い第2温度で培養する。特定の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染前(すなわち感染前)は約37℃で、ウイルスによる感染後(すなわち感染後)は約29〜約37℃で培養する。別の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染後は約33℃で培養する。別の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染後は約30℃で培養する。
【0027】
一実施形態において、ウイルスの播種密度は1e5〜2e5細胞/cm2の範囲である。別の実施形態において、播種密度は2.1 e4〜2.9 e4細胞/cm2である。別の実施形態において、播種密度は2.4 e4細胞/cm2である。また別の実施形態において、ウイルスの播種密度は2e5細胞/cm2である。
【0028】
別の実施形態において、細胞を、約0.0001〜約0.1の範囲の感染多重度(MOI)のウイルスと共に培養する。また別の実施形態において、細胞を、約0.001〜約0.01の範囲のMOIで培養する。
【0029】
また別の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染前は血清の存在下で培養する。一実施形態において、感染前培地はウシ胎仔血清を含む。
【0030】
一実施形態において、感染の時期は播種後3又は4日目(dps)である。一実施形態において、感染後の時間は4〜11日の範囲である。別の実施形態において、感染後の時間は、約5日又は約6日又は約8日である。また別の実施形態において、感染の時期は、細胞が1e6 細胞/cm2以上に達したときである。
【0031】
一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、バッチプロセス(batch process)又は流加プロセス(fed-batch process)のいずれかでバイオリアクター中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、該バイオリアクター中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。特定の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、単回使用バイオリアクター(SUB)中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物 は、SUB中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。
【0032】
一実施形態において、本発明の方法及び組成物の結果としてのウイルス力価は、少なくとも5 log10 TCID50/ml、少なくとも6 log10 TCID50/ml、少なくとも7 log10 TCID50/ml、少なくとも8 log10 TCID50/ml、少なくとも9 log10 TCID50/ml、少なくとも10 log10 TCID50/mlである。
本発明の方法はまた、組換えウイルスゲノムからウイルスをレスキューする場合に用いることも可能である。
【0033】
3.1 規約及び略語
ADCF:動物由来成分不含
CDLC:既知組成(chemically defined)脂質濃縮物
Dpi:感染後日数
Dps:播種後日数
ΔM2-2:M2-2オープンリーディングフレーム欠失を有する組換え生弱毒化RSVウイルス(Jin et al., Vaccine, 2003 pp. 3647-52)
ΔNS-1:NS-1オープンリーディングフレーム欠失を有する組換え生弱毒化RSVウイルス((Jin et al., Vaccine, 2003 pp. 3647-52)
F:融合
FBS:ウシ胎仔血清
HMPV:ヒトメタニューモウイルス
hPIV1-3:ヒトパラインフルエンザウイルス1型、2型又は3型
HN:血球凝集素ノイラミニダーゼ
MEDI-534:キメラウシ/ヒトパラインフルエンザウイルス3型/RSウイルス(Tang et al., 2003 J Virol 77: 10819-1828)
MEDI-559:MEDI-559は、rA2cp248/404/1030ΔSHと称する生弱毒化RSVウイルスである(Karron et al., JID vol 191 p. 1093 (2005))
MOI:感染多重度
PIV3:パラインフルエンザウイルス3型
増殖:ウイルス粒子数の増大
RB:ローラーボトル
MEDI-560又はrcp45 hPIV3:wt HPIV3を冷却継代(45サイクル)した組換え体(Karron et al., Pediatr. Inf. Dis. J. 2003, 22:394-405)
RSV:呼吸器合胞体(RS)ウイルス
SFM:無血清培地
SUB:単回使用バイオリアクター
TCID50:50%組織培養感染量
Vero:アフリカミドリザル腎細胞系
v/v:体積対体積比
【図面の簡単な説明】
【0034】
4.図面の説明
【図1】種々のMOIでのウイルス産生プロフィール。無血清Vero細胞のT-75フラスコの2つの複製に、播種後3日目にMOI 0.1、0.01、0.001、0.0001又は0.00001でMEDI-534を感染させた。培養物を感染前及び感染後に37℃でインキュベートした。
【0035】
【図2】(a)感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響。無血清Vero培養物に播種後3日目にMOI 0.001を用いてMEDI-534を感染させた(0.6×107細胞/フラスコ)。T-75フラスコの2つの複製を感染後に33℃又は37℃でインキュベートした。
【0036】
(b)感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響。無血清Vero培養物に播種後5日目にMOI 0.001を用いてMEDI-534を感染させた(0.6×107細胞/フラスコ)。T-75フラスコの2つの複製を感染後に33℃又は37℃でインキュベートした。
【0037】
【図3】感染前にFBSで滴定したRB培養物のウイルス産生プロフィール。Vero細胞をRBの3つの複製において次の培地: OptiPROTM SFM、OptiPROTM SFM+0.5%(v/v) FBS、及びOptiPROTM+2%(v/v) FBSの1つに播種した。播種後3日目に、各条件のRBの1つを細胞計数のためにトリプシン処理した:OptiPROTM SFM(1.9×107細胞/フラスコ)、OptiPROTM SFM+0.5% (v/v) FBS(9.3×107細胞/フラスコ)及びOptiPROTM+2% (v/v) FBS(10.4×107細胞/フラスコ)。残りの2つの3種のRBに、MOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0038】
【図4】(a)種々の感染前培地及び添加物における細胞収量の比較。Vero細胞を、条件あたり4つのRBで次の5つの培地:(1) OptiPROTM SFM、(2) OptiPROTM SFM+1% (v/v) CDLC、(3) OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS、(4) VP-SFM、及び(5) VP-SFM+1%(v/v) CDLCの1つに播種した。播種後3日目に、条件あたり2つのRBを細胞計数のために用いた。残りのRB複製セットにMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0039】
(b)種々の感染前培地及び添加物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、条件あたり4つのRBで次の5つの培地:(1) OptiPROTM SFM、(2) OptiPROTM SFM+1% (v/v) CDLC、(3) OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS、(4) VP-SFM、及び(5) VP-SFM+1%(v/v) CDLCの1つに播種した。播種後3日目に、条件あたり2つのRBを細胞計数のために用いた。残りのRB複製セットにMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0040】
【図5】(a)種々の感染前培地を用いたRBにおける細胞増殖の比較。Vero細胞をOptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCに播種した。増殖曲線を作成するために、各条件のRBの2つの複製を毎日計数した。
【0041】
(b)種々の感染前培地を用いたRBにおけるウイルス産生の比較。Vero細胞をOptiPROTM+0.5% (v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCに播種した。ウイルス産生プロフィールを作成するために、2種の感染前培地における2つの複製のRB培養物に播種後3日目にMEDI-534を感染させた。感染させた培養物を、感染後2〜7日目に毎日サンプリングした。
【0042】
【図6】(a)感染前にCDLCを用いて滴定したRB培養物における細胞収量の比較。Vero細胞を、2つの複製において、3つの異なる濃度のCDLCを添加した無血清増殖培地(VP-SFM)に播種した。播種後4日目に、培養物を、細胞計数のためにトリプシン処理し、3つの異なる濃度で添加したCDLCを含むVP-SFM中で継代させた(4つの複製)。播種後3日目に、条件あたり2つの複製のRBを計数し、残りの複製のRBセットにMEDI-534を感染させた。
【0043】
(b)感染前にCDLCを用いて滴定したRB培養物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、2つの複製において、3つの異なる濃度のCDLCを添加した無血清増殖培地(VP-SFM)に播種した。播種後4日目に、培養物を、細胞計数のためにトリプシン処理し、3つの異なる濃度で添加したCDLCを含むVP-SFM中で継代させた(4つの複製)。播種後3日目に、条件あたり2つの複製のRBを計数し、残りの複製のRBセットにMEDI-534を感染させた。
【0044】
【図7】種々の感染後培地におけるMEDI-534産生の比較。RB培養物をVP-SFM+1%(v/v) CDLCに接種した。播種後3日目に、2つの複製のRBに、次のSFM:VP-SFM+1%CDLC、VP-SFM及びWMEのうちの1つにおいてMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0045】
【図8】(a)種々の感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物における細胞増殖の比較。Vero細胞を、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCのいずれか中に2 g/L CytodexTM 1を含有する2つの複製のスピナーフラスコに播種した。増殖曲線を作成するために、核を計数するための未感染フラスコから毎日サンプル採取した。
【0046】
(b)種々の感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCのいずれか中に2 g/L CytodexTM 1を含有する2つの複製のスピナーフラスコに播種した。ウイルス産生プロフィールを作成するために、各感染前培地における2つの複製のフラスコに、播種後5日目にMEDI-534を感染させた。
【0047】
【図9】(a)種々のpHに制御されたバイオリアクターにおける感染前Vero細胞増殖の比較。Vero細胞を、pH 7.0、pH 7.2又はpH 7.4に維持されたVP-SFM+1% (v/v)CDLC中に2 g/L CytodexTM 1を含有するバイオリアクターに播種した。感染前の核を計数するためにバイオリアクターから毎日サンプル採取した。
【0048】
(b)種々のpHに制御されたバイオリアクターにおけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、pH 7.0、pH 7.2又はpH 7.4に維持されたVP-SFM+1%(v/v)CDLC中に2 g/L CytodexTM 1を含有するバイオリアクターに播種した。播種後4日目に、バイオリアクター培養物にMEDI-534を感染させた。
【0049】
【図10】50%空気飽和度のDO、pH 7.1、温度37℃を用いた3L バイオリアクターにおけるVero細胞増殖に攪拌速度が及ぼす影響。高攪拌速度は125 rpmであり、低攪拌速度は65 rpmである。125 rpmの攪拌速度によって細胞増殖が向上し、細胞はより高密度まで増殖した。
【0050】
【図11】CytodexTM 1密度が3L バイオリアクターにおけるVero細胞増殖に及ぼす影響。DOは50%空気飽和度とし、pH 7.1に設定し、温度は37℃とした。攪拌速度125 rpmを使用した。2つのバイオリアクターは2 g/Lで、2つは4 g/LでCytodexTM 1を含有した。4 g/LのCytodexTM 1を含む培養物は、2 g/LのCytodexTM 1を含む培養物よりも細胞密度が高かった。
【0051】
【図12】RSV ΔM2-2産生に及ぼすCytodexTM 1密度の影響。細胞にRSV ΔM2-2ウイルスをMOI 0.01で感染させ、振とうインキュベーター内で33℃、5%CO2で100 rpmで振とうして培養した。4 g/LのCytodexTM 1を含む培養物は、2 g/Lのマイクロキャリアビーズを含む培養物よりも高いウイルス力価を生じた。
【0052】
【図13】4 g/LのCytodexTM 1、125 rpm 攪拌速度、50%DO、pH 7.1及び37℃で3日間培養したバイオリアクターにおけるVero細胞増殖曲線。
【0053】
【図14】バイオリアクターにおけるMEDI-559の産生。2つの複製のバイオリアクター培養物に、無血清増殖培地中2e5 細胞/mLでVero細胞を接種し、4 g/LのCytodexTM 1、125 rpm 攪拌速度、50%DO、pH 7.1及び37℃で3日間培養した。細胞増殖は、各バイオリアクターから毎日サンプル採取し、培養物サンプル中の核を計数することによりモニターした。培養3日目に攪拌を停止し、マイクロキャリアビーズをバイオリアクターの底に沈降させた。続いてマイクロキャリアビーズ上の細胞を残しながら使用済み培養培地をバイオリアクターから取り出し、同量の新しい感染後培地(SFM4MegaVirTM+4 mM L-Gln)に置き換えた。攪拌を125 rpmで再開した。培養温度を30℃に低減し、pH 7.0に設定した。次に細胞にMEDI-559をMOI 0.01で感染させ、30℃で10日間培養を継続した。7〜10日目に培養物から毎日サンプル採取した。ウイルス力価は、TCID50アッセイにより測定した。ストレートバッチ(straight batch)プロセスを用いて、およそ8 log10 TCID50/mlの産生能が達成された。
【0054】
【図15】以下の感染条件からの使用済み培養培地における感染性MEDI-560力価:(◇) SFM4MegaVir培地及び30℃、(■) ウィリアムスE培地中30℃、(◆) SFM4MegaVir培地中32℃、(□) ウィリアムスE培地中32℃、及び(△) Ex-Cell Vero培地中32℃。
【0055】
【図16】3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。細胞密度はミリリットルあたりの細胞で測定した(細胞/mL)。
【0056】
【図17】3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。細胞密度はマイクロキャリアあたりの細胞で測定した。
【0057】
【図18】A及びB:感染前の3つのバイオリアクター培養物のグルコース及び乳酸塩プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0058】
【図19】A及びB:感染前の3つのバイオリアクター培養物のグルタミン及びアンモニウムイオンプロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0059】
【図20】A及びB:感染段階における3つのバイオリアクター培養物のグルコース及び乳酸塩プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0060】
【図21】A及びB:ウイルス感染段階における3つのバイオリアクター培養物のグルタミン及びアンモニウムイオンプロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0061】
【図22】1:5比で分割後の経時的な、ビーズ間移行についての4つの異なる断続的攪拌レジメンを用いて拡張したバイオリアクターにおける細胞増殖プロフィール。
【0062】
【図23】ローラーボトルからの細胞を播種した3Lバイオリアクター(新たに播種)、1:5分割比で1回拡張した後のバイオリアクター培養物(1X 1:5 移行)、及び1:5分割比で2回連続拡張したバイオリアクターに由来する培養物(2X 1:5移行)、における細胞増殖プロフィール。
【図24】1回及び2回拡張した後の培養物中のマイクロキャリアビーズ上の細胞分布。
【0063】
【図25】ローラーボトルからの細胞を播種したバイオリアクター培養物(新たに播種)、1:5分割比で1回拡張した後のバイオリアクター培養物(1X 1:5 移行)、及び1:5分割比で2回連続拡張したバイオリアクターに由来する培養物(2X 1:5移行)、におけるMEDI-560産生の比較。
【発明を実施するための形態】
【0064】
5.発明の説明
本発明は、ウイルスの増殖方法に関する。特定の実施形態では、頑健であり、スケーラブル(拡張可能)でありかつ生産性の高い細胞培養(これは例えば、本発明のウイルスワクチン候補の製造に有益であろう)を生成するためにウイルス増殖の条件を最適化する。一実施形態において、既知組成培地を用いて、動物起源の物質を回避又は低減し、そしてウイルス産生を増大させる。重要なパラメータを特定することができ、生産プロセスは、まず、拡張性、頑健さ、及び再現精度を決定する小規模実験で最適化することができ、後に、ウイルスの大規模生産に適合させることができる。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の方法を使用して増殖が行われるウイルスは、マイナス鎖RNAウイルスである。ある実施形態では、増殖が行われるウイルスは、非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスである。本発明は具体的には、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)の増殖方法を提供する。よりさらに具体的には、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、キメラヒト/ウシPIVはRSVヌクレオチド配列を発現する。特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、オープンリーディングフレーム、例えばM2-2又はNS-1などの欠失を有するものである。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、rcp45 hPIV3又はMEDI-560であるものである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、付着した細胞に感染し、そこで複製するウイルスである(第5.5節も参照されたい)。
【0066】
細胞は、ウイルスによる感染前(すなわち感染前)に培地中で培養する。感染前培地は、FBSなどの血清を含有してもよい。続いて、細胞にウイルスを感染させ、培地において培養する。感染後培地は血清を実質的に含まないものであってよい。その後ウイルスを採集する。
【0067】
特に、本発明は初めて、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を添加した培地において細胞を培養することによりウイルスを増殖させるための方法を提供する。ある実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。特定の、より具体的な実施形態において、培地は無血清である。一実施形態においては、既知組成の培地を使用して、変動を回避し、ウイルス産生を増大させる。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。ある実施形態において、CDLCは、プルロニックF-68(Pluronic F-68)、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含む。特定の実施形態において、CDLCは、100,000 mg/LのPluronic F-68、100,00 mg/Lのエチルアルコール、220 mg/Lのコレステロール、2,200 mg/LのTween 80、70 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10 mg/Lのステアリン酸、10 mg/Lのミリスチン酸、10 mg/Lのオレイン酸、10 mg/Lのリノール酸、10 mg/Lのパルミチン酸、10 mg/Lのパルミトレイン酸、2 mg/Lのアラキドン酸、及び10 mg/Lのリノレン酸を含む(第5.1.1節も参照されたい)。
【0068】
特定の実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。ある実施形態において、培地は、無血清培地、例えばOptiPROTM SFM又はVP-SFMTM又はSFM4MegaVirTM(SFM4MV)又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地などである。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。
【0069】
本発明は、ウイルス増殖のためのさらなる最適化条件を提供する。一実施形態において、細胞力価は、ウイルスと共に細胞を培養する前に最大化させる。ある実施形態において、対象のウイルス又はウイルス構築物による感染前は血清含有培地において細胞を培養し、ウイルス又はウイルス構築物による感染後は血清を含まない培地において細胞を培養する。特定の実施形態において、血清は、ウシ胎仔血清であり、培養体積の10%、培養体積の5%、培養体積の2%、又は培養体積の0.5%の濃度で存在する。他の好ましい実施形態において、ウイルスは、発癌性が低減し、ウイルス増殖を促進する細胞を用いて培養する。ある実施形態において、ウイルス増殖のために使用する細胞はVero細胞である。他の実施形態において、ウイルス増殖のために使用する細胞培養物は還流培養物である(第5.1.2節も参照されたい)。
【0070】
ある実施形態において、ウイルス力価は、感染後培養条件に関するパラメータを変更することによって高められる。特に、ウイルスは、無血清培地において増殖させることができる。無血清培地は、任意の無血清培地、例えば限定されるものではないが、OptiPROTM SFM(Gibco Cat 12309-019、2005)、及びウイルス産生無血清培地(VP-SFM)(Gibco Cat 11681-020, 2005)又はSFM4MegaVirTM(Hyclone)又はEx-Cell VeroTM(SAFC Biosciences)又はウイリアムスE培地(Hyclone)などとすることができる(第5.1.1節も参照されたい)。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、細胞の感染に使用するウイルス力価を変更することによりウイルス産生を最適化するための方法に関する。細胞の感染に使用するウイルスの平均数は、感染多重度(MOI)と称されている。特定の実施形態において、Vero細胞の感染に使用するMOIは約0.0001〜約0.1の範囲である。別の実施形態において、MOIは約0.001〜約0.01の範囲である。一実施形態において、MOIは0.001である。別の実施形態において、MOIは0.01である(第5.3節も参照されたい)。
【0072】
また別の実施形態において、本発明は、プロセス及び培養条件のパラメータを変更することによりウイルス産生を増大する方法に関する。特に、本発明は、感染後の培養温度を低くシフトする改良方法に関する。特定の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染前は約37℃(すなわち37±1℃)で培養し、ウイルスによる感染後は約29℃(すなわち29±1℃)から約35℃(すなわち35±1℃)で培養する。一実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染後に約33℃(すなわち33±1℃)で培養する。別の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染後に約30℃(すなわち30±1℃)で培養する(第5.2節も参照されたい)。
【0073】
慣用のアッセイを用いて、特定の宿主細胞型及び/又はウイルスのための個々のパラメータを最適化することができる。小規模実験を実施して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。具体的には、T-フラスコ(例えば、T-25又はT-75フラスコなど)を小規模実験において用いて、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。 続いて、ウイルス産生プロセスを、中規模産生、例えばローラーボトル又はスピナーフラスコを用いる産生にまで増大させる。一実施形態において、スピナーフラスコは、ウイルスの中規模産生のためのマイクロキャリアを使用する(第5.4節も参照されたい)。
【0074】
ウイルスは、細胞培養のためのマイクロキャリアを用いて増殖させることができる。マイクロキャリアを使用する利点は、細胞増殖を改善するために、培養物中で増殖させる細胞、特に付着細胞系、例えばVero細胞などにとって、表面積が増大することである。本発明に関連して使用するマイクロキャリアは、任意のマイクロキャリア、例えば限定されるものではないが、Pronactin F、CytodexTM 1及びCytodexTM 3などとすることができる。一実施形態において、マイクロキャリアはCytodexTM 1である。一実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、約2 g/L〜約20g/Lの範囲である。別の実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、バッチプロセスについては約2 g/L、約4 g/L、又は約5g/Lである。別の実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、流加プロセスについては約20 g/Lである。
【0075】
マイクロキャリアビーズ上で培養した後、ウイルス細胞培養物の拡張(expansion)をトリプシンを用いて行うことができる。この目的のため、トリプシンを使用して、培養細胞をマイクロキャリアビーズから剥離させ、続いて培養物に加えられる新たなマイクロキャリアビーズに細胞を付着させて、拡張及び増殖させる。
【0076】
あるいは、ウイルス細胞培養物の拡張は、トリプシンの不在下で行ってもよい。バイオリアクターにおいてウイルス細胞培養物を拡張するための直接ビーズ間移行(direct bead-to-bead transfer)を代わりに用いる。ウイルス細胞培養物の細胞を、それらが付着するマイクロキャリアビーズから直接に移動させて、新たに加えられるビーズに付着させ、拡張及び増殖させる。直接ビーズ間移行に関する本発明の一実施形態では、培養時間の期間にわたりウイルス細胞培養物に種々の断続的な攪拌を行う。一実施形態において、断続的攪拌は、1、2、3又はそれ以上のサイクルで行う。一実施形態において、各サイクルは、最大5時間、最大8時間、最大24時間の持続時間、又は培養時間の全持続時間を有する。別の実施形態において、断続的攪拌は、最初のサイクルにおいて125 rpmにて5分間行い、続いて0 rpmで30分間停止する。別の実施形態において、断続的攪拌は、最初のサイクルにおいて125 rpmにて10分間行い、続いて0 rpmで50分間停止する。別の実施形態において、断続的攪拌は、2回目のサイクルにおいて125 rpmにて1時間行い、続いて0 rpmで1時間停止する。また別の実施形態において、攪拌は、2回目のサイクルにおいて125 rpmにて一定である。また別の実施形態において、攪拌は、3回目のサイクルにおいて125 rpmにて一定である。表VIIIを参照されたい。
【0077】
上記に加えて、直接ビーズ間移行はまた、マイクロキャリアビーズを含有する新たな増殖培地で1:1又は1:5の比で培養物を分割することによるウイルス細胞培養物の拡張を含んでもよい。一実施形態において、培養物は、ウイルス細胞培養物密度が1e6 細胞/mL以上である場合に分割する。
【0078】
本発明のウイルス構築物及び方法は、ウイルスの商業的生産、例えばワクチン製造のために用いることができる。ワクチンの商業的製造のために、ワクチンは、増殖させた生弱毒化ウイルスのみを含有することが好ましい。製造過程に混入する偶発的因子によるワクチンの汚染もまた回避する必要がある。本発明のワクチンの商業的製造のために、ウイルス又はウイルスタンパク質の大規模製造のための当技術分野で公知の方法を用いることができる。
【0079】
一実施形態において、本発明のワクチンの商業的製造のために、細胞をバイオリアクター又は発酵槽中で培養する。バイオリアクターは、1リットル未満から100リットルを超えるまでの体積で、例えば、Cyto3バイオリアクター(Osmonics, Minnetonka, MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison, N.J.);並びにB. Braun Biotech International製の実験室用及び商業的規模バイオリアクター(B. Braun Biotech, Melsungen, Germany)が入手可能である。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は3Lバイオリアクターにおいて増殖させる。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は15Lバイオリアクターにおいて増殖させる。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は30Lバイオリアクターにおいて増殖させる。このようなバイオリアクターは、例えば攪拌型タンクApplikonバイオリアクターとすることができる。特定の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物を、単回使用バイオリアクター(SUB)中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物 は、SUB中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。別の実施形態において、ウイルスの商業的製造の前に小規模プロセスの最適化研究を行い、最適化条件を選択し、ウイルスの商業的製造に使用する。
【0080】
一実施形態において、ウイルスは以下の通り増殖させる。すなわち、そこでウイルスが十分に増殖することが知られている細胞を、最適増殖条件(例えば血清を用いて37℃)にて増殖させ、細胞をCDLC富化培地(例えば、血清を含まない又は血清を実質的に含まない培地)中に入れ、細胞にウイルスを感染させ、感染細胞を感染前培養よりも低い温度(例えば、33℃又は30℃)にて培養する。
【0081】
本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、少なくとも7 log10 TCID50/mLの得られるウイルス力価を達成する。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも7.5 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも8 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも8.5 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも9 log10 TCID50/mLである。
【0082】
本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、ウイルス採集バッチあたり特定の数のワクチン用量を生じることができる。一実施形態において、本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、30Lのウイルス採集バッチあたり、少なくとも1,000,000、少なくとも2,000,000、少なくとも5,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも10,000,000、少なくとも11,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも15,000,000、少なくとも20,000,000、少なくとも25,000,000、少なくとも30,000,000、少なくとも35,000,000、少なくとも40,000,000、少なくとも45,000,000、少なくとも50,000,000、少なくとも55,000,000、少なくとも60,000,000、少なくとも65,000,000、少なくとも70,000,000、少なくとも75,000,000、少なくとも80,000,000、少なくとも85,000,000、少なくとも90,000,000、少なくとも100,000,000、少なくとも105,000,000、少なくとも110,000,000、少なくとも115,000,000、少なくとも120,000,000、少なくとも125,000,000、少なくとも130,000,000、又は少なくとも135,000,000のワクチン用量を生じることができる。
【0083】
5.1 無血清培地
ウイルス、細菌及び真菌による血清の汚染は、生物医薬の製造に関する問題である。特に、伝達性海綿状脳症(Asher, 1999, Dev Biol Stand 100: 103-118; Galbraith, 2002, Cytotechnology 39: 117-124)及び偶発的ウイルス(Erickson et al., 1989, Dev Biol Stand 70: 59-66)などの感染因子へのヒトの暴露に関する懸念が高まっている。このため、製造プロセスにおける、血清を含まず、動物成分を含まず、タンパク質を含まない培地配合物の採用の原動力となっている(Castle and Robertson, 1999, Dev Biol Stand 99: 191-196)。従って、無血清培地又は実質的に無血清の培地が、細胞の培養のための標準的血清含有培地の代わりとなることが優れている。
【0084】
ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、動物又はヒトに由来する成分を添加することなく増殖及び/又は維持することができる細胞である。ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、実質的に血清を含まない培地中で増殖する。ある実施形態において、ウイルス増殖のための細胞は、血清を含まない増殖に適応させた細胞である。特定の実施形態において、Vero細胞をウイルス増殖に使用する。本発明の目的のため、無血清培地は、任意の無血清培地、例えば限定されるものではないが、OptiPROTM SFM(Gibco Cat 12309-019)及びウイルス産生無血清培地(VP SFM)(Gibco Cat 11681-020)などとすることができる。ある実施形態において、増殖させるウイルスに感染させた細胞の培養に使用する培地は、血清を実質的に含まない。
【0085】
OptiPROTM SFMは、血清を含まず、タンパク質、ペプチド又は動物若しくはヒト起源の他の成分を含有しない超低量タンパク質(7.5μg/ml)培地である。OptiPROTM SFMのストック溶液は、2℃〜8℃の温度で暗所で保管される。OptiPROTM SFMは、培地に付着タンパク質を添加したり又はそれ自身の付着タンパク質の製造のために細胞を誘導することによって付着表面を前処理する必要なく、数多くの付着依存性細胞系の増殖をサポートするという点で特有のものである。
【0086】
VP-SFMは、血清を含まず、タンパク質、ペプチド又は動物若しくはヒト起源の他の成分を含有しない超低量タンパク質(5μg/ml)培地である。VP- SFMは、即時使用液体状態で入手可能であり、2℃〜8℃の温度で暗所で保管される。
【0087】
EX-CELLTM Vero(SAFC BioSciences, JRH Catalog No. 14585)は、血清を含まず、動物由来成分を含まない。この培地は、植物由来の加水分解物及び低レベルの組換えタンパク質を含有するが、フェノールレッド又はPluronic(登録商標) F68を含有しない。
【0088】
ある実施形態において、無血清培地は、既知組成のもの、例えばFNC Coating Mix(登録商標)(Athena Environmental Sciences)、UltaMEMTM(Cambrex Corporation)、HL-1TM(Cambrex Corporation)、NeurobasalTM A培地(Invitrogen)、MAM-PF-1,-2-3(Promocell)、RenCyteTM BHK(Medicult)、ウイリアムスE培地(Sigma-Aldrich)、及びNutridoma-NS Supplement(Roche)などである。他の実施形態において、無血清培地は、未知組成のもの、例えばOptiPROTM SFM及びVP-SFM又はSFM4MegaVirTM(Hyclone)などである。
【0089】
一実施形態において、本発明は、血清を実質的に含まない培地を用いてウイルス産生を高める方法に関する。血清を実質的に含まない培地は、5% v/v未満の血清、2.5% v/v未満の血清、1% v/v未満の血清、0.1% v/v未満の血清、0.01% v/v未満の血清、又は0.001% v/v未満の血清を含有する培地とすることができる。ある実施形態において、ウイルスは、5% v/v未満の血清、2.5% v/v未満の血清、1% v/v未満の血清、0.1% v/v未満の血清、0.01% v/v未満の血清、又は0.001% v/v未満の血清を含有する培養培地においてウイルスを感染させた細胞をインキュベートすることによって増殖させる。ある実施形態において、ウイルスは、血清を完全に欠損するものにおいてウイルスを感染させた細胞をインキュベートすることによって増殖させる。ある実施形態において、ウイルスは、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む無血清培地において増殖させる。
【0090】
ある実施形態において、細胞は最初に血清含有培地において培養し、続いて細胞から血清含有培地を取り除き、血清を含まない培地を添加することによって、血清を含まない培地に移す。ある実施形態において、細胞を血清を含まない培地で洗浄して、ウイルスに感染させた細胞を、確実に血清不在下でインキュベートする。特定のより具体的な実施形態において、細胞を、血清を含まない培地で少なくとも1回、2回、3回、4回、5回又は少なくとも10回、洗浄する。ある実施形態において、細胞を無血清培地で培養した後、それらにウイルスを感染させる。CDLCは、ウイルスの感染前又は感染後に添加することができる。
【0091】
5.1.1 培地への既知組成脂質濃縮物の添加
本発明は初めて、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地において細胞を培養することによりウイルスを増殖させる方法を提供する。本発明は、ウイルスによる感染の前に、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地において細胞を培養することを想定している。血清を実質的に含まない規定の培地を使用する利点の1つは、汚染及び免疫原性刺激のリスクの回避である。汚染としては、限定されるものではないが、ウイルス、タンパク質及びマイコプラズマが挙げられる。理論により制限されるものではないが、無血清培地へのCDLCの添加は、細胞付着を促進し、それにより哺乳動物培養系におけるエンベロープウイルスの力価を増大する点で有効である。
【0092】
一実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。ある実施形態において、CDLC添加培地は、Pluronic F-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含有する。他の実施形態において、CDLCは、100,000 mg/LのPluronic F-68、100,00 mg/Lのエチルアルコール、220 mg/Lのコレステロール、2,200 mg/LのTween 80、70 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10 mg/Lのステアリン酸、10 mg/Lのミリスチン酸、10 mg/Lのオレイン酸、10 mg/Lのリノール酸、10 mg/Lのパルミチン酸、10 mg/Lのパルミトレイン酸、2 mg/Lのアラキドン酸、及び10 mg/Lのリノレン酸を含む。他の実施形態において、CDLCは、50,000〜250,000 mg/LのPluronic F-68、50,000〜250,000 mg/Lのエチルアルコール、100〜300 mg/Lのコレステロール、1,000〜4,000 mg/LのTween 80、50〜100 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、5〜20 mg/Lのステアリン酸、5〜20 mg/Lのミリスチン酸、5〜20 mg/Lのオレイン酸、5〜20 mg/Lのリノール酸、5〜20 mg/Lのパルミチン酸、5〜20 mg/Lのパルミトレイン酸、1〜5 mg/Lのアラキドン酸、及び5〜20 mg/Lのリノレン酸を含む。
【0093】
ある実施形態において、CDLC添加培地は0.1% v/v〜5% v/v CDLCを含有する。ある実施形態において、CDLC添加培地は、0.1% v/v、0.5% v/v、1% v/v、2% v/v、3% v/v、4% v/v、又は5% v/vを含有する。別の実施形態において、CDLC添加培地は1% v/vのCDLCを含有する。
【0094】
ある実施形態において、CDLCは、感染前に細胞培養物培地に添加する。他の実施形態において、少なくとも1種の脂質を外因的に感染後培地に添加する。
【0095】
5.1.2 感染前培地への血清添加
ある実施形態では、対象のウイルス又はウイルス構築体に感染させる前には、血清を含有する培地中で細胞を培養し、そのウイルス又はウイルス構築体に感染させた後には、無血清培地中で細胞を培養する。特定の実施形態では、血清がウシ胎仔血清であり、培養容積の10%、培養容積の5%、培養容積の2%、又は培養容積の0.5%の濃度で存在する。ある実施形態において、血清は、限定されるものではないが、ウシ胎仔血清、ヒト結成、ウシ新生児(newborn bovine)血清、新生仔牛(newborn calf)血清、ドナーウシ血清、ドナーウマ血清とすることができる。
【0096】
ある実施形態では、ウイルスに感染させる前に、血清を含有する培地中で細胞をインキュベートする。ある実施形態では、細胞をウイルスに感染させた後に、血清の不在下で細胞をインキュベートする。他の実施形態では、最初に、血清を含有する培地中で細胞をインキュベートし、次に細胞を無血清の培地に移し、そしてその後、細胞にウイルスを感染させ、細胞をウイルスの不在下でさらにインキュベートする。
【0097】
ある実施形態では、細胞から血清含有培地を除去し、そして無血清培地を添加することによって、血清を含有する培地から血清を含有しない培地に細胞を移行させる。他の実施形態では、細胞を遠心し、血清を含有する培地を除去し、そして無血清培地を添加する。ある実施形態では、ウイルスに感染した細胞が確実に血清の不在下でインキュベートするために、細胞を無血清の培地で洗浄する。ある特定のより具体的な実施形態では、細胞を無血清培地で少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、又は少なくとも10回洗浄する。
【0098】
5.2 感染前から感染後の温度シフト
ある実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクションの前には、細胞の増殖に最適の温度で、血清含有培地中で細胞を培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、より低い温度(対応するウイルス又はウイルスベクターにとって標準的なインキュベーション温度と比較して)で細胞培養物をインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃又は37℃付近(すなわち37℃±1℃)で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、33℃又は33℃付近(すなわち33±1℃)で細胞培養物をインキュベートする。別の実施形態において、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、37℃又は37℃付近(すなわち37±1℃)で細胞を血清含有培地中で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、30℃又は30℃付近(すなわち30±1℃)で細胞培養物をインキュベートする。
【0099】
さらに他の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、細胞の増殖に最適の温度で、血清含有培地で細胞を培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、より低い温度(対応するウイルス又はウイルスベクターにとって標準的なインキュベーション温度と比較して)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、33℃又は33℃付近(例えば33±1℃)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。別の実施形態において、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、30℃又は30℃付近(例えば30±1℃)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。
【0100】
ある実施形態では、ウイルスに感染させた又は対象のウイルス構築体によりトランスフェクトした細胞培養物を、培養細胞の標準的なインキュベーション温度と比較して、それより低い感染後インキュベーション温度でインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスに感染させた又は対象のウイルス構築体によりトランスフェクトした細胞培養物を、33℃又は33℃付近(例えば、33±1℃)でインキュベートする。ある実施形態では、感染後インキュベーション温度が、約25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、又は37℃である。
【0101】
ある実施形態では、ウイルスに感染させる前に、細胞を細胞の増殖に最適化された温度でインキュベートし、細胞をウイルスに感染させた後、すなわち感染後に、温度をさらに低い温度にシフトすることによってウイルスの増殖を行う。ある実施形態では、温度シフトが少なくとも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、又は少なくとも12℃である。ある実施形態では温度シフトが、最大でも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、又は最大でも12℃である。特定の実施形態では、温度シフトが4℃である。
【0102】
5.3 感染多重度
本発明は、細胞への感染に使用するウイルス力価を変更することによりウイルス産生を最適化するための方法に関する。単一細胞に感染させるために使用するウイルスの平均数は感染多重度(MOI)と呼ばれる。ウイルスの製造において、MOIの最適なバランスが好ましい。感染あたりのウイルス接種が少なくなるとマスターウイルスバンクの寿命を延長することができるが、ウイルス接種が多くなるとより高いウイルス力価を生じることができる。
【0103】
一実施形態において、Vero細胞の感染に使用するMOIは約0.0001〜約0.1の範囲である。別の実施形態において、MOIは約0.001〜約0.01の範囲である。本発明の特定の実施形態において、MOI約0.1を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。別の特定の実施形態において、MOI約0.01を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。さらに別の特定の実施形態において、MOI約0.001を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。
【0104】
ある実施形態において、細胞培養物には、MOI 約0.0005、0.0006、0.0007、0.0008、0.0009、0.001、0.0011、0.0012、0.0013、0.0014、又は0.0015を有するウイルスを感染させる。別の実施形態において、細胞培養物にはMOI 0.001を有するウイルスを感染させる。
【0105】
5.4 小規模、中規模及び大規模ウイルス産生
一実施形態において、小規模実験を実施して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。特定の実施形態において、T-フラスコを小規模実験において使用して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。別の実施形態において、T-フラスコ実験を実施して、感染の時期及び感染後の培養温度が、MEDI-534若しくはMEDI-559又は本明細書に開示するウイルス構築物(例えば限定されるものではないが、ΔM2-2、ΔNS-1若しくはrcp45 hPIV3(MEDI-560)など)の産生に及ぼす複合的影響を調べる。また別の実施形態において、T-フラスコ実験は、ウイルス産生に対する感染前培養培地の影響を評価することができる。
【0106】
本発明の一実施形態において、ウイルス産生プロセスを中規模産生に高める。特定の実施形態において、ローラーボトルをウイルスの中規模産生に使用する。別の特定の実施形態において、スピナーフラスコをウイルスの中規模産生に使用する。一実施形態において、スピナーフラスコは、ウイルスの中規模産生のためにマイクロキャリアを利用する。別の実施形態において、ローラーボトルは、ウイルスの中規模産生のためにマイクロキャリアを利用する。
【0107】
本発明の一態様において、ウイルス産生を、マイクロキャリア培養物において行う。マイクロキャリア培養は、足場依存性細胞の実用上高収量の培養を可能とする技術である。マイクロキャリアは、動物細胞の増殖のために好都合な表面を提供し、それを懸濁培養系において使用して、又は単層培養容器及び還流チャンバーからの収量を高めることができる。マイクロキャリアの用途としては、大量の細胞、ウイルス及び組換え細胞産物の製造、細胞の付着、分化及び細胞機能に関する研究、還流カラム培養系、細胞の採集などが挙げられる。ある実施形態において、使用するマイクロキャリアは、CytodexTM 1及びCytodexTM 3(Amersham Biosciences)である。他の実施形態において、使用するマイクロキャリアはPronectin(登録商標) F(Sayno Chemical Industries)である。
【0108】
一般的に使用されているマイクロキャリアはCytodexTM 1及びCytodexTM 3(Amersham Biosciences)である。これらは、数ミリリットルから数千リットルまでの範囲の培養体積で広範な動物細胞を培養するために特異的に開発されたものである。単純な懸濁培養系においてCytodexTMを使用することで、1ミリリットルあたり数百万の細胞の収量がもたらされる。
【0109】
CytodexTMは、マイクロキャリア技法の特別の要件(サイズ及び密度が、多種多様な細胞の良好な増殖及び高収量をもたらすように最適化されている;マトリックスが生物学的に不活性であり、攪拌されるマイクロキャリア培養物にとって強力であるが非剛性の物質を提供する;マイクロキャリアが透明であり、付着した細胞を簡便に顕微鏡で検査できる)を満たすように設計されている。
【0110】
CytodexTM 1は、正電荷のN,N-ジエチルアミノエチル基で置換された架橋デキストランマトリックスをベースとする。荷電基はマイクロキャリアマトリックス全体に分布している。CytodexTM 1は一般的な目的のマイクロキャリア培養、特に大部分の確立された細胞系のために好適である。このマイクロキャリアはまた、培養産物の最大の回収が必須ではない、一次細胞及び正常の二倍体細胞系の培養物からの産生に用いることも可能である。
【0111】
CytodexTM 3は、架橋デキストランのマトリックスに化学的に結合させた変性コラーゲンの薄層からなる。CytodexTM 3上の変性コラーゲン層は、種々のプロテアーゼ、例えばトリプシン及びコラゲナーゼによる消化をうけやすく、細胞生存率、機能及び完全性を最大に維持しながらマイクロキャリアから細胞を取り出すための特有の状況を提供する。CytodexTM 3は、培養で増殖させることが困難であることが知られている細胞のため、分化した細胞培養系のため、そして特に上皮様形態を有する細胞のために最適なマイクロキャリアである。これは、一般的な目的のコラーゲン被覆培養表面として用いることも可能である。
【0112】
本発明の一態様において、ウイルス産生はマイクロキャリア培養物において行う。一実施形態において、Vero細胞を、FBSが添加され、CytodexTM 1を含有するOptiPROTM SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約2 g/Lである。また別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約4 g/Lである。
【0113】
本発明の別の実施形態において、Vero細胞を、FBSが添加され、CytodexTM 3を含有するOptiPROTM SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約2 g/Lである。
【0114】
本発明のまた別の実施形態において、Vero細胞を、CDLCが添加され、CytodexTM 1を含有するVP-SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、CDLCの濃度は約1.0% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約2 g/Lである。また別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約4 g/Lである。
【0115】
本発明の別の実施形態において、Vero細胞を、CDLCが添加され、CytodexTM 3を含有するVP-SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。別の実施形態において、CDLCの濃度は約1.0% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約2 g/Lである。
【0116】
当業者であれば、付着細胞の継代培養プロセス(すなわち細胞の増殖、細胞培養物の拡張)の過程において、コンフルエントな支持体表面(例えば、フラスコ表面、マイクロキャリアなど)から新たな支持体表面上へ細胞を移行する必要があることを理解するだろう。このような細胞の移行を実施するためにいくつかの方法を用いることができる。例えば、プロテアーゼ(トリプシン及びコラゲナーゼなど)を用いて、フラスコ又はマイクロキャリアから細胞を取り出し、続いて細胞を洗浄し、より大きなフラスコ又はより大きな体積のマイクロキャリアを含有する拡張用培地に希釈することができる。このような用途には非動物由来プロテアーゼ、例えばTrypLE(Invitrogen, Carlsbad, CA)などを使用することが好ましい。
【0117】
あるいは、マイクロキャリア培養物において、直接ビーズ間移行方法を用いることができ、この方法では、新たなビーズ及び培地をコンフルエントなビーズと混合し、培養物を、新たなビーズへの細胞の移行を促進する条件下でインキュベートして、細胞培養物を拡張し、増殖させる。このようなビーズ間移行は、断続的攪拌スキーム、例えばマイクロキャリアビーズを含有する培養物の100〜130 rpmで5〜10分間間隔の攪拌と、最大40分間、最大50分間、最大60分間の攪拌停止、などを利用することができる。続いて、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、最大一晩(12〜24時間)にわたってこの攪拌パターンを再開する。続いて、所望の生存細胞密度に達するまで100〜130 rpmでの一定攪拌速度を再開する。この断続的攪拌のパターンは、所望の生存細胞密度に達するまで繰り返し行ってもよい。このビーズ間移行工程は、あるビーズから別のビーズへ細胞の付着を補助するために、TrypLEを用いずに行うことができる。
【0118】
ウイルス又はウイルスタンパク質の大規模生産のための当技術分野で公知の方法を本発明のワクチンの商業的製造に用いることができる。一実施形態において、本発明のワクチンの商業的製造のために、細胞をバイオリアクター又は発酵槽において培養する。バイオリアクターは、1リットル未満から100リットルを超えるまでの体積で、例えば、Cyto3バイオリアクター(Osmonics, Minnetonka, MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison, N.J.);並びにB. Braun Biotech International製の実験室用及び商業的規模バイオリアクター(B. Braun Biotech, Melsungen, Germany)が入手可能である。別の実施形態において、ウイルスの商業的製造の前に小規模プロセスの最適化研究を行い、最適化条件を選択し、ウイルスの商業的製造に使用する。
【0119】
ある実施形態において、使い捨て要素、例えば細胞の培養のための軟質プラスチックバッグなどを含むリアクターシステムを利用する。このようなリアクターシステムは当技術分野で公知であり、市販されている。例えば国際特許公報WO 05/108546号、WO 05/104706号及びWO 05/10849号、並びに第6.14節を参照されたい。同上。使い捨て要素を含むリアクターシステム(本明細書中、「単回使用バイオリアクター」と称する又は「SUB」と略す)は、予め滅菌してもよく、培養又は産生システムにおいてバッチからバッチへ又は産物から産物へ変更するための定置蒸気滅菌(steam-in-place:SIP)又は定置洗浄(clean-in-place:CIP)環境が必要ない。このように、SUBは、ゼロバッチからバッチIの汚染(zero batch-to-batch I contamination)を確実にすることにより調節制御の必要性をより少なくし、従って、かなりコストの上で利点があり、使用前に全く又は最低限の準備しか必要とせずに作動することが可能である。さらに、SUBは洗浄又は滅菌を必要としないため、細胞培養物からの多量のワクチン材料(例えばウイルス)の製造を促進するために迅速に配置することができる。特定の実施形態において、使い捨てリアクターシステムは、より効率的な栄養素、O2及びpH制御を可能とする細胞培養物の混合のための流体力学的環境を可能にする攪拌型タンクリアクターシステムである。
【0120】
本発明は、温度、攪拌速度、pH、溶存酸素(DO)、O2及びCO2流速からなる群より選択される1以上のパラメータをモニター及び/又は制御する、攪拌型タンクSUBにおいてウイルスを産生する方法を提供する。当業者であれば、ウイルスの生産前に、宿主細胞(例えばVero細胞)を適当な細胞密度にまで増殖させて、ウイルスの増殖を促進する必要があることを理解するだろう。従って、本発明はさらに、SUBにおいて細胞(例えば本発明のVero細胞)を培養することにより、培養物中の該細胞を高細胞密度まで増殖させる方法を提供する。
【0121】
一実施形態において、細胞培養及び/又はウイルス産生は、バイオリアクター(例えばSUB)において、少なくとも1%、又は少なくとも2%、又は少なくとも3%、又は少なくとも4%、又は少なくとも5%、又は少なくとも6%、又は少なくとも7%、又は少なくとも8%、又は少なくとも9%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%のCO2濃度で行う。ある実施形態において、CO2の流速は、約0.1 L/分〜約1 L/分に維持される。
【0122】
一実施形態において、溶存酸素(DO)濃度(pO2値)は、細胞の培養及び/又はウイルスの産生の間に調節することが好都合であり、5%〜95%(空気飽和度を基準とする)の範囲内である。ある実施形態において、DOは、約10%〜約80%、又は約20%〜約70%、又は約50%に維持される。特定の実施形態において、溶存酸素(DO)濃度(pO2値)は、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%である。さらに別の実施形態において、DOの許容される範囲は、約100〜約35%である。特定の実施形態において、DOは、約35%〜約50%、又は約50%に維持される。別の特定の実施形態において、DOは、約35%未満に低減すべきではない。当業者であれば、初期DOは100%であり、そのDOを所定のレベル(例えば50%)まで下降させてそれを維持することができることを理解するだろう。DOは、当技術分野で公知の任意の方法、例えばO2スパージングなどを用いて維持される。ある実施形態において、O2の流速は約2.0 L/分未満に維持される。
【0123】
別の実施形態において、細胞の培養及び/又はウイルスの産生に使用する培養培地のpHを調節し、それはpH 6.4〜pH 8.0の範囲、又はpH 6.8〜pH 7.4の範囲内である。特定の実施形態において、培養培地のpHは、約6.4、又は約6.6、又は約6.8、又は約7.0、又は約7.1、又は約7.2、又は約7.3又は約7.4、又は約7.6、又は約7.8、又は約8.0に維持される。当業者であれば、初期pHは、所望の範囲より低くても又は高くてもよく、そのpHを所望のレベル(例えば7.1)まで高めて又は低くして、そこで維持することができることを理解するだろう。pHは、当技術分野で公知の任意の方法を用いて維持される。例えばpHは、必要に応じて、CO2スパージングにより、及び/又は酸(例えばHCL)若しくは塩基(例えばNaOH)の添加により制御することができる。ある実施形態において、pHは、NaOHの添加及び/又はCO2スパージングにより調節される。
【0124】
ある実施形態において、Vero細胞は、感染前に、SUBシステムにおいて少なくとも5×105 細胞/mL、少なくとも7.5×105 細胞/mL、少なくとも1×106 細胞/mL、少なくとも2.5×106 細胞/mL、少なくとも5×106 細胞/mL、少なくとも7.5×106 細胞/mL、少なくとも10×106、少なくとも15×106 細胞/mL、少なくとも20×106 細胞/mL、又は少なくとも25×106 細胞/mLの細胞密度まで培養する。
【0125】
特定の実施形態において、Vero細胞を、SUBにおいて無血清培地(例えば上述するようなもの、例えば第5.1節を参照のこと)中で培養する。ある実施形態において、培地には、さらなるグルコースを添加する。また別の実施形態において、Vero細胞を、SUBにおいて、マイクロキャリア(例えば上述するようなもの、例えば[00109]〜[00111]段落を参照のこと)上の付着細胞として培養する。一実施形態において、マイクロキャリアは、約1〜約4 g/Lの濃度で使用する。別の実施形態において、マイクロキャリアは、約2〜約3 g/Lの濃度で使用する。。ある実施形態において、細胞を、あらゆる培地成分を添加することなく培養する。他の実施形態において、細胞を、グルコース及びグルタミンを添加して培養する。さらに他の実施形態において、細胞を、CDLCを添加して培養する。
【0126】
ウイルス培養物が増殖及び拡張するに従い、これは培養培地中に代謝産物を分泌することになる。これらの代謝産物の測定値は、感染前又は感染後の細胞の生存を示す可能性がある。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約1.0〜2.0 g/L、より具体的には約1.25〜1.5 g/Lの濃度の乳酸塩(lactate)を有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約2.0〜約4.0 g/L、より具体的には約2.0〜約3.0 g/Lの濃度のグルタミンを有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約0.5〜2.5 g/L、より具体的には約1.5〜1.75 g/Lの濃度のグルコースを有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約1.25〜約2.5 mM、より具体的には約2.0〜約2.25 mMの濃度のアンモニウムイオンを有する。
【0127】
他の実施形態において、感染後2〜12日目にウイルス細胞培養物からウイルスを回収(すなわち採集)する。別の実施形態において、感染後3〜4日目にウイルス細胞培養物からウイルスを回収する。
【0128】
特定の実施形態において、SUBには、播種密度約1×104 細胞/mL〜約5×105 細胞/mLで、培養対象のVero細胞を播種する。特定の実施形態において、播種密度は、約3×104 細胞/mL〜約3×105 細胞/mL、又は約7×104 細胞/mL〜約2×105 細胞/mL、又は約8×104 細胞/mL〜約2×105 細胞/mL、又は約9×104 細胞/mL〜約1×105 細胞/mL、又は約1×105 細胞/mL〜約2×105 細胞/mLである。別の特定の実施形態において、播種密度は約1×105 細胞/mL〜約2×105 細胞/mLである。
【0129】
一実施形態において、SUBの攪拌速度は約50〜150 rpmに維持される。特定の実施形態において、攪拌速度は、約80〜約120 rpm、又は約90〜約100 rpmに維持される。別の特定の実施形態において、攪拌速度は約100〜約125 rpmに維持される。また別の実施形態において、攪拌速度は、細胞培養中は一速度に維持されうるが、続いて細胞培養中の別の時点で別の速度に変更されてもよい(すなわち断続的攪拌)。攪拌速度は、当技術分野で周知の手段により制御される。
【0130】
ある実施形態において、細胞培養の後及び感染の前に培地交換を行ってもよい。一実施形態において、交換する培地の割合は、約20%〜約100%、又は約30%〜約80%、又は約30%〜約60%、又は約66%〜約90%である。一実施形態において、培地は、同量の培地と交換する。別の実施形態において、培地は、より少ない量の培地と交換して、細胞を効率的に濃縮する。培地は、同じ又は異なる組成を有する培地と交換することができる。一実施形態において、増殖培地(すなわち細胞の増殖に使用される培地)は、感染培地(すなわち感染時及びウイルス増殖に使用される培地)と交換する。増殖培地及び感染培地の非限定的な例は第5.1節及び第6節に示されている。あるいは、培地の交換が必要ないように、増殖培地はさらなる成分(例えばグルコース、微量元素、アミノ酸など)を含む及び/又はそれにさらなる成分が添加されてもよい。
【0131】
5.5 ウイルス
ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはマイナス鎖RNAウイルスである。ある実施形態において、ウイルスは非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスなどである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスは、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)である。他の実施形態において、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、ウイルスは、RSVヌクレオチド配列を発現するキメラヒト/ウシPIVである。特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。
【0132】
別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、オープンリーディングフレーム、例えばM2-2又はNS-1などの欠失を有するものである。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、rcp45 hPIV3又はMEDI-560であるものである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、付着した細胞に感染し、そこで複製するウイルスである。
【0133】
特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。MEDI-534は、最初にウシPIV3における融合(F)及び血球凝集素ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパク質遺伝子をヒトPIV3及びNH遺伝子でそれぞれ置き換えることにより組換えウシPIV3ベクターを構築することで構築される(Haller et al., 2000, J Virol 74:11626-11635)。続いて、RSV F遺伝子をウシ−ヒトPIV3ベクター骨格に挿入して、RSV Fタンパク質を発現するキメラウイルスを作製する(Tang et al., 2003, J Virol 77:10819-10828)。このキメラウイルスはMEDI-534と名づけられ、動物研究において生弱毒化二価ワクチンとして機能する。すなわち、MEDI-554で免疫したハムスター及び非ヒト霊長類が、RSV及びhPIV3によるチャレンジからの防御を示し、そしてそれらの動物は、RSV中和抗体及びhPIV3血液凝集阻害抗体を生成した(Tang et al., 2003, 前掲;Tang et al., 2004, 前掲)。
【0134】
また別の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。MEDI-559は、rA2cp248/404/1030ΔSHと称する生弱毒化RSVワクチンであり、温度感受性であり、点突然変異とSH遺伝子の遺伝子欠失を有している。これは、フェーズI臨床試験において幼児に投与された場合に十分に許容され、安全であることが見出されており(Karron et al., JID vol 191 p. 1093 (2005))、このような患者において免疫応答を誘発することができる。別の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-560である。MEDI-560は生弱毒化HPIV3である。cp45と呼ばれる誘導株は、Dr. Robert Belshe(現在St. Louis University)により徐々に最適ではない温度としたwt HPIV3の45回の継代により作製された。この生物学的に誘導されたワクチン候補は、成人と、フェーズI及びII試験における血清陽性及び血清陰性の幼児及び小児において評価され、十分に弱毒化され、免疫原性であると考えられている(Karron et al. Pediatr. Inf. Dis. J. 2003, 22: 394-405)。cp45における有意な点突然変異は、配列分析により同定され、野生型組換えHPIV3に個々に又は種々の組み合わせで配置されて、それらの関連する表現型が評価されている。これによりLタンパク質における3つの主要なts及び弱毒化の点突然変異、並びにC及びFタンパク質におけるいくつかの非ts弱毒化点突然変異が同定された。このウイルスは、現在、許容される物質を用いて既知の継代履歴を有するウイルスを提供するcDNA(rcpPIV3)から再生(revcover)されている。
【0135】
ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。エンベロープウイルスとしては、限定されるものではないが、パラミクソウイルス、ヘルペスウイルス(Herpesvirus)、トガウイルス(Togavirus)、ラブドウイルス(Rhabdovirus)、コロナウイルス(Coronavirus)が挙げられる。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、足場依存性細胞に感染し、そこで複製するウイルスである。足場依存性細胞に感染し、そこで複製するウイルスとしては、限定されるものではないが、シンドビスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、オンコルナウイルス、単純ヘルペスウイルス、A型肝炎ウイルス、RSVウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、FMDVウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、及びレオウイルスが挙げられる。
【0136】
5.6 細胞
ある実施形態において、本発明の方法を用いて哺乳動物細胞系においてウイルスを増殖させる。ある実施形態において、本発明の方法を用いて足場依存的である細胞においてウイルスを増殖させる。本発明の方法により使用する足場依存性細胞は、足場依存性のタイプの細胞から誘導される細胞系、例えば限定されるものではないが、ヒト脂肪幹細胞、ヒト近位尿細管細胞、マウス平滑筋細胞、ヒト内皮細胞、ヒト腎細胞、ヒト大腸細胞、イヌ腎細胞、ハムスター卵巣細胞、ミドリザル腎細胞、ラット小腸細胞、ヒト膀胱細胞、及びヒト前立腺細胞などである。
【0137】
ある実施形態において、ウイルスを、腎臓から誘導された細胞系、限定されるものではないが、MDBK細胞、MDCK細胞、Vero細胞、PK-15細胞、及びBHK-21細胞などにおいて増殖させる。他の実施形態において、ウイルスをBHK-21細胞又はVero細胞において増殖させる。別の実施形態において、ウイルスをVero細胞において増殖させる。
【0138】
Vero細胞は、アフリカミドリザル連続腎細胞系を起源とし、ワクチン製造のために最も一般的に使用されている細胞系であり、発癌性がないことが示されている(Vincent-Falquet et al, 1989, Dev Biol Stand 70: 153-156)。ヒトポリオワクチン及び狂犬病ワクチンは、現在、ウイルスワクチン製造のためのVero細胞の使用に関する規制当局により提供されている特定のガイドライン(WHO, 1987a,b)に従ってVero細胞において商業的に製造されている(Montagnon, 1989, Dev Biol Stand 93: 119-123)。Vero細胞は通常、足場依存性であると考えられており、典型的に静置培養又はマイクロキャリア上で増殖する(Yokomizo et al., 2004, Biotechnol Bioeng 85: 506-515; Wu et al., 2004, Vaccine 22: 3858-3864; Berry et al., 1999, Biotechnol Bioeng 62: 12-19)が、これらは細胞凝集物として懸濁でも増殖することができる(Litwin 1992, Cytotechnology 10: 169-1974)。Vero細胞の付着培養物は十分に特性決定されており、優れた安全性の記録がある(Montagnon and Vincent-Falquet, 1998, Dev Biol Stand 93: 119-123)。以前に、MEDI-534に非常に近縁の3種のウイルスの複製が種々の許容される哺乳動物細胞系において比較された(Haller et al., 2003, J Gen Virol 84: 2153-2162)。全ての事例において、Vero細胞は最も高いウイルス力価を生じた。その後の実験では、MEDI-534ウイルスが、Vero細胞における最大10回の連続継代の間にRSV F遺伝子インサートを安定に維持していることが示された(Tang et al., 2003, J Virol 77: 10819-10828)。
【0139】
ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、動物又はヒト由来成分を添加することなく増殖及び/又は維持することができる細胞である。ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、血清を実質的に含まない培地、又は血清非含有培地において増殖及び/又は維持することができる細胞である。
【0140】
ある実施形態において、本発明の方法により使用すべき細胞は、フィブロネクチンに結合することができる。従って、いくつかの特定の実施形態では、細胞は、フィブロネクチン基質に結合させながら感染後に増殖させる。
【0141】
5.7 アッセイ
5.7.1 ウイルス力価の測定
ウイルス力価は、当技術分野で周知の任意の方法、例えば限定されるものではないが、50%における組織培養感染量(TCID50)アッセイにより測定することができる。このアッセイは、ウイルスの能力/感染性を測定し、ウイルスを感染させることができる細胞(例えばVero細胞など)を使用する。特定の実施形態において、TCID50アッセイは次のように実施する。すなわち、Vero細胞をウイルス含有サンプルの添加の2日前に96ウエルプレートに播種する。細胞プレートのロット番号を記録し、細胞継代数が126以上であり、かつ148以下であることを確認するためのツールとして用いる。プレートは100%コンフルエントであり、プレート中の細胞は、ウエル全体において滑らかな連続する単層に分布する。細胞プレートをSkatronTM細胞洗浄機を用いて洗浄する。洗浄したプレートを33±1℃、5±1%CO2インキュベーターに移し、最小10分間インキュベートする。ウイルス増殖培地を、ウイルスの接種前に細胞プレートの各ウエルに入れる。ウイルスはVero細胞単層を含む96ウエルプレート全体で連続希釈し、続いて接種した細胞を6日間インキュベートする。次にプレートを洗浄し、パラホルムアルデヒドで固定し、Numax(登録商標)(RSV-F特異的MAb)と共にインキュベートする。これに続いて、ヤギ抗ヒト西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体と共にインキュベートし、TMB(3,3’, 5,5’-テトラメチルベンジジン, Sigma)を用いて色を検出する。分光光度計を使用して、ウエルの吸収を測定し、値を陰性対照カットオフ値と比較する。次にその単位をKarberの式で使用して、log10 TCID50力価を測定する。同じ実験から得られたサンプルを同じ日に試験し、各ウイルスサンプルにつき4つの複製を使用して、TCID50アッセイに固有のアッセイ間及びアッセイ内の変動を最小限とする。
【0142】
細胞収量及び細胞密度は、当技術分野で周知の任意の方法により、例えば限定されるものではないが、血球計測計又はCedex細胞計数及び生死試験システム(Cedex cell counting and viability testing system;Innovatis Inc., Malvern, PA)を用いて、測定することができる。一実施形態において、マイクロキャリア培養物における細胞密度は、0.1 Mクエン酸溶液中の0.1%クリスタルバイオレットにより放出される核を計数することによって測定することができる(Hu and Wang, 1987, Biotechnol Bioeng 30: 548-557)。
【0143】
5.8 キット
本発明はまた、本発明のアッセイレジメンを実施するためのキットを提供する。一実施形態において、本発明のキットは無血清培地及び脂質濃縮物を含む。特定の実施形態において、キット中の無血清培地はOptiPROTM SFM又はVP-SFM又はSFM4MegaVirTMであり、脂質濃縮物はCDLCである。別の実施形態において、キットは、1又はそれ以上の容器中に、無血清培地、脂質濃縮物、及びエンベロープウイルスを感染させうる細胞のバイアルを含んでもよい。特定の実施形態において、キットは、Vero細胞のバイアルを1以上含む。別の実施形態において、キットは、無血清培地、脂質濃縮物、エンベロープウイルスを感染させうる細胞の1以上のバイアル、及びエンベロープウイルスの1以上のバイアルを含む。特定の実施形態において、キットは、MEDI-534又はMEDI-559の1以上のバイアルを含有する。 別の実施形態において、本発明のキットは、本発明の方法を実施するためのマニュアルを含む。特定の実施形態において、そのマニュアルは、以下のようなウイルスの増殖を説明する:すなわち、そこでウイルスが十分に増殖することが知られている細胞を最適増殖条件下(例えば血清存在下及び37℃)で増殖させ、細胞をCDLC富化培地(例えば血清を含まない又は血清を実質的に含まない培地)に入れ、細胞にウイルスを感染させ、感染細胞を感染前培養よりも低い温度(例えば33℃又は30℃)で培養する。
5.9 発明の実施形態
1. Vero細胞においてウイルスを増殖させる方法であって、
(a)既知組成脂質濃縮物(chemically-defined lipid concentrate, CDLC)及びマイクロキャリアを含む細胞培養培地にVero細胞を播種することを含む、第1の温度にてバイオリアクター中でVero細胞を培養する工程、
(b)工程(a)で培養したVero細胞に、第1の温度に比べて低い第2の温度にて約0.001〜約0.10の感染多重度で感染させる工程、並びに
(c)工程(c)の細胞培養物から、少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じるウイルスを回収する工程、
を含む方法。
2. 前記バイオリアクターが単回使用バイオリアクター(SUB)システムである、実施形態1の方法。
3. SUBが攪拌型タンクリアクターシステムである、実施形態2の方法。
4. 細胞培養培地が無血清培地である、実施形態1の方法。
5. CDLCが1%v/vの濃度まで加えられる、実施形態1の方法。
6. 細胞培養培地が、OptiPROTM SFM、VP-SFM、SFM4MegaVirTM、Ex-Cell VeroTM、又はWMEからなる群より選択される無血清培地である、実施形態4の方法。
7. 既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸のうちの1以上を含む、実施形態1の方法。
8. 既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸を含む、実施形態1の方法。
9. 既知組成脂質濃縮物が、100,000mg/LのプルロニックF-68、100,00mg/Lのエチルアルコール、220mg/Lのコレステロール、2,200mg/LのTween 80、70mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10mg/Lのステアリン酸、10mg/Lのミリスチン酸、10mg/Lのオレイン酸、10mg/Lのリノール酸、10mg/Lのパルミチン酸、10mg/Lのパルミトレイン酸、2mg/Lのアラキドン酸、及び10mg/Lのリノレン酸を含む、実施形態1の方法。
10. 工程(a)が、約50〜約150rpmの攪拌速度での培養物の攪拌を利用する、実施形態1の方法。
11. 前記攪拌が断続的である、実施形態10の方法。
12. 工程(a)の前記培養条件が、約35%〜約100%の溶存酸素(DO)量を利用する、実施形態11の方法。
13. 第1の温度が約36℃〜約38℃である、実施形態1の方法。
14. 第2の温度が約30℃〜約33℃である、実施形態1の方法。
15. マイクロキャリア濃度が約1〜約4g/Lである、実施形態1の方法。
16. 工程(a)の前記細胞培養物のpHが約6.6〜約7.6である、実施形態1の方法。
17. 工程(a)の後で且つ工程(b)の前に細胞培養培地の約50%〜約90%を交換する、実施形態1の方法。
18. 細胞培養培地を、同じ組成を有する細胞培養培地と交換する、実施形態16の方法。
19. 細胞培養培地を、異なる組成を有する細胞培養培地と交換する、実施形態16の方法。
20. 感染多重度が約0.01である、実施形態1の方法。
21. 工程(c)においてVero細胞を2〜12日間培養する、実施形態1の方法。
22. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、実施形態1の方法。
23. マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、実施形態21の方法。
24. ウイルスがパラミクソウイルスである、実施形態22の方法。
25. パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、実施形態23の方法。
26. パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、実施形態24の方法。
27. ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態25の方法。
28. 組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態26の方法。
29. 前記回収されたウイルスが少なくとも8.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態1の方法。
30. 前記回収されたウイルスが少なくとも9.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態1の方法。
31. 前記Vero細胞を約0.5×105〜2×105細胞/mlの密度で播種する、実施形態1の方法。
32. 工程(a)において前記Vero細胞を少なくとも約8×105細胞/mlの細胞密度にまで培養する、実施形態1の方法。
33. 工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも1.5Lである、実施形態1の方法。
34. 工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも30Lである、実施形態2の方法。
35. 血清を実質的に含まない細胞培養培地中にウイルスを含むVero細胞培養物上清であって、前記上清が少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、Vero細胞培養物上清。
36. 前記上清が濃度約0.5〜約2.5g/Lのグルコースを含む、実施形態34の上清。
37. 前記上清が濃度約1.0〜約2.0g/Lの乳酸塩を含む、実施形態34の上清。
38. 前記上清が濃度約2.0〜約4.0g/Lのグルタミンを含む、実施形態34の上清。
39. 前記上清が濃度約1.25〜約2.5mMのアンモニウムイオンを含む、実施形態34の上清。
40. 前記上清が少なくとも8.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態34の上清。
41. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、実施形態34の上清。
42. マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、実施形態40の上清。
43. ウイルスがパラミクソウイルスである、実施形態41の上清。
44. パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、実施形態42の上清。
45. パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、実施形態43の上清。
46. ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態44の上清。
47. 組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態45の上清。
48. 工程(a)においてトリプシンを加えない、実施形態10の方法。
49. 工程(a)における前記培養物を、新しいマイクロキャリアを含む新しい培養培地を用いて1:1又は1:5で分割(split)する、実施形態48の方法。
50. 前記分割が工程(b)の前又は感染前に培養中少なくとも1回又は少なくとも2回行われる、実施形態49の方法。
51. 前記方法が、30Lのウイルス採集バッチあたり少なくとも2,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも120,000,000のワクチン用量を産生する、実施形態1又は50の方法。
【0144】
6.実施例
Vero細胞のバイアル(ATCC CCL-81、継代数121)をDMEM+5%(v/v)FBS中で解凍した後、FBS添加培地中で4回継代培養し、それから動物由来成分を含まないOptiPROTM SFM中における無血清増殖に直接馴化した(direct adaptation)。無血清Vero細胞は、OptiPROTM SFM中で10〜15回継代培養した後にバンクとして保管した。以下に挙げる実験で使用したVero細胞は、OptiPROTM SFMバンクを源とした。
【0145】
細胞系及び培養物の維持
足場依存性Vero細胞を、対応する培養体積(T-75フラスコに対し35mL、T-225フラスコに対し100mL、及び850cm2のローラーボトル(RB)に対し350mL)中に5×104細胞/mLで慣用的に播種し、播種後3〜5日(dps)継代培養した。4〜5dps継代培養した培養物については、3dpsに各培養物に対して完全な培地交換を行った。継代培養に備えて、使用済み培地(spent media)を吸引し、細胞をDPBSで2回濯いだ。フラスコからVero細胞を剥離するために、トリプシン-EDTAの0.05%溶液(T-75フラスコでは3mL、T225-フラスコでは6mL、及びRBでは10mL)と共に37℃にてインキュベートした。細胞を剥離させた後、同じ量のアオイマメ(lima bean)トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてトリプシン活性をクエンチした。感染しなかった全てのVero細胞については、T-フラスコ培養物を37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持し、RB培養物は37℃のインキュベーター中0.3rpmで稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0146】
実験を開始する前に、少なくとも1回継代培養するために、各実験でテストした培地に細胞を予め馴化させておき、細胞継代数が165を超えた時に培養物を捨てた。グルタミンを含まない培養培地に、各使用の前に4mM L-グルタミンを毎回添加した。特に断らない限り、細胞培養試薬及び備品は、GIBCO/Invitrogen(Carlsbad, CA)から入手したものとし、組織培養用品は、Corning(Corning, NY)から購入したものとする。
【0147】
ウイルス構築物及びシードストックの調製
MEDI-534ウイルスの構築は以前に詳細に記載されている(Tang et al., 2003)。全ての実験において感染に用いるウイルスのシードストックを生成するために、プラスミドレスキュー(Tang et al., 2003(上掲))により得たMEDI-534を、OptiPROTM SFM中で3日間増殖させたVero細胞のT-225フラスコ培養物に、0.001の感染多重度(MOI)にて加えた。4dpiに培養培地を回収し、10%(v/v)スクロースリン酸で安定化させた後、複数の1mLクリオバイアル中に分取した。ウイルスのシードストックを-80℃にて保存し、使用する直前にのみ解凍した。
【0148】
T-フラスコ実験
T-75フラスコに、(特に断らない限り)35mL OptiPROTM SFM中の1.75×106Vero細胞を播種し、37℃/5%CO2/95%Rhのインキュベーター内で維持した。感染させる時、使用済み培地を各フラスコから取り除き、細胞を2×10mL DPBSで濯いだ。各培地条件のうち1つのフラスコをトリプシン処理し、細胞数を数えた。培養物を感染させるために、残りのフラスコに、適当なMOIのMEDI-534を含むDMEM(特に断らない限り)を加えた。感染後、5%CO2オーバーレイ(overlay)で、加湿したインキュベーター内にてT-フラスコを維持した。
【0149】
ローラーボトル実験
各850cm2ローラーボトル(RB)に、選択した増殖培地中で1.5×107個のVero細胞を播種し、0.3rpmの定速回転で37℃にて維持した。全ての例において、基本増殖培地は、OptiPROTM SFM又はウイルス産生用無血清培地(VP-SFM)(これらもGIBCO/Invitrogen (Carlsbad, CA)より市販されているADCF SFM)とした。幾つかの例では、基本増殖培地に、JRH Biosciences, Inc.(Lenexa, KS)から入手したウシ胎仔血清(FBS)、又はGIBCO/Invitrogenから購入した既知組成の脂質濃縮物(CDLC)を添加した。OptiPROTM+0.5%FBS及びVP-SFM+1%CDLCにおける増殖曲線を作成するために、各培地において同じRB培養物を2つずつ作製してトリプシン処理し、毎日細胞数を数えた。ウイルス産生プロフィールを作成するために、使用済み培地を各RBから除去し、感染直前(3dps)に細胞を300mLのDPBSで濯いだ。各培地条件のうち少なくとも1つのフラスコをトリプシン処理し、細胞数を数えてフラスコあたりの細胞収量を決定し、MOI 0.001で感染させるために加えるのに適当なウイルスの量を計算した。特に断らない限り、MEDI-534を含む500mLのウイリアムスE培地(WME)、すなわち既知組成のADCF基本培地を、感染時に残りのフラスコの各々に加えた。感染後、全てのRBを3rpmの定速回転で33℃にてインキュベートした。
【0150】
スピナーフラスコ実験
増殖培地は、0.5%(v/v)FBSを添加したOptiPROTM又は1%(v/v)CDLCを添加したVP-SFMとした。CytodexTM 1マイクロキャリアを再水和し、製造業者(Amersham Biosciences AB, Uppsala, Sweden)の推奨にしたがって滅菌した。次にマイクロキャリアビーズを、使用前に適当な増殖培地で1回濯いだ。播種の2時間前に、各250mLガラススピナーフラスコ(Bellco Biotechnology, Inc., Vineland, NJ)に、2g/L CytodexTM 1を含む選択した増殖培地200mLを満たし、60rpmで攪拌させながら37℃/5%CO2/95%Rhにてインキュベートした。スピナーフラスコに接種するために、容器1つあたり2×107個のVero細胞を加えた。全ての培養物を、感染前に、攪拌を60rmpに維持したまま37℃/5%CO2/95%Rhにてインキュベートした。増殖曲線を作成するために、よく混ぜたサンプルをスピナーフラスコから毎日取り出し、核の数を数えた。感染させる前に、各スピナーフラスコからサンプルを取り出して核の数を数え、MOI 0.001で感染させるためのウイルスの量を算出した。感染に備えて、全てのスピナーフラスコの攪拌を停止した。マイクロキャリアービーズが沈降したら、使用済み培地のうちの90%を、MOI 0.001のMEDI-534を含むWMEと交換した。感染後、60rmpで一定に攪拌しながら33℃/5%CO2/95%Rhにて培養物をインキュベートした。
【0151】
MEDI-534についてのバイオリアクター実験
溶存酸素(DO)を空気飽和度50%に維持した3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)内で、バイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターは、ADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon)を備えていた。CytodexTM 1マイクロキャリアを用意し、製造業社の指示書に従って使用した。接種の3時間前に、3つのバイオリアクターそれぞれを、1%(v/v) CDLC及び2g/L CytodexTM 1を添加した2LのVP-SFMで満たした。バイオリアクターの内容物を、加熱ブランケット(heating blanket)で37℃まで温め、シングル・マリン・インペラ(single marine impellers)で60rpmで攪拌した。これら3つのバイオリアクターにおけるpH設定値はそれぞれ7.0、7.2及び7.4であった。培養物のpHは、入口ガス中のCO2のパーセンテージによって、及び入口ガス中のCO2のパーセンテージが0%に減少した後に1N NaOH溶液を加えることにより、指定されたレベルに制御した。1つの実験で使用される全ての細胞が同じ継代歴(passage history)を持つように、各実験における全てのバイオリアクターに、複数のRBからプールした細胞を接種した。バイオリアクターの内容物を毎日サンプリングして核数を数え、増殖曲線を作成した。感染に備え、バイオリアクターでの攪拌を停止した。マイクロキャリアビーズが沈降したら、使用済み培地のうち90%を、MOI 0.001のMEDI-534を含むWMEと交換した。感染後、pH及びDO設定値は変えなかったが、温度の設定値を33℃に下げて、攪拌を100rpmに上げた。
【0152】
ウイルスを数量化するための感染サンプルの回収
感染させたT-フラスコ及びRB培養物の中の培地をサンプリングした後、10%(v/v)スクロースリン酸を加えてウイルスサンプルを安定化させた。感染させたスピナーフラスコ及びバイオリアクターからサンプリングした後、サンプル中のマイクロキャリアビーズを沈降させて、回収した培養上清を10%(v/v)スクロースリン酸で安定化させた。スクロースリン酸で安定化させた全てのウイルスサンプルは、分析するまでただちに−80℃にて保存した。
【0153】
分析方法
T-フラスコ及びRBから得た細胞を、血球計又はCedex細胞計数/生死細胞テストシステム(Cedex cell counting and cell viability testing system)(Innovatis Inc., Malvern, PA)のいずれかを製造業社の指図書に従って用いて数えた。マイクロキャリア培養物中の細胞密度は、0.1Mクエン酸中の0.1%クリスタルバイオレット溶液によって放出された核を数えることにより決定した(Hu and Wang, 1987, Biotechnol Bioeng 30: 548-557)。インハウス50%組織培養感染量(in-house 50% tissue culture infective dose(TCID50))アッセイで感染性ウイルス力価を測定し、結果をlog10 TCID50/mLで数量化した。TCID50アッセイに固有のアッセイ間及びアッセイ内の結果の変動を最小限に抑えるために、同じ実験から生じたサンプルは可能な限り同じ日にテストし、各ウイルスサンプル毎に4つの反復試験(複製)を使用した。
【0154】
6.1 異なる感染多重度でのウイルス産生プロフィール
MEDI-534産生のための臨界プロセス・パラメータ及び培養条件を確認し、最適化するために、小規模のT-75フラスコ実験を行った。MEDI-534産生に及ぼす感染多重度(MOI)の影響を調べた(図1)。3つのMOIすなわち0.1、0.01及び0.001は、匹敵するピークウイルス力価(6 log10 TCID50/mL)を生ずることが分かったが、最も低い2つのMOIすなわち0.0001及び0.00001は、少なくとも1 log10 TCID50/mLだけ低い最大ウイルス力価を生じた。従って、ウイルス収量を最大にしつつウイルスシードストックを節約するために、後続実験における感染では、0.01〜0.001の範囲のMOIを使用した。
【0155】
6.2 感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響
感染の時期及び感染後の培養温度がMEDI-534産生に及ぼす複合的な影響を調べるために、T-フラスコ実験を行った(図2a及び2b)。播種後5日目(5dps)で培養物に感染させることにより、3dpsと比較すると、感染時のVero細胞の数は0.6×107細胞/フラスコから1.7x107細胞/フラスコに増大した。3dpsで感染させた培養物において達成したピークウイルス力価(図2a)は、5dpsで感染させた培養物において測定されたもの(図2b)よりもやや高かった。従って、感染時のVero細胞の数を増やしても、DEMI-534産生を促進することはなかった。しかし、感染後の培養温度を低くシフトする(37℃から33℃に)ことにより、少なくとも1 log10TCID50/mLもピークウイルス力価を著しく上昇させた。フォローアップ研究により、感染後の培養温度が29℃、31℃及び35℃では同じような傾向が見られたが、感染後の温度が33℃の場合よりはやや低いMEDI-534力価を生じたことが分かった。したがって、更に行った全ての実験において、感染後のインキュベーション温度は33℃を使用した。
【0156】
MEDI-534は低温適応性ではないため(Tang et al., 2003, J Virol 77: 10819-10828)、低い培養温度で観察されたウイルス力価の増大は予想外のものであった。この温度感受性についての明確な理由は明らかにされていないが、ウイルスのポリメラーゼにおけるアミノ酸変化によって温度感受性の表現型を示すPIV3ウイルスが生じる(Feller et al., 2000, Virology 275: 190-201; Skiadopoulos et al., 1999, J Virol 73: 1374-1381)。
【0157】
6.3 感染前の培養培地がウイルス産生に及ぼす影響
T-フラスコ実験で、感染前の培養培地がウイルス産生に及ぼす影響を評価した(表I)。感染前の増殖培地を強化するために、播種時にVero培養物にFBSを添加した。OptiPROTM SFMにFBSを加えたところ、3dpsに測定された細胞収量はほぼ倍となり、最大ウイルス力価は少なくとも5倍増大した。FBSの添加レベルを0.5%、2%及び5%としたところ、同等の細胞収量((1.0〜1.1)×107細胞/フラスコ)及びウイルス力価((7.6〜7.8)log10 TCID50/mL)をもたらし、このことは、FBS濃度を上げても細胞の増殖やウイルス産生をさらに高めるものではないことを示唆している。レトロウイルスのパッケージング細胞系で行われた同様の実験において、Lee及びその共同研究者は、血清を加えてレトロウイルスベクターの力価を二倍に増やしたが、ウイルス産生がテストした血清添加範囲(1%〜20%)において用量依存的であることを見出した(Lee et al., 1996, Appl Microbiol Biotechnol 45:477-48)。
【表1】
【0158】
6.4 FBS感染前培地及び添加物で滴定したローラーボトル培養物のウイルス産生プロフィール
T-フラスコを用いたFBS滴定実験の再現精度及びスケーラビリティ(拡張性:scalablity)を決定するために、播種時に0.5%及び2% FBSを添加したRB培養物において細胞収量及びMEDI-534産生を測定した(図3)。OptiPROTM SFM培養物の細胞収量は、培養物を1.5x107細胞/RBで接種したとしても、3dpsでたったの1.9x107細胞/RBであった。これに対し、Vero細胞のT-フラスコ培養物は、OptiPROTM SFM中1.75x106細胞/フラスコで播種したのだが、3日後の培養物中の細胞数は3倍であった(表I)。これらの結果は、OptiPROTM SFMが静置培養における細胞増殖を優先的にサポートすることを示している。OptiPROTM SFMに0.5%(v/v)及び2%(v/v) FBSを添加した場合、RB培養物における細胞増殖は、T-フラスコ培養物において観察されたものと相関していた、即ちT-フラスコ(表I)及びRB培養物(図3の図表の説明文)の両方において3日後に細胞数は約6倍に増大していた。3dpsで、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS及びOptiPRO TM+2%(v/v) FBS培養物は、9.3×107細胞/RB及び10.4×107細胞/RBで、それぞれ匹敵する細胞収量をあげた。T-フラスコの結果(表I)と一致して、FBSを添加したRB培養物は、OptiPROTM SFM培養物に比べて著しく高いウイルス力価を生じた。感染前の増殖培地(OptiPROTM SFM)にFBSを添加することで成し得た成功は、細胞増殖及びウイルス産生に対して培養培地により発揮される影響を示している。
【0159】
6.5 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地における細胞収量及びウイルス産生
FBSの代わりに無血清代替として既知組成脂質濃縮物(CDLC)を評定した。さらに、この実験は、OptiPROTM SFMとVP-SFM(Vero細胞の増殖及びワクチン産生をサポートするために同じ製造業社(GIBCO/Invitrogen)により開発された他の動物由来成分を含まない(ADCF) SFM)との比較も行った。5つの異なる感染前培地について複製で2つずつ作製したRBは、3dpsで以下の細胞収量(図4a)及びピークウイルス力価(図4b)を生じた。データは、表II中に平均±標準偏差で示してある。
【0160】
3dpsで、OptiPROTM SFM及びVP-SFM条件のいずれにおいても、細胞密度は接種密度1.5×107細胞/RBを僅かに超え増加しただけだった(図4a)。これに対し、脂質若しくは血清を添加した培養物中の細胞数は、3日後に数倍増加した(図4a)。OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS培養物において細胞増殖が優れていたにも関わらず、ウイルス力価はVP-SFM+1%(v/v)CDLC培養物における方が僅かに高かった。細胞増殖及びウイルス産生におけるCDLCに関連した増強は、OptiPROTM SFM培養物におけるものよりVP-SFM培養物におけるものの方が、より顕著であった。1つのSFMにおいて他のSFMよりもCDLC添加の効果がより著しかったのは、それら2つのSFMの脂質組成の違いから生じたものかもしれないが、この仮説は、OptiPROTM SFM及びVP-SFM両方の組成が製造業社(GIBCO/Invitrogen)占有のものであるため、確認することができない。これは、Vero培養物における細胞増殖及びウイルス産生を促進するために脂質添加を成功的に利用した最初の証明である。
【0161】
OptiPROTM SFMは、Vero細胞増殖及びMEDI-534産生のサポートにおいてロット間の変動がはっきりと認められた組成の分からない(chemically undefined)-SFMである。1番目及び2番目のRB実験では異なるロットのOptiPROTM SFMを使用したため、OptiPROTM SFMを用いて得られたピークウイルス力価が1番目の実験(図3;(6.8±0.2)log10 TCID50/mL)に比べて2番目のRB実験((7.3±0.2)log10TCID50/mL)において高かったことは、OptiPROTM SFMにおけるロット間の変動から、TCID50アッセイにおけるアッセイ間の変動から、あるいはその両方から生じたのかもしれない。
【表2】
【0162】
6.6 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地を用いたローラーボトルにおける細胞増殖及びウイルス産生
2つの感染前増殖培地、すなわちOptiPROTM+0.5%(v/v)FBS及びVP-SFM+1%(v/v)CDLC-における細胞増殖(図5a)及びウイルス産生(図5b)のキネティックスを測定した。FBSを添加した培養物は無血清培地に比べて約30%多くの細胞を産生したが、ピークウイルス力価は同等であった(8.1 log10 TCID50/mL)。MEDI-534産生のキネティックスは感染前培養培地によって明らかに影響を受ける。最大ウイルス力価はOptiPROTM+0.5%(v/v)FBS及びVP-SFM 1%(v/v) CDLC培養物ではそれぞれ4dpi及び5dpiに検出された(図5b)。
【0163】
6.7 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地で滴定したローラーボトル培養物における細胞増殖及びウイルス産生
VP-SFM中0.5%(v/v)、1%(v/v)及び2%(v/v)のCDLCで滴定したVero培養物は、似たような細胞収量(図6a)及びMEDI-534産生(図6b)を示した。更に行った全ての実験は、感染前無血清Vero細胞増殖培地としてVP-SFM+1%(v/v)CDLCを使用した。
【0164】
6.8 既知組成脂質濃縮物を添加した感染後培地におけるMEDI-534産生
感染後SFMとしてVP-SFM又はVP-SFM+1%(v/v)CDLCを、公知組成の既知組成ADCF SFMであるウイリアムスE培地(WME)(Williams and Gunn, 1974)に置き換えることが実効可能かどうかを調査した(図7)。WMEは非感染培地中ではVero細胞の増殖をサポートしなかったが、感染後培地として優れた性能を示した。VP-SFM+1%(v/v)CDLC、VP-SFM及びWME中で測定された最大ウイルス力価(平均±標準偏差で表わす)はそれぞれ、(7.5±0.2)log10 TCID50/mL、(7.6±0.1)log10 TCID50/mL及び(8.1±0.2)log10 TCID50/mLに相当するものであった。産生プロセスにおける動物由来成分の使用を最低限に抑えるため及び精製プロセスにおいて起こり得る複雑な問題を最小限に抑えるために、血清を添加した培地はテストしなかった。その結果、後に続くMEDI-534を用いた感染は、ウイルス産生培地としてWMEのみを使用した。
【0165】
6.9 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物における細胞増殖及びウイルス産生
スピナーフラスコ実験で、マイクロキャリアにおいて血清を添加した培地(OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS)及び無血清培地(VP-SFM+1%(v/v)CDLC)がVero細胞増殖(図8a)及びMEDI-534感染(図8b)をサポートする能力を対比させた。両培地において培養したVero細胞は、CytodexTM 1及びCytodexTM 3上で増殖した。RBでの観察結果(図5a)と一致して、OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS培養物はVP-SFM+1%(v/v)CDLC培養物よりも早く増殖した。両感染前培地は、同時に(4dpi)同じピークウイルス力価8.1 log10 TCID50/mLを生じた。しかし、感染性ウイルス力価は、血清を添加した培養物のペアにおいて4dpiから7dpiにかけて平均で2.6 log10 TCID50/mL低下したのに対し、2つの無血清培養物におけるウイルス力価は同じ期間の間に平均で0.4 log10 TCID50/mLしか低下しなかった。RBにおけるOptiPROTM+0.5%(v/v)培養物は、感染性ウイルス力価においてこのような相当量の低下を示さず(図4b及び図5b)、スピナーフラスコ培養物におけるこの現象の原因となるメカニズムは分かっていない。この実験における結果に基づいて、この後に行われたマイクロキャリア実験では全て、Vero細胞の感染前増殖培地としてVP-SFM+1%(v/v)CDLCを使用した。
【0166】
6.10 マイクロキャリア培養物においてMEDI-534力価に対し感染時期が及ぼす影響
MEDI-534力価に対して感染時期が及ぼす影響をマイクロキャリア培養物で考察した。ウイルス力価が3dpi及び5dpiで感染させた培養物では同等量であったというT-フラスコでの観察結果(表1)と一致して、4、5及び6dpiに感染させた、複製で2つずつ作製したスピナー培養物は、ほぼ同等のピークMEDI-534力価を生じた(表II)。この「細胞密度効果」は、バッチ培養におけるアデノウイルス産生で観察されており、特異的ウイルス産生能は感染時に細胞密度を増加させることにより低下した(発明の背景、Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774, Nadeau and Kamen, 2003, Biotechnol Adv 20: 475-489)。培養時間を短くするために、以下の実験では4dpiにマイクロキャリア培養物を感染させた。
【0167】
バイオリアクターでスケールアップするために、マイクロキャリアのプロセス・パラメータ(播種密度、無血清増殖培地、攪拌速度、マイクロキャリアのタイプ及びビーズ濃度を含む)を最適にするためその後試みたところ、現行の動作条件(2 g/L CytodexTM 1を含むVP-SFM+1%CDLC中に1×105細胞/mLを播種、60rpmにて攪拌)が最も良い結果をもたらすことが分かった。
【表3】
【0168】
6.11 異なるpHに制御されたバイオリアクター内の感染前Vero細胞増殖及びウイルス産生の比較
無血清MEDI-534産生プロセスのスケーラビリティを査定し培養物のpHに対する細胞増殖及びウイルス産生の依存を評価するために、バイオリアクター実験を行った。3つの並行するバイオリアクター培養物を、それぞれpH設定値7.0、7.2及び7.4に維持した。バイオリアクター培養物中の感染前細胞増殖(図9a)及びウイルス産生プロフィール(図9b)は、VP-SFM+1%CDLCスピナーフラスコ培養物で観察されたもの(図8)と似ていた。このバイオリアクター実験を繰り返すと、8 log10 TCID50/mLの最大ウイルス力価を持つ同様の傾向がみられた。これらの結果は、マイクロキャリアのプロセスを、バイオリアクター内でスケールアップさせることができることを示し、また、細胞増殖及びウイルス産生がpH7.0〜7.4の範囲内で比較的pH依存的であることも示している。T-フラスコ、RB及びスピナーフラスコ培養物中のpHは一般的にかなり変化し、幾つかの例では明白な有害効果もなく培養が進行するに従いpHは7.6から6.8に低下した。
【0169】
6.12 バイオリアクター中のRSV産生プロセス生産の向上
バイオリアクター・プロセスにおけるRSVワクチン産生能を向上させるために、Applikon 3Lバイオリアクターを用いてVero細胞増殖の向上(bettering)を調べた。細胞密度が高ければ、ウイルスを産生する細胞数が多いので、ウイルス力価が高くなると思われる。前のプロセス(段落[00167]を参照されたい)では、2g/LのマイクロキャリアCytodexTM 1及び60rpmの攪拌速度を用いた。Vero細胞増殖及びRSVワクチン産生に対してより早い攪拌速度及びより高いCytodexTM 1密度を調べた。
【0170】
Vero細胞増殖に及ぼす攪拌速度の影響を評価するために、4つの3Lバイオリアクターに、1.5Lの培養体積でVero増殖培地(VP-SFM、4mM L-Gln、及び1% CDLC)中Vero細胞を2e5細胞/mLで接種した。バイオリアクター培養物では以下のパラメータを使用した:空気飽和度(air saturation)50%の溶存酸素(DO)、pH 7.1及び温度37℃。バイオリアクターのうち2つの攪拌速度は65rpmに設定し、他の2つは125rpmに設定した。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、クリスタルブルー染色法を用いて核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図10にデータを示す。培養物の汚染の問題により、65rpmの複製で作製された2つのバイオリアクター培養物のうち1つは無駄になった。攪拌速度が早い方は125rpmであり、攪拌速度が遅い方は65rpmである。図10に示すように、攪拌速度125rpmの方が細胞増殖が高まり、細胞はより高密度に増殖した。
【0171】
Vero細胞増殖の向上が得られるかどうかを確かめるために、マイクロキャリアの密度を高くして調べた。ここでも、上記のように、4つのバイオリアクター培養物に増殖培地中2e5細胞/mLのVero細胞を接種した。DOは空気飽和度50%とし、pHは7.1に設定し、温度は37℃とした。125rpmの攪拌速度を使用した。2つのバイオリアクターはCytodexTM 1を2g/L含み、他の2つのバイオリアクターは4g/L含んでいた。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、培養物サンプル中の核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図11に細胞増殖データを示す。4g/LのCytodexTM 1を用いた培養物は2g/LのCytodexTM 1を用いた培養物に比べて細胞密度が高かった。2g/LのCytodexTM 1を用いた一方のバイオリアクター培養物は装置の誤動作のため無駄になった。
【0172】
マイクロキャリアの密度を高くすることでより高いウイルス力価が得られるか否かを評価するために、3日目に各々のバイオリアクターから培養物20mLを取り出して125mLの振盪フラスコ(shake flask)に移し変えた。Vero増殖培地を感染後培地(SFM4MegaVir及び4mM L-Gln)に取り替えた。次に細胞をMOI 0.01でRSV dM2-2ウイルスに感染させ、振盪インキュベーター(shake incubator)中33℃及び5%CO2にて100rpmで振盪させて培養した。各フラスコから4、5、6及び7日目にサンプルを取ることにより、ウイルス産生をモニターした。ウイルス力価はTCID50アッセイにより決定した。図12に示すように、4g/LのCytodexTM 1を用いた培養物は2g/Lのマイクロキャリアビーズを用いた培養物に比べて高いウイルス力価を生じた。4g/L培養物についてのデータは2つの培養物の平均である。
【0173】
複製で2つ作製したバイオリアクター培養物に、上記無血清増殖培地中Vero細胞を2e5細胞/mL接種し、上記実験で確認された至適条件下(4g/LのCytodexTM 1、攪拌速度125rpm、50%DO、pH7.1及び37℃)で3日間培養した。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、培養物サンプル中の核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図13にデータを示す。
【0174】
培養3日目に攪拌を停止してマイクロキャリアービーズをバイオリアクターの底に沈降させた。次に、マイクロキャリアービーズについた細胞を残しつつ、使用済み増殖培地をバイオリアクターから取り出し、同量の新しい感染後培地(SFM4MegaVirTM+4mM L-Gln)に取り替えた。125rpmで攪拌を再開した。培養物の温度を30℃に下げ、pHを7.0に設定した。次にMOI 0.01にてMEDI-559に細胞を感染させ、30℃にて10日間培養を続けた。7日目〜10日目にかけて毎日培養物からサンプルを取り出した。ウイルス力価はTCID50アッセイにより決定した。図14に示すように、バイオリアクター培養物のピーク産生能は8 logs/mL(log10TCID50)に達した。
【0175】
6.13 バイオリアクターにおけるPIV産生プロセスの向上
細胞系及び培養物の維持
Vero細胞系(ATCC CCL-81)を無血清増殖条件用に馴化してバンクとして保管した。このワーキング・セル・バンク(WCB 29Apr03 PN532AC(SF)03BA01 PJS)に由来する細胞を全ての実験で使用した。
【0176】
T-75フラスコでは35mL、T-225フラスコでは100mL及び850cm2のローラーボトル(RB)では300mLの対応する培養体積で、足場依存性Vero細胞5×104細胞/mLを慣用的に播種し、3〜4日毎に継代させた。継代培養するために、使用済み培地を吸引し、細胞をDPBSで濯ぎ、37℃にて適量のTrypLE溶液(Invitrogen, Carlsbad, CA)で処理することにより、フラスコから剥離させた。同量のアオイマメ・トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてTrypLE活性を中和した。全ての非感染Vero細胞を、4mM L-グルタミン及び1%の既知組成脂質濃縮物(CDLC, Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加したVP-SFM(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養し、T-フラスコ培養物は37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持し、RB培養物は37℃のインキュベーター内で0.3rpmにて稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0177】
ウイルスシード
MEDI-560はcp45の誘導株であり、hPIV3ウイルスに対する生きた弱毒化ワクチンの候補である。MEDI-560ウイルスのシードストックを−80℃で保存し、使用直前にのみ解凍した。
【0178】
T-フラスコ実験
MEDI-560産生のための感染パラメータを、T25フラスコ中でまずスクリーニングした。T-25フラスコに、4mM L-グルタミン及び1% CDLCを添加したVP-SFM 12mL中6×105個のVero細胞を播種し、37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持した。播種後3日目に感染を行った。2つのT25フラスコ中の細胞数は、TrypLE溶液で細胞を剥離してVi-Cell生死細胞オートアナライザー(Vi-Cell Cell Viability Analyzer)(Beckman Coulter, Miami, FL. Model Vi-Cell XR)で細胞の数を数えることにより測定した。2つのフラスコから得た平均細胞数を用いて、感染多重度(MOI)0.01 TCID50/細胞に基づいて感染に使用するウイルスシードの量を計算した。複製で2つ作製したT25フラスコに、3種の感染培地(SFM4MegaVir(Hyclone, Logan, UT)、ウイリアムスE培地(Lonza)、及びEx-Cell Vero (SAFC Biosciences JRH):全て4mM L-グルタミンを添加した)中において2つの温度(32℃及び30℃)にてMEDI-560を感染させ、表IVに表わしたように3つの時点(感染後5、6、及び7日目、すなわちdpi)で採集した。培養物は5%CO2/95%Rhのインキュベーター内で維持した。採集する際、各条件の複製で作製した2つのフラスコから使用済み培養培地サンプルを回収し、10%(v/v)の10Xスクロースリン酸(10X SP)緩衝液で安定化させた。全てのサンプルを凍結させ、-60℃以下で保存した。感染性ウイルス力価は、TCID50アッセイを用いて測定した。
【表4】
【0179】
6.14 ワクチンのバイオリアクター比較
3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)で小規模のバイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターにはADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon) を備え付けた。CytodexTM 1マイクロキャリアを用意し、製造業社の指示書に従って使用した。
【0180】
感染前のVero細胞増殖のために、3Lのバイオリアクター中1.5〜2Lの実際の培養体積(working culture volume)で、RB培養物から採集したVero細胞をVero細胞増殖培地(4mM L-Gln及び1% CDLCを添加したVP-SFM)中4g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に2e5細胞/mLの密度で、又は2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で(改変プロセス)、播種した。pHはNaOH溶液を添加したりCO2のスパージング(sparging)を行うことによって7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。初期培養時間の間、溶存酸素は100%からフロートし(floated)、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより空気飽和度50%に維持した。攪拌速度は125rpmに設定した。
【0181】
播種後3日目又は5日目に感染を行った。サンプルを回収した後、すべてのコントロールループ(control loops)を不能にし(disabled)、マイクロキャリアビーズを30分以上かけて沈降させた。次に、部分的な培地の交換を行った。使用済みの増殖培地を吸い出し、培地添加ポートのうちの1つを介して同体積の新しい感染培地を加えた。培地交換の程度は、66〜90%の範囲であった。感染段階の間、pHは7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は50%空気飽和度に維持し、攪拌は125rpmに維持した。細胞は0.01 TCID50/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。
【0182】
単回使用バイオリアクター(SUB)実験
SUB(50L SUB ベーシック・ハードウェア・ユニット)(Hyclone, Logan, UT, Part No. SH3B1744.01))中でのVero細胞増殖では、SUBにおいて30LのVero細胞増殖培地中2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で細胞を播種した。NaOH溶液の添加及びCO2のスパージングにより、pHを7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。初期培養時間の間、溶存酸素は100%からフロートし、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより、空気飽和度50%に維持した。培養初日の間、攪拌速度は125rpmに維持し、残りの期間は100rpmに減速した。
【0183】
播種後5日目に感染を行った。サンプルを回収した後、全てのコントロールループを不能にし、マイクロキャリアビーズを30分以上かけて沈降させた。次に、部分的な培地の交換を行った。使用済みの増殖培地を吸い出し、培地添加ポートのうちの1つを介して同体積の新しい感染培地を加えた。培地交換の程度は66%であった。感染段階の間、pHは7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は50%空気飽和度に維持し、攪拌は100rpmに維持した。細胞は0.01 TCID50/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。
【0184】
ウイルス定量のための感染培養物サンプルの回収
感染させたT-フラスコ及びRB培養物中の培地をサンプリングした後、10%(v/v)スクロースリン酸を加えてウイルスサンプルを安定化させた。感染させたスピナーフラスコ及びバイオリアクターからサンプリングした後、サンプル中のマイクロキャリアビーズを沈降させ、回収した培養上清を、10%(v/v)10Xスクロースリン酸グルタメート緩衝液(10X SPG)で安定化させた。分析するまで、SPGで安定化させた全てのウイルスサンプルをただちに−80℃にて保存した。
【0185】
表V及びVIは、3つの異なるバイオリアクター産生実験の間で、細胞増殖及び感染条件における主な違いをまとめたものである。
【表5】
【表6】
【0186】
分析方法
T-フラスコ及びRBから得た細胞数及び細胞生存率は、血球計又はVi-Cellアナライザーを用いて製造業社の説明書に従って操作し測定した。バイオリアクター培養物から得た細胞濃度は、ヌクレオカウンター(Nucleocounter)(New Brunswick Scientific, Edison, NJ, M1293-0000)を用いて決定した。Bioprofile 400計器(Nova Biomedical, Waltham, MA, Bioprofile 400)を用いて、グルコース、乳酸塩(lactate)、グルタミン及びアンモニウムの濃度を分析した。ウイルス複製の進行は、50%組織培養感染量(TCID50)アッセイを用いてウイルス感染力を測定することにより分析し、結果をlog10 TCID50/mLで量を示した。
【0187】
結果
T25フラスコにおける感染パラメータのスクリーニング
異なる感染条件下で使用済み培養培地中の感染性MEDI-560力価をTCID50アッセイにより測定し、図15に表わす。SFM4MegaVir培地中30℃にて感染させた場合(最も高い力価は6dpiに得られた)を例外とした全ての条件で、5dpiに最も高い力価が得られた。SFM4MegaVir及びウイリアムスE培地で30℃という感染条件は、それぞれ8.4及び8.5 logs TCID50/mLという同等のピーク力価を生じた。これらのデータは、MEDI-560が、SFM4MegaVir及びウイリアムスE培地の両方において32℃よりも30℃の方が、より安定であることを表わしている。
【0188】
この結果は、MOI 0.01、感染培地としてSFM4MegaVir培地、及び30℃、という感染条件が、高力価のMEDI-560を産生することができることも示している。同じくMOI 0.01、4mM L-Glnを添加した感染培地SFM4MegaVir、及び温度を、以下に記載するバイオリアクター実験(図15)において使用した。
【0189】
バイオリアクター中のVero細胞増殖
図16は、ミリリッターあたりの細胞で測定された細胞密度(細胞/mL)と共に、感染前段階の間の3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィールを表わす。図17は、平方センチメーターあたりの細胞で測定された細胞密度(細胞/cm2)と共に細胞増殖プロフィールを表わす。
【0190】
予想通り、1.5L Applikonバイオリアクター実験、即ち3L260307-R9(2e5細胞/mLで播種)における細胞は、同じ期間中培養した場合、3L120407-R10(1e5細胞/mLで播種)に比べて高い細胞密度にまで増殖した。つまり、3日間培養した後では、3L260307-R9は1e6細胞/mLに達し、3L120407-R10は8.3e5細胞/mLにしか達しなかった(図15)。しかし、3L120407-R10中の細胞は、播種後5日目には1.25e6細胞/mLに達した。
【0191】
3L 120407-R10は、3L260307-R9で使用した細胞の量の半分で播種したが(1e5細胞/mL対2e5細胞/mL)、3L120407-R10で使用したマイクロキャリアの量も半分に減らしたので、両方のリアクターにはマイクロキャリア1つあたり約13個の細胞で播種した。これら2つの1.5Lバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィールは、最初の2日間は似ていた(図16)。しかし、3L260307-R9における細胞増殖は、2日目より後は遅くなり、3日目には59細胞/マイクロキャリアとなったが、これに対して3L120407-R10では96.6細胞/マイクロキャリアであった。3L260307-R9で観察されたこの遅い増殖は、グルコースがより早く枯渇したためであろう(図17)。
【0192】
SUB120407では、培養の初日の間は100rpmに攪拌を維持して細胞をマイクロキャリアビーズに付着させた。2日目から3日目にかけて攪拌速度を125rpmに上げて維持した。しかし、SUBにおける細胞増殖は1.5L Applikonバイオリアクター培養物3L120407-R10よりも遅れている。細胞増殖を促進させるために、播種後4日目から5日目にかけて攪拌速度を100rpmに下げて維持した。1日目の間は、SUB培養物中の細胞は1.5Lバイオリアクター培養物3L120407-R10と同様に増殖した。しかし、SUB中の細胞増殖は、1日目より後は、1.5Lのコントロールバイオリアクターに比べて著しく遅かった。攪拌速度はSUBにおけるMDCK細胞増殖に著しく影響を及ぼすことが分かった。
【0193】
図18A〜Bに示されるように、グルコースは、3L260307-R9が最も高い細胞密度を有しているので、3L260307-R9において最も早く枯渇した。また3L260307-R9は最も大量の乳酸塩を産生した。2〜4日目の間、3L120407-R10はSUB培養物に比べてわずかに多い乳酸塩を産生した。しかし、播種後5日目の最終的な乳酸塩濃度は、これらの2つの培養物では同じぐらいであった。
【0194】
3L260307-R9の最初のグルタミン濃度は5.6mMであり、これは算出された濃度である4mMよりも高かった(図19A〜B)。SUBにおけるグルタミンの消費は他の2つに比べて遅く、これはおそらく細胞密度が最も低かったためと思われる。3L120407-R10及びSUB120407のアンモニウムイオン産生プロフィールは非常によく似ている。3L260307-R9はより多くのアンモニウムイオンを産生し、これはおそらく3L260307-R9の細胞密度が最も高かった事実によるものであろう。
【0195】
バイオリアクター中のMEDI-560産生
3つのバイオリアクター実験におけるウイルス産生を、TCID50アッセイを用いて測定し、表VIIにまとめる。
【表7】
【0196】
データは、MEDI-560力価がSUB実験では3dpiにピークとなり、2つの1.5L Applikonバイオリアクター実験では4dpiにピークとなることを示している。これら3つのバイオリアクター実験のピーク力価は同等である。
【0197】
バイオリアクター中マイクロキャリア上で培養したVero細胞を拡張するための直接ビーズ間移行法(Direct Bead-to-bead Transfer Method)
Vero細胞培養物を効率的に拡張するために、Vero細胞を付着させたマイクロキャリアビーズからそれらの細胞を剥離した後、新しく加えたマイクロキャリアビーズに付着させて増殖させる必要がある。Vero細胞をマイクロキャリアビーズから剥離して拡張するために、典型的にはトリプシン/EDTAが使用されていた(Sugawara K., et al., Biologicals 2002, 30, 303-314)。しかし、この手法は培養培地の除去及び大量のトリプシン/EDTAの使用を伴うものである。これは、扱いが難しく、コストが高く、且つ汚染の危険性が高い。
【0198】
マイクロキャリアビーズからVero細胞を剥離するためにトリプシンを用いたりトリプシン様酵素を用いたりすることなくバイオリアクター中でVero細胞培養物を拡張するために、直接ビーズ間移行法が開発された。Vero細胞を、それらが付着しているマイクロキャリアビーズから、拡張及び増殖させるために新しく加えたビーズに直接移動させた。この直接ビーズ間移行方法を用いて拡張したバイオリアクター培養物から得た細胞が、ローラーボトルから得た細胞を播種した培養物と同等のウイルス産生能を有するか否かをテストするために、以下の比較研究を行った。
【0199】
Vero細胞系(ATCC CCL-81)を無血清増殖条件に馴化してバンクとして保管した。全ての実験において、ワーキング・セル・バンクに由来する細胞(WBC 29Apr03 PN532AC(SF)03BA01 PJS)を使用した。
【0200】
ローラーボトル培養物:足場依存性Vero細胞を、対応する培養体積、すなわちT-75フラスコでは35mL、T-225フラスコでは100mL、及び850cm2ローラーボトル(RB)では300mL中に5×104細胞/mLで播種し、3〜4日ごとに継代させた。継代培養するために、使用済み培地を吸引し、細胞をDPBSで濯いで、適量のTrypLE溶液(Invitrogen, Carlsbad, CA)で37℃にて処理することにより、フラスコから剥離した。同量のアオイマメ・トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてTrypLE活性を中和した。感染していない全てのVero細胞を、4mM L-グルタミン及び1%の既知組成脂質濃縮物(CDLC, Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加したVP-SFM(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養し、T-フラスコ培養物は37℃/5%CO2/95Rhインキュベーター内で維持し、そしてRB培養物は37℃インキュベータ内で0.3rpmにて稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0201】
実験ではMEDI-560及びMEDI-559を使用した。ウイルスのシードストックは−80℃で保存し、使用直前にのみ解凍した。
【0202】
直接ビーズ間バイオリアクター培養:3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)にて小規模なバイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターにはADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon)を装備した。Cytodex 1マイクロキャリアを用意し、製造業者の指示に従って使用した。
【0203】
バイオリアクター培養を開始するために、RB培養物から採集したVero細胞を、3Lバイオリアクター中1.5〜2Lの実際の培養体積にて、Vero細胞増殖培地(4mM L-Gln及び1% CDLCを添加したVP-SFM)中4g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に2e5細胞/mLの密度で播種した、又は2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で播種した。pHは、NaOH溶液の添加及びCO2のスパージングにより、7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。溶存酸素は、初期培養時間の間は100%からフロートし、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより、空気飽和度50%に維持した。攪拌速度は125rpmに設定した。
【0204】
トリプシンを利用しないでビーズからビーズへとVero細胞を直接移動させることによるバイオリアクターからバイオリアクターへのVero細胞培養物の拡張をテストするために、以下の実験を行った。Vero細胞をApplikonバイオリアクター中上記のように1.5Lの実際の体積で3日間培養した。このとき細胞密度は1e6細胞/mL以上に達した。1:1の分割比(split ratio)で拡張するために、3日間培養したもののうち750mL〜1Lを、4g/Lの新しいCytodex 1ビーズと共に同体積の新しい増殖培地を含む新しいバイオリアクターに移した。1:5の分割比で拡張するために、Vero細胞培養物のうち300mLを、4g/Lの新しいCytodex 1ビーズと共に1.2Lの新しい増殖培地を含む新しいバイオリアクターに移した。
【0205】
上記と同じパラメータを用い、攪拌に以下の修正を加えて細胞を培養した。125rpmの一定速度で攪拌するのではなく、表VIIIに示すような様々な断続的攪拌レジーム(intermittent agitation regime)を使用した。4つの異なる断続的攪拌レジームを用いて拡張したバイオリアクターにおける細胞増殖の結果を図22に示す。
【表8】
【0206】
直接ビーズ間移行方法を用いて拡張したバイオリアクター培養物から得た細胞が、ローラーボトルから得た細胞を播種した培養物と同等のウイルス産生能を持つか否かをテストするために、新しく播種したバイオリアクター培養物及び1:5の分割比で拡張した培養物に、MEDI-559をMOI 0.01FFU/細胞で感染させた。感染段階の間、pHを7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は空気飽和度50%に維持し、攪拌は125rpmに維持した。その結果、ピークウイルス力価は表IXに示すように同等なものであった。
【表9】
【0207】
基本のプロセスパラメータ(platform process parameters)を用いて3Lバイオリアクター中で培養したVero細胞を、以下表Xに記載する2つの別個の実験において15Lバイオリアクターに拡張した。細胞を3Lバイオリアクターから1:5の分割比で15Lバイオリアクターに移して拡張した。細胞は3Lバイオリアクター中で増殖させた培養物で見られたように、4日目又は5日目までに1e6核/mL以上に達した(図22)。15L Applikonバイオリアクター中で拡張させたVero細胞培養物に、MEDI-559又はMEDI-560をMOI 0.01にて感染させた。15Lの拡張させた培養物中で得られたピーク力価は、3Lバイオリアクター培養物から得られたものに匹敵するものであった(表X)。
【表10】
【0208】
細胞分布の均質性が問題となるか否か、及び複数回の拡張に由来する細胞がウイルス産生能を保っているか否かをテストするために、Vero細胞培養物を3Lバイオリアクターにおいて2回連続して(2X)1:5の分割比で継代培養させた。細胞増殖及びMEDI-560産生を、ローラーボトルから得た細胞(拡張なし)を播種したバイオリアクター培養物又はバイオリアクター中で1:5の分割比で1回拡張(1X)した後培養したバイオリアクター培養物と比較した。実験設計、細胞増殖プロフィール、マイクロキャリアビーズへの細胞分布、及びMEDI-560産生を、表XI、図23〜25にそれぞれ示す。細胞は5日目(1X拡張)及び2回拡張した後6日目までに1e6核/mL以上に達した。拡張した培養物中において細胞増殖にわずかな遅れがあった。1回及び2回拡張した後の培養物中のマイクロキャリアビーズ上の細胞分布は、同等である(図24)。図25に示されるように、全ての培養物は同等のMEDI-560産生能を示した。
【表11】
【0209】
上記のビーズからビーズへの移行方法を用いて拡張させたVero細胞は、ローラーボトルから得た細胞を播種したVero細胞培養物に匹敵するRSVワクチンをもたらした。
【0210】
本発明の様々な実施形態を記載した。説明及び実施例は本発明を例示するためのものであって限定するものではない。実際に、当業者であれば、本発明の精神又は特許請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明の様々な実施形態に修正を加えることができることは自明であろう。本明細書中に引用した全ての参考文献は、それら全体が参考として本明細書中に組み込まれる。さらに、2007年4月5日に出願された国際特許出願PCT/US07/66037号、並びに米国仮出願第60/862,550号(2006年10月23日出願)、第60/944,162号(2007年6月15日出願)、及び第60/973,921号(2007年9月20日出願)も、その全体が本明細書中に参考としてそれぞれ組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
1.導入
本発明はウイルスの増殖方法に関する。特に、本発明は、ウイルス増殖のための最適化条件を提供する。以下のパラメータ、すなわち培地への添加物としての脂質濃縮物、感染前から感染後の温度のシフト、感染多重度、及び感染前培地への血清添加、の最適化を提供する。特に、本発明は初めて、ウイルスを感染させた細胞を、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地中で培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。別の実施形態において、CDLCは、ウイルス感染細胞の培養のための実質的に血清を含まない培地に添加される。また別の実施形態において、本発明は、直接ビーズ間移行方法によるウイルス細胞培養物の増殖を提供する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
ヒトパラインフルエンザウイルス1〜3型(hPIV1-3)及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、パラミクソウイルス科の非分節型のマイナス鎖RNAウイルスである。パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)は、モノネガウイルス目(Mononegavirales)内の科であり、パラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)とニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)からなる。パラインフルエンザウイルスは、パラミクソウイルス科のレスピロウイルス属(Respirovirus)のメンバー(PIV1、PIV2及びPIV3)である。ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)は、ニューモウイルス属(Pneumovirus)の1種であり、世界中で幼児及び小児の間の下気道感染症の単一の最も重要な原因である(Domachowske & Rosenberg, 1999, Clin. Microbio. Rev. 12(2):298-309)。hMPVは、軽度な上気道疾患から重篤な細気管支炎及び肺炎までの範囲の、hRSV感染により引き起こされるものを連想させる臨床症状を有するパラミクソウイルス科の新規メンバーである(Van Den Hoogen et al., 2001, Nature Medicine 7:719-724)。ヒトメタニューモウイルスのゲノム構成はvan den Hoogen et al., 2002, Virology 295:119-132に記載されている。合わせて、hPIV3及びRSV及びhMPVは、入院にまで至らせる小児呼吸器疾患の全症例のおよそ三分の一を占めると考えられている(Hall, 2001, N Eng J Med 344:1917-1927)。
【0003】
2.1 PIV感染
パラインフルエンザウイルス(PIV)感染は、幼児と小児で重症の呼吸器疾患を引き起こす(Taoら、1999, Vaccine 17:1100-08)。感染性パラインフルエンザウイルス感染症は、世界中で呼吸器感染症にかかった小児患者のすべての入院数の約20%を占める。同上。
【0004】
PIVは2つの構造モジュール(module)から構成されている:(1)内部リボ核タンパク質コア、又はヌクレオカプシド(ウイルスゲノムを含む)、(2)外部のほぼ球形のリポタンパク質エンベロープ。そのゲノムは、マイナスセンスRNAの1本鎖からなり、これは、約15,456ヌクレオチド長であり、少なくとも8個のポリペプチドをコードする。これらのタンパク質には、ヌクレオカプシド構造タンパク質(属によりNP、NC、又はN)、ホスホタンパク質(P)、マトリックスタンパク質(M)、融合糖タンパク質(F)、血球凝集素−ノイラミニダーゼ糖タンパク質(HN)、大ポリメラーゼタンパク質(L)、及び機能が未知のCタンパク質とDタンパク質がある(同上)。
【0005】
パラインフルエンザヌクレオカプシドタンパク質(NP、NC、又はN)は、RNAと直接相互作用するアミノ末端ドメイン(分子の約3分の2を含む)と、組み立てられたヌクレオカプシドの表面上に存在するカルボキシ末端ドメインとを含む、各タンパク質ユニット内の2つのドメインからなる。これらの2つのドメインの結合部にヒンジが存在すると考えられ、従ってこのタンパク質にある程度の可撓性を付与している(Fieldsら(編)、1991, Fundamental Virology, 第2版参照、ラーベンプレス(Raven Press)、ニューヨーク、これは参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)。マトリックスタンパク質(M)は明らかにウイルス組み立てに関与し、ウイルス膜とヌクレオカプシドタンパク質の両方と相互作用する。リン酸化を受けるホスホタンパク質(P)は、転写において制御的役割を果たし、またメチル化、リン酸化及びポリアデニル化にも関与している可能性がある。融合糖タンパク質(F)はウイルス膜と相互作用し、まず不活性前駆体として産生され、次に翻訳後切断を受けて2つのジスルフィド結合で結合したポリペプチドを産生する。活性Fタンパク質はまた、ウイルスエンベロープと宿主細胞原形質膜との融合を促進することにより、宿主細胞へのパラインフルエンザウイルス粒子の貫通を促進する(同上)。糖タンパク質である血球凝集素−ノイラミニダーゼ(HN)は、エンベロープから突き出て、ウイルスが血球凝集素活性及びノイラミニダーゼ活性を含有することを可能にする。HNはアミノ末端で強い疎水性であり、これがHNタンパク質を脂質二重層中に固定するよう機能する。同上。最後に大ポリメラーゼタンパク質(L)は、転写と複製の両方で重要な役割を果たす(同上)。
【0006】
2.2 RSV感染
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、幼児と小児の重症の下気道疾患の主原因である(Feigenら(編)、1987、Textbook of Pediatric Infectious Diseases中、ダブリュー・ビー・ソンダース(WB Saunders)、フィラデルフィア、1653〜1675頁;New Vaccine Development, Establishing Priorities、第1巻、1985、ナショナルアカデミープレス(National Academy Press)、ワシントンDC、397〜409頁;及びRuuskanenら、1993, Curr. Probl. Pediatr. 23:50-79)。RSV感染の毎年の流行性は世界的に明らかであるが、ある季節のRSV疾患の発症率と重症度は地域により変動する(Hall, 1993, Contemp. Pediatr. 10:92-110)。北半球の温帯地域では、これは通常晩秋に始まり晩春に終わる。1次RSV感染はほとんど6週齢〜2才の小児で起き、まれに院内流行中に生後4週間以内に起きる(Hallら、1979, New Engl. J. Med. 300:393-396)。RSV感染のリスクの高い小児には、特に限定されないが、早産児(Hallら、1979, New Engl. J. Med. 300:393-396)、気管支肺異形成の小児(Groothuisら、1988, Pediatrics 82:199-203)、先天性心疾患(MacDonaldら、New Engl. J. Med. 307:397-400)、先天性又は後天性免疫不全症(Ograら、1988, Pediatr. Infect. Dis. J. 7:246-249;及びPohlら、1992, J. Infect. Dis. 165:166-169)、及び嚢胞性繊維症(Abmanら、1988, J. Pediatr. 113:826-830)がある。RSV感染で入院した心疾患又は肺疾患の幼児の死亡率は、3%〜4%である(Navasら、1992, J. Pediatr. 121:348-354)。
【0007】
RSVは幼児や小児と同様に成人にも起きる。健常成人ではRSVは、主に上気道疾患を引き起こす。一部の成人(特に老人)は、以前報告されているよりはるかに高率に症候性RSV感染症を有することが、最近明らかになっている(Evans, A.S.(編)、Viral Infections of Humans. Epidemiology and Control, 第3版、Plenum Medical Book, ニューヨーク、525〜544頁)。ナーシングホーム患者及び施設の若者の間でもいくつかの流行が報告されている(Falsey, A.R., 1991, Infect. Control Hosp. Epidemiol. 12:602-608;及びGarvieら、1980, Br. Med. J. 281:1253-1254)。最後にRSVは、免疫抑制者、特に骨髄移植患者で重症の疾患を引き起こすことがある(Hertzら、1989, Medicine 68:269-281)。
【0008】
確立したRSV疾患の治療の選択肢は限定されている。下気道の重症のRSV疾患はしばしば、加湿酸素の投与と呼吸補助を含むかなりの補助治療が必要である(Fieldsら編、1990, Virology, 第2版、第1巻、ラーベンプレス(Raven Press)、ニューヨーク、1045-1072頁)。
【0009】
ワクチンによりRSV感染及び/又はRSV関連疾患を予防できる可能性があるが、まだこれを適応症として認可されたワクチンは無い。ワクチン開発に対する大きな障害は安全性である。ホルマリンで不活性化したワクチンは免疫原性であるが、これは予想外に、免疫した幼児で、同様に調製した3価パラインフルエンザワクチンを免疫した幼児よりも、RSVによるより高率かつ重症の下気道疾患を引き起こした(Kimら、1969, Am. J. Epidemiol. 89:422-434;及びKapikianら、1969, Am. J. Epidemiol. 89:405-421)。いくつかのRSVワクチン候補が断念されており、いくつかは開発中である(Murphyら、1994, Virus Res. 32:13-36)が、安全性の問題が解決してもワクチンの効力も改良しなければならない。解決すべき多くの問題がある。下気道疾患の発症率のピークは生後2〜5ヶ月であるため、誕生直後の新生児期免疫が必要である。新生児の免疫応答の未成熟さが母親から獲得したRSV抗体の高力価と組合わさって、新生児期のワクチンの免疫原性を低下させると予測される(Murphyら、1988, J. Virol. 62:3907-3910;及びMurphyら、1991, Vaccine 9:185-189)。最後に、1次RSV感染と疾患は、以後のRSV疾患に対して充分防御してくれない(Hendersonら、1979, New Engl. J. Med. 300:530-534)。
【0010】
現在RSV疾患の予防のために認可されている唯一の方法は受動免疫である。IgGの防御性役割を示唆する最初の証拠は、フェレット(Prince, G.A., 博士論文、カリホルニア大学ロサンゼルス校、1975)とヒト(Lambrechtら、1976, J. Infect. Dis. 134:211-217;及びGlezenら、1981, J. Pediatr. 98:708-715)の母親の抗体が関与する観察結果から得られた。Hemmingら(Morellら編、1986、Clinical Use of Intravenous Immunoglobulins、アカデミックプレス(Academic Press)、ロンドン、285-294頁)は、新生児敗血症が疑われる新生児の静脈内免疫グロブリン(IVIG)の薬物動態が関与する試験中に、RSV感染の治療又は予防においてRSV抗体が有用である可能性を認識した。この試験では、その呼吸器分泌物がRSVを生じた一人の幼児がIVIG注入後に急速に回復することが観察された。IVIGロットの以後の解析により、異常に高力価のRSV中和抗体が明らかになった。この同じ研究者のグループは次に、RSV中和抗体が濃縮された高度免疫血清又は免疫グロブリンが、RSV感染に対してコトンラット及び霊長類を防御する能力を調べた(Princeら、1985, Virus Res. 3:193-206;Princeら、1990, J. Virol. 64:3091-3092;Hemmingら、1985, J. Infect. Dis. 152:1083-1087;Princeら、1983, Infect. Immun. 42:81-87;及びPrinceら、1985, J. Virol. 55:517-520)。これらの研究の結果は、IVIGを、RSV感染の予防、さらにRSV関連障害の治療又は予防に用いることができることを示している。
【0011】
RSVのFタンパク質のA抗原性部位中のエピトープに対するヒト化抗体(SYNAGIS(登録商標))は、RSVシーズン(北半球では11月〜4月)中に、RSVにより引き起こされた重症の下気道疾患のために、推奨された月毎の投与量の15mg/kg体重で小児患者に筋肉内投与することが認可されている。SYNAGIS(登録商標)は、ヒト(95%)とマウス(5%)抗体配列の複合体である。Johnsonら、1997, J. Infect. Diseases 176:1215-1224及び米国特許第5,824,307号(その全内容は参照することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい。ヒトIgG1の定常ドメインとVH遺伝子の可変フレームワーク領域、又はCor(Pressら、1970、Biochem. J. 117:641-660)とCess(Takashiら、1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:194-198)からヒト重鎖配列が得られた。ヒト軽鎖配列は、Cκの定常ドメインと、Jκ-4を有するVL遺伝子の可変フレームワーク領域から得られた(Bentleyら、1980, Nature 288:5194-5198)。マウス配列は、ヒト抗体フレームワークへのマウス相補性決定領域の移植を含む方法により、マウスモノクローナル抗体Mab1129(Beelerら、1989, J. Virology. 63:2941-2950)から得られた。
【0012】
2.3 hMPV感染
最近、軽い上気道疾患から重症の細気管支炎と肺炎の、ヒト呼吸器合胞体ウイルス(hRSV)感染が引き起こす症状を思わせる臨床症状を有する28人の小児から、パラミクソウイルス科の新しいメンバーが単離された(Van Den Hoogenら、2001, Nature Medicine 7:719-724)。この新しいウイルスは、配列相同性と遺伝子配置に基づきヒトメタニューモウイルス(hMPV)と命名された。研究によりさらに、オランダのほとんどすべての子供は5才までにhMPVに暴露され、このウイルスは少なくとも半世紀ヒトの中を循環していることが証明された。さらにこの感染症の季節性はRSVと類似しており、冬の数ヶ月がピークである(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。しかしながら、hMPVは、RSVとは異なり、低い率ではあるが年間を通して単離することができる(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。hMPV感染のリスク因子もまたRSVで見出されるものと類似している。ヒトメタニューモウイルスによる感染の最も高い罹患率は、幼児、高齢者及び免疫不全者において見出されている。ヒトメタニューモウイルスによる感染は、早産の危険のある小児における疾患、未熟児の慢性肺疾患、鬱血性心疾患、及び免疫不全の顕著な負担である(Robinson, 2005, J. Med. Virol. 76:98-105; Williams, 2004, New Engl. J. Med. 350:443-450)。ヒトメタニューモウイルスは最近、北アメリカの患者から単離された(Peretら、2002, J. Infect. Diseases 185:1660-1663)。
【0013】
ヒトメタニューモウイルスのゲノム構成は、Van Den Hoogenら、2002, Virology 295:119-132に記載されている。系統学的分析によって、hMPV株は、APVウイルスとは異なるA及びB亜群と称する2つの遺伝子クラスターに分類されている(Bastien et al 2003a及びb;Biacchesi et al, 2003;Peret et al 2002及び2004;van den Hoogen, 2002)。これらの亜群において、hMPVはさらにA1、A2、B1及びB2亜型に細分される(van den Hoogen, 2003)。
【0014】
hMPVは、RSVと類似の遺伝子構造を有するが、RSVに見出される非構造遺伝子を欠損している(van den Hoogen, 2002, Virology. 295:119-132)。両方のウイルスが、表面糖タンパク質(G)タンパク質及び融合(F)タンパク質として定義される類似の表面タンパク質をコードする。これらのG及びFタンパク質のアミノ酸配列の差異に基づいて、RSV及びhMPVのいずれもA及びB群に細分されている。しかしながら、hMPVではA及びB亜群のA1、A2、B1及びB2グループへのさらなる分岐がある(Boivin, 2004, Emerg. Infect. Dis.10:1154-1157, 25)。RSV及びhMPVウイルスの両方ではGタンパク質の配列は亜群間で広範な変動を示し、hMPVではGタンパク質はA及びB亜群間でわずかに30%の同一性を有する。RSV及びhMPVウイルスの両方に関して、Fタンパク質はより保存されており、既知のhMPV単離株においてFタンパク質のアミノ酸配列は95%が保存されている(Biacchesi, 2003, Virology 315:1-9; Boivin, 2004, Emerg. Infect. Dis.10:1154-1157; van den Hoogen, 2004, Emerg. Infect. Dis. 10:658-666)。ウイルスの構造上の類似性にもかかわらず、hMPV及びRSVのFタンパク質はわずかに33%のアミノ酸配列同一性を示すにすぎず、RSV又はhMPVに対して生じた抗血清は、ニューモウイルス亜科の群全体を中和することができない(Wyde, 2003, Antiviral Research. 60:51-59)。RSVに関して、融合(F)タンパク質に対する単一のモノクローナル抗体は、重篤な下気道RSV感染症を予防することができる。同様に、hMPV亜群全体にわたってFタンパク質の配列が高度に保存されているため、このタンパク質は、亜群交差反応性中和抗体の作製のための抗原性標的として好ましい可能性がある。
【0015】
ヒトメタニューモウイルスはトリニューモウイルス(APV)に関係している。例えばhMPVのFタンパク質は、APVのFタンパク質と相同性が高い。ヒトメタニューモウイルスのFタンパク質をマガモ(Mallard Duck)から単離されたトリメタニューモウイルスのFタンパク質とアライメントすると、エクトドメインが85.6%の同一性を示す。ヒトメタニューモウイルスのFタンパク質を七面鳥(亜群B)から単離されたトリニューモウイルスのFタンパク質とアライメントすると、エクトドメインが75%の同一性を示す。例えば、HallerとTangによる2002年2月21日に出願された本出願人による同時係属仮出願第60/358,934号(標題「メタニューモウイルスから得られた異種抗原を含む組換えパラインフルエンザウイルス発現系とワクチン」)を参照されたい(これは参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0016】
hMPVを用いる最近の研究に基づくと、hMPVは、ヒト、特に若年性の呼吸系疾患の重要な要因のようである。
【0017】
従って、ヒトの呼吸系疾患のかなりの部分がhPIV3、RSV及びhMPVにより引き起こされるという事実にも関わらず、これらのウイルスに対するワクチンは依然として利用可能ではない(Tangら, 2004, J Virol 78:11198-11207)。
【0018】
2.4 キメラウイルス
組換えウシPIV3ベクターを、ウシPIV3における融合(F)タンパク質及び血球凝集素ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパク質の遺伝子を、それぞれヒトPIV3及びNH遺伝子と置き換えることにより構築したことが報告されている(Haller et al., 2000, J Virol 74:11626-11635)。後の刊行物(Tang et al., 2003, J Virol 77:10819-10828)では、RSV F遺伝子のウシ-ヒトPIV3ベクター骨格への挿入によって、RSV Fタンパク質を発現するキメラウイルスを作製したことが記載されている。このキメラウイルスはMEDI-534と名づけられた。これは、動物研究において、生弱毒化二価ワクチンとして機能した。すなわち、MEDI-534で免疫したハムスター及び非ヒト霊長類が、RSV及びhPIV3によるチャレンジからの防御を示し、そしてそれらの動物は、RSV中和抗体及びhPIV3血液凝集阻害血清抗体を生成した(Tang et al., 2003, 前掲;Tang et al., 2004, 前掲)。
【0019】
有望な免疫原性及び前臨床動物モデルにおける防御結果から、MEDI-534に近縁の種々のウイルスの複製が、種々の許容される哺乳動物細胞系において行われた(Haller et al., 2003, J Gen Virol 84:2153-2162)。全ての事例において、Vero細胞が最も高いウイルス力価を生じた。MEDI-534ウイルスが、Vero細胞における最大10回の連続継代の間にRSV F遺伝子インサートを安定に維持していることが示された(Tang et al., 2003, 前掲)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
2.5 ウイルスの増殖
本発明は、ウイルスの増殖方法に関する。。ウイルスの増殖のための条件は、例えば本発明のウイルスワクチン候補の製造のために、有益と考えられる強固かつ高収量の細胞培養物を作製するために最適化される。
無血清培地
伝達性海綿状脳症(Asher, 1999, Dev Biol Stand 100: 103-118; Galbraith, 2002, Cytotechnology 39: 117-124)及び偶発的ウイルス(Erickson et al., 1989, Dev Biol Stand 70: 59-66)などの感染因子へのヒトの暴露に関する懸念が高まっていることを考慮して、米国(Food and Drug Administration)及び欧州(European Medicine Evaluation Agency)の規制当局は、生物製剤の製造業者に、その製造プロセスにおける動物起源物質の使用を低減及び排除するように推奨している(Castle and Robertson, 1999, Dev Biol Stand 99: 191-196)。
【0021】
熱感受性
熱感受性はウイルス系において観察されており、レトロウイルスパッケージング細胞の培養では37℃の代わりに32℃において、感染性ウイルス粒子の収量が最大2〜15倍に増大した(Kaptein et al., 1997, Gene Therapy 4: 172-176; Kotani et al., 1994 Hum Gene Ther 5: 19-28; Lee et al., 1996, Appl Microbiol Biotechnol 45: 477-483)。
【0022】
細胞密度効果
「細胞密度効果」は、バッチ培養におけるアデノウイルス産生について観察されており、感染時の細胞密度を増大させると特定のウイルス産生能が低減した(Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774; Nadeau and Kamen, 2003, Biotechnol Adv 20: 475-489)。慣用の流加(fed-batch)手法を用いて直面した失敗と比較して(Nadeau et al, 2002; Yuk et al., 2004 Biotechnol Bioeng 86: 637-642)、アデノウイルス産生における「細胞密度効果」を克服するために還流培養物を用いた成功があり(Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774; Yuk et al., 2004 Biotechnol Bioeng 86: 637-642)、これはバッチ及び流加条件下で蓄積する1以上の未同定阻害剤の存在についてほのめかしている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
3.発明の概要
本発明はウイルスの増殖方法に関する。ある実施形態において、本発明は、マイナス鎖RNAウイルスの増殖方法を提供する。特に、本発明は、非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスなどの増殖方法を提供する。具体的には、本発明は、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)の増殖方法を提供する。よりさらに具体的には、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、本発明の方法を利用してRSVヌクレオチド配列を発現するキメラヒト/ウシPIVを増殖させる。
【0024】
特に、本発明は、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地においてウイルスを感染させた細胞を培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。特定の実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。ある実施形態において、培地は、無血清培地、例えばOptiPROTM SFM又はVP-SFMTM又はSFM4MegaVirTM(SFM4MV)又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地などである。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。特定の実施形態において、CDLCは、プルロニックF-68(Pluronic F-68)、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含む。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、無血清培地においてウイルスに感染させた細胞を培養することによるウイルスの増殖方法を提供する。想定される無血清培地としては、例えば、VP-SFMTM又はSM4MegaVirTM、OptiPROTM SFM又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地が挙げられる。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。別の実施形態において、使用する細胞は、無血清適応Vero細胞である。
【0026】
本発明はさらに、ウイルス増殖のための最適化条件を提供する。一実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染前は第1温度で、そしてウイルスによる感染後は第1温度よりも低い第2温度で培養する。特定の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染前(すなわち感染前)は約37℃で、ウイルスによる感染後(すなわち感染後)は約29〜約37℃で培養する。別の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染後は約33℃で培養する。別の実施形態において、細胞は、ウイルスによる感染後は約30℃で培養する。
【0027】
一実施形態において、ウイルスの播種密度は1e5〜2e5細胞/cm2の範囲である。別の実施形態において、播種密度は2.1 e4〜2.9 e4細胞/cm2である。別の実施形態において、播種密度は2.4 e4細胞/cm2である。また別の実施形態において、ウイルスの播種密度は2e5細胞/cm2である。
【0028】
別の実施形態において、細胞を、約0.0001〜約0.1の範囲の感染多重度(MOI)のウイルスと共に培養する。また別の実施形態において、細胞を、約0.001〜約0.01の範囲のMOIで培養する。
【0029】
また別の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染前は血清の存在下で培養する。一実施形態において、感染前培地はウシ胎仔血清を含む。
【0030】
一実施形態において、感染の時期は播種後3又は4日目(dps)である。一実施形態において、感染後の時間は4〜11日の範囲である。別の実施形態において、感染後の時間は、約5日又は約6日又は約8日である。また別の実施形態において、感染の時期は、細胞が1e6 細胞/cm2以上に達したときである。
【0031】
一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、バッチプロセス(batch process)又は流加プロセス(fed-batch process)のいずれかでバイオリアクター中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、該バイオリアクター中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。特定の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は、単回使用バイオリアクター(SUB)中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物 は、SUB中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。
【0032】
一実施形態において、本発明の方法及び組成物の結果としてのウイルス力価は、少なくとも5 log10 TCID50/ml、少なくとも6 log10 TCID50/ml、少なくとも7 log10 TCID50/ml、少なくとも8 log10 TCID50/ml、少なくとも9 log10 TCID50/ml、少なくとも10 log10 TCID50/mlである。
本発明の方法はまた、組換えウイルスゲノムからウイルスをレスキューする場合に用いることも可能である。
【0033】
3.1 規約及び略語
ADCF:動物由来成分不含
CDLC:既知組成(chemically defined)脂質濃縮物
Dpi:感染後日数
Dps:播種後日数
ΔM2-2:M2-2オープンリーディングフレーム欠失を有する組換え生弱毒化RSVウイルス(Jin et al., Vaccine, 2003 pp. 3647-52)
ΔNS-1:NS-1オープンリーディングフレーム欠失を有する組換え生弱毒化RSVウイルス((Jin et al., Vaccine, 2003 pp. 3647-52)
F:融合
FBS:ウシ胎仔血清
HMPV:ヒトメタニューモウイルス
hPIV1-3:ヒトパラインフルエンザウイルス1型、2型又は3型
HN:血球凝集素ノイラミニダーゼ
MEDI-534:キメラウシ/ヒトパラインフルエンザウイルス3型/RSウイルス(Tang et al., 2003 J Virol 77: 10819-1828)
MEDI-559:MEDI-559は、rA2cp248/404/1030ΔSHと称する生弱毒化RSVウイルスである(Karron et al., JID vol 191 p. 1093 (2005))
MOI:感染多重度
PIV3:パラインフルエンザウイルス3型
増殖:ウイルス粒子数の増大
RB:ローラーボトル
MEDI-560又はrcp45 hPIV3:wt HPIV3を冷却継代(45サイクル)した組換え体(Karron et al., Pediatr. Inf. Dis. J. 2003, 22:394-405)
RSV:呼吸器合胞体(RS)ウイルス
SFM:無血清培地
SUB:単回使用バイオリアクター
TCID50:50%組織培養感染量
Vero:アフリカミドリザル腎細胞系
v/v:体積対体積比
【図面の簡単な説明】
【0034】
4.図面の説明
【図1】種々のMOIでのウイルス産生プロフィール。無血清Vero細胞のT-75フラスコの2つの複製に、播種後3日目にMOI 0.1、0.01、0.001、0.0001又は0.00001でMEDI-534を感染させた。培養物を感染前及び感染後に37℃でインキュベートした。
【0035】
【図2】(a)感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響。無血清Vero培養物に播種後3日目にMOI 0.001を用いてMEDI-534を感染させた(0.6×107細胞/フラスコ)。T-75フラスコの2つの複製を感染後に33℃又は37℃でインキュベートした。
【0036】
(b)感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響。無血清Vero培養物に播種後5日目にMOI 0.001を用いてMEDI-534を感染させた(0.6×107細胞/フラスコ)。T-75フラスコの2つの複製を感染後に33℃又は37℃でインキュベートした。
【0037】
【図3】感染前にFBSで滴定したRB培養物のウイルス産生プロフィール。Vero細胞をRBの3つの複製において次の培地: OptiPROTM SFM、OptiPROTM SFM+0.5%(v/v) FBS、及びOptiPROTM+2%(v/v) FBSの1つに播種した。播種後3日目に、各条件のRBの1つを細胞計数のためにトリプシン処理した:OptiPROTM SFM(1.9×107細胞/フラスコ)、OptiPROTM SFM+0.5% (v/v) FBS(9.3×107細胞/フラスコ)及びOptiPROTM+2% (v/v) FBS(10.4×107細胞/フラスコ)。残りの2つの3種のRBに、MOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0038】
【図4】(a)種々の感染前培地及び添加物における細胞収量の比較。Vero細胞を、条件あたり4つのRBで次の5つの培地:(1) OptiPROTM SFM、(2) OptiPROTM SFM+1% (v/v) CDLC、(3) OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS、(4) VP-SFM、及び(5) VP-SFM+1%(v/v) CDLCの1つに播種した。播種後3日目に、条件あたり2つのRBを細胞計数のために用いた。残りのRB複製セットにMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0039】
(b)種々の感染前培地及び添加物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、条件あたり4つのRBで次の5つの培地:(1) OptiPROTM SFM、(2) OptiPROTM SFM+1% (v/v) CDLC、(3) OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS、(4) VP-SFM、及び(5) VP-SFM+1%(v/v) CDLCの1つに播種した。播種後3日目に、条件あたり2つのRBを細胞計数のために用いた。残りのRB複製セットにMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0040】
【図5】(a)種々の感染前培地を用いたRBにおける細胞増殖の比較。Vero細胞をOptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCに播種した。増殖曲線を作成するために、各条件のRBの2つの複製を毎日計数した。
【0041】
(b)種々の感染前培地を用いたRBにおけるウイルス産生の比較。Vero細胞をOptiPROTM+0.5% (v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCに播種した。ウイルス産生プロフィールを作成するために、2種の感染前培地における2つの複製のRB培養物に播種後3日目にMEDI-534を感染させた。感染させた培養物を、感染後2〜7日目に毎日サンプリングした。
【0042】
【図6】(a)感染前にCDLCを用いて滴定したRB培養物における細胞収量の比較。Vero細胞を、2つの複製において、3つの異なる濃度のCDLCを添加した無血清増殖培地(VP-SFM)に播種した。播種後4日目に、培養物を、細胞計数のためにトリプシン処理し、3つの異なる濃度で添加したCDLCを含むVP-SFM中で継代させた(4つの複製)。播種後3日目に、条件あたり2つの複製のRBを計数し、残りの複製のRBセットにMEDI-534を感染させた。
【0043】
(b)感染前にCDLCを用いて滴定したRB培養物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、2つの複製において、3つの異なる濃度のCDLCを添加した無血清増殖培地(VP-SFM)に播種した。播種後4日目に、培養物を、細胞計数のためにトリプシン処理し、3つの異なる濃度で添加したCDLCを含むVP-SFM中で継代させた(4つの複製)。播種後3日目に、条件あたり2つの複製のRBを計数し、残りの複製のRBセットにMEDI-534を感染させた。
【0044】
【図7】種々の感染後培地におけるMEDI-534産生の比較。RB培養物をVP-SFM+1%(v/v) CDLCに接種した。播種後3日目に、2つの複製のRBに、次のSFM:VP-SFM+1%CDLC、VP-SFM及びWMEのうちの1つにおいてMOI 0.001でMEDI-534を感染させた。
【0045】
【図8】(a)種々の感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物における細胞増殖の比較。Vero細胞を、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCのいずれか中に2 g/L CytodexTM 1を含有する2つの複製のスピナーフラスコに播種した。増殖曲線を作成するために、核を計数するための未感染フラスコから毎日サンプル採取した。
【0046】
(b)種々の感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物におけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS又はVP-SFM+1%(v/v) CDLCのいずれか中に2 g/L CytodexTM 1を含有する2つの複製のスピナーフラスコに播種した。ウイルス産生プロフィールを作成するために、各感染前培地における2つの複製のフラスコに、播種後5日目にMEDI-534を感染させた。
【0047】
【図9】(a)種々のpHに制御されたバイオリアクターにおける感染前Vero細胞増殖の比較。Vero細胞を、pH 7.0、pH 7.2又はpH 7.4に維持されたVP-SFM+1% (v/v)CDLC中に2 g/L CytodexTM 1を含有するバイオリアクターに播種した。感染前の核を計数するためにバイオリアクターから毎日サンプル採取した。
【0048】
(b)種々のpHに制御されたバイオリアクターにおけるウイルス産生の比較。Vero細胞を、pH 7.0、pH 7.2又はpH 7.4に維持されたVP-SFM+1%(v/v)CDLC中に2 g/L CytodexTM 1を含有するバイオリアクターに播種した。播種後4日目に、バイオリアクター培養物にMEDI-534を感染させた。
【0049】
【図10】50%空気飽和度のDO、pH 7.1、温度37℃を用いた3L バイオリアクターにおけるVero細胞増殖に攪拌速度が及ぼす影響。高攪拌速度は125 rpmであり、低攪拌速度は65 rpmである。125 rpmの攪拌速度によって細胞増殖が向上し、細胞はより高密度まで増殖した。
【0050】
【図11】CytodexTM 1密度が3L バイオリアクターにおけるVero細胞増殖に及ぼす影響。DOは50%空気飽和度とし、pH 7.1に設定し、温度は37℃とした。攪拌速度125 rpmを使用した。2つのバイオリアクターは2 g/Lで、2つは4 g/LでCytodexTM 1を含有した。4 g/LのCytodexTM 1を含む培養物は、2 g/LのCytodexTM 1を含む培養物よりも細胞密度が高かった。
【0051】
【図12】RSV ΔM2-2産生に及ぼすCytodexTM 1密度の影響。細胞にRSV ΔM2-2ウイルスをMOI 0.01で感染させ、振とうインキュベーター内で33℃、5%CO2で100 rpmで振とうして培養した。4 g/LのCytodexTM 1を含む培養物は、2 g/Lのマイクロキャリアビーズを含む培養物よりも高いウイルス力価を生じた。
【0052】
【図13】4 g/LのCytodexTM 1、125 rpm 攪拌速度、50%DO、pH 7.1及び37℃で3日間培養したバイオリアクターにおけるVero細胞増殖曲線。
【0053】
【図14】バイオリアクターにおけるMEDI-559の産生。2つの複製のバイオリアクター培養物に、無血清増殖培地中2e5 細胞/mLでVero細胞を接種し、4 g/LのCytodexTM 1、125 rpm 攪拌速度、50%DO、pH 7.1及び37℃で3日間培養した。細胞増殖は、各バイオリアクターから毎日サンプル採取し、培養物サンプル中の核を計数することによりモニターした。培養3日目に攪拌を停止し、マイクロキャリアビーズをバイオリアクターの底に沈降させた。続いてマイクロキャリアビーズ上の細胞を残しながら使用済み培養培地をバイオリアクターから取り出し、同量の新しい感染後培地(SFM4MegaVirTM+4 mM L-Gln)に置き換えた。攪拌を125 rpmで再開した。培養温度を30℃に低減し、pH 7.0に設定した。次に細胞にMEDI-559をMOI 0.01で感染させ、30℃で10日間培養を継続した。7〜10日目に培養物から毎日サンプル採取した。ウイルス力価は、TCID50アッセイにより測定した。ストレートバッチ(straight batch)プロセスを用いて、およそ8 log10 TCID50/mlの産生能が達成された。
【0054】
【図15】以下の感染条件からの使用済み培養培地における感染性MEDI-560力価:(◇) SFM4MegaVir培地及び30℃、(■) ウィリアムスE培地中30℃、(◆) SFM4MegaVir培地中32℃、(□) ウィリアムスE培地中32℃、及び(△) Ex-Cell Vero培地中32℃。
【0055】
【図16】3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。細胞密度はミリリットルあたりの細胞で測定した(細胞/mL)。
【0056】
【図17】3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。細胞密度はマイクロキャリアあたりの細胞で測定した。
【0057】
【図18】A及びB:感染前の3つのバイオリアクター培養物のグルコース及び乳酸塩プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0058】
【図19】A及びB:感染前の3つのバイオリアクター培養物のグルタミン及びアンモニウムイオンプロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0059】
【図20】A及びB:感染段階における3つのバイオリアクター培養物のグルコース及び乳酸塩プロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0060】
【図21】A及びB:ウイルス感染段階における3つのバイオリアクター培養物のグルタミン及びアンモニウムイオンプロフィール。(◆) 3L260307-R9;(黒三角) 3L120407-R10;及び(△) SUB120407。
【0061】
【図22】1:5比で分割後の経時的な、ビーズ間移行についての4つの異なる断続的攪拌レジメンを用いて拡張したバイオリアクターにおける細胞増殖プロフィール。
【0062】
【図23】ローラーボトルからの細胞を播種した3Lバイオリアクター(新たに播種)、1:5分割比で1回拡張した後のバイオリアクター培養物(1X 1:5 移行)、及び1:5分割比で2回連続拡張したバイオリアクターに由来する培養物(2X 1:5移行)、における細胞増殖プロフィール。
【図24】1回及び2回拡張した後の培養物中のマイクロキャリアビーズ上の細胞分布。
【0063】
【図25】ローラーボトルからの細胞を播種したバイオリアクター培養物(新たに播種)、1:5分割比で1回拡張した後のバイオリアクター培養物(1X 1:5 移行)、及び1:5分割比で2回連続拡張したバイオリアクターに由来する培養物(2X 1:5移行)、におけるMEDI-560産生の比較。
【発明を実施するための形態】
【0064】
5.発明の説明
本発明は、ウイルスの増殖方法に関する。特定の実施形態では、頑健であり、スケーラブル(拡張可能)でありかつ生産性の高い細胞培養(これは例えば、本発明のウイルスワクチン候補の製造に有益であろう)を生成するためにウイルス増殖の条件を最適化する。一実施形態において、既知組成培地を用いて、動物起源の物質を回避又は低減し、そしてウイルス産生を増大させる。重要なパラメータを特定することができ、生産プロセスは、まず、拡張性、頑健さ、及び再現精度を決定する小規模実験で最適化することができ、後に、ウイルスの大規模生産に適合させることができる。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の方法を使用して増殖が行われるウイルスは、マイナス鎖RNAウイルスである。ある実施形態では、増殖が行われるウイルスは、非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスである。本発明は具体的には、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)の増殖方法を提供する。よりさらに具体的には、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、キメラヒト/ウシPIVはRSVヌクレオチド配列を発現する。特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、オープンリーディングフレーム、例えばM2-2又はNS-1などの欠失を有するものである。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、rcp45 hPIV3又はMEDI-560であるものである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、付着した細胞に感染し、そこで複製するウイルスである(第5.5節も参照されたい)。
【0066】
細胞は、ウイルスによる感染前(すなわち感染前)に培地中で培養する。感染前培地は、FBSなどの血清を含有してもよい。続いて、細胞にウイルスを感染させ、培地において培養する。感染後培地は血清を実質的に含まないものであってよい。その後ウイルスを採集する。
【0067】
特に、本発明は初めて、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を添加した培地において細胞を培養することによりウイルスを増殖させるための方法を提供する。ある実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。特定の、より具体的な実施形態において、培地は無血清である。一実施形態においては、既知組成の培地を使用して、変動を回避し、ウイルス産生を増大させる。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。ある実施形態において、CDLCは、プルロニックF-68(Pluronic F-68)、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含む。特定の実施形態において、CDLCは、100,000 mg/LのPluronic F-68、100,00 mg/Lのエチルアルコール、220 mg/Lのコレステロール、2,200 mg/LのTween 80、70 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10 mg/Lのステアリン酸、10 mg/Lのミリスチン酸、10 mg/Lのオレイン酸、10 mg/Lのリノール酸、10 mg/Lのパルミチン酸、10 mg/Lのパルミトレイン酸、2 mg/Lのアラキドン酸、及び10 mg/Lのリノレン酸を含む(第5.1.1節も参照されたい)。
【0068】
特定の実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。ある実施形態において、培地は、無血清培地、例えばOptiPROTM SFM又はVP-SFMTM又はSFM4MegaVirTM(SFM4MV)又はEx-Cell VeroTM又はウイリアムスE培地などである。ある実施形態において、使用する細胞はVero細胞である。
【0069】
本発明は、ウイルス増殖のためのさらなる最適化条件を提供する。一実施形態において、細胞力価は、ウイルスと共に細胞を培養する前に最大化させる。ある実施形態において、対象のウイルス又はウイルス構築物による感染前は血清含有培地において細胞を培養し、ウイルス又はウイルス構築物による感染後は血清を含まない培地において細胞を培養する。特定の実施形態において、血清は、ウシ胎仔血清であり、培養体積の10%、培養体積の5%、培養体積の2%、又は培養体積の0.5%の濃度で存在する。他の好ましい実施形態において、ウイルスは、発癌性が低減し、ウイルス増殖を促進する細胞を用いて培養する。ある実施形態において、ウイルス増殖のために使用する細胞はVero細胞である。他の実施形態において、ウイルス増殖のために使用する細胞培養物は還流培養物である(第5.1.2節も参照されたい)。
【0070】
ある実施形態において、ウイルス力価は、感染後培養条件に関するパラメータを変更することによって高められる。特に、ウイルスは、無血清培地において増殖させることができる。無血清培地は、任意の無血清培地、例えば限定されるものではないが、OptiPROTM SFM(Gibco Cat 12309-019、2005)、及びウイルス産生無血清培地(VP-SFM)(Gibco Cat 11681-020, 2005)又はSFM4MegaVirTM(Hyclone)又はEx-Cell VeroTM(SAFC Biosciences)又はウイリアムスE培地(Hyclone)などとすることができる(第5.1.1節も参照されたい)。
【0071】
別の実施形態において、本発明は、細胞の感染に使用するウイルス力価を変更することによりウイルス産生を最適化するための方法に関する。細胞の感染に使用するウイルスの平均数は、感染多重度(MOI)と称されている。特定の実施形態において、Vero細胞の感染に使用するMOIは約0.0001〜約0.1の範囲である。別の実施形態において、MOIは約0.001〜約0.01の範囲である。一実施形態において、MOIは0.001である。別の実施形態において、MOIは0.01である(第5.3節も参照されたい)。
【0072】
また別の実施形態において、本発明は、プロセス及び培養条件のパラメータを変更することによりウイルス産生を増大する方法に関する。特に、本発明は、感染後の培養温度を低くシフトする改良方法に関する。特定の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染前は約37℃(すなわち37±1℃)で培養し、ウイルスによる感染後は約29℃(すなわち29±1℃)から約35℃(すなわち35±1℃)で培養する。一実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染後に約33℃(すなわち33±1℃)で培養する。別の実施形態において、細胞を、ウイルスによる感染後に約30℃(すなわち30±1℃)で培養する(第5.2節も参照されたい)。
【0073】
慣用のアッセイを用いて、特定の宿主細胞型及び/又はウイルスのための個々のパラメータを最適化することができる。小規模実験を実施して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。具体的には、T-フラスコ(例えば、T-25又はT-75フラスコなど)を小規模実験において用いて、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。 続いて、ウイルス産生プロセスを、中規模産生、例えばローラーボトル又はスピナーフラスコを用いる産生にまで増大させる。一実施形態において、スピナーフラスコは、ウイルスの中規模産生のためのマイクロキャリアを使用する(第5.4節も参照されたい)。
【0074】
ウイルスは、細胞培養のためのマイクロキャリアを用いて増殖させることができる。マイクロキャリアを使用する利点は、細胞増殖を改善するために、培養物中で増殖させる細胞、特に付着細胞系、例えばVero細胞などにとって、表面積が増大することである。本発明に関連して使用するマイクロキャリアは、任意のマイクロキャリア、例えば限定されるものではないが、Pronactin F、CytodexTM 1及びCytodexTM 3などとすることができる。一実施形態において、マイクロキャリアはCytodexTM 1である。一実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、約2 g/L〜約20g/Lの範囲である。別の実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、バッチプロセスについては約2 g/L、約4 g/L、又は約5g/Lである。別の実施形態において、使用するマイクロキャリアビーズの量は、流加プロセスについては約20 g/Lである。
【0075】
マイクロキャリアビーズ上で培養した後、ウイルス細胞培養物の拡張(expansion)をトリプシンを用いて行うことができる。この目的のため、トリプシンを使用して、培養細胞をマイクロキャリアビーズから剥離させ、続いて培養物に加えられる新たなマイクロキャリアビーズに細胞を付着させて、拡張及び増殖させる。
【0076】
あるいは、ウイルス細胞培養物の拡張は、トリプシンの不在下で行ってもよい。バイオリアクターにおいてウイルス細胞培養物を拡張するための直接ビーズ間移行(direct bead-to-bead transfer)を代わりに用いる。ウイルス細胞培養物の細胞を、それらが付着するマイクロキャリアビーズから直接に移動させて、新たに加えられるビーズに付着させ、拡張及び増殖させる。直接ビーズ間移行に関する本発明の一実施形態では、培養時間の期間にわたりウイルス細胞培養物に種々の断続的な攪拌を行う。一実施形態において、断続的攪拌は、1、2、3又はそれ以上のサイクルで行う。一実施形態において、各サイクルは、最大5時間、最大8時間、最大24時間の持続時間、又は培養時間の全持続時間を有する。別の実施形態において、断続的攪拌は、最初のサイクルにおいて125 rpmにて5分間行い、続いて0 rpmで30分間停止する。別の実施形態において、断続的攪拌は、最初のサイクルにおいて125 rpmにて10分間行い、続いて0 rpmで50分間停止する。別の実施形態において、断続的攪拌は、2回目のサイクルにおいて125 rpmにて1時間行い、続いて0 rpmで1時間停止する。また別の実施形態において、攪拌は、2回目のサイクルにおいて125 rpmにて一定である。また別の実施形態において、攪拌は、3回目のサイクルにおいて125 rpmにて一定である。表VIIIを参照されたい。
【0077】
上記に加えて、直接ビーズ間移行はまた、マイクロキャリアビーズを含有する新たな増殖培地で1:1又は1:5の比で培養物を分割することによるウイルス細胞培養物の拡張を含んでもよい。一実施形態において、培養物は、ウイルス細胞培養物密度が1e6 細胞/mL以上である場合に分割する。
【0078】
本発明のウイルス構築物及び方法は、ウイルスの商業的生産、例えばワクチン製造のために用いることができる。ワクチンの商業的製造のために、ワクチンは、増殖させた生弱毒化ウイルスのみを含有することが好ましい。製造過程に混入する偶発的因子によるワクチンの汚染もまた回避する必要がある。本発明のワクチンの商業的製造のために、ウイルス又はウイルスタンパク質の大規模製造のための当技術分野で公知の方法を用いることができる。
【0079】
一実施形態において、本発明のワクチンの商業的製造のために、細胞をバイオリアクター又は発酵槽中で培養する。バイオリアクターは、1リットル未満から100リットルを超えるまでの体積で、例えば、Cyto3バイオリアクター(Osmonics, Minnetonka, MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison, N.J.);並びにB. Braun Biotech International製の実験室用及び商業的規模バイオリアクター(B. Braun Biotech, Melsungen, Germany)が入手可能である。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は3Lバイオリアクターにおいて増殖させる。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は15Lバイオリアクターにおいて増殖させる。一実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物は30Lバイオリアクターにおいて増殖させる。このようなバイオリアクターは、例えば攪拌型タンクApplikonバイオリアクターとすることができる。特定の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物を、単回使用バイオリアクター(SUB)中で懸濁培養で増殖させる。別の実施形態において、本発明のウイルス細胞培養物 は、SUB中でマイクロキャリアビーズ上で増殖させる。別の実施形態において、ウイルスの商業的製造の前に小規模プロセスの最適化研究を行い、最適化条件を選択し、ウイルスの商業的製造に使用する。
【0080】
一実施形態において、ウイルスは以下の通り増殖させる。すなわち、そこでウイルスが十分に増殖することが知られている細胞を、最適増殖条件(例えば血清を用いて37℃)にて増殖させ、細胞をCDLC富化培地(例えば、血清を含まない又は血清を実質的に含まない培地)中に入れ、細胞にウイルスを感染させ、感染細胞を感染前培養よりも低い温度(例えば、33℃又は30℃)にて培養する。
【0081】
本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、少なくとも7 log10 TCID50/mLの得られるウイルス力価を達成する。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも7.5 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも8 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも8.5 log10 TCID50/mLである。別の実施形態において、達成されるウイルス力価は少なくとも9 log10 TCID50/mLである。
【0082】
本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、ウイルス採集バッチあたり特定の数のワクチン用量を生じることができる。一実施形態において、本発明に従って増殖させたウイルス細胞培養物は、30Lのウイルス採集バッチあたり、少なくとも1,000,000、少なくとも2,000,000、少なくとも5,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも10,000,000、少なくとも11,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも15,000,000、少なくとも20,000,000、少なくとも25,000,000、少なくとも30,000,000、少なくとも35,000,000、少なくとも40,000,000、少なくとも45,000,000、少なくとも50,000,000、少なくとも55,000,000、少なくとも60,000,000、少なくとも65,000,000、少なくとも70,000,000、少なくとも75,000,000、少なくとも80,000,000、少なくとも85,000,000、少なくとも90,000,000、少なくとも100,000,000、少なくとも105,000,000、少なくとも110,000,000、少なくとも115,000,000、少なくとも120,000,000、少なくとも125,000,000、少なくとも130,000,000、又は少なくとも135,000,000のワクチン用量を生じることができる。
【0083】
5.1 無血清培地
ウイルス、細菌及び真菌による血清の汚染は、生物医薬の製造に関する問題である。特に、伝達性海綿状脳症(Asher, 1999, Dev Biol Stand 100: 103-118; Galbraith, 2002, Cytotechnology 39: 117-124)及び偶発的ウイルス(Erickson et al., 1989, Dev Biol Stand 70: 59-66)などの感染因子へのヒトの暴露に関する懸念が高まっている。このため、製造プロセスにおける、血清を含まず、動物成分を含まず、タンパク質を含まない培地配合物の採用の原動力となっている(Castle and Robertson, 1999, Dev Biol Stand 99: 191-196)。従って、無血清培地又は実質的に無血清の培地が、細胞の培養のための標準的血清含有培地の代わりとなることが優れている。
【0084】
ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、動物又はヒトに由来する成分を添加することなく増殖及び/又は維持することができる細胞である。ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、実質的に血清を含まない培地中で増殖する。ある実施形態において、ウイルス増殖のための細胞は、血清を含まない増殖に適応させた細胞である。特定の実施形態において、Vero細胞をウイルス増殖に使用する。本発明の目的のため、無血清培地は、任意の無血清培地、例えば限定されるものではないが、OptiPROTM SFM(Gibco Cat 12309-019)及びウイルス産生無血清培地(VP SFM)(Gibco Cat 11681-020)などとすることができる。ある実施形態において、増殖させるウイルスに感染させた細胞の培養に使用する培地は、血清を実質的に含まない。
【0085】
OptiPROTM SFMは、血清を含まず、タンパク質、ペプチド又は動物若しくはヒト起源の他の成分を含有しない超低量タンパク質(7.5μg/ml)培地である。OptiPROTM SFMのストック溶液は、2℃〜8℃の温度で暗所で保管される。OptiPROTM SFMは、培地に付着タンパク質を添加したり又はそれ自身の付着タンパク質の製造のために細胞を誘導することによって付着表面を前処理する必要なく、数多くの付着依存性細胞系の増殖をサポートするという点で特有のものである。
【0086】
VP-SFMは、血清を含まず、タンパク質、ペプチド又は動物若しくはヒト起源の他の成分を含有しない超低量タンパク質(5μg/ml)培地である。VP- SFMは、即時使用液体状態で入手可能であり、2℃〜8℃の温度で暗所で保管される。
【0087】
EX-CELLTM Vero(SAFC BioSciences, JRH Catalog No. 14585)は、血清を含まず、動物由来成分を含まない。この培地は、植物由来の加水分解物及び低レベルの組換えタンパク質を含有するが、フェノールレッド又はPluronic(登録商標) F68を含有しない。
【0088】
ある実施形態において、無血清培地は、既知組成のもの、例えばFNC Coating Mix(登録商標)(Athena Environmental Sciences)、UltaMEMTM(Cambrex Corporation)、HL-1TM(Cambrex Corporation)、NeurobasalTM A培地(Invitrogen)、MAM-PF-1,-2-3(Promocell)、RenCyteTM BHK(Medicult)、ウイリアムスE培地(Sigma-Aldrich)、及びNutridoma-NS Supplement(Roche)などである。他の実施形態において、無血清培地は、未知組成のもの、例えばOptiPROTM SFM及びVP-SFM又はSFM4MegaVirTM(Hyclone)などである。
【0089】
一実施形態において、本発明は、血清を実質的に含まない培地を用いてウイルス産生を高める方法に関する。血清を実質的に含まない培地は、5% v/v未満の血清、2.5% v/v未満の血清、1% v/v未満の血清、0.1% v/v未満の血清、0.01% v/v未満の血清、又は0.001% v/v未満の血清を含有する培地とすることができる。ある実施形態において、ウイルスは、5% v/v未満の血清、2.5% v/v未満の血清、1% v/v未満の血清、0.1% v/v未満の血清、0.01% v/v未満の血清、又は0.001% v/v未満の血清を含有する培養培地においてウイルスを感染させた細胞をインキュベートすることによって増殖させる。ある実施形態において、ウイルスは、血清を完全に欠損するものにおいてウイルスを感染させた細胞をインキュベートすることによって増殖させる。ある実施形態において、ウイルスは、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む無血清培地において増殖させる。
【0090】
ある実施形態において、細胞は最初に血清含有培地において培養し、続いて細胞から血清含有培地を取り除き、血清を含まない培地を添加することによって、血清を含まない培地に移す。ある実施形態において、細胞を血清を含まない培地で洗浄して、ウイルスに感染させた細胞を、確実に血清不在下でインキュベートする。特定のより具体的な実施形態において、細胞を、血清を含まない培地で少なくとも1回、2回、3回、4回、5回又は少なくとも10回、洗浄する。ある実施形態において、細胞を無血清培地で培養した後、それらにウイルスを感染させる。CDLCは、ウイルスの感染前又は感染後に添加することができる。
【0091】
5.1.1 培地への既知組成脂質濃縮物の添加
本発明は初めて、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地において細胞を培養することによりウイルスを増殖させる方法を提供する。本発明は、ウイルスによる感染の前に、既知組成脂質濃縮物(CDLC)を含む培地において細胞を培養することを想定している。血清を実質的に含まない規定の培地を使用する利点の1つは、汚染及び免疫原性刺激のリスクの回避である。汚染としては、限定されるものではないが、ウイルス、タンパク質及びマイコプラズマが挙げられる。理論により制限されるものではないが、無血清培地へのCDLCの添加は、細胞付着を促進し、それにより哺乳動物培養系におけるエンベロープウイルスの力価を増大する点で有効である。
【0092】
一実施形態において、CDLC添加培地は血清を実質的に含まない。別の実施形態において、CDLC添加培地は、最大濃度0.5% v/vの血清を含有する。ある実施形態において、CDLC添加培地は、Pluronic F-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸及びリノレン酸のうちの1以上を含有する。他の実施形態において、CDLCは、100,000 mg/LのPluronic F-68、100,00 mg/Lのエチルアルコール、220 mg/Lのコレステロール、2,200 mg/LのTween 80、70 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10 mg/Lのステアリン酸、10 mg/Lのミリスチン酸、10 mg/Lのオレイン酸、10 mg/Lのリノール酸、10 mg/Lのパルミチン酸、10 mg/Lのパルミトレイン酸、2 mg/Lのアラキドン酸、及び10 mg/Lのリノレン酸を含む。他の実施形態において、CDLCは、50,000〜250,000 mg/LのPluronic F-68、50,000〜250,000 mg/Lのエチルアルコール、100〜300 mg/Lのコレステロール、1,000〜4,000 mg/LのTween 80、50〜100 mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、5〜20 mg/Lのステアリン酸、5〜20 mg/Lのミリスチン酸、5〜20 mg/Lのオレイン酸、5〜20 mg/Lのリノール酸、5〜20 mg/Lのパルミチン酸、5〜20 mg/Lのパルミトレイン酸、1〜5 mg/Lのアラキドン酸、及び5〜20 mg/Lのリノレン酸を含む。
【0093】
ある実施形態において、CDLC添加培地は0.1% v/v〜5% v/v CDLCを含有する。ある実施形態において、CDLC添加培地は、0.1% v/v、0.5% v/v、1% v/v、2% v/v、3% v/v、4% v/v、又は5% v/vを含有する。別の実施形態において、CDLC添加培地は1% v/vのCDLCを含有する。
【0094】
ある実施形態において、CDLCは、感染前に細胞培養物培地に添加する。他の実施形態において、少なくとも1種の脂質を外因的に感染後培地に添加する。
【0095】
5.1.2 感染前培地への血清添加
ある実施形態では、対象のウイルス又はウイルス構築体に感染させる前には、血清を含有する培地中で細胞を培養し、そのウイルス又はウイルス構築体に感染させた後には、無血清培地中で細胞を培養する。特定の実施形態では、血清がウシ胎仔血清であり、培養容積の10%、培養容積の5%、培養容積の2%、又は培養容積の0.5%の濃度で存在する。ある実施形態において、血清は、限定されるものではないが、ウシ胎仔血清、ヒト結成、ウシ新生児(newborn bovine)血清、新生仔牛(newborn calf)血清、ドナーウシ血清、ドナーウマ血清とすることができる。
【0096】
ある実施形態では、ウイルスに感染させる前に、血清を含有する培地中で細胞をインキュベートする。ある実施形態では、細胞をウイルスに感染させた後に、血清の不在下で細胞をインキュベートする。他の実施形態では、最初に、血清を含有する培地中で細胞をインキュベートし、次に細胞を無血清の培地に移し、そしてその後、細胞にウイルスを感染させ、細胞をウイルスの不在下でさらにインキュベートする。
【0097】
ある実施形態では、細胞から血清含有培地を除去し、そして無血清培地を添加することによって、血清を含有する培地から血清を含有しない培地に細胞を移行させる。他の実施形態では、細胞を遠心し、血清を含有する培地を除去し、そして無血清培地を添加する。ある実施形態では、ウイルスに感染した細胞が確実に血清の不在下でインキュベートするために、細胞を無血清の培地で洗浄する。ある特定のより具体的な実施形態では、細胞を無血清培地で少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、又は少なくとも10回洗浄する。
【0098】
5.2 感染前から感染後の温度シフト
ある実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクションの前には、細胞の増殖に最適の温度で、血清含有培地中で細胞を培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、より低い温度(対応するウイルス又はウイルスベクターにとって標準的なインキュベーション温度と比較して)で細胞培養物をインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃又は37℃付近(すなわち37℃±1℃)で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、33℃又は33℃付近(すなわち33±1℃)で細胞培養物をインキュベートする。別の実施形態において、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、37℃又は37℃付近(すなわち37±1℃)で細胞を血清含有培地中で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、30℃又は30℃付近(すなわち30±1℃)で細胞培養物をインキュベートする。
【0099】
さらに他の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、細胞の増殖に最適の温度で、血清含有培地で細胞を培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、より低い温度(対応するウイルス又はウイルスベクターにとって標準的なインキュベーション温度と比較して)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、33℃又は33℃付近(例えば33±1℃)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。別の実施形態において、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション前には、血清含有培地中で細胞を37℃で培養し、そして、ウイルスへの感染又は対象のウイルス構築体によるトランスフェクション後には、30℃又は30℃付近(例えば30±1℃)で、無血清で細胞培養物をインキュベートする。
【0100】
ある実施形態では、ウイルスに感染させた又は対象のウイルス構築体によりトランスフェクトした細胞培養物を、培養細胞の標準的なインキュベーション温度と比較して、それより低い感染後インキュベーション温度でインキュベートする。特定の実施形態では、ウイルスに感染させた又は対象のウイルス構築体によりトランスフェクトした細胞培養物を、33℃又は33℃付近(例えば、33±1℃)でインキュベートする。ある実施形態では、感染後インキュベーション温度が、約25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、又は37℃である。
【0101】
ある実施形態では、ウイルスに感染させる前に、細胞を細胞の増殖に最適化された温度でインキュベートし、細胞をウイルスに感染させた後、すなわち感染後に、温度をさらに低い温度にシフトすることによってウイルスの増殖を行う。ある実施形態では、温度シフトが少なくとも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、又は少なくとも12℃である。ある実施形態では温度シフトが、最大でも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、又は最大でも12℃である。特定の実施形態では、温度シフトが4℃である。
【0102】
5.3 感染多重度
本発明は、細胞への感染に使用するウイルス力価を変更することによりウイルス産生を最適化するための方法に関する。単一細胞に感染させるために使用するウイルスの平均数は感染多重度(MOI)と呼ばれる。ウイルスの製造において、MOIの最適なバランスが好ましい。感染あたりのウイルス接種が少なくなるとマスターウイルスバンクの寿命を延長することができるが、ウイルス接種が多くなるとより高いウイルス力価を生じることができる。
【0103】
一実施形態において、Vero細胞の感染に使用するMOIは約0.0001〜約0.1の範囲である。別の実施形態において、MOIは約0.001〜約0.01の範囲である。本発明の特定の実施形態において、MOI約0.1を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。別の特定の実施形態において、MOI約0.01を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。さらに別の特定の実施形態において、MOI約0.001を有するウイルスを細胞培養物に感染させる。
【0104】
ある実施形態において、細胞培養物には、MOI 約0.0005、0.0006、0.0007、0.0008、0.0009、0.001、0.0011、0.0012、0.0013、0.0014、又は0.0015を有するウイルスを感染させる。別の実施形態において、細胞培養物にはMOI 0.001を有するウイルスを感染させる。
【0105】
5.4 小規模、中規模及び大規模ウイルス産生
一実施形態において、小規模実験を実施して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。特定の実施形態において、T-フラスコを小規模実験において使用して、ウイルス産生のための臨界的プロセスパラメータ及び培養条件を特定し、最適化する。別の実施形態において、T-フラスコ実験を実施して、感染の時期及び感染後の培養温度が、MEDI-534若しくはMEDI-559又は本明細書に開示するウイルス構築物(例えば限定されるものではないが、ΔM2-2、ΔNS-1若しくはrcp45 hPIV3(MEDI-560)など)の産生に及ぼす複合的影響を調べる。また別の実施形態において、T-フラスコ実験は、ウイルス産生に対する感染前培養培地の影響を評価することができる。
【0106】
本発明の一実施形態において、ウイルス産生プロセスを中規模産生に高める。特定の実施形態において、ローラーボトルをウイルスの中規模産生に使用する。別の特定の実施形態において、スピナーフラスコをウイルスの中規模産生に使用する。一実施形態において、スピナーフラスコは、ウイルスの中規模産生のためにマイクロキャリアを利用する。別の実施形態において、ローラーボトルは、ウイルスの中規模産生のためにマイクロキャリアを利用する。
【0107】
本発明の一態様において、ウイルス産生を、マイクロキャリア培養物において行う。マイクロキャリア培養は、足場依存性細胞の実用上高収量の培養を可能とする技術である。マイクロキャリアは、動物細胞の増殖のために好都合な表面を提供し、それを懸濁培養系において使用して、又は単層培養容器及び還流チャンバーからの収量を高めることができる。マイクロキャリアの用途としては、大量の細胞、ウイルス及び組換え細胞産物の製造、細胞の付着、分化及び細胞機能に関する研究、還流カラム培養系、細胞の採集などが挙げられる。ある実施形態において、使用するマイクロキャリアは、CytodexTM 1及びCytodexTM 3(Amersham Biosciences)である。他の実施形態において、使用するマイクロキャリアはPronectin(登録商標) F(Sayno Chemical Industries)である。
【0108】
一般的に使用されているマイクロキャリアはCytodexTM 1及びCytodexTM 3(Amersham Biosciences)である。これらは、数ミリリットルから数千リットルまでの範囲の培養体積で広範な動物細胞を培養するために特異的に開発されたものである。単純な懸濁培養系においてCytodexTMを使用することで、1ミリリットルあたり数百万の細胞の収量がもたらされる。
【0109】
CytodexTMは、マイクロキャリア技法の特別の要件(サイズ及び密度が、多種多様な細胞の良好な増殖及び高収量をもたらすように最適化されている;マトリックスが生物学的に不活性であり、攪拌されるマイクロキャリア培養物にとって強力であるが非剛性の物質を提供する;マイクロキャリアが透明であり、付着した細胞を簡便に顕微鏡で検査できる)を満たすように設計されている。
【0110】
CytodexTM 1は、正電荷のN,N-ジエチルアミノエチル基で置換された架橋デキストランマトリックスをベースとする。荷電基はマイクロキャリアマトリックス全体に分布している。CytodexTM 1は一般的な目的のマイクロキャリア培養、特に大部分の確立された細胞系のために好適である。このマイクロキャリアはまた、培養産物の最大の回収が必須ではない、一次細胞及び正常の二倍体細胞系の培養物からの産生に用いることも可能である。
【0111】
CytodexTM 3は、架橋デキストランのマトリックスに化学的に結合させた変性コラーゲンの薄層からなる。CytodexTM 3上の変性コラーゲン層は、種々のプロテアーゼ、例えばトリプシン及びコラゲナーゼによる消化をうけやすく、細胞生存率、機能及び完全性を最大に維持しながらマイクロキャリアから細胞を取り出すための特有の状況を提供する。CytodexTM 3は、培養で増殖させることが困難であることが知られている細胞のため、分化した細胞培養系のため、そして特に上皮様形態を有する細胞のために最適なマイクロキャリアである。これは、一般的な目的のコラーゲン被覆培養表面として用いることも可能である。
【0112】
本発明の一態様において、ウイルス産生はマイクロキャリア培養物において行う。一実施形態において、Vero細胞を、FBSが添加され、CytodexTM 1を含有するOptiPROTM SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約2 g/Lである。また別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約4 g/Lである。
【0113】
本発明の別の実施形態において、Vero細胞を、FBSが添加され、CytodexTM 3を含有するOptiPROTM SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、FBSの濃度は約0.5% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約2 g/Lである。
【0114】
本発明のまた別の実施形態において、Vero細胞を、CDLCが添加され、CytodexTM 1を含有するVP-SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。一実施形態において、CDLCの濃度は約1.0% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約2 g/Lである。また別の実施形態において、CytodexTM 1の濃度は約4 g/Lである。
【0115】
本発明の別の実施形態において、Vero細胞を、CDLCが添加され、CytodexTM 3を含有するVP-SFMにおいて培養する。特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約2.0% (v/v)である。別の特定の実施形態において、CDLCの濃度は約0.5% (v/v)〜約1.0% (v/v)である。別の実施形態において、CDLCの濃度は約1.0% (v/v)である。特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約5 g/Lである。別の特定の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約1 g/L〜約3 g/Lである。別の実施形態において、CytodexTM 3の濃度は約2 g/Lである。
【0116】
当業者であれば、付着細胞の継代培養プロセス(すなわち細胞の増殖、細胞培養物の拡張)の過程において、コンフルエントな支持体表面(例えば、フラスコ表面、マイクロキャリアなど)から新たな支持体表面上へ細胞を移行する必要があることを理解するだろう。このような細胞の移行を実施するためにいくつかの方法を用いることができる。例えば、プロテアーゼ(トリプシン及びコラゲナーゼなど)を用いて、フラスコ又はマイクロキャリアから細胞を取り出し、続いて細胞を洗浄し、より大きなフラスコ又はより大きな体積のマイクロキャリアを含有する拡張用培地に希釈することができる。このような用途には非動物由来プロテアーゼ、例えばTrypLE(Invitrogen, Carlsbad, CA)などを使用することが好ましい。
【0117】
あるいは、マイクロキャリア培養物において、直接ビーズ間移行方法を用いることができ、この方法では、新たなビーズ及び培地をコンフルエントなビーズと混合し、培養物を、新たなビーズへの細胞の移行を促進する条件下でインキュベートして、細胞培養物を拡張し、増殖させる。このようなビーズ間移行は、断続的攪拌スキーム、例えばマイクロキャリアビーズを含有する培養物の100〜130 rpmで5〜10分間間隔の攪拌と、最大40分間、最大50分間、最大60分間の攪拌停止、などを利用することができる。続いて、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、最大一晩(12〜24時間)にわたってこの攪拌パターンを再開する。続いて、所望の生存細胞密度に達するまで100〜130 rpmでの一定攪拌速度を再開する。この断続的攪拌のパターンは、所望の生存細胞密度に達するまで繰り返し行ってもよい。このビーズ間移行工程は、あるビーズから別のビーズへ細胞の付着を補助するために、TrypLEを用いずに行うことができる。
【0118】
ウイルス又はウイルスタンパク質の大規模生産のための当技術分野で公知の方法を本発明のワクチンの商業的製造に用いることができる。一実施形態において、本発明のワクチンの商業的製造のために、細胞をバイオリアクター又は発酵槽において培養する。バイオリアクターは、1リットル未満から100リットルを超えるまでの体積で、例えば、Cyto3バイオリアクター(Osmonics, Minnetonka, MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison, N.J.);並びにB. Braun Biotech International製の実験室用及び商業的規模バイオリアクター(B. Braun Biotech, Melsungen, Germany)が入手可能である。別の実施形態において、ウイルスの商業的製造の前に小規模プロセスの最適化研究を行い、最適化条件を選択し、ウイルスの商業的製造に使用する。
【0119】
ある実施形態において、使い捨て要素、例えば細胞の培養のための軟質プラスチックバッグなどを含むリアクターシステムを利用する。このようなリアクターシステムは当技術分野で公知であり、市販されている。例えば国際特許公報WO 05/108546号、WO 05/104706号及びWO 05/10849号、並びに第6.14節を参照されたい。同上。使い捨て要素を含むリアクターシステム(本明細書中、「単回使用バイオリアクター」と称する又は「SUB」と略す)は、予め滅菌してもよく、培養又は産生システムにおいてバッチからバッチへ又は産物から産物へ変更するための定置蒸気滅菌(steam-in-place:SIP)又は定置洗浄(clean-in-place:CIP)環境が必要ない。このように、SUBは、ゼロバッチからバッチIの汚染(zero batch-to-batch I contamination)を確実にすることにより調節制御の必要性をより少なくし、従って、かなりコストの上で利点があり、使用前に全く又は最低限の準備しか必要とせずに作動することが可能である。さらに、SUBは洗浄又は滅菌を必要としないため、細胞培養物からの多量のワクチン材料(例えばウイルス)の製造を促進するために迅速に配置することができる。特定の実施形態において、使い捨てリアクターシステムは、より効率的な栄養素、O2及びpH制御を可能とする細胞培養物の混合のための流体力学的環境を可能にする攪拌型タンクリアクターシステムである。
【0120】
本発明は、温度、攪拌速度、pH、溶存酸素(DO)、O2及びCO2流速からなる群より選択される1以上のパラメータをモニター及び/又は制御する、攪拌型タンクSUBにおいてウイルスを産生する方法を提供する。当業者であれば、ウイルスの生産前に、宿主細胞(例えばVero細胞)を適当な細胞密度にまで増殖させて、ウイルスの増殖を促進する必要があることを理解するだろう。従って、本発明はさらに、SUBにおいて細胞(例えば本発明のVero細胞)を培養することにより、培養物中の該細胞を高細胞密度まで増殖させる方法を提供する。
【0121】
一実施形態において、細胞培養及び/又はウイルス産生は、バイオリアクター(例えばSUB)において、少なくとも1%、又は少なくとも2%、又は少なくとも3%、又は少なくとも4%、又は少なくとも5%、又は少なくとも6%、又は少なくとも7%、又は少なくとも8%、又は少なくとも9%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%のCO2濃度で行う。ある実施形態において、CO2の流速は、約0.1 L/分〜約1 L/分に維持される。
【0122】
一実施形態において、溶存酸素(DO)濃度(pO2値)は、細胞の培養及び/又はウイルスの産生の間に調節することが好都合であり、5%〜95%(空気飽和度を基準とする)の範囲内である。ある実施形態において、DOは、約10%〜約80%、又は約20%〜約70%、又は約50%に維持される。特定の実施形態において、溶存酸素(DO)濃度(pO2値)は、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%である。さらに別の実施形態において、DOの許容される範囲は、約100〜約35%である。特定の実施形態において、DOは、約35%〜約50%、又は約50%に維持される。別の特定の実施形態において、DOは、約35%未満に低減すべきではない。当業者であれば、初期DOは100%であり、そのDOを所定のレベル(例えば50%)まで下降させてそれを維持することができることを理解するだろう。DOは、当技術分野で公知の任意の方法、例えばO2スパージングなどを用いて維持される。ある実施形態において、O2の流速は約2.0 L/分未満に維持される。
【0123】
別の実施形態において、細胞の培養及び/又はウイルスの産生に使用する培養培地のpHを調節し、それはpH 6.4〜pH 8.0の範囲、又はpH 6.8〜pH 7.4の範囲内である。特定の実施形態において、培養培地のpHは、約6.4、又は約6.6、又は約6.8、又は約7.0、又は約7.1、又は約7.2、又は約7.3又は約7.4、又は約7.6、又は約7.8、又は約8.0に維持される。当業者であれば、初期pHは、所望の範囲より低くても又は高くてもよく、そのpHを所望のレベル(例えば7.1)まで高めて又は低くして、そこで維持することができることを理解するだろう。pHは、当技術分野で公知の任意の方法を用いて維持される。例えばpHは、必要に応じて、CO2スパージングにより、及び/又は酸(例えばHCL)若しくは塩基(例えばNaOH)の添加により制御することができる。ある実施形態において、pHは、NaOHの添加及び/又はCO2スパージングにより調節される。
【0124】
ある実施形態において、Vero細胞は、感染前に、SUBシステムにおいて少なくとも5×105 細胞/mL、少なくとも7.5×105 細胞/mL、少なくとも1×106 細胞/mL、少なくとも2.5×106 細胞/mL、少なくとも5×106 細胞/mL、少なくとも7.5×106 細胞/mL、少なくとも10×106、少なくとも15×106 細胞/mL、少なくとも20×106 細胞/mL、又は少なくとも25×106 細胞/mLの細胞密度まで培養する。
【0125】
特定の実施形態において、Vero細胞を、SUBにおいて無血清培地(例えば上述するようなもの、例えば第5.1節を参照のこと)中で培養する。ある実施形態において、培地には、さらなるグルコースを添加する。また別の実施形態において、Vero細胞を、SUBにおいて、マイクロキャリア(例えば上述するようなもの、例えば[00109]〜[00111]段落を参照のこと)上の付着細胞として培養する。一実施形態において、マイクロキャリアは、約1〜約4 g/Lの濃度で使用する。別の実施形態において、マイクロキャリアは、約2〜約3 g/Lの濃度で使用する。。ある実施形態において、細胞を、あらゆる培地成分を添加することなく培養する。他の実施形態において、細胞を、グルコース及びグルタミンを添加して培養する。さらに他の実施形態において、細胞を、CDLCを添加して培養する。
【0126】
ウイルス培養物が増殖及び拡張するに従い、これは培養培地中に代謝産物を分泌することになる。これらの代謝産物の測定値は、感染前又は感染後の細胞の生存を示す可能性がある。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約1.0〜2.0 g/L、より具体的には約1.25〜1.5 g/Lの濃度の乳酸塩(lactate)を有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約2.0〜約4.0 g/L、より具体的には約2.0〜約3.0 g/Lの濃度のグルタミンを有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約0.5〜2.5 g/L、より具体的には約1.5〜1.75 g/Lの濃度のグルコースを有する。ある実施形態において、感染後ウイルス細胞培養物、又は細胞培養上清は、約1.25〜約2.5 mM、より具体的には約2.0〜約2.25 mMの濃度のアンモニウムイオンを有する。
【0127】
他の実施形態において、感染後2〜12日目にウイルス細胞培養物からウイルスを回収(すなわち採集)する。別の実施形態において、感染後3〜4日目にウイルス細胞培養物からウイルスを回収する。
【0128】
特定の実施形態において、SUBには、播種密度約1×104 細胞/mL〜約5×105 細胞/mLで、培養対象のVero細胞を播種する。特定の実施形態において、播種密度は、約3×104 細胞/mL〜約3×105 細胞/mL、又は約7×104 細胞/mL〜約2×105 細胞/mL、又は約8×104 細胞/mL〜約2×105 細胞/mL、又は約9×104 細胞/mL〜約1×105 細胞/mL、又は約1×105 細胞/mL〜約2×105 細胞/mLである。別の特定の実施形態において、播種密度は約1×105 細胞/mL〜約2×105 細胞/mLである。
【0129】
一実施形態において、SUBの攪拌速度は約50〜150 rpmに維持される。特定の実施形態において、攪拌速度は、約80〜約120 rpm、又は約90〜約100 rpmに維持される。別の特定の実施形態において、攪拌速度は約100〜約125 rpmに維持される。また別の実施形態において、攪拌速度は、細胞培養中は一速度に維持されうるが、続いて細胞培養中の別の時点で別の速度に変更されてもよい(すなわち断続的攪拌)。攪拌速度は、当技術分野で周知の手段により制御される。
【0130】
ある実施形態において、細胞培養の後及び感染の前に培地交換を行ってもよい。一実施形態において、交換する培地の割合は、約20%〜約100%、又は約30%〜約80%、又は約30%〜約60%、又は約66%〜約90%である。一実施形態において、培地は、同量の培地と交換する。別の実施形態において、培地は、より少ない量の培地と交換して、細胞を効率的に濃縮する。培地は、同じ又は異なる組成を有する培地と交換することができる。一実施形態において、増殖培地(すなわち細胞の増殖に使用される培地)は、感染培地(すなわち感染時及びウイルス増殖に使用される培地)と交換する。増殖培地及び感染培地の非限定的な例は第5.1節及び第6節に示されている。あるいは、培地の交換が必要ないように、増殖培地はさらなる成分(例えばグルコース、微量元素、アミノ酸など)を含む及び/又はそれにさらなる成分が添加されてもよい。
【0131】
5.5 ウイルス
ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはマイナス鎖RNAウイルスである。ある実施形態において、ウイルスは非分節型のマイナス鎖RNAウイルス、例えばパラミクソウイルスなどである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスは、パラインフルエンザウイルス(PIV)及びRSウイルス(RSV)及びメタニューモウイルス(MPV)である。他の実施形態において、本発明は、ヒト及びウシ配列を有するPIVの増殖方法を提供する。一実施形態において、ウイルスは、RSVヌクレオチド配列を発現するキメラヒト/ウシPIVである。特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。
【0132】
別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、オープンリーディングフレーム、例えばM2-2又はNS-1などの欠失を有するものである。別の特定の実施形態において、増殖させるウイルスは、rcp45 hPIV3又はMEDI-560であるものである。ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、付着した細胞に感染し、そこで複製するウイルスである。
【0133】
特定の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-534である。MEDI-534は、最初にウシPIV3における融合(F)及び血球凝集素ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパク質遺伝子をヒトPIV3及びNH遺伝子でそれぞれ置き換えることにより組換えウシPIV3ベクターを構築することで構築される(Haller et al., 2000, J Virol 74:11626-11635)。続いて、RSV F遺伝子をウシ−ヒトPIV3ベクター骨格に挿入して、RSV Fタンパク質を発現するキメラウイルスを作製する(Tang et al., 2003, J Virol 77:10819-10828)。このキメラウイルスはMEDI-534と名づけられ、動物研究において生弱毒化二価ワクチンとして機能する。すなわち、MEDI-554で免疫したハムスター及び非ヒト霊長類が、RSV及びhPIV3によるチャレンジからの防御を示し、そしてそれらの動物は、RSV中和抗体及びhPIV3血液凝集阻害抗体を生成した(Tang et al., 2003, 前掲;Tang et al., 2004, 前掲)。
【0134】
また別の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-559である。MEDI-559は、rA2cp248/404/1030ΔSHと称する生弱毒化RSVワクチンであり、温度感受性であり、点突然変異とSH遺伝子の遺伝子欠失を有している。これは、フェーズI臨床試験において幼児に投与された場合に十分に許容され、安全であることが見出されており(Karron et al., JID vol 191 p. 1093 (2005))、このような患者において免疫応答を誘発することができる。別の実施形態において、増殖させるウイルスはMEDI-560である。MEDI-560は生弱毒化HPIV3である。cp45と呼ばれる誘導株は、Dr. Robert Belshe(現在St. Louis University)により徐々に最適ではない温度としたwt HPIV3の45回の継代により作製された。この生物学的に誘導されたワクチン候補は、成人と、フェーズI及びII試験における血清陽性及び血清陰性の幼児及び小児において評価され、十分に弱毒化され、免疫原性であると考えられている(Karron et al. Pediatr. Inf. Dis. J. 2003, 22: 394-405)。cp45における有意な点突然変異は、配列分析により同定され、野生型組換えHPIV3に個々に又は種々の組み合わせで配置されて、それらの関連する表現型が評価されている。これによりLタンパク質における3つの主要なts及び弱毒化の点突然変異、並びにC及びFタンパク質におけるいくつかの非ts弱毒化点突然変異が同定された。このウイルスは、現在、許容される物質を用いて既知の継代履歴を有するウイルスを提供するcDNA(rcpPIV3)から再生(revcover)されている。
【0135】
ある実施形態において、本発明の方法を用いて増殖させるウイルスはエンベロープウイルスである。エンベロープウイルスとしては、限定されるものではないが、パラミクソウイルス、ヘルペスウイルス(Herpesvirus)、トガウイルス(Togavirus)、ラブドウイルス(Rhabdovirus)、コロナウイルス(Coronavirus)が挙げられる。他の実施形態において、増殖させるウイルスは、足場依存性細胞に感染し、そこで複製するウイルスである。足場依存性細胞に感染し、そこで複製するウイルスとしては、限定されるものではないが、シンドビスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、オンコルナウイルス、単純ヘルペスウイルス、A型肝炎ウイルス、RSVウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、FMDVウイルス、狂犬病ウイルス、ポリオウイルス、及びレオウイルスが挙げられる。
【0136】
5.6 細胞
ある実施形態において、本発明の方法を用いて哺乳動物細胞系においてウイルスを増殖させる。ある実施形態において、本発明の方法を用いて足場依存的である細胞においてウイルスを増殖させる。本発明の方法により使用する足場依存性細胞は、足場依存性のタイプの細胞から誘導される細胞系、例えば限定されるものではないが、ヒト脂肪幹細胞、ヒト近位尿細管細胞、マウス平滑筋細胞、ヒト内皮細胞、ヒト腎細胞、ヒト大腸細胞、イヌ腎細胞、ハムスター卵巣細胞、ミドリザル腎細胞、ラット小腸細胞、ヒト膀胱細胞、及びヒト前立腺細胞などである。
【0137】
ある実施形態において、ウイルスを、腎臓から誘導された細胞系、限定されるものではないが、MDBK細胞、MDCK細胞、Vero細胞、PK-15細胞、及びBHK-21細胞などにおいて増殖させる。他の実施形態において、ウイルスをBHK-21細胞又はVero細胞において増殖させる。別の実施形態において、ウイルスをVero細胞において増殖させる。
【0138】
Vero細胞は、アフリカミドリザル連続腎細胞系を起源とし、ワクチン製造のために最も一般的に使用されている細胞系であり、発癌性がないことが示されている(Vincent-Falquet et al, 1989, Dev Biol Stand 70: 153-156)。ヒトポリオワクチン及び狂犬病ワクチンは、現在、ウイルスワクチン製造のためのVero細胞の使用に関する規制当局により提供されている特定のガイドライン(WHO, 1987a,b)に従ってVero細胞において商業的に製造されている(Montagnon, 1989, Dev Biol Stand 93: 119-123)。Vero細胞は通常、足場依存性であると考えられており、典型的に静置培養又はマイクロキャリア上で増殖する(Yokomizo et al., 2004, Biotechnol Bioeng 85: 506-515; Wu et al., 2004, Vaccine 22: 3858-3864; Berry et al., 1999, Biotechnol Bioeng 62: 12-19)が、これらは細胞凝集物として懸濁でも増殖することができる(Litwin 1992, Cytotechnology 10: 169-1974)。Vero細胞の付着培養物は十分に特性決定されており、優れた安全性の記録がある(Montagnon and Vincent-Falquet, 1998, Dev Biol Stand 93: 119-123)。以前に、MEDI-534に非常に近縁の3種のウイルスの複製が種々の許容される哺乳動物細胞系において比較された(Haller et al., 2003, J Gen Virol 84: 2153-2162)。全ての事例において、Vero細胞は最も高いウイルス力価を生じた。その後の実験では、MEDI-534ウイルスが、Vero細胞における最大10回の連続継代の間にRSV F遺伝子インサートを安定に維持していることが示された(Tang et al., 2003, J Virol 77: 10819-10828)。
【0139】
ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、動物又はヒト由来成分を添加することなく増殖及び/又は維持することができる細胞である。ある実施形態において、ウイルス増殖に使用する細胞は、血清を実質的に含まない培地、又は血清非含有培地において増殖及び/又は維持することができる細胞である。
【0140】
ある実施形態において、本発明の方法により使用すべき細胞は、フィブロネクチンに結合することができる。従って、いくつかの特定の実施形態では、細胞は、フィブロネクチン基質に結合させながら感染後に増殖させる。
【0141】
5.7 アッセイ
5.7.1 ウイルス力価の測定
ウイルス力価は、当技術分野で周知の任意の方法、例えば限定されるものではないが、50%における組織培養感染量(TCID50)アッセイにより測定することができる。このアッセイは、ウイルスの能力/感染性を測定し、ウイルスを感染させることができる細胞(例えばVero細胞など)を使用する。特定の実施形態において、TCID50アッセイは次のように実施する。すなわち、Vero細胞をウイルス含有サンプルの添加の2日前に96ウエルプレートに播種する。細胞プレートのロット番号を記録し、細胞継代数が126以上であり、かつ148以下であることを確認するためのツールとして用いる。プレートは100%コンフルエントであり、プレート中の細胞は、ウエル全体において滑らかな連続する単層に分布する。細胞プレートをSkatronTM細胞洗浄機を用いて洗浄する。洗浄したプレートを33±1℃、5±1%CO2インキュベーターに移し、最小10分間インキュベートする。ウイルス増殖培地を、ウイルスの接種前に細胞プレートの各ウエルに入れる。ウイルスはVero細胞単層を含む96ウエルプレート全体で連続希釈し、続いて接種した細胞を6日間インキュベートする。次にプレートを洗浄し、パラホルムアルデヒドで固定し、Numax(登録商標)(RSV-F特異的MAb)と共にインキュベートする。これに続いて、ヤギ抗ヒト西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体と共にインキュベートし、TMB(3,3’, 5,5’-テトラメチルベンジジン, Sigma)を用いて色を検出する。分光光度計を使用して、ウエルの吸収を測定し、値を陰性対照カットオフ値と比較する。次にその単位をKarberの式で使用して、log10 TCID50力価を測定する。同じ実験から得られたサンプルを同じ日に試験し、各ウイルスサンプルにつき4つの複製を使用して、TCID50アッセイに固有のアッセイ間及びアッセイ内の変動を最小限とする。
【0142】
細胞収量及び細胞密度は、当技術分野で周知の任意の方法により、例えば限定されるものではないが、血球計測計又はCedex細胞計数及び生死試験システム(Cedex cell counting and viability testing system;Innovatis Inc., Malvern, PA)を用いて、測定することができる。一実施形態において、マイクロキャリア培養物における細胞密度は、0.1 Mクエン酸溶液中の0.1%クリスタルバイオレットにより放出される核を計数することによって測定することができる(Hu and Wang, 1987, Biotechnol Bioeng 30: 548-557)。
【0143】
5.8 キット
本発明はまた、本発明のアッセイレジメンを実施するためのキットを提供する。一実施形態において、本発明のキットは無血清培地及び脂質濃縮物を含む。特定の実施形態において、キット中の無血清培地はOptiPROTM SFM又はVP-SFM又はSFM4MegaVirTMであり、脂質濃縮物はCDLCである。別の実施形態において、キットは、1又はそれ以上の容器中に、無血清培地、脂質濃縮物、及びエンベロープウイルスを感染させうる細胞のバイアルを含んでもよい。特定の実施形態において、キットは、Vero細胞のバイアルを1以上含む。別の実施形態において、キットは、無血清培地、脂質濃縮物、エンベロープウイルスを感染させうる細胞の1以上のバイアル、及びエンベロープウイルスの1以上のバイアルを含む。特定の実施形態において、キットは、MEDI-534又はMEDI-559の1以上のバイアルを含有する。 別の実施形態において、本発明のキットは、本発明の方法を実施するためのマニュアルを含む。特定の実施形態において、そのマニュアルは、以下のようなウイルスの増殖を説明する:すなわち、そこでウイルスが十分に増殖することが知られている細胞を最適増殖条件下(例えば血清存在下及び37℃)で増殖させ、細胞をCDLC富化培地(例えば血清を含まない又は血清を実質的に含まない培地)に入れ、細胞にウイルスを感染させ、感染細胞を感染前培養よりも低い温度(例えば33℃又は30℃)で培養する。
5.9 発明の実施形態
1. Vero細胞においてウイルスを増殖させる方法であって、
(a)既知組成脂質濃縮物(chemically-defined lipid concentrate, CDLC)及びマイクロキャリアを含む細胞培養培地にVero細胞を播種することを含む、第1の温度にてバイオリアクター中でVero細胞を培養する工程、
(b)工程(a)で培養したVero細胞に、第1の温度に比べて低い第2の温度にて約0.001〜約0.10の感染多重度で感染させる工程、並びに
(c)工程(c)の細胞培養物から、少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じるウイルスを回収する工程、
を含む方法。
2. 前記バイオリアクターが単回使用バイオリアクター(SUB)システムである、実施形態1の方法。
3. SUBが攪拌型タンクリアクターシステムである、実施形態2の方法。
4. 細胞培養培地が無血清培地である、実施形態1の方法。
5. CDLCが1%v/vの濃度まで加えられる、実施形態1の方法。
6. 細胞培養培地が、OptiPROTM SFM、VP-SFM、SFM4MegaVirTM、Ex-Cell VeroTM、又はWMEからなる群より選択される無血清培地である、実施形態4の方法。
7. 既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸のうちの1以上を含む、実施形態1の方法。
8. 既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸を含む、実施形態1の方法。
9. 既知組成脂質濃縮物が、100,000mg/LのプルロニックF-68、100,00mg/Lのエチルアルコール、220mg/Lのコレステロール、2,200mg/LのTween 80、70mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10mg/Lのステアリン酸、10mg/Lのミリスチン酸、10mg/Lのオレイン酸、10mg/Lのリノール酸、10mg/Lのパルミチン酸、10mg/Lのパルミトレイン酸、2mg/Lのアラキドン酸、及び10mg/Lのリノレン酸を含む、実施形態1の方法。
10. 工程(a)が、約50〜約150rpmの攪拌速度での培養物の攪拌を利用する、実施形態1の方法。
11. 前記攪拌が断続的である、実施形態10の方法。
12. 工程(a)の前記培養条件が、約35%〜約100%の溶存酸素(DO)量を利用する、実施形態11の方法。
13. 第1の温度が約36℃〜約38℃である、実施形態1の方法。
14. 第2の温度が約30℃〜約33℃である、実施形態1の方法。
15. マイクロキャリア濃度が約1〜約4g/Lである、実施形態1の方法。
16. 工程(a)の前記細胞培養物のpHが約6.6〜約7.6である、実施形態1の方法。
17. 工程(a)の後で且つ工程(b)の前に細胞培養培地の約50%〜約90%を交換する、実施形態1の方法。
18. 細胞培養培地を、同じ組成を有する細胞培養培地と交換する、実施形態16の方法。
19. 細胞培養培地を、異なる組成を有する細胞培養培地と交換する、実施形態16の方法。
20. 感染多重度が約0.01である、実施形態1の方法。
21. 工程(c)においてVero細胞を2〜12日間培養する、実施形態1の方法。
22. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、実施形態1の方法。
23. マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、実施形態21の方法。
24. ウイルスがパラミクソウイルスである、実施形態22の方法。
25. パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、実施形態23の方法。
26. パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、実施形態24の方法。
27. ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態25の方法。
28. 組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態26の方法。
29. 前記回収されたウイルスが少なくとも8.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態1の方法。
30. 前記回収されたウイルスが少なくとも9.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態1の方法。
31. 前記Vero細胞を約0.5×105〜2×105細胞/mlの密度で播種する、実施形態1の方法。
32. 工程(a)において前記Vero細胞を少なくとも約8×105細胞/mlの細胞密度にまで培養する、実施形態1の方法。
33. 工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも1.5Lである、実施形態1の方法。
34. 工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも30Lである、実施形態2の方法。
35. 血清を実質的に含まない細胞培養培地中にウイルスを含むVero細胞培養物上清であって、前記上清が少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、Vero細胞培養物上清。
36. 前記上清が濃度約0.5〜約2.5g/Lのグルコースを含む、実施形態34の上清。
37. 前記上清が濃度約1.0〜約2.0g/Lの乳酸塩を含む、実施形態34の上清。
38. 前記上清が濃度約2.0〜約4.0g/Lのグルタミンを含む、実施形態34の上清。
39. 前記上清が濃度約1.25〜約2.5mMのアンモニウムイオンを含む、実施形態34の上清。
40. 前記上清が少なくとも8.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、実施形態34の上清。
41. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、実施形態34の上清。
42. マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、実施形態40の上清。
43. ウイルスがパラミクソウイルスである、実施形態41の上清。
44. パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、実施形態42の上清。
45. パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、実施形態43の上清。
46. ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態44の上清。
47. 組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、実施形態45の上清。
48. 工程(a)においてトリプシンを加えない、実施形態10の方法。
49. 工程(a)における前記培養物を、新しいマイクロキャリアを含む新しい培養培地を用いて1:1又は1:5で分割(split)する、実施形態48の方法。
50. 前記分割が工程(b)の前又は感染前に培養中少なくとも1回又は少なくとも2回行われる、実施形態49の方法。
51. 前記方法が、30Lのウイルス採集バッチあたり少なくとも2,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも120,000,000のワクチン用量を産生する、実施形態1又は50の方法。
【0144】
6.実施例
Vero細胞のバイアル(ATCC CCL-81、継代数121)をDMEM+5%(v/v)FBS中で解凍した後、FBS添加培地中で4回継代培養し、それから動物由来成分を含まないOptiPROTM SFM中における無血清増殖に直接馴化した(direct adaptation)。無血清Vero細胞は、OptiPROTM SFM中で10〜15回継代培養した後にバンクとして保管した。以下に挙げる実験で使用したVero細胞は、OptiPROTM SFMバンクを源とした。
【0145】
細胞系及び培養物の維持
足場依存性Vero細胞を、対応する培養体積(T-75フラスコに対し35mL、T-225フラスコに対し100mL、及び850cm2のローラーボトル(RB)に対し350mL)中に5×104細胞/mLで慣用的に播種し、播種後3〜5日(dps)継代培養した。4〜5dps継代培養した培養物については、3dpsに各培養物に対して完全な培地交換を行った。継代培養に備えて、使用済み培地(spent media)を吸引し、細胞をDPBSで2回濯いだ。フラスコからVero細胞を剥離するために、トリプシン-EDTAの0.05%溶液(T-75フラスコでは3mL、T225-フラスコでは6mL、及びRBでは10mL)と共に37℃にてインキュベートした。細胞を剥離させた後、同じ量のアオイマメ(lima bean)トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてトリプシン活性をクエンチした。感染しなかった全てのVero細胞については、T-フラスコ培養物を37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持し、RB培養物は37℃のインキュベーター中0.3rpmで稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0146】
実験を開始する前に、少なくとも1回継代培養するために、各実験でテストした培地に細胞を予め馴化させておき、細胞継代数が165を超えた時に培養物を捨てた。グルタミンを含まない培養培地に、各使用の前に4mM L-グルタミンを毎回添加した。特に断らない限り、細胞培養試薬及び備品は、GIBCO/Invitrogen(Carlsbad, CA)から入手したものとし、組織培養用品は、Corning(Corning, NY)から購入したものとする。
【0147】
ウイルス構築物及びシードストックの調製
MEDI-534ウイルスの構築は以前に詳細に記載されている(Tang et al., 2003)。全ての実験において感染に用いるウイルスのシードストックを生成するために、プラスミドレスキュー(Tang et al., 2003(上掲))により得たMEDI-534を、OptiPROTM SFM中で3日間増殖させたVero細胞のT-225フラスコ培養物に、0.001の感染多重度(MOI)にて加えた。4dpiに培養培地を回収し、10%(v/v)スクロースリン酸で安定化させた後、複数の1mLクリオバイアル中に分取した。ウイルスのシードストックを-80℃にて保存し、使用する直前にのみ解凍した。
【0148】
T-フラスコ実験
T-75フラスコに、(特に断らない限り)35mL OptiPROTM SFM中の1.75×106Vero細胞を播種し、37℃/5%CO2/95%Rhのインキュベーター内で維持した。感染させる時、使用済み培地を各フラスコから取り除き、細胞を2×10mL DPBSで濯いだ。各培地条件のうち1つのフラスコをトリプシン処理し、細胞数を数えた。培養物を感染させるために、残りのフラスコに、適当なMOIのMEDI-534を含むDMEM(特に断らない限り)を加えた。感染後、5%CO2オーバーレイ(overlay)で、加湿したインキュベーター内にてT-フラスコを維持した。
【0149】
ローラーボトル実験
各850cm2ローラーボトル(RB)に、選択した増殖培地中で1.5×107個のVero細胞を播種し、0.3rpmの定速回転で37℃にて維持した。全ての例において、基本増殖培地は、OptiPROTM SFM又はウイルス産生用無血清培地(VP-SFM)(これらもGIBCO/Invitrogen (Carlsbad, CA)より市販されているADCF SFM)とした。幾つかの例では、基本増殖培地に、JRH Biosciences, Inc.(Lenexa, KS)から入手したウシ胎仔血清(FBS)、又はGIBCO/Invitrogenから購入した既知組成の脂質濃縮物(CDLC)を添加した。OptiPROTM+0.5%FBS及びVP-SFM+1%CDLCにおける増殖曲線を作成するために、各培地において同じRB培養物を2つずつ作製してトリプシン処理し、毎日細胞数を数えた。ウイルス産生プロフィールを作成するために、使用済み培地を各RBから除去し、感染直前(3dps)に細胞を300mLのDPBSで濯いだ。各培地条件のうち少なくとも1つのフラスコをトリプシン処理し、細胞数を数えてフラスコあたりの細胞収量を決定し、MOI 0.001で感染させるために加えるのに適当なウイルスの量を計算した。特に断らない限り、MEDI-534を含む500mLのウイリアムスE培地(WME)、すなわち既知組成のADCF基本培地を、感染時に残りのフラスコの各々に加えた。感染後、全てのRBを3rpmの定速回転で33℃にてインキュベートした。
【0150】
スピナーフラスコ実験
増殖培地は、0.5%(v/v)FBSを添加したOptiPROTM又は1%(v/v)CDLCを添加したVP-SFMとした。CytodexTM 1マイクロキャリアを再水和し、製造業者(Amersham Biosciences AB, Uppsala, Sweden)の推奨にしたがって滅菌した。次にマイクロキャリアビーズを、使用前に適当な増殖培地で1回濯いだ。播種の2時間前に、各250mLガラススピナーフラスコ(Bellco Biotechnology, Inc., Vineland, NJ)に、2g/L CytodexTM 1を含む選択した増殖培地200mLを満たし、60rpmで攪拌させながら37℃/5%CO2/95%Rhにてインキュベートした。スピナーフラスコに接種するために、容器1つあたり2×107個のVero細胞を加えた。全ての培養物を、感染前に、攪拌を60rmpに維持したまま37℃/5%CO2/95%Rhにてインキュベートした。増殖曲線を作成するために、よく混ぜたサンプルをスピナーフラスコから毎日取り出し、核の数を数えた。感染させる前に、各スピナーフラスコからサンプルを取り出して核の数を数え、MOI 0.001で感染させるためのウイルスの量を算出した。感染に備えて、全てのスピナーフラスコの攪拌を停止した。マイクロキャリアービーズが沈降したら、使用済み培地のうちの90%を、MOI 0.001のMEDI-534を含むWMEと交換した。感染後、60rmpで一定に攪拌しながら33℃/5%CO2/95%Rhにて培養物をインキュベートした。
【0151】
MEDI-534についてのバイオリアクター実験
溶存酸素(DO)を空気飽和度50%に維持した3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)内で、バイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターは、ADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon)を備えていた。CytodexTM 1マイクロキャリアを用意し、製造業社の指示書に従って使用した。接種の3時間前に、3つのバイオリアクターそれぞれを、1%(v/v) CDLC及び2g/L CytodexTM 1を添加した2LのVP-SFMで満たした。バイオリアクターの内容物を、加熱ブランケット(heating blanket)で37℃まで温め、シングル・マリン・インペラ(single marine impellers)で60rpmで攪拌した。これら3つのバイオリアクターにおけるpH設定値はそれぞれ7.0、7.2及び7.4であった。培養物のpHは、入口ガス中のCO2のパーセンテージによって、及び入口ガス中のCO2のパーセンテージが0%に減少した後に1N NaOH溶液を加えることにより、指定されたレベルに制御した。1つの実験で使用される全ての細胞が同じ継代歴(passage history)を持つように、各実験における全てのバイオリアクターに、複数のRBからプールした細胞を接種した。バイオリアクターの内容物を毎日サンプリングして核数を数え、増殖曲線を作成した。感染に備え、バイオリアクターでの攪拌を停止した。マイクロキャリアビーズが沈降したら、使用済み培地のうち90%を、MOI 0.001のMEDI-534を含むWMEと交換した。感染後、pH及びDO設定値は変えなかったが、温度の設定値を33℃に下げて、攪拌を100rpmに上げた。
【0152】
ウイルスを数量化するための感染サンプルの回収
感染させたT-フラスコ及びRB培養物の中の培地をサンプリングした後、10%(v/v)スクロースリン酸を加えてウイルスサンプルを安定化させた。感染させたスピナーフラスコ及びバイオリアクターからサンプリングした後、サンプル中のマイクロキャリアビーズを沈降させて、回収した培養上清を10%(v/v)スクロースリン酸で安定化させた。スクロースリン酸で安定化させた全てのウイルスサンプルは、分析するまでただちに−80℃にて保存した。
【0153】
分析方法
T-フラスコ及びRBから得た細胞を、血球計又はCedex細胞計数/生死細胞テストシステム(Cedex cell counting and cell viability testing system)(Innovatis Inc., Malvern, PA)のいずれかを製造業社の指図書に従って用いて数えた。マイクロキャリア培養物中の細胞密度は、0.1Mクエン酸中の0.1%クリスタルバイオレット溶液によって放出された核を数えることにより決定した(Hu and Wang, 1987, Biotechnol Bioeng 30: 548-557)。インハウス50%組織培養感染量(in-house 50% tissue culture infective dose(TCID50))アッセイで感染性ウイルス力価を測定し、結果をlog10 TCID50/mLで数量化した。TCID50アッセイに固有のアッセイ間及びアッセイ内の結果の変動を最小限に抑えるために、同じ実験から生じたサンプルは可能な限り同じ日にテストし、各ウイルスサンプル毎に4つの反復試験(複製)を使用した。
【0154】
6.1 異なる感染多重度でのウイルス産生プロフィール
MEDI-534産生のための臨界プロセス・パラメータ及び培養条件を確認し、最適化するために、小規模のT-75フラスコ実験を行った。MEDI-534産生に及ぼす感染多重度(MOI)の影響を調べた(図1)。3つのMOIすなわち0.1、0.01及び0.001は、匹敵するピークウイルス力価(6 log10 TCID50/mL)を生ずることが分かったが、最も低い2つのMOIすなわち0.0001及び0.00001は、少なくとも1 log10 TCID50/mLだけ低い最大ウイルス力価を生じた。従って、ウイルス収量を最大にしつつウイルスシードストックを節約するために、後続実験における感染では、0.01〜0.001の範囲のMOIを使用した。
【0155】
6.2 感染の時期及び感染後の温度が感染性ウイルス力価に及ぼす影響
感染の時期及び感染後の培養温度がMEDI-534産生に及ぼす複合的な影響を調べるために、T-フラスコ実験を行った(図2a及び2b)。播種後5日目(5dps)で培養物に感染させることにより、3dpsと比較すると、感染時のVero細胞の数は0.6×107細胞/フラスコから1.7x107細胞/フラスコに増大した。3dpsで感染させた培養物において達成したピークウイルス力価(図2a)は、5dpsで感染させた培養物において測定されたもの(図2b)よりもやや高かった。従って、感染時のVero細胞の数を増やしても、DEMI-534産生を促進することはなかった。しかし、感染後の培養温度を低くシフトする(37℃から33℃に)ことにより、少なくとも1 log10TCID50/mLもピークウイルス力価を著しく上昇させた。フォローアップ研究により、感染後の培養温度が29℃、31℃及び35℃では同じような傾向が見られたが、感染後の温度が33℃の場合よりはやや低いMEDI-534力価を生じたことが分かった。したがって、更に行った全ての実験において、感染後のインキュベーション温度は33℃を使用した。
【0156】
MEDI-534は低温適応性ではないため(Tang et al., 2003, J Virol 77: 10819-10828)、低い培養温度で観察されたウイルス力価の増大は予想外のものであった。この温度感受性についての明確な理由は明らかにされていないが、ウイルスのポリメラーゼにおけるアミノ酸変化によって温度感受性の表現型を示すPIV3ウイルスが生じる(Feller et al., 2000, Virology 275: 190-201; Skiadopoulos et al., 1999, J Virol 73: 1374-1381)。
【0157】
6.3 感染前の培養培地がウイルス産生に及ぼす影響
T-フラスコ実験で、感染前の培養培地がウイルス産生に及ぼす影響を評価した(表I)。感染前の増殖培地を強化するために、播種時にVero培養物にFBSを添加した。OptiPROTM SFMにFBSを加えたところ、3dpsに測定された細胞収量はほぼ倍となり、最大ウイルス力価は少なくとも5倍増大した。FBSの添加レベルを0.5%、2%及び5%としたところ、同等の細胞収量((1.0〜1.1)×107細胞/フラスコ)及びウイルス力価((7.6〜7.8)log10 TCID50/mL)をもたらし、このことは、FBS濃度を上げても細胞の増殖やウイルス産生をさらに高めるものではないことを示唆している。レトロウイルスのパッケージング細胞系で行われた同様の実験において、Lee及びその共同研究者は、血清を加えてレトロウイルスベクターの力価を二倍に増やしたが、ウイルス産生がテストした血清添加範囲(1%〜20%)において用量依存的であることを見出した(Lee et al., 1996, Appl Microbiol Biotechnol 45:477-48)。
【表1】
【0158】
6.4 FBS感染前培地及び添加物で滴定したローラーボトル培養物のウイルス産生プロフィール
T-フラスコを用いたFBS滴定実験の再現精度及びスケーラビリティ(拡張性:scalablity)を決定するために、播種時に0.5%及び2% FBSを添加したRB培養物において細胞収量及びMEDI-534産生を測定した(図3)。OptiPROTM SFM培養物の細胞収量は、培養物を1.5x107細胞/RBで接種したとしても、3dpsでたったの1.9x107細胞/RBであった。これに対し、Vero細胞のT-フラスコ培養物は、OptiPROTM SFM中1.75x106細胞/フラスコで播種したのだが、3日後の培養物中の細胞数は3倍であった(表I)。これらの結果は、OptiPROTM SFMが静置培養における細胞増殖を優先的にサポートすることを示している。OptiPROTM SFMに0.5%(v/v)及び2%(v/v) FBSを添加した場合、RB培養物における細胞増殖は、T-フラスコ培養物において観察されたものと相関していた、即ちT-フラスコ(表I)及びRB培養物(図3の図表の説明文)の両方において3日後に細胞数は約6倍に増大していた。3dpsで、OptiPROTM+0.5%(v/v) FBS及びOptiPRO TM+2%(v/v) FBS培養物は、9.3×107細胞/RB及び10.4×107細胞/RBで、それぞれ匹敵する細胞収量をあげた。T-フラスコの結果(表I)と一致して、FBSを添加したRB培養物は、OptiPROTM SFM培養物に比べて著しく高いウイルス力価を生じた。感染前の増殖培地(OptiPROTM SFM)にFBSを添加することで成し得た成功は、細胞増殖及びウイルス産生に対して培養培地により発揮される影響を示している。
【0159】
6.5 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地における細胞収量及びウイルス産生
FBSの代わりに無血清代替として既知組成脂質濃縮物(CDLC)を評定した。さらに、この実験は、OptiPROTM SFMとVP-SFM(Vero細胞の増殖及びワクチン産生をサポートするために同じ製造業社(GIBCO/Invitrogen)により開発された他の動物由来成分を含まない(ADCF) SFM)との比較も行った。5つの異なる感染前培地について複製で2つずつ作製したRBは、3dpsで以下の細胞収量(図4a)及びピークウイルス力価(図4b)を生じた。データは、表II中に平均±標準偏差で示してある。
【0160】
3dpsで、OptiPROTM SFM及びVP-SFM条件のいずれにおいても、細胞密度は接種密度1.5×107細胞/RBを僅かに超え増加しただけだった(図4a)。これに対し、脂質若しくは血清を添加した培養物中の細胞数は、3日後に数倍増加した(図4a)。OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS培養物において細胞増殖が優れていたにも関わらず、ウイルス力価はVP-SFM+1%(v/v)CDLC培養物における方が僅かに高かった。細胞増殖及びウイルス産生におけるCDLCに関連した増強は、OptiPROTM SFM培養物におけるものよりVP-SFM培養物におけるものの方が、より顕著であった。1つのSFMにおいて他のSFMよりもCDLC添加の効果がより著しかったのは、それら2つのSFMの脂質組成の違いから生じたものかもしれないが、この仮説は、OptiPROTM SFM及びVP-SFM両方の組成が製造業社(GIBCO/Invitrogen)占有のものであるため、確認することができない。これは、Vero培養物における細胞増殖及びウイルス産生を促進するために脂質添加を成功的に利用した最初の証明である。
【0161】
OptiPROTM SFMは、Vero細胞増殖及びMEDI-534産生のサポートにおいてロット間の変動がはっきりと認められた組成の分からない(chemically undefined)-SFMである。1番目及び2番目のRB実験では異なるロットのOptiPROTM SFMを使用したため、OptiPROTM SFMを用いて得られたピークウイルス力価が1番目の実験(図3;(6.8±0.2)log10 TCID50/mL)に比べて2番目のRB実験((7.3±0.2)log10TCID50/mL)において高かったことは、OptiPROTM SFMにおけるロット間の変動から、TCID50アッセイにおけるアッセイ間の変動から、あるいはその両方から生じたのかもしれない。
【表2】
【0162】
6.6 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地を用いたローラーボトルにおける細胞増殖及びウイルス産生
2つの感染前増殖培地、すなわちOptiPROTM+0.5%(v/v)FBS及びVP-SFM+1%(v/v)CDLC-における細胞増殖(図5a)及びウイルス産生(図5b)のキネティックスを測定した。FBSを添加した培養物は無血清培地に比べて約30%多くの細胞を産生したが、ピークウイルス力価は同等であった(8.1 log10 TCID50/mL)。MEDI-534産生のキネティックスは感染前培養培地によって明らかに影響を受ける。最大ウイルス力価はOptiPROTM+0.5%(v/v)FBS及びVP-SFM 1%(v/v) CDLC培養物ではそれぞれ4dpi及び5dpiに検出された(図5b)。
【0163】
6.7 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地で滴定したローラーボトル培養物における細胞増殖及びウイルス産生
VP-SFM中0.5%(v/v)、1%(v/v)及び2%(v/v)のCDLCで滴定したVero培養物は、似たような細胞収量(図6a)及びMEDI-534産生(図6b)を示した。更に行った全ての実験は、感染前無血清Vero細胞増殖培地としてVP-SFM+1%(v/v)CDLCを使用した。
【0164】
6.8 既知組成脂質濃縮物を添加した感染後培地におけるMEDI-534産生
感染後SFMとしてVP-SFM又はVP-SFM+1%(v/v)CDLCを、公知組成の既知組成ADCF SFMであるウイリアムスE培地(WME)(Williams and Gunn, 1974)に置き換えることが実効可能かどうかを調査した(図7)。WMEは非感染培地中ではVero細胞の増殖をサポートしなかったが、感染後培地として優れた性能を示した。VP-SFM+1%(v/v)CDLC、VP-SFM及びWME中で測定された最大ウイルス力価(平均±標準偏差で表わす)はそれぞれ、(7.5±0.2)log10 TCID50/mL、(7.6±0.1)log10 TCID50/mL及び(8.1±0.2)log10 TCID50/mLに相当するものであった。産生プロセスにおける動物由来成分の使用を最低限に抑えるため及び精製プロセスにおいて起こり得る複雑な問題を最小限に抑えるために、血清を添加した培地はテストしなかった。その結果、後に続くMEDI-534を用いた感染は、ウイルス産生培地としてWMEのみを使用した。
【0165】
6.9 既知組成脂質濃縮物を添加した感染前培地を用いたマイクロキャリア培養物における細胞増殖及びウイルス産生
スピナーフラスコ実験で、マイクロキャリアにおいて血清を添加した培地(OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS)及び無血清培地(VP-SFM+1%(v/v)CDLC)がVero細胞増殖(図8a)及びMEDI-534感染(図8b)をサポートする能力を対比させた。両培地において培養したVero細胞は、CytodexTM 1及びCytodexTM 3上で増殖した。RBでの観察結果(図5a)と一致して、OptiPROTM+0.5%(v/v)FBS培養物はVP-SFM+1%(v/v)CDLC培養物よりも早く増殖した。両感染前培地は、同時に(4dpi)同じピークウイルス力価8.1 log10 TCID50/mLを生じた。しかし、感染性ウイルス力価は、血清を添加した培養物のペアにおいて4dpiから7dpiにかけて平均で2.6 log10 TCID50/mL低下したのに対し、2つの無血清培養物におけるウイルス力価は同じ期間の間に平均で0.4 log10 TCID50/mLしか低下しなかった。RBにおけるOptiPROTM+0.5%(v/v)培養物は、感染性ウイルス力価においてこのような相当量の低下を示さず(図4b及び図5b)、スピナーフラスコ培養物におけるこの現象の原因となるメカニズムは分かっていない。この実験における結果に基づいて、この後に行われたマイクロキャリア実験では全て、Vero細胞の感染前増殖培地としてVP-SFM+1%(v/v)CDLCを使用した。
【0166】
6.10 マイクロキャリア培養物においてMEDI-534力価に対し感染時期が及ぼす影響
MEDI-534力価に対して感染時期が及ぼす影響をマイクロキャリア培養物で考察した。ウイルス力価が3dpi及び5dpiで感染させた培養物では同等量であったというT-フラスコでの観察結果(表1)と一致して、4、5及び6dpiに感染させた、複製で2つずつ作製したスピナー培養物は、ほぼ同等のピークMEDI-534力価を生じた(表II)。この「細胞密度効果」は、バッチ培養におけるアデノウイルス産生で観察されており、特異的ウイルス産生能は感染時に細胞密度を増加させることにより低下した(発明の背景、Henry et al., 2004, Biotechnol Bioeng 86: 765-774, Nadeau and Kamen, 2003, Biotechnol Adv 20: 475-489)。培養時間を短くするために、以下の実験では4dpiにマイクロキャリア培養物を感染させた。
【0167】
バイオリアクターでスケールアップするために、マイクロキャリアのプロセス・パラメータ(播種密度、無血清増殖培地、攪拌速度、マイクロキャリアのタイプ及びビーズ濃度を含む)を最適にするためその後試みたところ、現行の動作条件(2 g/L CytodexTM 1を含むVP-SFM+1%CDLC中に1×105細胞/mLを播種、60rpmにて攪拌)が最も良い結果をもたらすことが分かった。
【表3】
【0168】
6.11 異なるpHに制御されたバイオリアクター内の感染前Vero細胞増殖及びウイルス産生の比較
無血清MEDI-534産生プロセスのスケーラビリティを査定し培養物のpHに対する細胞増殖及びウイルス産生の依存を評価するために、バイオリアクター実験を行った。3つの並行するバイオリアクター培養物を、それぞれpH設定値7.0、7.2及び7.4に維持した。バイオリアクター培養物中の感染前細胞増殖(図9a)及びウイルス産生プロフィール(図9b)は、VP-SFM+1%CDLCスピナーフラスコ培養物で観察されたもの(図8)と似ていた。このバイオリアクター実験を繰り返すと、8 log10 TCID50/mLの最大ウイルス力価を持つ同様の傾向がみられた。これらの結果は、マイクロキャリアのプロセスを、バイオリアクター内でスケールアップさせることができることを示し、また、細胞増殖及びウイルス産生がpH7.0〜7.4の範囲内で比較的pH依存的であることも示している。T-フラスコ、RB及びスピナーフラスコ培養物中のpHは一般的にかなり変化し、幾つかの例では明白な有害効果もなく培養が進行するに従いpHは7.6から6.8に低下した。
【0169】
6.12 バイオリアクター中のRSV産生プロセス生産の向上
バイオリアクター・プロセスにおけるRSVワクチン産生能を向上させるために、Applikon 3Lバイオリアクターを用いてVero細胞増殖の向上(bettering)を調べた。細胞密度が高ければ、ウイルスを産生する細胞数が多いので、ウイルス力価が高くなると思われる。前のプロセス(段落[00167]を参照されたい)では、2g/LのマイクロキャリアCytodexTM 1及び60rpmの攪拌速度を用いた。Vero細胞増殖及びRSVワクチン産生に対してより早い攪拌速度及びより高いCytodexTM 1密度を調べた。
【0170】
Vero細胞増殖に及ぼす攪拌速度の影響を評価するために、4つの3Lバイオリアクターに、1.5Lの培養体積でVero増殖培地(VP-SFM、4mM L-Gln、及び1% CDLC)中Vero細胞を2e5細胞/mLで接種した。バイオリアクター培養物では以下のパラメータを使用した:空気飽和度(air saturation)50%の溶存酸素(DO)、pH 7.1及び温度37℃。バイオリアクターのうち2つの攪拌速度は65rpmに設定し、他の2つは125rpmに設定した。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、クリスタルブルー染色法を用いて核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図10にデータを示す。培養物の汚染の問題により、65rpmの複製で作製された2つのバイオリアクター培養物のうち1つは無駄になった。攪拌速度が早い方は125rpmであり、攪拌速度が遅い方は65rpmである。図10に示すように、攪拌速度125rpmの方が細胞増殖が高まり、細胞はより高密度に増殖した。
【0171】
Vero細胞増殖の向上が得られるかどうかを確かめるために、マイクロキャリアの密度を高くして調べた。ここでも、上記のように、4つのバイオリアクター培養物に増殖培地中2e5細胞/mLのVero細胞を接種した。DOは空気飽和度50%とし、pHは7.1に設定し、温度は37℃とした。125rpmの攪拌速度を使用した。2つのバイオリアクターはCytodexTM 1を2g/L含み、他の2つのバイオリアクターは4g/L含んでいた。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、培養物サンプル中の核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図11に細胞増殖データを示す。4g/LのCytodexTM 1を用いた培養物は2g/LのCytodexTM 1を用いた培養物に比べて細胞密度が高かった。2g/LのCytodexTM 1を用いた一方のバイオリアクター培養物は装置の誤動作のため無駄になった。
【0172】
マイクロキャリアの密度を高くすることでより高いウイルス力価が得られるか否かを評価するために、3日目に各々のバイオリアクターから培養物20mLを取り出して125mLの振盪フラスコ(shake flask)に移し変えた。Vero増殖培地を感染後培地(SFM4MegaVir及び4mM L-Gln)に取り替えた。次に細胞をMOI 0.01でRSV dM2-2ウイルスに感染させ、振盪インキュベーター(shake incubator)中33℃及び5%CO2にて100rpmで振盪させて培養した。各フラスコから4、5、6及び7日目にサンプルを取ることにより、ウイルス産生をモニターした。ウイルス力価はTCID50アッセイにより決定した。図12に示すように、4g/LのCytodexTM 1を用いた培養物は2g/Lのマイクロキャリアビーズを用いた培養物に比べて高いウイルス力価を生じた。4g/L培養物についてのデータは2つの培養物の平均である。
【0173】
複製で2つ作製したバイオリアクター培養物に、上記無血清増殖培地中Vero細胞を2e5細胞/mL接種し、上記実験で確認された至適条件下(4g/LのCytodexTM 1、攪拌速度125rpm、50%DO、pH7.1及び37℃)で3日間培養した。各バイオリアクターから毎日サンプルを取り、培養物サンプル中の核の数を数えることにより、細胞増殖をモニターした。図13にデータを示す。
【0174】
培養3日目に攪拌を停止してマイクロキャリアービーズをバイオリアクターの底に沈降させた。次に、マイクロキャリアービーズについた細胞を残しつつ、使用済み増殖培地をバイオリアクターから取り出し、同量の新しい感染後培地(SFM4MegaVirTM+4mM L-Gln)に取り替えた。125rpmで攪拌を再開した。培養物の温度を30℃に下げ、pHを7.0に設定した。次にMOI 0.01にてMEDI-559に細胞を感染させ、30℃にて10日間培養を続けた。7日目〜10日目にかけて毎日培養物からサンプルを取り出した。ウイルス力価はTCID50アッセイにより決定した。図14に示すように、バイオリアクター培養物のピーク産生能は8 logs/mL(log10TCID50)に達した。
【0175】
6.13 バイオリアクターにおけるPIV産生プロセスの向上
細胞系及び培養物の維持
Vero細胞系(ATCC CCL-81)を無血清増殖条件用に馴化してバンクとして保管した。このワーキング・セル・バンク(WCB 29Apr03 PN532AC(SF)03BA01 PJS)に由来する細胞を全ての実験で使用した。
【0176】
T-75フラスコでは35mL、T-225フラスコでは100mL及び850cm2のローラーボトル(RB)では300mLの対応する培養体積で、足場依存性Vero細胞5×104細胞/mLを慣用的に播種し、3〜4日毎に継代させた。継代培養するために、使用済み培地を吸引し、細胞をDPBSで濯ぎ、37℃にて適量のTrypLE溶液(Invitrogen, Carlsbad, CA)で処理することにより、フラスコから剥離させた。同量のアオイマメ・トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてTrypLE活性を中和した。全ての非感染Vero細胞を、4mM L-グルタミン及び1%の既知組成脂質濃縮物(CDLC, Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加したVP-SFM(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養し、T-フラスコ培養物は37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持し、RB培養物は37℃のインキュベーター内で0.3rpmにて稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0177】
ウイルスシード
MEDI-560はcp45の誘導株であり、hPIV3ウイルスに対する生きた弱毒化ワクチンの候補である。MEDI-560ウイルスのシードストックを−80℃で保存し、使用直前にのみ解凍した。
【0178】
T-フラスコ実験
MEDI-560産生のための感染パラメータを、T25フラスコ中でまずスクリーニングした。T-25フラスコに、4mM L-グルタミン及び1% CDLCを添加したVP-SFM 12mL中6×105個のVero細胞を播種し、37℃/5%CO2/95%Rhインキュベーター内で維持した。播種後3日目に感染を行った。2つのT25フラスコ中の細胞数は、TrypLE溶液で細胞を剥離してVi-Cell生死細胞オートアナライザー(Vi-Cell Cell Viability Analyzer)(Beckman Coulter, Miami, FL. Model Vi-Cell XR)で細胞の数を数えることにより測定した。2つのフラスコから得た平均細胞数を用いて、感染多重度(MOI)0.01 TCID50/細胞に基づいて感染に使用するウイルスシードの量を計算した。複製で2つ作製したT25フラスコに、3種の感染培地(SFM4MegaVir(Hyclone, Logan, UT)、ウイリアムスE培地(Lonza)、及びEx-Cell Vero (SAFC Biosciences JRH):全て4mM L-グルタミンを添加した)中において2つの温度(32℃及び30℃)にてMEDI-560を感染させ、表IVに表わしたように3つの時点(感染後5、6、及び7日目、すなわちdpi)で採集した。培養物は5%CO2/95%Rhのインキュベーター内で維持した。採集する際、各条件の複製で作製した2つのフラスコから使用済み培養培地サンプルを回収し、10%(v/v)の10Xスクロースリン酸(10X SP)緩衝液で安定化させた。全てのサンプルを凍結させ、-60℃以下で保存した。感染性ウイルス力価は、TCID50アッセイを用いて測定した。
【表4】
【0179】
6.14 ワクチンのバイオリアクター比較
3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)で小規模のバイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターにはADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon) を備え付けた。CytodexTM 1マイクロキャリアを用意し、製造業社の指示書に従って使用した。
【0180】
感染前のVero細胞増殖のために、3Lのバイオリアクター中1.5〜2Lの実際の培養体積(working culture volume)で、RB培養物から採集したVero細胞をVero細胞増殖培地(4mM L-Gln及び1% CDLCを添加したVP-SFM)中4g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に2e5細胞/mLの密度で、又は2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で(改変プロセス)、播種した。pHはNaOH溶液を添加したりCO2のスパージング(sparging)を行うことによって7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。初期培養時間の間、溶存酸素は100%からフロートし(floated)、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより空気飽和度50%に維持した。攪拌速度は125rpmに設定した。
【0181】
播種後3日目又は5日目に感染を行った。サンプルを回収した後、すべてのコントロールループ(control loops)を不能にし(disabled)、マイクロキャリアビーズを30分以上かけて沈降させた。次に、部分的な培地の交換を行った。使用済みの増殖培地を吸い出し、培地添加ポートのうちの1つを介して同体積の新しい感染培地を加えた。培地交換の程度は、66〜90%の範囲であった。感染段階の間、pHは7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は50%空気飽和度に維持し、攪拌は125rpmに維持した。細胞は0.01 TCID50/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。
【0182】
単回使用バイオリアクター(SUB)実験
SUB(50L SUB ベーシック・ハードウェア・ユニット)(Hyclone, Logan, UT, Part No. SH3B1744.01))中でのVero細胞増殖では、SUBにおいて30LのVero細胞増殖培地中2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で細胞を播種した。NaOH溶液の添加及びCO2のスパージングにより、pHを7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。初期培養時間の間、溶存酸素は100%からフロートし、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより、空気飽和度50%に維持した。培養初日の間、攪拌速度は125rpmに維持し、残りの期間は100rpmに減速した。
【0183】
播種後5日目に感染を行った。サンプルを回収した後、全てのコントロールループを不能にし、マイクロキャリアビーズを30分以上かけて沈降させた。次に、部分的な培地の交換を行った。使用済みの増殖培地を吸い出し、培地添加ポートのうちの1つを介して同体積の新しい感染培地を加えた。培地交換の程度は66%であった。感染段階の間、pHは7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は50%空気飽和度に維持し、攪拌は100rpmに維持した。細胞は0.01 TCID50/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。
【0184】
ウイルス定量のための感染培養物サンプルの回収
感染させたT-フラスコ及びRB培養物中の培地をサンプリングした後、10%(v/v)スクロースリン酸を加えてウイルスサンプルを安定化させた。感染させたスピナーフラスコ及びバイオリアクターからサンプリングした後、サンプル中のマイクロキャリアビーズを沈降させ、回収した培養上清を、10%(v/v)10Xスクロースリン酸グルタメート緩衝液(10X SPG)で安定化させた。分析するまで、SPGで安定化させた全てのウイルスサンプルをただちに−80℃にて保存した。
【0185】
表V及びVIは、3つの異なるバイオリアクター産生実験の間で、細胞増殖及び感染条件における主な違いをまとめたものである。
【表5】
【表6】
【0186】
分析方法
T-フラスコ及びRBから得た細胞数及び細胞生存率は、血球計又はVi-Cellアナライザーを用いて製造業社の説明書に従って操作し測定した。バイオリアクター培養物から得た細胞濃度は、ヌクレオカウンター(Nucleocounter)(New Brunswick Scientific, Edison, NJ, M1293-0000)を用いて決定した。Bioprofile 400計器(Nova Biomedical, Waltham, MA, Bioprofile 400)を用いて、グルコース、乳酸塩(lactate)、グルタミン及びアンモニウムの濃度を分析した。ウイルス複製の進行は、50%組織培養感染量(TCID50)アッセイを用いてウイルス感染力を測定することにより分析し、結果をlog10 TCID50/mLで量を示した。
【0187】
結果
T25フラスコにおける感染パラメータのスクリーニング
異なる感染条件下で使用済み培養培地中の感染性MEDI-560力価をTCID50アッセイにより測定し、図15に表わす。SFM4MegaVir培地中30℃にて感染させた場合(最も高い力価は6dpiに得られた)を例外とした全ての条件で、5dpiに最も高い力価が得られた。SFM4MegaVir及びウイリアムスE培地で30℃という感染条件は、それぞれ8.4及び8.5 logs TCID50/mLという同等のピーク力価を生じた。これらのデータは、MEDI-560が、SFM4MegaVir及びウイリアムスE培地の両方において32℃よりも30℃の方が、より安定であることを表わしている。
【0188】
この結果は、MOI 0.01、感染培地としてSFM4MegaVir培地、及び30℃、という感染条件が、高力価のMEDI-560を産生することができることも示している。同じくMOI 0.01、4mM L-Glnを添加した感染培地SFM4MegaVir、及び温度を、以下に記載するバイオリアクター実験(図15)において使用した。
【0189】
バイオリアクター中のVero細胞増殖
図16は、ミリリッターあたりの細胞で測定された細胞密度(細胞/mL)と共に、感染前段階の間の3つのバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィールを表わす。図17は、平方センチメーターあたりの細胞で測定された細胞密度(細胞/cm2)と共に細胞増殖プロフィールを表わす。
【0190】
予想通り、1.5L Applikonバイオリアクター実験、即ち3L260307-R9(2e5細胞/mLで播種)における細胞は、同じ期間中培養した場合、3L120407-R10(1e5細胞/mLで播種)に比べて高い細胞密度にまで増殖した。つまり、3日間培養した後では、3L260307-R9は1e6細胞/mLに達し、3L120407-R10は8.3e5細胞/mLにしか達しなかった(図15)。しかし、3L120407-R10中の細胞は、播種後5日目には1.25e6細胞/mLに達した。
【0191】
3L 120407-R10は、3L260307-R9で使用した細胞の量の半分で播種したが(1e5細胞/mL対2e5細胞/mL)、3L120407-R10で使用したマイクロキャリアの量も半分に減らしたので、両方のリアクターにはマイクロキャリア1つあたり約13個の細胞で播種した。これら2つの1.5Lバイオリアクター培養物の細胞増殖プロフィールは、最初の2日間は似ていた(図16)。しかし、3L260307-R9における細胞増殖は、2日目より後は遅くなり、3日目には59細胞/マイクロキャリアとなったが、これに対して3L120407-R10では96.6細胞/マイクロキャリアであった。3L260307-R9で観察されたこの遅い増殖は、グルコースがより早く枯渇したためであろう(図17)。
【0192】
SUB120407では、培養の初日の間は100rpmに攪拌を維持して細胞をマイクロキャリアビーズに付着させた。2日目から3日目にかけて攪拌速度を125rpmに上げて維持した。しかし、SUBにおける細胞増殖は1.5L Applikonバイオリアクター培養物3L120407-R10よりも遅れている。細胞増殖を促進させるために、播種後4日目から5日目にかけて攪拌速度を100rpmに下げて維持した。1日目の間は、SUB培養物中の細胞は1.5Lバイオリアクター培養物3L120407-R10と同様に増殖した。しかし、SUB中の細胞増殖は、1日目より後は、1.5Lのコントロールバイオリアクターに比べて著しく遅かった。攪拌速度はSUBにおけるMDCK細胞増殖に著しく影響を及ぼすことが分かった。
【0193】
図18A〜Bに示されるように、グルコースは、3L260307-R9が最も高い細胞密度を有しているので、3L260307-R9において最も早く枯渇した。また3L260307-R9は最も大量の乳酸塩を産生した。2〜4日目の間、3L120407-R10はSUB培養物に比べてわずかに多い乳酸塩を産生した。しかし、播種後5日目の最終的な乳酸塩濃度は、これらの2つの培養物では同じぐらいであった。
【0194】
3L260307-R9の最初のグルタミン濃度は5.6mMであり、これは算出された濃度である4mMよりも高かった(図19A〜B)。SUBにおけるグルタミンの消費は他の2つに比べて遅く、これはおそらく細胞密度が最も低かったためと思われる。3L120407-R10及びSUB120407のアンモニウムイオン産生プロフィールは非常によく似ている。3L260307-R9はより多くのアンモニウムイオンを産生し、これはおそらく3L260307-R9の細胞密度が最も高かった事実によるものであろう。
【0195】
バイオリアクター中のMEDI-560産生
3つのバイオリアクター実験におけるウイルス産生を、TCID50アッセイを用いて測定し、表VIIにまとめる。
【表7】
【0196】
データは、MEDI-560力価がSUB実験では3dpiにピークとなり、2つの1.5L Applikonバイオリアクター実験では4dpiにピークとなることを示している。これら3つのバイオリアクター実験のピーク力価は同等である。
【0197】
バイオリアクター中マイクロキャリア上で培養したVero細胞を拡張するための直接ビーズ間移行法(Direct Bead-to-bead Transfer Method)
Vero細胞培養物を効率的に拡張するために、Vero細胞を付着させたマイクロキャリアビーズからそれらの細胞を剥離した後、新しく加えたマイクロキャリアビーズに付着させて増殖させる必要がある。Vero細胞をマイクロキャリアビーズから剥離して拡張するために、典型的にはトリプシン/EDTAが使用されていた(Sugawara K., et al., Biologicals 2002, 30, 303-314)。しかし、この手法は培養培地の除去及び大量のトリプシン/EDTAの使用を伴うものである。これは、扱いが難しく、コストが高く、且つ汚染の危険性が高い。
【0198】
マイクロキャリアビーズからVero細胞を剥離するためにトリプシンを用いたりトリプシン様酵素を用いたりすることなくバイオリアクター中でVero細胞培養物を拡張するために、直接ビーズ間移行法が開発された。Vero細胞を、それらが付着しているマイクロキャリアビーズから、拡張及び増殖させるために新しく加えたビーズに直接移動させた。この直接ビーズ間移行方法を用いて拡張したバイオリアクター培養物から得た細胞が、ローラーボトルから得た細胞を播種した培養物と同等のウイルス産生能を有するか否かをテストするために、以下の比較研究を行った。
【0199】
Vero細胞系(ATCC CCL-81)を無血清増殖条件に馴化してバンクとして保管した。全ての実験において、ワーキング・セル・バンクに由来する細胞(WBC 29Apr03 PN532AC(SF)03BA01 PJS)を使用した。
【0200】
ローラーボトル培養物:足場依存性Vero細胞を、対応する培養体積、すなわちT-75フラスコでは35mL、T-225フラスコでは100mL、及び850cm2ローラーボトル(RB)では300mL中に5×104細胞/mLで播種し、3〜4日ごとに継代させた。継代培養するために、使用済み培地を吸引し、細胞をDPBSで濯いで、適量のTrypLE溶液(Invitrogen, Carlsbad, CA)で37℃にて処理することにより、フラスコから剥離した。同量のアオイマメ・トリプシンインヒビター(Worthington Biochemical Corporation, Lakewood, NJ)を加えてTrypLE活性を中和した。感染していない全てのVero細胞を、4mM L-グルタミン及び1%の既知組成脂質濃縮物(CDLC, Invitrogen, Carlsbad, CA)を添加したVP-SFM(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で培養し、T-フラスコ培養物は37℃/5%CO2/95Rhインキュベーター内で維持し、そしてRB培養物は37℃インキュベータ内で0.3rpmにて稼動させたローラーボトル装置に配置した。
【0201】
実験ではMEDI-560及びMEDI-559を使用した。ウイルスのシードストックは−80℃で保存し、使用直前にのみ解凍した。
【0202】
直接ビーズ間バイオリアクター培養:3Lの攪拌型タンクバイオリアクター(Applikon, Foster City, CA)にて小規模なバイオリアクター実験を行った。各バイオリアクターにはADI 1030 Bio Controller(Applikon)及びADI 1035 Bio Console(Applikon)を装備した。Cytodex 1マイクロキャリアを用意し、製造業者の指示に従って使用した。
【0203】
バイオリアクター培養を開始するために、RB培養物から採集したVero細胞を、3Lバイオリアクター中1.5〜2Lの実際の培養体積にて、Vero細胞増殖培地(4mM L-Gln及び1% CDLCを添加したVP-SFM)中4g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に2e5細胞/mLの密度で播種した、又は2g/LのCytodex 1マイクロキャリアと共に1e5細胞/mLの密度で播種した。pHは、NaOH溶液の添加及びCO2のスパージングにより、7.1±0.05に制御した。温度は37℃に維持した。溶存酸素は、初期培養時間の間は100%からフロートし、細胞が増殖するに従い、純粋な酸素をスパージングすることにより、空気飽和度50%に維持した。攪拌速度は125rpmに設定した。
【0204】
トリプシンを利用しないでビーズからビーズへとVero細胞を直接移動させることによるバイオリアクターからバイオリアクターへのVero細胞培養物の拡張をテストするために、以下の実験を行った。Vero細胞をApplikonバイオリアクター中上記のように1.5Lの実際の体積で3日間培養した。このとき細胞密度は1e6細胞/mL以上に達した。1:1の分割比(split ratio)で拡張するために、3日間培養したもののうち750mL〜1Lを、4g/Lの新しいCytodex 1ビーズと共に同体積の新しい増殖培地を含む新しいバイオリアクターに移した。1:5の分割比で拡張するために、Vero細胞培養物のうち300mLを、4g/Lの新しいCytodex 1ビーズと共に1.2Lの新しい増殖培地を含む新しいバイオリアクターに移した。
【0205】
上記と同じパラメータを用い、攪拌に以下の修正を加えて細胞を培養した。125rpmの一定速度で攪拌するのではなく、表VIIIに示すような様々な断続的攪拌レジーム(intermittent agitation regime)を使用した。4つの異なる断続的攪拌レジームを用いて拡張したバイオリアクターにおける細胞増殖の結果を図22に示す。
【表8】
【0206】
直接ビーズ間移行方法を用いて拡張したバイオリアクター培養物から得た細胞が、ローラーボトルから得た細胞を播種した培養物と同等のウイルス産生能を持つか否かをテストするために、新しく播種したバイオリアクター培養物及び1:5の分割比で拡張した培養物に、MEDI-559をMOI 0.01FFU/細胞で感染させた。感染段階の間、pHを7.1±0.05に制御した。温度は30℃に維持した。溶存酸素は空気飽和度50%に維持し、攪拌は125rpmに維持した。その結果、ピークウイルス力価は表IXに示すように同等なものであった。
【表9】
【0207】
基本のプロセスパラメータ(platform process parameters)を用いて3Lバイオリアクター中で培養したVero細胞を、以下表Xに記載する2つの別個の実験において15Lバイオリアクターに拡張した。細胞を3Lバイオリアクターから1:5の分割比で15Lバイオリアクターに移して拡張した。細胞は3Lバイオリアクター中で増殖させた培養物で見られたように、4日目又は5日目までに1e6核/mL以上に達した(図22)。15L Applikonバイオリアクター中で拡張させたVero細胞培養物に、MEDI-559又はMEDI-560をMOI 0.01にて感染させた。15Lの拡張させた培養物中で得られたピーク力価は、3Lバイオリアクター培養物から得られたものに匹敵するものであった(表X)。
【表10】
【0208】
細胞分布の均質性が問題となるか否か、及び複数回の拡張に由来する細胞がウイルス産生能を保っているか否かをテストするために、Vero細胞培養物を3Lバイオリアクターにおいて2回連続して(2X)1:5の分割比で継代培養させた。細胞増殖及びMEDI-560産生を、ローラーボトルから得た細胞(拡張なし)を播種したバイオリアクター培養物又はバイオリアクター中で1:5の分割比で1回拡張(1X)した後培養したバイオリアクター培養物と比較した。実験設計、細胞増殖プロフィール、マイクロキャリアビーズへの細胞分布、及びMEDI-560産生を、表XI、図23〜25にそれぞれ示す。細胞は5日目(1X拡張)及び2回拡張した後6日目までに1e6核/mL以上に達した。拡張した培養物中において細胞増殖にわずかな遅れがあった。1回及び2回拡張した後の培養物中のマイクロキャリアビーズ上の細胞分布は、同等である(図24)。図25に示されるように、全ての培養物は同等のMEDI-560産生能を示した。
【表11】
【0209】
上記のビーズからビーズへの移行方法を用いて拡張させたVero細胞は、ローラーボトルから得た細胞を播種したVero細胞培養物に匹敵するRSVワクチンをもたらした。
【0210】
本発明の様々な実施形態を記載した。説明及び実施例は本発明を例示するためのものであって限定するものではない。実際に、当業者であれば、本発明の精神又は特許請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明の様々な実施形態に修正を加えることができることは自明であろう。本明細書中に引用した全ての参考文献は、それら全体が参考として本明細書中に組み込まれる。さらに、2007年4月5日に出願された国際特許出願PCT/US07/66037号、並びに米国仮出願第60/862,550号(2006年10月23日出願)、第60/944,162号(2007年6月15日出願)、及び第60/973,921号(2007年9月20日出願)も、その全体が本明細書中に参考としてそれぞれ組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清を実質的に含まない細胞培養培地中にウイルスを感染させたVero細胞を含むVero細胞培養物であって、前記培養物が少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、Vero細胞培養物。
【請求項2】
前記細胞培養培地が濃度約0.5〜約2.5g/Lのグルコースを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項3】
前記細胞培養培地が濃度約1.0〜約2.0g/Lの乳酸塩を含む、請求項1記載の培養物。
【請求項4】
前記細胞培養培地が濃度約2.0〜約4.0g/Lのグルタミンを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項5】
前記細胞培養培地が濃度約1.25〜約2.5mMのアンモニウムイオンを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項6】
前記培養物が少なくとも8.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項1記載の培養物。
【請求項7】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項1記載の培養物。
【請求項8】
マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、請求項7記載の培養物。
【請求項9】
ウイルスがパラミクソウイルスである、請求項8記載の培養物。
【請求項10】
パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、請求項9記載の培養物。
【請求項11】
パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、請求項10記載の培養物。
【請求項12】
ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項11記載の培養物。
【請求項13】
組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項10記載の培養物。
【請求項14】
Vero細胞においてウイルスを増殖させる方法であって、
(a)既知組成脂質濃縮物(chemically-defined lipid concentrate, CDLC)及びマイクロキャリアを含む細胞培養培地にVero細胞を播種することを含む、第1の温度にてバイオリアクター中でVero細胞を培養する工程、
(b)工程(a)で培養したVero細胞に、第1の温度に比べて低い第2の温度にて約0.001〜約0.10の感染多重度で感染させる工程、並びに
(c)工程(c)の細胞培養物から、少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じるウイルスを回収する工程、
を含む方法。
【請求項15】
前記バイオリアクターが単回使用バイオリアクター(SUB)システムである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
SUBが攪拌型タンクリアクターシステム(stirred tank reactor system)である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
細胞培養培地が無血清培地である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
CDLCが1%v/vの濃度まで加えられる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
細胞培養培地が、OptiPROTM SFM、VP-SFM、SFM4MegaVirTM、Ex-Cell VeroTM、又はWMEからなる群より選択される無血清培地である、請求項14記載の方法。
【請求項20】
既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸のうちの1以上を含む、請求項14記載の方法。
【請求項21】
既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸を含む、請求項14記載の方法。
【請求項22】
既知組成脂質濃縮物が、100,000mg/LのプルロニックF-68、100,00mg/Lのエチルアルコール、220mg/Lのコレステロール、2,200mg/LのTween 80、70mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10mg/Lのステアリン酸、10mg/Lのミリスチン酸、10mg/Lのオレイン酸、10mg/Lのリノール酸、10mg/Lのパルミチン酸、10mg/Lのパルミトレイン酸、2mg/Lのアラキドン酸、及び10mg/Lのリノレン酸を含む、請求項14記載の方法。
【請求項23】
工程(a)が、約50〜約150rpmの攪拌速度での培養物の攪拌を利用する、請求項14記載の方法。
【請求項24】
前記攪拌が断続的である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
工程(a)の前記培養条件が、約35%〜約100%の溶存酸素(DO)量を利用する、請求項23記載の方法。
【請求項26】
第1の温度が約36℃〜約38℃である、請求項14記載の方法。
【請求項27】
第2の温度が約30℃〜約33℃である、請求項14記載の方法。
【請求項28】
マイクロキャリア濃度が約1〜約4g/Lである、請求項14記載の方法。
【請求項29】
工程(a)の前記細胞培養物のpHが約6.6〜約7.6である、請求項14記載の方法。
【請求項30】
工程(a)の後で且つ工程(b)の前に細胞培養培地の約50%〜約90%を交換する、請求項14記載の方法。
【請求項31】
細胞培養培地を、同じ組成を有する細胞培養培地と交換する、請求項14記載の方法。
【請求項32】
細胞培養培地を、異なる組成を有する細胞培養培地と交換する、請求項14記載の方法。
【請求項33】
感染多重度が約0.01である、請求項14記載の方法。
【請求項34】
工程(c)においてVero細胞を2〜12日間培養する、請求項14記載の方法。
【請求項35】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項14記載の方法。
【請求項36】
マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
ウイルスがパラミクソウイルスである、請求項36記載の方法。
【請求項38】
パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項38記載の方法。
【請求項42】
前記回収されたウイルスが少なくとも8.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項14記載の方法。
【請求項43】
前記回収されたウイルスが少なくとも9.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項14記載の方法。
【請求項44】
前記Vero細胞を約0.5×105〜2×105細胞/mlの密度で播種する、請求項14記載の方法。
【請求項45】
工程(a)において前記Vero細胞を少なくとも約8×105細胞/mlの細胞密度にまで培養する、請求項14記載の方法。
【請求項46】
工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも1.5Lである、請求項14記載の方法。
【請求項47】
工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも30Lである、請求項15記載の方法。
【請求項48】
工程(a)においてトリプシンを加えない、請求項14記載の方法。
【請求項49】
工程(a)における前記培養物を、新しいマイクロキャリアを含む新しい培養培地を用いて1:1又は1:5で分割(split)する、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記分割が工程(b)の前又は感染前に培養中少なくとも1回又は少なくとも2回行われる、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記方法が、30Lのウイルス採集バッチあたり少なくとも2,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも120,000,000のワクチン用量を産生する、請求項14又は50記載の方法。
【請求項1】
血清を実質的に含まない細胞培養培地中にウイルスを感染させたVero細胞を含むVero細胞培養物であって、前記培養物が少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、Vero細胞培養物。
【請求項2】
前記細胞培養培地が濃度約0.5〜約2.5g/Lのグルコースを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項3】
前記細胞培養培地が濃度約1.0〜約2.0g/Lの乳酸塩を含む、請求項1記載の培養物。
【請求項4】
前記細胞培養培地が濃度約2.0〜約4.0g/Lのグルタミンを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項5】
前記細胞培養培地が濃度約1.25〜約2.5mMのアンモニウムイオンを含む、請求項1記載の培養物。
【請求項6】
前記培養物が少なくとも8.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項1記載の培養物。
【請求項7】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項1記載の培養物。
【請求項8】
マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、請求項7記載の培養物。
【請求項9】
ウイルスがパラミクソウイルスである、請求項8記載の培養物。
【請求項10】
パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、請求項9記載の培養物。
【請求項11】
パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、請求項10記載の培養物。
【請求項12】
ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項11記載の培養物。
【請求項13】
組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項10記載の培養物。
【請求項14】
Vero細胞においてウイルスを増殖させる方法であって、
(a)既知組成脂質濃縮物(chemically-defined lipid concentrate, CDLC)及びマイクロキャリアを含む細胞培養培地にVero細胞を播種することを含む、第1の温度にてバイオリアクター中でVero細胞を培養する工程、
(b)工程(a)で培養したVero細胞に、第1の温度に比べて低い第2の温度にて約0.001〜約0.10の感染多重度で感染させる工程、並びに
(c)工程(c)の細胞培養物から、少なくとも7.0 log10 TCID50/mlのウイルス力価を生じるウイルスを回収する工程、
を含む方法。
【請求項15】
前記バイオリアクターが単回使用バイオリアクター(SUB)システムである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
SUBが攪拌型タンクリアクターシステム(stirred tank reactor system)である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
細胞培養培地が無血清培地である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
CDLCが1%v/vの濃度まで加えられる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
細胞培養培地が、OptiPROTM SFM、VP-SFM、SFM4MegaVirTM、Ex-Cell VeroTM、又はWMEからなる群より選択される無血清培地である、請求項14記載の方法。
【請求項20】
既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸のうちの1以上を含む、請求項14記載の方法。
【請求項21】
既知組成脂質濃縮物が、プルロニックF-68、エチルアルコール、コレステロール、Tween 80、酢酸DL-α-トコフェロール、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、及びリノレン酸を含む、請求項14記載の方法。
【請求項22】
既知組成脂質濃縮物が、100,000mg/LのプルロニックF-68、100,00mg/Lのエチルアルコール、220mg/Lのコレステロール、2,200mg/LのTween 80、70mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、10mg/Lのステアリン酸、10mg/Lのミリスチン酸、10mg/Lのオレイン酸、10mg/Lのリノール酸、10mg/Lのパルミチン酸、10mg/Lのパルミトレイン酸、2mg/Lのアラキドン酸、及び10mg/Lのリノレン酸を含む、請求項14記載の方法。
【請求項23】
工程(a)が、約50〜約150rpmの攪拌速度での培養物の攪拌を利用する、請求項14記載の方法。
【請求項24】
前記攪拌が断続的である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
工程(a)の前記培養条件が、約35%〜約100%の溶存酸素(DO)量を利用する、請求項23記載の方法。
【請求項26】
第1の温度が約36℃〜約38℃である、請求項14記載の方法。
【請求項27】
第2の温度が約30℃〜約33℃である、請求項14記載の方法。
【請求項28】
マイクロキャリア濃度が約1〜約4g/Lである、請求項14記載の方法。
【請求項29】
工程(a)の前記細胞培養物のpHが約6.6〜約7.6である、請求項14記載の方法。
【請求項30】
工程(a)の後で且つ工程(b)の前に細胞培養培地の約50%〜約90%を交換する、請求項14記載の方法。
【請求項31】
細胞培養培地を、同じ組成を有する細胞培養培地と交換する、請求項14記載の方法。
【請求項32】
細胞培養培地を、異なる組成を有する細胞培養培地と交換する、請求項14記載の方法。
【請求項33】
感染多重度が約0.01である、請求項14記載の方法。
【請求項34】
工程(c)においてVero細胞を2〜12日間培養する、請求項14記載の方法。
【請求項35】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項14記載の方法。
【請求項36】
マイナス鎖RNAウイルスが非分節型ウイルスである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
ウイルスがパラミクソウイルスである、請求項36記載の方法。
【請求項38】
パラミクソウイルスが組換えパラインフルエンザウイルス又は組換え呼吸器多核体ウイルス又は組換えメタニューモウイルスである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
パラインフルエンザウイルスがウシパラインフルエンザウイルスである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ウシパラインフルエンザウイルスがさらに1以上のヒトパラインフルエンザウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
組換えパラインフルエンザウイルスがさらに呼吸器多核体ウイルスのヌクレオチド配列を含む、請求項38記載の方法。
【請求項42】
前記回収されたウイルスが少なくとも8.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項14記載の方法。
【請求項43】
前記回収されたウイルスが少なくとも9.0 log10TCID50/mlのウイルス力価を生じる、請求項14記載の方法。
【請求項44】
前記Vero細胞を約0.5×105〜2×105細胞/mlの密度で播種する、請求項14記載の方法。
【請求項45】
工程(a)において前記Vero細胞を少なくとも約8×105細胞/mlの細胞密度にまで培養する、請求項14記載の方法。
【請求項46】
工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも1.5Lである、請求項14記載の方法。
【請求項47】
工程(a)の前記細胞培養物の体積が少なくとも30Lである、請求項15記載の方法。
【請求項48】
工程(a)においてトリプシンを加えない、請求項14記載の方法。
【請求項49】
工程(a)における前記培養物を、新しいマイクロキャリアを含む新しい培養培地を用いて1:1又は1:5で分割(split)する、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記分割が工程(b)の前又は感染前に培養中少なくとも1回又は少なくとも2回行われる、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記方法が、30Lのウイルス採集バッチあたり少なくとも2,000,000、少なくとも9,000,000、少なくとも12,000,000、少なくとも120,000,000のワクチン用量を産生する、請求項14又は50記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2010−507363(P2010−507363A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533438(P2009−533438)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/080610
【国際公開番号】WO2008/051698
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(504333972)メディミューン,エルエルシー (108)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/080610
【国際公開番号】WO2008/051698
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(504333972)メディミューン,エルエルシー (108)
【Fターム(参考)】
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