説明

ウェビング巻取装置

【課題】トーションシャフトに変形を生じさせてから変形を終了させるまでのスプールの回転数の誤差を少なく、しかも、組み付け作業が容易なウェビング巻取装置を得る。
【解決手段】トーションシャフト30に形成された太陽ギヤ96に対してスプール18が引出方向に相対回転すると、スプール18に形成されたギヤ孔94の歯数と太陽ギヤ96の歯数に対応した減速比でキャリア112が引出方向に回転する。スプール18とキャリア112との間には速度差があるので、上記の減速比に基づき予め設定された回転数だけスプール18が引出方向に相対回転すると、キャリア112に形成したキャリア側当接部132にスプール側当接部134が当接して、それ以上のスプール18の引出方向への回転が規制され、予め設定した回転数だけトーションシャフト30が捩じられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたシートベルトリトラクタでは、パウルホルダのカラムの外周部に雄ネジが形成されており、このカラムの雄ねじにストッパ部材の雌ネジが螺合している。ストッパ部はスプールに対する相対回転が規制されている。このため、パウルホルダの引出方向への回転が規制された状態でスプールが引出方向に回転すると、カラムの雄ねじに雌ねじが螺合したストッパ部材がカラム(すなわち、パウルホルダ)の軸方向に移動して、パウルホルダのフランジ部の裏面に当接する。このように、ストッパ部材がフランジ部の裏面に当接することで、スプールの引出方向への回転が規制されることで、エネルギー吸収手段であるトーションバーのそれ以上の捩じり変形が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−59330号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属製のパウルホルダのカラムに雄ねじを形成するには、例えば、転造成形が用いられるが、このような成形で形成された雄ねじは、パウルホルダの中心軸線周りに、パウルホルダそのものに対して雄ねじの形成位置(雄ねじの始点位置及び終点位置)に誤差が生じる。このため、ストッパ部材がフランジ部の裏面に当接するまでに要するストッパの回転数にも誤差が生じる。このような誤差が生じないように雄ねじが成形されたパウルホルダを選別したうえでカラムの雄ねじにストッパの雌ねじを組み付けたり、又は、パウルホルダの中心軸線周りのストッパ部材の厳格な位置合わせを行なったり等、組み付け作業が煩雑になっていた。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、トーションシャフトに変形を生じさせてから変形を終了させるまでのスプールの回転数の誤差を少なく、しかも、組み付け作業が容易なウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、巻取方向に回転することでウェビングをその長手方向基端側から巻き取るスプールと、前記スプールの内側に設けられて前記スプールの軸方向一端よりも他端側にて前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに繋がるトーションシャフトと、前記スプールの軸方向一端側に設けられて前記トーションシャフトに対する相対回転が規制された状態で前記トーションシャフトに繋がるロックベースを有し、車両の急減速状態や前記スプールの前記巻取方向とは反対の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合に作動して前記ロックベースの前記引出方向への回転を規制するロック機構と、前記スプールの軸方向一端側に設けられて、前記スプールの中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに回転可能な回転体と、前記スプールの軸方向一端側において前記トーションシャフトに対する前記スプールの前記引出方向への相対回転により作動して、前記スプールの前記相対回転の速度を変速して前記回転体に伝えて前記回転体を前記引出方向に回転させる変速手段と、前記スプール及び前記回転体のうち前記変速手段の作動状態で前記引出方向の回転速度が遅い方に設けられ、前記スプールの前記相対回転が予め定められた回転数に到達した際に、前記スプール及び前記回転体のうち前記変速手段の作動状態で前記引出方向の回転速度が速い方に干渉して前記遅い方の前記引出方向への回転を規制する規制手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、車両が急減速状態になったり、引出方向へのスプールの回転加速度が所定の大きさ以上になったりするとロック機構が作動して、ロックベースの引出方向への回転を規制する。ロックベースはスプールの軸方向一端側でトーションシャフトに対する相対回転が規制された状態でトーションシャフトに繋がっている。また、トーションシャフトはスプールの軸方向一端よりも他端側にてスプールに対する相対回転が規制された状態で繋がっている。
【0008】
すなわち、ロックベースはトーションシャフトを介してスプールに対する相対回転が規制された状態でスプールに繋がっている。このため、ロックベースの引出方向への回転が規制されることでスプールの引出方向への回転が規制され、スプールからのウェビングの引出しが規制される。これにより、例えば、車両急減速時に車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体をウェビングによって効果的に拘束できる。
【0009】
また、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体はウェビングを介してスプールを引出方向に回転させようとする。スプールに付与された引出方向への回転力がトーションシャフトの機械的強度を上回ると、ロックベースを介して引出方向への回転が規制されたトーションシャフトの一端側に対して他端側が引出方向に回転し、これにより、トーションシャフトに変形が生じる。トーションシャフトの一端側に対する他端側の回転量に応じた長さだけスプールからウェビングが引き出され、このウェビングの引出量に応じた距離だけ乗員の身体は車両前方へ慣性移動できる。また、慣性移動しようとする乗員の身体がウェビングを引っ張ってスプールを引出方向に回転させようとする力の一部がトーションシャフトの変形に供されて吸収される。
【0010】
ところで、このようにトーションシャフトに変形が生じる際には、ロックベースを介して引出方向への回転が規制されたトーションシャフトの軸方向一端側に対してスプールが引出方向に回転する。このようにトーションシャフトの軸方向一端側に対するスプールの引出方向への相対回転が生じると変速手段が作動する。変速手段はトーションシャフトの軸方向一端側に対するスプールの引出方向への相対回転速度を変速してスプールの軸方向一端側に設けられた回転体に伝える。変速手段によってスプールの引出方向への回転が伝えられた回転体はスプールの中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに引出方向に回転する。
【0011】
上記のように回転体にはスプールの回転が変速手段によって変速されて伝えられるため、スプールと回転体との間には回転に速度差が生じる。このスプール及び回転体のうち回転速度が遅い方には規制手段が設けられており、トーションシャフトに対するスプールの相対回転が予め定められた回転数に到達すると、スプール及び回転体のうち回転速度が速い方に規制手段が干渉して、この回転速度が速い方の引出方向への回転を規制する。
【0012】
スプールの回転が変速手段によって回転体に伝わり、これにより、回転体が回転する構成であるため、スプール及び回転体の一方の回転が規制されることで他方の回転も規制される。すなわち、スプール及び回転体のうち回転速度が速い方の引出方向への回転が規制手段に規制されることにより、トーションシャフトに対するそれ以上のスプールの相対回転が規制され、スプールからのウェビングの引出しが規制される。
【0013】
このように、本発明に係るウェビング巻取装置では、トーションシャフトに対するスプールの相対回転が開始されてから、この相対回転が規制されるまでのトーションシャフトに対するスプールの相対回転数が変速手段の変速比で決まる。このため、この相対回転が開始される前のスプールに対する回転体の相対的な回転位置、すなわち、回転体の初期位置は規制手段によってスプールに対する回転体の相対回転が規制された状態での回転体の回転位置と変速手段の変速比とから容易に設定でき、しかも、初期位置から相対回転が規制されるまでの相対回転数の誤差が少ない。
【0014】
また、上記のように、回転体の初期位置を容易に設定できることから、回転体等を少ない誤差で容易に組み付けることができる。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、前記スプールの軸方向一端側で前記スプールの内側に前記回転体を配置している。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールの軸方向一端側でスプールの内側に回転体が配置されるため、スプールと回転体との距離を短くできる。このため、スプール及び回転体の何れに規制手段を設ける構成にしても、規制手段を大きくしなくてもスプール及び回転体のうち回転速度が速い方に干渉させることができる。
【0017】
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記スプールの軸方向一端側で前記スプールの中心軸線よりも前記スプールの回転半径方向外側にスプール側当接部を形成し、少なくとも前記トーションシャフトの軸方向一端側に対する前記スプールの前記引出方向への前記相対回転が予め定められた回転数に到達した状態で前記回転体の回転周方向に前記スプール側当接部に対向する回転体側当接部を前記回転体に形成し、前記スプール側当接部及び前記回転体側当接部の何れかを前記規制手段としている。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールの軸方向一端側にはスプール側当接部が形成される。このスプール側当接部はスプールの中心軸線よりもスプールの回転半径方向外側に形成されている。このため、スプールが回転するとスプールの中心軸線周りにスプール側当接部が回転する。
【0019】
一方、回転体には回転体側当接部が形成される。この回転体側当接部は少なくともトーションシャフトの軸方向一端側に対するスプールの引出方向への相対回転が予め定められた回転数に到達した状態で回転体の回転周方向にスプール側当接部と対向する。
【0020】
このスプール側当接部及び回転体側当接部の一方が規制手段とされ、スプール側当接部及び回転体側当接部の他方が当接することで、この他方の引出方向への回転が規制され、ひいてはスプールの引出方向への回転が規制される。
【0021】
請求項4に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の本発明において、前記スプールの内周部に形成された内歯ギヤと、前記内歯ギヤに噛み合って前記トーションシャフトに対する前記スプールの前記引出方向への相対回転により回転して前記内歯のギヤの回転を変速する伝達ギヤと、を含めて前記変速手段を構成している。
【0022】
請求項4に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールの内周部には内歯ギヤが形成される。この内歯ギヤには伝達ギヤが噛み合っており、トーションシャフトに対してスプールが引出方向に回転すると内歯ギヤの回転が伝達ギヤに伝わり、内歯ギヤの回転、すなわち、スプールの回転とは異なる速度で伝達ギヤが伝わる。これにより、スプールの回転が変速される。
【0023】
このように、本発明に係るウェビングでは、変速手段が内歯ギヤと伝達ギヤとを含むギヤ列で構成される。したがって、変速比、ギヤ列を構成するギヤの歯数に基づいて容易に設定でき、しかも、変速比のばらつき(誤差)が少ない。さらに、変速手段がギヤ列で構成されていることにより、変速手段の組み付けは、ギヤ列を構成する各ギヤの組み付けとなり、組み付け作業が容易でしかも、誤差の発生も少ない。
【0024】
なお、本発明において変速手段を構成するギヤ列は、内歯ギヤと伝達ギヤとを含めて構成されていれば、その詳細な態様に特に限定されるものではない。したがって、内歯ギヤの内側で外歯の伝達ギヤが噛み合っているだけの構成であってもよいし、伝達ギヤを遊星ギヤとした遊星ギヤ列やハイポサイクロイド減速機構等であってもよい。
【0025】
請求項5に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項4に記載の本発明において、前記内歯ギヤに噛み合う遊星ギヤと、前記トーションシャフトに形成された太陽ギヤと、を含む遊星ギヤ列により前記変速手段を構成すると共に、前記遊星ギヤを自転可能に支持すると共に、前記太陽ギヤの中心軸線に対して同軸的に相対回転可能なキャリアを前記回転体とし、前記回転体に前記規制手段を設けている。
【0026】
請求項5に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールの内周部に形成された内歯ギヤに遊星ギヤが噛み合っており、この遊星ギヤがトーションシャフトに形成された太陽ギヤに噛み合っている。すなわち、本発明に係るウェビング巻取装置では、変速手段が遊星ギヤ列によって構成される。
【0027】
上記の遊星ギヤを自転可能に支持するキャリアは回転体とされ、スプールがトーションシャフトに対して引出方向に回転すると、スプールよりも遅い速度で回転体としてのキャリアが引出方向に回転する。トーションシャフトの軸方向一端側に対するスプールの引出方向への相対回転が予め定められた回転数に到達すると回転体としてのキャリアに設けられた規制手段がスプールに干渉し、スプールの引出方向への回転を規制する。
【0028】
このように、本発明に係るウェビング巻取装置では、変速手段が遊星ギヤ列で構成される。遊星ギヤ列は内歯ギヤと太陽ギヤとが同軸的に形成されるので、スプールの中心軸線に同軸の内歯ギヤをスプールの内周部に形成し、トーションシャフトに対して同軸的にトーションシャフトの外周部に太陽ギヤを形成すればよい。これにより、実質的に必要となる部品は遊星ギヤとキャリアとなり、少ない部品点数で実現が可能である。しかも、遊星ギヤ列は少ない段数で比較的高い減速比を得ることができるので、スプールと回転体との速度差を大きくできる。
【0029】
請求項6に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項4に記載の本発明において、外周部に形成された外歯の数が前記内歯ギヤよりも少なく設定されて、前記スプールに対して偏心した状態で前記トーションシャフトに回転可能に支持された状態で前記内歯ギヤに噛み合う外歯ギヤを前記伝達ギヤとし、更に、前記外歯ギヤを前記回転体としている。
【0030】
請求項6に記載の本発明に係るウェビング巻取装置では、スプールの内周部に形成された内歯ギヤよりも歯数が少ない外歯の伝達ギヤがスプールに対して偏心した状態でトーションシャフトに回転可能に支持される。スプールが回転すると、スプールの回転が伝達ギヤに伝わり、伝達ギヤが引出方向に回転する。
【0031】
ここで、スプールが1回転すると、伝達ギヤは内歯ギヤとの歯数の差だけスプールよりも早く引出方向に回転する。トーションシャフトに対するスプールの相対回転が予め定められた回転数に到達すると、スプールに設けられた規制手段が伝達ギヤに干渉して伝達ギヤの引出方向への回転を規制する。伝達ギヤの引出方向への回転が規制されることで内歯ギヤの引出方向への回転、すなわち、スプールの引出方向への回転が規制される。
【0032】
このように伝達ギヤはスプールに設けられた規制手段に回転が規制される。すなわち、本発明に係るウェビング巻取装置では、変速手段を構成する伝達ギヤが回転体も構成している。このため、部品点数を少なくでき、構成を簡素化できる。
【発明の効果】
【0033】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置は、トーションシャフトに対するスプールの相対回転が開始されてから、この相対回転が規制されるまでの回転数を変速手段における変速比で容易に設定でき、しかも、相対回転数のばらつきを小さくできると共に、各部品の組み付け作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の全体構成を示す概略的な正面断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の変速手段の構成を示す図1のA方向側から見たスプールの側面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置における回転体とスプールとの関係を示す図1のA方向側から見たスプールの側面図である。
【図4】スプールの引出方向への相対回転が規制された状態を示す図3に対応したスプールの側面図である。
【図5】第2の実施の形態に係るウェビング巻取装置の全体構成を示す概略的な正面断面図である。
【図6】第2の実施の形態に係るウェビング巻取装置の変速手段の構成及び回転体とスプールとの関係を示す図5のA方向側から見たスプールの側面図である。
【図7】スプールの引出方向への相対回転が規制された状態を示す図6に対応したスプールの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明の各実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態を説明するうえで、説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と実質的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0036】
<第1の実施の形態の構成>
図1には第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置10の全体的な構成の概略が正面断面図により示されている。
【0037】
この図に示されるように、ウェビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は、例えば、略車両前後方向に沿って互いに対向する一対の脚板14、16を備えている。この脚板14と脚板16との間にはスプール18が設けられている。スプール18は軸方向が脚板14、16の対向方向に沿っている。
【0038】
スプール18には長尺帯状のウェビング20の長手方向基端側が係止されており、スプール18の中心軸線周りの一方である巻取方向にスプール18を回転させると、ウェビング20がその長手方向基端側からスプール18の外周部に巻取られて格納され、ウェビング20をその先端側へ引っ張ると、スプール18に巻取られているウェビング20が引出されると共に、巻取方向とは反対の引出方向にスプール18が回転する。
【0039】
一方、スプール18にはその中心軸線に沿ってトーションシャフト収容部22が形成されており、このトーションシャフト収容部22の内側にはエネルギー吸収手段としてのトーションシャフト30が配置されている。トーションシャフト30は長手方向がスプール18の軸方向に沿った棒状のトーションシャフト本体32を備えている。トーションシャフト本体32の脚板14側の端部にはスプール側連結部34が形成されている。スプール側連結部34は外周部が星型や多角形等の非円形とされている。トーションシャフト収容部22の内周形状は、このスプール側連結部34の外周形状と同一(厳密には僅かに小さな相似形状)とされており、トーションシャフト収容部22にスプール側連結部34が嵌まり込むことでスプール18に対するトーションシャフト30の相対回転が規制される。
【0040】
このスプール側連結部34にはスプール側連結部34のトーションシャフト本体32とは反対側の端面にて開口した雌ねじ孔36が形成されている。この雌ねじ孔36にはストッパ40の雄ねじ部42が螺合している。ストッパ40はストッパプレート44を備えている。ストッパプレート44は雄ねじ部42と一体に形成されており、雄ねじ部42を雌ねじ孔36に螺合させて充分に雌ねじ孔36に入り込ませると、スプール18の脚板14側の端面にストッパプレート44が当接する。これにより、トーションシャフト30の脚板16側への不用意な変位を規制している。このストッパプレート44の雄ねじ部42とは反対側の面からは軸部46が雄ねじ部42に対して同軸的に延出されている。
【0041】
また、脚板14の外側(脚板14の脚板16とは反対側)にはスプリングケース50が脚板14に取り付けられており、上記の軸部46が回転自在に支持されている。スプリングケース50の内側には渦巻きばね52が収容されており、渦巻きばね52の渦巻き方向外側端部がスプリングケース50に直接又は間接的に係止されている。この渦巻きばね52の渦巻き方向内側端部は軸部46に取り付けられた係止部54に係止されている。渦巻きばね52は軸部46が引出方向に回転すると巻き締められて軸部46を巻取方向に付勢する。
【0042】
一方、スプール18の脚板16側にはロック手段としてのロック機構60を構成するロックベース62が設けられている。ロックベース62はラチェット部64を備えている。このラチェット部64の外周部には外歯のラチェット歯66がラチェット部64の中心軸線周りに所定角度毎に形成されている。このラチェット部64の回転半径方向外側にはロックベース62と共にロック機構60を構成するロックパウル68が設けられている。
【0043】
ロックパウル68はスプール18の中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに揺動自在に脚板16等に支持されている。ロックパウル68にはラチェット歯70が形成されている。ロックパウル68のラチェット歯70がラチェット部64(ロックベース62)の外周部へ接近する向きにロックパウル68が揺動し、ロックパウル68のラチェット歯70がラチェット部64のラチェット歯66に噛み合うと、ロックパウル68によってロックベース62の引出方向への回転が規制されるようになっている。
【0044】
また、脚板16の外側(脚板16の脚板14とは反対側)で脚板16に取り付けられたハウジング72の内側には、所謂「VSIR機構」や「WSIR機構」を構成する各種部品が収容されている。車両が急減速状態になったり、スプール18の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上になったりすると、「VSIR機構」や「WSIR機構」が作動して、ロックパウル68のラチェット歯70がラチェット部64(ロックベース62)の外周部へ接近する向きにロックパウル68を揺動させる。
【0045】
一方、ラチェット部64のスプール18側の端部には嵌挿部76が形成されている。嵌挿部76は外周形状がラチェット部64に対して同軸の円板とされている。この嵌挿部76はスプール18の脚板16側の端面にて開口したロックベース嵌挿孔78に嵌挿される。ロックベース嵌挿孔78は内径寸法が嵌挿部76の外径寸法よりも僅かに大きくスプール18に対して同軸の円形とされている。嵌挿部76がロックベース嵌挿孔78に嵌挿されることでロックベース62はスプール18に同軸的に相対回転可能に支持される。
【0046】
以上の構成のロックベース62にはトーションシャフト嵌挿孔80が形成されている。このトーションシャフト嵌挿孔80にはトーションシャフト本体32を介してスプール側連結部34とは反対側に形成された上述したトーションシャフト30のロックベース側連結部82が嵌め込まれる。
【0047】
ロックベース側連結部82の外周形状は星型や多角形等の非円形とされ、トーションシャフト嵌挿孔80の内周形状はロックベース側連結部82の外周形状と同じ形状(厳密には僅かに大きな相似形状)とされ、ロックベース側連結部82がトーションシャフト嵌挿孔80に嵌め込まれることでトーションシャフト30に対するロックベース62の相対回転が規制される。
【0048】
したがって、トーションシャフト収容部22にスプール側連結部34が嵌め込まれたトーションシャフト30はスプール18に対する相対回転が規制されるので、スプール18に対するロックベース62の相対回転が規制される。これにより、ロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62のラチェット部64に形成されたラチェット歯66に噛み合い、ロックベース62の引出方向への回転が規制されると、スプール18の引出方向への回転が規制されることになる。
【0049】
一方、スプール18には遊星ギヤ列収容孔90が形成されている。遊星ギヤ列収容孔90は大径孔92を備えている。大径孔92は内径寸法がロックベース嵌挿孔78よりも小さくトーションシャフト収容部22の最大内径寸法よりも大きな円形とされている。大径孔92はスプール18に同軸的に形成されており、ロックベース嵌挿孔78の底面にて開口している。また、遊星ギヤ列収容孔90は内歯ギヤとしてのギヤ孔94を備えている。
【0050】
図2に示されるように、ギヤ孔94の歯元円の内径寸法はロックベース嵌挿孔78の内径寸法よりも小さくトーションシャフト収容部22の最大内径寸法よりも大きく設定されている。このギヤ孔94の歯元円はスプール18に対して同軸的に形成されており、その内周面には一定間隔毎に内歯が形成されていると共に、底面ではトーションシャフト収容部22が開口している。
【0051】
図1に示されるように、このギヤ孔94の半径方向内側ではトーションシャフト30に太陽ギヤ96が形成されている。図2に示されるように、太陽ギヤ96はトーションシャフト本体32、ひいてはスプール18に対して同軸的な外歯のギヤとされている。図1に示されるように、太陽ギヤ96とロックベース側連結部82との間はキャリア支持部98とされている。キャリア支持部98はロックベース側連結部82よりも小径で太陽ギヤ96よりも大径の円柱形状とされ、トーションシャフト本体32、ひいてはスプール18に対して同軸的に形成されている。
【0052】
このキャリア支持部98には大径孔92内に設けられた回転体としてのキャリア112がキャリア支持部98周りに回転自在に支持されている。図3に示されるように、キャリア112はキャリア支持部98に対して同軸的な円板状に形成されており、キャリア112の脚板14側の面には複数(本実施の形態では3本)の支持シャフト114が形成されている。
【0053】
これらの支持シャフト114は中心がキャリア112の中心と同じ1つの同心円周上に一定間隔毎(本実施の形態では120度毎)に形成されている。これらの支持シャフト114は軸方向がスプール18の中心軸線と同じ向きとされ、各々に伝達ギヤとしての遊星ギヤ122が回転自在に支持されている。遊星ギヤ122は外歯のギヤとされ、太陽ギヤ96とギヤ孔94の双方に噛み合っている。すなわち、本実施の形態では、これらのギヤ孔94、太陽ギヤ96、キャリア112、及び遊星ギヤ列130で構成された減速ギヤ列の一態様である遊星ギヤ列130が変速手段を構成している。
【0054】
一方、図2及び図3に示されるように、上記のキャリア112の外周部からは回転体側当接部及び規制手段としての板状のキャリア側当接部132がキャリア112の半径方向外側へ向けて突出形成されている。このキャリア側当接部132に対応して大径孔92の内周一部からは大径孔92の半径方向内側へ向けてスプール側当接部134が形成されている。このスプール側当接部134はスプール18の中心軸線周りに(すなわち、スプール18の回転周方向)にキャリア側当接部132と対向しており、スプール18がキャリア112に対して所定角度相対回転するとキャリア側当接部132とスプール側当接部134とが当接するようになっている。
【0055】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0056】
車両が急減速状態になり上記の「VSIR機構」が作動すると、ロックパウル68が揺動させられ、これにより、ロックパウル68のラチェット歯70がラチェット部64のラチェット歯66へ接近して、図1において実線で示されるように、ロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62を構成するラチェット部64のラチェット歯66に噛み合う。
【0057】
また、車両が減速することで乗員の身体が車両前方側へ慣性移動すると、乗員の身体にウェビング20が引っ張られ、これにより、スプール18が引出方向に回転する。このスプール18の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上になると、上記「WSIR機構」が作動する。「WSIR機構」が作動すると、ロックパウル68が揺動させられ、これにより、ロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62を構成するラチェット部64のラチェット歯66へ接近して、ロックパウル68のラチェット歯70がラチェット部64のラチェット歯66に噛み合う。
【0058】
このように、ロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62を構成するラチェット部64のラチェット歯66に噛み合うことでロックベース62の引出方向への回転が規制される。ロックベース62はトーションシャフト30を介してスプール18に相対回転が規制された状態で連結されているため、ロックベース62の引出方向への回転が規制されることでスプール18の引出方向への回転が規制される。これにより、スプール18からのウェビング20の引出しが規制されるので、ウェビング20によって乗員の身体を効果的に拘束でき、車両前方への乗員の身体の慣性移動を効果的に抑制できる。
【0059】
このようにスプール18の引出方向への回転が規制された状態で、車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体が所定の大きさ以上の力でウェビング20を引っ張ると、この引っ張り力に応じた引出方向への回転力がスプール18に付与される。このようにしてスプール18に付与された引出方向への回転力が、トーションシャフト30におけるトーションシャフト本体32の機械的強度を上回っていると、トーションシャフト本体32のロックベース側連結部82側に対してスプール側連結部34側が引出方向に相対回転するような捩れ(変形)がトーションシャフト本体32に生ずる。
【0060】
このトーションシャフト本体32の捩じりにより許容されたロックベース側連結部82に対するスプール側連結部34の引出方向への相対回転量だけスプール18は引出方向に回転し、このスプール18の引出方向への回転量に相当する長さのウェビング20がスプール18から引出される。このように、スプール18から引出されたウェビング20の長さ分だけ乗員の身体は車両前方側へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウェビング20を引っ張る力の一部が、トーションシャフト本体32の捩じり変形に供されて吸収される。
【0061】
ところで、ロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62を構成するラチェット部64のラチェット歯66に噛み合った状態では、スプール18が引出方向に回転してもロックベース側連結部82に引出方向への回転が生じない。このため、ロックベース側連結部82の近傍に形成されている太陽ギヤ96でも引出方向への回転が生じないか、又は、太陽ギヤ96における引出方向への回転が少ない。このため、上記のようにトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じる際には太陽ギヤ96に対してスプール18のギヤ孔94が引出方向に相対回転する。
【0062】
太陽ギヤ96とギヤ孔94との間には遊星ギヤ122が介在しているため、太陽ギヤ96に対してギヤ孔94が引出方向に相対回転すると、ギヤ孔94の回転が減速されてキャリア112に伝わり、キャリア支持部98周りにキャリア112が引出方向に回転する。スプール18及びキャリア112は何れも引出方向に回転するが、キャリア112の引出方向への回転速度は太陽ギヤ96に対する太陽ギヤ96(すなわち、スプール18)の引出方向への相対回転速度よりも遅い。
【0063】
このため、スプール18及びキャリア112の双方が引出方向に回転すると、スプール18に形成されたスプール側当接部134が引出方向へ向けてキャリア112に形成されたキャリア側当接部132に接近する。さらに、スプール18が所定の回転数だけ太陽ギヤ96に対して引出方向に相対回転すると、図4に示されるように、スプール側当接部134がキャリア側当接部132に当接してキャリア側当接部132が引出方向側からスプール側当接部134に干渉する。
【0064】
太陽ギヤ96に対するスプール18の引出方向への相対回転が減速されてキャリア112に伝わる構成であるため、キャリア112のキャリア側当接部132がスプール18のスプール側当接部134に干渉していることでそれ以上スプール側当接部134が引出方向に回転することはできず、ひいては、太陽ギヤ96に対してスプール18が引出方向へ相対回転できない。これにより、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32における捩じり変形を終了させることができる。
【0065】
ここで、太陽ギヤ96の歯数をSn、ギヤ孔94の歯数をRnとすると、太陽ギヤ96に対するスプール18の引出方向への相対回転速度とキャリア112の回転速度との減速比Nは次の式(1)で示される。
【0066】
N=Rn/(Sn+Rn)・・・(1)
したがって、太陽ギヤ96に対するスプール18の引出方向への相対回転が開始されてから終了までの回転数をMに設定したい場合には、キャリア側当接部132が引出方向側からスプール側当接部134に当接した状態から次の式(2)で示される回転数Qだけキャリア112が巻取方向へ回転した位置をキャリア112の初期位置とすればよい。
【0067】
Q=M・Rn/(Sn+Rn)・・・(2)
このように、太陽ギヤ96に対するスプール18の引出方向への相対回転が開始されてから終了までのスプール18の相対回転数を容易に設定できる。しかも、上記の減速比は太陽ギヤ96及びギヤ孔94の歯数で決まるので、スプール18の相対回転が開始されてから終了までの回転数のばらつきをなくし、又は、このようなばらつきを小さくできる。
【0068】
しかも、このような遊星ギヤ列130の組み付けは、キャリア112の各支持シャフト114に遊星ギヤ122を組み付けて、遊星ギヤ122の外歯を太陽ギヤ96の外歯及びギヤ孔94の内歯の双方へ噛み合せればよい。このように、遊星ギヤ列130そのものの組み付け作業は容易であり、しかも、組み付け作業において上記のスプール18の相対回転が開始されてから終了までの回転数のばらつきが生じないか、ばらつきの発生が少ない。
【0069】
また、遊星ギヤ列130はスプール18の内側に設けられているので、キャリア側当接部132及びスプール側当接部134を大きくしなくてもスプール18の周方向に互いに対向させることができ、しかも、遊星ギヤ列130が作動しても遊星ギヤ列130の構成部品やキャリア側当接部132、スプール側当接部134等がスプール18の軸方向に移動することがないので、スプール18、ひいては、ウェビング巻取装置10を全体的にコンパクトにできる。
【0070】
さらに、本ウェビング巻取装置10では、減速手段としての変速手段に遊星ギヤ列130を用いているため、少ない段数で大きな減速比を得ることができる。このため、ギヤ孔94とキャリア112との間に介在する減速手段を少なくでき、結果的に構成を簡素化でき、変速手段をコンパクトに纏めることができる。
【0071】
<第2の実施の形態の構成>
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0072】
図5には第2の実施の形態に係るウェビング巻取装置170の全体的な構成の概略が正面断面図により示されている。
【0073】
この図に示されるように、ウェビング巻取装置170はトーションシャフト30に代わるトーションシャフト172を備えている。トーションシャフト172は太陽ギヤ96に代わるギヤ支持部174を備えている。ギヤ支持部174は前記第1の実施の形態における太陽ギヤ96と同様にギヤ孔94の半径方向内側に形成されている。
【0074】
図6に示されるように、ギヤ支持部174の外周形状は円形であるが、その中心軸線はトーションシャフト本体32の中心軸線、ひいては、スプール18の中心軸線に対して偏心している。このギヤ支持部174には伝達ギヤ及び回転体としての外歯ギヤ182が回転自在に支持されている。外歯ギヤ182はギヤ孔94よりも歯数が少ない外歯のギヤとされており、トーションシャフト本体32の中心軸線に対するギヤ支持部174の中心軸線の偏心側で外歯ギヤ182がギヤ孔94に噛み合っている。
【0075】
この外歯ギヤ182の脚板16側には回転体側当接部としてのギヤ側当接部184が形成されている。図6に示されるように、ギヤ側当接部184は大径孔92の内側で外歯ギヤ182の歯先よりも更に外歯ギヤ182の回転半径方向外方へ延出されている。
【0076】
この外歯ギヤ182に対応して大径孔92の内周一部からは大径孔92の半径方向内側へ向けて規制手段としてのスプール側当接部186が形成されている。このスプール側当接部186は前記第1の実施の形態におけるスプール側当接部134と同じ構成であるが、スプール側当接部134とは異なりスプール側当接部186は規制手段の一態様であるため、敢えて別の符号を付与して説明した。すなわち、本実施の形態では、ギヤ孔94と外歯ギヤ182とで構成される増速ギヤ列190が変速手段とされている。
【0077】
<第2の実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0078】
本ウェビング巻取装置170においてロックパウル68のラチェット歯70がロックベース62を構成するラチェット部64のラチェット歯66に噛み合った状態では、スプール18が引出方向に回転してもロックベース側連結部82の近傍に形成されているギヤ支持部174の引出方向への回転は生じないか、又は、ギヤ支持部174における引出方向への回転が少ない。このため、上記のようにトーションシャフト本体32に捩じり変形が生じる際にはギヤ支持部174に対してスプール18のギヤ孔94が引出方向に相対回転する。
【0079】
このようにスプール18が引出方向に回転すると、ギヤ孔94に噛み合う外歯ギヤ182が引出方向に回転する。スプール18及び外歯ギヤ182は何れも引出方向に回転するが、外歯ギヤ182の歯数がギヤ孔94の歯数よりも少ないため、外歯ギヤ182はスプール18よりも早く引出方向に回転する。
【0080】
スプール18及び外歯ギヤ182の双方が引出方向に回転すると、外歯ギヤ182に形成されたギヤ側当接部184が引出方向へ向けてスプール18に形成されたスプール側当接部186に接近する。さらに、スプール18が所定の回転数だけギヤ支持部174に対して引出方向に相対回転すると、図7に示されるように、ギヤ側当接部184がスプール側当接部186に当接してスプール側当接部186が引出方向側からギヤ側当接部184に干渉する。
【0081】
ギヤ支持部174に対するスプール18の引出方向への相対回転が増速されて外歯ギヤ182に外歯ギヤ182に伝わる構成であるため、スプール18のスプール側当接部186が外歯ギヤ182のギヤ側当接部184に干渉していることでそれ以上ギヤ側当接部184が引出方向に回転することはできず、ギヤ側当接部184を有する外歯ギヤ182に噛み合うギヤ孔94、すなわち、スプール18が引出方向へ相対回転できない。これにより、トーションシャフト30のトーションシャフト本体32における捩じり変形を終了させることができる。
【0082】
ここで、ギヤ孔94の歯数をRnとすると、外歯ギヤ182の歯数をGnとすると、ギヤ支持部174に対するスプール18の相対回転速度に対する外歯ギヤ182の引出方向への回転速度の増速比Nは以下の式(3)で示される。
【0083】
N=Rn/Gn・・・(3)
したがって、ギヤ支持部174に対するスプール18の引出方向への相対回転が開始されてから終了までの回転数をMに設定したい場合には、スプール側当接部186が引出方向側からギヤ側当接部184に当接した状態から次の式(4)で示される回転数Qだけ外歯ギヤ182が巻取方向へ回転した位置を外歯ギヤ182の初期位置とすればよい。
【0084】
Q=M・Rn/Gn・・・(4)
このため、ギヤ支持部174に対するスプール18の引出方向への相対回転が開始されてから終了までのスプール18の相対回転数を容易に設定できる。しかも、上記の増速比は外歯ギヤ182及びギヤ孔94の歯数で決まるので、スプール18の相対回転が開始されてから終了までの回転数のばらつきをなくし、又は、このようなばらつきを小さくできる。
【0085】
しかも、このような増速ギヤ列190の組み付けは、外歯ギヤ182をトーションシャフト172に設定されたギヤ支持部174に組み付けて、外歯ギヤ182をギヤ孔94の内歯へ噛み合せればよい。このように、増速ギヤ列190そのものの組み付け作業は容易であり、しかも、組み付け作業において上記のスプール18の相対回転が開始されてから終了までの回転数のばらつきが生じないか、ばらつきの発生が少ない。
【0086】
また、増速ギヤ列190はスプール18の内側に設けられているので、ギヤ側当接部184及びスプール側当接部186を大きくしなくてもスプール18の周方向に互いに対向させることができ、しかも、増速ギヤ列190が作動しても増速ギヤ列190の構成部品やギヤ側当接部184、スプール側当接部186等がスプール18の軸方向に移動することがないので、スプール18、ひいては、ウェビング巻取装置170を全体的にコンパクトにできる。
【0087】
さらに、本ウェビング巻取装置170では、増速手段としての変速手段に増速ギヤ列190を用いているため、実質的に別途必要となる部品は外歯ギヤ182だけでよく、少ない部品点数で実現できる。
【0088】
なお、上記の各実施の形態では、ロックベース62に形成された外歯のラチェット歯66に対し、脚板16等に支持されたロックパウル68のラチェット歯70が噛み合うことにより引出方向へのロックベース62の回転が規制される構成であった。しかしながら、ロック手段がこのような構成に限定されるものではなく、車両が急減速状態になったり、スプール18の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上になったりすることでロック手段を構成するロックベースの引出方向への回転を規制する構成であればよい。したがって、例えば、ロックベースの回転半径方向に変位可能なロックパウルをロックベースに設け、脚板16に形成された内歯のラチェットホイールにロックパウルが噛み合うことでロックベースの引出方向への回転が規制される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 ウェビング巻取装置
18 スプール
20 ウェビング
30 トーションシャフト
60 ロック機構(ロック手段)
62 ロックベース
94 ギヤ孔(内歯ギヤ)
96 太陽ギヤ
112 キャリア(回転体)
122 遊星ギヤ(伝達ギヤ)
130 遊星ギヤ列(変速手段)
132 キャリア側当接部(回転体側当接部、規制手段)
134 スプール側当接部
170 ウェビング巻取装置
172 トーションシャフト
182 外歯ギヤ(伝達ギヤ、回転体)
184 ギヤ側当接部(回転体側当接部)
186 スプール側当接部(規制手段)
190 増速ギヤ列(変速手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取方向に回転することでウェビングをその長手方向基端側から巻き取るスプールと、
前記スプールの内側に設けられて前記スプールの軸方向一端よりも他端側にて前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに繋がるトーションシャフトと、
前記スプールの軸方向一端側に設けられて前記トーションシャフトに対する相対回転が規制された状態で前記トーションシャフトに繋がるロックベースを有し、車両の急減速状態や前記スプールの前記巻取方向とは反対の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合に作動して前記ロックベースの前記引出方向への回転を規制するロック機構と、
前記スプールの軸方向一端側に設けられて、前記スプールの中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに回転可能な回転体と、
前記スプールの軸方向一端側において前記トーションシャフトに対する前記スプールの前記引出方向への相対回転により作動して、前記スプールの前記相対回転の速度を変速して前記回転体に伝えて前記回転体を前記引出方向に回転させる変速手段と、
前記スプール及び前記回転体のうち前記変速手段の作動状態で前記引出方向の回転速度が遅い方に設けられ、前記スプールの前記相対回転が予め定められた回転数に到達した際に、前記スプール及び前記回転体のうち前記変速手段の作動状態で前記引出方向の回転速度が速い方に干渉して前記遅い方の前記引出方向への回転を規制する規制手段と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記スプールの軸方向一端側で前記スプールの内側に前記回転体を配置した請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記スプールの軸方向一端側で前記スプールの中心軸線よりも前記スプールの回転半径方向外側にスプール側当接部を形成し、少なくとも前記トーションシャフトの軸方向一端側に対する前記スプールの前記引出方向への前記相対回転が予め定められた回転数に到達した状態で前記回転体の回転周方向に前記スプール側当接部に対向する回転体側当接部を前記回転体に形成し、前記スプール側当接部及び前記回転体側当接部の何れかを前記規制手段とした請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記スプールの内周部に形成された内歯ギヤと、
前記内歯ギヤに噛み合って前記トーションシャフトに対する前記スプールの前記引出方向への相対回転により回転して前記内歯のギヤの回転を変速する伝達ギヤと、
を含めて前記変速手段を構成した請求項1から請求項3の何れか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項5】
前記内歯ギヤに噛み合う遊星ギヤと、
前記トーションシャフトに形成された太陽ギヤと、
を含む遊星ギヤ列により前記変速手段を構成すると共に、
前記遊星ギヤを自転可能に支持すると共に、前記太陽ギヤの中心軸線に対して同軸的に相対回転可能なキャリアを前記回転体とし、前記回転体に前記規制手段を設けた請求項4に記載のウェビング巻取装置。
【請求項6】
外周部に形成された外歯の数が前記内歯ギヤよりも少なく設定されて、前記スプールに対して偏心した状態で前記トーションシャフトに回転可能に支持された状態で前記内歯ギヤに噛み合う外歯ギヤを前記伝達ギヤとし、更に、前記外歯ギヤを前記回転体とした請求項4に記載のウェビング巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−43522(P2013−43522A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181794(P2011−181794)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】