説明

ウェビング巻取装置

【課題】エネルギー吸収手段の変形を規制するための構成を高い精度で容易に位置決めでき、エネルギー吸収手段におけるエネルギーの吸収量を一定にできるウェビング巻取装置を得る。
【解決手段】ロックベース112に対してスプール18が一定の回転数だけ引出方向に相対回転すると、この回転数に対応した雌ねじピース72の雌ねじ78のピッチだけ雌ねじピース72に対してスライダ72がスライドし、クラッチ片98を嵌挿部122とリング本体64との間に入り込ませ、クラッチ片98によってスプール18とロックベース112を一体的に連結する。このように、雌ねじピース72及びスライダ80が、スプール18とロックベース112を一体的に連結するクラッチ90とは別体で構成され、しかも、雌ねじピース72及びスライダ80が合成樹脂材を成形することで形成されるので、雌ねじピース72とスライダ80とを高い精度で容易に組み立てることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたシートベルトリトラクタでは、パウルホルダのカラムの外周部に雄ネジが形成されており、このカラムの雄ねじにストッパ部材の雌ネジが螺合している。ストッパ部はスプールに対する相対回転が規制されている。このため、パウルホルダの引出方向への回転が規制された状態でスプールが引出方向に回転すると、カラムの雄ねじに雌ねじが螺合したストッパ部材がカラム(すなわち、パウルホルダ)の軸方向に移動して、パウルホルダのフランジ部の裏面に当接する。このように、ストッパ部材がフランジ部の裏面に当接することで、スプールの引出方向への回転が規制されることで、エネルギー吸収手段であるトーションバーのそれ以上の捩じり変形が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−59330号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属製のパウルホルダのカラムに雄ねじを形成するには、例えば、転造成形が用いられるが、このような成形で形成された雄ねじは、パウルホルダの中心軸線周りに、パウルホルダそのものに対して雄ねじの形成位置(雄ねじの始点位置及び終点位置)に誤差が生じる。このため、ストッパ部材はフランジ部の裏面に当接するまでに要するストッパの回転数にも誤差が生じないように、高い精度で且つ容易な位置決めが求められていた。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、エネルギー吸収手段の変形を規制するための構成を高い精度で容易に位置決めでき、エネルギー吸収手段におけるエネルギーの吸収量を一定にできるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、ウェビングの長手方向基端側が係止されて、巻取方向に回転することで前記ウェビングを巻取るスプールと、一端よりも他端側で前記スプールに対して相対回転が規制された状態で前記スプールに連結され、前記一端に対して前記他端側に所定の大きさ以上の回転力が付与されることで変形するエネルギー吸収手段と、前記エネルギー吸収手段の一端側で前記エネルギー吸収手段に対して相対回転が規制された状態で前記エネルギー吸収手段に連結された回転体を含めて構成され、作動することで前記巻取方向とは反対の引出方向への前記回転体の回転を規制するロック手段と、作動することで前記エネルギー吸収手段とは別に前記回転体に対する前記スプールの前記引出方向への相対回転を規制する規制手段と、前記規制手段とは別体で構成されて、前記回転体に対する前記スプールの前記引出方向への相対回転に連動し、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向へ所定数相対回転することで前記規制手段を作動させるトリガ手段と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置によれば、エネルギー吸収手段の一端よりも他端側でエネルギー吸収手段はスプールに対する相対回転が規制された状態でスプールに連結されている。このエネルギー吸収手段の一端側はロック手段を構成する回転体に対する相対回転が規制された状態で回転体に連結されている。したがって、スプールが回転するとロック手段の回転体がスプールと共に回転する。
【0008】
例えば、車両が急減速したり、引出方向へのスプールの回転加速度が所定の大きさになったりすることによりロック手段が作動すると、ロック手段を構成する回転体の引出方向への回転が規制される。このように、回転体の引出方向への回転が規制されることにより、スプールの引出方向への回転が規制され、スプールからのウェビングの引出しが規制される。これにより、車両が急減速することによる車両前方への乗員の慣性移動を規制できる。
【0009】
この状態で、スプールに付与される引出方向への回転力が所定の大きさ以上になり、これによりエネルギー吸収手段のスプールとの連結部分(エネルギー吸収手段の一端よりも他端側)がエネルギー吸収手段の回転体との連結部分(エネルギー吸収手段の一端側)に対して引出方向に相対回転すると、エネルギー吸収手段に変形(例えば、捩じり変形)が生じる。このエネルギー吸収手段の回転体との連結部分に対するスプールとの連結部分の相対回転数だけスプールは引出方向に回転し、スプールからのウェビングの引き出しが許容されると共に、乗員の身体がウェビングを引っ張る力の少なくとも一部が、エネルギー吸収手段の変形に供されて吸収される。
【0010】
また、このように引出方向への回転が規制された回転体に対してスプールが引出方向に回転すると、この相対回転に連動してトリガ手段が作動する。回転体に対してスプールが引出方向へ所定数(所定角度)相対回転すると、トリガ手段は、このトリガ手段とは別体で構成された規制手段を作動させる。
【0011】
規制手段は作動すると上述したエネルギー吸収手段とは別に回転体に対するスプールの引出方向への相対回転を規制する。このように、規制手段によって回転体に対するスプールの引出方向への相対回転が規制されることにより、エネルギー吸収手段のそれ以上の変形が規制される。
【0012】
ここで、本発明に係るウェビング巻取装置では、トリガ手段と規制手段とが別体で構成される。このため、トリガ手段は回転体に対するスプールの引出方向への相対回転を規制できるような機械的強度は必要ない。したがって、トリガ手段が作動を開始してから(すなわち、回転体に対するスプールの引出方向への相対回転が生じてから)規制手段を作動させるまでに要する回転体に対するスプールの引出方向への相対回転数(相対回転角度)の精度を高めることができる。これにより、エネルギー吸収手段によるエネルギーの吸収量を一定にすることができる。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに装着されると共に、前記スプールに対して同軸的に雌ねじが形成された雌ねじ部と、合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記回転体に対する相対回転が規制された状態で前記回転体の軸方向に前記回転体に対して相対的にスライド可能に前記回転体に連結されると共に、前記雌ねじ部の前記雌ねじに螺合する雄ねじが形成されて、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向に相対回転することで所定の方向へ前記回転体に対してスライドし、前記所定の方向へ所定量スライドすることで前記規制手段を作動させるスライダと、を含めて前記トリガ手段を構成している。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置によれば、ロック手段の作動状態でエネルギー吸収手段のスプールとの連結部分が回転体との連結部分に対して引出方向に相対回転すると、スプールに装着されたトリガ手段の雌ねじ部がスプールと共に引出方向に回転する。この雌ねじ部の雌ねじにはスライダの雄ねじが螺合している。
【0015】
スライダは回転体に対して相対回転が規制されているものの、回転体の軸方向にスライド可能に回転体に連結されている。このため、回転体に対するスプールの相対的な引出方向への回転が生じると、スライダに対して雌ねじ部が相対的に引出方向に回転する。このため、雌ねじ部の雌ねじに雄ねじが螺合しているスライダは回転体の軸方向に沿った所定の向きにスライドする。このようにしてスライダが所定量(所定ストローク)スライドすると、規制手段が作動して、回転体に対するスプールの相対的な引出方向への回転を規制する。
【0016】
ここで、本発明に係るウェビング巻取装置では、トリガ手段を構成する雌ねじ部が合成樹脂材を成形することで形成される。このため、雌ねじ部をスプールに装着した際のスプールに対する雌ねじ部の位置精度を容易に高くできる。また、トリガ手段を構成するスライダが合成樹脂材を成形することで形成される。このため、回転体にスライダを連結した際の、回転体の中心軸線周りの回転体に対するスライダの雄ねじの位置精度を容易に高くできる。
【0017】
これにより、回転体に対するスプールの引出方向への相対回転が生じてから規制手段を作動させるまでに要する回転体に対するスプールの引出方向への相対回転数(相対回転角度)の精度を高めることができ、エネルギー吸収手段によるエネルギーの吸収量を一定にできる。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記回転体の軸方向に沿った前記回転体に対する相対移動及び前記回転体に対する相対回転が規制された状態で前記回転体に連結されると共に、前記回転体の中心軸線に対して同軸的な外周部に雄ねじが形成された雄ねじ部と、合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールの軸方向に前記スプールに対して相対的にスライド可能に前記スプールに装着されると共に、前記雄ねじ部の前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成されて、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向に相対回転することで所定の方向へ前記回転体に対してスライドし、前記所定の方向へ所定量スライドすることで前記規制手段を作動させるスライダと、を含めて前記トリガ手段を構成している。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置によれば、ロック手段の作動状態でエネルギー吸収手段のスプールとの連結部分が回転体との連結部分に対して引出方向に相対回転すると、スプールに装着されたトリガ手段のスライダがスプールと共に引出方向に回転する。このスライダには雌ねじが形成されており、この雌ねじにはスライダと共にトリガ手段を構成する雄ねじ部の雄ねじ螺合している。
【0020】
スライダはスプールに対して相対回転が規制されているものの、スプールの軸方向にスライド可能にスプールに装着されている。このため、回転体に対するスプールの相対的な引出方向への回転が生じると、雄ねじ部に対してスライダが引出方向に回転する。このため、雄ねじ部の雄ねじに雌ねじが螺合しているスライダはスプールの軸方向に沿った所定の向きにスライドする。このようにしてスライダが所定量(所定ストローク)スライドすると、規制手段が作動して、回転体に対するスプールの相対的な引出方向への回転を規制する。
【0021】
ここで、本発明に係るウェビング巻取装置では、トリガ手段を構成するスライダが合成樹脂材を成形することで形成される。このため、スライダをスプールに装着した際のスプールに対するスライダの位置精度を容易に高くできる。また、トリガ手段を構成する雄ねじ部が合成樹脂材を成形することで形成される。このため、回転体に雄ねじ部を連結した際の、回転体の中心軸線周りの回転体に対する雄ねじ部の位置精度を容易に高くできる。
【0022】
これにより、回転体に対するスプールの引出方向への相対回転が生じてから規制手段を作動させるまでに要する回転体に対するスプールの引出方向への相対回転数(相対回転角度)の精度を高めることができ、エネルギー吸収手段によるエネルギーの吸収量を一定にできる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置は、エネルギー吸収手段の変形を規制するための構成を高い精度で容易に位置決めでき、エネルギー吸収手段におけるエネルギーの吸収量を一定にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の構成を概略的に示す正面断面図である。
【図2】トリガ手段が作動した状態を示す概略的な正面断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図4】スプールの軸方向一端側からの側面図である。
【図5】回転体の軸方向一端側からの側面図である。
【図6】回転体と規制手段とスプールとを示すスプールの一端側からの側面断面図である。
【図7】規制手段による回転体に対するスプールの回転規制状態を示す図6に対応した断面図である。
【図8】第2の実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の構成を概略的に示す図3に対応した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の構成に関しては同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0026】
<第1の実施の形態の構成>
図1には、第1の実施の形態に係るウェビング巻取装置10の全体的な構成の概略が正面断面図により示されている。
【0027】
この図に示されるように、ウェビング巻取装置10はフレーム12を備えている。フレーム12は、例えば、略車両前後方向に沿って互いに対向する一対の脚板14、16を備えている。この脚板14と脚板16との間にはスプール18が設けられている。スプール18は軸方向が脚板14、16の対向方向に沿っている。
【0028】
スプール18には長尺帯状のウェビング20の長手方向基端側が係止されており、スプール18の中心軸線周りの一方である巻取方向にスプール18を回転させると、ウェビング20がその長手方向基端側からスプール18の外周部に巻き取られて格納され、ウェビング20をその先端側へ引っ張ると、スプール18に巻き取られているウェビング20が引き出されると共に、巻取方向とは反対の引出方向にスプール18が回転する。
【0029】
一方、スプール18にはその中心軸線に沿ってトーションシャフト収容部22が形成されており、このトーションシャフト収容部22の内側にはエネルギー吸収手段としてのトーションシャフト30が配置されている。トーションシャフト30は長手方向がスプール18の軸方向に沿った棒状のトーションシャフト本体32を備えている。トーションシャフト本体32の脚板14側の端部にはスプール側連結部34が形成されている。スプール側連結部34は外周部が星型や多角形等の非円形とされている。トーションシャフト収容部22の内周形状は、このスプール側連結部34の外周形状と同一(厳密には僅かに小さな相似形状)とされており、トーションシャフト収容部22にスプール側連結部34が嵌まり込むことでスプール18に対するトーションシャフト30の相対回転が規制される。
【0030】
このスプール側連結部34にはスプール側連結部34のトーションシャフト本体32とは反対側の端面にて開口した雌ねじ孔36が形成されている。この雌ねじ孔36にはストッパ40の雄ねじ部42が螺合している。ストッパ40はストッパプレート44を備えている。ストッパプレート44は雄ねじ部42と一体に形成されており、雄ねじ部42を雌ねじ孔36に螺合させて充分に雌ねじ孔36に入り込ませると、スプール18の脚板14側の端面にストッパプレート44が当接する。これにより、トーションシャフト30の脚板16側への不用意な変位を規制している。このストッパプレート44の雄ねじ部42とは反対側の面からは軸部46が雄ねじ部42に対して同軸的に延出されている。
【0031】
また、脚板14の外側(脚板14の脚板16とは反対側)にはスプリングケース50が脚板14に取り付けられており、上記の軸部46が回転自在に支持されている。スプリングケース50の内側には渦巻きばね52が収容されており、渦巻きばね52の渦巻き方向外側端部がスプリングケース50に直接又は間接的に係止されている。この渦巻きばね52の渦巻き方向内側端部は軸部46に取り付けられた係止部54に係止されている。渦巻きばね52は軸部46が引出方向に回転すると巻き締められて軸部46を巻取方向に付勢する。
【0032】
一方、スプール18にはクラッチリング装着孔60が形成されている。図3に示されるように、クラッチリング装着孔60はスプール18の脚板16側の端面にて開口した有底の孔で、スプール18よりも硬質の材料により形成されたクラッチリング62が装着される。図3に示されるように、クラッチリング62は円環状のリング本体64の外周部から複数の突出部66がリング本体64の中心周りに所定角度毎に突出した略外歯歯車状に形成されている。クラッチリング装着孔60の内周形状は突出部66の外周形状と同じ形状(厳密には僅かに大きな相似形状)とされ、クラッチリング装着孔60に装着された突出部66はスプール18に対する相対回転が規制される。
【0033】
また、図3に示されるように、クラッチリング装着孔60よりもスプール18の脚板14側ではスプール18にピース装着孔70が形成されている。ピース装着孔70は脚板16側の端部がクラッチリング装着孔60の底面にて開口した有底の孔で、ピース装着孔70の底面にて上述したトーションシャフト収容部22の脚板16側の端部が開口している。このピース装着孔70にはトリガ手段を構成する雌ねじ部としての雌ねじピース72が装着される。
【0034】
雌ねじピース72はその全体が合成樹脂材を成形することで形成されている。図3に示されるように、この雌ねじピース72は円環状の本体74を備えている。この本体74の外周部から複数の突出部76が本体74の中心周りに所定角度毎に突出形成されている。ピース装着孔70の内周形状は突出部76の外周形状と同じ形状(厳密には僅かに大きな相似形状)とされ、ピース装着孔70に装着された突出部76はスプール18に対する相対回転が規制される。
【0035】
また、雌ねじピース72の本体74の内周部には雌ねじ78が形成されている。この雌ねじ78に対応して全体が合成樹脂材を成形することで形成されたスライダ80が設けられている。スライダ80は本体82を備えている。本体82は円形の外周面に雄ねじ84が形成されている。本ウェビング巻取装置10では、初期状態でピース装着孔70の底面に雌ねじピース72が当接しており、更に、このピース装着孔70の底面に雄ねじ84の軸方向端面が当接するまで雄ねじ84が雌ねじ78に螺合させられている。
【0036】
図3及び図4に示されるように、この本体82におけるピース装着孔70の底面とは反対側の端部には円板状のクラッチ装着部86が本体82に対して同軸的に形成されており、図4に示されるように、規制手段としてのクラッチ90が装着されている。図3及び図4に示されるように、全体的に金属によって形成されたクラッチ90は円環状のリング部92を備えている。
【0037】
図4に示されるように、リング部92の内周部には複数の突起94がリング部92の中心軸線周りに所定角度毎に形成されている。これらの突起94はリング部92の半径方向内側へ向けて突出形成されている。クラッチ90はこれらの突起94の先端がクラッチ装着部86の外周部に摺接しており、これにより、リング部92の内周部の全域がクラッチ装着部86の外周部に摺接する構成に比べて、クラッチ装着部86の外周部に対する摺接面積を少なくできる。
【0038】
リング部92の外周部は複数の脚片96がリング部92の中心軸線周りに所定角度毎に形成されている。これらの脚片96は、リング部92の半径方向外方へ突出してから、中間部にてリング部92の外周方向に沿って引出方向に延び、更に、その先端側は再度リング部92の半径方向外方へ屈曲されてから、リング部92の中心軸線に沿ってクラッチ装着部86とは反対側へ屈曲されている。この脚片96の先端には厚さ方向がリング部92の半径方向に沿った矩形板状のクラッチ片98が形成されている。
【0039】
一方、図3に示されるように、クラッチ装着部86の本体82とは反対側の端部にはロックベース係合部100が形成されている。また、スライダ80にはその中心軸線に沿って貫通した円孔102が形成されており、この円孔102をトーションシャフト30のトーションシャフト本体32及びトーションシャフト本体32のスプール側連結部34とは反対側の端部に形成されたロックベース側連結部104が円孔102を通過できるようになっている。
【0040】
また、図1に示されるように、スプール18の脚板16側にはロック手段としてのロック機構110を構成する回転体としてのロックベース112が設けられている。図3に示されるように、ロックベース112はラチェット部114を備えている。このラチェット部114の外周部には外歯のラチェット歯116がラチェット部114の中心軸線周りに所定角度毎に形成されている。図1及び図5に示されるように、このラチェット部114の回転半径方向外側にはロックベース112と共にロック機構110を構成するロックパウル118が設けられている。
【0041】
ロックパウル118はスプール18の中心軸線と同じ向きを軸方向とする軸周りに揺動自在に脚板16等に支持されている。図5に示されるように、ロックパウル118にはラチェット歯120が形成されており、ラチェット歯120がラチェット部114の外周部へ接近する向きにロックパウル118が揺動し、図5において実線にて示されるように、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116に噛み合うと、ロックパウル118によってロックベース112の引出方向への回転が規制されるようになっている。
【0042】
図3に示されるように、このラチェット部114のスプール18側の端部には嵌挿部122が形成されている。嵌挿部122の外周形状はラチェット部114に対して同軸の円形とされており、その外径寸法はクラッチリング62におけるリング本体64の内径寸法よりも小さく設定されている。嵌挿部122に対応してリング本体64の内周部からは複数(上述したクラッチ90におけるクラッチ片98の数と同じ数)の凸部126が形成されている。これらの凸部126はリング本体64の中心軸線周りに一定間隔毎に形成されている。
【0043】
これらの凸部126においてリング本体64の半径方向内側の部位は、リング本体64の中心軸線を中心とする同一円周上に位置している。この凸部126においてリング本体64の半径方向内側の部位を通過する円の半径寸法は嵌挿部122の外径寸法に等しく(厳密には僅かに大きく)設定されており、リング本体64の内側に嵌挿部122が入り込むと、凸部126が嵌挿部122に摺接し、これにより、嵌挿部122、ひいては、ロックベース112がリング本体64(ひいては、スプール18)に同軸的に装着される。
【0044】
このようにロックベース112の嵌挿部122が単にリング本体64の内側に嵌挿されて凸部126に支持されているだけであるならば、ロックベース112はスプール18に対して同軸的に相対回転できる。但し、図3及び図5に示されるように、ロックベース112にはトーションシャフト嵌挿孔124が形成されており、このトーションシャフト嵌挿孔124に上述したトーションシャフト30のロックベース側連結部104が嵌め込まれる。
【0045】
ロックベース側連結部104の外周形状は星型や多角形等の非円形とされ、トーションシャフト嵌挿孔124の内周形状はロックベース側連結部104の外周形状と同じ形状(厳密には僅かに大きな相似形状)とされ、ロックベース側連結部104がトーションシャフト嵌挿孔124に嵌め込まれることでトーションシャフト30に対するロックベース112の相対回転が規制される。
【0046】
上述したように、トーションシャフト収容部22にスプール側連結部34が嵌め込まれたトーションシャフト30はスプール18に対する相対回転が規制されるので、スプール18に対するロックベース112の相対回転が規制される。したがって、図5に示されるように、ロックパウル118のラチェット歯120がロックベース112のラチェット部114に形成されたラチェット歯116に噛み合い、ロックベース112の引出方向への回転が規制されると、スプール18の引出方向への回転が規制されることになる。
【0047】
また、図1に示されるように、ロックベース112の中心軸線に沿った嵌挿部122の寸法は、クラッチリング62の中心軸線に沿ったリング本体64の寸法よりも充分に短く、クラッチリング62におけるクラッチリング装着孔60の底面とは反対側の端面にラチェット部114が当接するまで嵌挿部122をリング本体64の内側へ嵌め込んでも、嵌挿部122のラチェット部114とは反対側の端面とクラッチリング装着孔60の底面との間には、リング部92の中心軸線に沿ったクラッチ90の全体寸法よりも大きな隙間が形成されるようにロックベース112の形状等が設定されている。
【0048】
また、図3及び図6に示されるように、上述した複数の凸部126においてリング本体64の周方向に隣り合う両凸部126の間隔はクラッチ90におけるリング部92の周方向に沿ったクラッチ片98の寸法よりも大きく設定されており、隣り合う両凸部126の間にクラッチ片98が入り込めるようになっている。さらに、各凸部126における引出方向側の面は圧接斜面128とされ、引出方向へ向けてリング本体64からの突出寸法が漸次小さくなり、嵌挿部122の外周部との間の隙間が小さくなっている。
【0049】
さらに、図3に示されるように、上述したトーションシャフト嵌挿孔124よりも嵌挿部122側にはガイド孔132が形成されている。このガイド孔132は上述したロックベース係合部100の外周形状と同じ形状(厳密にはロックベース係合部100の外周形状よりも僅かに大きな相似形状)とされている。ロックベース係合部100の外周形状及びガイド孔132の内周形状は、多角形等の非円形とされ、ガイド孔132にロックベース係合部100が嵌め込まれた状態では、ロックベース112に対するスライダ80の相対回転は規制されるが、ロックベース112及びスライダ80の中心軸線に沿ったロックベース112に対するスライダ80の相対的な直線移動(スライド)は可能となっている。
【0050】
一方、図3に示されるように、ロックベース側連結部104にはロックベース側連結部104のトーションシャフト本体32とは反対側の端面にて開口した雌ねじ孔142が形成されている。図1に示されるように、この雌ねじ孔142にはストッパ144の雄ねじ部146が螺合している。ストッパ144はストッパプレート148を備えている。ストッパプレート148は雄ねじ部146と一体に形成されており、雄ねじ部146を雌ねじ孔142に螺合させて充分に雌ねじ孔142に入り込ませると、スプール18の脚板14側の端面にストッパプレート148が当接する。これにより、トーションシャフト30の脚板14側への不用意な変位を規制している。このストッパプレート148の雄ねじ部146とは反対側の面からは軸部150が雄ねじ部146に対して同軸的に延出されている。
【0051】
また、脚板16の外側(脚板16のスプール18とは反対側)にはロック機構110のハウジング162が脚板16に取り付けられており、上記の軸部150が回転自在に支持されている。ハウジング162の内側には、車両が減速した際の減速度(マイナスの加速度)が所定の大きさ以上の場合に作動して、上記のロックパウル118のラチェット歯120をラチェット部114のラチェット歯116へ接近させる向きにロックパウル118を揺動させる所謂「VSIR機構」を構成する各種部品や、軸部150の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合に作動して、上記のロックパウル118のラチェット歯120をラチェット部114のラチェット歯116へ接近させる向きにロックパウル118を揺動させる所謂「WSIR機構」を構成する各種部品が収容されている。
【0052】
なお、これまでに特に説明はしていないが、例えば、作動することでスプール18を強制的に巻取方向に回転させる所謂「プリテンショナ機構」等の他の装置がウェビング巻取装置10に設けられていてもよい。
【0053】
<第1の実施の形態の作用、効果>
次に、第1の実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0054】
車両が急減速状態になり上記の「VSIR機構」が作動すると、ロックパウル118が揺動させられ、これにより、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116へ接近して、図5において実線で示されるように、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116に噛み合う。
【0055】
また、車両が減速することで乗員の身体が車両前方側へ慣性移動すると、乗員の身体にウェビング20が引っ張られ、これにより、スプール18が引出方向に回転する。このスプール18の引出方向への回転は、トーションシャフト30を介してストッパ144に伝わり、軸部150が引出方向に回転する。この軸部150の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上になると、上記「WSIR機構」が作動する。「WSIR機構」が作動すると、ロックパウル118が揺動させられ、これにより、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116へ接近して、図5において実線で示されるように、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116に噛み合う。
【0056】
このように、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116に噛み合うことでロックベース112の引出方向への回転が規制される。ロックベース112はトーションシャフト30を介してスプール18に相対回転が規制された状態で連結されているため、ロックベース112の引出方向への回転が規制されることでスプール18の引出方向への回転が規制される。これにより、スプール18からのウェビング20の引出しが規制されるので、ウェビング20によって乗員の身体を効果的に拘束でき、車両前方への乗員の身体の慣性移動を効果的に抑制できる。
【0057】
このようにスプール18の引出方向への回転が規制された状態で、車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体が所定の大きさ以上の力でウェビング20を引っ張ると、この引っ張り力に応じた引出方向への回転力がスプール18に付与される。このようにしてスプール18に付与された引出方向への回転力が、トーションシャフト30におけるトーションシャフト本体32の機械的強度を上回っていると、トーションシャフト本体32のロックベース側連結部104側に対してスプール側連結部34側が引出方向に相対回転するような捩れがトーションシャフト本体32に生ずる。
【0058】
このトーションシャフト本体32の捩じりにより許容されたロックベース側連結部104に対するスプール側連結部34の引出方向への相対回転量だけスプール18は引出方向に回転し、このスプール18の引出方向への回転量に相当する長さのウェビング20がスプール18から引き出される。このように、スプール18から引き出されたウェビング20の長さ分だけ乗員の身体は車両前方側へ慣性移動できると共に、乗員の身体がウェビング20を引っ張る力の一部が、トーションシャフト本体32の捩じり変形に供されて吸収される。
【0059】
また、ロックベース112のガイド孔132にロックベース係合部100が嵌挿されたスライダ80はロックベース112に対する相対回転が規制されており、スプール18に形成されたピース装着孔70に嵌挿された雌ねじピース72はスプール18に対する相対回転が規制されている。このため、引出方向への回転が規制されたロックベース112に対してスプール18が引出方向に回転すると、スライダ80に対する雌ねじピース72の引出方向への相対回転が生じる。
【0060】
このようにスライダ80に対して雌ねじピース72の引出方向へ1回転すると、雌ねじ78の1ピッチ分(すなわち、雄ねじ84の1ピッチ分)だけスライダ80がスプール18の中心軸線に沿って脚板16側へスライドする。このようにスライダ80がスライドすると、ロックベース係合部100が更にガイド孔132の内側へ入り込み、クラッチ装着部86が嵌挿部122においてクラッチ装着部86と対向する側の端面(すなわち、嵌挿部122におけるラチェット部114とは反対側の端面)に接近する。
【0061】
スライダ80が脚板16側へスライドすることにより、クラッチ装着部86に装着されたクラッチ90がスライダ80と共に脚板16側へスライドする。このようにしてロックベース112に対しスプール18が引出方向に相対回転すると、この相対回転数に応じたストロークだけクラッチ装着部86が嵌挿部122においてクラッチ装着部86と対向する側の端面に接近し、ロックベース112に対するスプール18の相対回転数が所定の値(所定の角度)に達すると、図2に示されるように、クラッチ90のクラッチ片98がリング本体64(クラッチリング62)の内周部と嵌挿部122の外周部との間に入り込む。
【0062】
この状態で更にスプール18がロックベース112に対して引出方向に相対回転すると、図7に示されるように、圧接斜面128と嵌挿部122の外周部との間にクラッチ片98が挟み込まれ、これにより、クラッチ片98が塑性変形する。これにより、塑性変形したクラッチ片98に圧接斜面128及び嵌挿部122の外周部の双方が密着することで、塑性変形したクラッチ片98を介して嵌挿部122、ひいてはロックベース112と、リング本体64、ひいてはスプール18とが一体的に結合される。
【0063】
上述したように、この状態でロックベース112の引出方向への回転が規制されているので、ロックベース112とスプール18とがクラッチ片98を介して一体的に結合されることでスプール18の引出方向への回転が規制される。したがって、この状態ではこれ以上のトーションシャフト本体32(トーションシャフト30)の捩じり変形が抑制され、これ以上、大きなエネルギーをトーションシャフト本体32の変形で吸収することがない。
【0064】
ここで、本実施の形態では、雌ねじピース72は合成樹脂材を成形することで形成される。このため、雌ねじピース72の中心軸線に沿った雌ねじピース72の一端における雌ねじ78の端部の位置や、雌ねじピース72の中心軸線に沿った雌ねじピース72の他端における雌ねじ78の端部の位置に対する突出部76の位相のずれ無くしたり、このような位相のずれを小さくしたりすることができる。
【0065】
また、本実施の形態では、スライダ80は合成樹脂材を成形することで形成される。このため、スライダ80の中心軸線に沿った本体82の一端における雄ねじ84の端部の位置や、スライダ80の中心軸線に沿った本体82の他端における雄ねじ84の端部の位置に対するロックベース係合部100の外周部の位相のずれ無くしたり、このような位相のずれを小さくしたりすることができる。
【0066】
このため、スライダ80の初期状態、ひいては、クラッチ90の初期状態から凹部126にクラッチ片98が入り込んで、塑性変形したクラッチ片98を介してロックベース112とスプール18とが一体的に結合されるまでに要するロックベース112に対するスプール18の引出方向への相対回転数の誤差を無くし、又は、このような相対回転数の誤差を小さくできる。
【0067】
また、雌ねじピース72やスライダ80は作動することで雌ねじピース72やスライダ80とは別体で構成されたクラッチ90を移動させるだけでよいので、嵌挿部122の外周部と圧接斜面128とを一体的に繋ぐような機械的強度は不要であり、また、クラッチ90は塑性変形したクラッチ片98が嵌挿部122の外周部と圧接斜面128とを一体的に繋ぐことができればよく、その意味では高い寸法精度は必要ない。このように、雌ねじピース72やスライダ80はクラッチ90を移動させるだけの機能を付与して、嵌挿部122の外周部と圧接斜面128とを一体的に繋ぐような機械的強度を持たせないことにより、雌ねじピース72及びスライダ80の双方を合成樹脂材の成形品とすることが可能になる。
【0068】
<第2の実施の形態の構成>
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0069】
図8には本実施の形態に係るウェビング巻取装置190の要部の構成が分解斜視図により示されている。この図に示されるように、本ウェビング巻取装置190は雌ねじ部としての雌ねじピース72に代わってトリガ手段を構成するスライダ192を備えており、スライダ80に代わる雄ねじ部としてトリガ手段を構成する雄ねじピース194を備えている。
【0070】
スライダ192は複数(本実施の形態では、クラッチ90の突起94の数と同じ数)の規制片196を備えている点で雌ねじピース72とは構成が異なる。これら規制片196はスライダ192における雌ねじ78の内周縁に沿うようにスライダ192におけるロックベース112側の端面から突出形成されている。
【0071】
また、規制片196においてスライダ192の回転半径方向外側(すなわち、本体74の半径方向外側)を向く外側面は、スライダ192の本体74の中心軸線を曲率中心として湾曲している。しかも、全ての規制片196の外側面は同一円周上に位置しており、曲率半径はクラッチ90のリング部92の内径寸法に略等しい(厳密には僅かに小さい)。また、面周方向に互いに隣り合う規制片196の間隔は、クラッチ90のリング部92の周方向に沿った突起94の寸法に略等しく(厳密には僅かに大きく)設定されている。このため、リング部92の内周部が規制片196の外側面に接した状態で各突起94が隣り合う規制片196の間に入り込むことができ、これにより、スライダ192に対するクラッチ90の相対回転を規制した状態でスライダ192にクラッチ90を保持させることができる。
【0072】
一方、雄ねじピース194はロックベース係合部100に弾性片198が形成されている点でスライダ80とは構成が異なる。弾性片198はロックベース係合部100に一対の切欠部200を形成することにより形成される。切欠部200はロックベース係合部100の軸方向中間部からロックベース係合部100における本体82とは反対側の端部へ向けて形成されている。これらの切欠部200はロックベース係合部100の外周面及び内周面(すなわち、円孔102の内周面)の双方で開口していると共に、ロックベース係合部100における本体82とは反対側の端部にて開口している。これらの切欠部200が弾性片198とされ、その基端部(本体82側の端部)を中心に円孔102の半径方向内側へ弾性変形できるようになっている。
【0073】
弾性片198の先端には嵌合部202が形成されている。嵌合部202は弾性片198の外側面から雄ねじピース194の半径方向外側へ突出形成されている。この嵌合部202に対応して本実施の形態では、ロックベース112のガイド孔132の内周部には嵌合孔204が形成されており、ロックベース係合部100における本体82とは反対側の端部がガイド孔132の底部に当接するまでロックベース係合部100をガイド孔132に挿し込むと、嵌合孔204に嵌合部202が嵌合して、ガイド孔132から抜け出る方向へのロックベース係合部100の変位が規制される。
【0074】
また、前記第1の実施の形態ではクラッチリング62の内周部から凸部126が形成されていたが、本実施の形態ではクラッチリング62の内周部から凸部126が形成されていない。これに代わって、本実施の形態では、ロックベース112の嵌挿部122の外周部に凸部212が形成されている。これらの凸部212はロックベース122の中心軸線周りに一定間隔毎に形成されている。
【0075】
これらの凸部212においてロックベース122の半径方向外側の部位は、ロックベース122の中心軸線を中心とする同一円周上に位置している。この凸部212においてロックベース122の半径方向外側の部位を通過する円の半径寸法はリング本体64の内径寸法に等しく(厳密には僅かに小さく)設定されており、リング本体64の内側に嵌挿部122が入り込むと、凸部212がリング本体64の内周部に摺接し、これにより、嵌挿部122、ひいては、ロックベース112がリング本体64(ひいては、スプール18)に同軸的に装着される。
【0076】
また、これらの複数の凸部212においてロックベース112の周方向に隣り合う両凸部212の間隔は、前記第1の実施の形態における凸部126と同様にリング部92の周方向に沿ったクラッチ片98の寸法よりも大きく設定されており、隣り合う両凸部212の間にクラッチ片98が入り込めるようになっている。さらに、各凸部212における巻取方向側の面は圧接斜面214とされ、引出方向へ向けて嵌挿部122からの突出寸法が漸次小さくなり、リング本体64の内周部との間の隙間が大きくなっている。
【0077】
<第2の実施の形態の作用、効果>
以上の構成の本実施の形態では、雄ねじピース194はロックベース112に対する相対回転のみならず、軸方向に沿った相対移動も規制される。このため、ロックパウル118のラチェット歯120がラチェット部114のラチェット歯116に噛み合ってロックベース112の引出方向への回転が規制された状態でスプール18が引出方向に回転しても、雄ねじピース194が軸方向にスライドすることはできない。
【0078】
一方、スライダ192は前記第1の実施の形態における雌ねじピース72と同様にスプール18に対する相対回転が規制されている。このため、ロックベース112に対してスプール18が引出方向に回転するとスライダ192がスプール18と共に引出方向に回転しつつスプール18の中心軸線に沿ってロックベース112側へスライドする。このようにスライダ192がスライドすると、スライダ192の規制片196に保持されたクラッチ90がスライダ192と共にスライドし、これにより、前記第1の実施の形態と同様にクラッチ片98がリング本体64(クラッチリング62)の内周部と嵌挿部122の外周部との間に入り込む。
【0079】
また、クラッチ90の周方向に隣り合う突起94は規制片196の間に入り込んでいることによりスライダ192に対するクラッチ90の相対回転が規制される。このため、スライダ192が引出方向に回転することでクラッチ90も引出方向に回転する。リング本体64(クラッチリング62)の内周部と嵌挿部122の外周部との間にクラッチ片98が入り込んだ状態でクラッチ90がスライダ192と共に引出方向に回転すると、圧接斜面214とリング本体64(クラッチリング62)の内周部との間にクラッチ片98が挟み込まれてクラッチ片98が塑性変形する。
【0080】
これにより、塑性変形したクラッチ片98に圧接斜面214及びリング本体64の内周部の双方が密着することで、塑性変形したクラッチ片98を介して圧接斜面128(すなわち、嵌挿部122、ひいてはロックベース112)と、リング本体64(ひいては、スプール18)とが一体的に結合される。
【0081】
このように、塑性変形したクラッチ片98を介してロックベース112とスプール18とが一体的に結合されることによって前記第1の実施の形態と同様にスプール18の引出方向への回転が規制され、これ以上のトーションシャフト本体32(トーションシャフト30)の捩じり変形が抑制される。
【0082】
ここで、本実施の形態では、スライダ192は合成樹脂材を成形することで形成される。このため、スライダ192の中心軸線に沿ったスライダ192の一端における雌ねじ78の端部の位置や、スライダ192の中心軸線に沿ったスライダ192の他端における雌ねじ78の端部の位置に対する突出部76の位相のずれ無くしたり、このような位相のずれを小さくしたりすることができる。
【0083】
このため、スライダ192の初期状態、ひいては、クラッチ90の初期状態から嵌挿部122の外周部とリング本体64の内周部との間にクラッチ片98が入り込んで、塑性変形したクラッチ片98を介してロックベース112とスプール18とが一体的に結合されるまでに要するロックベース112に対するスプール18の引出方向への相対回転数の誤差を無くし、又は、このような相対回転数の誤差を小さくできる。
【0084】
また、本実施の形態では、雄ねじピース194は合成樹脂材を成形することで形成される。このため、雄ねじピース194の中心軸線に沿った本体82の一端における雄ねじ84の端部の位置や、雄ねじピース194の中心軸線に沿った本体82の他端における雄ねじ84の端部の位置に対するロックベース係合部100の外周部の位相のずれ無くしたり、このような位相のずれを小さくしたりすることができる。
【0085】
また、スライダ192や雄ねじピース194は作動することでスライダ192や雄ねじピース194とは別体で構成されたクラッチ90を移動させるだけでよいので、リング本体64の内周部と圧接斜面214とを一体的に繋ぐような機械的強度は不要であり、また、クラッチ90は塑性変形したクラッチ片98がリング本体64の内周部と圧接斜面214とを一体的に繋ぐことができればよく、その意味では高い寸法精度は必要ない。このように、スライダ192や雄ねじピース194はクラッチ90を移動させるだけの機能を付与して、リング本体64の内周部と圧接斜面214とを一体的に繋ぐような機械的強度を持たせないことにより、スライダ192及び雄ねじピース194の双方を合成樹脂材の成形品とすることが可能になる。
【0086】
なお、本実施の形態では、ロックベース112に対する雄ねじピース194の軸方向の移動を規制する構成として弾性片198に形成した嵌合部202をガイド孔132の内周部に形成した嵌合孔204に嵌合させる構成とした。しかしながら、ロックベース112に対する雄ねじピース194の軸方向の移動を規制する構成がこのような構成に限定されるものではない。例えば、ロックベース係合部100の外周部及びガイド孔132の内周部の少なくとも何れかの一方に接着剤を塗布し、この接着剤によってロックベース112と雄ねじピース194とを一体的に結合する構成としてもよい。
【0087】
また、本実施の形態では、クラッチ90にリング状のリング部92を形成して規制片196に支持させた構成であったが、例えば、スライダ192に規制片196を形成せずに、スライダ192のロックベース112側の端面から軸方向がスプール18の軸方向と同じ向きの支持軸を突出形成し、この支持軸に筒状のクラッチローラを支持させ、スライダ192がロックベース112側へ回転しつつスライドすることでクラッチローラをリング本体64(クラッチリング62)の内周部と嵌挿部122の外周部との間に入り込ませる構成としてもよい。また、前記第1の実施の形態に用いるクラッチ90に代えてこのようなクラッチローラを用いてもよい。
【0088】
さらに、上記の各実施の形態においてロック機構110は、ロックベース112に外歯のラチェット歯116を形成して、このラチェット歯116にロックパウル118のラチェット歯120が噛み合うことでロックベース112の引出方向への回転を規制する構成であった。しかしながら、ロック機構の構成がこのような構成に限定されるものではない。例えば、フレーム12の脚板16に内歯のラチェット歯を形成し、ロックベース112に設けられたパウルのラチェット歯が脚板16のラチェット歯に噛み合うことでロックベース112の引出方向への回転を規制する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10 ウェビング巻取装置
18 スプール
20 ウェビング
30 トーションシャフト(エネルギー吸収手段)
72 雌ねじピース(雌ねじ部、トリガ手段)
80 スライダ(トリガ手段)
90 クラッチ(規制手段)
110 ロック機構(ロック手段)
112 ロックベース(回転体)
190 ウェビング巻取装置
192 スライダ(トリガ手段)
194 雄ねじピース(雌ねじ部、トリガ手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングの長手方向基端側が係止されて、巻取方向に回転することで前記ウェビングを巻取るスプールと、
一端よりも他端側で前記スプールに対して相対回転が規制された状態で前記スプールに連結され、前記一端に対して前記他端側に所定の大きさ以上の回転力が付与されることで変形するエネルギー吸収手段と、
前記エネルギー吸収手段の一端側で前記エネルギー吸収手段に対して相対回転が規制された状態で前記エネルギー吸収手段に連結された回転体を含めて構成され、作動することで前記巻取方向とは反対の引出方向への前記回転体の回転を規制するロック手段と、
作動することで前記エネルギー吸収手段とは別に前記回転体に対する前記スプールの前記引出方向への相対回転を規制する規制手段と、
前記規制手段とは別体で構成されて、前記回転体に対する前記スプールの前記引出方向への相対回転に連動し、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向へ所定数相対回転することで前記規制手段を作動させるトリガ手段と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールに装着されると共に、前記スプールに対して同軸的に雌ねじが形成された雌ねじ部と、
合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記回転体に対する相対回転が規制された状態で前記回転体の軸方向に前記回転体に対して相対的にスライド可能に前記回転体に連結されると共に、前記雌ねじ部の前記雌ねじに螺合する雄ねじが形成されて、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向に相対回転することで所定の方向へ前記回転体に対してスライドし、前記所定の方向へ所定量スライドすることで前記規制手段を作動させるスライダと、
を含めて前記トリガ手段を構成した請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記回転体の軸方向に沿った前記回転体に対する相対移動及び前記回転体に対する相対回転が規制された状態で前記回転体に連結されると共に、前記回転体の中心軸線に対して同軸的な外周部に雄ねじが形成された雄ねじ部と、
合成樹脂材を成形することにより形成されて、前記スプールに対する相対回転が規制された状態で前記スプールの軸方向に前記スプールに対して相対的にスライド可能に前記スプールに装着されると共に、前記雄ねじ部の前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成されて、前記回転体に対して前記スプールが前記引出方向に相対回転することで所定の方向へ前記回転体に対してスライドし、前記所定の方向へ所定量スライドすることで前記規制手段を作動させるスライダと、
を含めて前記トリガ手段を構成した請求項1に記載のウェビング巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−49401(P2013−49401A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189919(P2011−189919)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】