説明

ウシヘルペスウイルス1型の組成物、ワクチン及び方法

本開示は、概して、ウシにおける疾患の処置又は予防に関する。より詳細には、本発明は、改変ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)の作製及び使用、ならびに宿主における免疫学的応答を抑制せずにBHV−1感染からウシを保護する組成物及びワクチンの使用に関する。1つの例において、本発明は、同時投与及び/又は併用ワクチンでの投与によって追加の免疫原とともに投与される改変BHV−1の使用、及び疾患からウシを保護するためのこれらのワクチンの使用に関する。1つの例において、投与される組成物における改変BHV−1の使用は、追加の免疫原に対する免疫応答を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、本明細書中で参考として援用される2008年10月3日出願の米国仮出願番号61/195,102に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
ウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)は、感染性ウシ鼻気管炎(IBR)の原因物質であり、新生子牛において重篤な呼吸器感染症、結膜炎、流産、外陰部腟炎、亀頭包皮炎及び全身感染症を引き起こしうる、経済的に重大なウシのウイルス病原体である(Wylerら(1989)HERPESVIRUS DISEASES OF CATTLE,HORSES,AND PIGS 1−72(Boston)G.Witman(ed.)Kluwer Academic Publishers)。BHV−1ゲノムのヌクレオチド配列(136kb)は、既知である。そのゲノムは、通常、67個のユニークな遺伝子及び2つの遺伝子(その両方が、反転した繰り返しで重複している)を含む。通常、BHV−1遺伝子は、アミノ酸配列レベルで他のアルファヘルペスウイルス(HSV−1、VZV、EHV−1)と相同性を示し、同様の順序で配列されている。BHV−1は、水痘ウイルス属、アルファヘルペスウイルス亜科(ヘルペスウイルス科)の一部のメンバーである。この亜科は、ヒトヘルペスウイルス3型、仮性狂犬病ウイルスならびにウシ及びウマ科のヘルペスウイルスを含む。
【0003】
BHV−1感染症は、「輸送熱」又はウシ呼吸器病症候群(bovine respiratory complex)と呼ばれる上部気道感染症の構成要素でもある(Tikooら(1995)Adv.Virus Res.45:191;米国特許公開番号2004−0185056)。BHV−1は、輸送熱に関連する唯一の感染物質ではないが、感染したウシの免疫を抑制することによってその障害を惹起し、それによって、一般に、二次的な細菌感染症及び肺炎をもたらす。二次感染への感受性が高いことは、BHV−1感染後に細胞性免疫が低下することと相関する(Carterら(1989)J.Virol.63:1525;Griebelら(1990)J.Gen.Virol.71:369;Griebelら(1987)Viral Immunol.1:287;Griebelら(1987)Viral Immunol.1:267)。BHV−1は、一般に、粘膜上皮において最初に複製した後、末梢神経系の神経節ニューロン内で生涯にわたる潜伏を確立し、動物は、急性感染を超えて伝染性になる。潜伏からの再活性化は、一般に、ウイルスの排出及び他の感受性動物への伝染をもたらす。再活性化は、一般に、天然のストレス又はコルチコステロイドによって誘導されるストレスの後に生じる(Rockら(1992)J.Virol.66:2484;Sheffy and Davies(1972)Proc.Soc.Exp.Biol.Med.140:974)。
【0004】
BHV−1感染症を管理することを目指して、従来の死滅ウイルスワクチン及び弱毒化生ウイルスワクチンが開発された。市販のワクチン、例えば、弱毒化生ウイルスワクチンは、宿主免疫系の免疫抑制もしくは免疫低下又は他の変更を引き起こしうる。これらの変更は、感染した宿主の免疫系を抑制するか又は別途変更する、BHV−1によってコードされるタンパク質に起因しうる。この免疫抑制(immunosupression)によって、これらのワクチンが毒性野外株のBHV−1による潜伏感染の確立を予防できなくなることがある(例えば、Gerberら(1978)Am.J.Vet.Res.39:753;Jerichoら(1983)Can.J.Com.Med.47:133;Pastoretら(1980)Infect.Immun.29:483を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開番号2004−0185056
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wylerら(1989)HERPESVIRUS DISEASES OF CATTLE,HORSES,AND PIGS 1−72(Boston)G.Witman(ed.)Kluwer Academic Publishers
【非特許文献2】Tikooら(1995)Adv.Virus Res.45:191
【非特許文献3】Carterら(1989)J.Virol.63:1525
【非特許文献4】Griebelら(1990)J.Gen.Virol.71:369
【非特許文献5】Griebelら(1987)Viral Immunol.1:287
【非特許文献6】Griebelら(1987)Viral Immunol.1:267
【非特許文献7】Rockら(1992)J.Virol.66:2484
【非特許文献8】Sheffy and Davies(1972)Proc.Soc.Exp.Biol.Med.140:974
【非特許文献9】Gerberら(1978)Am.J.Vet.Res.39:753
【非特許文献10】Jerichoら(1983)Can.J.Com.Med.47:133
【非特許文献11】Pastoretら(1980)Infect.Immun.29:483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在のワクチンの傾向は、同時投与ワクチン又は併用ワクチンであり、これらは、一般に、複数の作用物質又は生物に由来する抗原を含む。これらのワクチンは、複数の作用物質及び/又は疾患に対するワクチン接種及び保護を提供することができ、1つの時点又は1回の投与において投与されうる。BHV−1を含むワクチンにおいて、BHV−1は、同時投与された物質に対する宿主の免疫応答に影響し、又は変化させることがある。1つの例では、BHV−1と同時に投与される抗原又はBHV−1とともに併用ワクチン中に存在する抗原に対する免疫応答は、BHV−1無しで投与されるときのそれらの抗原に対する宿主の免疫応答と比べて、抑制されるか、減少するか、又は別途変化することがある。影響された又は変更された免疫応答は、BHV−1と同時に投与されるワクチン抗原が、同時投与される抗原が由来する感染物質によって引き起こされる感染症及び/又は疾患に対して保護的な免疫応答を刺激する能力を低下させることがある。以前及び現在の弱毒化BHV−1ウイルスは、一般に、BHV−1の免疫抑制及び/又は同時投与された抗原に対する宿主免疫応答の変更に対処していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
要旨
ある特定のBHV−1遺伝子が改変されたBHV−1ウイルス及び/又はある特定のBHV−1遺伝子の発現が変更されたBHV−1ウイルスが、BHV−1に起因する宿主の免疫応答の変更(例えば、免疫抑制)を軽減するか、防止するか、又は逆転させることができると見出された。その改変及び/又は変更を含むBHV−1ウイルスが、改変を有しないBHV−1ウイルスと比較して、同時投与される抗原又は組み合わせて投与される抗原に対する宿主の免疫応答の変更を軽減するか又は防止することができること(例えば、追加の抗原に対する免疫応答の抑制)も見出された。これらの知見に基づいて、以下の本発明を記載する。
【0009】
1つの例において、BHV−1の少なくとも1つの遺伝子が改変されたBHV−1免疫原を含む組成物及びワクチン。1つの例において、その改変されたBHV−1を含むワクチンは、同時投与によって、又は併用ワクチンで、非BHV−1免疫原とともに投与される。BHV−1は、改変された生BHV−1ワクチン株でありうる。1つの例において、BHV−1の改変される遺伝子は、一般に、BHV−1感染の際の宿主の免疫学的応答の低下に関与するタンパク質をコードする遺伝子でありうる。その組成物及びワクチンは、BHV−1の毒性を低下させるような改変も含むことがある。
【0010】
改変されたBHV−1遺伝子の例としては、改変されたBHV−1UL49.5、BHV−1UL41、BHV−1Us4及びBHV−1Cirが挙げられうる。それらの遺伝子は、単一の点変異によって改変されることがあり、いくつかの場合は、その単一変異は、欠失変異である。欠失変異は、それらの遺伝子の完全な欠失であってもよいし、部分的な欠失であってもよい。それらの改変は、その遺伝子からタンパク質が生成されなくさせることがある。それらの改変は、その遺伝子から非天然又は非野生型のタンパク質を生成させることがある。1つの例において、BHV−1UL49.5が、改変される。1つの例において、BHV−1UL41が、改変される。1つの例において、BHV−1Us4が、改変される。1つの例において、BHV−1Circが、改変される。他又は追加の遺伝子における改変が、企図される。
【0011】
遺伝子改変を含むBHV−1ウイルスは、1つの改変、2つの改変、3つの改変又は4つもしくはそれ以上の改変を含みうる。これらの改変は、すでに存在しうる改変に加えて、例えば、弱毒化ワクチン株におけるようなものでありうる。1つの例において、BHV−1ウイルスは、UL49.5及びUL41である2つの改変された遺伝子を含むことがある。1つの例において、BHV−1UL49.5、BHV−1UL41、BHV−1Us4及びBHV−1Circの群から選択される少なくとも1つの遺伝子、ならびにBHV−1LR−ORF1、BHV−1LR−ORF2及びBHV−1Us9の群から選択される少なくとも1つの遺伝子が、改変される。
【0012】
開示される任意の組成物及びワクチンの例において、マーカー遺伝子が含められることがある。ある特定の実施形態において、そのマーカー遺伝子は、BHV−1UL49.5、BHV−1UL41、BHV−1Us4及び/又はBHV−1Circでありうる。ある特定の組成物及びワクチンはまた、マーカー遺伝子としてBHV−1Us8を含むことがある。
【0013】
開示されるワクチンは、薬学的に許容可能なビヒクルも含むことがある。それらの組成物及びワクチンは、追加の免疫原(例えば、BHV−1免疫原以外の免疫原)も含むことがある。追加の免疫原は、同時投与されてもよいし、併用カクテルワクチンとして投与されてもよい。他の投与が、企図される。追加の免疫原は、細菌の免疫原(例えば、Vibrio、Mannheimia haemolytica、Histophilus somni、Fusobacterium necrophorum、Clostridial、E.coli、Salmonella enterica、mycoplasma bovis及び/又はレプトスピラ症免疫原)及び/又はウイルスの免疫原(例えば、BVD I及びII、PI3ならびにBRSV免疫原)でありうる。それらの組成物及びワクチンは、さらに、寄生生物の免疫原(例えば、Neospora caninum及び/又はTrichomonas spp.免疫原)を含むことがある。
【0014】
開示される方法は、治療用量の開示される組成物又はワクチン(例えば、改変された遺伝子(単数又は複数)を含むBHV−1及び少なくとも1つの追加の免疫原)を投与することによる、宿主(通常、ウシ)におけるBHV−1感染症の予防又は処置を包含する。通常、この方法は、追加の免疫原(単数又は複数)が得られる病原体による感染症及び/又は疾患の処置又は予防も包含する。1つの例において、開示される組成物又はワクチンの投与は、宿主におけるBHV−1及び追加の免疫原に対する免疫応答を促進する。1つの例において、開示される組成物又はワクチンの投与は、改変された遺伝子を含まないBHV−1に起因する宿主の免疫応答の免疫抑制の軽減又は予防を促進する。1つの例において、開示される組成物の投与は、改変されていないBHV−1に起因する追加の免疫原に対する宿主の免疫応答の免疫抑制の軽減又は予防を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書の一部に組み込まれ、それを構成する添付の図面では、組成物、ワクチン及び方法の実施形態又はそれらに関する実施形態が図示され、これらは、下記に示される詳細な説明とともに実施例の説明に役立つ。図面に図示される実施形態が、例証の目的で示され、限定の目的で示されるのではないことが認識されるべきである。図面に図示される実施形態からの変更、改変及び逸脱は、以下に開示されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われてもよいと認識されるべきである。
【0016】
図1は、Cooper株BHV−1UL49.5のDNA配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号2)を図示している。
【0017】
図2は、Cooper株BHV−1UL41のDNA配列(配列番号3)及びアミノ酸配列(配列番号4)を図示している。
【0018】
図3は、Cooper株BHV−1CircのDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を図示している。
【0019】
図4は、Cooper株BHV−1LR−ORF1のDNA配列(配列番号7)及びアミノ酸配列(配列番号8)を図示している。
【0020】
図5は、Cooper株BHV−1LR−ORF2のDNA配列(配列番号9)及びアミノ酸配列(配列番号10)を図示している。
【0021】
図6は、cooper株BHV−1Us4のDNA配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)を図示している。本明細書に記載されるように、下線が引かれたヌクレオチドは、いくつかの研究において使用されたUs4変異体をもたらす、BHV−1のGL756株由来のUs4遺伝子において欠失された領域を示す。下線が引かれたヌクレオチドの欠失によって、その遺伝子が発現されるときに、下線が引かれたアミノ酸が存在しなくなる。
【0022】
図7は、Cooper株BHV−1Us9のDNA配列(配列番号13)及びアミノ酸配列(配列番号14)を図示している。
【0023】
図8は、Cooper株BHV−1Us8のDNA配列(配列番号15)及びアミノ酸配列(配列番号16)を図示している。
【0024】
図9は、BHV−1のGL756株由来のUL49.5変異遺伝子のDNA配列(配列番号23)を図示している。下線が引かれたヌクレオチドは、野生型GL756UL49.5配列に付加された配列を示す。下線が引かれたヌクレオチドは、インフレームの2つの翻訳終止コドンをそのコード配列に付加する。
【0025】
図10は、MHCクラスI分子の細胞表面発現に対するBHV−1GL756の作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。モックに感染したMDBK細胞及びBHV−1GL756に感染したMDBK細胞を、MHCクラスI分子に特異的なモノクローナル抗体PT85Aで染色した。ネガティブコントロール細胞を、非反応性のアイソタイプマッチコントロール抗体であるMM605で染色した。
【0026】
図11は、LkT抗原を、0日目及び再度21日目に単独で(LkT)又はBHV−1とともに(GL756+LkT)子牛に投与した(21日目はLkT単独で投与した)研究からの例となるデータを図示している。コントロール子牛には、0日目にBHV−1(GL756)だけを投与した。記載の日にその子牛から血清を入手し、LkTに特異的な抗体のレベルを、ELISAを用いて測定した。エラーバーは、測定に対する平均値の標準誤差(SEM)を示している。三角は、LkT動物と比較して、GL756+LkT動物由来の血清サンプル中のLkT特異的抗体のレベルに有意差が存在した時点を示している。
【0027】
図12は、LkT抗原を、0日目及び再度21日目に単独で(LkT)又はBHV−1とともに(GL756+LkT)子牛に投与した(21日目はLkT単独で投与した)研究からの例となるデータを図示している。記載の日にその子牛から血清を入手し、LkTに特異的なIgG1及びIgG2抗体のレベルを、ELISAを用いて測定した。このデータは、IgG2に対するIgG1の比として表されている。エラーバーは、SEMを示している。
【0028】
図13は、LkT抗原を、0日目及び再度21日目に単独で(LkT)又はBHV−1とともに(GL756+LkT)子牛に投与した(21日目はLkT単独で投与した)研究からの例となるデータを図示している。コントロール子牛には、0日目にBHV−1(GL756)だけを投与した。23日目にその子牛から末梢血を得た。血液サンプル中の細胞をLkT抗原と接触させ、続いて、そのサンプル中のIL−2レベルを、ELISAを用いて測定した。
【0029】
図14は、相同組換えによって欠失改変を生成するために使用された、例となるBHV−1GL756ΔUL49.5(A)及びUs4Δ(B)欠失組換え構築物(DRC)を図示している。UL49.5(配列番号17)及びUs4(配列番号18)組換え構築物の例となるDNA配列もまた図示されている。
【0030】
図15は、BHV−1UL41(配列番号19)及びBHV−1LR−ORF2(配列番号20)組換え構築物の例となるDNA配列を図示している。
【0031】
図16は、欠失/組換えの部位に対する隣接プライマーを用いた、BHV−1GL756ΔUL49.5_EGFPクローンA1及びB8ならびにバックグラウンドGL756BHV−1のヌクレオチド増幅からの例となるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物を図示している。
【0032】
図17は、欠失/組換えの部位に対する隣接プライマーを用いた、BHV−1GL756ΔUs4_EGFPクローン1及び2ならびにバックグラウンドGL756BHV−1のヌクレオチド増幅からの例となるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物を図示している。
【0033】
図18は、UL49.5に対する抗体を用いた、BHV−1GL756ΔUL49.5クローンA1、A5、B7及びB8又はバックグラウンドGL756BHV−1の例となるウエスタンブロットを図示している。このウエスタンブロットによって、改変されたBHV−1における標的遺伝子の欠失が確認される。
【0034】
図19は、Us4に対する抗体を用いた、BHV−1GL756ΔUL49.5クローンA1、B8;GL756ΔUs4クローン1、2又はバックグラウンドGL756 BHV−1の例となるウエスタンブロットを図示している。このウエスタンブロットによって、改変されたBHV−1における標的遺伝子の欠失が確認される。
【0035】
図20は、BHV−1GL756ゲノムのUL49.5遺伝子内の変異(2つの終止コドンの挿入)及びUL41遺伝子内の変異(完全な欠失)を図示している。この図示の上部には、そのゲノムのユニーク領域(U及びU)及び反復領域(IR及びTR)が示されている。この図示の下部には、そのゲノムのJフラグメント内のUL49.5遺伝子及びIフラグメント内のUL41遺伝子が示されている。
【0036】
図21は、BHV−1GL756ゲノムのUs4遺伝子内の変異(部分的な欠失及び挿入)を図示している。この図示の上部には、そのゲノムのユニーク領域(U及びU)及び反復領域(IR及びTR)が示されている。この図示の下部には、そのゲノムのKフラグメントのUs4遺伝子が示されている。
【0037】
図22は、BHV−1GL756ゲノムのCirc遺伝子内の変異(完全な欠失)を図示している。この図示の上部には、そのゲノムのユニーク領域(U及びU)及び反復領域(IR及びTR)が示されている。この図示の下部には、そのゲノムのNフラグメント内のCirc遺伝子が示されている。
【0038】
図23は、MDBK細胞におけるBHV−1ウイルスの成長曲線を図示している。これらのウイルスは、GL756バックグラウンドを有した。GL756(BHV−1WT)、GL756のUL49.5変異体(BHV−1ΔUL49.5)、GL756の2つのUL41変異体のクローン(BHV−1ΔUL41:1606及びBHV−1ΔUL41:1607)、2つのUL41/UL49.5二重変異体のクローン(BHV−1ΔUL41/UL49.5:1614及びBHV−1ΔUL41/UL49.5:1616)、GL756のCirc変異体(BHV−lΔCirc:1697)及びUs4変異体(BHV−lΔUs4gG:1698)を試験した。
【0039】
図24は、MHCクラスI分子の細胞表面発現に対するBHV−1GL756及び改変されたBHV−1の作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。モック感染MDBK細胞、BHV−1GL756又はGL756ΔUL4.5クローンA1又はB8に感染したMDBK細胞を、MHCクラスI分子に特異的な抗体であるモノクローナル抗体PT85Aで染色した。ネガティブコントロール細胞を、非反応性のアイソタイプマッチコントロール抗体であるMM605で染色した。
【0040】
図25は、MHCクラスI分子の細胞表面発現に対するBHV−1GL576及びGL756ΔUL49.5−ΔUL41の作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。モック感染MDBK細胞、BHV−1GL756又はGL756ΔUL49.5−ΔUL41に感染したMDBK細胞を、MHCクラスI分子に特異的な抗体であるモノクローナル抗体PT85Aで染色した。ネガティブコントロール細胞を、非反応性のアイソタイプマッチコントロール抗体であるMM605で染色した。
【0041】
図26は、MHCクラスI分子の細胞表面発現に対する様々な変異体BHV−1ウイルスの作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。このデータは、モック感染細胞(100%)と比較した、パーセント発現として表されている。MDBK細胞をBHV−1GL576、GL756ΔUL49.5、GL756ΔUL41又はGL756ΔUL49.5−ΔUL41に感染させ、MHCクラスI分子と反応性の抗体で染色した。
【0042】
図27は、MHCクラスI分子の発現に対する様々な変異体BHV−1ウイルスの作用の例となるウエスタンブロッティングデータを図示している(上部)。このブロットをスキャンして定量化し、データを、モック感染細胞(100%,下部)に対するパーセント発現として表している。MDBK細胞をBHV−1GL576、GL756ΔUL49.5、GL756ΔUL41、GL756ΔUL49.5−ΔUL41、GL756ΔCirc又はGL756ΔUs4に感染させた。
【0043】
図28は、MHCクラスII分子の細胞表面発現に対するBHV−1及び様々な変異体BHV−1ウイルスの作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。このデータは、モックに感染し、IFN−γで処理された細胞(100%)と比較した、パーセント発現として表されている。MDBK細胞を、BHV−1GL576(WTクローン1584)、GL756ΔUL49.5(クローン1610)、GL756ΔUL41(クローン1606)、GL756ΔUL41(クローン1607)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41(クローン1614)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41(クローン1616)、GL756ΔCirc(クローン1697)又はGL756ΔUs4(クローン1698)に感染させ、4℃で30分間、次いで、37℃で1時間インキュベートした後、IFN−γ処理を行った。感染の72時間後に、細胞をMHCクラスIIに特異的なモノクローナル抗体CAT82Aで染色した。ネガティブコントロール細胞は、染色されなかった。
【0044】
図29は、MHCクラスII分子の細胞表面発現に対する様々な変異体BHV−1ウイルスの作用の、例となるフローサイトメトリーデータを図示している。このデータは、MHCクラスII発現のパーセント回復として表されている(すなわち、GL576に感染した細胞におけるMHCクラスIIレベルに0という値が与えられ;モック感染細胞に存在するレベルへのMHCクラスIIの回復に100という値が与えられる)。IFN−γで処理されたMDBK細胞を、BHV−1GL576(WTクローン1584)、GL756ΔUL49.5(クローン1610)、GL756ΔUL41(クローン1606)、GL756ΔUL41(クローン1607)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41(クローン1614)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41(クローン1616)、GL756ΔCirc(クローン1697)又はGL756ΔUs4(クローン1698)に感染させ、MHCクラスII分子と反応性の抗体で染色した。
【0045】
図30は、LkT抗原を、0日目及び再度21日目に単独で(LkT)、BHV−1GL756とともに(GL756+LkT)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41又はGL756ΔUs4とともに子牛に投与した(21日目はLkT単独で投与した)研究からの例となるデータを図示している。記載の日にその子牛から血清を入手し、LkTに特異的なIgG1及びIgG2抗体のレベルを、ELISAを用いて測定した。このデータは、IgG2に対するIgG1の比として表されている。エラーバーは、SEMを示している。
【0046】
図31は、LkT抗原を、0日目及び再度21日目にBHV−1GL756とともに(LkT+GL756)、GL756ΔUL49.5−ΔUL41又はGL756ΔUs4とともに子牛に投与した(21日目はLkT単独で投与した)研究からの例となるデータを図示している。23日目にその子牛から末梢血を得た。その血液サンプル中の細胞をLkT抗原と接触させ、続いて、サンプル中のIL−2レベルを、ELISAを用いて測定した。
【発明を実施するための形態】
【0047】
詳細な説明
BHV−1ウイルスは、感染した宿主の免疫抑制を引き起こすと知られている。BHV−1が、ワクチンとして宿主に投与されると、BHV−1は、BHV−1とともに投与されうる免疫原に対する免疫応答も抑制するか、又は低下させることができる。本願は、感染した宿主の免疫を正常な野生型BHV−1ウイルスよりも低い程度にしか抑制しないBHV−1ウイルスを記載する。本明細書中に開示されるBHV−1ウイルスは、BHV−1とともに投与される免疫原に対する免疫応答の抑制又は低下も軽減することができる。いくつかの場合において、発明性のあるBHV−1ウイルスとともに投与される免疫原が単独で(BHV−1なしで)投与されるときに惹起される免疫応答と比較して、その免疫原に対する免疫応答は、抑制されない。いくつかの場合において、発明性のあるBHV−1ウイルスとともに投与される免疫原が単独で投与されるときに惹起される免疫応答と比較して、その免疫原に対する免疫応答が増強される。発明性のあるBHV−1ウイルス及び追加の免疫原を含む組成物もまた開示される。宿主への同時投与又は併用ワクチンにおける投与によって、発明性のあるBHV−1ウイルスを使用してBHV−1及び追加の免疫原に対する免疫応答を宿主において誘発する方法もまた開示される。
【0048】
本発明の実施は、別段示されない限り、当該分野の技術の範囲内の、従来のウイルス学、微生物学、分子生物学及び組換えDNA法を使用する。これらの手法は、文献に十分に説明されている。
【0049】
本明細書中で引用されるすべての特許、特許出願及び刊行物は、前出又は後出を問わず、それらの全体が本明細書によって参考として援用される。以下の用語は、本発明を記載する際に以下に示される定義に従って使用される。
【0050】
定義
「ワクチン組成物」及び「ワクチン」とは、現在の害が緩和されるか又は将来の害から保護するように、動物において免疫学的応答を刺激するために使用される薬剤のことを指す。「同時投与されるワクチン」は、ほぼ同時であるが、別個の投薬として与えられるか又は投与されるワクチンである。本明細書中で使用されるとき、ほぼ同時は、最初の投薬と最初の投薬の5日後との間の任意の時点でありうる。「併用」又は「カクテルワクチン」は、複数の免疫原を用いて製造され、単回投薬として送達される、2つ以上の病原体に対する免疫学的応答を刺激するワクチンである。
【0051】
「二本鎖DNA分子」とは、その正常な二本鎖らせんでのデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン又はシトシン)の多量体型のことを指す。この用語は、その分子の一次構造及び二次構造のことだけを指し、それを任意の特定の三次の形態に限定しない。したがって、この用語は、とりわけ線状DNA分子(例えば、制限フラグメント)、ウイルス、プラスミド及び染色体において見られる二本鎖DNAを含む。特定の二本鎖DNA分子の構造について論じる際、配列は、DNAの非転写鎖に沿って5’から3’方向でその配列だけを与える通常の慣例に従って本明細書中で記載されうる(すなわち、その鎖は、mRNAに相同な配列を有する)。
【0052】
DNA「コード配列」は、適切な調節配列の支配下に置かれたときに、転写され、ポリペプチドに翻訳されるDNA配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドン及び3’(カルボキシ)末端における翻訳終止コドンによって決定される。コード配列としては、原核生物の配列、真核生物のmRNAからのcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)のDNAからのゲノムDNA配列、及び合成DNA配列が挙げられうるが、これらに限定されない。ポリアデニル化シグナル配列及び転写終結配列は、通常、コード配列に対して3’に位置する。ポリヌクレオチドは、天然の状態であるか又は当業者に周知の方法によって操作されているときに、それが転写及び/又は翻訳されることによりポリペプチド及び/又はそのフラグメントに対するmRNAを生成することができる場合に、ポリペプチドを「コードする」と言われる。アンチセンス鎖は、そのような核酸の相補体であり、コード配列は、それから推定することができる。
【0053】
DNA「調節配列」とは、宿主細胞においてコード配列の転写及び翻訳を集合的に提供する、プロモーター配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、エンハンサーなどのことを集合的に指す。
【0054】
「組換え核酸」は、天然に存在しない核酸、又は別途分断された配列の2つのセグメントの人工的な組み合わせによって作製される核酸である。この人工的な組み合わせは、化学合成手段、又は例えば、遺伝子操作法による核酸の単離されたセグメントの人工的な操作によって、達成されることが多い。これは、典型的には、配列認識部位を導入又は除去しつつ、あるコドンを、同じ又は保存的なアミノ酸をコードする重複コドンで置き換えるために行うことができる。あるいは、所望の機能の核酸セグメントをつなげることにより、所望の機能が組み合わされるために行われる。単離及び操作された遺伝子配列の発現産物として生成されたポリペプチドは、本明細書中で使用されるとき、相同な細胞型において発現されるとしても、「単離されたポリペプチド」である。合成的に作製された形態又は相同でない細胞によって発現している分子は、本質的には、単離された分子である。
【0055】
「組換えポリペプチド」とは、組換えDNA法又は組換え核酸によって生成されるポリペプチド;すなわち、所望のポリペプチドをコードする外来性DNA構築物によって形質転換された細胞から生成されるポリペプチドのことを指す。
【0056】
「プロモーター配列」又は「プロモーター」は、細胞内のRNAポリメラーゼに結合することができ、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することができる、DNA調節領域である。本発明を定義する目的で、プロモーター配列は、その3’末端でコード配列の翻訳開始コドン(ATG)に結合しており、転写を開始するため及び転写をバックグラウンドより高い検出可能なレベルで適切に調節するために必要な最小数の塩基又はエレメントを含むように上流(5’方向)に伸びている。転写開始部位ならびにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインが、プロモーター配列内に見られる。真核生物のプロモーターは、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含むことが多いが、必ず含むわけではない。原核生物のプロモーターは、−10及び35コンセンサス配列に加えてシャイン−ダルガルノ配列を含むことがある。
【0057】
「作動可能に連結された」とは、そのように記載される構成要素が、それらの意図される様式で機能できる関係性で存在する、構成要素の並置のことを指す。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響する場合、そのプロモーターは、そのコード配列に作動可能に連結されている。
【0058】
2つのDNA配列又はポリペプチド配列は、別段具体的に述べられない限り、そのヌクレオチド又はアミノ酸の少なくとも約85%(好ましくは、少なくとも約90%、最も好ましくは、少なくとも約95%)が、その分子の規定の長さにわたってマッチするとき、「実質的に相同」である。実質的に相同であるDNA配列は、特定の系について定義されるとき、例えば、ストリンジェントな条件下のサザンハイブリダイゼーション実験において、同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当該分野の技術の範囲内である。
【0059】
用語「機能的に等しい」は、コードされるタンパク質のアミノ酸配列が、特定の免疫原又はタンパク質(通常、天然のタンパク質)の生物学的応答と等しい生物学的応答を誘発するアミノ酸配列であることを意図している。いくつかの場合において、この生物学的応答は、免疫学的応答である。いくつかの場合において、この生物学的応答とは、コードされるタンパク質が宿主において免疫学的応答を抑制する能力のことを指す。「機能的に等しくない」とは、天然のタンパク質によって媒介される生物学的応答と等しくない生物学的応答のことを指す。さらに、ある遺伝子配列は、別の遺伝子配列が同一のポリペプチド又は本来機能的に等しいポリペプチドをコードする場合、その別の遺伝子配列と機能的に等しい。
【0060】
用語「ポリペプチド」は、その最も広い意味において使用され、すなわち、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の任意のポリマー(ジペプチド又はそれ以上)である。したがって、用語「ポリペプチド」は、タンパク質、オリゴペプチド、タンパク質フラグメント、アナログ、ムテイン、融合タンパク質などを含む。「糖タンパク質」は、グリコシル化されたポリペプチドである。
【0061】
「天然の」タンパク質又はポリペプチドとは、野生型BHV−1タンパク質及びそのフラグメントと同一の配列を有するタンパク質又はポリペプチドのことを指す。「天然の」遺伝子は、野生型BHV−1に見られる遺伝子又はそのフラグメントと同一のヌクレオチド配列を有する遺伝子である。
【0062】
遺伝子の「改変」は、本明細書中で使用されるとき、バックグラウンドBHV−1タンパク質と比較して、機能的に等しくないBHV−1タンパク質をもたらす、BHV−1タンパク質に対する遺伝子又はそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列の変異、置換又は欠失のことを意味する。完全に欠失した又は部分的に欠失した遺伝子もまた、改変を受けている。完全に欠失した遺伝子は、通常、タンパク質をコードしない。部分的に欠失した遺伝子は、改変されたタンパク質をコードすることができる。遺伝子の改変は、遺伝子への1つ以上の配列の挿入も含むことがある。遺伝子の改変は、個別のタイプの改変又は変異の組み合わせを含むことがある。1つの例では、遺伝子の一部が欠失されて、追加の配列が、もとの欠失の位置又はその遺伝子内の別の位置に挿入されることがある。
【0063】
タンパク質配列もまた改変されることがある。改変されたタンパク質は、改変された遺伝子によってコードされることがある。改変されたタンパク質は、一般に、改変されていないタンパク質又は天然のタンパク質とは異なるアミノ酸配列を有する。いくつかの場合において、改変されたタンパク質は、天然のタンパク質と同じ機能を有しない。この場合、改変されたタンパク質は、バックグラウンドBHV−1と比較して、機能的に等しくないタンパク質であることもある。その改変されたタンパク質は、バックグラウンドBHV−1と比較して、アミノ酸の変異、置換又は欠失を有することがある。ある特定の実施形態において、ある遺伝子又はタンパク質は、野生型の遺伝子又はタンパク質と機能的に等しくないタンパク質をもたらす場合、改変されている。遺伝子及びタンパク質を改変する手法(例えば、遺伝子欠失構築物及び細菌人工染色体(BAC))は、当該分野において周知であり、これは、限定を意味しない。本発明の遺伝子又はタンパク質配列を改変するいずれの方法を用いてもよい。例えば、機能的に等しくないタンパク質をもたらす任意の改変手法が、用いられてもよい。遺伝子改変には、その遺伝子のコード配列ではなく、その遺伝子の発現レベルに影響する調節配列への変更も含まれることがある。1つの例において、このタイプの改変によって、遺伝子の発現のダウンレギュレーションがもたらされることがある。
【0064】
本発明の文脈の中で、特定の遺伝子において行うことができる改変のタイプは、1つには、コードされるタンパク質の機能に依存することがある。1つの例において、特定のBHV−1遺伝子によってコードされるタンパク質は、BHV−1とともに投与される抗原に対する宿主の免疫学的応答を抑制すると知られている場合がある。ゆえに、その遺伝子からタンパク質が発現されないようにその遺伝子が欠失されることが望ましい場合がある(例えば、完全な遺伝子欠失)。しかしながら、BHV−1はワクチン株として使用されるにはあまりにも毒性であり、特定のBHV−1遺伝子によってコードされるタンパク質を欠く場合がある。これが生じうる唯一の状態ではないが1つの状態は、特定のBHV−1遺伝子によってコードされるタンパク質が、宿主において強い免疫学的応答を部分的に刺激する強い免疫原である場合である。このタンパク質がウイルスに存在しないことにより、宿主は、感染ウイルスを食い止めるのに十分な免疫学的応答を起こすことができなくなる場合がある。疾患又は他の有害な副作用が、宿主において生じうる。この問題に対する1つの有望な解決策は、特定のBHV−1遺伝子を改変することであり、それにより、コードされたタンパク質は、なおも免疫原性であるが、宿主の免疫学的応答を抑制できなくなる。このように、宿主は、なおも感染BHV−1ウイルスを食い止めるのに十分な免疫学的応答を起こすことができる場合があるが、宿主の免疫学的応答を抑制するタンパク質の機能は、無能力にされている。他のシナリオも存在することがあり、ここで、宿主の免疫系を抑制すると知られている特定のBHV−1遺伝子におけるすべてのタイプの改変が使用されうるわけではない。当業者は、この問題及び同様の問題を特定し、解決するアプローチの知識を有する。
【0065】
本明細書中で使用されるとき、「MHC関連タンパク質」は、抗原のプロセシング及びMHCクラスI分子又はMHCクラスII分子を介した抗原の提示の経路に直接関与する任意のタンパク質である。これらのタンパク質は、当業者に周知である。したがって、MHC関連タンパク質は、MHC分子だけでなく、限定されないが、宿主動物の抗原プロセシングに関連するトランスポーター(TAP)タンパク質などのMHCクラスI提示のための抗原の輸送において活性なタンパク質であってもよい。
【0066】
「マーカー遺伝子」とは、感染した動物をワクチン接種された動物と識別するために使用することができる遺伝子のことを指す。本明細書中で使用されるとき、マーカー遺伝子は、診断テストを用いて測定することができる方法において、野生型遺伝子とは異なる。マーカーワクチンは、少なくとも1つのマーカー遺伝子を含むワクチンである。本発明の1つの実施形態において、マーカー遺伝子は、BHV−1UL49.5、BHV−1UL41、BHV−1Us4又はBHV−1Circである。他の実施形態において、マーカー遺伝子は、BHV−1Us8である場合がある。ワクチン中のマーカー遺伝子は、当該分野で公知であるように、「DIVA」(感染動物をワクチン接種動物と識別する)ワクチンのために使用される場合がある。1つの例において、診断テストは、投与されたBHV−1ワクチン(DIVAワクチン)と宿主に自然に感染したBHV−1とを識別するように設計及び使用されることがある。
【0067】
BHV−1タンパク質又はBHV−1遺伝子の「変異体アナログ」は、本明細書中で使用されるとき、1つ以上の改変によって野生型BHV−1タンパク質又は野生型BHV−1遺伝子配列とは異なる、アミノ酸配列を有するタンパク質又はヌクレオチド配列を有する遺伝子のことを意味する。
【0068】
「宿主」とは、自然にBHV−1感染を獲得することができる動物のことを指す。したがって、宿主は、その宿主がBHV−1にすでに感染しているのか、潜伏感染しているのかに関わらず、BHV−1感染に対して免疫化することが望ましい場合がある動物である。一般に、宿主は、有蹄動物である。有蹄動物宿主は、ウシである場合があり、それには、任意の血統及び任意の齢のウシが含まれる。ウシ宿主には、子牛ならびに成体のウシが包含され、雄の子牛、雄牛、若い雌牛、雌牛及び子牛を含むと意図される。ウシ(Bovine)又はウシ(cattle)は、妊娠中の牛動物及び泌乳牛動物を含むことがある。動物への応用が、本発明によって明らかに企図される。いくつかの実施形態において、本発明の組成物及びワクチンは、妊娠中、保育中又は約3月齢未満である宿主には投与されないはずである。ある特定の実施形態において、本発明の組成物及びワクチンは、1月齢又はおよそ1月齢の宿主に投与される。なおも追加の実施形態において、本発明の組成物及びワクチンは、妊娠中の動物に投与される。これらの実施形態において、本組成物及びワクチンは、胎児への感染を予防するために投与されることがある。他の実施形態において、本組成物及びワクチンは、交配の約30日以内の宿主には投与されないはずである。
【0069】
「抗原」とは、宿主の免疫系を刺激することにより、分泌性、体液性及び/又は細胞性の抗原特異的応答をもたらす1つ以上のエピトープを含む分子のことを指す。この用語は、「免疫原」と交換可能に使用される。特定の抗原は、タンパク質、多糖、リポ多糖、リポペプチド又は他の分子でありうるか;又はこれらの任意の組み合わせでありうる。他の組み合わせもありうる。特に、特定の抗原は、天然のタンパク質もしくはタンパク質フラグメント、あるいは合成タンパク質もしくは合成タンパク質フラグメント又は合成ペプチドを含むことができるか;特定の抗原は、糖タンパク質、糖ペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、核タンパク質、ヌクレオペプチドを含むことができるか;特定の抗原は、ペプチド−ペプチド結合体を含むことができるか;又は特定の抗原は、組換え核酸発現産物を含むことができる。抗原の非限定的な例としては、ウイルス性ウシヘルペスウイルス、ウシ呼吸器系ウイルス、ウシウイルス性下痢症ウイルス、ウシコロナウイルス及び「輸送熱」に通常関連する細菌の株に対する免疫応答を誘発することができる抗原が挙げられるがこれらに限定されない。
【0070】
用語「免疫原の有効量」は、実証可能な体液性、分泌性及び/又は細胞媒介性の免疫応答を誘発することができる免疫原の量を定義する。使用される免疫原の適切な量は、特定の免疫原に依存し、当該分野で周知である。
【0071】
用語「エピトープ」とは、特定の抗体分子が結合するか又はT細胞によって認識される、免疫原上又はハプテン上の部位のことを指す。この用語は、「抗原決定基」又は「抗原決定部位」とも交換可能に使用される。
【0072】
「免疫応答」は、個体における細胞性及び/又は抗体媒介性の免疫応答の発生である。通常、そのような応答としては、以下の効果;目的の組成物中又はワクチン中に含まれる抗原(単数又は複数)に特異的に向かう、抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞及び/又は細胞傷害性T細胞及び/又はγδT細胞の産生の1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。前の文に記載したような抗体、B細胞、T細胞などによって定義されるような免疫応答をもたらすことができる構成要素は、多く存在する。これらの構成要素の測定を用いることにより、体液性応答、細胞性応答、体液性応答と細胞性応答との組み合わせ又は他の応答が存在するか又は変更されているか否かが推測されることがある。例えば、特異的抗体又は抗原特異的細胞傷害性T細胞の形態を取りうるそれぞれ体液性又は細胞性の免疫応答が、種々の構成要素によって影響されうる。1つの構成要素は、特異的エピトープが、抗原提示細胞(APC)又は他の細胞の表面上でMHCクラスI及び/又はMHCクラスII分子を背景としてT細胞に「提示」される能力でありうる。それゆえ、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII分子の存在又はレベルは、ある生物が、特定のタイプの免疫応答を起こす能力を示唆することがある。また、経時的な、又は様々な状況における、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII分子のレベルの変化は、特定のタイプの免疫応答が存在するか又は存在しうることに関して推測させることがある。
【0073】
免疫学的応答の別の構成要素は、ある生物の免疫系にすでに提示されていて、1次免疫応答を刺激することにより、2次免疫応答を刺激するか又は1次免疫応答を「リコール」する抗原の能力である。抗原が、免疫応答をリコールするために使用されるとき、様々なサイトカインが、そのプロセスに関与する免疫細胞によって分泌されることがある。1つの場合において、インターロイキン−2(IL−2)の変化の測定が、免疫原が1次免疫応答をリコールしたか及びその程度を推測するために使用されることがある。免疫応答のリコールは、IL−2の量に比例することがある。
【0074】
体液性の免疫応答に関連して、例えば、この免疫応答が存在するか否か及び病原体から保護的でありうるか否かに特徴的なものは、その病原体の抗原に特異的な血清抗体のレベルでありうる。抗体のレベルに加えて、特異的な抗体のアイソタイプ(isotope)もしくはアイソタイプの組み合わせ、又は、所与の抗体アイソタイプに対する特定のサブタイプもしくはサブクラス、あるいは特定のサブタイプもしくはサブクラスの組み合わせ又は比に情報価値がある場合がある。1つの例において、血清は、様々なサブタイプのIgGアイソタイプを含むことがある。IgG1サブタイプは、特定の抗原を中和している(ゆえに、保護的であると考えられる)抗体でありうる。IgG2サブタイプは、特定の抗原を中和していない(ゆえに、保護的でないか又はIgG1サブタイプよりも保護的でない)抗体でありうる。それゆえ、この例では、より高いIgG1/IgG2比(所与の抗原に特異的なIgGについて)が、より低いIgG1/IgG2比よりも所与の抗原に対して良好な免疫学的応答に対する潜在能力を示唆することがある。
【0075】
免疫学的応答又は免疫学的応答の成分は、通常、イムノアッセイを用いて測定される。免疫学的応答の増加は、野生型BHV−1感染の後又は市販のBHV−1ワクチンによる感染の後の免疫学的応答に対して測定することができる。免疫学的応答の低下は、市販のBHV−1ワクチンを用いた感染又は感染していない細胞と比較して、測定することができる。いくつかの実施形態において、免疫学的応答の低下は、MHCクラスIの細胞表面発現を評価することによって判定される。他の実施形態において、免疫学的応答の低下は、細胞表面発現あり又はなしでの、MHCクラスIの細胞質発現を評価することによって判定される。他の実施形態において、免疫学的応答の低下は、MHCクラスII発現を評価することによって判定される。追加の実施形態において、免疫学的応答の低下は、サイトカイン及び他の免疫応答指標を評価すること(例えば、指標として、同時投与された免疫原に対する宿主応答の免疫抑制を測定すること)によって判定される。免疫学的応答及び免疫学的応答の成分を測定するために使用される方法は、当該分野で周知であり、これは、限定を意味しない。
【0076】
用語「免疫原性ポリペプチド」及び「免疫原性アミノ酸配列」とは、ウイルスの感染性を中和すること及び/あるいは抗体補体依存性もしくは抗体依存性の細胞傷害又は細胞性免疫を媒介することにより、免疫された宿主の保護をもたらす抗体を誘発する、それぞれポリペプチド又はアミノ酸配列のことを指す。「免疫原性ポリペプチド」は、本明細書中で使用されるとき、挿入されたタンパク質の完全長(又はほぼ完全長)の配列又はその免疫原性フラグメントを含む。「免疫原性フラグメント」は、1つ以上のエピトープを含み、ゆえにウイルスの感染性を中和すること及び/又は抗体補体依存性もしくは抗体依存性の細胞傷害又は細胞性免疫を媒介することにより、免疫された宿主の保護をもたらす抗体を誘発する、ポリペプチドのフラグメントのことを意味する。これらのフラグメントは、少なくとも約5アミノ酸長、ある特定の実施形態では、少なくとも約10〜15アミノ酸長でありうる。フラグメントの長さについての決定的な上限はないが、そのフラグメントは、そのタンパク質配列のほぼ完全長を含みうるか、又は2つ以上のサブユニット抗原のフラグメントを含む融合タンパク質さえも含みうる。
【0077】
用語「処置」及び「処置される」は、本明細書中で使用されるとき、感染もしくは再感染を予防すること(予防)、又はBHV−1の症状(治療)もしくは追加の免疫原に関連する他の疾患を減少させるかもしくは排除する組成物を個体に投与することを指す。本明細書中で使用されるとき、処置は、再活性化の後のウイルス排出によって測定されるときに、野生型BHV−1の感染後の再活性化と比較してBHV−1の潜伏−再活性化サイクルが短縮するか又は妨げられる場合にも、生じる。例えば、1次感染中又は潜伏中に便の中に排出されるBHV−1の量が減少するか又はなくなる場合に、動物宿主は、処置されている。動物宿主は、潜伏感染の時間が短縮する場合にも処置されている。この処置の成功は、眼球からの排出の減少又は扁桃もしくはTGにおける感染性ウイルスの排出の減少によって判定されてもよい。
【0078】
「潜伏−再活性化サイクル」とは、BHV−1の潜伏の確立、潜伏の維持及び再活性化のプロセスのことを指す。潜伏の確立は、急性感染を含む。潜伏の維持は、宿主の生涯にわたって継続し、感染性ウイルスが標準的なウイルス単離手順によって検出されない期間と運用上定義することができる段階である。「再活性化」及び「潜伏からの再活性化」とは、コルチコステロイドを外因性投与した後又はストレスの結果として天然のコルチコステロイドが高レベルになった後の、ウイルスの再活性化のプロセスのことを指す。免疫抑制は、ウイルスの遺伝子発現を刺激することにより、再活性化を引き起こすこともある。再活性化されると、大量のウイルスの遺伝子発現が、感覚ニューロンにおいて検出されることがあり、感染性のBHV−1ウイルスを、三叉神経節、眼のスワブ及び/又は鼻のスワブから単離することができる。再活性化中、ウイルスは、最初の感染部位に戻り、そこから他の感受性の宿主に伝播することができる。潜伏から再活性化することができることによって、反復性の疾患及びウイルス伝染がもたらされる。
【0079】
ウイルス株の病原性及び/又は毒性が低下して、特定の疾患をもたらさずに免疫学的応答を惹起するとき、そのウイルスは、「弱毒化されている」。本明細書中で使用されるとき、改変された生ワクチン(MLV)は、弱毒化された生ウイルスを含むワクチンである。いくつかの実施形態において、本発明のワクチンは、さらに弱毒化される。例となるさらに弱毒化されたウイルスは、従来の弱毒化された生ウイルスワクチンによるワクチン接種と比較して、発熱、リンパ球減少症、乳汁産生の低下、飼料摂取の低下、自然妊娠中の雌牛における流産及び3日齢未満の子牛における致死性ウイルス血症を減少させるか又は無くすウイルスである。ある特定の実施形態において、BHV−1ウイルスは、さらに弱毒化される。
【0080】
「薬学的に許容可能なビヒクル」は、意図される投与経路と適合であるように製剤化され、本明細書中で用語「獣医学的に許容可能なキャリア」又は「獣医学的に許容可能なビヒクル」と相互交換可能である。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮的(局所的)、経粘膜的、直腸及び他の投与が挙げられる。非経口、皮内又は皮下適用のために使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分:滅菌希釈剤(例えば、注射用水、食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン);酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸又は重亜硫酸ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝液(例えば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩);及び張度を調整するための薬剤(例えば、塩化ナトリウム又はデキストロース)を含むことができる。塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基を用いてpHを調整することができる。非経口用調製物は、ガラス製又はプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器又は反復投与用バイアル内に封入することができる。
【0081】
「欠失改変」又は「欠失変異体」は、一般に、タンパク質のオープンリーディングフレーム内に、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失を有する遺伝子配列を含む。当業者が理解するように、ある特定の場合において、欠失変異は、点変異を含んでよい。ある特定の実施形態において、欠失変異体は、改変されたヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質のタンパク質発現がノックアウトされているか、又は無くされている。他の実施形態において、欠失変異体は、発現されるが、野生型タンパク質と機能的に等しくないタンパク質をもたらす。いくつかの実施形態において、欠失変異体は、遺伝子配列全体を失っている。これらの欠失変異体は、完全欠失と呼ばれることがある。他の実施形態において、欠失変異体は、その遺伝子配列の1%未満、1%〜5%、5%〜10%又はそれ以上を失っている。これらの欠失変異体は、部分欠失と呼ばれることがある。ある特定の実施形態において、欠失は、単一ヌクレオチドの欠失によって定義されるような点欠失である。欠失改変又は欠失変異体は、2つ以上の単一ヌクレオチドの欠失も含むことがある。
【0082】
「レポーター遺伝子」は、プロモーターに天然に作動可能に連結されているコード配列以外の、その発現を検出又は測定することができる任意の配列でありうる。典型的には、レポーター遺伝子は、プロモーター活性が測定される細胞にとって異種である。レポーター遺伝子の例としては、緑色蛍光タンパク質(又は他の任意の蛍光マーカー)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)、β−グルクロニダーゼ(gus)、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)、ルシフェラーゼなどをコードする遺伝子が挙げられるがこれらに限定されない。レポーター遺伝子の発現は、いくつかの従来の方法のいずれかによって測定することができ、最適な方法は、レポーター遺伝子の性質及び機能などの因子に依存する。一般に、レポーター遺伝子発現の好適なアッセイとしては、(i)レポーター遺伝子の生成物の機能をアッセイすること(例えば、レポーター遺伝子の生成物によって触媒される酵素反応を測定すること);(ii)レポーター遺伝子から発現されるタンパク質のレベルを測定すること(例えば、SDS−PAGEによって、又はレポーター遺伝子の生成物に特異的に結合する抗体(例えば、ポリクローナル又はモノクローナル抗体)を用いるイムノアッセイにおいて);及び(iii)レポーター遺伝子から転写されたmRNAのレベルを測定することなどの方法が挙げられる。試験化合物のハイスループットスクリーニングを可能にするアッセイが、本発明に含められる。1つの例において、GFP又はEGFPの発現は、白色光における緑色蛍光の可視化によって検出することができる。
【0083】
改変されたBHV−1ウイルス
広く、多くの実施形態において、本発明は、BHV−1の野生型又はワクチンウイルスに感染したときに見られる宿主の免疫抑制を防止するため又は減少させるために、改変された生BHV−1ワクチンウイルスのBHV−1遺伝子の改変を含む。1つの例において、BHV−1の改変によって、BHV−1とともに投与される免疫原に特異的な免疫学的応答を減少させるか又は抑制することがそれほどできないか又はまったくできないウイルスが生じる。1つの例において、BHV−1の改変は、追加の非BHV−1免疫原とともに投与されるときに、追加の免疫原が単独で(BHV−1なしで)投与されるときに生じる免疫学的応答よりも強い、追加の免疫原に対する免疫学的応答を生じるウイルスをもたらす。
【0084】
一般に、本発明において使用されるBHV−1は、生ウイルスである。このウイルスは、弱毒化されていてもよいし、されていなくてもよい。ある特定の実施形態において、改変された死滅BHV−1ウイルスが、使用されることがある。本発明は、同時投与される追加の免疫原及び/又は併用ワクチン中の追加の免疫原に対する宿主応答の免疫抑制を軽減する方法も提供する。本発明は、発明性のあるワクチンを用いて宿主動物を処置する方法も提供する。
【0085】
本発明は、改変されたBHV−1遺伝子を含む組成物及びワクチンを含み、ここで、その遺伝子は、ウシヘルペスウイルス感染中の宿主の免疫学的応答の低下を処置するため、ならびに/又は同時投与される追加の免疫原及び/もしくは併用ワクチン中の追加の免疫原に対する宿主応答の免疫抑制を軽減するために、改変されている。ほとんどの実施形態において、BHV−1.1とBHV−1.2の両方のサブタイプを処置するワクチンが、本発明によって包含される。本発明のワクチンを使用する方法もまた、構想される。多くであって確かにすべてではないが、免疫系を抑制する際に活性であるBHV−1遺伝子は、容易に認識される細胞性ホモログを有する。ある特定の実施形態において、改変は、MHC免疫原プロセシング及び提示に関与する遺伝子における改変である。MHCクラスIは、脊椎動物のすべての有核細胞上に見られる抗原提示分子であり、一方、MHCクラスIIは、主にマクロファージ上及びBリンパ球上に見られる抗原提示分子である。改変は、MHCクラスIとMHCクラスIIの両方の機能に関わる遺伝子において生じてよい。
【0086】
多くの実施形態において、改変されたBHV−1遺伝子は、宿主のMHC関連タンパク質のダウンレギュレーションを引き起こすタンパク質及び又は宿主の免疫系の回避によってそのウイルスに対する宿主の免疫応答を避けるタンパク質をコードする遺伝子である。これらのタイプの遺伝子の例としては、BHV−1UL49.5[配列番号1]、BHV−1UL41[配列番号3]及びBHV−1Circ[配列番号5]が挙げられる。
【0087】
なおも他の実施形態において、改変された遺伝子は、補体の調節、細胞成長に対する作用及び/又はインターフェロン発現の干渉によって免疫機能を抑制するタンパク質をコードする。BHV−1Us4[配列番号11]は、ケモカイン結合タンパク質としての機能によって免疫調節性であると考えられている。
【0088】
BHV−1UL49.5遺伝子は、既知のすべてのヘルペスウイルスにおいて見られる高度に保存された糖タンパク質N(gN)と相同性であるタンパク質をコードする。gNは、細胞表面上のMHCクラスIのダウンレギュレーションに関与し、ゆえに、BHV−1が抗原提示及び宿主の免疫系の活性化を避けることが可能になる。本明細書によって参考として援用されるLipinskaら(2006)J.Virol.80:5822には、BHV−1UL49.5遺伝子が詳細に記載されている。
【0089】
BHV−1UL41遺伝子は、テグメント宿主シャットオフ(tegument host shutoff)タンパク質又はビリオン宿主シャットオフ(vhs)と相同であるタンパク質をコードする。このテグメント宿主シャットオフタンパク質は、MHCクラスI mRNAの発現をダウンレギュレートすることによる免疫抑制に関与するとみられる。Gopinathら(2002)Viral Immun.15:595には、BHV−1UL41の改変が記載されている。
【0090】
BHV−1Circ遺伝子は、ミリストイル化(myristylated)テグメントタンパク質と相同であるタンパク質をコードする。BHV−1ミリストイル化テグメントタンパク質は、MHCクラスIIの発現をダウンレギュレートするとみられる。Schwyzerら(2002)Vet.Microbiol.86:165には、Circが記載されている。
【0091】
BHV−1Us4遺伝子は、ケモカイン結合タンパク質である糖タンパク質(g)Gと相同であるタンパク質をコードする。Bryantら(2003)EMBO J.22:833には、Us4が記載されている。
【0092】
BHV−1Us9遺伝子は、潜伏の再活性化中に三叉神経節(trigerminal ganglia)から鼻の部位までの順行性輸送に関与する可能性のあるタンパク質をコードする。
【0093】
BHV−1LR−ORF1及び2遺伝子又は潜伏関連ORFは、潜伏感染の発生及び三叉神経節におけるウイルス存続に結びつけられている。
【0094】
BHV−1Us8遺伝子は、IgG媒介性の免疫応答を阻害すると考えられているタンパク質である糖タンパク質(g)Eと相同であるタンパク質をコードする。
【0095】
上で挙げられた遺伝子のすべての改変が、開示される本発明によって企図される。
【0096】
1つの実施形態において、改変されたBHV−1ウイルスは、単一遺伝子に改変を有することがある。他の実施形態において、改変されたBHV−1ウイルスは、2、3、4個又はそれ以上の別個の遺伝子に改変を有することがある。多くの実施形態において、アポトーシスにおいて活性な遺伝子の改変が、MHCのプロセシングにおいて活性な遺伝子の改変と併用され、これらの他の実施形態では、その改変は、限定されないが、アポトーシス又はプログラム細胞死の誘導又は抑制によって免疫学的応答を抑制する遺伝子における改変でありうる。非限定的な例として、改変は、UL49.5及びLR−ORF1に生じることがある[配列番号7]。なおも他の実施形態において、改変は、UL49.5、Us4及びLR−ORF1、又はUL49.5及びUs4だけに生じることがある。なおも別の実施形態において、改変は、UL49.5及びUL41に生じることがある。これらの実施形態が、単なる例示的なものであり、免疫抑制性遺伝子の様々な組み合わせが、本発明によって企図されることが理解される。ある特定の実施形態において、組成物は、改変された遺伝子が、免疫応答を刺激する際に相乗的に作用する能力に基づいて選択されうる。
【0097】
ある特定の実施形態において、組成物及びワクチンは、少なくとも1つの改変されたBHV−1UL49.5、BHV−1Us4、BHV−1UL41及び/又はBHV−1Circを含みうる。これらの改変された遺伝子は、一般に、免疫抑制を軽減すると認識されている。いくつかの実施形態において、4つすべての遺伝子が、改変されうる。他の実施形態において、1、2又は3つの遺伝子が、改変されうる。これらの遺伝子は、任意の組み合わせで改変されてよい。非限定的な例として、これらの遺伝子のうちの2つが改変されている組成物又はワクチンにおいて、それらの遺伝子は、BHV−1UL49.5及びBHV−141、UL49.5及びUs4、UL41及びUs4、ならびにBHV−1Circ及びBHV−1UL49.5でありうる。免疫抑制を軽減する際に活性な遺伝子に改変を含む実施形態において、BHV−1LR−ORF1及び2[配列番号9]ならびにBHV−1Us9[配列番号13]にも改変が生じることがある。逆に、BHV−1LR−ORF1及び2ならびに/又はBHV−1Us9だけに改変が生じている組成物及びワクチンが存在してもよい。改変は、BHV−1LR−ORF1及び2ならびにBHV−1Us9のいずれかに生じてもよいことが理解される。BHV−1LR−ORF1及び2ならびにBHV−1Us9は、BHV−1の潜伏及び排出を防止/減少する際に活性であると考えられる。なおも他の実施形態において、マーカー遺伝子は、免疫抑制において活性である遺伝子の改変及び/もしくはBHV−1の潜伏及び排出の防止/減少において活性である遺伝子の改変、又は免疫抑制遺伝子と潜伏遺伝子との両方における改変とともに改変されてもよい。そのマーカー遺伝子は、BHV−1Us8[配列番号15]でありうる。単一の実施形態において、ワクチンは、免疫抑制に関与する遺伝子における3つの改変からなることがある(潜伏に関与する遺伝子における2つの改変及びマーカー遺伝子における改変)。改変された遺伝子の組み合わせにおける唯一の制限は、得られる免疫原が、動物とワクチン調製物の両方において適合性でなければならないことである。
【0098】
本発明の範囲内の改変された遺伝子及びタンパク質を調製及び評価するための方法は、当該分野で周知である。改変手法の非限定的な例としては、(1)別のアミノ酸による1つ以上のアミノ酸の置換、例えば、異なる機能を有する等比体積残基による置換、例えば、Aspの代わりにAsnを用いること;同一の機能を有するが、異なる1次、2次又は3次構造を有する残基、例えば、Gluの代わりのAsp;Proなどのヘリックス破壊物質;グリコシル化されていないアミノ酸の代わりにグリコシル化されたアミノ酸を用いることなど、又はその逆;Cysを、ジスルフィド架橋形成を無くす別の残基で置き換えること;及び(2)等比体積で機能的又は構造的な差異をタンパク質にもたらす1つ以上のアミノ酸の付加又は欠失が存在するようなDNA配列の改変が挙げられる。1次構造の変更には、疎水性又は親水性の変更が含まれ、2次構造の変更には、局所的なフォールディングの変更が含まれ、3次構造の変更には、タンパク質の3D構造の変更が含まれる。多くの実施形態において、これらの構造の変更は、ノックアウトされたタンパク質又は野生型タンパク質と等しく機能できないタンパク質を生じる。
【0099】
いくつかの実施形態において、上記遺伝子、例えば、Us4、UL41は、MHCに関連しない経路からの免疫抑制をもたらしうる。これらの他の実施形態において、限定ではないが、改変は、アポトーシス又はプログラム細胞死の誘導又は抑制によって免疫学的応答を抑制する遺伝子における改変でありうる。例えば、アポトーシスが、CD4+細胞をはじめとした白血球サブセットにおいて生じるとき、宿主の免疫系は、抑制されている。このアポトーシス活性化において活性な遺伝子としては、bICP0が挙げられる(Geiserら(2008)Microb.Pathog.44:459)。いくつかの実施形態において、改変は、bICP0をコードする遺伝子における改変でありうる(Jonesら(2006)Vet.Microb.113:199)。なおも他の実施形態において、改変は、潜伏関連遺伝子(例えば、BHV−1LR−ORF1及び2ならびにBHV−1Us49)における改変でありうる。他のMHCに関連しない経路は、BHV−1LR−ORF1及びBHV−1Us9などの遺伝子の改変を含むことがある。
【0100】
本発明の実施形態のすべてが、様々なBHV−1バックグラウンドにおいて起きうると構想される。例えば、BHV−1バックグラウンドは、Cooper株(野生型)であってもよいし、逆に、市販のワクチンに見られるBHV−1GL756などの株であってもよい。GL756は、従来法で得られる改変された生BHV−1ウイルスの例である。他の従来法で得られる改変された生BHV−1ウイルスが、企図される。例となるこれらの株は、限定を意味せず、それらの実施形態は、宿主に感染することができるいずれのBHV−1株をバックグラウンドとして使用してもよい。本発明のワクチンにおいて、バックグラウンドBHV−1は、通常、弱毒化又は改変された生ウイルスでありうる。ある特定の実施形態において、バックグラウンドBHV−1は、死滅ウイルスでありうる。
【0101】
ある特定の実施形態において、宿主の免疫学的応答の低下は、野生型BHV−1の感染又は追加の免疫原の感染の後に見られる免疫学的応答に対して測定される。代替の実施形態において、宿主の免疫学的応答の低下は、BHV−1GL756の感染又はBHV−1Cooper株の感染に対して測定される。宿主の免疫学的応答を測定する種々の方法(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又はMHC発現の測定)が構想され、それは、当業者に周知である。
【0102】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、改変された遺伝子を含むBHV−1をインビボにおいて生成するために適したベクター中に配置される。このベクターは、薬学的に許容可能なビヒクル及び必要であればアジュバントを加えることによって、ワクチン組成物に組み込まれることがある。そのような製剤化は、十分に当該分野の技術の範囲内である。適当なベクターとしては、改変された遺伝子を含む人工染色体構築物が挙げられうる。人工染色体の例は、細菌人工染色体(BAC)、例えば、pBeloBAC11又はpBAC108Lである;例えば、Shizuyaら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8794;Wangら(1997)Biotechniques 23:992を参照のこと。人工染色体構築物の構成要素は、標準的な方法を用いて組み立てることができる。例えば、(i)BHV−1ゲノムの領域と相同である配列に隣接する、人工染色体を含む構築物及び(ii)BHV−1遺伝子とともに細胞を同時トランスフェクションすることによって、改変されたBHV−1遺伝子を人工染色体に挿入することができ、その結果、組換えがその細胞において生じ、その人工染色体を含む組換えウイルスが産生される。組換えBHV−1は、人工染色体構築物及びBHV−1が同時にトランスフェクションされることにより、相同組換えによって組換えウイルスを産生する細胞から単離することができ、その単離されたBHV−1は、所望であれば、BHV−1改変遺伝子を産生するように操作することができる。BHV−1ゲノム及び人工染色体におけるユニーク部位を使用する直接的なクローニング方法もまた、人工染色体の構成要素を組み立てるために使用することができる。外来遺伝子が挿入された人工染色体の例については、本明細書中で参考として援用される米国特許公報2004−0171569を参照のこと。本発明のワクチン実施形態において、人工染色体構築物を細胞に導入したときに産生される組換えBHV−1ウイルスは、その細胞を殺滅しない。特定の改変されたBHV−1遺伝子を生存可能なウイルスに組み込む特定の例は、本開示の実施例5及び6に記載されている。
【0103】
製剤
本発明によって企図されるような本明細書中で使用される免疫原性の組成物及びワクチンは、1つ以上の獣医学的に許容可能なキャリアを含むことができる。そのような獣医学的に許容可能なキャリアとしては、任意の溶媒、分散媒、コーティング剤、アジュバント、安定化剤、希釈剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸着剤、遅延剤などが挙げられる。本明細書中で使用されるとき、獣医学的に許容可能なキャリアと薬学的に許容可能なキャリアとは、交換可能に使用される。
【0104】
希釈剤としては、水、食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロールなどを挙げることができる。等張剤としては、とりわけ、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール及びラクトースを挙げることができる。安定剤としては、とりわけ、アルブミンが挙げられる。
【0105】
非経口注射に適した薬学的に許容可能なビヒクルは、通常、無毒性かつ非治療的のものである。そのようなビヒクルの例は、水、食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液及びハンクス液である。非水性ビヒクル(例えば、固定油、ゴマ油、オレイン酸エチル又はトリグリセリド)もまた、使用してよい。非経口用ビヒクルは、増粘剤(例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストラン)を含む懸濁液の形態を取ってもよい。そのビヒクルは、少量の添加剤(例えば、等張性及び化学安定性を高める物質、例えば、緩衝液及び保存剤)を含んでもよい。緩衝液の例としては、リン酸緩衝液、重炭酸緩衝液及びtris緩衝液が挙げられ、保存剤の例としては、チメロサール、m−又はo−クレゾール、ホルマリン及びベンジルアルコールが挙げられる。標準的な製剤は、液体の注射可能物、又は注射用の懸濁液又は溶液として適当な液体に溶解することができる固体でありうる。したがって、非液体製剤では、ビヒクルは、デキストロース、ヒト血清アルブミン、保存剤などを含むことがあり、それらに、投与前に滅菌水又は滅菌食塩水が加えられうる。
【0106】
任意の薬学的に許容可能な水溶性材料又は材料の混合物を、本発明において利用してもよい。その薬学的に許容可能な水溶性材料は、1つ以上の単糖類、二糖類、多糖類又は炭水化物を含むことがある。例としては、デキストロース、マンニトール、フルクトース、ポリフルクトサン(polyfructosan)、ポリデキストロース、デキストリン、グルコース、転化糖、ラクチトール、ラクトース、イソマルト(isomalt)、マルチトール、マルトース、マルトデキストリン、ソルビトール、キシリトール、スクロース、スクラロース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フルクトース、グルコサミン、ガラクトサミン、ラムノース、6−O−メチル−D−ガラクトース、2−0−アセトール−ベータ−D−キシロース、2−アセトアミド−2−ジオキシ−ベータ−D−ガラクトース−4−サルフェート、N−アセチルグルコサミン、イズロネート、マンヌロネート、ガラクツロン酸メチル、ガラクトース、アラビノース、アルファ−D−マンノピラノース(manopyranose)、及び1つ以上の単糖又は二糖の単位間で共有結合することによって形成される生体高分子が挙げられる。炭水化物の例としては、アルギネート、アミロース、セルロース、カラギナン、ペクチンが挙げられる。便宜上、単糖類、二糖類、多糖類及び炭水化物は、集合的に「糖」と呼ばれることがある。当該分野で周知である他の薬学的に許容可能な材料も利用してよい。
【0107】
当該分野で周知の分野である様々なアジュバントを、本発明のワクチン製剤においても使用することができる。アジュバントとしては:無機物ゲル、例えば、水酸化アルミニウム;リゾレシチンなどの界面活性剤;グリコシド、例えば、サポニン誘導体(例えば、Quil A又はGPI−0100);プルロニックポリオール;ポリアニオン;非イオン性ブロックポリマー、例えば、Pluronic(登録商標)F−127(B.A.S.F.,USA);ペプチド;鉱油、例えば、モンタニドISA−50、カルボポール、Amphigen(登録商標)、Amphigen(登録商標)Mark II(Hydronics,USA)、Alhydrogel(登録商標)(BSA2;Accurate Scientific,Westbury,NY)、油エマルション、例えば、鉱油(例えば、BayolF/Arlacel A)と水とのエマルション又は植物油と水とレシチンなどの乳化剤とのエマルション;ミョウバン;ウシサイトカイン;コレステロール;及びアジュバントの組み合わせが挙げられうるが、これらに限定されない。追加の油エマルションとしては、油中水型エマルション及び水中油型エマルション中の水(a water in oil in water emulsion)が挙げられる。他のアジュバントあるいは免疫賦活特性もしくは免疫調節特性又は抗原提示特性を有する薬剤、及び市販の製品ImpranTM(Boehringer Ingelheim Vetmedica,St.Joseph,MO)、Emunade(登録商標)(Schering−Plough Animal Health,Summit,NJ)、MetaStim(登録商標)(Fort Dodge Animal Health,Overland Park,KS)及び/又はEmulsigen(登録商標)(MVP Laboratories,Inc.,Omaha,NE)を使用してもよい。Emulsigen Dを使用してもよい。ほとんどの実施形態において、アジュバントのタイプは、そのアジュバントがBeef Quality AssuranceTMを妨げない限り、限定されない。本発明の状況において有用なアジュバント及び添加剤の量及び濃度は、当業者が容易に決定することができる。
【0108】
アジュバントは、発明性のあるワクチンがいかに投与されるかに応じて様々な方法で使用されてよい。例えば、発明性のあるBHV−1及び追加の非BHV−1免疫原が、同時投与されるとき(例えば、BHV−1が1箇所に投与され、追加の抗原が宿主の別の箇所に投与されるとき)、アジュバントは、追加の免疫原とともに投与されることがあるが、BHV−1とともに投与されない。他の例では、アジュバントは、BHV−1とともに投与されることがあるが、追加の免疫原とともに投与されない。BHV−1と追加の免疫原の両方が、アジュバントあり又はアジュバントなしで投与されることがある(例えば、BHV−1及び非BHV−1免疫原が、併用カクテルとして投与される場合)。いくつかの例において、BHV−1は、1つのアジュバントとともに投与されることがあり、追加の免疫原は、異なるアジュバントとともに投与されることがある。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明のワクチンは、液体の形態で供給されうる。他の実施形態において、本ワクチンは、乾燥粉末として供給されうる。本ワクチンが乾燥粉末として供給される実施形態において、そのワクチンのエンドユーザーは、適切な希釈剤を用いてそのワクチンを再構成してよい。希釈剤は、当該分野で周知であり、それらとしては、滅菌水などの物質を挙げることができるが、これに限定されない。いくつかの場合において、本ワクチンは、いったん再構成されると、好ましくは、24時間などのある特定の時間内に使用される。
【0110】
投与及び追加の免疫原
一般に、改変されたBHV−1ワクチンは、同時投与及び/又は併用ワクチンの投与によって、少なくとも1つの追加の免疫原とともに投与されうる。本明細書中で使用されるとき、「追加の免疫原」は、BHV−1免疫原以外の免疫原である。さらに、ある特定の実施形態において、追加の免疫原は、BHV−1ベクターに挿入された外来遺伝子を含まない場合がある。追加の免疫原は、同時投与されるワクチン中に、又は併用/カクテルワクチン、すなわち、少なくとも2タイプの免疫原を含むワクチン中に、存在することができる。これらの追加の免疫原は、1つ以上の特定の病原体(細菌、マイコプラズマ、ウイルス、寄生生物など)由来の単一の免疫原であってもよいし、1つ以上の特定の病原体由来の2つ以上の免疫原の組み合わせを含んでもよい。同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンは、細胞全体もしくは部分的な細胞の調製物及び/又は改変された生の調製物であり得、そのようなワクチンは、当業者によく知られている。それらは、他の免疫調節性分子も含んでよい。追加の免疫原が選択されうる病原体及び免疫調節性分子の非限定的な例としては:ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV);I、II及びIII;ウシ呼吸器合胞体ウイルス(BRSV);パラインフルエンザ3型ウイルス(PI3);Mannheimia Haemolytica;Histophilus somni(以前はHaemophilus somnus)(H.somni);ロタウイルス(BRV);コロナウイルス(BCV);Mycoplasma bovis;レプトスピラ症;Neospora caninum;Trichomonas spp.;Vibrio;クロストリジウム抗原;Pasteurella multocida;Fusobacterium necrophorum;E.coli O157:H7;Salmonella enterica及び免疫調節性サイトカイン、例えば、インターロイキン−1α(IL−1α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及びインターフェロンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
上で述べたように、ある特定の実施形態において、BVDに対する免疫原が、同時投与されるワクチン中及び/又は併用ワクチン中に含められる。1、2及び3型BVDVは、種々の臨床症候群に結びつけられている。そのウイルスが重篤な原発性呼吸器疾患を引き起こし;持続的に感染したウシが感受性の子牛に対する主な感染源となり;そしてBVDが白血球の貯蔵所に感染することにより、免疫系の著明かつ幅広い欠損をもたらす研究が確立されている。さらに、妊娠中のウシが特に第1三半期中に感染すると、流産又は乾性壊疽を起こすことがある。ウシウイルス性下痢症(BVD)の別のたいてい致死的徴候である粘膜疾患は、非細胞変性BVDバイオタイプによる胎生初期の感染、そのウイルスに対する免疫寛容の発生、持続的に感染した子牛の誕生及びその後の細胞変性BVDバイオタイプとの重複感染に起因する。2型BVDは、以前は、主として乳牛群における出血性BVD分離株ともっぱら認識されていた。
【0112】
ある特定の実施形態において、Mycoplasma bovisに対する追加の免疫原は、肉牛及び乳牛においてMycoplasma bovisによって引き起こされる感染症と関連する臨床疾患及び死亡を予防するために、同時投与されるワクチン中及び/又は併用ワクチン中に含められる。これらの疾患としては、伝染性乳房炎、呼吸器肺炎、関節感染症(関節炎の状態)、角結膜炎及び中耳感染症が挙げられる。
【0113】
ウシにおける細菌による肺炎の原因であるPasteurella multocidaは、同時投与されるワクチン中及び併用ワクチン中に追加の免疫原として含められることがある別の細菌である。
【0114】
Mannheimia haemolytica免疫原は、ロイコトキシン(LkT)関連抗原もしくは外膜タンパク質(OMP)関連抗原又は他の抗原を含むことがある。
【0115】
レプトスピラ症に対する追加の細菌免疫原もまた、同時投与されるワクチン及び併用ワクチンにおいて構想される。Leptospira属の細菌によって引き起こされるレプトスピラ症は、経済的に重要な家畜の人畜共通性感染症である。Leptospira borgpeterseniiのhardjo血清型(L.hardjo)及びL.interrogansのpomona血清型(L.pomona)は、世界中でウシのレプトスピラ症(leptosporosis)に最もよく関連している2つの血清型である。多くの場合において、これらの2つの血清型由来の追加の免疫原が、同時投与されるワクチン中及び/又は併用ワクチン中に含められる。さらなるレプトスピラ症免疫原としては、Leptospira cannicola、Leptospira grippotyphosa及びLeptospira icterohaemorrhagiae由来の免疫原が挙げられる。ウシのレプトスピラ感染は、急性発熱、乳汁分泌欠如、流産又は早産及び感染した虚弱子牛をもたらすことがあり、交配の失敗及び低受胎率に関連することがある。
【0116】
本発明の実施形態において使用されることがある他の細菌病原体の外来免疫原は、Vibrio spp.及びクロストリジウム種に由来する。クロストリジウムの免疫原の例としては、Clostridium chauvoei、Clostridium septicum、Clostridium novyi、Clostridium sordellii、Clostridium perfringens C及びD型、ならびにClostridium haemolyticum由来の免疫原が挙げられる。
【0117】
なおもさらなる実施形態において、Neospora caninumに対する追加の免疫原が、同時投与されるワクチン中及び/又は併用ワクチン中に含められる。Neospora caninumは、ウシにおいて流産を引き起こす、嚢腫を形成する原生動物である。ウシにおいて、N.caninum感染に起因する流産は、通常、妊娠期間の中期から後期に生じるが、感染したすべての胎仔が流産されるわけではない。多くの先天的に感染した子牛は、健常に生まれ、持続的に感染しているが、感染した一部の子牛は、出生時に罹患しており、流産された子牛と同様の病変によって新生仔期に死亡する。
【0118】
Trichomonasは、同時投与されるワクチン中及び/又は併用ワクチン中に追加の免疫原として含めてもよいなおも別の寄生生物である。
【0119】
ある特定の実施形態において、BHV−1と同時に投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンは、上記の細菌、ウイルス、寄生生物及び免疫調節性サイトカイン群の任意の組み合わせ又はそれらの各々から選択される追加の免疫原を含むことがある。他の実施形態において、同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンは、上記の群のうちの1つからの追加の免疫原だけを含むことがある。なおも他の実施形態において、同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンが、上記の群から得られる追加の免疫原の任意の数の複数の組み合わせを含むことがあると理解される。例として、併用ワクチンは、改変されたBHV−1、I型及びII型BVDV、PI3ならびにBRSVの免疫原からなることがある。1つの実施形態において、改変されたBHV−1、BVD I及びII、L.Pomona、Lepto hardjo−bovis、ビブリオ菌及びtrichomonas抗原を含む併用ワクチンが、使用される。このワクチンは、1歳を過ぎた雌の肉牛において特に有用であることがある。例となるこのワクチンは、BVD I及びIIに起因する胎生期の感染の予防、BHV−1による流産の予防、ビブリオ菌及びL.hardjo bovisに起因する胎生初期での死亡の予防、ならびにtrichomonas感染の予防のために、妊娠中の雌において使用されることがある。別の実施形態において、改変されたBHV−1、BVD I及びII、L.Pomona、Lepto hardjo−bovis、ビブリオ菌及びNeosporaに対する抗原を含む併用ワクチンが、構想される。このワクチンは、特に、1歳を過ぎた雌の乳牛に適する場合がある。なおも別の実施形態において、1〜6月齢の子牛に適する併用ワクチンは、改変されたBHV−1、BVD I及びII、BRSV、M.haemolytica、H.somnus、Mycoplasma bovis、L.pomona及びLepto hardjo−bovis抗原を含むことがある。いくつかの実施形態において、1月齢より若いが1日齢より上の子牛が、ワクチン接種される。6〜12月齢の子牛の場合、例となる併用ワクチンは、改変されたBHV−1、BVD I及びII、M.haemolytica、H.somnus、Mycoplasma bovis、L.pomona及びLepto hardjo−bovisに対する抗原を含むことがある。
【0120】
例となる同時投与されるワクチンとしては、クロストリジウム抗原、Mannheimia haemolytica、Histophilus somni、Pasteurella multocida、Fusobacterium necrophorum、E.coli O157:H7及びSalmonella entericaの1つ以上に対する追加の免疫原を含むワクチンが挙げられる。ある特定の実施形態において、同時投与されるワクチンは、クロストリジウムのバクテリンだけに対するものである。他の実施形態において、同時投与されるワクチンは、Histophilus Somniのバクテリン、Fusobacterium Necrophorumのバクテリン又はSalmonella Dublin−Typhimuriumのバクテリンだけに対するものである。
【0121】
当業者が理解するように、同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンの唯一の境界は、個別の成分が、BHV−1によって引き起こされる免疫抑制に逆らう所望の結果を達成するために、同時投与することができるか、又は併用ワクチンとして投与することができるということである。本発明によって企図されるワクチンの各々において、本明細書中に記載される任意の獣医学的に許容可能な成分(アジュバント、希釈剤、溶媒などが挙げられるがこれらに限定されない)が、同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンに組み込まれてもよいことも理解される。
【0122】
ある特定の実施形態において、同時投与されるワクチン及び/又は併用ワクチンは、個別のワクチンと同じ免疫原性を誘発しないかもしれないとしても、その同時投与されるワクチン又は併用ワクチンが、なおも好ましい場合があることが理解される。多くの場合において、通常、併用ワクチンは、労働と材料の両方に関してコストを下げるので、いくつかの異なるワクチンを投与する代わりに併用ワクチンを投与することが有利である。さらに、併用ワクチンは、それほど場所を取らず、それにより、輸送及び貯蔵が容易になる。
【0123】
経口、鼻腔内、局所的、経皮的及び非経口をはじめとした、本発明のワクチン組成物を宿主動物に投与するための多くのプロトコルは、当該分野における技術の範囲内である。ある特定の実施形態において、投与経路は、鼻腔内又は非経口的、特に、筋肉内である。ある特定の実施形態において、静脈内注射は、家畜動物に対する大規模適用にとって実用的でない場合があるので、本製剤は、筋肉内注射に特に適合されうる。それにもかかわらず、食品組成物に投入される宿主では筋肉内に投与することが好ましくない場合があるので、皮下又は皮内などの他の投与経路が、構想される。あるいは、それらのワクチンは、経口的に投与されることがあり、それらのサブユニットは、薬学的に許容可能な経口ビヒクルを用いて製剤化される。これらの実施形態において、本発明のワクチンは、粘膜免疫を惹起するために経口的に投与されることがあり、ならびに、全身性免疫のために筋肉内に投与されることがある。
【0124】
鼻腔内滴下注入の場合、宿主動物には、約102〜108TCID50の各々の改変された生ワクチン株を接種することができる。IMワクチン接種の場合、そのワクチンは、102〜108TCID50のウイルスを用いて、側腹部(尾筋肉の塊)又は頚部(腕頭(brachiocephalicus)筋)に注射することができる。皮下投与の場合、宿主動物には、約102〜108TCID50の各々の改変された生ワクチン株を接種することができる。多くの実施形態において、ワクチンは、1用量あたり少なくとも102.5TCID50のウイルスを含む。ある特定の実施形態において、ワクチン接種は、約2ml〜約5mlの用量体積を含むことがある。上に提供されたワクチン接種の経路は、単なる例示的なものであり、当該分野で公知の任意の適当な手段を、本発明を実施する際に使用してよい。
【0125】
本ワクチン組成物中の抗原の濃度は、ある有効量が宿主においてポリペプチド中和エピトープに対する細胞性免疫又は抗体の誘発をもたらすように、選択される。広い限界内であれば、投薬量は、重大でないと考えられる。
【0126】
任意であるが、ある特定の実施形態において、最初の免疫化の数週間から数ヶ月後に2回目の追加免疫が動物宿主に施される。特定の実施形態において、そのような追加免疫は、最初の免疫化の1年後に施されることがある。疾患に対する高レベルの保護が持続することを確実にするために、定期的に宿主動物に追加免疫を再度施すことが有益な場合がある。
【0127】
この定期的な基準は、毎月から、6ヶ月ごと、毎年、複数年後までに及ぶ場合がある。ある特定の実施形態において、本組成物は、妊娠中又は保育中の個体では用いられないはずである。ある特定の他の実施形態において、本組成物は、交配の1週間未満、1週間以内、2週間以内、3週間以内又は4週間以内の個体では用いられないはずである。なおも他の実施形態において、本ワクチンは、28日以内又はそれより前に屠殺が予定されている動物では用いられないはずである。
【0128】
限定を意味しないが、肉牛動物は、通常、焼き印をつけるとき(又は夏の牧草地に放牧する前)、離乳したとき、バックグラウンディング施設(冬のコムギ牧草地)に送達するとき及び飼養場に到着したときにワクチン接種されることがある。雌牛の場合、仔の離乳又は妊娠検査も、ワクチン接種と共通の時点に行われる。乳牛の場合、ワクチン接種と共通の時点は、乾乳するときである。
【0129】
本発明の改変された組成物及びワクチンは、マーカーとして使用されてもよい。宿主動物サンプルの解析は、その宿主動物が本発明のワクチンによって保護されているか及び野生型BHV−1株に曝露されたことがないかを判定するために使用することができる。ある特定の実施形態において、本発明は、イムノアッセイを用いることによって、サンプル中のBHV−1遺伝子及び改変されたBHV−1遺伝子に向かう抗体の非存在もしくは存在及び/又は濃度を判定するための方法(そのイムノアッセイは、そのイムノアッセイにおける試薬としてのBHV−1抗体と反応性である改変されたBHV−1免疫原を使用することにより、BHV−1抗体と改変されたBHV−1免疫原との複合体が形成されることを特徴とする)、ならびにそのような複合体の非存在もしくは存在及び/又は濃度を判定することにより、そのような改変されたBHV−1に向かう抗体がサンプル中に存在するかを判定するための方法、及び存在する場合は、それらの濃度を判定する手段をもたらすための方法を含む。例えば、改変された免疫原は、宿主動物がBHV−1に感染しているかを判定する1つの手段として、宿主動物由来のサンプル中、例えば、血液中のこれらのBHV−1タンパク質に対する抗体を同定するイムノアッセイ及びそのサンプル中の抗体の濃度を判定するイムノアッセイにおいて基質試薬として使用することができる。BHV−1免疫原は、適当なマトリックス(支持体)又はキャリア(例えば、ラテックス粒子、プラスチック微量滴定プレート又は同様の材料)と混合することができるか、又はそれらに結合することができる。それらは、免疫学的方法が使用するものに応じて、酵素、色素、放射性同位体又は同様の材料と抱合することができる。本発明の範囲内のBHV−1の改変された免疫原を使用するイムノアッセイとしては、ラジオイムノアッセイ、競合イムノアッセイ、免疫沈降、酵素結合免疫吸着測定法、免疫蛍光アッセイなどが挙げられるが、これらに限定されない。多くの実施形態において、検出は、好ましくは、簡便、迅速、高感度及び特異的である。
【0130】
例示目的のためだけに提供される本発明の実施例が、以下に記載される。本開示に鑑みて、請求項の範囲内の数多くの実施形態が当業者に明らかであるので、これらの実施例は、決して本発明の範囲を限定しないと意図される。当業者は、本願に引用される参考文献を承知している(又はそれらをすぐに利用できる)と推定され、それらの開示は、本明細書中で参考として援用される。
【実施例】
【0131】
続く例示は、実施形態の例示を目的とするものであって、限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
【0132】
BHV−1感染によって生じる感染細胞におけるMHCクラスI分子のダウンレギュレーション
感染細胞の表面でのMHCクラスI分子の発現へのBHV−1感染の影響を測定するために、Madin−Darbyウシ腎臓(MDBK)細胞をBHV−1GL756株に感染効率(moi)が10になるよう感染させ、又は、モックに感染させた。感染から16〜24時間後に、細胞はMHCクラスI分子に特異的なモノクローナル抗体PT85A(VMRD,Inc.;Pullman,Washington,USA)で染色された。ネガティブコントロール細胞は非反応性の、アイソタイプマッチコントロール抗体(MM605;Dr.Subramaniam Srikumaran;Washington State University)で染色された。一次抗体は、Zenon(登録商標)マウスIgGラベリングキット(分子プローブ、Invitrogen Detection Technologies,Carlsbad,California,USA)で標識され、もしくは、蛍光標識二次抗体が使用された。細胞は、続いて、フローサイトメトリーによる表面免疫蛍光法で試験された。
【0133】
図10において、BHV−1感染した細胞が細胞表面にMHCクラスI分子を発現しているが、その発現レベルはモック感染細胞と比較して減少している、又はダウンレギュレートされていることを、データは示している。つまり、野生型BHV−1は感染細胞の表面におけるMHCクラスI分子の発現を低減する。
【実施例2】
【0134】
BHV−1投与によって生じる、小牛に対して追加として同時に投与された免疫原に対する免疫応答の抑制
小牛に同時に投与される非BHV−1免疫原に対するBHV−1の免疫応答への影響を測定するために、次の実験が行われた。BHV−1血清反応陰性の小牛(Hereford−Angus又はHolstein−Dairy交雑)、生後3〜6月が使用された。小牛はまた、ELISAによって測定される最小限のLkT力価を有していた。0日目に、Manheim heamolytica由来LkT組換え単独(100μg/2mL(EmulsigenDアジュバントを含有))、BHV−1単独(約105.5BHV−1GL756株/2mL)、もしくは、LkT及びBHV−1(頸部において約5cm離隔し、BHV−1及びLktを同時投与)が小牛の頸部皮下に投与された。21日目に、LkT単独群及びHBV−1+LkT群には再度LkTが投与された。投与前(0日目)、4、10、14、21、28、35日目に、血液が採取され、血清が収集された。ELISAを用いて、LkT反応性の血清抗体がそれぞれの時点で測定された。様々な時点での抗体レベルが、4日目のレベル(4日目の値を1とした)を基準として標準化された。
【0135】
図11の結果は、LkT単独群及びBHV−1+LkT群ではLkT特異的抗体のレベルは、実験の中で経時的に概して上昇し、また、28〜35日においてピークを示した。すべての時点において、LkT単独投与された小牛由来の血清に存在するLkT特異的抗体のレベルは、BHV−1+LkTを投与された小牛由来の血清に存在するLkT特異的抗体のレベルよりも高かった。LkT単独群とBHV−1+LkT群の顕著な差は、10、14、21、28日目において見られた。これらのデータは、免疫原のみを投与された小牛と比較して、同時投与されたBHV−1が、小牛に同時投与された免疫原に対する免疫応答を抑制していることを示唆した。
【実施例3】
【0136】
BHV−1投与によって生じるIgG/IgG2サブタイプ比(小牛に同時投与された免疫原に特異的なIgGについて)の抑制
BHV−1と同時投与された非BHV−1免疫原と反応性であるIgGのIgGサブタイプへの、BHV−1の影響を測定するために、実施例2で述べられた実験のLkT単独投与群及びBHV−1+LkT投与群由来の血清サンプルが使用された。これらの血清サンプルは、LkT及びIgGサブタイプに特異的な抗体でコーティングされたELISAプレートを用いて、LkT特異的なIgG1及びIgG2サブタイプについて試験された。
【0137】
図12は、LkTとBHV−1とを投与された小牛由来の血清におけるLkT特異的なIgG1/IgG2比は、LkT単独で投与された小牛と比較して減少していることを示した。これらのデータは、BHV−1と共に投与される免疫原に対するIgG1/IgG2サブタイプ比を、BHV−1は代替(減少)しうることを示唆した。
【実施例4】
【0138】
BHV−1投与によって生じる、小牛に同時投与された免疫原への抗原リコール応答の抑制
BHV−1と同時投与された非BHV−1免疫原への抗原リコールへの、BHV−1の影響を試験するために(IL−2産生によって測定される)、実施例2で述べられた実験の23日目の小牛から血液が採取された。血液は希釈され、サンプルにLkT抗原が添加された。続いて、ELISAを用いてサンプルのIL−2レベルが測定された。
【0139】
図13は、BHV−1+LkTを投与された小牛由来のサンプルでは、LkT単独投与された小牛と比較して、リコール抗原への応答におけるIL−2産生が抑制されていることを示した。これらのデータは、BHV−1は、BHV−1と共に投与される免疫原に対するリコール応答を抑制しうることを示唆した。
【実施例5】
【0140】
哺乳類細胞における欠失組換え構築物を用いたBHV−1欠失変異体の構築
図14A、及び、図14にその配列(配列番号17)が示された欠失組換え構築物(DRC)、を用いて、BHV−1GL756 UL49.5欠失変異体、クローンA1、A5、B7、及びB8が作出された。強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)が、組換えウイルスの単離を許容するために、構築物に挿入された。DRCはMDBK細胞にトランスフェクションされ、続いて、細胞はBHV−1GL756に感染せられた。感染細胞の培養上澄は希釈され、新たなMDBK細胞にプラークされた。緑色蛍光を示すウイルス性のプラークが単離され、プラークは精製され、組換えポリメラーゼ連鎖反応(PCR)スクリーニングを用いて同一性が確認された。PCRスクリーニングには欠失/組換えサイト隣接プライマーを用いた。PCR産物の予測サイズは、変異体では2071塩基対(bp)、野生型/親株ウイルスでは657bpであった。図16は、A1及びB8変異体の予測パターンを示す。
【0141】
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及び目的遺伝子の欠失を確認するためのウエスタンブロットによって、BHV−1GL756ΔUL49.5 A1及びB8をスクリーニングするために、感染細胞の培養溶解物が使用された。UL49.5遺伝子由来のタンパク質産物の予想サイズはバックグラウンドウイルス中で、約15kDaである。図18はA1、A5、B7、B8クローンはUL49.5タンパク質産物を発現していないことを示している。モック感染細胞がコントロールとして使用された。
【0142】
図14B、及び、図14にその配列(配列番号18)が示された欠失組換え構築物(DRC)、を用いて、BHV−1GL756 Us4欠失変異体、クローン1及び2が作出された。EGFPが、組換えウイルスの単離を許容するために、構築物に挿入された。DRCはMDBK細胞にトランスフェクションされ、続いて、細胞はBHV−1GL756に感染せられた。感染細胞の培養上澄は希釈され、新たなMDBK細胞にプラークされた。緑色蛍光を示すウイルス性のプラークが単離され、プラークは精製され、組換えポリメラーゼ連鎖反応(PCR)スクリーニングを用いて同一性が確認された。PCRスクリーニングには欠失/組換えサイト隣接プライマーを用いた。PCR産物の予測サイズは、変異体では2072塩基対(bp)、野生型/親株ウイルスでは1757bpであった。図17は、変異体1及び変異体2の予測パターンを示す。
【0143】
SDS−PAGE及び目的遺伝子の欠失を確認するためのウエスタンブロットによって、BHV−1GL756ΔUs4 1及び2をスクリーニングするために、感染細胞の培養溶解物が使用された。Us4遺伝子由来のタンパク質産物の予想サイズはバックグラウンドウイルス中で、約40kDaである。図19は変異体1及び2はUs4タンパク質産物を発現していないことを示している。モック感染細胞がコントロールとして使用された。
【実施例6】
【0144】
哺乳類細胞における細菌性人工染色体構築物を用いたBHV−1欠失変異体の構築
いくつかの実験において、細菌性人工染色体構築物(BAC)を用いた方法がBHV−1変異体の作出のために使用された。その方法は、Tischerら(2006)、BioTechniques 20:191に開示されている。一般的に、この方法は野生型BHV−1の配列に隣接するBHV−1に導入したい所望の変異を有する組換え転移プラスミドを用いる。
組換え転移プラスミドは、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含み、また、細菌性の複製起点を有する。組換え転移プラスミドはMDBK細胞にトランスフェクションされ、続いて、BHV−1GL756に感染せられた。感染細胞の培養上澄は希釈され、新たなMDBK細胞にプラークされた。緑色蛍光を示すウイルス性のプラークが単離され、プラークは精製され、ウイルスDNAはE.Coli細胞にエレクトロポレーションで導入された。形質転換されたE.ColiクローンのDNAは、所望のBHV−1変異体を得るために、制限消化及びサザンブロッティングによってスクリーニングされた。Tischerらの開示の参照において、en passant mutagenesisを用いて、不要なGFPと細菌性の複製起点の配列がBHV−1変異体クローンから除去された。この方法は、続くRed−catalyzed工程で、GFPや細菌性の複製起点に沿って切り取られる配列を生成するために、Red−catalyzed挿入を使用する。得られたBHV−1クローンはMDBK細胞にトランスフェクションされ、感染性変異体ウイルスの種が得られた。
【0145】
5種の異なるBHV−1変異体又は改変ウイルスが上記の方法で産生された。すべてのBHV−1変異体ウイルスは、GL756株をバックグラウンドとして作出された。一つのBHV−1ウイルス変異体は、UL49.5遺伝子に改変を有していた。UL449.5変異体のDNA配列は、図9に配列番号23として示されている。図9で図示されたDNA配列の下線が引かれた塩基は、GL756野生株のUL49.5配列に挿入された塩基を示している。下線が引かれた塩基は、コード配列に、2つのインフレームの翻訳終止コドンを付加する。この遺伝子から翻訳されたタンパク質は不完全である。
【0146】
他のBHV−1ウイルス変異体はUL41コード配列の全部を欠失している。3番目のBHV−1ウイルス変異体は、既述のUL49.5、UL41の両方の変異を有している。つまり、この特定のBHV−1は、UL49.5及びUL41なる2つの遺伝子の改変を有している。図20は、上述の改変と同時に、BHV−1ゲノムにおけるUL49.5及びUL41遺伝子領域の位置を図示している。
【0147】
4番目のBHV−1ウイルス変異体は、Us4コード配列の部分的な欠失を有し、また、欠失した位置に新たな配列が挿入されている。BHV−1Cooper株のUs4遺伝子のDNA配列(配列番号11)とアミノ酸配列(配列番号12)が図6に図示されており、これはGL756株由来のUs4遺伝子と同じである。図6のDNA配列の図示中で下線を引かれた塩基は、BHV−1Us4変異体で欠失した塩基を示す。これらの塩基の欠失は、図6のアミノ酸配列における下線が引かれたアミノ酸の欠失をもたらす。欠失はインフレーム欠失である。つまり、欠失の下流の塩基によってコードされるアミノ酸配列は、野生型Us4配列の塩基によってコードされるものと同じである。
【0148】
これらの欠失に加えて、Us4変異遺伝子は、上述の欠失が位置している領域に、24塩基(GGATCTGGT AGTGGCTCC GGGAGC;配列番号21)の挿入を有する。これらの24塩基はアミノ酸配列Gly Ser Gly Ser Gly Ser Gly Ser(配列番号22)をコードしていた。この挿入はインフレーム欠損であるので、改変されたUs4遺伝子によってコードされるタンパク質は、図6で配列番号12として示される下線の引かれたアミノ酸の位置に、Gly Ser Gly Ser Gly Ser Gly Serアミノ酸を有する。図21は、改変と共に、BHV−1ゲノムにおけるUs4遺伝子領域の位置を図示している。
【0149】
5番目のBHV−1ウイルス変異体は、Circコード配列の完全な欠失を有している。図22は、改変とともに、BHV−1ゲノムにおけるCirc遺伝子領域の位置を図示している。
【実施例7】
【0150】
改変を有するBHV−1ウイルスの成長
関心の対象である遺伝子の改変がBHV−1ウイルスの成長特性に与える影響を調べるために、MDBK細胞が実施例6で述べたウイルスで感染せられ、様々な時間経過の後にウイルス力価が測定された。試験されたウイルスは、説明された改変を全く有しないBHV−1(GL756;BHV−1 WT)、UL49.5変異体(BHV−1ΔUL49.5)、UL41変異を有する2種の異なるクローン(BHV−1ΔUL41:1606及びBHV−1ΔUL41:1607)、UL49.5とUL41の両方に変異を有する2種の異なるクローン(BHV−1ΔUL41/UL49.5:1614及びBHV−1ΔUL41/UL49.5:1616)、Circ変異体(BHV−1ΔCirc:1697)、及びUs4変異体(BHV−1ΔUs4gG:1698)である。
【0151】
図23の結果は、試験された全ての変異を有するBHV−1ウイルスは、変異を有しないBHV−1と同様の経時的成長を有したことを示している。これらのデータは、試験された遺伝子の変異は、ウイルスの成長特性に影響しないことを示唆した。
【実施例8】
【0152】
改変を有するBHV−1ウイルス感染による、感染細胞におけるMHCクラスI発現の回復
感染細胞の表面におけるMHCクラスIの発現に対する、改変されたBHV−1ウイルスの影響を測定するために、実施例5(これらの実験のデータは図24に示されている)で説明された改変BHV−1ウイルス、もしくは、実施例6(これらの実験のデータは図25〜31で示されている)で説明された改変BHV−1ウイルスでMDBK細胞が感染せられた。MHCクラスIの発現が試験される実験のために、この実施例で説明されるように、MDBK細胞がウイルス(感染効率は10moi)又はモックに感染せられた。感染後16〜24時間において、細胞は、MHCクラスI分子に特異的なモノクローナル抗体PT85A(VMRD,Inc.;Pullman,Washington,USA)で染色された。ネガティブコントロール細胞は非反応性の、アイソタイプマッチコントロール抗体(MM605;Dr.Subramaniam Srikumaran;Washington State University)で染色された。一次抗体は、Zenon(登録商標)マウスIgGラベリングキット(分子プローブ、Invitrogen Detection Technologies,Carlsbad,California,USA)で標識され、もしくは、蛍光標識二次抗体が使用された。細胞は、続いて、フローサイトメトリーによる表面免疫蛍光法で試験された。
【0153】
図24において、BHV−1ΔUL49.5A1又はB8(実施例5で説明されたもの)で感染せられた細胞は、UL49.5遺伝子に改変を有しないBHV−1(BHV−1 GL756)に比べて、細胞表面におけるMHCクラスIの発現が部分的に逆転もしくは回復したことをデータは示している。図25において、UL49.5とUL41とのどちらにも改変を有する(実施例6で説明されたもの)BHV−1GL756ΔUL41−UL49.5に感染せられた細胞は、改変を有しないBHV−1(BHV−1 GL756)に感染せられた細胞に比べて、細胞表面におけるMHCクラスIの発現が完全に回復したことをデータは示している。これらのデータは、これらの改変を有するBHV−1ウイルスはMHCクラスI分子の発現のダウンレギュレーションを発生させないこと、又は、少なくとも、改変されていないBHV−1ウイルスが引き起こすMHCクラスI発現のダウンレギュレーションほどにはダウンレギュレーションを起こさないことを示唆した。
【0154】
図26において、UL49.5に変異を有する(実施例6で説明されたもの)BHV−1 GL756ΔUL49.5に感染せられた細胞、及び、UL41に変異を有する(実施例6で説明されたもの)BHV−1 GL756ΔUL41は、改変を有しないBHV−1 GL756に感染せられた細胞に比べて。感染細胞の表面におけるMHCクラスI発現が部分的に逆転又は回復していることを、データは示した。データはまた、UL49.5及びUL41に変異を有するBHV−1 GL756ΔUL49.5−UL41に感染せられた細胞では、変異を有しないBHV−1 GL756に感染せられた細胞に比べて、感染細胞の表面におけるMHCクラスI発現が完全に逆転又は回復していることを示した。
【0155】
MHCクラスIの細胞表面での発現のフローサイトメトリー分析に加えて、上述のように感染せられた細胞から分解液が調製され、SDS−PAGE及びMHCクラスI分子と反応性の抗体を用いたウエスタンブロッティングにて分析された。図27(上)は、改変を有しないBHV−1ウイルス(GL756)、UL49.5に改変を有するBHV−1ウイルス(GL756ΔUL49.5)、UL41に改変を有するBHV−1ウイルスの2種類のクローン(GL756ΔUL41)、UL49.5及びUL41の両方に改変を有するBHV−1ウイルスの2種類のクローン(GL756Δ49.5−ΔUL41)、Circに改変を有するBHV−1ウイルス(GL756ΔCirc)、及び、Us4に改変を有するBHV−1ウイルス(GL756ΔUs4)についてのこの分析を示す。これらは、実施例6で述べられたBHV−1ウイルス変異体である。図27(下)は、ウエスタンブロットの濃度測定を定量化したものを示している。
【0156】
図27のデータは、単一の遺伝子が改変されたBHV−1ウイルスである、UL41改変BHV−1が、改変されていないBHV−1と比較して、MHCクラスIの発現の回復について最も大きな影響(抑制に対して最小の影響)を有したことを示した。データはまた、UL49.5及びUL41の両方が改変されたBHV−1は、改変されていないBHV−1と比較して、MHCクラスIの発現が完全に回復した(全く影響がない)ことを示した。データは、改変されたBHV−1であるGL756ΔUL49.5−ΔUL41は、モック感染細胞と比較して同等のMHCクラスI発現を獲得したことを示した。
【実施例9】
【0157】
感染細胞におけるMHCクラスII分子のBHV−1ダウンレギュレーションと、改変されたBHV−1ウイルスによるクラスII発現の回復
感染細胞の表面におけるMHCクラスII分子の発現に対するBHV−1ウイルス及び改変されたBHV−1ウイルスの影響を測定するために、MDBK細胞が、実施例6で述べられた改変BHV−1ウイルスに感染せられた。細胞は、ウイルス(感染効率は0.1moi)もしくはモックに感染せられ、4℃で30分間インキュベートされた後、37℃で1時間IFN−γ処理された。感染から72時間後に、MHCクラスII分子に特異的なモノクローナル抗体CAT82A(VMRD)で細胞を染色した。CAT82Aは、Zenon(登録商標)マウスIgGラベリングキット(分子プローブ、Invitrogen Detection Technologies,Carlsbad,California,USA)で標識され、もしくは、蛍光標識二次抗体が使用された。ネガティブコントロール細胞は染色されなかった。細胞は、続いて、フローサイトメトリーによる蛍光法で分析された。
【0158】
図28のデータは、モック感染細胞と比較(モック感染細胞での発現を100%として表している)した、ウイルス感染細胞におけるMHCクラスII発現の相対値を示した。図29でのデータは、改変されていないBHV−1ウイルスに感染せられた細胞と比較した、改変ウイルスにおける細胞でのMHCクラスIIの発現の回復パーセント割合を示した(BHV−1GL756に感染せられた細胞のMHCクラスIIレベルを0とし;モック感染細胞での値を100とした)。非改変のBHV−1は感染細胞の表面でのMHCクラスII分子の発現を抑制することをデータは示した。UL49.4が改変されたBHV−1ウイルス、及び、UL41が改変されたBHV−1ウイルスは、野生型のBHV−1と比較して、部分的にMHCクラスIIの発現を回復させる(顕著に抑制をしない)ことをデータは示した。UL49.5及びUL41の両方が改変されたBHV−1ウイルスは、単一の改変を有するウイルスと比較して、感染細胞でのMHCクラスII発現の抑制が小さい(単一の遺伝子が改変されたBHV−1と比較して、MHCクラスIIの回復が大きい)ことをデータは示した。
【実施例10】
【0159】
改変を有するBHV−1ウイルスによる、同時投与された免疫原に特異的なIgGでの小牛におけるIgG1/IgG2サブタイプ比の回復と獲得
実施例3及び図12で示されたデータは、単独で投与された免疫原に応答して誘発されたIgGでのIgG1/IgG2比と比較して、BHV−1と併せて投与された免疫原に応答して誘発されたIgGでのIgG1/IgG2サブタイプ比を、BHV−1は低下させることを示唆した。改変を有するBHV−1ウイルスの、ウイルスと併せて投与される免疫原に反応性のIgGでのIgG1/IgG2比への影響を測定するために、BHV−1血清反応陰性小牛(Hereford−AngusもしくはHolstein−Dairy交雑)、生後3〜6ヶ月が使用された。小牛はまた、ELISAによって測定される最小限のLkT力価を有していた。Manheim heamolytica由来LkT組換え単独(100μg/2mL(EmulsigenDアジュバントを含有))、LkT及びBHV−1(約105.5BHV−1GL756株/2mL)、LkT及びUL49.5及びUL41に改変を有するBHV−1(GL756ΔUL49.5−ΔUL41、実施例6で説明されたもの)、もしくは、LkT及びUs4に改変を有するBHV−1(GL756ΔUs4、実施例6で説明されたもの)が小牛の頸部皮下に投与された。BHV−1、改変BHV−1、LkTは、0日目に、頸部において約5cm離隔して同時投与された。21日目に、小牛に再度LkTが単独で(ウイルスなしで)投与された。14、21、28及び35日目に、血液が採取され、血清が収集された。LkT及びIgGサブタイプに特異的な抗体でコーティングされたELISAプレートを用いて、各時点での、LkT反応性のIgG1及びIgG2血清抗体が測定された。
【0160】
図30の結果は、LkTと併せた野生型BHV−1(GL756)の投与は、LkT単独で投与した後に得られるLkT特異的なIgG1/IgG2の比と比較して、LkT特異的なIgG1/IgG2の比を減少させることを示した(28日目、35日目の時点を参照)。これらの結果は、実施例3での議論や図12での図示と合致する。図30のデータはまた、UL49.5及びUL41の両方に改変を有するBHV−1ウイルスもしくはUs4に改変を有するBHV−1ウイルスと、LkTが同時に投与された場合には、このIgG1/IgG2の抑制が観察されないことを示した。LkTと野生型BHV−1ウイルスが投与された後にみられる(LkT単独投与と比べた)LkT特異的IgG1/IgG2比の抑制とは対照的に、LkTと2つの改変されたBHV−1ウイルスが投与された後にみられるLkT特異的なIgG1/IgG2比は増進されている(LkT単独投与後のIgG1/IgG2よりも大きい)ことを示した。これらのデータは、改変されたBHV−1ウイルスは、野生型BHV−1と併せて投与された免疫原である免疫原に特異的な抗体でのIgG1/IgG2比の抑制を反転させうることを示唆した。これらのデータはまた、改変されたBHV−1ウイルスは、免疫原単独で(野生型BHV−1なしに)投与された後に誘発される抗体でのIgG1/IgG2比と比較して、同時投与された免疫原に特異的な抗体でのIgG1/IgG2比をも増進させうることを示唆した。
【実施例11】
【0161】
改変を有するBHV−1ウイルスによる、同時投与された免疫原への小牛における抗原リコール応答の回復
実施例4及び図14に示されたデータは、単独で投与された免疫原へのリコール応答と比較して、BHV−1は、野生型BHV−1と併せて投与された免疫原へのリコール応答を抑制しうることを示唆した。改変を有するBHV−1ウイルスの、ウイルスと共に投与される免疫原へのリコール応答への影響を測定するために、IL−2産生が測定されるように、実施例10の23日目として説明された実験で使用された小牛から血液が採取された。血液は希釈され、サンプルにLkT抗原が添加された。続いて、ELISAを用いてサンプルのIL−2レベルが測定された。
【0162】
図31で図示された結果は、血中の細胞からのIL−2産生量が測定されるとおり、改変されていないBHV−1(GL756)とLkTとが小牛に投与された場合と比べて、UL49.5とUL41の両方に改変を有するBHV−1(GL756ΔUL49.5−ΔUL41)とLkTとが小牛に投与された場合には、抗原リコールが増加したことを示唆した。データは、Us4に改変を有するBHV−1(GL756ΔUs4、実施例6にて説明)とLkTが小牛に投与された場合には、抗原リコールはさらに増加することを示した。
【0163】
実施例の構成、方法、その他が明細書で描写されたが、発明の目的を制限し、またいかなる意味においても限定することを意図するものではない。当然ながら、構成、方法その他を説明する目的のために、すべての考えられる組み合わせの構成もしくは方法をここに記述することは不可能である。当業者には追加的な発展や改変が容易に明らかになるであろう。つまり、本発明は示され、説明された特定の細部や例示に限定されるものではない。このように、本出願は、発明の目的の範囲内において、代替法、改変、及びバリエーションを包含することを意図される。さらに、前述の説明は発明の目的を限定することを意味しない。正確には、発明の目的は添付された請求項及びその均等範囲によって決定される。‘又は(or)’なる用語が発明の詳細な説明や請求項で使用される(例えば、A又はB)限りにおいて、それは‘A又はB又は両方’を意味することが意図される。出願人が‘AかBかのどちらかで、両方ではない’と示唆する意図である場合には、‘AかBかのどちらかで、両方ではない(only A or B but not both)’が使われる。このように、ここでの‘or’なる用語の使用は包括的であって、排他的なものではない。
【図1】

【図2−1】

【図2−2】

【図2−3】

【図3−1】

【図3−2】

【図3−3】

【図4−1】

【図4−2】

【図4−3】

【図5−1】

【図5−2】

【図6−1】

【図6−2】

【図6−3】

【図7−1】

【図7−2】

【図8−1】

【図8−2】

【図8−3】

【図8−4】

【図9】

【図14−1】

【図14−2】

【図14−3】

【図14−4】

【図14−5】

【図15−1】

【図15−2】

【図15−3】

【図15−4】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図31】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染した宿主の免疫系を抑制するタンパク質をコードする2つ以上の遺伝子の改変を有するウシヘルペスウイルス1型(BHV−1)であって、該改変は、該免疫系の抑制を軽減するか又は防止する、ウシヘルペスウイルス1型。
【請求項2】
前記遺伝子が、宿主のMHC関連タンパク質のダウンレギュレーション又はBHV−1に対する宿主の免疫応答の回避を引き起こすタンパク質をコードする、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項3】
前記改変が、追加の免疫原に対する免疫系の抑制を軽減するか又は防止する、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項4】
前記追加の免疫原が、前記BHV−1と同時投与されるか又は併用ワクチンとして前記宿主に投与される、請求項3に記載のBHV−1。
【請求項5】
前記改変が、MHCクラスIの発現、ケモカインの発現、MHCクラスIIの発現、潜伏感染及びウイルス存続の発生、潜伏の再活性化、ならびにIgG媒介性免疫応答の発現の1つ以上に関与する遺伝子の改変である、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項6】
前記改変が、UL49.5、UL41、Us4、Circ、LR−ORF−1、LR−ORF−2、Us9及びUs8の1つ以上の改変である、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項7】
前記改変が、UL49.5及びUL41の改変である、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項8】
BHV−1バックグラウンドが、Cooper株又はGL756株を含む、請求項1に記載のBHV−1。
【請求項9】
BHV−1及び追加の免疫原を含む組成物であって、該BHV−1は、宿主において該追加の免疫原に対する免疫応答を抑制する遺伝子の改変を含み、該改変は、該免疫応答の抑制を軽減する、組成物。
【請求項10】
前記改変が、MHCクラスIの発現、ケモカインの発現、MHCクラスIIの発現、潜伏感染及びウイルス存続の発生、潜伏の再活性化、ならびにIgG媒介性免疫応答の発現の1つ以上に関与する遺伝子における改変である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項11】
前記改変が、MHCクラスIの発現及びケモカインの発現のうちの1つに関与する遺伝子における改変である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項12】
前記改変が、UL49.5、UL41、Us4、Circ、LR−ORF−1、LR−ORF−2、Us9又はUs8における改変である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項13】
前記改変が、UL49.5又はUL41における改変である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項14】
前記改変が、Us4における改変である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項15】
前記改変が、UL49.5における改変であり、前記BHV−1が、UL41又はUs4に追加の改変を含む、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項16】
BHV−1バックグラウンドが、Cooper株又はGL756株を含む、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項17】
前記追加の免疫原が、細菌、ウイルス又は寄生生物の免疫原を含む、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項18】
前記追加の免疫原が、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)I、BVDV II、BVDV III、ウシ呼吸器合胞体ウイルス(BRSV)、パラインフルエンザ3型ウイルス(PI3)、ロタウイルス(BRV)、コロナウイルス(BCV)、Mannheimia haemolytica、Histophilus somni、Mycoplasma bovis、Leptospira種、Vibrio種、Clostridia種、Pasteurella multocida、Fusobacterium necrophorum、E.coli O157:H7、Salmonella enterica、Neospora caninum又はTrichomonas種由来の免疫原を含む、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項19】
前記追加の免疫原が、Mannheimia haemolytica由来のLkTを含む、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項20】
前記BHV−1が、改変された生BHV−1ワクチン株である、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項21】
前記BHV−1が、死滅ウイルスである、請求項9に記載のBHV−1。
【請求項22】
宿主において免疫学的応答を誘発するための方法であって、該宿主に:
a)BHV−1抗原以外の免疫原(非BHV−1免疫原);及び
b)該非BHV−1免疫原に対する宿主の免疫学的応答を抑制することができるタンパク質をコードする遺伝子に改変を含むBHV−1
を投与する工程を包含する、方法。
【請求項23】
前記遺伝子が、UL49.5、UL41、Us4、Circ、LR−ORF−1、LR−ORF−2、Us9又はUs8を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記遺伝子が、UL49.5を含み、前記BHV−1が、UL41に追加の改変を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記非BHV−1免疫原が、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)I、BVD II、BVD III、ウシ呼吸器合胞体ウイルス(BRSV)、パラインフルエンザ3型ウイルス(PI3)、ロタウイルス(BRV)、コロナウイルス(BCV)、Mannheimia haemolytica、Histophilus somni、Mycoplasma bovis、Leptospira種、Vibrio種、Clostridia種、Pasteurella multocida、Fusobacterium necrophorum、E.coli O157:H7、Salmonella enterica、Neospora caninum又はTrichomonas種に由来する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記非BHV−1免疫原及び前記BHV−1が、同時投与されるか又は併用ワクチンとして前記宿主に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記非BHV−1免疫原に対する前記宿主の免疫学的応答が、野生型BHV−1の感染又は市販のBHV−1ワクチンでの感染の後に測定された免疫学的応答と比較して増加する、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記改変を含むBHV−1が、野生型BHV−1又は市販のBHV−1ワクチン株と比較して、前記非BHV−1免疫原で血液細胞を再刺激した後に、MHCクラスIの発現のダウンレギュレーションを軽減し、該非BHV−1免疫原に特異的なIgGに対するIgG1とIgG2との比を増加させ、そして/又はIL−2産生を増加させる、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
有蹄動物宿主においてBHV−1及び非BHV−1免疫原に対する免疫学的応答を誘発する際に使用するための、感染した有蹄動物において免疫学的応答を低下させるタンパク質をコードする遺伝子に改変を含むBHV−1。
【請求項30】
前記BHV−1が、感染した有蹄動物において免疫学的応答を低下させるタンパク質をコードする少なくとも2つの遺伝子に改変を含む、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記改変が、UL49.5及びUL41における改変である、請求項29に記載の使用。
【請求項32】
前記遺伝子が、MHCクラスIの発現、ケモカインの発現、MHCクラスIIの発現、潜伏感染及びウイルス存続の発生、潜伏の再活性化、ならびにIgG媒介性免疫応答の発現の1つ以上に関与するタンパク質をコードする、請求項29に記載の使用。
【請求項33】
前記遺伝子が、MHCクラスIの発現及びケモカインの発現の1つ以上に関与するタンパク質をコードする、請求項29に記載の使用。
【請求項34】
前記改変が、UL49.5、UL41、Us4、Circ、LR−ORF−1、LR−ORF−2、Us9又はUs8における改変である、請求項29に記載の使用。
【請求項35】
前記改変が、Us4における改変である、請求項29に記載の使用。
【請求項36】
同時投与又は有蹄動物宿主への併用カクテルの投与によってBHV−1及び非BHV−1免疫原に対する免疫学的応答を誘発するためのワクチンを製造する際の、感染した有蹄動物において免疫学的応答を低下させるタンパク質をコードする遺伝子に改変を含むBHV−1の使用。
【請求項37】
前記改変が、Us4における改変である、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記改変が、UL49.5における改変であり、前記BHV−1が、UL41に追加の改変を含む、請求項36に記載の使用。

【公表番号】特表2012−504417(P2012−504417A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530215(P2011−530215)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/059196
【国際公開番号】WO2010/039934
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(506011618)ノヴァルティス アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】NOVARTIS AG
【出願人】(510243539)コーネル ユニバーシティー (5)
【Fターム(参考)】