説明

ウマバベシア感染用診断キット

【課題】バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に、かつ確実に判定できるイムノクロマトグラフィーキットを提供する。
【解決手段】バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に判定できるイムノクロマトグラフィーキット。長手方向にサンプルパッド、コンジュゲートパッド、検出領域、コントロール領域及び吸収領域を、この順に有する多孔性のクロマトグラフィー用部材で構成され、被検物質に特異的に結合する物質が、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原由来の断片化EMA−2t抗原(rEMA−2t)及びバベシア・カバリのメロゾイト表面抗原由来の断片化Bc48抗原(rBc48)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウマバベシア感染用診断キットに関し、特に、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に判定できるイムノクロマクキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ウマバベシア病はダニが媒介する原虫病であり、病原体であるウマバベシア原虫はバベシア属に属するバベシア・カバリ(Babesia caballi;以下、「BC」ともいう)およびバベシア・エクイ(Babesia equi;以下、「BE」ともいう)の2種類が知られている。
【0003】
ウマバベシア 病は、南ヨーロッパ、アジア、ロシア、中近東、アフリカおよび中南米など世界中に広く分布している。本病は臨床上、高熱を発し、貧血および黄疸を主徴とし、急性ないし慢性に経過する。急性症の場合、その死亡率は2種類ある病原体によって若干異なるが、約10%、まれには50%に達することもあるといわれている。一方、予後は病原体により症状が異なり、いずれも耐過後は末梢血液中から原虫が消失するが、BEの場合は終生原虫保有ウマとなることが知られている。
【0004】
近年の国際的なウマの取り引きの増加は、清浄国である北アメリカ、オーストラリア、および日本を含む極東への本病の拡散の可能性を含んでいることから、早期診断による感染ウマの摘発が極めて重要となっている。このように感染が認められたウマについては拡散防止のために殺処分されることになるが、上記のようにBC感染の場合は、感染後に原虫が消失することから、BC感染ウマは隔離、係留しておけば殺処分をしなくて済むケースがある。また、感染原虫種により治療法も異なってくる。従って、いずれの種のバベシア 原虫に感染しているかを正確に診断することは、特に高価な競争馬においては重要な問題となっている。
【0005】
ウマバベシア 原虫の生活史はマラリア原虫と類似している。すなわち、宿主の血液に入った種虫(スポロゾイト;sporozoite)は直ちに赤血球に侵入しメロゾイト(merozoite)となる。メロゾイトは赤血球中でさらに2分裂して数を増す。赤血球の破壊に伴いメロゾイトは放出され、他の赤血球に感染する。メロゾイトが寄生している赤血球を媒介者であるマダニが吸血によって摂取すると、マダニ腸管内でメロゾイトのうちある個体は配偶子母細胞となり、有性的な配偶子を形成する。こうして形成された雌雄の配偶子の合体によって生じたチゴート(zygote)は、マダニ腸細胞内に侵入し、スポロキネート(sporokinete)を経た後、マダニ体内の各臓器内でさらに分裂して、最終的にマダニ唾液腺に到って多数の種虫となり、新たな感染を引き起こす。
【0006】
ウマバベシア 病の感染の診断は、通常、上記ウマバベシア 原虫の生活史のうち、ウマ血中に存在するメロゾイトまたはそれに対する抗体を検出することにより行う。
【0007】
ウマバベシア 病の感染の診断には、現在のところ、主に補体結合反応(以下、「CF」ともいう)と間接蛍光抗体法(以下、「IFA」ともいう)が用いられているが、検出感度が低いことから感染初期やキャリアー状態のウマを見逃すおそれが指摘されている。また、これらの血清学的診断法は特異性の点でも問題を伴うことが多い。
【0008】
さらに、これらの診断法は、本病に感染したウマの血液より分離した原虫を抗原として利用したものであるため、抗原の作製コストおよびその品質のバラツキが問題となる。特にBCについては、感染したウマは原虫の増殖がまだ低い段階でも発熱・貧血を主徴とする激烈な症状を呈して死亡してしまうため、抗原の入手が極めて困難であり、安定した診断法の確立が妨げられている。
【0009】
CFやIFAに代わる診断法として、近年、ウエスタンブロット法[Int.J.Parasitol. 22(5):627−630(1992)、非特許文献1]、ELISA[Vet.Parasitol.20:43−48(1986)、非特許文献2;Int.J.Parasitol. 24(3):341−346(1994)、非特許文献3;Vet.Parasitol. 68:11−26(1997)、非特許文献4]、DNAプローブを用いた方法[Parasitology 102:357−365(1991)、非特許文献5;Vet.Parasitol. 73:53−63(1997)、非特許文献6]が報告されている。しかしながら、ウエスタンブロット法では検出感度の点、ELISAではBEとの類症鑑別における特異性の点あるいは抗原入手の困難性の点、DNAプローブを用いた方法ではオートラジオグラフィーなどアイリトープを用いる特別な施設を必要とする等、特異性、感度、簡便さなど多くの解決すべき問題が残されている。
【0010】
以上のことから、特異性に優れるBC原虫の有用な診断用抗原を安定して供給することを可能にし得る技術を開発することが、本病を予防、制圧する上で重要な課題と考えられる。
【非特許文献1】Int.J.Parasitol. 22(5):627−630(1992)
【非特許文献2】Vet.Parasitol.20:43−48(1986)
【非特許文献3】Int.J.Parasitol. 24(3):341−346(1994)
【非特許文献4】Vet.Parasitol. 68:11−26(1997)
【非特許文献5】Parasitology 102:357−365(1991)
【非特許文献6】Vet.Parasitol. 73:53−63(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
バベシア・エクイ(Babesia equi)及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)の分布地域は、重複しており、両者の感染を同時にかつ確実に判定できることができれば、ウマの検疫には非常に有利である。
【0012】
そこで本発明の目的は、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に、かつ確実に判定できるイムノクロマトグラフィーキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[請求項1]バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に判定できるイムノクロマトグラフィーキットであって、
長手方向にサンプルパッド、コンジュゲートパッド、検出領域、コントロール領域及び吸収領域を、この順に有する多孔性のクロマトグラフィー用部材で構成され、
前記サンプルパッドは、被検物質を含む試料を供給する領域であり、
前記コンジュゲートパッドは、被検物質に特異的に結合する物質であって, 粒子により標識された物質であるコンジュゲートを含む領域であり、
前記検出領域は、被検物質に特異的に結合する物質を含む領域であり、
前記コントロール領域は、コンジュゲートに特異的に結合する物質を含む領域であり、
前記吸収領域は、液体吸収用物質を含む領域であり、
前記被検物質に特異的に結合する物質が、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原由来の断片化EMA−2t抗原(rEMA−2t)及びバベシア・カバリのメロゾイト表面抗原由来の断片化Bc48抗原(rBc48)である、
前記キット。
[請求項2]被検物質が、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原に対する抗体及バベシア・カバリのメロゾイト表面抗原に対する抗体である請求項1に記載のキット。
[請求項3]粒子が金属コロイド粒子又はラテックス粒子である請求項1または2に記載のキット。
[請求項4]rEMA−2tが3.5〜6.5μg/cm2の濃度で前記検出領域に含まれ、かつrEMA−2tのコンジュゲートがrEMA−2tとして5〜15μg/cm2の濃度で前記コンジュゲートパッドに含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載のキット。
[請求項5]rBc48が0.75〜2μg/cm2の濃度で前記検出領域に含まれ、かつrBc48のコンジュゲートがrBc48として3.125〜12.5μg/cm2の濃度で前記コンジュゲートパッドに含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載のキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に、かつ確実に判定できるイムノクロマトグラフィーキットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に判定できるイムノクロマトグラフィーキットである。以下、単に本発明のキットということがある。
【0016】
図1に本発明のキットの長手方向の断面説明図を示す。図1に示すように、本発明のキットは、長手方向にサンプルパッド10、コンジュゲートパッド11、検出領域12及び13、コントロール領域14並びに吸収領域15を有する多孔性のクロマトグラフィー用部材で構成される。検出領域12及び13、並びにコントロール領域14は、分析用膜17にそれぞれ設けられている。
分析用膜17は、親水性、多孔性及びタンパク質親和性を有するという観点から、ニトロセルロースであることが適当である。
また、サンプルパッド10、コンジュゲートパッド11、分析用膜17及び吸収領域15は、基板16上に、隣り合う部材の末端が重なり合うように配置される。
【0017】
サンプルパッド10は、被検物質を含む試料を供給する領域であり、保水力があり、被検物質との化学反応が起こらない不活性素材から構成されることが適当である。サンプルパッド10は、例えば、コットン素材のペーパーから構成される。
【0018】
コンジュゲートパッド11は、被検物質に特異的に結合する物質であって、粒子により標識された物質(コンジュゲート)20及び21を含む領域である。コンジュゲートパッド11を構成するパッドは、例えば、多孔質材質の繊維性フィルター(グラスファイバー)から構成することができる。
【0019】
検出領域12及び13は、被検物質に特異的に結合する物質22及び23を含む領域であり、分析用膜17上に設けられる。分析用膜17は、例えば、多孔性のクロマトグラフィー用部材(ニトロセルロースメンブレン)から構成することができる。
【0020】
コントロール領域14は、コンジュゲートに特異的に結合する物質24を含む領域であり、分析用膜17上に設けられる。
【0021】
吸収領域15は、抗原と抗体の特異的な結合が行われるメンブレンから過剰のサンプルを吸収する領域であり、例えば、セルロースフィルターから構成することができる。
【0022】
前記コンジュゲートを構成する被検物質に特異的に結合する物質は、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原由来の断片化EMA−2t抗原(rEMA−2t)及びバベシア・カバリのメロゾイト表面抗原由来の断片化Bc48抗原(rBc48)である。バベシア ・エクイのメロゾイト表面抗原由来の断片化EMA−2t抗原(rEMA−2t)は、EMA−2t遺伝子を鋳型として用いて、組換えEMA-2tタンパク質として調製することができる。バベシア・カバリのメロゾイト表面抗原由来の断片化Bc48抗原(rBc48)は、Bc48遺伝子を鋳型として用いて、組換えEMA-2tタンパク質として調製することができる。いずれの組換えタンパク質も常法により調製することができ、必要により、例えば、カラムクロマトグラフィーにより精製することもできる。
【0023】
上記rEMA−2t及びrBc48は、粒子により標識されてコンジュゲートを構成する。標識に用いられる粒子は、例えば、金属コロイド粒子又はラテックス粒子であることができる。ここで使用される粒子は、免疫診断法等で、抗原または抗体を標識するのに用いられる粒子をそのまま利用することができる。rEMA−2t及びrBc48に対する粒子の標識は、rEMA−2tまたはrBc48と金属コロイド粒子またはラテックス粒子を混合し、コンジュゲートを形成しなかった金属コロイド粒子またはラテックス粒子を洗い流すことで行われる。金属コロイド粒子またはラテックス粒子による標識は、常法によって行うことができる。
【0024】
粒子により標識されたrEMA−2tコンジュゲート、及び粒子により標識されたrBc48コンジュゲートのコンジュゲートパッドへの含有量は、試料中に含まれる被検物質(抗体)量及びを考慮して、rEMA−2t及びrBc48の両方について適切な検出感度が得られ、かつコントロール領域において、コントロールラインが形成されるように決定される。具体的には、コントロール領域に固定されている「コンジュゲートに特異的に結合する物質」が、抗rEMA−2t抗体である場合、rEMA−2tコンジュゲートのコンジュゲートパッドへの含有量は、試料中に含まれる被検物質(抗体)量を超え、コントロール領域に固定されている抗rEMA−2t抗体とも、反応できる量であることが、コントロールラインが形成されるためには必要である。「コンジュゲートに特異的に結合する物質」が、抗rBc48抗体である場合のrBc48コンジュゲートのコンジュゲートパッドへの含有量についても同様である。
【0025】
rEMA−2tコンジュゲート及びrBc48コンジュゲートのサンプルパッドへの保持は、上記2つのコンジュゲートの混合物を作成し、この混合物を、サンプルパッドを構成するパッド上に、例えば、スプレーし、乾燥することで行うことができる。
【0026】
検出領域12及び13に含まれ、被検物質に特異的に結合する物質22及び23は、具体的には、それぞれrEMA−2t及びrBc48である。rEMA−2t及びrBc48の調製方法は前述の通りである。rEMA−2t及びrBc48の検出領域12及び13への固定化量は、rEMA−2t及びrBc48の両方について適切な検出感度が得られること等を考慮して、決定される。
【0027】
より具体的には、検出領域12へのrEMA−2tの固定化量は、例えば、3.5〜6.5μg/cm2の濃度であることが適当である。rEMA−2tの固定化量は、約5μg/ cm2の濃度であることが好ましい。検出領域12へのrEMA−2tの固定化量は、3.5μg/cm2の濃度を下回ると、陽性血清に対しても、識別可能な程度に発色せず、また6.5μg/cm2の濃度を上回ると、陰性血清に対しても、発色してしまう。rEMA−2tの固定化量が、約5μg/cm2の濃度であることで、陽性血清に対して適度な発色(識別が容易な程度の発色)が得られる。
【0028】
検出領域13へのrBc48の固定化量は、例えば、0.75〜2μg/cm2の濃度であることが適当である。rBc48の固定化量は、約1.25μg/cm2の濃度であることが好ましい。検出領域13へのrBc48の固定化量は、0.75μg/cm2の濃度を下回ると、陽性血清に対しても、識別可能な程度に発色せず、また2μg/cm2の濃度を上回ると、陰性血清に対しても、発色してしまう。rBc48の固定化量が、約1.25μg/cm2の濃度であることで、陽性血清に対して適度な発色(識別が容易な程度の発色)が得られる。
【0029】
より具体的には、rEMA−2tが3.5〜6.5μg/cm2の濃度で検出領域に含まれ、かつrEMA−2tのコンジュゲートがrEMA−2tとして5〜15μg/cm2の濃度でコンジュゲートパッドに含まれること、さらには、rBc48が0.75〜2μg/cm2の濃度で検出領域に含まれ、かつrBc48のコンジュゲートがrBc48として3.125〜12.5μg/cm2の濃度でコンジュゲートパッドに含まれることが、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に、かつ確実に判定する、という観点から好ましい。
【0030】
rEMA−2tを含む検出領域12とrBc48を含む検出領域13とは、この順に設けても、逆に、rBc48を含む検出領域13が上流、rEMA−2tを含む検出領域12が下流になってもよい。
【0031】
コントロール領域14は、コンジュゲートに特異的に結合する物質24を含む。コンジュゲートに特異的に結合する物質24は、例えば、抗rEMA−2t抗体、抗rBc48抗体等であることができる。抗rEMA−2t抗体は、具体的には、抗rEMA−2tIgG等であることができる。抗rBc48抗体は、具体的には、抗rBc48IgG等であることができる。
【0032】
コントロール領域14へコンジュゲートに特異的に結合する物質24の含有量は、コントロール領域に到達したコンジュゲート(21または22)とコンジュゲートに特異的に結合する物質24とが結合して、識別可能な程度のコントロールラインが形成されること等を考慮して適宜決定できる。
【0033】
本発明のキットを用いて検出される被検物質は、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原に対する抗体及バベシア・カバリのメロゾイト表面抗原に対する抗体である。被験体であるウマから採取した血液を、そのまま、あるいは血清を分離して、検査試料(溶液)として用いる。
【0034】
本発明のキットでは、検査試料(溶液)をサンプルパッド10に供給する。サンプルパッド10に供給された検査試料は、毛細管現象により、サンプルパッド10からコンジュゲートパッド11に移動する。コンジュゲートパッド11からは、コンジュゲートパッド11に含有されていた、rEMA−2tコンジュゲート及びrBc48コンジュゲートも、検査試料とともに、分析用膜17に移動する。分析用膜17上では、検出領域12、検出領域13、及びコントロール領域14の順に、コンジュゲートを含む検査試料が移動する。
【0035】
検出領域12には、rEMA−2tが固定化されており、検査試料にバベシア・エクイのメロゾイト表面抗原に対する抗体が含まれていると、この抗体とrEMA−2tコンジュゲートとが結合し、さらに、この結合体の抗体部分が、検出領域12のrEMA−2tと結合して、コンジュゲートの凝集体を形成して、発色する。
【0036】
検出領域13にはrBc48が固定化されており、検査試料にバベシア・カバリのメロゾイト表面抗原に対する抗体が含まれていると、この抗体とrBc48コンジュゲートが結合し、さらに、この結合体の抗体部分が、検出領域13のrBc48と結合して、コンジュゲートの凝集体を形成して、発色する。
【0037】
本発明のキットは、バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に、かつ確実に判定できることを目的とするキットである。そのため、本発明においては、粒子により標識されたrEMA−2t(コンジュゲート20)及び粒子により標識されたrBc48(コンジュゲート21)は、コンジュゲートパッド11から、ほぼ並行して分析用膜17上を移動して検出領域12及び13、さらには、コントロール領域14に達するように、コンジュゲート20及びコンジュゲート21の混合物をコンジュゲートパッド11に含有させている。
【0038】
検出領域12及び検出領域13を通過したコンジュゲートを含む検査試料(溶液)は、コントロール領域14に達する。コントロール領域14には、例えば、前述のように抗rEMA−2t抗体または抗rBc48抗体が固定化されており、試料含まれるコンジュゲーとこれらの抗体が反応してコンジュゲートの凝集体を形成して、発色する。これにより、コンジュゲートを含む検査試料(溶液)が、検出領域12及び検出領域13を通過したことを判定できる。
【0039】
検出領域12及び検出領域13のいずれもが発色すれば、バベシア・エクイ(Babesia equi)及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)の両方の感染に対して陽性である。検出領域12及び検出領域13のいずれか一方が発色せず、コントロール領域14が発色すれば、検出領域が発色した方の感染のみ陽性である。または両方の検出領域ともに発色せず、コントロール領域14が発色すれば、いずれの感染に対しても陰性である。
【実施例】
【0040】
本発明のキットについて、以下に実施例によりさらに詳細に説明する。
【0041】
組換え抗原rEMA-2tの調製
EMA-2t遺伝子をオリゴヌクレオチド5'-ACGAATTCCGATGAGGCACCAAAG-3' (配列番号1), 及び 5'-ACGAATTCTTATTGGGTCTTGTAG-3' (配列番号2)のセットをプライマーとし、B. equiのUSDA株(USDA: U.S. Department of Agriculture) から抽出したゲノムDNAを鋳型として用いて増幅した。増幅DNAは、pGEX-4TのEcoRI部位に挿入しE. coli のDH5α 株を形質転換した。得られた組換えプラスミドをクローニングし、pGEX-4T/EMA-2tとした。pGEX-4T/EMA-2tで形質転換したE. coliクローンを50 μg/ml のアンピシリンナトリウムを含むLB 培地 (1% bacto treptone, 0.5% 酵母抽出物, 1% NaCl, 及び 0.1% 5 N NaOH)で37(Cで培養した。OD 600 nm が0.30に達したとき、0.5 mM IPTGを添加し、さらに4時間インキュベートすることにより組換えEMA-2tタンパク質を発現するようにE. coliを誘導した。GSTと融合した組換えEMA-2tタンパク質は、100 μg/ml のリゾチーム及び 1% Triton X-100を含むTNE (50 mM Tris-HCl at pH 7.5, 100 mM NaCl, 及び2 mM EDTA)で超音波を加えながら抽出し、Glutathione Sepharose 4B (Amersham Pharmarcia Biotech, USA)を用いて可溶性フラクションから精製した。スロンビンプロテアーゼを用いて融合タンパク質からGSTを除去した後に、組換えEMA-2tをメーカー推奨の方法に従い、Glutathion Sepharose 4B(グルタチオンセファロース4B)カラムにて精製した。
【0042】
組換え抗原rBc48の調製
pGEX-4T/Bc48で形質転換した E. coli (BL21 strain) コロニーを37℃で一晩、50 μg/ml のアンピシリンナトリウムとともにLB培地(1% bacto treptone, 0.5% 酵母抽出物, 1% NaCl, 及び 0.1% 5 N NaOH) で小スケールで培養した。得られた培養物をLB mediumに1:100で希釈し、25Cでの大規模培養に供した。OD 600 nm が0.50に達したとき、0.5 mM IPTGを添加し、さらに25℃で4時間インキュベーションして組換えBc48タンパク質を発現するように誘導した。抽出及び精製の操作方法は、上記rEMA-2tと同様とした。
【0043】
コンジュゲートの調製
rEMA-2t 及びrBc48の濃度をそれぞれ200 μg/ml及び125 μg/mlとした。rEMA-2tを5 mMリン酸緩衝液(pH6.5)で透析し、rBc48 を5 mM phosphate buffer (pH 8.0)で透析した。rEMA-2t 及び rBc48は、それぞれ、抗原及び金コロイド粒子 (1:10 v/v)と混合し、室温で10分間インキュベートすることで、金コロイド (British BioCell International, SDX, UK)と 、pH 6.5 及び pH 8.0でそれぞれコンジュゲートした。次いで、0.05%ポリエチレングリコール20,000 (PEG) 及び 1%牛血清アルブミン(BSA)を添加して安定化し、コンジュゲート粒子をブロックした。18,000 × g で 20 min遠心分離した後、上澄み液を捨て、ペレットを超音波により再懸濁してPBS-0.5% BSA 及び0.05% PEGを含んだ液で洗浄した。2回目の遠心分離の後、ペレットをPBS-0.5% BSA 及び 0.05% PEGを含んだ液で再懸濁した。コンジュゲートの濃度は、520 nm 吸光度が5に達するまで調整した。2つのコンジュゲートは、混合し、10 mM Tris-HCl (pH 8.2) -5%サッカロースを含んだ液で希釈した。次いで、混合物はグラスファイバー(Schleicher & Schuell, NH, USA)上にスプレーし、真空中で一晩乾燥した。
【0044】
Rabbit Anti-rEMA-2t IgG
1ml の完全フロイントアジュバント(DIFCO Laboratories, MI, USA)と混合した1 ml のrEMA-2t (2mg/ml)で、背中に複数回皮内注射することでラビットを免疫した。完全フロイントアジュバント(DIFCO Laboratories, MI, USA)と混合した抗原を同投与量で2週間の間隔で2回の追加免疫を行った。最後の免疫から10日後に全採血した。IgGフラグメントは、メーカーの推奨方法に従い、Econo-Pac(登録商標)Protein A Kit (Bio-Rad Laboratories, CA, USA)を用いてその血清から精製し、ICTのコントロールとして用いた。
【0045】
ニトロセルロース(NC)膜への rEMA-2t, rBc48 及びラビット抗-rEMA-2t IgG の固定化
rEMA-2t (500 μg/ml), rBc48 (125 μg/ml) 及びラビット抗-rEMA-2t IgG (1,500 μg/ml) をプラスチック材(Schleicher & Schuell, NH, USA)で裏張りしたNC上に、BioDot's Biojet 3050 quanti-dispenser (BioDot Inc., CA, USA)を用いてB. equiのテスト領域、B. caballiのテスト領域及びコントロール領域にそれぞれ線状に噴射した。次いで、この膜を50度で30分乾燥し、0.5% caseinを含む50 mMホウ酸緩衝液(pH 8.5)中で30分間ブロックした。0.5%サッカロース及び0.05%コール酸ナトリウムを含む50mM Tris-HCl(pH 7.4)で洗浄した後、膜を空気中で一晩乾燥した。rEMA-2t (500 μg/ml)は、 5μg/cm2の濃度となるように塗布した。また、rBc48 (125 μg/ml)は、1.25μg/cm2の濃度となるように塗布した。
【0046】
テストストリップの組み立て及び検出
セルロースメンブレン(NC)、吸収パッド、コンジュゲートパッド、サンプルパッド、粘着カード(Schleicher & Schuell, NH, USA)上に組み立て、BioDot's cutter (BioDot Inc., CA, USA)を用いて、6mm幅のストリップに切断した。作製したキットを用い、検出は、サンプルパッドに血清100 μlを滴下することで行った。結果は、15分以内に判定し、以下の通りに記録できた。結果を図4に示す。
レーン1: 使用前のキット
レーン2: 両バベシア症ともに陽性の血清
レーン3: バベシア・カバリ(B. caballi) 症は陽性で バベシア・エクイ(B. equi)症は陰性の血清
レーン4: バベシア ・エクイ(B. equi)症は陽性でバベシア ・カバリ(B. caballi)症は陰性の血清
レーン5: 両バベシア症ともに陰性の血清
【0047】
2種類のウマバベシア感染を同時に診断する簡易キットの条件検討
1)抗原と金コロイドの結合条件の検討
1.rEMA-2tの場合
抗原量の検討:5μg/cm2、10μg/cm2、15μg/cm2及び20μg/cm2の濃度で検討したところ、10μg/cm2で、もっとも良好な結合が認められた。
pHの検討:6.0、6.5、7.0の3点で検討したところ、6.5で一番強い結合が認められた。
【0048】
2.rBC48の場合
抗原量の検討: 3.125μg/cm2、6.25μg/cm2、及び12.5μg/cm2の濃度で検討したところ、6.25μg/cm2で、もっとも良好な結合が認められた。
pHの検討:7.0、8.0、9.0の3点で検討したところ、8.0で一番強い結合が認められた。
【0049】
2)抗原のセルロースメンブレンへの塗布条件の検討
1.rEMA-2tの場合
抗原量の検討:2.5、5、7.5μg/cm2の濃度で検討したところ、5μg/ cm2で、バックグランドも認められず強いバンドが認められた。結果を図2に示す。
【0050】
2.rBC48の場合
抗原量の検討:0.625、1.25、2.5μg/cm2 の濃度で検討したところ、1.25μg/cm2で、バックグランドも認められず強いバンドが認められた。結果を図3に示す。
【0051】
3)ニトロセルロースメンブレンのフローレートの検討
3種類のニトロセルロースメンブレンのフローレート(FF60/100(40〜80sec/4cm)、FF85/100(75〜100sec/4cm)及びFF125/100(100〜150sec/4cm)) を検討したところ、FF60/100のフローレートのニトロセルロースメンブレンで非特異的が一番少なく、高い感度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本診断キットは、2種類のウマバベシア病を短時間に簡便に診断可能である。
現在検疫所で用いられている方法(CF,IFA)にとって変われば、本疫のクリーニング法として極めて有利であり、馬の貿易促進に大いに役立つと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のキットの一態様の長手方向の断面説明図を示す。
【図2】抗原(rEMA-2t)のセルロースメンブレンへの塗布条件の検討結果。
【図3】抗原(rBC48)のセルロースメンブレンへの塗布条件の検討結果。
【図4】本発明のキットの実施例を用いた診断結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バベシア・エクイ(Babesia equi)感染及びバベシア・カバリ(Babesia caballi)感染を同時に判定できるイムノクロマトグラフィーキットであって、
長手方向にサンプルパッド、コンジュゲートパッド、検出領域、コントロール領域及び吸収領域を、この順に有する多孔性のクロマトグラフィー用部材で構成され、
前記サンプルパッドは、被検物質を含む試料を供給する領域であり、
前記コンジュゲートパッドは、被検物質に特異的に結合する物質であって, 粒子により標識された物質であるコンジュゲートを含む領域であり、
前記検出領域は、被検物質に特異的に結合する物質を含む領域であり、
前記コントロール領域は、コンジュゲートに特異的に結合する物質を含む領域であり、
前記吸収領域は、液体吸収用物質を含む領域であり、
前記被検物質に特異的に結合する物質が、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原由来の断片化EMA−2t抗原(rEMA−2t)及びバベシア・カバリのメロゾイト表面抗原由来の断片化Bc48抗原(rBc48)である、
前記キット。
【請求項2】
被検物質が、バベシア・エクイのメロゾイト表面抗原に対する抗体及バベシア・カバリのメロゾイト表面抗原に対する抗体である請求項1に記載のキット。
【請求項3】
粒子が金属コロイド粒子又はラテックス粒子である請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
rEMA−2tが3.5〜6.5μg/cm2の濃度で前記検出領域に含まれ、かつrEMA−2tのコンジュゲートがrEMA−2tとして5〜15μg/cm2の濃度で前記コンジュゲートパッドに含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
rBc48が0.75〜2μg/cm2の濃度で前記検出領域に含まれ、かつrBc48のコンジュゲートがrBc48として3.125〜12.5μg/cm2の濃度で前記コンジュゲートパッドに含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−194785(P2006−194785A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8062(P2005−8062)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】