説明

エアゾール用金属缶体及びその製造方法

【目的】ジメチルエーテルを含むエアゾール組成物に対する耐食性に優れたエアゾール用金属缶体及びその製造方法を提供する。
【構成】缶胴部4の内面側全面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂の1種以上を主成分とし、フェノール樹脂またはアミノ樹脂の硬化剤を含む熱硬化型樹脂のベースコート層6を設ける。その上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂のトップコート層7を設ける。トップコート層7は30〜80μmの厚さである。トップコート層7は前記樹脂の粉体塗料で形成される。ベースコート層6は3〜10μmの厚さである。エアゾール用金属缶体1は、缶胴部4の内面側全面にベースコート層6を形成し、その上に前記粉体塗料により前記厚さのトップコート層7を形成することにより製造する。前記粉体塗料の粒子径は25〜50μmである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、殺虫剤や整髪料等のエアゾール組成物を収容するエアゾール用金属缶体に関するものであり、さらに詳しくはスプレーするときに気化する成分としてジメチルエーテルを含むエアゾール組成物を収容するエアゾール用金属缶体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、殺虫剤や整髪料等のエアゾール組成物を収容するエアゾール用金属缶体では、前記エアゾール組成物に含まれる殺虫剤や整髪料等の有効成分及びスプレー時に気化して前記有効成分のエアゾールを形成する成分(以下、プロペラントと略記する)による基体金属の腐食を防止するために、合成樹脂の塗膜が設けられている。
【0003】従来のエアゾール組成物では前記プロペラントとして反応性が極めて低いフロンが使用されており、このようなエアゾール組成物を収容するために缶内面側にエポキシ・フェノール系樹脂またはエポキシ・アクリル系樹脂からなる単独の塗膜を設けたエアゾール用金属缶体が知られている。ところが、近年、フロンは地球のオゾン層を破壊する作用があることが指摘され、その使用が禁じられつつある。このため、前記プロペラントとしてフロンに変えてLPGやジメチルエーテルが使用されるようになり、特にヘア・ムース等の整髪料のエアゾール組成物にはジメチルエーテルが使用される傾向がある。
【0004】しかしながら、前記エポキシ・フェノール系樹脂またはエポキシ・アクリル系樹脂からなる単独の塗膜はジメチルエーテルのために膨潤するので、前記プロペラントとしてジメチルエーテルを使用すると、基体金属のエアゾール組成物に対する耐食性が低下するとの不都合がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる不都合を解消して、プロペラントとしてジメチルエーテルを含むエアゾール組成物に対して優れた耐食性を有するエアゾール用金属缶体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のエアゾール用金属缶体は、かかる目的を達成するために、スプレーするときに気化する成分としてジメチルエーテルを含むエアゾール組成物を収容するエアゾール用金属缶体であって、少なくとも缶胴部の内面側全面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなるベースコート層を設け、該ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂からなるトップコート層を設けてなることを特徴とする。
【0007】前記トップコート層のイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂は、それ自体ジメチルエーテルに膨潤しにくい樹脂であるが、前記エアゾール用金属缶体に収容されたエアゾール組成物中に含まれるジメチルエーテルと長期間接触したときに基体金属の耐食性を確保するためには30〜80μmの範囲の厚さに塗装することが望ましい。前記トップコート層の厚さが30μm未満では塗装の際にピンホールが生じる虞れがあり、80μmより厚くすると加工性が低下する。
【0008】前記トップコート層は、前記の範囲の厚さに塗装するために、前記イソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料により形成される。溶剤系塗料を用いて前記トップコート層を前記の範囲の厚さに塗装しようとすると、例えばロールコート等により重ね塗りを行わなければならず、また前記の範囲の厚さでは、焼付けの際に溶剤が気化、発泡し、形成される塗膜(トップコート層)に欠陥が生じる虞れがある。これに対して、粉体塗料によるときには、1回の塗装で前記範囲の厚さとすることができ、また塗膜に欠陥が生じる虞れがないので好ましい。
【0009】前記イソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂は基体金属に対する密着性が低いので、十分な密着性を確保するために、前記トップコート層は前記基体金属との間に前記熱硬化型樹脂からなるベースコート層を介在させて3〜10μmの範囲の厚さに形成する。前記ベースコート層を形成する熱硬化型樹脂として、例えば、エポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂、エポキシ・アミノ樹脂、ポリエステル・アミノ樹脂、ポリエステル・アクリル・アミノ樹脂等を挙げることができる。
【0010】本発明のエアゾール用金属缶体は、少なくとも金属缶胴部の内面側全面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなる塗料によりベースコート層を形成するベースコート層形成工程と、前記ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料により30〜80μmの範囲の厚さのトップコート層を形成するトップコート層形成工程とを有する製造方法により製造することができる。
【0011】前記粉体塗料はその粒子の直径が25〜50μmの範囲にあるものが用いられる。
【0012】
【作用】前記構成を有する本発明のエアゾール用金属缶体によれば、トップコート層がイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂からなるので、ジメチルエーテルを含むエアゾール組成物により膨潤されることがなく、該エアゾール組成物による基体金属の腐食が防止される。また、前記トップコート層と、基体金属との間には、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなるベースコート層を有するので、該ベースコート層を介して前記トップコート層と前記基体金属との密着性が確保される。
【0013】前記トップコート層は、30〜80μmの範囲の厚さを有することにより、エアゾール組成物中に含まれるジメチルエーテルと長期間接触しても、ジメチルエーテルにより膨潤しにくく、基体金属の耐食性が確保される。また、前記トップコート層は、前記イソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料から形成されることにより、容易に前記範囲の厚さが得られる。
【0014】前記ベースコート層は、3〜10μmの範囲の厚さを有することにより、前記トップコート層と前記基体金属との密着性が確保され、また該ベースコート層自体もジメチルエーテルにより膨潤しにくくなる。即ち、ベースコート層の厚さが3μm未満では前記トップコート層を前記基体金属に密着させる効果が不十分になると共に、該ベースコート層自体がジメチルエーテルに膨潤し易くなり前記基体金属の前記エアゾール組成物に対する耐食性が不十分になる。また、前記ベースコート層の厚さが10μmより厚くなると、加工性が低下する。
【0015】本発明の製造方法では、少なくとも缶胴部の内面側全面に前記ベースコート層を形成したのち、前記ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂のトップコート層を形成することにより、該トップコート層が前記ベースコート層を介して前記缶胴部に確実に密着する。また、前記トップコート層は前記樹脂の粉体塗料を塗装することにより、容易に30〜80μmの範囲の厚さが得られる。前記粉体塗料は、その粒子の直径が25〜50μmの範囲にあることにより、適正な加工性が得られ、形成されるトップコート層にピンホールが発生することがない。即ち、粉体塗料の粒子の直径が25μm未満ではピンホールが発生する虞れがあり、50μmより大きいと加工性が低下する。
【0016】
【実施例1】次に、添付の図面を参照しながら本発明のエアゾール用金属缶体及びその製造方法についてさらに詳しく説明する。図1は本発明のエアゾール用金属缶体の缶胴部の断面図であり、図2は本発明のエアゾール用金属缶体の製造方法を示す部分斜視図、図3は図2のIII−III線断面図であり、図4は本発明のエアゾール用金属缶体の製造方法を示す説明的断面図である。
【0017】図1示のように、本発明のエアゾール用金属缶体1は、板厚0.2mm、錫めっき量1.0g/m2 の錫めっき鋼板2の両側端縁部3,3を重ね合わせて溶接接合してなる溶接缶体である。その缶胴部4の内面側には溶接接合部5を除いて、熱硬化型樹脂からなる塗膜6aが設けられており、溶接接合部5には塗膜6aと同じ熱硬化型樹脂からなる被覆補正6bが施され、塗膜6a及び被覆補正6bにより缶胴部4の内面側全面を被覆するベースコート層6が形成されている。本実施例では、前記ベースコート層6は、エポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂からなり厚さ5μmに形成されている。そして、ベースコート層6の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂からなるトップコート層7が設けられ、ベースコート層6とトップコート層7とにより合計51μmの厚さの塗膜が形成されている。
【0018】また、缶胴部4の外面側には溶接接合部5を除いて、アクリル系クリア樹脂からなる外面塗装8が施され、溶接接合部5には缶内面側と同じ被覆補正6bが施されている。
【0019】図1示のエアゾール用溶接缶体1は、次のようにして製造した。
【0020】まず、図2示のように、前記錫めっき鋼板2の缶内面となる側に、缶胴ブランク9の両側端縁部3となる部分3aを除いてエポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂の溶剤型塗料をロールコートし、該錫めっき鋼板2をオーブンに通して205℃で10分間加熱して焼付けを行い、厚さ5μmの塗膜6aを形成する。次に、錫めっき鋼板2の缶外面となる側に塗膜6aと同様にしてアクリル系クリア樹脂を塗装し、焼付けして外面塗装8を形成する。
【0021】次に、前記錫めっき鋼板2を図2及び図3に示す仮想線に従って、所定の大きさに裁断し、複数の缶胴ブランク9を得る。
【0022】次に、図4示のように、缶胴ブランク9を丸めて、前記塗膜6aが施されていない両側端縁部3,3を重ね合わせ、公知の溶接機を用いて該重ね合わせ部分を溶接接合し、円筒状の缶胴部4を形成する。次いで、図1示のように、前記円筒状の缶胴部4の溶接接合部5の内外面側に前記エポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂の溶剤型塗料をロールコートまたはスプレーコートし、該缶胴部4をオーブンに通して200℃で60秒間加熱して焼付けを行うことにより被覆補正6bを施し、塗膜6aと被覆補正6bとにより缶胴部4の内面側全面を被覆するベースコート層6を形成する。
【0023】次に、缶胴部4の内面側全面にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂の粉体塗料(粒子径32μm)を塗布し、該缶胴部4をオーブンに通して210℃で2分間加熱して焼付けを行ってトップコート層7を形成し、図1示の構成の缶胴部4を得る。缶胴部4の内面側には、ベースコート層6とトップコート層7とにより合計51μmの厚さの塗膜が形成されている。
【0024】次に、前記円筒状の缶胴部4の両端にフランジ加工を施し、一方の端部には内面側がポリエチレンテレフタレートフィルムでラミネートされた底蓋を二重巻締めにより取着した。また、他方の端部には内面側がポリエチレンテレフタレートフィルムでラミネートされたマウンテンキャップを二重巻締めにより取着し、エアゾール用溶接缶体(図示せず)を完成した。
【0025】次に、前記溶接缶体に、内容物のモデルとして、純水100ミリリットル、エタノール10ミリリットル、微量の界面活性剤、プロペラントとしてのジメチルエーテル10gからなる組成物を収容して、密封した。前記溶接缶体を、45℃で3か月保存したのち開封し、トップコート層7及びベースコート層6の錫めっき鋼板2に対する密着性、トップコート層7及びベースコート層6の膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を目視により評価した。尚、前記ピンホールの有無は、外観を目視により判定すると共に、エナメルレータバリュー値を測定して評価した。結果を表1に示す。
【0026】
【実施例2】実施例1のイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂に変えてエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料(粒子径30μm)によりトップコート層7を形成し、ベースコート層6とトップコート層7とにより合計58μmの厚さの塗膜を形成するようにした以外は、実施例1と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本実施例の溶接缶体のトップコート層7及びベースコート層6の錫めっき鋼板2に対する密着性、トップコート層7及びベースコート層6の膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0027】
【実施例3】実施例1のエポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂に変えてポリエステル・アミノ樹脂により厚さ5μmのベースコート層6を形成し、トップコート層7との合計で70μmの厚さの塗膜を形成するようにした以外は、実施例1と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本実施例の溶接缶体のトップコート層7及びベースコート層6の錫めっき鋼板2に対する密着性、トップコート層7及びベースコート層6の膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【実施例4】実施例3のイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂に変えてエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料(粒子径30μm)によりトップコート層7を形成し、ベースコート層6とトップコート層7とにより合計70μmの厚さの塗膜を形成するようにした以外は、実施例3と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本実施例の溶接缶体のトップコート層7及びベースコート層6の錫めっき鋼板2に対する密着性、トップコート層7及びベースコート層6の膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【実施例5】実施例3のポリエステル・アミノ樹脂に変えてポリエステル・アクリル・アミノ樹脂により厚さ5μmのベースコート層6を形成し、トップコート層7との合計で70μmの厚さの塗膜を形成するようにした以外は、実施例3と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本実施例の溶接缶体のトップコート層7及びベースコート層6の錫めっき鋼板2に対する密着性、トップコート層7及びベースコート層6の膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】表1中、実施例2の溶接缶体ではトップコート層7及びベースコート層6にやや膨潤が認められたが、実用上問題とはならない程度であった。
【0032】
【比較例1】実施例1において、トップコート層7を形成せず、エポキシ・フェノール系熱硬化型樹脂により厚さ20μmのベースコート層6に相当する塗膜を単独で形成した以外は、実施例1と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本比較例の溶接缶体の前記塗膜の錫めっき鋼板に対する密着性、膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0033】
【比較例2】実施例3において、トップコート層7を形成せず、ポリエステル・アミノ樹脂により厚さ20μmのベースコート層6に相当する塗膜を単独で形成した以外は、実施例3と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本比較例の溶接缶体の前記塗膜の錫めっき鋼板に対する密着性、膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0034】
【比較例3】実施例5において、トップコート層7を形成せず、ポリエステル・アクリル・アミノ樹脂により厚さ20μmのベースコート層6に相当する塗膜を単独で形成した以外は、実施例5と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本比較例の溶接缶体の前記塗膜の錫めっき鋼板に対する密着性、膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【比較例4】実施例1において、ベースコート層6を形成せず、イソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂により厚さ30μmのトップコート層7に相当する塗膜を単独で形成した以外は、実施例1と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本比較例の溶接缶体の前記塗膜の錫めっき鋼板に対する密着性、膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0036】
【比較例5】実施例2において、ベースコート層6を形成せず、エステル変成熱硬化型エポキシ樹脂により厚さ30μmのトップコート層7に相当する塗膜を単独で形成した以外は、実施例2と同様にしてエアゾール用溶接缶体を得た。本比較例の溶接缶体の前記塗膜の錫めっき鋼板に対する密着性、膨潤状態、ピンホールの発生の有無、耐食性の程度を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】


【0038】表1から、本発明の各実施例のエアゾール用金属缶体によれば、優れた密着性を有するトップコート層7が得られ、前記エアゾールのモデル組成物にジメチルエーテルを10gまで添加してもトップコート層7及びベースコート層6が全く膨潤しないか、膨潤しても極く僅かで実用上問題なく、ピンホール及び基体金属の腐食がなく優れた耐食性を有することが明らかである。
【0039】一方、表2から、ベースコート層6に相当する塗膜のみを単独で設けた比較例1〜3のエアゾール用金属缶体では、該塗膜は密着性に優れ、ピンホールは認められないか極く僅かであるものの、前記エアゾールのモデル組成物に10gのジメチルエーテルを添加しただけで前記塗膜が著しく膨潤し、基体金属である錫めっき鋼板に十分な耐食性が得られないことが明らかである。また、トップコート層7に相当する塗膜のみを単独で設けた比較例4または比較例5のエアゾール用金属缶体では、該塗膜は、ピンホールは認められないか極く僅かであるものの、十分な密着性が得られない上、前記エアゾールのモデル組成物に10gのジメチルエーテルを添加しただけで前記塗膜が著しく膨潤し、基体金属である錫めっき鋼板に十分な耐食性が得られないことが明らかである。
【0040】尚、前記各実施例では、エアゾール用金属缶体として溶接缶体を用いているが、本発明のエアゾール用金属缶体は内面塗装を必要とする金属缶体であればどのようなものであってもよい。また、溶接缶体を形成するときに用いる基体鋼板は、溶接性及び耐食性に優れている点から錫めっき鋼板が好ましく、板厚0.15〜0.30mmのものが適している。
【0041】
【発明の効果】以上のことから明らかなように、本発明のエアゾール用金属缶体によれば、トップコート層がイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂からなるのでジメチルエーテルを含むエアゾール組成物による膨潤を防止することができ、また該トップコート層がエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなるベースコート層上に設けられているので、該ベースコート層により前記トップコート層と前記基体金属との密着性を確保することができる。
【0042】前記トップコート層は、30〜80μmの範囲の厚さを有することにより、ジメチルエーテルによる膨潤を確実に防止することができる。また、前記トップコート層は、前記イソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料から形成されることにより、容易に前記範囲の厚さとすることができる。
【0043】前記ベースコート層は、3〜10μmの範囲の厚さを有することにより、前記トップコート層と前記基体金属との密着性を確保することができ、また該ベースコート層自体をジメチルエーテルにより膨潤しにくくすることができる。
【0044】本発明の製造方法によれば、少なくとも缶胴部の内面側全面に前記ベースコート層を形成したのち、前記ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料を塗装することにより、密着性に優れ、30〜80μmの範囲の厚さを有するトップコート層が容易に得られ、前記構成のエアゾール用金属缶体を得ることができる。前記粉体塗料は、その粒子の直径が25〜50μmの範囲にあることにより、適正な加工性を得ることができ、形成されるトップコート層のピンホール発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエアゾール用金属缶体の缶胴部の断面図。
【図2】本発明のエアゾール用金属缶体の製造方法を示す部分斜視図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】本発明のエアゾール用金属缶体の製造方法を示す説明的断面図。
【符号の説明】
1…エアゾール用金属缶体、2…錫めっき鋼板、3…両側端縁部、4…缶胴部、5…溶接接合部、6…ベースコート層、7…トップコート層、9…缶胴ブランク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】スプレーするときに気化する成分としてジメチルエーテルを含むエアゾール組成物を収容するエアゾール用金属缶体であって、少なくとも缶胴部の内面側全面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなるベースコート層を設け、該ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂からなるトップコート層を設けてなることを特徴とするエアゾール用金属缶体。
【請求項2】前記トップコート層が30〜80μmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1記載のエアゾール用金属缶体。
【請求項3】前記トップコート層が前記樹脂の粉体塗料により形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のエアゾール用金属缶体。
【請求項4】前記ベースコート層が3〜10μmの範囲の厚さであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のエアゾール用金属缶体。
【請求項5】少なくとも金属缶胴部の内面側全面にエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を主成分とし、硬化剤としてフェノール樹脂またはアミノ樹脂を含む熱硬化型樹脂からなる塗料によりベースコート層を形成するベースコート層形成工程と、前記ベースコート層の上にイソシアネート熱硬化型ポリエステル樹脂またはエステル変成熱硬化型エポキシ樹脂の粉体塗料により30〜80μmの範囲の厚さのトップコート層を形成するトップコート層形成工程とを有することを特徴とするエアゾール用金属缶体の製造方法。
【請求項6】前記粉体塗料の粒子が直径25〜50μmの範囲にあることを特徴とする請求項5記載のエアゾール用金属缶体の製造方法。

【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図2】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開平8−85582
【公開日】平成8年(1996)4月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−224358
【出願日】平成6年(1994)9月20日
【出願人】(000241865)北海製罐株式会社 (6)