説明

エアタンクの製造方法および管取付座用部品

【課題】エア漏れの発生頻度を低下させることが可能なエアタンクの製造方法を提供すること。
【解決手段】開口部1bを有するタンク本体用部品12と、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジ2a’が形成された管取付座用部品20とを用意する準備工程と、開口部1bの周縁部に管取付座用部品20を溶接する溶接工程と、テーパ雌ネジ2a’をガイドにしてタップ加工を行い、テーパ雌ネジ2a’を設計上の雌ネジ深さまで延長するタップ工程と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアタンクの製造方法および管取付座用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
空気ブレーキを備える車両(例えば、中型・大型自動車や鉄道車両など)には、リザーバとなるエアタンクが搭載されている。
【0003】
エアタンクの具体的な構成としては、中空の容器(タンク本体用部品)に配管接続用のナット(管取付座用部品)を取り付けたものが知られている(特許文献1参照)。特許文献1のエアタンクでは、タンク本体用部品に管取付座用部品を溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−186934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアタンクの軽量化を図るためには、管取付座用部品の小型化・薄肉化を図る必要があるところ、小型・薄肉の管取付座用部品をタンク本体用部品に溶接すると、管取付座用部品に発生した溶接歪みの影響が管取付座用部品のテーパ雌ネジに及ぶことになる。テーパ雌ネジに歪みが生じると、配管側のテーパ雄ネジとの密着度が低下するので、エア漏れが発生し易くなる。なお、一旦仕上げたテーパ雌ネジに対して浚い加工を行う場合もあるが、浚い加工によって是正されるのは、仕上り径よりも狭まった部分だけであり、仕上り径よりも拡がった部分については是正されないから、浚い加工を行った後でも微細な隙間が残る虞がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、エア漏れの発生頻度を下げることが可能なエアタンクの製造方法を提供することを課題とし、さらには、かかるエアタンクの製造方法に好適に使用される管取付座用部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第一のエアタンクの製造方法は、開口部を有するタンク本体用部品と、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成された管取付座用部品とを用意する準備工程と、前記開口部の周縁部に前記管取付座用部品を溶接する溶接工程と、前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを設計上の雌ネジ深さまで延長するタップ工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
要するに、本発明は、テーパ雌ネジが途中まで形成された管取付座用部品をタンク本体用部品(例えば、胴板や鏡板など)に溶接した後に、テーパ雌ネジを仕上げる、というものである。本発明によれば、管取付座用部品に溶接歪みが発生し、その影響がテーパ雌ネジに及んだ場合であっても、タップ工程を行う過程(テーパ雌ネジを仕上げる過程)で解消されるので、配管側の雄ネジとの密着度が高まり、ひいては、エア漏れの発生頻度を下げることができる。なお、仕上げ前のテーパ雌ネジのネジ溝は、仕上げ後よりも浅くなるように成形されているから、溶接歪みの影響によって仕上げ前のテーパ雌ネジの内径が僅かに拡がったとしても、タップ工程を行う過程で解消することが可能となる。
【0009】
なお、前記タンク本体用部品に脚部品を固着した場合には、前記脚部品を作業台に仮固定した状態で前記タップ工程を行うとよい。このようにすると、タンク本体用部品を安定的に保持することが可能となるので、タップ工程を行い易くなる。
【0010】
本発明に係る第二のエアタンクの製造方法は、開口部を有するタンク本体用部品と、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成された管取付座用部品とを用意する準備工程と、前記開口部の周縁部に前記管取付座用部品を溶接する溶接工程と、前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを延長する一次タップ工程と、一次タップ工程後の前記テーパ雌ネジに気密検査用の治具を螺着し、当該治具を利用して気密検査を行う気密検査工程と、前記治具を取り外した後、前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを設計上の雌ネジ深さまで延長する二次タップ工程と、を備えることを特徴とするエアタンクの製造方法である。
【0011】
気密検査用の治具をテーパ雌ネジに着脱すると、テーパ雌ネジに傷や変形が生じ、テーパ雄ネジとの密着度が低下する虞があるが、本発明においては、治具を取り外した後に二次タップ工程を行うので、治具の着脱に伴ってテーパ雌ネジに傷や変形が生じた場合であっても、その影響を除去することができ、ひいては、エア漏れの発生頻度を下げることができる。
【0012】
なお、前記タンク本体用部品に脚部品を固着した場合には、前記脚部品を作業台に仮固定した状態で前記一次タップ工程および前記二次タップ工程を行うとよい。このようにすると、タンク本体用部品を安定的に保持することが可能となるので、一次タップ工程および二次タップ工程を行い易くなる。
【0013】
前記課題を解決する本発明に係る管取付座用部品は、エアタンクの管取付座となるものであり、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る管取付座用部品を使用してエアタンクを製造すれば、溶接熱によってテーパ雌ネジに歪みが発生した場合であっても、テーパ雌ネジを仕上げる過程において歪みを解消することができるので、配管側の雄ネジとの密着度が高まり、ひいては、エア漏れの発生頻度を下げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エア漏れの発生頻度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)はエアタンクの側面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエアタンクの製造方法を説明するための断面図であって、(a)は準備工程、(b)は溶接工程、(c)はタップ工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すエアタンクTは、車両用空気ブレーキのリザーバとなる第二種圧力容器であり、圧縮空気を蓄えるタンク本体1と、各種配管の取付座(管接続部)となる管取付座2,2,…と、タンク本体1の支持脚となる脚部品3,3と、ドレンバルブ用のバルブ取付座4とを備えている。
【0018】
タンク本体1は、円筒状の胴板11と、胴板11の両端部を塞ぐ椀状の鏡板12,12とを備えている。
【0019】
胴板11は、タンク本体1を構成する部品(タンク本体用部品)の一つである。胴板11には、大小二つの開口部1a,1cが形成されている。開口部1a,1cは、いずれも円形である。一方の開口部1aは、管取付座2の取付位置に形成されており、他方の開口部1cは、バルブ取付座4の取付位置に形成されている。胴板11の製造方法に制限はないが、例えば、アルミニウム合金製の板材に曲げ加工を施して円筒状に成形し、合せ目を溶接すればよい。
【0020】
鏡板12は、タンク本体1を構成する部品(タンク本体用部品)の一つであり、胴板11の開口端部に接合されている。鏡板12の頂部には、開口部1bが形成されている。開口部1bは、円形であり、管取付座2の取付位置に形成されている。鏡板12の製造方法に制限はないが、例えば、アルミニウム合金製の板材にプレス加工あるいはしごき加工を施せばよい。
【0021】
管取付座2は、タンク本体1に突設されている。管取付座2は、厚肉円筒状を呈しており、管取付座2の内周面は、テーパ状(円錐面状)に成形されている。管取付座2の外径は、開口部1a,1bの内径と略等しく、管取付座2の内径は、タンク本体1から離れるに従って漸増している。管取付座2の内周面には、テーパ雌ネジ2aが形成されている。テーパ雌ネジ2aの溝は一条(一条ネジ)であり、テーパ雌ネジ2aのネジ山は三角形(三角ネジ)である。
【0022】
脚部品3は、タンク本体1と車体(図示略)との間に介設されるものである。脚部品3は、アルミニウム合金製の板材からなり、胴板11の外周面に接合されている。
【0023】
バルブ取付座4は、タンク本体1に突設されている。バルブ取付座4の構成は、管取付座2と同様である。
【0024】
次に、エアタンクTの製造方法を説明する。
本実施形態に係る製造方法は、管取付座2となる管取付座用部品20(図2参照)をタンク本体用部品である胴板11および鏡板12に溶接した後に、テーパ雌ネジ2aを仕上げるというものであり、準備工程、第一の溶接工程、第二の溶接工程、タンク本体形成工程、脚部品固着工程、タップ工程を備えている。
【0025】
準備工程は、タンク本体1となるタンク本体用部品(胴板11および鏡板12)を用意するとともに、管取付座2となる管取付座用部品20(図2の(a)参照)を用意する工程である。管取付座用部品20は、管取付座2の素となるアルミニウム合金製の部品である。図2の(a)に示すように、管取付座用部品20は、厚肉円筒状を呈しており、管取付座用部品20の内周面には、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジ2a’が形成されている。
【0026】
第一の溶接工程は、図2の(b)に示すように、鏡板12の開口部1bの周縁部(開口縁部)に管取付座用部品20を溶接する工程である。本実施形態では、鏡板12の開口部1bに管取付座用部品20の基端部(内径が小さい方の端部)を挿入した状態で、開口部1bの周縁部および管取付座用部品20の外周面に対して溶接を行う。本実施形態では、管取付座用部品20のうち、テーパ雌ネジ2a’が形成されていない部位のみを開口部1bに入り込ませている。溶接ビードは、管取付座用部品20の全周に亘って形成する。溶接のパス数に制限はないが、2パス以上とすれば、エア漏れの原因となる溶接欠陥の発生頻度を下げることが可能となる。なお、図示は省略するが、開口部1bの周縁部における鏡板12の外面が平面である場合には、鏡板12の外面に管取付座用部品20の基端面を突き合わせた状態で、開口部1bの周縁部と管取付座用部品20とを溶接してもよい。
【0027】
第二の溶接工程は、図示は省略するが、胴板11の開口部1aの周縁部に管取付座用部品20を溶接するとともに、胴板11の開口部1cの周縁部にバルブ取付座4を溶接する工程である。なお、第二の溶接工程は、第一の溶接工程と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0028】
タンク本体形成工程は、タンク本体用部品を組み合わせてタンク本体1(図1参照)を形成する工程である。タンク本体形成工程では、胴板11の両端部に鏡板12,12を溶接することでタンク本体1を形成する。なお、本実施形態では、第一の溶接工程および第二の溶接工程を行った後にタンク本体形成工程を行っているが、タンク本体形成工程を行った後に、第一の溶接工程および第二の溶接工程を行ってもよい。
【0029】
脚部品固着工程は、胴板11に脚部品3を固着する工程である(図1参照)。本実施形態の脚部品固着工程では、胴板11の外周面と脚部品3との突合部に対して溶接を行うことで、胴部11に脚部品3を固着する。なお、第二の溶接工程およびタンク本体形成工程を行った後に脚部品固着工程を行ってもよいし、タンク本体形成工程の前あるいは第二の溶接工程の前に脚部品固着工程を行ってもよい。
【0030】
第一の溶接工程、第二の溶接工程、タンク本体形成工程および脚部品固着工程を終えたら、脚部品3を作業台(図示略)に仮固定する。
【0031】
タップ工程は、管取付座用部品20のテーパ雌ネジ2a’をガイドにしてタップ加工を行い、テーパ雌ネジ2a’を設計上の雌ネジ深さまで延長する工程である。本実施形態では、脚部品3を作業台に仮固定した状態でタップ加工工程を行う。
【0032】
テーパ雌ネジ2a’を延長するには、インターラップタップの切削刃をテーパ雌ネジ2a’に螺入し、インターラップタップの先端をテーパ雌ネジ2a’の先端まで到達させた後、インターラップタップをさらに回転させてネジ山の山数を増やせばよい。テーパ雌ネジ2a’を延長すると、新たなネジ溝が形成されるとともに、既設のネジ溝の深さ(ネジ山の高さ)が増加する。ネジ山の増加数に制限はないが、2〜4山でよい。なお、インターラップタップに代えてプラネットタップなどを使用してもよい。
【0033】
タップ工程を終えると、図2の(c)に示すように、設計上の雌ネジ深さを有するテーパ雌ネジ2aが形成され、管取付座2が完成する。
【0034】
以上説明したエアタンクの製造方法によれば、テーパ雌ネジ2a’を延長する過程で、既設のネジ溝の深さ(ネジ山の高さ)が増加するので、第一の溶接工程あるいは第二の溶接工程において管取付座用部品20に溶接歪みが発生し、その影響がテーパ雌ネジ2a’に及んだ場合であっても、タップ工程を行う過程で解消されるようになる。つまり、本実施形態に係るエアタンクの製造方法によれば、歪みの少ないテーパ雌ネジ2aを形成することができるので、配管側の雄ネジとの密着度が高まり、ひいては、エア漏れの発生頻度を下げることができる。なお、仕上げ前のテーパ雌ネジ2a’のネジ溝は、仕上げ後よりも浅くなるように成形されているから、溶接歪みの影響によって管取付座用部品20の内空形状が例えば楕円状に変形し、仕上げ前のテーパ雌ネジ2a’の周方向の一部において内径が僅かに拡がったとしても、タップ工程を行う過程で解消することが可能となる。
【0035】
また、脚部品3を作業台に仮固定した状態でタップ工程を行うと、タンク本体用部品を安定的に保持することが可能となるので、タップ工程を行い易くなる。
【0036】
なお、本実施形態では、溶接部分からのエア漏れの有無をチェックする気密検査を行わない場合を例示したが、気密検査を行う場合には、前記タップ工程を「一次タップ工程」と「二次タップ工程」とに分け、一次タップ工程と二次タップ工程との間に「気密検査工程」を行えばよい。
【0037】
一次タップ工程は、管取付座用部品20のテーパ雌ネジ2a’(図2の(a)参照)をガイドにしてタップ加工を行い、設計上の雌ネジ深さに至らないところまでテーパ雌ネジ2a’を延長する工程である。一次タップ工程は、第一の溶接工程、第二の溶接工程、タンク本体形成工程および脚部品固着工程を終えた後、脚部品3(図1参照)を作業台に仮固定した状態で行う。テーパ雌ネジ2a’の延長方法は、前記タップ工程の場合と同様である。
【0038】
気密検査工程は、一次タップ工程後のテーパ雌ネジに気密検査用の治具を螺着し、当該治具を利用して気密検査を行う工程である。気密検査を終えたら、治具を取り外す。
【0039】
二次タップ工程は、一次タップ工程後のテーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、当該テーパ雌ネジを設計上の雌ネジ深さまで延長する工程である。テーパ雌ネジの延長方法は、前記タップ工程の場合と同様である。タップ工程を終えると、設計上の雌ネジ深さを有するテーパ雌ネジ2a(図2の(c)参照)が形成され、管取付座2が完成する。
【0040】
気密検査用の治具をテーパ雌ネジに着脱すると、テーパ雌ネジに傷や変形が生じ、テーパ雄ネジとの密着度が低下する虞があるが、治具を取り外した後に二次タップ工程を行えば、治具の着脱に伴ってテーパ雌ネジに傷や変形が生じた場合であっても、その影響を除去することができ、ひいては、エア漏れの発生頻度を下げることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 タンク本体
11 胴板(タンク本体用部品)
12 鏡板(タンク本体用部品)
1a,1b,1c 開口部
2 管取付座
20 管取付座用部品
2a テーパ雌ネジ
2a’仕上げ前のテーパ雌ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するタンク本体用部品と、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成された管取付座用部品とを用意する準備工程と、
前記開口部の周縁部に前記管取付座用部品を溶接する溶接工程と、
前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを設計上の雌ネジ深さまで延長するタップ工程と、を備えることを特徴とするエアタンクの製造方法。
【請求項2】
前記タンク本体用部品に脚部品を固着する脚部品固着工程を備えており、
前記脚部品を作業台に仮固定した状態で前記タップ工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のエアタンクの製造方法。
【請求項3】
開口部を有するタンク本体用部品と、設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成された管取付座用部品とを用意する準備工程と、
前記開口部の周縁部に前記管取付座用部品を溶接する溶接工程と、
前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを延長する一次タップ工程と、
一次タップ工程後の前記テーパ雌ネジに気密検査用の治具を螺着し、当該治具を利用して気密検査を行う気密検査工程と、
前記治具を取り外した後、前記テーパ雌ネジをガイドにしてタップ加工を行い、前記テーパ雌ネジを設計上の雌ネジ深さまで延長する二次タップ工程と、を備えることを特徴とするエアタンクの製造方法。
【請求項4】
前記タンク本体用部品に脚部品を固着する脚部品固着工程を備えており、
前記脚部品を作業台に仮固定した状態で前記一次タップ工程および前記二次タップ工程を行うことを特徴とする請求項3に記載のエアタンクの製造方法。
【請求項5】
エアタンクの管取付座となる管取付座用部品であって、
設計上の雌ネジ深さよりも浅い位置までテーパ雌ネジが形成されていることを特徴とする管取付座用部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−112285(P2013−112285A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262552(P2011−262552)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(502444733)日軽金アクト株式会社 (107)
【Fターム(参考)】