説明

エアバッグジャケット

【課題】ガスを迅速に充填することができ、かつ、縫製や接着作業を容易にすることができるエアバッグジャケットを提供する。
【解決手段】インフレータ32からのガスを充填可能とした袋状のエアバッグ本体31を備えた、乗員用ジャケットの内側に装着されるエアバッグジャケット30において、エアバッグ本体31は、平面形状の表面材と裏面材とを縫製または接着により接合し、乗員の頭部の通し孔部42Aを除去し、少なくとも背当て部41と肩掛け部42、42と腹当て部43とが一連につながるように袋状に形成し、背当て部41にインフレータ32を配置し、該インフレータ32からのガスを背当て部41から一連につながる肩掛け部42、42を通して腹当て部43に至るまで充填可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車などの乗員が着用する乗員用ジャケットに装着されるエアバッグジャケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両、特に自動二輪車において、乗員が着用する着用物にエアバッグ本体とインフレータを設け、インフレータからのガスによりエアバッグ本体を膨張展開させて乗員への衝撃を吸収可能にしたエアバッグ装置が知られている。この種のものには、細長のチューブに折り返し部を設けてエアバッグ本体を構成し、このエアバッグ本体内にガス通路を形成するホースを設けたものや(例えば、特許文献1参照)、乗員の各部を各々覆う複数の袋部でエアバッグ本体を構成し、このエアバッグ本体を折り畳んだ状態で収納したものがある(例えば、特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開2004−162224号公報
【特許文献2】特開2003−312569号公報
【特許文献3】特開平9−66789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の構成は、エアバッグ本体を折り返し部を設けたチューブや複数の袋部をつなげて構成するため、インフレータから出たガスの通路が複雑化してしまう。このガス通路を確保するために、エアバッグ本体内にガス通路用ホースを配置すると、部品点数が多くなってしまうことが考えられる。
また、従来のエアバッグ本体は、折り返し部などを備えた複雑な立体形状であるため、立体縫製で作る必要が生じ、縫製や接着作業が繁雑になってしまう場合がある。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ガスを迅速に充填することができ、かつ、縫製や接着作業を容易にすることができるエアバッグジャケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明は、インフレータからのガスを充填可能とした袋状のエアバッグ本体を備えた、乗員用ジャケットの内側に装着されるエアバッグジャケットにおいて、前記エアバッグ本体は、平面形状の表面材と裏面材とを縫製または接着により接合し、乗員の頭部の通し孔部を除去し、少なくとも背当て部と肩掛け部と腹当て部とが一連につながるように袋状に形成し、前記背当て部に前記インフレータを配置し、該インフレータからのガスを前記背当て部から一連につながる前記肩掛け部を通して前記腹当て部に至るまで充填可能としたことを特徴とする。
この発明によれば、エアバッグ本体は、平面形状の表面材と裏面材とを縫製または接着により接合し、乗員の頭部の通し孔部を除去し、少なくとも背当て部と肩掛け部と腹当て部とが一連につながるように袋状に形成し、背当て部にインフレータを配置し、該インフレータからのガスを背当て部から一連につながる肩掛け部を通して腹当て部に至るまで充填可能としたので、ガスを迅速に充填することができ、かつ、縫製や接着作業を容易にすることができる。
【0006】
上記構成において、前記エアバッグ本体が着用時に左右対称形状であることが好ましい。この構成によれば、エアバッグ本体の形状をより簡素化し、縫製や接着作業をより容易にすることができる。
また、上記構成において、前記エアバッグ本体が着用時に横合わせ形状であることが好ましい。この構成によれば、ファスナーラインを左右のいずれかに備えた横合わせ形状の乗員用ジャケットにエアバッグジャケットを装着することができる。
また、上記構成において、前記エアバッグ本体が着用時に前合わせ形状であることが好ましい。この構成によれば、ファスナーラインを中央縦に備えた前合わせ形状の乗員用ジャケットにエアバッグジャケットを装着することができる。
【0007】
また、上記構成において、前記背当て部の一側および/または他側に横背当て部を連接し、該横背当て部にインフレータからのガスを充填可能とすることが好ましい。この構成によれば、エアバッグ本体で乗員の上半身をより広く覆うことができる。
上記構成において、前記背当て部と前記横背当て部との境界の一部を縫製または接着により接合することが好ましい。この構成によれば、エアバッグ本体の部品点数を増大することなく、背当て部と横背当て部との境界の一部を仕切ることができる。
【0008】
また、上記構成において、前記背当て部に連接した前記横背当て部に前脇腹当て部を連接し、該前脇腹当て部にインフレータからのガスを充填可能とすることが好ましい。この構成によれば、エアバッグ本体で乗員の上半身をより広く覆うことができる。
また、上記構成において、前記腹当て部の一側および/または他側に横腹当て部を連接し、該横腹当て部にインフレータからのガスを充填可能とすることが好ましい。この構成によれば、腹当て部側に前脇腹を覆う横腹当て部を連設することなく、エアバッグ本体で乗員の前脇腹を覆うことができる。
【0009】
上記構成において、前記腹当て部と前記横腹当て部との境界の一部を縫製または接着により接合することが好ましい。この構成によれば、エアバッグ本体の部品点数を増大することなく、腹当て部と横腹当て部との境界の一部を仕切ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、エアバッグ本体は、平面形状の表面材と裏面材とを縫製または接着により接合し、乗員の頭部の通し孔部を除去し、少なくとも背当て部と肩掛け部と腹当て部とが一連につながるように袋状に形成し、背当て部にインフレータを配置し、該インフレータからのガスを背当て部から一連につながる肩掛け部を通して腹当て部に至るまで充填可能としたので、ガスを迅速に充填することができ、かつ、縫製や接着作業を容易にすることができる。
また、エアバッグ本体を着用時に左右対称形状としたので、エアバッグ本体の縫製や接着作業をより容易にすることができる。
また、エアバッグ本体を着用時に横合わせ形状としたので、横合わせ形状の乗員用ジャケットにエアバッグジャケットを装着することができる。
また、エアバッグ本体を着用時に前合わせ形状としたので、前合わせ形状の乗員用ジャケットにエアバッグジャケットを装着することができる。
【0011】
また、背当て部の一側および/または他側に横背当て部を連接し、該横背当て部にインフレータからのガスを充填可能としたので、エアバッグ本体で乗員の上半身をより広く覆うことができる。
また、背当て部と横背当て部との境界の一部を縫製または接着により接合するので、エアバッグ本体の部品点数を増大することなく、背当て部と横背当て部との境界の一部を仕切ることができる。
また、背当て部に連接した横背当て部に腹当て部を連接し、該前脇腹当て部にインフレータからのガスを充填可能としたので、エアバッグ本体で乗員の上半身をより広く覆うことができる。
また、腹当て部の一側および/または他側に横腹当て部を連接し、該横腹当て部にインフレータからのガスを充填可能としたので、腹当て部側に前脇腹を覆う横腹当て部を連設することなく、エアバッグ本体で乗員の前脇腹を覆うことができる。
また、腹当て部と横腹当て部との境界の一部を縫製または接着により接合したので、エアバッグ本体の部品点数を増大することなく、腹当て部と横腹当て部との境界の一部を仕切ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を添付した図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るエアバッグジャケットを自動二輪車に実施した場合を示す図である。
図1において、自動二輪車10は、その車体10Aの前端のヘッドパイプ11に、前輪WFを軸支したフロントフォーク12が操向可能に支持され、このフロントフォーク12の上部に操向ハンドル13が設けられる。また、車体10Aの後部には、エンジンにより駆動される後輪WRが懸架される。車体10Aの前後方向の中間部の上面には、シート14が設けられる。
シート14には、ライダージャケットなどの乗員用ジャケット20を着用した乗員Mが座乗しており、この乗員用ジャケット20には、図2に示すように、このジャケット20の内側にエアバッグジャケット30が装着されている。
【0013】
このエアバッグジャケット30は、着用式エアバッグ装置として機能するものであり、エアバッグ本体31と、エアバッグ本体31の背当て部41(図1参照)に設けられるインフレータ32(図1参照)とを備えている。
インフレータ32は、その作動時にエアバッグ本体31を膨張させるための圧力ガスを発生するものであり、気化式、固体式、混合性ガス式、或いは、空気吸い込み式などの従来公知のものが用いられる。
このインフレータ32の作動部32A(図1参照)には、脱着式の起動スイッチ15が接続され、この起動スイッチ15には、連結状体としての連結ケーブル17が連結されている。起動スイッチ15は、その連結が解除されると、これを検知するセンサを備えており、このセンサの感知反応によりインフレータ32を作動させる。
【0014】
上記連結ケーブル17は、シート14の後部に取り付けられたプリテンション・ロック装置(エマージェンシー・ロッキング・リトラクタ、いわゆるELR装置)18に取り付けられる。
ELR装置18は、通常はゼンマイバネなどの弾性部材により、連結ケーブル17を通常の運転を妨げない程度の力で巻取り方向に引っ張って連結ケーブル17に弛みを生じさせないようにしたプリテンション機能と、連結ケーブル17の引き出し加速度(乗員Mと自動二輪車10との相対加速度)が規定値を越えたときは連結ケーブル17の引き出しをロックするようにしたロック機能とを備えている。
【0015】
このため、乗員Mと自動二輪車10との相対加速度が規定値を超えない場合、ELR装置18が連結ケーブル17の引き出しを許容するので、乗員Mは連結ケーブル17の接続を意識することなく自由に身体を動かすことができる。
一方、乗員Mが自動二輪車10の前方へ移動するような力を受け、乗員Mと自動二輪車10との相対加速度が規定値を超えた場合に、ELR装置18が連結ケーブル17の引き出しをロックするので、乗員Mが自動二輪車10から移動して起動スイッチ15の連結が解除されると、インフレータ32が作動し、インフレータ32から出るガスによりエアバッグ本体31内にガスが充填される。
なお、インフレータ32を作動させる機構は、上記構成に限らず、従来公知のものを広く適用可能である。
【0016】
次に、エアバッグジャケット30のエアバッグ本体31について説明する。
図3は、エアバッグジャケット30を拡げた状態を示す図である。図3に示すように、エアバッグ本体31は、略同じ形状に切り出された平面形状の一枚の表面材と一枚の裏面材とを重ね合わせ、その縁部に沿って縫製または接着により接合することによって袋状に形成される。なお、図2において、符号31Sは接合部を示している。
表面材と裏面材に使用される基布には、耐摩耗性、耐熱性を有する薄く軽いエアバッグ素材が適用され、例えば、ナイロン素材が適用される。また、これら基布は、シリコンラバーでコーティングされ、このシリコンラバーによって乗員用ジャケット20の表面材および裏面材との間の滑りをよくし、摩擦などによる損傷をより確実に回避している。また、表面材と裏面材との接合には、高周波溶着或いは熱溶着などの気密性を確保可能な接合方法が適用される。
【0017】
このエアバッグ本体31は、乗員Mの背中を背骨を中心に覆う背当て部41と、乗員Mの両肩を覆う左右の肩掛け部42、42と、乗員Mの前面の主に胸部から腹部を覆う腹当て部43とを備え、これらが一連につながるような左右対称の袋状に形成されている。
上記背当て部41は、乗員Mの頭に向かって徐々に幅広になるテーパ形状に形成され、この背当て部41の最も幅広の部分が左右に分岐して左右の肩掛け部42、42に連続する。このため、背当て部41を同一幅で形成した場合に比して、背当て部41から左右の肩掛け部42、42への曲がり(図3中、符号Xで示す)を緩やかにすることができる。
【0018】
また、左右の肩掛け部42、42の間には、乗員Mの頭部を通すための通し孔部42Aが形成されており、これら肩掛け部42、42は、略同一の幅を保ちながら緩やかに屈曲して両肩掛け部42、42の幅を徐々に幅狭にしながら合流し、この合流部に腹当て部43が連続する。この腹当て部43は、肩掛け部42、42との合流部の幅から徐々に幅狭となるテーパ形状に形成されており、これによって、肩掛け部43と腹当て部43との曲がり(図3中、符号Yで示す)を緩やかにすることができる。
したがって、これら背当て部41、肩掛け部42、42及び腹当て部43が、各々緩やかな曲がりでつながり、これらが一連につながる袋状を構成する。
【0019】
本実施形態では、エアバッグ本体31の背当て部41に設けられたインフレータ32が作動した場合、インフレータ32からのガスが、図3に矢印で示すように、背当て部41から左右の肩掛け部42、42に向かって大きく曲がること無く流れ、その後に、大きく曲がることなく腹当て部43に流れる。これにより、インフレータ32からのガスを、背当て部41から一連につながる肩掛け部42、42を通して腹当て部43に至るまで迅速に流すことができ、これらに素早くガスを充填することができる。
【0020】
図4(A)(B)はエアバッグジャケット30にガスが充填した状態を示す図である。ガスが充填されると、エアバッグジャケット30全体が膨張し、図4(A)に示すように、乗員Mの肩部と前面(胸部及び腹部)とを空気袋で覆うことができると共に、図4(B)に示すように、乗員Mの肩部と背面とを空気袋で覆うことができる。従って、乗員Mの上半身に対する外部からの衝撃を吸収することができる。
なお、本実施形態のエアバッグジャケット30は、エアバッグ本体31が乗員Mの前面を一体の袋部で覆うため、このエアバッグジャケット30が装着される乗員用ジャケット20には、乗員Mの頭からかぶって着る服装などに適用可能である。
【0021】
このように本構成では、エアバッグ本体31を、平面形状の表面材と裏面材とを接合して背当て部41と肩掛け部42、42と腹当て部43とが一連につながるように袋状に形成し、背当て部41に配置されたインフレータ32からのガスを背当て部41から一連につながる肩掛け部42、42を通して腹当て部43に至るまで充填させたので、インフレータ32からのガスを迅速に充填することができる。
しかも、本構成では、エアバッグ本体31を、平面形状の表面材と裏面材とを接合して構成し、しかも、着用時に左右対称形状の形状としたので、エアバッグ本体を複雑な立体形状にして立体縫製する場合に比して、全体形状を簡素化でき、かつ、縫製や接着作業を容易にすることができる。
【0022】
<第2実施形態>
図5及び図6は第2実施形態を示す。この第2実施形態では、エアバッグ本体31の一方の肩掛け部42Lを途中で分断し、エアバッグ本体31を着用時に横合わせ形状にしている。以下、第1実施形態と略同一の構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
エアバッグジャケット30が装着される乗員用ジャケット20には、図5に示すように、乗員Mから見て左側に寄せてファスナーライン25が設けられた横合わせ形状が適用される。エアバッグジャケット30のエアバッグ本体31には、このファスナーライン25に沿って、肩掛け部42Lに分断部45(図6参照)が形成されている。このため、乗員用ジャケット20のファスナーを開いた場合に、乗員用ジャケット20とエアバッグ本体31とを同一位置で開くことができ、容易に着脱可能となる。なお、ファスナーは、スライドファスナーや面ファスナーのいずれを用いてもよい。
【0023】
本実施形態では、背当て部41と他方の肩掛け部42Rと腹当て部43とが一連につながるように袋状に形成されるので、インフレータ32が作動した場合、インフレータ32からのガスが、図6に矢印で示すように、背当て部41から一連につながる肩掛け部42Rを通って腹当て部43に流れると共に、背当て部42から一連につながる肩掛け部42Lに流れて、これらにガスが充填される。これにより、インフレータ32からのガスを背当て部41から腹当て部43に至るまで迅速に充填することができる。
また、このエアバッグ本体31についても、平面形状の表面材と裏面材とを接合して構成しており、エアバッグ本体を複雑な立体形状にして立体縫製する場合に比して、全体形状を簡素化でき、かつ、縫製や接着作業が容易になる。
【0024】
このように本構成では、エアバッグジャケット30(エアバッグ本体31)を着用時に横合わせ形状としたので、ファスナーライン25を左寄りに備えた乗員用ジャケット20にエアバッグジャケット30を装着することができる。しかも、ファスナーライン25に沿って設けられた分断部45が、乗員Mの胸部を横断しないので、胸部を覆う袋部の厚みを十分に確保することができる。
なお、乗員用ジャケット20のファスナーライン25を乗員Mから見て右側に寄せて設けた場合には、このファスナーライン25に沿ってエアバッグ本体31の肩掛け部42Rを分断すればよい。
【0025】
<第3実施形態>
図7及び図8は第3実施形態を示す。この第3実施形態では、エアバッグ本体31の前面部(腹当て部43)を縦に分断し、エアバッグ本体31を着用時に前合わせ形状にしている。以下、上記実施形態と略同一の構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
このエアバッグジャケット30が装着される乗員用ジャケット20には、図7に示すように、中央縦に延びるファスナーライン25を有する前合わせ形状が適用される。エアバッグジャケット30のエアバッグ本体31には、このファスナーライン25に沿って、前面部(腹当て部43)を左右に分断する分断部46(図8参照)が形成されている。このため、乗員用ジャケット20のファスナーを開くと、乗員用ジャケット20とエアバッグ本体31とが同一位置で開き、乗員Mが容易に着脱可能となる。
【0026】
本実施形態では、背当て部41と肩掛け部42L、42Rと腹当て部43(図8に示す43L、43R)とが一連につながるように袋状に形成されるので、インフレータ32が作動した場合、インフレータ32からのガスが、図8に矢印で示すように、背当て部41から一連につながる肩掛け部42L、42Rを通って腹当て部43L、43Rに各々流れて、これらにガスが充填される。これにより、インフレータ32からのガスを背当て部41から腹当て部43L、43Rに至るまで迅速に充填することが可能である。
また、このエアバッグ本体31についても、平面形状の表面材と裏面材とを接合して構成しており、エアバッグ本体を複雑な立体形状にして立体縫製する場合に比して、全体形状を簡素化でき、かつ、縫製や接着作業が容易になる。
【0027】
このように本構成では、エアバッグジャケット30(エアバッグ本体31)を着用時に前合わせ形状としたので、ファスナーライン25を中央縦に備えた乗員用ジャケット20にエアバッグジャケット30を装着することが可能になる。
【0028】
<第4実施形態>
図9ないし図11は第4実施形態を示す。この第4実施形態では、エアバッグ本体31の背当て部41の左右両側に横背当て部41A、41Bを連設すると共に、腹当て部43の左右両側に横腹当て部(前脇腹当て部)43A、43Bを連設している。以下、上記実施形態と略同一の構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
図10に示すように、背当て部41と横背当て部41A、41Bとの境界の一部は、肩掛け部42L、42Rと背当て部41との接続部から縫製または接着により形成された境界接合部35S、35Sによって接合される。このため、背当て部41の端部だけが横背当て部41A、41Bと連通するように構成される。
【0029】
また、腹当て部43と横腹当て部43A、43Bとの境界の一部についても、肩掛け部42L、42Rと腹当て部43との接続部から縫製または接着により形成された境界接合部36S、36Sによって接合される。このため、腹当て部43の端部だけが横腹当て部43A、43Bと連通するように構成される。
【0030】
本構成では、インフレータ32が作動した場合、インフレータ32からのガスが、図10に矢印で示すように、背当て部41から一連につながる肩掛け部42Rを通って腹当て部43に流れると共に、背当て部41から肩掛け部42Lに流れて、これらにガスが充填される。これにより、背当て部41から腹当て部43に至るまで迅速にガスを充填することができる。
しかも、背当て部41に流れたガスの一部が、背当て部41の端部につながる横背当て部41A、41Bに流れると共に、腹当て部43に流れたガスの一部が、腹当て部43の端部につながる横腹当て部43A、43Bに流れるので、これらにもガスを充填することができる。
【0031】
本構成では、ガスが充填された場合、図11(A)に示すように、乗員Mの肩部と前面とを左右の横腹を含めてエアバッグ本体31で覆うことができると共に、図11(B)に示すように、乗員Mの肩部と背面とを背骨の左右も含めてエアバッグ本体31で覆うことができる。これにより、上記各実施形態よりも更に乗員Mの上半身を広く覆うことができ、外部からの衝撃をより確実に吸収することができる。
また、このエアバッグ本体31についても、平面形状の表面材と裏面材とを接合して構成され、これにより、エアバッグ本体を複雑な立体形状にして立体縫製する場合に比して、全体形状を簡素化でき、かつ、縫製や接着作業が容易になる。
また、背当て部41と横背当て部41A、41Bとの間の仕切り、及び、腹当て部43と横腹当て部43A、43Bとの間の仕切りを、縫製または接着による接合で形成したので、このエアバッグ本体31の部品点数の増大を回避することができ、また、これら仕切りをエアバッグ本体31の縫製または接着工程時に同時に設けることができる。
【0032】
<第5実施形態>
図12は第5実施形態を示す。この第5実施形態では、エアバッグ本体31の背当て部41に連設した横背当て部41Bに左の前脇腹当て部43Bを連設している。以下、上記実施形態と略同一の構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
図12に示すように、横背当て部41Bと左の前脇腹当て部43Bとは、これらより幅狭の脇当て部43B1を介して連設され、また、横背当て部41Bの反対側の横背当て部41Aにも、上記脇当て部43B1と同幅の脇当て部43A1が連設される。
【0033】
本構成では、背当て部41側に左の前脇腹当て部43Bを連設しているため、腹当て部43側には、左の横腹当て部を連設する必要がなく、右の横腹当て部43Aだけが連設される。
また、このエアバッグ本体31は、横背当て部41Bと脇当て部43B1との接続部の境(図12中、符号ZB)で折り曲げられ、かつ、横背当て部41Aと脇当て部43A1との接続部の境(図12中、符号ZA)で折り曲げられた状態で乗員用ジャケット20に装着される。
【0034】
このため、インフレータ32が作動した場合、インフレータ32からのガスが、図12に矢印で示すように、背当て部41から一連につながる肩掛け部42Rを通って腹当て部43に流れると共に、背当て部41から肩掛け部42Lに流れて、これらにガスが充填される。これにより、背当て部41から腹当て部43に至るまで迅速にガスを充填することができる。
また、背当て部41に流れたガスの一部が、背当て部41の端部につながる横背当て部41Bを通って脇当て部43B1及び前脇腹当て部43Bに流れると共に、横背当て部41Aを通って脇当て部43A1に流れ、これらを展開膨張させる。これによって、第2実施形態と同様に、乗員Mの上半身の略全体をエアバッグ本体31で覆うことができ、外部からの衝撃をより確実に吸収することができる。
【0035】
このように本構成では、エアバッグ本体31の背当て部41に連設した横背当て部41Bに前脇腹当て部43Bを連設したので、腹当て部43に前脇腹を覆う横腹当て部を連設する必要がない。このため、乗員Mの上半身の略全体を広く覆うエアバッグ本体31を実現しつつ、インフレータ32から離れた位置に設けられた腹当て部43側の容積を低減することができる。したがって、第3実施形態に比して、腹当て部43側の膨張に必要なガス量を低減することができ、背当て部41から腹当て部43に至るまで、より素早くガスを充填することが可能になる。
また、この構成により、乗員用ジャケット20の左右(一般にポケットが設けられる位置)にエアバッグ本体31(エアバッグジャケット30)が重なって配置されるのを回避することができる。このため、エアバッグ本体31(エアバッグジャケット30)によりポケット容量が制限されてしまうといった事態も回避することができる。
【0036】
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものでないことは明らかである。例えば、上述の各実施形態では、エアバッグ本体31を横合わせ形状や前合わせ形状にして乗員用ジャケット20のファスナーライン25、26を避ける場合を例示したが、これに限らず、乗員用ジャケット20がボタンなどで横合わせ形状や前合わせ形状に形成される場合も、これらの合わせ面を避けることが可能である。このため、本発明のエアバッグジャケット30を様々な乗員用ジャケット20に容易に装着することができる。
また、上述の各実施形態では、自動二輪車の乗員用のエアバッグジャケットに本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両等の車両や小型船舶などに乗車する乗員用のエアバッグジャケットに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施形態に係るエアバッグジャケットを自動二輪車に実施した場合を示す図である。
【図2】エアバッグジャケットを備えた乗員用ジャケットを示す図である。
【図3】エアバッグジャケットを拡げた図である。
【図4】(A)はエアバッグジャケット膨張時の前面図であり、(B)はその背面図である。
【図5】第2実施形態に係るエアバッグジャケットを備えた乗員用ジャケットを示す図である。
【図6】エアバッグジャケットを拡げた図である。
【図7】第3実施形態に係るエアバッグジャケットを備えた乗員用ジャケットを示す図である。
【図8】エアバッグジャケットを拡げた図である。
【図9】第4実施形態に係るエアバッグジャケットを備えた乗員用ジャケットを示す図である。
【図10】エアバッグジャケットを拡げた図である。
【図11】(A)はエアバッグジャケット膨張時の前面図であり、(B)はその背面図である。
【図12】第5実施形態に係るエアバッグジャケットを備えた乗員用ジャケットを示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 自動二輪車
20 乗員用ジャケット
25 ファスナーライン
30 エアバッグジャケット
31 エアバッグ本体
31S 接合部
35S、36S 境界接合部
32 インフレータ
41 背当て部
41A、41B 横背当て部
42、42L、42R 肩掛け部
42A 通し孔部
43、43L、43R 腹当て部
43A、43B 横腹当て部(前脇腹当て部)
43A1、43B1 脇当て部
45、46 分断部
M 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータからのガスを充填可能とした袋状のエアバッグ本体を備えた、乗員用ジャケットの内側に装着されるエアバッグジャケットにおいて、
前記エアバッグ本体は、平面形状の表面材と裏面材とを縫製または接着により接合し、乗員の頭部の通し孔部を除去し、少なくとも背当て部と肩掛け部と腹当て部とが一連につながるように袋状に形成し、前記背当て部に前記インフレータを配置し、該インフレータからのガスを前記背当て部から一連につながる前記肩掛け部を通して前記腹当て部に至るまで充填可能としたことを特徴とするエアバッグジャケット。
【請求項2】
前記エアバッグ本体が着用時に左右対称形状であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグジャケット。
【請求項3】
前記エアバッグ本体が着用時に横合わせ形状であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグジャケット。
【請求項4】
前記エアバッグ本体が着用時に前合わせ形状であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグジャケット。
【請求項5】
前記背当て部の一側および/または他側に横背当て部を連接し、該横背当て部にインフレータからのガスを充填可能としたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項記載のエアバッグジャケット。
【請求項6】
前記背当て部と前記横背当て部との境界の一部を縫製または接着により接合したことを特徴とする請求項5記載のエアバッグジャケット。
【請求項7】
前記背当て部に連接した前記横背当て部に前脇腹当て部を連接し、該前脇腹当て部にインフレータからのガスを充填可能としたことを特徴とする請求項5または6記載のエアバッグジャケット。
【請求項8】
前記腹当て部の一側および/または他側に横腹当て部を連接し、該横腹当て部にインフレータからのガスを充填可能としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載のエアバッグジャケット。
【請求項9】
前記腹当て部と前記横腹当て部との境界の一部を縫製または接着により接合したことを特徴とする請求項8記載のエアバッグジャケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−184135(P2008−184135A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21563(P2007−21563)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】