説明

エアバッグドア破断溝形成工具

【課題】破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅を小さくすることができ、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度を有するエアバッグドア破断溝形成工具を提供する。
【解決手段】エアバッグドア破断溝形成工具10は、車両用内装部材の表皮材50の意匠面の裏側面50aにエアバッグ展開時に優先的に破断させる破断予定線50bを形成するものであって、破断予定線50bを形成するとき表皮材50が載置される載置面31aに対して傾斜した刃面10hと、R形状に形成された刃先部10aと、刃面10hと工具後面部10bとの間に形成された、刃先部10a近傍において刃面10hと工具後面部10bとを接続するテーパー部10tと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグドア破断溝形成工具に関する。詳しくは、エアバッグを搭載した車両のステアリングやインストルメントパネル等の車両用内装部材の表皮材にエアバッグ展開時に優先的に破断させる破断予定線を形成するエアバッグドア破断溝形成工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグを展開させるためのエアバッグドアを一体的に設けたステアリングやインストルメントパネルは、その意匠面に、シボ加工等の立体装飾が施されたエアバッグドア部を有する車両用内装部材を備えている。車両用内装部材の表皮材は、主としてポリオレフィン系(TPO)及びポリウレタン系(TPU)等の熱可塑性または熱硬化性樹脂から形成されている、そして、この車両用内装部材のエアバッグドア部に相当する位置には、エアバッグの展開力によってエアバッグドアが確実に開くように、薄肉部としての破断予定線(ティアラインや開裂線ともいう)が設けられている。
また、近年では、このような車両用内装部材における立体装飾性が損なわれないように、車両用内装部材の裏側面に破断予定線を形成し、意匠面側から視認されにくいインビジブルタイプが用いられている。
【0003】
このインビジブルタイプの車両用内装部材における破断予定線を表皮材の裏側面に形成するにあたり、レーザーカッター、高周波カッター、超音波カッター、加熱刃等の加熱切断手段を用いる方法も知られているが、破断予定線の幅を比較的小さくし、破断予定線の形成箇所に凹凸が生じることを防ぎ、車両用内装部材を意匠側から眺めた場合に破断予定線を視認されにくく形成するために、表皮材の裏側面に、例えば、図8に示すカッター刃等の加工刃を用いて破断予定線を形成する装置が知られている。
また、成形加工された表皮材を有するエアバッグドア部を有する車両用内装部材を、表皮材を実質的に平らに載置し、所定の傾斜部及び水平部を有する加工刃を用いて表皮材に破断予定線を形成する装置も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−237995号公報(特願2006−65089号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、加工刃を用いて破断予定線を形成する方法は車両用内装部材の意匠面側からの優れたインビジブル性を得ることができるが、一方、加工される破断予定線は、当該破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さがなるべく均一であることが要求される。すなわち、破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきは、エアバッグの展開性に影響を与える。
上記特許文献1に開示された加工刃及び加工装置は、刃面の損傷等の刃こぼれを発生しにくくして車両用内装部材におけるエアバッグドア部を、効率的かつ精度よく形成することに関するものであるが、表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきに関する点は見当たらない。
【0006】
また、射出性に優れ、素材として柔軟性を有するポリオレフィン系樹脂(TPO)等PP系の樹脂材料の表皮材は車両用内装部材の表皮材として優れ頻繁に用いられるが、剛性があり硬いため、従来の加工刃では表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきが大きく、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度を出すことが特に困難であった。
本発明は、加工対象の表皮材がポリオレフィン系樹脂(TPO)であっても、破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さを均一に加工できるエアバッグドア破断溝形成工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 車両用内装部材の表皮材(例えば、後述の表皮材50)の意匠面の裏側面(例えば、後述の裏側面50a)にエアバッグ展開時に優先的に破断させる破断予定線(例えば、後述の破断予定線50b)を形成するエアバッグドア破断溝形成工具(例えば、後述のエアバッグドア破断溝形成工具10)であって、破断予定線を形成するとき表皮材が載置される載置面(例えば、後述の載置面31a)に対して傾斜した刃面(例えば、後述の刃面10h)と、R形状に形成された刃先部(例えば、後述の刃先部10a)と、刃面と工具後面部(例えば、後述の工具後面部10b)との間に形成された、刃先部近傍において刃面と工具後面部とを接続するテーパー部(例えば、後述のテーパー部10t)と、を備えたエアバッグドア破断溝形成工具。
【0008】
(1)の発明によれば、加工対象の表皮材がポリオレフィン系樹脂(TPO)であっても、破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅を小さくすることができ、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度を有するエアバッグドア破断溝形成工具が得られる。
これは、表皮材に進入した刃先部が表皮材内部を移動するとき、R形状に形成された刃先部によってエアバッグドア破断溝形成工具の進行方向前面の表皮材の押し下げが緩やかになりその押し下げ抵抗力が小さく、刃先部近傍の工具後面部の刃面との接続部に形成されたテーパー部によって刃面から工具後面部への表皮材の流れが滑らかになり通過抵抗力が小さくなるためと考えられる。従って、表皮材に進入した刃先部が表皮材内部を移動するとき刃先部が前面から受ける力(摩擦力)、及び下面から受ける反発力とも小さくなり、その結果、破断予定線の形成箇所における表皮薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅が小さくなっていると考えられる。
【0009】
(2) 刃面の載置面に対する傾斜角度は、40°乃至55°である(1)に記載のエアバッグドア破断溝形成工具。
【0010】
(2)の発明によれば、傾斜角度が40°以下では残厚部の厚さの精度向上効果が不十分であり、傾斜角度が55°以上では刃先部近傍の工具本体部の幅が狭くなり機械的強度が不足するため、精度向上効果、及び機械的強度の両方を備えたエアバッグドア破断溝形成工具が得られる。
【0011】
(3) R形状に形成された刃先部は、1.5乃至1.6mmの曲率半径を有する(1)または(2)に記載のエアバッグドア破断溝形成工具。
【0012】
(3)の発明によれば、破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅を更に小さくするエアバッグドア破断溝形成工具が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂(TPO)であっても、破断予定線の表皮材薄肉部の残厚部の厚さを均一に加工できるエアバッグドア破断溝形成工具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具を使用した破断溝加工装置の全体構造を示す斜視図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具の構成を示す側面図である。(b)は(a)のB視前面図である。(c)は(a)のC視後面図である。(d)は(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具の構成を示す側面図である。(b)は(a)のB視前面図である。
【図4】本発明の実施例1と比較例1、2との実験結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例1、2の実験結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例1と比較例3、4との実験結果を示す図である。
【図7】(a)は、本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具の動作を示す模式図である。(b)は、従来の加工刃の動作を示す模式図である。
【図8】(a)は従来の加工刃の構成を示す側面図である。(b)は(a)のE視前面図である。(c)は(a)のF視後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図3に基づき説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具10を使用して車両用内装部材の表皮材50に溝状の破断予定線50bを形成する破断溝加工装置30の全体構成を示す(図3参照)。
破断溝加工装置30は、図1及び図3に示すように、載置面31aを有する載置台31と加工刃であるエアバッグドア破断溝形成工具10とを備え、裏側面50aを上方に向けて載置台31上に載置された表皮材50に対して、表皮材50が所定の残厚部を残すように上方側からエアバッグドア破断溝形成工具10を進入させた後、形成する破断予定線50bの形状に沿ってエアバッグドア破断溝形成工具10を移動させて所定形状の破断予定線50bを表皮材50の裏側面50aに形成するための装置である。
また、破断溝加工装置30は、上記の載置台31とエアバッグドア破断溝形成工具10と共に、エアバッグドア破断溝形成工具10を所定の軌跡で移動させる工具位置移動手段36と、載置台31の載置面31aの高さ位置を検出する載置面高さ位置検知手段27と、エアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部の状態を検知する刃先状態検知手段29と、を備えている。
【0017】
詳細な動作については後述するが、破断溝加工装置30は、加工刃であるエアバッグドア破断溝形成工具10の表皮材50への進入と移動とを複数回繰り返すことにより、所望の形状(例えば、H字形状)の破断予定線50bを形成できる。
なお、以下の説明において、表皮材50とはエアバッグドア部を有する車両用内装部材におけるエアバッグを収容する機能を有する基材及び発泡層以外の最表面の意匠面を有するシート部材を意味する。
【0018】
図1に示すように、工具位置移動手段36は、エアバッグドア破断溝形成工具10を上昇または下降させたり、平行移動させたりして、エアバッグドア破断溝形成工具10の位置を移動させるための手段である。例えば、平行移動させる手段としてサーボ機構からなるX軸スライダー36a、及びX軸スライダー36aに取り付けられたY軸スライダー36b、上昇又は下降させる手段としてY軸スライダー36bに取り付けられたサーボ機構からなるZ軸スライダー36c、Z軸を中心に回転させる手段としてZ軸スライダー36cに取り付けられたサーボ機構からなるひねり可動部36dを用いて構成することができる。
【0019】
加工刃であるエアバッグドア破断溝形成工具10は、ひねり可動部36dの先端に取り付けられて、工具位置移動手段36の動きによってX軸Y軸方向の平行移動、Z軸方向の上下動、及びZ軸を中心とした回転運動が可能である。このような工具位置移動手段36を備えることにより、あらかじめ形成する破断予定線の形状を制御部33に記憶させておき、表皮材50をセットした後は、制御部33からの移動制御信号によって所定の移動軌跡に沿ってエアバッグドア破断溝形成工具10を移動させ、自動的に破断予定線50bを形成することが可能になる。
【0020】
次に、図2(a)乃至(d)に基づき、本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具10の構成を説明する。図2(a)はエアバッグドア破断溝形成工具10の側面図であり、図2(b)は図2(a)のB視前面、図2(c)は図2(a)のC視後面をそれぞれ示す。また、図2(d)は、図2(a)のエアバッグドア破断溝形成工具10のA−A断面を示す。
【0021】
加工刃であるエアバッグドア破断溝形成工具10は、長手方向に伸びる平板状鋼材である工具本体部10cの先端に両刃の刃面10hを形成されている。一対の刃面10hは、工具本体部10cの両表面である一対の工具側面部10sから先端に向かって伸び、切れ刃を形成する稜線部10rで交差している。一対の刃面10hは、稜線部10rと共に、工具本体部10cの伸びる方向に垂直な面に対して傾斜して形成されている。従って、一対の刃面10hは、平板状鋼材である工具本体部10cと共にカッター刃形状となっていて、長手方向に突出した刃先部10aを有する。ここで、工具本体部10cの厚みに相当する細長面は、刃先部10aの側が工具後面部10bに、反対側が工具前面部10fに、それぞれ形成されている。すなわち、一対の刃面10hは、切れ刃を形成する稜線部10rと共に、工具前面部10fから刃先部10aに向かって伸び、刃先部10aにおいて工具後面部10bに接続している。
【0022】
ここで、エアバッグドア破断溝形成工具10は、その刃先部10aがR形状に形成されている。より具体的には、一対の刃面10hは、切れ刃を形成する稜線部10rが刃先部10aにおいて所定の曲率半径を有するR形状になるように形成されている。このR形状の曲率半径は、1.5mm至1.6mmであることが好ましい。
【0023】
また、刃面10hと工具後面部10bとの間には、刃先部10a近傍において一対の刃面10hと工具後面部10bとを接続するテーパー部(面取り部)10tが形成されている。すなわち、一対の刃面10hは、テーパー部10tを介して工具後面部10bに滑らかに接続している。
【0024】
図3に示すように、エアバッグドア破断溝形成工具10が表皮材50に破断予定線50bを形成するとき、刃先部10aは、表皮材50に進入しており、エアバッグドア破断溝形成工具10のD方向への移動により、刃先部10aの稜線部10rによって破断予定線50bを形成する。一対の刃面10h(稜線部10r)は載置台31の載置面31aに対して傾斜しており、その傾斜角度αは40°乃至55°であることが好ましい。これは、傾斜角度αが40°以下では残厚部の厚さの精度向上効果が不十分であり、傾斜角度αが55°以上では刃先部10a近傍の工具本体部10cの幅が狭くなり機械的強度が不足するためである。
図3(b)は図3(a)のB視前面を示す。一対の刃面10hの側面角度βは、適宜選択すればよいが、例えば22°乃至35°であってよい。
【0025】
次に載置台31につき、説明する。載置台31は、車両用内装部材の表皮材50を載置できる構成であれば特に制限されるものではないが、例えば、図1に示すように、上面が実質的に平坦であって水平方向に保持され、載置面31a上に、後述する破断予定線の形状に対応した基準部35が配置されていることが好ましい。これらの載置台31や基準部35は、金属やステンレス等、載置される表皮材50よりも硬い材料から構成されている。載置台31は、加工しようとする表皮材50の種類に応じて、その加工に適した大きさ(載置面31aの形状)、厚み(載置面31aの高さ位置)のものを適宜選択できるようにされていてよい。後述の通り、載置面31aの高さ位置が変更された場合であっても、表皮材50の加工前に載置面31aの高さ位置を測定し、その測定結果に基づきエアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aを所定高さに制御することにより、表皮材50の残厚部の厚さを一定の値にすることができる。
【0026】
また、載置台31は、図1に示すように、吸引部として、真空ポンプ等の吸引装置38に接続された複数の小孔からなる吸引孔37を備えることが好ましい。これらの吸引孔37を備えることにより、複雑な形状の表皮材や大型の表皮材であっても、吸引することにより、載置台31の上に容易に、且つ均一に固定することができる。従って、破断予定線を形成する際の表皮材50の位置ずれ、浮き上がりを有効に防止できるとともに、破断予定線の形成箇所の残厚部の厚さを均一にして破断予定線を形成することができる。更に、機械的固定法と異なり、表皮材50に対する吸引を止めることにより、表皮材50を速やかに移動させることも可能になる。
【0027】
載置面高さ位置検知手段27は、エアバッグドア破断溝形成工具10を保持するひねり可動部36dに配置された、載置台31の載置面31aの高さ位置を検知するための手段である。載置面高さ位置検知手段27の態様は特に制限されるものではないが、例えば、載置面高さ位置検知手段27のセンサー部27aから載置面31aにレーザー光を照射しその反射光を測定して載置面31aまでの距離を測定する光学式測定装置(例えば、レーザフォーカス式)であってよい。
この載置面高さ位置検知手段27を備えることにより、載置台31が変更されてもエアバッグドア破断溝形成工具10の「設定位置」(例えば、センサー部27aと載置台31上の載置面31aとの間の距離t2)を所定値に調整することができる。ここで、センサー部27aとエアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aとの距離t1は既知であるため、エアバッグドア破断溝形成工具10の「設定位置」を所定値に調整することにより、エアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aと載置台31上の載置面31aとの間の距離、すなわち残厚部の厚さ(t2−t1)を所定値となるように調整することができる。したがって、残厚部の厚さが全体的に均一である破断予定線を精度良くかつ迅速に形成することができる(図3参照)。
【0028】
刃先状態検知手段29は、エアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aの状態を検知するための手段である。具体的には、破断予定線形成前あるいは形成後に、刃先部10aの状態が良好であることを確認できる構成であることが好ましい。
刃先状態検知手段29による確認は、例えば、所定回数の破断予定線を加工した後に、いったん加工を停止し工具位置移動手段36の移動によって、エアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aが刃先状態検知手段29にセットされるよう制御されてよい。
また、刃先状態検知手段29は、刃先部10aの状態を、レーザ測定装置や赤外線測定装置等を用いて測定することにより、磨耗等による損傷度合いを検知することができるものであってよい。
【0029】
刃先状態検知手段29を備えることにより、刃先部10aの状態を考慮して、刃先部10aと載置台31の載置面31aとの距離を常に一定状態に保持することができ、表皮材50の種類や厚さ等が変化した場合であっても、残厚部の厚さが全体的に均一である破断予定線50bを、精度良くかつ迅速に形成することができる。また、刃先部10aの状態を測定し、磨耗等により損傷している状態が検知された場合には、装置の稼動を停止するとともに、エアバッグドア破断溝形成工具10を交換することもできる。
【0030】
次に、破断溝加工装置30が、加工刃であるエアバッグドア破断溝形成工具10を用いて、表皮材50に所望の形状(例えば、H字形状)の破断予定線50bを形成する動作につき説明する。
【0031】
「エアバッグドア破断溝形成工具10の位置決め」
先ず、加工しようとする表皮材50に対応する載置台31を配置し、載置台31に表皮材50を載置する前に一旦エアバッグドア破断溝形成工具10を「設定位置」に位置決めする。このとき、刃先部10aの位置は、載置台31の載置面31aと刃先部10aとの間の距離が、形成する破断予定線50bの残厚部の厚さと一致するように決定される。
具体的には、制御部33は、例えば、載置面高さ位置検知手段27によって載置面31aとの相対位置を検知しながら工具位置移動手段36を用いてエアバッグドア破断溝形成工具10を降下させ、エアバッグドア破断溝形成工具10が「設定位置」(例えば、センサー部27aと載置台31上の載置面31aとの間の距離t2)で止める。このとき、センサー部27aとエアバッグドア破断溝形成工具10の刃先部10aとの距離t1は既知であるため、距離t2が「距離t1+形成しようとする残厚部の厚さ」となるように設定されている。
制御部33は、エアバッグドア破断溝形成工具10が「設定位置」となったときの工具位置移動手段36のZ方向制御値(Z方向初期値)を記憶した後、表皮材50の載置に備えて、工具位置移動手段36を用いてエアバッグドア破断溝形成工具10を上昇させる。
【0032】
「表皮材の載置」
次いで、成形加工された表皮材50を、表皮材50の意匠面を下方に向けて、表皮材50の裏側面50aを上方に向けて載置台31の載置面31a上に載置する。
また、表皮材50を載置した後、下向きにされた表皮材50の意匠面の側から吸引孔37を介して真空ポンプ38によって吸引する。これによって、複雑な形状の表皮材や大型の表皮材であっても、所望の位置に固定することができ、破断予定線50bの形成精度が低下することを防止することができる。更に、機械的固定法と異なり、表皮材に対する吸引を止めることにより、表皮材を速やかに移動させることも可能になる。
【0033】
「破断予定線50bの形成」
表皮材50が載置されると、制御部33は、工具位置移動手段36を用いて、そのZ方向制御値をZ方向初期値に制御することにより、エアバッグドア破断溝形成工具10を「設定位置」に配置することができる。このとき、刃先部10aは、表皮材50に、形成しようとする残厚部の厚さに対応するだけ進入している。
次いで、エアバッグドア破断溝形成工具10の「設定位置」を維持したまま、エアバッグドア破断溝形成工具10を水平方向に移動させることにより、表皮材50の裏側面50aに、所定の残厚部の厚さの破断予定線50bを形成する。すなわち、エアバッグドア破断溝形成工具10を直線的に又は曲線的に水平移動させて表皮材50の裏側面50aを切断することにより、所定形状の破断予定線50bが形成される。そして、エアバッグドア破断溝形成工具10の上昇、位置移動、「設定位置」までの下降、「設定位置」を維持した状態での水平移動を繰り返すことにより、全体として所望の形状(例えば、H字形状)であって所定の残厚部の厚さの破断予定線50bを形成することができる。
また、破断予定線形成加工が終了すると、載置台31より破断予定線50bが形成された表皮材50を除去し、上記の通り、新たな表皮材50を載置台31に載置する。以降同様に、「表皮材の載置」及び「破断予定線50bの形成」繰り返すことにより、複数の表皮材に対する連続的な破断予定線形成加工が可能である。
【0034】
以下、本実施形態の効果を実証するための実験について説明する。
加工対象としてポリオレフィン系樹脂(TPO)の表皮材を試料として用いて、本実施形態と従来装置とを用いて、表皮材の裏側面に所定の残厚部の厚さの破断予定線を形成し、その表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきを測定する実験を行った。
ポリオレフィン系樹脂(TPO)の表皮材は、射出成形性に優れ、また柔軟性があり車両用内装部材の表皮材として頻繁に使用されるが、剛性が高く硬いため加工精度を出し難い表皮材である。
【0035】
本実施形態としては、「刃先部R形状:曲率半径1.55mm、テーパー部:有り、側面角度β:22°」としたもの(実施例1)、「刃先部R形状:曲率半径1.40mm、テーパー部:有り、側面角度β:22°」としたもの(実施例2)とを用いた。
【0036】
従来装置は、「刃先部R形状:なし、テーパー部:なし、側面角度β:22°」としたもの(比較例1)、「刃先部R形状:なし、テーパー部:なし、側面角度β:35°」としたもの(比較例2)、「刃先部R形状:曲率半径1.55mm、テーパー部:なし、側面角度β:22°」としたもの(比較例3)、「刃先部R形状:なし、テーパー部:有り、側面角度β:22°」としたもの(比較例4)とを用いた。
尚、比較例1、2は、図8に示す従来の加工刃に対応するものである。
【0037】
破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきの評価は、合計120枚の同一の表皮材を用意し、各評価実験において、残厚部の厚さが0.4mmになるように設定して20枚連続して加工して、その1枚1枚の残厚部の厚さを測定し、20枚の加工における標準偏差σを求めることによって行った。
【0038】
図4は、実施例1と比較例1及び2との結果を示す。「刃先部R形状:なし、テーパー部:なし、側面角度β:22°」とした比較例1では標準偏差σ=0.027mm、「刃先部R形状:なし、テーパー部:なし、側面角度β:35°」とした比較例2では標準偏差σ=0.032mmとなった。これは、「加工する製品個数の99.7%が収まるばらつき幅」に相当する±3σが、それぞれ、0.16mm、0.19mmとなり、残厚部の厚さを0.4mmになるように形成する場合の残厚部の厚さのばらつきとして許容できない。
これに対して、本発明の実施例1では、標準偏差σ=0.014mmとなった。これは、±3σが0.084mmであり、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度になっている。
【0039】
図5は、本発明の実施例1と実施例2との比較結果を示す。実施例1の結果は上記の通りであるが、刃先部R形状の曲率半径をより小さくし「刃先部R形状:曲率半径1.40mm、テーパー部:有り、側面角度β:22°」とした実施例2では、標準偏差σ=0.018mmとなった。従って、±3σ=0.11mmであり、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度になっている。
【0040】
図6は、実施例1と比較例3及び4との結果を示す。「刃先部R形状:曲率半径1.55mm、テーパー部:なし、側面角度β:22°」した比較例3では標準偏差σ=0.036mm、「刃先部R形状:なし、テーパー部:有り、側面角度β:22°」とした実施例4では標準偏差σ=0.030mmとなった。これは、「加工する製品個数の99.7%が収まるばらつき幅」に相当する±3σが、それぞれ、0.22mm、0.18mmとなり、残厚部の厚さが0.4mmになるように形成する場合の残厚部の厚さのばらつきとして許容できない。
これに対して、本発明の実施例では、上記の通り標準偏差σ=0.014mmであり、従って、±3σ=0.084mmであり、エアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度になっている。
【0041】
実施例1の破断予定線の形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつきが標準偏差σ=0.014mmと小さくエアバッグ展開性能を十分満足させる加工精度になっていることは、エアバッグドア破断溝形成工具10がR形状に形成された刃先部10aと、刃先部10a近傍の工具後面部10bの刃面10hとの接続部に形成されたテーパー部10tと、を備えることに起因する。また、実施例2との比較から、このR形状の曲率半径は、1.5mm乃至1.6mmであることが好ましいことがわかる。
【0042】
以下、図7(a)及び(b)に基づき、本発明の実施形態の実験結果と従来装置の実験結果との差異(図4参照)を生じていると考えられる、それぞれの表皮材50に対する動作につき説明する。
【0043】
図7(a)は、本発明の実施形態に係るエアバッグドア破断溝形成工具10が車両用内装部材の表皮材50に溝状の破断予定線50bを形成するときの刃先部10aの表皮材50内部における動作を示す模式図である。流れ50fは、刃先部10aから見た表皮材50の流れを示す。
本発明の実施形態では、表皮材50に進入した刃先部10aが表皮材50内部を移動するとき、R形状に形成された刃先部10aによってエアバッグドア破断溝形成工具10の進行方向前面の表皮材50の押し下げが緩やかになりその押し下げ抵抗力H1が小さく、刃先部10a近傍の工具後面部10bの刃面10hとの接続部に形成されたテーパー部10tによって刃面10hから工具後面部10bへの表皮材50の流れが滑らかになり通過抵抗力H2が小さくなると考えられる。従って、表皮材50に進入した刃先部10aが表皮材50内部を移動するとき刃先部10aが前面から受ける力(摩擦力)F1、及び下面から受ける反発力F2とも小さくなり、その結果、破断予定線50bの形成箇所における表皮薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅が小さくなっていると考えられる。
【0044】
一方、図7(b)は、図8に示す従来の加工刃110が車両用内装部材の表皮材50に溝状の破断予定線50dを形成するときの刃先部110aの表皮材50内部における動作を示す模式図である。流れ50gは、刃先部10aから見た表皮材50の流れを示す。
従来の加工刃110では、表皮材50に進入した刃先部110aが表皮材50内部を移動するとき、刃先部110aによる加工刃110の進行方向前面の表皮材50の押し下げは急でありその押し下げ抵抗力H3が大きく、刃面110hから工具後面部110bへの表皮材50の流れは刃面110hと工具後面部110bとの角部でその方向を急変させるため通過抵抗力H2が大きいと考えられる。従って、表皮材50に進入した刃先部110aが表皮材50内部を移動するとき刃先部110aが前面から受ける力(摩擦力)F3、及び下面から受ける反発力F4は何れも大きく、破断予定線50dの形成箇所における表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅も大きくなっていると考えられる。
【0045】
また、図6に示すように、R形状に形成された刃先部を備えるが刃先部近傍の工具後面部の刃面との接続部に形成されたテーパー部を備えない場合(比較例3)、逆にテーパー部を備えるがR形状に形成された刃先部を備えない場合(比較例4)では、表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅を小さくする効果は十分でない。従って、R形状に形成された刃先部と、刃先部近傍の工具後面部の刃面との接続部に形成されたテーパー部と、を備えることが、表皮材薄肉部の残厚部の厚さのばらつき幅を十分に小さくするために必要であることが確認された。
【0046】
以上、本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更、または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0047】
10 エアバッグドア破断溝形成工具
10a 刃先部
10b 工具後面部
10h 刃面
10t テーパー部
31 載置台
31a 載置面
50 表皮材
50a 裏側面
50b 破断予定線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用内装部材の表皮材の意匠面の裏側面にエアバッグ展開時に優先的に破断させる破断予定線を形成するエアバッグドア破断溝形成工具であって、
前記破断予定線を形成するとき前記表皮材が載置される載置面に対して傾斜した刃面と、
R形状に形成された刃先部と、
前記刃面と工具後面部との間に形成された、前記刃先部近傍において前記刃面と工具後面部とを接続するテーパー部と、
を備えたエアバッグドア破断溝形成工具。
【請求項2】
前記刃面の前記載置面に対する傾斜角度は、40°乃至55°である請求項1に記載のエアバッグドア破断溝形成工具。
【請求項3】
R形状に形成された前記刃先部は、1.5乃至1.6mmの曲率半径を有する請求項1または2に記載のエアバッグドア破断溝形成工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−184002(P2011−184002A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53819(P2010−53819)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(510066802)有限会社吉成工具研磨 (1)
【Fターム(参考)】