説明

エアマット

【課題】 小型で低コストのセンサにより、体温情報を含めた生体情報を検出可能とするエアマットを実現する。
【解決手段】 通気孔が形成された自己復元力を有するエアマットにおいて、
前記通気孔を介して前記エアマットに流入又はこれより流出する空気の変動を温度変化として検出する第1の温度センサを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアマット、特に就寝中の被験者の生体情報を検出するために使用される自己復元力を有するエアマットに関する。
【背景技術】
【0002】
就寝中の被験者の生体情報を検出するために使用される、自己復元力を有するエアマットに関連する先行技術文献としては、特許文献1がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−040454号公報
【0004】
被験者の生体情報を、圧力変動信号として導出する手段を介して検出する生体情報検出装置に関連する先行技術文献としては、非特許文献1がある
【0005】
【非特許文献1】計測自動制御学会論文集Vol.36 No.11 P894/900 (2000) 「エアマットレス型無拘束生体計測の実用化研究」
【0006】
図6は、特許文献1に開示されている、自己復元力を有する従来のエアマットの横断面図である。袋状のエアマット100は、上生地100aと下生地100bが溶着部200により周囲が溶着され、内部に充填されたクッション材300によりマチ幅dが確保されている。
【0007】
溶着部の200の適当な箇所を貫通して通気部400が形成されている。401はこの通気部400の中心に形成された通気孔であり、この通気孔を介して外気がエアマット100内に流入し、又はエアマット内の空気が外気に流出する。
【0008】
このエアマットに接して就寝する被験者の体重がかかっているときには、エアマット内の空気の一部が外気に流出して上生地100aと下生地100bとの距離はマチ(=上下間隔の最大長を固定する材料)幅dより狭くなるが、体圧が除去されると、空間内の空気圧が外気圧より下がっていてもクッション材の“自己反発性”(表現を換えれば“自己復元力”)により、マチ幅dの長さまで上生地100aと下生地100bの距離は広がり、外気が流入するので定常のフラット位置まで直ちに回復する。
【0009】
被験者がエアマット100に接して就寝している状態でも、呼吸、心拍、体動、いびきによるエアマット内の圧力変化に対応して、絞り孔401には外気との空気の出入りが発生する。
【0010】
図7は、呼吸、心拍、体動及びいびきによる通気孔の空気の流れの変動を、流出をプラス符号で、流入をマイナス符号で示した表である。この特性を利用すれば、出入りする空気の流れを検出することで、被験者の生体情報を収集することができる。
【0011】
図6において、500は通気孔401に設けた圧力センサであり、その検出信号epが生体情報検出装置600に渡されて信号処理され、呼吸、心拍、体動、いびきの生体情報が抽出される。圧力センサ500に代えて流量又は流速センサを使用することも可能である。
【0012】
図8は、非特許文献1のFig3に開示されている生体情報検出システム及び信号波形図である。10は、内部の圧力変化を外部に取り出し可能に設計されたエアマットレス、20はその上に敷かれた通常の蒲団、30はこの蒲団上で就寝している被験者である。
【0013】
40は無拘束型のセンサであり、具体的には高帯域・ 高感度の圧力センサで実現されており、エアマットレス10内の微小な圧力変動を検出する。50はフィルタ手段であり、低周波帯域のフィルタ50a、中周波帯域のフィルタ50b、高周波帯域のフィルタ50c並びに各フィルタの出力のゲインコントローラよりなる。
【0014】
低周波帯域のフィルタ50aは、圧力変動信号から呼吸(Respiration)情報を抽出し、ゲインコントローラを経て信号処理部80に出力する。中周波帯域のフィルタ50bは、圧力変動信号から心拍(Heart beating)変動情報を抽出し、ゲインコントローラ及び整流平滑回路60を経て信号処理部80に出力する。高周波帯域のフィルタ50cは、圧力変動信号からいびき(Snoring)情報を抽出し、ゲインコントローラ及び整流平滑回路70を経て信号処理部80に出力する。
【0015】
下段の波形図は、信号処理部80の処理結果得られる計測データの波形図であり、(A)は呼吸情報、(B)は心拍変動情報、(C)はいびき情報をそれぞれ示している。このような無拘束型のセンサと電気的なフィルタ手段による信号処理により、無拘束で被験者の各種生体情報を得ることが可能であり、これら生体情報に基づいて睡眠段階を推定演算することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来技術によるエアマットを用いた生体情報の検出手法では、次のような問題点があった。
(1)高感度の圧力センサは、マイクロフォンと同一構造となるために、周囲の音をノイズとして拾い易く、生体情報とのSN比が小さいので、遮音構造や信号処理でのフィルタリングにコストがかかる。
【0017】
(2)流量センサ又は流速センサは、流量又は流速の物理量を測定する構造であるので、一般に高価である。空気の変動のみを検出する目的のセンサとして使用するにはオーバースペックとなる。
【0018】
(3)圧力センサ、流量センサ又は流速センサを使用する無拘束センサ手段で得られる情報は、呼吸情報、心拍情報、体動情報及びいびき情報だけであり、就寝している被験者の体温情報を検出することは不可能である。体温情報を欠く情報では、突然死と離床とを精度よく区別するのは困難である。
【0019】
(4)圧力センサ、流量センサ又は流速センサは、小型化に限界があり、通気部400に内臓するためには特別設計を必要とし、実装上のコストアップの要因となっている。
【0020】
従って本発明が解決しようとする課題は、小型で低コストのセンサにより、体温情報を含めた生体情報を検出可能とするエアマットを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような課題を達成するために、本発明の構成は次の通りである。
(1)通気孔が形成された自己復元力を有するエアマットにおいて、
前記通気孔を介して前記エアマットに流入又はこれより流出する空気の変動を温度変化として検出する第1の温度センサを備えることを特徴とするエアマット。
【0022】
(2)前記第1の温度センサの検出信号は、前記エアマットに接して就寝する被験者の体温、呼吸、心拍、体動、いびきの少なくともいずれかを検出する生体情報検出装置に渡されることを特徴とする(1)に記載のエアマット。
【0023】
(3)前記第1の温度センサに近接配置され、第1の温度センサの周囲温度を検出する第2の温度センサを備えることを特徴とする(1)に記載のエアマット。
【0024】
(4)前記第1の温度センサの検出信号並びに前記第2の温度センサの検出信号は、前記エアマット上で就寝する被験者の呼吸、心拍、体動、いびきの少なくともいずれかを検出する生体情報検出装置に渡されることを特徴とする(3)に記載のエアマット。
【0025】
(5)前記第1及び第2の温度センサは、サーミスタであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のエアマット。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
(1)空気の変動を温度変化として検出する温度センサを用いることで、圧力センサで発生する周囲音によるSN比低減の問題は解消される。
【0027】
(2)空気の変動を温度変化として検出する温度センサとして、サーミスタ等の低価格の素子を用いることで、高価な流量センサ又は流速センサの使用によるコスト問題は解消される。
【0028】
(3)温度センサを使用することで、圧力センサ、流量センサ又は流速センサでは検出不可能な被験者の体温情報を検出することが可能となる。体温情報を取得することで、呼吸情報、心拍情報、体動情報及びいびき情報だけでは区別できない、突然死と離床とを精度よく区別することが可能となる。
【0029】
(4)体温情報が不要の場合には、エアマットの温度のみを検出する第2の温度センサにより、周囲温度の影響を相殺して呼吸情報、心拍情報、体動情報及びいびき情報の検出ができる。
【0030】
(5)温度センサとして、サーミスタを使用することにより小形化が実現でき、通気部にそのまま実装することが容易であり、特別設計による実装上のコストアップは発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は本発明を適用したエアマットの一実施形態を示す機能ブロック図である。図6で説明した従来のエアマットと同一要素には同一符号を付して説明を省略する。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0032】
図1において、700は第1の温度センサを形成するサーミスタであり、通気部400に形成された通気孔401の途中に、空気の流れに接するように取り付けられている。このサーミスタ700は、図7に示した通気孔401を流入又は流出する空気の変動を温度変化として検出し、その抵抗値が変化する。この抵抗値信号Rtが生体情報検出装置800に入力され、被験者の生体情報を検出する。
【0033】
図2は、サーミスタ700の取付け部分の構成例を示す断面図である。通気部400は、熱伝導率の高い素材で作られており、通気部400とエアマット上生地100a及び下生地100bとの間は、空気の漏れがないように接着材で接着されている。
【0034】
通気孔401の上側にサーミスタ700を取り付ける。被験者の体温を検出しやすくするために、サーミスタの一方の面を通気孔上側に取り付ける又は接着する。一方その反対側は、通気孔に面するようにし、被験者の体動によってエアマットから流出する空気及びエアマットへ流入する空気をその面に吹き付ける。A,Bは、サーミスタのリード線端子である。
【0035】
図3は、生体情報検出装置800の構成例を示す機能ブロック図である。この生体情報検出装置800では、サーミスタ700の抵抗値の変化から、被験者の体温情報、呼吸情報、心拍情報、体動情報、いびき情報を検出する。サーミスタ700は、被験者の体温による直流成分に近い温度に、被験者の体動によって生じる流出入空気吹き付けによって生じる高周波数成分の温度変動が重畳された温度信号に対応した抵抗値Rtを示す。
【0036】
生体情報検出装置800は、センサ信号変換手段810及び生体情報分離手段820よりなる。センサ信号変換手段810は、サーミスタ700の抵抗値Rtと基準抵抗Rsの直列回路に基準電圧Eを接続し、基準抵抗Rsの端子間電圧を増幅器Qで演算増幅し、サーミスタ700の抵抗値Rtの変化を電圧信号S(T)+S(V)の変化に変換する。
【0037】
生体情報分離手段820は、フィルタ手段と体動検出手段で構成される。上記電圧信号S(T)+S(V)を、通過周波数帯域の異なる複数のフィルタを通すことによって、体温情報、呼吸情報、心拍情報及びいびき情報を抽出・分離する。信号処理の詳細は、図8で説明した非特許文献1に開示されている。体動検出手段では、心拍変動データの所定時間ごとの分散より体動情報を検出する。
【0038】
体温情報を検出できることにより、突然死と離床とを精度よく区別することができる。即ち。突然死も離床も心拍、呼吸、体動が無くなるが、突然死の場合には離床の場合よりもセンサ周囲の温度の降下が緩やかであるために、温度低下の勾配と適当なスレッシュホールド値の設定により判定信号を抽出することが可能である。
【0039】
図4は、本発明の他の実施形態を示すサーミスタ取付け部分の断面図である。この実施形態の特徴は、サーミスタ2個を用いて回路構成し、一方のサーミスタにより通気孔空気変動を検出し、他方のサーミスタは一方のサーミスタの周囲温度を検出することにより、周囲温度の影響を相殺できる生体情報検出装置を提供する。体温情報を必要としない場合に、周囲温度に影響されない生体情報を検出する用途に有効である。以下、図2の構成との差を説明する。
【0040】
第1サーミスタ701は、図2で説明した第1の温度センサを形成するサーミスタ700と同一構成であり、一方の面を通気孔401の上側に取り付ける又は接着し、反対側を通気孔に面するようにし、通気孔の空気変動を温度変化として検出する。
【0041】
第2の温度センサを形成する第2サーミスタ702は、第1サーミスタ701の周囲温度を検出するように、第1サーミスタ701に近接して、通気部400の周壁部に埋め込まれて配置されている。A,B,Cは第1,第2サーミスタのリード線の端子であり、Bは共通端子である。
【0042】
図5は、生体情報検出装置900の構成例を示す機能ブロック図であり、第1サーミスタ701及び第2サーミスタ702の抵抗値の変化からマット上で就寝する被験者の呼吸情報、心拍情報、体動情報、いびき情報を検出する。
【0043】
第1サーミスタ701は、被験者の体温による直流成分に近い温度に、被験者の体動によって発生する流出入空気吹き付けによって生じる高周波数成分の温度変動が重畳された温度信号に対応した抵抗値を示す。第2サーミスタ702は、被験者の体温(エアマット100の温度)による直流成分に近い信号のみに対応した抵抗値を示す。
【0044】
生体情報検出装置900は、センサ信号変換手段910及び生体情報分離手段920よりなる。センサ信号変換手段910は、第1サーミスタ701と第2サーミスタ702の直列回路に定電流Isを流し、第1サーミスタ701の抵抗値の変化を増幅器Q1で電圧信号S(T)+S(V)の変化に変換する。同時に、第2サーミスタ702の抵抗値の変化を増幅器Q2で電圧信号S(T)の変化に変換する。増幅器Q3により、これらの変換された電圧信号の差を演算することによって、周囲温度の影響が取り除かれた電圧信号S(V)を出力する。
【0045】
生体情報分離手段920は、フィルタ手段と体動検出手段で構成される。上記電圧信号S(V)を、通過周波数帯域の異なる複数のフィルタを通すことによって、呼吸情報、心拍情報及びいびき情報を抽出・分離する。信号処理の詳細は、図8で説明した非特許文献1に開示されている。体動検出手段では、心拍変動データの所定時間ごとの分散より体動情報を検出する。
【0046】
以上説明した実施形態では、温度センサとしてサーミスタを例示したが、これに限定されるものではなく、空気変動を温度変化として検出可能な構造を持つ温度センサであれば任意のものを採用することができる。
【0047】
本発明の適用対象である自己復元力を有するエアマットは、通常の構造では、被験者が就寝するメインのエアマットよりも小型に構成され、メインのエアマット上に被験者に接するように配置されるが、メインのエアマット全体を自己復元力を有するエアマット構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を適用したエアマットの一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】サーミスタ取付け部分の構成例を示す断面図である。
【図3】生体情報検出装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示すサーミスタ取付け部分の断面図である。
【図5】生体情報検出装置の他の構成例を示す機能ブロック図である。
【図6】特許文献1に開示されている、自己復元力を有する従来のエアマットの横断面図である。
【図7】呼吸、心拍、体動及びいびきによる通気孔の空気の流れの変動をプラスマイナス符号で示した表である。
【図8】非特許文献1に開示されている生体情報検出システム及び信号波形図である。
【符号の説明】
【0049】
100 エアマット
100a 上生地
100b 下生地
200 溶着部
300 クッション材
400 通気部
401 通気孔
700 サーミスタ
800 生体情報検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気孔が形成された自己復元力を有するエアマットにおいて、
前記通気孔を介して前記エアマットに流入又はこれより流出する空気の変動を温度変化として検出する第1の温度センサを備えることを特徴とするエアマット。
【請求項2】
前記第1の温度センサの検出信号は、前記エアマットに接して就寝する被験者の体温、呼吸、心拍、体動、いびきの少なくともいずれかを検出する生体情報検出装置に渡されることを特徴とする請求項1に記載のエアマット。
【請求項3】
前記第1の温度センサに近接配置され、第1の温度センサの周囲温度を検出する第2の温度センサを備えることを特徴とする請求項1に記載のエアマット。
【請求項4】
前記第1の温度センサの検出信号並びに前記第2の温度センサの検出信号は、前記エアマット上で就寝する被験者の呼吸、心拍、体動、いびきの少なくともいずれかを検出する生体情報検出装置に渡されることを特徴とする請求項3に記載のエアマット。
【請求項5】
前記第1及び第2の温度センサは、サーミスタであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエアマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−61141(P2007−61141A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247324(P2005−247324)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(591174911)
【Fターム(参考)】