説明

エアレイド不織布用ポリエステル系繊維およびその製造方法

【課題】本発明の課題は、エアレイド性、特にスクリーンからの紡出性に極めて優れ、地合いの良好かつ嵩高なエアレイド不織布を製造可能とする、エアレイド不織布用ポリエステル系繊維を提供することにある。
【解決手段】上記課題は80モル%以上がアルキレンテレフタレートの繰返しであるポリエステルからなり、繊度が10デシテックス以下または繊維長が8mm以上であり、捲縮数が8.5山/25mm以上、捲縮率/捲縮数が0.65以下、かつ捲縮弾性率が70%以上、180℃乾熱収縮率が−20〜2%であることを特徴とするエアレイド不織布用ポリエステル系繊維、並びに1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度で0.60〜1.2の倍率で定長熱処理することを特徴とするエアレイド不織布用ポリエステル系繊維の製造方法による発明により解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレイド不織布用繊維に関するもので、更に詳しくは、スクリーンからの紡出量が優れる、エアレイド不織布用ポリエステル系繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアレイド不織布は、従来広く用いられているカード法で製造される不織布に比べ、繊維の配向が進行方向と幅方向の差がなく均一であり、また、抄造法による不織布に比べ嵩高性を発現し易い特徴があり、近年特に生産量を伸ばしている分野である。一般に、エアレイド法不織布用繊維は、特許文献1に示される如く、嵩高性を付与するために平面ジグザグ状やスパイラル状の顕在捲縮を付与している。しかし、嵩高性をよくするために捲縮数または捲縮率を大きくすると、空気開繊工程で繊維の開繊性が低下し、未開繊束やウェブ斑の発生が多くなり、得られた不織布は外観品位が劣り、不織布強力の低い劣悪なものとなることが多い。殊に、ポリエステル系繊維は、特許文献1に示されるようなポリオレフィン系繊維に比べ、繊維摩擦が高いため、紡出量を高くすることが難しい。紡出量を上げるには、ポリジメチルシロキサン系のシリコーン系平滑剤を油剤成分中に25重量%以上に多く添加する必要があった。よって、シリコーン系平滑剤に由来して防炎性に劣る傾向があった。
【0003】
また、繊度が細くなるほど、繊維の表面積が多くなり、繊維束として凝集しやすくなるために開繊性が難しくなる。一般的な押し込み捲縮法のクリンパーを用いると、細繊度になるほど捲縮数が多いために、開繊性は一層悪化する方向であった。ポリエステル系繊維、殊にポリエチレンテレフタレート繊維は、ポリオレフィン等に比べ剛性が高いために、捲縮度が大きくなり、スクリーン通過性は悪い傾向にあった、一方、繊維長が長くなると、できた不織布の強度を上げることができるが、反面、スクリーンの通過性が悪くなり、生産能力が落ちてしまう欠点がある。特許文献2には捲縮周期に対する捲縮の高さの比(H/L)、いわゆる捲縮の傾斜を繊度毎に最適なように規定して、エアレイド性の良好な繊維が提案されている。しかしながら、実施例として例示されている捲縮数は繊度が小さい場合には捲縮数の設定が小さすぎるため、押し込み式クリンパーのスタフィング圧を低くしなければならず、反って捲縮がノークリンプに近い捲縮斑を発現しやすいものであった。また、繊度が大きい場合には捲縮数設定が大きすぎるため、スタフィング圧を大きくすると背圧が高くなるためクリンパーががたつき易くなる。クリンパー前でトウをスチーム等で加熱してやることで、繊維の剛性が低下し、がたつきは減少するが、捲縮度が上がり、かつH/Lが高くなりすぎるためにスクリーンの通過性が悪くなり、紡出量が低下するのみならず、毛玉状の繊維塊を生じやすくなるといった欠点があった。
よって、著しく紡出性が優れるエアレイド不織布用ポリエステル系繊維は、従来提案されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−81116号公報
【特許文献2】特開2005−42289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、エアレイド性、特にスクリーンからの紡出性に極めて優れ、地合いの良好かつ嵩高なエアレイド不織布を製造可能とする、エアレイド不織布用ポリエステル系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル系繊維の未延伸糸をガラス転移点(Tg)より高い温度で定長熱処理すること、あるいは延伸後、前述の温度範囲でオーバーフィードをさせることで、捲縮数が多いにもかかわらず、捲縮率が低く、スクリーン通過後にその嵩性能を回復するエアレイド不織布用複合繊維の発明に到達した。
【0007】
より具体的には、上記課題は80モル%以上がアルキレンテレフタレートの繰返しであるポリエステルからなり、繊度が10デシテックス以下または繊維長が8mm以上であり、捲縮数が8.5山/25mm以上、捲縮率/捲縮数が0.65以下、かつ捲縮弾性率が70%以上、180℃乾熱収縮率が−20〜2%であることを特徴とするエアレイド不織布用ポリエステル系繊維、並びに1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度下0.60〜1.2の倍率で定長熱処理することを特徴とするエアレイド不織布用ポリエステル系繊維の製造方法による発明により解決することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、細繊度または繊維長が長いエアレイド不織布用ポリエステル系繊維において、スクリーン通過性が良好、すなわち生産性の極めて高く、かつ風合いが柔軟で嵩高なエアレイド不織布用繊維を提供することを可能とした。また、従来の押し込み型クリンパーで安定して捲縮を付与でき、従って捲縮も均一で、地合いの良好な不織布が生産可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
先ず、実施形態が単一成分繊維の場合、繊維を構成する合成重合体としては、アルキレンテレフタレートを主たる繰返し成分とするポリエステルが好ましい。アルキレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステルとは、構成する繰返し単位の80モル%以上がアルキレンテレフタレートの繰返しで占められるポリエステルであり、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを意味する。好ましくは構成する繰返し単位の90モル%以上がアルキレンテレフタレートで占められていることである。またエチレンテレフタレートの繰返し単位で80モル%以上が占められていることが好ましい。また必要に応じて、他のジカルボン酸成分、オキシカルボン酸成分、他のジオール成分の1種または2種以上を共重合単位として有するものを含んでも良い。
【0010】
その場合、他の共重合成分として好適なジカルボン酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)などの金属スルホネート基含有芳香族ジカルボン酸誘導体、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン2酸などの脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を挙げることができる。また、オキシカルボン酸成分の例としては、p−オキシ安息香酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸またはそれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。
【0011】
共重合成分として好適なジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−ビス(β−オキシエトキシ)ベンゼン、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。
【0012】
この中から、使用される目的に応じて適切なアルキレンテレフタレートを選択し、本発明の要件を満たす単糸繊度、捲縮性能、繊維長を付与する。このようなアルキレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステルからなる、本発明のエアレイド不織布用繊維は以下の方法で製造することができる。
【0013】
ペレット化したポリエステルを常法で乾燥後、スクリュー押出機等を装備した公知のポリエステル繊維紡糸設備で溶融紡糸し、1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度で0.60〜1.2の倍率で定長熱処理する製造方法により得られる。紡糸速度は1500m/min以下であることが必要であり、好ましくは1300m/min以下、更に好ましくは1200m/min以下である。1500m/minを超えると未延伸糸の配向が上がり、本発明が目標とする高接着性を阻害する上、断糸が多くなり、生産性が悪くなる。また紡糸速度がこの範囲より遅くても当然のごとく生産性が悪くなる。ここでいう定長熱処理は、溶融紡糸により得た未延伸糸を0.60〜1.2倍のドラフトをかけた状態で行う。実質は、熱処理前後で繊維軸方向の変形がないように1.0倍で行うが、樹脂の性質上未延伸糸に熱伸長が生じる場合は延伸機のローラー間での糸条の弛みを防ぐために、1.0倍より大きいドラフトをかけてもよい。1.2倍を超えたドラフトを付与することは未延伸糸を延伸させることになるので好ましくない。また、樹脂の性質上強い熱収縮を生じる場合も繊維の配向を上げてしまう方向であるので、1.0倍より大きいドラフトをかける代わりに未延伸糸が延伸中に弛みを生じない程度の1.0倍未満のドラフト(オーバーフィード)としても差し支えない。ただし、ドラフトは0.60倍程度が下限であり、これを下回るとポリエステル系繊維の伸度を600%以下に抑えることが困難となる。定長熱処理の温度がポリエステルのガラス転移点より10℃以上高くないと熱接着時の収縮率が大きくなり好ましくない。定長熱処理はヒータープレート上、熱風吹付け、高温空気中、蒸気吹付け、シリコンオイルバス等の液体熱媒中で実施すればよいが、熱効率がよく、その後の繊維処理剤付与の際に洗浄の必要がない温水中で実施することが好ましい。
【0014】
またもう一つの方法としては、公知のポリエステル繊維の溶融紡糸装置を用いて、1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より低い温度で延伸した後、ポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度で0.50〜0.9の倍率でオーバーフィード熱処理する方法がある。延伸方法、オーバーフィードの加熱方法としては、前述の定長熱処理の方法と同様であるが、特に加熱効率の良い温水中で実施するのが好ましい。延伸倍率としては、1.1倍以上であれば特に制限を受けないが、未延伸糸の破断伸度の60〜80%程度で行うことが好ましい。このような延伸方法であっても、低モデュラスの複合繊維を得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法によって開繊性が良好である低い捲縮性能(すなわち、捲縮率/捲縮数が小さい)繊維を製造できるのは、ポリエステル繊維が実質延伸されていない状態で定長熱処理を受けるため、剛性率が実質低く、クリンパーボックスでの繊維の変形を受けやすいが固定もされにくく、またクリンパーボックスに入る前に予熱をされていないため、可塑化効果が少ないため、捲縮率が高くなりにくい。従って、毛玉状に絡みにくく、スクリーンより排出されやすくなり、ウェブ上での欠点ともなり難い。更には、上記のような紡糸延伸条件で製造されたポリエステル繊維は自己伸張性を呈することが多いため、エアレイド不織布は嵩高となり、繊維自体の低モデュラスと相まって風合いのよい、柔軟な不織布に仕上がる。
【0016】
本発明においては更に、JIS L1015:2005 8.12.1〜8.12.2に定める捲縮率(CD)と捲縮数(CN)の比、CD/CNが0.65以下となるように捲縮率を小さく、かつ捲縮弾性率(JIS L1015:2005 8.12.3に記載。残留捲縮率を捲縮率で除し、百分率表示したもの)が70%以上となるように、捲縮数、捲縮率を低く、かつ捲縮弾性率(CE)を高く設定したものである。捲縮数、捲縮率を低く設定することによりスクリーンを通過しやすくなり、また捲縮弾性率としては高くなるようにすると、スクリーン通過後に捲縮が回復することによって、結束状の繊維塊が繊維間の凝集を断ち切って開繊しやすくなり、更に紡出性が上がる。捲縮数(CN)の範囲は8.5山/25mm以上、好ましくは9〜20山/25mm程度、より好ましくは9.5〜13山/25mmが適切である。CNが20山/25mmを超えると繊維間の絡合が強すぎて毛玉を生じやすいことがあり、逆に8.5山/25mmを下回ると繊維長が長くなった場合にスクリーンを通過しにくくなり、結束上の繊維塊を生じやすく、開繊性、スクリーン通過性が悪くなる。捲縮率(CD)と捲縮数の比、CD/CNが0.65を超えると、捲縮の山が鋭くなり、繊維間の絡合が強まる方向であるため、やはりスクリーン通過性が悪くなる。捲縮弾性率が70%を下回ると、スクリーン通過後で結束状繊維が残りやすくなる。このようなCD/CN比の範囲、CEの範囲を達成する為には、例えば複合繊維に捲縮をかける際に温度をかけずに行うのが好ましい。更には冷風などで冷却しながら複合繊維に捲縮をかけるのがより好ましい。
【0017】
さらに本発明の対象となるのが、繊維形成性樹脂成分および熱接着性樹脂成分からなる複合繊維であり、繊度が10デシテックス以下または繊維長が8mm以上のエアレイド不織布用複合繊維である。これらの値より、繊度が小さくなる、または繊維長が長い繊維は、一般的にはエアレイド不織布製造装置に設けられたスクリーンを通過しにくい。その原因は、繊度が小さいと繊維間の凝集が強く開繊しにくいためであり、また繊維長が長いと繊維がスクリーンの孔を通過する大きさに丸まらないためである。この傾向からさらに捲縮性能が強いと繊維が交絡して毛玉状となり、スクリーンの孔が塞がり易くなる。また、偶発的にその毛玉がスクリーンを通過した場合には、ウェブに毛玉状の欠点や地合い斑を生じやすくなり、不織布の品質上問題が発生する。本発明はこの点に鑑みて、従来品質上の問題があった低繊度又は繊維長が長い場合であっても、地合いが良好で品質の良い不織布を得るための複合繊維であり、繊度が10デシテックス以下または繊維長が8mm以上であることが必要である。好ましくは繊度1〜9デシテックス又は繊維長9〜50mm、より好ましくは繊度5〜9デシテックス又は繊維長9.5〜30mmである。
【0018】
本発明のポリエステル系繊維の180℃乾熱収縮率は−20〜2%である特徴をもつ。熱接着時の収縮が少ないために繊維交点での接着点のズレが少なく、接着点が強固になる。更に収縮率が負、いわゆる自己伸長の状態になると熱接着前に不織布中の繊維密度が低下し、嵩高に仕上がることによって柔く風合いの良い不織布ができる。収縮率が−2%を超えると、接着強度が低下する方向で繊維密度が上がるために風合いが硬くなる方向である。一方、収縮率が−20%を下回り自己伸長になると、熱接着時に接着点がずれ、やはり不織布強度が低下する方向に移行する。
【0019】
前述の高い破断伸度と低い乾熱収縮率を両立するためには、上述のように延伸ドラフトとして0.60〜1.2倍の定長熱処理を行うことによって達成される。更にドラフトが1.0倍未満、いわゆるオーバーフィード率大きく、具体的には0.50〜0.90倍の倍率に設定し、熱処理の温度を高くすると、自己伸張率が大きくなる傾向になり好ましい。このような処理を行うと適度な自己伸張性を付与することにより、不織布であれば嵩高に仕上がり、繊維構造体であれば低密度に仕上がる特徴を付与できる利点がある。180℃乾熱収縮率の好ましい範囲は−11〜1.5%、更に好ましくは−8〜0%である。
【0020】
断面形状は、中実でも中空でもよく、3角形や星型などの異型断面や異型中空となってもよい。これらの中空繊維や異型繊維は公知の紡糸口金を用いて溶融紡糸することによって得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定を受けるものでは無い。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0022】
(1)固有粘度(IV)
ポリマーを一定量計量し、o−クロロフェノールに0.012g/mlの濃度に溶解してから、常法に従って35℃にて求めた。
【0023】
(2)融点(Tm)、ガラス転移点(Tg)
TAインスツルメント・ジャパン(株)社製のサーマル・アナリスト2200を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
【0024】
(3)繊度
JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
【0025】
(4)強度・伸度
JIS L 1015:2005 8.7.1法に記載の方法により測定した。本発明の繊維は定長熱処理の効率により、強伸度にバラツキを生じやすいので、単糸で測定する場合は測定点数を増やす必要がある。測定点数は50以上が好ましいため、ここでは測定点数を50とし、その平均値として定義する。
【0026】
(5)捲縮数(CN)、捲縮率(CD)、捲縮弾性率(CE)
JIS L 1015:2005 8.12.1〜8.12.3法に記載の方法により測定した。
【0027】
(6)180℃乾熱収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 b)において、180℃において実施した。
【0028】
(7)ウェブ品位
Dan−Webforming社のフォーミングドラムユニット(幅:600mm幅、フォーミングドラムのスクリーンの孔形状:2.4mm×20mmの長方形、開孔率:40%)を用いてドラム回転数200rpm、ニードルロール回転数900rpm、ウェブ搬送速度30m/分の条件で、梱包体を開梱して取り出した短繊維100%からなる目付30g/m2のエアレイドウェブを採取した。
エアレイドウェブの30cm四方における外観を観察し、以下の基準で評価する。
レベル1:直径5mm以上の繊維塊や目付斑(濃淡)が見られず、均一な地合いである。
レベル2:直径5mm以上の繊維塊は5個未満で、目付斑(濃淡)が目視で確認できる。
レベル3:直径5mm以上の繊維塊が5個以上見られ、目付斑(濃淡)が目立ち、不均一な地合いである。
【0029】
(8)最大紡出量
上記「ウェブ品位」の測定方法において、ドラムへの繊維供給量を2kg/hrずつ上げていき、5分間定常状態で運転したときにドラムから繊維が排出されない状態になったとき、詰りを生じる前の水準の繊維供給量を最大紡出量と定義する。
【0030】
[実施例1]
IV=0.64dl/g、Tg=70℃、Tm=256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、290℃で溶融したのち、公知の丸孔口金を用いて、吐出量0.15g/min/孔、紡糸速度1150m/minにて紡糸し、未延伸糸を得た。これを、PETのガラス転移点より20℃高い90℃の温水中で1.0倍の定長熱処理を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変成シリコーン=80/20からなる油剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、135℃で乾燥した後、繊維長10mmに切断した。切断前のトウで測定した単糸繊度は1.2dtex、強度1.5cN/dtex、伸度350%、CN=10.8山/25mm、CD=3.8%、CD/CN=0.35、CE=79%、180℃乾熱収縮率は−0.2%であった。このときのエアレイドウェブ品位はレベル1、最大紡出量は120kg/hrであった。
【0031】
[比較例1]
吐出量を0.40g/min/孔、紡糸速度1150m/min、70℃の温水中で2.9倍延伸した後、更に90℃の温水中で1.15倍延伸した他は実施例1と同様とした。単糸繊度は1.2dtex、強度4.8cN/dtex、伸度47%、CN=12.0山/25mm、CD=14.5%、CD/CN=1.20、CE=79% であった。180℃乾熱収縮率は+5.1%であった。これのときのエアレイドウェブ品位はレベル1だったが、最大紡出量は40kg/hrと低いものであった。
【0032】
[実施例2]
吐出量を0.10g/min/孔、紡糸速度1150m/min、90℃の温水中で0.7倍オーバーフィード定長熱処理した他は実施例1と同様とした。単糸繊度は1.3dtex、強度1.2cN/dtex、伸度370%、CN=9.7山/25mm、CD=3.3%、CD/CN=0.34、CE=85% であった。180℃乾熱収縮率は−10.1%であった。これのときのエアレイドウェブ品位はレベル1、最大紡出量は115kg/hrであった。
【0033】
[実施例3]
吐出量を0.25g/min/孔、紡糸速度1100m/min、63℃の温水中で3.0倍延伸した後、更に90℃の温水中で0.65倍オーバーフィード定長熱処理した他は実施例1と同様とした。単糸繊度は1.2dtex、強度3.0cN/dtex、伸度130%、CN=12.0山/25mm、CD=12.5%、CD/CN=1.04、CE=64% であった。180℃乾熱収縮率は−7.5%であった。これのときのエアレイドウェブ品位はレベル1、最大紡出量は130kg/hrであった。
【0034】
[実施例4]
IV=0.64dl/g、Tg=65℃、Tm=215℃のイソフタル酸15モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(PETI)を用い、280℃となるように溶融したのち、公知の丸孔口金を用いて、吐出量0.15g/min/孔、紡糸速度1150m/minにて紡糸し、未延伸糸を得た。これを、PETIのガラス転移点より25℃高い90℃の温水中で1.0倍の定長熱処理を行い、ラウリルホスフェートカリウム塩/ポリオキシエチレン変性シリコーン=80/20からなる油剤の水溶液に糸条を浸漬した後、押し込み型クリンパーを用いて11個/25mmの機械捲縮を付与し、110℃で乾燥した後、繊維長10.0mmに切断した。切断前のトウで測定した単糸繊度は1.25dtex、強度1.2cN/dtex、伸度390%、CN=11.0山/25mm、CD=3.2%、CD/CN=0.29、CE=84% であった。180℃乾熱収縮率は+1.1%であった。これのときのエアレイドウェブ品位はレベル1、最大紡出量は110kg/hrであった。
【0035】
[比較例2]
吐出量を0.40g/min/孔、紡糸速度1150m/min、70℃の温水中で2.9倍延伸した後、更に90℃の温水中で1.15倍延伸した他は実施例4と同様とした。単糸繊度は1.3dtex、強度4.2cN/dtex、伸度55%、CN=10.8山/25mm、CD=13.1%、CD/CN=1.21、CE=63% であった。180℃乾熱収縮率は+4.6%であった。これのときのエアレイドウェブ品位はレベル1だったが、最大紡出量は30kg/hrと低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、細繊度または繊維長が長いエアレイド不織布用ポリエステル系繊維において、スクリーン通過性が良好、すなわち生産性の極めて高く、かつ風合いが柔軟で嵩高なエアレイド不織布用繊維を提供することを可能とした。また、従来の押し込み型クリンパーで安定して捲縮を付与でき、従って捲縮も均一で、地合いの良好な不織布が生産可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80モル%以上がアルキレンテレフタレートの繰返しであるポリエステルからなり、繊度が10デシテックス以下または繊維長が8mm以上であり、捲縮数が8.5山/25mm以上、捲縮率/捲縮数が0.65以下、かつ捲縮弾性率が70%以上、180℃乾熱収縮率が−20〜2%であることを特徴とするエアレイド不織布用ポリエステル系繊維。
【請求項2】
1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度下0.60〜1.2の倍率で定長熱処理することを特徴とする、請求項1記載のエアレイド不織布用ポリエステル系繊維の製造方法。
【請求項3】
1500m/min以下の紡糸速度で引き取った未延伸糸をポリエステルのガラス転移点より低い温度で延伸した後、ポリエステルのガラス転移点より10℃以上高い温度下で0.50〜0.9の倍率でオーバーフィード熱処理することを特徴とする、請求項1記載のエアレイド不織布用ポリエステル系繊維の製造方法。

【公開番号】特開2007−204900(P2007−204900A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28313(P2006−28313)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】