説明

エアーバッグ装置を備える車輌用シート

【課題】 エアーバッグの膨張圧をトリムカバーの破断部に集中作用でき、インフレータの出力を低く設定しても、トリムカバーの破断部をエアーバッグの膨張圧で確実にしかも速やかに切開でき、エアーバッグの展開方向性を安定よく一定に定める。
【解決手段】 伸びの少ない材質の力布7,8を前面カバー部2a,側面カバー部2bの各内側に備え、その各力布7,8の片端末を前面カバー部2aと側面カバー部2bの端末と共に縫い合わせてトリムカバー2の破断部3となる縫い合わせ目2cを形成し、且つ、他端末を前面カバー部2a,側面カバー部2bの各端末と共に止着固定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エアーバッグ装置のインフレータをシートバックフレームの片側部に取り付け、そのインフレートの出力で膨張展開可能なエアーバッグをバックパッドの開口部に臨ませて備え、このエアーバッグ装置の装備側を被包する前面カバー部と側面カバー部の端末を縫合した縫い合わせ目からエアーバッグの膨張展開に伴うトリムカバーの破断部を形成するエアーバッグを備える車輌用シートの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、エアーバッグ装置を備える車輌用シートにおいては、トリムカバーの一般部を通常用いられる強度の縫い糸から縫い合わせると共に、エアーバッグ装置の装備側を被包する前面カバー部と側面カバー部との端末間を相対的に強度の弱い縫い糸から縫い合わせ、その強度の弱い縫い糸による縫い合わせ目からインフレータの出力により膨張するエアーバッグで切開する破断部を形成するものが提案されている(特開平8−216820号)。
【0003】然し、そのトリムカバーの破断部はエアーバッグの膨張圧で容易に切れる糸であっても、通常の使い勝手に耐えられるある程度強度の強い縫い糸で縫合しなければならない。また、エアーバッグの膨張展開に伴っては少なくともトリムカバーが引っ張られることによって材質的に伸びるため、エアーバッグの膨張による応力をトリムカバーの破断部に効果的に集中させることができないから当該破断部を速やかに切開することができない。特に、エアーバッグをふんわり,柔らかく膨張展開できるようインフレータの出力を低く設定すると、破断部を切開させるのが難しい。
【0004】そのエアーバッグの膨張圧をトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目に集中させるべく、伸びの少ない材質の力布を備えるものが提案されている。この力布は片端末をトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目で共縫いすることによりエアーバッグ装置の装備側を被包する側面カバー部の内側に備えるもの(特開平9−71205号)と、片端末を表面カバー部の端末に該破断部となる縫い合わせ目で共縫いし、他端末をエアーバッグの側部より内方に延在させてシートバックフレームまたはエアーバッグカバーに連結固定するもの(特開平9−39711号,特開平9−76868号)とがある。
【0005】然し、そのいずれもは力布を側面カバー部または表面カバー部のいずれか片側の端末に共縫いさせて備え付けるのに過ぎず、力布が備え付けられていない側のカバー部が伸びるのを抑えることができない。このため、エアーバッグの膨張による応力をトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目に効果的に集中させることができず、また、力布が備えられていない側のカバー部が伸びることによってエアーバッグの膨張バランスが片寄ることから、エアーバッグの展開方向性を安定よく定めることができない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、エアーバッグの膨張圧をトリムカバーの破断部に効果的に集中作用でき、インフレータの出力を低く設定しても、トリムカバーの破断部をエアーバッグの膨張圧で確実にしかも速やかに切開でき、エアーバックの展開方向性を安定よく定められるエアーバッグ装置を備える車輌用シートを提供することを目的とする。
【0007】また、本発明は力布を備えても、トリムカバーと共に容易に組付可能なエアーバッグ装置を備える車輌用シートを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係るエアーバッグ装置を備える車輌用シートにおいては、伸びの少ない材質の力布を前面カバー部,側面カバー部の各内側に備え、その各力布の片端末を前面カバー部と側面カバー部の端末と共に縫い合わせてトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目を形成し、且つ、他端末を前面カバー部,側面カバー部の各端末と共に止着固定することにより構成されている。
【0009】本発明の請求項2に係るエアーバッグ装置を備える車輌用シートにおいては、力布を前面カバー部,側面カバー部の内側に縫合しまたはラミネートさせて一体に備え付けることにより構成されている。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して説明すると、図1はエアーバッグ装置1を車の前方側から見てシートバックBの右側部縦方向に収容装備するアシスタントシートSを示す。このアシスタントシートSでは、シートバックBのトリムカバー2においてエアーバッグの膨張展開に伴う破断部3がエアーバッグ装置1の装備側を被包する前面カバー部2aと側面カバー部2bとの端末間の縫い合わせ目2cにより形成されている。
【0011】エアーバッグ装置1は、特に図示しないエアーバッグ,インフレターを含むエアーバックモジュール,車体側に装備される衝撃センサーを備えて構成されている。このエアーバッグ装置1としてはエアーバッグ,インフレータをエアーバックケースの内部に収容し、図2で示すようにエアーバックケース1aをシートバックフレーム4のサイドプレート4aに取付け固定すると共に、エアーバックの膨張圧を受けてヒンジで開放されるケース蓋1bを備えたエアーバックユニットを装備することができる。また、エアーバックはケース蓋1bの開放と共に、バックパッド5の開口部5aより外方に膨張展開可能に収容されている。
【0012】トリムカバー2は、本革,合皮,ファブリック等の単材または表皮材,ワディング材,裏打材を三者一体に積層形成したワディングカバーを用いて形成することができる。このトリムカバー2は、座面中央から左右の土手面を被包する前面カバー部2aと両側面から背面に亘る側面カバー部2bとを縫い合わせることにより背部の開放された袋状に縫製され、背部にはバックカバー6が組付け装備されている。これに代えて、トリムカバー2としては背面カバー部を縫い合わせることにより立体形の袋状に縫製したバックカバーレスタイプものを組み付けることができる。
【0013】そのトリムカバー2は通常の使い勝手に耐えられる番手数8番程度の糸を上下の縫い糸とし、全体をミシン掛けすることにより所定の袋状に縫製することができる。また、一般部は番手数8番程度の糸を上下の縫い糸として縫製し、トリムカバー2の破断部3となる縫い合わせ目2cは番手数8番程度の糸と番手数20番程度の糸とを上下の縫い糸として縫い付ければ切開し易く縫製することもできる。この縫い合わせ目2cによる破断部3は、エアーバックの膨張による応力で縫い糸を切り或いは縫い代をほつれ出させることにより切開するよう形成することができる。
【0014】そのトリムカバー2には、力布7,8が破断部3を形成する縫い合わせ目2cから前面カバー部2a,側面カバー部2bの内側に備え付けられている。この力布7,8は、ポリエステル不織布や綿布等のエアーバッグ1aの膨張圧を受けても伸びの少ない材質のものにより形成されている。その力布7,8としては、前面カバー部2aの土手被包部分,側面カバー部2bと同一面積に裁断したもの或いはエアーバックケース1aを覆う幅或いは更に狭い幅の帯状のものを備え付けることができる。
【0015】その力布7,8は、前面カバー部2aの土手被包部分,側面カバー部2bの内側にラミネートまたは縫い付けることにより一体に備え付けるとよい。この力布7,8は、トリムカバー2を袋状に縫製するのに、片端末を前面カバー部2aと側面カバー部2bとの各端末と共縫いすることによりトリムカバー2の破断部3となる縫い合わせ目2cを形成する。また、他端末は前面カバー部2aにあっては土手被包部分と座面被包部分との吊込み部2dにおいてバックパッド5の吊込み穴5bより吊込みワイヤ9でクッションバネ10に引張止着し、側面カバー部2bにあってはシートバックフレーム4のリテーナ4bにワイヤー止着することによりエアーバックの膨張圧に耐えられるよう強固に連結固定できる。
【0016】このエアーバック装置では、車体側に装備された衝撃センサーが作動し、その衝撃センサーから出力信号がインフレータに送信されると、エアーバッグがインフレータの出力を受けて膨張展開する。これに伴って、力布7,8はエアーバッグの膨張圧で内側より押圧引張されるが、その力布7,8は伸びの少ない材質のもので形成されているから、エアーバッグの膨張による応力を破断部3となる縫い合わせ目2cに効果的に集中させることができる。
【0017】このため、当該縫い合わせ目2cは力布7,8で強く引っ張られるから、インフレータの出力を低く設定しても、エアーバッグの膨張圧を受けて確実にしかも速やかに切開することができる。また、力布7,8が伸びないことにより、エアーバッグが所定の膨張バランスを保って定められた向きに安定よく膨張展開することができる。なお、バックパッド5の土手部は力布7の引っ張りにも耐えられる保形性を有するが、そのバックパッド5の土手部は圧縮変形を抑えるよう高硬度なものに形成してもよい。
【0018】
【発明の効果】以上の如く、本発明の請求項1に係るエアーバッグ装置を備える車輌用シートに依れば、エアーバッグの膨張圧によるトリムカバーの全面カバー部,側面カバー部の伸びを力布で抑え、エアーバッグの膨張圧を力布でトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目に集中作用できるから、該破断部を力布で強く引っ張れることにより確実にしかも速やかに切開することができる。また、エアーバックは所定の膨張バランスを保ってトリムカバーの破断部から定められた向きに安定よく膨張展開することができる。
【0019】本発明の請求項2に係るエアーバッグ装置を備える車輌用シートに依れば、力布を前面カバー部,側面カバー部の内側に縫合しまたはラミネートさせて一体に備え付けることにより、力布を容易に組付けできてトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目を確実に切開可能に縫製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るエアーバッグ装置を備える車輌用シートを全体的に示す斜視図である。
【図2】同車輌用シートのシートバックを部分的に示す拡大断面図である。
【符号の説明】
1 エアーバッグ装置
2 トリムカバー
2a 前面カバー部
2b 側面カバー部
2c 破断部となる縫い合わせ目
3 トリムカバーの破断部
4 シートバックフレーム
5 バックパッド
5a バックパッドの開口部
7,8 力布

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エアーバッグ装置のインフレータをシートバックフレームの片側部に取り付け、そのインフレートの出力で膨張展開可能なエアーバッグをバックパッドの開口部に臨ませて備え、このエアーバッグ装置の装備側を被包する前面カバー部と側面カバー部の端末を縫合した縫い合わせ目からエアーバッグの膨張展開に伴うトリムカバーの破断部を形成するエアーバッグを備える車輌用シートにおいて、伸びの少ない材質の力布を前面カバー部,側面カバー部の各内側に備え、その各力布の片端末を前面カバー部と側面カバー部の端末と共に縫い合わせてトリムカバーの破断部となる縫い合わせ目を形成し、且つ、他端末を前面カバー部,側面カバー部の各端末と共に止着固定したことを特徴とするエアーバッグ装置を備える車輌用シート。
【請求項2】 上記力布を前面カバー部,側面カバー部の内側に縫合しまたはラミネートさせて一体に備え付けたことを特徴とする請求項1に記載のエアーバッグ装置を備える車輌用シート。

【図1】
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【図2】
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