説明

エキシマ放電ランプ

【課題】高管壁負荷条件下においてランプを点灯して高光量を保つことができると共に、長時間作動が可能な希ガスハロゲンエキシマ放電ランプを提供すること。
【解決手段】サファイア、YAG、または単結晶イットリアの少なくとも1つからなる放電容器2の外表面に少なくとも1つの外部電極10、11を設け、放電容器2内にアルゴン(Ar)とフッ素(F)原子を含むガスを封入したエキシマ放電ランプであって、放電容器2の内表面から100μmまでの深さ領域に含まれる金属不純物濃度が600wtppm以下であることを特徴とするエキシマ放電ランプである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線による樹脂の硬化、半導体基板やガラス基板等の表面洗浄、殺菌、光化学反応等を行うための紫外線放射に使用される放電ランプに係わり、特に、誘電体バリア放電を利用して、希ガスとフッ素のエキシマ発光を得るエキシマ放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
希ガスとハロゲンを封入したエキシマ放電ランプは、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等の他のランプとは全く異なる放射特性を有し、特に、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等のランプでは得られない波長の紫外線を高効率で発生させることができる。
【0003】
エキシマ放電ランプは、封入する希ガスとハロゲンとの組み合わせにより、放射する紫外線の波長を選択することができる。例えば、アルゴン(Ar)とフッ素(F)との組み合わせでは193nm、クリプトン(Kr)とフッ素(F)との組み合わせでは248nm、キセノン(Xe)とフッ素(F)との組み合わせでは351nm近傍の紫外線を得ることができる。特に、半導体のフォトリソグラフィに用いられる、193nmの波長の紫外線が得られるArFエキシマ放電ランプや、248nmの波長の紫外線が得られるKrFエキシマ放電ランプでは、フォトレジストの特性試験、フォトマスクの検査等ヘの利用が可能である。
【0004】
特許文献1には、石英ガラスからなる放電容器の内面を金属酸化物の不活性化層で被覆し、放電容器内に希ガスとハロゲンを封入したエキシマ放電ランプが開示されている。ハロゲンとしてフッ素や塩素を石英ガラス製放電容器に封入して使用すると、ハロゲン原子およびイオンが直に石英ガラスと反応し、ハロゲン化珪素および酸素を生成し、エキシマ放電が行われなくなるため、石英ガラス内面を被覆する必要性について記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、希ガスとハロゲンをサファイア製の放電容器に封入したエキシマ放電ランプが開示されている。
【特許文献1】特開2003−59457号公報
【特許文献2】特許第3178162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の記載によれば、石英ガラス製放電容器の内壁を、金属アルミニウム(Al)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、またはスカンジウム(Sc)の少なくとも1つから形成された無定形構造を有する酸化物で被覆することにより、少なくとも被覆していないランプと比べて100倍の有効寿命が得られることが記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1の実施例には、希ガスとしてのキセノン(Xe)とハロゲンとしてのフッ素(F)を組み合わせたエキシマ放電ランプが記載されているが、直径20mm、長さ20cmの放電容器内に充填されるガスは、キセノン(Xe)と六フッ化イオウ(SF)とを合わせて31mbar(3100Pa)と低圧であって、入力電力も20Wと小さいものである。
【0008】
上記ような作動条件下では、放電容器は200℃以上の高温とはなりえず、放電容器の内壁を覆う酸化物被膜は安定しているが、希ガスおよびハロゲンを利用したエキシマ放電ランプを工業的に利用するためには、より強い光量が必要であり、そのためには、エキシマ放電ランプの直径が20mm、長さが20cmで、入力電力が40W以上、ガス圧が13000Pa以上ないと十分な光量が得られない。
【0009】
仮に、特許文献1に記載のランプにおいて、封入圧を上げると放電容器の温度が上がり、フッ素と放電容器内面の被膜とが反応し、または被膜の不完全な部分を通してフッ素が石英ガラスと反応するため、発光効率が低下し、またはランプ電力を上げるために、入力電圧を上げようとすると、電子温度が上昇することにより内部電極と発光管内壁との間でスパッタリング現象が生じ、被膜が剥離する現象が起こる可能性がある。被膜が剥離すると、フッ素や塩素等のハロゲンが石英ガラスと反応して消耗し、ランプの発光強度が急速に低下することが予想される。
【0010】
一方、特許文献2には、希ガスとハロゲンをサファイア製の放電容器に封入したエキシマ放電ランプの一実施例が開示されている。
【0011】
本件発明者等は、特許文献2の図3に示されるランプ構成のエキシマ放電ランプを試作し、封入ガスとして、特許文献1に記載のアルゴン(Ar)とフッ化物(SF)を使用した。即ち、放電容器として円筒状のサファイア管を使用し、一対の外部電極を管壁に沿って管軸方向に配設したArFエキシマ放電ランプを試作した。しかし、工業用として必要な2W/cmという高管壁負荷条件(電極面積に対する入力電力の割合)で点灯したところ、点灯後わずか10時間でアルゴン−フッ素の発光波長193nmの放射は消滅してしまった。このことは、特許文献1にアルミナの結晶質からなる放電容器ではフッ素に対するバリア作用は検出できなかったことが言及されており、そのことに符合する結果となった。
【0012】
本発明の目的は、高管壁負荷条件下においてランプを点灯して高光量を保つことができると共に、長時間作動が可能な希ガスハロゲンエキシマ放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、サファイア、YAG、または単結晶イットリアの少なくとも1つからなる放電容器の外表面に少なくとも1つの外部電極を設け、前記放電容器内にアルゴン(Ar)とフッ素(F)原子を含むガスを封入したエキシマ放電ランプであって、前記放電容器の内表面から100μmまでの深さ領域に含まれる金属不純物濃度が600wtppm以下であることを特徴とするエキシマ放電ランプである。
第2の手段は、第1の手段において、前記放電容器は、管状に構成され、該放電容器内には、アルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)とヘリウム(He)またはネオン(Ne)とが封入され、前記放電容器の外表面には少なくとも1つの外部電極を管軸方向に沿って設け、前記放電容器は、全周に亘り外部電極が設けられていない外表面部分を前記放電容器の両端側に有していることを特徴とするエキシマ放電ランプである。
第3の手段は、第1の手段において、前記放電容器は、略直方体状に構成され、該放電容器内には、アルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)とヘリウム(He)またはネオン(Ne)とが封入され、前記放電容器の外表面には少なくとも1つの外部電極を長尺方向に沿って設け、前記放電容器は、全周に亘り外部電極が設けられていない外表面部分を前記放電容器の端側に有していることを特徴とするエキシマ放電ランプである。
第4の手段は、第2の手段または第3の手段において、前記ネオン(Ne)の全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下であることを特徴とするエキシマ放電ランプである。
第5の手段は、第2の手段または第3の手段において、前記ヘリウム(He)の全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下であることを特徴とするエキシマ放電ランプである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放電容器に、良好な熱伝導性のあるサファイア、YAG、イットリアといった耐プラズマ性の高い、また透光性のある高融点材料の単結晶材料を使用することに加えて、放電容器の内表面領域の金属不純物濃度を低くしたため、ハロゲンは金属不純物と接触する機会が少なくなり、従って、放電容器内壁面でのハロゲンの反応を抑えることができ、エキシマ発光の紫外線の発光強度の減衰を防止することができる。
また、管状または略直方体状の放電容器を備え、放電容器の外表面に少なくとも1つの外部電極を管軸方向または長尺方向に沿って設け、放電容器内にアルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)を封入し、放電容器は、全周に亘り電極を設けない外表面部分をその容器端部側に有した構造にした場合に、ヘリウム(He)またはネオン(Ne)が封入されていると、アルゴン(Ar)に比べて高熱伝導率を有するため、放電容器内の放電部から発する熱が速やかに放電部以外の領域に伝播され、放電容器内のガス温度を低く保てるため、ランプの発光効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態を図1ないし図5を用いて説明する。
図1(a)は、本実施形態の発明に係るエキシマ放電ランプの管軸を通る切断面から見た断面図、図1(b)は図1(a)に示すエキシマ放電ランプの管軸に垂直な切断面A−Aから見た断面図である。
これらの図に示すように、このエキシマ放電ランプ1の放電容器2は、直管状であり、150〜400nmの紫外線に対して光透光性を有すると共に、フッ素イオンの吸収の少ないサファイア、YAG、単結晶イットリアのいずれかの単結晶からなる材料により構成される。また、放電容器2内には、発光ガスとして、アルゴン(Ar)と化学的安定性の高い六フッ化イオウ(SF)を封入し、またバッファーガスとしてヘリウム(He)またはネオン(Ne)を全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下封入する。エキシマ放電ランプ1の点灯時には、発光ガスがアルゴンイオンおよびフッ素イオンを形成するものである。なお、放電容器としては、サファイアがYAGやイットリアと比べて透光性に優れており、EFG法(Edge-defined Film-fed Growth Method)を使った板材、管材の生産方法も確立されているので工業的に生産しやすく好ましい。
【0016】
通常、放電容器2は、材料であるサファイア、YAG、単結晶イットリアの単結晶のいずれもが金属坦塙を使用した製造工程を経て製造されるため、金属不純物としてのモリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クローム(Cr)等の遷移金属が含有される。放電容器2の材料として、サファイアを使用する場合について例示すると、放電容器2の内表面に単結晶成長時の原子配列時に起こる排他現象により偏析したモリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クローム(Cr)等の金属不純物が存在する。これらの金属不純物が存在すると、放電時にSFがFとSに分かれ、Fと金属不純物が反応して金属ハライドを生じ、エキシマ放電ランプから放射される193nmの光束が減少し、短寿命の原因となっている。この金属不純物は、放電容器2の内表面から略100数十μmの深さまで偏析していることが化学分析の結果判明している。なお、放電容器2の内表面から100μmという深さには、サファイア結晶成長時に偏析により金属不純物が主に存在する深さであり、かつ点灯時バルブ温度上昇等により、バルブ内表面に拡散しうる距離の意味がある。
【0017】
そこで、本発明においては、放電容器2の内表面を燐酸や硫酸で化学エッチング処理して、放電容器2の内表面から100μmまでの範囲におけるモリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クローム(Cr)等の金属不純物総和濃度が600ppm以下の状態にする。なお、化学エッチング以外に、機械的研磨によっても、表面の金属不純物濃度を50ppm以下の状態にすることが可能である。また、ランプの製造工程においては、一般に放電容器について容器内壁に吸着している水分を除去するために、例えば、真空炉や乾燥空気炉内で乾燥処理を行うが、本発明のランプにおいても、例えば、500℃以上という十分に高い温度で熱処理を行うことによって、放電容器2内壁の水分量を極力少なくすることが望ましい。
【0018】
図1(a)に示すように、放電容器2の管軸方向における両端は開放されており、その両端にはカップ状の金属製キャップとしての蓋部材3、4が設けられる。蓋部材3、4の材料は、例えば、ニッケル(Ni)である。蓋部材3、4は放熱性を考慮すると金属材料が最適であるが、放熱性を問題にしなければアルミナ等のセラミックスであってもよい。放電容器2と蓋部材3、4との間には、封止材5、6が充填されることにより、放電容器2と蓋部材3、4とが接合されて密閉される。封止材5、6の材料としては、例えば、銀と銅の合金(Ag−Cu合金)からなるロウ材が用いられる。第2の蓋部材4にはガス配管7が設けられており、放電容器2の内部空間8がガス配管7により排気されて減圧された後、発光ガスとしてのアルゴン(Ar)と化学安定性の高い六フッ化イオウ(SF)、およびバッフアーガスとしてのヘリウム(He)またはネオン(Ne)が封入される。これらのガスの封入後、ガス配管7は圧接等で封止部9が形成されることにより、密閉構造となる。
【0019】
放電容器2の外面には一対の外部電極10、11が互いに電気的に離れるように配置されると共に、放電容器2の管軸方向に沿って延びるように設けられている。さらに外部電極10,11は封止材5、6および蓋部材3、4とも離れて設けられる。外部電極10、11は、例えば、銅(Cu)をペースト状にしたものを放電容器2の外面に塗布して形成したり、また、板状の、例えば、アルミニウムを接着剤等によって放電容器2の外表面に接着して形成する。外部電極10、11の長手方向の一端にはリード12、13が、例えば、半田14、15等によって電気的に接続される。外部電極10、11間の沿面最短距離は外部電極10、11間の放電空間を介した最短距離よりも長く構成される。これは放電空間でのみ放電が起こる構造とするためである。
【0020】
エキシマ放電ランプ1の点灯時、一対の外部電極10、11の間に電圧が印加されると、放電容器2を介して外部電極10、11間で放電が発生する。発光ガスがアルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)の場合、これらが電離されて、アルゴンイオンとフッ素イオンが形成され、アルゴン−フッ素からなるエキシマ分子が形成され、193nmの波長の光が放電容器2から放射される。
【0021】
放電容器2の管軸方向において、外部電極10、11が、封止材5、6と蓋部材3、4から離れた位置に設けられることにより、放電容器2の内部空間8において、管軸方向のL1の範囲にある外部電極10、11の端部から封止材5,6までの範囲L2では放電は発生しない。即ち、放電容器2は、全周に亘り外部電極10、11が設けられていない外表面部分を放電容器2の両端側に有しているため、L2の範囲に対応する内部空間は、L1の範囲に対応する内部空間と比べて温度の低い、冷却領域となる。そのため、放電容器2の内部空間8に発光ガスとして六フッ化イオウ(SF)のような化学的安定性の高いガスを封入すると、放電の発生していない放電容器2の管軸方向におけるL2の領域では、放電によって電離したフッ素イオンが電離前の六フッ化イオウに戻る反応が生じる。これにより、放電容器2の内部空間8において、管軸方向のL1の範囲にある外部電極10、11の端部から封止材5、6までの間ではフッ素イオンと接することが抑制され、封止材5,6や蓋部材3,4を構成する材料とフッ素イオンとの反応を抑制することができる。
【0022】
以下に、沿面放電を避けるための絶縁のための距離と冷却のための距離との関係について説明する。蓋部材3、4である金属製キャップにおいて、ハロゲンと金属キャップとの反応が起こらないようにするためには、放電が金属キャップに触れないようにすることが不可欠である。その条件は、外部電極10、11間の放電ガス中の距離(放電ギャップ)よりも外部電極10、11と金属キャップである蓋部材3、4との距離を長くすることである。放電容器2内に、六フッ化イオウ(SF)を封入した場合、六フッ化イオウ(SF)の持つ絶縁性のために、安定に放電を保持するための電圧が高くなる。高い電圧で駆動する場合、放電ガスでの放電ではなく、外部電極10、11間で沿面放電を生じる危険性がある。したがって、沿面放電を起こさずに放電ガス中で安定に放電を保持するための条件は、六フッ化イオウ(SF)濃度、放電ガス圧に弱く依存するが、実用的なエキシマ光発光効率が得られる全圧100Torr(13330Pa )以上においては、放電ギャップ(外部電極間10、11の放電空間を介した最短距離)よりも沿面最短距離を長くすることで達成される。
一方、放電容器2の冷却のためには、放熱部としての金属キャップである蓋部材3、4と外部電極10、11の距離が近いほど有利となる。
したがって、ハロゲンと金属キャップの反応によるハロゲン量の低下がなく、かつ沿面放電を起こすことなく安定に放電を維持するために必要な要件は、放電ギャップ≦沿面最短距離、かつ放電ギャップ<外部電極と金属キャップ間の距離とすることである。
【0023】
図2は、バッファガスとしてのネオン(Ne)の全封入ガスに占めるモル濃度と発光効率との関係を示すグラフである。
このグラフは、発光に寄与する希ガスとしてアルゴン(Ar)を、フッ素を含むガスとしてSFを、バッファガスとしてNeを用い、全圧100,200,400Torrにて、アルゴン(Ar)とネオン(Ne)との総和に占めるネオン(Ne)のモル濃度を変化させたときの、エキシマ発光(193nm)効率(相対値)を示すものである。
同図に示すように、照度が十分安定するのは、ネオン(Ne)比率が90%以上の領域であるが、ネオン(Ne)比率が極めて高い(99.5%以上)領域では発光効率の低下が顕著となる。
【0024】
図3は、バッファガスとしてのヘリウム(He)の全封入ガスに占めるモル濃度と発光効率との関係を示すグラフである。
このグラフは、発光に寄与する希ガスとしてアルゴン(Ar)を、フッ素を含むガスとしてSFを、バッファガスとしてNeを用い、全圧100,200,400Torrにて、アルゴン(Ar)とヘリウム(He)との総和に占めるヘリウム(He)のモル濃度を変化させたときの、エキシマ発光(193nm)効率(相対値)を示すものである。
同図に示すように、照度が十分安定するのは、ヘリウム(He)比率が90%以上の領域であるが、ヘリウム(He)比率が極めて高い(99.5%以上)領域では発光効率の低下が顕著となる。
【0025】
以下に、後述する比較実験を行うための本発明に係るエキシマ放電ランプの実施例を示す。
(1)放電容器の仕様、材料:単結晶サファイア、形状:円筒形、肉厚:1mm、長さ:200mm、直径:10mm、放電容器内表面から100μmの深さにおける平均金属不純物濃度:200wtppm以下
(2)電極の仕様、材料:銀(ペーストを印刷)、形状:円筒形の放電容器の軸について対称に対向、長さ:140mm、幅:2mm、放電空間を介した電極間離間距離:10mm
(3)蓋部材の仕様、材料:ニッケル、蓋部材と外部電極間の距離:30mm
(4)封止材の仕様、材料:Ag−Cu合金(銀ロウ)
(5)封入ガスの仕様、Ar:1.58×10Pa、SF:1.6×10Pa、Ne:7.84×10Pa、全圧8.0×10Pa
(6)点灯条件、3kV(0−peak)、70kHzのパルス電圧印加
(7)放電容器内表面から100μmまでの金属不純物濃度が600wtppm 以下である。そのための実現手段としては、サファイア管であれば弗酸で化学エッチングしたり、イオンビームによるドライエッチングあるいは機械切削がある。
(8)不純物濃度の測定は、サファイア管の中に燐酸62%、硫酸38%の混合液を入れ、サファイア管の両端をテフロン(登録商標)テープで封止し、マイクロウエーブオーブンにかけた状態で5時間程度放置する。その後、液を回収し、ICP(誘導結合型プラズマ発光分析)にて検量線法で定量分析する。
なお、以上の説明では、サファイア管について述べたが、YAGや単結晶イットリアでも結晶成長時の金属不純物が偏析するという点ではサファイアと共通した問題があり、YAGや単結晶イットリアを放電容器として使用した場合にも、内表面の金属不純物の除去は必要となる。
【0026】
比較実験1
図1に示した形状を有する放電容器の内面を化学エッチングして、放電容器内表面から100μmまでの深さ領域に含まれる金属不純物濃度を600 wtppm以下にしたサファイア管からなるArFエキシマ放電ランプと、結晶成長後、図1に示した形状を有する放電容器の内表面を化学エッチングをしていないサファイア管からなるArFエキシマ放電ランプとを各々3本づつ製作し、バルブ負荷を変えて、193nmの発光強度の時間的推移を調べた。
図4は、比較実験1の結果を示す表である。同図に示すように、放電容器の内表面に化学エッチングを施したエキシマランプ1、2、3は、化学エッチングを施されていないエキシマランプ4、5、6と比べて、光出力寿命が大幅に改善されていることが分かる。
【0027】
比較実験2
図1に示した形状を有する放電容器の内表面を燐酸62%、硫酸38%の混合液を入れマイクロウエーブオーブンにかけて、各々5時間、4時間、3時間、2時間洗浄処理したArFエキシマ放電ランプ7,8、9、10と、図1に示した形状を有する放電容器の内表面を洗浄処理しないArFエキシマ放電ランプ11,12を用意した。用意されたArFエキシマ放電ランプ7〜12について、ArFエキシマ放電ランプから放射される193nmの光束維持特性を調べた。ここで光束維持率とは、点灯初期を100%とした場合400時間経過時(ランプへの要求される点灯時間)における光束維持の割合である。
図5は、比較実験2の結果を示す表である。同図に示すように、ArFエキシマ放電ランプ7のように、400時間経過時、光束が上昇するものもあるが、400時間経過時点で70%以下は寿命(取替え時期)といえるから、放電容器内表面から100μmまでの深さ領域に含まれる金属不純物濃度を600 wtppmが金属不純物濃度の上限といえる。表面金属不純物濃度が高いほど光束の減衰が大きいのは、フッ素が減少するためのであると考えられる。
【0028】
次に、本発明の第2の実施形態を図6を用いて説明する。
図6(a)は、本実施形態の発明に係るエキシマ放電ランプの長尺方向に平行な切断面から見た断面図、図6(b)は、図6(a)のエキシマ放電ランプを切断面A−Aから見た断面図である。
これらの図に示すように、このエキシマ放電ランプ21の放電容器22は、略直方体状であり、150〜400nmの紫外線に対して光透光性を有すると共に、フッ素イオンの吸収の少ないサファイア、YAG、単結晶イットリアのいずれかの単結晶からなる材料により構成される。また、放電容器22内には、発光ガスとして、アルゴン(Ar)と化学的安定性の高い六フッ化イオウ(SF)を封入し、またバッファーガスとしてヘリウム(He)またはネオン(Ne)を全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下封入する。エキシマ放電ランプ1の点灯時には、発光ガスがアルゴンイオンおよびフッ素イオンを形成する。
【0029】
放電容器22の内表面を燐酸や硫酸で化学エッチング処理して、放電容器22の内表面から100μmまでの範囲におけるモリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クローム(Cr)等の金属不純物総和濃度が600ppm以下の状態にする。なお、化学エッチング以外に、機械的研磨によっても、表面の金属不純物濃度を50ppm以下の状態にすることが可能である。
【0030】
図6(a)に示すように、放電容器22の長手方向における一端は開放されており、そこにはカップ状の金属製キャップとしての蓋部材23が設けられる。蓋部材23の材料は、例えば、コバールである。蓋部材23は放熱性を考慮すると金属材料が最適であるが、放熱性を問題にしなければアルミナ等のセラミックスであってもよい。放電容器22と蓋部材23との間には、例えば、Ag−Cu合金からなる封止材24が充填されることにより、放電容器22と蓋部材23とが接合されて密閉される。封止材24の材料としては、例えば、銀と銅の合金(Ag−Cu合金)からなるロウ材が用いられる。蓋部材23にはガス配管25が設けられており、放電容器22の内部空間26がガス配管25により排気されて減圧された後、発光ガスとしてアルゴン(Ar)と化学安定性の高い六フッ化イオウ(SF)、およびバッフアーガスとしてヘリウム(He)またはネオン(Ne)が封入される。これらのガスの封入後、ガス配管25は圧接等で封止部27が形成されることにより、密閉構造となる。
【0031】
放電容器22の外面には一対の、例えば、金(Au)からなる板状外部電極28と網状外部電極29が互いに電気的に離れるように配置されると共に、放電容器22の長尺方向に沿って延びるように設けられている。さらに外部電極28,29は封止材24および蓋部材23から離れて設けられる。外部電極28、29の長手方向の一端にはリード30、31が、例えば、半田32、33等によって電気的に接続される。外部電極28、29間の沿面最短距離は外部電極28、29間の放電空間を介した最短距離よりも長く構成される。これは放電空間でのみ放電が起こる構造とするためである。
【0032】
エキシマ放電ランプ21の点灯時、一対の外部電極28、29の間に電圧が印加されると、放電容器22を介して外部電極28、29間で放電が発生する。発光ガスがアルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)の場合、これらが電離されて、アルゴンイオンとフッ素イオンが形成され、アルゴン−フッ素からなるエキシマ分子が形成され、193nmの波長の光が放電容器2から放射される。
【0033】
放電容器22の長尺方向において、外部電極28、29が、封止材24と蓋部材23から離れた位置に設けられることにより、放電容器22の内部空間26において、長手方向のL3の範囲にある外部電極28、29の端部から封止材424までの範囲L4では放電は発生しない。即ち、放電容器22は、全周に亘り外部電極28,29が設けられていない外表面部分を放電容器22の一端側に有しているため、L4の範囲に対応する内部空間は、L3の範囲に対応する内部空間と比べて温度の低い、冷却領域となる。そのため、放電容器22の内部空間26に発光ガスとして六フッ化イオウ(SF)のような化学的安定性の高いガスを封入すると、放電の発生していない放電容器22の長手方向におけるL4の領域では、放電によって電離したフッ素イオンが電離前の六フッ化イオウに戻る反応が生じる。これにより、放電容器22の内部空間26において、長手方向のL3の範囲にある外部電極28、29の端部から封止材24までの間ではフッ素イオンと接することが抑制され、封止材24や蓋部材23を構成する材料とフッ素イオンとの反応を抑制することができる。ハロゲンと金属キャップの反応によるハロゲン量の低下がなく、かつ沿面放電を起こすことなく安定に放電を維持するために必要な要件は、放電ギャップ(外部電極28、29間の放電空間を介した最短距離)≦沿面最短距離、かつ放電ギャップ(外部電極28、29間の放電空間を介した最短距離)<外部電極と金属キャップ間の距離とすることである。
【0034】
また、本実施形態のエキシマ放電ランプ21においても、図2に示したように、照度が十分安定するのは、ネオン(Ne)比率が90%以上の領域であるが、ネオン(Ne)比率が極めて高い(99.5%以上)領域では発光効率の低下が顕著となり、また、図3に示したように、照度が十分安定するのは、ヘリウム(He)比率が90%以上の領域であるが、ヘリウム(He)比率が極めて高い(99.5%以上)領域では発光効率の低下が顕著となる。
【0035】
また、本実施形態のエキシマ放電ランプ21においても、比較実験1および比較実験2で得られたと同様の実験結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態の発明に係るエキシマ放電ランプの管軸を通る切断面から見た断面図および管軸に垂直な切断面A−Aから見た断面図である。
【図2】ネオン(Ne)の全封入ガスに占めるモル濃度と発光効率との関係を示すグラフである。
【図3】ヘリウム(He)の全封入ガスに占めるモル濃度と発光効率との関係を示すグラフである。
【図4】比較実験1の結果を示す表である。
【図5】比較実験2の結果を示す表である。
【図6】第2の実施形態の発明に係るエキシマ放電ランプの長尺方向に平行な切断面から見た断面図および切断面A−Aから見た断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 エキシマ放電ランプ
2 放電容器
3,4 蓋部材
5,6 封止材
7 ガス配管
8 内部空間
9 封止部
10、11 外部電極
12,13 リード
14,15 半田
21 エキシマ放電ランプ
22 放電容器
23 蓋部材
24 封止材
25 ガス配管
26 内部空間
27 封止部
28 板状外部電極
29 網状外部電極
30、31 リード
32、33 半田

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア、YAG、または単結晶イットリアの少なくとも1つからなる放電容器の外表面に少なくとも1つの外部電極を設け、前記放電容器内にアルゴン(Ar)とフッ素(F)原子を含むガスを封入したエキシマ放電ランプであって、
前記放電容器の内表面から100μmまでの深さ領域に含まれる金属不純物濃度が600wtppm以下であることを特徴とするエキシマ放電ランプ。
【請求項2】
前記放電容器は、管状に構成され、該放電容器内には、アルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)とヘリウム(He)またはネオン(Ne)とが封入され、前記放電容器の外表面には少なくとも1つの外部電極を管軸方向に沿って設け、前記放電容器は、全周に亘り外部電極が設けられていない外表面部分を前記放電容器の両端側に有していることを特徴とする請求項1に記載のエキシマ放電ランプ。
【請求項3】
前記放電容器は、略直方体状に構成され、該放電容器内には、アルゴン(Ar)と六フッ化イオウ(SF)とヘリウム(He)またはネオン(Ne)とが封入され、前記放電容器の外表面には少なくとも1つの外部電極を長尺方向に沿って設け、前記放電容器は、全周に亘り外部電極が設けられていない外表面部分を前記放電容器の端側に有していることを特徴とする請求項1に記載のエキシマ放電ランプ。
【請求項4】
前記ネオン(Ne)の全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のエキシマ放電ランプ。
【請求項5】
前記ヘリウム(He)の全封入ガスに占めるモル濃度が90%以上99.5%以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のエキシマ放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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