説明

エキスパンションジョイント部のレール構造

【課題】地震後におけるレールの接続状態の早期復旧が可能で簡素なエキスパンションジョイント部のレール構造を提供する。
【解決手段】相対する建物A棟、B棟の躯体22A,22B間の間隙に設けたエキスパンションジョイント12を跨いで、荷物を相対する建物2棟間で移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造10であって、建物2棟の躯体22A,22Bにそれぞれ固定された固定レール部14と、両端部16aが各固定レール部14の端部14aに対して係合可能に対向配置されるとともに、一方の建物の躯体22Aに回動可能に軸支され、他方の建物の躯体22Bに固定された固定レール部14の端部14aとの係合により回動する可動レール部16と、可動レール部16が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢する弾性部18とを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、建物2棟間で荷物を移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、相対して建てられた建物の床躯体などの躯体間の間隙を覆うエキスパンションジョイントが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。このエキスパンションジョイントは、建物に作用する地震等の外力から生じる応力の伝達を分断する一方で、躯体間の間隙を建物の揺れ動きに追従可能に塞ぐように設けられ、相対する建物同士を接続するジョイントである。
【0003】
ところで、既設建物に相対して建物を増築する場合においても、既設と新設の2棟の建物の地震時の動きを考慮して、建物2棟間の間隙にエキスパンションジョイントを通常設ける。この建物2棟間を移載機にて荷物を移送する場合には、例えば、建物2棟の床面とエキスパンションジョイントの上面とに磁気テープを連設し、この磁気テープで通行ルートを認識させる磁気テープ誘導式の自動移載機(AGV:Automatic Guided Vehicles)を使用するか、あるいは、軌道を分断してエキスパンションジョイント間に別の移載機を設けることによって荷物の移送をしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−316466号公報
【特許文献2】特開2005−48490号公報
【特許文献3】特開2002−81143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の建物2棟間の荷物移送で磁気テープ誘導式の自動移載機を使用する場合には、地震等で建物が変形した際に、磁気テープがエキスパンションジョイントで破損等の不具合を起こすと、移載機の走行が不調ないし不能状態に陥る。一旦破損した磁気テープの修復は難しく、移載機を使用できない状態が長期化するおそれがある。一方、軌道を分断してエキスパンションジョイント間に別の移載機を設けて移送をする場合には、移載機間で荷物を受け渡す制御が煩雑となるうえに、移載機台数が多くなりコスト上昇を招く。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地震後におけるレールの接続状態の早期復旧が可能で簡素なエキスパンションジョイント部のレール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るエキスパンションジョイント部のレール構造は、相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、荷物を前記相対する建物2棟間で移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造であって、前記建物2棟の躯体にそれぞれ固定された固定レール部と、前記各固定レール部の間に前記エキスパンションジョイントを跨いで配置される可動レール部であって、両端部が前記各固定レール部の端部に対して係合可能に対向配置されるとともに、一方の前記建物の躯体に回動可能に軸支され、他方の前記建物の躯体に固定された前記固定レール部の端部との係合により回動する可動レール部と、前記可動レール部が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢する弾性部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るエキスパンションジョイント部のレール構造は、上述した請求項1において、前記可動レール部が元の位置に復帰する際の回動量を制限するストッパーをさらに備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るエキスパンションジョイント部のレール構造は、上述した請求項1または2において、前記固定レール部の端部と、前記可動レール部の端部は、レールの延在方向に対して互いに対向する斜面状に形成してあることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るエキスパンションジョイント部のレール構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記固定レール部と前記可動レール部はそれぞれ平行な2本のレール部材で構成され、前記可動レール部は前記レール部材を連結するリンク部材と、前記リンク部材に設けられ、前記建物の躯体に回動可能に軸支される軸部とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、荷物を前記相対する建物2棟間で移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造であって、前記建物2棟の躯体にそれぞれ固定された固定レール部と、前記各固定レール部の間に前記エキスパンションジョイントを跨いで配置される可動レール部であって、両端部が前記各固定レール部の端部に対して係合可能に対向配置されるとともに、一方の前記建物の躯体に回動可能に軸支され、他方の前記建物の躯体に固定された前記固定レール部の端部との係合により回動する可動レール部と、前記可動レール部が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢する弾性部とを備える。
【0012】
このため、地震発生時に、震動に伴う変形によって建物2棟間の相対位置が変化すると、固定レール部の端部が可動レール部の端部に当たって、可動レール部を所定方向に回動させる。これにより固定レール部と可動レール部とは接続状態から一時的に非接続状態に切り変わる。このとき、弾性部が可動レール部を元の位置に復帰する方向に付勢するので、地震後には、可動レール部は所定方向とは反対方向に回動する。こうすることで、固定レール部と可動レール部とを再び接続状態にすることができる。また、本発明は、固定レール部と、可動レール部と、弾性部とからなっており、メンテナンスをし易い簡素な構成である。したがって、地震後においてレール接続の早期復旧が可能で、簡素なエキスパンションジョイント部のレール構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るエキスパンションジョイント部のレール構造の実施例を示す上面図である。
【図2】図2は、本発明に係るエキスパンションジョイント部のレール構造の実施例を示す地震発生時の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るエキスパンションジョイント部のレール構造の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るエキスパンションジョイント部のレール構造10(以下、「レール構造」という。)は、相対する建物A棟、B棟の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイント12を跨いで配置される移載機用のレールであり、固定レール部14と、可動レール部16と、弾性部としての復元ばね18と、ストッパー20とからなる。
【0016】
固定レール部14は、平行な2本のレール部材からなり、建物A棟、B棟の床スラブ22A、22B上にそれぞれ固定されている。固定レール部14のレール部材の各端部14aは、レールの延在方向に対して斜面状に形成してある。
【0017】
可動レール部16は、エキスパンションジョイント12を跨いでA棟側とB棟側の固定レール部14に挟まれて配置される。可動レール部16は、平行な2本のレール部材間を3本のリンク部材24で連結した梯子状のものであり、真ん中のリンク部材24の中央に設けた軸部26を介して、A棟側の床スラブ22A上に回動可能に軸支してある。可動レール部16のレール部材の両端部16aは、レールの延在方向に対して斜面状に形成してあり、各固定レール部14の端部14aに対して係合可能に対向配置され、通常時は固定レール部14と可動レール部16の間を移載機が連続的に走行可能な態様に接続してある。
【0018】
こうして構成された可動レール部16は、B棟に固定された固定レール部14の端部14aとの係合により回動するようになっている。具体的には、B棟の固定レール部14の端部14aの斜面が端部16aの斜面をレールの延在方向に押したり、図1において下方向に押すと、軸部26周りの回転力が生じて、可動レール部16を時計方向に回動させることになる。
【0019】
復元ばね18は、可動レール部16が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢するためのものである。この復元ばね18の一端は、A棟側の床スラブ22A上に固定され、他端は可動レール部16のレール部材に接続してある。
【0020】
ストッパー20は、可動レール部16が元の位置に復帰する際の回動量を制限するためのものであり、A棟側の床スラブ22A上に設けてある。このストッパー20は、可動レール部16が当たって止まったときに、可動レール部16と固定レール部14のレールの延在方向が同一方向になるような位置に設けてある。そして、時計方向に回動した可動レール部16が復元ばね18の付勢力によって反時計方向に回動した場合に、これを止め、可動レール部16の過大な回動を制限するように作用する。
【0021】
上記構成の動作および作用について説明する。
図2に示すように、地震が発生すると、震動に伴う変形によってA棟とB棟間の相対位置が変化して、固定レール部14の端部14aが可動レール部16の端部16aに当たって、可動レール部16を軸部26周りに時計方向に回動させる。これにより、固定レール部14と可動レール部16の端部同士14a,16aが離れて、固定レール部14と可動レール部16とは接続状態から一時的に非接続状態に切り変わる。
【0022】
このとき、可動レール部16の回動に伴って復元ばね18が伸長し、可動レール部16を元の位置に復帰させようとする付勢力が可動レール部16に作用する。そして、地震後には、この付勢力によって可動レール部16が反時計方向に回動して、可動レール部16の端部16aが固定レール部14の端部14aまたはストッパー20に当たって止まり、固定レール部14と可動レール部16とは再び接続状態となって、移載機は固定レール部14、可動レール部16上を走行可能となる。このように、本発明のレール構造10では、地震発生時の建物の変形を考慮することによって、レールの接続状態の早期復旧を可能にする。
【0023】
なお、図2においては、A棟とB棟とが地震により左右方向にΔxだけ互いに接近するように相対位置が変化した時点の状況を示している。こうした建物2棟間の間隙の変化量(減少分Δxないし増加分Δx)は、建物2棟間に設けたエキスパンションジョイント12の伸縮作用により処理されることとなる。
【0024】
このため、本発明のレール構造10によれば、地震後のレールの断絶により荷物の搬送が一時的に不具合となる場合であっても、レールの接続状態を早期に復旧することができ、例えば、レールを用いる軌道式重量物搬送装置の稼動を早期に再開させることが可能である。
【0025】
また、本発明のレール構造10は、固定レール部14と、可動レール部16と、弾性部としての復元ばね18とからなっており、メンテナンスをし易い簡素な構成である。したがって、各部材の被災状況を迅速かつ容易に点検・メンテナンスすることができ、例えば、地震発生後に可動レール部16などの状態を適宜メンテナンスすることによって、レールの接続状態の早期復旧を図ることもできる。
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、荷物を前記相対する建物2棟間で移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造であって、前記建物2棟の躯体にそれぞれ固定された固定レール部と、前記各固定レール部の間に前記エキスパンションジョイントを跨いで配置される可動レール部であって、両端部が前記各固定レール部の端部に対して係合可能に対向配置されるとともに、一方の前記建物の躯体に回動可能に軸支され、他方の前記建物の躯体に固定された前記固定レール部の端部との係合により回動する可動レール部と、前記可動レール部が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢する弾性部とを備える。
【0027】
このため、地震発生時に、震動に伴う変形によって建物2棟間の相対位置が変化すると、固定レール部の端部が可動レール部の端部に当たって、可動レール部を所定方向に回動させる。これにより固定レール部と可動レール部とは接続状態から一時的に非接続状態に切り変わる。このとき、弾性部が可動レール部を元の位置に復帰する方向に付勢するので、地震後には、可動レール部は所定方向とは反対方向に回動する。こうすることで、固定レール部と可動レール部とを再び接続状態にすることができる。また、本発明は、固定レール部と、可動レール部と、弾性部とからなっており、メンテナンスをし易い簡素な構成である。したがって、地震後においてレール接続の早期復旧が可能で、簡素なエキスパンションジョイント部のレール構造を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、本発明に係るエキスパンションジョイント部のレール構造は、相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、建物2棟間で荷物を移送する移載機用のレールに有用であり、特に、地震後におけるレールの接続状態を早期に復旧したい場合に適している。
【符号の説明】
【0029】
10 エキスパンションジョイント部のレール構造
12 エキスパンションジョイント
14 固定レール部
14a 固定レール部の端部
16 可動レール部
16a 可動レール部の端部
18 復元ばね(弾性部)
20 ストッパー
22A 建物A棟の床スラブ
22B 建物B棟の床スラブ
24 リンク部材
26 軸部
Δx 変形量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する建物の躯体間の間隙に設けたエキスパンションジョイントを跨いで、荷物を前記相対する建物2棟間で移送する移載機用のレールとして用いるエキスパンションジョイント部のレール構造であって、
前記建物2棟の躯体にそれぞれ固定された固定レール部と、
前記各固定レール部の間に前記エキスパンションジョイントを跨いで配置される可動レール部であって、両端部が前記各固定レール部の端部に対して係合可能に対向配置されるとともに、一方の前記建物の躯体に回動可能に軸支され、他方の前記建物の躯体に固定された前記固定レール部の端部との係合により回動する可動レール部と、
前記可動レール部が回動した際に元の位置に復帰する方向に付勢する弾性部とを備えることを特徴とするエキスパンションジョイント部のレール構造。
【請求項2】
前記可動レール部が元の位置に復帰する際の回動量を制限するストッパーをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のエキスパンションジョイント部のレール構造。
【請求項3】
前記固定レール部の端部と、前記可動レール部の端部は、レールの延在方向に対して互いに対向する斜面状に形成してあることを特徴とする請求項1または2に記載のエキスパンションジョイント部のレール構造。
【請求項4】
前記固定レール部と前記可動レール部はそれぞれ平行な2本のレール部材で構成され、
前記可動レール部は前記レール部材を連結するリンク部材と、前記リンク部材に設けられ、前記建物の躯体に回動可能に軸支される軸部とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のエキスパンションジョイント部のレール構造。

【図1】
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【図2】
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