説明

エスカレータ

【課題】乗客によるいたずら等がされにくく、補修等が必要な移動手摺の位置を特定できるエスカレータを提供することである。
【解決手段】乗客が乗るステップと、ステップの移動と同期して回転する無端状の移動手摺とを有するエスカレータであって、移動手摺は、長手方向と垂直な方向の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面に、長手方向に沿って所定の間隔で互いに異なる文字が付されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータに係り、特に、無端状の移動手摺を有するエスカレータに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、駅や商業施設等の様々な場所においてエスカレータが設けられている。エスカレータの保守点検の一つとして、図5に示すようにエスカレータの移動手摺70と移動手摺案内レール42とを分離した状態で、それぞれを定期的に点検し、必要に応じて清掃や補修を行うといった保守点検作業がある。これらの定期的な点検や清掃や補修を終えた後、図6に示すように保守作業員3が、移動手摺70を移動手摺案内レール42に載せる際に、移動手摺70の一端側を移動手摺案内レール42に引っ掛けて、保守作業員3が移動手摺70の他端側を手で引っ張って位置を調整し、移動手摺70全体を移動手摺案内レール42に載せるといった大掛かりな作業が必要となる。
【0003】
また、移動手摺70は無端状であってその一部分に破損等が生じても場所の特定が困難である。そして、一人の保守作業員が点検を行って、後日、他の保守作業員が補修の必要な箇所に対して補修する場合には、その箇所の確認や特定を行うために、上述のように移動手摺70全体の取り外しを行って点検することが必要となる場合があり面倒である。本発明に関連する技術として、特許文献1には、乗用コンベアの運転方向と同方向に回転する手摺ベルトを備える乗用コンベアにおいて、該手摺ベルトの表面に、文様を施したフィルム、ラベル又はテープを貼り付けないし被覆した乗客コンベアにおける手摺ベルトが開示されている。
【0004】
本発明に関連する別の技術として、特許文献2には、ハンドレール本体の側面に当該ハンドレール本体の延長方向に沿う連続直線以外の識別印を付して、ハンドレール本体の移動方向を識別可能に構成した乗客コンベアが開示されている。ここでは、識別印の形状として小判型や角丸の長方形や楕円形が記載されており、この識別印によりハンドレールが移動しているか否か、移動している場合にはいずれの方向に移動しているか否かを識別することができることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3076463号公報
【特許文献2】特開2003−276976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、乗客によっていたずら等がされにくく、補修等が必要な移動手摺の位置を特定できるエスカレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエスカレータは、乗客が乗るステップと、ステップの移動と同期して回転する無端状の移動手摺とを有するエスカレータであって、移動手摺は、長手方向と垂直な方向の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面に、長手方向に沿って所定の間隔で互いに異なる文字が付されている。
【0008】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、前記移動手摺の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面は、移動手摺案内レールに取り付けられたときに下面となる部分であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、互いに異なる文字は、連続した数字であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、互いに異なる文字は、移動手摺の一部を凹状あるいは凸状にして形成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るエスカレータにおいて、無端状の移動手摺は、長手方向の両端部を接合して構成され、互いに異なる文字は、前記接合の部分が識別できるように配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成のエスカレータによれば、移動手摺の長手方向と垂直な方向の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面において、長手方向沿って所定の間隔で互いに異なる文字が付されている。これにより、保守作業員が移動手摺の位置を特定することができる。
【0013】
上記構成の移動手摺の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面がエスカレータに取り付けられたときに下面となる部分であるエスカレータによれば、移動手摺に付された文字はエスカレータを利用する通常の乗客には見えにくい箇所に位置することとなる。これにより、保守作業員が移動手摺の位置を特定するとともに、乗客による移動手摺に対するいたずらを防止することができる。
【0014】
上記構成の互いに異なる文字が連続した数字であるエスカレータによれば、より簡単に明確に移動手摺の位置を特定することができる。
【0015】
上記構成の互いに異なる文字が移動手摺の一部を凹状あるいは凸状にして形成しているエスカレータによれば、移動手摺を構成する材料で互いに異なる文字が形成されるため、移動手摺に付された文字は乗客には視認されにくい。これにより、保守作業員が移動手摺の位置を特定するとともに、乗客による移動手摺に対するいたずらを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。また、この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態のエスカレータ10の構成図である。エスカレータ10は、高低差のある乗場床6と降場床8との間で乗客4を移動させる装置である。エスカレータ10は、乗客4が乗るステップ12と、それぞれのステップ12が連結されるステップチェーン14と、ステップチェーン14を駆動する主駆動装置16と、移動手摺70と支え部30とを含む欄干部20と、移動手摺70を駆動する手摺駆動装置140とを含んで構成される。手摺駆動装置140は、駆動ローラ100と加圧ローラ120とを含んで構成されるが詳細な説明は後述する。
【0018】
ステップ12は、乗客4が一人または二人乗れる程度の大きさを有する。エスカレータ10が運転されるときは、複数のステップ12が地面に対して水平な状態を保ちつつ移動する。また、ステップ12にはスリップ防止のための溝が複数設けられている。
【0019】
ステップチェーン14は、図示されていない適当な軸部材を介して、それぞれのステップ12を連結し、主駆動装置16の駆動力をそれぞれのステップ12に伝達するものである。また、ステップチェーン14は、エスカレータ10のステップ12の左右両側に1本ずつ配置されている。
【0020】
主駆動装置16は、エスカレータ10を駆動する駆動力を出力する装置で、例えば電動機と減速歯車等から構成される。主駆動装置16により出力された駆動力は、図示されていない駆動伝達手段を介してステップチェーン14及び図示されていない移動手摺チェーンを介して駆動ローラ100に伝達される。
【0021】
欄干部20は、無端状の移動手摺70と、ステップ12の両側に立設される支え部30から構成されている。移動手摺70は、乗客4が手を添えまたは掴まる部分である。ここで、移動手摺70は長手方向の両端部を接合して無端状としている。
【0022】
支え部30は、移動手摺70を案内する機能を有する。また、支え部30は上方に設けられた移動手摺案内レール42と、移動手摺案内レール42の下方に設けられた内側板32とで構成される。なお、移動手摺案内レール42は、駆動ローラ100の両端近傍において途切れた端部を有している。
【0023】
次に、手摺駆動装置140について説明する。手摺駆動装置140は、上記のように移動手摺70を駆動する機能を有し、駆動ローラ100と加圧ローラ120とを含んで構成される。
【0024】
手摺駆動装置140においては、移動手摺70を挟んで複数の駆動ローラ100に対向する位置に複数の加圧ローラ120が配置される。加圧ローラ120は、それぞれ駆動ローラ100と対を成すように並んでいる。駆動ローラ100は、主駆動装置16より出力された駆動力により駆動され、また、加圧ローラ120は、対応する駆動ローラ100に向かって、移動手摺70を図示していない加圧手段によって押し付け、駆動ローラ100の駆動に従って回転する。
【0025】
移動手摺70は、移動手摺70の帰路側において、駆動ローラ100が矢印D方向に回転することにより、加圧ローラ120との間に挟みこまれた移動手摺70が図1の矢印C方向に移動する。
【0026】
図2は、図1において帰路側に位置する移動手摺70の進行方向に垂直な断面図、すなわちA−A線断面図に相当する駆動ローラ100と加圧ローラ120との関係を示したものである。駆動ローラ100及び加圧ローラ120は、例えば、材料がウレタン等で構成されている。駆動ローラ100は、移動手摺70に沿う形で配置され、加圧ローラ120は、図2でWと示される幅方向において、移動手摺70を挟んで駆動ローラ100に対向して配置される。
【0027】
次に、移動手摺70と支え部30との関係の構成を詳細に説明する。図3は、図1において移動手摺70の進行方向に垂直な断面図、すなわちB−B線断面図に相当する移動手摺70と支え部30との関係を示している。移動手摺70は、芯地である鋼芯64と、その周囲を被覆したキャンバス積層部68と、さらに、その外側に配置された表面部66とを含んで構成されている。表面部66の材料としては、手触りが良いもの、例えば生ゴム等を用いることができる。キャンバス積層部68は、適当な強度を確保するため、例えばキャンバス地を用いることができる。
【0028】
移動手摺案内レール42は、略C字状断面の移動手摺70の内側に位置し、移動手摺70の内側面の形状とほぼ同じ形状の外形を有する。さらに、移動手摺70の内側面に移動手摺案内レール42の外周面が接触し、これにより移動手摺70が案内される。
【0029】
内側板32は、エスカレータ10の両側面を構成することになるので、装飾的な観点や適当な強度を確保するため、例えばガラスパネルやステンレスを素材として構成される。なお、移動手摺案内レール42と内側板32とは、ボルト等の接続部材を用いて接続されている。
【0030】
ここで、図3に示されるように移動手摺70は移動手摺案内レール42に取り付けられる。このとき、移動手摺70の表面部66のうちエスカレータ10の乗客が手を添えることが多い部分を上面部87とする。そして、移動手摺70の長手方向に垂直な方向の両端部であって、移動手摺案内レール42に取り付けられた際にエスカレータ10の乗客からは視認されにくく下層階側に位置する部分を下面部88,89とする。
【0031】
図4は、移動手摺70を図3における矢印F方向から見た様子を示す図である。移動手摺70の表面部66の一方側の下面部88には長手方向に沿って所定の間隔に互いに異なる連続した数字86(例えば0から始まって1,2,3,4・・・というように1ずつ増加していく連続した数字)が刻印等によって凹状に形成されている。そして、移動手摺70の表面部66の他方側の下面部89にも同様に長手方向に沿って所定の間隔に互いに異なる連続した数字が凹状に形成されている。
【0032】
続いて、上記構成からなるエスカレータ10の動作について図1〜図4を参照して説明する。エスカレータ10の移動手摺70は、移動手摺案内レール42に取り付けられたときに底面となる下面部88,89に長手方向に沿って所定の間隔に互いに異なる連続した数字86が設けられている。したがって、保守作業員が移動手摺70の補修作業等を行うために、例えば「2と3の間に亀裂が生じている」といった補修箇所の場所を記録しておくことができる。これにより、後日、例えば別の保守作業員が保守点検作業を行う場合にも補修箇所を容易に特定することができる。さらに、下面部88,89は、乗客が通常にエスカレータ10を利用している分には、視認されにくい箇所であるためいたずらされにくく、美観も損ねることはない。そして、互いに異なる連続した数字86は移動手摺70と同じ素材のもので凹状に形成されているため遠くからは視認されにくく、さらに乗客が通常にエスカレータ10を利用している分には気づきにくい。これにより、いたずらされにくく美観も損ねることはない。
【0033】
また、上記では互いに異なる連続した数字は、0から始まって1,2,3,4・・・というように1ずつ増加していく連続した数字として説明したが、互いに異なる連続した数字であればよく、例えば1,3,5,7,9,11・・・と奇数の連続した数字でもよく、また2,4,6,8,10,12・・・と偶数の連続した数字であってもよい。
【0034】
また、上記では互いに異なる連続した数字として説明したが、互いに異なる文字であればよく、例えば、a,b,c,d,e・・・といった互いに異なる文字を用いてもよい。また、互いに異なる文字は移動手摺70を凹状に形成するものとして説明したが、凸状に形成してもよく、凹凸状に形成せずにシール等を貼り付けるものとしてもよい。
【0035】
また、例えば連続した互いに異なる数字は0を始めとし、100を終わりとして用いる場合に、無端状の移動手摺70の接合部分が0と100との間になるようにすれば、容易に接合部分の箇所についても特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態のエスカレータの構成図である。
【図2】図1において、移動手摺の進行方向に垂直な断面図、すなわち、A−A線断面図に相当する駆動ローラと加圧ローラとの関係を示したものである。
【図3】図1において移動手摺の進行方向に垂直な断面図、すなわちB−B線断面図に相当する移動手摺と支え部の関係を示している。
【図4】図3における移動手摺を矢印F方向から見た様子を示す図である。
【図5】移動手摺を移動手摺案内レールから取り外された様子を示す図である。
【図6】移動手摺を移動手摺案内レールに取り付ける様子を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
3 保守作業員、4 乗客、6 乗場床、8 降場床、10 エスカレータ、12 ステップ、14 ステップチェーン、16 主駆動装置、20 欄干部、30 支え部、32 内側板、42 移動手摺案内レール、64 鋼芯、66 表面部、68 キャンバス積層部、70 移動手摺、86 数字、87 上面部、88,89 下面部、100 駆動ローラ、120 加圧ローラ、140 手摺駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客が乗るステップと、ステップの移動と同期して回転する無端状の移動手摺とを有するエスカレータであって、
移動手摺は、
長手方向と垂直な方向の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面に、長手方向に沿って所定の間隔で互いに異なる文字が付されているエスカレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のエスカレータにおいて、
前記移動手摺の両端部のうち少なくとも1つの端部の表面は、
移動手摺案内レールに取り付けられたときに下面となる部分であることを特徴とするエスカレータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエスカレータにおいて、
互いに異なる文字は、連続した数字であることを特徴とするエスカレータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1に記載のエスカレータにおいて、
互いに異なる文字は、移動手摺の一部を凹状あるいは凸状にして形成されることを特徴とするエスカレータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1に記載のエスカレータにおいて、
無端状の移動手摺は、長手方向の両端部を接合して構成され、
互いに異なる文字は、前記接合の部分が識別できるように配置されることを特徴とするエスカレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−111485(P2010−111485A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286148(P2008−286148)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】