説明

エスクレチン誘導体、その製造方法及びマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤

【目的】 エスクレチン誘導体、その製造方法及びマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤を提供する。
【構成】 エスクレチン誘導体は下記一般式(I)で表される。
【化1】


1 及びR2 は−CON(R4 )R5 、単糖類残基、アシル化単糖類残基;R1又はR2 の少なくとも1方は−CON(R4 )R5 ;R4 及びR5 はH、OH、アルキル、アリール若しくはアラルキル、又はR4 とR5 とは3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基を形成でき;R3 は−COOR8 、H、OH、アルキル、アリール又はアラルキル;R3 は3位又は4位;R8 はH又はアルキル。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規なエスクレチン誘導体、その製造方法、及び前記エスクレチン誘導体を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase;以下、MMPsとも称する)は、細胞外マトリックスのタンパク質成分を分解する金属酵素の総称である。MMPsは、通常、以下の4群に分類されている。すなわち、コラゲナーゼ群〔例えば、間質性コラゲナーゼ(MMP−1)及び白血球コラゲナーゼ(MMP−8)〕、ゼラチナーゼ/IV型コラゲナーゼ群〔例えば、ゼラチナーゼA(MMP−2)及びゼラチナーゼB(MMP−9)〕、ストロムライシン群〔例えば、ストロムライシン−1(MMP−3)、ストロムライシン−2(MMP−10)及びストロムライシン−3(MMP−11)〕、及びその他の群〔例えば、マトリライシン(MMP−7)〕である。近年、これらのMMPsと各種疾患との関係が徐々に明らかになってきている。例えば、岡田ら〔マトリックスメタロプロテアーゼと炎症:組織培養、19(11)386−390、1993〕は、(a)慢性関節リウマチや変形性関節症の滑膜及び関節軟骨組織、(b)角膜潰瘍、(c)創傷治癒、(d)肉芽腫、(e)歯周囲炎、(f)皮膚水泡性疾患、(g)糸球体腎炎、(h)肺気腫、(i)病的骨吸収、及び(j)癌組織の浸潤・転移等の病的組織ではMMPsが深く関与している可能性を紹介している。例えば、腫瘍組織や炎症局所ではこれらMMPsの産生が上昇していることが遺伝子及びタンパク質レベルで確認されている。従って、MMPsの産生や活性を阻害することのできる物質は、これらの各種疾患に対して何らかの有効な作用を示すことが期待されている。従来、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤としては、これらの酵素と類似の構造をもつペプチド(例えば、特表平4−501423号公報)やヒドロキサム酸(例えば、特開平6−256293号公報)が知られていた。しかしながら、これらは、加水分解を受け易く、効果が持続しにくいという欠点をもっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、従来のペプチド系化合物等のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤とは別異の化合物で、標的組織への親和性及び滞留性を向上させ、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用が持続する新規の化合物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記の目的は、本発明により、一般式(I):
【化6】


〔式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立に、−CON(R4 )R5 、単糖類残基、又はアシル化された単糖類残基であって、R1 又はR2 の少なくとも1方は−CON(R4 )R5 であるものとし、R4 及びR5 はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基若しくはアラルキル基であるか、又はR4 とR5 とはそれらが結合している窒素原子と一緒になって3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基を形成していることができるものとし、R3 は−COOR8 、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であって、R3 の結合位置は3位又は4位であることができるものとし、R8 は水素原子又はアルキル基である〕で表されるエスクレチン誘導体又はその塩によって達成することができる。また、本発明は、一般式(XI)
【化7】


(式中、R3 は前記と同じ意味である)で表される化合物、一般式(II)
【化8】


(式中、R3 は前記と同じ意味であり、R7 は単糖類残基又はアシル化された単糖類残基である)で表される化合物、又は一般式(II’)
【化9】


(式中、R3 及びはR6 は前記と同じ意味である)で表される化合物と、一般式(X)
【化10】
5 (R4 )NCOX (X)
(式中、Xはハロゲン基であり、R4 及びR5 は前記と同じ意味である)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(I)で表されるエスクレチン誘導体又はその塩の製造方法に関する。更に、本発明は、前記一般式(I)で表されるエスクレチン誘導体又は製剤学的に許容することのできるその塩を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤にも関する。
【0005】本明細書において単糖類残基とは、単糖類化合物の1位の水酸基を除いた残基である。これらの単糖類は、(CH2 O)n[nは3以上の整数]で表される化合物だけでなく、それらの誘導体であるデオキシ糖、アミノ糖、糖酸、糖アルコール等を含み、更に硫酸エステル、燐酸エステル等のエステル類、及びこれらのエステル類の塩類、メチルエーテル等のエーテル類、アミノ糖若しくは糖酸の塩類等を含む。単糖類の具体例は、例えば、水野 卓・西沢一俊共著「図解糖質化学便覧」共立出版株式会社(1971)に記載されている化合物をあげることができる。
【0006】好ましい単糖類は、ペントース又はヘキソースである。ペントースで好ましい例は、アラビノース、キシロース、リボース、又はデオキシリボースである。ヘキソースで好ましい例は、マンノース、アロース、アルトロース、タロース、グルコース、ガラクトース、イドース、グロース、フルクトース、ラムノース、フコース、グルコサミン、N−アシルグルコサミン、ガラクトサミン、N−アシルガラクトサミン、N−アシルムラミン酸、グルクロン酸、グロン酸、イズロン酸、アスコルビン酸、マンニット、又はソルビット等である。これらの単糖類の可能な硫酸エステル、燐酸エステル、及び塩類も含まれる。より好ましい単糖類は、マンノース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラムノース、フコース、グルコサミン,N−アシルグルコサミン、ガラクトサミン、N−アシルガラクトサミン、又はグルクロン酸である。これらの単糖類の可能な硫酸エステル、燐酸エステル、及び塩類も含まれる。更により好ましい単糖類は、グルコース、ガラクトース、ラムノース、N−アシルグルコサミン、N−アシルガラクトサミン、又はグルクロン酸である。これらの単糖類の可能な硫酸エステル、燐酸エステル、及び塩類も含まれる。N−アシル糖のアシル基は、好ましくは炭素数2〜20のアシル基、より好ましくは炭素数2〜5のアシル基、更により好ましくはアセチル基である。
【0007】本発明のエスクレチン誘導体に含まれるアシル化された単糖類残基は、上記の単糖類残基の水酸基の少なくとも1個がアシル化されたものである。アシル化された単糖類残基のアシル基は、好ましくは炭素数2〜20のアシル基、より好ましくは炭素数2〜6のアシル基、更により好ましくはアセチル基又はピバロイル基である。1個又は全ての水酸基がアシル化された単糖類残基が好ましく、全ての水酸基がアセチル化された単糖類残基が特に好ましい。また、ヘキソースの1個の水酸基がアシル化される場合、6位の水酸基のアシル化が好ましく、6位の水酸基がピバロイル化されたヘキソース残基が最も好ましい。
【0008】本発明のエスクレチン誘導体に含まれる単糖類及びアシル化された単糖類は、D−体又はL−体のいずれでもよく、また、ピラノース型又はフラノース型のいずれでもよい。本発明のエスクレチン誘導体において、エスクレチン部分と単糖類残基又はアシル化された単糖類残基との結合は、グリコシド結合である。グリコシド1位の立体配置は、α−アノマー又はβ−アノマーのいずれでもよい。
【0009】本発明のエスクレチン誘導体に含まれる−CON(R4 )R5 において、R4及びR5 はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基若しくはアラルキル基であるか、又はR4 とR5 とはそれらが結合している窒素原子と一緒になって3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基を形成していることができるものとする。
【0010】前記のR4 及びR5 としてのアルキル基は、好ましくは脂肪族アルキル基、より好ましくは炭素数1〜4個の低級アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基であり、メチル基又はエチル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。これらのアルキル基は、1個又は2個以上の置換基、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)及び/又は水酸基で置換されていることができ、具体的にはヒドロキシメチル基、三フッ化メチル基又はクロルエチル基などが好ましい。R4 及びR5 のアリール基は、好ましくは炭素数6〜12個のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基であり、これらのアリール基は、1個又は2個以上の置換基、例えば、炭素数1〜4個の低級アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)及び/又は水酸基で置換されていることができる。フェニル基又は置換フェニル基が好ましい。更に、R4 及びR5 としてのアラルキル基は、好ましくは炭素数6〜12個のアリール基で置換された炭素数1〜4個の低級アルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、又はフェニルブチル基である。前記アラルキル基のアリール部分も1個又は2個以上の置換基、例えば、炭素数1〜4個の低級アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)及び/又は水酸基で置換されていてもよく、ベンジル基又は置換ベンジル基が好ましい。
【0011】前記のR4 とR5 とが一緒になって形成された3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基は、場合により1個以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子及び/又はイオウ原子)が介在していることのあるアルキレンアミノ基であり、例えば、1−アゼチジニル基(NC36 )、1−ピロリジニル基(NC48 )、ピペリジノ基(NC510)、モルホリノ基(NC48 O)、チオモルホリノ基(NC48 S)又は1−ピペラジニル基(NC48 NH)を挙げることができる。
【0012】本発明のエスクレチン誘導体に含まれるR3 は、−COOR8 (R8 は水素原子又はアルキル基である)、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であって、クマリン環の3位又は4位の炭素原子と結合している。以下、本明細書中において、クマリン環の3位に置換基を有するエスクレチン化合物を3−置換エスクレチン化合物と、あるいは、クマリン環の4位に置換基を有するエスクレチン化合物を4−置換エスクレチン化合物と称することがある。前記のR3 の−COOR8 は、カルボキシル基又はそのアルキルエステル基であり、R8 のアルキル基は、好ましくは脂肪族アルキル基、より好ましくは炭素数1〜4個の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基)である。
【0013】前記のR3 のアルキル基は、好ましくは脂肪族アルキル基、より好ましくは炭素数1〜4個の低級アルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基又はt−ブチル基であり、メチル基又はエチル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。前記のR3 のアリール基は、好ましくは炭素数6〜12個のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基であり、これらのアリール基は、1個又は2個以上の置換基、例えば、炭素数1〜4個の低級アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)及び/又は水酸基で置換されていることができる。フェニル基又は置換フェニル基が好ましい。更に、前記のR3 のアラルキル基は、好ましくは炭素数6〜12個のアリール基で置換された炭素数1〜4個の低級アルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、又はフェニルブチル基である。前記アラルキル基のアリール部分も1個又は2個以上の置換基、例えば、炭素数1〜4個の低級アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子)及び/又は水酸基で置換されていてもよく、ベンジル基又は置換ベンジル基が好ましい。
【0014】本発明のエスクレチン誘導体の塩は、糖の硫酸エステル又はリン酸エステル、ウロン酸等の糖酸のカルボキシル基、アミノ糖のアミノ基、エスクレチン骨格の3位又は4位の水酸基、アルキレンアミノ基に介在する窒素原子などに形成される。例えば、無機酸若しくは有機酸との塩や無機塩基若しくは有機塩基との塩が含まれ、製剤学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩又はp−トルエンスルホン酸塩、更には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸又はフマル酸などのジカルボン酸塩、更に、酢酸、プロピオン酸又は酪酸などのモノカルボン酸塩等である。また、本発明のエスクレチン誘導体の塩の形成に適した無機塩基は、例えば、アンモニア、カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩等である。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンのようなモノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−又はトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩、アミノ酸塩等である。
【0015】本発明において、前記一般式(I)の各基R1 、R2 、及びR3 の定義に含まれるすべての基は、それぞれ独立に任意の1つの基を選択して、それらを任意の別の基と組み合わせることができる。従って、前記一般式(I)で表されるエスクレチン誘導体には、それら任意に選択された基のすべての可能な組み合わせから構成されるすべての新規化合物が含まれる。本発明の化合物の具体例としては、表1〜表4に示す化合物を挙げることができる。以下の表1〜表4で、Meはメチル基であり、Etはエチル基であり、NC48 Oはモルホリノ基であり、NAcGlcはN−アセチルグルコサミン残基であり、Pivは6−ピバロイル化体であり、Glcはグルコース残基であり、Galはガラクトース残基であり、NAcGalはN−アセチルガラクトサミン残基であり、GlcUAはグルクロン酸残基である。
【0016】
【表1】
1 (又はR2 ) R2 (又はR1 ) R3 CON(Me)2 CON(Me)2 H CON(Me)2 NAcGlc H CON(Me)2 PivNAcGlc H CON(Me)2 Glc H CON(Me)2 Gal H CON(Me)2 NAcGal H CON(Me)2 GlcUA H CON(Me)2 CON(Me)2 3-Me CON(Me)2 NAcGlc 3-Me CON(Me)2 PivNAcGlc 3-Me CON(Me)2 Glc 3-Me CON(Me)2 Gal 3-Me CON(Me)2 NAcGal 3-Me CON(Me)2 GlcUA 3-Me CON(Me)2 CON(Me)2 4-Me CON(Me)2 NAcGlc 4-Me CON(Me)2 PivNAcGlc 4-Me CON(Me)2 Glc 4-Me CON(Me)2 Gal 4-Me CON(Me)2 NAcGal 4-Me CON(Me)2 GlcUA 4-Me CON(Me)2 CON(Me)2 3-COOMe CON(Me)2 NAcGlc 3-COOMe CON(Me)2 PivNAcGlc 3-COOMe CON(Me)2 Glc 3-COOMe CON(Me)2 Gal 3-COOMe
【0017】
【表2】
1 (又はR2 ) R2 (又はR1 ) R3 CON(Me)2 NAcGal 3-COOMe CON(Me)2 GlcUA 3-COOMe CON(Et)2 CON(Et)2 H CON(Et)2 NAcGlc H CON(Et)2 PivNAcGlc H CON(Et)2 Glc H CON(Et)2 Gal H CON(Et)2 NAcGal H CON(Et)2 GlcUA H CON(Et)2 CON(Et)2 3-Me CON(Et)2 NAcGlc 3-Me CON(Et)2 PivNAcGlc 3-Me CON(Et)2 Glc 3-Me CON(Et)2 Gal 3-Me CON(Et)2 NAcGal 3-Me CON(Et)2 GlcUA 3-Me CON(Et)2 CON(Et)2 4-Me CON(Et)2 NAcGlc 4-Me CON(Et)2 PivNAcGlc 4-Me CON(Et)2 Glc 4-Me CON(Et)2 Gal 4-Me CON(Et)2 NAcGal 4-Me CON(Et)2 GlcUA 4-Me CON(Et)2 CON(Et)2 3-COOMe CON(Et)2 NAcGlc 3-COOMe CON(Et)2 PivNAcGlc 3-COOMe
【0018】
【表3】
1 (又はR2 ) R2 (又はR1 ) R3 CON(Et)2 Glc 3-COOMe CON(Et)2 Gal 3-COOMe CON(Et)2 NAcGal 3-COOMe CON(Et)2 GlcUA 3-COOMe CONC4H8O CONC4H8O H CONC4H8O NAcGlc H CONC4H8O PivNAcGlc H CONC4H8O Glc H CONC4H8O Gal H CONC4H8O NAcGal H CONC4H8O GlcUA H CONC4H8O CONC4H8O 3-Me CONC4H8O NAcGlc 3-Me CONC4H8O PivNAcGlc 3-Me CONC4H8O Glc 3-Me CONC4H8O Gal 3-Me CONC4H8O NAcGal 3-Me CONC4H8O GlcUA 3-Me CONC4H8O CONC4H8O 4-Me CONC4H8O NAcGlc 4-Me CONC4H8O PivNAcGlc 4-Me CONC4H8O Glc 4-Me CONC4H8O Gal 4-Me CONC4H8O NAcGal 4-Me CONC4H8O GlcUA 4-Me CONC4H8O CONC4H8O 3-COOMe
【0019】
【表4】
1 (又はR2 ) R2 (又はR1 ) R3 CONC4H8O NAcGlc 3-COOMe CONC4H8O PivNAcGlc 3-COOMe CONC4H8O Glc 3-COOMe CONC4H8O Gal 3-COOMe CONC4H8O NAcGal 3-COOMe CONC4H8O GlcUA 3-COOMe
【0020】本発明のエスクレチン誘導体は、例えば、以下に示す方法により製造することができる。すなわち、一般式(XI)
【化11】


(式中、R3 は前記と同じ意味である)で表される化合物、一般式(II)
【化12】


(式中、R3 及びR6 は前記と同じ意味である)で表される化合物、又は一般式(II’)
【化13】


(式中、R3 及びR6 は前記と同じ意味である)で表される化合物と、一般式(X)
【化14】
5 (R4 )NCOX (X)
(式中、Xはハロゲン基であり、R4 及びR5 は前記と同じ意味である)で表される化合物とを反応させることによって調製することができる。
【0021】すなわち、前記一般式(XI)で表される化合物と前記一般式(X)で表される化合物とを反応させることにより、クマリン環の6位及び7位に合計2個のカルバモイル基〔−CON(R4 )R5 〕を有する本発明のエスクレチン誘導体を得ることができる。また、前記一般式(II)で表される化合物と前記一般式(X)で表される化合物とを反応させることにより、クマリン環の6位に単糖類残基又はアシル化された単糖類残基を有し、7位にカルバモイル基を有する本発明のエスクレチン誘導体を得ることができる。更に、前記一般式(II’)で表される化合物と前記一般式(X)で表される化合物とを反応させることにより、クマリン環の6位にカルバモイル基を有し、7位に単糖類残基又はアシル化された単糖類残基を有する本発明のエスクレチン誘導体を得ることができる。その製造方法の代表例を、カルバモイル基〔−CON(R4 )R5 〕が2個の場合と1個の場合とに分けて、以下に詳細に説明する。
【0022】(A)カルバモイル基が2個の場合反応工程式(I)を以下に示す。
【化15】


式中、R3 、R4 及びR5 は前記と同じ意味である。
【0023】本反応工程式(I)の工程1は、エスクレチン又は3−置換若しくは4−置換エスクレチン化合物(XI)とハロゲン化カルバモイル化合物(好ましくは塩化カルバモイル化合物)(X)との反応で、カルバモイル基を6及び7−位に導入した本発明のエスクレチン誘導体(XIII)を得る反応工程である。塩化カルバモイル化合物は、通常試薬として、例えば、東京化成工業株式会社から入手することができる。上記一般式(X)におけるR4 とR5 とがそれらと結合している窒素原子と一緒になって形成した3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基である場合の塩化カルバモイル化合物は、対応する環状アミンとホスゲン等との反応から得ることができる。上記一般式(X)におけるR4 とR5 とがその他の置換基である場合の塩化カルバモイル化合物は、対応するアミンとホスゲン等との反応から得ることができる。
【0024】エスクレチンは、試薬として、例えば、東京化成工業株式会社から入手することができる。3−置換又は4−置換エスクレチン化合物のうち、4−メチルエスクレチンは、試薬として、例えば、東京化成工業株式会社から入手することができる。更に、4−置換エスクレチン化合物は、一般的に、一般式(XII)
【化16】


(式中、R3 は前記と同じ意味である)で表される化合物と無水酢酸と酢酸ナトリウムとを反応させるKostanecki−Robinson反応(T.C.Chadha,H.S.Mahal,J.Chem.Soc.,1933,p.1495参照)により合成することができる。前記一般式(XII) 中でR3 が水素原子である化合物を用いると、同様の反応によりエスクレチンを合成することができる。更に、R3 が水酸基である4−置換エスクレチン化合物を得るには、R3 が保護基Bを有する水酸基−OB、例えばベンジルオキシ基等の化合物を用いて同様の反応により得たエスクレチン誘導体を水素化分解して保護基をはずすことにより合成することができる。この場合、保護基をもつ状態で工程1を行い、後で保護基をはずす方法が好ましい。
【0025】3−置換又は4−置換エスクレチン化合物のうち、3−置換エスクレチン化合物は、一般にサリチルアルデヒドにKnoevenagel反応を行なうと収率よく合成することができる。例えば、E.C.Horning,J.Amer.Chem.Soc.,,968(1947)に記載の
【化17】


で表される反応、又はD.G.Crosby,J.Org.Chem.,27,3083(1962)に記載の
【化18】


で表される反応により、3−置換エスクレチン化合物を得ることができる。
【0026】工程1は、有機溶媒(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、又はジイソプロピルエチルアミン)を用い、適当な塩基(例えば、ピリジン又はトリエチルアミン)の存在下に、10〜100℃で、0.1〜100時間反応させて行うことができる。有機溶媒としてピリジンを用いると、ピリジンは塩基としても作用するので、他に塩基を加える必要がなくて都合がよい。
【0027】(B)カルバモイル基が1個の場合一般式(I)で表される化合物のR1 がカルバモイル基であり、R2 が単糖類残基又はアシル化された単糖類残基であるエスクレチン誘導体を製造する場合の基本的な反応工程式(II)は次の通りである。
【化19】


【0028】上記反応工程式(II)の(2)〜(13)を、以下に工程2〜13として説明する。なお、上記反応工程式(II)は、各化合物の6位と7位の置換基をそれぞれ入れ換えれば、一般式(I)で表される化合物のR2 がカルバモイル基であり、R1 が単糖類残基又はアシル化された単糖類残基であるエスクレチン誘導体を製造する場合の基本的な反応工程式となる。以下、上記反応工程式は、この場合を含むものとして説明する。この反応工程式(II)においては、先ず7位(又は6位)の水酸基を保護した一般式(IV)で表される化合物を合成する。R3 が水素原子の場合、一般式(IV)で表される化合物は、エスクレチンの6位水酸基にグルコースが結合したエスクリン(すなわち7−ヒドロキシ−6−グルコシルオキシクマリン)(IX)又はエスクレチンの7位水酸基にグルコースが結合したシコリイン(すなわち6−ヒドロキシ−7−グルコシルオキシクマリン)を原料にして、まず水酸基を保護基で保護し(工程2)、次いで加水分解(工程3)を行うことにより、得ることができる。エスクリン及びシコリインは天然物であり、試薬として入手可能である。更に、エスクレチンを原料として、以下に記載する工程2と同様の反応工程により、水酸基2個のうち1個を保護基で保護したエスクレチン(IV)を合成することもできる。
【0029】R3 が水素原子以外の場合は、前記のようにして得られる3−置換又は4−置換エスクレチン化合物を原料として、以下に記載する工程2と同様の反応工程により、水酸基2個のうち1個を保護基で保護した3−置換又は4−置換エスクレチン化合物(IV)を合成することができる。例えば、アルコール溶媒中、炭酸カリウム等の塩基触媒存在下に塩化ベンジルと反応させることにより、6位又は7位の水酸基をベンジル基で保護した3−置換又は4−置換エスクレチン化合物を容易に得ることができる。この場合、工程3を実施することなく、6位又は7位の水酸基を保護した化合物(IV)を得ることができる。
【0030】(2)工程2本工程[反応工程式(II)の(2)]は、一般式(IX)で表されるエスクリン化合物(IX)(式中、Glcはグルコース残基を表す)の7位の水酸基に保護基を導入して化合物(VIII)を得る反応工程である。化合物(IX)の代わりに、例えば、シコリインを原料にすれば、6位と7位の置換基が逆の化合物を得ることができる。この反応工程においては、水酸基の保護基Zとハロゲン原子Xからなる化合物ZX(例えば、塩化ベンジル又は塩化ベンジルオキシカルボニル)と化合物(IX)(例えば、エスクリン又はシコリイン)とを有機溶媒中で塩基の存在下に、4〜80℃で、0.5〜48時間反応させて化合物(VIII)を得ることができる。この反応は、キレート剤、例えば、18−クラウン−6−エーテルとヨウ化カリウムの存在下に行うことが好ましい。保護基Zとしては、水素化分解により除去することのできる基(例えば、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基等)を用いることが好ましい。前記有機溶媒として、例えば、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール等を用いることができ、前記塩基として、例えば、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等を用いることができる。
【0031】(3)工程3本工程[反応工程式(II)の(3)]は、7位水酸基を保護したエスクリン化合物(VIII)を加水分解して、7位水酸基を保護したエスクレチン化合物(IV)を得る反応工程である。同様に、6位水酸基を保護したシコリイン化合物を加水分解して6位水酸基を保護したエスクレチン化合物を得ることができる。ハロゲン化水素酸等の酸水溶液及びアルコール等の有機溶媒の混合液と、7位水酸基を保護したエスクリン化合物(VIII)又は6位水酸基を保護したシコリイン化合物とを、40〜120℃、好ましくは加熱還流下に、0.5〜10時間反応させて、化合物(IV)を得ることができる。
【0032】(4)工程4本工程[反応工程式(II)の(4)]は、単糖類のアシル化反応工程である。例えば、単糖類R61OH(VII)(式中、OHは1位の水酸基を表し、R61は1位の水酸基以外に少なくとも1個の遊離の水酸基を有する単糖類残基を表す)と、酸無水物A2 O(式中、Aはアシル基を表す)若しくはハロゲン化アシルAX(式中、Aはアシル基であり、Xはハロゲン原子を表す)とを、ピリジン、水酸化ナトリウム等の塩基の存在下に、必要なら適当な溶媒、例えば、クロロホルム、メタノール、水等を用いて、反応させることにより、アシル化された単糖類R62OA(VI)(式中、R62は基R61の1位の水酸基以外の遊離の水酸基の少なくとも1個がアシル化された単糖類残基を表し、Aは前記と同じ意味である)を得ることができる。反応温度は通常、−20℃〜+50℃、好ましくは室温である。反応時間は通常、1時間〜2日間である。
【0033】(5)工程5本工程[反応工程式(II)の(5)]は、アシル化された単糖類(VI)の1位のアシルオキシ基をハロゲン原子に置換する反応工程である。例えば、ガス状のハロゲン化水素HX(式中、Xはハロゲン原子を表す)を無水酢酸などのカルボン酸無水物A2 O(式中、Aはアシル基を表す)に溶解させて、アシル化された単糖類R62OA(VI)と反応させることにより、1位のアシルオキシ基をハロゲン原子で置換したアシル化された単糖類R62X(V)を得ることができる。反応温度は通常、−20℃〜+50℃、好ましくは室温である。反応時間は通常、0.1時間〜10日間である。
【0034】(6)工程6本工程[反応工程式(II)の(6)]は、単糖類R61OH(VII )から一段階反応で一般式R62X(V)で表される化合物を得る反応工程である。例えば、ハロゲン化アシルAXと単糖類R61OH(VII )とを反応させて一般式R62X(V)で表される化合物を得ることができる。反応温度は通常、4℃〜80℃である。反応時間は通常、0.5時間〜2日間である。なお、以上の工程2、4、5、及び6におけるXは、同一のハロゲンである必要はない。
【0035】(7)工程7本工程[反応工程式(II)の(7)]は、7位(又は6位)の水酸基を保護したエスクレチン化合物(IV)において、6位(又は7位)の保護されていない水酸基にアシル化された単糖類残基R62を導入する反応工程である。例えば、苛性アルカリ水溶液−アセトン溶液等のアルカリ水溶液を含む有機溶媒中で、一般式(IV)で表される化合物と単糖類誘導体(V)とを、4〜80℃で、反応させて一般式(IIIa)で表される化合物を得ることができる。または、クロロホルム、アセトニトリル等の有機溶媒に一般式(IV)で表される化合物と単糖類誘導体(V)を溶解し、この溶液に、苛性アルカリ水溶液に溶解した有機基を有するハロゲン化アンモニウム化合物(相間移動触媒)又はトリエチルアミン等(塩基触媒)を、4〜50℃で、滴下した後、4〜80℃で、0.5時間〜10日間反応させて一般式(IIIa)で表される化合物を得ることができる。この場合、苛性アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができ、有機基を有するハロゲン化アンモニウム化合物としては、例えば、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムを用いることができる。なお、相間移動触媒とは、水層と有機層を自由に移動することのできる試薬である。
【0036】(8)工程8本工程[反応工程式(II)の(8)]は、アシル化された単糖類残基R62及び水酸基保護基Zを有する化合物(IIIa)を水素化分解して、アシル化された単糖類残基R62を有する化合物(IIa )を得る反応工程である。本反応は、パラジウム系又は白金系触媒存在下に、4〜80℃で、0.5〜48時間、水素ガスと反応させて行うことができる。パラジウム系触媒としては、パラジウム−硫酸バリウム又はパラジウム−炭素等を用いるのが好ましい。
【0037】(9)工程9本工程[反応工程式(II)の(9)]は、アシル化された単糖類残基R62及び水酸基保護基Zを有する化合物(IIIa)を脱アシル化して、単糖類残基R61及び水酸基保護基Zを有する化合物(IIIb)を得る反応工程である。例えば、本反応は、一般式(IIIa)で表される化合物をメタノール等の有機溶媒に溶解し、不活性ガス(例えば、窒素ガス又はアルゴンガス)気流中、メタノール等のアルコールに溶解したカリウム又はナトリウム等のアルカリ金属を反応させて行うことができる。反応温度は通常、4〜70℃、反応時間は通常、0.1〜72時間である。
【0038】(10)工程10本工程[反応工程式(II)の(10)]は、単糖類残基R61及び水酸基保護基Zを有する化合物(IIIb)を水素化分解して、単糖類残基R61を有する化合物(IIb)を得る反応である。本反応は、パラジウム系又は白金系触媒存在下に、4〜70℃で、0.1〜48時間、水素ガスと反応させて行うことができる。パラジウム系触媒としては、パラジウム−硫酸バリウム、パラジウム−炭素等を用いるのが好ましい。
【0039】(10’)工程10’(工程10の前処理工程)
化合物(IIIb)の単糖類残基R61を、別の単糖類残基R61に変換(アシル化を除く)してから、工程10を実施すると、別の単糖類残基R61を有する相当する化合物(IIb )を得ることができる。例えば、単糖類残基R61が−CH2 OHを有する場合、この基を酸化して−COOHとすることにより、−COOHを有する別の単糖類残基R61をもつ化合物(IIb )を得ることができる。この例としては、グルコース残基を酸化してグルクロン酸残基とする反応をあげることができる。また、化合物(IIIb)の単糖類残基R61の水酸基をアシル化(例えば、6単糖類残基の6位の水酸基をピバロイル化)し、化合物(IIIa)が担持していたR62とは別のアシル化単糖類残基R62に変換してから、工程10を実施すると、化合物(IIIa)とは別のアシル化単糖類残基を有する化合物(IIb )を得ることができる。単糖類残基R61の水酸基をアシル化する反応は、基本的には工程4と同様にして行うことができる。
【0040】(11)工程11本工程[反応工程式(II)の(11)]は、アシル化された単糖類残基R62を有する化合物(IIa )を脱アシル化して、単糖類残基R61を有する化合物(IIb)を得る反応工程である。本反応は、基本的に前記の工程9と同様にして実施することができる。
【0041】(12)工程12本工程[反応工程式(II)の(12)]は、アシル化された単糖類残基R62を有する化合物(IIa )とハロゲン化カルバモイル化合物(X)とを反応させて、カルバモイル基とアシル化された単糖類残基R62とを有するエスクレチン誘導体(Ia)を得る反応工程である。工程12は、有機溶媒(例えば、ピリジン、トリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミン)を用い、適当な塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン又はアニリン)を存在させてもよく、10〜100℃で、0.1〜100時間反応させて行うことができる。有機溶媒としてピリジンを用いると、ピリジンは塩基としても作用するので、他に塩基を加える必要がなくて都合がよい。
【0042】(13)工程13本工程[反応工程式(II)の(13)]は、工程10において得た単糖類残基R61〔化合物(IIIa)が担持していたR62とは別のアシル化単糖類残基R62の場合を含む〕を有する化合物(IIb )とハロゲン化カルバモイル化合物(X)とを反応させて、カルバモイル基と前記各種の単糖類残基R61とを有するエスクレチン誘導体(Ib)を得る反応工程である。工程13は、基本的に前記の工程12と同様にして実施することができる。なお、単糖類残基R61又はR62がN−アシルアミノ基をもつ場合、さらに脱アシル化反応を行うことによりアシル基を含まないアミノ糖残基R61とカルバモイル基とが結合したエスクレチン誘導体を得ることができる。この反応は、単糖類残基がN−アシルアミノ糖であるエスクレチン誘導体とアルカリ水溶液(好ましくは0.1〜12N−NaOH)とを、40〜120℃で、1〜48時間反応させることにより行うことができる。
【0043】公知の方法を用いることにより、本発明による遊離のエスクレチン誘導体を塩に変え、またある塩を別の塩に変えることができ、更に、本発明によるエスクレチン誘導体の塩を遊離のエスクレチン誘導体に変えることができる。例えば、遊離カルボン酸基を含むN−アセチルグルコサミン基やウロン酸基を結合しているエスクレチン誘導体の場合には、塩を形成させることができる。すなわち、それらのエスクレチン誘導体と等モルの水酸化アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)を作用させると、遊離カルボン酸基をアルカリ塩に変換させることができる。またそれらの塩の水溶液を、塩酸又は硫酸で酸性にすると、遊離化合物にもどすことができる。遊離アミノ基を有する化合物に対しては、有機酸(リンゴ酸、クエン酸、酢酸)などを等量作用させることにより、対応する塩を形成させることができる。無機酸、例えば塩酸又は硫酸を作用させると、塩酸塩又は硫酸塩に導くことができる。この塩にアルカリを作用させると、再び遊離塩基に導くことが可能である。塩は水に可溶であるが、遊離体は難溶であるので、析出させて単離することが可能である。
【0044】反応生成物の精製法としては、抽出、クロマトグラフィー、結晶化、再沈澱等を利用することができる。精製物の構造は、赤外線吸収スペクトル、紫外線吸収スペクトル、核磁気共鳴吸収スペクトル、元素分析、質量スペクトル等により確認することができる。
【0045】本発明のエスクレチン誘導体について毒性を調べた。前記誘導体の代表例を、2000mg/kg(体重)の量で、雄マウス及び雄ラットに経口投与した後、7日間観察したが、死亡例はなく、特筆すべき毒性は見られなかった。本発明のエスクレチン誘導体は、きわめて安全な化合物である(後記実施例13参照)。本発明のエスクレチン誘導体は、マウスFHCモデルにおいて、エスクレチンと比較して、高濃度の化合物がFHC(大腿骨頭軟骨)中に長時間取り込まれ滞留する(後記実施例15参照)。本発明のエスクレチン誘導体は、薬理作用として、マトリックスメタロプロテアーゼ産生阻害作用を有する(後記実施例14参照)。従って、本発明のエスクレチン誘導体又は製剤学的に許容することのできるその塩は、マトリックスメタロプロテアーゼ産生阻害作用により、マトリックス分解を伴う各種疾患の治療のためのマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の有効成分として有用である。これらマトリックス分解を伴う各種疾患の例は、関節症(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腰痛症等)、角膜潰瘍、創傷、肉芽腫、歯周病、皮膚水泡性疾患、糸球体腎炎、肺気腫、骨吸収、腫瘍の湿潤・転移等である。
【0046】本発明のエスクレチン誘導体又は製剤学的に許容することのできるその塩を有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の製剤形態は、一般的な形態でよい。前記誘導体単独、又は前記誘導体と製剤上許容し得る担体若しくは希釈剤との混合物のいずれでも、製剤として使用することができる。製剤中の有効成分の量も限定されるものではないが、例えば、0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜70重量%であることができる。本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤は、経口又は非経口のいずれでも投与することができる。本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の投与量は、対象(哺乳動物、特にはヒト)、年齢、個人差、病状等に依るので、特に限定されないが、例えば、一般にヒトを対象とする場合、本発明のエスクレチン誘導体の経口投与量は、1日当たり0.1〜500mg/kg(体重)、好ましくは0.5〜200mg/kg(体重)であることができる。通常、1日量を、1回又は2〜4回に分けて投与することができる。
【0047】
【作用】本発明によるエスクレチン誘導体は、マトリックスメタロプロテアーゼ産生阻害作用を有するので、マトリックスメタロプロテアーゼが関与する各種の疾患の治療に有効である。例えば、関節症を例にとると、関節症には、慢性関節リウマチ、リウマチ熱、変形性関節症等がある。これらの慢性関節リウマチと変形性関節症では、病因、病態に大きな違いがあるが、いずれも最終的には、軟骨破壊により関節機能が障害される点では共通している。従って、軟骨破壊や組織破壊を抑制することができれば、病態の改善につながる。関節軟骨は、軟骨細胞と軟骨マトリックスから構成されている。軟骨マトリックスは、軟骨細胞が産生する線維性タンパク質であるタイプIIコラーゲンと、タンパク質多糖複合体であるプロテオグリカンとがヒアルロン酸と非共有的に結合し、複雑にからみあうことにより形成された3次元マトリックス構造であり、その中には多量の水分が保持されており、これにより正常の関節機能が維持されている。プロテオグリカンを構成する主な多糖類は、コンドロイチン硫酸とケラタン硫酸からなるグリコサミノグリカンである。慢性関節リウマチや変形性関節症のような病態では、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロムライシン、マトリライシン等のマトリックスプロテアーゼが活性化され、破壊を増大させることが知られている。従って、このマトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤は、それらの疾患に対して有効であると考えられる。
【0048】一方、転移性癌細胞は、異常な増殖性と血管新生誘導能、又は免疫応答からの忌避といった造腫瘍性細胞のもつ基本的な能力に加えて、異常な運動性と接着性、更に、細胞外マトリックス分解酵素の産生、浸潤及び転移部位での増殖、血管新生等の能力を備えている。これらのうち、湿潤、増殖、及び血管新生等のプロセスにおいても細胞外プロテアーゼが積極的に関与していることが明らかになっている。従って、これら細胞外マトリックスプロテアーゼの産生・分泌・活性化を抑える物質は癌の転移防止にも有用であると考えられる。
【0049】本発明によるエスクレチン誘導体においては、エスクレチン化合物の6位及び7位水酸基の両方にカルバモイル基若しくは置換カルバモイル基を有しているか、あるいは6位及び7位水酸基の一方にカルバモイル基若しくは置換カルバモイル基を有し、他方に軟骨マトリックス成分と類似の単糖類を有しているので、生体内利用効率の高いマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤となる。
【0050】
【実施例】以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1:6,7−ビス(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)クマリン[I-1 ]の合成(工程1)エスクレチン(東京化成工業株式会社製)[XI-1](300mg)をピリジン(12ml)に溶解し、塩化N,N−ジメチルカルバモイル(0.62ml)を加えて、60℃に加熱した。同温度で4時間反応後、飽和塩化アンモニウム水溶液(50ml)を加え、クロロホルム(50ml×3)にて抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(kiesel gel 50g;クロロホルム/メタノール=10/1)にて精製し、標記化合物(536.1mg、収率99.4%)を白色固体として得た。
融点:160−161℃質量スペクトル(m/e,EI):320(M+
1H−NMR(DMSO−d6 ,500MHz,δ ppm):3.02 and 3.08(2s,6H,CONMe2 ),6.39(d,1H,H−4),7.26 and 7.38(2s,2H,H−5,H−8),7.63(d,1H,H−3)
IRスペクトル(KBr−disk,ν cm-1):1725s,1390m,1160s,1150s,1130s
【0051】実施例2:7−ベンジルオキシ−6−ヒドロキシクマリン[IV-2]の合成(工程2及び3)ナス型フラスコ(100ml)に、エスクリン(1.0g)、塩化ベンジル(1.0g)、炭酸カリウム(0.7g)、触媒量の18−クラウン−6−エーテルとヨウ化カリウム、及びジメチルホルムアミド(40ml)を加え、この混合物を60℃で8時間攪拌しながら反応させた。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を氷水中に注いだ。析出した結晶を濾取し、メタノールより再結晶して、7−ベンジルオキシ−6−D−グルコシルオキシクマリン〔VIII-2〕〔融点184−186℃、質量スペクトル(M+ )430、収率86.4%〕を得た。化合物〔VIII-2〕(0.6g)を、メタノール(35ml)−10%塩酸(35ml)混液中で、1時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、結晶を濾取して、標記化合物〔IV-2〕(収率90.3%)を得た。
融点:193−195℃質量スペクトル(M+ ):268
【0052】実施例3:2−アセトアミド−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−α−D−グルコピラノース〔VI-2〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程4)ナス型フラスコ(500ml)に、無水酢酸(12.25g)と乾燥ピリジン(18.98g)との混合溶液を加え、次に室温で少しずつN−アセチル−D−グルコサミン〔VII-2 〕(4.43g)を加えた。この溶液を室温で一晩攪拌した。反応液を氷水(150ml)に注いで、エーテル(100ml)で2回抽出した。水層を減圧下、65℃で濃縮乾固して、粗生成物(9.407g)を得た。粗生成物を酢酸エチル(150ml)に溶解し、この溶液を水(5ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、ロータリーエバポレーターで減圧乾固して油状物質を得た。油状物質にエーテルを加えてつき崩すことにより、標記化合物(6.47g,収率83.1%)を白色結晶として得た。
Rf:0.39(酢酸エチル)
融点:185−187℃1H−NMR(CDCl3 ,δ ppm):1.94(s,3H),2.04(s,3H),2.06(s,3H),2.09(s,3H),2.20(s,3H),4.00(m,1H,C5−H),4.07(d,1H,C6−H),4.25(dd,1H,C6−H),4.48(dt,1H,C2−H),5.23(m,2H,C3,4−H),5.72(d,1H,NH),6.17(d,1H,C1−H)
IRスペクトル(KBr,ν cm-1):3360s,3025m,2980m,1740s,1675s,1520s,1425s,1380s,1230s,1130s,1025s,940s,890m,840m
【0053】実施例4:2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−1−クロロ−2−デオキシ−α−D−グルコピラノース〔V-2 〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程5)ナス型フラスコ(50ml)に無水酢酸(6ml)を加えた。この無水酢酸に、0℃で、乾燥塩化水素ガスを吹き込んで飽和させた。重量増加は約1.5gであった。この溶液に、実施例3で調製した2−アセトアミド−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−α−D−グルコピラノース〔VI-2〕(2.0g)を加え、この混合物を室温で6日間攪拌した。反応混合物に塩化メチレン(25ml)を加えて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml)で2回洗浄した。集めた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮して、粗生成物(1.32g)を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー〔直径2.5cm×長さ10.5cm、シリカゲル15g、n−ヘキサン/酢酸エチル(1:4)〕により分離精製して、標記化合物(871.7mg、収率46.4%)を白色結晶として得た。
Rf:0.67(酢酸エチル)
融点:125−126℃質量スペクトル(m/e):731(2M+1),356(100),324,306,228,168,1501H−NMR(CDCl3 ,δ ppm):1.99(s,3H),2.06(s,6H),2.11(s,3H),4.14(d,1H,C5−H),4.28(m,2H,C6−H),4.54(dt,1H,C2),5.22(t,1H,C4−H),5.33(t,1H,C3−H),5.98(d,1H),6.19(d,1H,C1−H)
IRスペクトル(KBr,ν cm-1):3300w,1750s,1650m,1550m,1440m,1380m,1295m,1235s,1215s,1120m,1035m,980w,918w,895w
【0054】実施例5:2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−1−クロロ−2−デオキシ−α−D−グルコピラノース〔V-2 〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程6)ナス型フラスコ(200ml)に塩化アセチル(25ml)を入れ、攪拌しながら、N−アセチル−D−グルコサミン〔VII-2 〕(12.5g)を少しずつ加えた。4時間後、反応液は発熱して、ゆるい還流が起こった。反応液を一晩攪拌すると淡赤色の粘稠な固体となった。この固体に塩化メチレン(100ml)を加えてこの固体を溶解し、溶液を冷たい飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。集めた有機層を蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮して、粗生成物(23.8g)を得た。粗生成物をエーテルから結晶化して、標記化合物(16.0g、収率77%)を白色結晶として得た。
【0055】実施例6:6−(β−2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIa-2〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程7)ナス型フラスコ(25ml)に、前記実施例4又は5で調製した2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−1−クロロ−2−デオキシ−α−D−グルコピラノース〔V-2 〕(914.5mg)、前記実施例2で調製した7−ベンジルオキシ−6−ヒドロキシクマリン〔IV-2〕(335.5mg)、及びクロロホルム(10ml)を入れて、懸濁液とした。この懸濁液に、1.25N−NaOH(12.5ml)に溶かした塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(113.9mg)を加えて、アルゴン雰囲気下、3時間還流した後、室温まで放冷した。反応混合物を塩化メチレン(40ml)で希釈した後、有機層を分離した。水層を塩化メチレン(20ml)で抽出した。集めた有機層を飽和食塩水(10ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮して、粗生成物(1.16g)を得た。粗生成物をメタノール/塩化メチレンで処理して、標記化合物(150.4mg、収率21.1%)を白色針状結晶として得た。
Rf:0.56(酢酸エチル)
融点:224−227℃質量スペクトル(m/e):597,537,523,419,329,268,209,167,125(100)
1H−NMR(CDCl3 ,δ ppm):1.54(s,3H),2.02(s,3H)、2.03(s,3H),2.04(s,3H),3.07(m,1H,C5−H),4.14(m,2H,C−6,C2−H),4.26(dd,1H,C6−H),5.04(d,1H,C1−H),5.13(s,2H,benzyl),5.11(q,1H,C4−H),5.23(t,1H,C3−H),6.29(d,C3),6.92(s,1H),7.26(s,1H),7.46(m,5H),7.59(d,C4)
IRスペクトル(KBr,ν cm-1):3300m,2975w,2900w,1740s,1660s,1620s,1555m,1520m,1440m,1380s,1230s,1180m,1140m,1120m,1060s,1040s,930m,900m,870m,810s,730m
【0056】実施例7:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIb-2〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程9)ナス型フラスコ(100ml)に、前記実施例6で調製した6−(β−2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIa-2〕(351mg)とメタノール(90ml)を入れ、懸濁液とした。この懸濁液に、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28%)を5滴加えて、40℃まで加熱し、攪拌した。反応液は、10分後に透明となり、20分後に白色沈澱を生じた。反応液を室温で1.5時間攪拌後、0.1N−HClで中和した。沈澱をグラスフィルターで濾取し、メタノールで洗浄後、減圧下に乾燥して、標記化合物(262.6mg、収率95.1%)を白色針状結晶として得た。
融点:244−246℃Rf:0.73(クロロホルム/メタノール/水(7:3:0.5))
質量スペクトル(m/e):472(M+1),382,269,253,204,185,168,138,911H−NMR(d6 −DMSO,δ ppm):1.73(s,3H,N−Ac),3.23(q,1H),3.43(t,1H),3.51(m,1H),3.73(q,2H),5.02(d,1H),5.25(s,2H,benzyl),6.30(d,1H,coumarin),7.12(s,1H,coumarin),7.31(t,1H,para−benzyl),7.39(t,2H,meta−benzyl),7.43(s,1H,coumarin),7.48(d,2H),7.79(d,1H,AcNH),7.89(d,1H,coumarin)
IRスペクトル(KBr,ν cm-1):3405s,3275m,2900w,1750s,1665s,1615m,1540m,1430m,1390m,1380m,1310s,1270s,1240w,1175m,1110m,1090s
【0057】実施例8:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ヒドロキシクマリン〔IIb-2 〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程10)ナス型フラスコ(100ml)に、前記実施例7で調製した6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIb-2〕(315.5mg)と15%の含水ジメトキシエタン(60ml)を入れ、溶液とした。この溶液に10%パラジウム−炭素(以下、Pd/Cと称する )(24mg)を触媒として加えて、この混合物を水素雰囲気下、室温で1時間攪拌した。反応混合物から、減圧下溶媒を除去して、灰色の粉末を得た。この粉末に、水/テトラヒドロフラン/メタノール(5:1:0.2)混合液(435ml)を加え、75℃に加熱して溶解した。触媒を濾別し、濾液を50mlまで濃縮した後、冷蔵庫に一晩放置し、標記化合物(228.0mg、収率89.3%)を白色針状結晶として得た。Rf:0.56(クロロホルム/メタノール/水(7:3:0.5))
融点:265−266℃元素分析 C17199 Nとして実験値: C 53.25, H 4.91, N 3.55理論値: C 53.55, H 5.02, N 3.671H−NMR(CDCl3 ,δ ppm):1.83(s,3H),3.23(t,1H,C3−H),3.35(m,1H),3.48(t,1H),3.52(m,1H),5.00(d,1H,C1−H),6.24(d,1H,coumarin),6.83(s,1H,coumarin),7.36(s,1H,coumarin),7.88(d,1H)
IRスペクトル(KBr,ν cm-1):3375s,3240w,2930w,1640s,1665s,1600s,1550m,1405m,1275m,1255m,1225w,1172w,1140w,1120m,1085m,1042m,1025w,995m,930m,890m,861m,820m
【0058】実施例9:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2〕の合成(糖成分がグルコサミンの場合の工程13)前記実施例8で調製した6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ヒドロキシクマリン〔IIb-2 〕(7.30g)をピリジン(365ml)に懸濁した。この懸濁液に塩化N,N−ジメチルカルバモイル(1.85ml)を加え、60℃で一昼夜攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にエタノールを加えて加熱した。熱時濾過によりピリジン塩酸塩を除き、続いてエタノールより再結晶して、標記化合物(4.80g、収率55.4%)を白色固体として得た。
融点:148.0−149.0℃質量スペクトル(EI、m/e):453(M+1)
1H−NMR(DMSO−d6 ,500MHz,δ ppm):1.79(s,3H,Ac),2.90and3.01(2s,6H,Me2 NCO),3.22−3.28(m,H−4’),3.34−3.41(m,2H,H−3’,H−5’),3.50−3.56(m,1H,H−6b’),3.70−3.79(m,2H,H−2’,H−6a’),4.59(t,1H,6’−OH),4.98(d,1H,H−1’),5.05(d,1H,3’−OH),5.12(d,1H,4’−OH),6.46(d,1H,H−4’),7.25and7.44(2s,2H,Ar),7.69(d,1H,NHAc),7.98(d,1H,H−3)
IRスペクトル(KBr−disk,ν cm-1):3550s,3450s,1745s,1725s,1170m,1100m
【0059】実施例10:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIb-2p 〕〔糖成分がグルコサミンの場合の工程10’(アシル基1個の導入)
前記実施例7で調製した6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIb-2〕(10.0g)を無水ピリジン(200ml)に懸濁し、無水ピバリン酸(4.74g)及び4−ジメチルアミノピリジン(2.59g)を加え、室温で3日間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔Kiesel gel 60(500g),クロロホルム/メタノール=15/1〕により精製し、標記化合物(9.11g、収率77%)を白色固体として得た。
融点:179.5−182.0℃質量スペクトル(m/e,FAB):556(M+1)
1H−NMR(CDCl3 ,500MHz,δ ppm):1.06(s,9H,tBu),1.76(s,3H,CH3 CO−),3.24(td,1H,H−4’),3.48(br q,1H,H−3’),3.57−3.61(m,1H,H−5’),3.72(q,1H,H−2’),4.05(dd,1H,H−6’a),4.36(d,1H,H−6’b),5.12(d,1H,H−1’),5.18(d,1H,3’−OH),5.24(d,1H,PhCH2−),5.27(d,1H,PhCH2 −),5.38(d,1H,4’−OH),6.31(d,1H,H−4),7.18(s,1H,H−5)
IRスペクトル(KBr disk,ν cm-1):3400m,1725s,1655m,1615m,1275s
【0060】実施例11:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ヒドロキシクマリン〔IIb-2P〕(糖成分がグルコサミンの場合の工程10類似の工程)前記実施例10で調製した6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ベンジルオキシクマリン〔IIIb-2P 〕(532mg)をジメトキシエタン(16ml)に溶解し、10%Pd/C(30mg)を加え、この混合物を水素雰囲気下で室温で3時間攪拌した。反応終了後、濾過により触媒を除去し、溶媒を減圧留去することにより淡黄色固体(443mg)を得た。この固体を熱水から再結晶し、標記化合物(358mg、収率77%)を白色針状結晶として得た。
融点:133.0−136.0℃質量スペクトル(m/e,FAB):466(M+1)
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz,δ ppm):1.06(s,9H,tBu),1.84(s,3H,CH3 CO−),3.23(td,1H,H−4’),3.53(br q,1H,H−3’),3.57−3.61(m,1H,H−5’),3.62(q,1H,H−2’),4.04(dd,1H,H−6’a),4.39(d,1H,H−6’b),5.07(d,1H,H−1’),5.19(d,1H,3’−OH),5.38(d,1H,4’−OH),6.24(d,1H,H−4),6.81(s,1H,H−5),7.28(s,1H,H−8),7.90(d,1H,H−3),7.94(d,1H,−NHCOCH3 ),9.91(br s,1H,ArOH)
IRスペクトル(KBr disk,ν cm-1):3400s,1720s,1650s,1620s,1565s,1300s,1280s,1255s,1170m,1140m,1070s
【0061】実施例12:6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−カルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2P 〕(糖成分がグルコサミンの場合の工程13類似の工程)前記実施例11で調製した6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−ヒドロキシクマリン〔IIb-2P〕(618mg)をピリジン(25ml)に溶解した。この溶液に塩化N,N−ジメチルカルバモイル(146mg)を加え、70℃で5.5時間反応させた。反応混合物を減圧濃縮し、残渣(固体)を得た。この固体を水から再結晶して、標記化合物(370mg、収率52%)を白色結晶として得た。
Rf:0.39(クロロホルム/メタノール(10:2))
融点:244−245℃(分解)
質量スペクトル(m/e,FAB):537(M+1)
1H−NMR(DMSO−d6 ,500MHz,δ ppm):1.11(s,9H,(CH33 C−),1.80(s,3H,CH3 CO−),2.90(s,3H,(CH32 N−),3.02(s,3H,(CH32 N−),3.23(m,1H,H−4’),3.40(m,1H,H−3’),3.72(m,1H,H−5’),3.76(m,1H,H−2’),4.03(dd,1H,H−6’a),4.39(d,1H,H−6’b),5.07(d,1H,H−1’),5.17(d,1H,3−OH),5.41(d,1H,4−OH),6.48(d,1H,H−4),7.26(s,1H,H−5),7.44(s,1H,H−8),7.73(d,1H,−CONH−),7.92(d,1H,H−3)
IRスペクトル(KBr−disk,ν cm-1):3375s,2970w,2915w,2875w,1740s,1720s,1655m,1545m,1430m,1380m,1285s,1260m,1170s,1140m,1090m,1050m
【0062】実施例13:エスクレチン誘導体の急性毒性試験本発明のエスクレチン誘導体の急性毒性について、Crj:CD−1(ICR)雄性マウス(6週齢)及びWistar雄性ラット(6週齢)を用いて検討した。6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2〕(実施例9)を1,000及び2,000mg/kgの量で経口投与した後、7日間観察したところ、死亡例は観察されなかった。また、一般状態及び体重変化に関しても、対照群と比較して何等変化は観察されなかった。他の本発明のエスクレチン誘導体、すなわち、6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−ピバロイル−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−カルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2P 〕についても同様であった。なお、本実験においては各群2匹の動物を使用した。
【0063】実施例14:ウサギ軟骨器官培養系における間質型コラゲナーゼ(MMP−1)の産生阻害作用ウサギ(ニュージーランドホワイト、雄、6週齢)の肩及び膝の関節軟骨を採取し、細片した後、0.2%ラクトアルブミン含有ダルベッコMEM培養液を用いて試験を開始した。試験薬剤を、ジメチルスルオキシド(DMSO)に溶解した後、培養液に添加した。DMSOの濃度は、培養液に対して0.25重量%とした。薬剤添加2時間後に、刺激剤としてインターロイキン−1α(以下、IL−1αと称する)を100unit/ml添加し、次いで48時間培養を行った。培養後の培養上清を用いて、MMP−1の活性を測定した。MMP−1の測定には、コラーゲン技術研修会製のコラゲノキット(CLN−100)を用いた。なお、結果については、1群につきn=4で試験して、その平均値±標準誤差で表示した。本発明のエスクレチン誘導体としては、6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2〕を用いた。結果を図1に示す。図1の横軸は、IL−1αのみを添加した時のMMP−1の産生量に対する、IL−1α及び薬剤の両方を添加した時のMMP−1産生量の割合(%)である。コントロールは、IL−1αも薬剤も添加しない場合であり、MMP−1はほとんど産生しなかった。IL−1αのみを添加すると、MMP−1が産生された。これに対して、本発明のエスクレチン誘導体〔Ib-2〕はIL−1αのみを添加した時のMMP−1産生量を抑制している。
【0064】実施例15:マウスFHCモデルにおける薬物動態学的解析(1)モデルの作製本モデルの作製は、D.A.Willoughby等の方法を用いて行った(D.A.Willoughby et al.,Agents Actions,vol.38,p.126−134,1993参照)。S.D.系雄性ラットの左右の大腿骨頭軟骨(以下、FHCと称する)を、クリーンベンチ内で無菌的に摘出した。摘出したFHCを、抗生物質を含むHamF−12培養液で洗い、湿重量を測定した。重量測定後、FHCを約1cm四方のコットン2枚に包み、埋め込み時まで培養液中で氷冷した。このFHCを、背部を剃毛したBALB/C雌性マウスの背部皮下に無菌的に埋め込み、切開部位を縫合後、手術用瞬間接着剤(商品名:アロンアルファー、東亜合成社製)で完全に塞いだ。
【0065】(2)エスクレチン及び6−(β−2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシルオキシ)−7−(N,N−ジメチルカルバモイルオキシ)クマリン〔Ib-2〕投与後のFHC中での薬物動態学的解析上記マウスFHCモデルを用い、薬物動態学的にエスクレチンと本発明のエスクレチン誘導体[Ib-2]との比較を行った。エスクレチン187mg/kg又はそれと等モル量の本発明のエスクレチン誘導体[Ib-2]534mg/kgを、FHC埋め込み3日後に、経口投与した。投与後、経時的にFHCを回収してパパインで分解後、FHCに取り込まれた薬剤量を高速液体クロマトグラフィーで分析した。なお、本実験においては各群3匹のマウスを使用した。結果を図2に示す。図2で本発明のエスクレチン誘導体[Ib-2]を投与した時の取り込み量を●、エスクレチンを投与した時の取り込み量を○で示す。図2に示すように、本発明のエスクレチン誘導体[Ib-2]の方が、エスクレチンと比較して高濃度の化合物がFHC中に長時間取り込まれ、滞留することが明らかとなった。
【0066】
【発明の効果】本発明の新規エスクレチン誘導体又はその塩は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用を有する。本発明の新規エスクレチン誘導体又はその塩は、エスクレチン、4−アルキルエスクレチン等と比較して、軟骨マトリックスへの取り込みや親和性及び局所での薬物の滞留性が向上し、生体内利用効率が高く、更に低毒性である。従って、本発明のエスクレチン誘導体又はその塩は、広くマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤として、癌の浸潤・転移、糸球体腎炎、骨吸収症、関節症(例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、腰痛症等)、角膜潰瘍、創傷、肉芽腫、歯周病、皮膚水泡性疾患、肺気腫等の治療に極めて有用な用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本明細書の実施例14で行ったウサギ軟骨器官培養系における間質型コラゲナーゼ(MMP−1)の産生抑制作用を示すグラフである。IL−1αのみを添加した時のMMP−1の産生量を100%として、それに対するIL−1α及び供試化合物の両方を添加した時のMMP−1の産生量の割合(%)で示してある。
【図2】本明細書の実施例15で行ったマウスFHCモデルにおける、大腿骨頭軟骨(FHC)中への本発明化合物又はエスクレチンの各取り込み量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)
【化1】


〔式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立に、−CON(R4 )R5 、単糖類残基、又はアシル化された単糖類残基であって、R1 又はR2 の少なくとも1方は−CON(R4 )R5 であるものとし、R4 及びR5 はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基若しくはアラルキル基であるか、又はR4 とR5 とはそれらが結合している窒素原子と一緒になって3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基を形成していることができるものとし、R3 は−COOR8 、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であって、R3 の結合位置は3位又は4位であることができるものとし、R8 は水素原子又はアルキル基である〕で表されるエスクレチン誘導体又はその塩。
【請求項2】 一般式(XI)
【化2】


(式中、R3 は−COOR8 、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、R8 は水素原子又はアルキル基である)で表される化合物、一般式(II)
【化3】


(式中、R3 は前記と同じ意味であり、R6 は単糖類残基又はアシル化された単糖類残基である)で表される化合物、又は一般式(II’)
【化4】


(式中、R3 及びR6 は前記と同じ意味である)で表される化合物と、一般式(X)
【化5】
5 (R4 )NCOX (X)
(式中、Xはハロゲン基であり、R4 及びR5 はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基若しくはアラルキル基であるか、又はR4 とR5とはそれらが結合している窒素原子と一緒になって3〜7員の飽和脂肪族環状アミノ基を形成していることができるものとする)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、請求項1に記載の一般式(I)で表されるエスクレチン誘導体又はその塩の製造方法。
【請求項3】 請求項1に記載の一般式(I)で表されるエスクレチン誘導体又は製剤学的に許容することのできるその塩を含むことを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平8−183785
【公開日】平成8年(1996)7月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−340016
【出願日】平成6年(1994)12月28日
【出願人】(000001100)呉羽化学工業株式会社 (477)