説明

エステル化反応物およびそれを用いた塗布用水溶液

【課題】水に対する溶解性が高く取扱が容易なエステル化反応物及び当該エステル化反応物を用いた新規な防曇用又は帯電防止用の塗布液を提供する。
【解決手段】(1)触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、エステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量200〜1000のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物、(2)当該エステル化反応物を水溶液とした防曇用又は帯電防止用の塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル化反応物、およびその水溶液を用いた防曇又は帯電防止処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂フィルム、シートの防曇、帯電防止に水溶性のオリゴマーやポリマーを塗布することが行われている。例えば、スチレン系樹脂シートに、界面活性剤1重量部に対して、ショ糖脂肪酸エステルを0.1〜10重量部混合してなる液を塗布する方法、(例えば特許文献1参照)、ポリオレフィン系フィルムまたはシートにショ糖脂肪酸エステルを存在させる方法(例えば特許文献2参照)、ポリエステルフィルム表面にデカグリセリンラウリレートを代表とするポリグリセリン脂肪酸エステル表面に塗布する方法(例えば特許文献3参照)等が提案されている。しかしながら、従来用いられている水溶性オリゴマーまたはポリマーの多くは常温で固体またはペースト状で、水に溶解する際に気泡を生じやすく液の供給安定性に問題が生じる等、取り扱い上好ましくない。
【0003】
一方、スチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂を混合する際に使用するポリエーテルポリエステル系帯電防止剤として、有機スルホン酸型界面活性剤(具体的には有機スルホン酸と塩基とから構成される)、フェノール系酸化防止剤およびポリエーテルポリエステルからなる組成物が提案されている。(例えば特許文献4参照)しかしながら、上記ポリエーテルポリエステル系帯電防止剤の場合、特に、精密電子部品等においては、塩基として含有されているナトリウム、カリウム等のアルカリ金属による金属汚染の懸念がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭59−19584号公報
【特許文献2】特開昭54−99180号公報
【特許文献3】特許3405097号公報
【特許文献4】特開2005−139312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、比較的安価で水に対する溶解性が高く、取扱が容易なエステル化反応物、当該エステル化物を含有する塗布用水溶液及びこの水溶液を用いた新規な防曇用又は帯電防止用の塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、以下に記載の骨子を有するものである。
(1)触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の割合が1.2〜2.5モル比の条件下にエステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量(特に記載ない限り、数平均分子量を意味する。以下同じ)200〜1000のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物。
(2)多価カルボン酸成分が、脂肪族多価カルボン酸又は芳香族多価カルボン酸から選ばれた1種又は2種以上のものであることを特徴とする(1)に記載のエステル化反応物。
(3)多価カルボン酸成分が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびこれらの無水物からなる郡から選ばれた1種又は2種以上のものであることを特徴とする(1)に記載のエステル化反応物。
(4)触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の割合が1.2〜2.5モル比の条件下にエステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価カルボン酸成分の少なくとも50重量%以上がコハク酸であり、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量1000以下のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物。
(5)エステル化反応物の平均分子量が400〜4000であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のエステル化反応物。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載のエステル化反応物を含有する水溶液であって、エステル化反応物中に残存する金属成分を濾過又は吸着処理により除去してなるエステル化反応物の水溶液。
(7)(6)に記載の水溶液を用いた、防曇用又は帯電防止用の塗布液。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエステル化反応物は、水に対する溶解度が高く、多価カルボン酸成分の少なくとも50%以上をコハク酸とすることによって、より水に対する溶解度の高いエステル化反応物を得ることができる。また、本発明は、残留する触媒由来の金属成分を、エステル化反応物またはその水溶液から除去することで、塗布用水溶液として使用したときに均一な塗布面が得られ、優れた防曇性あるいは帯電防止効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
「エステル化反応物」
本発明のエステル化反応物は、触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の割合が1.2〜2.5モル比の条件下にエステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量200〜1000のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物である。
【0009】
本発明において、多価カルボン酸成分としては、2価または3価の脂肪族または芳香族カルボン酸が挙げられ、多価アルコール成分としては脂肪族多価アルコールが挙げられる。本発明における多価カルボン酸成分の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸或いはこれらの無水物等が挙げられる。これらは単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。一方、多価アルコール成分の必須成分としては、分子量200〜1000のポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール)である。ポリオキシエチレンの分子量が200未満の場合、得られるエステル化反応物の水溶性が低下するため好ましくなく、分子量が1000を超えるとエステル化反応速度が著しく遅くなり、好ましくない。なお、多価カルボン酸成分の少なくとも50重量%以上がコハク酸である場合においてはエステル化反応物の水溶性が高くなるため、必須多価アルコール成分の許容範囲が広がり、分子量200未満、例えば分子量150のポリオキシエチレンを用いることも可能である。例えば、コハク酸とトリエチレングリコール(分子量150)の組み合わせでも水溶性が十分確保される。
【0010】
また、ポリオキシエチレンの使用量としては、多価アルコール成分の50重量%以上が好ましく、多価アルコール成分の全量をポリオキシエチレンとしても良い。ポリオキシエチレンの使用量が50重量%未満の場合、得られるエステル化反応物の水に対する溶解度が低くなるため好ましくない。ポリオキシエチレンと併用できる多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチルペンタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0011】
多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の仕込みモル比としては、好ましくは1.2〜2.5の範囲、さらに好ましくは1.3〜2.0の範囲である。多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の仕込みモル比が1.2未満の場合は得られるエステル化反応物の粘度が著しく大きくなり、水溶性確保や取り扱い上から好ましくなく、2.5以上では組成物中の未反応アルコールが増大して好ましくない。
【0012】
本発明のエステル化生成物を得るエステル化反応は、一般的なポリエステルポリオールを製造する条件が採用され、触媒の存在下、通常、150〜250℃、より好ましくは180〜230℃の範囲で行われる。例えば、150℃で反応を開始し、反応の進行に伴って230℃まで徐々に昇温するような条件であれば、反応を制御し易い。
【0013】
また、本発明のエステル化反応における反応圧力は常圧でも構わないが、副生する水を系外に除去し、反応を速やかに完結させるために反応の進行に伴って、徐々に減圧すると良い。ただし、反応時の減圧度が不足するとエステル化反応の完結度が低くなり、酸価の高いエステル化反応物が生成してしまう。一方、反応時に過度に減圧してしまうと、多価アルコール成分が系外に留去され収率を損なうばかりか、高分子量のエステル化反応物を形成し、得られたエステル化反応物の粘度を著しく上昇させてしまい取り扱いが困難となる。従って、適切な到達反応圧力は、反応温度によっても異なるが、例えば、反応温度が200℃の場合においては、圧力は、通常、2kPa以上、好ましくは5kPa以上で、通常、50kPa以下、好ましくは30kPa以下であるが、目標とするエステル化反応物の粘度や水酸基価、用いる多価カルボン酸成分や多価アルコール成分の種類、使用量によっては、上記の圧力範囲以外の条件で反応を行っても構わない。また、減圧する代わりに、トルエン、キシレン等の有機溶媒を少量併用して、副生する水を系外に共沸させて除去しても構わない。
【0014】
このエステル化反応では、一般に、酸触媒が用いられ、具体的には、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステルや、ジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物や、酸化亜鉛等の金属化合物が挙げられるが、特にチタン系触媒が多用され、テトライソプロポキシチタネートが最も汎用の触媒である。
【0015】
上記のようにして得られたエステル化反応物は水溶性であり、25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上のものが得られる。また、エステル化反応生成物の平均分子量としては、水に対する溶解度や耐熱性、取り扱いの観点から400〜4000のものが好ましく、400未満では、耐熱性が劣る等の理由で好ましくなく、また、4000を超えると粘度が著しく高くなり、取り扱いが困難になる等の理由で好ましくない。
【0016】
本発明のエステル化反応物には、上記の様にして得られたエステル化反応物と共に、若干の未反応の多価カルボン酸成分と多価アルコール成分、及び触媒由来の金属成分等が含まれる。エステル化反応において、触媒は通常、0.01〜0.1%程度用いられ、このためエステル化反応物中に金属成分として20〜200ppm残留することになるので、本発明の目的においては、この金属成分を除去することが好ましい。
【0017】
「エステル化反応物に残留する触媒起因金属成分の除去」
エステル化反応物に残留する触媒由来の金属成分の除去法としては、活性炭やイオン交換樹脂による吸着除去が可能であるが、例えば有機スズ触媒やテトライソプロポキシチタンのような有機チタン触媒が用いられている場合は、少量の水を添加して金属酸化物または水酸化物とし、余剰の水を減圧留去後、濾過分離で金属分を除去することも可能である。また、水溶液として放置すると、金属酸化物(または水酸化物)が析出するので、これを濾過分離あるいは遠心沈降分離してもよい。
【0018】
「エステル化反応物水溶液を用いた塗布液」
本発明の塗布液は基本的には水系であるが、エタノール、イソプロパノール等の低沸点水溶性有機溶媒を併用してもよい。また、界面活性剤等他の添加剤を添加することも可能である。塗布液中のエステル化反応物濃度は特に限定されず、使用上の都合に合わせればよいが、通常は10〜40%程度の濃度で使用される。
【0019】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない。また、実施例中「部」は、「重量部」を意味する。
「エステル化反応物の合成」
【実施例1】
【0020】
無水フタル酸22.1部、ポリエチレングリコール400を79.3部、触媒としてテトライソプロポキシチタネート0.05部を用いてエステル化反応を行い、エステル化反応物Aを100部得た。得られたエステル化反応物の水に対する溶解度は50g/100g水(25℃)以上、チタン含有量は110ppmであった。
【実施例2】
【0021】
コハク酸40.4部、トリエチレングリコール71.9部、触媒としてテトライソプロポキシチタネート0.02部を用いてエステル化反応を行い、エステル化反応物Bを100部得た。得られたエステル化反応物の水に対する溶解度は50g/100g水(25℃)以上、チタン含有量は42ppmであった。
【0022】
「比較例1」
無水フタル酸46.1部、ジエチレングリコール59.5部、触媒としてテトライソプロポキシチタネート0.05部を用いてエステル化反応を行い、エステル化反応物Cを100部得た。得られたエステル化反応物の水に対する溶解度は1g/100g水(25℃)以下、チタン含有量は105ppmであった。
【0023】
「エステル化反応物からのチタン除去」
各エステル化反応物について、100gに水1.0gを加え、95℃攪拌で10分間攪拌後、150℃で水を減圧留去し、濾過によって固形分を除去した。その結果、エステル化反応物中のチタンは以下のようになった。また、本処理後のポリエステル系ポリオールには名前の末尾にそれぞれTを付した。
【0024】
【表1】


【0025】
「水溶液の評価」
それぞれのエステル化反応物の20%水溶液を調整し、水溶液が透明になるかどうかを調べた結果、以下のようになった。なお、濁りは固形分(酸化チタン)あるいは2液層液/液分散状態で生じている。
【0026】
【表2】

【0027】
「水溶液塗布試験」
非延伸PETフィルムをコロナ処理(春日電機社製AGI−020Sを使用)して、表面張力を70mN/mに調整した。これに各種エステル化反応物の20重量%水溶液をスプレー噴霧し、80℃で乾燥する試験を行い、以下の結果を得た。なお、塗布試験は(1)各エステル化反応物の水溶液、(2)各エステル化反応物の水溶液中の不溶分を濾過処理により除去したもの、(3)各エステル化反応物中の触媒由来の金属成分を除去した後水溶液としたものについて行った。
【0028】
【表3】

【0029】
以上より、本発明の水溶性エステル化反応物を用い、さらにチタン等の触媒に由来する金属成分を除去すれば、均一な水溶液の塗膜が得られ、乾燥後もその均一性が保持することができ、また、防曇性、帯電防止効果も認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の割合が1.2〜2.5モル比の条件下にエステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量200〜1000のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物。
【請求項2】
多価カルボン酸成分が、脂肪族多価カルボン酸又は芳香族多価カルボン酸から選ばれた1種又は2種以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のエステル化反応物。
【請求項3】
多価カルボン酸成分が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびこれらの無水物からなる郡から選ばれた1種又は2種以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のエステル化反応物。
【請求項4】
触媒の存在下、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、多価カルボン酸成分に対する多価アルコール成分の割合が1.2〜2.5モル比の条件下にエステル化反応して得られるエステル化反応物であって、多価カルボン酸成分の少なくとも50重量%以上がコハク酸であり、多価アルコール成分の少なくとも50重量%以上が分子量1000以下のポリオキシエチレンであり、当該エステル化反応物の25℃における水に対する溶解度が5g/100g水以上であることを特徴とするエステル化反応物。
【請求項5】
エステル化反応物の平均分子量が400〜4000であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエステル化反応物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエステル化反応物を含有する水溶液であって、エステル化反応物中に残存する金属成分を濾過又は吸着処理により除去してなるエステル化反応物の水溶液。
【請求項7】
請求項6に記載の水溶液を用いた、防曇用又は帯電防止用の塗布液。



【公開番号】特開2007−161972(P2007−161972A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364097(P2005−364097)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】