説明

エタノール水の燃焼装置および方法

【課題】 エタノール水を容易に燃焼させることができるようにする。
【解決手段】 第1のエタノール水11を加熱して、エタノール蒸気と水蒸気とを含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置2を具備し、この分離装置2にて得られたエタノール蒸気と水蒸気とを含む蒸気を燃焼させる燃焼手段6を具備する。また、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気と水蒸気とを含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置を具備し、この分離装置にて得られたエタノール蒸気と水蒸気とを含む蒸気を冷却して第3のエタノール水を造る手段を具備し、この第3のエタノール水を燃焼させる燃焼手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエタノール水の燃焼装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ・エタノールは、COに関して再生可能な燃料である。すなわち、バイオ・エタノールを燃やせばCOが発生するが、このCOは樹木の光合成によってその樹木に吸収されるので、COは循環するだけである。つまり、植林を行えば、COの発生量は0である。そこで、バイオ・エタノールを化石燃料に混ぜて、燃焼時に実質的に排出されるCOを削減しようとする研究が行われている(特許文献1)。
【0003】
しかし、エタノールをボイラなどにおいて燃料として利用する場合に、エタノールは引火点が13℃と低いため取扱いが危険である。このため、冷却して安全性を高めるなどの措置が講じられている。またエタノールに水をたとえば質量比で(エタノール):(水)=55:45に混合してエタノール水とすると、引火点は21℃以上となり、危険性が低下する。ところが、水分が45%と多いエタノール水を燃焼させることは困難である。このため、たとえばこのエタノール水に重油を混ぜ、水分を減らして燃焼させることが検討されている。しかし、この場合に、エタノール水と重油との混合は困難で、また混合してもすぐに分離してしまうと考えられる。
【特許文献1】特開2004−22591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、エタノール水を容易に燃焼させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため本発明の装置は、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置を具備するとともに、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を燃焼させる燃焼手段を具備するものである。
【0006】
本発明によれば、上記において、分離装置は、加圧型であって、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気に圧力を持たせて燃焼手段に供給可能とされていることが好適である。
【0007】
また本発明の装置は、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置を具備し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を冷却して第3のエタノール水を造る手段を具備し、この第3のエタノール水を燃焼させる燃焼手段を具備するものである。
【0008】
本発明によれば、上記において、第3のエタノール水を造る手段は、加圧型であって、第3のエタノール水に圧力を持たせて燃焼手段に供給可能とされていることが好適である。
【0009】
本発明の方法は、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を燃焼させるものである。
【0010】
また本発明の方法は、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を冷却して第3のエタノール水を造り、この第3のエタノール水を燃焼させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む混合状態の蒸気またはこれを冷却した第3のエタノール水を得るものであるため、この蒸気または第3のエタノール水は、元の第1のエタノール水よりも水分を減らしてエタノール分を増やしたものとなる。したがって、エタノール水を、重油などと混合させることなしに、容易かつ良好に燃焼させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1はエタノール水の気液平衡図であり、横軸はエタノールのモル分率、縦軸は温度である。エタノールと水とは完全に混合するので、その気相線Aと液相線Bとは図示のようになる。エタノールのモル数はエタノールの質量をエタノールの分子量(46kg)で割り算した値であり、そのモル分率は、[エタノール+水]を1としてエタノールが含まれている率を表す数値x[モル数で表したもの]で示される。したがって、1−xは[エタノール+水]中の水のモル数となり、水の分子量は18kgであるから、質量では(1−x)×18kgとなる。
【0013】
図1における気相線Aと液相線Bとに関し、水単体は1気圧、100℃で蒸発するが、これはエタノールのモル分率0すなわち水のモル分率1である左側の縦線で表される。これに対し、エタノール単体は1気圧、78.3℃で蒸発する。これは、エタノールのモル分率1すなわち水のモル分率0である右側の縦線で表される。
【0014】
両方の縦線の中間の部分、たとえばエタノールのモル分率x=0.32{(エタノール):(水)=55:45(質量比)に相当する}、温度85℃の条件下では、気相線に沿ったA2点の成分のエタノール(エタノールモル分率x=0.47)と、それに対応した水(水モル分率で表示して1−x=0.53)とが蒸発する。これによって、エタノール分の濃い蒸気が出て行き、残りのエタノール水中のエタノール分は少なくなって、液相線上のB2点(エタノールモル分率x=0.13)の成分になる。
【0015】
A2点の成分のエタノールのモル分率をA2xとし、B2点の成分のエタノールのモル分率をB2xとすると、量比としては、A2点の成分のエタノールは、
(0.32−B2x)/(A2x−B2x)
だけ蒸発する。このとき、エタノール水中に残るエタノール分の量比は、
(A2x−0.32)/(A2x−B2x)
である。
【0016】
量としては、次のように考えることができる。すなわち、蒸発量比は、
(L2−L1)/L1=1/ExpY−1
から求めることができる。ここに、L1、L2は蒸発前後のエタノール水の量、Yは、
【0017】
【数1】

である。この式において、Anxは気相線のエタノールのモル分率、Bnxは液相線のエタノールのモル分率である。たとえば、図1において、85℃であれば、Anx=A2x、Bnx=B2xである。また、B1xはB1点の成分のエタノールのモル分率、B3xはB3点の成分のエタノールのモル分率である。
【0018】
液量の変化はその蒸発量に等しい。したがって、上記において、蒸発前のエタノール水の量L1がわかれば、蒸発量(L2−L1)すなわち液の低沸成分であるエタノールの蒸発量が判る。
【0019】
上述のYの式の右辺の値は、たとえば、1/(Anx−Bnx)をB1からB3まで1℃きざみで計算してグラフ化し、これを液相線のエタノールのモル分率に関する多項式で近似し、さらにこれを積分した多項式により求める。成分の計算の場合と同様に、エタノールのモル分率x=0.32のエタノール水を81.7℃から90.6℃まで加熱する場合の1.0℃ごとのエタノールの気相線上のモル分率Anxと液相線上のモル分率Bnxとを求め、上記の計算を行うと、蒸発量は52.7%となる。これは、エタノール水の供給量に対する蒸発量比(L2−L1)/L1(エタノールのモル分率比で、重量比でも同じ)である。
【0020】
図1における液相線上のB1点(エタノールのモル分率=0.32、温度=81.7℃)では、気相線上のA1点(温度=81.7℃)の成分のエタノールと水とが蒸発し始めるが、A1点の成分のエタノールのモル分率をA1xとし、B1点の成分のエタノールのモル分率をB1xとすると、その蒸発量比は、上式から、
(0.32−B1x)/(A1x−B1x)
で、B1x=0.32であるから、0.32−B1x=0となる。すなわちB1点においてはエタノールは蒸発しない。
【0021】
また、図1における気相線上のA3点(エタノールのモル分率=0.32、温度=90.6℃)では、このA3点の成分のエタノールと水とが蒸発する。A3点と同様の温度90.6度における液相線上の点をB3とし、またA3点の成分のエタノールのモル分率をA3xとし、B3点の成分のエタノールのモル分率をB3xとすると、A3点におけるエタノールの蒸発量比は、上式から、
(0.32−B3x)/(A3x−B3x)
となる。いま、A3x=0.32であるから、この式の値は、
(0.32−B3x)/(0.32−B3x)= 1(=100%)
となる。つまり、モル分率0.32のエタノールが100%蒸発する。A3点よりも温度が上がっても、蒸発する成分は、エタノールのモル分率x=0.32のエタノールと水だけである。
【0022】
このため、(エタノール):(水)=55:45(質量比)すなわちエタノールのモル分率x=0.32のエタノール水を、たとえば蒸発器においてB1点の温度(81.7℃)からA3点の温度(90.6℃)まで加熱すると、各温度により異なった成分のエタノールと水とが蒸発する。したがって、エタノールと水との蒸発量の合計は、各温度における蒸発量を積分したものとなる。この積分を行うと、質量比で78.7%のエタノール蒸気と21.3%の水蒸気という結果が得られる。換言すると、エタノールのモル分率x=0.32(水分45%)のエタノール水を、液相線すなわちB1点から気相線すなわちA3点まで加熱すると、水分21.3%のエタノール水の蒸気が得られる。この蒸気中のエタノールのモル分率xは、x=0.787となる。
【0023】
この蒸気は、冷却すれば同じ成分のエタノール水(液)になる。正確には、このときにも水分が分離するが、上述のように蒸気中のエタノールのモル分率はx=0.787であるため、図1から明らかなように気相線Aと液相線Bとが接近しており、したがって水分の分離は殆ど行われない。
【0024】
この蒸気をバーナなどの燃焼装置に供給して燃焼させると、エタノールは容易に燃える。またこの蒸気を冷却すれば、この濃度のエタノール水が得られ、これは液体の状態で燃焼装置に供給することができる。
【0025】
加熱しても蒸発せずに残ったエタノール水は、エタノールを21.3%含んでいるが、これは系に供給されるエタノール水(たとえば上述のように(エタノール):(水)=55:45(質量比)のもの)へ返すことができる。あるいは、残ったエタノール水を燃焼室の高温部に噴射して蒸発させることで、エタノール水に含まれるエタノールを焼却してもよい。
【0026】
発生した蒸気とエタノール水とを分離するための蒸発器などの分離装置が大気圧の状態で稼動するものである場合は、分離した蒸気は実質的に圧力をもたず、したがって燃焼装置への供給が困難になる。この対策として、何らかの増圧手段が必要になる。これに対し、分離装置が加圧式であると、分離した蒸気は圧力をもつことになるため、増圧装置なしで燃焼装置へ供給して燃焼させることができる。
【0027】
発生した蒸気を冷却器にて冷却してエタノール水とし、このエタノール水を燃焼装置に供給して燃焼させる場合も、同様である。すなわち、この場合は、冷却器を加圧式にすることで、蒸気から分離したエタノール水は圧力をもつことから、増圧装置なしで燃焼装置に供給して燃焼させることができる。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施の形態のエタノール水の燃焼装置の概略構成を示す。ここで、1はエタノール水タンクで、たとえば、上述の(エタノール):(水)=55:45(質量比)といった、水分を多くして危険性を低下させたエタノール水11が貯留されている。2は加熱器で、電熱器3を備え、タンク1からの薄いエタノール水11を加熱することで、濃度の高いエタノール蒸気と水蒸気とを含有した蒸気を生成することができる。4はその蒸気のための配管である。加熱器2はたとえば0.3MPaに加圧されており、蒸気は、この圧力によって配管4を経てバーナ6へ供給される。バーナ6は供給された蒸気を燃料として燃焼を行う。加熱器2で蒸発されずに残った薄いエタノール水は、ドレン抜き5によりエタノール水タンク1に返される。
【0029】
図3は、本発明の第2の実施の形態のエタノール水の燃焼装置の概略構成を示す。ここで、1はエタノール水タンク、11は水分を多くして危険性を低下させたエタノール水、2は加熱器、3は電熱器、5はドレン抜きで、これらは図2に示したものと同じ構成である。4は加熱器2に接続された蒸気配管で、冷却器7に導かれている。この冷却器7は、加熱器2から蒸気配管4を経て供給されてくる、エタノール濃度の高い蒸気を冷却して、同じ濃度のエタノール水12を造ることができる。この濃いエタノール水12は、配管8を経てバーナ6へ供給され、燃焼に供される。冷却器7はたとえば0.3MPaに加圧されており、エタノール水12はこの圧力によって配管8を経てバーナ6に供給される。加熱器2で蒸発されずに残った薄いエタノール水は、ドレン抜き5によりエタノール水タンク1に返される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の原理を説明するためのエタノール水の液相線と気相線とを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態のエタノール水の燃焼装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態のエタノール水の燃焼装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
2 加熱器
5 ドレン抜き
6 バーナ
7 冷却器
11 エタノール水
12 エタノール水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置を具備するとともに、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を燃焼させる燃焼手段を具備することを特徴とするエタノール水の燃焼装置。
【請求項2】
分離装置は、加圧型であって、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気に圧力を持たせて燃焼手段に供給可能とされていることを特徴とする請求項1記載のエタノール水の燃焼装置。
【請求項3】
第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離する分離装置を具備し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を冷却して第3のエタノール水を造る手段を具備し、この第3のエタノール水を燃焼させる燃焼手段を具備することを特徴とするエタノール水の燃焼装置。
【請求項4】
第3のエタノール水を造る手段は、加圧型であって、第3のエタノール水に圧力を持たせて燃焼手段に供給可能とされていることを特徴とする請求項3記載のエタノール水の燃焼装置。
【請求項5】
第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を燃焼させることを特徴とするエタノール水の燃焼方法。
【請求項6】
第1のエタノール水を加熱して、エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気と、蒸発せずに残る第2のエタノール水とに分離し、前記エタノール蒸気および水蒸気を含む蒸気を冷却して第3のエタノール水を造り、この第3のエタノール水を燃焼させることを特徴とするエタノール水の燃焼方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−162115(P2006−162115A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352116(P2004−352116)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000154668)株式会社ヒラカワガイダム (8)
【Fターム(参考)】