説明

エタノール製造方法並びにエタノール及びリモネンの製造方法

【課題】雑菌の繁殖を抑制して果物の脱汁液から効率的にエタノールを製造するエタノール製造方法並びにエタノール及びリモネンの製造方法を提供する。
【解決手段】果物の搾汁残さ1を脱水処理して生成された脱汁液3を原料とするエタノール製造方法であって、脱汁液3に酸性物質を添加して混合し、酸混合液8を生成する酸混合工程と、酸混合液8に酵母を加えてエタノール発酵させる発酵工程と、を含むエタノール製造方法により、エタノール9を製造する。その際、酸混合液8のpHは3.0〜4.5とする。また、脱汁液3は、脱水処理して生成されてから24時間以内に酸混合工程にて処理される。更に、酸性物質は硝酸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物の脱汁液を原料とするエタノール製造方法並びにエタノール及びリモネンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果物の脱汁液に酵母を加えてエタノール発酵させることで、代替液化燃料であるバイオエタノールを製造することができる。廃棄物である脱汁液の発酵によるバイオエタノールへの変換技術は、食料と競合しないバイオマスを原料としているため、非常に有益である。
この脱汁液を用いたエタノール製造技術として、柑橘類から脱汁液を生成し、この脱汁液を濃縮して得られた柑橘糖蜜を遠心分離等によりパルプ除去し、サッカロミセス属酵母等によりエタノール発酵させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−153231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エタノールを製造する方法としては、前述のように脱汁液から生成された柑橘糖蜜を原料とする第1の方法と、柑橘糖蜜を生成することなく脱汁液を直接の原料とする第2の方法とがある。
第1の方法については、濃縮工程で発酵阻害物質のリモネンが除去され、更に原料中に含まれる発酵阻害を引き起こす雑菌が滅菌されると共に、原料の保存性も向上するので、エタノール発酵は容易である。しかしながら、この第1の方法では濃縮工程に多大なエネルギーが必要となると共に、発酵プロセスが高濃度の糖液に対応できないため、糖濃度20%以下に水で希釈する必要がある。そのため、経済的なエタノール製造プロセスの確立という観点からは問題があった。
一方、第2の方法については、脱汁液中には糖分が10%前後含まれており発酵には最適な濃度であり、希釈や濃縮をすることなく発酵することが可能である。しかしながら、1)脱汁液には原料中に雑菌が含まれており、そのままでは安定に発酵することが不可能であった。特に、プロセス途中で雑菌が繁殖すると、酵母の活動が低下し、エタノール発酵性が悪化することが実験の結果分かった。2)加えて、脱汁液中には、例えばリモネン、ペクチン、ヒドロキシメチルフルフラール等の発酵阻害物質を含んでいるため、エタノール発酵性が非常に悪い。上記2点の原因により、従来は脱汁液をそのままエタノール発酵することは行われていなかった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、雑菌の繁殖を抑制して果物の脱汁液から効率的にエタノールを製造する方法を提供することを第1の目的とする。また、発酵阻害物質を除去して果物の脱汁液から効率的にエタノールを製造する方法を提供することを第2の目的とする。また、エタノール製造過程においてリモネンを製造することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るエタノール製造方法は、果物の搾汁残さを脱水処理して生成された脱汁液を原料とするエタノール製造方法であって、
前記脱汁液に酸性物質を添加して混合し、酸混合液を生成する酸混合工程と、
前記酸混合液に酵母を加えてエタノール発酵させる発酵工程と、を含む。
【0006】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記酸混合液のpHは3.0〜4.5であるのが好ましい。
【0007】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記脱汁液は、脱水処理して生成されてから24時間以内に前記酸混合工程にて処理されるのが好ましい。
【0008】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記酸性物質は硝酸であるのが好ましい。
【0009】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記脱汁液を三相遠心分離して、糖分を含有する重液分、エタノール発酵阻害物質を含有する軽液分、及びエタノール発酵阻害物質を含有する固形分に分離する三相遠心分離工程を更に含み、
前記三相遠心分離工程は、前記酸混合工程の前に実行され、
前記酸混合工程は、前記重液分に前記酸性物質を添加して混合し、前記酸混合液を生成することができる。
【0010】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記酸混合液を三相遠心分離して、糖分を含有する重液分、エタノール発酵阻害物質を含有する軽液分、及びエタノール発酵阻害物質を含有する固形分に分離する三相遠心分離工程を更に含み、
前記三相遠心分離工程は、前記酸混合工程の後に実行され、
前記発酵工程は、前記重液分に前記酵母を加えてエタノール発酵させることができる。
【0011】
第1の発明に係るエタノール製造方法において、前記酸混合工程の混合は前記酸性物質を添加してから少なくとも2時間以上行われ、
前記酸性物質を添加してから72時間以内に前記発酵工程の処理が開始されるのが好ましい。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係るエタノール及びリモネンの製造方法は、柑橘類の搾汁残さにアルカリ性物質を加え、さらに脱水処理して生成された脱汁液を原料とするエタノール及びリモネンの製造方法であって、
前記脱汁液を三相遠心分離して、該脱汁液から糖分を含有する重液分、及びリモネンを含有する軽液分を分離する工程と、
前記重液分に酸性物質を添加して酸混合液を生成する工程と、
前記酸混合液をエタノール発酵させる工程と、
前記軽液分から前記リモネンを抽出する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜7記載のエタノール製造方法においては、酸性物質を添加することにより、雑菌の繁殖を抑制し、従来よりも高生成率(高収率)を実現するエタノール発酵が可能である。
【0014】
特に、請求項2記載のエタノール製造方法においては、雑菌の繁殖が抑制されるので、従来よりも増殖酵母濃度が高い。
【0015】
請求項3記載のエタノール製造方法においては、脱汁液の劣化を防止することが可能である。
【0016】
請求項4記載のエタノール製造方法においては、従来よりも高いエタノール生成率(エタノール発酵収率)を保ちつつ、雑菌の繁殖を抑制することが可能である。
【0017】
請求項5記載のエタノール製造方法においては、三相遠心分離により脱汁液から発酵阻害物質を除去するため、従来よりもエタノール生成率が高い。また、脱汁液を三相遠心分離した後に酸性物質を添加することにより、添加する酸性物質の量を削減することが可能である。
【0018】
請求項6記載のエタノール製造方法においては、三相遠心分離により酸混合液から発酵阻害物質を除去するため、従来よりもエタノール生成率が高い。
【0019】
請求項7記載のエタノール製造方法においては、従来よりも雑菌抑制効果が向上するとともに、雑菌や生育目的外の野生酵母が繁殖する前にエタノール発酵工程において酸混合液を処理することが可能である。
【0020】
請求項8記載のエタノール及びリモネンの製造方法においては、エタノール製造の過程においてリモネンを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係るエタノール製造方法の各工程を示す工程図である。
【図2】時間経過に伴う脱汁液中の雑菌の繁殖性を示すグラフである。
【図3】各種殺菌剤によるエタノール発酵性を示すグラフである。
【図4】酸混合工程の実施順序を検証するための実験概要を示す説明図である。
【図5】硝酸添加後の雑菌繁殖状況を示すグラフである。
【図6】時間経過に伴う、硝酸を添加した重液分及び硝酸を添加した脱汁液の野生酵母の活動を示すグラフである。
【図7】バッチ発酵によるエタノール製造結果を示すグラフである。
【図8】発酵工程で用いる連続発酵装置の概要を示す構成図である。
【図9】連続発酵によるエタノール製造結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係るエタノール製造方法は、図1に示すように前工程と後工程で構成されている。前工程は、搾汁工程P1、混合工程P2、及び脱汁工程P3を有する。後工程は、三相遠心分離工程P4、酸混合工程P5、発酵工程P6、及び蒸留工程P7を有する。以下、各工程について説明する。
【0023】
搾汁工程P1は、果物の一例としての柑橘類をインライン方式やチョッパーパルパー方式等の搾汁機により搾汁する工程である。ここで、原料は柑橘類に限らず任意の果物でよいただし、柑橘類は有用成分であるリモネンを多く含み、後工程でこのリモネンも製造できる点でメリットがある。本工程により、搾汁残さ1とジュース2が生成される。
【0024】
混合工程P2は、搾汁工程P1にて生成された搾汁残さ1にアルカリ性物質の一例である消石灰を混合する工程である。搾汁工程P1で生成された搾汁残さ1は、ゲル又はスラリー状であるため、プレスして効率よく脱汁することができない。そこで、消石灰を添加及び混合することで効率よく脱汁することができる。
【0025】
脱汁工程P3は、混合工程P2にてプレスしやすくなった搾汁残さ1をプレスし、脱水処理する工程である。本工程により、脱汁液3と脱汁粕4が生成される。
【0026】
三相遠心分離工程P4は、脱汁工程P3にて生成された脱汁液3を重液分5、軽液分6及び固形分7に三相遠心分離する工程である。以下、脱汁液3から軽液分6及び固形分7を分離する理由について説明する。
脱汁工程P3にて生じた脱汁液3には、リモネンが0.2〜0.5wt%含まれている。このリモネンはエタノール発酵阻害をすることが知られており、脱汁液の中で、大部分が皮に含有又は吸着されている。しかし、搾汁工程P1や脱汁工程P3で、皮を機械的に絞ることにより、その一部は液中に放出され、脱汁液3の中に主としてミセル状で存在している。発明者の行った測定結果によれば、脱汁液中のリモネン(0.2〜0.5wt%)のうち、ミセル状で存在しているリモネン濃度は0.01〜0.04wt%と微量である。
ところが、糖液にミセル状(油状)のリモネンを添加した実験の結果によれば、リモネンが0.05wt%以上含まれているとエタノール生成率は50%以下に低下する。一般に、酵母は糖液中に固体微粒子として存在し、油状の物質を吸着しやすい。そのため、このような実験結果となった理由は、添加された微量(0.05wt%)のリモネン(油状)が酵母に吸着し、発酵阻害を引き起こしたものと推定される。従って、脱汁液3の中から発酵阻害物質であるリモネンを除去するためには、リモネンの存在比率で75%以上を占める固形分を除去するだけでは不十分であり、軽液分(油状物質)として存在するミセル状のリモネンをも除去する必要がある。
また、脱汁液中にはリモネンのみならず固形物質であるペクチンが含まれている。このペクチンは、皮の主成分であり、柑橘類に存在する酵素によりメタノールとガラクツロン酸に分解されるが、そのメタノール、ガラクツロン酸ともに発酵に悪影響を及ぼすことが実験の結果わかった。
そこで、三相遠心分離工程P4において固形分7を分離することにより、ペクチンを除去し、後段の発酵工程P6での発酵阻害を未然に防ぐことが可能となる。
本実施の形態では、三相遠心分離工程P4にて、脱汁液3に含まれる発酵阻害物質であるリモネン、ペクチン、及び油物質であるメチルフルフラールを、軽液分(油状物質)6、及び固形分7として共に除去する。これにより、重液分5の液中リモネン濃度を0.01wt%以下とすると共に、固形分を含めた全体のリモネン濃度を0.1wt%以下に低減することが可能である。
【0027】
このように、本工程において脱汁液3を三相遠心分離して発酵阻害物質を除去することにより、エタノール発酵時の酵母の増殖性が向上する。その結果、発酵性が安定するとともにエタノール生成率が増大する。
なお、本工程で使用する三相遠心分離機は、比重差の少ない軽液、重液を分離することから、沈降面積を大きくすることが可能なディスク型の遠心分離機を用いることが好ましい。遠心力としては、工業的には5000G以上有すれば、分離可能である。
【0028】
一方で、リモネンは軽液分6に高濃度に含まれるため、この軽液分6からリモネンを抽出することができる。つまり、エタノール製造過程においてリモネンを製造することができる。
【0029】
酸混合工程P5は、三相遠心分離工程P4にて生成され糖分を含有する重液分5に酸性物質の一例である硝酸を混合して、酸混合液8を生成する工程である。具体的には、三相遠心分離工程P4にて生成された重液分5に60%濃硝酸を添加し、攪拌ポンプ又は攪拌機により攪拌して混合する工程である。これにより重液分5のpHを3.5に調整し、酸混合液8を生成する。
硝酸は三相遠心分離工程P4にて生成された重液分5よりも比重が重いため、硝酸添加後は常時又は定期的に攪拌する。
【0030】
本工程により、酸混合液8中の雑菌は硝酸混合前の1/10〜1/1000程度に減少する。なお、このpHは、(i)雑菌の生息に最適なpHが5.0〜7.0であること及び(ii)次工程にてエタノール発酵させるために必要な酵母の生育に最適なpHが3.5〜6.0であることを考慮して決定する。即ち、本工程においては、雑菌の繁殖を抑制した状態で酵母が生育できるように酸混合液8のpHが調整される。このpHは、例えば3.0〜4.5とすることもできる。
【0031】
なお、脱汁液3は、脱汁工程P3で生成されてから24時間以内に酸混合工程P5で処理される必要がある。以下、その根拠となる実験について説明する。
この実験は、液温15℃の条件下、脱汁液3を保存して雑菌の繁殖性を調べたものである。
図2は、その実験結果であり、時間経過に伴う脱汁液中の雑菌の繁殖性を示すグラフである。横軸は脱汁液3の保存時間を示し、縦軸は雑菌数を示している。図2から明らかなように、24時間経過以降は、雑菌数が急激に増加する。脱汁液3は、一般に多くの雑菌や野生酵母を含んでいる。そのため、脱汁液3は、図2に示すように時間経過とともに雑菌が繁殖して劣化する。また、脱汁液3は、雑菌や野生酵母の育成による有機酸やカビ毒の生成が進行することによって劣化する。従って、脱汁液3が生成されてから24時間以内に酸混合工程P5されることで脱汁液3の劣化を防止し、その保存性を維持することができる。なお、液温13℃、14℃、17℃、18℃についても実験したが、同様の傾向となった。
【0032】
ここで、酸混合工程P5において殺菌剤として混合するものは硝酸に限らず、任意の酸性物質でよい。ただし、本実施の形態においては、この殺菌剤は硝酸とした。以下、その根拠となる実験について説明する。
この実験は、各種殺菌剤を添加したことによるエタノール発酵性を検証するものであり、脱汁液にメタ重亜硫酸カリウム(所謂メタカリ)、硫酸、及び硝酸を添加し、図示しない攪拌機により攪拌してそれぞれについてバッチ発酵実験を行った。なお、メタ重亜硫酸カリウムについては、添加濃度を350ppm及び700ppmとした。また、硫酸及び硝酸については添加後、pHが3.5となるように調整した。
実験条件は以下の通りである。
<実験条件>
1.発酵温度:30℃
2.攪拌速度:150rpm
3.発酵時間:40時間
4.脱汁液 :いよかん脱汁液(未滅菌処理)
【0033】
図3は、その実験結果を示すグラフである。横軸は添加した殺菌剤の種類を示し、縦軸は生成されたエタノール濃度、及びエタノール生成率を示している。
なお、エタノール生成率は次式(1)で表される。
【0034】
エタノール生成率 = a/b×100 ・・・(式1)
【0035】
ただし、a:生成されたエタノール量、b:理論上のエタノール量=グルコース、スクロース、フルクトースの合計量×0.511である。このエタノール生成率は、理論上のエタノール生成量のうち、実際にどれだけのエタノールが生成されたかを示す値である。
【0036】
なお、比較例として殺菌剤を添加しない場合(無添加)についても示している。図3から明らかなように、生成されたエタノールの濃度、及びエタノール生成率は、いずれも硝酸が最も高かった。即ち、硝酸を添加した場合のエタノール発酵性が良好であることが分かった。また、この硝酸は、硫酸のようにエタノール製造装置に使用される鋼材を腐食させる心配がないというメリットもある。
なお、硝酸を混合した脱汁液は、他の殺菌剤を混合した脱汁液と比較すると、時間が経過しても元の品質を維持する傾向が最も高かった。つまり、雑菌繁殖抑制の維持力が高い上に、野性酵母による糖消費やエタノール生成が少なく、脱汁液の保存性が良好であった。
【0037】
ところで、酸混合工程P5は、三相遠心分離工程P4の後に実施しているが、その前に実施しても良い。即ち、三相遠心分離工程P4は、発酵阻害物質を除去する工程であり、発酵工程P6の前に実行すればその効果を発揮する。但し、三相遠心分離される固形分中にアルカリ性物質が含まれていることから、本実施の形態に示すように、三相遠心分離工程P4の後に設けた方が、硝酸の添加量が削減される。以下、その根拠となる実験について説明する。
【0038】
図4は、酸混合工程の実施順序を検証するための実験概要を示す説明図である。
本実験では柑橘類の脱汁液30を遠心分離機にかけ、ろ液31を得る。この脱汁液30とろ液31のサンプリング液1L(リットル)に60%硝酸を添加し、酸混合工程P5において調整するpHと同じ値である3.5になるまでの添加量を調べた。
ここで、脱汁液30は脱汁工程P3において得られる脱汁液3に相当し、ろ液31は三相遠心分離工程P4において得られる液体分(図1に示す重液分5及び軽液分6)に相当する。
遠心分離機は、ディスク型二相遠心分離機であり、分離能力は約10000Gである。
本実験では脱汁液30を三相遠心分離工程P4と同じ三相遠心分離ではなく固液分離して簡易実験とした。
【0039】
更に酸混合工程の実施順序を検証するための実験結果を表1に示す。なお、この実験は、液温25℃の下で行ったものである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の上欄は、脱汁液30(1L(リットル))に対する添加硝酸量と、その際のpH変化を示している。硝酸を添加する前の初期状態ではpHは4.177であった。まず、1回目として硝酸を5ml添加したが、pHが3.5に至らなかった。そこで、2回目として更に2.5ml添加したところ、pHが3.5よりも小さくなった。即ち、pHが3.5に近づくまでに添加硝酸量は7.5ml程度要した。
一方、下欄は、ろ液31(1L(リットル))に対する添加硝酸量と、その際のpH変化を示している。硝酸を添加する前の初期状態ではpHは4.165であったが、1回目で硝酸を5ml添加しただけで、pHが3.5よりも小さくなった。
以上の実験結果より、ろ液31のほうが脱汁液30よりも硝酸添加量が30〜40%削減されることが分かった。即ち、酸混合工程P5は、三相遠心分離工程P4の前よりも後に実施した方が、硝酸の添加量が削減される。
【0042】
次に、酸混合工程P5の実施順序の検証に続いて、脱汁液30及びろ液31について硝酸添加後の雑菌繁殖状況を検証した。
図5は、硝酸添加後の雑菌繁殖状況を示すグラフである。横軸は時間を示し、縦軸は雑菌数を示している。なお、脱汁液30及びろ液31の液温は、共に約4℃である。
ろ液31については、硝酸添加後、6時間経過するまでは雑菌数が低下した。つまり、硝酸添加後、2時間以上かつ6時間以下の範囲で混合すると雑菌の抑制効果が高かった。しかし、6時間経過後は時間経過と共に雑菌数が増加した。
なお、ろ液31の方が脱汁液30よりも雑菌が少ないのは、雑菌が遠心分離により固形分と共に除去されたためと考えられる。
以上の実験結果より、酸混合工程P5においては、重液分5(図1参照)を硝酸添加後2時間以上混合する必要があることが分かった。
【0043】
発酵工程P6は、酸混合工程P5にてpHが調整された重液分5(酸混合液8)に酵母を加え、エタノール発酵させる工程である。この酵母として、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces.Cerevisiae)を用いることができる。なお、この発酵は連続発酵であるが、バッチ発酵でも良い。
ここで、図6は、時間経過に伴う、硝酸を添加した重液分5及び硝酸を添加した脱汁液3の野生酵母の活動を示すグラフである。図6は、液温15℃の条件下、硝酸を添加した重液分5及び硝酸を添加した脱汁液3を保存した際の結果である。横軸は経過時間を示し、縦軸は野生酵母数及びエタノール濃度を示している。また、図中「A:エタノール」及び「A:野生酵母」は、それぞれ硝酸を添加した重液分5のエタノール濃度及び野生酵母数を示している。「B:エタノール」及び「B:野生酵母」は、それぞれ硝酸を添加した脱汁液3のエタノール濃度及び野生酵母数を示している(三相遠心分離工程P4を省略している)。
本図から、いずれも3日(72h)後に、野生酵母が増加することが分かる。従って、酸混合工程P5にてpHが調整された重液分5(酸混合液8)は、野生酵母の活動が活発になるため、硝酸が添加されてから最大で72時間以内に発酵工程P6で処理が開始される必要がある。
なお、図6において、2日後まで「A:野生酵母」が表れていないが、その数がゼロか、又は検出できないほどに少なかったものである。また、液温13℃、14℃、17℃、18℃についても実験したが、同様の傾向となった。
【0044】
蒸留工程P7は、発酵工程P6にて生成されたエタノール発酵液を蒸留する工程である。本工程により、エタノール9を精製することができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
【0046】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0047】
まず、原料となる果物として柑橘類のいよかんを選定し、搾汁工程P1にてこのいよかんを搾汁した。次に、混合工程P2にて、生成された搾汁残さ1に消石灰を混合した。次に、脱汁工程P3にて、消石灰が混合された搾汁残さ1をプレスし、脱汁液3を生成した。次に、三相遠心分離工程P4にて、脱汁工程P3で生成された脱汁液3を三相遠心分離機にかけ、重液分5を分離した。次に、酸混合工程P5にて、硝酸を添加し重液分5のpHを3.5に調整すると共に2時間混合して酸混合液8を生成した。そして、発酵工程P6にて、図示しないバイオリアクターを用い、以下に示すバッチ発酵条件の下でバッチ発酵を行った。バッチ発酵中は発酵液を常時攪拌した。
<バッチ発酵条件>
1.発酵温度 :30℃
2.攪拌速度 :150rpm
3.発酵時間 :24時間
4.菌種 :サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces.Cerevisiae)
5.添加菌量 :3wt%
【0048】
図7は、バッチ発酵によるエタノール製造結果を示すグラフである。横軸は経過時間を示し、縦軸は全糖濃度、グルコース(ブドウ糖)濃度、エタノール濃度、及び酵母数を示している。本実施例では、24時間経過時点でのエタノール生成率は88.9%であった。
【実施例2】
【0049】
まず、原料となる果物として柑橘類のいよかんを選定し、搾汁工程P1にてこのいよかんを搾汁した。次に、混合工程P2にて、生成された搾汁残さ1に消石灰を混合した。次に、脱汁工程P3にて、消石灰が混合された搾汁残さ1をプレスし、脱汁液3を生成した。次に、三相遠心分離工程P4にて、脱汁工程P3で生成された脱汁液3を三相遠心分離機にかけ、重液分5を分離した。次に、酸混合工程P5にて、硝酸を添加し重液分5のpHを3.5に調整すると共に2時間混合して酸混合液8を生成した。そして、発酵工程P6にて連続発酵を行った。
【0050】
ここで図8は、発酵工程P6で用いる連続発酵装置60の概要を示す構成図である。
図8に示すように、発酵工程P6では、ポンプ61から原料としての酸混合液8をバイオリアクター62に送り込んだ。そしてバイオリアクター62にて連続発酵(平均滞留時間:24時間)させた。発酵液は、連続発酵装置60の上部よりオーバーフローにて流出する。発酵液を取り出した。発酵中は、このバイオリアクター62中の発酵液にエアフィルター63を通して滅菌空気を発酵液中に吹き込んだ。なお、吹き込んだ空気及び酵母が生成した二酸化炭素はエア抜き口64から排出した。また、3枚羽インペラ65により発酵液を常時攪拌した。
【0051】
発酵条件は以下の通りである。
<連続発酵条件>
1.発酵温度 :30℃
2.攪拌速度 :150rpm
3.発酵時間 :24時間(滞留時間)
4.菌種 :サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces.Cerevisiae)
5.添加菌量 :3wt%
【0052】
図9は、連続発酵によるエタノール製造結果を示すグラフである。横軸は経過時間を示し、縦軸は全糖濃度、グルコース(ブドウ糖)濃度、スクロース(ショ糖)濃度、フルクトース(果糖)濃度、エタノール濃度、及び酵母数を示している。本実施例では、エタノール生成率はそれぞれ常時90%以上を維持した。
【0053】
なお、上記実施の形態において、脱汁工程P3において生成された脱汁液3を三相遠心分離工程P4で処理することなく、酸混合工程P5で処理することも可能である。即ち、脱汁工程P3を経た後、酸混合工程P5にて、脱汁液3に硝酸を添加して混合し、酸混合液を生成する。そして発酵工程P6においては、酸混合工程P5にてpHが調整された脱汁液3(酸混合液)に酵母を加え、エタノール発酵させる。但し、この場合でも酸混合工程P5の混合は硝酸を添加してから少なくとも2時間以上行われ、硝酸を添加してから最大72時間以内に前記発酵工程の処理が開始されるのが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1:搾汁残さ、2:ジュース、3:脱汁液、4:脱汁粕、5:重液分、6:軽液分、7:固形分、8:酸混合液、9:エタノール、30:脱汁液、31:ろ液、60:連続発酵装置、61:ポンプ、62:バイオリアクター、63:エアフィルター、64:エア抜き口、65:3枚羽インペラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果物の搾汁残さを脱水処理して生成された脱汁液を原料とするエタノール製造方法であって、
前記脱汁液に酸性物質を添加して混合し、酸混合液を生成する酸混合工程と、
前記酸混合液に酵母を加えてエタノール発酵させる発酵工程と、を含むことを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のエタノール製造方法において、前記酸混合液のpHは3.0〜4.5であることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエタノール製造方法において、前記脱汁液は、脱水処理して生成されてから24時間以内に前記酸混合工程にて処理されることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエタノール製造方法において、前記酸性物質は硝酸であることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエタノール製造方法において、前記脱汁液を三相遠心分離して、糖分を含有する重液分、エタノール発酵阻害物質を含有する軽液分、及びエタノール発酵阻害物質を含有する固形分に分離する三相遠心分離工程を更に含み、
前記三相遠心分離工程は、前記酸混合工程の前に実行され、
前記酸混合工程は、前記重液分に前記酸性物質を添加して混合し、前記酸混合液を生成することを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエタノール製造方法において、前記酸混合液を三相遠心分離して、糖分を含有する重液分、エタノール発酵阻害物質を含有する軽液分、及びエタノール発酵阻害物質を含有する固形分に分離する三相遠心分離工程を更に含み、
前記三相遠心分離工程は、前記酸混合工程の後に実行され、
前記発酵工程は、前記重液分に前記酵母を加えてエタノール発酵させることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエタノール製造方法において、前記酸混合工程の混合は前記酸性物質を添加してから少なくとも2時間以上行われ、
前記酸性物質を添加してから72時間以内に前記発酵工程の処理が開始されることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項8】
柑橘類の搾汁残さにアルカリ性物質を加え、さらに脱水処理して生成された脱汁液を原料とするエタノール及びリモネンの製造方法であって、
前記脱汁液を三相遠心分離して、該脱汁液から糖分を含有する重液分、及びリモネンを含有する軽液分を分離する工程と、
前記重液分に酸性物質を添加して酸混合液を生成する工程と、
前記酸混合液をエタノール発酵させる工程と、
前記軽液分から前記リモネンを抽出する工程と、を含むことを特徴とするエタノール及びリモネンの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167164(P2011−167164A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36373(P2010−36373)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年12月22日 社団法人 全国都市清掃会議発行の「第31回 全国都市清掃研究・事例発表会講演論文集」に発表
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】