説明

エタノール製造装置及び製造方法

【課題】セルロース系バイオマスの糖化処理に用いるセルラーゼの回収を容易に行えるようにして、エタノール生産の効率化と低コスト化を可能とするエタノール製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース系バイオマスを、磁性体を含有する固定化セルラーゼにより糖化させるとともに、得られた糖化液を酵母によりエタノール発酵させる糖化発酵槽を備えるエタノール製造装置。該装置を用いてセルロース系バイオマスを、磁性体を含む固定化セルラーゼにより糖化させて糖化液を得、前記糖化液から前記固定化セルラーゼを磁力により回収し、前記糖化液に酵母を加えてエタノール発酵液を得るエタノール製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマスを糖化し、得られた糖からエタノールを製造する装置及びその装置を用いてエタノールを製造する方法に関するものであり、さらに詳しくは、セルロース系バイオマスの糖化工程に固定化セルラーゼを用いたエタノールの製造装置及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料に替わるエネルギー資源として、バイオマス資源から生産されるバイオエタノールが注目されている。現在、バイオエタノールの代表的な原料の一つとして、とうもろこしの実が広く用いられている。とうもろこしの実には高純度のデンプン質が多く含まれており、これを糖化処理した後で、エタノール発酵を行うことによりバイオエタノールが生産されている。このようにして得られるバイオエタノールは、燃焼によって大気中の二酸化炭素量を増やさないクリーンエネルギーとして将来性が期待されている。しかし、その一方で、とうもろこしの実など食用としても有用な原料を用いた場合には食料と競合を引き起こし、食料不足や食品価格の高騰を招くなどの問題が生じてきている。
【0003】
そこで、食料と競合することのない木質系や草本系のセルロース原料を利用してエタノール生産を行う試みがなされている。セルロース原料の糖化方法には、大きく分けて酸糖化法と酵素糖化法の二つがある。酸糖化法は濃硫酸または希硫酸を用いてセルロースを加水分解して糖化する方法である(例えば、特許文献1参照)。しかし、酸糖化法は、生成されたグルコースの過分解が生じたり、反応終了後の酸除去が煩雑であるといった問題があった。
【0004】
一方、酵素糖化法は、セルロース加水分解酵素であるセルラーゼを用いてセルロースの糖化を行う方法である(例えば、特許文献2参照)。この方法は穏和な条件下での反応が可能である点及び糖化後のエタノール発酵への移行が行いやすいという点で酸糖化法よりも優れている。しかし、セルラーゼによるセルロース加水分解反応は反応時間が長いうえに糖の収率が低いという問題があった。また、活性の高いセルラーゼは一般的に希少又は高価であるものが多いにもかかわらず、これを回収して繰り返し使用することが作業性、効率性及びランニングコストの面からみて困難であることから、現在のところ積極的な工業的利用には至っていない。
【0005】
しかし、セルロース系バイオマスの利用のニーズが高まるに伴って、最近ではセルロース系バイオマスを効率良く加水分解できる高活性セルラーゼの開発が進み、反応時間と糖収率の問題は解消されつつある。しかし、セルラーゼを回収し、再利用するための十分な技術は依然として確立していないのが現状である。
【0006】
つまり、セルラーゼを糖化処理後に容易に回収することができ、かつ、それを繰り返し利用することが可能となれば、ランニングコストの問題も解消されて生産性向上にも繋がり、酵素糖化法の工業的利用に向けて大きく前進することができる。
【特許文献1】特開2006−75007号公報
【特許文献2】特開2008−92910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明はセルロース系バイオマスの糖化処理に用いるセルラーゼの回収を容易に行えるようにして、エタノール生産の効率化と低コスト化を可能とするエタノール製造装置及び製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明が採った手段は、セルロース系バイオマスを、磁性体を含有する固定化セルラーゼにより糖化させるとともに、得られた糖化液を酵母によりエタノール発酵させる糖化発酵槽を備えることを特徴とするエタノール製造装置である。
【0009】
一般に、酵素糖化法を利用したエタノール生産は、基質となるセルロースを含む反応前液に、緩衝液等の溶媒にセルラーゼ粉末を溶解させて調製されたセルラーゼ溶液を加えて糖化処理をした後、酵母を加えてエタノール発酵させることによって行われる。この方法では、糖化液からセルラーゼを回収するためには、糖化液をフィルター濾過や遠心分離にかけてセルロース残渣等の余分な固形物を除いた後、分子篩や限外濾過を行ってセルラーゼを分離して行う必要がある。しかし、これらの操作は大変煩雑であり作業も長時間を要することから、結果的にエタノールの生産性に影響を及ぼすこととなり、事実上実施することは困難である。そこで、本発明ではセルラーゼを固定化して用いることで、この問題を解消している。
【0010】
一般的に、固定化酵素の回収は、フィルター材やメッシュ材で反応液を濾過することによって行うことができる。しかし、セルロース系バイオマスのような不溶性の基質を用いる場合にこのような操作をすると、固定化酵素と一緒に、残渣等の回収する必要のない余分な固形物までをも回収してしまうこととなる。そこで、本発明では、固定化セルラーゼに磁性体を含有させることで、固定化セルラーゼのみを効率良く回収できるようにしている。すなわち、固定化セルラーゼに磁性を付与すると、糖化発酵槽内の糖化液に磁力をかけたときに、固定化セルラーゼのみを磁力の発生源に引き寄せることができるため、残渣等の余分な固形物を拾うことなく糖化液からの回収することが可能となる。
【0011】
また、糖化工程と、その後に行われるエタノール発酵工程とは、それぞれ糖化用の反応槽と発酵用の反応槽とで別々に行われるのが普通である。しかし、磁性体を含有する固定化セルラーゼを使用することで、糖化と発酵の両方の工程を、ただ一つの糖化発酵槽で行うことが可能となる。つまり、磁性体を含有する固定化セルラーゼを用いることで、糖化液の濾過処理等を行わずとも固定化セルラーゼだけを回収することができる。これにより、糖化処理から発酵処理に移行する過程でわざわざ糖化液を移し替えたりする必要がなくなるのである。
【0012】
尚、本発明でいうセルロース系バイオマスとは、木質系セルロース、草本系セルロースの他、古紙等これらの加工物を含むものである。また、セルラーゼには、セルロースの他に、キシラン等のヘミセルロースを加水分解するものも含む。
【0013】
また、請求項2に記載した発明が採った手段は、酵母が、磁性体を含有する固定化酵母であることを特徴とする請求項1記載のエタノール製造装置である。エタノール発酵に用いた酵母は、エタノール発酵終了後に残渣とともに廃棄されたり、飼料等に利用されたりしている。しかし、固定化して用いることで、固定化セルラーゼと同様に繰り返して使用することも可能となる。また、磁性体を含有させることで、エタノール発酵液の濾過処理等を行わずに固定化酵母だけを磁力によって回収することができるので、例えば希少な酵母を用いる場合などに有効である。
【0014】
また、請求項3に記載した発明が採った手段は、固定化セルラーゼ若しくは固定化酵母又はその両方を、糖化発酵槽内から磁力により回収する磁力回収手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエタノールの製造装置である。
【0015】
磁力回収手段を備えることで、磁性体を含有する固定化セルラーゼや固定化酵母を容易かつ効率的に回収することができる。磁力回収手段としては、例えば常磁性体や電磁石を利用したものが挙げられる。
【0016】
また、請求項4に記載した発明が採った手段は、セルロース系バイオマスを、磁性体を含む固定化セルラーゼにより糖化させて糖化液を得る工程と、前記糖化液から前記固定化セルラーゼを磁力により回収する工程と、前記糖化液に酵母を加えてエタノール発酵液を得る工程とを含むことを特徴とするエタノール製造方法であり、請求項5に記載した発明が採った手段は、酵母が磁性体を含む固定化酵母であって、エタノール発酵液から前記固定化酵母を磁力により回収する工程を含むことを特徴とする請求項4記載のエタノール製造方法である。
【0017】
これらのエタノール製造方法は、糖化工程とエタノール発酵工程とに、それぞれ磁性体を含む固定化セルラーゼと固定化酵母とを用いることにより、糖化液及びエタノール発酵液から固定化セルラーゼと固定化酵母とを磁力を利用して容易かつ効率良く回収できるようにして、両工程を同一槽で行えるようにするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載したエタノール製造装置によれば、磁性体を含む固定化セルラーゼを用いた糖化発酵槽を備えるので、磁力を利用して固定化セルラーゼを糖化発酵槽内から容易かつ効率良く回収することができる。これにより、糖化から発酵に至るまでの工程を一つの槽で行うことができるので、作業を簡素化することができるとともに、設備コストも低減させることができる。また、回収された固定化セルラーゼは活性安定性が高く失活しにくいため、希少又は高価なセルラーゼであっても繰り返して使用することができるので、エタノール生産のランニングコストの低減にも寄与することができる。
【0019】
請求項2に記載したエタノール製造装置によれば、磁性体を含有する固定化酵母を用いることにより、固定化セルラーゼと同様に磁力を利用して容易かつ効率良く回収することができるので、例えば希少な酵母を用いる場合などに有効である。
【0020】
請求項3に記載したエタノール製造装置によれば、請求項1又は2に記載のエタノール製造装置の効果に加えて、磁力回収手段を備えたことによって、磁性体を含む固定化セルラーゼや固定化酵母の回収操作をより容易かつ効率的に行うことができる。
【0021】
請求項4に記載したエタノール製造方法によれば、糖化工程に磁性体を含む固定化セルラーゼを用いたので、磁力を利用して固定化セルラーゼを糖化発酵槽内から容易かつ効率良く回収することができる。これにより、糖化から発酵に至るまでの工程を一つの槽で行うことができるので、作業を簡素化することができるとともに、設備コストも低減させることができる。
【0022】
請求項5に記載したエタノール製造方法によれば、請求項4に記載したエタノール製造方法の効果に加えて、磁性体を固定化酵母とを用いることにより、エタノール発酵液から固定化酵母とを磁力を利用して容易かつ効率良く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明におけるエタノール製造装置は、セルロース系バイオマスの糖化に磁性体を含む固定化セルラーゼを用いた糖化発酵槽を備える。
【0024】
固定化セルラーゼの固定化方法は特には限定されず、例えば担体結合法や包括法等の既知の固定化方法によって作製することができる。このうち、包括法による固定化は、酵素や微生物を化学結合させることなく固定することができるため、酵素や微生物の活性への影響が少なく、また酵素や微生物の種類を選ばず広く応用できることから、包括法にて作製することが好ましい。
【0025】
包括法により固定化する場合、包括剤の種類は特には限定されず、例えばアルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の多糖類、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリウレタン、光硬化性樹脂等を用いることができる。また、固定化セルラーゼの形状及び大きさは特に限定されるものではなく、糖化発行槽の容量や基質となるセルロース系バイオマスの処理量等の条件に応じて設定すればよい。形状については、例えば角形、球形等が上げられるが、撹拌時や回収時に崩れにくい球状とすることが特に好ましい。また、大きさについては、基質との反応性に影響を及ぼさない程度の大きさであればよいが、反応効率の点からみて表面積を大きく確保できるようになるべく小径とするとよく、例えば直径0.1mm〜1.0mm程度にすることが好ましい。
【0026】
固定化セルラーゼに用いられるセルラーゼは特に限定されないが、例えば、トリコデルマ属、アスペルギルス属、アクレモニウム属等の微生物が生産する加水分解能の高いセルラーゼを用いることが好ましい。中でも、アクレモニウム属由来のセルラーゼには、リグニン存在下であっても非常に高い加水分解能を有するものが見出されていることから、これを用いることが特に好ましい。また、セルラーゼには、セルロース鎖をランダムに切断していくエンドグルカナーゼと、セルロース鎖の末端からセロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)と、セロビオースをグルコースに分解するβ-グルコシダーゼとがあるが、糖化の対象となるセルロース系バイオマスの種類等に応じて、これらの分解様式の異なるセルラーゼを組み合わせて用いてもよい。
【0027】
また、固定化セルラーゼは、糖化発酵槽からの回収を磁力を利用して容易に行えるように磁性体を含有する。磁性体には、例えば、フェライト、マグネタイト、酸化鉄、コバルト、酸化クロム等の保持力の大きい硬質磁性材料を用いるとよい。磁性体の粒子径は特に限定されるものではなく、その種類や性質によって適宜設定すればよいが、固定化セルラーゼ内で十分に拡散した状態で配置される程度の大きさ、例えば0.5〜150μm程度とすることが好ましい。また、含有量についても特に限定されないが、十分な磁力を帯びさせることができる程度の量を含有させる必要がある。例えば、固定化セルラーゼに5.0〜10重量%の割合で含有させることが好ましい。
【0028】
エタノール発酵のために用いられる酵母は特に限定されず、天然酵母、遺伝子組み換え酵母を問わず用いることができる。代表的なものとしては、例えばサッカロミセス属の酵母等が挙げられる。また、酵母は固定化して用いてもよい。この場合、固定化セルラーゼと同様に、磁性体を含有させておくと、磁力を利用して回収が容易となるので好ましい。
【0029】
糖化発酵槽では、上記の固定化セルラーゼにより糖化処理がなされ、その後酵母によりエタノール発酵がなされる。糖化発酵槽には、糖化やエタノール発酵の反応条件を最適に保つための手段として、pH調節手段や温度調節手段を備えるとよい。pH調整手段としては、例えば、糖化発酵槽の内部にpHセンサーを配設し、検知されたpHに基づいて、必要に応じて酸溶液又はアルカリ溶液を自動的に糖化発酵槽内に流入させるものが挙げられる。また、温度調節手段としては、例えば糖化発酵槽内に温度センサーを配設し、検知された槽内温度に基づいて、必要に応じて加熱・冷却を行える恒温機を備えるものが挙げられる。
【0030】
また、磁性体を含有させた固定化セルラーゼや固定化酵母を回収するための磁力回収手段を備えてもよい。磁力回収手段は、磁性が付与された固定化セルラーゼや固定化酵母を磁力で引き寄せることによって回収できるようにするものである。磁力回収手段としては、例えば常磁性体や電磁石を有してなるものが挙げられる。
【0031】
本発明に係るエタノール製造装置は、上述した糖化発酵槽の他に、槽内で得られたエタノール発酵液から残渣を取り除くための残渣除去手段や、エタノール発酵液からエタノールを精製するエタノール精製手段等が接続されることにより構成され、これにより本発明に係るエタノールの製造方法が実施されることとなる。
【0032】
尚、糖化・発酵処理の対象となるセルロース系バイオマスは、必要であれば粉砕処理やリグニン除去処理等の前処理をしておく。ここで、リグニン除去処理はアルカリ蒸解法等の既知の方法で行うことができるが、上述したアクレモニウム属由来のセルラーゼのように、リグニン存在下であっても高い加水分解能を有するセルラーゼを使用する場合には、リグニン除去処理を行わずに糖化処理することが可能である。
【0033】
また、糖化の際のセルラーゼの使用量やエタノール発酵の際の酵母の使用量は特に制限されるものではなく、糖化発酵槽の容量や処理するセルロース系バイオマスの量、使用するセルラーゼ及び酵母の活性等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
糖化工程における温度やpHについても、使用するセルラーゼの種類等に応じて適宜設定すればよいが、セルラーゼが十分に機能し、かつ失活しない範囲で設定する必要がある。例えば、温度については10〜70℃の範囲内で設定することが好ましく、pHについては3.0〜8.0が好ましい。エタノール発酵工程における温度やpHについても特に限定されるものではなく、エタノール発酵に供する糖の量や酵母の種類に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0036】
[固定化セルラーゼの調製]
アルギン酸ナトリウム5.0gに精製水50mlを加えて攪拌して均一に溶解させ、アルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。次いで、アクレモニウム属由来のセルラーゼを20mMクエン酸緩衝液(pH4.5)50mlに溶解させて調製したセルラーゼ溶液50mlを、アルギン酸ナトリウム水溶液に加え攪拌した。さらに、その中に磁性体としてのフェライト粒子(平均粒子径10μm)5.0gを加えた。得られたセルラーゼ−フェライト含有アルギン酸ナトリウム水溶液を攪拌しながらパスツールピペットにて適量を採取し、5.0%塩化カルシウム水溶液中に滴下してゲル化させて、粒径がおよそ1.0〜5.0mmの固定化セルラーゼを調製した。その後、5.0%塩化カルシウム水溶液中に磁石を挿し入れて、得られた固定化セルラーゼを磁石に引き寄せて回収した。回収された固定化セルラーゼは20mMクエン酸緩衝液(pH4.5)中に浸漬保存した。また、同様にして、セルラーゼにエンドグルカナーゼを用いた固定化セルラーゼも作製した。
【0037】
[固定化酵母の調製]
アルギン酸ナトリウム5.0gに精製水50mlを加えて攪拌して均一に溶解させ、アルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。次いで、サッカロミセス属酵母を20mMクエン酸緩衝液(pH4.5)50mlに懸濁させて調製した酵母懸濁液50mlを、アルギン酸ナトリウム水溶液に加え攪拌した。さらに、その中に磁性体としてのフェライト粒子(平均粒子径10μm)5.0gを加えた。得られた酵母−フェライト含有アルギン酸ナトリウム水溶液を攪拌しながらパスツールピペットにて適量を採取し、5.0%塩化カルシウム水溶液中に滴下してゲル化させて、粒径がおよそ1.0〜5.0mmの固定化酵母を調製した。その後、5.0%塩化カルシウム水溶液中に磁石を挿し入れて、得られた固定化酵母を磁石に引き寄せて回収した。回収された固定化酵母はサッカロミセス用培地(pH4.5)中に浸漬保存した。同様にして、酵母にパチソレン属酵母を用いた固定化酵母も作製した。
【0038】
図1には、上記のようにして得られた固定化セルラーゼ及び固定化酵母の構造を示す模式図が示されている。図1に示すように、固定化セルラーゼ及び固定化酵母は、包括剤としてのアルギン酸ナトリウムの表面がゲル化薄膜で被覆されて、その内部にセルラーゼ又は酵母が固定される。また、内部にはフェライト粒子が散在しており、これにより固定化生体セルラーゼ及び固定化酵母に磁性が付与されることとなる。
【0039】
上記のようにして作製された固定化セルラーゼ及び固定化酵母が、本発明に係るエタノール製造装置おける糖化工程及びエタノール発酵工程にそれぞれ用いられる。
【0040】
図2には、本実施例に係るエタノール製造装置10の構成が示されている。エタノール製造装置10は、糖化発酵槽100と、固液分離機200と、第一中間槽300と、蒸留塔400と、第二中間槽500とを備えている。
【0041】
糖化発酵槽100には、pH調節機110と、恒温機120と、磁力回収手段としての回収用磁石130が配設される。pH調節機110は、糖化発酵槽内の糖化液又はエタノール発酵液のpHを一定に保つためのものであり、糖化発酵槽100内に配設されたpHセンサー111と、苛性ソーダ溶液注入ポンプ112と、クエン酸溶液注入ポンプ113とからなる。苛性ソーダ溶液注入ポンプ112及びクエン酸溶液注入ポンプ113は、それぞれpHセンサー111と接続されており、pHセンサー111から伝達される糖化発酵槽内の糖化液又はエタノール発酵液のpHに応じて、苛性ソーダ溶液又はクエン酸溶液を必要量だけ糖化発酵槽100内に自動的に注入できるように構成されている。
【0042】
恒温機120は、糖化発酵槽100内の糖化液又はエタノール発酵液を所定の温度に維持するためのものであり、糖化発酵槽100内に配設された温度センサー121が検知した温度に応じて糖化発酵槽100内を自動的に加温又は冷却できるように構成されている。
【0043】
回収用磁石130は、糖化発酵槽100内から、磁性が付与された固定化セルラーゼまたは固定化酵母を磁力によって回収するための手段である。図3には、回収用磁石130を示す模式図が示されている。図3(i)に示すように、回収用磁石130は、棒磁石1
31と、棒磁石131が挿入される筒部材132とからなる。筒部材132は磁気を通し、かつ棒磁石131とくっつかないプラスチック等の素材から形成されてなる。これを用いて固定化セルラーゼ又は固定化酵母を液中から回収するには、まず図3(ii)に示すよ
うに回収用磁石130を液中に挿し入れる。すると、磁性を帯びた固定化セルラーゼ又は固定化酵母は、筒部材132の表面に引き寄せられる。そして、回収用磁石130を液中から引き上げた後、図3(iii)に示すようにして棒磁石131を筒部材132から抜き取
ると、磁力から解放された固定化セルラーゼ又は固定化酵母が筒部材132の表面から離れて、固定化セルラーゼ又は固定化酵母を回収することができる。
【0044】
固液分離機200は、糖化発酵槽100から移送ポンプP1により移送されてきたエタノール発酵液からセルロース残渣等の固形物を分離除去する手段である。固液分離機200は、図示しない濾過材と、コンプレッサー210とを備えており、糖化反応槽100から搬送されたエタノール発酵液は、コンプレッサー210の負圧によって吸引濾過されて固形物と分離される。
【0045】
第一中間槽300は、固液分離機200で固形物と分離されたエタノール発酵液が貯留されるためのものである。
【0046】
蒸留塔400は、第一中間槽300から移送ポンプP2により移送されるエタノール発酵液を蒸留し、エタノールを精製するものである。
【0047】
第二中間槽500は、蒸留等400でエタノールが除かれたエタノール発酵残液を貯留するものである。貯留された残液は、投入ポンプP3によってその後再び糖化発酵槽100に戻されて、糖化発酵に利用することができる。
【0048】
次に、エタノール製造装置10を用いて、セルロース系バイオマスからエタノールを製造する方法について説明する。
【0049】
まず、糖化発酵槽100中に、クエン酸緩衝液10lを入れ、これにセルロース系バイオマスとしての乾燥芝1kgと、固定化セルラーゼ約100g(アクレモニウム属セルラーゼ250000unit、エンドグルカナーゼ250000unit)を加え、pH4.5、55℃に維持しつつ、48時間ゆるやかに撹拌しながら糖化処理を行った。糖化処理終了後、回収用磁石130を糖化発酵槽100内に挿入して固定化セルラーゼを回収した後、得られた糖化液を30度まで冷却した。次いで、サッカロミセス属固定化酵母100g及びパチソレン属固定化酵母100gを加え、pH4.5、30℃に維持しつつ、72時間エタノール発酵を行った。エタノール発酵終了後、回収用磁石130を糖化発酵槽100内に挿入し、固定化酵母を回収した。
【0050】
このように、磁力によって固定化セルラーゼと固定化酵母とを糖化発酵槽100内から回収することができるので、糖化液及びエタノール発酵液を他の槽に移し替えずに、同一槽で糖化工程を発酵工程を行うことができる。
【0051】
得られたエタノール発酵液を、固液分離機200に搬送して、セルロース残渣等の固形物と液体物とを分離した。そして、固形物が除去されたエタノール発酵液を、第一中間槽300に移送して貯留した後、蒸留塔400に移送して蒸留し、エタノールの精製を行った。得られたエタノール量は210gであった。一方、エタノールが除かれた後のエタノール発酵残液は、第二中間槽500に貯留した。このエタノール発酵残液は、固液分離機200で分離された固形物と共に、後の糖化発酵処理に再度利用することができる。
【0052】
以上、本発明に係るエタノール製造装置及び製造方法について、実施例に基づき詳述したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えばエタノール発酵液を固液分離する手段や精製する手段に別の装置を用いてもよいし、バイオマス系セルロースを粉砕処理する手段等を追加してもよい。また、それらの配置等も適宜設定することができる。例えば、実施例では固液分離機200を糖化発酵槽100と第一中間槽300との間に配置して精製処理前に固液分離を行うようにしているが、これを精製処理後に行えるように、蒸留塔400と第二中間槽500との間に配置してもよいし、磁力回収手段に電磁石を利用したものを用いて、電源のON−OFFにより磁力制御を行えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例に係る固定化セルラーゼ及び固定化酵母の模式図である。
【図2】実施例に係るエタノール製造装置の構成を示すブロック図である。
【図3(i)】実施例に係る磁力回収手段を示す模式図である。
【図3(ii)】実施例に係る磁力回収手段を示す模式図である。
【図3(iii)】実施例に係る磁力回収手段を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
10 エタノール製造装置
100 糖化発酵槽
110 pH調節機
120 温度調節機
130 回収用磁石(磁力回収手段)
131 棒磁石
132 筒部材
200 固液分離機
300 第一中間槽
400 蒸留塔
500 第二中間槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマスを、磁性体を含有する固定化セルラーゼにより糖化させるとともに、得られた糖化液を酵母によりエタノール発酵させる糖化発酵槽を備えることを特徴とするエタノール製造装置。
【請求項2】
酵母が、磁性体を含有する固定化酵母であることを特徴とする請求項1記載のエタノール製造装置。
【請求項3】
固定化セルラーゼ若しくは固定化酵母又はその両方を、糖化発酵槽内から磁力により回収する磁力回収手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエタノールの製造装置。
【請求項4】
セルロース系バイオマスを、磁性体を含む固定化セルラーゼにより糖化させて糖化液を得る工程と、前記糖化液から前記固定化セルラーゼを磁力により回収する工程と、前記糖化液に酵母を加えてエタノール発酵液を得る工程とを含むことを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項5】
酵母が磁性体を含む固定化酵母であって、エタノール発酵液から前記固定化酵母を磁力により回収する工程を含むことを特徴とする請求項4記載のエタノール製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3(i)】
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【図3(ii)】
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【図3(iii)】
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【公開番号】特開2010−104282(P2010−104282A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279214(P2008−279214)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(505337238)株式会社コンティグ・アイ (5)
【出願人】(508325670)株式会社田中工業所 (1)
【出願人】(508325681)トゥービー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】