説明

エチレンターポリマー・ワックスを含むチキソトロピック剤

0.1〜30質量%の、少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックス、5〜70質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、5〜85質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックス及び上記第1の溶剤の両方と相溶性の少なくとも1種の溶剤を成分として含むチキソトロピック剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
0.1〜30質量%の、少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックス、
5〜70質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、及び
5〜85質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックス及び上記第1の溶剤の両方と相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤
を成分として含むチキソトロピック剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング材料、特にメタリックペイントの重要な成分として、チキソトロピック剤は、塗布特性にとって決定的に意味のあるものである。このようなチキソトロピック剤は、一般に少なくとも1種の高分子成分を含んでいる。チキソトロピック剤の機能は、例えばコーティング材料の経時安定性及び温度安定性を向上させることである。これらはまた、問題のコーティング材料の塗布を容易にする、即ち剪断力の付与下に、粘度を低下させることを意図されており、そしてまた塗布後にタレを形成するコーティング材料の望ましくない性向を低下させるはずである。この目的のために、剪断力の無いときはコーティング組成物の粘度を上昇させるはずである。このため極めて有効なチキソトロピック剤への関心は高い。
【0003】
さらに、経済的観点から出来るだけ好ましい出発材料に基づいてチキソトロピック剤を製造することが望ましい。特に好ましい出発材料はポリエチレンワックスである。
【0004】
特に、チキソトロピック剤は、2回コート・メタリックの自動車仕上げ(autofinishes)のために微分散状態で使用される。その際、チキソトロピック剤は、ベースコートの沈降防止剤として作用するように意図されている。チキソトロピック剤は、メタリック効果のある顔料の顔料片が1つの面にそれら自身が配向する時間が十分にあるように、ペイント膜が乾燥する際の顔料片の沈降を低下させる。これにより、高いグロスで、典型的なメタリック外観の自動車仕上げがもたらされる。これはクリヤーコート(トップコート)で仕上げられる。
【0005】
特許文献1には、有機相において、5質量%と60質量%との間のゲル剤、5質量%と50質量%との間の、室温でゲル剤と非相溶性の溶剤、及び20〜90質量%の、ゲル剤及び他の溶剤の両方と相溶性の溶剤を含む安定なチキソトロピック剤が開示されている。このゲル剤は、少なくとも25質量%のポリエチレンワックスからなり、このポリエチレンワックスは、40〜96モル%のエチレン及び4モル%と60モル%との間のコモノマーから構成され、且つこのコモノマーはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、エステル化アクリル酸、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びこれらの混合物から選択される。しかしながら、貯蔵を長くした場合、ワックス粒子の結晶化が観察される場合があり、ペーストの粒度(細かさ)になお改良の余地がある。従って、これらは十分に安定とは言えず、特に要求の内でも最近の要求適性を有するメタリックペイントにとってはそうである。
【0006】
特許文献2では、エチレンと、不飽和カルボン酸と、不飽和カルボン酸エステルとのターポリマーを含む硬質ワックス(硬蝋)、及びつや出しセグメント、特に床のつや出し成分として、これをスチレン−アクリル酸−アクリレート分散液と共に使用する方法が開示されている。さらに、提案されている用途としては、織物(繊維)化学及びプラスチック加工が挙げられている。
【0007】
【特許文献1】US4,200,561
【特許文献2】DE3109950
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、改良されたチキソトロピック剤、改良されたチキソトロピック剤の製造方法及び改良されたチキソトロピック剤の使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、冒頭に定義したチキソトロピック剤によって達成されることを見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のチキソトロピック剤は、
0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%の少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックス、
5〜70質量%、好ましくは8〜50質量%、特に好ましくは10〜20質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、及び
5〜85質量%、好ましくは10〜80質量%、特に好ましくは30〜60質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックス及び上記第1の溶剤の両方と相溶性である少なくとも1種の溶剤
を成分として含んでいる。
【0011】
本発明のチキソトロピック剤で使用されるエチレンターポリマー・ワックスは、エチレンと少なくとも2種のコモノマーとのワックス状のターポリマーであり、そのワックスは通常20〜70000mm2/s、好ましくは800〜2000mm2/sの範囲の粘度(DIN51562に従い120℃で測定)を有する。その酸価は1〜110mgKOH/g(ワックス1g)、好ましくは10〜100mgKOH/g(DIN53402に従い測定);特に30〜50mgKOH/gが好ましい。その融点は、60〜110℃、好ましくは80〜109℃(DIN51007に従いDSCで測定)の範囲にある。その密度は、通常0.89〜0.99g/cm3、好ましくは0.96g/cm3以下(DIN53479に従い測定)である。
【0012】
本発明のチキソトロピック剤に使用されるエチレンターポリマー・ワックスは、
80〜99.9質量%、さらに好ましくは93〜99.5質量%のエチレン、
0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.5〜7質量%の少なくとも2種のコモノマー
から合成された少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックスを成分として含み、且つ
上記2種のコモノマーが、
第1のコモノマーとして、1〜99質量%、好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは40〜60質量%の少なくとも1種のC3〜C12−アルケンカルボン酸、及び
第2のコモノマーとして、99〜1質量%、好ましくは70〜30質量%、特に好ましくは60〜40質量%の少なくとも1種の式I:
【0013】
【化1】

【0014】
[但し、R1が、水素、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択され、そして
2が、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択される。]
で表されるエステルから構成されていることが好ましい。
【0015】
式Iにおいて、
1は、
水素、
1〜C10−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ネオペンチル、1,2−ジメチルプロピル、イソアミル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル、n−ノニル及びn−デシル、特に好ましくはC1〜C4−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル;
3〜C12−シクロアルキル、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル及びシクロドデシル、好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロへプチル;
6〜C14−アリール、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル及び9−フェナントリル、好ましくはフェニル、1−ナフチル及び2−ナフチル、特に好ましくはフェニル
を表す。
【0016】
2は、
1〜C10−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ネオペンチル、1,2−ジメチルプロピル、イソアミル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル、n−ノニル及びn−デシル、特に好ましくはC1〜C4−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル;
3〜C12−シクロアルキル、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル及びシクロドデシル、特に好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロへプチル;
6〜C14−アリール、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル及び9−フェナントリル、好ましくはフェニル、1−ナフチル及び2−ナフチル、特に好ましくはフェニル
を表す。
【0017】
1が水素及びメチルから選択されること、及びR2がメチルであることが、とりわけ好ましい。
【0018】
3〜C12−アルケンカルボン酸は、フリーラジカル重合条件の下に、エチレンと共にコポリマー及び/又はターポリマーを形成する不飽和カルボン酸である。これらは、カルボニル基と共役のC−C結合を有することが好ましい;即ち、これらはα,β−不飽和カルボン酸である。その例としては、アクリル酸、(E)−クロトン酸、(Z)−クロトン酸及び最後の2種の混合物、メタクリル酸、エタクリル酸、(E)−1−ブテン酸、(E)−1−ペンテン酸(pentenylic acid)、(E)−1−ヘプテン酸(heptenylic acid)、(E)−1−ウンデセン酸(undecenylic acid)を挙げることができる。アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。アクリル酸が極め好ましい。
【0019】
本発明のチキソトロピック剤もまた、例えばエチレン、式Iの化合物及び2種のC3〜C12−アルケンカルボン酸を共重合することにより製造されるエチレンターポリマー・ワックスも含むことができる。同様に、エチレン、C3〜C12−アルケンカルボン酸及び2種の式Iの化合物を共重合することにより得られるエチレンターポリマー・ワックスも、チキソトロピック剤としての使用に好適である。
【0020】
本発明の別の態様において、本発明のチキソトロピック剤に存在するエチレンターポリマー・ワックスは、エチレン、C3〜C12−アルケンカルボン酸及び式Iの化合物に加えて、上記コモノマーの合計に対して10質量%以下の第4のコモノマー、例えば酢酸ビニル又は蟻酸ビニルを含んでいる。
【0021】
本発明のチキソトロピック剤に存在するエチレンターポリマー・ワックスはそれ自体は公知であり、通常の方法、好ましくはエチレンとアクリル酸又はアクリレートとを直接フリーラジカル共重合する先行技術の方法(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版, entry: Waxes, 第A28巻, 146頁以下, VCH Weinheim, Basel, Cambridge, New York, Tokyo, 1996)により製造される。
【0022】
エチレンターポリマー・ワックスは、撹拌機付き高圧オートクレーブ又は高圧管型反応器で製造することができる。撹拌機付き高圧オートクレーブでの製造が好ましい。本発明のチキソトロピック剤中に存在するポリエチレンワックスの製造に使用される撹拌機付き高圧オートクレーブは公知である:その記載は、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版, entry: Waxes, 第A28巻, 146頁以下, VCH Weinheim, Basel, Cambridge, New York, Tokyo, 1996に見られる。これらの長さ/直径の比は、5:1〜30:1、好ましくは10:1〜20;1の範囲で、一般に設定される。同様に使用することができる高圧管型反応器も、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版, entry: Waxes, 第A28巻, 146頁以下, VCH Weinheim, Basel, Cambridge, New York, Tokyo, 1996に見ることができる。重合の好適な圧力条件は、1000〜3500バール、好ましくは1500〜2500バールである。反応温度は、160〜320℃、好ましくは200〜280℃の範囲に設定される。
【0023】
使用される調節剤としては、例えば式II:
【0024】
【化2】

で表される脂肪族アルデヒド又は脂肪族ケトン、或いはこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
上記式IIにおいて、R3及びR4は、同一でも異なっていても良く、
水素、
1〜C6−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ネオペンチル、1,2−ジメチルプロピル、イソアミル、n−ヘキシル、イソヘキシル及びsec−ヘキシル、特に好ましくはC1〜C4−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル;
3〜C12−シクロアルキル、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル及びシクロドデシル、好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロへプチル;
を表す。
【0026】
特に好ましい一態様において、R3及びR4は、相互に共有結合して、4〜13員の環を形成する。例えば、R3及びR4は一緒になって、−(CH24−、−(CH25−、−(CH26−、−(CH27−、−CH(CH3)−CH2−CH2−CH(CH3)−、−CH(CH3)−CH2−CH2−CH2−CH(CH3)−であっても良い。
【0027】
プロピオンアルデヒド(R3=H、R4=C25)又はエチルメチルケトン(R3=CH3、R4=C25)を調整剤として使用することが特に好ましい。
【0028】
さらに一層適当な調節剤は非分岐脂肪族炭化水素、例えばプロパンである。特に良好な調節剤は、第4級水素原子を有する分岐の脂肪族炭化水素、例えばイソブタン、イソペンタン、イソオクタン及びイソドデカン(2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン)である。イソドデカンは、特に好適である。さらに追加の調節剤として、高級オレフィン、例えばプロピレンを使用することが可能である。
【0029】
使用される調節剤の量は、高圧重合法に通常使用される量である。
【0030】
使用され得るフリーラジカル重合用の開始剤は、有機過酸化物、酸素又はアゾ化合物等の通常のフリーラジカル開始剤である。2種以上のフリーラジカル開始剤の混合物の使用も好適である。
【0031】
使用可能なフリーラジカル開始剤としては、市販されている物質から選択される1種以上の過酸化物を挙げることができる。
【0032】
その市販物質の例としては、
ジデカノイルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、tert−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシジエチルアセテート、tert−ブチルペルオキシジエチルイソブチレート、異性体混合物である1,4−ジ(tert−ブチルペルオキシカルボ)シクロヘキサン、tert−ブチルペルイソノナノエート、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、メチルイソブチルケトンペルオキシド、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカルボネート、2,2−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ブタン又はtert−ブチルペルオキシアセテート;
tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジ−tert−アミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン異性体、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルペルオキシヘキサン、tert−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサ−3−イン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、1,3−ジイソプロピルモノヒドロペルオキシド;又は
式IIIa〜IIIc:
【0033】
【化3】

で表される二又は三量体のケトンペルオキシド、
を挙げることができる。
【0034】
上記式IIIa〜IIIcにおいて、
5〜R8は同一でも異なっていても良く、
1〜C8−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、sec−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、n−へプチル及びn−オクチル、好ましくは直鎖のC1〜C6−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、特に好ましくは直鎖のC1〜C4−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、極めて好ましくはエチル;
6〜C14−アリール、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル及び9−フェナントリル、好ましくはフェニル、1−ナフチル及び2−ナフチル、特に好ましくはフェニル
から選択される。
【0035】
上記式IIIa〜IIIcの過酸化物(ペルオキシド)及びその製造方法もEP−A0813550に記載されており公知である。
【0036】
特に好適な過酸化物としては、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルイソノナノエート、ジベンゾイルペルオキシド及びこれらの混合物を挙げることができる。アゾ化合物の例としてはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を挙げることができる。フリーラジカル開始剤は、重合に通常使用される量で用いられる。
【0037】
本発明のチキソトロピック剤は、さらに5〜70質量%、好ましくは8〜50質量%、特に10〜20質量%の、エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の溶剤(第1の溶剤)を含んでいる。本発明の目的のために、エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の溶剤は、そのエチレンターポリマー・ワックスの溶解力が各溶剤の沸点以下の温度において0又は極めて低い(即ち1質量%以下の)ものである。これらは、一般に極性溶剤、例えばエーテル、エステル、ケトン、アルコール、特にエーテル(例、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル)、及びさらにエステル(例、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、n−ブチルアセテート、n−ヘキシルアセテート、エチルプロピオネート及びエチルブチレート)、そしてさらにケトン(例、メチルエチルケトン、ジエチルケトン及びメチルイソプロピルケトン;さらにアルコール(例、n−ブタノール)が好ましい。
【0038】
本発明のチキソトロピック剤は、さらに5〜85質量%、好ましくは10〜80質量%、特に30〜60質量%の、エチレンターポリマー・ワックスと第1の溶剤(1種又は2種以上)の両方と相溶性である少なくとも1種の溶剤を含んでいる。本発明の目的のために、エチレンターポリマー・ワックスと第1の溶剤の両方と相溶性である溶剤は、各溶剤の沸点より低い温度、好ましくは各溶剤の沸点よりも少なくとも10℃低い温度で、各エチレンターポリマー・ワックスを、小さい画分より大きい量で、溶解する能力を有するものであり、即ち例えば少なくとも5〜6質量%、好ましくは20〜30質量%の濃度で透明な溶液を形成することができる。さらに、この溶剤は第1の溶剤とは、どのような割合でも相分離を起こすことなく相溶するはずである。この溶剤としては、芳香族及び脂肪族炭化水素、好ましくは炭素原子数7〜11個のもの、それぞれ又は混合物を挙げられる。その例としては、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン及びp−キシレン;そしてn−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン及びデカリン、好ましくはトルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン及びp−キシレン;そしてn−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン及び混合物、例えば脂肪族の混合物(例、石油エーテル(公知名))、又は炭素原子数7〜11個の脂肪族及び芳香族炭化水素の混合物(例、GASF AG社製のソルベントナフサ(商品名))を挙げることができる。
【0039】
本発明のチキソトロピック剤は極めて良好なチキソトロピック性を示し、全般的に従来のチキソトロピック剤に優る塗布特性を示している。
【0040】
さらに本発明は、本発明のチキソトロピック剤を製造する方法を提供する。本発明のチキソトロピック剤を製造するためには、エチレンターポリマー・ワックス、エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、及びエチレンターポリマー・ワックス及び第1の溶剤の両方と相溶性の1種以上の溶剤を、相互に混合する。好ましい方法は、まずエチレンターポリマー・ワックスを、エチレンターポリマー・ワックスと相溶性の1種以上の溶剤に高温で、例えば透明溶液が得られるまで、溶解することである。溶解は、例えば撹拌又は振とうにより促進され得る。その後、エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の溶剤を加える。短時間の内に非相溶性溶剤を加えることが適当である。
【0041】
本発明は、さらに本発明のチキソトロピック剤の使用法を提供する。本発明のチキソトロピック剤は、コーティング材料、特にメタリックペイントの成分として極めて好適である。メタリックペイントは、ペイントの文献では金属外観コーティング(metal effect coatings)とも呼ばれ、一般に適当な成分は例えばWO87/05923に記載されている。本発明のチキソトロピック剤を、メタリックペイントの成分として使用する方法、及び本発明のチキソトロピック剤を含むメタリックペイントは本発明の別の態様である。最後に、本発明のチキソトロピック剤を顔料、例えばアルミニウム粒子、マイカ、金属銅又は銀と混合することによりコーティング材料、特にメタリックペイントを製造する方法も、本発明により提供される。
【0042】
驚くべきことに、本発明のチキソトロピック剤は、メタリックペイントのチキソトロピーを増加させるので、メタリックペイントの成分として極めて好適であることが見いだされた。高度にチキソトロピーなメタリックペイントは、貯蔵時に顔料、特にメタリックペイント内に存在するアルミニウム粒子が沈殿しない(もし沈殿すれば望ましくない分離が必要となるであろう)ので、従来の対応するものより優れている。さらに、本発明のコーティング材料はそれ自身表面塗布に極めて適当である。このため、本発明は、本発明のチキソトロピック剤を含む本発明のコーティング材料、特にメタリックペイントで被覆した表面、さらに、本発明のメタリックペイントで、表面、特に金属表面、例えば車体構造表面、ケーシング及び器具を、被覆する方法を提供する。本発明に従って被覆された表面は、耐擦り傷性等に関して優れた特性を示す。さらに、本発明に従って被覆された表面は極めて優れたつや消しにされ得る。
【実施例】
【0043】
特に記載しない限り、全ての容量データは室温及び1バールに基づくものである。
【0044】
1. エチレンターポリマー・ワックスの製造
エチレン、アクリル酸及びメチルアクリレートを、文献(M. Buback et al., Chem. Ing. Tech. 1994, 66, 510)に記載のように、高圧オートクレーブで重合させた。この重合のために、tert−ブチルペルオキシピバレート(0.02mol/L)のイソドデカン溶液を約1000〜1500ml/hで加えた、エチレンと、アクリル酸とメチルアクリレートの混合物とを、1700バールの反応圧力下に供給した。調節剤として、プロピオンアルデヒド及びイソドデカンの混合物(容量比1:1)を、600ml/hで計量供給した。表1に重合条件を、表2に得られたポリマーの分析値を示す。
【0045】
エチレンターポリマー中のエチレン、アクリル酸及びメチルアクリレートの量を、NMR分光法及び滴定(酸価)により測定した。ポリマーの酸価はDIN53402に従い滴定により測定した。KOHの消費量がポリマーのアクリル酸含有量に対応する。
【0046】
【表1】

略語: ID=イソドデカン
【0047】
エチレンターポリマー・ワックスの分析データを表2に示す。表2は比較サンプルC1のデータも含む;C1は、ワックス6と類似の方法で製造したが、メチルアクリレートを使用せず、供給されたアクリル酸を5.5質量%用いた。エチレンターポリマー・ワックスC1のアクリレート含有量は5.5質量%であった。
【0048】
【表2】

【0049】
溶融粘度は、DIN51562に従いDSCにより測定し、融点はDIN51007により測定した。
【0050】
2.本発明のチキソトロピック剤の製造及びチキソトロピーの試験
試験は顔料の添加無しに実施した。
【0051】
滴下じょうごを有する丸底フラスコに、表2のエチレンターポリマー・ワックス12gを、82gのソルベントナフサ(BASFアクチェンゲゼルシャフト)と一緒に105℃に撹拌しながら加熱した。その後、溶液を撹拌しながら80℃まで冷却し、106gのn−ブチルアセテート(室温)を滴下じょうごを介して加えた。分散沈殿物が形成した、最後に、混合物を撹拌しながら32℃に冷却した。
【0052】
少なくとも24時間、室温で貯蔵した後、分散液を簡単に集め、さらに45分間放置した。その後、0.5gのワックス分散液を水平のガラス板に置いた。1分間の休止後、ガラス板を垂直に立たせた。チキソトロピーのために使用された評価手段は、塗布されたワックス分散液の2分間で移動した距離(測定範囲0〜40cm)である。測定範囲を2分以内に超えた場合は、これに要した時間を測定した。その結果を表3にまとめる。
【0053】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜30質量%の、少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックス、
5〜70質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、及び
5〜85質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックス及び上記第1の溶剤の両方と相溶性の少なくとも1種の溶剤
を成分として含むチキソトロピック剤。
【請求項2】
80〜99.9質量%のエチレン、
0.1〜20質量%の少なくとも2種のコモノマー
から合成された少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックスを成分として含み、且つ
上記少なくとも2種のコモノマーが、
第1のコモノマーとして、1〜99質量%の少なくとも1種のC3〜C12−アルケンカルボン酸、及び
第2のコモノマーとして、99〜1質量%の少なくとも1種の式I:
【化1】

[但し、R1が、水素、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択され、そして
2が、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択される。]
で表されるエステルを含む請求項1に記載のチキソトロピック剤。
【請求項3】
第1のコモノマーがアクリル酸である請求項1又は2に記載のチキソトロピック剤。
【請求項4】
式IのR1が、水素又はメチルを表し、そして式IのR2がメチルを表す請求項1〜3のいずれかに記載のチキソトロピック剤。
【請求項5】
エチレンターポリマー・ワックスが、
90〜99質量%のエチレン及び10〜1質量%の少なくとも2種のコモノマーを含み、且つ
上記少なくとも2種のコモノマーが、
第1のコモノマーとして、30〜70質量%の少なくとも1種のC3〜C12−アルケンカルボン酸、及び
第2のコモノマーとして、70〜30質量%の少なくとも1種の式Iのエステルを含む請求項1〜4のいずれかに記載のチキソトロピック剤。
【請求項6】
まずエチレンターポリマー・ワックスを、エチレンターポリマー・ワックスと相溶性の1種以上の溶剤に溶解し、その後エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の溶剤を加える工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のチキソトロピック剤を製造する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むコーティング材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むメタリックペイント。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤中で混合することにより、コーティング材又はメタリックペイントを製造する方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むコーティング材又はメタリックペイントで被覆された表面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜30質量%の、少なくとも1種のエチレンターポリマー・ワックス、
5〜70質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の第1の溶剤、
5〜85質量%の、上記エチレンターポリマー・ワックス及び上記第1の溶剤の両方と相溶性の少なくとも1種の溶剤
を成分として含み、
上記エチレンターポリマー・ワックスが、
80〜99.9質量%のエチレン、
0.1〜20質量%の少なくとも2種のコモノマー
から合成され、且つ
上記少なくとも2種のコモノマーが、
第1のコモノマーとして、1〜99質量%の少なくとも1種のC3〜C12−アルケンカルボン酸、及び
第2のコモノマーとして、99〜1質量%の少なくとも1種の式I:
【化1】

[但し、R1が、水素、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択され、そして
2が、C1〜C10−アルキル、C3〜C12−シクロアルキル、及びC6〜C14−アリールから選択される。]
で表されるエステルを含む請求項1に記載のチキソトロピック剤。
【請求項2】
第1のコモノマーがアクリル酸である請求項1に記載のチキソトロピック剤。
【請求項3】
式IのR1が、水素又はメチルを表し、そして式IのR2がメチルを表す請求項1又は2に記載のチキソトロピック剤。
【請求項4】
エチレンターポリマー・ワックスが、
90〜99質量%のエチレン及び10〜1質量%の少なくとも2種のコモノマーを含み、且つ
上記少なくとも2種のコモノマーが、
第1のコモノマーとして、30〜70質量%の少なくとも1種のC3〜C12−アルケンカルボン酸、及び
第2のコモノマーとして、70〜30質量%の少なくとも1種の式Iのエステルを含む請求項1〜3のいずれかに記載のチキソトロピック剤。
【請求項5】
まずエチレンターポリマー・ワックスを、エチレンターポリマー・ワックスと相溶性の1種以上の溶剤に溶解し、その後エチレンターポリマー・ワックスと非相溶性の少なくとも1種の溶剤を加える工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のチキソトロピック剤を製造する方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むコーティング材。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むメタリックペイント。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤中で混合することにより、コーティング材又はメタリックペイントを製造する方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の少なくとも1種のチキソトロピック剤を含むコーティング材又はメタリックペイントで被覆された表面。

【公表番号】特表2006−516037(P2006−516037A)
【公表日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−582237(P2003−582237)
【出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2003/003613
【国際公開番号】WO2003/085054
【国際公開日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】