説明

エチレン系樹脂複合粒子、その環境調和型製造方法、及び、成形物

【課題】他の樹脂ペレットや配合材料と混合して成形に使用する場合にでも混合が容易でかつフィラーの均一分散が可能な、球形ないし略球形の、機能性フィラーが添加された粒径の小さいエチレン系樹脂複合粒子の提供。
【解決手段】水とは相分離する有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散してエマルション化し、次いで加熱して前記有機溶媒を除去することにより、前記疎水性の機能性フィラーが添加されたエチレン系ポリマーを粒子として析出させることを特徴とするエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂に機能性フィラーが添加されてなるエチレン系樹脂複合粒子、及び、その環境調和型製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、特性改善機能性フィラーを樹脂マトリックス中に分散した複合材の必要性が高まっている。例えばハロゲンフリー電線用被覆材に用いられる。例えば、ハロゲンフリー電線用被覆材に用いられるポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンは、乏しい難燃特性を改善するために、多量の疎水性難燃化フィラー(主として疎水性水酸化マグネシウム)の添加が必要である。しかしながら、これら機能性フィラーをポリオレフィン中へ分散した複合体(成形物)は、限られた形状に成形したバルク形状か、もしくはペレット状でのみ製造可能である。このようなペレットは径が大きく、かつ、不定形であるため、成形材料とした場合、実用範囲が限られてしまう。さらに、その複合体の製造には、難燃化フィラーの良好な分散性を達成するために、特殊な技術と装置とが必要であり、しかも、時間がかかる。
【0003】
ここで、成形物(複合体)とする際に、成形物中の機能性フィラーの良好な分散性の達成が容易で、かつ、球形の、フィラーが添加されたエチレン系樹脂複合材料が求められていた。
【0004】
しかしながら、このような樹脂複合材料を得るための1つの手法である液中乾燥法では、エチレン系樹脂複合粒子の調製における条件の設定が難しく、かつ、それに用いる溶媒がハロゲン含有するか、オゾン層を破壊するもの、あるいは、発ガン性の可能性があってGADSL(環境負荷物質リスト)に記載された物質が多く、環境に調和した手法であるとは云い難かった(特開2005−15476公報(特許文献1)、特開2003−171264公報(特許文献2))し、エチレン系複合材料への応用に適した開示のある先行技術はなかった。
【特許文献1】特開2005−15476公報
【特許文献2】特開2003−171264公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、成形物(複合体)とする際に、成形物中の機能性フィラーの良好な分散性の達成が容易で、かつ、球形ないし略球形の、機能性フィラーが添加された粒径の小さいエチレン系樹脂複合粒子を得ることができる環境調和型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、水とは相分離する有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散してエマルション化し、次いで加熱して前記有機溶媒を除去することにより、前記疎水性の機能性フィラーが添加されたエチレン系ポリマーを粒子として析出させることを特徴とするエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法である。
【0007】
また、本発明のエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法において、前記有機溶媒が、シクロヘキサン−ペンタン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘキサン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒、シクロヘキサン−オクタン混合溶媒、シクロヘキサン−ノナン混合溶媒、シクロヘキサン−デカン混合溶媒、シクロヘキサン−ウンデカン混合溶媒、及び、シクロヘキサン−ドデカン混合溶媒から選ばれる1つであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のエチレン系樹脂複合粒子は、請求項3に記載の通り、水とは相分離する有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散することによりエマルション化され、次いで加熱して前記有機溶媒が除去されることにより、析出されてなることを特徴とするエチレン系樹脂複合粒子である。
【0009】
本発明の成形物は請求項4に記載の通り、前記請求項3に記載のエチレン系樹脂複合粒子によって構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法によれば、成形物(複合体)を得る際に、成形物内部での機能性フィラーの良好な分散性の達成が容易で、かつ、球形の、フィラーが添加されたポリオレフィン系複合材料をかつ、環境に対する負荷が小さく、容易に、かつ、安価に得ることができる。
【0011】
本発明のエチレン系樹脂複合粒子は、成形物(複合体)を得る際に、成形物内部での機能性フィラーの良好な分散性の達成が容易で、かつ、球形の、フィラーが添加されたポリオレフィン系複合材料であり、製造に当たっての環境に対する負荷が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明におけるエチレン系ポリマーとは、エチレン成分を含む共重合体であり、例えば、低分子量ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン(高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン(汎用直鎖低密度ポリエチレン(ブテン−1をコモノマーとする汎用タイプ)、高級のα−オレフィン(ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1)をコモノマーとするタイプの直鎖低密度ポリエチレン(いわゆるHAO−LLDPE)、超低密度ポリエチレン(コモノマー(ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1)含有量がさらに多い軟質タイプ)等))、分岐状ポリエチレン(低密度ポリエチレン、極性モノマーとのコポリマー(エチレン−酢酸エチル共重合体、アクリレートとのコポリマー(エチレンメチルアクリレート共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体)など)、酸モノマーとのコポリマー(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリ酸共重合体)、金属塩モノマーとのコポリマー(アイオノマー(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリ酸共重合体)など))、エラストマー(エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、後塩素化物(塩素化ポリエチレン)等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いる有機溶媒は、水とは相分離するものであって、かつ、上記エチレン系ポリマーを溶解するものでなければならない。さらに、環境負荷の小さい溶媒(GADSLに記載のない、ハロゲンを含有しない、オゾン層を破壊しない、発ガン性がない)を用いる必要がある。
【0014】
このような溶媒としては、分岐のある/あるいは分岐のない飽和炭化水素(アルカン(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等)やシクロアルカン(シクロヘキサン等))、分岐のある/あるいは分岐のない不飽和炭化水素(アルケン、シクロアルケン、アルキン)が挙げられ、これらから1種以上選択する。このとき、沸点が70℃以上150℃以下であるようなものが好ましい。すなわち、沸点が70℃未満であると揮発性が高すぎて使用が困難となり、150℃超のものは揮発性が低くなるので除去が困難となる。
【0015】
このような、揮発性とエチレン系ポリマー溶解性を両立させるために上記の溶媒を混合して得ることができる混合溶媒を用いることができる。
【0016】
このような混合溶媒として、例えば、シクロヘキサン−ペンタン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘキサン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒、シクロヘキサン−オクタン混合溶媒、シクロヘキサン−ノナン混合溶媒、シクロヘキサン−デカン混合溶媒、シクロヘキサン−ウンデカン混合溶媒、及び、シクロヘキサン−ドデカン混合溶媒が挙げられ、これらによればエチレン系ポリマーの溶解性に優れ、球状のエチレン系樹脂複合粒子が効率よく得ることができるので好ましく、これらの中でもシクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒、シクロヘキサン-オクタン混合溶媒、あるいは、シクロヘキサン-ノナン混合溶媒が特に好ましい。
【0017】
これら混合溶媒は好適な揮発性が得られるよう、例えば沸点が70℃〜150℃程度となるようにその混合比率を適宜調整して用いる。
【0018】
本発明において、用いる機能性フィラーとしては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの難燃剤、炭酸カルシウムなどの増量剤、ヒドロキシステアリン酸マグネシウムなどの滑剤や、その他、酸化防止剤、金属不活性剤(銅害防止剤など)、可塑剤、耐電防止剤、防菌・防かび剤、着色剤、紫外線吸収剤、改質剤、強化材、核剤、加工助剤、老化防止剤などが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0019】
本発明で用いる機能性フィラーとしては疎水系のものでなければならない。このため、親水性の機能性フィラーを用いる場合には、疎水化剤で疎水化して用いる。
ここで、疎水化剤としては、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びシリコーンオイルなどを挙げることができ、これらから1種以上選択して使用する。
【0020】
シランカップリング剤としては、特に、限定されるものではないが、例えば、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシシラン)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトシキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトシキシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このようなシランカップリング剤は、通常、親水性の機能性フィラーに対して、0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜1重量%の範囲で用いられる。
【0021】
また、疎水化が目的であるため、シランカップリング剤以外のカップリング剤、例えば、チタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤もシランカップリング剤同様に用いることができる。
【0022】
また、脂肪酸としては、疎水化用途に用いるものであるため、水に多量に溶けないものであることが必要で、このようなものとして例えば、酪酸、吉草酸、ブチル酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、マーガリン酸、アラギリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ウンデシル酸、ノナデカン酸、アラキン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、ソルビン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸などから選択された1種以上で、飽和、不飽和を問わず挙げられるが、好ましくは炭素数14〜24の飽和又は不飽和の高級脂肪酸が好ましく、例えば、オレイン酸やステアリン酸を挙げることができる。このような脂肪酸は、通常、0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%の範囲で用いられる。またその上記脂肪酸塩もまた使用できる。
【0023】
シリコーンオイル類も用いることができ、そのようなものとしては例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。
【0024】
これら疎水化剤のうち、カップリング剤ではそのカップリング反応条件で機能性フィラーと反応させて、表面処理を行って疎水化処理する。その他の疎水化剤では、機能性フィラー表面にこれら疎水化剤が塗布される条件(温度、時間、攪拌条件)で疎水化処理を行う。
【0025】
本発明で用いられる機能性フィラーの粒径としては、特に限定されないが、通常の分散方法では樹脂マトリックス内に均一に分散されにくい1ミクロンオーダーの小さいフィラーであっても本発明のエチレン系樹脂複合粒子として複合材料中に配合すれば、フィラーをその複合材料中に均一分散させることができる。
【0026】
上述の溶媒に、上記エチレン系ポリマーと、疎水性の機能性フィラーとを入れてエチレン系ポリマーを溶解させ、疎水性の機能性フィラーを分散させる。このとき、最初に疎水性の機能性フィラーを溶媒に分散させてもよく、エチレン系ポリマーを最初に溶解させてもよく、これらを同時に溶媒に導入させても良い。このときエチレン系ポリマーを充分に溶解させるために、溶媒の種類に応じて加熱が必要である。
【0027】
ここで、比較的小さい粒径のエチレン系ポリマー(好ましくは100μm以下)を用いて、上記疎水化機能性フィラーと混合した後、溶媒を加えて、エチレン系ポリマーを溶解させると溶液中の疎水化機能性フィラーの分散が良好となり、機械的な混合をほとんど必要とせずに容易に均一分散させることが可能となるので、最終的に得られるエチレン系樹脂複合粒子の粒子ごとのミクロの添加量も均一とすることができる。
【0028】
このように、疎水性で、かつ、適切な沸点を持つ有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散してエマルション化させる。
【0029】
用いる界面活性剤は非イオン性界面活性剤であることが必要で、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、リグニンスルホン酸塩(例えば、リグニンスルホン酸カルシウム)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、高級脂肪酸アルカノールアマイドなどが用いられる。これらは1種又は2種以上を適当な割合で混合して使用することができる。これらの界面活性剤の中でも、たとえば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、TritonX−100、TritonX−114)などが、ポリビニルアルコールなどの従来の高分子分散安定剤に比べて優れたエマルション安定性を得ることができるので、得られる粒子の粒度および形状の面から品質安定性に優れるため、好ましい。
【0030】
非イオン性界面活性剤含有水溶液の量としては、例えば上記有機溶媒溶液100mlに対し0.1〜10g程度、好ましくは0.5〜4g、添加する。
【0031】
このようにして形成されたエマルション溶液を加熱し、有機溶媒を蒸発させることにより、水中に、疎水性の機能性フィラーが添加されたエチレン系ポリマーからなる粒子がエチレン系樹脂複合粒子として形成され、析出される。このときのエチレン系樹脂複合粒子の粒径は上記エマルション溶液のエマルション粒子の大きさとほぼ同じ大きさとなるために、ミクロンオーダーのものとなり、一般の樹脂ペレット(粒径は数mm)と比べ、非常に小さいものとなる。そのエマルション粒子の大きさは、エマルション溶液調製の際の、機械的なエネルギー(攪拌力、攪拌速度)に依存し、大きなエネルギーのときに粒子形が小さくなるので、ある程度、任意の大きさに調整可能である。
【0032】
このようなエチレン系樹脂複合粒子は必要に応じて水洗、あるいは、適当な有機溶媒で洗浄し、乾燥する。
【0033】
このように得られたエチレン系樹脂複合粒子は、形状が比較的真球に近い球状で、個々の粒子が機能性フィラーを含有したミクロンオーダーの複合粒子であるため、エチレン系ポリマーと混合し、成形に用いた場合にも、その成形品の中に機能性フィラーが均一分散するため、本来の機能性フィラーの性能が発揮され、また、不均一分散のときに問題となる強度低下などの不都合が予め防止されている。
【0034】
さらに、このようなエチレン系樹脂複合粒子において、機能性フィラーとして、水酸化マグネシウムを用いて上記方法で得たエチレン系樹脂複合粒子を単独で必要箇所に注入し、必要に応じて加圧することで、温度をかけることなく難燃ポリエチレンを充填することができる。このため、従来であれば難燃絶縁処理が困難であった、耐熱性の低い電子部品の被覆分野に応用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明のエチレン系樹脂複合粒子の実施例について具体的に説明する。
【0036】
直径約20cm、深さ30cmの円筒状の容器であって、底部中央に長さ10cmのプロペラ状の攪拌子を備えた容器中に、疎水化剤としてメチルハイドロジェンポリシロキサン1gおよび難燃剤としての機能を有する機能性フィラーである粒径約0.8μmの水酸化マグネシウム(アルベマール社製マグニフィンH7)99gを容れ、30分間、攪拌(1600rpm)した。その後、150℃、2時間の熱処理を施すことで、予め疎水化剤で表面処理した疎水化水酸化マグネシウムを調製した。
【0037】
疎水性で、かつ、沸点が100℃未満の有機溶媒として、共に環境負荷物質リストに記載のない、シクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒(体積配合比1:1)を用いた。シクロヘキサンの沸点が約81℃、ヘプタンの沸点は約98℃であり、これらを併せて用いることにより、エチレン系ポリマーの溶解性を低下させず、かつ、比較的高い温度でエチレン系ポリマーの溶解を行っても液質が安定し、さらに、溶媒除去過程中(O/Wエマルション)にも、溶媒量の急激な低下、すなわち、溶媒の急激な粘度変化がないため、結果として比較的高濃度のエチレン系ポリマー溶液を得ることができた。
【0038】
この混合溶媒20gに、エチレン系ポリマーとして、ポリエチレンの粉末(住友精化(株)社製UF−80、平均粒径:20μm(速やかに溶解するように粒径の小さいものを用いた。))2gと上記疎水化水酸化マグネシウム0.2,0.6,1.0あるいは1.4gの混合粉末を入れ、80℃に加温して溶解・分散させた。
【0039】
このような水酸化マグネシウムが分散されてなるポリエチレン有機溶媒溶液を、9gのTritonX−100を900mlに溶解させて得た非イオン性界面活性剤含有水溶液(約75℃)に、ホモミキサーで攪拌(4000rpm)しながら添加してエマルション化させ、次いで、80℃の温浴中で攪拌をしながら、有機溶媒を蒸発させて除去し(このときの攪拌時間は240分)、フィラーが添加されたポリエチレンを粒子として析出させた後、水洗し、乾燥して本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子を得た。
【0040】
なお、上記においてエマルション溶液は、TritonX−100の曇点である64℃よりも常に高い温度で扱ったため、TritonX−100はミセルとしては存在していないが、エマルションはつねに安定していた。
【0041】
図1(b)〜図1(e)のそれぞれに、エチレン系ポリマーの重量100に対してそれぞれ10、30、50、あるいは、70となるように、疎水化水酸化マグネシウムを添加して作製したエチレン系樹脂複合粒子の走査型電子顕微鏡写真を、また、図1(a)には、同様に、但し、疎水化水酸化マグネシウムを添加せずに得たエチレン系樹脂粒子(比較例)の走査型電子顕微鏡写真を示した。
【0042】
これら写真から本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子は、従来の、フィラーを有する複合粒子とは異なり、粒径が5μm程度と極めて小さく、かつ、真球形状であり、また、その表面には水酸化マグネシウム粒子が保持されていることが判る。
【0043】
<フィラーの配合量と、実際の含有量>
上記エチレン系樹脂複合粒子の水酸化マグネシウムの実際の含有量を調べた。具体的には、複合粒子を空気中・1000℃で燃焼させ、回収された酸化マグネシウム量から算出した。このときの水酸化マグネシウムの実際の含有量と配合量との関係を図2に示した。
【0044】
図2より、実際の含有量は配合量の70%程度となり、5μm程度の小さい複合粒子であるにもかかわらず、高い水酸化マグネシウム含有量が実現できることが理解できる。
【0045】
<従来技術との比較>
ここで、水酸化マグネシウムが配合された従来の成形物(成形方法:ポリエチレンの粉末(住友精化(株)社製UF−80、平均粒径:20μm)と上記疎水化水酸化マグネシウムの混合粉末(重量比2:1)0.2gを金型に入れ、一軸加圧によって成形し、150℃、2時間、熱処理を施すことで、円柱状(高さ2mm、直径10mm)の複合体(成形物)を調製した。)の破断面の走査型電子顕微鏡写真と、その同一断面でのマグネシウム原子に関するエネルギー分散型X線分析結果(EDS(Mg):マグネシウム原子が存在する部分は白点となる)とを図3(a)及び図3(b)に示した。
【0046】
また、上記本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子のうち、エチレン系ポリマーの100重量に対して疎水化水酸化マグネシウム70重量を配合させてなるエチレン系樹脂複合粒子を用いて作製した成形物(成形方法:上記円柱状成形物0.2gを金型に入れ、一軸加圧によって成形し、150℃、2時間、熱処理を施すことで、円柱状(高さ2mm、直径10mm)の複合体を調製した。)の破断面の走査型電子顕微鏡写真と、その同一断面でのマグネシウム原子に関するエネルギー分散型X線分析結果(EDS(Mg))とを図3(c)及び図3(d)に示した。
【0047】
これら結果から、本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子を用いてフィラーを配合した成形物はフィラーが極めて均一に分布することが判る。
【0048】
<製造条件の検討>
上記の本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子はその走査型電子顕微鏡写真図1(b)〜図1(e)からも理解できるように真球形状であった。
【0049】
ここで、本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子を成形物に応用する際に、本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子を単独で使用する場合、もしくは他の材料と複合化して使用する場合などの用途によっては、球形の粒子ではなく、表面に凹凸が多く存在して表面積が大きい粒子や楕円形状(楕円体形状)の粒子が求められる場合が想定される。ここで上記で例示した製造方法における条件を変更することにより、エチレン系樹脂複合粒子の形状を変更できることを具体的に説明する。
【0050】
なお、以下の検討では、形状の判断を容易にするために、上記比較例として作製した疎水化水酸化マグネシウムを添加せずに得たエチレン系樹脂粒子の製造条件をオリジナル条件として、これを基準として製造条件を種々変更して検討し、最終的に得られた、もっとも球に近いエチレン系樹脂粒子が得られる最良の条件で、再度疎水化水酸化マグネシウムを添加した系での検討を行った。
【0051】
《シクロヘキサンと併用する直鎖飽和炭化水素の炭素数の影響》
上記ではシクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒(体積配合比1:1)を用いたが、ここではヘプタン(炭素数:7)以外に、オクタン(炭素数:8)、ノナン(炭素数:9)、デカン(炭素数:10)をそれぞれ用いて体積配合比1:1のシクロヘキサンとの混合溶媒を調整し、他は上記比較例での条件で、それぞれエチレン系樹脂粒子を得た。
【0052】
これらエチレン系樹脂粒子について、平均アスペクト比及びその標準偏差とを、それぞれ、SEM(走査型電子顕微鏡)により撮影した写真から、粒径分布ソフト(マウンテック社製マック−ヴュー(Mac−View)バージョン4.0)を用いて、対象粒子100コの粒子を対象として、平均値、標準偏差を求めた。
【0053】
また、円形度係数は上記写真(二次元画像)に撮影された粒子100個それぞれについて写真上に投影された面積とその粒子の画像の周囲長とを測定し、この値より次式(1)により算出し、さらに、平均値(平均円形度係数)と標準偏差を求め、これらの結果を図4(a)及び図4(b)に示した。
【0054】
[式1]
円形度係数 =4π × 面積/(周囲長)
【0055】
これらの図より、炭素数が増加するにつれて平均円形度係数は低下し、平均円形度係数の標準偏差値、平均アスペクト比、及び、その標準偏差は増加の傾向を示すことがわかる。これは、シクロヘキサンに添加する炭化水素の炭素数が大きい、つまり、分子量が大きく沸点が高いと、粒子形状は悪化(球形から不規則形状へ変化)し、さらのその形状のばらつきが大きくなることを示している。
【0056】
《シクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒中のヘプタン配合量の影響》
次いで、オリジナル条件に対して、用いるシクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒中のシクロヘキサンとヘプタンとの配合比を体積配合比で、3:7、4:6、6:4、7:3と変化させ、それぞれエチレン系樹脂粒子を得た。これらエチレン系樹脂粒子について、平均円形度係数及びその標準偏差と、平均アスペクト比及びその標準偏差とを、それぞれ図5(a)及び図5(b)に示した。
【0057】
これらの図より、ヘプタン添加量が50体積%のときが、平均円形度係数が最も高く、かつ、平均円形度係数の標準偏差値、平均アスペクト比、及び、その標準偏差は最も低い傾向を示すことがわかる。つまり、ヘプタンの配合が50体積%のときにエチレン系樹脂粒子は最も球状に近づき、その形状のばらつきも最も少なくなる。
【0058】
《界面活性剤の種類と添加量の影響》
オリジナル条件では、水100ml当たり1gのTritonX−100を溶解させて得た非イオン性界面活性剤含有水溶液を用いたが、TritonX−100(親水・親油バランスを表すHLB値が約13.0)の代わりに、TritonX−100よりも親水性の低いTritonX−114(HLB値が約12.4)を用いた界面活性剤含有水溶液、及び、それらの濃度を半分とした界面活性剤含有水溶液を用いて、それぞれエチレン系樹脂粒子を得た。これらエチレン系樹脂粒子について、平均円形度係数及びその標準偏差と、平均アスペクト比及びその標準偏差とを、それぞれ図6(a)及び図6(b)に示した。
【0059】
これらの図より、界面活性剤の濃度が増加すると粒子形状がわずかながらも改善されることがわかる。
【0060】
また、TritonX−100の代わりにTritonX−114を用いた場合に粒子形状は悪化(非球形化)し、形状のばらつきも大きくなることがわかる。これはTritonX−100ではTritonX−114を用いた場合よりも連続相中で形成されるエマルションが安定していることが示し、このとき、機能性フィラーである疎水化水酸化マグネシウムの添加量をより高いものとすることが可能であることを示唆している。
【0061】
《ホモミキサーの回転数及び攪拌時間の影響》
オリジナル条件に対して、有機溶媒を蒸発させるための80℃の温浴中でのホモミキサーによる攪拌の回転数及び攪拌時間の影響を、回転数及び攪拌時間を変更して、それぞれエチレン系樹脂粒子を得た。これらエチレン系樹脂粒子について、平均円形度係数及びその標準偏差と、平均アスペクト比及びその標準偏差とを、それぞれ図7(a)、図7(b)(以上、回転数の影響)、図8(a)及び図8(b)(以上、攪拌時間の影響)に示した。
【0062】
これらの図より、回転数が4000rpm、攪拌時間が10分のときに、最も高い平均円形度係数が得られ、かつ、平均円形度係数の標準偏差値、平均アスペクト比、及び、その標準偏差は最も低くなることがわかる。つまり、球形に近い粒子の調製にはホモミキサーでの4000rpm、10分間の攪拌が必要であることがわかった。
【0063】
《最良条件でのエチレン系樹脂複合粒子の作製》
上記検討の結果、最も球状に近いエチレン系樹脂複合粒子を得る条件としては、溶媒としてシクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒(混合比:体積で1:1)を、界面活性剤含有水溶液としては水100ml当たり1gのTritonX−100を溶解させて得た非イオン性界面活性剤含有水溶液を、ホモミキサーによる混合条件としては回転数で4000rpm、攪拌時間で10分を、採用することが最良であることがわかり、この最良条件で、ポリエチレン100重量部当たり、疎水性水酸化マグネシウム添加量を0〜70重量部と変化させて、それぞれエチレン系樹脂複合粒子を得た。これらエチレン系樹脂複合粒子について、平均円形度係数及びその標準偏差と、平均アスペクト比及びその標準偏差とを、それぞれ図9(a)及び図9(b)に示した。
【0064】
これら図より疎水性水酸化マグネシウム添加量が増加するにつれて粒子形状及びそのばらつきは悪化したが、全体的に球形に近い値となっていることが確認された。
球形に近いエチレン系樹脂複合粒子を得たいときには上記最良条件またはそれに近い条件でエチレン系樹脂複合粒子の調製を行い、粒子表面に凹凸が多い粒子や楕円体形状の粒子が必要な場合には、上記最良条件から離れた条件でエチレン系樹脂複合粒子の調製を行うことで、特別な工程を付加することなく対応できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子とエチレン系樹脂粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)フィラーを含まないエチレン系樹脂粒子である。(b)エチレン系ポリマー100重量部に対して疎水化水酸化マグネシウムを10重量部配合したエチレン系樹脂複合粒子である(c)エチレン系ポリマー100重量部に対して疎水化水酸化マグネシウムを30重量部配合したエチレン系樹脂複合粒子である。(d)エチレン系ポリマー100重量部に対して疎水化水酸化マグネシウムを50重量部配合したエチレン系樹脂複合粒子である。(e)エチレン系ポリマー100重量部に対して疎水化水酸化マグネシウムを70重量部配合したエチレン系樹脂複合粒子である。
【図2】フィラーの実際の含有量と配合量との関係を示した図である。
【図3】(a)従来技術に係る成形物の破断断面の走査型電子顕微鏡写真である。(b)(a)の破断面のマグネシウム原子の分布を示すエネルギー分散型X線分析結果である。(c)本発明に係るエチレン系樹脂複合粒子を用いて成形した成形物の破断断面の走査型電子顕微鏡写真である。(d)(c)の破断面のマグネシウム原子の分布を示すエネルギー分散型X線分析結果である。
【図4】エチレン系樹脂粒子の形状に対する、シクロヘキサンと併用する直鎖飽和炭化水素の炭素数の影響を調べた結果を示すグラフである。図4(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図4(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。
【図5】エチレン系樹脂粒子の形状に対する、シクロヘキサンと併用するヘプタンの配合比の影響を調べた結果を示すグラフである。図5(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図5(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。
【図6】エチレン系樹脂粒子の形状に対する、界面活性剤の種類と濃度との影響を調べた結果を示すグラフである。図6(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図6(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。
【図7】エチレン系樹脂粒子の形状に対する、ホモミキサーの回転数の影響を調べた結果を示すグラフである。図7(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図7(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。
【図8】エチレン系樹脂粒子の形状に対する、攪拌時間の影響を調べた結果を示すグラフである。図8(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図8(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。
【図9】エチレン系樹脂粒子での検討で得られた最良条件で得たエチレン系樹脂複合粒子における疎水性水酸化マグネシウム添加量のエチレン系樹脂複合粒子の形状への影響を調べた結果を示すグラフである。図9(a)平均円形度係数及びその標準偏差。図9(b)平均アスペクト比及びその標準偏差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とは相分離する有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散してエマルション化し、次いで加熱して前記有機溶媒を除去することにより、前記疎水性の機能性フィラーが添加されたエチレン系ポリマーを粒子として析出させることを特徴とするエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、シクロヘキサン−ペンタン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘキサン混合溶媒、シクロヘキサン−ヘプタン混合溶媒、シクロヘキサン−オクタン混合溶媒、シクロヘキサン−ノナン混合溶媒、シクロヘキサン−デカン混合溶媒、シクロヘキサン−ウンデカン混合溶媒、及び、シクロヘキサン−ドデカン混合溶媒から選ばれる1つであることを特徴とする請求項1に記載のエチレン系樹脂複合粒子の環境調和型製造方法。
【請求項3】
水とは相分離する有機溶媒にエチレン系ポリマーが溶解し、かつ、疎水性の機能性フィラーが分散されてなるエチレン系ポリマー有機溶媒溶液を、非イオン性界面活性剤含有水溶液中に分散することによりエマルション化され、次いで加熱して前記有機溶媒が除去されることにより、析出されてなることを特徴とするエチレン系樹脂複合粒子。
【請求項4】
前記請求項3に記載のエチレン系樹脂複合粒子によって構成されたことを特徴とする成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−52024(P2009−52024A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179285(P2008−179285)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月10日 社団法人 日本セラミックス協会発行の「第46回 セラミックス基礎科学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】