説明

エッジオーバーコート防止装置

【課題】 金属帯板に電気めっきする際に、めっき着量を均一化できる遮蔽板を備えたエッジオーバーコート防止装置を提案する。
【解決手段】 電気めっきラインのめっきセルにおいて被めっき材である金属帯板の両側端部と陽極との間に配設される電気絶縁材料製遮蔽板の形状を、端縁が、複数の直線で描かれる、少なくとも2つの頂を有する山型形状を呈する張り出しを有する形状とする。端縁の山型形状は、金属帯板の側端に対向する位置に描かれる投影直線となす角度αが1〜10°である複数の直線で画定される。2つの頂は、前記投影直線を基準として金属帯板の中心寄りに所定距離Eaの高さを有し、かつ2つの頂の間に形成される谷底部の高さEbが、Eaの50〜80%とすることが好ましい。なお、所定距離Eaは、5〜200mmとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫、亜鉛、クロム、ニッケル等の金属の電気めっきに係り、とくに被めっき材である金属帯板の片面に電気めっきする際に、金属帯板端部のオーバーコートを防止するエッジオーバーコート防止装置に関する。なお、金属帯板には、鋼帯、アルミニウム帯板等を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属帯板への電気めっきでは、電解液を満たしためっきセル中で金属帯板と電極とを相対させ、電極と金属帯板との間に通電して金属帯板表面にめっき皮膜を形成する。しかし、金属帯板の幅方向両端部は、中央部に比較して電流が集中しやすいため、端部近傍では局所的にめっき厚が厚くなる現象、いわゆるエッジオーバーコート現象が生じやすい。
【0003】
このエッジオーバーコート現象を防止する方法として、被めっき材と電極との間に遮蔽板を装入する方法が有効であることが知られている。例えば、特許文献1には、鋼帯の片面に電気鍍金する、連続電気鍍金ラインにおける鋼帯端部の過剰鍍金防止装置が提案されている。特許文献1に記載された装置では、図5に示すように、L字型電気絶縁性遮蔽板10を鋼帯4側端から鋼帯中心側に張り出すように、鋼帯側端との水平方向のオーバーラップΔxを形成して配置しエッジオーバーコートを防止するとともに、該電気絶縁性遮蔽板を、被めっき材である鋼帯端部に直接接触する電気絶縁性ガイド8ともにアーム9に設置している。これにより鋼帯の蛇行に対しても、鋼帯との位置関係を良好に一定に保つことができるとしている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された装置では、鋼帯側端部とのオーバーラップ量が多すぎるとめっき厚が薄すぎアンダーコート(過少めっき)となり、一方、オーバーラップ量が少なすぎると、オーバーコート(過多めっき)となりやすく、この装置では、鋼帯側端部のめっき厚の調整が難しいという問題があった。
また、特許文献2には、鋼帯の片面に電気亜鉛めっきを施す際に、鋼帯端部のオーバーコートを防止するためにめっきセル内に設置する遮蔽板として、一側端に鋸歯状の刃形部を備える板状の刃形遮蔽板の例が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載された遮蔽板では、端面の複雑な形状に起因して、鋼帯を高速通板した場合にはめっき液に乱流が生じるため、鋼帯が振動し極間距離の変動をもたらし、めっき付着量が変動するうえ、鋼帯上面にもめっきされる場合があるという問題があった。また、この装置を用いて錫めっきを行うと、スラッジが端面の刃形内にトラップされるため、頻度よく手入れする必要があるととともに、液面変動の要因ともなるという問題があった。さらに、トラップしたスラッジが、ロールと鋼帯の間にかみ込み、めっきされた鋼帯の表面欠陥となる問題もあった。
【0005】
また、特許文献3には、金属帯板の両面にめっき層を形成する際に、金属帯板端部のオーバーコートを防止するためにめっきセル内の電極と金属帯板との間に設置するエッジマスク(遮蔽板)として、図6に示すような、金属帯板4の側縁41を超えて金属帯板の中心線側に張り出すフランジ11aを備えたエッジマスク(遮蔽板)11が提案されている。このエッジマスク(遮蔽板)11では、フランジ11aがジグザグに描かれる連続的な直線11dにより金属帯板の長手方向に沿って連続的に鋸歯状に、無孔部分11bと多数の小孔を有する部分11cとに区画されている。しかしながら、特許文献3に記載された遮蔽板では、金属帯板の通板に際するめっき液の波立ち防止には効果があるが、小孔内にスラッジがたまりやすく、アンダーコート発生の要因となるうえ、頻度よく手入れを行う必要があるという問題があった。
【0006】
また、特許文献4には、鋼帯の両面にめっき層を形成する際に、鋼帯端部のオーバーコートを防止するために鋼帯と電極との間に設置するエッジマスクとして、鋼帯の両側縁がそれぞれ嵌入する溝を備え、該溝の内側溝側縁を正弦波形としたエッジマスクが開示されている。しかしながら、特許文献4に記載されたエッジマスクでは、エッジマスクの端面形状の変化が大きく、鋼帯の通過に際しめっき液に乱流が生じるため、鋼帯が振動し、めっき付着量が変動する場合があるいう問題があった。
【特許文献1】特公昭61−40320号公報
【特許文献2】実開昭57−92764公報
【特許文献3】実開昭60−113374号公報
【特許文献4】特開平10−110292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、被めっき材である金属帯板の片面に電気めっきする際に、金属帯板側端部に形成されやすいエッジオーバーコートを防止し、金属帯板のめっき厚を均一化できる遮蔽板を備えたエッジオーバーコート防止装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、被めっき材である金属帯板の通板の際にめっき液に発生する乱流に着目し、乱流の発生を抑制できる遮蔽板形状について鋭意検討した。その結果、遮蔽板に金属帯板とオーバーラップする張り出しを備えるとともに、オーバーラップ面積を適正範囲に調整したうえ、金属帯板とオーバーラップする側の遮蔽板の張り出しの形状(端面形状)を山型形状とし、かつ張り出し数の少ない形状とすることが乱流発生防止、スラッジ除去に対して重要であることを見出した。
【0009】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)電気めっきラインのめっきセルにおいて被めっき材である金属帯板の両側端部と陽極との間に配設される電気絶縁材料製遮蔽板を有し、金属帯板端部のエッジオーバーコートを防止するエッジオーバーコート防止装置であって、前記遮蔽板が、該遮蔽板の前記金属帯板の長手方向と平行する側で前記金属帯板の中心寄りの端縁を、該遮蔽板と同一平面内で前記金属帯板の側端に対向する位置に描かれる投影直線となす角度αが1〜10°である複数の直線で描かれる、少なくとも2つの頂を有する山型形状を呈する端縁とする遮蔽板であることを特徴とするエッジオーバーコート防止装置。
(2)(1)において、前記2つの頂が、前記投影直線を基準として前記金属帯板の中心寄りに所定距離Eaの高さを有し、該2つの頂の間に形成される谷底部の高さEbが、前記所定距離Eaの50〜80%であることを特徴とするエッジオーバーコート防止装置。
(3)(2)において、前記所定距離Eaが、5〜200mmであることを特徴とするエッジオーバーコート防止装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エッジオーバーコートが防止され、めっき厚が均一化して、耳切り代が削減でき、めっき金属帯板の歩留が向上するという、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、端部に過剰に付着していためっき厚を薄くすることができ、めっき金属の使用量を削減できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエッジオーバーコート防止装置は、錫、亜鉛、クロム、ニッケル等の金属の電気めっきラインに適用できる。適用する電気めっきラインは、横型、縦型いずれでもよい。
本発明のエッジオーバーコート防止装置は、板状の遮蔽板を有する。なお、エッジオーバーコート防止装置には、遮蔽板以外に、公知の遮蔽板支持手段等の付帯装置を備えることはいうまでもない。遮蔽板は、遮蔽板支持手段(図示せず)により支持される。なお、遮蔽板支持手段には異なる板幅の金属帯板のめっきにも対応できるようにするため、金属帯板の幅方向への移動手段を備えることが好ましい。
【0012】
本発明における遮蔽板1は、板状の電気絶縁材料で構成され、L字型に成形されてなる。遮蔽板1は、その水平方向に配設される一端が、めっきセル61のめっき液6中に浸漬し、被めっき材である金属帯板4の側端部と陽極5との間の所定の位置となるように配設される。本発明では、遮蔽板1は、金属帯板4と所定量オーバーラップするように配設することが好ましい。この状態を図2に示す。図2では、紙面に垂直方向が金属帯板4の通板方向であり、めっきセルの片側断面を示している。
【0013】
さらに本発明における遮蔽板1は、その水平方向に配設される一端が、同一平面内で金属帯板4の側端に対向する位置に描かれる投影直線41(側端縁相当位置ともいう)より金属帯板の中心寄りに張り出した形状の端縁を有する。すなわち、本発明における遮蔽板1は、図1に示すように、金属帯板4の長手方向と平行する側で金属帯板4の中心寄りの端縁が張り出し、山型形状を呈する。図1は遮蔽板の平面形状の一例を模式的に示す平面図である。端縁を山型形状を呈するように画定することにより、フラットな端縁形状の場合に比べて、金属帯板と電極の間の遮蔽面積を少なくでき、エッジアンダーコート量を少なくすることができる。
【0014】
また、本発明における端縁の山型形状は、少なくとも2つの頂P1,P2を有する。山型形状の頂を少なくとも2個とすることにより、頂が1個の場合に比較して、山型形状の斜面からのめっき電流の回り込み量が多くなり、アンダーコートになる部分が減少して、めっき厚の均一化が図りやすい。頂が1個の山型形状では、フラットな端縁形状に比べて金属帯板と電極の間の遮蔽面積を少なくできるが、しかし遮蔽面積が多すぎるため、端部に十分な電流が流れず、端部へのめっき電流が不十分となり、アンダーコートとなる部分が生じる場合が多い。
【0015】
なお、本発明では、端縁の山型形状における頂は2個以上とすることが好ましい。
本発明では、端縁の山型形状は、遮蔽板と同一平面内で金属帯板の側端に対向する位置に描かれる投影直線41となす角度αiがそれぞれ1〜10°の範囲内である複数の直線1〜直線iで、例えば図1のごとく4本の直線1〜直線4で、描かれる。角度αiは、めっきセルの大きさに対応して決定される遮蔽板の長さL、遮蔽板の張り出し量に応じて適宜、上記した範囲内の角度を任意に選択できる。投影直線41となす角度αiが1°未満では、遮蔽板の張り出し面積が小さくなりすぎて、金属帯板と電極の間の遮蔽面積(オーバーラップ量)を適正値に調整することが難しくなる。一方、αiが10°を超えて大きくなると、遮蔽板の張り出し面積が大きくなりすぎて、端部へのめっき電流が不十分となり、アンダーコートとなる部分が生じる。
【0016】
また、本発明における遮蔽板では、図1に示すように、2つの頂、または2つの頂のうちの一つが、上記した金属帯板の側端に対向する位置に描かれる投影直線41を基準として金属帯板4の中心寄りに所定距離Eaの高さを有し、かつこれら2つの頂の間に形成される谷底部の高さEbを、Eaの50〜80%とすることが好ましい。EbがEaの50%未満では、遮蔽面積が少なくなりオーバーコートが生じる。一方、EbがEaの80%を超えると、遮蔽面積が多くなりめっき厚が不均一となる。なお、本発明では、2つの頂の投影直線41からの高さはかならずしも同一とする必要なない。
【0017】
また本発明では、Eaを5〜200mmの範囲内とすることが好ましい。Eaが5mm未満では、 端部がオーバーコートとなる。一方、200mmを超えると、遮蔽面積が大きくなりすぎて、端部のアンダーコートが生じる場合が多くなる。
電気めっきラインに上記したような遮蔽板を有するエッジオーバーコート防止装置を備えることにより、金属帯板端部へのめっき電流量を適正化して、金属帯板端部の、オーバーコートはもちろんアンダーコートをも防止できるとともに、金属帯板の通板に際してめっき液の乱流発生を抑制でき、めっき付着量が均一化されためっき金属帯板を安定して製造できるようになる。
【実施例】
【0018】
連続電気錫めっきラインを用いて、冷延鋼帯(板厚:0.22mm×幅:881mm)の片面に錫めっきを施した。電気錫めっきを行うに当たり、めっきセルには、エッジオーバーコート防止装置を配設した。エッジオーバーコート防止装置には、3種の遮蔽板をそれぞれ配設してそれぞれ電気錫めっきを施した。使用した遮蔽板は、(1)図1に示す遮蔽板(本発明例)、(2)図3(a)に示す遮蔽板(従来例)、(3)図3(b)に示す遮蔽板(比較例)の3種とした。得られた錫めっき鋼帯について、電解法により錫めっき付着量分布を測定した。なお、めっき浴はハロゲン浴とし、通板速度は350mm/min、めっき付着量は1.32g/mを目標とした。図1に示す遮蔽板では、Ea:15mm、Eb:10mm、α1:3.3°、α2:3.3°、α3:3.3°、α4:3.3°とした。また、図3(b)に示す遮蔽板では、Ea:20mm、α1:3.3°、α2:3.3°とした。
【0019】
得られた錫めっき付着量分布を図4に示す。図4から、本発明例の図1の遮蔽板を配設したエッジオーバーコート防止装置を用いて電気錫めっきを施した場合には、端部のオーバーコートやアンダーコートが認められず、均一なめっき付着量分布を有する電気錫めっき鋼帯となっている。一方、比較例の図3(b)の遮蔽板を配設したエッジオーバーコート防止装置を用いて電気錫めっきを施した場合には、端部にアンダーコートが認められる。また、従来例の図3(a)の遮蔽板を配設したエッジオーバーコート防止装置を用いて電気錫めっきを施した場合には、端部が顕著なオーバーコートとなっている。本発明例のエッジオーバーコート防止装置を用いて電気錫めっきを施した場合には、耳切り代を削減することができ、歩留は従来例に比較して1.44%の向上となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における遮蔽板の一例を模式的に示す平面図である。
【図2】本発明における遮蔽板の配設状況の一例を示す断面図である。
【図3】(a)従来例、(b)比較例である遮蔽板を模式的に示す平面図である。
【図4】遮蔽板の形状と錫めっき付着量分布に及ぼす遮蔽板の形状の影響を示すグラフである。
【図5】従来の遮蔽板の一例を示す模式図である。
【図6】従来の遮蔽板の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1 遮蔽板
4 金属帯板(鋼帯)
5 陽極
6 めっき液
8 電気絶縁性ガイド
9 アーム
10 L字型電気絶縁性遮蔽板
11 エッジマスク(遮蔽板)
11a フランジ
11b 無孔部分
11c 小孔を有する部分
41 投影直線
61 めっき槽(めっきセル)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっきラインのめっきセルにおいて被めっき材である金属帯板の両側端部と陽極との間に配設される電気絶縁材料製遮蔽板を有し、金属帯板端部のエッジオーバーコートを防止するエッジオーバーコート防止装置であって、前記遮蔽板が、該遮蔽板の前記金属帯板の長手方向と平行する側で前記金属帯板の中心寄りの端縁を、該遮蔽板と同一平面内で前記金属帯板の側端に対向する位置に描かれる投影直線となす角度αが1〜10°である複数の直線で描かれる、少なくとも2つの頂を有する山型形状を呈する端縁とする遮蔽板であることを特徴とするエッジオーバーコート防止装置。
【請求項2】
前記2つの頂が、前記投影直線を基準として前記金属帯板の中心寄りに所定距離Eaの高さを有し、該2つの頂の間に形成される谷底部の高さEbが、前記所定距離Eaの50〜80%であることを特徴とする請求項1に記載のエッジオーバーコート防止装置。
【請求項3】
前記所定距離Eaが、5〜200mmであることを特徴とする請求項2に記載のエッジオーバーコート防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate