説明

エッチングマスク膜の評価方法

【解決手段】透明基板と、透明基板上に、フォトマスクパターンを形成するためのパターン形成膜と、パターン形成膜の上に、パターン形成膜のエッチングマスクとして用いるエッチングマスク膜とを備えるフォトマスクブランクのエッチングマスク膜の性能を、フォトマスクパターンを形成する際にパターン形成膜に適用するエッチング条件でのエッチングクリアタイム(C1)と、エッチングマスクパターンを形成する際にエッチングマスク膜に適用するエッチング条件でのエッチングクリアタイム(C2)とを測定し、両者のクリアタイム比(C1/C2)により評価する。
【効果】良好なエッチング性能を与えるエッチングマスク膜を選定することができ、このようなエッチングマスク膜を用いたフォトマスクブランクから、フォトマスクを作製すれば、パターン形成膜へのフォトマスクパターンの転写性が良好であり、パターン欠陥の少ないフォトマスクを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路、CCD(電荷結合素子)、LCD(液晶表示素子)用カラーフィルター、磁気ヘッド等の微細加工に用いられるフォトマスクの素材となるフォトマスクブランクのエッチングマスク膜の評価方法に関し、特に、パターン形成膜及びそのエッチングに用いるエッチングマスク膜が形成されたフォトマスクブランクのエッチングマスク膜の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工においては、特に大規模集積回路の高集積化により、回路パターンの微細化がますます必要になってきており、回路を構成する配線パターンの細線化や、セルを構成する層間の配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術への要求がますます高まってきている。そのため、これら配線パターンやコンタクトホールパターンを形成する光リソグラフィーで用いられる、回路パターンが書き込まれたフォトマスクの製造においても、上記微細化に伴い、より微細かつ正確に回路パターンを書き込むことができる技術が求められている。
【0003】
より精度の高いフォトマスクパターンをフォトマスク基板上に形成するためには、まず、フォトマスクブランク上に高精度のレジストパターンを形成することが必要になる。実際の半導体基板を加工する際の光リソグラフィーは、縮小投影を行うため、フォトマスクパターンは実際に必要なパターンサイズの4倍程度の大きさであるが、それだけ精度が緩くなるというわけではなく、むしろ、原版であるフォトマスクには露光後のパターン精度に求められるものよりも高い精度が求められる。
【0004】
更に、既に現在行われているリソグラフィーでは、描画しようとしている回路パターンは使用する光の波長をかなり下回るサイズになっており、回路の形状をそのまま4倍にしたフォトマスクパターンを使用すると、実際の光リソグラフィーを行う際に生じる光の干渉等の影響で、レジスト膜にフォトマスクパターンどおりの形状は転写されない。そこでこれらの影響を減じるため、フォトマスクパターンは、実際の回路パターンより複雑な形状(いわゆるOPC:Optical Proximity Correction(光学近接効果補正)などを適用した形状)に加工したり、フォトマスク上のパターンを光の干渉を考慮した設計にする必要が生じる場合もある。そのため、フォトマスクパターンを得るためのリソグラフィー技術においても、現在、更に高精度な加工方法が求められている。リソグラフィー性能については限界解像度で表現されることがあるが、この解像限界としては、フォトマスクを使用した半導体加工工程で使用される光リソグラフィーに必要な解像限界と同等程度、又はそれ以上の限界解像精度がフォトマスク加工工程のリソグラフィー技術に求められている。
【0005】
フォトマスクパターンの形成においては、通常、透明基板上に遮光膜を有するフォトマスクブランク上に、フォトレジスト膜を形成し、電子線によるパターンの描画を行い、現像を経てレジストパターンを得、そして、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、遮光膜をエッチングして遮光パターンへと加工するが、遮光パターンを微細化する場合にレジスト膜の膜厚を微細化前と同じように維持したままで加工しようとすると、パターンに対する膜厚の比、いわゆるアスペクト比が大きくなって、レジストのパターン形状が劣化してパターン転写がうまく行かなくなったり、場合によってはレジストパターンが倒れや剥れを起こしたりしてしまう。そのため、微細化に伴いレジスト膜の膜厚を薄くする必要がある。
【0006】
一方、レジストをエッチングマスクとしてエッチングを行う遮光膜材料については、これまで多くのものが提案されてきたが、エッチングに対する知見が多く、標準加工工程として確立されていることから、実用上、常にクロム化合物膜が用いられてきた。このようなものとして、例えば、ArFエキシマレーザ露光用のフォトマスクブランクに必要な遮光膜をクロム化合物で構成したものとしては、例えば、特開2003−195479号公報(特許文献1)に、膜厚50〜77nmのクロム化合物膜が報告されている。
【0007】
しかしながら、クロム化合物膜等のクロム系膜の一般的なドライエッチング条件である酸素を含む塩素系ドライエッチングは、有機膜に対してもある程度エッチングする性質をもつ。このため、より微細なパターンの転写を行うために、上述した必要性により、より薄いレジスト膜でエッチングを行った場合、エッチング中にレジスト膜がダメージを受けて、レジストパターンを正確に転写することが困難になってきた。そこで、微細化と高精度の両立を達成するために、レジスト性能の向上のみに依存する方法から、遮光膜の加工性を向上させるような遮光膜材料の再検討が必要となった。
【0008】
一方、遮光膜材料としては、従来使用されてきたクロム系材料に比較して、ケイ素を含む材料、ケイ素と遷移金属を含む材料等のケイ素系材料は、200nm以下の露光光に対する遮光特性が優れ、かつレジストパターンにダメージを与えにくいフッ素系のドライエッチングで加工でき、より高精度の加工を行うことができる(特許文献2:特開2007−241065号公報)。
【0009】
また、更に高精度の加工を行うために、エッチングマスクを使用する技術として、クロム系材料をエッチングマスクとしてケイ素系材料の遮光膜を加工することによって、パターン依存性やサイドエッチングによる加工誤差が小さくなることが見出されている(特許文献3:特開2007−241060号公報)。このため、次世代の遮光膜材料として、ケイ素系材料とエッチングマスク膜としてクロム系膜を用いた遮光膜が有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−195479号公報
【特許文献2】特開2007−241065号公報
【特許文献3】特開2007−241060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
サイズが50nm以下のフォトマスクパターンを形成するためには、膜厚150nm以下のレジスト膜が求められる。そのような薄いレジスト膜に最適化されたエッチングマスク膜は、膜厚30nm以下が必要とされている。上記のようにエッチングマスク膜を用いるときにはエッチングマスク膜はより薄い方がレジスト膜も薄くできるので望ましい。しかし、エッチングマスク膜を薄くするという観点だけでエッチングマスク膜を選ぶと、パターン形成膜にパターン欠陥が生じたり、パターンが設計どおりに形成されないという問題が生じる。また、エッチングマスク膜はパターン形成膜のエッチングに対してエッチング耐性があった方が好ましい。しかし、パターン形成膜のエッチングに対してエッチング耐性のある膜はエッチングマスク膜のエッチングに対してもエッチングしにくいことが多く、エッチングマスク膜をパターニングするためのレジスト膜を薄くできない等の問題が生じる。
【0012】
エッチングマスク膜は、少なくとも、パターン形成膜のエッチングが終了するまで残存する程度の膜厚が必要であるが、エッチングマスク膜をパターン形成するときにはレジストのダメージが極力小さい状態でエッチングされるように、なるべく薄い方がよい。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、エッチングマスク膜について、パターン形成膜をエッチングする際の耐エッチング性と、エッチングマスク膜自体をエッチングする際の被エッチング性との双方を評価して、良好なエッチング性能を与えるエッチングマスク膜を見出すことができるエッチングマスク膜の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、エッチングマスク膜のエッチング特性について検討した結果、パターン形成膜をエッチングするときに、エッチングマスク膜がどのようなものであっても、エッチングクリアタイムが長いながらもエッチングされてしまうことがわかった。
【0015】
そして、遮光膜などのパターン形成膜に生じるパターン欠陥などの原因は、
エッチングマスク膜のパターニングの際にエッチングマスクとなるレジスト膜が、エッチングマスク膜のパターニングの際にエッチングされること、また、
パターン形成膜のパターニングの際にエッチングマスクとなるエッチングマスク膜が、パターン形成膜のパターニングの際にエッチングされること
にあることを知見した。
【0016】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、エッチングマスク膜について、パターン形成膜をエッチングする際の耐エッチング性と、エッチングマスク膜自体をエッチングする際の被エッチング性との双方を相対的に評価する方法として、パターン形成膜からフォトマスクパターンを形成する際にパターン形成膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C1)と、エッチングマスク膜からエッチングマスクパターンを形成する際にエッチングマスク膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C2)とを測定し、両者のクリアタイム比(C1/C2)により、エッチングマスク膜の性能を評価することで、良好なエッチング性能を与えるエッチングマスク膜を選定することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
従って、本発明は、以下のエッチングマスク膜の評価方法を提供する。
請求項1:
透明基板と、該透明基板上に、フォトマスクパターンを形成するためのパターン形成膜と、該パターン形成膜の上に、パターン形成膜のエッチングマスクとして用いるエッチングマスク膜とを備えるフォトマスクブランクのエッチングマスク膜の評価方法であって、パターン形成膜からフォトマスクパターンを形成する際にパターン形成膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C1)と、エッチングマスク膜からエッチングマスクパターンを形成する際にエッチングマスク膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C2)とを測定し、両者のクリアタイム比(C1/C2)により、エッチングマスク膜の性能を評価することを特徴とするエッチングマスク膜の評価方法。
請求項2:
上記パターン形成膜に適用するエッチングがフッ素系ドライエッチングであり、上記エッチングマスク膜に適用するエッチングが塩素系ドライエッチングであることを特徴とする請求項1記載のエッチングマスク膜の評価方法。
請求項3:
上記パターン形成膜が、ケイ素とケイ素以外の金属とを含有する材料で形成され、上記エッチングマスク膜が、クロムを含有し、ケイ素を含有しない材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエッチングマスク膜の評価方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好なエッチング性能を与えるエッチングマスク膜を選定することができ、このようなエッチングマスク膜を用いたフォトマスクブランクから、フォトマスクを作製すれば、パターン形成膜へのフォトマスクパターンの転写性が良好であり、パターン欠陥の少ないフォトマスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で用いたドライエッチング装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明においては、石英基板等の透明基板と、透明基板上に、フォトマスクパターンを形成するためのパターン形成膜と、パターン形成膜の上に、パターン形成膜のエッチングマスクとして用いるエッチングマスク膜とを備えるフォトマスクブランクにおいて、パターン形成膜の上に形成されたエッチングマスク膜、好ましくはパターン形成膜に隣接して形成されたエッチングマスク膜のエッチング性能を評価する。
【0021】
パターン形成膜には、フォトマスクを作製したときに遮光パターンを形成するための遮光膜、位相シフトパターンを形成するためのハーフトーン位相シフト膜等の位相シフト膜などが含まれ、フォトマスクとして用いるときに、フォトマスクパターンとして光学作用を与える光学機能膜である。一方、エッチングマスク膜は、パターン形成膜をエッチングする際に、エッチング耐性を有する膜であり、そのエッチングマスクパターンを利用して、パターン形成膜をエッチングするために用いられる膜、いわゆるハードマスク膜である。パターン形成膜、エッチングマスク膜は、いずれも、単層で構成された膜でも、複数層で構成された膜でもよい。また、パターン形成膜は、反射防止膜、密着性改善膜、保護膜などを含んでいてもよい。
【0022】
パターン形成膜とエッチングマスク膜とは、エッチング性が異なればよく、例えば、パターン形成膜及びエッチングマスク膜のうちの一方の膜、特に、パターン形成膜を、SF6、CF4などのフッ素系エッチングガスを用いたフッ素系ドライエッチングでエッチングされ、塩素ガスと酸素ガスとを含む塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングでエッチングされにくい膜とすることができる。このような膜としては、例えば、ケイ素膜、ケイ素を含有し、ケイ素以外の金属を含有しない膜、ケイ素とケイ素以外の金属とを含有する材料で形成した膜などが挙げられる。この場合、上記ケイ素以外の金属としては、例えば、モリブデン、タングステン、タンタル及びジルコニウムから選ばれる1種以上が挙げられ、モリブデンが、加工性がよく好ましい。これらの膜は、更に、酸素、窒素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を含んでいてもよい。
【0023】
この場合、他方の膜(上記一方の膜がパターン形成膜であれば、エッチングマスク膜)は、SF6、CF4などのフッ素系エッチングガスを用いたフッ素系ドライエッチングでエッチングされにくく、塩素ガスと酸素ガスとを含む塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングでエッチングされる膜とするのがよい。このような膜としては、例えば、クロムを含有し、ケイ素を含有しない材料で形成した膜、タンタルを含有し、ケイ素を含有しない材料で形成した膜などが挙げられる。これらの膜は、更に、酸素、窒素、炭素及び水素から選ばれる1種以上の軽元素を含んでいてもよい。なお、塩素系エッチングガスも、フッ素系エッチングガスも、更にヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを含んでいてもよい。
【0024】
エッチングの組合せとして、フッ素系エッチングガスを用いたフッ素系ドライエッチングと、塩素ガスと酸素ガスとを含む塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングとの組合せを挙げたが、これに限定されるものではない。その他のエッチングの組合せとしては、
塩素ガスを含み、酸素ガスを含まない塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングと、塩素ガスと酸素ガスとを含む塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングとの組合せ、
塩素ガスと酸素ガスとを異なる比率で含む塩素系エッチングガスを用いた2種の塩素系ドライエッチングの組合せ、
フッ素系エッチングガスを用いたフッ素系ドライエッチングと、塩素ガスを含み、酸素ガスを含まない塩素系エッチングガスを用いた塩素系ドライエッチングとの組合せなどを挙げることができる。
【0025】
エッチングマスク膜を用いて、遮光膜等のパターン形成膜のフォトマスクパターンを形成する方法を、パターン形成膜がMoSi系の遮光膜、エッチングマスク膜がCr系の膜であるフォトマスクブランクからフォトマスクを製造する場合を具体例として、その一例を説明する。
【0026】
まず、透明基板上に、MoSi系遮光膜とCr系エッチングマスク膜とが順に積層されたフォトマスクブランクを準備し、Cr系エッチングマスク膜の上にレジスト膜を形成する。次に、レジスト膜を加工してレジストパターンを得た後、塩素系ドライエッチングでエッチングマスク膜をパターン加工する。次に、レジスト膜を除去し、エッチングマスク膜をエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングで遮光膜をパターン加工することによりフォトマスクが製造される。この場合、エッチングマスクパターンは、必要に応じて除去することができる。
【0027】
微細なフォトマスクパターンを高精度で形成するためには、アスペクト比の観点からレジストの膜厚を薄くするほうがよい。レジストの膜厚はエッチングマスク膜をパターン加工する際のエッチング時間に依存している。薄膜レジストで十分な加工を可能にするためには、エッチングマスク膜のエッチング時間を短くする必要がある。短いエッチング時間で十分な加工を可能にすることは、
(1)エッチングクリアタイムが短い膜組成・膜構成にすること、及び
(2)エッチングマスク膜の膜厚を薄くすること
の少なくとも一方により達せられる。
【0028】
しかし、エッチングマスク膜を用いて遮光膜等のパターン形成膜を加工する際は、エッチングマスク膜は、パターン形成膜のエッチングに対し十分な耐性が必要である。耐性を向上させることは、
(3)エッチングクリアタイムが長い膜組成・膜構成にすること、及び
(4)エッチングマスク膜の膜厚を厚くすること
の少なくとも一方により達せられる。
【0029】
つまり、エッチングマスク膜に求められるのは、エッチングマスク膜のエッチング条件に対するエッチングクリアタイムは短く、パターン形成膜のエッチング条件に対するエッチングクリアタイムは長い膜組成・膜構成である。
【0030】
本発明においては、
パターン形成膜からフォトマスクパターンを形成する際にパターン形成膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C1)と、
エッチングマスク膜からエッチングマスクパターンを形成する際にエッチングマスク膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C2)
とを測定し、両者のクリアタイム比(C1/C2)により、エッチングマスク膜の性能を評価する。
【0031】
本発明は、パターン形成膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C1)と、エッチングマスク膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C2)とのクリアタイム比(C1/C2)を、FOM(Figure of Merit:性能指数)とし、エッチングマスク膜の膜構成・膜組成のエッチング特性の指標とする評価方法である。
【0032】
前者(C1)は、パターン形成膜をエッチングする際のエッチングマスク膜の耐エッチング性に相当し、後者(C2)は、エッチングマスク膜自体をエッチングする際の被エッチング性に相当する。従って、C1/C2はより大きい方が好ましいものとなり、好ましくは8以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは9.5以上である。なお、C1/C2の上限は、特に限定されるものではないが、エッチングマスク膜がCr系の膜であり、パターン形成膜に適用するエッチングガスがフッ素系で、エッチングマスク膜に適用するエッチングガスが塩素系である場合、実用上は、例えば12以下である。
【0033】
C1/C2がより大きなエッチングマスク膜を用いることによって、エッチングマスク膜をエッチングするときのレジスト膜のエッチング量と、パターン形成膜をエッチングするときのエッチングマスク膜のエッチング量との双方を、相対的に最少化することができる。
【0034】
エッチングクリアタイムは、所定膜厚の膜に対するエッチングのクリアタイム、即ち、エッチング開始から、膜が除去されて、基板や下層の膜が露出するまでの時間によって求めることができる。エッチングクリアタイムは、エッチング中の膜の反射率を測定し、その変化からエッチングの終了を検出して求めることができる他、膜をエッチング中に観察できるときは、目視により、基板や下層の膜の露出を確認し、エッチングの終了を判断して求めることができる。また、エッチングチャンバー中のプラズマの発光スペクトルなどの解析によるプラズマ中のイオン又は元素の分析により、その変化からエッチングの終了を検出して求めることもできる。
【0035】
エッチングマスク膜の膜厚は、パターン形成膜のエッチング条件における、エッチングマスク膜及びパターン形成膜のエッチングクリアタイムにより設定することができる。パターン形成膜のエッチングクリアタイムよりも、エッチングマスク膜のエッチングクリアタイムの方が長ければよく、例えば、1.1〜5倍、特に1.2〜3倍となる膜厚を設定すればばよい。エッチングマスク膜の膜厚は薄い方が好ましいが、薄すぎるとパターン欠陥を生じ、厚すぎると、レジスト膜が厚くなり、微細なパターン形成に不利になるだけでなく、パターンの粗密依存性が大きくなる。エッチングマスク膜の膜厚は、具体的には、1〜30nm、特に1〜10nmとすることが好ましい。このようなエッチングマスク膜に対して適用するレジスト膜の膜厚は30〜200nm、特に30〜150nm、とりわけ30〜100nmとすることができる。一方、パターン形成膜の膜厚は、光学機能により異なるが、上記エッチングマスク膜の膜厚に対しては、通常10〜100nm、特に20〜80nmの膜厚のものが好適である。
【0036】
本発明のエッチングマスク膜の評価方法は、例えば、透明基板上に、パターン形成膜として遮光膜が形成され、その上にエッチングマスク膜が形成されたバイナリーフォトマスクブランクや、透明基板上に、パターン形成膜としてハーフトーン位相シフト膜等の位相シフト膜と、必要に応じてその上に遮光膜とが形成され、更にその上にエッチングマスク膜が形成された位相シフトマスクブランクのエッチングマスク膜の評価方法として有効である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
石英基板上に、MoSi系材料の遮光膜を成膜し、この遮光膜上に、エッチングマスク膜としてCr系材料の膜を成膜した。Cr系材料膜の成膜には、ターゲットとして金属クロムを用い、スパッタガスとしてアルゴンと窒素と酸素ガスとを用いた。Cr系材料の単層膜及び多層膜を計4種、成膜条件を変えて遮光膜上に成膜し、4種のフォトマスクブランクの試料A〜Dを作製した。エッチングマスク膜の膜厚は3nmとなるよう成膜時間を調整した。
【0039】
成膜したCr系材料膜について、塩素系ドライエッチングとフッ素系ドライエッチングの各々でのエッチングクリアタイムを求めた。エッチングに用いたエッチング装置の概略を図1に示す。図1中、1はチャンバー、2はアース、3は下部電極、4はアンテナコイル、5は被処理基板、RF1,RF2は高周波電源である。
【0040】
塩素系ドライエッチングは、下記条件で行った。
RF1(RIE:リアクティブイオンエッチング):パルス700V
RF2(ICP:誘導結合プラズマ):CW(連続放電)400W
圧力:6mTorr
Cl2:185sccm
2:55sccm
He:9.25sccm
【0041】
エッチング中、Cl原子由来のプラズマ発光(波長520nm)の強度の経時変化を測定した。各々のフォトマスクブランクのエッチングマスク膜のエッチングクリアタイムを表1に示す。
【0042】
フッ素系ドライエッチングは、下記条件で行った。
RF1(RIE:リアクティブイオンエッチング):CW(連続放電)54W
RF2(ICP:誘導結合プラズマ):CW(連続放電)325W
圧力:5mTorr
SF6:18sccm
2:45sccm
【0043】
エッチング中、波長675nmの検査光に対する反射率の経時変化を測定した。Cr系材料膜が完全にエッチングされると、MoSi系材料の遮光膜のエッチングが始まり、遮光膜の膜厚が減少することによって反射率が減少し、最終的には石英基板の反射率の値に達する。各々のフォトマスクブランクのエッチングマスク膜のエッチングクリアタイムを表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
測定されたエッチングクリアタイムから、フッ素系ドライエッチングのエッチングクリアタイムに対する塩素系ドライエッチングのエッチングクリアタイムであるC1/C2を求めた。この場合、いずれも膜厚は同じである。これらの試料A〜Dでは、試料AのC1/C2が最も高く、最も適した膜構成・膜組成であることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
1 チャンバー
2 アース
3 下部電極
4 アンテナコイル
5 被処理基板
RF1,RF2 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、該透明基板上に、フォトマスクパターンを形成するためのパターン形成膜と、該パターン形成膜の上に、パターン形成膜のエッチングマスクとして用いるエッチングマスク膜とを備えるフォトマスクブランクのエッチングマスク膜の評価方法であって、パターン形成膜からフォトマスクパターンを形成する際にパターン形成膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C1)と、エッチングマスク膜からエッチングマスクパターンを形成する際にエッチングマスク膜に適用するエッチング条件でエッチングマスク膜をエッチングしたときのエッチングクリアタイム(C2)とを測定し、両者のクリアタイム比(C1/C2)により、エッチングマスク膜の性能を評価することを特徴とするエッチングマスク膜の評価方法。
【請求項2】
上記パターン形成膜に適用するエッチングがフッ素系ドライエッチングであり、上記エッチングマスク膜に適用するエッチングが塩素系ドライエッチングであることを特徴とする請求項1記載のエッチングマスク膜の評価方法。
【請求項3】
上記パターン形成膜が、ケイ素とケイ素以外の金属とを含有する材料で形成され、上記エッチングマスク膜が、クロムを含有し、ケイ素を含有しない材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエッチングマスク膜の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−109098(P2013−109098A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252953(P2011−252953)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】