説明

エッチング装置およびエッチング方法

【課題】より矩形に近い断面形状の微細な導体パターンを有するプリント配線板を効率よく製造するエッチング装置およびエッチング方法を提供する。
【解決手段】スプレーエッチング装置において、スプレーノズルと被エッチング材との間に、1個あたり0.200cm以上の面積および30.0cm以下の支配面積を有する多数の開口を、開口率75%以下になるように配置した邪魔板を設ける。かかる装置により、銅と反応して不溶性の物質を形成する化合物を含むエッチング液を用いてエッチングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング装置およびエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になり、電子機器の高度化、小型化に対応するため、プリント配線板にも導体パターンの微細化が求められている。微細化に際しては、絶縁信頼性と低い導体抵抗の両立が必要である。エッチング技術によりプリント配線板を製造する場合、導体パターンの断面形状は、トップ幅(導体パターンの表面側の幅を言う)がボトム幅(導体パターンの基板側の幅を言う)より狭い台形状になる場合が多い。また、ボトム幅がトップ幅より狭い逆台形状、中央部が上面や下面より細い糸巻き状、中央部が上面や下面より太い樽状になる場合もある。
【0003】
隣接導体パターン間の絶縁信頼性は、両導体パターン間の距離が最も接近している部分で決まり、また、導体抵抗は導体パターンの断面積で決まる。よって、隣接導体パターン間の距離が厚み方向のどの点でも等しい場合、すなわち、導体パターンの断面形状が矩形の場合に、高い絶縁信頼性と低い導体抵抗を最も高い水準で両立させることができる。一方、導体パターンの断面形状が台形状、逆台形状、糸巻き状、樽状等の場合には、高い絶縁信頼性と低い導体抵抗を高い水準で両立させることは難しい。最近ではさらに、電子回路動作の超高速化に伴い、配線遅延を高度に制御することが求められており、設計通りの導体抵抗を得るために、導体パターンの断面形状が一定した矩形であることが強く求められるようになってきている。
【0004】
エッチングによって矩形に近い断面形状を得るための技術として、銅と反応してエッチングを阻害する物質を形成する化合物を添加したエッチング液が提案されている。例えば、チオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献1参照)、ホルムアミジンジサルファイドを添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献2参照)、エチレンチオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献3参照)、チオ尿素および非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献4参照)、シュウ酸を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献5参照)2−アミノベンゾチアゾール化合物、ポリエチレングリコールおよびポリアミン化合物を添加した塩化銅(II)水溶液(例えば、特許文献6参照)、2−アミノベンゾチアゾール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、エタノールアミン化合物、グリコールエーテル化合物およびN−メチル−2−ピロリドンまたはジメチルホルムアミドを添加した塩化銅(II)水溶液(例えば、特許文献7参照)等のエッチング液が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、エッチング方法についても言及されていて、被エッチング材のエッチングされる面(以下、「被エッチング面」と記す)に対してエッチング液を垂直またはこれに近い方向で噴射することが好ましいことが開示されている。エッチング液を垂直に近い方向で噴射するための具体的手段について、特許文献2は開示していないが、他の先行技術文献においては、噴角の狭いスプレーノズルを用いる技術(例えば、特許文献8参照)、エッチング液を加圧した気体と共に噴射することで、エッチング液の液滴を高速に飛翔させる技術(例えば、特許文献9参照)、さらに、スプレーノズルから噴射されたエッチング液のスプレーパターンが互いに重なり合わないようにする技術(例えば、特許文献10参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2746848号明細書
【特許文献2】特公昭37−15009号公報
【特許文献3】特公昭39−27516号公報
【特許文献4】特公昭50−20950号公報
【特許文献5】国際公開第2009/091012号パンフレット
【特許文献6】特開平6−57453号公報
【特許文献7】特開2006−274291号公報
【特許文献8】特開昭58−221280号公報
【特許文献9】特開2002−256458号公報
【特許文献10】特開2002−69673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅と反応してエッチングを阻害する物質を形成する化合物を添加してなるエッチング液の効果を好ましく発揮せしめるために必要とされているエッチング液を垂直に近い方向で噴射するための技術には、未だ満足なものがない。すなわち、背景技術のうち、噴角の狭いスプレーノズルを用いる技術やスプレーパターンが重なり合わないようにしてスプレーノズルを配置する技術には、導体パターンの断面形状が糸巻き状になりやすく、また、スペース幅が広いところと狭いところで導体パターンの断面形状が異なるという問題がある。エッチング液を加圧した気体と共に噴射する技術によれば、たしかに断面形状が矩形に近い導体パターンが得られるものの、エッチング液から揮発した塩化水素等の腐食性ガスやエッチング液のミストを含む排気が多量に発生し、大規模な排気処理設備を必要としたり、また、エッチング液中の塩酸濃度が不安定になり、安定したエッチングが困難になったりする問題がある。
【0008】
本発明は、背景技術の有するこれら課題、すなわち、導体パターンの断面形状の改善が不十分であったり、導体パターンの粗密によりエッチングの仕上がりに差が生じたり、腐食性の排気を大量に発生させたりという課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を次の手段により解決する。すなわち、被エッチング材を搬送しながら、下方に設けたスプレーノズルからエッチング液を噴射してエッチングを行うエッチング装置において、スプレーノズルと被エッチング材との間に、1個あたりの面積が0.200cm以上である複数の開口を有し、開口1個あたりの支配面積が30.0cm以下であり、かつ、開口率75%以下である邪魔板を設ける。
【0010】
本発明において、開口1個あたりの支配面積を10cm以下にすることが好ましい。
【0011】
本発明において、被エッチング材の搬送方向(以下、「搬送方向」と記す)に直交する方向(以下、「横方向」と記す)における開口の間隔を、この方向における直近のスプレーノズルの間隔の略整数分の1にすることが好ましい。
【0012】
本発明のエッチング装置を用いて行うエッチング方法において、銅と反応して不溶性の物質を形成する化合物を含むエッチング液を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエッチング装置およびエッチング方法により、粗密の導体パターンが混在する場合においても、大規模な排気処理設備を必要とすることなしに、断面形状が矩形に近い導体パターンを安定に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のエッチング装置を用いた場合におけるエッチング液流れの概略側面図である。
【図2】従来のエッチング装置を用いた場合における被エッチング面でのエッチング液流れの概略平面図である。
【図3】本発明のエッチング装置におけるエッチング液流れの概略側面図である。
【図4】開口と隣接する各開口の中心線で囲まれる領域の形状が等方的である一例を示す概略上面図である。
【図5】開口と隣接する各開口の中心線で囲まれる領域の形状が異方的である一例を示す概略上面図である。
【図6】搬送方向に沿って、開口の支配面積が変化するような開口の配置の一例を示す概略上面図である。
【図7】開口の好ましい配列の一例を示す概略上面図である。
【図8】隣接する開口の中心を結ぶ線8aがジグザグであるような開口配置の一例を示す概略上面図である。
【図9】本発明のエッチング装置の一例を示す概略側面図である。
【図10】エッチングにより得られる各種断面形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においては、被エッチング材を搬送しながら、下方に設けたスプレーノズルからエッチング液を噴射してエッチングを行うエッチング装置において、スプレーノズルと被エッチング材との間に、1個あたりの面積が0.200cm以上である複数の開口を有し、開口1個あたりの支配面積が30.0cm以下であり、かつ、開口率が75%以下である邪魔板を設ける。
【0016】
かかる構成により本発明の効果が得られる理由を以下に説明する。上記の課題を解決するために、エッチングに付随する各種の物理・化学現象について詳細に検討した結果、導体パターンの断面形状が糸巻き状になるのは、被エッチング面に対しエッチング液を噴射する場合に、被エッチング面に対して垂直な方向の液滴の流れ(以下、「垂直流れ」と記す)に対し、被エッチング面の表面に沿ったエッチング液の流れ(以下、「表面流れ」と記す)が相対的に大きくなった場合であることを見出した。
【0017】
図1は従来のエッチング装置におけるエッチング液流れの概略側面図であり、図2は被エッチング面でのエッチング液流れの概略平面図である。1dおよび2cは、被エッチング面到達後のエッチング液の流れの概略を表している。スプレーノズル1aから噴射されたエッチング液は、スプレー1bとなり、被エッチング材1eの被エッチング面1fに到達後、スプレーノズルのオリフィスと対向する点1gおよび2a(以下、「スプレーの中心点」と記す)を中心に放射状に流れる。そして、隣接スプレーノズルとの中心線付近1cおよび2bで、隣接スプレーノズルから噴射された液と合流し、重力により落下して被エッチング面1fから離れる。表面流れを抑制するためには、スプレーの中心点1gおよび2aと隣接スプレーノズルとの中心線付近1cおよび2bにある前記合流する点との距離(以下、「表面流れの行程」と記す)を短くすることが必要であり、言い換えれば、隣接スプレーノズルとの間隔を狭くすることが効果的である。
【0018】
しかし、隣接スプレーノズルとの距離を狭くした場合、以下のような問題が生じる。すなわち、隣接スプレーノズルとの距離を狭くするということは、同じ面積において、より多数のスプレーノズルを設けるということであり、当然、単位面積あたりのエッチング液噴射量が多くなる。単位面積あたりのエッチング液噴射量が多くなると、被エッチング面に厚い液膜が形成され、この厚い液膜により、垂直流れが減殺されて、微細なスペースのエッチングが進行しにくくなるという問題が発生する。また、表面流れの影響が相対的に大きくなって、導体パターンの断面形状が糸巻き状になりやすくなるという問題も発生する。また、多数のスプレーノズルを設けることには、その保守に要する労力が増大するという問題もある。
【0019】
単位面積あたりのエッチング液噴射量を減らすために、同じスプレーノズルへのエッチング液の供給圧(以下、「スプレー圧」と記す)でも噴射量の少ないスプレーノズルを用いることも、理論的には可能である。スプレーノズルの噴射量を少なくするためには、そのオリフィス径を小さくしなければならないが、オリフィス径の小さいスプレーノズルは、エッチング液に含まれる夾雑物による詰まりが生じやすい上、オリフィスがわずかでも磨耗あるいは損傷すると、流量やスプレーパターンの均一性に大きな影響を及ぼすため、スプレーノズルを頻繁に新品に交換しなければならない等、保守に要する労力や部品コストが著しく増大することから、全く実用的でない。
【0020】
スプレー圧を低くしたり、スプレーノズルの内部に、スプレー圧を減殺するような構造を設けたりすることによって、単位面積あたりのエッチング液噴射量を減らすこともできるが、垂直流れを維持することができなくなるという問題が発生する。
【0021】
これに対し、本発明の技術では、邪魔板に多数設けられた開口のそれぞれが、擬似的にオリフィス径の小さいスプレーノズルの如く働く。図3は、本発明のエッチング装置におけるエッチング液流れの概略側面図であり、3gは、被エッチング面到達後のエッチング液の流れの概略を表している。スプレーノズル3aより噴射されたエッチング液は、スプレー3dとなり、その一部が邪魔板3cの開口を通過し(3f)、その垂直流れを維持したまま被エッチング材3bの被エッチング面3hに到達する。また、邪魔板3cに阻止されたエッチング液は、被エッチング面3hに到達することなく落下する(3e)。被エッチング面3hに到達したエッチング液は、開口の投影の略中心から放射状に表面流れするが、邪魔板3cによりスプレーノズルから噴射された液が到達しない部分(以下、「影の領域」と記す)において、被エッチング面3hを離れて邪魔板3cの上面に落下する。
【0022】
本発明によれば、保守上の困難を生じない噴射量のスプレーノズルを使用し、かつ、被エッチング面に到達する液滴の垂直流れを維持したまま、邪魔板の開口と同じ個数のスプレーノズルを設けた場合と同程度にまで、表面流れの行程を小さくできることから、導体パターンの断面形状が糸巻き状になることを抑制できる。かつ、被エッチング材に到達するエッチング液の量を減少させることができるため、被エッチング面に形成される液膜の厚みを減少させることができ、液膜による垂直流れの減殺も最小限に抑えられて、微細なスペースのエッチングが可能になる。なお、保守上の困難を生じない噴射量のスプレーノズルとは、具体的には、200kPaのスプレー圧において、0.80L/min程度以上の噴射量を有するスプレーノズルである。
【0023】
本発明において、邪魔板の上面に落下した液は、少なくともその一部が開口を通じて下方に落下する。個々の開口の面積が小さすぎると、かかる落下の流れと、スプレーノズルから噴射された液滴が干渉し、垂直流れが減殺されてしまう問題が発生する。かかる観点から、開口1個あたりの面積は0.200cm以上であることが必要であり、0.700cm以上であることが好ましい。なお、開口1個あたりの面積の上限値は、開口1個あたりの支配面積および開口率の上限によって、制約される。
【0024】
本発明において、影の領域の面積が狭くなりすぎると、影の領域における液の落下が不十分になり、被エッチング面上の液膜が厚くなって、微細なスペースのエッチング性が悪化すると同時に、横流れの行程も長くなって、導体パターンの断面形状が糸巻き状になりやすくなる。かかる観点から、邪魔板の開口率は、75%以下であることが必要であり、60%以下であることが好ましい。一方で、邪魔板の開口率が低すぎる場合には、エッチング速度が遅くなる問題が生じるので、邪魔板の開口率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。なお、本発明において、邪魔板の開口率は、最外周の開口の中心点を結ぶ線の内側における、開口部を含む邪魔板全体の面積に対する開口部の面積の割合を言い、最外周の開口の中心点を結ぶ線よりも外側の面積は計算から除外する。
【0025】
本発明においては、表面流れの行程を十分小さくするためには、開口をある程度密に設ける必要がある。具体的には、開口1個あたりの支配面積を30.0cm以下にすることが必要であり、15.0cm以下にすることが好ましく、10.0cm以下にすることがさらに好ましい。本発明において、開口1個あたりの支配面積とは、開口と隣接する各開口の中心線で囲まれる面積である。開口1個あたりの支配面積は、周辺部を除く邪魔板の面積を開口の個数で除した面積に等しく、また、開口1個の面積を開口率で除した面積にも等しい。開口1個あたりの支配面積を小さくすると、表面流れの行程を小さくすることができるため、好ましい。実際には、開口1個あたりの面積の下限および好ましい開口率との兼ね合いから、支配面積の下限値は制約される。
【0026】
図4は、開口と隣接する各開口の中心線で囲まれる領域の形状が等方的である一例を示す概略上面図である。本発明において、導体パターンの走行方向によって、導体パターンの断面形状が異ならないようにするためには、開口4aと隣接する各開口4bとの中心線4cで囲まれる領域の形状ができる限り等方的であることが好ましい。言い換えれば、開口4aと隣接する各開口4bとの距離4dが、できる限り均一になるように開口を配列することが好ましい。
【0027】
図5は、開口と隣接する各開口の中心線で囲まれる領域の形状が異方的である一例を示す概略上面図である。開口5aと隣接する各開口5bとの中心線5cで囲まれる領域の形状が異方的である場合、導体パターンの走行方向によって、導体パターンの断面形状に差異が生じる場合がある。
【0028】
本発明において、面内均一性の高いエッチングを行うためには、とりわけ、搬送方向における位置がほぼ同一である1群の開口においては、各開口の支配面積ができるだけ均一であることが好ましい。搬送方向において異なる位置にある開口については、その支配面積にある程度の差異があっても差し支えない。例えば、図6は、搬送方向に沿って、支配面積が変化するような開口の配列の一例を示す概略上面図であるが、このように、搬送方向の上流6cでは、邪魔板6aの各開口6bの支配面積が比較的小さく、搬送方向の下流6dでは各開口6bの支配面積が比較的大きくなるような開口の配列でも良い。
【0029】
本発明において、スプレーノズルの間隔は任意であるが、高度なエッチングの均一性を得るためには、横方向におけるスプレーノズルの間隔は、直近の邪魔板の開口の間隔の略整数倍であることが好ましい。言い換えれば、邪魔板の開口の間隔は、直近のスプレーノズルの間隔の略整数分の1であることが好ましい。なお、搬送方向における場所毎のエッチング液噴射量のばらつきは、被エッチング材側から見ると、搬送によって平均化されるから、その影響は少ない。よって、搬送方向については、邪魔板の開口の間隔がスプレーノズルの間隔の略整数分の1である必要はない。
【0030】
本発明において、横流れによらずスプレーノズルから直接到達するエッチング液の量が、被エッチング面の面内各部分においてできるだけ均一になるように開口を配置することが好ましい。その具体例としては、開口径7aよりも小さいオフセット7cだけ、邪魔板7eの開口7fを順次ずらしながら配置する方法(図7)、搬送方向において異なる位置にあるものの中で最も近接する開口の中心を結ぶ線8aがジグザグになるように、邪魔板8bの開口8cを配置する方法(図8)があるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の邪魔板の開口の形状は特に制限されず、円形、楕円形、正方形、長方形等の四辺形、五角形、六角形等の多角形、あるいは、直線と弧からなるような任意の形状にすることができる。ただし、ドリル等の工具で容易に形成することができることによる邪魔板製作の容易性や、邪魔板の強度維持という観点からは、円形にすることが好ましい。
【0032】
本発明の邪魔板の材料には、使用するエッチング液に対して耐久性を有する各種材料を用いることができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロプレン、硬質ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン樹脂等の合成樹脂、ガラス繊維強化ポリプロピレン、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の繊維強化プラスチック、チタン、ハステロイ等の耐食性金属材料等の材料を用いることができる。これらのうちでも、エッチング液に対する耐久性が高いこと、加工が容易であること等の理由により、硬質ポリ塩化ビニルが好ましく用いられる。
【0033】
本発明において、スプレーノズルは、邪魔板が存在しない場合に、被エッチング面に形成されるスプレーパターンに隙間ができず、かつ、重なりが最小限となるような間隔で設けることが好ましい。また、スプレーノズルの先端と被エッチング面の距離は、狭すぎるとスプレーパターンに隙間を生じさせないためには多数のスプレーノズルが必要となること、また、広すぎるとエッチング液の液滴の飛翔距離が長くなり、垂直流れが減殺されることから、5〜20cmにすることが好ましい。スプレーノズルの噴角は、狭すぎるとスプレーパターンに隙間を生じさせないためには多数のスプレーノズルが必要となること、また、広すぎるとその飛翔方向が被エッチング面に垂直な方向から大きく外れるエッチング液の液滴が生じることから、45〜90°程度のものを用いることが好ましい。
【0034】
本発明における邪魔板は、スプレーノズルと被エッチング面の間に設けられる。邪魔板の位置が、スプレーノズルに近すぎる場合は、開口毎の通過エッチング液量が大きく異なってエッチングにムラが生じることがあるから、本発明における邪魔板の位置は、スプレーノズルの開口と被エッチング面の中間よりも被エッチング面寄りであることが好ましい。邪魔板の位置が被エッチング面に近すぎる場合にも、邪魔板の上面にエッチング液が滞留して垂直流れを阻害するという問題が発生しうるが、通常は、被エッチング材を搬送するための機構が存在しており、かかる問題が発生するような位置まで邪魔板を接近させることは不可能である。
【0035】
本発明において、均一なエッチングを行うためには、スプレーノズルは遥動することが好ましい。
【0036】
本発明のエッチング装置は、銅と反応してエッチングを阻害する物質を形成する化合物を添加したエッチング液を用いた場合に、良好なエッチング形状を得ることができる。かかるエッチング液としては、例えば、特許文献1〜7で提案されているエッチング液を用いることができる。すなわち、チオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液、ホルムアミジンジサルファイドを添加した塩化鉄(III)水溶液、エチレンチオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液、チオ尿素および非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を添加した塩化鉄(III)水溶液、シュウ酸を添加した塩化鉄(III)水溶液、2−アミノベンゾチアゾール化合物、ポリエチレングリコール、およびポリアミン化合物を添加した塩化銅(II)水溶液、2−アミノベンゾチアゾール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、エタノールアミン化合物、グリコールエーテル化合物、およびN−メチル−2−ピロリドンまたはジメチルホルムアミドを添加した塩化銅(II)水溶液を例示することができる。
【0037】
本発明に用いる被エッチング材には、本発明以外のエッチング装置またはエッチング方法を用いたプリント配線板の製造におけるものと同様のものを使用することができる。すなわち、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスエポキシ、ガラス補強ビスマレイミドトリアジン樹脂等の絶縁性の基板上に、接着、メッキ、蒸着等の方法で銅または銅合金からなる層を積層し、さらにその表面に、スクリーン印刷、フォトリソグラフィー、インクジェット等の方法でレジストパターンを設けたものを被エッチング材として用いることができる。かかる被エッチング材を作製するための方法は、例えば、エレクトロニクス実装学会編、「プリント回路技術便覧第3版」、日刊工業新聞社発行、2006年5月30日、3章に記載されている。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示す。
【0039】
[実施例1〜12]
【0040】
<エッチング液の調製>
市販の40°ボーメの塩化鉄(III)水溶液(濃度37質量%)8.0kg(無水物として3.0kg)、シュウ酸二水和物0.34kg(無水物として0.24kg)に水を加えて40kgとし、塩化鉄(III)7.4質量%、シュウ酸0.60質量%を含むエッチング液を調製した。
【0041】
<被エッチング材の作製>
厚み25μmのポリイミド絶縁基板と厚み18μmの電解銅箔(三井金属鉱業製、商品名:FQ−VLP)を積層した積層材料に、厚み10μmのドライフィルムレジストを貼り合わせ、ライン/スペースの幅が、25μm/25μm、30μm/30μm、35μm/35μmの評価用導体パターンを露光後、現像・水洗を行って、20mm角のテスト用被エッチング材(以下、「ワークA」と記す)を作製した。これとは別に、同じ積層材料を用い、レジストパターンを設けない、搬送方向の長さ20mm、横方向の長さ100mmのテスト用被エッチング材(以下、「ワークB」と記す)を作製した。
【0042】
<エッチング装置>
図9は、本発明のエッチング装置の一例を示す概略側面図である。液供給圧200kPaのときの噴射量2.0L/min、噴角65°の充円錐スプレーノズル9a(いけうち製、商品名:ISJJX010PP)を、横方向のピッチが80mm、搬送方向のピッチ9fが70mmとなるように配置したテストエッチング装置(山縣機械製、商品名:YCE−85V)に、開口の配列が図7に準ずる邪魔板9cを組み込んだ。スプレーノズルの先端と被エッチング面の距離9gは120mmである。邪魔板の厚みは5mmであり、被エッチング面と邪魔板の上面の距離9hは30mmである。開口の直径7a、横方向の開口ピッチ7b、開口のオフセット7c、搬送方向の開口ピッチ7d、開口1個あたりの支配面積、開口1個あたりの面積、開口率は表1に示した。
【0043】
<ワークAのエッチング>
上記のエッチング液およびエッチング装置を用い、搬送板9dに貼り付けた被エッチング材9bであるワークAを150cm/minの速度で搬送ロール9eによって搬送しながら、エッチングを行った。搬送方向は、被エッチング材が開口のない部分に到達しないよう、適宜反転した。エッチング時間は、30μm/30μmパターンのスペースを上面から観察したときの最狭部の幅が30μmとなるまでとし、表1にその時間を示した。なお、スプレーノズルへのエッチング液の供給圧は400kPaとした。
【0044】
<ワークBのエッチング>
エッチング時間を絶縁基板が露出し始める瞬間までとした以外は、ワークAのエッチングと同条件で、搬送板9dに貼り付けたワークBのエッチングを行った。
【0045】
<後処理>
エッチング後のワークAおよびBは、水洗後、濃度5質量%の塩酸に1分間浸漬して洗浄し、再度水洗し、濃度5質量%の水酸化ナトリウム水溶液に3分間浸漬してレジストパターンを除去し、再度水洗し、再度濃度5質量%の塩酸に1分間浸漬して洗浄した後、再度水洗した後に下記の評価に供した。
【0046】
【表1】

【0047】
[比較例1]
邪魔板を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてエッチングを行った。エッチング時間を表1に示した。
【0048】
[比較例2〜4]
開口の直径7a、横方向の開口ピッチ7b、開口のオフセット7c、搬送方向の開口ピッチ7dを表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてエッチングを行った。開口1個あたりの支配面積、開口1個あたりの面積、開口率横およびエッチング時間を表1に示した。なお、比較例3については、35μm/35μmパターンのスペースの上面から観察したときの最狭部の幅が35μmとなった時点でエッチングを中止した。
【0049】
<ワークAの評価>
後処理後のワークAを、アクリル樹脂で包埋後、カミソリを用いて切断し、精密研磨フィルムによって断面を研磨して断面観察用試料を作製した。かかる断面観察用試料を、デジタル顕微鏡を用い、同軸落射照明により観察し、トップ幅W1、ボトム幅W2、最狭部幅(トップ幅W1またはボトム幅W2が最も狭い場合は、その幅)を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
なお、断面の形状は、トップ幅W1およびボトム幅W2により、次の3種に分類した。
略矩形:トップ幅W1とボトム幅W2の差が2μm以下の場合。記号「R」
逆台形:トップ幅W1がボトム幅W2よりも2μmを超えて広い場合。記号「S」
台形 :トップ幅W1がボトム幅W2よりも2μmを超えて狭い場合。記号「T」
【0051】
さらに、最も狭い部分の幅が、トップ幅W1とボトム幅W2のいずれか狭いほうよりも、さらに2μm超えて狭かった場合を糸巻き状であったとし、上記の記号にさらにBを付して示した。図10に、絶縁基板10a上に形成された導体パターン10bの形状による分類の概略を示す。
【0052】
<ワークBの評価>
ワークAと同様にして断面観察用試料を作製し、最も厚く残存している部分の銅箔厚みを測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
各実施例と各比較例を比較して分かるように、スプレーノズルと被エッチング面の間に、1個あたりの面積が0.200cm以上である複数の開口を有し、開口1個あたりの支配面積が30.0cm以下であり、かつ開口率が75%以下の邪魔板を設けることで、導体パターンの断面形状が糸巻き状になることを抑制することができる。各実施例では、30μm/30μmパターンと35μm/35μmパターンの双方において、導体パターンの断面形状が略矩形であるのに対し、邪魔板を設けない比較例1では両パターンとも導体パターンの断面が逆台形かつ糸巻き状になっており、また、邪魔板の開口率が75%を超える比較例2では、導体パターンの断面形状が糸巻き状になることを十分に抑制することができない。さらに、邪魔板に設けた開口の1個あたり面積が0.200cmを下回る比較例3では、狭いスペースをエッチングすることができない上に、エッチング時間が著しく長くなる。さらに、その開口1個あたりの支配面積が30.0cmを超える比較例4でも、導体パターンの断面形状が糸巻き状になることを十分に抑制することができていない。
【0055】
なお、実施例2と実施例3を比較して分かるように、本発明において、導体パターンの断面形状が糸巻き状になることを高度に抑制し、また、より狭いスペースをエッチングするためには、邪魔板の開口率は60%以下であることがより好ましい。また、実施例4〜6相互の比較から明らかになるように、高いエッチング速度を維持するためには、邪魔板の開口率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
また、実施例5と実施例7を比較して分かるように、十分に狭いスペースにおいても矩形に近い導体パターンの断面形状が得られるようにするためには、開口1個あたりの面積が0.700cm以上であることが好ましい。
【0057】
実施例10と実施例11を比較して分かるように、開口1個あたりの支配面積を15.0cm以下にすることによって、導体パターンの断面形状をさらに矩形に近づけることが可能であり、実施例9と実施例10を比較して分かるように、開口1個あたりの支配面積を10.0cm以下にすることによって、極めて矩形に近い導体パターンの断面形状を得ることが可能になる。
【0058】
実施例9〜12を比較すると、横方向における開口の間隔が、開口に直近のスプレーノズルのこの方向における間隔の略整数分の1である場合、エッチングの面内均一性が高いことが確認された。すなわち、略整数分の1である実施例11では、ワークBの銅箔の残存厚みが比較的薄いのに対し、略整数分の1でない実施例9、10および12では、ワークBの銅箔の残存厚みが厚くなった。
【0059】
なお、本発明の各実施例に用いるノズルは、従来のエッチング装置に用いられるものと同程度の流量が得られるものであるから、そのオリフィス径も従来のエッチング装置に用いられるものと同程度である。したがって、エッチング液中の夾雑物に起因する詰まりの発生も従来のエッチング装置と同程度の頻度であり、スプレーノズルの保守間隔も従来のエッチング装置のそれと同等で済む。また、本発明の各実施例におけるノズルの配置個数は、従来のエッチング装置のそれと同程度かむしろ少ないことから、1回の保守作業に要する時間も従来のエッチング装置に対するそれと同程度かむしろ短くて済む。また、本発明のエッチング装置においては、エッチング液を加圧した気体と共に噴射するようなことはしないので、腐食性のガスやミストを含む排気が多量に発生することもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のエッチング装置およびエッチング方法は、プリント配線板の製造のみならず、リードフレーム、精密歯車、精密板ばね、エンコーダ用ディスクやストライプ、各種ステンシルの製造等のその他各種の産業用途においても、高度に制御された銅または銅合金のエッチングが必要な場合に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1a スプレーノズル
1b スプレー
1c 隣接スプレーノズルとの中心線付近
1d 被エッチング面到達後のエッチング液の流れの概略
1e 被エッチング材
1f 被エッチング面
1g スプレーノズルのオリフィスと対抗する点
2a スプレーノズルのオリフィスと対抗する点
2b 隣接スプレーノズルとの中心線付近
2c 被エッチング面到達後のエッチング液の流れの概略
3a スプレーノズル
3b 被エッチング材
3c 邪魔板
3d スプレー
3e 邪魔板で阻止される液滴の飛翔経路の一例
3f 邪魔板で阻止されず被エッチング材に到達する液滴の飛翔経路の一例
3g 被エッチング材到達後のエッチング液の流れの概略
3h 被エッチング面
4a 開口
4b 開口4aと隣接する各開口
4c 開口4aと隣接する各開口4bとの中心線
4d 開口4aと隣接する各開口4bとの距離
5a 開口
5b 開口5aと隣接する各開口
5c 開口5aと隣接する各開口5bとの中心線
6a 邪魔板
6b 開口
6c 搬送方向の上流
6d 搬送方向の下流
7a 開口径
7b 横方向の開口ピッチ
7c 開口のオフセット
7d 搬送方向の開口ピッチ
7e 邪魔板
7f 開口
8a 隣接する開口の中心を結ぶ線
8b 邪魔板
8c 開口
9a スプレーノズル
9b 被エッチング材
9c 邪魔板
9d 搬送板
9e 搬送ロール
9f 搬送方向におけるスプレーノズルの間隔
9g スプレーノズル先端と被エッチング材の間隔
9h 被エッチング材と邪魔板上面の間隔
10a 絶縁基板
10b 導体パターン
R 導体断面形状が略矩形の場合の一例
S 導体断面形状が逆台形の場合の一例
T 導体断面形状が台形の場合の一例
RB 導体断面形状が略矩形で、糸巻き状である場合の一例
SB 導体断面形状が逆台形で、糸巻き状である場合の一例
TB 導体断面形状が台形で、糸巻き状である場合の一例
W1 トップ幅
W2 ボトム幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被エッチング材を搬送しながら、下方に設けたスプレーノズルからエッチング液を噴射してエッチングを行うエッチング装置であって、スプレーノズルと被エッチング材との間に、1個あたりの面積が0.200cm以上である複数の開口を有し、開口1個あたりの支配面積が30.0cm以下であり、かつ、開口率が75%以下の邪魔板を設けてなることを特徴とするエッチング装置。
【請求項2】
開口1個あたりの支配面積が10.0cm以下である請求項1記載のエッチング装置。
【請求項3】
被エッチング材の搬送方向に直交する方向における開口の間隔が、開口に直近のスプレーノズルのこの方向における間隔の略整数分の1である請求項1記載のエッチング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のエッチング装置を用いて、銅と反応して不溶性の物質を形成する化合物を含んでなるエッチング液を噴射して、被エッチング材のエッチングを行うことを特徴とするエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−124396(P2011−124396A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281090(P2009−281090)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】