説明

エネルギー吸収体の製造方法とエネルギー吸収体

【課題】二酸化炭素の固定化を促進しつつ、高いエネルギー吸収性能を発揮できるエネルギー吸収体の製法とエネルギー吸収体を提供すること。
【解決手段】木質系の廃棄物を熱処理して炭素を固定化した複数の炭化物10と、複数の炭化物10に自己接着性を付与する接着剤とを具備し、複数の炭化物相互間に空隙23を形成して固着して所定の形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地球温暖化現象の一因である二酸化炭素(CO2)の削減と、木質系の廃棄物の有効活用の両立を図るエネルギー吸収体の製造方法とエネルギー吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化現象の一因である二酸化炭素の排出削減が国際レベルで求められている。
特に、大量の二酸化炭素を発生する廃棄物の焼却処理施設や自動車分野では、その対策技術が提案されている(特許文献1,2)。
【0003】
その一方で、林業分野で発生する間伐材や建築分野で発生する廃棄木材等の木質系の廃棄物は、その大半を埋設処分、又は焼却処分している。
前者の処分方法は処分場の飽和化により処分量に限界があり、又、後者の処分方法は二酸化炭素の発生を助長するといった難点がある。
【0004】
また、木質系の廃棄物を焼却せずに建材として活用する方法や(特許文献3)、チップ化して舗装材に活用する方法(特許文献4)も提案されているが、これらの活用技術は二酸化炭素の削減に貢献するものではない。
【0005】
また、植物が二酸化炭素を吸収し、植物を燃焼することで固定化した二酸化炭素を排出する植物のライフ循環システムにおいて、大気中の二酸化炭素は増加しないという「カーボンニュートラル化」を実現することが、地球温暖化の防止に役立つとの提唱がされている。
【0006】
「カーボンニュートラル化」は二酸化炭素の排出量と吸収量を均等に保つことで、二酸化炭素を増加させないという考え方である。
しかしながら、二酸化炭素の吸収量が最も多い森林は、一部の地域で植林や植樹が進められているものの、世界規模でみると森林面積が減少の一途を辿っている。
二酸化炭素の排出量が森林による吸収量と比べて多い現状においては、大気中における二酸化炭素の増加を抑えることが難しい。
【0007】
河川や湖の枯渇化と大規模水害、永久氷塊の溶解、動植物の生態環境の破壊等のように、地球温暖化に起因した被害が深刻化する現在、大気中の二酸化炭素の削減を図りつつ、大量に発生する木質系の廃棄物の有効活用の両立が図れる技術の提案が切望されている。
【特許文献1】特開2004−313961号公報
【特許文献2】特開平11−57646号公報
【特許文献3】特開2006−231885号公報
【特許文献4】特開2008−75394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、本発明の目的とするところは大気中の二酸化炭素の削減を図りつつ、大量に発生する木質系の廃棄物の有効活用の両立が図れるエネルギー吸収体の製造方法とエネルギー吸収体を提供することにある。
本発明のつぎの目的は、二酸化炭素の固定化を促進しつつ、高いエネルギー吸収性能を発揮できるエネルギー吸収体の製造方法とエネルギー吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本願の第1発明は、木質系の廃棄物を用いたエネルギー吸収体の製造方法であって、前記木質系の廃棄物を熱処理して炭素を固定化した炭化物を製造し、接着剤を介して複数の炭化物を固着してポーラス構造に成形したことを特徴とするエネルギー吸収体の製造方法である。
本願の第2発明は、前記第1発明において、接着剤が先行して炭化物にコーティングする液状の下地固結材と、その後に炭化物にコーティングする粉状の表層固結材であることを特徴とする、エネルギー吸収体の製造方法である。
本願の第3発明は、前記第1発明において、接着剤が炭化物にコーティングするペースト状のセメント系固結材であることを特徴とする、エネルギー吸収体の製造方法である。
本願の第4発明は、木質系の廃棄物を用いたエネルギー吸収体であって、前記木質系の廃棄物を熱処理して炭素を固定化した複数の炭化物と、前記複数の炭化物に自己接着性を付与する接着剤とを具備し、前記複数の炭化物相互間に空隙を形成して固着したことを特徴とする、エネルギー吸収体である。
本願の第5発明は、前記第4発明において、炭化物の表面を接着剤の硬質層で被覆して補強したことを特徴とする、エネルギー吸収体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は少なくとも次のひとつの効果を得ることができる。
(1)本発明に係るエネルギー吸収体は、大気中の二酸化炭素を吸収しつつ炭素を内部に蓄積しながら成長した樹木を伐採して炭化したものであるから、エネルギー吸収体に大量の炭素成分をクレジットすることができる。
したがって、大気中の二酸化炭素の削減を図りつつ、大量に発生する木質系の廃棄物の有効活用の両立を図ることができる。
(2)エネルギー吸収体を構成する炭化物は二酸化炭素を放出せずに固定化しつつ、エネルギー吸収体に衝撃が作用したときに炭化物が圧縮破壊されて衝撃が保有するエネルギーを効率よく吸収することができる。
(3)炭化物の表面を接着剤の硬質層で覆うことで炭化物を補強できるので、炭化物単独の場合と比べてエネルギーの吸収性能が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係るエネルギー吸収体の製法について説明する。
【0012】
[実施例1]
(1)木質系の廃棄物の炭化工程
木質系の廃棄物を熱処理して炭化物10を得る。
【0013】
木質系の廃棄物とは例えばつぎのものを含む。
a)林業分野で発生する間伐材、打ち枝材、倒木(竹を含む)等。
b)建築分野で発生する住宅の解体木材、工事現場で使用済みの木製資材等。
c)自然災害で発生する折れた樹木、流木等。
d)リサイクルが困難な木製の家具や調度品。
上記に例示した木質系の廃棄物以外に、他の木材そのもの、或いは木製の加工品を含むものである。
【0014】
熱処理は公知の炭化窯や炭化施設の内部に木質系廃棄物を搬入し、空気を遮断した環境下において高温加熱して行なう。
高温とは木質系廃棄物の種類により若干相違するが、望ましくは700℃以上の温度が望ましい。
木質系の廃棄物を高温するのは、炭化物10の内部に炭素を固定化するためと、無機化して腐朽させないためである。
【0015】
木質系の廃棄物は炭素と酸素を主成分とする。
この木質系の廃棄物を外部の空気が入り込まない環境下で熱処理して炭化する。
そのため、木質系の廃棄物の内部に含まれた炭素のうち、一部の炭素は炭化過程で失うものの、大半の炭素は外部に放出されずに炭化物10の内部に固定化することができる。
【0016】
炭素の固定化を実証するために、杉材を用いて以下のような実験を行った。
杉材100kgを高温過熱して炭化すると、約30.7kgの炭化物10が得られた。
このうち炭化物10の成分を分析すると、91%に相当する27kgの炭素が固定化されていた。
すなわち、木材の炭化前と炭化後における重量変化と炭素量の変化について調べたところ、炭化後の重量は炭化前と比べて1/3ほど軽くなり、炭化後の炭素量は炭化前のほぼ90%の炭素を保持していることが確認できた。
このことから、炭化物10に固定した炭素量は熱処理前の廃棄物の総重量を基に正確に算出することができる。
【0017】
一般に炭化物10の物性として、燃焼すれば大気中に炭素が放出され、また炭化物10の強度は炭化前と比べて著しく低下して脆弱化することが知られている。
本発明はこのような炭化物10の物性を踏まえて成されたものであり、以降に説明するように炭素を固定化したまま、炭化物10に強度を付与してエネルギー吸収体を得る発明である。
【0018】
また、木質系の廃棄物の炭化物10をエネルギー吸収体に用いるにあたり、炭化物10は熱処理したときのサイズで用いてもよいが、使途に応じた最適な寸法に小片化してもよい。
炭化物10を小片化するには、熱処理前に木質系廃棄物を小片化しておく方法と、熱処理後に炭化物10を小片化する方法がある。
【0019】
(2)液状固結材の被膜の形成工程
つぎに図3に示すように、木質系の廃棄物の炭化物10の表面に液状の下地固結材20の被膜を形成する。
【0020】
炭化物10の表面に液状の下地固結材20の被膜を形成するには、例えば撹拌機内に炭化物10と液状の下地固結材20を投入して撹拌混合したり、或いは炭化物10を液状の下地固結材20に含浸させたり、炭化物10の表面に液状の下地固結材20を吹き付ける等して行なう。
【0021】
液状の下地固結材20は、炭化物10相互間を固着するための下地用接着剤で、例えばつぎのような高分子系樹脂接着剤が使用可能である。
高分子系樹脂接着剤としては、エチレン酢酸ビニルエマルジョンと水を主剤とした市販の接着剤を使用することが好適である。
【0022】
炭化物10に付着した余分な液状の下地固結材20は、例えば炭化物10に強制回転を与えて遠心除去したり、漉し網で濾過する等して除去する。
【0023】
(3)粉状固結材のコーティング工程
つぎに図4に示すように、液状の下地固結材20が硬化する前に、炭化物10の表面全体に粉状の表層固結材21を均等に付着させる。
炭化物10の表面に粉状の表層固結材21を付着させるには、例えば撹拌機内に炭化物10と粉状の表層固結材21を投入して撹拌混合したり、或いは炭化物10に粉状の表層固結材21に吹付ける等して行なう。
【0024】
粉状の表層固結材21としては、セメントに代表されるセメント系接着剤が好適である。
【0025】
粉状の表層固結材21は、炭化物10の表面を覆った液状の下地固結材20に付着して水分を取り込むことで、自己接着性が発揮される。
【0026】
本実施例が液状の下地固結材20と粉状の表層固結材21とを組み合わせたのは以下の理由による。
炭化物10は炭化されると内部に多数の微孔が形成されるため、炭化物10の表面を液状の下地固結材20単独で覆っただけでは、液状の下地固結材20が多数の微孔に入り込むために、炭化物10の表面に十分な接着能力を付与することが難しい。
また、液状の下地固結材20を使用せずに、粉状の表層固結材21を単独で炭化物10の表面に付着させることはできない。
そこで、本実施例では、水分を含む液状の下地固結材20に粉状の表層固結材21を付着させることで、微細な孔を無数に有する炭化物10の表面に、十分な接着能力を付与することが可能となる。
さらに、液状の下地固結材20と粉状の表層固結材21とを組み合わせて構成した接着剤で以って炭化物10を被覆するもうひとつの理由は、個々の炭化物10の硬度を高めるためである。
【0027】
(4)成形工程
多数の炭化物10を撹拌混合した後、所定の形状に成形してエネルギー吸収体30を得る。
またエネルギー吸収体30は自己接着性を有する複数の炭化物10の集合体で構成するから、エネルギー吸収体30の寸法や形状は使途に応じて任意に形成することが可能である。
炭化物10は自己接着性を有するから、図5に拡大して示すように相互に各炭化物10の接触箇所が固着して固着部22を形成するとともに、各炭化物10の間に緩衝用の空隙23が形成される。
エネルギー吸収体30は炭化物10の間を隙間なく固着するのではなく、多数の隙間があるポーラス構造に成形することが肝要である。
【0028】
(5)エネルギー吸収体の用途例
エネルギー吸収体30は、例えばつぎの用途に使用することができる。
a)走行車両の防護用途
エネルギー吸収体30を柱状に形成し、道路の分岐部に緩衝材として設置する。
またはエネルギー吸収体30を板状、又は柱状に形成し、ガードレールやガードロープの内側に緩衝材として設置する。
b)防護柵
エネルギー吸収体30を板状、又は柱状に形成し、落石防護柵の防護ネットに、緩衝材として付設する。
【0029】
(6)エネルギー吸収体の緩衝作用
図6に断面形状が円形を呈するエネルギー吸収体30のモデル図を示す。
エネルギー吸収体30は図5に示すように複数の炭化物10の集合体で構成されていて、各炭化物10の間は固着部22を介して結合され、また各炭化物10の間に緩衝用の空隙23が形成されている。
【0030】
図7に示すようにエネルギー吸収体30に外部から衝撃Fが加わると、衝撃Fの作用した部位から順に押し潰され、炭化物10が押し潰されるときの抵抗で以って衝撃Fが保有するエネルギーが吸収される。
より詳しく説明すると、炭化物10そのものが圧縮破壊されるときの破壊抵抗と、炭化物10の固着部22が破壊されるときの破壊抵抗により衝撃Fが保有するエネルギーが吸収される。
特に、炭化物10はその内部に下地固結材20が浸透して炭化物10の硬度が高められていることと、炭化物10の表面を覆う接着剤(下地固結材20に表層固結材21を混合物)の硬化層が炭化物10を拘束するため、硬化層で覆っていない炭化物10と比べて圧縮強度が格段に高くなっている。
そのため、エネルギー吸収体30のエネルギーの吸収性能が高くなる。
以上のように、エネルギー吸収体30の片側からその中心部へ向けて炭化物10を構成するの多数の炭化物10の組織破壊が進行する。
【0031】
(7)エネルギー吸収体と炭素削減効果の因果関係
本発明に係るエネルギー吸収体30は、大量に発生する木質系の廃棄物を炭化した複数の炭化物10で構成するものであるから、処分に困っていた大量の木質系の廃棄物をエネルギーの吸収部材として有効に活用することができるだけでなく、以下に説明するように大気中の二酸化炭素濃度の削減にも貢献する。
【0032】
図8は植樹と腐朽を繰り返すことで二酸化炭素の排出量と二酸化炭素の吸収量を均等に保ったときの「カーボンニュートラル」の状態を示す。
この「カーボンニュートラル」においては、二酸化炭素の排出量と二酸化炭素の吸収量が均等に保たれるから、大気中の二酸化炭素の濃度は一定である。
つまり、「カーボンニュートラル」において、樹木が成長して腐朽するまでの循環サイクルのなかで二酸化炭素は増減せずに循環するだけである。
【0033】
これに対し、本発明に係るエネルギー吸収体30は、大気中の二酸化炭素を吸収しつつ炭素を内部に蓄積しながら成長した樹木を伐採して炭化したものである。
木質系カーボンの成分は、90%以上が炭素であり、無機物であるため腐朽せず、そのままの状態で炭素が放出されることもない。
大量の炭素を蓄えて生長した樹木を炭化すると約70%の炭素を放出するが、約30%は木質系カーボンとして炭素成分をクレジットすることが可能である。
すなわち、エネルギー吸収体30は永続的に二酸化炭素を固定化(炭素クレジット(Carbon Credit))することができる。
したがって、樹木が成長して腐朽するまでの循環サイクルのなかでエネルギー吸収体30の設置量が増えることにより、二酸化炭素の排出量は二酸化炭素の濃度を同時に削減することが可能となって、地球温暖化防止の貢献度が大きい。
【0034】
[実施例2]
前記実施例1では、液状の下地固結材20と粉状の表層固結材21とを組み合わせて接着剤で炭化物10をコーティングした場合について説明した。
【0035】
図10に示すように、炭化物10に自己接着性を付与する他の手段として、セメント系固結材を使用することも可能である。
セメント系固結材はセメントに加水して混練したセメントペースト、モルタルペースト等を使用することができる。
【0036】
木質系の廃棄物を炭化して炭化物10を得る工程や、炭化物10に自己接着性を付与した後に成形してエネルギー吸収体30を得ることは実施例1と同様であるので、その説明は省略する。
【0037】
また他の接着剤としては、漆(好適には人工漆)に酵素を加えた接着剤や、米と石膏を混合した接着剤を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1に係るエネルギー吸収体の製造方法のフロー図
【図2】炭化物のモデル図
【図3】液状の下地固結材をコーティングした炭化物のモデル図
【図4】粉状の表層固結材をコーティングした炭化物のモデル図
【図5】エネルギー吸収体の一部を拡大した炭化物のモデル図
【図6】衝撃の作用前におけるエネルギー吸収体のモデル図
【図7】衝撃の作用時におけるエネルギー吸収体のモデル図
【図8】カーボンニュートラルにおける二酸化炭素の吸収量と濃度の関係を示す説明図
【図9】本発明におけるエネルギー吸収体を使用した場合における二酸化炭素の吸収量と濃度の関係を示す説明図
【図10】本発明の実施例2に係るエネルギー吸収体の製造方法のフロー図
【符号の説明】
【0039】
10・・・・・炭化物
20・・・・・液状の下地固結材
21・・・・・粉状の表層固結材
22・・・・・固着部
23・・・・・空隙
30・・・・・エネルギー吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系の廃棄物を用いたエネルギー吸収体の製造方法であって、
前記木質系の廃棄物を熱処理して炭素を固定化した炭化物を製造し、
接着剤を介して複数の炭化物を固着してポーラス構造に成形したことを特徴とする、
エネルギー吸収体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、接着剤が先行して炭化物にコーティングする液状の下地固結材と、その後に炭化物にコーティングする粉状の表層固結材であることを特徴とする、エネルギー吸収体の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、接着剤が炭化物にコーティングするペースト状のセメント系固結材であることを特徴とする、エネルギー吸収体の製造方法。
【請求項4】
木質系の廃棄物を用いたエネルギー吸収体であって、
前記木質系の廃棄物を熱処理して炭素を固定化した複数の炭化物と、
前記複数の炭化物に自己接着性を付与する接着剤とを具備し、
前記複数の炭化物相互間に空隙を形成して固着したことを特徴とする、
エネルギー吸収体。
【請求項5】
請求項4において、炭化物の表面を接着剤の硬質層で被覆して補強したことを特徴とする、エネルギー吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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