説明

エネルギー線硬化型インク組成物

【課題】連続吐出性に優れるとともに、硬化性及び密着性に優れるエネルギー線硬化型インク組成物を提供する。
【解決手段】着色材、重合性化合物として300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーとのみを含有し、光重合開始剤としてα−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有し、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有するエネルギー線硬化型インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式に用いられるエネルギー線硬化型インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録方式に適用されるインク組成物としては水を主成分とする水性インクや有機溶剤を主成分とする油性インクが用いられてきたが、印刷物のにじみを抑えるために、エネルギー線(例えば、紫外線)の照射によりインクを硬化させる無溶剤タイプのエネルギー線硬化型インク組成物が注目されている(例えば、特許文献1)。
上記のようなエネルギー線硬化型インク組成物を硬化させる手段としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプなどが用いられてきたが、エネルギー線硬化型インク組成物に用いられる重合性化合物は一般に反応性が低く、高エネルギーを有するエネルギー線が照射されないと酸素阻害を受けて十分な硬化性が得られないことから、密着性が悪いなどの問題がある。このため、例えば、重合性化合物として、単官能及び多官能モノマーと、5〜30質量%のオリゴマーとを用い、接着性、引っかき抵抗性などを改善したインク組成物が提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−214279号公報
【特許文献2】特表2001−525479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、インクジェット記録方式においては、圧力、熱、電界などを駆動源として液状のインクをノズルから記録媒体に向けて吐出させることにより印刷が行なわれるため、低粘度のインクを用いる必要がある。しかしながら、上記のようなオリゴマーを重合性化合物として含有するインク組成物は、高粘度であり、そのためノズル抜け、サテライト、飛行曲がり、霧状状態のインク吐出などの現象が生じ易く、連続吐出性に劣るという問題がある。特に、特許文献2では、接着性、引っかき抵抗性などを向上するため、アクリル当量が180以上のオリゴマー、すなわち分子量の大きなオリゴマーを使用するため、高粘度になりやすい。
【0004】
また、上記のような水銀灯やメタルハライドランプなどにより紫外線を照射すると熱が発生しやすいため、例えば記録媒体として薄膜フィルムが用いられる場合、過剰なエネルギーの照射や加熱処理によって薄膜フィルムにカールや波うちなどが発生しやすい。このため、エネルギー線に対する硬化感度が高く、記録媒体に対する密着性が良好なインク組成物が求められている。
【0005】
しかしながら、上記のようなアクリル当量の高いオリゴマーは低反応性であるため、硬化に際しては1J/cm程度の大きなエネルギーを必要とし、低エネルギーの照射では十分な硬化性が得られないという問題がある。硬化性を向上するためにエチレン性二重結合を多く有する多官能の重合性化合物を使用することも考えられ、特許文献2でも、オリゴマーと多官能モノマーとの併用が提案されているが、オリゴマーを含有するインク組成物に3官能以上の多官能モノマーを添加すると、インクの粘度が顕著に増加するため、3官能以上の多官能モノマーは極めて少量で使用しなければならない(特許文献2の段落〔0015〕)。このため、特許文献2では、具体的な重合性化合物として、オリゴマーとともにエチレン性二重結合を3個有するトリメチルプロパンエトキシル化トリアクリレートが使用されているが、該多官能モノマーの含有量は10質量%に過ぎない。従って、接着性、引っかき抵抗性などを目的とする場合、特許文献2のようなオリゴマーを含有するインク組成物は有用であるが、低エネルギーの照射手段が用いられる場合、このようなインク組成物は硬化性及び密着性を満足することができないという問題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、インクジェット記録方式に適した低粘度及び液物性を有し、連続吐出性に優れるだけでなく、低エネルギーの照射手段が用いられる場合でも、硬化性及び密着性に優れるエネルギー線硬化型インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、着色材、重合性化合物、光重合開始剤、及び表面調整剤を含有するエネルギー線硬化型インク組成物であって、
前記重合性化合物は、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーとのみからなり、
前記光重合開始剤は、α−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有し、
前記表面調整剤は、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有するエネルギー線硬化型インク組成物である。
【0007】
上記インク組成物は、アクリル当量が300以下の単官能モノマーとアクリル当量が150以下の多官能モノマーとのみからなる重合性化合物を含有するため、インクジェット記録方式に適した低粘度で、高反応性のインク組成物を得ることができる。また、上記インク組成物は、前記単官能モノマー及び多官能モノマーのみからなる重合性化合物と、光重合開始剤としてα−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物とを含有するため、硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。そして、上記インク組成物は、前記単官能モノマー及び多官能モノマーのみからなる重合性化合物と、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物とを含有するため、インクジェット記録方式に適した液物性を有するインク組成物を得ることができる。
【0008】
上記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有することが好ましい。一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーは高反応性を有するため、さらに硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。また、重合性化合物が上記の単官能モノマーと多官能モノマーのみとからなるため、一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有しても、粘度の増加が少ない。
【0009】
また、上記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとを含有することが好ましい。一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーと、一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとを併用すれば、低粘度と、硬化性及び密着性とをさらに高いレベルで両立することができる。
【0010】
上記単官能モノマーは、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びトリデシル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、上記多官能モノマーは、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。上記の単官能モノマーは、低粘度であり、また上記の多官能モノマーは、低分子量であるとともに、一分子中にエチレン性二重結合を多く有するため、低粘度であるとともに、高い反応性を有している。そのため、重合性化合物として上記モノマー類を使用すれば、さらに低粘度で、硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。
【0011】
上記表面調整剤であるシリコーン系化合物は、分子内にエチレン性二重結合を有することが好ましい。上記シリコーン系化合物は反応性を有するため、さらに硬化性及び密着性を向上することができる。
【0012】
上記インク組成物は、ゲル化防止剤として2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物をさらに含有してもよい。上記インク組成物は、反応性の高いモノマー類や光重合開始剤を含有することに起因して保存時の熱や光により重合が容易に開始されやすく、そのため保存安定性が低下しやすいが、これらのモノマー類及び光重合開始剤と上記ヒンダードアミン系化合物とを併用すれば、保存安定性を維持しつつ、硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。
【0013】
そして、上記インク組成物によれば、4〜35mPa・s(25℃)のインクジェット記録方式に適した低粘度のインク組成物を得ることができるとともに、200mJ/cm以下の低い積算光量のエネルギーの照射によっても硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。
【0014】
特に、上記インク組成物において、インク組成物の全量中、前記単官能モノマーの含有量が10〜20質量%、前記多官能モノマーの含有量が10〜75質量%、前記α−アミノアルキルフェノン系化合物の含有量が2〜20質量%、前記チオキサントン系化合物の含有量が0.1〜10質量%、及び前記シリコーン系化合物の含有量が2.5質量%以下であり、
前記単官能モノマーの含有量と前記多官能モノマーの含有量との質量比(多官能モノマー/単官能モノマー)が3〜8であることが好ましい。
【0015】
さらに、上記重合性化合物が、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有する場合、インク組成物の全量中、該多官能モノマーを10〜50質量%含有することが好ましい。
【0016】
また、上記重合性化合物が、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとを含有する場合、インク組成物の全量中、それぞれ10〜60質量%、及び10〜50質量%含有するとともに、これらの総含有量が20〜75質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、インクジェット記録方式に適した低粘度及び液物性を有し、連続吐出性に優れるだけでなく、低エネルギーの照射手段が用いられる場合でも、硬化性及び密着性に優れるエネルギー線硬化型インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本実施の形態において、インク組成物は、重合性化合物として、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマー、及び150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーのみを含有する。本実施の形態の重合性化合物は上記のモノマー類のみから構成されており、オリゴマー類を含有しないため、低粘度で、硬化性に優れたインク組成物を得ることができる。また、高反応性の重合性化合物とする場合、多官能モノマーのみを用いることも考えられるが、この場合、増粘により連続吐出性が低下する。一方、低粘度の重合性化合物とする場合、単官能モノマーのみを用いることが考えられるが、この場合、反応性が低下し、そのため硬化性及び密着性が低下する。このため、単官能モノマーと多官能モノマーとを併用した重合性化合物とすることが考えられるが、単にこれらのモノマー類を併用しただけではインク組成物の粘度をインクジェット記録方式に適した粘度まで低下させることが難しく、硬化性及び密着性も不十分となる。本発明者等は粘度及び反応性の観点から各モノマーのアクリル当量に着目し、それぞれのアクリル当量を一定範囲に規制した単官能モノマーと多官能モノマーとのみから重合性化合物を構成すれば、4〜35mPa・sの粘度を有し、インクジェット記録方式で印刷する場合にも連続吐出性に問題がなく、また積算光量が200mJ/cm以下の低エネルギーの照射によっても優れた硬化性及び密着性を示すインク組成物が得られることを見出した。すなわち、アクリル当量は、(分子量/1分子中のアクリル基数)で表される指標であり、同一分子量であれば、アクリル当量が低いモノマー類ほど、一分子中にアクリル基を多く有している。また、同一のアクリル基数を有するモノマー類でも、低分子量であるほど、アクリル当量は高くなる。従って、アクリル当量が低いモノマー類ほど、分子内に架橋点を多く有し、反応性が高く、アクリル当量が高いモノマー類ほど、反応性が低く、また高分子量となるため増粘しやすい傾向がある。上記観点から、単官能モノマーと多官能モノマーを併用した場合の各アクリル当量を検討した結果、アクリル当量が300以下、好ましくは130以上、255以下の単官能モノマーと、アクリル当量が150以下、好ましく85以上、150以下の多官能モノマーとのみから重合性化合物を構成すれば、低粘度と高反応性とが両立したインク組成物が得られることを見出した。単官能モノマーのアクリル当量が300より高いと、高分子量となり、増粘しやすくなり、150以下のアクリル当量を有する多官能モノマーを併用しても、連続吐出性が低下する。一方、多官能モノマーのアクリル当量が150より高いと、アクリル基数の減少により、300以下のアクリル当量を有する単官能モノマーを併用しても、低エネルギーの照射では硬化性及び密着性が低下する。なお、本実施の形態において、上記単官能モノマー及び多官能モノマーのみからなる重合性化合物とは、各アクリル当量より高いアクリル当量を有する重合性化合物を含有しないかまたは実質的に含有しない重合性化合物を意味するものであり、上記各モノマーの製造時や保存時に不純物として不可避的に含まれてくる高いアクリル当量を有するモノマー類やオリゴマー類を低濃度で含有する重合性化合物を排除するものではない。
【0019】
一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーとしては、具体的には、例えば、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−フタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。また、上記モノマーは、リンやフッ素などの官能基で置換されていてもよい。これらの中でも、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びトリデシル(メタ)アクリレートは低粘度であるため、特に好ましい。
【0020】
一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シキロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0021】
一分子中にエチレン性二重結合を3個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性、プロピレンオキサイド変性、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0022】
一分子中にエチレン性二重結合を4個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性、プロピレンオキサイド変性、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0023】
一分子中にエチレン性二重結合を5個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性、プロピレンオキサイド変性、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0024】
一分子中にエチレン性二重結合を6個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性、プロピレンオキサイド変性、カプロラクトン変性体などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。
【0025】
上記多官能モノマーの中でも、一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する高級多官能モノマーが好ましく、一分子中にエチレン性二重結合を2個有する二官能モノマーと、一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する高級多官能モノマーとの併用がより好ましい。一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する高級多官能モノマーを用いることにより、硬化性及び密着性にさらに優れるインク組成物を得ることができる。また、二官能モノマーと高級多官能モノマーとを併用することにより、低粘度と硬化性及び密着性とをさらに高いレベルで両立することができる。二官能モノマーと高級多官能モノマーとを併用する場合、二官能モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、高級多官能モノマーとしては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0026】
インク組成物中の重合性化合物の含有量は、組成物全体に対して、20〜90質量%が好ましく、70〜88質量%がより好ましい。上記重合性化合物の含有量の範囲であれば、低粘度を維持しつつ、高い硬化性及び密着性を有するインク組成物を得ることができる。また、単官能モノマーの含有量は、組成物全体に対して、10〜20質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。単官能モノマーの含有量が10質量%以上であれば、さらに低粘度のインク組成物を得ることができる。一方、単官能モノマーの含有量が20質量%以下であれば、高反応性の多官能モノマーを多く含有させることができるため、硬化性及び密着性をさらに向上することができる。多官能モノマーの含有量は、組成物全体に対して、10〜75質量%が好ましく、58〜75質量%がより好ましい。多官能モノマーの含有量が10質量%以上であれば、高反応性の多官能モノマーを多く含有するため、硬化性及び密着性を向上することができる。一方、多官能モノマーの含有量が75質量%以下であれば、保存安定性の低下を抑えることができる。多官能モノマーとして、一分子中にエチレン性二重結合を2個有する二官能モノマーと一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する高級多官能モノマーとを併用する場合、多官能モノマーの総含有量は、20〜75質量%が好ましく、58〜70質量%がより好ましい。また、この場合、二官能モノマーの含有量は、組成物全体に対して、10〜60質量%が好ましく、19〜60質量%がより好ましく、高級多官能モノマーの含有量は、組成物全体に対して、10〜50質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。本実施の形態の重合性化合物は、単官能モノマーと多官能モノマーとのみからなるため、上記のように高級多官能モノマーを多量に含有しても低粘度のインク組成物を得ることができる。さらに、重合性化合物中の単官能モノマーと多官能モノマーとの割合は、単官能モノマーの含有量と多官能モノマーの含有量との質量比(多官能モノマー/単官能モノマー)で3〜8が好ましい。上記質量比の範囲であれば、粘度、硬化性及び密着性を最適化することができる。
【0027】
本実施の形態において、インク組成物は、低エネルギーで重合を開始させるために、光重合開始剤としてα−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有する。
【0028】
α−アミノアルキルフェノン系化合物としては、具体的には、例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メトキシチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−2−オンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なα−アミノアルキルフェノン系化合物としては、チバ社製のIrgacure 369、Irgacure 907などが挙げられる。インク組成物中のα−アミノアルキルフェノン系化合物の含有量は、組成物全体に対して、2〜20質量%が好ましい。
【0029】
チオキサントン系化合物としては、具体的には、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン,2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なチオキサントン系化合物としては、日本化薬社製のKAYACURE DETX−S、ダブルボンドケミカル社製のChivacure ITXなどが挙げられる。インク組成物中のチオキサントン系化合物の含有量は、組成物全体に対して、0.1〜10質量%が好ましい。また、光重合開始剤の全量中、α−アミノアルキルフェノン系化合物を40〜99質量%、チオキサントン系化合物を1〜60質量%含有することが好ましい。α−アミノアルキルフェノン系化合物と、チオキサントン系化合物とを上記範囲で含有する光重合開始剤を用いれば、さらに硬化性及び密着性に優れたインク組成物を得ることができる。
【0030】
インク組成物は、上記のα−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物以外に、アリールアルキルケトン、オキシムケトン、アシルホスフィンオキサイド、アシルホスホナート、チオ安息香酸S−フェニル、チタノセン、芳香族ケトン、ベンジル、キノン誘導体、ケトクマリン類などの従来公知の光重合開始剤をさらに含有してもよい。これらの光重合開始剤としては、具体的には、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1,2−オクタンジオン−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。インク組成物中のこれら光重合開始剤の量は、組成物全体に対して、0.5〜10質量%が好ましい。
【0031】
本実施の形態において、インク組成物は、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有する。上記重合性化合物とともに、表面調整剤として上記シリコーン系化合物を使用すればインク組成物の表面張力などの液物性をインクジェット記録方式に適した範囲に調整することができる。
【0032】
上記シリコーン系化合物としては、具体的には、例えば、ビックケミー社製のBYK−300、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−310、BYK−315、BYK−320、BYK−322、BYK−323、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−344、BYK−370、BYK−375、BYK−377、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−UV3570、デグサ社製のTego−Rad2100、Tego−Rad2200N、Tego−Rad2250、Tego−Rad2300、Tego−Rad2500、Tego−Rad2600、Tego−Rad2700、共栄社化学社製のグラノール100、グラノール115、グラノール400、グラノール410、グラノール435、グラノール440、グラノール450、B−1484、ポリフローATF−2、KL−600、UCR−L72、UCR−L93などが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。これらの中でも、ビックケミー社製のBYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−UV3570、デグサ社製のTego−Rad2100、Tego−Rad2200N、Tego−Rad2250、Tego−Rad2300、Tego−Rad2500、Tego−Rad2600、Tego−Rad2700、共栄社化学社製のUCR−L72、UCR−L93が好ましい。これらは、分子内にエチレン性二重結合を有するポリジメチルシロキサン構造を含んでいるため、さらに密着性を向上できる。
【0033】
インク組成物中の上記シリコーン系化合物の含有量は、組成物全体に対して、2.5質量%以下が好ましく、0.1〜2.5質量%以下がより好ましい。シリコーン系化合物の含有量が2.5質量%より多いと、該シリコーン系化合物の未溶解物が生じたり、泡立ちを引き起こすことがある。
【0034】
インク組成物は、上記のシリコーン系化合物以外に、従来公知の表面調整剤を含有してもよい。このような表面調整剤としては、具体的には、例えば、花王社製のエマルゲンなどが挙げられる。
【0035】
本実施の形態において、インク組成物は、着色材として、従来公知の各種染料を使用してもよいが、耐候性の観点より、無機顔料、有機顔料のいずれかまたは両方を使用することが好ましい。
【0036】
無機顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが挙げられる。
【0037】
有機顔料としては、具体的には、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系の有機顔料などが挙げられる。また、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子なども有機顔料として用いてもよい。
【0038】
シアン色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4のいずれかまたは両方が好ましい。
【0039】
マゼンタ色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。これらの中でも、耐候性、着色力などの点から、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0040】
イエロー色を有する顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213、C.I.ピグメントイエロー214などが挙げられる。これらの中でも、耐候性などの点から、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー213、及びC.I.ピグメントイエロー214からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0041】
ブラック色を有する顔料としては、具体的には、例えば、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF;キャボット社製のモナーク、リーガル;デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス;東海カーボン社製のトーカブラック;コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、及びデグサ・ヒュルス社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
インク組成物中の着色材の含有量は、組成物全体に対して、1〜10質量%が好ましく、2〜7重量%がより好ましく、3〜6質量%が最も好ましい。着色材の含有量が少な過ぎると、画像の着色力が低下する傾向がある。一方、着色材の含有量が多過ぎると、インク組成物の粘度が上昇し、流動性が損なわれやすい。
【0043】
着色材として顔料が用いられる場合、顔料の分散性を向上させるため、顔料誘導体や顔料分散剤をさらに使用してもよい。顔料誘導体としては、具体的には、例えば、ジアルキルアミノアルキル基を有する顔料誘導体、ジアルキルアミノアルキルスルホン酸アミド基を有する顔料誘導体などが挙げられる。顔料分散剤としては、具体的には、例えば、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物などが挙げられる。これらの中でも、分散安定性の点から、カチオン性基またはアニオン性基を含む高分子化合物が好ましい。市場で入手可能な顔料分散剤としては、ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKAなどが挙げられる。インク組成物中の顔料誘導体及び顔料分散剤の含有量はそれぞれ、組成物全体に対して、0.05〜5質量%が好ましい。
【0044】
本実施の形態のインク組成物は、ゲル化防止剤として2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物をさらに含有することが好ましい。高反応性の重合性化合物及び光重合開始剤とともに、上記ヒンダードアミン系化合物をゲル化防止剤として使用すれば、インク組成物の反応性を低下させることなく、保存安定性に優れたインク組成物を得ることができる。上記ゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。これらの中でも、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケートが好ましい。市場で入手可能なゲル化防止剤としては、チバ社製のIRGASTAB UV−10、TINUVIN 123などが挙げられる。
【0045】
インク組成物中の上記ゲル化防止剤の含有量は、組成物全体に対して、0.01〜3質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。ゲル化防止剤の含有量が0.01質量%未満では、保存時に発生するラジカルを十分に捕捉することができず、保存安定性が低下する傾向がある。一方、ゲル化防止剤の含有量が3質量%より多い場合、ラジカルを捕捉する効果が飽和するとともに、エネルギー線照射時の重合反応が阻害される傾向がある。
【0046】
インク組成物は、ゲル化防止剤として、他のヒンダードアミン系化合物や、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ハイドロキノンモノアルキルエーテルなどをさらに含有してもよい。このようなゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、t−ブチルカテコール、ピロガロール、チバ社製のTINUVIN 111 FDL、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN XP40、TINUVIN XP60、TINUVIN 400などが挙げられる。インク組成物中のこれらゲル化防止剤の含有量は、組成物全体に対して、0.1〜4質量%が好ましい。
【0047】
本実施の形態のインク組成物には、さらに必要により、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料などの公知の一般的な添加剤を、任意成分として配合してもよい。
【0048】
インク組成物の調製方法としては、従来から公知の調製方法を使用できるが、着色材として顔料を用いる場合、以下の調製方法が好ましい。
【0049】
まず、着色材と、重合性化合物の一部と、必要により顔料分散剤とをプレミックスした混合液を調製し、この混合液を分散機により分散させて、一次分散体を調製する。分散機としては、具体的には、例えば、ディスパ;ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル;サンドミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミルなどが挙げられる。
【0050】
次に、一次分散体に、残りの重合性化合物と、光重合開始剤と、表面調整剤と、必要によりゲル化防止剤などの他の添加剤とを添加し、撹拌機を用いて均一に混合する。撹拌機としては、具体的には、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパ、ホモジナイザーなどが挙げられる。また、ラインミキサーなどの混合機を用いて、インク組成物を混合してもよい。さらに、インク組成物中の粒子をより微細化する目的でビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いて、インク組成物を混合してもよい。
【0051】
着色材として顔料を使用する場合、インク組成物中の顔料粒子の分散平均粒子径は20〜200nmが好ましく、50〜160nmがより好ましい。分散平均粒子径が20nm未満では粒子が細かいために印刷物の耐候性が低下する傾向がある。一方、分散平均粒子径が200nmを超えると印刷物の精細さが低下する傾向がある。
【0052】
本実施の形態によれば、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマー、及び150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーのみから重合性化合物が構成されるため、25℃において4〜35mPa・sの低粘度のインク組成物を調製することができる。また、上記重合性化合物と、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物とを含有するため、20〜40mN/mの表面張力を有するインクジェット記録方式に適したインク組成物を調製することができる。このため、本実施の形態のインク組成物は、ノズル抜け、サテライト、飛行曲がり、霧状状態のインク吐出などの現象が生じ難く、連続吐出性に優れている。
【0053】
また、本実施の形態のインク組成物は、希釈溶剤で希釈する必要がなく、加温しなくても、低粘度であり、さらに着色材が顔料である場合の顔料分散性も良好で、保存中や使用中に粘度が上昇したり、顔料が沈降するなどの支障をきたさない良好な分散安定性を有している。このため、インクジェット記録方式において、インクを加温することなく、室温で安定な吐出が得られる
【0054】
インクジェット記録方式としては、特に限定されるものではないが、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えてインクに照射する放射圧を利用した音響インクジェット記録方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット記録方式などが挙げられる。なお、上記インクジェット記録方式には、フォトインクと呼ばれる低濃度のインクを微小体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、無色透明のインクを用いる方式などが含まれる。
【0055】
本実施の形態において、照射手段としては、水銀灯やメタルハライドランプなどの紫外線照射手段が挙げられる。本実施の形態のインク組成物であれば、紫外線の積算光量として、200mJ/cm以下の低エネルギーを利用することもできる。エネルギー線は、記録媒体上にインク組成物を吐出した後、1〜1,000ms経過するまでの間にインク組成物に照射するのが好ましい。経過時間が1ms未満の場合、ヘッドと光源との距離が短かすぎて、ヘッドへエネルギー線が照射されて不測の事態を招く虞がある。一方、経過時間が1,000msを超えると、多色が利用される場合のインク滲みにより画質が劣化する傾向がある。
以下、実施例に基づきさらに具体的に本発明を説明するが。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下で、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0056】
各実施例及び比較例で用いたインク組成物の成分を以下の表1に示す。なお、表2〜6のインク組成の表示は、表1中の種類欄の括弧内の表示と同じ組成であることを示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[インク組成物の調製]
100ccのプラスチック製ビンに、着色材、顔料分散剤、及び単官能モノマーを表2〜6に示す配合量で計り取り、これにジルコニアビーズ100部を加えて、ペイントコンディショナー(東洋精機社製)により2時間分散して、一次分散体を得た。次に、得られた一次分散体に、表2〜6に示す配合量で残りの成分を加え、マグネチックスターラーにより混合物を30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、混合物を吸引ろ過し、インク組成物を調製した。なお、比較例15では、単官能モノマーの代わりに1,6ヘキサンジオールジアクリレートを用いて一次分散体を作製した以外は、上記と同様にしてインク組成物を調製した。
【0059】
【表2】




【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
[評価]
以上のようにして調製した実施例及び比較例の各インク組成物について、下記の粘度、分散平均粒子径、表面張力、及び保存安定性を測定した。
【0065】
〔粘度〕
R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーンの回転数20rpmの条件下で、粘度を測定した。
【0066】
〔分散平均粒子径〕
粒度分布測定装置FPER−1000(大塚電子社製)を用いて、顔料粒子の分散平均粒子径を測定した。
【0067】
〔表面張力〕
全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−V(協和科学社製)を用いて、25℃における表面張力を測定した。
【0068】
〔保存安定性〕
インク組成物を温度70℃の条件下で7日間保管し、このときの粘度変化を調べ、下記の基準で評価した。
○:10%未満の粘度変化
×:10%以上の粘度変化
【0069】
次に、実施例及び比較例の各インク組成物について、下記の吐出性試験を行い、連続吐出性を評価した。
【0070】
〔連続吐出性〕
ピエゾ型インクジェットノズル(ノズル数:318)を備えたインクジェット記録装置を用いて、インクを60分間連続吐出させる吐出性試験Iと、インクを20分間連続吐出させた後、インクの吐出を10分間スタンバイさせるサイクルを10サイクル繰り返す吐出性試験IIを行った。そして、各試験を行った際のノズル抜け、サテライト、飛行曲がり、及び霧状状態のインクの有無が生じる頻度を下記基準で評価した。なお、このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、及びピエゾヘッドを備えている。また、液滴サイズ約6pl、解像度1200×1200dpiでインクを射出できるよう、駆動周波数28KHzでインクジェット記録装置を駆動した。
(ノズル抜け)
○:1〜5のノズルで生じる
△:6〜19のノズルで生じる
×:20以上のノズルで生じる
(サテライト)
○:1〜5のノズルで生じる
△:6〜19のノズルで生じる
×:20以上のノズルで生じる
(飛行曲がり)
○:1〜5のノズルで生じる
△:6〜19のノズルで生じる
×:20以上のノズルで生じる
(霧状状態のインク)
○:1〜5のノズルで生じる
△:6〜19のノズルで生じる
×:20以上のノズルで生じる
【0071】
次に、実施例及び比較例の各インク組成物を用いて印刷した印字膜について、下記の硬化性、及び密着性を評価した。
【0072】
〔硬化性〕
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルム上に、インク組成物をバーコータにより印刷して、厚さ2μm(バーコータ:#3)と、厚さ15μm(バーコータ:#12)の印字膜をそれぞれ形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cmとなるように紫外線を照射して、硬化させた。
このように硬化させた印字膜を指及び爪で触り、指及び爪へのインク付着の有無を目視で調べ、下記の基準で評価した。
○:指及び爪にインクが付着せず、爪で擦っても印字膜表面に傷がつかない
△:指にインクが付着しないが、爪で擦ると印字膜表面に傷がつく
×:指にインクが付着する
【0073】
〔密着性〕
ポリ塩化ビニル(PVC)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)からなる各フィルム上に、インク組成物をバーコータにより印刷して、厚さ2μm(バーコータ:#3)、厚さ15μm(バーコータ:#12)の印字膜をそれぞれ形成した。この印字膜に、照射手段としてメタルハライドランプを用い、トータル照射光量が200mJ/cmとなるように、紫外線を照射して硬化させた。
このように硬化させた印字膜を、JIS−K−5400に準じて、セロテープ(登録商標)による剥離状態を確認する碁盤目試験(1mm角,100個)を実施した。100個中の剥離数を調べ、下記の基準で評価した。
○:碁盤目試験にて剥離数が10個以下
△:碁盤目試験にて剥離数が11〜20個
×:碁盤目試験にて剥離数が21個以上
表7〜11は上記の評価結果を示す。
【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
【表11】

【0079】
上記表に示すように、重合性化合物として300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマー、及び150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーを、光重合開始剤としてα−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を、表面調整剤としてポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有する実施例のインク組成物は、15.2〜32.4mPa・sの粘度と、23.2〜31.0mN/mの表面張力を有しており、低粘度で、インクジェット記録方式に適した表面張力を有していることが分かる。このため、実施例のインク組成物は、ノズル抜け、サテライト、飛行曲がり、霧状状態のインク吐出などの発生が殆ど見られず、連続吐出性に優れている。特に、エチレン性二重結合を3個以上有する高級多官能モノマーを10質量%以上、さらには30〜50質量%含有するインク組成物でも、低粘度で、連続吐出性に問題のないことが分かる。また、実施例のインク組成物は、低エネルギーの照射により硬化させても、薄膜、厚膜いずれにおいても、硬化性及び密着性に優れていることが分かる。さらに、ゲル化防止剤として2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物を含有する実施例のインク組成物は、優れた保存安定性を有することが分かる。
【0080】
これに対して、重合性化合物としてオリゴマーを含有するインク組成物は、高粘度となり、連続吐出性に劣るとともに、硬化性及び密着性も不十分であることが分かる(比較例2及び3)。また、重合性化合物として単官能モノマーのみを含有するインク組成物は、反応性が低下するため、硬化性、密着性が劣ることが分かる(比較例14)。さらに、重合性化合物として多官能モノマーのみを含有するインク組成物は、高粘度となり、連続吐出性に劣ることが分かる(比較例15)。また、重合性化合物として単官能モノマーと多官能モノマーとを併用しても、高いアクリル当量を有する多官能モノマーを含有するインク組成物は、硬化性及び密着性が低下し、高いアクリル当量を有する単官能モノマーを含有するインク組成物は、高粘度となり、連続吐出性に劣るとともに、硬化性及び密着性も劣ることが分かる(比較例1及び比較例16)。そして、アクリル当量の低い単官能モノマーと多官能モノマーを重合性化合物して含有しても、光重合性開始剤として、α−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有しないかあるいはいずれか一方のみを含有するインク組成物は、硬化性及び密着性が不十分となることが分かる(比較例8〜11及び13)。さらに、表面調整剤として、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有しないインク組成物は、表面張力が高くなり、連続吐出性に劣ることが分かる(比較例3〜7及び12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材、重合性化合物、光重合開始剤、及び表面調整剤を含有するエネルギー線硬化型インク組成物であって、
前記重合性化合物は、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーとのみからなり、
前記光重合開始剤は、α−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有し、
前記表面調整剤は、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有するエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項2】
前記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有する請求項1に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項3】
前記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとを含有する請求項1に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項4】
前記単官能モノマーとして、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びドデシル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記多官能モノマーとして、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項5】
前記シリコーン系化合物は、分子内にエチレン性二重結合を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項6】
ゲル化防止剤として、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物をさらに含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項7】
4〜35mPa・s(25℃)の粘度を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項8】
200mJ/cm以下の積算光量で硬化する請求項1〜7のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項9】
着色材、重合性化合物、光重合開始剤、及び表面調整剤を含有するエネルギー線硬化型インク組成物であって、
前記重合性化合物は、300以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能モノマーとのみからなり、
前記光重合開始剤は、α−アミノアルキルフェノン系化合物及びチオキサントン系化合物を含有し、
前記表面調整剤は、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を含有し、
前記インク組成物の全量中、前記単官能モノマーを10〜20質量%、前記多官能モノマーを10〜75質量%、前記α−アミノアルキルフェノン系化合物を2〜20質量%、前記チオキサントン系化合物を0.1〜10質量%、及び前記シリコーン系化合物を2.5質量%以下含有し、
前記単官能モノマーの含有量と前記多官能モノマーの含有量との質量比(多官能モノマー/単官能モノマー)が3〜8であるエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項10】
前記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーを含有し、
前記インク組成物の全量中、前記150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーの含有量が10〜50質量%である請求項9に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項11】
前記重合性化合物は、前記多官能モノマーとして、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーと、150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーとを含有し、
前記インク組成物の全量中、前記150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーの含有量が10〜60質量%、前記150以下のアクリル当量を有し、且つ一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する多官能モノマーの含有量が10〜50質量%であり、これら多官能モノマーの総含有量が20〜75質量%である請求項9に記載のエネルギー線硬化型インク組成物。

【公開番号】特開2009−275175(P2009−275175A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129814(P2008−129814)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【特許番号】特許第4335955号(P4335955)
【特許公報発行日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】