説明

エプリバンセリンヘミフマラートの調製方法

エプリバンセリンヘミフマラートの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式:
【0002】
【化1】

のエプリバンセリン(1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシム)ヘミフマラートを調製する新規方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エプリバンセリンは、C=N二重結合のZまたはE立体配置に従って2種の異性体の形態で存在し得、C=C二重結合はE立体配置のものである。エプリバンセリンは、この合成の間、オキシム官能基のC=N二重結合の2種の異性体(ZおよびE)の混合物の形態で得られる。この混合物を以下「エプリバンセリンベース」と称する。エプリバンセリンのZ異性体が殊に有利であるので、2種の異性体を効率的に分離することが必要である。従って、所望のエプリバンセリン異性体の単離および結晶化を可能にする新規調製方法が特に求められている。
【0004】
技術水準から公知のオキシムを異性化させる方法には、一般に、強酸もしくはルイス酸タイプの触媒(例えば、文献WO98/32758、WO03/033488またはEP0435687を参照のこと)または光照射(文献WO2006/067092)が要求される。驚くべきことに、本発明による調製方法には、このような付加的なものが要求されない。
【0005】
エプリバンセリンおよびこの塩、ならびにこれらの調製方法は、文献EP0373998に記載されている。しかしながら、記載の方法では、2種のZおよびE異性体を十分に分離することはできない。即ち、反応終了時におけるこのE異性体の核生成(新たな結晶の形成)を回避しても、0.5%未満の望ましくないE異性体が得られる。さらに、この方法は、工業規模に十分に転換することができない。本発明により、このような欠点を克服することができる一方、さらに収率が顕著に改善される。
【0006】
エプリバンセリンヘミフマラートは、特に文献EP0373998に記載されており、セロトニン5HT2A受容体アンタゴニストであることが公知である(Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics(1992),vol.262(2),pp.759−68)。エプリバンセリンヘミフマラートは、睡眠障害の治療において特に有用である(Neuropsychopharmacology(1999),vol.21(3),pp.455−466、および文献WO2007/020337)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第98/32758号
【特許文献2】国際公開第03/033488号
【特許文献3】欧州特許第0435687号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/067092号
【特許文献5】欧州特許第0373998号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/020337号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics(1992),vol.262(2),pp.759−68
【非特許文献2】Neuropsychopharmacology(1999),vol.21(3),pp.455−466
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による合成方法は、以下の段階:
i)エプリバンセリンベースをフマル酸の存在下で加熱し、および次いで冷却する段階、
ii)播種する段階、
iii)静止期を介して温度を低下させる段階、
iv)濾過し、および洗浄する段階
により、エプリバンセリンベースを、沸点が100℃超の極性溶媒、または沸点が100℃超の極性溶媒の混合物の存在下でフマル酸の作用により異性化させ、および結晶化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
文献EP0373998と比較すると、この新規な方法により、Z異性体をE異性体から効率的に単離することができる一方、核生成によるE異性体の再形成が防止され、最終生成物を単離する段階も減り、これにより時間が顕著に節約される。理論収率の倍化(50%ではなく100%)も観察され、本方法は大規模工業生産に適合する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
エプリバンセリンベースを、酸、例えば、フマル酸の存在下で、沸点が100℃超の極性溶媒、例えば、イソブタノール(2−ブタノール)、n−ブタノールもしくはn−ペンタノール中で、または沸点が100℃超の極性溶媒の混合物中で異性化させ、結晶化させる。このような混合物の例として、特に、イソブタノール/DMF(ジメチルホルムアミド)混合物を挙げることができる。一実施形態によれば、溶媒はイソブタノールである。
【0012】
極性溶媒(または極性溶媒の混合物)の沸点が100℃超であることにより、結晶化の間の異性化が可能になり、従って、本方法の動力学に必要な至適条件を開発することができる。
【0013】
混合物を、好ましくは、100℃超で加熱し、異性化平衡において結晶化を開始することができるようにし、次いで、静止期を介して濾過温度に冷却する。例えば、溶媒がイソブタノールである場合、混合物を105℃に加熱し、この温度により異性化平衡が達せられることを確保し、次いで100℃に冷却する。
【0014】
播種は、所望形態の結晶を、エプリバンセリンベースを含む結晶化媒体中に導入することを意味するものと解される。好ましくは、播種は、例えば、文献EP0373998に従って調製された(1Z,2E)−1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートを使用して実施する。
【0015】
極性溶媒は、高い双極子モーメントを有する溶媒、例えば、水、アセトン、アンモニア、アルコール、DMSOまたはDMFを意味するものと解される。極性溶媒の中では、2種のカテゴリーが区別される:水素結合を生じさせることができるプロトン性溶媒(例えば、水またはアルコール)、および不安定なプロトンの不存在下で水素結合を形成することができない非プロトン性溶媒(例えば、DMFまたはDMSO)。
【0016】
温度静止期は、温度を経時的に徐々に低下させることを意味するものと解され、一対(T,t)を特徴とし、Tは、静止期の温度を表し、tは、静止期の持続時間を表す。2つの静止期の間で、温度を、好ましくは1時間当たり5℃低下させ、最終温度が70±5℃未満にならないようにすることが不可欠である。静止期の持続時間tは、好ましくは、30分から6時間の間であり、特に、4時間から6時間の間である。
【0017】
濾過および洗浄は、当業者に公知の任意の方法により実施することができる。
【0018】
特に好ましい、上記方法に従って得られる生成物は、99.5%超の(Z,E)異性体の割合を含む1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートである。
【0019】
特に好ましい、上記方法に従って得られる生成物は、0.5%未満の(E,E)異性体の割合を含む1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートである。
【0020】
得られたエプリバンセリン塩は、続いて、例えば、結晶化の段階により、または当業者に公知の任意の他の方法により精製することができる。
【0021】
以下の段階:
【0022】
【化2】

a)アセトンオキシムを、塩基および溶媒の存在下で(2−クロロエチル)ジメチルアミンと縮合させてジメチルアミノアセトキシムを形成させる段階;
b)4−ヒドロキシベンズアルデヒドを、溶媒中で2−フルオロアセトフェノンと縮合させて2−フルオロヒドロキシカルコンを形成させる段階;
c)段階b)において得られた2−フルオロヒドロキシカルコンを、溶媒中で、段階a)において得られたジメチルアミノアセトキシムと縮合させてエプリバンセリンベースを形成させる段階;
d)エプリバンセリンベースを溶媒から結晶化させる段階
により、エプリバンセリンベースを得ることができる。
【0023】
段階d)において使用される溶媒は、トルエンである。
【0024】
段階c)において得られるエプリバンセリンベースは、溶媒、例えば、n−ブタノールの存在下で2−フルオロヒドロキシカルコンおよびジメチルアミノアセトキシムから得る。
【0025】
2−フルオロヒドロキシカルコンは、エタノール性塩酸溶液、ペンタノール性塩酸溶液、イソプロパノール性塩酸溶液またはn−ブタノール性塩酸溶液から選択される溶媒中で、30℃未満の温度において4−ヒドロキシベンズアルデヒドおよび2−フルオロアセトフェノンから得る。一つの実施形態によれば、溶媒は、エタノール性塩酸溶液である。
【0026】
ジメチルアミノアセトキシムは、塩基、例えば、NaOHまたはKOH、および極性溶媒、例えば、THF(テトラヒドロフラン)の存在下で、アセトンオキシムおよび(2−クロロエチル)ジメチルアミンから得る。一つの実施形態によれば、塩基はKOHである。ジメチルアセトキシムは、シュウ酸塩の形態で単離し、またはTHF/MTBE(メチルtert−ブチルエーテル)混合物中の溶液中に塩基形態で保持することができる。
【実施例1】
【0027】
エプリバンセリンヘミフマラートの合成
80kgの2−フルオロアセトフェノンおよび67kgの4−ヒドロキシベンズアルデヒドを、エタノール中で溶解させる。エタノール性塩酸溶液(少なくとも64kg)を混合物に添加し、次いで媒体を30℃未満の温度において5時間15分の間撹拌する。媒体を冷却し、2−フルオロヒドロキシカルコンの結晶化を確認し、この生成物を濾別し、トルエンにより洗浄し、次いで真空下で60℃未満の温度において乾燥させる。
【0028】
2−フルオロアセトフェノンから出発する化学収率:75±15%。
【0029】
(2−クロロエチル)ジメチルアミン(CDMA)の水溶液(246kgの65w/w%溶液)を、アセトンオキシム(162kg)および水酸化カリウム(160kg)のTHF(600l)中混合物に添加する。反応媒体を少なくとも5時間還流させる。続いて、媒体を水、NaCl水溶液および水酸化ナトリウム水溶液により希釈し、次いでMTBEにより抽出する。有機相をNaClおよび水酸化ナトリウム溶液により洗浄して、MTBE溶液においてジメチルアミノアセトキシム(DMAアセトキシム)を得、2−フルオロヒドロキシカルコンとのカップリングの段階においてこのまま使用する。
【0030】
上記の通り調製された、ジメチルアミノアセトキシム溶液(105kgのジメチルアミノアセトキシム、100%塩基)を、シュウ酸(100kg)の1−ブタノール(600l)中溶液に添加する。THFおよびMTBEを1−ブタノールにより除去し、得られたシュウ酸塩を2−フルオロヒドロキシカルコン(90kg)と、水性HCl(202kg)の存在下で反応させる。混合物を少なくとも6時間、102℃にし、アセトンを、これが形成されたら留去し、1−ブタノールと置き換える。反応終了時、1−ブタノールを蒸留により水と置き換える。得られた水相をMTBEにより洗浄し、濃縮水酸化アンモニウムを添加することにより中性pHに戻し、次いで炭酸ナトリウム溶液を添加することによりpH9から9.5にする。次いで、得られた固体を濾別し、水により洗浄し、乾燥させる。続いて、粗製エプリバンセリンベース混合物をトルエン(1580l)中で約95℃において溶解させる。溶液を高温条件下で、活性炭を含浸させたフィルター媒体に通して濾過し、次いで溶液を冷却し、エプリバンセリンベースの結晶化を可能にし、このエプリバンセリンベースを濾別し、真空下で70℃未満の温度において乾燥させる。
【0031】
2−フルオロヒドロキシカルコンから出発する化学収率:80±15%。
【0032】
ZおよびE異性体の混合物(エプリバンセリンベース)(107kg)ならびにフマル酸(19kg)をイソブタノール(約1700l)中で溶解させ、混合物を溶解が完了するまで還流させる。媒体を約30分間還流下に保持する。続いて、媒体を約−10℃/時間の冷却勾配により100℃に冷却する。約2%の(1Z,2E)−1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートを溶液中に導入する。等温条件を1/2時間保ってから、懸濁液を−5℃/時間の冷却勾配により約90℃に冷却する。6時間の90℃における静止期を保ってから、懸濁液を−5℃/時間の冷却勾配により85℃に再度冷却する。6時間の85℃の静止期を保ってから、−5℃/時間の冷却勾配により82.5℃に冷却する。4時間の82.5℃の温度における静止期を維持してから、−5℃/時間の冷却勾配により80℃に冷却する。温度を80℃において4時間維持してから、−2.5℃/時間の冷却勾配により70℃に冷却する。温度を70℃において等温条件下で約30分間維持してから、懸濁液を濾過する。得られた粉末を約170lのエタノールにより洗浄し、次いで約45℃において真空下で乾燥させる。こうして、0.5%未満の(E,E)異性体を含む(1Z,2E)−1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートの粉末を約96kg、即ち、約77%の収率で得る。
【0033】
比較可能な手法において、極性溶媒として、例えば、n−ブタノールまたはn−ペンタノールを、極性溶媒の混合物として、またはイソブタノール/DMF(95/5)混合物を使用することにより同様の結果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エプリバンセリンヘミフマラートを調製する方法であって、以下の段階:
i)エプリバンセリンベースをフマル酸の存在下で加熱し、および次いで冷却する段階、
ii)播種する段階、
iii)静止期を介して温度を低下させる段階、
iv)濾過し、および洗浄する段階
により、エプリバンセリンベースを、沸点が100℃超の極性溶媒、または沸点が100℃超の極性溶媒の混合物の存在下でフマル酸の作用により異性化させ、および結晶化させることを特徴とする方法。
【請求項2】
極性溶媒がイソブタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
極性溶媒がn−ブタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
極性溶媒がn−ペンタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
極性溶媒の混合物がイソブタノール/DMF混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
得られる生成物が、(1Z,2E)−1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
段階i)において、混合物を105℃に加熱し、および次いで100℃に冷却することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
段階ii)において、播種を、(1Z,2E)−1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラートを用いて実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
段階iii)において、2つの静止期の間の温度を、1時間当たり5℃だけ低下させ、70℃に下げることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
段階iii)において、静止期の持続時間が30分から6時間の間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
段階iii)において、静止期の持続時間が4時間から6時間の間であることを特徴とする、請求項1または7に記載の方法。
【請求項12】
以下の段階:
【化1】

a)アセトンオキシムを、塩基および溶媒の存在下で(2−クロロエチル)ジメチルアミンと縮合させてジメチルアミノアセトキシムを形成させる段階;
b)4−ヒドロキシベンズアルデヒドを、溶媒中で2−フルオロアセトフェノンと縮合させて2−フルオロヒドロキシカルコンを形成させる段階;
c)段階b)において得られた2−フルオロヒドロキシカルコンを、溶媒中で、段階a)において得られたジメチルアミノアセトキシムと縮合させてエプリバンセリンベースを形成させる段階;
d)エプリバンセリンベースを溶媒から結晶化させる段階
により、エプリバンセリンベースを得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
段階a)において、塩基がKOHであり、および極性溶媒がTHFであることを特徴とする、請求項9に記載の合成方法。
【請求項14】
段階b)において、溶媒がエタノール性塩酸溶液であることを特徴とする、請求項9に記載の合成方法。
【請求項15】
段階c)において、溶媒がn−ブタノールであることを特徴とする、請求項9に記載の合成方法。
【請求項16】
段階d)において、溶媒がトルエンであることを特徴とする、請求項9に記載の合成方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法に従って得られ、および99.5%超の(Z,E)異性体の割合を含む1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラート。
【請求項18】
請求項1に記載の方法に従って得られ、および0.5%未満の(E,E)異性体の割合を含む1−(2−フルオロフェニル)−3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパ−2−エン−1−オンO−[2−(ジメチルアミノ)エチル]オキシムヘミフマラート。

【公表番号】特表2012−508783(P2012−508783A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543796(P2011−543796)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052160
【国際公開番号】WO2010/055255
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】