説明

エポキシケトン類を製造する方法

【課題】副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有するエポキシケトン類を選択率良く製造し得る方法を提供することにある。
【解決手段】アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、前記アニオン交換性化合物として、ボタラッカイト構造を有する化合物、ハイドロタルサイト様化合物、又は、アニオン交換樹脂のすくなくともいずれかを用いることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシケトン類を製造する方法に関し、より詳細には、過酸化水素と共役エノン類を用いてエポキシケトン類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシケトン類は、分子内にエポキシドとカルボニル部位を有する化合物であり、各種用途に利用されている。エポキシケトン類は、香料配合剤、医農薬中間体として重要である。特に、位置選択的なエポキシド開環による物質変換は工業的にも利用価値が高い。
【0003】
一般にエポキシケトン類の合成は、無触媒では反応速度が極めて遅く、副反応も多い。このため、エポキシケトン類は、触媒を使用して製造するのが一般的である。
【0004】
例えば、エポキシケトン類の例として、2,3−ポキシ−1−シクロヘキサノンの製法としては、従来からアルカリ金属塩と大量の過酸化水素を用いて合成する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、反応生成物であるエポキシケトン類内に触媒が残存すると、製品(エポキシケトン類)に悪影響を及ぼす場合がある。よって、エポキシケトン類の生成後には、触媒を取り除くことが好ましい。
【0006】
また、反応基質の量論量以上の過酸化水素を用いた反応では、反応終了後に過酸化水素を除去する必要があるため、過酸化水素利用効率の高い触媒反応系が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有するエポキシケトン類を選択率良く製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上記課題を解決する本発明の一手段に係るエポキシケトン類を製造する方法は、アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、アニオン交換性化合物として、ボタラッカイト構造を有する化合物を用いる。
【0009】
また、本発明の他の一手段に係るエポキシケトン類を製造する方法は、アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、アニオン交換性化合物として、ハイドロタルサイト様化合物を用いる。
【0010】
また、本発明の他の一手段に係るエポキシケトン類を製造する方法は、アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、アニオン交換性化合物として、アニオン交換樹脂を用いる。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によれば、過酸化水素とエノン類を反応させて対応するエポキシケトン類を製造するに当たり、アニオン交換性層状化合物を触媒として用いることで、反応活性を高めると共に、副生物の生成を抑えて、目的の構造を有するエポキシケトン類を収率良く製造することができる。
【0012】
本発明はアニオン交換性層状化合物を触媒とすることで、反応活性を高めて高取率で上記エポキシケトン類を製造できる。
【0013】
また、目的化合物(エポキシケトン類)と触媒を容易に分離することができ、繰り返し使用することができる。触媒を容易に分離できるため、反応後の触媒の中和工程を必要としない。また、過剰な過酸化水素の添加を行う必要がないため、副生物の生成が少なく、目的とする構造のエポキシケトン類の生成選択率が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施形態)
以下、本実施形態に係るエポキシケトン類を製造する方法について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るエポキシケトン類を製造する方法は、アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、エノン類を反応させる。
【0016】
本実施形態において使用される原料エノン類は、α,β−不飽和ケトン類を意味する。α,β−不飽和ケトン類の例としては、限定されるわけではないが、アシルスチレン誘導体や2−シクロアルケン1−オンを挙げることができ、より具体的な例としては、2−シクロペンテン−1−オン、3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン、2-シクロヘキセン−1−オン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、ナフトキノン、4−ヘキセン−3−オン、カルコン、2−メチル−2−ペンテン−4−オン、3−ノネン−2−オン、ベンザルアセトン、イソホロン、2−メチル−5−イソプロペニル−2−シクロへキセノン等を例示することができるがこれに限定されない。なお、本実施形態において原料エノン類は固体、液体のいずれであっても良く、形態(荷姿)、純度についても特に制限はない。
【0017】
本実施形態において触媒として用いるアニオン交換性化合物は、アニオン交換能を有する化合物であって、(A)ボッタラカイト構造を有する化合物、(B)ハイドロタルサイト様化合物、及び(C)アニオン交換樹脂、の少なくともいずれかを用いる。
【0018】
本実施形態において(A)ボッタラカイト構造を有する化合物とは、複数の層を有し、かつこれらの層間にアニオンを含有しており、このアニオンの出入りによってアニオン交換を行い得るボッタラカイト構造を有する化合物をいう。
【0019】
ボタラッカイト構造を有する化合物の例としては、Hydroxy Double Salts(以下「HDSs」)を挙げることができ、その一般式はM2+1−xII2+1+x(OH)3(1−y)/zz−(1+3y)・nHOで表される。HDSsはM2+(OH)ブルサイト層を形成するM2+が一部欠損しており、その上下にMII2+が水酸化物層と正四面体型を形成し、その電荷を補償するためにYz−が強制的にMII2+近傍に存在している。
【0020】
なおここでM2+はNi、Co又はZnであり、MII2+はCu又はZnである。また、Yは単価又は多価のアニオンであり、Cl、Br、I、NO3−、OAc、HOCO、SO2−、CO2−、PO3−等を例示することができる。
【0021】
また特に、上記一般式で示される化合物のうち、Ni−Zn複塩基性塩(以下「NiZn−OAc」という。)は、M2+=Ni、MII2+=Zn2+、Y=AcOであり、組成式はNi1−xZn2x(OH)(OAc)2x・nH2O(0.15<x<0.25)であることが好ましい。
【0022】
上記のアニオン交換型Ni−Zn複塩基性塩は、様々なアニオンを層間に挿入するため、インターカレーション法により調製したものである。インターカレーション法は、イオン選択性の序列を考慮する必要のない非常に簡便な方法で、多くのアニオンに適用可能であり、上記酢酸アニオン型Ni−Zn複塩基性塩の酢酸アニオンを高変換率で他のアニオンに置き換え得る。ここで、インターカレーションとは、層状化合物において、様々な原子、分子あるいはイオンが、層状結晶の層間の弱い結合を破って、該層間に挿入される反応を意味する。
【0023】
「炭酸イオン以外のアニオン」としては、種々の無機アニオンや有機アニオンが挙げられる。無機アニオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンアニオン: 硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、塩素酸アニオン、過塩素酸アニオン、ケイ酸アニオン、クロム酸アニオン、タングステン酸アニオンなどの無機酸のアニオン; フェリシアンアニオン、フェロシアンアニオンなどの複合アニオン: などが例示できる。有機アニオンとしては、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、コハク酸アニオン、グルタル酸アニオン、アジピン酸アニオン、安息香酸アニオン、テレフタル酸アニオンなどの単価または多価カルボン酸アニオン: メタンスルホン酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、p-トルエンスルホン酸アニオンなどのスルホン酸アニオン; フェノキシアニオンなどが挙げられる。中でも、塩素イオン、硫酸アニオン、酢酸アニオン、コハク酸アニオン、グルタル酸アニオン、アジピン酸アニオン、テレフタル酸アニオン、フェノキシアニオンが好ましく、フェノキシアニオンが特に好ましい。最も好ましくは、上記芳香族エーテル類の合成に用いるフェノール類と同じ種類のフェノール類由来のフェノキシアニオンである。
【0024】
層状アニオン交換性粘土には、例えば、天然の、ボタラッカイト型化合物が挙げられる。
【0025】
ボタラッカイト(botallackite)構造を有するアニオン交換性層状化合物とは、銅系の塩化物およびそのイオン交換誘導体を意味する。「Encyclopedia of Minerals(VAN NOS TRAND REINHOLD COMPANY)」の82頁では、基本構造「CuCl(OH)」を「Bbotallackite」と分類しているが、本実施形態におけるボタラッカイトは、基本構造「CuCl(OH)」及びそのイオン交換誘導体であり、「A(OH)(X)・nHO」で表されるものを意味している。ここで、AはCuイオンなどの2価金属イオンであり、同一種の2価金属イオンでもよく、異種の2価金属イオンであってもよい。2価金属イオンとは、例えば、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Caなどの各イオンが挙げられるが、これらの2価金属イオンのみに限定されない。また、1価や3価などの金属イオンも、ボタラッカイト構造を保持し得る限りにおいて、Aに置換し得る。ボタラッカイト型化合物は、「A(OH)(X)」で示される複数の層を有し、これらの層間に水(上記「A(OH)(X)・nHO」におけるnHO)を含有している。
【0026】
Xは、金属に直接配位し、基本構造におけるClに相当する部位である。このXは、各種アニオンに交換可能である。本実施形態に係るボタラッカィト構造を有する化合物の初期のアニオン種は特に制限されない。例えば、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン(フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなど)、有機酸のアニオン(カルボン酸アニオン、フェノキシアニオン類など)、又は無横座のアニオンなどが挙げられる。無機酸のアニオンとしては、硫酸アニオン、亜硫酸アニオン、亜硫酸水素アニオン、亜リン酸アニオン、ホウ酸アニオン、シアン化物アニオン、炭酸アニオン、チォシアン酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、リン酸水素アニオン、ポリオキシメタレートアニオン(たとえばモリブデン酸アニオン、タングステン酸アニオン、リンタングステン酸アニオン、メタバナジン酸アニオン、ピロバナジン酸アニオン、水素ピロバナジン酸アニオン、ニオブ酸アニオン、タンタル酸アニオンなど)などが含まれる。上記例示のアニオン種の中でも、各種有機酸のアニオン、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオンが好ましい。これらの他、過塩素酸イオン(Cl4−)、Mn4−などのオキシアニオン、イソポリイオン、ヘテロポリイオン(A.F.Wells,Structural Inorganic Chemistry,5th Ed,Clarendon Press, Oxford,1984,pp.510−530)、SCN、酢酸アニオンや、RCOO、[R:CH(CH)n、n=0以上22以下の整数]で表されるモノカルボン酸アニオン、R(COO、 R(COO)2、[R:(CH)n、n=0以上22以下の整数]で表されるジカルボン酸アニオン、Si208−などのケイ酸アニオンなども含まれる。
【0027】
また、基本構造に示したCu2+は2価の金属イオンと交換可能で、Zn2+/Ni2+など10の合成例が報告されており、(Material Research Society of Symposium Proceedings,Vol.371,131−142,1994)、これらは本実施形態に係るボタラッカイト型化合物に含まれる。
【0028】
ボタラッカイト型化合物におけるアニオン種は、銅などの金属イオンに直接配位しており交換性を有するため、構造を維持したまま種々のアニオンと交換が可能であるが、触媒能を示す旨の報告例はこれまでに無い。
【0029】
ボタラッカイト型化合物は、このように結晶構造を維持したままで(すなわち、構造の均一性が保たれたままで)イオン交換可能であるため、高選択性触媒となり得る。また、合成の際に金属酢酸塩(アニオンが酢酸イオンのボタラッカイト型化合物)を用いることができるために、合成条件の融通が利くといったメリットがある。金属酢酸塩を合成に使用した場合には、反応容器の腐食の虞が少ない。また、酢酸アニオンが層間アニオンとして層状構造を形成し易いために、ボタラッカイト型化合物を高い収率で得ることができる。さらに、酢酸アニオンは他のアニオンとの交換が容易であるという特徴もある。
【0030】
本実施形態において(B)ハイドロタルサイト様化合物とは、複数のブルサイト層を有し、これらの層間にアニオンを含有しており、このアニオンの出入りによってアニオン交換を行い得る化合物をいう。ハイドロタルサイト様化合物の例としては、例えば、天然の又は合成されたハイドロタルサイトや、天然の又は合成されたハイドロタルサイト様化合物(炭酸アニオンを有するハイドロタルサイト様化合物)に、特定の手法を用いて炭酸アニオンを他のアニオンに交換した化合物を挙げることができる。
【0031】
ハイドロタルサイト様化合物のブルサイト層は、複水酸化物から構成される層であり、具体的には、ブルサイト[Mg(OH)]と同様に、2価の金属イオンを中心とする八面体が二次元的に連なって層を構成し、さらに上記2価の金属イオンの一部が3価の金属イオンで置き換えられており、これら複数のブルサイト層の層間のアニオンは、電荷保障のために存在している。
【0032】
なおハイドロタルサイト様化合物は、下記一般式(1)で表される。
【数1】

【0033】
上記一般式(1)において、[MII1−aIII(OH)]が上記ブルサイト層を構成しており、複数のブルサイト層の間に、アニオン(および水分子) [Xm−a/m・nHO]が存在している。なおこれらのアニオンは交換可能である。
【0034】
上記一般式(1)で示される化合物のうち、M=Mg、MIII=Al、X=COで、a=1/4、m=2、n=1/2であるのがハイドロタルサイトであり、これ以外がハイドロタルサイト様化合物である。天然物としては、このハイドロタルサイトの他、パイロオーロ石(Pyroaurite、MII=Mg、MIII=Fe、X=COで、a=1/4、m=2、n=1/2)などが知られている。
【0035】
このような層状化合物の詳細は、「Anion Clays:Trends in Pillaring Chemistry」(“Expanded Clays and Other Microporous Solids”,Vol.2,New York,1992年,p.108−169)に開示されている。
【0036】
本実施形態において(C)アニオン交換樹脂とは、官能基にカチオンを有し、アニオンと静電引力で相互作用して、このアニオンの出入りによってアニオン交換を行い得るイオン交換樹脂をいう。
【0037】
イオン交換樹脂の化学構造は、三次元的に重縮合した高分子母体にイオン交換性の交換基を化学結合した高分子電解質である。交換基が第4級アンモニウムの場合、強塩基性アニオン交換樹脂と呼ばれ、第1級アミン、第2級アミン又は第3級アミンの場合、弱塩基性アニオン交換樹脂と呼ばれる。
【0038】
本実施形態において、過酸化水素とエノン類を反応させる際、溶媒を用いて用いなくても良い。溶媒を用いる場合には、水溶媒、有機溶媒又はこれらの混合溶媒を使用できる。
【0039】
また本実施形態において使用できる水以外の溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの炭素1以上6以下のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等の炭素数3以上6以下のグリコールエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの炭素数2以上6以下のエーテル類等を挙げることができる。また、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エチレングリコール等のグリコール類、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレンカーボネート等を用いることもできる。
【0040】
本実施形態における反応形態は特に限定されず、例えば上記反応をバッチ方式で実施してもよく、連続方式で実施しても構わない。連続方式の場合は触媒を反応答内に懸濁させることもでき、触媒を固定床として反応原料を通過させることで反応を進行させることもできる。また、本実施形態に係る方法では、原料は反応中に均一に混合していることが好ましいが、反応できる状態にある限り2相に分離していても構わない。
【0041】
上記反応の実施に際しては、原料仕込み量、触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は特に制限されず、目的とするエポキシケトン類の構造に応じてこれらの条件を適宜選択すればよい。
【0042】
例えば、エノン類として2−シクロアルケン−1−オンを用いて、対応するエポキシケトン類を製造する場合には、以下の条件を採用することが望ましい。原料仕込み量は、反応させるべきエノン類の量に対し、過酸化水素の量を、モル比で0.1以上5.0以下とすることが好ましく、経済性の観点からは、1.0以上2.0以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは1.0以上1.2以下である。
【0043】
触媒量、溶媒量、反応時間および反応温度は、目的とするエポキシケトン類の構造によらず、以下の範囲内から選択することが推奨される。
【0044】
触媒量は、触媒を含む反応液全体積に対して、1体積%以上70体積%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは5体積%以上30体積%以下である。
【0045】
溶媒量は、原料であるエノン類に対し、質量比で0以上50以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0以上25以下である。
【0046】
また反応温度は30℃以上80℃以下とすることが好ましく、30℃以上60℃以下とすることがより好ましい。反応時間は、生産性を考慮すると1時間以上24時間以内とすることが好ましく、1時間以上12時間以下とすることがより好ましい。
【0047】
本実施形態により得られるエポキシケトン類は、エポキシドのα位にカルボニル基を持つ構造を有している。また本実施形態に係る方法により製造されるエポキシケトン類は、純度が高いため、上記反応後そのまま製品とすることもできるが、必要に応じて上記反応後にエポキシケトン類のみを蒸留、抽出、晶析などの一般的な方法で分離して製品とすることも好ましい。また、原料であるエノン類のみを蒸留、抽出、晶析などの方法で分離してもよい。この他、触媒を用いて原料であるエノン類を転化させて系内をエノン類が実質的に非存在な状態とし、エノン類が転化した後の生成物を上述の如き一般的な方法で分離しても構わない。
【0048】
蒸留法としては、減圧蒸留、水蒸気蒸留、分子蒸留、抽出蒸留などが挙げられるが、これらに限定される訳でない。また、晶析法としては、(1)反応終了後の反応液を冷却する、(2)目的物に対する貧溶媒を、反応液に加える、(3)反応旅中の溶媒を留去する、(4)反応液に徐々に加圧する等の方法があり、これらを単独で、または組み合わせて実施できる。
【0049】
この中でも、過酸化水素とエノン類との反応工程で溶媒を使用し、該反応工程後の晶析工程で使用する溶媒を、該反応工程で使用した溶媒と共通のものとすることが好ましい。この場合には、溶媒の損失や溶媒回収にかかる費用が少なく、目的化合物を経済的に有利に得ることができる。ここでいう「共通のものとする」とは、反応工程で得られた反応液に異なる種類の溶媒を加えないことを意味する。例えば、反応工程で得られた反応液を、実質的にそのまま品析工程に供することや、該反応液に反応工程で使用したものと同一種の溶媒を加えて、これを晶析工程に供することが該当する。この場合、反応工程で用いる溶媒の全部または一部が晶析工程に係る晶析溶液に含まれていればよい。
【0050】
さらに、晶析工程は1つまたは複数の晶析段階で構成することができる。晶析工程中は大気開放状態ではなく、不活性ガスでシールされた状態とすることが好ましい。大気開放状態であると、晶析母液に酸素が吸収され、色相を悪化させ、高品質の製品を得ることが困難となる。晶析生成物を分離した晶析母液は、原料エノン類の効率的利用の観点から、必要に応じて反応工程に循環される。この場合、原料母液には、晶析工程で得られた品析母液の少なくとも一部を用いることができる。通常、複数段の晶析工程と晶析生成物の固液分離工程が採用され、これに応じて複数種の母液(エノン類の溶液)が得られるが、本発明法では、これらの任意の段階での母液を反応工程、あるいは晶析工程の原料母液として用いることができる。なお、これらの工程では、上述の如く、反応工程と晶析工程の溶媒を共通のものとすることが、より一層効率的である。
【0051】
上述した通り、製造された上記エポキシケトン類は、用途に応じて使用上問題が無ければ、その範囲において、上記反応終了後、未反応の原料やその他の不純物を含有したままの状態で製品として使用できる。
【0052】
なお、本実施形態に係る方法では、触媒にアニオン交換性層状化合物を用いるため、上記反応終了後の粗製物、および精製物には、不純物である金属やハロゲンの含有量が少なく、実質的に金属やハロゲンを含まない製品も製造可能である。具体的には、金属および/またはハロゲンの含有量が50ppm以下(質量基準、以下同じ)、より好ましくは10ppm以下のものが得られる。
【0053】
また、本実施形態では、触媒にアニオン交換性層状化合物を用いるため、不純物の含有量が少なく、効率よく目的化合物を製造できる。さらに、触媒の分離が容易であるため、生成物の精製を効率的に実施することができる。未反応エノン類の量は、エポキシケトン類に対して500ppm以下(質量基準、以下同じ)、好ましくは100ppm以下、より好ましくは30ppm以下とすることができる。また、上記エポキシケトン類では、不純物の割合は、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下とすることが可能である。
【0054】
このようにして得られる上記エポキシケトン類は、用途に応じて単独で、または他の成分と混合して使用し得る。形状や状態についても特に限定されず、固体(例えば、粉体、フレーク、穀粒など)、スラリー、溶液(例えば、有機溶媒溶液)などの形態で取り扱うことができる。
【実施例】
【0055】
以下、実際に化合物を作成し、本発明の効果を確認した。ただし、下記実施例の記載にのみ本発明が制限されるものではないことはいうまでもない。
【0056】
(実施例1)
まずα,β−不飽和ケトン類である2−シクロヘキセン−1−オンと過酸化水素の反応を行った。2−シクロヘキセン−1−オン0.048gと、30%過酸化水素水0.224mLと、溶媒としてのジメチルホルムアミド2mLと、触媒としてのNiZn−OAc0.05gを、50mLの耐熱ガラス製シュレンク管に投入した。続いて、20cmの玉入り冷却管を設置し、振とうしながら60℃のオイルバス中で加熱した。そして3時間反応させた後、反応液と触媒とを濾過により分離し、反応液に二酸化マンガンを加え、未反応の過酸化水素を処理した。
【0057】
上記反応液の分析を、ガスクロマトグラフィー分析(以下「GC分析」という。)により行った。本実施例におけるGC分析において、装置は島津製作所製「GC−8A」を用い、そのカラムにはGLサイエンス社製「Thermon3000(φ5mm×3m)」、またそのキャリアとしては窒素を用いた。温度条件は、サンプル注入後100℃から240℃まで毎分10℃の速度で昇温し、その後240℃で保持するというパターンで行った。測定試料の転化率および反応選択率は、得られたGCチャートに示される対応ピークのエリア比から、下記式に従って算出した。
【数2】

【0058】
上記GC分析の結果、原料の2−シクロヘキセン−1−オンは98%転化し、反応選択率は、対応するエポキシケトンが99.9%であった。この結果、副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有するエポキシケトン類を選択率良く製造し得る方法となっていることが確認できた。
【0059】
(実施例2)
触媒としてリン酸アニオン(PO3−)を層間にインターカレーションしたNiZn−POを用い、実施例1と同様にして2−シクロヘキセン−1−オンと過酸化水素の反応を行い、反応液を得た。得られた反応液に対しGC分析を行なった結果、原料の2−シクロヘキセン−1−オンは45%転化し、反応選択率は対応するエポキシケトン98%であった。本実施例においても副生物の生成を抑えつつ、目的の構造を有するエポキシケトン類を選択率良く製造し得る方法となっていることが確認できた。
【0060】
(比較例1)
触媒を使用しない以外は実施例1と同様にして2−シクロヘキセン−1−オンと過酸化水素の反応を行い、反応液を得た。得られた反応液に対しGC分析を行なったところ、原料の2−シクロヘキセン−1−オンの転化率は1%未満に過ぎなかった。
【0061】
<触媒A及びBの合成例>
酢酸ニッケル・4水和物32.8gと、酢酸亜鉛・2水和物14.5gを200mLのメスフラスコに入れ、標線まで脱イオン水を加えた。この溶液について、オートクレーブ中で、200℃で24時間水熱合成を行った。その後溶液を濾過し、脱イオン水で洗浄後、真空乾燥して触媒Aを得た。触媒Aは、[Ni4/3Zn2/3(OH)(CHCOO)・nHO]で表され、該式中の酢酸イオン(CHCOO)が交換可能なアニオンである。
【0062】
100mLの三角2口フラスコに0.2MのKPO水溶液50mLを加え、触媒A(2.0g)を加えた。得られた反応混合物を35℃で24時間撹件した。その後、脱気水を使って洗浄・濾過し、真空乾燥して触媒Bを得た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、エポキシケトン類を製造する方法として産業上の利用可能性があり、結果として得られるエポキシケトン類は、香料配合剤、医農薬中間体としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、前記アニオン交換性化合物として、ボタラッカイト構造を有する化合物を用いるエポキシケトン類を製造する方法。
【請求項2】
アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、前記アニオン交換性化合物として、ハイドロタルサイト様化合物を用いるエポキシケトン類を製造する方法。
【請求項3】
アニオン交換性化合物を触媒として用い、酸化剤の存在下、共役エノン類を反応させてエポキシケトン類を製造する方法であって、前記アニオン交換性化合物として、アニオン交換樹脂を用いるエポキシケトン類を製造する方法。


【公開番号】特開2010−13426(P2010−13426A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177440(P2008−177440)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】