説明

エポキシ基末端(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】エステル交換反応を効率的に行い、エポキシ基末端(メタ)アクリレートを高収率かつ実用に耐え得る純度で得ることが出来る製造方法を提供する。
【解決手段】金属アルコラートの存在下、生成する低級アルコールを反応系外へ除去しながら、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルと下記一般式(1)で表されるエーテルとのエステル交換反応を行って下記一般式(2)で表される化合物を得る。


(上記一般式(1)及び(2)中、Yは炭素数2〜8の飽和炭化水素基を表す。上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ基末端(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−グリシジルオキシブチルアクリレート(以下「4HBAGE」と省略する)や、グリシジルメタクリレート等に代表されるエポキシ基末端(メタ)アクリレートは、塗料、樹脂などの改良のための原料として有用な化合物である(特許文献1及び2)。中でも4HBAGEは、架橋後にも可とう性が失われず、塗膜として優れた性質を発現するため、非常に有用な化合物である。
【0003】
ところで、下記一般式(2)で表されるエポキシ基末端(メタ)アクリレートの一般的な製造方法としては、エステル交換反応触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルと下記一般式(1)で表されるアルカンジオールモノグリシジルエーテルとをエステル交換反応させる方法がある(特許文献3)。
【0004】
【化1】

(上記一般式(1)及び(2)中、Yは炭素数2〜8の飽和炭化水素基を表す。上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0005】
エステル交換反応触媒としては、一般的にはチタンアルコラート等に代表される金属アルコラートの他、有機スズ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の弱酸塩(例えば炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩)等が知られている。
【0006】
エステル交換反応終了後は、使用した触媒を除去し、蒸留精製により、蒸留物として高純度のエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得るのが一般的である。エステル交換反応触媒の金属アルコラートの除去方法としては、例えば、水を加えて室温で攪拌して触媒を分解し、その後、分解やろ過により除去する方法が知られている(特許文献4)。
【0007】
ところで、エポキシ基末端(メタ)アクリレートは蒸留時の加熱などにより重合し易く、エステル交換反応触媒の金属アルコラートの加水分解および/または除去が不十分な場合には、金属アルコラート又はそれに由来する金属成分が系内に残存し、エポキシ基末端(メタ)アクリレートの重合を促進する。
【0008】
従って、蒸留精製を行うことなくエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得る方法が好ましいが、エステル交換反応時の反応が不十分であったり、洗浄や抽出による分離精製工程が不十分な場合には、蒸留精製を経なければ、品質的に実用に耐え得るエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得ることが出来ない。
【0009】
【特許文献1】特公昭48−22169号公報
【特許文献2】特許第3645037号
【特許文献3】特開平8−99968号公報
【特許文献4】特開2005−247810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、エステル交換反応を効率的に行い、更にエステル交換触媒として使用した金属アルコラートを充分に加水分解することにより確実に除去し、そして、必要に応じ、抽出洗浄などによって原料や不純物を取り除くことにより、重合およびロスの可能性がある蒸留を行うことなく、目的とするエポキシ基末端(メタ)アクリレートを高収率かつ実用に耐え得る純度で得ることが出来る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、金属アルコラートの存在下、生成する低級アルコールを反応系外へ除去しながら、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルと下記一般式(1)で表されるアルカンジオールモノグリシジルエーテルとのエステル交換反応を行って下記一般式(2)で表されるエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得た後、水を添加して30℃以上に加熱し、次いで、金属アルコラート由来の加水分解物を除去した後に溶剤を留去することを特徴とする、エポキシ基末端(メタ)アクリレートの製造方法に存する。
【0012】
【化2】

(上記一般式(1)及び(2)中、Yは炭素数2〜8の飽和炭化水素基を表す。上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重合およびロスの可能性がある蒸留を行うことなく、目的とするエポキシ基末端(メタ)アクリレートを高収率かつ実用に耐え得る純度で得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明におけるエポキシ基末端(メタ)アクリレートの製造方法は、金属アルコラートの存在下、生成する低級アルコールを溶剤との共沸などを利用して反応系外へ除去しながら、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとアルカンジオールモノグリシジルエーテルとをエステル交換反応させることにより行う。
【0016】
エステル交換反応を適切に進行させる観点から、反応系内の水分の総量のモル比率は、金属アルコラートに対する割合として、通常5倍以下、好ましくは3倍以下、更に好ましくは1.5倍以下である。
【0017】
反応系内の水分を低減する方法としては、例えば、原料の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルや、生成する低級アルコールとの共沸に使用する溶剤を過剰に使用し、金属アルコラートを加える前に蒸留することにより、予め反応系内の水分を系外に除去する方法が挙げられる。また、脱水剤との処理により水分の総量を低減する方法なども挙げられる。通常、水分の測定にはカールフィッシャー水分計が使用される。
【0018】
原料として使用する(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルにおいて、低級アルキルとは、通常、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を言う。(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル等が挙げられ、これらの中では(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。使用する(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの種類に応じ、対応する構造の低級アルコールがエステル交換反応により生成する。
【0019】
(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの使用割合は、使用するアルカンジオールモノグリシジルエーテルに対し、通常1〜10倍モル、好ましくは1.1〜5倍モルである。エステル交換反応は、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとアルカンジオールモノグリシジルエーテルとの等モル反応であるため、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの使用割合が上記の範囲未満の場合は、エステル交換反応が完結せず、収率が低下する恐れがある。また、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルの使用割合が上記の範囲を超える場合は、それによる効果がなく、実用的でない。
【0020】
原料として使用する前記一般式(1)で表されるアルカンジオールモノグリシジルエーテルは、公知の製造方法、例えば、前記の特許文献3に記載されている製造方法で得ることが出来る。一般的には、アルカリ化合物を使用し、アルカンジオールとエピハロヒドリンとを直接脱ハロゲン付加反応させて得る。
【0021】
前記一般式(1)において、中間基のYは、炭素数2〜8の飽和炭化水素基であればよく、その一部または全部に、例えばシクロヘキサン環に代表されるような脂環式構造を有していてもよい。アルカンジオールモノグリシジルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールモノグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールモノグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、1,8−オクタンジオールモノグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0022】
ステル交換反応触媒の金属アルコラートとしては、例えば、チタンアルコラート、ジルコニウムアルコラート、アルミニウムアルコラート、アンチモンアルコラート等が挙げられる。アルコラートを構成するアルコールとしては、通常、低級アルコール類が使用され、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等が挙げられる。これらの中では、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド(以下「TBT」と省略する)等のチタンアルコラートが好ましく、特にTBTが好ましい。
【0023】
金属アルコラートの使用割合は、アルカンジオールモノグリシジルエーテルに対し、通常0.001〜0.1倍モル、好ましくは0.005〜0.05倍モルである。金属アルコラートの使用割合が上記の範囲より少ない場合は、エステル交換反応の進行が遅くなったり反応が完結せず、上記の範囲より多い場合は、使用量に対する向上効果は期待できず、却って触媒の除去などの操作が困難となる恐れがある。
【0024】
エステル交換反応時においては、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する目的で、重合防止剤を使用するのが好ましい。重合防止剤としては、フェノチアジンやp−フェニレンジアミン等の芳香族アミン;2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)や4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(HTEMPO)等のN−オキシルアミン;ヒドロキノンやp−メトキシフェノール等のフェノール誘導体;ニトロソ化合物;芳香族ニトロソ化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅や酢酸銅などの銅系化合物;ステアリン酸鉛などの鉛系化合物が挙げられる。これらの重合防止剤は2種類以上を併用してもよい。なお、重合防止剤の種類によっては、反応系内に酸素を導入することで、より高い重合防止効果を得られるものがある。この場合、反応系内が爆発範囲内に入らないように、不活性ガスで希釈された状態の酸素ガスを反応系内に導入するのが好ましく、反応液中に吹き込むようにして導入するのがより好ましい。
【0025】
重合防止剤の使用割合は、アルカンジオールモノグリシジルエーテル100重量部に対し、通常0.01〜1重量部、好ましくは0.1〜0.3重量部である。
【0026】
エステル交換反応は平衡反応であるために、高収率でエステル交換反応を行うためには、反応で生成する低級アルコールを溶剤との共沸などを利用して系外に除去しながら行う。使用する溶剤は、生成する低級アルコールと共沸するものであって、その共沸温度が(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルと低級アルコールとの共沸温度より低いものが好ましく、原料の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル及びアルカンジオールモノグリシジルエーテルと反応しないものの中から選ばれる。斯かる溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;テトラヒドロフランやジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤などが挙げられる。また、原料の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルを過剰に使用し、溶剤として利用することも出来る。なお、溶剤と低級アルコールが共沸しない条件で反応を行うことも出来るが、この場合は、共沸する場合に比し、低級アルコールの除去効率が低下する。従って、共沸条件で反応を行うのが好ましい。これらの中では、(メタ)アクリル酸メチルとn−ヘキサンの組み合わせが好ましい。
【0027】
また、上記の溶剤は、反応溶媒を兼ねて使用することも出来る。反応溶媒の使用により、反応液の温度や濃度を制御し、液相での重合や副反応を抑制することが出来る。特に非水溶性の反応溶媒の場合には、後処理で有機層と水層を分離する際に分離を促進し抽出溶剤として働く等の効果も期待できる。反応溶媒を使用する場合、沸点の低い共沸溶剤を多量に使用すると反応系の温度が低下し易いために、共沸に充分な量の共沸溶剤と、それより高沸点の反応溶媒を複数組み合わせて使用するのが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メチルとn−ヘキサンの組み合わせ(メタノールとn−ヘキサンの共沸系)に対し、更に反応溶媒としてトルエンを使用する方法などが挙げられる。
【0028】
溶剤の使用割合は、生成する低級アルコールの種類や、溶剤と共沸した場合の共沸組成の比率により変化するため、一概には言えないが、エステル交換反応を収率良く行うためには、生成する低級アルコールの全量(反応率100%の場合の理論計算量に基づく)を共沸により除去できる量の溶剤が必要であり、その理論計算量に対する重量比として、通常1倍〜10倍、好ましくは1.1倍〜5倍である。溶剤の使用割合が上記の範囲より少ない場合は、低級アルコールの除去が不十分となり、反応が完結しない恐れがあり、上記の範囲を超える場合は、それによる効果がなく、実用的でない。
【0029】
なお、溶剤の不足により共沸による低級アルコールの除去が不十分となった場合には、後から溶剤を追加することも可能であるが、追加分の溶剤中に含まれる水分の総量を考慮する必要があるので注意を要する。あるいは、エステル交換反応中に反応が終了するまでの間、共沸状態を維持できる量の溶剤を反応系内に逐次投入する方法も可能であるが、反応系内に逐次投入される溶剤の積算量に含まれる水分を全て考慮する必要があるので注意を要する。反応溶媒を兼ねて溶剤を使用する場合には、共沸に使用する分とは別に反応溶媒分としての溶媒が必要であるが、その量は、使用するアルカンジオールモノグリシジルエーテルに対しする容量比として、通常0.5〜20倍、好ましくは1〜5倍である。反応溶媒の使用割合が上記の範囲より少ない場合は反応溶媒としての効果が余り期待できず、上記の範囲より多い場合、それによる効果がないばかりか、却って、希釈されることにより反応速度が低下したり、水分の総量に対する濃度が低下する分、水分の制御が難しくなる恐れがある。
【0030】
エステル交換反応の反応温度は、使用する(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルや溶剤の種類にもよるが、通常50〜130℃、好ましくは60〜120℃であり、反応時間は、通常1〜24時間、好ましくは3〜12時間である。反応温度が低い場合にはエステル交換反応の進行が遅くなり、逆に反応温度が高すぎる場合には(メタ)アクリロイル基の重合の危険性が高くなる恐れがある。エステル交換反応は、共沸温度(共沸組成)を維持しつつ、可能な限り速やかに反応系外へ低級アルコールを除去することにより反応時間を短縮することが出来る。
【0031】
エステル交換反応終了後は、反応液に水を加えて触媒を失活させ、例えば、ろ過などの方法により不溶化した触媒を取り除く。金属アルコラートの失活が不十分である場合は、ろ過されなかった触媒由来の金属成分が残存したり、ろ過の際に目詰まりを引き起こしてろ過性を低下させる等の不具合が発生する恐れがある。触媒由来の金属成分が残存した場合は、以降の工程での加熱などの際に(メタ)アクリロイル基の重合や不均化反応を引き起こす危険性が高くなる。
【0032】
水の添加量は、触媒の分子量や使用量にもよるが、触媒1重量部に対し、通常10〜200重量部、好ましくは20〜50重量部である。水の使用割合が上記の範囲より少ない場合は、触媒の加水分解が不十分となったり、有機層と水層を分離する際の分離性が悪化する恐れがある。また、水の使用割合が上記の範囲より多い場合は、それによる効果はなく、却って、有機層と水層を分離する際にエポキシ基末端(メタ)アクリレートの水層へのロスが増加する。なお、ろ過により不溶化した触媒を取り除く場合には、ろ過性を改善し、あるいは目漏れ等により不溶化した触媒の混入を防止する目的で、例えば、珪藻土などのろ過助剤を使用するのが好ましい。
【0033】
金属アルコラートは水と容易に反応するため、通常は大過剰の水を加えただけでも加水分解を引き起こすが、前記の理由により触媒を充分に失活させることが好ましく、そのためには水を加えた後に反応液を加熱して加水分解するのが好ましい。加水分解の条件は、触媒の量にもよるが、加水分解温度は、通常30℃以上、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜80℃であり、加水分解時間は、通常5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、更に好ましくは15分〜6時間である。加水分解温度が低い場合や加水分解時間が短すぎる場合には、触媒の失活が不十分となる恐れがあり、また、低温では触媒を充分に失活させるためには長時間を要する。逆に、加水分解温度が高すぎる場合は、エポキシ基末端(メタ)アクリレート自身が加水分解して収率が低下する恐れがあるが、触媒の加水分解に要する時間は短くなる。
【0034】
加水分解終了後に、エポキシ基末端(メタ)アクリレートを含む有機層と水層を分離する。実際には触媒が不溶化分散した状態での有機層と水層の分離は困難なことが多いため、ろ過などにより不溶化した触媒を取り除いた後に有機層と水層を分離するのが好ましい。この際、有機層と水層の分離を促進するため、非水溶性の溶剤を使用してもよい。使用する溶剤は、エステル交換反応時の共沸溶剤と同じでも異なっていてもよいが、一般的にはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。これらの溶剤は、予め、エステル交換反応の段階から反応溶媒を兼ねて使用することも出来る。
【0035】
有機層と水層の分離を促進するために溶剤を使用する場合、その使用割合は、エポキシ基末端(メタ)アクリレートを含む有機層に対する容量比として、通常0.1〜10倍、好ましくは0.2〜5倍である。また、必要に応じ、水を加えて、水洗処理を行ってもよい。この水洗工程を加えることにより、一般式(1)に代表される親水性化合物を略完全に除去することが出来る。
【0036】
上記のエポキシ基末端(メタ)アクリレートを含む有機層を濃縮し、溶剤などの低沸点成分を蒸留により除去することにより、エポキシ基末端(メタ)アクリレート粗成物を蒸留残分として得ることが出来る。原料のアルカンジオールモノグリシジルエーテルの純度にもよるが、エステル交換反応時の水分を適切に管理し、高収率で反応が行われた場合、得られるエポキシ基末端(メタ)アクリレート粗成物の純度は通常95%以上であり、このまま目的とするエポキシ基末端(メタ)アクリレートとして各種用途の原料に供することが可能である。なお、濃縮の条件は溶剤の種類などにもよるが、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する観点からは、重合防止剤の存在下、エステル交換反応時の温度よりも低温で減圧濃縮を行うのが好ましい。
【0037】
濃縮時に使用する重合防止剤としては、エステル交換反応時に使用することが出来る重合防止剤群の中から選択することが出来、エステル交換反応時に使用した重合防止剤と同じでも異なっていてもよく、予めエステル交換反応の時点で濃縮時の(メタ)アクリロイル基の重合を防止するために充分な量と種類の重合防止剤を添加しておくことも出来る。また、重合防止剤は、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、重合防止剤の種類によっては、濃縮蒸留系内に酸素を導入することにより、より高い重合防止効果を得られるものがある。この場合、濃縮蒸留系内が爆発範囲内に入らないように、不活性ガスで希釈された状態の酸素ガスを反応系内に導入するのが好ましく、濃縮液中に吹き込むようにして導入するのがより好ましい。
【0038】
重合防止剤を使用する場合、その使用割合は、濃縮する有機層中に含まれるエポキシ基末端(メタ)アクリレート100重量部に対し、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。
【0039】
上記の方法により、金属アルコラート由来の金属成分含有量が通常5ppm以下のエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得ることが出来る。また、エポキシ基末端(メタ)アクリレートを蒸留による重合およびロスを回避し高収率で得ることが出来、品質も例えば塗膜として優れた性質を有する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1:
蒸留装置、温度計、攪拌装置を取り付けた500mlの四つ口フラスコに、1,4−ブタンジオールモノグリシジルエーテル100.0g(純度:98.3%、純度換算で0.67mol)、アクリル酸メチル87.6g、トルエン70.3g、n−ヘキサン128.4g、MEHQ0.03gを加えて原料混合液(合計386.3g)を調製した。この原料混合液の水分をカールフィッシャー水分計で測定したところ840ppmであった。従って、この原料混合液中に含まれる水分の総量は0.32g(0.018mol)となる。
【0042】
上記の原料混合液にTBT4.6g(0.014mol)を加え、常圧、攪拌下で加熱昇温したところ、反応液温度72℃付近から速やかにメタノール/n−ヘキサンの共沸還流が始まった。ガスの温度は50〜52℃であった。この共沸温度(共沸組成)を維持しながらメタノール/n−ヘキサンの共沸液を抜き出した。なお、反応終了が近くなる頃からはメタノールの生成量が少なくなり、共沸温度(共沸組成)の維持が難しくなるために、ガスの温度が64℃まで上昇したが、そのまま抜き出しを継続した。最終的に8時間でメタノール/n−ヘキサン混合留分128.8gを抜き出て、反応液温度92℃で反応を終了して冷却し、4HBAGE(49.4重量%)を含む反応液258.5gを得た。4HBAGEの定量収率は94.8%である。この反応系における水分の総量のモル比率は、使用したTBTの1.3倍である。
【0043】
上記の反応液に水135.7gを加え、常圧、攪拌下で60℃まで加熱昇温し、そのまま60℃で30分間、加熱加水分解を行った。この反応液を冷却し、セライトを敷いたろ過器を使用して吸引ろ過し、不溶性の触媒を除去した。ろ液を有機層と水層に分離し、4HBAGE(47.6重量%)を含む有機層255.5gを得た。4HBAGEの定量収率は90.4%である。
【0044】
上記の4HBAGEを含む有機層を、ロータリーエバポレーターを使用して減圧濃縮し、4HBAGE粗成物(純度97.7%)123.6gを得た。4HBAGEの純度換算定量収率は90.1%である。この4HBAGE粗成物は着色の殆ど見られない透明液体であり、また、触媒として使用したTBT由来のチタン含有率は検出限界(2ppm)以下であった。この4HBAGE粗成物は充分に各種用途の原料に供することが可能な品質である。
【0045】
比較例1:
実施例1と同様の反応を行い、同様の反応結果を得た。その後、この反応液に水135.7gを加え、攪拌下、室温(20℃)で30分間加水分解を行った。この反応液をセライトを敷いたろ過器を使用して吸引ろ過し、不溶性の触媒を除去した。ろ液を有機層と水層に分離し、4HBAGE(47.0重量%)を含む有機層251.9gを得た。4HBAGEの定量収率は88.5%である。
【0046】
上記の4HBAGEを含む有機層を、ロータリーエバポレーターを使用して減圧濃縮し、4HBAGE粗成物(純度97.2%)121.0gを得た。4HBAGEの純度換算定量収率は87.8%である。この回収4HBAGE中には触媒として使用したTBT由来のチタンが70ppm含まれていた。斯かるチタン高含有4HBAGEを使用すると耐候性に問題のある塗膜が生成することが予想されるばかりでなく、保存安定性にも悪影響がある。
【0047】
因に、実施例1及び比較例1で得られた各4HBAGEについて室温下に1年間の保存安定性試験を行った結果は、次の通りであった。すなわち、実施例1の4HBAGEの純度(97.7%)は全く変化せずに97.7%であったの対し、比較例1の4HBAGEの純度(97.2%)は94.6%に低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコラートの存在下、生成する低級アルコールを反応系外へ除去しながら、(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルと下記一般式(1)で表されるアルカンジオールモノグリシジルエーテルとのエステル交換反応を行って下記一般式(2)で表されるエポキシ基末端(メタ)アクリレートを得た後、水を添加して30℃以上に加熱し、次いで、金属アルコラート由来の加水分解物を除去した後に溶剤を留去することを特徴とする、エポキシ基末端(メタ)アクリレートの製造方法。
【化1】

(上記一般式(1)及び(2)中、Yは炭素数2〜8の飽和炭化水素基を表す。上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
金属アルコラートがチタンアルコラートである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
共沸により低級アルコールを反応系外へ除去する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
水を加えて加熱した後に水層を分離し、更にエポキシ基末端(メタ)アクリレートを含む有機層を抽出洗浄する請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
エポキシ基末端(メタ)アクリレートが、上記一般式(2)におけるYが炭素数4の直鎖のメチレン基であり、Rが水素原子である4-グリシジルオキシブチルアクリレートである、請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−91314(P2009−91314A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264764(P2007−264764)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】