説明

エポキシ樹脂組成物の貯蔵方法および貯蔵用容器

【課題】硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の特性を劣化させることなく長期間貯蔵することのできる貯蔵方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を容器中で貯蔵する貯蔵方法であって、窒化ホウ素を備えた支持体を前記容器内に有することを特徴とする貯蔵方法である。さらに、本発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の貯蔵用容器であって、窒化ホウ素を備えた支持体を有することを特徴とする貯蔵用容器にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物の貯蔵方法に関し、より詳細には、電動機や発電機に搭載される回転機に組み込まれるコイルなどを絶縁するために、含浸や注型により用いられるエポキシ樹脂組成物の貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車、フォークリフトなどの車両、航空機および各種の産業機械などに利用される電動機や発電機などの電気機器、または振動機などに搭載される回転機に用いられるコイルは、一般に、その絶縁性や電気特性、強度などの向上のために、コイルを絶縁樹脂に含浸し加熱硬化させる処理が施される。絶縁樹脂のなかでも、エポキシ樹脂は、優れた接着性を有し、硬化収縮が小さいことや、その硬化物が優れた電気的、機械的特性を有すること等の特徴から多用されている(例えば、特開2000−297204号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
そして、従来から、発電機などの回転機コイルの絶縁樹脂には、その硬化物の電気的、機械的特性に優れたエポキシ樹脂を酸無水物で硬化する樹脂系が一般に使用されている(例えば、特開2000−239356号公報(特許文献2)参照)。
【0004】
コイル含浸終了後の余剰な絶縁樹脂は、通常、貯蔵タンクに戻され繰り返し再利用されるが、酸無水物の加水分解反応によって生成する遊離酸とエポキシ樹脂との硬化反応やエポキシ樹脂中に存在する水酸基と硬化剤に含まれるアミンや酸無水物との硬化反応が進行するため、樹脂の粘度増加によってコイルに樹脂を十分に含浸できなくなり、長期の貯蔵や再利用が難しい(ポットライフが短い)という間題点があった。また、再利用を行わないようにし最低限の使用量だけをその都度配合混合するといった方法をとることも考えられるが、作業性の低下及び、使用不能になった樹脂を廃棄しなければならず、廃棄樹脂が増大するといった間題などを抱えている。
【特許文献1】特開2000−297204号公報
【特許文献2】特開2000−239356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の特性を劣化させることなく長期間貯蔵することのできる貯蔵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を容器中で貯蔵する貯蔵方法であって、窒化ホウ素を備えた支持体を前記容器内に有することを特徴とする貯蔵方法である。
【0007】
本発明においては、前記硬化剤が酸無水物系硬化剤であることが好ましい。また、複数の前記支持体が容器内のエポキシ樹脂組成物中に浸漬されていることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明は、エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の貯蔵用容器であって、窒化ホウ素を備えた支持体を有することを特徴とする貯蔵用容器にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の貯蔵方法および貯蔵用容器は、容器内に窒化ホウ素を備えた支持体を有することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化などの原因となる反応を防止できるため、貯蔵安定化効果があり、エポキシ樹脂組成物のポットライフを長く出来る。また、これにより、一度に多量のエポキシ樹脂組成物を配合混合して貯蔵することができるようになるため、回転電気のコイル等の絶縁処理を効率的に行うことができる。さらに、廃棄樹脂を低減出来るという優れた効果も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施の形態1)
図1は本発明の1例を示す。本実施の形態では、主剤であるエポキシ樹脂と硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物2を有した容器1内に、窒化ホウ素の粉末を収納した支持体3が備えられている。支持体3の壁面にはエポキシ樹脂組成物が支持体内部へ通過することが可能な穴を具備しており、容器1内のエポキシ樹脂は支持体3壁面の穴を通じて支持体3に収納された窒化ホウ素に接触することが可能である。支持体3には容器外部との固定部材として支持棒4を具備している。
【0011】
このような構成によれば、エポキシ樹脂と窒化ホウ素が接触することで、ポットライフが大幅に長期化する効果が発現する。これは、エポキシ樹脂に具備されたエポキシ基が開環した水酸基の酸素原子と窒化ホウ素のホウ素原子との酸塩基相互作用、または同水酸基の水素原子と窒化ホウ素の窒素原子間の水素結合により硬化反応の起点となり得る水酸基の活性を抑えることができることによる効果であると考えられる。
【0012】
一般にエポキシ樹脂中には微量の不純物成分としてエポキシ基が開環した二水酸基構造(図3)を有したエポキシ樹脂が存在し(特開昭60−79031号公報参照)、その部位は硬化剤に含まれるアミンや酸無水物と硬化反応を起こしやすいことが考えられる(垣内弘、“新エポキシ樹脂”、昭晃堂、1988年)。
【0013】
本発明の貯蔵方法の対象となるエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤とを含むものである。該エポキシ樹脂組成物は、さらに、この分野で使用されているスチレンなどの希釈剤や、硬化触媒、硬化促進剤を含むものであってもよい。
【0014】
(A)エポキシ樹脂は、1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含むものである。このようなエポキシ化合物としては、炭素原子2個と酸素原子1個とからなる三員環を1分子中に2個以上持ち、硬化し得る化合物であれば適宜に使用可能であり、その種類は特に限定されるものではない。具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、その他二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びそれらのハロゲン化物、水素添加物などが挙げられ、これらは何種類かを併用してもよい。
【0015】
(B)硬化剤は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と反応性を有す化合物であり、この分野で使用されているものはいずれも使用できるが、エポキシ樹脂組成物の目的に応じて酸無水物、アミン系、フェノール系の硬化剤を使用することが好ましい。高度な耐湿性や耐加水分解性が要求される場合にはフェノール系硬化剤が好ましく、また、低温硬化が必要な場合には室温で液状のアミン系硬化剤やカチオン重合触媒が好ましく、より低粘度が要求される場合には酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの中でも、特に、酸無水物系硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物に本発明の方法による貯蔵方法を適用すると、その貯蔵安定化効果が高いため、好ましい。
【0016】
酸無水物系硬化剤に用いられる酸無水物は、エポキシ樹脂と硬化反応が可能な酸無水物であれば特に制限はない。酸無水物の具体例としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、α−テルピネンやアロオシメン等のデカトリエンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応物及びそれらの水素添加物、更にこれら酸無水物の構造異性体若しくは幾何異性体をはじめ、これらの混合物や変性物が例示されるが、これらの中でも、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸が好ましい。
【0017】
酸無水物の配合量としては、分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂に起因するエポキシ基の合計当量1に対して、0.5〜1.5当量が望ましい。0.5当量未満では、熱硬化性樹脂組成物中の低粘度成分である酸無水物の割合が低下することにより粘度が高くなる。また硬化物の耐熱性、機械特性が低下する。1.5当量を越えた場合は、硬化物の耐熱性、機械特性が低下する。
【0018】
本発明に用いる窒化ホウ素5の形状としては、粉末を用いることが好ましく、その粒径はいずれのものも使用できる。また、窒化ホウ素の添加量は、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の合計100重量部に対して、0.01〜200重量部の範囲が好ましく、更に好ましくは50重量部未満である。50重量部以上では支持体に収納する窒化ホウ素の占有体積が増加するため、容器の樹脂許容量が減少し作業性が劣る。
【0019】
また、支持体は容器内に複数設けた方が、その貯蔵安定化効果が得やすくなるため好ましい。
【0020】
支持体3の材質は、エポキシ樹脂組成物に溶解して樹脂特性を低下させないものであれば、特に限定されず、例えば、ステンレス、ナイロン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0021】
支持体3の形状は、容器1内に収納可能な大きさであり、上記窒化ホウ素を収容する空間を有するものであれば、特にその形状は限定されないが、壁面に多孔を有する容器(フィルター状の袋体など)、多孔質担体などであり、エポキシ樹脂組成物が窒化ホウ素と接触できることを特徴とする。
【0022】
支持体3が壁面に多孔を有する容器である場合、その多孔のサイズは、エポキシ樹脂1分子が通過することが可能な大きさ以上であれば、その径は限定されないが、穴の数が多いほどエポキシ樹脂の支持体内への移動が容易になることから、壁面の単位面積あたりの穴面積の総和が大きいことが望ましい。
【0023】
支持棒4は、支持体3を支持するための部材であり、貯蔵用の容器や容器外の部材等に固定されるものである。支持棒4の材質は、エポキシ樹脂組成物に溶解して樹脂特性を低下させないものであれば、特に限定されず、例えば、ステンレス、ナイロン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0024】
(実施の形態2)
図2に示すように支持体3は一つ以上あり、容器内に浸漬されることを特徴とする。この構成によれば、支持体に収納された窒化ホウ素の体積に対してエポキシ樹脂組成の体積が大きく、エポキシ樹脂組成物の容器内での拡散が小さな場合でも、支持体が複数位置に存在することで、貯蔵安定化効果が得やすくなる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
(実施例1〜6)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名:JER828,ジャパンエポキシレジン(株)製]29重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸[商品名:QH―200,日本ゼオン(株)製]21重部、スチレンモノマー[商品名:スチレンモノマー,和光純薬(株)製]50重量部としたエポキシ樹脂組成物1Lを2L蓋付サンプル瓶に入れた。そこへ、上部に開口部を有するポリプロピレン製布フィルター[商品名:ひも付きフィルター,アズワン(株)]に表1に示す所定量の窒化ホウ素を3つの上記フィルターに等分して収納しフィルター上部を閉口したものを浸漬した。
【0026】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名:JER828,ジャパンエポキシレジン(株)製]29重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸[商品名:QH―200,日本ゼオン(株)製]21重部、スチレンモノマー[商品名:スチレンモノマー,和光純薬(株)製]50重量部としたエポキシ樹脂組成物1Lを2L蓋付サンプル瓶に入れたものを比較例1とした。
【0027】
(比較例2)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名:JER828,ジャパンエポキシレジン(株)製]29重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸[商品名:QH―200,日本ゼオン(株)製]21重部、スチレンモノマー[商品名:スチレンモノマー,和光純薬(株)製]50重量部としたエポキシ樹脂組成物1Lを2L蓋付サンプル瓶に入れた。そこへ上部に開口部を有するポリプロピレン製布フィルター[商品名:ひも付きフィルター,アズワン(株)]に表1に示す所定量のアルミナ[商品名:DAW05,電気化学工業(株)製]を3つの上記フィルターに等分して収納しフィルター上部を閉口したものを浸漬した。
【0028】
(比較例3)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名:JER828,ジャパンエポキシレジン(株)製]29重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸[商品名:QH―200,日本ゼオン(株)製]21重部、スチレンモノマー[商品名:スチレンモノマー,和光純薬(株)製]50重量部としたエポキシ樹脂組成物1Lを2L蓋付サンプル瓶に入れた。そこへ上部に開口部を有するポリプロピレン製布フィルター[商品名:ひも付きフィルター,アズワン(株)製]に表1に示す所定量のシリカ商品名:FB−5D,電気化学工業(株)製]を3つの上記フィルターに等分して収納しフィルター上部を閉口したものを浸漬した。
【0029】
(比較例4)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名:JER828,ジャパンエポキシレジン(株)製]29重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸[商品名:QH―200,日本ゼオン(株)製]21重部、スチレンモノマー[商品名:スチレンモノマー,和光純薬(株)製]50重量部としたエポキシ樹脂組成物1Lを2L蓋付サンプル瓶に入れた。そこへ上部に開口部を有するポリプロピレン製布フィルター[商品名:ひも付きフィルター,アズワン(株)]に表1に示す所定量の窒化アルミニウム商品名:MAN2,三井化学(株)製]を3つの上記フィルターに等分して収納しフィルター上部を閉口したものを浸漬した。
【0030】
上記実施例1〜6および比較例1〜4の方法により貯蔵されたエポキシ樹脂組成物の組成、初期粘度およびポットライフを表1に示す。なお、エポキシ樹脂組成物のポットライフは、貯蔵用容器を60℃の恒温槽に保管し、定期的に樹脂組成物のサンプリングを行い、粘度を25℃にて測定した結果から、該測定粘度が初期の粘度の倍となるまでに要する日数をポットライフとして求めた。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、硬化剤として酸無水物を含むエポキシ樹脂組成物を窒化ホウ素を共存させた系で貯蔵した場合、比較例1〜4と比べてポットライフが顕著に長くなっており、本発明のエポキシ樹脂組成物の貯蔵方法が極めて貯蔵安定性に優れる方法であることが分かる。
【0033】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1による貯蔵方法を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態2による貯蔵方法を示す概略図である。
【図3】エポキシ樹脂のエポキシ基が開環した二水酸基構造を示す化学式である。
【符号の説明】
【0035】
1 容器、2 エポキシ樹脂組成物、3 窒化ホウ素を収納した支持体、4 支持棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を容器中で貯蔵する貯蔵方法であって、窒化ホウ素を備えた支持体を前記容器内に有することを特徴とする貯蔵方法。
【請求項2】
前記硬化剤が酸無水物系硬化剤である、請求項1に記載の貯蔵方法。
【請求項3】
複数の前記支持体が容器内のエポキシ樹脂組成物中に浸漬されている、請求項1または2に記載の貯蔵方法。
【請求項4】
エポキシ樹脂および硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物の貯蔵用容器であって、窒化ホウ素を備えた支持体を有することを特徴とする貯蔵用容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−126713(P2010−126713A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306516(P2008−306516)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】